(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るコンクリート構造物の施工方法の好適な実施形態を以下に説明する。本実施形態のコンクリート構造物の施工方法は、コンクリート構造物に窓枠又は配管等を嵌設するコンクリート構造物の施工方法であって、セメント組成物と水とを配合し混練してモルタル組成物を調製するモルタル調製工程と、モルタル組成物をモルタル充填器に吸い込むモルタル吸い込み工程と、モルタル充填器に吸い込まれたモルタル組成物をコンクリート構造物と窓枠又は配管等との隙間である空隙部分に充填するモルタル充填工程と、空隙部分に充填したモルタル組成物の外部に露出した表面部分を鏝で仕上げるモルタル仕上げ工程と、鏝仕上げしたモルタル組成物を硬化させて、モルタル硬化体を形成する硬化体形成工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0020】
モルタル調製工程は、セメント組成物と水とを所定の割合で配合し、混練する工程である。混練には、左官用モルタルミキサーやハンドミキサーを好適に用いることができる。モルタル組成物を調製する際に、水の配合量を好適な範囲で適宜変更することによって、モルタル組成物のフロー値及び単位容積質量を調整することができる。このように水の配合量を変更することによって、用途に適したモルタル組成物を調製することができる。ここで、フロー値とは、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値であり、単位容積質量とは、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値(単位:kg/L)である。
【0021】
水の配合量は、セメント組成物100質量部に対し、好ましくは20〜36質量部であり、より好ましくは22〜33質量部であり、さらに好ましくは24〜31質量部であり、特に好ましくは26〜29質量部である。
【0022】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法により得られるモルタル組成物のフロー値は、好ましくは170〜210mmであり、より好ましくは175〜205mmであり、さらに好ましくは180〜200mmであり、特に好ましくは185〜195mmである。
【0023】
フロー値を上述の範囲とすることにより、良好な施工性(良好な充填性や鏝作業性)や仕上がり(表面精度)を有するモルタル組成物とすることができる。
【0024】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法により得られるモルタル組成物の単位容積質量は、好ましくは1.45〜1.63kg/L(Lはリットルを表す)であり、より好ましくは1.48〜1.60kg/Lであり、さらに好ましくは1.50〜1.58kg/Lであり、特に好ましくは1.52〜1.56kg/Lである。
【0025】
単位容積質量を上述の範囲とすることにより、良好な施工性(良好な充填性や鏝作業性)や仕上がり(表面精度)を有するモルタル組成物とすることができる。
【0026】
モルタル吸い込み工程は、上述のモルタル組成物をモルタル充填器に吸い込む工程である。モルタル充填器としては、たとえば友定建機社製の「つまーる」が挙げられる。モルタル充填器を用いてモルタル組成物を吸い込む際、モルタル充填器の内容積に対するモルタル充填器の一回のストロークで充填器中に吸い込まれるモルタル組成物の容積の割合は、好ましくは85.0%以上さらに好ましくは88.0%以上特に好ましくは90.0%以上である。
【0027】
モルタル充填器の一回のストロークで吸い込まれるモルタル組成物の容積割合を上述とすることにより、モルタル充填器からモルタル組成物を押し出し、空隙部分に充填する工程時に、良好な充填性が得られ、また、隅々まで十分に充填されることから、コンクリート構造物と窓枠又は配管等を一体化するためのより良好な強度特性や接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0028】
モルタル充填工程は、モルタル充填器を用いて上述のモルタル組成物をコンクリート構造物と窓枠又は配管等との隙間である空隙部分に充填する工程である。作業時にはモルタル充填器を空隙部分にできるだけ深く差し込んで、奥側から隅々まで十分に充填することが好ましい。ここで、空隙部分が充填側の反対面まで貫通している場合、反対面からモルタル組成物が漏れ出さないように、あらかじめあて板等のバックアップ材を取り付ける漏れ止め処理工程を好適に行うことができる。また、コンクリート構造物の空隙部分に下地処理として、あらかじめ吸水調整剤であるプライマーを塗布するプライマー塗布工程を好適に行うことができる。
【0029】
モルタル仕上げ工程は、空隙部分に充填したモルタル組成物で外部に露出した表面部分を鏝で押さえたり、均したりして平滑な表面に仕上げる工程である。鏝を用いてモルタル組成物表面を平滑に仕上げるためには、鏝作業性の指標となる、鏝切れ、鏝送り、鏝伸び、鏝離れが総合的に良好であることが好ましい。
【0030】
硬化体形成工程は、上述のモルタル組成物を養生し硬化させて、モルタル硬化体を形成する工程である。本実施形態のコンクリート構造物の施工方法により得られるモルタル硬化体は、コンクリート構造物と窓枠又は配管等を一体化するための良好な強度特性や接着性を兼ね備える。
【0031】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法により得られるモルタル硬化体の材齢28日の曲げ強度は、好ましくは4.0N/mm
2以上であり、より好ましくは4.1N/mm
2以上であり、さらに好ましくは4.3N/mm
2以上であり、特に好ましくは4.4N/mm
2以上である。
【0032】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法により得られるモルタル硬化体の材齢28日の圧縮強度は、好ましくは18.0N/mm
2以上であり、より好ましくは18.5N/mm
2以上であり、さらに好ましくは19.0N/mm
2以上であり、特に好ましくは19.5N/mm
2以上である。
【0033】
曲げ強度や圧縮強度が上述の値以上であることによって、モルタル硬化体は、コンクリート構造物と窓枠又は配管等を一体化するための良好な強度特性を有する。
【0034】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法により得られるモルタル硬化体の材齢28日の接着強度は、好ましくは1.5N/mm
2以上であり、より好ましくは1.8N/mm
2以上であり、さらに好ましくは2.0N/mm
2以上であり、特に好ましくは2.2N/mm
2以上である。
【0035】
接着強度が上述の値以上であることによって、モルタル硬化体は、コンクリート構造物と窓枠又は配管等を一体化するための良好な接着性を有する。
【0036】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法により得られるモルタル硬化体は、コンクリート構造物と窓枠又は配管等を一体化するための良好な強度特性や接着性を兼ね備える。
【0037】
<セメント組成物>
本発明のコンクリート構造物の施工方法に用いるセメント組成物の好適な実施形態について以下に説明する。セメント組成物は、ポルトランドセメント、セルロース系増粘剤、材料分離低減剤、軽量骨材、細骨材及びフライアッシュ微粉末を含むセメント組成物である。
【0038】
以下、本実施形態のコンクリート構造物の施工方法に用いるセメント組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0039】
ポルトランドセメントは、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。これらのなかでも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」で規定されるポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0040】
細骨材は、粒子径0.3mm以上の粒子を含まず、且つ細骨材全体に対し、粒子径が0.15mm以上であり且つ0.3mm未満である粒子の質量割合が、好ましくは30〜70質量%であり、より好ましく40〜60質量%であり、さらに好ましくは45〜55質量%である。
【0041】
また、上述の質量割合を満足しつつ、細骨材全体に対し、粒子径が0.075mm以上であり且つ0.15mm未満である粒子の質量割合が、好ましくは30〜70質量%であり、より好ましくは40〜60質量%であり、さらに好ましくは45〜55質量%である。
【0042】
また、上述の質量割合を満足しつつ、細骨材全体に対し、粒子径が0.075mm未満である粒子の質量割合が、好ましくは10質量%であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0043】
細骨材の粒子径が、上述の範囲内であることにより、良好な強度特性や接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。また、良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。
【0044】
細骨材の粒子径は、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本明細書において、「粒子径が0.15mm以上であり且つ0.3mm未満である粒子の質量割合」とは、篩目0.3mmの篩いを用いたとき、篩目0.3mmの篩いを通過し、且つ篩目0.15mmの篩を用いたとき、篩目0.15mmの篩上に残る粒子の細骨材全体に対する質量割合をいう。
【0045】
このような細骨材として、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。
【0046】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法に用いるセメント組成物における細骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは75〜175質量部であり、より好ましくは85〜155質量部であり、さらに好ましくは95〜140質量部であり、特に好ましくは100〜130質量部である。
【0047】
セメント組成物中の細骨材の含有量を上記範囲とすることにより、良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができるとともに、コンクリート構造物と窓枠又は配管等を一体化するための良好な強度特性や接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0048】
軽量骨材は、発泡スチロール粉砕物及びパーライト骨材である。セメント組成物が軽量骨材を含むことによりモルタル組成物が軽量化され、良好な単位容積質量が得られ、鏝作業や充填作業において施工性が向上し、仕上がり面の表面精度や充填効率などが改善される。
【0049】
発泡スチロール粉砕物は、発泡スチロール樹脂あるいは発泡スチロール樹脂廃材を粉砕機により粉砕し、振動篩機等により分級したものである。
【0050】
発泡スチロール粉砕物のかさ密度(g/cm
3)、は好ましくは0.005〜0.050であり、より好ましくは0.010〜0.040であり、さらに好ましくは0.015〜0.035であり、特に好ましくは0.020〜0.030である。
【0051】
発泡スチロール粉砕物のかさ密度を、上述の範囲にすることによって、良好な単位容積質量や良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。
【0052】
発泡スチロール粉砕物は、粒子径2.00mm以上の粒子を含まず、且つ発泡スチロール粉砕物全体に対し、粒子径が1.18mm以上であり且つ2.00mm未満である粒子の質量割合は、好ましくは10〜30質量%であり、より好ましくは12〜25質量%であり、さらに好ましくは15〜20質量%である。
【0053】
また、上述の質量割合を満足しつつ、発泡スチロール粉砕物全体に対し、粒子径が0.6mm以上であり且つ1.18mm未満である粒子の質量割合が、好ましくは30〜70質量%であり、より好ましくは40〜60質量%であり、さらに好ましくは45〜55質量%である。
【0054】
また、上述の質量割合を満足しつつ、発泡スチロール粉砕物全体に対し、粒子径が0.3mm以上であり且つ0.6mm未満である粒子の質量割合が、好ましくは20〜40質量%であり、より好ましくは23〜35質量%であり、さらに好ましくは25〜30質量%である。
【0055】
発泡スチロール粉砕物の粒子径を、上述の質量割合の範囲とすることにより、一層良好な施工性を有しつつ、一層良好な接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0056】
発泡スチロール粉砕物の粒子径は、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本明細書において、「粒子径1.18mm以上であり且つ2.00mm未満の粒子の質量割合」とは、篩目2.00mmの篩いを用いたとき、篩目2.00mmの篩いを通過し、且つ篩目1.18mmの篩を用いたとき、篩目1.18mmの篩上に残る粒子の軽量骨材全体に対する質量割合をいう。
【0057】
発泡スチロール粉砕物の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは20〜40容量部であり、より好ましくは23〜35容量部であり、さらに好ましくは25〜33容量部であり、特に好ましくは27〜31容量部である。
【0058】
発泡スチロール粉砕物は、通常、容量基準で配合量を規定するため、含有量の範囲を「容量部」で示したが、質量基準では以下の含有量であることが好ましい。すなわち、発泡スチロール粉砕物の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは0.50〜1.00質量部であり、より好ましくは0.58〜0.88質量部であり、さらに好ましくは0.63〜0.83質量部であり、特に好ましくは0.68〜0.78質量部である。
【0059】
発泡スチロール粉砕物の含有量を、上記範囲にすることにより、良好な単位容積質量や良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。
【0060】
パーライト骨材は、天然ガラス質岩石を粉砕して粒度調整後、高温で焼成することにより、岩石中のガラス質の軟化と同時に岩石中の水を脱離させて発泡させた後、分級して得られたものである。使用される天然ガラス質岩石としては、黒曜岩、真珠岩、松脂岩がある。
【0061】
パーライト骨材のかさ密度(g/cm
3)、は好ましくは0.050〜0.250であり、より好ましくは0.100〜0.200であり、さらに好ましくは0.120〜0.180であり、特に好ましくは0.140〜0.160である。
【0062】
パーライト骨材のかさ密度を、上述の範囲にすることにより、良好な単位容積質量や良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。
【0063】
パーライト骨材は、粒子径2.0mm以上の粒子を含まず、且つパーライト骨材全体に対し、粒子径が1.18mm以上であり且つ2.0mm未満である粒子の質量割合は、好ましくは2質量%以下であり、より好ましく1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0064】
また、上述の質量割合を満足しつつ、パーライト骨材全体に対し、粒子径が0.6mm以上であり且つ1.18mm未満である粒子の質量割合は、好ましくは5〜35質量%であり、より好ましくは10〜30質量%であり、さらに好ましくは15〜25質量%である。
【0065】
また、上述の質量割合を満足しつつ、パーライト骨材全体に対し、粒子径が0.3mm以上であり且つ0.6mm未満である粒子の質量割合が、好ましくは30〜60質量%であり、より好ましくは35〜55質量%であり、さらに好ましくは40〜50質量%である。
【0066】
また、上述の質量割合を満足しつつ、パーライト骨材全体に対し、粒子径が0.15mm以上であり且つ0.3mm未満である粒子の質量割合が、好ましくは10〜40質量%であり、より好ましくは15〜35質量%であり、さらに好ましくは20〜30質量%である。
【0067】
パーライト骨材の粒子径を、上述の質量割合の範囲とすることにより、良好な単位容積質量や良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、良好な強度特性や接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0068】
パーライト骨材の粒子径は、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本明細書において、「粒子径が1.18mm以上であり且つ2.0mm未満である粒子の質量割合」とは、篩目2.0mmの篩いを用いたとき、篩目2.0mmの篩いを通過し、且つ篩目1.18mmの篩を用いたとき、篩目1.18mmの篩上に残る粒子のパーライト骨材全体に対する質量割合をいう。
【0069】
パーライト骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは55〜120容量部であり、より好ましくは70〜100容量部であり、さらに好ましくは80〜90容量部であり、特に好ましくは83〜88容量部である。
【0070】
パーライト骨材は、通常、容量基準で配合量を規定するため、含有量の範囲を「容量部」で示したが、質量基準では以下の含有量であることが好ましい。すなわち、パーライト骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは3〜30質量部であり、より好ましくは7〜20質量部であり、さらに好ましくは10〜16質量部であり、特に好ましくは12〜14質量部である。
【0071】
パーライト骨材の含有量を、上記範囲にすることにより、良好な単位容積質量や良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができる。また、良好な強度特性や接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0072】
上述の発泡スチロール粉砕物及びパーライト骨材をセメント組成物に組み合わせて用いることにより、良好な単位容積質量や良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができると共に、良好な強度特性や接着性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0073】
フライアッシュ微粉末は、JIS A 6201:1999「コンクリート用フライアッシュ」で規定されるフライアッシュを用いることができる。また、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に従い測定されるブレーン比表面積が、2,500〜9,000cm
2/gであり、より好ましくは3,500〜7,500cm
2/gであり、さらに好ましくは4,500〜6,500cm
2/gであり、特に好ましくは5,000〜6,000cm
2/gである。
【0074】
フライアッシュ微粉末のブレーン比表面積が2,500cm
2/g未満の場合、セメント組成物と水とを混練して得られるモルタル組成物の施工性を高める効果が乏しくなる傾向がある。また、ブレーン比表面積が9,000cm
2/gを超えるとモルタル組成物の粘性が高くなる傾向が顕著になって施工性を阻害することがある。
【0075】
フライアッシュ微粉末の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは30〜90質量部であり、より好ましくは45〜70質量部であり、さらに好ましくは50〜65質量部であり、特に好ましくは55〜60質量部である。
【0076】
フライアッシュ微粉末の含有量が少なすぎると良好な施工性が得られにくくなる。逆に、モルタル組成物中のフライアッシュ微粉末の含有量が過剰であると、モルタル組成物の粘性が増加する傾向にあり、施工性が低下してしまう。このためフライアッシュ微粉末の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0077】
セルロース系増粘剤は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グリオキザール付加ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシルエチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体を含むセルロース系増粘剤を挙げることができる。
【0078】
セルロース系増粘剤は、20℃における2%水溶液の粘度が、好ましくは3,000〜9,000mPa・sであり、より好ましくは4,000〜8,000mPa・sであり、さらに好ましくは4,500〜7,000mPa・sであり、特に好ましくは5,000〜6,500mPa・sである。
【0079】
セルロース系増粘剤の20℃における2%水溶液の粘度が、3,000mPa・s未満の場合、モルタル組成物の保型性が低下し、優れた効果を奏しなくなる。また、セルロース系増粘剤の20℃における2%水溶液の粘度が9,000mPa・sを超えると、粘性が高くなりモルタル組成物の施工性を阻害することがある。
【0080】
ここで、セルロース系増粘剤の「粘度」とは、増粘剤の2%水溶液を、B型粘度計(BROOKFIELD社製デジタル粘度計:RVDV−1+)を用いてローターNo.4、回転速度12rpm、20℃で測定した値をいう。
【0081】
セルロース系増粘剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.20質量部であり、より好ましくは0.05〜0.16質量部であり、さらに好ましくは0.08〜0.14質量部であり、特に好ましくは0.10〜0.12質量部である。
【0082】
セルロース系増粘剤の含有量が少なすぎると良好な施工性が得られにくくなる。逆に、モルタル組成物中のセルロース系増粘剤の含有量が過剰であると、モルタル組成物の粘性が増加する傾向にあり、施工性が低下してしまう。このためセルロール系増粘剤の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0083】
材料分離低減剤は、高分子合成コポリマーであり、20℃における2%水溶液の粘度が、好ましくは2,000〜8,000mPa・sであり、より好ましくは2,500〜6,500mPa・sであり、さらに好ましくは3,000〜5,500mPa・sであり、特に好ましくは3,500〜5,000mPa・sである。
【0084】
材料分離低減剤の20℃における2%水溶液の粘度が、2,000mPa・s未満の場合、モルタル組成物の材料分離抵抗性が低下し、優れた効果を奏しなくなる。また、材料分離低減剤の20℃における2%水溶液の粘度が8,000mPa・sを超えると、粘性が高くなりモルタル組成物の施工性を阻害することがある。
【0085】
ここで、材料分離低減剤の「粘度」とは、材料分離低減剤の2%水溶液を、B型粘度計(BROOKFIELD社製デジタル粘度計:RVDV−1+)を用いてローターNo.4、回転速度12rpm、20℃で測定した値をいう。
【0086】
材料分離低減剤の20℃における2%水溶液のThixotropy Index(TI値)が、好ましくは2.00〜3.60であり、より好ましくは2.20〜3.40であり、さらに好ましくは2.40〜3.20であり、特に好ましくは2.60〜3.00である。
【0087】
材料分離低減剤の20℃における2%水溶液のTI値が、2.00未満の場合、モルタル組成物の材料分離抵抗性が低下し、優れた効果を奏しなくなる。また、材料分離低減剤の20℃における2%水溶液のTI値が3.60を超えると、チクソ性が大きくなりモルタル組成物の施工性を阻害することがある。
【0088】
ここで、材料分離低減剤の「TI値」とは、JIS・K・5101−6−2:2004に準拠して、材料分離低減剤の2%水溶液を、B型粘度計(BROOKFIELD社製デジタル粘度計:RVDV−1+)を用いてローターNo.4、20℃で測定した値をいう。
【0089】
材料分離低減剤の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.15質量部であり、より好ましくは0.02〜0.10質量部であり、さらに好ましくは0.04〜0.08質量部であり、特に好ましくは0.05〜0.07質量部である。
【0090】
材料分離低減剤の含有量が少なすぎると良好な施工性が得られにくくなる。逆に、モルタル組成物中の材料分離低減剤の含有量が過剰であると、モルタル組成物の粘性が増加する傾向にあり、施工性が低下してしまう。このため材料分離低減剤の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0091】
上述のセルロース系増粘剤及び材料分離低減剤をセメント組成物に組み合わせて用いることにより、良好な施工性を有するモルタル組成物を得ることができると共に、良好な接着性や強度特性を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0092】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法に用いるセメント組成物は、さらに直鎖状の飽和脂肪酸金属塩を好適に用いることができる。また、該飽和脂肪酸金属塩の炭素数が、好ましくは12〜24であり、より好ましくは14〜22であり、特に好ましくは16〜20である。
【0093】
飽和脂肪酸金属塩に用いられる金属塩としては、リチウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等が挙げられ、特にアルミニウム塩が好ましい。
【0094】
飽和脂肪酸金属塩は、セメント組成物の特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。飽和脂肪酸金属塩の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.15〜0.40質量部であり、より好ましくは0.20〜0.35質量部であり、さらに好ましくは0.26〜0.32質量部であり、特に好ましくは0.28〜0.30質量部である。
【0095】
上記の範囲で飽和脂肪酸金属塩を用いることで、モルタル硬化体の接着性の向上をさらに確実にする。
【0096】
本実施形態のコンクリート構造物の施工方法に用いるセメント組成物は、さらに再乳化形樹脂粉末を必要に応じて用いることができる。
【0097】
再乳化形樹脂粉末の樹脂の粉末化方法等の製法については特にその種類は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また再乳化形樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に再乳化形樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。また、再乳化形樹脂粉末は、水性ポリマーディスパージョンを噴霧やフリーズドライなどの方法で溶媒を除去し乾燥した再乳化形樹脂粉末を用いることができる。
【0098】
再乳化形樹脂粉末としては、例えば、α,β−エチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる高分子エマルジョンの液体成分を除去して得られる高分子樹脂粒子等を用いることができる。α,β−エチレン性不飽和単量体としては、公知のα,β−エチレン性不飽和単量体を挙げることができ、例えばアクリル酸及びアクリル酸エステル等の誘導体、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルなどの誘導体、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン、酢酸ビニル、スチレン等の芳香族ビニル類、塩化ビニル及びバーサチック酸ビニルエステル等の炭素数が9〜11の第3級脂肪酸ビニルエステル(R−COO−CH=CH
2、Rは炭素数が9〜11の第3級炭素)を挙げることができる。
【0099】
再乳化形樹脂粉末は、セメント組成物の特性を損なわない範囲で適宜添加することができる。再乳化形樹脂粉末の添加量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは0.25〜0.90質量部であり、より好ましくは0.35〜0.80質量部であり、さらに好ましくは0.45〜0.70質量部であり、特に好ましくは0.55〜0.60質量部である。
【0100】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0101】
以下に実験例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0102】
(実験例1)
ポルトランドセメント100質量部に対し、細骨材、発砲スチロール粉砕物、パーライト骨材、フライアッシュ微粉末、増粘剤及び分離低減剤を表4に示す質量部で配合してセメント組成物を調製し、該セメント組成物100質量部に対して水を表4に示す質量部で混練してモルタル組成物を調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ホバートミキサーを用いて低速で3分間行った。混練直後にフロー値、単位容積質量、充填性を測定し、その後、壁面に該モルタル組成物を鏝で塗りつけて鏝作業性を評価し、塗りつけたモルタル組成物が硬化してモルタル硬化体が得られた後に表面精度を評価した。結果を表4に併記する。
【0103】
[使用材料]
(1)ポルトランドセメント
・普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積:3300cm
2/g)
(2)細骨材
・珪砂7号(篩を使用して測定した珪砂の粒度構成を表1に示す。)
【0104】
【表1】
【0105】
(3)軽量骨材
・発泡スチロール粉砕物(本間加工所社製、かさ密度:0.025g/cm
3、篩を使用して測定した発泡スチロール粉砕物の粒度構成を表2に示す。)
・パーライト骨材(昭和化学工業社製、かさ密度:0.15g/cm
3、篩を使用して測定した発泡スチロール粉砕物の粒度構成を表3に示す。)
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
(4)フライアッシュ微粉末
・フライアッシュ(常磐火力産業社製、ブレーン比表面積:5,590cm
2/g)
(5)増粘剤
・セルロース系増粘剤(宇部興産社製、商品名:ハイユーローズ、主成分:メチルヒドロキシアルキルセルロース、粘度[20℃、2重量%水溶液]:5,150mPa・s)
(6)分離低減剤
・高分子合成コポリマー(BASF社製、商品名:Melvis F40、粘度[20℃、2重量%水溶液]:4,283mPa・s、TI値[20℃、2重量%水溶液]:2.76)
【0109】
[モルタル組成物及びモルタル硬化体の物性の評価方法]
(1)フロー値の測定方法
JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠してフロー値を測定した。
(2)単位容積質量の測定方法
JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載の試験方法に準拠して単位容積質量を測定した。
(3)鏝作業性
モルタル組成物を床面に対して垂直に設置したフレキシブルボード表面にステンレス製鏝を用いて10mmの厚さになるように塗り付け、モルタル組成物の鏝塗り作業性について、鏝切れ、鏝送り、鏝伸び、鏝離れの4項目の評価を行い、総合的に良好○、やや不良△、不良×の三段階で判定した。
(4)表面精度
モルタル組成物を床面に対して垂直に設置したフレキシブルボード上にステンレス製鏝を用いて10mmの厚さになるように塗り付け、翌日の硬化後の表面状態を目視で観察し、凹凸の状態から表面精度を良好○(表面が平滑)、やや不良△(若干凹凸がある)、不良×(凹凸が大きい)の三段階で判定した。
(5)充填性
モルタル組成物を友定建機社製モルタル充填器「つまーるD−18(ストローク容積0.9L)」を用いて吸い込み、そして押し出すことを3回行い、モルタル充填器のストローク容積の3倍(2.7L)に対する、押し出された3回分のモルタル組成物の容積の割合(%)を充填性として求めた。
【0110】
【表4】
【0111】
表4に示すとおり、細骨材、フライアッシュ微粉末及び分離低減剤を含まない配合のNo.1−1は、モルタル組成物のフロー値198mmを得るための水量が多く必要であり、単位容積質量も小さくなり、鏝作業性が悪く、硬化後のモルタル硬化体の表面仕上がり精度も悪い結果を示した。フライアッシュ微粉末及び分離低減剤を含まない配合のNo.1−2は、フロー値が193mmであるが鏝作業性が悪い結果を示した。分離低減剤を含まない配合のNo.1−3は、フロー値が190mmであるが鏝作業性が不十分な結果を示した。細骨材、フライアッシュ微粉末及び分離低減剤を含む配合のNo.1−4は、モルタル組成物のフロー値が188mmであり、鏝作業性が良好で、硬化後のモルタル硬化体の表面仕上がり精度も良好な結果を示した。
【0112】
【表5】
【0113】
また、表5に示すとおり、フライアッシュ微粉末及び材料分離低減剤を含むNo.1−4は、No.1−1及びNo.1−2に比べフロー値が低いにもかかわらず充填性が良好な結果を示した。
【0114】
(実験例2)
実験No.1−4に、直鎖状の脂肪酸金属塩及び再乳化形樹脂粉末を表6に示す質量部で配合してセメント組成物を調製し、該セメント組成物100質量部に対して水を表6に示す質量部で混練してモルタル組成物を調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ホバートミキサーを用いて低速で3分間行った。実験例1と同様に混練直後にフロー値、単位容積質量、充填性を測定し、その後、壁面に該モルタル組成物を鏝で塗りつけて鏝作業性を評価し、塗りつけたモルタル組成物が硬化してモルタル硬化体が得られた後に表面精度を評価した。また、モルタル硬化体の材齢28日の強度特性及び接着強度を評価した。結果を表6に併記する。
【0115】
[使用材料]
(1)直鎖状の脂肪酸金属塩
・脂肪酸金属塩(日油社製、炭素数:18、金属塩:アルミニウム塩)
(2)再乳化形樹脂粉末
・樹脂粉末(Wacker社製、商品名:LL5010N、主成分:エチレン−酢酸ビニル共重合体)
【0116】
[モルタル組成物及びモルタル硬化体の物性の評価方法]
(1)強度の測定方法
JIS A 6916:2000「建築用下地調整塗材」に記載の試験方法に準拠して材齢28日の曲げ強度及び圧縮強度を測定し、強度特性の指標とした。
(2)接着強度の測定方法
JIS A 6916:2000「建築用下地調整塗材」に記載の試験方法に準拠して材齢28日の付着強さを測定し、接着性の指標とした。モルタル組成物の塗布条件は、下地基板表面をプライマー塗布し、翌日モルタル組成物を塗布した。
【0117】
【表6】
【0118】
表6に示すとおり、No.2−1(No.1−4)は、モルタル組成物の鏝作業性が良好であり、モルタル硬化体の表面仕上げ精度も良好な上に、強度特性や接着性も良好な結果を示した。さらに、直鎖状の脂肪酸金属塩を含む配合のNo.2−2は、強度特性及び接着性がより向上する結果を示した。再乳化形樹脂粉末を含む配合のNo.2−3は、No.2−1に比べ曲げ強度特性は向上するものの圧縮強度特性及び接着性は十分ではあるが若干低下する結果を示した。直鎖状の脂肪酸金属塩及び再乳化形樹脂粉末を含む配合のNo.2−4は、No.2−1に比べ接着性は向上するものの圧縮強度特性は十分ではあるが若干低下する結果を示した。
【0119】
【表7】
【0120】
表7に示すとおり、No.2−1にさらに直鎖状の脂肪酸金属塩を加えたNo.2−2は、フロー値がNo.2−1とほぼ同等にもかかわらず、充填性がより良好な結果を示した。
【0121】
以上のことから、No.2−1のように、細骨材、フライアッシュ微粉末及び分離低減剤を含む本発明のセメント組成物、モルタル組成物及びモルタル硬化体は、良好なフロー値及び単位容積質量、良好な充填性や鏝作業性及び優れた表面精度を有し、コンクリート構造物と窓枠又は配管等が一体化するための良好な強度特性や接着性を有することが確認された。
【0122】
さらに、No.2−2からNo.2−4のように、直鎖状の脂肪酸金属塩や再乳化形樹脂粉末を添加しても十分な効果を奏することが確認された。特に、No.2−2のように、直鎖状の脂肪酸金属塩を添加すると、充填性やコンクリート構造物と窓枠又は配管等が一体化するための強度特性や接着性がより向上することが確認された。