特許第6170488号(P6170488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170488
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】新規縮合多環芳香族化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 495/04 20060101AFI20170713BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20170713BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20170713BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20170713BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20170713BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
   C07D495/04 101
   C07D495/04CSP
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250H
   H01L29/28 310J
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618A
【請求項の数】17
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-503332(P2014-503332)
(86)(22)【出願日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2013078210
(87)【国際公開番号】WO2014061745
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2016年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-230469(P2012-230469)
(32)【優先日】2012年10月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧宮 和男
(72)【発明者】
【氏名】品村 祥司
(72)【発明者】
【氏名】濱田 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】貞光 雄一
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−244430(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098326(WO,A1)
【文献】 特開2009−242339(JP,A)
【文献】 特開2009−200263(JP,A)
【文献】 特開2005−255889(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/064655(WO,A1)
【文献】 特開2012−131938(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0095270(US,A1)
【文献】 特開2011−165747(JP,A)
【文献】 YAMAGUCHI, S. et al,Synthesis of 1,2,3,6,7,8-Hexahydro-10,10,11,11-tetracyano-4,9-pyrenoquinodimethane,Synthetic Metals,1989年,Vol.30, No.3,p.401-402
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/04
H01L 21/336
H01L 29/786
H01L 51/05
H01L 51/30
H01L 51/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)又は一般式(2):
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素オキシ基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、式R−O−C(=O)−(式中Rは脂肪族炭化水素基)で表される基、アシル基、シアノ基、及び置換シリル基からなる群より選ばれる原子または官能基を表し、X〜Xはそれぞれ独立してシアノ基、式R−O−C(=O)−(式中Rは脂肪族炭化水素基)で表される基又はアシル基を表す。Y〜Yはそれぞれ独立して酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。)で表わされる縮合多環芳香族化合物。
【請求項2】
上記X〜Xが、いずれもシアノ基である請求項1に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項3】
上記R,R,R,及びRが、いずれも水素原子である請求項1又は2に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項4】
上記Y〜Yが、いずれも硫黄原子である請求項1〜3のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項5】
上記R,R,R,及びRはそれぞれ独立して、炭素原子数1〜30の芳香族炭化水素基、又は脂肪族炭化水素基である請求項1〜4のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項6】
上記R,R,R,及びRはそれぞれ独立して、炭素原子数1〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である請求項5に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項7】
上記R,R,R,及びRはそれぞれ独立して、独立にトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、又はトリイソプロピルシリル基である請求項1〜4のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項8】
上記R,R,R,及びRが、いずれも水素原子である請求項1〜4のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する有機半導体材料。
【請求項10】
n型半導体材料である請求項9に記載の有機半導体材料。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物と有機溶媒とを含む有機半導体形成用組成物。
【請求項12】
上記縮合多環芳香族化合物の含有量が、上記有機半導体形成用組成物の全量に対して、0.01重量%以上、10重量%以下の範囲内である請求項11に記載の有機半導体形成用組成物。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を含む薄膜。
【請求項14】
請求項13に記載の薄膜を含有する有機半導体デバイス。
【請求項15】
有機トランジスタ素子である、請求項14に記載の有機半導体デバイス。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を、溶液プロセスにより基板に配置する工程を含む有機半導体デバイスの製造方法。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を、真空プロセスにより基板に配置する工程を含む有機半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮合多環芳香族化合物およびこれを含む有機半導体材料、有機半導体デバイス、並びに、縮合多環芳香族化合物および有機半導体デバイスの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、大気中でも安定にn型トランジスタ動作が可能な縮合多環芳香族化合物およびこれを含む有機半導体材料、有機半導体デバイス、並びに、縮合多環芳香族化合物および有機半導体デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を用いた有機ELデバイス、有機FET(電界効果トランジスタ)デバイス、有機薄膜光電変換デバイス等の薄膜デバイスが注目されており、実用化が始まっている。これらの薄膜デバイスに用いる有機半導体材料の基本的物性の中では、キャリアの移動度およびオン/オフ比が重要である。例えば、有機ELデバイスにおいて、キャリアの移動度は、電荷の輸送効率に影響するので、高効率での発光や低電圧での駆動のために重要である。また、有機FETデバイスにおいて、キャリアの移動度や、オン/オフ比は、スイッチング速度や駆動する装置の性能に直接影響するので、有機FETデバイスの実用化のために重要である。
また、これらの薄膜デバイスに用いる有機半導体材料の特徴を活かすためには、大気中で安定に駆動することも重要である。大気中で安定に駆動できれば、不活性雰囲気下での作業が必要なく、また、封止などの技術も必要なくなる。そのため、製造工程の簡便化や製造に要する装置類の大幅なコストダウンが可能となる。
従来、有機半導体材料においては、無機半導体材料と同様に、p型(ホール輸送)トランジスタに用いる有機半導体材料(以下、「p型材料」という)とn型(電子輸送)トランジスタに用いる有機半導体材料(以下、「n型材料」という)とが知られている。例えば、CMOS(相補形金属酸化膜半導体)等の論理回路を作製するためには、p型材料およびn型材料が必要となる。
これまでに、p型材料については多くの研究がなされ、高性能かつ大気中で安定に駆動する材料の報告がなされている。一方、n型材料については、研究があまり進んでおらず、大気中で安定に駆動する材料は限られている。
大気中で安定に駆動するn型材料の一つにキノイド構造を持つ化合物がある。その中でもチエノキノイド化合物は広く研究されており、オリゴチオフェンキノイド系材料、ベンゾジチオフェンキノイド系材料などの高性能な材料が開発されている(特許文献1〜2、非特許文献1〜3)。一方、ベンゾキノイド構造を持つ化合物においても大気安定かつ高性能なn型材料になりうる可能性を持つが、ベンゾキノイド構造を持つFET材料の研究は極めて少ない。
特許文献3、非特許文献4には、化学式:
【化1】

で表される構造を有し、有機FETデバイスに用いることができる有機半導体材料が示されており、テトラシアノキノジメタンよりも高い電子移動度と、大気安定性を有していることが示されているが、高いオフ電流を示すため、オン/オフ比が小さくなり、実用的なトランジスタにはなり得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008−032715公報
【特許文献2】特開2009−242339公報
【特許文献3】特開平10−135481公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,2002,124,4184.
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,2007,129,11684.
【非特許文献3】Chem.Lett.,2009,38,568.
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.,1996,118,11331.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、大気中で安定でオン/オフ比の大きいn型半導体材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、新規な複素環誘導体を開発し、さらにその有機エレクトロニクスデバイスとしての可能性を検討し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記の通りである。
[1]一般式(1)又は一般式(2):
【化2】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素オキシ基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、エステル基、アシル基、シアノ基、及び置換シリル基からなる群より選ばれる原子または官能基を表し、X〜Xはそれぞれ独立してシアノ基、エステル基又はアシル基を表す。Y〜Yはそれぞれ独立して酸素原子、硫黄原子又はセレン原子を表す。)で表わされる縮合多環芳香族化合物。
[2]上記X及びX、或いはX及びXが、いずれもシアノ基である前項[1]に記載の縮合多環芳香族化合物。
[3]上記R,R,R,及びRが、いずれも水素原子である前項[1]または[2]に記載の縮合多環芳香族化合物。
[4]上記Y及びY、或いはY及びYが、いずれも硫黄原子である前項[1]〜[3]のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
[5]上記R,R,R,及びRはそれぞれ独立して、炭素原子数1〜30の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基である前項[1]〜[4]のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
[6]上記R,R,R,及びRはそれぞれ独立して、炭素原子数1〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である前項[5]に記載の縮合多環芳香族化合物。
[7]上記R,R,R,及びRはそれぞれ独立して、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、またはトリイソプロピルシリル基である前項[1]〜[4]のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
[8]上記R,R,R,及びRが、いずれも水素原子である前項[1]〜[4]のいずれか一項に記載の縮合多環芳香族化合物。
[9]前項[1]〜[8]のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を含有する有機半導体材料。
[10]n型半導体材料である前項[9]に記載の有機半導体材料。
[11]前項[1]〜[8]のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物と有機溶媒とを含む有機半導体形成用組成物。
[12]上記縮合多環芳香族化合物の含有量が、上記有機半導体形成用組成物の全量に対して、0.01重量%以上、10重量%以下の範囲内である前項[11]に記載の有機半導体形成用組成物。
[13]前項[1]〜[8]のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を含む薄膜。
[14]前項[13]に記載の薄膜を含有する有機半導体デバイス。
[15]有機トランジスタ素子である、前項[14]に記載の有機半導体デバイス。
[16]前項[1]〜[8]のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を、溶液プロセスにより基板に配置する工程を含む有機半導体デバイスの製造方法。
[17]前項[1]〜[8]のいずれか1項に記載の縮合多環芳香族化合物を、真空プロセスにより基板に配置する工程を含む有機半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は新規な化合物に関するものであるが、当該化合物は大気中で安定に駆動するn型半導体であり、高いオン/オフ比を持つため、これを用いることにより、有機エレクトロデバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の薄膜トランジスタの構造態様例を示す概略図である
図2】本発明の薄膜トランジスタの一態様例を製造する為の工程の概略図である。
図3】光電変換素子及び太陽電池に使用される構造の概略図を示す。
図4】本発明の化合物110の電子吸収スペクトルと吸収波長との関係を表すグラフである。
図5】本発明の化合物110のサイクリックボルタモグラムを示したグラフである。
図6】本発明の化合物110の伝達特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
下記一般式(1)または(2)で表される縮合多環芳香族化合物について説明する。
【化3】

一般式(1)又は(2)において、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素オキシ基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、エステル基、アシル基、シアノ基、および置換シリル基からなる群より選ばれる原子または官能基を表し、X〜Xはそれぞれ独立してシアノ基、エステル基またはアシル基を表す。より具体的には、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素オキシ基、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、エステル基、アシル基、シリル基、およびシアノ基からなる群より選ばれる原子または官能基を表す。Rにおける、置換位置、置換個数、および置換基の種類はそれぞれ独立であり、2個以上の置換基を持つ場合は2種類以上の置換基を混在させることが可能である。
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐状の炭化水素基が挙げられ、その炭素数は1〜30が好ましく、1〜20がより好ましく、6〜12がさらに好ましく、8〜12が特に好ましい。ここで、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐状の脂肪族炭化水素基の例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、アリル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−セチル基、n−ヘプタデシル基、n−ブテニル基等が挙げられる。好ましくは飽和の直鎖アルキル基である。特にn−オクチル基、n−デシル基、またはn−ドデシル基が好ましい。
脂環式炭化水素基としては、飽和又は不飽和の環状の炭化水素基が挙げられ、環状の炭化水素基の例としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等の炭素数3〜12の環状の炭化水素基が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、ベンゾピレニル基などが挙げられ、さらには、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、ピリドニル基などの複素環基、ベンゾキノリル基、アントラキノリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基などの縮合系複素環基が挙げられる。これらのうち好ましいものはフェニル基、ナフチル基、ピリジル基およびチエニル基であり、特にフェニル基が好ましい。
炭化水素オキシ基としては、上記脂肪族炭化水素基を含む炭化水素オキシ基が挙げられる。
エステル基としては、上記脂肪族炭化水素基を含むエステル基が挙げられ、アシル基としては、上記脂肪族炭化水素基を含むアシル基が挙げられる。
置換シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基などの2以上の炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基が挙げられる。好ましくは、トリメチルシリル基、またはトリイソプロピルシリル基である。
【0011】
〜Xは、それぞれ独立してシアノ基、エステル基、またはアシル基を表し、エステル基及びアシル基は、それぞれ上記脂肪族炭化水素基を含む、エステル基、及びアシル基が挙げられる。中でも、式(1)及び(2)においてX及びX、或いはX及びXが、シアノ基である化合物が好ましい。
〜Yはそれぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子またはセレン原子を表す。中でも、式(1)及び(2)においてY及びY、或いはY及びYが硫黄原子である化合物が好ましい。
一般式(1)の化合物は、以下のスキームのように一般式(3)と一般式(5)との反応とで得られる。
【化4】

一般式(3)中のY及びY、R〜Rは前述と同様である。Xはハロゲン原子を表し、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。好ましくは臭素原子、またはヨウ素原子である。Xはシアノ基、エステル基、またはアシル基を表し、エステル基及びアシル基としては、それぞれ上記脂肪族炭化水素基を含むエステル基及びアシル基が挙げられる。中でもシアノ基が好ましい。
【0012】
一般式(2)の化合物は、以下のスキームのように一般式(4)と一般式(5)の化合物との反応とで得られる。
【化5】

一般式(4)中のY及びY、R〜R、並びにXは前述と同様である。Xはハロゲン原子を表し、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。好ましくは臭素原子、またはヨウ素原子である。
【0013】
本発明の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物の製造方法としては、たとえば、J.Org.Chem.,1994、59、3077に記載の方法で合成することができる。具体的には、一般式(3)または(4)の化合物を、溶媒中又は無溶媒中で、触媒を用いて、塩基の存在下、一般式(5)の化合物と反応させることで一般式(1)または(2)の化合物が得られる。
【0014】
このような反応で用いる触媒としては、PdCl(PPh、Pd(PPh、Pd(OAc)、PdClなどのパラジウム系の触媒が好ましい。これらの触媒の使用量は、特に限定するものではないが、上記一般式(3)または(4)の化合物1モルに対して、通常0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.5モル、より好ましくは0.05モル〜0.3モルである。また、トリフェニルホスフィン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)等のホスフィン系配位子等を用いることもでき、好ましくはdppfを用いる。
塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水素化カリウム、水素化ナトリウム等の無機塩基が挙げられ、好ましくは水素化ナトリウムを用いる。この塩基の使用量は、反応に必要な量あればよく特に限定はないが、上記一般式(3)または(4)の化合物1モルに対して、通常0.1〜100モル、好ましくは0.5〜50モル、より好ましくは1〜10モルである。
溶媒中で反応を行う場合、反応溶媒としては、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類など用いることができる。中でもテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒が好ましい。この溶媒の使用量は、特に限定するものではないが、上記一般式(3)または(4)の化合物1モルに対して、1〜10000モル程度である。
【0015】
反応温度は、−50℃〜300℃が好ましい。この範囲で必要に応じて反応温度を変化させてもよく、より好ましくは0℃〜250℃、さらに好ましくは10℃〜200℃である。反応は一般的に短時間で終了するのが好ましい。具体的には、反応時間は10分〜1000時間が好ましく、30分〜100時間がより好ましく、30分〜24時間がさらに好ましい。短時間で反応が終了するように、反応温度、触媒、塩基、および溶媒の使用量を調整することが好ましい。
【0016】
必要に応じて公知の単離又は精製方法によって、反応混合物から目的物を単離又は精製することができる。有機半導体として用いる場合は、純度が高い化合物が求められることも多く、再結晶、カラムクロマトグラフィー及び真空昇華精製などの公知の方法を採用して純度の高い化合物を得ることができる。また必要に応じて、これらの手法を組み合わせて精製しても良い。
【0017】
本発明の一般式(3)または(4)で表わされる複素環化合物の製造方法としては従来の公知の方法を用いることができる。
【0018】
すなわち、たとえば一般式(6)または(7)で表される化合物をChem. Rev. 2010, 110, 890に記載の方法でハロゲン化することで一般式(3)または(4)で表される化合物を製造することができる。
【0019】
なお、一般式(6)または(7)で表される化合物はJ.Org.Chem.,2010、75、1228、J.Am.Chem.Soc.,2011,133,5024、Chem.Commun.,2012,48,5671に記載の方法、または一般式(8)または(9)で表される化合物をJ.Org.Chem.2002,67,1905.、J.Org.Chem.2005,70,10292.に記載の方法で環化し、クロスカップリング反応(例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、熊田カップリングなど)を行うことで合成することができる。
【化6】

【化7】
【0020】
上記、一般式(6)または(7)中のY〜Y、およびR〜Rは前述と同様である。
上記、一般式(8)または(9)中のX及びXはハロゲン原子を表し、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。好ましくは臭素原子またはヨウ素原子である。また、Y〜Yはそれぞれ独立して酸素原子、硫黄原子またはセレン原子を表し、好ましくは硫黄原子である。
【0021】
本発明に係る一般式(1)で表される化合物の具体例を下記に示す。表1にはX及びXがシアノ基であり、Y及びYが硫黄原子である化合物を記載している。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
【表1-1】

【表1-2】
【0023】
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】
【0024】
本発明に係る一般式(2)で表される化合物の具体例を下記に示す。表2にはX及びXがシアノ基であり、Y及びYが硫黄原子である化合物を記載している。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【表2-1】

【表2-2】
【0026】
【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】
【0027】
本発明の有機半導体組成物は、一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を溶媒に溶解または分散したものである。溶媒は該化合物を含有する組成物で基板上に成膜できるものであれば特に制限はないが、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、一種単独で又は2種以上混合して使用することができる。有機溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲノ炭化水素類、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、オクタフルオロペンタノール、ペンタフルオロプロパノールなどのフッ化アルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、炭酸ジエチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、メシチレン、エチルベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン、テトラヒドロナフタレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、テトラリンなどの炭化水素類などを用いることができる。
【0028】
有機半導体組成物の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物の濃度は、溶媒の種類や形成される薄膜の厚さにより異なるが、溶媒に対して通常0.001重量%〜20重量%であり、好ましくは0.01重量%〜10重量%である。また、本発明の有機半導体組成物は上記の溶媒に該化合物が溶解又は分散していればよいが、均一に溶解している方が好ましい。
【0029】
本発明の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体材料を用いて薄膜を形成することができる。該薄膜の厚さは、その用途によって異なるが、通常0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜3μmであり、より好ましくは1nm〜1μmである。
【0030】
薄膜の形成方法は、一般的に、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法などの真空プロセス、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法などの溶液プロセス、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、シルクスクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、およびマイクロコンタクトプリント法からなる群から選択される1種単独の又は2種以上を組み合わせた方法が挙げられる。
上記の中でも、真空プロセスとしては抵抗加熱蒸着法が好ましく、溶液プロセスとしてはスピンコート法が好ましい。
【0031】
上記の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物をエレクトロニクス用途の材料として用いて、有機エレクトロニクスデバイスを作製することができる。有機エレクトロニクスデバイスとしては、例えば薄膜トランジスタ、光電変換素子、有機太陽電池素子、有機EL素子、有機発光トランジスタ素子、有機半導体レーザー素子などが挙げられる。これらについて詳細に説明する。
【0032】
まず薄膜トランジスタについて詳しく説明する。
薄膜トランジスタは、半導体に接して2つの電極(ソース電極及びドレイン電極)があり、その電極間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。
【0033】
一般に、薄膜トランジスタ素子はゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal−InsuIator−Semiconductor MIS構造)がよく用いられる。絶縁膜に金属酸化膜を用いるものはMOS構造と呼ばれる。他には、ショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(すなわちMES構造)もあるが、有機半導体材料を用いた薄膜トランジスタの場合、MIS構造がよく用いられる。
【0034】
以下、図を参照しながら有機半導体材料を用いて作製される薄膜トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれらの構造には限定されない。
【0035】
図1に、薄膜トランジスタ(素子)のいくつかの態様例を示す。
図1における各態様例において、1がソース電極、2が半導体層、3がドレイン電極、4が絶縁体層、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ表す。尚、各層や電極の配置は、素子の用途により適宜選択できる。A〜D、Fは基板と並行方向に電流が流れるので、横型トランジスタと呼ばれる。Aはボトムコンタクトボトムゲート構造、Bはトップコンタクトボトムゲート構造と呼ばれる。また、Cは半導体上にソース及びドレイン電極、並びに絶縁体層を設け、さらにその上にゲート電極を形成しており、トップコンタクトトップゲート構造と呼ばれている。Dはトップ&ボトムコンタクトボトムゲート型トランジスタと呼ばれる構造である。Fはボトムコンタクトトップゲート構造である。Eは縦型の構造をもつトランジスタ、すなわち静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図である。このSITは、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリアが移動できる。またソース電極とドレイン電極が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流す、高速のスイッチングを行うなどの用途に好ましく適用できる。なお図1中のEには、基板を記載していないが、通常の場合、図1E中の1及び3で表されるソース又はドレイン電極の外側には基板が設けられる。
【0036】
各態様例における各構成要素につき説明する。
基板6は、その上に形成される各層が剥離することなく保持できることが必要である。基板6は、樹脂性の板又はフィルム、紙、ガラス、石英、セラミックなどの絶縁性材料により、或いは金属や合金などの導電性基材上にコーティング等により絶縁層を形成することにより、或いは樹脂と無機材料などの2種以上の材料の組合せからなる材料により作製することができる。樹脂性の板又はフィルムは、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミドなどによって作製することができる。樹脂フィルムや紙を用いると、フレキシブルで軽量な素子とすることができ、実用性が向上する。基板の厚さは、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。
【0037】
ソース電極1、ドレイン電極3、およびゲート電極5には導電性を有する材料が用いられる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO、ZnO、SnO、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等の炭素材料;等が使用できる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていてもよい。ドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;スルホン酸等の酸性官能基を有する有機酸;PF、AsF、FeCl等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子;等が挙げられる。ホウ素、リン、砒素などはシリコンなどの無機半導体用のドーパントとしても多用されている。
また、上記のドーパントにカーボンブラックや金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いられる。直接、半導体と接触するソース電極1およびドレイン電極3はコンタクト抵抗を低減するために適切な仕事関数を選択するか、表面処理などが大切になる。
【0038】
またソース電極とドレイン電極間の距離(チャネル長)が素子の特性を決める重要なファクターとなる。該チャネル長は、通常0.01〜300μm、好ましくは0.1〜100μmである。チャネル長が短ければ取り出せる電流量は増えるが、逆にコンタクト抵抗の影響など短チャネル効果が発生し、制御が困難となるため、適正なチャネル長が必要である。ソースとドレイン電極間の幅(チャネル幅)は、通常10〜10000μm、好ましくは100〜5000μmとなる。またこのチャネル幅は、電極の構造をくし型構造とすることなどにより、さらに長いチャネル幅を形成することが可能で、必要な電流量や素子の構造などにより、適切な長さにする必要がある。
【0039】
ソース電極及びドレイン電極のそれぞれの構造(形)について説明する。ソース電極とドレイン電極の構造はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
ボトムコンタクト構造の場合は、一般的にはリソグラフィー法を用いて各電極を作製し、また各電極は直方体に形成するのが好ましい。最近は各種印刷方法による印刷精度が向上してきており、インクジェット印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷などの手法を用いて精度よく電極を作製することが可能となってきている。半導体上に電極のあるトップコンタクト構造の場合はシャドウマスクなどを用いて蒸着することが出来る。インジェットなどの手法を用いて電極パターンを直接印刷形成することも可能となってきている。電極の長さは前記のチャネル幅と同じである。電極の幅には特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で、素子の面積を小さくするためには短い方が好ましい。電極の幅は、通常0.1〜1000μmであり、好ましくは0.5〜100μmである。電極の厚さは、通常0.1〜1000nmであり、好ましくは1〜500nmであり、より好ましくは5〜200nmである。各電極1、3、5には配線が連結されているが、配線も電極とほぼ同様の材料により作製される。
【0040】
絶縁体層4としては絶縁性を有する材料が用いられる。例えば、ポリパラキシリレン、ポリアタリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体;二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の金属酸化物;SrTiO、BaTiO等の強誘電性金属酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物、硫化物、フッ化物などの誘電体;あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー;等が使用しうる。この絶縁体層はリーク電流を少なくするために電気絶縁特性が高いものが好ましい。それにより膜厚を薄膜化し、絶縁容量を高くすることが出来、取り出せる電流が多くなる。また半導体の移動度を向上させるためには絶縁体層表面の表面エネルギーを低下させ、凹凸がなくスムースな膜であることが好ましい。その為に自己組織化単分子膜や、2層の絶縁体層を形成させる場合がある。絶縁体層4の膜厚は、材料によって異なるが、通常0.1nm〜100μm、好ましくは0.5nm〜50μm、より好ましくは1nm〜10μmである。
【0041】
半導体層2の材料として、本発明の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を用いることができる。それを先に示した方法を用いて、半導体層2を薄膜として形成する。薄膜トランジスタの特性を改善、及び他の特性を付与する等の目的のために、必要に応じて他の有機半導体材料や各種添加剤を混合ことも可能である。
【0042】
薄膜トランジスタにおいては、上記の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物の少なくとも1種の化合物を有機半導体材料として用いることができる。一般式(1)または(2)で表される化合物の薄膜を溶液プロセスで形成する場合、すなわち溶剤を使用する場合は実質的に溶剤を蒸発させた後で薄膜を使用することが好ましい。当該有機半導体材料はドライプロセスである蒸着方法によって、薄膜を形成するが好ましい。
【0043】
トランジスタの特性を改善する目的等のために、ドーパント等の添加剤を含有させることもできる。添加剤は、有機半導体材料の総量を1とした場合、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%の範囲で添加する。
【0044】
半導体層も複数の層で形成してもよいが、単層構造であることがより好ましい。半導体層2の膜厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。A、B及びDに示すような横型の薄膜トランジスタにおいては、所定以上の膜厚があれば素子の特性は膜厚に依存しない一方、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多いためである。必要な機能を示すための半導体層の膜厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは10nm〜300nmである。
【0045】
薄膜トランジスタには、例えば基板層と絶縁膜層との間、絶縁膜層と半導体層との間、または素子の外面に必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、有機半導体層上に直接、又は他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることができる。また、薄膜トランジスタ素子のON/OFF比を上げることができるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
【0046】
上記保護層としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜;酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機酸化膜;及び窒化膜等の誘電体からなる膜;等が好ましく用いられ、特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が好ましい。有機ELディスプレイ用に開発されているガスバリア性保護材料も使用が可能である。保護層の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を選択できるが、通常100nm〜1mmである。
【0047】
また有機半導体層が積層される基板又は絶縁体層に予め表面改質や表面処理を行うことにより、薄膜トランジスタ素子としての特性を向上させることが可能である。例えば基板表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その上に成膜される膜の膜質や成膜性を改良することができる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わることがある。そのため、基板、絶縁体層などへの表面処理によって、その後に成膜される有機半導体層との界面部分の分子配向が制御されたり、或いは基板や絶縁体層上のトラップ部位が低減されることにより、キャリア移動度等の特性が改良されるものと考えられる。
トラップ部位とは、未処理の基板に存在する例えば水酸基のような官能基をさし、このような官能基が存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果としてキャリア移動度が低下する。従って、トラップ部位を低減することもキャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。
【0048】
上記のような特性改良のための表面処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン等による自己組織化単分子膜処理;ポリマーなどによる表面処理;塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理;オゾン処理;フッ素化処理;酸素やアルゴン等のプラズマ処理;ラングミュア・ブロジェット膜の形成処理;その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理;機械的処理;コロナ放電などの電気的処理;および繊維等を利用したラビング処理からなる群から選択される1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0049】
次に、本発明に係る薄膜トランジスタ素子の製造方法について、図1の態様例Bに示すトップコンタクトボトムゲート型薄膜トランジスタを例として、図2に基づき以下に説明する。この製造方法は前記した他の態様の薄膜トランジスタ等にも同様に適用しうるものである。
【0050】
(薄膜トランジスタの基板及び基板処理について)
本発明の薄膜トランジスタは、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで作製される(図2(1)参照)。基板としては上記で説明したものが使用できる。この基板上に前述の表面処理などを行うことも可能である。基板6の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。材料によっても異なるが、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。また、必要により、基板に電極の機能を持たせるようにする事も出来る。
【0051】
(ゲート電極の形成について)
基板6上にゲート電極5を形成する(図2(2)参照)。電極材料としては上記で説明したものが用いられる。電極膜を成膜する方法としては、各種の方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用される。成膜時又は成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても各種の方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、シャドウマスクを用いた蒸着法やスパッタ方法やインクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれら手法を複数組み合わせた手法を利用し、パターニングすることも可能である。ゲート電極5の膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜5μmであり、より好ましくは1nm〜3μmである。また、ゲート電極と基板を兼ねるような場合は上記の膜厚より大きくてもよい。
【0052】
(絶縁体層の形成について)
ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(図2(3)参照)。絶縁体材料としては上記で説明した材料が用いられる。絶縁体層4を形成するにあたっては各種の方法を用いうる。例えばスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、キャスト、バーコート、ブレードコーティングなどの塗布法、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法などのドライプロセス法が挙げられる。その他、ゾルゲル法やアルミニウム上のアルマイト、シリコン上の二酸化シリコンのように金属上に熱酸化法などにより酸化物膜を形成する方法等が採用される。尚、絶縁体層と半導体層が接する部分においては、両層の界面で半導体を構成する分子、例えば上記式(1)で表される化合物の分子を良好に配向させるために、絶縁体層に所定の表面処理を行うこともできる。表面処理の手法は、基板の表面処理と同様のものを用いることができうる。絶縁体層4の膜厚は、その電気容量をあげることで取り出す電気量を増やすことが出来るため、出来るだけ薄い膜であることが好ましい。このときに薄い膜になるとリーク電流が増えるため、その機能を損なわない範囲で薄い方が好ましい。通常0.1nm〜100μmであり、好ましくは0.5nm〜50μmであり、より好ましくは5nm〜10μmである。
【0053】
(有機半導体層の形成について)
本発明の上記一般式(1)または(2)で表される縮合多環芳香族化合物を含む有機半導体材料は、有機半導体層の形成に使用される(図2(4)参照)。有機半導体層を成膜するにあたっては、各種の方法を用いることができる。具体的にはスパッタリング法、CVD法、分子線エピタキシャル成長法、真空蒸着法等の真空プロセスによる形成方法;ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法等の塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの溶液プロセスによる形成方法;が挙げられる。
【0054】
まず、有機半導体材料を真空プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について説明する。真空プロセスによる成膜方法としては、前記の有機半導体材料をルツボや金属のボート中で真空下、加熱し、蒸発した有機半導体材料を、対象物(基板、絶縁体層、ソース電極及びドレイン電極など)に付着(蒸着)させる方法、すなわち真空蒸着法が好ましく採用される。この際、真空度は、通常1.0×10−1Pa以下、好ましくは1.0×10−3Pa以下である。また、蒸着時の基板温度によって有機半導体膜、ひいては薄膜トランジスタの特性が変化する場合があるので、注意深く基板温度を選択するのが好ましい。蒸着時の基板温度は通常、0〜200℃であり、好ましくは5〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃であり、さらに好ましくは15〜120℃であり、特に好ましくは20〜100℃である。
【0055】
また、蒸着速度は、通常0.001nm/秒〜10nm/秒であり、好ましくは0.01nm/秒〜1nm/秒である。有機半導体材料から形成される有機半導体層の膜厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは5nm〜500nmより好ましくは10nm〜300nmである。
【0056】
尚、有機半導体層を形成するための有機半導体材料を加熱、蒸発させ対象物に付着させる蒸着方法に代えて、その他の手法を用いてもよい。
【0057】
次いで、溶液プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について説明する。本発明の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を溶剤等に溶解し、さらに必要であれば添加剤などを添加した組成物を、対象物(絶縁体層、ソース電極及びドレイン電極の露出部)に塗布する。塗布の方法としては、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷等の印刷法、またはマイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、或いはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。
【0058】
更に、塗布方法に類似した方法として水面上に上記の組成物を滴下することにより作製した有機半導体層の単分子膜を基板に移し積層するラングミュアプロジェクト法、液晶や融液状態の材料を毛管現象で2枚の基板間に導入する方法等も採用できる。
【0059】
製膜時における基板や組成物の温度などの環境も重要で、基板や組成物の温度によってトランジスタの特性が変化する場合があるので、注意深く基板及び組成物の温度を選択するのが好ましい。基板温度は、通常0〜200℃であり、好ましくは10〜120℃であり、より好ましくは15〜100℃である。また、トランジスタ特性が用いる組成物中の溶剤などに大きく依存するため、注意が必要である。
【0060】
この方法により作製される有機半導体層の膜厚は、機能を損なわない範囲で、薄い方が好ましい。膜厚が厚くなると漏れ電流が大きくなる懸念がある。有機半導体層の膜厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは5nm〜500nm、より好ましくは10nm〜300nmである。
【0061】
このように形成された有機半導体層(図2(4)参照)は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みが緩和されること、ピンホール等が低減されること、膜中の配列・配向が制御できる等の理由により、有機半導体特性の向上や安定化を図ることができる。本発明の薄膜トランジスタの作製時にはこの熱処理を行うことが特性の向上の為には効果的である。当該熱処理は有機半導体層を形成した後に基板を加熱することによって行う。熱処理の温度は特に制限は無いが、通常室温から150℃程度で、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは45〜100℃である。熱処理時間については特に制限は無いが、通常10秒から24時間、好ましくは30秒から3時間程度である。熱処理の際の雰囲気は大気中でもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下でもよい。その他、溶媒蒸気によって膜形状のコントロールなどが可能である。
【0062】
その他の有機半導体層の後処理としては、酸素、水素等の酸化性又は還元性の気体や、酸化性又は還元性の液体などで有機半導体層を処理することにより、酸化又は還元による特性変化を誘起する処理を挙げることができる。これは、例えば膜中のキャリア密度を増加又は減少する目的で利用することが出来る。
【0063】
また、ドーピングと呼ばれる手法によって、微量の元素、原子団、分子、または高分子を有機半導体層に加えることにより、有機半導体層特性を変化させることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸;PF、AsF、FeCl等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;ナトリウム、カリウム等の金属原子;TTF、フタロシアニン等のドナー化合物をドーピングすることができる。これは、有機半導体層に対して、これらのガスを接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは、有機半導体層の作製後に行うことができるが、有機半導体化合物の合成時に行うこともでき、組成物を用いて有機半導体層を形成するプロセスにおいて、その組成物に上述のドーパントを添加したり、薄膜を形成する段階などで上述のドーパントを添加することもできる。また、蒸着時に有機半導体層を形成する材料に、上述のドーパントを添加して共蒸着したり、有機半導体層を作製する時の周囲の雰囲気に混合したり(すなわち、上述のドーパントの存在下で有機半導体層を作製する)、さらにはドーパントのイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0064】
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられる。
【0065】
(ソース電極及びドレイン電極の形成)
ソース電極1及びドレイン電極3の形成は、ゲート電極5の場合に準じて行うことができる(図2(5)参照)。また有機半導体層との接触抵抗を低減するために各種添加剤を用いることが可能である。
【0066】
(保護層について)
有機半導体層上に保護層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、また、有機薄膜トランジスタの電気的特性を安定化できるという利点がある(図2(6)参照)。保護層の材料としては前記のものが使用される。保護層7の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm〜1mmである。
保護層を成膜するにあたっては各種の方法を採用しうるが、保護層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法;樹脂モノマーを塗布又は蒸着した後重合する方法;などが挙げられる。成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層が無機物からなる場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法等の溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
【0067】
薄膜トランジスタにおいては、有機半導体層上の他、各層の間にも必要に応じて保護層を設けることができる。それらの保護層は薄膜トランジスタの電気的特性の安定化に役立つ場合がある。
【0068】
上記一般式(1)または(2)で表される縮合多環芳香族化合物を有機半導体材料として用いているため、比較的低温プロセスで薄膜トランジスタを製造することができる。従って、高温に曝される条件下では使用できなかったプラスチック板、プラスチックフィルム等のフレキシブルな材質も基板として用いることができる。その結果、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい素子の製造が可能になり、ディスプレイのアクティブマトリクスのスイッチング素子等として利用することができる。
【0069】
薄膜トランジスタは、メモリー回路素子、信号ドライバー回路素子、信号処理回路素子などのデジタル素子又はアナログ素子としても利用できる。さらにこれらを組み合わせることにより、ディスプレイ、ICカード、ICタグ等の作製が可能となる。更に、薄膜トランジスタは化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、FETセンサーとしての利用も可能である。
【0070】
次に有機EL素子について説明する。
有機EL素子は固体で自己発光型の大面積カラー表示や照明などの用途に利用できることが注目され、数多くの開発がなされている。その構成は、陰極と陽極からなる対向電極の間に、発光層及び電荷輸送層の2層を有する構造のもの;対向電極の間に積層された電子輸送層、発光層及び正孔輸送層の3層を有する構造のもの;及び3層以上の層を有するもの;等が知られており、また発光層単層であるもの等が知られている。
【0071】
上記一般式(1)または(2)で表される縮合多環芳香族化合物は上記、電子輸送層、発光層及び正孔輸送層として利用することが可能である。
【0072】
(光電変換素子について)
本発明の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物の半導体特性を利用することにより、有機光電変換素子としての利用が可能となる。光電変換素子としては、固体撮像素子であるイメージセンサとして、動画や静止画等の映像信号をデジタル信号へ変換する機能を有する電荷結合素子(CCD)等が挙げられ、より安価で、大面積化加工性や、有機物固有のフレキシブル機能性、等を活かす事により有機光電変換素子としての利用も期待される。
【0073】
(有機太陽電池素子について)
本発明の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物を用いて、フレキシブルで低コストの、有機太陽電池素子を簡便に作製することができる。すなわち、有機太陽電池素子は、固体素子であるため柔軟性や寿命向上の点で有利であることが特長である、従来は導電性ポリマーやフラーレンなどを組み合わせた有機薄膜半導体を用いる太陽電池の開発が主流であったが、発電変換効率が問題となっている。
一般に有機太陽電池素子の構成はシリコン系の太陽電池と同様に、発電を行う層(発電層)を陽極と陰極とではさみ、光を吸収することで発生した正孔と電子を各電極で受け取ることで太陽電池として機能する。その発電層はP型のドナー材料とN型のアクセプター材料およびバッファー層などのその他の材料で構成されおり、その材料に有機材料が用いられているものを有機太陽電池という。
構造としては、ショットキー接合、ヘテロ接合、バルクヘテロ接合、ナノ構造接合、ハイブリッドなどが挙げられ、各材料が効率的に入射光を吸収し、電荷を発生させ、発生した電荷(正孔と電子)を分離・輸送・収集することで太陽電池として機能する。なお、一般的な太陽電池の構造である、ヘテロ接合素子の一例の構造を図3に示した。
【0074】
次に有機太陽電池素子における構成要素について説明する。
有機太陽電池素子における陽極及び陰極としては、先に述べた有機EL素子と同様である。光を効率的に取り込む必要があるため、発電層の吸収波長領域で透明性を有する電極とすることが望ましい。また良好な太陽電池特性を有するためにはシート抵抗が20Ω/□以下であり、且つ光の透過率が85%以上であることが好ましい。
発電層は、少なくとも本発明の一般式(1)または(2)で表される化合物を含有する有機薄膜の1層又は複数層から形成されている。有機太陽電池素子は先に示した構造をとることが可能であるが、基本的にP型のドナー材料とN型のアクセプター材料およびバッファー層で構成されている。
【0075】
p型のドナー材料としては、基本的に有機EL素子の項で述べた正孔注入及び正孔輸送層と同様に正孔を輸送できる化合物や、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアニリン誘導体等のπ共役型ポリマー、カルバゾールやその他複素環側鎖にもつポリマーが挙げられる。また、ペンタセン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、インジゴ誘導体、キナクリドン誘導体、メロシアニン誘導体、シアニン誘導体、スクアリウム誘導体、ベンゾキノン誘導体などの低分子化合物も挙げられる。
本発明の一般式(1)または(2)の縮合多環芳香族化合物は、n型のアクセプター材料として好適に用いることが出来る。このアクセプター材料は単一でも使用できるが、ほかのアクセプター材料と混合して使用することもできる。混合するアクセプター材料としては、基本的に有機EL素子の項で述べた電子輸送層と同様に電子を輸送できる化合物やピリジンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、キノリンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、ベンゾフェナンスロリン類およびその誘導体を持つポリマー、シアノポリフェニレンビニレン誘導体(CN−PPVなど)などの高分子材料や、フッ素化フタロシアニン誘導体、ペリレン誘導体、ナフタレン誘導体、バソキュプロイン誘導体、C60やC70、PCBMなどのフラーレン誘導体、などの低分子材料が挙げられる。
それぞれ光を効率的に吸収し、電荷を発生させることが好ましく、使用する材料の吸光係数が高い物が好ましい。
【0076】
有機太陽電池の発電層用の薄膜の形成方法は先述の有機EL素子の項で述べた方法と同様である。薄膜の膜厚などは太陽電池の構成によっても異なるが、光を十分に吸収するため及び短絡を防ぐためには厚いほうが良いが、発生した電荷を輸送する距離は短い方が良いために薄い方が適している。一般的には発電層として10〜500nm程度が好ましい。
【0077】
(有機半導体レーザー素子について)
本発明の一般式(1)または(2)で表わされる縮合多環芳香族化合物は有機半導体特性を有する化合物である事から、有機半導体レーザー素子としての利用が期待される。
すなわち、本発明の一般式(1)または(2)で表わされる化合物を含有する有機半導体素子に共振器構造を組み込み、効率的にキャリアを注入して励起状態の密度を十分に高めることが出来れば、光が増幅されレーザー発振に至る事が期待される。従来、光励起によるレーザー発振が観測されるのみで、電気励起によるレーザー発振に必要とされる、高密度のキャリアを有機半導体素子に注入し、高密度の励起状態を発生させるのは非常に困難と提唱されているが、本発明の式(1)または(2)で表わされる化合物を含有する有機半導体素子を用いることで、高効率な発光(電界発光)が起こる可能性が期待される。
【実施例】
【0078】
一般式(10)又は一般式(11)で表される縮合多環芳香族化合物を合成した実施例を以下に示す。
【化18】
【0079】
一般式(10)又は一般式(11)で表される縮合多環芳香族化合物の合成は、具体的には以下のような操作で行うことができた。以下の操作において、不活性ガス下の反応や測定には無水蒸留した溶媒を用い、その他の反応や操作においては市販一級または特級の溶媒を用いた。また、試薬は必要に応じて無水蒸留等で精製し、その他は市販一級または特級の試薬を用いた。カラムクロマトグラフィーによる精製にはダイソーゲルIR−60(シリカゲル、活性)、MERCK Art 1097 Aluminiumoxide 90(アルミナ、活性)、TLCにはSilicagel 60F254(MERCK)を用いた。溶媒の留去にはロータリーエバポレーターを用いた。以下に、使用した分析機器および測定機器を示す。
【0080】
核磁気共鳴分光(以下、「1H−NMR」という)は、LAMBDA‐NMR(395.75MHz,σ値,ppm,内部基準TMS)を用いて行った。質量分析(以下、「MS」という)は、MALDI‐MS KRATOS ANALYTICAL KOMPACT MALDI、島津 GCMS−QP5050型質量分析装置を用いて行った。
【0081】
実施例1
窒素雰囲気下、20mLの二口フラスコにマロノニトリル(0.9mmol)、THF(10mL)、水素化ナトリウム(2.1mmol)を加え、30分間攪拌した。続いて、5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェン(0.3mmol)、Pd(PPh(0.07mmol)を加え、3時間還流した。反応終了後、室温になるまで放冷し、1N塩酸を少量加え、析出した固体を濾取した。続いて、得られた固体をアセトニトリル(5mL)に溶解し、臭素水を加えたのち、析出した固体を濾取することで化合物101を深紫固体として得た。
【0082】
【化192】

化合物101は、収率55%で得られた。1H−NMR(400MHz,CDCl)δ7.71(d,2H),7.81(s、2H)、8.43(d、2H)という測定結果であった。
【0083】
実施例2
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに2,7−ジオクチル−5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物110を得た。
【化20】

化合物110は、定量的な収率で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,6H),1.25−1.51(m、20H)、1.76(Quin、4H),2.94(t,4H)7.61(s、2H)、8.02(s、2H)という測定結果であった。
【0084】
実施例3
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに2,7−ジドデシル−5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物112を得た。
【化21】

化合物112は、収率25%で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.87(t,6H),1.24−1.42(m、36H)、1.76(Quin、4H),2.93(t,4H)7.61(s、2H)、8.02(s、2H)という測定結果であった。
【0085】
実施例4
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに2,7−ビス(トリイソプロピシリル)−5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物136を得た。
【化22】

化合物136は、収率63%で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ1.16(d,36H),1.45(sept、6H)、7.80(s、2H)、8.53(s、2H)という測定結果であった。
【0086】
実施例5
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに5,10−ジブロモナフト[2,1−b:6,5−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物201を得た。
【化26】

化合物201は、収率55%で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ7.83(d,2H),7.94(d、2H)、7.97(s、2H)という測定結果であった。
【0087】
実施例6
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに2,7−ジオクチル−5,10−ジブロモナフト[2,1−b:6,5−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物210を得た。
【化23】

化合物210は、収率55%で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.87(t,6H),1.24−1.42(m、20H)、1.79(Quin、4H),2.97(t,4H)7.45(s、2H)、7.81(s、2H)という測定結果であった。
【0088】
実施例7
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに2,7−ジドデシル−5,10−ジブロモナフト[2,1−b:6,5−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物212を得た。
【化28】

化合物212は、収率22%で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.87(t,6H),1.24−1.42(m、36H)、1.79(Quin、4H),2.97(t,4H)7.45(s、2H)、7.81(s、2H)という測定結果であった。
【0089】
実施例8
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに2,7−ジヘキサデシル−5,10−ジブロモナフト[2,1−b:6,5−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物214を得た。
【化24】

化合物214は、収率22%で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ0.87(t,6H),1.24−1.42(m、52H)、1.79(Quin、4H),2.97(t,4H)7.45(s、2H)、7.81(s、2H)という測定結果であった。
【0090】
実施例9
実施例1において5,10−ジブロモナフト[1,2−b:5,6−b’]ジチオフェンの代わりに2,7−ビス(トリイソプロピルシリル)−5,10−ジブロモナフト[2,1−b:6,5−b’]ジチオフェンを用いる以外は実施例1と同様の処理を行うことにより化合物236を得た。
【化30】
【0091】
化合物236は、収率47%で得られた。H−NMR(400MHz,CDCl)δ1.18(d,36H),1.47(sept、6H)、7.79(s、2H)、7.93(s、2H)という測定結果であった。
【0092】
縮合多環芳香族化合物の物性評価
(1)溶解度の測定
溶媒にクロロホルムを用い、溶解度の測定を行った。表3は化合物110と化合物112の飽和クロロホルム溶液を作製した際の質量パーセント濃度を示すものである。
【表3】

(2)電子吸収スペクトル(UV−Vis)の測定
溶媒にジクロロメタンを用い、電子吸収スペクトル測定を行った。図4は、化合物110の電子吸収スペクトル(ε/M−1cm−1)と吸収波長(λ/nm)との関係を示すものである。
【0093】
(3)CV(サイクリックボルタンメトリー)の測定
溶媒にジクロロメタン、支持塩にテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート(n−BuNPF、0.1M)、作用電極および対電極に白金線、参照電極に銀/塩化銀電極を用い、100mV/secの速度で電位を掃引し、CV測定を行った。化合物101、110、112、136、201、210、212、214、236のすべての化合物において、2組の酸化還元波が見られ、第1半波還元電位はいずれも0.06V、第2半波還元電位は−0.28Vであり、高い電子受容能を有することが分かった。
【0094】
(4)FET特性の評価
上記縮合多環芳香族化合物におけるFET特性の評価について、以下の方法でFET素子を作製した。
上記化合物101についてはSiO熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー上にシャドウマスクを用いて真空蒸着することで有機薄膜を作成した。
一方、上記化合物110、112についてはSiO熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー上にスピンコート法により有機薄膜を作製した。
最後に、有機薄膜上にシャドウマスクを用いてAuを真空蒸着することでソース・ドレイン電極を作製した。今回作製したFET素子の設定はチャネル長50μm、チャネル幅1.5mmである。このようにして作製したFET素子はトップコンタクト型であり、図1Bは、その構造を示すものである。
なお、本実施例における電界効果トランジスタにおいては、熱酸化膜付きnドープシリコンウェハーにおける熱酸化膜が絶縁層(4)の機能を有し、nドープシリコンウェハーが基板(6)及びゲート電極(5)の機能を兼ね備えている
【0095】
FET素子の性能は、ゲートに電位をかけた状態でソース・ドレイン間に電位をかけた時に流れた電流量に依存する。この電流値を測定することでFETの特性である移動度を決めることができる。移動度は、絶縁体としてのSiOにゲート電界を印加した結果、有機半導体層中に生じるキャリア種の電気的特性を表現する式(a)から算出することができる。
【0096】
Id=ZμCi(Vg−Vt)2/2L・・・(a)
ここで、Idは飽和したソース・ドレイン電流値、Zはチャネル幅、Ciは絶縁体の電気容量、Vgはゲート電位、Vtはしきい電位、Lはチャネル長であり、μは決定する移動度(cm/Vs)である。Ciは用いたSiO絶縁膜の誘電率、Z,LはFET素子の素子構造よりに決まり、Id,VgはFET素子の電流値の測定時に決まり、VtはId,Vgから求めることができる。式(a)に各値を代入することで、それぞれのゲート電位での移動度を算出することができる。
【0097】
以上のことを用いて、大気中における上記縮合多環芳香族化合物である化合物(1)または(2)のFET特性についての評価を行った。表3は、FET特性の結果を示すものである。
【0098】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のように、本発明では、縮合多環芳香族化合物および有機半導体材料の溶解性、伝導性、および電子移動度を向上させることができるため、溶接法を利用可能で大気中でも安定にn型トランジスタ動作が可能な縮合多環芳香族化合物および有機半導体材料を提供することが可能となる。そのため、本発明は、トランジスタ、有機FETデバイス、ダイオード、コンデンサ、薄膜光電変換素子、色素増感太陽電池、薄膜トランジスタ(TFT)、有機キャリア輸送層および/または発光層を有する発光デバイス、有機ELデバイス等の分野に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0100】
図1図3において同じ名称には同じ番号を付すものとする。
1 ソース電極
2 半導体層
3 ドレイン電極
4 絶縁体層
5 ゲート電極
6 基板
7 保護層

図1
図2
図3
図4
図5
図6