(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の原理]
本発明では、居住域の環境状態量から発生確率が低いと推定される要望申告である矛盾申告を一時的要望と判別し、環境状態量から発生確率が高いと推定される要望申告である非矛盾申告を一時的でない要望(以下、定時的要望とする)と判別する。そして、本発明では、一時的要望と判別した場合に、この要望に対応する設備制御を一時的な対応とすることで、一時的要望が続く場合の環境状態量変化を一時的なものに留めることが可能である。また、本発明では、定時的要望と判別した場合は、この要望申告に対応する設備制御を持続的に行う。このとき、環境状態量と要望申告者の周囲環境に対する不満足度との関係は後述の不満足度分布に従うので、環境状態量の変化に伴い、非矛盾申告(定時的要望)がやがては矛盾申告(一時的要望)に転じることになる。
【0016】
ここで、環境状態量を横軸にとり、要望申告者の周囲環境に対する不満足度を縦軸にとったときに、「暑い」という温熱環境に対応する不満足度Aの分布は、環境状態量が示す暑さが増すほど不満足度Aが増加する単調な分布である。同様に、環境状態量を横軸にとり、要望申告者の周囲環境に対する不満足度を縦軸にとったときに、「寒い」という温熱環境に対応する不満足度Bの分布は、環境状態量が示す寒さが増すほど不満足度Bが増加する単調な分布である。
【0017】
例えば極端に寒がりあるいは極端に暑がりな居住者が、設備制御を一方向(例えば空調設備において室温を下げる方向)に動作させるような要望申告を継続的に行なったとする。上記の不満足度分布によると、申告が開始された当初は非矛盾申告(定時的要望)であったとしても、この非矛盾申告に応じて持続的に室内環境を改善する方向に設備制御動作が対応し、改善方向に環境状態量が変化すると、一方向的な申告はやがては必ず矛盾申告(一時的要望)に転じる。したがって、居住者の申告に対応した設備制御動作を実現しながら、一方向的な申告によって極端な室内環境に推移することを回避できる。
【0018】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本発明は、居住者の空調への環境変更要望(例えば暑い、寒い、室温をXX℃上げて欲しい、XX℃下げて欲しいなど)を反映する空調制御システムを対象とする。本発明は、(A)設備管理者や居住者の要望をBEMS(Building and Energy Management System)などを通じて反映する場合(サービスプロバイダが実施する設備の遠隔管理も含む)、(B)居住者が自身の要望を直接申告する申告型空調制御システムを利用する場合、のいずれも対象としている。
【0019】
本実施の形態では、説明の簡単のために、対象とする1つの空調エリアに居住者が在席する申告型空調制御システムの例で説明する(
図1)。
図1において、100は空調エリア、101は居住者、102は変更要望を受ける空調制御装置(コントローラ)、103は空調エリア100の室温を計測する温度センサ、104は空調エリア100の湿度を計測する湿度センサ、105は室内機、106は室外機である。空調制御装置102は、温度センサ103によって計測される室温が室温設定値と一致し、湿度センサ104によって計測される湿度が湿度設定値と一致するように、空調機器(室内機105および室外機106)を制御する。
【0020】
要望申告者の周囲環境の状態を示す環境状態量は、温度、湿度などの環境要素計測値そのもの、あるいは、環境要素計測値を用いて算出される一般的な環境指標、例えば、作用温度、SET*(Standard new Effective Temperature)、PMV(Predicted Mean Vote)などである。PMVはISO−7730で国際規格化されており、また、SET*は米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の標準に定められている。作用温度も汎用的な指標である。
【0021】
本発明における不満足度は、前記環境状態量に対しての居住者の不満足度合いを示す量である。不満足度としては、一般的には、不快指数やPPD(Predicted Percentage Dissatisfied)などがあり、その算出方法についても公開されている。PPDは、PMVから算出される指標である。
【0022】
ただし、不満足度については、居住者の温冷感(暑い/寒い)の好みや働き方(デスクワークや荷物運びなど、居住者の平均的な活動量の大小)等も影響する。このため、前記の一般的な指標以外でも、居住実態に応じて環境状態量から不満足度を算出する方法を設備管理者や制御プロバイダ等が適宜定義してもよい。例えば、環境状態量として温度(室温)を用いる場合、夏季冷房時運用の中心値を26℃として、26℃で不満足度が最小値になり、24℃以下、28℃以上でそれぞれ不満足度が80%以上になるようなV字型の不満足度分布を定義して使用しても構わない。すなわち、前記の特徴を満たす不満足度分布であればよい。環境状態量として何を用いるか、また不満足度をどのようにして求めるかは、制御プロバイダや設備管理者、エネルギー管理者などが予め適宜決定する。
【0023】
本発明では、居住者と、当該居住者の在席空間と、この在席空間に対応する空調ゾーン(在席空間と一致する空調ゾーン、在席空間に含まれる空調ゾーン、または在席空間を含む空調ゾーン)で制御対象となる空調機器と、この在席空間の環境状態量の算出に必要な温度・湿度などの環境要素の種類と、環境要素計測値(あるいは計測値を保持するメモリアドレス)とを対応付ける情報が、後述する要望判別型空調制御装置に保持されるものとする。この情報は、予め要望判別型空調制御装置に記憶されていてもよいし、要望判別型空調制御装置の動作開始時に設備管理者などが入力してもよいし、要望入力者から送信される要望に付加してこれらの情報が送信され要望判別型空調制御装置が受信しても構わない。この要望判別型空調制御装置に保持されている情報に基づき、申告者の空調への要望はこの申告者に対応する空調ゾーンの空調機器の制御(例えば設定値変更)に反映される。
【0024】
なお、申告者が別の要望入力者(例えば設備管理者やオフィスフロアの環境管理者)を介して要望を送信する場合には、申告者を特定する情報も要望と併せて送信されるものとする。これにより、申告者の要望が申告者に対応する空調機器の制御に反映される。1つの在席空間に複数の空調ゾーンがある場合でも、申告者を特定することができれば、申告者に対応する空調機器を特定することができるので、申告者の要望を空調機器の制御に反映することができる。また、1つの空調ゾーンに複数の居住者がいる場合でも、申告者に対応する空調機器が特定されていれば問題ない。
【0025】
さらに、1つの在席空間に同じ環境要素の計測ポイントが複数ある場合には、統計値(平均値など)を保持するメモリアドレスを生成して、複数の計測ポイントの計測値から得られる統計値を、環境状態量の算出に利用する環境要素としたり、複数の計測ポイントの中からこれらを代表する1つの計測ポイントを決定して、この計測ポイントの計測値を、環境状態量の算出に利用する環境要素としたりすればよい。
【0026】
本発明は、居住者からの要望が発生した環境の環境状態量に応じてその要望の妥当性(矛盾/非矛盾)を判定することによって要望申告を判別し、判別結果を設備動作に反映する点が重要なポイントである。本発明は、空調方式(例えば個別方式、中央式、パーソナル方式など)及び採用している空調機器種類、空調制御要素(温度、湿度、放射やその複合制御など)、要望入力端末種類(BEMS、PC、携帯電話、スマートフォン、専用入力端末など)等によらず、当業者の通常の技術水準により適宜設計変更が可能である。
【0027】
本実施の形態では、居住者自身が自らの要望を空調制御システムに対して入力(申告)する居住者申告型空調制御システムの例で説明する。居住者からの要望申告に対応する空調設備動作は、室温設定値の変更動作とする。要望申告の妥当性(矛盾申告/非矛盾申告)の判定に用いる環境状態量としては在席空間の温熱快適性を示す指標であるPMVを用い、不満足度としては予測不満足者率とも呼ばれるPPDを用いる。
【0028】
図2は本実施の形態の要望判別型空調制御装置の構成を示すブロック図である。要望判別型空調制御装置1は、機器制御部2と、制御プラン決定部3と、制御プラン記憶部4と、要望判別部5とを備えている。
機器制御部2は、制御プラン決定部3が決定した制御プランに基づき空調機器6を制御する。
制御プラン決定部3は、要望の処理時点で実施されている制御プランと制御プラン記憶部4に記憶されている制御プラン情報と要望判別部5の判別結果に基づいて、空調機器6に新たに適用する制御プランを決定する。
【0029】
制御プラン記憶部4には、要望判別部5の判別結果に対して適用する制御プランが予め設定され、記憶されている。これらの制御プランは、制御プロバイダや設備管理者が予め設定する。
要望判別部5は、申告者からの要望の妥当性(矛盾/非矛盾)を判定して、これにより要望が一時的要望か定時的要望かを判別する。
要望申告者が空調への要望を入力する要望入力端末7としては、PC、携帯電話機、スマートフォン、専用リモコン端末などがある。
【0030】
なお、要望判別型空調制御装置1は
図1に示した空調制御装置102の内部に設けられるが、要望判別部5を要望判別装置として空調制御装置102の外部に設けてもよい。
【0031】
図3は要望判別部5の構成を示すブロック図である。要望判別部5は、申告者からの要望を受け付ける入力手段である要望保持部50と、環境状態量管理部51と、判別ルール記憶部52と、判別処理部53とから構成される。
要望保持部50は、要望入力端末7から入力された要望申告を保持する。環境状態量管理部51は、環境要素計測値を用いて環境状態量を算出し、この環境状態量を用いて不満足度を算出し、算出した環境状態量と不満足度とを判別処理部53に送信する。環境状態量及び不満足度の算出方法は、制御プロバイダや設備管理者によって予め設定されている。
【0032】
判別ルール記憶部52には、申告者からの要望を判別するための要望判別ルールが予め設定され、記憶されている。この要望判別ルールは、制御プロバイダや設備管理者、エネルギー管理者が設定する。
判別処理部53は、要望保持部50で保持されている要望と、環境状態量管理部51が求めた環境状態量及び不満足度と、判別ルール記憶部52に予め記憶されている要望判別ルールとから、要望の妥当性(矛盾/非矛盾)を判定して要望が一時的要望か定時的要望かを判別する。
【0033】
次に、本実施の形態の空調制御システムの動作を説明する。
図4は、要望入力端末7から居住者の要望申告を受け付けた際の要望判別型空調制御装置1の動作を説明するフローチャートである。
要望入力端末7は、要望申告者が入力した要望の変更種類DSと要望申告者の在席空間を特定する情報であるZIDと申告時刻Stimeとを要望判別部5に送信し、要望判別部5の要望保持部50は、受信した情報を要望V(ZID,DS,Stime)として保持する(
図4ステップS1−1)。
【0034】
要望判別型空調制御装置1は、要望申告者の在席空間特定情報ZIDと、この在席空間特定情報ZIDで特定される在席空間の環境状態量の算出に必要な環境要素の計測ポイントとを対応付ける情報を、例えば環境状態量管理部51などで保持している。これにより、環境状態量管理部51は、在席空間特定情報ZIDに基づいて要望申告者の在席空間の環境要素計測値を取得することができる。
【0035】
本実施の形態では、上記のとおり環境状態量としてPMVを用い、不満足度としてPPDを用いる。また、PMVの算出に用いる環境要素を温度と湿度の2種類とし、在席空間特定情報ZIDで特定される在席空間の環境要素計測値である温度計測値をPV(1)、同じく環境要素計測値である湿度計測値をPV(2)とする。
【0036】
環境状態量であるPMVの算出には、温度と湿度以外に、気流速、放射温度、着衣量、活動量といった情報が必要である。温度と湿度以外の情報については対象建物や居住者、季節等を考慮した固定値が環境状態量管理部51に予め設定されているものとする。PPDは、PMVから求めることができる。PMV、PPDの算出方法については国際規格化されている算出方法に従うこととする。
【0037】
また、本実施の形態では、要望申告者が選択する変更種類DSを「暑い」、「寒い」の2種類とし、「暑い」を値「1」で示し、「寒い」を値「−1」で示すものとする。つまり、例えば、申告時刻10時10分にZID=55で特定される在席空間の居住者が「暑い」と申告した要望はV(55,1,10:10)として保持され、同じ時刻に「寒い」と申告された要望はV(55,−1,10:10)として保持される。
【0038】
なお、この例では要望入力端末7から在席空間特定情報ZID、変更種類DSおよび申告時刻Stimeを送信するとしたが、申告時刻Stimeを要望入力端末7から送信せずに、要望申告を受け付けた時刻を申告時刻として、要望保持部50が申告時刻Stimeを付加しても良い。
【0039】
要望入力端末7から要望V(ZID,DS,Stime)を受信すると(ステップS1−1)、要望判別部5の判別処理部53は、判別ルール記憶部52に予め設定された要望判別ルールに基づき、要望V(ZID,DS,Stime)の妥当性を判定して申告判別を行なう(
図4ステップS1−2)。
図5はステップS1−2における要望判別部5の動作を説明するフローチャートである。
【0040】
まず、要望判別部5の環境状態量管理部51は、要望V(ZID,DS,Stime)に含まれる在席空間特定情報ZIDおよび申告時刻Stimeに基づいて、要望申告者の在席空間に対応する環境要素計測値PV(1),PV(2)を取得し、この環境要素計測値PV(1),PV(2)を用いて環境状態量であるPMV(ZID,Stime)を算出し、このPMVから不満足度であるPPD(ZID,Stime)を算出する(
図5ステップS2−1)。この環境状態量管理部51は、環境状態量算出部(不図示)と不満足度導出部(不図示)とを備えている。
【0041】
環境状態量管理部51は、収集可能な全ての環境要素計測値を周期的に収集し、収集した環境要素計測値を在席空間特定情報ZID、環境要素の種類および収集時刻と関連付けてデータベース(不図示)に保持しておく。そして、環境状態量管理部51は、要望V(ZID,DS,Stime)を受信したとき、この要望V(ZID,DS,Stime)に含まれる在席空間特定情報ZIDに対応する環境要素計測値のうち、要望V(ZID,DS,Stime)の申告時刻Stime近傍で収集された環境要素計測値PV(1),PV(2)をデータベースから取得すればよい。あるいは、環境状態量管理部51は、要望V(ZID,DS,Stime)を受信したときに、この要望V(ZID,DS,Stime)に含まれる在席空間特定情報ZIDに対応する環境要素計測値PV(1),PV(2)を計測ポイントから取得するようにしてもよい。
【0042】
そして、環境状態量管理部51の環境状態量算出部(不図示)は、取得した環境要素計測値PV(1),PV(2)とPMVの算出パラメータである気流速、放射温度、着衣量、活動量について予め設定された固定値とを利用してPMV(ZID,Stime)を算出する。
【0043】
本実施の形態で不満足度として採用するPPDは、PMVと対応付けられている指標であり、以下の式(1)で算出される。こうして、環境状態量管理部51の不満足度導出部(不図示)は、式(1)によりPPD(ZID,Stime)を算出することができる。
PPD=100×95exp{−(0.03353×(PMV)^4
+0.2179×(PMV)^2)} ・・・(1)
【0044】
横軸を環境状態量であるPMVとし、縦軸を不満足度であるPPDとすると、PMVとPPDとの関係は
図6のようになる。PMV=0は暑くも寒くもないことを示し、PMV=1はやや暑いことを示し、PMV=2は暑いことを示している。また、PMV=−1はやや寒いことを示し、PMV=−2は寒いことを示している。また、PPDは数値が大きくなるほど、不満足度が高いことを示している。
【0045】
上記のとおり、「暑い」という温熱環境に対応する不満足度Aの分布は、環境状態量が示す暑さが増すほど不満足度Aが増加する単調な分布である。
図6の例では、PMVの正側に不満足度Aの最大値Amax(
図6の例では約78%)があり、PMV=0において不満足度Aが最小値Amin(
図6の例では約5%)となり、最小値Aminから最大値Amaxまでは単調な分布となっている。
【0046】
同様に、「寒い」という温熱環境に対応する不満足度Bの分布は、環境状態量が示す寒さが増すほど不満足度Bが増加する単調な分布である。
図6の例では、PMVの負側に不満足度Bの最大値Bmax(
図6の例では約78%)があり、PMV=0において不満足度Bが最小値Bmin(
図6の例では約5%)となり、最小値Bminから最大値Bmaxまでは単調な分布となっている。
【0047】
要望判別部5の判別ルール記憶部52には、環境状態量であるPMVと、不満足度を示すPPDと、要望V(ZID,DS,Stime)の変更種類DSとから、要望V(ZID,DS,Stime)を判別するための要望判別ルールが制御プロバイダや設備管理者などによって予め設定されている。本実施の形態では、要望判別ルールとして、変更種類DSの各々に対して判別しきい値(以下、しきい値とする)Hth(DS)を設け、PPD(ZID,Stime)としきい値Hth(DS)との比較で要望の妥当性を判定するというルールの例で説明する。
【0048】
ここでは、変更種類DS=1の要望、すなわち「暑い」という要望V(ZID,1,Stime)に対するしきい値をHth(1)、変更種類DS=−1の要望、すなわち「寒い」という要望V(ZID,−1,Stime)に対するしきい値をHth(−1)とする。
【0049】
要望判別部5の判別処理部53は、環境状態量管理部51が算出したPPD(ZID,Stime)を、判別ルール記憶部52の要望判別ルールに予め設定されたしきい値Hth(DS)と比較し、要望V(ZID,DS,Stime)の妥当性を示す妥当性判別フラグFd(以下、判別フラグ)を決定する(
図5ステップS2−2)。具体的には、判別処理部53は、PPD(ZID,Stime)>Hth(DS)、すなわちPPD(ZID,Stime)がしきい値Hth(DS)より大きいとき、判別フラグFdをFd=1とし、PPD(ZID,Stime)≦Hth(DS)、すなわちPPD(ZID,Stime)がしきい値Hth(DS)以下のとき、判別フラグFdをFd=0とする。
【0050】
判別フラグFd=1は、要望V(ZID,DS,Stime)が非矛盾申告であり、定時的要望であることを示し、判別フラグFd=0は、要望V(ZID,DS,Stime)が矛盾申告であり、一時的要望であることを示す。
【0051】
こうして、判別処理部53は、「暑い」という要望V(ZID,1,Stime)があった環境に対して、環境状態量から算出したPPD(ZID,Stime)がしきい値Hth(1)より大きい場合、要望申告の妥当性が高いとして、要望V(ZID,1,Stime)が非矛盾申告であり、定時的要望であると判別し、PPD(ZID,Stime)がしきい値Hth(1)以下の場合、要望申告の妥当性が低いとして、要望V(ZID,1,Stime)が矛盾申告であり、一時的要望であると判別する。
【0052】
また、判別処理部53は、「寒い」という要望V(ZID,−1,Stime)があった環境に対して、環境状態量から算出したPPD(ZID,Stime)がしきい値Hth(−1)より大きい場合、要望申告の妥当性が高いとして、要望V(ZID,−1,Stime)が非矛盾申告であり、定時的要望であると判別し、PPD(ZID,Stime)がしきい値Hth(−1)以下の場合、要望申告の妥当性が低いとして、要望V(ZID,−1,Stime)が矛盾申告であり、一時的要望であると判別する。
【0053】
Hth(1)=Hth(−1)=10[%]とした場合に、要望V(ZID,1,Stime),V(ZID,−1,Stime)が矛盾申告(一時的要望)と判別される範囲および非矛盾申告(定時的要望)と判別される範囲を
図7に示す。なお、
図7では、しきい値Hth(1)と Hth(−1)を同じ値としたが、「暑い」という要望V(ZID,1,Stime)に対するしきい値をHth(1)を大きくし、「寒い」という要望V(ZID,−1,Stime)に対するしきい値をHth(−1)を小さくすれば、夏季冷房時の省エネルギーを重視した運用とすることが可能である。Hth(1)=15[%]、Hth(−1)=10[%]とした場合に、要望V(ZID,1,Stime),V(ZID,−1,Stime)が矛盾申告(一時的要望)と判別される範囲および非矛盾申告(定時的要望)と判別される範囲を
図8に示す。
【0054】
判別処理部53は、要望入力端末7から受け付けた要望V(ZID,DS,Stime)に対し、要望の変更種類DSと判別フラグFdとを関連付け、これらを要望状態DC(DS,Fd)として保持する。以上で、
図4のステップS1−2の処理が終了する。
【0055】
次に、制御プラン決定部3は、処理中の要望V(ZID,DS,Stime)に対応する制御プランを決定する(
図4ステップS1−3)。制御プラン決定部3は、要望申告者に対応する空調機器6に現時点で適用されている制御プラン(以下、既制御プランとする)と、制御プラン記憶部4に予め設定されている制御プランと、要望判別部5で保持されている要望状態DC(DS,Fd)とを利用して、空調機器6に新たに適用する制御プランを決定する。
【0056】
制御プラン記憶部4には、一時的要望および定時的要望に対応する制御プランがそれぞれ設定されている。定時的要望に対応する制御プラン(Fd=1に対応する制御プラン)としては、従来の汎用的な制御プラン(要望の妥当性を判定せず変更種類に応じて実施されていた従来の制御プラン)を設定すればよい。本実施の形態では、説明の簡単のため、
図9(A)に示すように要望V(ZID,DS,Stime)の処理時点での制御設定値Tset=Tbefを要望V(ZID,DS,Stime)の変更種類DSに応じて変更するという制御プランを、定時的要望に対応する制御プランとする。この制御プランによる制御設定値Tsetの変更は次式のように表すことができる。
Tset=Tbef+Tdp(DS) ・・・(2)
【0057】
制御設定値Tsetの例としては、室温設定値がある。式(2)のTdp(DS)は設定値変更幅である。この設定値変更幅Tdp(DS)は以下の式で決定される。
Tdp(DS)=S(DS)×γdp(DS) ・・・(3)
【0058】
上記のとおり、要望申告者が「暑い」と申告したとき、変更種類DS=1となり、要望申告者が「寒い」と申告したとき、変更種類DS=−1となる。式(3)におけるS(DS)は変更種類DSに対応する制御設定値Tsetの増減方向を示す係数である。変更種類DS=1のとき、係数S(1)=−1となり、変更種類DS=−1のとき、係数S(−1)=1となる。つまり、要望申告者が「暑い」と申告したときは、係数S(DS)を−1にして制御設定値Tsetを下げ、要望申告者が「寒い」と申告したときは、係数S(DS)を1にして制御設定値Tsetを上げる。
【0059】
式(3)におけるγdp(DS)は変更種類DSに対応する設定値変更幅である。この設定値変更幅γdp(DS)は、変更種類DSに応じて予め制御プロバイダや設備管理者などによって決定される。ここでは、設定値変更幅γdp(DS)は、変更種類DSの値によらず一律に0.5℃とするが、変更種類DSの値に応じて異なる値としても構わないことは言うまでもない。
【0060】
一方、一時的要望に対応する制御プラン(Fd=0に対応する制御プラン)としては、定時的要望に対応する制御プランと同様に制御設定値Tsetを変更するが、設定値変更を維持時間tαだけ維持した後、制御設定値Tsetを当該申告要望に対応する前のTset=Tbefに復帰させるという制御プランを設定すればよい(
図9(B))。制御設定値Tsetの変更は式(2)、式(3)で説明したとおりである。維持時間tαは、妥当性が低い要望に対応する時間であり、例えば10分などと設定すればよい。この維持時間tαは、運用実態に応じて設備管理者などが適宜決定すればよい。
【0061】
最後に、機器制御部2は、制御プラン決定部3が決定した新たな制御プランに基づき、空調機器6を制御する(
図4ステップS1−4)。つまり、機器制御部2は、要望V(ZID,DS,Stime)の処理時点で空調機器6に適用されている現在の制御設定値Tset=Tbefと、要望V(ZID,DS,Stime)の変更種類DSと、制御プラン決定部3が決定した制御プランに基づき、空調機器6に新たに適用する制御設定値Tsetを決定する。また、機器制御部2は、空調の制御量(例えば室温)と制御設定値Tset(例えば室温設定値)とが一致するように空調機器6を制御する。制御アルゴリズムとしては例えばPIDが知られている。
要望申告者からの新たな要望が発生した場合には、この要望に対してステップS1−1〜S1−4の処理が繰り返される。
【0062】
図10に要望申告に対して制御設定値Tsetがどのように変更されるかの1例を示す。
図10のh’1,h’3は「暑い」という一時的要望、h2は「暑い」という定時的要望、c1は「寒い」という定時的要望を表している。
【0063】
時刻t1において「暑い」という一時的要望h’1が発生したとき、制御プラン決定部3は、一時的要望に対応する制御プランを、空調機器6に新たに適用する制御プランとして決定する。機器制御部2は、この制御プランに基づいて、式(2)、式(3)により制御設定値TsetをTbef2に下げ、維持時間tα(本実施の形態では10分)後に時刻t1以前の制御設定値Tset=Tbef1に復帰させる。
【0064】
次に、時刻t2において「暑い」という定時的要望h2が発生したとき、制御プラン決定部3は、定時的要望に対応する制御プランを、空調機器6に新たに適用する制御プランとして決定する。機器制御部2は、この制御プランに基づいて、式(2)、式(3)により制御設定値TsetをTbef2に下げる。
【0065】
次に、時刻t3において「暑い」という一時的要望h’3が発生したとき、制御プラン決定部3は、一時的要望に対応する制御プランを、空調機器6に新たに適用する制御プランとして決定する。機器制御部2は、この制御プランに基づいて制御設定値TsetをTbef3に下げ、維持時間tα後に時刻t3以前の制御設定値Tset=Tbef2に復帰させる。
【0066】
次に、時刻t4において「寒い」という定時的要望c1が発生したとき、制御プラン決定部3は、定時的要望に対応する制御プランを、空調機器6に新たに適用する制御プランとして決定する。機器制御部2は、この制御プランに基づいて制御設定値TsetをTbef1に上げる。
【0067】
以上のように、本実施の形態では、申告者の周囲環境の状態を示す環境状態量を算出して、環境状態量から不満足度を推定し、この不満足度に基づいて、申告者からの要望が一時的要望か定時的要望かを判別する。これにより、本実施の形態では、申告者からの要望を定時的要望と判別した場合には、この要望に対応する設備制御動作を持続的に行って環境改善を持続し、申告者からの要望を一時的要望と判別した場合には、この要望に対応する設備制御動作を一時的に行なって、一時的な環境改善を実施する。
【0068】
このとき、環境状態量を横軸にとり、不満足度を縦軸にとったときの不満足度分布は上記のような特徴に従うので、特定の個人が設備制御動作を一方向的(例えば空調設備において室温を下げる側)に動作させるような要望申告が継続した場合、非矛盾申告と判別される間は持続的に環境が改善されるが、この環境改善に伴って、さらなる同一方向の要望申告の妥当性が減少するので、やがては矛盾申告に転じることになる。そして、矛盾申告に転じれば設備制御動作は一時的なものとなるため、極端な室内環境に推移する可能性を低減することができる。
【0069】
以上により、本実施の形態では、消費エネルギーの不必要な増加を抑制することができ、室内環境改善の必要性が高い場合に室内環境を確実に改善することができると共に、特定の個人の申告の継続による極端な室内環境への推移を回避することができる。
【0070】
本実施の形態では、環境状態量管理部51が環境状態量であるPMVから不満足度であるPPDを算出しているが、これに限るものではなく、環境状態量と不満足度との予め設定された関係に基づいて、環境状態量から不満足度を求めるようにしてもよい。つまり、
図6に示したような不満足度分布曲線を環境状態量管理部51に登録しておけば、環境状態量管理部51の不満足度導出部(不図示)は、環境状態量であるPMVから不満足度であるPPDを求めることができる。
【0071】
不満足度分布曲線自体をすべて登録する必要はなく、環境状態量と不満足度としきい値との関係が明確であれば、不満足度分布のうち、要望の判別に必要な代表的特徴を形成するポイントを環境状態量管理部51に登録しておくだけでも構わない。すなわち、例えば
図8の例であれば、しきい値Hth(1),Hth(−1)付近の情報を登録しておけば、本実施の形態における要望の判別処理は実現可能である。
【0072】
また、本実施の形態の制御では、維持時間tαを一律としたが、要望の妥当性を識別する際のしきい値に対応するポイント(
図8におけるしきい値Hth(1),Hth(−1)と不満足度分布曲線との交点)と環境状態量管理部51が求めたPPDの値との距離が長いほど、維持時間tαを短く変更してもよい。
【0073】
なお、PMV>0は「暑い」環境を示し、PMV<0は「寒い」環境を示している。よって、PMV>0側に示されている不満足度は「暑い」に対する不満足度であり「寒い」に対する不満足度はPMV=0における不満足度の最小値より大きくはない。すなわち、PMV>0側では「暑い」の不満足度と「寒い」の不満足度との大小関係は「暑い」>「寒い」という意味になる。同様に、PMV<0側に示されている不満足度は「寒い」に対する不満足度であり「暑い」に対する不満足度はPMV=0における不満足度の最小値より大きくはない。すなわち、PMV<0側では「暑い」の不満足度と「寒い」の不満足度との大小関係は「暑い」<「寒い」という意味になる。なお、現実には個人の感じ方の差異などから、「暑い」という要望と「寒い」という要望とが同じ環境状態量において明確に混在する場合が珍しくない。このような場合を想定した場合に設定する不満足度分布の例を
図11に示す。「暑い」という要望に対しては、
図11の110で示す不満足度分布を使用すればよく、「寒い」という要望に対しては、
図11の111で示す不満足度分布を使用すればよい。これにより、
図8と等価の動作を実現することができる。
【0074】
また、夏季や冬季など「暑い」側、「寒い」側いずれかの不満のみを想定する場合には
図11に示した不満足度分布110,111のうち、想定する側に対応する不満足度分布のみを利用すればよい。
【0075】
以上のことから、
図8と
図11の特徴を整理すると、以下のように記述できる。
(1)申告者が暑いと感じた場合の不満足度Aは、横軸片方向の端値側X1に不満足度Aの最大値Amaxがあり、端値側X1の横軸逆方向の端値側X2に不満足度Aの最小値Aminがあり、最小値Aminから最大値Amaxまでは単調な分布であること。
【0076】
(2)申告者が寒いと感じた場合の不満足度Bは、不満足度Aの最大値側である横軸片方向の端値側X1に不満足度Bの最小値Bminがあり、不満足度Aの最小値側である横軸逆方向の端値側X2に不満足度Bの最大値Bmaxがあり、最小値Bminから最大値Bmaxまでは単調な分布であること。
【0077】
(3)最小値Aminから最大値Amaxあるいは最小値Bminから最大値Bmaxの間において、不満足度Aと不満足度Bの大小関係が、反転する関係で分布すること。
(4)不満足度Aと不満足度Bを合わせた特徴として、中央付近が最小値となり、左右方向に数値が上昇する不満足度分布。
【0078】
したがって、環境状態量管理部51の不満足度導出部(不図示)は、環境状態量に応じた不満足度を推定する際に、申告者が暑いと感じた場合の不満足度Aと申告者が寒いと感じた場合の不満足度Bとを求め、判別処理部53は、不満足度Aが不満足度Bよりも大きいときに申告者から寒いと申告される要望、あるいは不満足度Aが不満足度Bよりも小さいときに申告者から暑いと申告される要望を一時的要望と判別し、他の要望を定時的要望と判別すればよい。
【0079】
不満足度導出部は、申告者が暑いと感じた場合の不満足度Aと申告者が寒いと感じた場合の不満足度Bとを、それぞれ別個に定められた2つの式を用いて環境状態量から個別に算出すればよい。あるいは、不満足度導出部は、「暑い」という要望に対応する所定の不満足度分布(
図11の110)から環境状態量に応じた不満足度Aを求め、「寒い」という要望に対応する所定の不満足度分布(
図11の111)から環境状態量に応じた不満足度Bを求めるようにしてもよい。
【0080】
また、判別処理部53は、申告者が暑いと感じる側に環境状態量が変化し且つ不満足度Aの一定時間当たりの変化量が所定の第1の値以上のときに申告者から寒いと申告される要望、あるいは申告者が寒いと感じる側に環境状態量が変化し且つ不満足度Bの一定時間当たりの変化量が所定の第2の値以上のときに申告者から暑いと申告される要望を一時的要望と判別し、他の要望を定時的要望と判別してもよい。例えば
図11において、環境状態量が暑い側に変化している最中で且つ110の不満足度分布から求めた不満足度Aの一定時間当たりの変化量が所定の第1の値以上のときに、申告者から寒いという要望があった場合には、この要望を一時的要望と判別する。また、環境状態量が寒い側に変化している最中で且つ111の不満足度分布から求めた不満足度Bの一定時間当たりの変化量が所定の第2の値以上のときに、申告者から暑いという要望があった場合には、この要望を一時的要望と判別する。第1の値と第2の値は、同じ値でもよいし、異なる値でもよい。上記のとおり、不満足度導出部は、不満足度A,Bを算出してもよいし、予め登録された不満足度分布(
図11の110,111)から不満足度A,Bを求めてもよい。
【0081】
なお、実際の実行処理においては、「暑い」に相当する不満足度Aか「寒い」に相当する不満足度Bのいずれか1つを用いて不満足度の数値判定を行えば、等価な処理が行える。また、予め登録される不満足度分布は、不満足度Aと不満足度Bの全てある必要はなく、代表的特徴を形成する一部であってもよい。
【0082】
本実施の形態で説明した要望判別型空調制御装置1は、CPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。