(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均長径が3.0〜60μm、アスペクト比5.0〜30の非酸化物セラミックス粒子が3次元に結合した骨格構造を有する非酸化物セラミックス焼結体50〜75体積%と、架橋密度が7.0×10−4〜6.0×10−3mol/cm3の熱硬化性樹脂50〜25体積%を含有してなるセラミックス樹脂複合体基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属板が設けられてなるセラミックス樹脂複合体回路基板であり、熱硬化性樹脂のガラス転移点から−50℃迄の温度範囲において、E1/E2及びE1/E3が0.3以下且つE1/E4及びE1/E5が1.5以下であることを特徴とするセラミックス樹脂複合体回路基板。
[E1〜5の定義]
E1:セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率
E2:金属回路の縦弾性率
E3:金属放熱板の縦弾性率
E4:金属回路上にパワー半導体素子を接合するために用いる半田の縦弾性率
E5:金属板と金属放熱板を接合するために用いる半田の縦弾性率
前記非酸化物セラミックス焼結体が窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素の単体又は2種類以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス樹脂複合体回路基板。
金属回路及び金属板が銅又はアルミニウムであり、金属回路の板厚が0.03〜1.5mm、金属板の板厚が0.3〜3.0mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセラミックス樹脂複合体回路基板。
金属板の40〜200℃の線熱膨張係数(CTE1)とセラミックス樹脂複合体回路基板の面方向の40〜200℃の線熱膨張係数(CTE2)の比(CTE1/CTE2)が1.0〜1.2であり、レーザーフラッシュ法による25℃の熱拡散率が20mm2/s以上であることを特徴とする請求項1〜3にいずれか一項に記載のセラミックス樹脂複合体回路基板。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の実装に使用する回路基板の1つとして、セラミックス基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属板を接合したセラミックス回路基板が用いられている。セラミックス基板は、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等を主成分とするため、ガラスエポキシ基板や金属ベース基板などと比べて絶縁耐圧や熱伝導性が優れている。そのため、セラミックス回路基板は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーFET(Field Effect Transistor)等のパワー半導体素子を搭載したパワー半導体モジュール用の回路基板として利用されている。従来から、パワー半導体モジュールは電力変換装置、無停電電源装置、工作機械、産業用ロボットに搭載されてきたが、近年、自動車や電車のモータ制御用などにも搭載されるようになり、セラミックス回路基板の信頼性に対する要求も高くなっている。
【0003】
パワー半導体モジュールの構造は、セラミックス回路基板の金属板が、厚い銅板などの金属放熱板に半田付けにより固定され、このセラミックス回路基板の金属回路上にパワー半導体素子が半田付けにより固定されている。そのため、ヒートサイクル試験時に、セラミックス基板、金属回路、金属板、半田、パワー半導体素子、金属放熱板の各材料間の熱膨張差に起因する熱応力の発生が避けられないため、1)金属回路上にパワー半導体素子を接合するために用いる半田に発生するクラック、2)金属板と金属放熱板を接合するために用いる半田に発生するクラック、3)セラミックス回路基板のセラミックス基板に発生するクラック、が課題となっている。特に、1)と2)では、熱抵抗の増大を招き放熱性が低下するため、最終的にはパワー半導体素子の破壊にいたる(非特許文献1)。
【0004】
また、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等を主成分とするセラミックス基板の弾性率は、ガラスクロスとエポキシ樹脂を主成分とするガラスエポキシ基板の絶縁層や熱伝導性フィラーと熱硬化性樹脂を主成分とする金属ベース基板の絶縁層の弾性率より、一桁〜二桁大きいことが多いため、発生する熱応力も大きくなる。
【0005】
さらに、近年、環境汚染の防止の観点から、従来の鉛入り半田の代わりに鉛フリー半田(実質的に鉛を含まない半田)が使用され始めている。しかし、鉛フリー半田は従来の鉛入り半田に比べて縦弾性率が大きく、また、塑性変形しづらいため、応力緩和の効果が小さくクラックが発生しやすい(非特許文献2)。そのため、パワー半導体モジュールの信頼性は、1)金属回路上にパワー半導体素子を接合するために用いる半田に発生するクラック及び2)金属板と金属放熱板を接合するために用いる半田に発生するクラックの発生を抑制する技術によって決まるといっても過言ではない。
【0006】
このような問題を解決するため、特許文献1は、窒化アルミニウム基板の一方の面にアルミ回路、他方の面にアルミ板を設けたものが提案されている。アルミは銅と比較して、弾性率が低く、塑性変形し易いため、ヒートサイクルの際の熱応力を緩和し、半田やセラミックス基板へのクラックを抑制することができる。しかし、金属回路の材質がアルミに限定されるため(アルミの熱伝導率及び電気伝導率は銅の約半分)、パワー半導体モジュール用の回路基板などの大電力素子用の回路基板としては放熱性の面で課題があった。
【0007】
特許文献2では、セラミックス基板と金属板を接合するロウ材面の周縁部または周縁部付近に所定の幅の非接合部を設けたものが提案されており、非接合部によりヒートサイクルの際の熱応力を緩和・分散することができる。しかし、セラミックス基板と金属板を接合するために加熱加圧する際、ロウ材が溶融し濡れ広がるため、非接合部を所定の幅にすることが困難であり、工程での歩留まりが低下すると言う課題があった。
【0008】
特許文献3では、金属板上に絶縁層を介して回路を設けてなる金属ベース回路基板においいて、絶縁層の貯蔵弾性率と熱膨張率の積と半田の縦弾性率と熱膨張率の積を一定の範囲に制御したものが提案されており、半田クラックの発生を抑制することができる。しかし、樹脂に無機充填剤を添加することで絶縁層の高熱伝導化を図っているものの(例えば、段落[0015]参照)、無機充填剤の粒子同士が焼結により結合しておらず、無機充填剤の粒子間に樹脂が存在するため、セラミックス基板と比較すると熱伝導率が低く、パワー半導体モジュール用の回路基板とした場合の放熱性に課題があった。
【0009】
非特許文献3では、セラミックス基板の材質として、窒化ケイ素や窒化アルミではなく、熱膨張率の比較的大きいアルミナを使用することで、セラミックス回路基板の熱膨張率を金属放熱板(銅16ppm)の熱膨張率に近づけるものが提案されており、半田クラックの発生を抑制することができる(例えば、
図12と13参照)。しかし、アルミナの弾性率は非常に大きい(窒化ケイ素や窒化アルミによりも大きい)ため、僅かな熱膨張率の差であっても発生する熱応力は大きい。このため、さらなる耐半田クラック性の向上には、熱応力を低減する必要があった。また、アルミナは窒化ケイ素や窒化アルミと比較し、熱伝導率が低いため、放熱性の面でも課題があった。
【0010】
特許文献4では、アスペクト比の大きい窒化ケイ素の柱状粒子を用いて、窒化ケイ素焼結体を作製し、焼結体中に気孔を導入することで、弾性率が低下することから、破断に至るまでのひずみが大幅に増大し、ひずみや応力に対して極めて許容度が大きい。このため、機械的強度が要求され、異なる部材間で熱膨張係数や弾性率に著しい差がある機構にも容易に組み込むことが可能である。しかし、(1)回路基板としての用途を想定していないため、気孔がそのまま存在しており、パワー半導体モジュール用の回路基板として必要な絶縁性が確保できないこと、(2)気孔率が低いため、弾性率が熱応力を緩和するほど低くない(気孔中に樹脂を充填していないため気孔率を高くすると機械的強度が低くなる、例えば、段落[0011]参照)、と言う課題があった。
【0011】
さらに、熱伝導率の高いセラミックス焼結体の気孔に樹脂を充填したセラミックス複合体を電子回路用多層基板に適用することも公知である(特許文献5)。しかし、特許文献5に記載された発明において、セラミックス焼結体の気孔への樹脂の充填は、電子回路基板に適した良好な機械加工性、高い熱伝導率、シリコン集積回路との熱膨張率のマッチング、少ない誘電損失を得るためのものであって、セラミックス焼結体の一次粒子や樹脂の物性及びパワー半導体モジュールの各構成材料の弾性率を制御することにより、半田クラックの発生を抑制することは示唆されていない。一例として、開放気孔中に充填される樹脂は、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、トリマジン樹脂、パリパラバン酸樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコン樹脂、エポキシシリコン樹脂、アクリル酸樹脂、メタクリル酸樹脂、アニリン酸樹脂、フェノール樹脂、ウレタン形樹脂、フラン系樹脂、フッ素樹脂から選択されるいずれか1種あるいは2種以上の混合物とされているが(請求項4参照)、樹脂物性(例えば架橋密度等)制御することで、樹脂を充填したセラミックス複合体の物性を制御するという技術思想は見られない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<非酸化物セラミックス焼結体、セラミックス樹脂複合体基板、非酸化物セラミックス成型体、セラミックス樹脂複合体回路基板の定義>
本発明では、非酸化物セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂からなる複合体を「セラミックス樹脂複合体基板」、セラミックス樹脂複合体基板の熱硬化性樹脂を灰化させて得た成形体を「非酸化物セラミックス成型体」と定義する。非酸化物セラミックス成型体は、セラミックス樹脂複合体基板を大気中650〜1000℃で1hr焼成し、熱硬化性樹脂成分を灰化させることで得ることができる。また、非酸化物セラミックス粒子同士が焼結により結合した状態で2個以上集合した状態を「非酸化物セラミックス焼結体」と定義する。焼結による結合は、走査型電子顕微鏡(例えば「JSM−6010LA」(日本電子社製))を用いて、非酸化物セラミックス粒子の断面の一次粒子同士の結合部分を観察することにより評価することができる。観察の前処理として、非酸化物セラミックス粒子を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。観察倍率は1500倍である。更に、本発明では、セラミックス樹脂複合体基板の一方の面に金属回路、他方の面に金属板を設けたものを「セラミックス樹脂複合体回路基板」と定義する。
【0019】
本発明の特徴の一つは、セラミックス樹脂複合体基板の高熱伝導率と低弾性率の両立で
ある。その二律背反の解消のポイントは、1)非酸化物セラミックス粒子が3次元に結合
した骨格構造を有することで熱伝導経路を確保していること及び2)3次元に結合した非
酸化物セラミックス粒子が高アスペクト比であり、且つ気孔を有することから、本来は硬
く、高弾性率であるはずのセラミックスが柔らかく、低弾性率であること、である。さら
に、熱硬化性樹脂を気孔内に含浸することにより、回路基板として必要な特性を補ってい
る。つまり、本発明のセラミックス樹脂複合体回路基板は、セラミックス樹脂複合体基板
(セラミックス回路基板においてはセラミックス基板、金属ベース回路基板においては絶
縁層に該当する)の高熱伝導率(セラミックス基板と同等)と低弾性率(金属ベース回路
基板の絶縁層と同等)を両立したものである。さらに、パワー半導体モジュールの各構成
材料の弾性率を適切に設計することにより、本発明のセラミックス樹脂複合体回路基板を
用いたパワー半導体モジュールは、半田クラックが抑制され、高い信頼性を示す。
【0020】
さらに、本発明者らは、色々な実験と有限要素法による熱応力シミュレーションにより鋭意検討した結果、半田クラックの抑制には、次の段落以降の非酸化物セラミックス焼結体や熱硬化性樹脂の特性制御に加えて、パワー半導体モジュールの各構成材料の弾性率(貯蔵弾性率及び縦弾性率)を特定の値の範囲となるように制御することが有効であることを見出した。すなわち、熱硬化性樹脂のガラス転移点から−50℃迄の温度範囲において、E1/E2及びE1/E3が0.3以下且つE1/E4及びE1/E5が1.5以下を特徴としている。この構成を採用しているので、耐半田クラック性に富む、高い信頼性を有するパワー半導体モジュールが得られる。
[E1〜5の定義]
E1:セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率
E2:金属回路の縦弾性率
E3:金属放熱板の縦弾性率
E4:金属回路上にパワー半導体素子を接合するために用いる半田の縦弾性率
E5:金属板と金属放熱板を接合するために用いる半田の縦弾性率
【0021】
<平均長径>
非酸化物セラミックス焼結体中の非酸化物セラミックス粒子の平均長径は3.0〜60μmである必要があり、さらに平均長径は10〜50μmの範囲のものが好ましい。3.0μmより小さいと非酸化物セラミックス焼結体の気孔径が小さくなるため、熱硬化性樹脂を気孔内に含浸する際に欠陥(気孔内に熱硬化性樹脂が存在しない部分)が発生し易くなり、絶縁耐圧が低下する可能性がある。さらに、セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率が高くなり、応力緩和性が悪くなる傾向にある。60μm以上にすると、セラミックス樹脂複合体基板の強度が低下し、ヒートサイクル試験の際にセラミックス樹脂複合体基板にクラックが発生し、耐圧が低下する可能性がある。
【0022】
<平均長径の定義・評価方法>
平均長径は、観察の前処理として、非酸化物セラミックス焼結体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。その後、走査型電子顕微鏡、例えば「JSM−6010LA」(日本電子社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)に取り込み、測定することができる。この際の画像の倍率は100倍、画像解析の画素数は1510万画素であった。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個の長径を求めその平均値を平均長径とした。非酸化物セラミックス成型体も同様に測定を行った。
【0023】
<アスペクト比>
本発明の非酸化物セラミックス粒子は、アスペクト比が5.0〜30である必要があり、さらにアスペクト比は10〜20の範囲のものが好ましい。アスペクト比が5.0より小さくなるとセラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率が高くなり、応力緩和性が悪くなる傾向にある。さらに、熱硬化性樹脂を気孔内に含浸するには、非酸化物セラミックス焼結体が内部連通空間を有することが必要であるが、アスペクト比が5より小さくなると、閉気孔が多くなり、欠陥(気孔内に熱硬化性樹脂が存在しない部分)が発生し易くなり、絶縁耐圧が低下する可能性がある。反対にアスペクト比が30より大きくなるとセラミックス樹脂複合体基板の強度が低下し、ヒートサイクル試験の際にクラックが発生し、耐圧が低下する可能性がある。
【0024】
<アスペクト比の評価方法>
アスペクト比は、観察の前処理として、非酸化物セラミックス焼結体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。その後、走査型電子顕微鏡、例えば「JSM−6010LA」(日本電子社製)にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア、例えば「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製)に取り込み、測定することができる。この際の画像の倍率は100倍、画像解析の画素数は1510万画素であった。マニュアル測定で、得られた任意の粒子100個を観察し、各粒子の長径と短径の長さを測り、アスペクト比=長径/短径の計算式より各粒子の値を算出し、それらの平均値をアスペクト比とした。非酸化物セラミックス成型体も同様に測定を行った。
【0025】
<非酸化物セラミックス焼結体の割合>
セラミックス樹脂複合体基板中の非酸化物セラミックス焼結体は50〜75体積%(熱硬化性樹脂は50〜25体積%)の範囲内であることが好ましい。50体積%より小さいと熱伝導率の低い熱硬化性樹脂の割合が増えるため、熱伝導率が低下する。さらに、セラミックス樹脂複合体基板の強度が低下し、ヒートサイクル試験の際にセラミックス樹脂複合体基板にクラックが発生し、耐圧が低下する可能性がある。75体積%より大きいと、非酸化物セラミックス焼結体の気孔径が小さくなるため、熱硬化性樹脂を気孔内に含浸する際に欠陥(気孔内に熱硬化性樹脂が存在しない部分)が発生し易くなり、絶縁耐圧が低下する可能性がある。さらに、セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率が高くなり、応力緩和性が悪くなり半田クラックが発生する。セラミックス樹脂複合体基板中の非酸化物セラミックス焼結体の割合(体積%)は、以下に示す非酸化物セラミックス成型体のかさ密度と気孔率の測定より求めることができる。
非酸化物セラミックス成型体かさ密度(D)=質量/体積
非酸化物セラミックス成型体気孔率=(1−(D/非酸化物セラミックスの真密度))
×100=熱硬化性樹脂の割合
非酸化物セラミックス焼結体の割合=100−熱硬化性樹脂の割合
【0026】
<非酸化物セラミックス焼結体の主成分>
本発明の非酸化物セラミックス焼結体の主成分は、高信頼性が求められるパワーモジュールに使用されることを考えれば、少なくとも40W/(m・K)以上の熱伝導率を有する窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素の単体又は2種類以上の組み合わせが好適に使用される。炭化珪素、酸化ベリリウム等の材質でもよいが、絶縁性と安全性の点で劣る。
【0027】
<非酸化物セラミックス焼結体の製造方法>
非酸化物セラミックス焼結体は、例えば窒化ホウ素粉末に、炭酸カルシウム、ホウ酸等の焼結助剤を0.5〜20重量%程度の内割で配合し、金型やCIP等の公知の方法にて成形した後、窒素、アルゴン等の非酸化性雰囲気中、温度1500〜2200℃で1〜20時間程度保持することによって製造することができる。このような製造法は公知であり、また市販品もある。また、窒化アルミニウム、窒化ケイ素の場合も、イットリア、アルミナ、マグネシア、希土類元素酸化物等の焼結助剤を用いて、同様の方法にて製造することができる。
【0028】
<含浸用の熱硬化性樹脂>
非酸化物セラミックス焼結体中に含浸する熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、ビスマレイミドトリアジン樹脂等を用いることができる。特にエポキシ樹脂、ポリイミド、ビスマレイミドトリアジン樹脂は、耐熱性と金属回路への接着強度が優れていることから、好適である。これら熱硬化性樹脂には適宜、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤、シランカップリング剤、さらには濡れ性やレベリング性の向上及び粘度低下を促進して樹脂含浸の際の欠陥の発生を低減する添加剤を含有することができる。この添加剤としては、例えば、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等がある。また、熱硬化性樹脂が、アルミナ、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム,窒化ホウ素の群から選ばれた1種又は2種以上の無機充填剤を含むと一層好ましい。非酸化物セラミックス粒子間に、無機充填剤を充填することができるので、結果としてセラミックス樹脂複合体基板の熱伝導率を向上させることができる。熱硬化性樹脂は、必要に応じて溶剤で希釈して使用しても良い。溶剤としては、例えば、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール類、2−メトキシエタノール、1−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール及び2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びジイソブチルケトンケトン等のケトン類、トルエン及びキシレン等の炭化水素類が挙げられる。なお、これらの溶剤は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
<熱硬化性樹脂のガラス転移点の評価方法>
熱硬化性樹脂のガラス転移点は、動的粘弾性測定装置、例えばRSA−G2(TA Instruments社製)を用いてDMA法(JIS K 0129(2005))により測定できる。すなわち、1.0×3.0×35mmの板状の熱硬化性樹脂サンプルを、−60〜400℃の温度で1Hzの牽引周期を加えてDMA法により測定し、損失正接(tanδ)のピーク値をガラス転移点とする。ここで、サンプルの作製は次のようにして行う。未硬化の熱硬化性樹脂を真空中で脱泡した後、セラミックス樹脂複合体基板作製時と同じ硬化条件にて処理することでボイドのない硬化物が得られる。この硬化物をダイヤモンドカッターにより上記サイズに切り出して評価することができる。
【0030】
<熱硬化性樹脂の架橋密度>
本発明の熱硬化性樹脂は、架橋密度が7.0×10
−4〜6.0×10
−3mol/cm
3である必要があり、さらに架橋密度は9.0×10
−4〜5.0×10
−3mol/cm
3の範囲のものが好ましい。架橋密度が7.0×10
−4mol/cm
3より小さくなるとセラミックス樹脂複合体基板の強度が低下し、ヒートサイクル試験の際にクラックが発生し、耐圧が低下する可能性がある。反対に架橋密度が6.0×10
−3mol/cm
3より大きくなるとセラミックス樹脂複合体基板の縦弾性率が高くなり、応力緩和性が悪くなる傾向にある。架橋密度は、熱硬化性樹脂の分子量や官能基数を制御することにより調整することができる。
【0031】
<熱硬化性樹脂の架橋密度の評価方法>
熱硬化性樹脂の架橋密度は、動的粘弾性測定装置、例えばRSA−G2(TA Instruments社製)を用いてDMA法(JIS K 0129(2005))により測定できる。すなわち、1.0×3.0×35mmの板状の熱硬化性樹脂サンプルを、−60〜400℃の温度で1Hzの牽引周期を加えてDMA法により測定し、下記の計算式により算出する。
熱硬化性樹脂の架橋密度=熱硬化性樹脂の貯蔵弾性率/(3×気体定数×絶対温度)
ここで、絶対温度はガラス転移点+30(K)とする。また、熱硬化性樹脂の貯蔵弾性率は前記の絶対温度での値を使用する。更に、サンプルの作製は次のようにして行う。未硬化の熱硬化性樹脂を真空中で脱泡した後、セラミックス樹脂複合体基板作製時と同じ硬化条件にて処理することでボイドのない硬化物が得られる。この硬化物をダイヤモンドカッターにより上記サイズに切り出して評価することができる。
【0032】
<セラミックス樹脂複合体基板>
本発明のセラミックス樹脂複合体基板は、非酸化物セラミックス焼結体に、未反応の熱硬化性樹脂を含浸し、熱硬化させた樹脂含浸非酸化物セラミックス焼結体を得た後、マルチワイヤーソー等の公知の切断装置を用い、任意の厚みに切り出してセラミックス樹脂複合体基板を好適に製造することができる。未反応の熱硬化性樹脂の含浸は、真空含浸、0.5〜10MPaでの加圧含浸、25〜300℃までの加熱含浸又はそれらの組合せの含浸で行うことができる。真空含浸時の圧力は、1000Pa以下が好ましく、100Pa以下が更に好ましい。加圧含浸では、圧力0.5MPa以下では非酸化物セラミックス焼結体の内部まで熱硬化性樹脂が十分含浸できず、10MPa以上では設備が大規模になるためコスト的に不利である。加熱含浸では25℃以下では含浸される樹脂が限定され、非酸化物セラミックス焼結体の内部まで樹脂が十分含浸できず、300℃以上では設備に更なる耐熱性を寄与する必要がありコスト的に不利である。切断装置は、マルチワイヤーソー等の加工装置を用いることにより、任意の厚みに対して大量に切り出す事が可能となり、切削後の面粗度も良好な値を示す。
【0033】
<セラミックス樹脂複合体基板の厚み>
セラミックス樹脂複合体基板の厚みは、通常0.32mmであるが、要求特性によって変えることができる。例えば、高電圧での絶縁性があまり重要でなく熱抵抗が重要である場合は、0.1〜0.25mmの薄い基板を用いることができ、逆に高電圧での絶縁耐圧や部分放電特性が重要である場合には、0.35〜1.0mmの厚いものが用いられる。
【0034】
<金属回路>
金属回路の材料としては、電気伝導性および熱伝導率の点から、銅又はアルミニウムが好ましい。特性面だけを考えると銀、金等も使用可能であるが、価格面およびその後の回路形成等に問題がある。金属回路の板厚は0.03〜1.5mmが好ましい。板厚0.03mm未満では、パワーモジュール用の回路基板として用いる場合に、十分な導電性を確保することができず、金属回路部分が発熱する等の問題があり好ましくない。1.5mmを超えると金属回路自体の熱抵抗が大きくなり、回路基板の放熱特性が低下するため好ましくない。
【0035】
<金属板>
金属板の材料としては、熱伝導率及び価格の点から、銅又はアルミニウムが好ましい。特性面だけを考えると銀、金等も使用可能であるが、価格面に問題がある。金属板の板厚は0.3〜3.0mmが好ましい。板厚0.3mm未満では、回路基板としての強度が低下し、電子部品の実装工程にて割れ、欠け、反り等が発生し易くなるため好ましくない。3.0mmを超えると金属板自体の熱抵抗が大きくなり、回路基板の放熱特性が低下するため好ましくない。
【0036】
<金属板及び金属回路の接着方法>
金属板及び金属回路とセラミックス樹脂複合体基板の接着には、熱硬化性樹脂が用いられる。接着層の形成方法については、特に指定は無く、金属板、金属回路、セラミックス樹脂複合体基板の両面もしくはいずれか一方に塗布し、各材料を積層後に加熱プレス硬化する等の公知の方法が用いられる。
【0037】
<接着層の熱硬化性樹脂>
金属板及び金属回路とセラミックス樹脂複合体基板の接着に用いられる熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、ビスマレイミドトリアジン樹脂等を用いることができる。特にエポキシ樹脂、ポリイミド、ビスマレイミドトリアジン樹脂は、耐熱性と金属回路への接着強度が優れていることから、好適である。これら熱硬化性樹脂には適宜、硬化剤、硬化促進剤、無機充填剤、シランカップリング剤、さらには濡れ性やレベリング性の向上及び粘度低下を促進して樹脂含浸の際の欠陥の発生を低減する添加剤を含有することができる。この添加剤としては、例えば、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等がある。また、熱硬化性樹脂が、アルミナ、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム,窒化ホウ素の群から選ばれた1種又は2種以上の無機充填剤を含むと一層好ましい。金属板及び金属回路とセラミックス樹脂複合体基板間の熱抵抗を低減させることができるので、結果としてセラミックス樹脂複合体回路基板の放熱性を向上させることができる。熱硬化性樹脂は、必要に応じて溶剤で希釈して使用しても良い。溶剤としては、例えば、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール類、2−メトキシエタノール、1−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール及び2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びジイソブチルケトンケトン等のケトン類、トルエン及びキシレン等の炭化水素類が挙げられる。なお、これらの溶剤は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
<金属板及び金属回路の接着面>
セラミックス樹脂複合体基板と金属板及び金属回路の密着性を向上させるために、金属板及び金属回路のセラミックス樹脂複合体基板との接着面に、脱脂処理、サンドブラスト、エッチング、各種メッキ処理、カップリング剤等のプライマー処理等の表面処理を行うことが望ましい。また、金属板及び金属回路のセラミックス樹脂複合体基板との接着面の表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)で0.1μm〜15μmが好ましい。0.1μm以下であるとセラミックス樹脂複合体基板と十分な密着性を確保することが困難であり、15μm以上であると接着界面で欠陥が発生し易くなり、耐電圧が低下したり、密着性が低下する可能性がある。
【0039】
<金属回路の形成方法>
また、金属回路の所定の回路パターンを形成する方法として、金属板を接着した後にそ
の金属板の表面に回路形状のレジストを形成してエッチングによりパターンニングを行う
方法、予め金属板を、プレスやエッチングにより、所定の回路パターンの金属回路に形成した後にセラミックス基板に接着する方法などがある。パターンを形成した後に必要に応じて金属板にNiめっきやNi合金めっきを施してもよい。また、必要に応じて、金属回路及びセラミックス樹脂複合体基板上にソルダーレジストを塗布する場合もある。
【0040】
<半田>
本発明にいう半田としては特に限定はなく、鉛−錫を含む各種の2元、3元系半田であっても、鉛を含まない各種の2元、3元系半田、例えば金、銀、銅、錫、ビスマス、インジウム、亜鉛などを含む半田であってもよいが、環境汚染の防止の観点から鉛を含まない半田が好ましい。
【0041】
<金属放熱板>
本発明の金属放熱板に用いる金属については特に限定は無いが、安価で熱伝導率が高い銅やアルミニウム、またはそれらを主成分とする合金などが好ましく用いられる。一般に金属放熱板表面はニッケルメッキ膜で覆われていることが多いが、使用環境で腐食等の問題が起きなければ必ずしも必要がない。
【0042】
<パワー半導体モジュールの各構成材料の弾性率>
本発明においては、熱硬化性樹脂のガラス転移点から−50℃迄の温度範囲において、E1/E2及びE1/E3が0.3以下且つE1/E4及びE1/E5が1.5以下であることが好ましい。この関係が必要なのは、セラミックス樹脂複合体回路基板にパワー半導体及び金属法熱板を半田接合し、ヒートサイクルにより熱応力が生じた場合の半田クラックの発生を抑制し、パワー半導体モジュールの信頼性を良好に保つためである。前記範囲以外の場合には、パワー半導体モジュールの信頼性低下の原因となる半田クラックを大幅に低減することができないため、本発明の課題を達成できない。また、セラミックス基板と同等の高熱伝導率を示す回路基板の材料(絶縁層)において、前記範囲を満たす材料の提案は今まで見られない。
[E1〜5の定義]
E1:セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率
E2:金属回路の縦弾性率
E3:金属放熱板の縦弾性率
E4:金属回路上にパワー半導体素子を接合するために用いる半田の縦弾性率
E5:金属板と金属放熱板を接合するために用いる半田の縦弾性率
【0043】
<貯蔵弾性率の評価方法>
セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置、例えばRSA−G2(TA Instruments社製)を用いてDMA法(JIS K 0129(2005))により測定できる。すなわち、0.15×3.0×35mmの板状のセラミックス樹脂複合体基板を、−60〜400℃の温度で1Hzの牽引周期を加えてDMA法により測定することにより得られる。
【0044】
<縦弾性率の評価方法>
金属回路上にパワー半導体素子を接合するために用いる半田、金属板と金属放熱板を接合するために用いる半田、金属回路及び金属板の縦弾性率は、超音波音速測定装置、例えばMBS8000型(マテック社製)を用いて超音波法(JIS Z 2280)により測定できる。すなわち、直径16mm、厚み10mmの円柱状のサンプルを、−60〜400℃の温度で測定することにより得られる。
【0045】
<線熱膨張係数>
金属板の40〜200℃の線熱膨張係数(CTE1)とセラミックス樹脂複合体回路基板の面方向の40〜200℃の線熱膨張係数(CTE2)の比(CTE1/CTE2)が1.0〜1.2であることが好ましい。CTE1/CTE2が、1.0未満又は1.2を超えると、回路基板として用いる場合にパワー半導体素子作動に伴う熱サイクルにより、パワー半導体モジュールの各構成材料の線熱膨張差により発生する熱応力を緩和することができず、半田クラックが発生したり、金属回路又は金属板とセラミックス樹脂複合体基板間で剥離が発生したり、セラミックス樹脂複合体基板が破損して絶縁耐圧が低下したりするなどの問題が発生して好ましくない。
【0046】
<線熱膨張係数の評価方法>
金属板およびセラミックス樹脂複合体回路基板の線熱膨張係数は、測定材料を長さ20mm×厚み2.32mmに加工した後、セイコー電子社製:TMA300を用いて、40℃〜200℃の温度範囲において、昇温速度1℃/分で線熱膨張係数を測定することができる。
【0047】
<熱拡散率>
セラミックス樹脂複合体回路基板のレーザーフラッシュ法による25℃の熱拡散率が20mm
2/s以上であることが好ましい。20mm
2/s未満であると、放熱特性が低下し、パワー半導体素子作動に伴って発生する熱を放熱することができない。
【0048】
<熱拡散率の評価方法>
セラミックス樹脂複合体回路基板の熱拡散率(mm
2/sec)は、測定用試料としてセラミックス樹脂複合体回路基板を幅10mm×長さ10mm×厚み2.32mmに加工し、25℃にてレーザーフラッシュ法により求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(「LFA447 NanoFlash」NETZSCH社製)を用いた。比重はアルキメデス法を用いて求めた。比熱容量は、DSC(「ThermoPlus Evo DSC8230」リガク社製)を用いて求めた。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例、比較例をあげて更に具体的に説明する。
実施例1〜10 比較例1〜9
<非酸化物セラミックス焼結体の作製>
非酸化物セラミックス粉末と焼結助剤を、表1に示す配合にて計量し、公知の技術を用いて混合粉を作製した。そして、この成形用の混合粉末を用いて、5MPaでブロック状にプレス成形した。得られたブロック成形体を冷間等方圧加圧法(CIP)により0.1〜150MPaの間で処理を行った後、バッチ式高周波炉にて窒素流量10L/min、焼結温度2100℃、保持時間10hrで焼結させることで表1〜2に示すA〜Oの15種類の非酸化物セラミックス焼結体を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
<熱硬化性樹脂の非酸化物セラミックス焼結体への含浸>
得られた非酸化物セラミックス焼結体A〜Oへ熱硬化性樹脂の含浸を行った。熱硬化性樹脂は表3に示したAA〜AEの5種類を用いた。熱硬化性樹脂と硬化剤は官能基(熱硬化性樹脂においてはグリシジル基、硬化剤においては水酸基が等モルになるように配合した。硬化促進剤は、熱硬化性樹脂と硬化剤に対して、0.05重量部添加した。非酸化物セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂の組み合わせは、表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す19種類とした。非酸化物セラミックス焼結体及び熱硬化性樹脂を温度50℃、圧力1mmHgの真空中で10分間脱気した後、真空下で非酸化物セラミックス焼結体を熱硬化性樹脂中に浸漬し、20分間含浸した。さらに、温度100℃、圧力4MPaの加圧下にて60分間含浸した。その後、大気圧下で、温度150℃で60分間、200℃で180分加熱して樹脂を熱硬化させ、樹脂含浸非酸化物セラミックス焼結体を得た。
【0053】
【表3】
【0054】
表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す19種類の樹脂含浸非酸化物セラミックス焼結体をマルチワイヤーソー又はマシニングセンターを用いて、0.32mmの厚さの板状に加工し、セラミックス樹脂複合体基板を得た。得られたセラミックス樹脂複合体基板の両主面に、接着層として熱硬化性樹脂(含浸の際に使用した熱硬化性樹脂と同じ物を使用する、表3のAAを使用した場合は、接着層としてもAAを使用)を10μmの厚さで塗布した。その後セラミックス樹脂複合体基板の両主面に厚み1.0mm金属板(銅)を、圧力5MPa、加熱温度180℃、加熱時間3時間の条件で加熱プレス接着し、セラミックス樹脂複合体基板の両主面に金属板(銅)を接着した積層体を得た。
【0055】
<セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率の評価>
セラミックス樹脂複合体基板の貯蔵弾性率(E1)は、測定用サンプルとしてセラミックス樹脂複合体基板を0.15×3.0×35mmに加工し、DMA法により測定した。得られたE1の評価結果を表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す。代表値として25℃での結果を記載した。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
<半田、金属板、金属回路の貯蔵弾性率の評価>
金属回路上にパワー半導体素子を接合するために用いる半田(E4)、金属板と金属放熱板を接合するために用いる半田(E5)、金属回路(E2)及び金属板(E3)の縦弾性率の縦弾性率は測定用サンプルとして使用した材料と同一Lot材料を直径16mm、厚み10mmの円柱状に加工し、測定した。得られたE2〜E5の評価結果を表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す(代表値として25℃での結果を記載)。
【0061】
<金属回路の形成>
積層体の一方の面にエッチングレジストを回路パターン形状に、他方の面にエッチングレジストをベタパターン形状にスクリーン印刷した。エッチングレジストを紫外線硬化後に、金属板を塩化第二銅 液でエッチングし、積層体の一方の面に金属回路を形成した。次いで、レジストをアルカリ溶液にて剥離した後、無電解Ni−Pメッキを2μm施して、セラミックス樹脂複合体回路基板を製造した。これを
図1に示す。
【0062】
<絶縁耐圧の評価>
セラミックス樹脂複合体回路基板の絶縁耐圧をJIS C 2110に準拠して測定した。得られたセラミックス樹脂複合体回路基板の絶縁耐圧の評価結果を表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す。
【0063】
<線熱膨張係数の評価>
金属板の40〜200℃の線熱膨張係数(CTE1)とセラミックス樹脂複合体回路基板の面方向の40〜200℃の線熱膨張係数(CTE2)は、サンプルを所定のサイズに加工した後、測定し、得られた結果から、CTE1/CTE2を算出した。評価結果を表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す。
【0064】
<熱拡散率の評価>
セラミックス樹脂複合体回路基板の熱拡散率は、サンプルを所定のサイズに加工した後、測定した。評価結果を表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す。
【0065】
<信頼性試験方法>
セラミックス樹脂複合体回路基板の金属回路上にアルミワイヤを超音波でボンディング接合した後、10mm角のパワー半導体素子と端子を半田付けした。さらに、セラミックス樹脂複合体回路基板の下面の金属板に金属放熱板を半田付けし、端子ケースとふたを装着し、
図2のパワー半導体モジュールとした。これを10セット作製し、ヒートサイクル試験を行った(JIS C 0025に準拠)。ヒートサイクル試験は、−40℃×30分→室温×10分→150℃×30分→室温×10分を1サイクルとして10000サイクル実施した。ヒートサイクル試験後、超音波探傷装置にてアルミワイヤ、金属板、金属回路の剥離を評価した。アルミワイヤの剥離はアルミワイヤと金属回路間で、端子の剥離は端子と金属回路間で、金属板の剥離は金属板とセラミックス樹脂複合体基板間で、金属回路の剥離は金属回路とセラミックス樹脂複合体基板間で各々発生する。剥離により空気層が発生するため、超音波探傷装置にて検出可能である。剥離の程度は、以下に示す式により、剥離率により評価した。
剥離率=ヒートサイクル試験後に剥離した面積/ヒートサイクル試験結前の接合(又は接
着)面積
評価結果を表4〜5の実施例と表6〜7の比較例に示す。
さらに、セラミックス樹脂複合体基板クラック、半田クラックを観察するため、前処理として、パワー半導体モジュールを切断加工、樹脂包埋後に、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングを行った。観察倍率は100倍である。半田クラックとは、半田自体に発生する割れであり、具体的には幅1μm以上、長さ3μm以上の割れを半田クラックとした。セラミックス樹脂複合体基板クラックとはセラミックス樹脂複合体基板自体に発生する割れであり、具体的には幅1μm以上、長さ3μm以上の割れをセラミックス樹脂複合体基板クラックとした。セラミックス樹脂複合体基板クラックと半田クラックの程度は、上記の条件にて観察した長さの総和により評価した。
【0066】
実施例と比較例の対比から明らかなように、本発明のセラミックス樹脂複合体回路基板を用いたパワー半導体モジュールは、半田クラックの発生を抑制し、パワー半導体モジュールの信頼性を従来と比較して、飛躍的に向上することができることを示している。