【文献】
倉島直樹 竹田博行,PCPS施工時における自動酸素フラッシュ装置の試作,体外循環技術,日本,一般社団法人日本体外循環技術医学会,2010年 6月28日,Vol.27 No.2,13-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御手段は、前記閾値を下回る酸素濃度が検出されたことに起因して前記フラッシュ処理を実行する際、前回のフラッシュ処理を行なってからの経過時間が、予め設定された時間に満たない場合には、警告エラーを発する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の循環装置。
人工肺と、単位時間当たりの供給量が可変であって少なくとも酸素を含むガスを前記人工肺に供給するガス供給手段とを有し、被検者の血液を循環回路を用いて体外で循環させる循環装置の制御方法であって、
前記循環回路上に設置された前記人工肺の下流側に位置する酸素濃度を検出する検出手段からの信号に基づき、前記人工肺でガス交換を経た血中の酸素濃度を検出する検出工程と、
該検出工程で検出された血中の酸素濃度が、予め設定した目標範囲内にある、前記目標範囲を上まわる、或いは、前記目標範囲を下回るかを判定する判定工程と、
該判定工程の判定結果に応じて前記ガス供給手段によるガス供給量を制御する制御工程とを有し、
前記判定工程では、前記検出工程が検出した酸素濃度が、前記目標範囲の下限よりも小さい閾値を下回ったか否かを更に判定し、
前記制御工程では、
前記閾値を下回る酸素濃度が検出された場合には前記人工肺内のガス交換膜に血漿液が覆われたと見なし、前記ガス供給手段に対して前記血漿液を吹き飛ばすのに十分な量のガスを供給させるフラッシュ処理を実行し、
酸素濃度が前記目標範囲の下限と前記閾値との間にある状態が所定時間以上継続した場合にも前記フラッシュ処理を実行する
ことを特徴とする循環装置の制御方法。
前記制御工程は、前記閾値を下回る酸素濃度が検出されたことに起因して前記フラッシュ処理を実行する際、前回のフラッシュ処理を行なってからの経過時間が、予め設定された時間に満たない場合には、警告エラーを発する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の循環装置の制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
体外循環装置が稼働しているとき、人工肺のガス交換効率、端的に言えば血中酸素濃度がふらつく。この要因としては、ガス交換膜の材質や構造等の内的なもの、温度や湿度等の外的なものがある。特に、ガス交換膜は、微少な孔が多数並んだ構造をしていることもあり、湿度が高いと交換効率が下がる。それ故、通常、循環装置上に設けられた血中酸素濃度を検出するセンサの信号を表示画面を監視し、必要に応じて人工肺に接続されたガスブレンダ装置の供給能力を手動で調整することが行われる。ガスブレンダ装置は、一般に、100%の酸素と圧縮空気の混合ガスを供給するものであるが、その供給量の調整はバルブの開け閉め(開口率or弁開率)を手動で調整することが行なっている。すなわち、血中酸素濃度が低くなってきたら、ガスブレンダ装置のバルブの開口率を上げて、単位時間当たりの供給するガス量(酸素濃度)を増やす。また、血中酸素濃度がある程度以上になったら、ガスブレンダ装置のバルブの開口率を下げて供給ガス量を下げる操作が行われる。
【0005】
上記は比較的短い時間間隔で行われるものであるが、人工肺にはもう1つの問題がある。それは、時間が経過するにつれて、ガス交換膜のガスが通過する側の面上に、血漿液が液滴のように滲みでてくる現象である。この現象を「血漿リーク」と呼ぶ。この状態を放置したままにすると、いつしかガス交換膜の大部分が血漿液で覆われる状態となる。このような状態になると、大部分のガス交換孔が血漿液で塞がれることになるので、ガス交換効率が非常に悪くなり、事故につながる。このような問題があるため、通常は3乃至6時間の間隔で、1回につき約3分程度、ガスブレンダ装置のバルブの開口率を大きく(もしくは全開)することで、勢いの強いガスをガス交換膜上を通過させ、ガス交換膜上の血漿液を吹き飛ばす操作が行われる。この操作をフラッシュ操作という。また長時間血中酸素濃度の変動が無かったとしても、空気中の水分が低い温度の人工肺に入ることで結露する現象も生じる。これを「ウェットラング」と呼ぶが、この現象による悪影響を未然に防ぐため、やはり数時間おきに定期的にガスをフラッシュすることで結露した水分を除去することが望ましい。
【0006】
しかし、フラッシュ操作は、上記の通り経験的な時間間隔で手動で行なっていることもあり、フラッシュ操作のし忘れによる事故の発生を否定できない。また、逆に必要以上にフラッシュ操作をおこなってしまうと、今度はガスボンベの消費量が増える等の問題も発生する。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものである。そして、本明細書では、人手の介在無しに、循環装置における人工肺を監視すると共に安全な状態に維持する技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る循環装置は以下のような構成を備える。即ち、
被検者の血液を循環回路を用いて体外で循環させる循環装置であって、
前記循環回路上に設置された人工肺の下流側に位置し、前記人工肺でガス交換を経た血中の酸素濃度を検出する検出手段と、
該検出手段で検出された血中の酸素濃度が、予め設定した目標範囲内にある、前記目標範囲を上まわる、或いは、前記目標範囲を下回るかを判定する判定手段と、
単位時間当たりの供給量が可変であって、少なくとも酸素を含むガスを前記人工肺に供給するガス供給手段と、
前記判定手段の判定結果に応じて前記ガス供給手段によるガス供給量を制御する制御手段とを有し、
前記判定手段は、前記検出手段が検出した酸素濃度が、前記目標範囲の下限よりも小さい閾値を下回ったか否かを更に判定し、
前記制御手段は、
前記閾値を下回る酸素濃度が検出された場合には前記人工肺内のガス交換膜に血漿液が覆われたと見なし、前記ガス供給手段に対して前記血漿液を吹き飛ばすのに十分な量のガスを供給させるフラッシュ処理を実行し、
酸素濃度が前記目標範囲の下限と前記閾値との間にある状態が所定時間以上継続した場合にも前記フラッシュ処理を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願の明細書によれば、人手の介在無しに、循環装置における人工肺を監視すると共に安全な状態に維持することが可能になる。
【0010】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0013】
[第1の実施形態]
<1.体外循環装置の全体構成>
はじめに本発明の一実施形態に係る体外循環装置の全体構成について説明する。
図1の1aは、本発明の一実施形態に係る体外循環装置100の全体構成の一例を示す図である。
【0014】
体外循環装置100は、心臓手術時などの体外循環だけでなく、PCPSやECMO等の補助循環手技に用いられ、心肺補助動作(体外循環動作、プライミング動作)を行う。体外循環装置100は、図中矢印で示す血液体外循環回路(以下、循環回路と呼ぶ)を有している。体外循環装置100では、プライミング動作を行った後、この循環回路を用いて被検者130の血液を体外循環させる。
【0015】
なお、プライミング動作とは、プライミング液(例えば、生理食塩水)で循環回路を十分に満たした状態で、循環回路内でプライミング液を循環させ、当該回路内の気泡を除去する動作をいう。
【0016】
体外循環装置100は、制御装置として機能するコントローラ110と、ドライブモータ111と、遠心ポンプ112と、人工肺113と、酸素供給源であるガスブレンダ117と、カテーテル(静脈側)119と、カテーテル(動脈側)120と、気泡センサ114と、流量センサ115と、血液フィルタ116と、分岐ライン118と、クランプ122、血中酸素濃度センサ125とを備える。なお、これら各構成の間は、柔軟性を有するチューブ等によって接続されており、当該チューブの内腔が血液またはプライミング液の流路を構成している。
【0017】
カテーテル(動脈側)120は、被検者130の体内に向けて送血し、カテーテル(静脈側)119は、被検者130の体内から脱血を行う。
【0018】
遠心ポンプ112は、遠心式人工心臓とも呼ばれ、内部に設けられた回転体を駆動させて血液に圧力を与え、循環回路内で血液を循環させる。ドライブモータ111は、遠心ポンプ112の回転体に回転駆動力を与える。ただし遠心ポンプに限られるわけではなく、ローラーポンプなどでも良い。
【0019】
人工肺113は、血液の循環と血液のガス交換(酸素付加、二酸化炭素除去等)とを行う(詳細後述)。ガスブレンダ117は、酸素ボンベ並びに空気ボンベを接続し、その混合ガスを人工肺113に供給する。このガスブレンダ117は、コントローラ110からの制御信号に従い、人工肺113へ供給する単位時間当たりのガス量(ガス以下、ガス供給量)を調整できる構造を有する。このため、実施形態におけるガスブレンダ117は、コントローラ110からの信号に従って不図示のバブルの弁開率(開口率)を調整するための駆動系及び回路を有する、詳細は後述するが、実施形態におけるガスブレンダ117内のバルブの弁開率は5段階で調整可能であって、それらをVmin、V-、V0、V+、Vmaxと表わすこととする。Vminは全閉状態を意味し、循環回路として機能させる以前の状態でもある。V0は血中酸素濃度が正常範囲にある場合の弁開率を示す。V-はV0よりもΔVだけ供給量が低くするためのものであり、血中酸素濃度が正常範囲を上まわった際に適用される。V+はV0よりもΔVだけ供給量を多くするものであり、血中酸素濃度が正常範囲を下回った際に際に適用される。Vmaxは、フラッシュ処理時の弁開率を示し、人工肺113のガス交換膜上に滲み出た血漿液を吹き飛ばすに十分な勢いガス供給とする弁開率を示す。典型的には、バルブ全開状態であるが、血漿液を吹き飛ばす能力が得られれば良いので、必ずしも全開である必要はない。
【0020】
気泡センサ114は、プライミング動作時及び体外循環動作時に循環回路内を流れるプライミング液あるいは血液に含まれる気泡を所定の検出方法(超音波、光等)により検出する。血液フィルタ116は、血液をろ過したり、血液中の気泡を除去したりする。流量センサ115は、例えば、超音波の送受信器を内蔵して構成され、循環回路内のプライミング液あるいは血液の流量を検出する。酸素センサ125は人工肺113の下流に位置し、血液中の酸素濃度(正確には酸化血中酸素飽和度SPO2)を検出する。
【0021】
クランプ122は、体外循環動作時に、被検者130の体内に向けての送血を強制的に停止させるべく、チューブを閉塞させるための部材である。クランプ122は、気泡センサ114からの出力信号に基づいて、送血をただちに停止させる異常が発生したと判定した場合に、連動して自動的に閉塞動作を行うことが可能である。
【0022】
分岐ライン118は、循環回路の流路を切り替える。具体的には、被検者130の血液を体外循環させる体外循環動作時には、
図1の1aに示すように、被検者130の体内を通る循環回路を構築し、被検者130の体外で血液を循環させる。プライミング動作時には、
図1の1bに示すように、分岐ライン118によって被検者130の体内への循環回路の経路を遮断して被検者130の体外のみを通る循環回路(言い換えれば、被検者130の体内を通らない循環回路)を構築し、プライミング液で循環回路内を満たして(被検者の体内を通らずに)プライミング液を循環させる。循環回路上には、気泡を排出するための1又は複数の気泡排出ポート(不図示)が設けられており、循環回路内でプライミング液を複数周循環させることにより、循環回路内の気泡が当該気泡排出ポートから排出されることとなる。
【0023】
コントローラ110は、体外循環装置100における体外循環動作及びプライミング動作を統括制御する。コントローラ110においては、例えば、ドライブモータ111を制御して遠心ポンプ112を駆動させる。また、気泡センサ114を制御して気泡センサ114からの出力信号を取得したり、流量センサ115を制御して流量値を取得したりする。更に、体外循環動作モードにあっては、気泡センサ114からの出力信号に基づいて、送血を停止させる必要がある異常を検出した場合には、クランプ122を閉塞動作させる。更に、コントローラ110は、酸素センサ125で検出した酸素濃度に従い、ガスブレンダ117に対しガス供給量を調整する処理も行なう。
【0024】
次に、
図1の1a,1bに示す体外循環装置100を用いて心肺補助動作(体外循環動作、プライミング動作)を行う際の処理の流れについて簡単に説明する。
【0025】
心肺補助動作が開始されると、コントローラ110は、プライミング動作の実行を制御する。プライミング動作時には、
図1の1bに示すように、分岐ライン118によって被検者130の体内を通らない循環回路が構築される。また、このとき、プライミング液供給源121が分岐ライン118に接続され、当該プライミング液供給源121から循環回路内にプライミング液が供給される。これにより、循環回路内は、プライミング液で満たされることになる。
【0026】
そして、コントローラ110の制御によって遠心ポンプ112が駆動し、プライミング液が循環回路内を複数周循環する。循環回路内の気泡は、この循環とともに気泡排出ポート等から排出される。また、プライミング動作時に気泡センサ114によって当該循環回路内を流れる気泡の有無を検出してもよい。
【0027】
プライミングが完了したことを確認したユーザは、遠心ポンプの駆動を停止させ、分岐ライン118を切り替え、
図1の1aに示すように、被検者130の体内を通る循環回路を構築する。この後、ユーザは、コントローラ110を操作して、目標とする流量を設定し、体外循環の開始指示を入力する。この結果、コントローラ110は設定した情報を元にポンプ112を駆動することで、被検者130の血液が体外循環される。また、コントローラ110は、ガスブレンダ117に対してガス供給を開始させるべく、初期値としてガス供給量V0を設定させる。
【0028】
体外循環動作が始まると、カテーテル(静脈側)119から脱血されてくる血液が、遠心ポンプ112を経て人工肺113に入る。人工肺113は、上述した通り、ガス交換、すなわち、ガスブレンダ117から供給されるガスに従い、酸素付加や二酸化炭素除去等のガス交換処理を行ない、ガス交換後の血液を下流に供給する。その後、血液フィルタ116等を経て、ろ過された血液が、カテーテル(動脈側)120から被検者130の体内に送血される。このカテーテル(静脈側)119〜カテーテル(動脈側)120までの被検者130の血液の流れが連続的に行われる。なお、体外循環動作モードにあっては、各種センサからの信号に従った処理が行われる。例えば、気泡センサ114によって循環回路内の気泡の検出が行われ、送血を停止させる必要がある場合には、クランプ122の閉塞動作を行う。また、酸素センサ125で検出された酸素濃度に応じて、コントローラ110を制御し、人工肺113のガス交換の効率を調整する(詳細後述)。
【0029】
以上が、本実施形態に係る体外循環装置100の全体構成及び心肺補助動作の流れの一例についての説明である。なお、
図1の1a,1bに示す体外循環装置100の構成は、あくまでも一例にすぎず、その構成は適宜変更されてもよい。
【0030】
<2.コントローラの機能構成>
次に、
図2を用いて、
図1の1a,1bに示すコントローラ110の機能構成の一例について説明する。
【0031】
コントローラ110は、その機能構成として、制御部201と、操作部202と、表示部203と、タイマ部204と、記憶部(コンピュータ読取可能な記録媒体)205と、I/F部206と、通信部207とを備える。
【0032】
制御部201は、コントローラ110の制御、並びに、循環回路の制御を行なうものであり、CPU(Central Processing Unit)で構成される。
【0033】
操作部202は、例えば、各種ボタン等で実現され、医療従事者からの指示を入力する。表示部203は、例えば、モニタ等の表示器(警報を音声出力する出力部を含む)で実現され、各種情報(メッセージを含む)をユーザに向けて表示する。なお、操作部202及び表示部203の一部又は全部は、例えば、音声スピーカ付のタッチパネルとして実現されてもよい。
【0034】
タイマ部204は、各種時間の計時を行う。記憶部205は、例えば、ROM及びRAM等で実現されており、循環装置として動作するための体外循環動作モードを実現するための制御プログラム210、並びに、各センサで検出した検出結果を記憶する検出データ格納領域211を有する。連続動作モードに係る制御プログラムを実行するすると、制御部201は、先に説明したプライミング処理を実行すると共に、それに後続して、操作部202からの目標流量の設定を入力、I/F部206を介してのポンプ112の駆動制御や、各種センサでの検出結果に応じた体外循環処理を実行することになる。
【0035】
通信部207は、医療従事者に装着された通信部220との間で通信を行う。なお、通信部207と通信部220との間の通信は、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信であっても、Wi−Fi等の無線LANによる無線通信であってもよい。
【0036】
以上が、コントローラ110についての機能構成の一例についての説明である。なお、
図2に示す機能構成はあくまでも一例であり、新たな構成が追加されてもよいし、また、不要な構成が適宜省略されても良い。
【0037】
本実施形態の特徴は、プライミング処理後の体外循環動作モードの実行中の人工肺113のガス交換を良好に維持するための処理にある。そこで以下では、係る点を中心に体外循環動作モードについて説明する。
【0038】
<3.酸素センサからの出力信号に基づく体外循環動作モードの概要>
体外循環装置における処理には、目標とする流量の血液の循環を行なうことも重要な要素である。しかし、実施形態における体外循環装置の特徴とする点は、人工肺113の処理能力を酸素センサ125により評価し、ガスブレンダ117を制御して人工肺113のガス交換の効率を良好な状態に維持する点にある。そこで、以下では、その点に絞って説明する。
【0039】
人工肺113は、先に説明したように、血液が空気に触れると酸素を摂取し炭酸ガス(二酸化炭素)を排出する性質を有しているが、血液が空気に直接触れると凝固してしまうので、一般にはガス交換膜を介在させる。
図3は人工肺113の概念図である。人工肺113は血液が流れる部分と、ガスブレンダ117から供給されるガスが流れる部分とがガス交換膜で隔てられる構造を有する。このガス交換膜の作用で、ガス供給路に含まれる酸素が血液中に摂取されると共に、血液中の二酸化炭素がガス供給路に排出される。通常はこのガス交換の効率を高くするため図示の構造を多数個有する構造を成している。
【0040】
実施形態におけるコントローラ110は、このガス交換が正常に行われているか否かを、人工肺113の下流に位置する酸素センサ125で検出する酸素濃度に基づき判断する。そしてコントローラ110は、その酸素濃度に従い、ガスブレンダ117を制御することで、人工肺113のガス交換が正常になるように維持する。
【0041】
具体的には、ガス交換が正常に行われていると判定するための閾値をT1、T2(ただしT1<T2の関係にある)とし、酸素センサ125で検出された酸素濃度をDと定義したとする。
【0042】
T1≦D≦T2にあるとき、人工肺113が正常にガス交換を行なっていると判定し、コントローラ110はガスブレンダ117のガス供給量をV0に設定する。また、D<T1の場合、酸素濃度は正常範囲の下限を下回ることになる。それ故、コントローラ110は、ガス交換率を上げるべく、ガスブレンダ117に対して、ガス供給量をΔV多いV+に設定させる。一方、D>T2の場合、酸素濃度は正常範囲の上限を上まわることになる。それ故、コントローラ110は、ガス交換率を下げるべく、ガスブレンダ117に対して、ガス供給量をΔV少ないV−に設定させる。いずれの場合であっても、酸素濃度Dが正常範囲内になった場合には、再びガスブレンダ117に対してV0を設定させる。ガスブレンダ117は、コントローラからの信号に従い、不図示のバルブの駆動回路を駆動し、バルブの弁開率を調整する。
【0043】
なお、酸素センサ125は約50ms間隔で血液中の酸素濃度を検出する。しかし、その検出結果には、測定誤差が含まれるので時間軸に対して多少はふらつく。このふらつきを抑制するため、実施形態におけるコントローラ110は、酸素センサ125で得られた直近の10個の酸素濃度を保持するため、検出データ格納領域211に検出した酸素濃度を格納し、その平均値を、現在の酸素濃度Dとして算出するものする。
【0044】
以上の結果、人工肺113のガス交換率が内的、もしくは外的要因により変動したとしても、正常範囲内に収めるように作用させることが可能になる。循環回路が、患者の手術に用いられ、その使用期間が比較的短時間で済む場合には、上記処理で十分と言える。
【0045】
しかしながら、人工肺113によるガス交換を継続していくと、ガス交換膜に上には
図3に示すように血漿液の液滴が次第に形成されていく。このガス交換膜への血漿液による被覆が進んでくると、当然、ガス交換率が下がっていく。ガス交換率が下がっていくと、結果的に血中酸素濃度が下がることになり、コントローラ110はガスブレンダ117に対してガス供給量をV+に上げて供給させる信号を出力し続けることになるが、それでも血中酸素濃度Dは下がりを抑制できなくなる。ガス供給量をV+にしたとしても、血漿液を吹き飛ばす勢いはないからである。係る状態になった場合、フラッシュ処理を行なうべきと判断する。そのため、実施形態では、正常範囲を判定する下限閾値T1より更に低い閾値T0を設定し、血中酸素濃度Dがその閾値T0を下回った場合、コントローラ110はフラッシュ処理を実行させるべきと判断し、ガスブレンダ117に対して、人工肺113における血漿液を吹き飛ばすだけのガスを噴射させるため、ガス供給量Vmaxを設定するようにした。
【0046】
また、実施形態では、酸素濃度Dが閾値T0以上で閾値T1未満の場合であっても、その期間が予め設定された期間以上である場合にもフラッシュ処理を行なうようにした。これは、酸素濃度Dが閾値T0以上T1未満の場合が継続することは、やはり人工肺113内のガス交換膜には或る程度の血漿リークが発生していると判断できるためである。
【0047】
通常の手動での1回のフラッシュ操作する期間は、約3分程度であるので、本実施形態でも、3分間はVmaxを設定し続ける。また、ガス交換膜上に血漿液で覆われることに起因するガス交換率の低下は、フラッシュ操作によって改善され、且つ、次にフラッシュ操作は少なくとも3時間以上経過した後になる。また、フラッシュ操作は、人工肺に高い圧力のガス圧をかけることを意味し、人工肺113に負担をかけ、その製品寿命を短くなる懸念もある。更に、必要以上に高いガス圧を加え続けると、血液中に気泡が生成される可能性が高くなると共に、ガスブレンダ117のガスタンクも早く消費してしまう。
【0048】
そこで、本実施形態では、手動と同様に、前回のフラッシュ処理から所定時間(3時間)経過するまでは再びフラッシュ操作は行なわないようにした。逆に言えば、前回フラッシュ処理を実行してから、その所定時間経過する以前に血中濃度Dが閾値T0を下回る場合は、ガスブレンダ117に接続もしくは収容されたガスボンベが残量無し状態、ガスブレンダ117と人工肺113との間のどこかでのガス漏れ等、異常状態が想定されるので、そのような場合には警告アラームを発生するようにした。警告アラームは、音によるもの、警告メッセージの表示によるもののいずれでも良いし、両方を行なっても構わない。
【0049】
<4.体外循環動作モード処理の流れ>
以上の説明を踏まえ、実施形態に係る体外循環装置100におけるコントローラ110の体外循環動作モードの処理内容を
図4のフローチャートに従って説明する。同図は、
図2の制御プログラム210内の一部を表わすものである。以下では説明を単純化させるため、酸素センサ125で検出した酸素濃度に基づく処理に的を絞って説明する。
【0050】
プライミング処理を終え、体外循環動作モードを開始すると、先ず制御部201は、ステップS401にて、ガスブレンダ117に対してガス供給量を「V0」に設定させる。つまり、循環回路として稼働させる直前の状態では、ガスブレンダ117のガス供給量が「Vmin」になっているので、それを「V0」に設定する処理を行なう。この結果、ガスブレンダ117は設定されたガス供給量V0で酸素を含むガスを人工肺113に供給を開始することになる。
【0051】
次に、制御部201は、ステップS402に進み、ユーザの操作部202への操作があったか否かを判定する。もしユーザによる操作部202への指示入力があったと判定された場合、ステップS403に進み、その指示に従った処理を行なう。このステップS403の処理としては、警告アラームを停止する操作等が含まれる。
【0052】
ユーザの操作がないと判断した場合には、ステップS404に進み、酸素センサ125による血中酸素濃度Dを検出する。この検出は先に説明したように50ms間隔となる。また、酸素センサ125の現在の検出値を含む直近の10個程度の平均値を、現酸素濃度Dとして求める点も先に説明した通りである。
【0053】
ステップS405では、得られた酸素濃度Dが閾値T2を上まわっているかどうかを判断する。上まわっていると判断した場合、ガス交換が必要以上に行われていることを示すわけであるから、ステップS406に進み、ガスブレンダ117に対してガス供給量を「V−」に設定する。
【0054】
一方、酸素濃度Dが閾値T2以下であると判断した場合には、ステップS407にて酸素濃度が閾値T1を下回っているか否かを判断する。否の場合は、酸素濃度Dが目標とする範囲内にあることを示すので、ステップS408に進んで、ガスブレンダ117に対してガス供給量「V0」を設定する。なお、今回設定するガス供給量が、前回の設定と同じ供給量の場合には、ガスブレンダ117に対しての設定は行なわなくても構わない。これは以下の説明でも同様である。
【0055】
一方、酸素濃度Dが閾値T1を下回っていると判断した場合、ガス交換率が下がってきていると判断できるので、ステップS409に進み、ガスブレンダ117に対してガス供給量「V+」を設定する。
【0056】
そして、ステップS410にて、酸素濃度が閾値T0を下回ったか否かを判定する。この判定が否の場合、処理をステップS411に進め、T0<D<T1の状態が予め設定された時間以上経過したか否かを判断する。人工肺113に血漿リークが発生していない場合には、ガス供給量をV+にすると酸素濃度は適当な時間を経て上昇する。従ってステップS411の判定は、Noとなる。
【0057】
以上が人工肺113に血漿リークが発生していない、もしくはその発生量が小規模の場合の処理となる。
【0058】
図5は血中酸素濃度Dの推移の例を示している。図示の如く、血中酸素濃度Dが閾値T1以上T2以下のあるときガス供給量を「V0」に設定され、Dが閾値T2を上まわった場合にはガス供給量「V−」に設定し、Dが閾値T1を下回った場合にはガス供給量「V+」に設定されている。上記の処理を行なう結果、人工肺113の下流側の血中酸素濃度Dは、目標とする閾値T1、T2の範囲を多少は逸脱することがあっても、ほぼ範囲内で推移させるこができる。
【0059】
さて、体外循環回路を構成して稼働状態にして数時間経過すると、人工肺113のガス交換膜上が血漿液滴で覆われはじめガス交換率が低下してくる。この場合、ガス供給量「V+」にしても酸素濃度を上げることはできなくなり、酸素濃度Dは低い状態が維持されるか、更に下がりつづけ、ついには閾値T0を下回ることになる。本実施形態では、係る状況をステップS410、S411で判定する。
【0060】
酸素濃度Dが閾値T0を下回ったとき、ステップS410にて、前回のフラッシュ処理から所定時間(実施形態では3時間)経過したか否かを判定する。なお、体外循環装置として稼働を開始した場合は、その稼働開始時刻を前回のフラッシュ処理の時刻として認定するものとする。前回のフラッシュ処理を行なってから所定時間経過したと判定された場合、人工肺113のガス交換膜が血漿液で覆われたことが原因で酸素濃度Dが閾値T0を下回ったものと見なせるので、それは予定されたものでもあるので、ステップS414にてフラッシュ処理を実行する。このステップS414では、手動のフラッシュ操作と同様であり、約3分間、ガス供給量を「Vmax」に設定し続ける。
図5の期間Pfがフラッシュ処理を行なっている期間である。
【0061】
一方、ステップS413にて、前回のフラッシュ処理を行なってから、今回閾値T0を下回る酸素濃度Dを検出するまでの期間Pi(
図5参照)が、所定時間未満であると判断した場合、循環回路、特に、人工肺113とその周辺に何らかの異常があるものとみなして良い。そのため、ステップS413からステップS415に進み、警告アラームを発する。
【0062】
更に、酸素濃度DがT0<D<T1となっている状態が、予め設定された時間以上継続している場合には、やはり血漿リークの疑いが強いので、ステップS412にてフラッシュ処理を実行する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る体外循環装置100によると、人手の介在無しに、循環装置における人工肺を監視すると共に安全な状態に維持することが可能になる。また、血漿液が人工肺のガス交換膜を覆うことによるガス交換率の低下を招いたとしても、自動的にフラッシュ処理が行なうことが可能になり、人工肺を正常な状態に復帰させることも可能になる。更に、実施形態に従えば、フラッシュ処理を行なうと判定した際に前回のフラッシュ処理からの経過時間が予定された時間間隔よりも短い場合、何らかの異常があるものと判断し、その警告アラームを発生することができ、ユーザに循環回路、特に人工肺の周囲のチェックを促すことが可能になる。
【0064】
なお、上記実施形態では、ガスブレンダ117は、バブルの全閉状態を含めて、5段階制御できるものとして説明したが、更に多くの段数で調整できるものを用いてもよいので、上記実施形態でもって本願発明が限定されるものではない。
【0065】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、体外循環装置100の制御装置として機能するコントローラ110内の制御部201が実行するプログラムによって機能する。従って、本発明は、係るプログラムをその範疇とするのは明らかである。また、通常、プログラムはCDROMやメモリカード等の、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶され、それをシステムにインストールすることで実行可能になるわけであるから、係る記憶媒体も本発明の範疇にあることも明らかである。
【0066】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。