(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性樹脂層形成工程の後、前記基材を200〜550℃で熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とする請求項5または請求項6に記載のチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池セパレータは、セパレータへの加工を行う際やセルに組み込む際の取扱い時に材料同士が摩擦することがあり、このときにセパレータ表面に形成された導電層(炭素系導電層)に傷等が発生することが懸念される。また、セル組み込み後にはセパレータ表面はガス拡散層を構成するカーボンペーパーと加圧されながら接触するが、特に車載用途で用いられた場合、走行に伴う振動によりセパレータ表面に形成された導電層とカーボンペーパーとの間で摩擦が生じる可能性がある。このとき導電層が容易に摩耗してしまうと、使用時間が長くなるにつれてセパレータとカーボンペーパーとの間の電気抵抗が高まり、燃料電池の発電性能を低下させてしまう。
このため、燃料電池セパレータのセパレータ材には、導電性や耐久性(導電耐久性:導電性を長期間維持する性質)とともに、耐摩耗性も求められる。
しかしながら、特許文献1〜7に開示された技術は、前記した実情を考慮した技術でないことから、耐摩耗性等に関するニーズには十分に対応することはできず、改善の余地が存在する。
【0007】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、導電性および耐久性に優れるとともに、耐摩耗性にも優れるチタン製燃料電池セパレータ材およびチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意検討を行った結果、チタン製燃料電池セパレータ材の基材表面に2層構造を呈する炭素系導電層(炭素層、導電性樹脂層)を形成し、炭素層の被覆率を所定値以上とするとともに、導電性樹脂層の樹脂を所定のものに特定することにより、導電性および耐久性に優れるとともに、耐摩耗性にも優れることを見出し、本発明を創出した。
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、純チタンまたはチタン合金からなる基材表面に炭素系導電層が形成されているチタン製燃料電池セパレータ材であって、前記炭素系導電層は2層構造を呈しており、前記炭素系導電層のうち前記基材に近い側の層が、炭素層であり、前記基材に遠い側の層が、導電性樹脂層であり、前記炭素層は、黒鉛を含むとともに、前記炭素層の被覆率は、40%以上であり、前記導電性樹脂層は、炭素粉と樹脂とを含むとともに、前記樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂から選択される1つ以上の樹脂であることを特徴とする。
【0010】
このように、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、炭素層と導電性樹脂層との2層構造を呈する炭素系導電層を備えることから、当該炭素系導電層がセパレータ材の導電性および耐久性を向上させることができる。そして、導電性樹脂層が保護膜としての働きをするため、1層のみの導電層を備えるセパレータ材と比較し、耐摩耗性を向上させることができる。
【0011】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、前記炭素層の被覆率が、80%以下であることが好ましい。
【0012】
このように、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、基材上の炭素層の被覆率が所定の値以下であることから、セパレータを製造する際のプレス成形加工を施した後であっても、導電性は当然のこと、耐摩耗性や密着性の低下も抑制することができる。
【0013】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、前記基材と前記炭素層の間に、チタンカーバイドを含む中間層が形成されていることが好ましい。
【0014】
このように、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、基材と炭素層との間に中間層が形成されていることにより、基材と炭素層との密着性を向上させることができる。その結果、炭素層を含む炭素系導電層の剥離の可能性を低減させることができる。
【0015】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、前記導電性樹脂層の厚さが0.1〜20μmであることが好ましい。
【0016】
このように、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、導電性樹脂層の厚さを所定の範囲に規定していることにより、耐摩耗性の向上という効果を確実なものとするとともに、電気抵抗値の大幅な増加を防止し、セパレータ材として好適な態様とすることができる。
【0017】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、純チタンまたはチタン合金からなる基材表面に黒鉛を含む炭素層を形成する炭素層形成工程と、前記炭素層形成工程の後、前記基材を非酸化雰囲気下で熱処理する熱処理工程と、前記熱処理工程の後、前記炭素層が形成された前記基材に炭素粉と樹脂とを含む導電性樹脂層を形成する導電性樹脂層形成工程と、を含み、前記炭素層の被覆率は、40%以上であり、前記導電性樹脂層は、炭素粉と樹脂とを含むとともに、前記樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂から選択される1つ以上の樹脂であることを特徴とする。
【0018】
このように、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、炭素層形成工程と、導電性樹脂層形成工程とを含むことにより、炭素層と導電性樹脂層との2層構造を呈する炭素系導電層を基材に形成することができる。その結果、炭素系導電層により導電性および耐久性が向上したチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。そして、導電性樹脂層が保護膜としての働きをするため、1層のみの導電層を備えるセパレータ材と比較し、耐摩耗性が向上したチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。
さらに、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、炭素層形成工程の後に熱処理工程を含むことから、基材と炭素層との間に中間層を形成させることができ、基材と炭素層との密着性を向上させることができる。その結果、炭素層を含む炭素系導電層の剥離の可能性が低減したチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。
【0019】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、前記炭素層の被覆率が、80%以下であることが好ましい。
【0020】
このように本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、基材上の炭素層の被覆率が所定の値以下であることから、セパレータを製造する際のプレス成形加工を施した後であっても、導電性は当然のこと、耐摩耗性や密着性の低下も抑制したチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。
【0021】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、前記導電性樹脂層形成工程の後、前記基材を200〜550℃で熱処理する熱処理工程を含むことが好ましい。
【0022】
このように、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、導電性樹脂層形成工程の後に熱処理工程を含むことから、導電性樹脂層の最表面の樹脂を一部分解除去することができるため、導電性樹脂層の樹脂比率が高いことによる接触抵抗の上昇を抑制することがきる。その結果、より接触抵抗が低減したチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、炭素層と導電性樹脂層との2層構造を呈する炭素系導電層を備えることから、当該炭素系導電層がセパレータ材の導電性および耐久性を向上させることができる。そして、導電性樹脂層が保護膜としての働きをするため、1層のみの導電層を備えるセパレータ材と比較し、耐摩耗性を向上させることができる。
したがって、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材は、導電性および耐久性(導電耐久性:導電性を長期間維持する性質)に優れるとともに、耐摩耗性にも優れる。
【0024】
本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法は、炭素層形成工程と、導電性樹脂層形成工程とを含むことにより、炭素層と導電性樹脂層との2層構造を呈する炭素系導電層を基材に形成することができる。その結果、炭素系導電層により導電性および耐久性が向上したチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。そして、導電性樹脂層が保護膜としての働きをするため、1層のみの導電層を備えるセパレータ材と比較し、耐摩耗性が向上したチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。
したがって、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法によれば、導電性および耐久性(導電耐久性:導電性を長期間維持する性質)に優れるとともに、耐摩耗性にも優れるチタン製燃料電池セパレータ材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材(以下、適宜、セパレータ材という)およびセパレータ材の製造方法を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0027】
≪チタン製燃料電池セパレータ材≫
図1(a)に示すように、本実施形態に係るセパレータ材10(10a)は、純チタンまたはチタン合金からなる基材1と、基材1の表面(片面または両面)に形成された炭素系導電層2と、を備える。そして、
図1(b)に示すように、本実施形態に係るセパレータ材10(10b)は、基材1と炭素系導電層2との間に中間層3を備えていてもよい。
なお、
図1では、基材1の片面にのみ炭素系導電層2(および中間層3)が形成されているセパレータ材10を表しているが、基材1の両面に炭素系導電層2(および中間層3)が形成されていてもよい。
以下、セパレータ材10の基材1、炭素系導電層2および中間層3について説明する。
【0028】
<基材>
本実施形態に係るセパレータ材の基材は、ガスの流路となる溝を形成するために必要となる加工性の点、ガスバリア性の点、導電性や熱伝導性の点から、金属基材を用いるのが好ましく、特に純チタンやチタン合金は、軽量で耐食性に優れ、強度、靭性にも優れていることから非常に好ましい。
【0029】
そして、基材は、従来公知の方法、例えば、純チタンまたはチタン合金を溶解、鋳造して鋳塊とし、熱間圧延した後、冷間圧延するという方法により作製されたものを用いればよい。また、基材は、焼鈍仕上げされていることが好ましいが、その仕上げ状態は問わず、例えば「焼鈍+酸洗仕上げ」、「真空熱処理仕上げ」、「光輝焼鈍仕上げ」等のいずれの仕上げ状態であっても構わない。
【0030】
なお、基材は、特定の組成の純チタン、チタン合金に限定されるものではないが、純チタン、チタン合金からなる基材を用いる場合は、チタン素材(母材)の冷間圧延のし易さ(中間焼鈍なしでトータル圧下率35%以上の冷間圧延を実施できる)や、その後のプレス成形性確保の観点から、例えばJIS H 4600に規定される1〜4種の純チタンや、Ti−Al、Ti−Ta、Ti−6Al−4V、Ti−Pd等のTi合金を適用することができる。中でも薄型化に特に好適な純チタンが好ましい。具体的には、O:1500ppm以下(より好ましくは1000ppm以下)、Fe:1500ppm以下(より好ましくは1000ppm以下)、C:800ppm以下、N:300ppm以下、H:130ppm以下であり、残部がTiおよび不可避的不純物からなるものが好ましく、JIS 1種の冷間圧延板を使用することができる。なお、チタン基材を用いることにより、セパレータ材の強度や靱性が向上すると共に、軽量であるため、特に自動車用途として使用し易い。
【0031】
また、基材の板厚は、0.05〜1.0mmが好ましい。板厚が0.05mm未満では、基材に必要とされる強度を確保することができず、一方、1.0mmを超えると水素や空気を通すガス流路の細かな加工がしにくくなるからである。
【0032】
<炭素系導電層>
炭素系導電層は、2層構造を呈する。そして、
図1に示すように、炭素系導電層2は、基材1に近い側に形成される炭素層21と、基材1に遠い側に形成される導電性樹脂層22とから構成される。
【0033】
(炭素層)
炭素層は、黒鉛を含んで構成されるとともに、基材を被覆するように設けられる。そして、炭素層に含まれる黒鉛は、結晶性が高く導電性に優れることから、セパレータ材に導電性を付与するとともに、燃料電池内部環境(高温、酸性雰囲気)でも導電性を維持する耐久性も付与する。
なお、炭素層に含まれる黒鉛は、好ましくは鱗状黒鉛粉、鱗片状黒鉛粉、膨張化黒鉛粉、及び熱分解黒鉛粉のうちの少なくとも1つを含んで構成される。
【0034】
そして、炭素層は、後記する導電性樹脂層と異なり、樹脂(バインダ樹脂)を実質的に含まない。ここで、「樹脂を実質的に含まない」とは、炭素層中において、樹脂の固形成分と黒鉛の質量比(炭素層中樹脂固形分質量/炭素層中炭素粉質量)が0.1以下であることを示す。
【0035】
炭素層は、導電性の観点では基材の表面全体に被覆されていることが好ましいが、必ずしも表面全体が被覆されている必要はなく、導電性と耐食性を確保するために、表面の40%以上に被覆されていればよい。被覆率が40%未満であると導電性が不十分でセパレータ材としての要求特性を満たさない。被覆率の好ましい範囲は45%以上で、より好ましくは50%以上である。
【0036】
ここで、セパレータを製造するに当たり、セパレータ材にプレス成形加工を行うことを想定すると、当該加工を受けて材料伸びが発生する。この際、基材上の炭素層の被覆率が80%を超えると、加工時の基材の伸びの大きい部分において炭素層の伸びが追従しきれず、基材と炭素層の間で剥離が生じ、炭素系導電層(2層)の耐摩耗性や密着性が低下する恐れがある。一方、基材上の炭素層の被覆率が80%以下であると、加工により基材の伸びが起こった部分でも炭素系導電層の耐摩耗性や密着性の低下を抑制できる。
よって、導電性だけではなく、プレス成形加工後の炭素系導電層の耐摩耗性や密着性を両立させることを考慮すると、炭素層の被覆率の下限については、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上であり、上限については、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、特に好ましくは70%以下である。
ここで、炭素層の被覆率については、炭素層を形成したセパレータ表面を、光学顕微鏡や走査型顕微鏡で観察することにより求めることができる。例えば、炭素層を形成したセパレータ表面について走査型電子顕微鏡を用いて、200倍の観察倍率で550×400μmの範囲を観察し、その反射電子像を撮影する。そして、反射電子像を画像処理により炭素層が被覆している部分と、炭素層が被覆せず基材が露出する部分と、に分けて二値化し、炭素層が占める面積率を計算し被覆率を求めるという方法である。なお、既に炭素層の上に導電性樹脂層が形成されている場合は、有機溶媒もしくはアルカリ溶液で導電性樹脂層を溶解除去した後、前記の方法を行えばよい。
【0037】
炭素層の付着量は、特に限定されないが、2〜1000μg/cm
2であることが好ましい。2μg/cm
2未満では、付着量が少なく導電性と耐食性を確保することができず、1000μg/cm
2を超えると、導電性と耐食性の効果について飽和するのに加えて、加工性が低下するためである。そして、炭素層の付着量は、より好ましくは5μg/cm
2以上であり、さらに好ましくは10μg/cm
2以上である。
なお、炭素層の被覆率および付着量は、後記する黒鉛粉塗布工程において基材に塗布する黒鉛粉の量により制御することができる。
【0038】
(導電性樹脂層)
導電性樹脂層は、炭素粉と樹脂とを含んで構成され、導電性と耐摩耗性を併せ持つ保護膜としての働きを持つ。
導電性樹脂層に含まれる炭素粉としては、カーボンブラック粉、アセチレンブラック粉、黒鉛粉又はこれらの混合粉であるのが好ましい。これらの粉末は導電性と耐食性に優れるとともに、安価な材料であるため生産上好都合である。
【0039】
導電性樹脂層を形成するための樹脂(バインダ樹脂)は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂から選択される1つ以上の樹脂である。なお、2つ以上の樹脂を含む場合、樹脂同士が反応したものであってもよいし、単に混合したものであってもよい。ただ、この樹脂は塗料化が可能な樹脂であることが好ましい。さらには、燃料電池内の高温(80〜100℃)、酸性(pH2〜4)雰囲気下でも安定であるウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂より選択するのがより好ましい。
【0040】
導電性樹脂層は、樹脂と炭素粉とを混合して調製された導電性樹脂塗料を塗布することによって形成されるが、塗料中における樹脂の固形成分と炭素粉の質量比(塗料中樹脂固形分質量/塗料中炭素粉質量)は0.5〜10であることが好ましい。本質量比が0.5未満であると、導電性樹脂層となった際の樹脂成分の比率が小さくなるため、層としての強度が不足し狙いの耐摩耗性が得られない。一方、本質量比が10を超えると導電性樹脂層となった際の炭素粉の比率が小さくなり、層としての電気抵抗が増加するため、セパレータ材の特性上好ましくない。より好ましい本質量比の範囲は0.8〜8である。
【0041】
導電性樹脂層の厚さは0.1〜20μmが好ましい。導電性樹脂層の厚さが0.1μm未満であると、わずかな摩擦で導電性樹脂層が破れてしまい耐摩耗性が不十分となってしまう。一方、導電性樹脂層の厚さが20μmを超えると、層としての電気抵抗が増加するため、セパレータ材の特性上好ましくない。より好ましい導電性樹脂層の厚さは0.3〜19μmである。
【0042】
(炭素層と導電性樹脂層との関係)
炭素層上に導電性樹脂層を形成したときに、導電性樹脂層に添加した黒鉛粉が当該層よりわずかに突出した状態であると、その部分が良好な導電パスとなり導電性樹脂層の電気抵抗が低減するため非常に好ましい。
そして、炭素層の被覆率は、前記のとおり、必ずしも100%でなくてもよく、40%以上であればよい。ここで、炭素層の被覆率が100%より小さい場合、炭素層表面の一部には基材のチタン、チタン合金の表面が露出している箇所があり、この部分では基材上に直接導電性樹脂層が形成されている状態になる。言い換えると、基材上に2層の炭素系導電層が形成されている部分と、1層の導電性樹脂層のみが形成されている部分が混在する状態となる。1層の導電性樹脂層でも導電性が得られるが、2層の炭素系導電層が形成されている部分では導電性が特に良好となって、当該部分が良好な導電パスとなる。つまり、本発明では、炭素系導電層が2層構造を呈することにより、マクロ的にも十分な導電性および耐久性が得られる。
なお、導電性樹脂層の被覆率は、好ましくは100%であるが、耐摩耗性および導電性を確保するために、70%以上であればよい。
ここで、導電性樹脂層の被覆率は、導電性樹脂層を形成したセパレータ表面を、光学顕微鏡や走査型顕微鏡で観察することにより求めることができる。例えば、導電性樹脂層を形成したセパレータ表面について走査型電子顕微鏡を用いて、200倍の観察倍率で550×400μmの範囲を観察し、その反射電子像を撮影する。そして、反射電子像を画像処理により導電性樹脂層が被覆している部分と、導電性樹脂層が被覆せず基材(または炭素層)が露出する部分と、に分けて二値化し、導電性樹脂層が占める面積率を計算し被覆率を求めるという方法である。
【0043】
前記のとおり、基材上の炭素層の被覆率については、基材上の炭素層の被覆率が80%以下、言い換えると、基材上に導電性樹脂層が直接接触して形成されている部分が面積率で20%以上存在すると、プレス成形加工により基材の伸びが起こった部分でも炭素系導電層の耐摩耗性や密着性の低下が抑えられる。
よって、セパレータ材をプレス成形加工して製造するセパレータの導電性と、炭素系導電層の耐摩耗性、密着性とを両立するには、基材上の炭素層の被覆率の下限については、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上であり、上限については、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、特に好ましくは70%以下である。
【0044】
<中間層>
図1(b)に示すように、本実施形態に係るセパレータ材10の中間層3は、基材1と炭素層21との界面に形成される。そして、中間層は、基材と炭素層との界面でC、Tiが互いに拡散することにより反応して生成したチタンカーバイド(炭化チタン、TiC)を含み、さらに炭素固溶チタン(C固溶Ti)を含んでいてもよい。
そして、チタンカーバイドは導電性を有するため、基材と炭素層との界面における電気抵抗が小さくなる。よって、チタンカーバイドを含む中間層を備えることによりセパレータ材の導電性はさらに向上する。加えて、チタンカーバイドを含む中間層は、基材と炭素層とが反応して形成されたものであるため、基材と炭素層との密着性が向上する。
【0045】
≪チタン製燃料電池セパレータ材の製造方法≫
次に、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材の製造方法について説明する。
図2に示すように、本発明に係るセパレータ材の製造方法は、炭素層形成工程S1と、熱処理工程S2と、導電性樹脂層形成工程S3と、を含む。そして、本発明に係るセパレータ材の製造方法は、導電性樹脂層形成工程S3の後に、熱処理工程S4を含むことが好ましく、また、炭素層形成工程S1の前に、基材製造工程を含んでいてもよい。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0046】
<基材製造工程>
基材製造工程とは、前記した純チタンまたはチタン合金を公知の方法で鋳造、熱間圧延し、必要に応じて間に焼鈍・酸洗処理等を行って、冷間圧延にて所望の厚さまで圧延して、板(条)材を製造する工程である。なお、冷間圧延後の焼鈍仕上げの有無は問わないが、セパレータを製造するにあたりプレス成形加工工程を行う場合は、プレス成形加工時に必要となる加工性を確保するために冷間圧延後に焼鈍を行うことが好ましい。その他、冷間圧延後(+焼鈍後)の酸洗の有無は問わない。
【0047】
<炭素層形成工程>
炭素層形成工程S1とは、基材表面に黒鉛を含む炭素層を形成する工程である。
この炭素層形成工程S1では、まず、基材の表面(片面または両面)に黒鉛粉を塗布する(黒鉛粉塗布工程)。塗布方法については、特に限定されないが、黒鉛粉を基材上に粉末状のまま直接付着させたり、黒鉛粉をメチルセルロース等の水溶液や樹脂等のバインダを含む塗料中に分散させたスラリーを、基材の表面に塗布したりすればよい。
【0048】
基材の表面に塗布する黒鉛粉については、直径0.5〜100.0μmのものを使用することが好ましい。直径が0.5μm未満だと、後記する圧延工程時に粉末が基材に押し付けられる力が小さくなり基材と密着しにくい。一方、直径が100.0μmを超えると、黒鉛粉塗布工程および後記する圧延工程において、基材表面に付着し難くなる。
【0049】
なお、黒鉛粉を分散させたスラリーを基材に塗付する方法は、特に限定されないが、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ディップコーター、スプレーコーター等を用いて基材にスラリーを塗付すればよい。
黒鉛粉を基材上に付着させる方法は上記の方法に限定されず、次のような方法によっても実施される。例えば、黒鉛粉と樹脂とを混練して作製した黒鉛粉含有フィルムを基材上に貼り付ける方法や、ショットブラストにより黒鉛粉を基材表面に打ち込み、基材表面に担持させる方法等が考えられる。
【0050】
そして、炭素層形成工程S1では、黒鉛粉を塗布後、冷間圧延を施すことにより、基材表面に黒鉛粉を圧着させる(圧着工程)。圧着工程を経ることで、黒鉛粉は、炭素層として基材表面に圧着することとなる。なお、基材表面に付着した炭素粉が潤滑剤の役割も果たすため、冷間圧延を施す際に、潤滑剤は使用しなくても良い。圧延後には黒鉛粉は粒状ではなく、基材上に薄い層状となって付着して基材表面を覆うような状態となっている。
【0051】
この圧着工程において、炭素層が、基材に密着性よく圧着するためには、トータル圧下率0.1%以上で圧延を施すことが好ましい。
なお、圧下率は、冷間圧延前後の炭素層を含めた材料厚さの変化から算出した値であり、「圧下率=(t0−t1)/t0×100」(t0:黒鉛粉塗布工程後の初期材料厚さ、t1:圧延後の材料厚さ)により算出する。
【0052】
<熱処理工程>
熱処理工程S2とは、炭素層が形成された基材を非酸化雰囲気下で熱処理する工程である。詳細には、熱処理工程S2とは、基材と炭素層との界面に、基材と炭素層とが反応して形成されたチタンカーバイドを含む中間層を形成させるため、炭素層形成工程S1における圧着工程後に、非酸化性雰囲気において熱処理を行う工程である。なお、熱処理工程S2により、基材が焼鈍され、プレス成形加工時の加工性も確保できる。
【0053】
熱処理工程S2における熱処理温度の範囲は、300〜850℃であることが好ましい。熱処理温度が300℃未満であると、黒鉛(炭素層)と基材間の反応が起こりにくく密着性が向上し難くなる。一方、熱処理温度が850℃を超えると、基材(チタン)の相変態が起こる可能性があり、機械特性が低下する可能性がある。
熱処理工程S2における熱処理温度の範囲は、より好ましくは400〜800℃であり、さらに好ましくは、450〜780℃である。
【0054】
また、熱処理工程S2における熱処理の時間は、0.5分〜10時間であることが好ましい。そして、温度が低い場合は長時間の処理、温度が高い場合は短時間の処理というように、温度によって時間を適宜調整するのがよい。また、ロールトゥーロールやシート形状で熱処理する場合、あるいはコイル状に巻いた状態で熱処理する場合など、材料の状態に応じても熱処理温度および時間を適宜調整して実施することができる。
なお、黒鉛粉を分散させたスラリー中に含まれる樹脂成分(バインダ樹脂成分)や溶剤は、この熱処理によって炭化してほぼ無機物となるため、本炭素層中には実質的に樹脂成分は含まれなくなり、良好な導電性が得られる。
【0055】
また、熱処理工程S2は真空中やArガス雰囲気等の非酸化性雰囲気下において行う。この熱処理工程S2における非酸化性雰囲気とは、酸素分圧が低い雰囲気であり、好ましくは、酸素分圧が10Pa以下の雰囲気である。10Paを超えると、黒鉛が雰囲気中の酸素と反応することで、二酸化炭素となってしまい(燃焼反応を起こしてしまい)、基材が酸化してしまうことによって導電性が劣化してしまうからである。
【0056】
<導電性樹脂層形成工程>
導電性樹脂層形成工程S3とは、炭素層が形成された基材に炭素粉と樹脂とを含む導電性樹脂層を形成する工程である。この導電性樹脂層形成工程S3では、具体的には、基材に形成された炭素層表面に導電性樹脂塗料を積層塗布する。
この導電性樹脂塗料は、前記した樹脂(バインダ樹脂)を含む塗料中に前記した炭素粉を、樹脂固形分と炭素粉との質量比率が前記範囲になるように分散させて調製して用いればよい。
なお、導電性樹脂塗料の溶剤については、特に限定されず、公知の有機溶剤等を用いればよい。
【0057】
なお、炭素粉を分散させた導電性樹脂塗料を基材に塗付する方法は、特に限定されないが、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ディップコーター、スプレーコーター等を用いて炭素層上に導電性樹脂塗料を塗付すればよい。
【0058】
<熱処理工程>
熱処理工程S4とは、炭素層と導電性樹脂層(および中間層)が形成された基材を所定温度で熱処理する工程である。
熱処理工程S4では、導電性樹脂層の接触抵抗を更に下げるために200〜550℃の範囲での熱処理を行う。導電性樹脂層中の樹脂成分比率が高いと接触抵抗がやや高くなる場合があるが、このような場合に200〜550℃の範囲での熱処理を行うことにより、導電性樹脂層の最表面を覆う樹脂膜の一部が分解除去されて添加した炭素粉が露出する状態となり、この部分での導電性が高まる。
【0059】
熱処理温度が200℃よりも低いと接触抵抗低減効果が弱いため、狙いの接触抵抗まで低減させるのに長い時間がかかってしまう。一方、550℃を超える温度では接触抵抗低減効果が飽和するのに加え、導電性樹脂層の分解が進行し過ぎてしまい狙いの耐摩耗性が得られなくなる可能性がある。
熱処理工程S4における熱処理温度の範囲は、好ましくは250〜500℃の範囲、より好ましくは270〜450℃の範囲である。
そして、熱処理工程S4の熱処理雰囲気は、例えば大気雰囲気のような酸素を含む雰囲気で実施することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
【実施例1】
【0061】
次に、本発明に係るチタン製燃料電池セパレータ材について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0062】
≪試験体の作製≫
[基材]
基材には、JIS 1種のチタン基材を使用した。
チタン基材(冷間圧延仕上げ)の化学組成は、O:450ppm、Fe:250ppm、N:40ppm、残部がTiおよび不可避的不純物である。そして、チタン基材の板厚は、0.1mmであり、サイズは50×150mmとした。当該チタン基材は、チタン原料に対して従来公知の溶解工程、鋳造工程、熱間圧延工程、冷間圧延工程を施して得られたものである。
【0063】
[炭素層]
黒鉛粉として、膨張化黒鉛粉(SECカーボン社製、SNE−6G、平均粒径7μm、純度99.9%)を用い、黒鉛粉を0.8wt%カルボキシメチルセルロース水溶液中に8wt%となるように分散させてスラリーを作製した。そして、当該スラリーを10番、7番、5番の番手のバーコーターを用いてチタン基材の両面にスラリーを塗布し、黒鉛粉塗工材料を作製した。
そして、ワークロール径200mmの2段圧延機を用いて、荷重2.5トンでロールプレスし、黒鉛粉を潰して基材上に密着させた。なお、ワークロールには潤滑油を塗布していない。
上記、炭素層を形成した材料を、6.7×10
−3Paの真空雰囲気下において、650℃の温度で5分間の熱処理を施した。
なお、10番のバーコーターを用いて作製したものが試験体No.2〜4であり、7番のバーコーターを用いて作製したものが試験体No.5〜8であり、5番のバーコーターを用いて作製したものが試験体No.9〜13である。
【0064】
[導電性樹脂層]
導電性樹脂塗料は、フェノール樹脂(荒川化学工業社製、タマノル2800)、アクリル樹脂(東レ・ファインケミカル社製、コータックスLH681)、エポキシ樹脂(セメダイン社製、EP106)、ポリエステル樹脂(荒川化学工業社製、7005N)、シリコーン樹脂(信越シリコーン社製、KR251)の塗料を用い、それぞれの塗料に炭素粉末を分散させて作製した。炭素粉末としては、カーボンブラック粉末(キャボット社製、バルカンXC72、平均粒径40nm、純度99.2%)、黒鉛粉末(伊藤黒鉛社製、Z−5F、平均粒径4μm、純度98.9%)を用いた。
各種樹脂系の塗料をそれぞれに適した有機溶媒を用いて、塗料中の固形分(樹脂成分+炭素粉末)の濃度(=((樹脂成分質量+炭素粉末質量)×100)/塗料質量)がおよそ18質量%となるように、固形分中の炭素粉末の質量濃度(=(炭素粉末質量×100)/(樹脂成分質量+炭素粉末質量))がおよそ25質量%となるように、カーボンブラック粉末と黒鉛粉末の比率が10:1となるように濃度調整し、当該塗料をバーコーターを用いて炭素層を形成した材料上に塗布して乾燥させた。このようにして基材の両面に導電性樹脂層を形成した。このとき使用するバーコーターの番手を変えることで導電性樹脂層の厚さを変えた試験体を作製した。
【0065】
[導電性樹脂層形成後の熱処理]
炭素層上に導電性樹脂層を形成して得た試験体のうち幾つかを熱処理に供した。そして、熱処理は、大気雰囲気下において200〜400℃の条件で、処理時間を適宜調整して実施した。
【0066】
≪試験体の評価≫
[炭素層被覆率測定]
炭素層を形成した試験体の表面について走査型電子顕微鏡を用いて、200倍の観察倍率で550×400μmの範囲を観察し、その反射電子像を撮影した。その反射電子像を画像処理により炭素層が被覆している部分と、炭素層が被覆せず基材が露出する部分と、に分けて二値化し、炭素層が占める面積率を計算し被覆率を求めた。観察は1試験体あたり3視野行い、3視野の平均値を算出した。
【0067】
[導電性樹脂層の厚さ測定]
炭素層を形成した試験体上に導電性樹脂層を形成する前後の材料厚さについてマイクロメーターを用いて測定し、前後の厚さの差より導電性樹脂層の厚さを算出した。厚さの測定は1試験体あたり3箇所で行い、3箇所の平均値を算出した。
【0068】
[接触抵抗測定]
得られた各試験体について、
図3に示す接触抵抗測定装置を用いて、接触抵抗を測定した。詳細には、試験体の両面を2枚のカーボンペーパーで挟み、さらにその外側を接触面積1cm
2の2枚の銅電極で挟んで荷重10kgfで加圧し、直流電流電源を用いて7.4mAの電流を通電し、カーボンペーパーの間に加わる電圧を電圧計で測定して、接触抵抗(初期接触抵抗)を求めた。
初期接触抵抗が12mΩ・cm
2以下の場合を導電性が良好、12mΩ・cm
2を超える場合を導電性が不良とした。
【0069】
[耐久性評価]
また、初期接触抵抗が合格判定となった試験体において、耐久性評価(耐久試験)を行った。すなわち、試験体を比液量が10ml/cm
2である80℃の硫酸水溶液(pH2)に500時間の浸漬処理を行った後、試験体を硫酸水溶液から取り出し、洗浄、乾燥して、前記と同様の方法で接触抵抗を測定した。
耐久試験後の接触抵抗が15mΩ・cm
2以下の場合を耐久性が合格、15mΩ・cm
2を超える場合を耐久性が不合格とした。
【0070】
[密着性評価]
試験体の炭素系導電層表面にテープ(住友3M製メンディングテープ 12mm幅)を貼り付けた後、テープを試験体表面に対して垂直方向に引き剥がして炭素系導電層の密着性評価を行った。
密着性の評価基準は、テープの粘着剤が炭素系導電層表面に残っている場合を◎、テープ側に炭素系導電層がわずかに転着する程度の場合を○、炭素系導電層中で剥離する場合を△、炭素系導電層が基材との界面より剥離する場合を×として、○以上を合格とした。
【0071】
[耐摩耗性の評価]
炭素系導電層の耐摩耗性を、接触抵抗の測定に用いた接触抵抗測定装置(
図3参照)を流用して評価した。接触抵抗評価の際には銅電極の接触面積を1cm
2としたが、本評価では接触面積が4cm
2の銅電極を用いて行った。作製した試験体を、両面から2枚のカーボンクロスで挟み、さらにその外側を接触面積4cm
2の銅電極で接触荷重40kgfに加圧し、両面から加圧された状態を保持したまま、試験体を面方向に引き抜いた(引抜き試験)。引抜き試験後、試験体表面における摺動領域を光学顕微鏡にて観察し、導電層の残存状態、すなわち基材の露出の程度で評価した。
耐摩耗性の判断基準は、試験体表面に基材の露出がまったく見られない場合を◎、試験体表面に対し基材の露出した面積の割合が30%未満のものを○、試験体表面に対し基材の露出した面積の割合が50%未満のものを△、基材の露出した面積の割合が50%以上の場合を×として、○以上を合格とした。
【0072】
[中間層の構成および元素組成分析]
各試験体表層の断面をイオンビーム加工装置(日立集束イオンビーム加工観察装置 FB−2100)でサンプルを加工した後、透過型電子顕微鏡(TEM:日立電界放出形分析電子顕微鏡 HF−2200)にて750000倍の倍率で断面観察し、炭素層とチタン基材との界面において中間層の存在を確認し、中間層中の任意の箇所においてEDX分析および電子線回折分析を行い、チタンカーバイドが存在するか否かを判定した。
【0073】
炭素層の被覆率、中間層中のチタンカーバイドの有無、導電性樹脂層の樹脂の種類および厚さ、導電性樹脂層形成後の熱処理条件、初期および耐久試験後の接触抵抗、密着性および耐摩耗性評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
試験体No.1は炭素層が無く純チタン基材上に直接導電性樹脂層を形成したものであったため、導電性が不十分という結果となった。また、試験体No.2は炭素系導電層として炭素層1層のみを形成したものであったため、導電性及び耐久性は非常に優れているものの、密着性及び耐摩耗性が不十分という結果となった。
一方、試験体No.3〜13は本発明に規定する範囲内で炭素層上に導電性樹脂層が形成されたものであり、導電性、耐久性、密着性、耐摩耗性のいずれもが合格範囲であった。特に、導電性樹脂層を形成後に熱処理を行った試験体のうち、試験体No.7、8、10、12、13は接触抵抗が低い値となり、導電性および耐久性に非常に優れることがわかった。
【実施例2】
【0076】
基材上の炭素層被覆率が100%の「試験体No.3」、80%の「試験体No.7」、60%の「試験体No.10」より、20×65mmの試験片を作製し、これを用いてプレス成形加工時の材料伸び部を模擬した引張加工を行った後、伸び部の炭素系導電層の耐摩耗性および密着性の評価を行った。
【0077】
[引張加工]
引張加工は小型の引張試験機を用いて行った。試験片の両端から20mmの部分に線を引き(線間距離25mm)、試験片の両端を試験機のチャックで固定し、引張速度5mm/分の速度で線間距離が31mm(平均材料伸び25%)となるまで加工して引張加工試験体を得た。その後、引張加工部の炭素系導電層の密着性および耐摩耗性を実施例1と同様の方法で評価し、同様の基準で◎、○、△、×の判定を行った。なお、本評価は実施例1の評価よりもより厳しい評価であることから、△以上を合格として評価し、その結果を表2に示した。
【0078】
【表2】
【0079】
表1に示すように試験体No.3、7、10は引張加工前の状態では炭素系導電層の密着性、耐摩耗性いずれも良好である。
しかしながら、プレス成形加工による材料伸び部を想定した引張加工を行うと炭素層被覆率が100%である試験体No.3は密着性および耐摩耗性が低下する傾向が明確にみられた。一方、炭素層被覆率80%のNo.7は密着性がやや低下するが耐摩耗性には有意な低下は見られず、炭素層被覆率60%のNo.10は密着性、耐摩耗性ともに有意な低下は見られなかった。