(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6170911
(24)【登録日】2017年7月7日
(45)【発行日】2017年7月26日
(54)【発明の名称】組織中のターゲット分子を検出および定量するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20170713BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20170713BHJP
G01N 1/38 20060101ALI20170713BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20170713BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20170713BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N33/48 P
G01N1/28 T
G01N1/28 Y
G01N1/00 102C
G01N27/62 V
G01N27/62 D
【請求項の数】21
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-513236(P2014-513236)
(86)(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公表番号】特表2014-520259(P2014-520259A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】FR2012051205
(87)【国際公開番号】WO2012164221
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年5月22日
(31)【優先権主張番号】1154731
(32)【優先日】2011年5月31日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513237803
【氏名又は名称】イマビオテク
【氏名又は名称原語表記】IMABIOTECH
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135873
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100122736
【弁理士】
【氏名又は名称】小國 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100132540
【弁理士】
【氏名又は名称】生川 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(72)【発明者】
【氏名】スタウバー,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ボネル,ダヴィド
【審査官】
赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/041459(WO,A1)
【文献】
特開2004−157124(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0096907(US,A1)
【文献】
J. Sa. Becker et al.,Elemental imaging mass spectrometry of thin sections of tissues and analysis of brain proteins in gels by laser ablation inductively coupled plasma mass spectrometry,physica status solidi,2007年 5月,Volume 4, Issue 6,pages 1775-1784
【文献】
Prabhakar Sripadi et al.,In vitro analysis of metabolites from the untreated tissue of Torpedo californica electric organ by mid-infrared laser ablation electrospray ionization mass spectrometry,Metabolomics,2008年12月14日,5,263-276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/38
G01N 27/62
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)スライス中のターゲット分子の量を表すシグナルを得るために、組織スライスを分析するステップ;
b)(i)検出および定量法を適用しなければならない組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(ii)標準分子を、ステップ(i)からの第1の組織ホモジェネート試料と混合すること(該標準分子は、第1の既知濃度である);
(iii)該組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするために、ステップ(ii)から得られた第1の組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(iv)ステップ(i)からの少なくとも1個の第2の組織ホモジェネート試料および第1の濃度と異なる第2の既知濃度の標準分子を用いてステップ(ii)および(iii)を繰り返すこと;
(v)該試料分子の各濃度について組織中の標準分子の量を表すシグナルを得るために、ステップ(iii)から得られた各コンディショニングされた組織ホモジェネート試料の少なくとも1枚のスライスを分析すること;
を含むステップにしたがって得られた、該組織について標準分子の希釈範囲を用いることによって、組織中のターゲット分子の量を決定するステップ;
を含む、少なくとも1個の組織中の少なくとも1種のターゲット分子を定量するための方法。
【請求項2】
組織ホモジェネート試料をコンディショニングするステップ(iii)が、該組織ホモジェネート試料を凍結および/またはコーティングすることにある、請求項1記載の定量法。
【請求項3】
分析ステップ(v)が、質量分析による分析、蛍光による分析、またはオートラジオグラフィーによる分析にある、請求項1および2の一項記載の定量法。
【請求項4】
(vi)コンディショニングするステップ(iii)の前に、ステップ(ii)からの組織ホモジェネート試料および標準分子を均質化すること
にある追加的なステップを含む、請求項1〜3の一項記載の定量法。
【請求項5】
ステップ(iii)から得られた組織ホモジェネート試料が、対応する全組織と同一の密度および/または組織消衰係数を示す、請求項1〜4の一項記載の定量法。
【請求項6】
少なくとも2種の異なるターゲット分子が組織において、同時に検出および定量され、各組織ホモジェネート試料に添加された少なくとも2種の異なる標準分子を標準範囲の調製のステップ(ii)のために使用することによって、標準範囲が各ターゲット分子について作製され、各濃度について組織中の各標準分子の量を表すシグナルを得るために、ステップ(v)の分析が各標準分子について行われて、かつターゲット分子の量の決定のステップb)が、対応する希釈範囲を用いることによって各ターゲット分子について行われる、請求項1〜5のいずれか一項記載の定量法。
【請求項7】
少なくとも2個の異なる組織が分析され、各組織について標準分子を表すシグナルを得るために、標準範囲の調製のステップ(i)〜(v)が各組織について行われて、ターゲット分子の量の決定のステップb)が、対応する希釈範囲を用いることによって各組織について行われる、請求項1〜6の一項記載の定量法。
【請求項8】
ターゲット分子が、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、核酸、脂質、薬物、薬学的もしくは生物学的活性分子、または代謝物である、請求項1〜7の一項記載の定量法。
【請求項9】
分析される組織が、動物または植物の生物学的組織である、請求項1〜8の一項記載の定量法。
【請求項10】
ステップa)が、質量分析による分析にあり、ターゲット分子の質量スペクトルに関連するシグナルが、該質量スペクトルのピーク強度、ピーク面積またはシグナル/ノイズ比に対応する、請求項1〜9の一項記載の定量法。
【請求項11】
希釈範囲の調製のために使用される標準分子が、ターゲット分子に対応する、請求項1〜10の一項記載の定量法。
【請求項12】
質量分析イメージングが用いられ、ターゲット分子からのシグナル強度が、組織スライス中のターゲット分子の分布および濃度を同時に視覚化することを可能にする、請求項1〜11の一項記載の定量法。
【請求項13】
各組織に特異的な希釈範囲によって動物の異なる組織中の該ターゲット分子の分布を同時に比較するために、ターゲット分子が、動物全体のスライス上から直接検出および定量される、請求項1〜12の一項記載の定量法。
【請求項14】
組織中の少なくとも1種のターゲット分子を該組織スライスから検出および/または定量するための方法を検証するための方法であって、
(x)検出および/または定量法を適用しなければならない組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(xi)標準分子を、ステップ(x)からの少なくとも2個の組織ホモジェネート試料と混合すること(該標準分子は、少なくとも2個の組織ホモジェネート試料について同じ既知濃度である);
(xii)該組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(xi)から得られた組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(xiii)各スライスについて組織中の標準分子を表すシグナルを得るため、ステップ(xii)から得られた各組織ホモジェネート試料の少なくとも1枚のスライスを分析すること;
(xiv)各スライスについて得られたシグナルを相互に比較すること;
を含むステップを含む、方法。
【請求項15】
組織中から検出できるターゲット分子の最小量を評価するための方法であって、3以上のシグナル/ノイズ値を示す、検出できる最小シグナルが、
(i)検出できるターゲット分子の最小量を評価するべき組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(ii)標準分子を、ステップ(i)からの第1の組織ホモジェネート試料と混合すること(該標準分子は、第1の既知濃縮物である);
(iii)該組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(ii)から得られた第1の組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(iv)ステップ(i)からの少なくとも1個の第2の組織ホモジェネート試料および第1の濃度と異なる第2の既知濃度の標準分子を用いてステップ(ii)および(iii)を繰り返すこと;
(v)該標準分子の各濃度について組織中の標準分子の量を表すシグナルを得るために、ステップ(iii)から得られた各コンディショニングされた組織ホモジェネート試料の少なくとも1枚のスライスを分析すること;
を含むステップにより得られたターゲット分子の特異的な希釈範囲および組織から確認される、方法。
【請求項16】
組織中の定量できるターゲット分子の最小量を評価するための方法であって、最小検出可能シグナルのシグナル/ノイズ値の3倍以上のシグナル/ノイズ値を示す最小シグナルが、
(i)定量できるターゲット分子の最小量を評価するべき組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(ii)標準分子を、ステップ(i)からの第1の組織ホモジェネート試料と混合すること(該標準分子は、第1の既知濃度である);
(iii)該組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(ii)から得られた第1の組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(iv)ステップ(i)からの少なくとも1個の第2の組織ホモジェネート試料および第1の濃度と異なる第2の既知濃度の標準分子を用いてステップ(ii)および(iii)を繰り返すこと;
(v)該標準分子の各濃度について組織中の標準分子の量を表すシグナルを得るために、ステップ(iii)から得られた各コンディショニングされた組織ホモジェネート試料の少なくとも1枚のスライスを分析すること;
を含むステップにより得られたターゲット分子の特異的な希釈範囲および組織から確認される、方法。
【請求項17】
関心対象の組織中の少なくとも1種のターゲット分子を該組織スライスから検出および/または定量するための方法の質および/または再現性を管理するための方法であって、
(xx)関心対象の組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(xxi)既知濃度の標準分子を、ステップ(xx)からの組織ホモジェネート試料と混合すること;
(xxii)該コンディショニングされた組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(xxi)から得られた組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(xxiii)毎回、ステップ(xxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスについて標準分子を表すシグナルおよび関心対象の組織についてターゲット分子を表すシグナルを得るため、分析するべき関心対象の組織の各スライスについて、同時にステップ(xxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスを分析すること;
(xxiv)ステップ(xxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料の各スライスについて得られたシグナルを比較すること;
を含むステップを含む、方法。
【請求項18】
関心対象の組織中の少なくとも1種のターゲット分子を相対的に定量するための方法であって、
(xxx)関心対象の組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(xxxi)既知濃度の標準分子を、ステップ(xxx)からの組織ホモジェネート試料と混合すること;
(xxxii)コンディショニングされた組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(xxxi)から得られた組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(xxxiii)毎回、ステップ(xxxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスについて標準分子を表すシグナルおよび関心対象の組織についてターゲット分子を表すシグナルを得るため、分析するべき関心対象の組織の各スライスについて、同時にステップ(xxxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスを分析すること;
(xxxiv)分析するべき関心対象の組織の各スライスについて、再構成された組織中の標準分子からのシグナルに対する関心対象の組織中のターゲット分子からのシグナルの比を計算すること;
(xxxv)関心対象の組織の各スライスについて得られた比を比較して、ターゲット分子の相対定量を得ること;
を含むステップを含む、方法。
【請求項19】
コンピューターシステムが請求項1〜13のいずれか一項記載の方法のステップb)ならびに/または請求項17記載のステップ(xxiv)ならびに/または請求項18記載のステップ(xxxiv)および/もしくはステップ(xxxv)を実行することを可能にするために適切な、コンピューターによって実行することができる命令を含むコンピューター可読データ媒体。
【請求項20】
少なくとも2個の異なる組織について少なくとも1種の標準分子の希釈範囲のデータベースを含む、請求項19記載のコンピューター可読データ媒体。
【請求項21】
質量分析イメージングに使用される少なくとも1種のマトリックスの参照シグナルのデータベースを含む、請求項19または20記載のコンピューター可読データ媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、組織についての分子の希釈範囲の調製、および前記組織中の前記分子を例えば質量分析によって定量するためのそのような希釈範囲の使用に関する。本発明による希釈範囲は、関心対象の組織中の定量するべき分子の特異的挙動を考慮する。より具体的には、本発明は、質量分析イメージング、特にMALDIイメージングを用いることによって、組織表面で直接ターゲット分子を検出および/または定量することを可能にする方法を提供する。本発明は、また、検出および/または定量法を検証するための方法、ならびに検出および/または定量法の質および/または再現性を管理するための方法に関する。
【0002】
全般に、本発明は、組織中の分子の検出および/または定量が有用/必要な分野の全体にわたり適用可能である。本発明は、例えば、異なる生物学的組織中の医薬の分布および薬物動態を研究するための薬学的分野に適用可能である。同様に本発明は、生物医学分野において、例えば所与の瞬間に病理学的組織中から所与のバイオマーカーを検出、確認および追跡するために適用可能である。本発明は、また、農芸化学分野において、例えば植物における植物衛生産品などの分子の毒性および分解を評価するために適用可能である。
【0003】
技術の現状
現在、試料中、特に組織中の分子を検出および確認するために様々な技法が使用されている。例えば、質量分析は、広く公知の技法であって、試料中の関心対象の分子を検出および確認するために、化学および生化学分析に使用される。目下数年にわたり、MALDIイメージングなどの質量分析による分子イメージングが開発途中であり、関心対象の分子の分布を生物学的組織スライス上に直接可視化することを可能にしている。MALDIイメージングは、その非常に高い感度から、非常に大きい数の異なる分子の分布を同時に、組織表面上に直接可視化することを可能にする。薬学的分野では、この技法は、例えば、異なる処置時間で異なる器官における分子の分布を比較することを可能にする。
【0004】
しかし、このように瞬間tで検出された分子の定量が望まれる場合、このイメージング技法を、従来法または機器法に基づく定量化学分析と連結しなければならない。この第2の定量ステップは、操作エラーおよび解釈エラーの発生源である。さらに、このステップは、関心対象の分子の存在と、組織中でのその量的分布とを直接対比することを可能にしない。
【0005】
さらに、所与の濃度の所与の分子は、それが検出される組織に応じて同じ強度のシグナルを発するわけではない。同様に、所与の組織中の2種の異なる同一濃度の分子は、異なるシグナル強度を示す。
【0006】
この現象は、各分子および各組織に特異的な組織消衰係数(TEC)、または組織効果、またはさらにはイオン抑制効果の存在によって説明することができる。TECは、不活性分析支持体上の前記分子からのシグナルに対する、その組織および/またはその組織中のその位置に応じた所与の分子からのシグナルの強度における損失または利得を表す。TECは、いくつかの要因に、特に組織(動物または植物)の性質、化学的環境、組織の化学処理の有無などに依存する。このTECの存在は、分析時に、特に質量分析において、組織中の分子によって発されるシグナルの強度を解釈することを困難にする。
【0007】
発明の概要
本発明は、所与の組織について所与の分子の希釈範囲または標準範囲を調製することを可能にする方法を提案する。本発明による標準範囲は、断片化された組織からの、関心対象の組織の再構成物のスライスを使用することによって調製される。本発明者らは、所与の分子がそのような再構成された組織中および対応する全組織中で同等の様式で挙動することを発見した。質量分析による分析の場合、再構成された組織中の分子の質量スペクトルは、対応する全組織中の同濃度の同分子の質量スペクトルと実質的に同一である。同様に、蛍光による分析の場合、再構成された組織中の、ラベルされた分子によって発される蛍光シグナルの強度は、対応する全組織中の同濃度の同じラベルされた分子によって発される蛍光シグナルの強度と実質的に同一である。また、所与の組織中の所与の分子の定量分析のために本発明による標準範囲を用いることによって、TECを考慮に入れる必要がない。前記組織中の前記分子の分析で得られたシグナルは、対応する標準範囲のシグナルと直接相関されうる。
【0008】
本発明は、また、検出法に関係なく、特にイオン化、放射能または蛍光によって、組織中のターゲット分子を検出および/または定量するための方法を提案する。例えば、本発明による方法は、組織中の前記ターゲット分子の分布および量の画像を再構成するために、分子の質量スペクトルにリンクしたシグナルを、組織スライス上に直接、自動取得することを可能にする質量分析または質量分析イメージングを利用する。このために、本発明によると、ターゲット分子または類似の物理型学的性質を示す分子の希釈範囲が使用され、分析するべき組織と同一の組織から再構成された組織スライスを使用することによって作製される。次に、その希釈範囲からの結果との直接比較によって、組織中の分子の正確な定量が可能である。
【0009】
本発明は、また、組織スライスを使用することによって、組織中のターゲット分子を検出および/または定量するための方法を検証するための方法を提案する。本発明による検証法は、所与の組織および所与の分子に関して、前記組織スライス上で前記分子について直接得られた分析結果が、組織効果とは無関係に前記組織を表すことをチェック可能にする。
【0010】
本発明は、また、組織スライスを使用することによって、組織中のターゲット分子を検出および/または定量するための方法の質および/または再現性を管理するための方法を提案する。そのような方法は、特に例えば異なる分析間で関心対象の化合物を相対的に定量するために、各分析に関して得られた値をこの品質管理に対して基準化(normalize)することによって、実験の変動性を追跡および/またはそれらを考慮することを可能にする。
【0011】
したがって、本発明の主題は、組織について少なくとも1種の標準分子の希釈範囲を調製するための方法であって、
(i)組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(ii)標準分子をステップ(i)からの第1の組織ホモジェネート試料と混合すること(前記標準分子は、第1の既知濃度である);
(iii)前記コンディショニングされた組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(ii)から得られた第1の組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(iv)ステップ(i)からの少なくとも1個の第2の組織ホモジェネート試料および第1の濃度と異なる第2の既知濃度の標準分子を用いてステップ(ii)および(iii)を繰り返すこと;
(v)標準分子の濃度のそれぞれについて組織中の前記標準分子の量を表すシグナルを得るため、ステップ(iii)から得られた各コンディショニングされた組織ホモジェネート試料の少なくとも1枚のスライスを分析すること;
を含むステップを含む方法である。
【0012】
本発明による方法は、動物であろうと植物であろうと、任意の生物学的組織に適用することができる。「組織」は、一般に、同起源の細胞の集合であって、同じ機能に寄与する機能的集合に一緒に分類される集合と理解すべきである。ある場合には、組織は、器官または器官の一部と理解することができる。
【0013】
標準分子は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、代謝物、薬物などの小分子等でありうる。より一般に、標準分子は、任意の薬学的、生物学的または他の活性分子でありうる。ステップ(v)で行わなければならない分析に応じて、標準分子は、ラベルされていないか、またはラベルされている場合があり、特に放射性ラベルもしくはGFP(緑色蛍光タンパク質)などの蛍光分子でラベルされている場合がある。
【0014】
破砕するステップ(i)では、組織は、多かれ少なかれ微細なホモジェネート、特に液体、半流動体、のり状物などを形成するようにフラグメント化することができる。組織ホモジェネートは、均質でない場合があり、例えば異なるサイズの組織フラグメントを含みうる。必要に応じて、得られたホモジェネートに均質化溶液、特に水溶液を添加して、前記ホモジェネートが希釈されてより低緻密度になるようにすることが可能である。均質化溶液は、破砕するステップの上流、下流または途中に添加することができる。
【0015】
破砕は、任意の手段によって、特に手動で、または機械的に行うことができる。例えば、組織ホモジェネートは、ブレンダーを使用して剪断することによって、または乳棒を使用して圧砕することによって得られる。
【0016】
本発明によると、ステップ(i)で使用される組織は、有利には、腎臓、肝臓などの器官である。全器官または前記器官の一部だけを区別せずに使用して標準範囲を作製することができる。組織は、作製するべき標準範囲内の希釈点と少なくとも同数の組織ホモジェネート試料に細分される前に、破砕することができる。破砕する前に前記組織の分割を続行し、各試料を個別に破砕することも可能である。標準範囲の各希釈点について、全体であろうとなかろうと、1個または複数の異なる器官を使用することも可能であり、それらの器官は、毎回、同一の性質および起源の、同じ一つ(one and the same)の系列の作製のために使用される。例えば、4個の希釈点または濃度を含む、ラット肝臓中の分子の標準範囲の作製のために、各濃度について新規なラット肝臓が使用される。
【0017】
少なくとも異なる2濃度の標準分子の調製物が作製される。例えば、標準分子が異なる既知濃度の可溶化溶液(水溶液または溶媒含有溶液)中に入れられて懸濁状態にされる。次に、それぞれ異なる既知濃度の前記標準分子を有する同量の溶液が、組織ホモジェネートの各試料に添加される。別の例では、標準分子が可溶化溶液中に入れられて懸濁状態にされ、異なる量の前記溶液が組織ホモジェネートの各試料に添加される結果、ステップ(ii)から得られた各組織ホモジェネート試料は、異なる既知濃度の前記標準分子を有する。優先的に、希釈範囲は、2から10個の間の希釈点を含む。
【0018】
有利には、組織ホモジェネート試料中に標準分子の均一な分布を得るために、コンディショニングするステップ(iii)の前に均質化するステップが提供される。この均質化するステップは、例えば、ボルテックスなどのミキサーを使用して行うことができる。
【0019】
一態様では、ステップ(i)、(ii)および、適切な場合、均質化するステップは、連続的に実施され、これらのステップの全てまたは一部を同時に行うことが、明らかに可能である。例えば、組織は、標準分子を含有する溶液と共に破砕される。
【0020】
コンディショニングするステップ(iii)は、組織ホモジェネート試料を処理および/または形成して、前記ホモジェネートの少なくとも1枚のスライスを得るためにそれを切断可能にすることにある。
【0021】
例えば、コンディショニングは、組織ホモジェネート試料を凍結するステップを含む。このために、組織ホモジェネート試料は、例えば、任意の形状の型内に入れられ、次にその全体が任意の適切な技法によって凍結される。例えば、前記型は、全ての塊の瞬間凍結を誘発するために液体窒素中に浸漬され、次に、切断するステップまで−18℃で保たれる。
【0022】
別の例では、コンディショニングするステップは、組織ホモジェネートの前記試料を、特にパラフィン、樹脂またはゼラチン中でコーティングすることにある。コーティングは、組織ホモジェネート試料を完全に取り囲む被覆を意味すると理解すべきである。コーティングするステップは、特に型を使用することによって実施することができる。
【0023】
明らかに、凍結するステップに、コーティングするステップが続きうる。
【0024】
コンディショニングの選択は、特に、組織ホモジェネート試料の状態に依存しうる。例えば、ステップ(ii)から得られた組織ホモジェネートが液体ならば、組織ホモジェネート試料を凍結して、その後切断可能にすることが有利に選択されよう。ホモジェネートが粗破砕組織または緻密なペーストから成る場合、パラフィンまたは類似物中でのコーティングが、それを切断可能にするために十分でありうる。
【0025】
一態様では、同じ一つの標準範囲の組織ホモジェネート試料の全部または一部をコンディショニングするために同じ型を使用することが可能である。この場合、型は、異なる試料間の物理的分離を可能にする異なる小室を含む。有利には、小室を区切る仕切りは、取り外し可能であり、かつ/または組織ホモジェネート試料と同じ条件で切断することができる材料でできている。したがって、作製される希釈範囲の連続する組織ホモジェネート試料をそれぞれ含む型の内容物からスライスを作製することが可能である。優先的に、組織ホモジェネート試料は、連続する小室内に連続する漸増(または漸減)濃度で配置される。
【0026】
コンディショニングした後、組織ホモジェネート試料が切断され、かつ/または分析ステップ(v)に使用されるまで、優先することなく、それらの試料をそれらの型内で、または型から取り外して、コンディショニングの条件で、例えば凍結して維持するか、またはそれらの完全性が維持されることを保証する条件で(例えば約+5℃の温度で)保持することができる。
【0027】
有利には、ステップ(iii)から得られた組織ホモジェネート試料は、対応する全組織の試料と同一の密度を示す。同様に、有利には、ステップ(iii)から得られた組織ホモジェネート試料は、対応する全組織の試料と同一の組織消衰係数(TEC)を示す。
【0028】
「密度」は、組織または組織ホモジェネート試料の体積あたり質量を意味すると理解すべきである。
【0029】
「全組織」は、組織ホモジェネート試料を作製するために使用される組織と同一の組織であって、前記組織に固有の質/性質を保持する組織を意味すると理解すべきである。
【0030】
分析ステップ(v)は、コンディショニング済みホモジェネート試料から予め作製された組織ホモジェネート試料のスライスに対して行われる。質量分析、蛍光による分析、オートラジオグラフィー等の、組織スライスについての分子分析を可能にする任意の技法を、ステップ(v)のために使用することができる。
【0031】
一般に、スライスは、組織(再構成組織または全組織)の切片であると理解される。また、分子分析、特に定量分子分析、例えば分光計または顕微鏡を用いる分析と適合性の全ての寸法のスライスを使用することができる。有利には、スライスは、2μmから50μmの間、特に約20μmの厚さを有する。厚さは、スライスの面に対して直角方向の寸法と理解される。
【0032】
本発明の方法の実施例によると、スライスは分析ステップの前に加工することができる。例えば、予め凍結またはコーティングされた組織ホモジェネート試料から得られたスライスの乾燥を続行することが可能である。予め凍結された組織ホモジェネート試料から得られたスライスの場合、前記スライスの凍結乾燥を続行することが可能である。例えば、スライスは、分析ステップの前に−18℃で一晩放置される。
【0033】
組織スライスは、まだ凍結している組織ホモジェネート試料から、または解凍後の前記試料から作製することができる。有利には、所与の希釈範囲の作製のために、同じコンディショニングおよび可能なその後の処理(1回または複数)が組織ホモジェネートの全試料に適用される。優先的に、所与の標準範囲の作製のために使用される全てのスライスは、実質的に同一の厚さである。
【0034】
有利には、組織ホモジェネート試料のスライスは、スライドなどの支持体上に置かれ、それらを分光計、顕微鏡、または類似物に導入できるようにされる。優先的に、所与の標準範囲の作製のために使用される全てのスライスは、行うべき分析のために同一の支持体上に配置される。
【0035】
一般に、同じ一つの希釈範囲の組織ホモジェネートの全ての試料に対して同じ分析条件が有利に適用される。分析条件は、特に、分析のために使用される装置に適用される設定およびパラメーター、ならびに可能な洗浄ステップ、分光光度分析の場合のマトリックスの付着(deposition)などの試料調製条件を意味すると理解すべきである。
【0036】
その系列の組織ホモジェネート試料の各スライスについて、その分子の量を表すシグナルが得られた後、希釈範囲を表す検量線を描出することが可能である。
【0037】
例えば、質量分析による分析の場合、検量線をプロットするために、ターゲット分子の質量スペクトルに関連する同じ一つのシグナルが、全ての希釈点について選択される。シグナルは、特に前記質量スペクトルのピーク強度、ピーク面積またはシグナル/ノイズ比でありうる。
【0038】
オートラジオグラフィーによる分析の場合、例えば炭素14で放射性ラベルされた標準分子によって放射される放射能の強度が使用される。蛍光による分析の場合、蛍光分子によってラベルされた標準分子の発光強度が使用される。
【0039】
本発明の方法の一態様では、少なくとも2個の異なる標準範囲が同時に作製される。
【0040】
例えば、少なくとも2種の異なる標準分子が、ステップ(ii)で各組織ホモジェネート試料に添加され、組織中の各標準分子の標準分子の量を表すシグナルを各濃度について得るために、ステップ(v)の分析が各標準分子について行われる。
【0041】
各標準分子は、所与の濃度で所与の組織ホモジェネート試料に添加され、その濃度は、前記組織ホモジェネート試料中の他方の分子の濃度と異なりうる。
【0042】
本発明による希釈範囲は、所与の信頼レベルまたはLOD(検出限界)で組織中で検出できる最小量の標準分子を計算するために使用することができる。このために、検出限界内で検出できる、すなわち3以上のシグナル/ノイズ値を示す、最小シグナルが、希釈範囲上に確認される。
【0043】
同様に、標準範囲は、所与の信頼レベルまたはLOQ(定量限界)で組織中から定量できる最小量の標準分子を計算するために使用することができる。この(シグナル/ノイズ)値は、LOD値の3倍(LOQ=3LOD)に等しい国際レベルであって、少なくとも10に等しい国際レベルに固定される。
【0044】
本発明による希釈範囲は、また、分子の検出および/または定量に及ぼす、スライス厚さおよび/またはマトリックスの性質および/または前記マトリックスの付着様式の影響を評価するために使用することができる。したがって、組織および/または分子に応じて、最適なスライス厚さおよび/または最も適切なマトリックスを決定することが可能である。
【0045】
本発明の方法により得られた希釈範囲は、また、組織の分析において前記組織中のターゲット分子を定量するために使用することができる。
【0046】
したがって、本発明の主題は、関心対象の組織中のターゲット分子を定量するための、再構成された組織中への標準分子の希釈範囲の使用であって、ここで、関心対象の組織は、その希釈範囲の再構成された組織と同一である。
【0047】
同様に、本発明の主題は、関心対象の少なくとも1個の組織中の少なくとも1種のターゲット分子を検出および定量するための方法であって、
a)前記スライス中のターゲット分子の量を表すシグナルを得るため、関心対象の組織スライスを分析するステップ;
b)関心対象の組織と同一の再構成された組織中への標準分子の希釈範囲を用いることによって、前記組織中のターゲット分子の量を決定するステップ;
を含む方法である。
【0048】
使用される希釈範囲は、上記ステップ(i)〜(v)にしたがって関心対象の組織と同一の組織を使用して組織ホモジェネートを作製することによって得ることができる。
【0049】
組織は、少なくとも1個の生物学的組織(植物または動物)の少なくとも一部であると理解される。
【0050】
一態様では、生物におけるいくつかの組織、特にいくつかの隣接する組織を含む組織試料中の少なくとも1種のターゲット分子を定量することが可能である。例えば、組織試料のスライスは、動物全体または少なくとも1個の器官もしくは少なくとも1個の器官部分などの動物の一部分のスライスから成りうる。特に、動物全体のスライスの分析は、前記動物の異なる組織中の1種または複数のターゲット分子の分布を同じ一つの試料で比較することを可能にできる。この場合、組織試料の各組織中の所与のターゲット分子の量を決定するために、考慮組織に特異的な前記ターゲット分子の希釈範囲が使用される。
【0051】
ターゲット分子の分析のステップa)は、質量分析などの任意の分析法によって、特に直接質量分析(MS)またはタンデム質量分析(MS
n、MRM、SRM)、蛍光による分析、オートラジオグラフィー等を使用することによって行うことができる。
【0052】
本発明による方法は、有利には質量分析と共に使用することができる。この場合、異なるイオン源、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)、LDI(レーザー脱離イオン化法)、LESA(液体抽出表面分析法)、LAESI(レーザーアブレーションエレクトロスプレーイオン化法)、DESI(エレクトロスプレー脱離イオン化法)、NanoDESI等を、異なる種類のアナライザー、TOF(時間飛行型)、Orbitrap、FTICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)等と組み合わせて使用することが可能である。このイメージング技法は、組織試料中のターゲット分子の空間分布に対応する、前記組織試料について得られたイオン密度マップ上に直接ターゲット分子を定量することを可能にする。実際、前記イオン密度マップ上に得られたシグナルを、対応する希釈範囲に転換する(transfer)ことが可能である。
【0053】
MALDIまたはME−SIMSなどのいくつかの質量分析技法は、分析するべき組織試料のスライスが、まず、UV吸収性の小有機分子を含むマトリックスで被覆されることを必要とする。このマトリックスは、試料上に存在する分子の脱離およびイオン化を可能にする。
【0054】
本発明による方法は、選択されたマトリックスに関係なく使用することができる。これらのマトリックスは、固体形態(試料上での結晶化)または液体形態をとり、イオン性または非イオン性であると言われている。マトリックスの選択は、分析される質量系列(mass series)に応じて行われる。それらは、たいてい、溶媒−水溶液混合物中に即時調製される。
【0055】
いくつかのマトリックス付着法、特にピペットを使用するマニュアル付着が可能であり、それは、正確な体積のマトリックスを組織上に直接付着可能にする。噴霧または気化によってマトリックスを付着させることも可能であり、そのマトリックスは、ロボットを使用してまたは手作業により組織試料上に直接噴霧または気化される。同様に、マトリックスが圧電システム、音響シスレムまたはシリンジポンプシステムを介して組織試料にスポット状に(in spots)適用される、微小滴による付着を想定することができる。マトリックスを固体形態で付着させるために、マトリックスをふるい分けによって付着させることも可能である。
【0056】
質量範囲および/またはレーザー強度などの実験パラメーターは、有利には、ターゲット分子の検出を強度、感度および分解能に関して最適化するような様式で設定される。
【0057】
次のステップは、前記スライス中のターゲット分子の量を表すシグナルを取得することである。
【0058】
分析が質量スペクトルを取得することにある場合、ステップb)でのシグナル、特に質量スペクトルのピーク強度、シグナル−ノイズ比(S/N)、ピーク面積などの異なるスペクトル特性を使用することができる。明らかに、ターゲット分子を定量するために使用されるスペクトル特性は、標準範囲の調製のために使用されるスペクトル特性と同じである。より一般に、ターゲット分子を定量するために考慮されるシグナル特性は、標準範囲の調製のために使用されるシグナル特性と同じである。
【0059】
ある条件では、さらに、その技法によって決定された基準化係数に基づいて1種または複数のスペクトル特性を基準化することが可能である。
【0060】
例えば、本発明による方法がMALDI型質量分析イメージングを用いる場合、試料上のマトリックス付着の均一性を評価するステップが提供される。実際に、使用されるマトリックスに対応するシグナルは、前記マトリックスの付着の質/均一性に関する情報を与えることができる。次に、試料表面上のマトリックスの欠陥は、考慮試料中のターゲット分子からのシグナルの不検出または強度損失と相関しうる。
【0061】
マトリックスの均一性の評価は、質的基準にしたがって試料表面上の付着の均一性を光学顕微鏡で観察することによって、および/または量的基準にしたがって試料上のマトリックス自体に関するシグナルの変動を追跡することによって、行うことができる。
【0062】
質的基準に関して、確実に、考慮表面上にマトリックスが可能な限り均一に付着すること、マトリックスを欠如する領域がないこと、およびその結晶化が最適であることが不可欠である。
【0063】
マトリックス付着の均一性の量的評価について、マトリックスは、試料の分析時にそのシグナルがターゲット分子からのシグナルと同じ様式で検出される特定分子と見なされる。次に、マトリックス分子からのシグナルは、その参照シグナルと比較される。マトリックスの参照シグナルは、この場合、参照マトリックス付着物上で、すなわちマトリックスの参照シグナルを測定するために特異的に使用される試料および分析支持体上で、マトリックスによって発されるシグナルに対応する。
【0064】
これらの追加的なステップによって、ターゲット分子からのシグナルが検証され、ターゲット分子のスペクトル特性に影響しうる、マトリックス付着物の質の変動を考慮に入れるために基準化される。
【0065】
マトリックス付着物の質は、試料毎に変動するおそれがあるので、このマトリックス効果の算入は、ターゲット分子の経時的な存在傾向を追跡したいという要求がある場合に特に有利でありうる。
【0066】
使用される標準範囲は、ターゲット分子と同一の標準分子を使用して作製することができる。ターゲット分子と異なる標準分子であって、類似の物理化学的性質を有する標準分子を使用することも可能である。希釈範囲の調製のための標準分子として、同位体でラベルされたターゲット分子を使用することも可能である。
【0067】
使用される分析方法に応じて、ターゲット分子をラベルすることができる。例えば、蛍光分析の場合、ターゲット分子は、蛍光分子によってラベルされる。同様に、オートラジオグラフィーによる分析の場合、ターゲット分子は放射性ラベルされる。
【0068】
本発明による方法は、例えば、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、核酸、脂質、代謝物などの全種類の分子の分析のために、一般に任意の薬学的活性分子または他の活性分子のために、特に、質量分析による分析の場合、イオン化できる任意の分子のために、使用することができる。
【0069】
ターゲット分子が高分子量タンパク質である場合、ターゲットモジュールをいくつかのペプチドに分割するために、そのモジュールの酵素的前処理を行うことが可能である。次に、前記タンパク質を代表する、前記酵素消化から得られた少なくとも1種のペプチドについて、検出および定量が行われる。例えば、ターゲットタンパク質を、以前に確認された数個のペプチドに分割するために、トリプシンを使用することができる。
【0070】
同様に、バックグラウンドノイズの原因となる分子を除去するために、検出ステップの前に、分析するべき組織を少なくとも1種の溶媒および/または少なくとも1種の洗剤で処理することが可能である。例えば、クロロホルム中での洗浄は、ある種の脂質を除去することを可能にする。エタノール中での洗浄の方は(for its part)、低質量の分子のより良好な検出を可能にする。これらの2種の洗浄は、有利には、特定の分子、特に、脂質性分子を除去することを可能にし、したがって、これは、組織試料上に新しいイオンを直接検出することに好都合である。
【0071】
本発明による方法は、また、同じ一つの組織上で、および/またはいくつかの組織を含む同じ一つの組織試料上で、少なくとも2種の異なるターゲット分子を同時にまたは同時でなく定量するために使用することができる。次に、それぞれ考慮ターゲット分子および考慮組織に特異的な、異なる希釈範囲が使用される。
【0072】
同様に、いくつかの組織を含む組織試料を質量分析または他の方法により分析することによって、同じ1種のターゲット分子を異なる組織上で同時に検出および定量することができる。この場合、試料の各組織について、例えば動物全体のスライス中の各器官について、対応する組織/器官中の前記ターゲット分子について作製された希釈範囲が使用される。
【0073】
本発明は、また、前記組織スライスから組織中から少なくとも1種のターゲット分子を検出および/または定量する方法を検証するための方法であって、
(x)検出および/または定量法を適用しなければならない組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(xi)標準分子をステップ(x)からの少なくとも2個の組織ホモジェネート試料と混合すること(前記標準分子は、その少なくとも2個の組織ホモジェネート試料について同じ既知濃度である);
(xii)前記コンディショニングされた組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするために、ステップ(xi)から得られた組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(xiii)各スライスについて標準分子を表すシグナルを得るために、ステップ(xii)からの各コンディショニングされた組織ホモジェネート試料の少なくとも1枚のスライスを分析すること;
(xiv)各スライスについて得られたシグナルを相互に比較すること;
を含むステップを含む方法を提案する。
【0074】
そのような方法は、特に検出および/または定量法の上流で、所与の再構成された組織、すなわちコンディショニングされた組織ホモジェネートが対応する全組織を表すことを点検できるようにする。この方法は、所与の分子および所与の試料について本発明による検出および/または定量法の感度を、特にLODによって評価できるようにする。
【0075】
有利には、ステップ(xi)は、少なくとも3個の組織ホモジェネート試料で行われる。
【0076】
ステップ(xiv)で行われたシグナルの比較は、有利には、小数値またはパーセンテージとして与えられた相対標準偏差RSDを計算することによって、所与の組織中で所与の分子の検出および/または定量の再現性を評価することを可能にする。
【0077】
明らかに、希釈範囲の調製について上記に説明したように、組織ホモジェネートを作製する、コンディショニングする、標準分子を調製する、組織および/または標準分子の性質などを分析する等の特定の方法の全てを、検証法の実行のために適用することができる。
【0078】
本発明は、また、関心対象の組織スライスから前記組織中の少なくとも1種のターゲット分子を検出および/または定量するための方法の質および/または再現性を管理するための方法であって、以下のステップ:
(xx)関心対象の組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(xxi)既知濃度の標準分子をステップ(xx)からの組織ホモジェネート試料と混合すること;
(xxii)前記コンディショニングされた組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(xxi)から得られた組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(xxiii)毎回、ステップ(xxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスについて標準分子を表すシグナルおよび関心対象の組織についてターゲット分子を表すシグナルを得るため、分析するべき関心対象の組織の各スライスについて、同時にステップ(xxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスを分析すること;
(xxiv)ステップ(xxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料の各スライスについて得られたシグナルを比較すること;
を含む方法を提案する。
【0079】
したがって、本発明によると、1種以上の化合物を含有するドープされた(doped)組織スライス、特に器官、血液、血漿、血清、尿、植物組織などのスライスを、検出および/もしくは定量研究に関連して行われる各分析用の品質管理として、かつ/または分析装置の性能をモニタリングするために、使用することができる。
【0080】
関心対象の組織は、検出および/または定量を行うべき組織であると理解すべきである。
【0081】
ステップ(xxiii)は、有利には、同じ一つの支持体上に、特に同じ一つのスライド上に、分析するべき関心対象の組織スライスおよびドープされた/コンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスを付着させることによって行われる。したがって、両スライスに対して同じ支持体調製条件(例えば使用されるマトリックス、その付着の質)および分析条件が適用される。
【0082】
ステップ(xxiv)で得られたシグナルの変動を、例えば、対応する加重平均を用いることによって基準化して、マトリックス効果などのパラメーターの変動を考慮に入れることができる。
【0083】
そのような方法は、例えば、分子のバイオアベイラビリティーの時間傾向などをモニタリングするために、あるスライスからのシグナルを別のスライスと単純比較することによる分子の相対定量のために使用することができる。
【0084】
したがって、関心対象の組織中の少なくとも1種のターゲット分子を相対的に定量するための方法であって、以下のステップ:
(xxx)関心対象の組織と同一の組織を破砕して組織ホモジェネートを得ること;
(xxxi)既知濃度の標準分子を、ステップ(xxx)からの組織ホモジェネート試料と混合すること;
(xxxii)前記コンディショニングされた組織ホモジェネート試料をスライスできるようにするため、ステップ(xxxi)から得られた組織ホモジェネート試料をコンディショニングすること;
(xxxiii)毎回、ステップ(xxxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスについて標準分子を表すシグナルおよび関心対象の組織についてターゲット分子を表すシグナルを得るために、分析するべき関心対象の組織の各スライスについて、同時にステップ(xxxii)からのコンディショニングされた組織ホモジェネート試料のスライスを分析すること;
(xxxiv)分析するべき関心対象の組織の各スライスについて、再構成された組織中の標準分子からのシグナルに対する関心対象の組織中のターゲット分子からのシグナルの比を計算すること;
(xxxv)関心対象の組織の各スライスについて得られた比を比較して、ターゲット分子の相対定量を得ること;
を含む方法を提案することも、本発明の一目的である。
【0085】
明らかに、希釈範囲の調製について上記に説明したように、組織ホモジェネートを作製する、コンディショニングする、標準分子を調製する、組織および/または標準分子の性質などを分析する等の特定の方法の全てを、本発明による質および/または再現性を管理するための方法、相対または絶対定量法、ならびに本発明による組織中で検出および/または定量できるターゲット分子の最小量を評価するための方法の実行のために適用することができる。
【0086】
本発明によると、源データの基準化、すなわち組織中のターゲット分子からのシグナルと、それに対応する、同一の再構成された組織中への標準分子の希釈範囲からの濃度との間の定量のための相関は、これらの要因の全てまたは一部を組み入れているコンピュータープログラムによって行うことができる。
【0087】
このコンピュータープログラムまたはデータ再処理ソフトウェアは、有利には、質量分析によるイメージングの場合の画像処理のときに、マトリックス効果または標準(放射性または非放射性)によってこれらの値に重みづけすることができる。
【0088】
有利には、異なる組織のそれぞれについて得られた比の比較によってそれらの組織間での関心対象の化合物の相対定量を行うことを可能にする比に至るため、本発明によるコンピュータープログラムは、関心対象の組織上のターゲット分子の強度を、再構成された組織上の標準分子の強度と比較できる。
【0089】
したがって、本発明の別の主題は、例えば、質量分析による分析から得られた生データの読み取り、および/または検量線の決定および/またはターゲット分子の定量値を得るための後者(検量線)による生データの基準化などの、コンピューターによって実行されうる命令を含むコンピューター可読データ媒体である。有利には、コンピューターによって実行されうるこれらの命令は、コンピューターシステムが、少なくとも、本発明による定量法の少なくともステップb)および/または検出/定量法の質/再現性を管理するための方法のステップ(xxiv)、適切な場合には、本発明による相対定量法のステップ(xxxiv)および/またはステップ(xxxv)のような、ステップ(xxiv)による結果を用いる重み付けステップを実行することを可能にするように適応される。
【0090】
データ媒体は、有利には、少なくとも2個の異なる組織中の少なくとも1種のターゲット分子の少なくとも一つの標準範囲を含む。優先的に、動物全体のスライスなどの生物学的試料の場合、データベースは、前記試料の異なる組織中の少なくとも1種のターゲット分子の希釈範囲を含む。
【0091】
データ媒体は、また、質量分析イメージングに使用される少なくとも1種のマトリックスの参照シグナルのデータベースを含みうる。したがって、データ媒体を実装しているイメージング(imaging implementing)によって試料を分析する場合、マトリックス効果を考慮に入れることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1A】本発明による希釈範囲を調製するための方法を実行する場合に使用することができる、いくつかの区画を有する型(
図1A)の一態様(各区画は、特定濃度の標準分子をドープされた組織ホモジェネート試料を収容することができる)の図示、およびコンディショニングされ、型内で凍結後に型から取り外された組織ホモジェネート試料の図示である。組織ホモジェネートの各試料は、隣接する試料と仕切りによって分離されている。
【
図1B】本発明による希釈範囲を調製するための方法を実行する場合に使用することができる、いくつかの区画を有する型(
図1A)の一態様(各区画は、特定濃度の標準分子を添加された組織ホモジェネート試料を収容することができる)の図示、およびコンディショニングされ、型内で凍結後に型から取り外された組織ホモジェネート試料の図示である。組織ホモジェネートの各試料は、隣接する試料と仕切りによって分離されている。
【
図2】プロプラノロールの濃度(μg/g、x軸)を、質量分析においてプロプラノロールによって発する強度(y軸)の関数として表す、本発明の調製方法によって得られた組織(腎臓)中の標準分子(プロプラノロール)の検量線である。
【
図3】再構成され、同じ一つの濃度のプロプラノロールをドープされた腎臓組織型の品質管理を用いて測定されたMSIにおける分析変動性を示す重み付き直線である。
【0093】
実施例
装置および方法
装置
Sigma-Aldrich製のプロプラノロールを使用して1.10
−10mol/μlプロプラノロール溶液を作製した。
試料中に0、2.8、5.6、11.2、22.4および44.8μg/g(表1)の濃度を得るために、この溶液の6個の異なる正確な部分体積を採取し、これをそれぞれ組織ホモジェネート試料に添加した。
【0094】
組織ホモジェネート試料
Charles River(France)からの体重25〜40gのSwissタイプ雄性マウスを使用した。
【0095】
希釈範囲の調製のために、対照マウス(すなわち特定の処置を全く受けていないマウス)から2個の腎臓を摘出する。予め滅菌し、氷上に置いた容器内で、メスを使って2個の腎臓を機械的に破砕する。腎臓ホモジェネートが得られた後、前記ホモジェネートを1.5mlチューブ6本にざっと分配し、組織ホモジェネートの6試料のそれぞれを秤量する(表1)。
【0096】
各組織ホモジェネート試料に、特定部分体積のプロプラノロール溶液の一つを添加する。
【0097】
下表1には、腎臓ホモジェネートの6試料について全ての特定データを示す。
【0098】
【表1】
【0099】
再構成された組織の調製
前記試料中のプロプラノロールを均一に分布させるため、腎臓ホモジェネート試料を含む各チューブを周囲温度で1時間ボルテックスした。
【0100】
型の長尺方向に連続的な6個の区画102が形成するように、7個の横区切り101を備える、
図1Aに示すようなアルミニウム製型100を使用する(
図1Aの型では区画が3個だけ形成されている)。腎臓ホモジェネートが急速に凍結するように、型を液体窒素中に入れる。次に、型を−80℃に1時間放置する。
【0101】
次に、再構成された組織またはコンディショニング済み組織(すなわち腎臓ホモジェネートの凍結試料)のブロック200を型から取り外す(
図1B)。−22℃に冷却したクリオスタットを使用して、再構成された組織201を厚さ20μmにスライスする。必要に応じ、同じ一つのスライス上にその系列の全ての組織201を仕切り101によって相互に分離されたままに保つか、または所望の再構成組織(1個または複数)に対応する部分をスライスの残りから離しておく。
【0102】
実施例1:「再構成された組織」モデルの検証
本実施例において、目的は、凍結された組織ホモジェネートによって形成された、再構成された組織が、対応する全組織を表すモデルを形成することを実証することである。
【0103】
このために、本発明による再構成された腎臓および全腎臓の密度および分子消衰係数(TEC)を測定および比較する。
【0104】
再構成された組織6番(対照、表1)のスライス10枚を分離し、それぞれを支持体上に置く(スライドITO2)。
【0105】
別の対照マウスから採取した全腎臓から20μmの組織スライスを作製し、周囲温度で保存する。各スライスを支持体上に配置する(スライドITO3)。
【0106】
HP Scanjet G4010スキャナーを用いて2400dpiで支持体を同時スキャンし、画像をjpeg形式で記憶させる。
【0107】
次に、再構成された腎臓のスライスおよび全腎臓のスライスの平均密度を、下表2に説明するように計算する。より具体的には、再構成された腎臓の表面積、高さ、体積および重量の平均値を、対照である再構成された組織スライス10枚のそれぞれについて得られた値から計算する。同様に、全腎臓の表面積、高さ、体積および重量の平均値を、対応するスライス10枚のそれぞれについて得られた値から計算する。
【0108】
2個の組織の密度は、0.04mg/mm
3だけ異なるので、実質的に同一であることが分かる(表2)。
【0109】
再構成された組織および全組織についてTECを計算するために、密度を計算するために使用するスライド10枚の2バッチITO2およびITO3上に、ロボット化システム(SunCollect)を使用して、10pmolプロパノロールを含有するMALDI DHBマトリックス(メタノール/0.1%TFA(1:1)中に40mg/ml)を噴霧する。
【0110】
次に、各組織スライスを、Autoflex speed LRF(Bruker, Daltonics)を使用してMALDIイメージングによって分析する。
【0111】
スライスの各バッチのプロパノロール(m/z260.2)の強度を組織スライスおよび支持体に関して平均する。
【0112】
次に、それぞれスライドおよび組織に関してプロパノロールによって発生するシグナルの強度値を用いることによって、次の数式:
【数1】
に従って、TECを計算することができる。
【0113】
表2に示すように、再構成された腎臓および全腎臓について得られたTECの平均値は同一であることが分かる。
【0114】
したがって、再構成された腎臓は、全腎臓と同じ密度および同じ組織消衰係数を有する。
【0115】
【表2】
【0116】
したがって、プロパノロールは、再構成された腎臓および全腎臓において同一の挙動をする。よって、本発明による分子の希釈範囲の調製のために再構成された組織を使用することは、続いて、対応する全組織中の前記分子を信頼度高く定量することを可能にすることができる。
【0117】
実施例2:腎臓用のプロプラノロールの希釈範囲の調製
一連の腎臓ホモジェネート試料を含み、したがって連続する6濃度のプロプラノロールを(表1に示す順序で)有するスライスを支持体上に置く(スライドITO1)。
【0118】
組織スライス上に、ロボット化システム(SunCollect)を使用して、MALDI DHBマトリックス(メタノール/0.1%TFA(1:1)中に40mg/ml)を噴霧する。
【0119】
次に、腎臓ホモジェネート試料を表すスライスの各部分を、Autoflex speed LRF(Bruker, Daltonics)を使用する質量分析イメージングによって分析する。
【0120】
次に、各組織ホモジェネート試料について質量分析によって得られた画像上に、等しい寸法のいくつかの関心対象の領域(ROI)の範囲を設定する。
【0121】
参照シグナルとして使用するために、質量スペクトルのピーク強度を選択する。各組織ホモジェネート試料について、プロパノロールの質量スペクトルのピーク強度を各ROIについて回収する。また、各組織ホモジェネート試料について、対応する全てのROIについて得られた強度から平均強度(平均ROI)を計算する。
【0122】
希釈範囲の各点について、すなわち各組織ホモジェネート試料について、プロパノロールの質量スペクトルの平均ピーク強度を表3に挙げる。
【0123】
【表3】
【0124】
次に、検量線を描出することができる。この検量線は、続いて、腎臓中のプロプラノロールを定量するための方法に使用することができる。分析された腎臓中のプロプラノロールについて得られた質量スペクトルのピーク強度を前記検量線の濃度と対比させることで十分である。
【0125】
例えば、質量スペクトルのピーク強度の関数として組織中のプロプラノロール濃度(μg/g)を表す検量線をプロットする(
図2)。希釈範囲の全ての点、または点群(cloud of points)の傾向曲線についての式は、例えばエクセルなどの図形再処理ソフトウェアを使用して数式y=ax+bで計算される。
【0126】
記載された実施例では、傾向曲線についての式は、y=3244.7x+534.92である。続いて、この式は、分子の定量を可能にする。
【0127】
同様に、直線回帰、単回帰または多重回帰の質を判断することを可能にする指標である決定係数(ここではR
2=0.9999)を計算する。この係数が1に近いほど、傾向曲線はより直線に近づく。
【0128】
実施例3:処置されたマウス腎臓中のプロプラノロールの定量
7.5mg/kgプロプラノロールで処置され、投与の20分後に屠殺されたマウスの腎臓を摘出する。
【0129】
厚さ20μmの組織スライス3枚を腎臓から作製し、それぞれ支持体上に付着させる(スライドITO)。
【0130】
スライス上に、ロボット化システム(SunCollect)を使用して、MALDI DHBマトリックス(メタノール/0.1%TFA(1:1)中に40mg/ml)を噴霧する。
【0131】
Autoflex speed LRF(Bruker, Daltonics)を使用して質量分析イメージングによって各スライスを分析する。今回も、各スライス上のいくつかのROI(全ての寸法は同じである)を使用することによって、プロプラノロールの質量スペクトル(m/z260.2)の平均ピーク強度を計算する。
【0132】
得られた平均強度値は、19633.3である。
【0133】
検量線の式(
図2)を用いて、得られた平均強度値を前記直線に代入する(include)ことによって腎臓中のプロプラノロール濃度を定量する。この場合のプロプラノロールは、濃度5.9μg/g組織である。
【0134】
実施例4:腎臓中のプロプラノロールの検出限界の評価
この使用に関連して、選択された分析法を用いて1種または複数の分子の検出を評価するために、再構成された組織中への関心対象の1種または複数の分子の希釈範囲または希釈点を使用する。
【0135】
この実施例では、プロプラノロール溶液の9個の異なる正確な部分体積から希釈範囲を作製し、試料中濃度0、0.3、0.7、1.4、2.8、5.6、11.2、22.4および44.8μg/gを得るように、それらの部分体積をそれぞれ腎臓ホモジェネート試料に添加する。
【0136】
一連の腎臓ホモジェネート試料を含み、したがって一連の9濃度のプロプラノロールを(表4に示す順序で)有するスライスを支持体上に置く(スライドITO)。
【0137】
MALDI−TOFイメージングによるスライドの分析に関連して、予備段階で分析される組織を調製するためのプロトコールを本発明によって微調整することが可能である。実際に、調製された系列を使用すること、ならびに例えば、得られたシグナルに及ぼすスライスの厚さまたはさらにマトリックスの選択および/もしくはその付着法の影響を評価するためにいくつかの調製試験を行うことが可能である。
【0138】
本実施例では、最適厚さを20μmに設定し、最も有効なMALDIマトリックスは、DHB(メタノール/0.1%TFA(1:1)中に40mg/ml)である。
【0139】
次に、腎臓ホモジェネート試料を表すスライスの各部分を、質量分析イメージングまたはAutoflex speed LRF(Bruker, Daltonics)を使用する直接分析によって分析する。
【0140】
イメージングモードでの取得に関連して、各組織ホモジェネート試料について質量分析によって得られた画像上に、等しい寸法のいくつかの関心対象の領域(ROI)の範囲を設定する。
【0141】
直接分析モードでの取得に関連して、その系列の各点を表す平均スペクトルを得る。
【0142】
参照シグナルとして使用するために、質量スペクトルのピーク強度を選択する。各組織ホモジェネート試料についてプロプラノロールの質量スペクトルのピーク強度を回収する。したがって、各組織ホモジェネート試料について、平均強度も得られる。
【0143】
希釈範囲の各点について、すなわち各組織ホモジェネート試料について、プロプラノロールの質量スペクトルの平均ピーク強度を表4に挙げる。
【0144】
【表4】
【0145】
次に、選択された媒質中の化合物の検出限界、ここでは0.7μg/gを評価することが可能である。本実施例では、この検出限界を、化合物が3よりも大きなシグナル/ノイズ比で検出される最低濃度と設定する。定量限界を決定することも可能なことに注意されたい。
【0146】
また、処置された組織中の化合物の定量を行わなければならない場合、本実施例ではこの分析法が3logまで直線的であると評価することができる。
【0147】
より一般的には、本発明は、試験システムのin vivo調製前に、例えば
− 組織スライスの厚さ
− 化合物の脱離およびイオン化に最も適したMALDIマトリックス
− マトリックス付着法
− 参照媒質中の1種または複数の化合物の検出限界および定量限界
− 1種または複数の化合物の定量を行うための分析法の直線性の範囲
などのパラメーターの数を評価することを可能にする。
【0148】
実施例5:MALDI質量分析イメージングにおける分析の質および再現性の管理
本実施例において、目的は、MALDIイメージングにおける分析の質および再現性を評価することである。
【0149】
既知濃度のプロプラノロール(5.6μg/g)を含む腎臓ホモジェネートのスライスを、関心対象の試料と同じ一つの支持体上に付着させる(スライドITO)。この再構成後の腎臓ホモジェネートは、再現性を評価するべき全ての分析に関連して使用されることに注意されたい。
【0150】
同じ調製法および同じ分析法が使用される、関心対象の試料の各分析を通じて、品質管理のスライスを同時にMALDIイメージングで分析する。
【0151】
したがって、各分析についてプロプラノロールの平均強度値が得られ、よって、分析の再現性をモニタリングすることが可能である。よって、関心対象の組織の10回の分析に関連して、プロプラノロールを5.6μg/gドープされた、再構成された腎臓のスライスを加えた。
図3は、同じ一つの研究で10回の成分分析に関連して得られた変動性を示す。
【0152】
したがって、異なる分析間で関心対象の化合物(1種または複数)を相対的に定量するために、実験変動性をモニタリングすること、またはさらにこの品質管理に関して各分析について得られた値を基準化することが可能である。
【0153】
組織の調製(より具体的にはMALDIマトリックスの付着)の質および使用される機器の分析性能レベルの質を判断することも可能である。これらの品質管理の結果の関数として、メンテナンスを決定することができることに注意されたい。