特許第6171808号(P6171808)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6171808
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】消音器
(51)【国際特許分類】
   G10D 9/06 20060101AFI20170724BHJP
   G10G 5/00 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   G10D9/06
   G10G5/00
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-207741(P2013-207741)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2015-72355(P2015-72355A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 寿子
【審査官】 大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−096498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 9/06
G10G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の胴部と、前記胴部の前端を閉塞する閉塞部と、から構成され、前記胴部の後端側から管楽器のベルに挿入される本体部を有し、
前記胴部は、前記ベルの内壁に固定される台座部を有し、
前記胴部の前記台座部よりも前端側の前記胴部の少なくとも一部または前記閉塞部の少なくとも一部を前記胴部の軸の周りに沿った方向に分割し、前記本体部の前方または前記胴部の軸から遠ざかる方向に移動可能な複数の脚部としたことを特徴とする消音器。
【請求項2】
前記複数の脚部は、前記台座部よりも前端側の前記胴部の少なくとも一部を前記胴部の軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の部材であり、前記胴部の前端を支点として前記本体部の前方に回転移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の消音器。
【請求項3】
前記複数の脚部は、前記閉塞部の少なくとも一部を前記胴部の軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の部材であり、前記閉塞部の縁を支点として前記胴部の軸から遠ざかる方向に回転移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の消音器。
【請求項4】
前記複数の脚部は、前記台座部よりも前端側の前記胴部の少なくとも一部を前記胴部の軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の部材であり、前記胴部の外壁に沿って前記本体部の前方に摺動可能であることを特徴とする請求項1に記載の消音器。
【請求項5】
前記複数の脚部は、前記閉塞部の少なくとも一部を前記胴部の軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の部材であり、前記胴部の軸から遠ざかる方向に摺動可能であることを特徴とする請求項1に記載の消音器。
【請求項6】
前記複数の脚部における各々の移動量を変えることで、前記胴部の軸を、移動させた後の前記複数の脚部の各先端を結んで形成される面の法線に対して傾けたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1の請求項に記載の消音器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな音量でトランペットなどの管楽器を吹奏することができない場所や状況において管楽器の吹奏練習をする場合がある。このようなとき、管楽器の音量を少なくする目的で消音器が使用される(例えば特許文献1)。この種の消音器は、管楽器のベル内に挿入されて使用される。ここで、管楽器におけるベルとは、音量を増大させるために管楽器の管の径が徐々に広げられた呼気の排出口付近の部分のことを言う。
【0003】
一方、管楽器の吹奏練習では、休憩時などにおいて、管楽器を一時的に手から離して床などに置くことがある。このときに、管楽器用のスタンドが使用される。例えば、トランペット用のスタンドは、通常、トランペットをベルの内側から固定する台座と、当該スタンドに置かれたトランペットを安定して支える脚とから構成されている。そして、トランペットは、ベルの端面を下に向けた姿勢で、台座の上方からベルが当該台座に覆い被さるようにしてスタンドに設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4124236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、消音器とスタンドは、管楽器の吹奏練習に欠かせないものである。このため、管楽器の吹奏者は、管楽器とともに消音器とスタンドの両方を持ち運ぶことが多い。このとき、管楽器、消音器およびスタンドを別個の収納ケースに入れて持ち運ぶのは煩わしいため、楽器収納ケースに管楽器とともに消音器とスタンドを収納して持ち運べると便利である。しかし、多くの楽器収納ケースの収納スペースには限りがある。具体的には、管楽器が収納された楽器収納ケース内における空きスペースは、手入れ用品等を収納するための小物入れを除けば、管楽器のベル内のスペースくらいである。この空きスペースに消音器とスタンドの両方を収納できると良いが、消音器をベル内に収納するとスタンドをベル内に収納するスペースが無くなり、スタンドをベル内に収納すると消音器をベル内に収納するスペースが無くなる。従って、消音器とスタンドのどちらか一方しか楽器収納ケースに管楽器とともに収納することができなかった。
【0006】
この発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、管楽器、消音器およびスタンドを別個の収納ケースに入れて持ち運ばなくても吹奏練習に支障が生じないようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、管状の胴部と、前記胴部の前端を閉塞する閉塞部と、から構成され、前記胴部の後端側から管楽器のベルに挿入される本体部を有し、前記胴部は、前記ベルの内壁に固定される台座部を有し、前記胴部の前記台座部よりも前端側の前記胴部の少なくとも一部または前記閉塞部の少なくとも一部を前記胴部の軸の周りに沿った方向に分割し、前記本体部の前方または前記胴部の軸から遠ざかる方向に移動可能な複数の脚部としたことを特徴とする消音器を提供する。
【0008】
この発明によれば、管状の胴部と、胴部の前端を閉塞する閉塞部とによりベル内の音を消音させるための空洞が形成される。このため、本消音器は、従来の消音器と同様に消音機能を有する。さらに、本消音器は、ベルの内壁に固定される台座部よりも前端側の胴部の少なくとも一部または閉塞部の少なくとも一部を分割してなる複数の脚部を有している。この複数の脚部は、本体部の前方または胴部の軸から遠ざかる方向に移動可能である。このように移動した複数の脚部が下側になるような姿勢にすると、本消音器は、台座部に固定した管楽器を安定して支持することができる。すなわち、本消音器は、スタンドとしても使用可能である。従って、楽器収納ケースに管楽器とともに本消音器を収納することで、楽器収納ケースに管楽器とともに消音器とスタンドの両方を収納することと等価になり、管楽器、消音器およびスタンドを別個の収納ケースに入れて持ち運ぶ必要が無くなる。このように、本消音器によれば、管楽器、消音器およびスタンドを別個の収納ケースに入れて持ち運ばなくても吹奏練習に支障が生じないようにすることができる。また、本消音器では、本体部の一部である複数の脚部をスタンドの脚として機能させており、消音器をスタンドとして機能させるために別個の追加部品を使用していない。このため、本消音器は、本体部にスタンドの脚を別個に取り付ける態様に比較して軽量である。また、本消音器は、コンパクトにベル内に収納することができ、別個の追加部品を楽器収納ケースに収納させる必要もない。また、本消音器によれば、スタンドの脚を本体部内の空洞に収容する態様に比較して、本体部内の空洞を十分に確保することができ、音程性能に影響を及ぼさない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この発明の第1実施形態による消音器1の構成を示す縦断面図、側面図および背面図である。
図2】同消音器1をスタンドとして機能させたときの同消音器1の構成を示す側面図および背面図である。
図3】同消音器1における連結部41の例を示す断面図である。
図4】同消音器1の脚部111を開いた状態において各脚部111の位置を保持する機構の例を示す断面図である。
図5】この発明の第2実施形態による消音器1Aの構成を示す側面図および正面図である。
図6】同消音器1Aをスタンドとして機能させたときの同消音器1Aの構成を示す側面図および正面図である。
図7】この発明の第3実施形態による消音器1Bの構成を示す側面図である。
図8】この発明の第4実施形態による消音器1Cの構成を示す側面図である。
図9】同消音器1Cをスタンドとして機能させたときの同消音器1Cの構成を示す側面図および背面図である。
図10】この発明の第5実施形態による消音器1Dの構成を示す側面図である。
図11】同消音器1Dをスタンドとして機能させたときの同消音器1Dの構成を示す側面図および正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、この発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
本実施形態による消音器1は、消音器として機能するだけでなく、スタンドとしても機能するようにしたものである。本実施形態による消音器1は、トランペット用の消音器である。以下、本明細書では、トランペットの中心からマウスピースに向かう方向を後方と呼び、トランペットの中心からベルに向かう方向を前方と呼ぶ。
【0011】
図1(A)は、この発明の第1実施形態による消音器1を消音器として機能させている状態における同消音器1の構成を示す縦断面図であり、図1(B)は、同状態における同消音器1の構成を示す側面図であり、図1(C)は、同状態における後方から同消音器1を見たときの同消音器1の構成を示す背面図である。また、図2(A)は、同消音器1をスタンドとして機能させている状態における同消音器1の構成を示す側面図であり、図2(B)は、同状態における後方から同消音器1を見たときの同消音器1の構成を示す背面図である。図1(A)、図1(B)および図2(A)は、消音器1をトランペットに装着した状態を示す。
【0012】
図1および図2に示すように、消音器1は、本体部10と、支持部32と、支柱31と、音程調節部36と、支持部16とを有する。本体部10は、胴部11と底部12とから構成されている。
【0013】
胴部11は、略円錐管形状の中空の管体である。消音器1をトランペットに装着したとき、胴部11の回転軸(以下、単に軸という)は、ベル3の軸に重なる。胴部11は、前端である大径側端11aから後端である小径側端11bに向かってトランペットのベル3の内壁に沿うようにして外径および内径が小さくなっている。胴部11内には、空洞13が形成される。
【0014】
胴部11の前端には、底部12がある。底部12は、皿状をなしている。底部12は、その外面が外側方向(前方)に突出する凸曲面となるように湾曲している。底部12の皿の底の部分は、胴部11の軸近傍に位置している。底部12は、その縁における端面が胴部11の軸に垂直になるように配置されている。底部12の縁の部分は、胴部11の大径側端11aに隣接している。底部12は、胴部11の大径側端11aを閉塞させる閉塞部である。
【0015】
底部12の中心近傍における底部12の内壁には、支持部32の一端が固定されている。支持部32は、円筒状をなしている。
【0016】
支持部32の内側には、丸棒状をなしている支柱31の一端が挿入されている。すなわち、支柱31は、支持部32により支えられている。支柱31は、底部12から胴部11の小径側端11b方向に胴部11の軸に沿って配置されている。なお、支柱31は、支持部32内で支持部32の軸方向に摺動可能であっても良い。
【0017】
支柱31の他端近傍には、音程調節部36が設けられている。音程調節部36は、ベル3の内壁に沿うようにして支柱31の他端に向かって外径および内径が小さくなっている。音程調節部36の大径側端36aは開口しており、同小径側端36bは支柱31の他端において閉塞している。
【0018】
支持部16は、棒状をなしている。支持部16の一端は、胴部11の小径側端11bにおける胴部11の内壁に固定されている。支持部16は胴部11の小径側端11bから胴部11の軸に向かう方向に延びている。支持部16の他端は、支柱31の外壁に固定されている。支持部16は、例えば、胴部11の軸の周りに沿った90度毎に合計4個設けられている。各支持部16間は開口されている。なお、支持部16の数およびその配置は、これに限られない。
【0019】
底部12には、貫通孔15が設けられている。貫通孔15の径は、トランペットのマウスピースの最小内径と同径以上となっている。トランペットのマウスピースから吹き込まれた呼気は、トランペット内を通過し、胴部11の小径側端11bの各支持部16の隙間から空洞13に入り、貫通孔15から消音器1の外部の空間に排出される。
【0020】
胴部11は、台座部110と、複数の脚部111(本実施形態では6個の脚部111)とから構成されている。台座部110と6個の脚部111は、各々分離している。台座部110は、胴部11における小径側端11b近傍の部分である。台座部110は、支持部16を介して支柱31によって支えられている。台座部110の外壁には、ゴムやウレタンなどの柔軟な素材からなる取り付け部14が胴部11の軸の周りに亙って設けられている。消音器1は、小径側端11b側からトランペットのベル3に挿入される。そして、胴部11の台座部110は、取り付け部14を介してベル3の内壁に固定される。消音器1を図1の状態にして、取り付け部14を介して台座部110をベル3の内壁に固定すると、底部12の縁の部分がベル3の端面近傍に位置する。このとき、底部12は、当該底部12が湾曲している分だけベル3の端面よりも外側(前方側)に突出する。
【0021】
胴部11の脚部111は、胴部11における台座部110よりも大径側端11a側の部分である。脚部111は、台座部110と当該脚部111との境界部分から胴部11の大径側端11aまでの胴部11を、胴部11の軸の周りに沿った方向に均等に6分割してなる複数の部材である。なお、脚部111は、6分割されたものに限られず、複数に分割されたものであれば良く、3分割以上に分割されたものであることが好ましい。また、脚部111は、均等に分割されたものであることが好ましいが、不均等に分割されたものであっても良い。
【0022】
台座部110の脚部111側の端部と各脚部111の台座部110側の端部には、ゴムなどの柔軟な素材からなるパッキンが設けられている(図示略)。また、各脚部111における他の脚部111と隣接する端部にも、同様なパッキンが設けられている(図示略)。また、底部12の縁の部分と各脚部111の底部12側の端部にも、同様なパッキンが設けられている(図示略)。
【0023】
各脚部111には、当該脚部111を隣接する脚部111に連結して固定するための連結部41が各々設けられている。連結部41を用いて各脚部111を連結して固定すると、各脚部111と台座部110と底部12とにより空洞13が形成される。空洞13は、ベル3内の音を消音させるための空洞である。そして、台座部110と各脚部111との間、各脚部111間、および底部12と各脚部111との間は、前述したパッキンによって各々密閉される。このように空洞13を形成させると、消音器1は、消音器として機能する。
【0024】
また、連結部41は、各脚部111の連結を解除して脚部111を各個に分離することができる。連結部41は、例えば、次のような構成である。図3は、連結部41の例を示す断面図である。図3に示すように、一方の脚部111の端部に窪み411を設け、隣接する他方の脚部111の端部に、摺動させることにより端部から突出する突起412を設ける。そして、突起412を端部から突出させて窪み411に嵌め合わせることにより隣接する脚部111同士を連結する。なお、連結部41の構成は、この例に限られず、種々の構成が考えられる。
なお、各脚部111と台座部110とを連結して固定する連結部を設けても良い。
【0025】
各脚部111の底部12側の端部には、底部12の縁の部分に連結されている可動部42が設けられている。可動部42は、各脚部111に1個ずつ設けられている。また、各脚部111における可動部42を介して底部12と連結している部分以外の部分は、底部12から分離されている。可動部42は、当該可動部42を支点として底部12に対して各脚部111を回転移動させるための部材である。
【0026】
可動部42は、例えば、蝶番である。蝶番の一方の部材が各脚部111の底部12側端(すなわち胴部11の前端)における各脚部111の外壁に固定され、蝶番の他方の部材が底部12の縁の部分における底部12の外壁に固定される。蝶番の軸部分は、底部12の縁の部分において胴部11の軸の周りに沿った方向に並べられる。このため、各脚部111は、その底部12側端の蝶番を支点として(換言すると、胴部11の前端を支点として)、本体部10の前方に回転移動可能である。すなわち、消音器1の状態を、各脚部111の台座部110側端(以下、各脚部111の先端ということがある)を台座部110に隣接させた状態(図1参照。以下、この図1に示す消音器1の状態を脚部111を閉じた状態と呼ぶことがある。)から、各脚部111の先端を本体部10の前方に回転移動させた状態(図2参照。以下、この図2に示す消音器1の状態を脚部111を開いた状態と呼ぶことがある。)へ変化させることができる。より詳細に説明すると、脚部111を閉じた状態における各脚部111の先端は、胴部11の軸から遠ざかる方向であり、かつ、前方に回転移動する。さらに、各脚部111の先端は、胴部11の軸に垂直な面であり、かつ、底部12の縁を含む面を越えて、胴部11の軸に近づく方向であり、かつ、前方に回転移動する。そして、各脚部111の先端は、胴部11の軸に垂直な面であり、かつ、底部12における最も前方に突出している部分の外壁を含む面、または、同面よりもさらに前方に位置する。このようにして脚部111を開いた状態に変わる。脚部111を開いた状態では、各脚部111の先端は、各脚部111が胴部11の軸に平行となる位置を越えてさらに胴部11の軸に近づく方向に回転移動しない。
【0027】
また、脚部111を開いた状態から各脚部111の先端を逆方向に回転移動させることにより、脚部111を閉じた状態に戻すことができる。より詳細に説明すると、脚部111を開いた状態における各脚部111の先端は、胴部11の軸から遠ざかる方向であり、かつ、後方に回転移動する。さらに、各脚部111の先端は、胴部11の軸に垂直な面であり、かつ、底部12の縁を含む面を越えて、胴部11の軸に近づく方向であり、かつ、後方に回転移動する。そして、各脚部111の先端は、台座部110に隣接する位置まで回転移動する。このようにして脚部111を閉じた状態に変わる。なお、可動部42は、蝶番に限られない。
【0028】
各脚部111は、脚部111を開いた状態においてその位置を保持する機構を有している。この保持機構は、脚部111を開いた状態の各脚部111に後方に向かう力を加えたとしても各脚部111が後方に回転移動しないようにしたものである。この保持機構は、例えば、次のような構成である。図4は、脚部111を開いた状態において各脚部111の位置を保持する機構の例を示す断面図である。図4に示すように、各脚部111の底部12側端近傍の内壁に、その内壁に平行な爪421であり、かつ、摺動させることにより底部12側端から外側に突出する爪421を設ける。また、底部12の内壁に、各脚部111における突出された爪を受ける受け部422を設ける。そして、各脚部111の爪421が底部12の受け部422に引っ掛かることにより、各脚部111は、後方に回転移動しない。なお、この保持機構は、この例に限られず、種々の構成が考えられる。また、この保持機構は、各脚部111を底部12よりも前方に回転移動させたときの特定の回転角度のみにおいて各脚部111を保持するものであっても良いし、複数の回転角度において各脚部111を保持することができる多段式のものであっても良い。
【0029】
脚部111を開いた状態にしたとき、脚部111の各々は、その回転角度が同じ位置において保持される。このため、各脚部111の先端を結んで形成される面は、胴部11の軸に垂直な面となる。底部12よりも前方に回転移動させた各脚部111は、消音器1をスタンドとして使用する際の脚として機能する。
以上が、消音器1の構成である。
【0030】
次に、本実施形態による消音器1の使用態様を説明する。まず、消音器1を消音器として使用する場合について説明する。この場合、ユーザ(吹奏者)は、各脚部111の先端を台座部110に隣接させ、連結部41を用いて各脚部111を連結して固定させる。すなわち、消音器1の状態を脚部111を閉じた状態にする。その後、ユーザは、胴部11の小径側端11b側から消音器1をトランペットのベル3内に挿入する。取り付け部14がベル3の内壁に当接することにより、消音器1は、トランペットに装着される。そして、ユーザは、消音器1が装着されたトランペットを吹奏する。吹奏によりベル3内に生じた音は、各脚部111と台座部110と底部12とにより形成される空洞13に伝搬される。そして、空洞13に伝搬された音は、空洞13において消音され、トランペットを吹奏する際に吹き込んだ呼気は、貫通孔15を介して消音器1外へ排出される。すなわち、消音器1は、従来の消音器と同様にベル3内に生じた音を消音させる。
【0031】
次に、消音器として使用していた消音器1をスタンドとして使用する場合について説明する。まず、ユーザは、トランペットに装着されている消音器1をベル3外に取り外す。次に、ユーザは、各連結部41による連結を各々解除する。次に、ユーザは、各脚部111を底部12よりも前方へ回転移動させる。次に、ユーザは、回転移動させた各脚部111の各々の位置を保持させる。すなわち、消音器1の状態を脚部111を開いた状態にする。なお、支柱31を支持部32内で摺動可能にした場合には、支柱31を摺動させることにより消音器1における胴部11の軸方向の長さを調節しても良い。
【0032】
次に、ユーザは、トランペットを一時的に置こうとする床などに消音器1を設置する。より詳細には、ユーザは、消音器1を各脚部111の先端が下側となるような姿勢にし、当該各脚部111の先端を床などに当接させる。これにより、消音器1は、その床などに対して直立する。次に、ユーザは、トランペットを消音器1に設置する。より詳細には、ユーザは、ベル3の端面を下方に向けた姿勢でトランペットを消音器1の上方から当該消音器1に覆い被せる。このようにすると、台座部110の外壁に設けられている取り付け部14がベル3の内壁に当接する。これにより、消音器1は、ベル3の内側からトランペットを支える。そして、消音器1は、トランペットを安定して保持する。
【0033】
次に、消音器1を楽器収納ケースにトランペットとともに収納する場合について説明する。この場合、ユーザは、消音器として使用する場合と同様に、各脚部111の先端を台座部110に隣接させ、連結部41を用いて各脚部111を連結して固定させる。すなわち、消音器1の状態を脚部111を閉じた状態にする。その後、消音器1をベル3内に挿入する。これにより、各脚部111は、消音器1の他の部分と同様にベル3内に収納される。そして、ユーザは、ベル3内に消音器1を収納した状態でトランペットと消音器1とを楽器収納ケースに収納する。
【0034】
このように、本実施形態による消音器1は、胴部11と底部12とから構成される本体部10を有している。胴部11は、ベル3の内壁に固定される台座部110と、複数の脚部111とから構成されている。各脚部111は、台座部110よりも前端側の胴部11を胴部11の軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の部材であり、胴部11の前端を支点として前記本体部10の前方に回転移動可能である。脚部111を閉じた状態では、各脚部111と台座部110と底部12とによりベル3内に生じる音を消音させるための空洞13が形成される。これにより、消音器1は、消音器として機能する。また、各脚部111を本体部10の前方に回転移動させて脚部111を開いた状態にし、当該各脚部111が下側になるような姿勢にすると、消音器1は、台座部110に固定した管楽器を安定して支持することができる。これにより、消音器1は、トランペットを支持するスタンドとしても機能する。また、消音器1を消音器として機能させる形態にすることで、消音器1をベル3内に収納することができる。これらより、楽器収納ケースにトランペットとともに消音器1を収納することで、楽器収納ケースにトランペットとともに消音器とスタンドの両方を収納することと等価になり、トランペット、消音器およびスタンドを別個の収納ケースに入れて持ち運ぶ必要が無くなる。前述したように、消音器1は、吹奏練習に欠かせない消音器とスタンドの両方の機能を有しているため、消音器1を使用することにより吹奏練習に支障が生じない。
【0035】
また、本実施形態による消音器1では、本体部10の一部である複数の脚部をスタンドの脚として機能させており、消音器をスタンドとして機能させるために別個の追加部品を使用していない。このため、消音器1は、本体部にスタンドの脚を別個に取り付ける態様に比較して軽量である。また、消音器1は、コンパクトにベル内に収納することができ、別個の追加部品を楽器収納ケースに収納させる必要もない。また、消音器1によれば、スタンドの脚を本体部10内の空洞13に収容する態様に比較して、本体部10内の空洞13を十分に確保することができ、音程性能に影響を及ぼさない。
【0036】
<第2実施形態>
図5(A)は、この発明の第2実施形態による消音器1Aを消音器として機能させている状態における同消音器1Aの構成を示す側面図であり、図5(B)は、同状態における前方から同消音器1Aを見たときの同消音器1Aの構成を示す正面図である。また、図6(A)は、同消音器1Aをスタンドとして機能させている状態における同消音器1Aの構成を示す側面図であり、図6(B)は、同状態における前方から同消音器1Aを見たときの同消音器1Aの構成を示す正面図である。本実施形態による消音器1Aは、本体部10に代えて本体部10Aを、胴部11に代えて胴部11Aを、底部12に代えて底部12Aを、可動部42に代えて可動部42Aを、連結部41に代えて連結部41Aを設けた点において第1実施形態による消音器1と異なる。
【0037】
胴部11Aは、台座部110と脚部111に分割されていない点において第1実施形態による胴部11と異なる。すなわち、胴部11Aは、大径側端11Aaから小径側端11Abに亙って一体となっている。また、胴部11Aは、スタンドにおける台座としての役割を果たす。
【0038】
胴部11Aの前端には皿状の底部12Aがある。底部12Aは、複数の脚部121(本実施形態では6個の脚部121)から構成されている。脚部121は、各々分離している。脚部121は、底部12Aを胴部11Aの軸の周りに沿った方向に均等に6分割してなる複数の部材である。脚部121は、正面から見ると、扇形をなしている。なお、脚部121は、6分割されたものに限られず、複数に分割されたものであれば良く、3分割以上に分割されたものであることが好ましい。また、脚部121は、均等に分割されたものであることが好ましいが、不均等に分割されたものであっても良い。また、各脚部121は、支柱31および支持部32に固定されていない。
【0039】
各脚部121における他の脚部121と隣接する端部には、ゴムなどの柔軟な素材からなるパッキンが設けられている(図示略)。また、各脚部121における円弧側の端部と胴部11Aの大径側端11Aaにも、同様なパッキンが設けられている(図示略)。
【0040】
各脚部121には、当該脚部121を隣接する脚部121に連結して固定するための連結部41Aが各々設けられている。連結部41Aを用いて各脚部121を連結して固定することにより、各脚部121は、胴部11Aの大径側端11Aaを閉塞する。すなわち、各脚部121からなる底部12Aは、閉塞部として機能する。これにより、各脚部121と胴部11Aとにより空洞13が形成される。各脚部121間、および、各脚部121と胴部11Aとの間は、前述したパッキンによって各々密閉される。
【0041】
また、連結部41Aは、各脚部121の連結を解除して各脚部121を各個に分離するこができる。連結部41Aの構成は、第1実施形態による連結部41と同様である。
【0042】
各脚部121の円弧側の端部には、胴部11Aの大径側端11Aaに連結されている可動部42Aが設けられている。可動部42Aは、各脚部121に1個ずつ設けられている。また、各脚部121における可動部42Aを介して胴部11Aと連結している部分以外の部分は、胴部11Aから分離されている。可動部42Aは、当該可動部42Aを支点として胴部11Aに対して各脚部121を回転移動させるための部材である。
【0043】
可動部42Aは、例えば、蝶番である。蝶番の一方の部材が各脚部121の円弧側端における各脚部121の外壁に固定され、蝶番の他方の部材が胴部11Aの大径側端11Aaにおける胴部11Aの外壁に固定される。蝶番の軸部分は、胴部11Aの大径側端11Aaにおいて胴部11Aの軸の周りに沿った方向に並べられる。このため、各脚部121は、その胴部11Aの大径側端11Aaの蝶番を支点として、胴部11Aの軸から遠ざかる方向に回転移動可能である。すなわち、消音器1Aの状態を、各脚部121における底部12Aの中心側の端(以下、各脚部121の先端ということがある)を底部12Aの中心に集合させた状態(図5参照。以下、この図5に示す消音器1Aの状態を脚部121を閉じた状態と呼ぶことがある。)から、各脚部121の先端を胴部11Aの軸から遠ざかる方向に回転移動させた状態(図6参照。以下、この図6に示す消音器1Aの状態を脚部121を開いた状態と呼ぶことがある。)へ変化させることができる。より詳細に説明すると、脚部121を閉じた状態における各脚部121の先端は、胴部11Aの軸から遠ざかる方向であり、かつ、前方に回転移動する。さらに、各脚部121の先端は、各脚部121が胴部11Aの軸に平行となる位置を越えて、胴部11Aの軸から遠ざかる方向であり、かつ、後方に回転移動する。このようにして脚部121を開いた状態に変わる。脚部111を開いた状態では、各脚部121の先端は、胴部11Aの大径側端11Aaを含む胴部11Aの軸に垂直な面を越えてさらに後方に回転移動しない。このため、各脚部121は、ベル3に接触しない。
【0044】
また、脚部121を開いた状態から各脚部121の先端を逆方向に回転移動させることにより、脚部121を閉じた状態に戻すことができる。より詳細に説明すると、脚部121を開いた状態における各脚部121の先端は、胴部11Aの軸に近づく方向であり、かつ、前方に回転移動する。さらに、各脚部121の先端は、各脚部121が胴部11Aの軸に平行となる位置を越えて、胴部11Aの軸に近づく方向であり、かつ、後方に回転移動する。そして、各脚部121の先端は、底部12Aの中心まで回転移動する。このようにして脚部121を閉じた状態に変わる。なお、可動部42は、蝶番に限られない。
【0045】
各脚部121は、脚部121を開いた状態においてその位置を保持する機構を有している(図示略)。この保持機構は、脚部121を開いた状態の各脚部121に、さらに後方に向かう力を加えたとしても各脚部121がさらに後方に回転移動しないようにしたものである。この保持機構は、例えば、蝶番が完全に開いた状態となることにより各脚部121の回転移動が止まるというようなものである。なお、この保持機構は、この例に限られず、種々の構成が考えられる。また、各脚部121は、図6に示すように、胴部11Aの外壁に沿って当該胴部11Aの外壁を前方へ延長した位置において保持されると良い。
【0046】
脚部121を開いた状態にしたとき、脚部121の各々は、その回転角度が同じ位置において保持される。このため、各脚部121の先端を結んで形成される面は、胴部11Aの軸に垂直な面となる。
以上が、消音器1Aの構成である。
【0047】
次に、本実施形態による消音器1Aの使用態様を説明する。まず、消音器1を消音器として使用する場合について説明する。この場合、ユーザは、各脚部121の先端を底部12Aの中心に集合させて、連結部41Aを用いて各脚部121を連結して固定させる。すなわち、消音器1Aの状態を脚部121を閉じた状態にする。その後、ユーザは、第1実施形態による消音器1と同様に、消音器1Aをトランペットに装着して吹奏する。吹奏によりベル3内に生じた音は、各脚部121と胴部11Aとにより形成される空洞13に伝搬される。そして、空洞13に伝搬された音は、空洞13において消音され、トランペットを吹奏する際に吹き込んだ呼気は、貫通孔15を介して消音器1A外へ排出される。すなわち、消音器1Aも、第1実施形態による消音器1と同様に、従来の消音器と同様にベル3内に生じた音を消音させる。
【0048】
また、第1実施形態による消音器1と同様に、ユーザは、消音器として機能させる形態にした消音器1Aをベル3内に収納し、その状態でトランペットと消音器1Aとを楽器収納ケースに収納することができる。
【0049】
次に、消音器として使用していた消音器1Aをスタンドとして使用する場合について説明する。まず、ユーザは、トランペットに装着されている消音器1Aをベル外に取り外す。次に、ユーザは、各連結部41Aによる連結を各々解除する。次に、ユーザは、各脚部121を胴部11Aの軸から遠ざかる方向に回転移動させる。次に、ユーザは、回転移動させた各脚部121の各々の位置を保持させる。すなわち、消音器1Aの状態を脚部121を開いた状態にする。
【0050】
次に、ユーザは、トランペットを一時的に置こうとする床などに各脚部121の先端を当接させて消音器1Aを当該床などに設置する。そして、第1実施形態による消音器1と同様に、トランペットを消音器1Aに設置する。なお、本実施形態では、トランペットに装着されている消音器1Aをベル外に取り外すことなく各連結部41Aの連結を解除して各脚部121を回転移動させ、その状態の消音器1Aを装着したまま、ベルの端面を下に向けてトランペットを置くこともできる。
【0051】
このように、本実施形態による消音器1Aは、底部12Aを胴部11Aの軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の脚部121を有している。そして、消音器1Aは、底部12Aの縁を支点として各脚部121を胴部11Aの軸から遠ざかる方向に回転移動させることにより、各脚部121をスタンドの脚として機能させている。
従って、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
<第3実施形態>
図7は、この発明の第3実施形態による消音器1Bの構成を示す側面図である。図7は、消音器1Bをスタンドとして機能させている状態を示す。本実施形態による消音器1Bは、各脚部111を底部12よりも前方に回転移動させたとき、脚部111の各々の回転角度が異なる位置において各脚部111を保持するようにした点において第1実施形態による消音器1と異なる。
【0053】
図7では、向かって左側の脚部111における台座部110からの回転角度は、他の脚部111における同回転角度に比べて小さく、右側の脚部111における台座部110からの回転角度は、他の脚部111における同回転角度に比べて大きく、中央の脚部111における台座部110からの回転角度は、左側の脚部111における同回転角度と右側の脚部111における同回転角度との間の同回転角度となっている。このように、一方に配置されている脚部111は、回転角度が小さい位置で保持され、それと反対方向に配置されている脚部111は、回転角度が大きい位置で保持される。このようにすると、各脚部111の先端を結んで形成される面の法線は、胴部11の軸から傾く。すなわち、各脚部111の先端を机上などに当接させて消音器1Bをその机上などに置いたとき、当該消音器1Bは、傾いた状態となる。
【0054】
本実施形態による消音器1Bは、例えば、トロンボーンの吹奏練習用に好適である。トロンボーンは、ベルの端面を下に向けた状態におけるトロンボーン本体の重心がベルの軸からずれている。このため、机上面に垂直に設置された消音器にトロンボーンのベルを覆い被せて消音器にトロンボーンを支持させようとすると、当該消音器は、トロンボーン本体の重心方向に傾いて倒れてしまうことが考えられる。このような問題を解決するために、本実施形態による消音器1Bは、胴部11の軸を机上面の法線に対して傾けることにした。胴部11の軸を机上面の法線に対して傾けることにより、消音器1Bにトロンボーンを支持させたときにおけるトロンボーン本体の重心を、消音器1Bの中心を通る鉛直軸近傍に位置させることができる。具体的には、机上面に設置された消音器1Bにトロンボーンを置く際には、机上面と胴部11の軸とのなす角度が最も大きくなる方向にトロンボーンのスライドが配置されるように置く。このようにすると、ベルの軸に対してスライド側に偏っていたトロンボーン本体の重心が机上面と胴部11の軸とのなす角度が最も小さくなる方向に向かってずれて、その重心が消音器1Bの中心を通る鉛直軸近傍に位置することとなる。従って、本実施形態による消音器1Bは、ベルの端面を下に向けた状態における管楽器本体の重心がベルの軸からずれるような管楽器を安定して支持することができる。
【0055】
脚部111の各々の回転角度が異なる点を除いて、消音器1Bの構成は、第1実施形態による消音器1の構成と同一であるから、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0056】
なお、各脚部111の先端を結んで形成される面の法線と胴部11の軸とのなす角度(すなわち、消音器1Bを床などに置いたときの消音器1Bの傾き)は、消音器1Bにより支持する管楽器の種類等により決定されるのが好ましい。また、消音器1Bは、同角度を変更および調整することができるようにしても良い。
【0057】
なお、トロンボーンは、スライドがベルの端面よりも前方に張り出している。このため、消音器1Bをトロンボーン用のスタンドとして使用するときには、スライドが床に接触しないように、消音器1Bを机上における縁近傍などに設置して使用することが好ましい。
【0058】
<第4実施形態>
図8は、この発明の第4実施形態による消音器1Cを消音器として機能させている状態における同消音器1Cの構成を示す側面図である。また、図9(A)は、同消音器1Cをスタンドとして機能させている状態における同消音器1Cの構成を示す側面図であり、図9(B)は、同状態における後方から同消音器1Cを見たときの同消音器1Cの構成を示す背面図である。本実施形態による消音器1Cは、本体部10に代えて本体部10Cを、胴部11に代えて胴部11Cを、脚部111に代えて脚部111Cを、底部12に代えて底部12Cを、可動部42に代えて連結部42Cを設け、さらにレール43Cを設けた点において第1実施形態による消音器1と異なる。第1実施形態による消音器1では、可動部42を支点として各脚部111を底部12よりも前方に回転移動させて、各脚部111をスタンドの脚として機能させた。これに対して、本実施形態による消音器1Cは、各脚部111Cを当該各脚部111Cの外壁に沿った前後方向に摺動させることで各脚部111Cを底部12よりも前方に位置させるようにしたものである。
【0059】
各脚部111Cの形状および底部12Cの形状は第1実施形態の脚部111の形状および底部12の形状と同様である。
【0060】
台座部110の脚部111C側の端部と各脚部111Cの台座部110側の端部には、ゴムなどの柔軟な素材からなるパッキンが設けられている(図示略)。また、各脚部111Cにおける他の脚部111Cと隣接する端部にも、同様なパッキンが設けられている(図示略)。また、底部12Cの縁の部分と各脚部111Cの底部12C側の端部にも、同様なパッキンが設けられている(図示略)。
【0061】
各脚部111Cの底部12C側の端部と底部12Cの縁の部分には、それらを連結して固定するための連結部42Cが設けられている。連結部42Cの構成は、連結部41と同様である。連結部42Cを用いて各脚部111Cと底部12Cとを連結して固定し、連結部41を用いて隣接する各脚部111Cを連結して固定することにより、各脚部111Cと台座部110と底部12Cとにより空洞13が形成される。台座部110と各脚部111Cとの間、各脚部111C間、および底部12Cと各脚部111Cとの間は、パッキンによって各々密閉される。また、連結部42Cは、各脚部111Cと底部12Cとの連結を解除して各脚部111Cを各個の分離することができる。
【0062】
各脚部111Cの内壁には、レール43Cが突出して設けられている。レール43Cは、脚部111Cの台座部110側端から底部12C側端まで延びている。レール43Cの断面は、略T字状である。レール43Cは、脚部111Cを胴部11Cの軸の周りに沿った方向に等分する位置に設けられている。
【0063】
底部12Cの縁の部分には、各脚部111Cのレール43Cに対応する溝が設けられている(図示略)。そして、レール43Cはこの溝に嵌め合わされる。レール43Cは、底部12Cの溝内をレール43Cの長手方向に沿って摺動可能である。
【0064】
各脚部111Cは、レール43Cの摺動に従って、胴部11Cの外壁に沿って本体部10Cの前方に摺動可能である。すなわち、消音器1Cの状態を、各脚部111Cにおける胴部11Cの大径側端11Caとなる端(以下、各脚部111Cの先端ということがある)を底部12Cの縁に隣接させた状態(図8参照。以下、この図8に示す消音器1Cの状態を脚部111Cを閉じた状態と呼ぶことがある。)から、各脚部111Cの先端を本体部10Cの前方に摺動させた状態(図9参照。以下、この図9に示す消音器1Cの状態を脚部111Cを開いた状態と呼ぶことがある。)へ変化させることができる。より詳細には、各脚部111Cを閉じた状態における各脚部111Cの先端は、胴部11Cの軸に垂直な面であり、かつ、底部12Cにおける最も前方に突出している部分の外壁を含む面、または、同面よりもさらに前方へ摺動する。そして、各脚部111Cの台座部110側端近傍の部分が底部12Cの縁の部分に位置する。このようにして脚部111Cを開いた状態に変わる。ここで、各脚部111Cは、ベル3の内壁と同様に、台座部110側端から底部12C側端に向かって放射状に広がる形状をしている。このため、胴部11Cの外壁に沿って本体部11Cの前方に摺動すると、各脚部111Cの先端を結んで形成される円は、底部12Cの縁が形成する円よりも大きくなる。
【0065】
また、脚部111Cを開いた状態から各脚部111Cの先端を逆方向に摺動させることにより、脚部111Cを閉じた状態に戻すことができる。すなわち、各脚部111Cの先端は、当該脚部111Cの先端が底部12Cの縁に隣接する位置まで、本体部10Cの後方へ摺動する。このようにして脚部111Cを閉じた状態に変わる。
【0066】
各脚部111Cは、脚部111Cを開いた状態においてその位置を保持する機構を有している(図示略)。この保持機構は、脚部111Cを開いた状態の各脚部111Cに、後方に向かう力を加えたとしても各脚部111Cが後方に移動しないようにしたものである。この保持機構は、例えば、次のような構成である。レール43Cの台座部110側端近傍における当該レール43Cに切欠きを設け、この切欠き部分においてレール43Cを胴部11Cの軸の周りに沿った方向に移動させて、レール43Cを底部12Cの溝からずらすようにする。これにより、レール43Cの切欠き部分が底部12Cの縁に引っ掛かり、各脚部111Cは保持される。なお、この保持機構は、この例に限られず、種々の構成が考えられる。
【0067】
脚部111Cを開いた状態にしたとき、脚部111Cの各々は、前方への移動量が同じ位置において保持される。このため、各脚部111Cの先端を結んで形成される面は、胴部11Cの軸に垂直な面となる。
【0068】
本体部10Cの前方に摺動させた各脚部111Cが下側になるような姿勢にすると、消音器1は、台座部110に固定したトランペットを安定して支持することができる。
従って、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0069】
<第5実施形態>
図10は、この発明の第5実施形態による消音器1Dを消音器として機能させている状態における同消音器1Dの構成を示す側面図である。また、図11(A)は、同消音器1Dをスタンドとして機能させている状態における同消音器1Dの構成を示す側面図であり、図11(B)は、同状態における前方から同消音器1Dを見たときの同消音器1Dの構成を示す正面図である。本実施形態による消音器1Dは、本体部10Aに代えて本体部10Dを、底部12Aに代えて底部12Dを、脚部121に代えて脚部121Dを、可動部42Aに代えて連結部42Dを設け、さらにレール43Dを設けた点において第2実施形態による消音器1Aと異なる。第2実施形態による消音器1Aでは、可動部42を支点として各脚部121を胴部11Aの軸に平行な位置よりも胴部11Aの軸から遠ざかる方向に回転移動させて、各脚部121をスタンドの脚として機能させた。これに対して、本実施形態による消音器1Dは、各脚部121Dを胴部11Dの軸から遠ざかる方向に摺動させるようにしたものである。
【0070】
底部12Dは、筒状部120Dと、複数の脚部121Dとから構成されている。筒状部120Dは、筒状をなしており、その一端から他端に亙ってその外径および内径が一定となっている。筒状部120Dの一端は、脚部121Dに隣接している。筒状部120Dの他端は、胴部11Aの大径側端11Aaに接合されている。トランペットに消音器1Dが装着されたとき、筒状部120Dと胴部11Aの接合部近傍がベル3の端面に位置し、脚部121Dがベル3の端面よりも前方に位置する。
【0071】
脚部121Dの形状は第2実施形態の脚部121の形状と同様である。
【0072】
各脚部121Dにおける他の脚部121Dと隣接する端部には、ゴムなどの柔軟な素材からなるパッキンが設けられている(図示略)。また、筒状部120Dの脚部121D側の端部と各脚部121Dの円弧側の端部にも、同様なパッキンが設けられている(図示略)。
【0073】
各脚部121Dの円弧側の端部とそれに隣接する筒状部120Dには、それらを連結して固定するための連結部42Dが設けられている。連結部42Dの構成は、連結部41Aと同様である。連結部42Dを用いて各脚部121Dと筒状部120Dとを連結して固定し、連結部41Aを用いて隣接する各脚部121Dを連結して固定することにより、各脚部121Dと筒状部120Dと胴部11Aとにより空洞13が形成される。各脚部121D間、および、各脚部121Dと筒状部120Dとの間は、パッキンによって各々密閉される。また、連結部42Dは、各脚部121Dと筒状部120Dとの連結を解除して各脚部121Dを各個に分離することができる。
【0074】
各脚部121Dの内壁には、レール43Dが突出して設けられている。レール43Dは、脚部121Dにおける底部12Dの中心側端近傍から円弧側端まで延びている。レール43Dの断面は、略T字状である。レール43Dは、脚部121Dを胴部11Aの軸の周りに沿った方向に等分する位置に設けられている。
【0075】
筒状部120Dにおける脚部121D側の端部には、各脚部121Dのレール43Dに対応する溝が設けられている(図示略)。レール43Dはこの溝に嵌め合わされる。レール43Dは筒状部120Dの溝内をレール43Dの長手方向に沿って摺動可能である。
【0076】
各脚部121Dは、レール43Dの摺動に従って、胴部11Aの軸から遠ざかる方向に摺動可能である。すなわち、消音器1Dの状態を、各脚部121Dの円弧側端(以下、各脚部121Dの先端ということがある)を筒状部120Dにおける脚部121D側端に隣接させた状態(図10参照。以下、この図10に示す消音器1Dの状態を脚部121Dを閉じた状態と呼ぶことがある。)から、各脚部121Dの先端を胴部11Aの軸から遠ざかる方向に摺動させた状態(図11参照。以下、この図11に示す消音器1Dの状態を脚部121Dを開いた状態と呼ぶことがある。)へ変化させることができる。より詳細には、脚部121Dを閉じた状態における各脚部121Dの先端は、胴部11Aの軸から遠ざかる方向に摺動する。そして、各脚部121Dにおける底部12Dの中心側端近傍が筒状部120Dにおける脚部121D側端に位置する。このようにして脚部121Dを開いた状態に変わる。なお、各脚部121Dは、ベル3の端面よりも前方に位置しているため、ベル3に接触しない。
【0077】
また、脚部121Dを開いた状態から各脚部121Dの先端を逆方向に摺動させることにより、脚部121Dを閉じた状態に戻すことができる。すなわち、各脚部121Dの先端は、当該脚部121Dの先端が筒状部120Dにおける脚部121D側端に隣接する位置まで、胴部11Aの軸に近づく方向に摺動する。このようにして脚部121Dを閉じた状態に変わる。
【0078】
各脚部121Dは、脚部121Dを開いた状態においてその位置を保持する機構を有している(図示略)。この保持機構は、第4実施形態における摺動させた位置を保持する機構と同様である。
【0079】
消音器1Dでは、各脚部121Dにおける底部12Dの中心側端が最も前方に位置している。このため、各脚部121Dが下側になるような姿勢で消音器1Dを床などに置くと、各脚部121Dにおける底部12Dの中心側端近傍の外壁がその床などに当接することとなる。ここで、各脚部121Dを胴部11Aの軸から遠ざかる方向に摺動させることにより、各脚部121Dにおける底部12Dの中心側端が胴部11Aの軸から離れた位置に分散して配置される。また、脚部121Dの各々は、胴部11Aの軸から遠ざかる量が同じ位置において保持される。従って、消音器1Dは、各脚部121Dが下側になるような姿勢で床などの上に安定して置かれる。そして、消音器1は、胴部11Aに固定したトランペットを安定して支持することができる。
従って、本実施形態においても、第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0080】
<他の実施形態>
以上、この発明の第1〜第5実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
【0081】
(1)上記各実施形態では、トランペット用またはトロンボーン用の消音器1〜1Dを例に説明したが、それ以外の管楽器に用いる消音器においても同様な技術的思想で消音器を設計することができる。特に、管楽器をベルの内側から支えることが可能な管楽器において有益である。
【0082】
(2)上記各実施形態による消音器1〜1Dは、当該消音器1〜1Dをスタンドとして機能させるときに、全ての各脚部111、121、111Cおよび121Dを移動させていた。しかし、消音器1〜1Dをスタンドとして機能させるときに、全ての脚部111、121、111Cおよび121Dを移動させる必要はない。少なくとも3個の脚部を移動させれば管楽器を安定して支持することができるからである。
【0083】
また、全ての脚部が移動可能でなくても良い。少なくとも3個の脚部が移動可能であれば管楽器を安定して支持することができるからである。例えば、第1実施形態による消音器1において、6個の脚部111のうち、移動可能な脚部111と移動可能でない脚部111とが、胴部11の軸の周りに沿った方向に交互に繰り返して配置される、という具合である。また、移動可能でない脚部111は、可動部42が設けられず、当該脚部111の底部12側端が底部12の縁に接続されており、当該脚部111の台座部110側端が台座部110の脚部111側端に接続されていても良い。このように、台座部110および底部12に各々接続されている脚部111を有する場合、支持部16を省略しても良い。台座部110は、支持部16に代わり、台座部110および底部110に各々接続されている脚部111を介して支柱31および底部12に支持されるからである。また、第1実施形態の例について上述したが、他の実施形態においても同様である。
【0084】
(3)上記第2および第5実施形態による消音器1Aおよび1Dにおいて底部12Aおよび12Dは、複数の脚部121および121Dにより構成されていた。しかし、底部は、少なくともその一部が複数の脚部により構成されていれば良い。例えば、次のような構成が挙げられる。底部は、その中心近傍の部分と、その中心近傍の部分以外の部分を胴部の軸の周りに沿った方向に分割された複数の部材である脚部とから構成される。そして、底部の中心近傍の部分は、支持部32に固定されている一方、脚部は、上記第2および第5実施形態と同様に移動する、という具合である。このような態様においても、上記第2および第5実施形態と同様な効果を奏する。
【0085】
(4)上記第1、第3および第4実施形態による消音器1、1Bおよび1Cにおいて、脚部111および111Cは、台座部110と当該脚部111および111Cとの境界部分から胴部11の大径側端11aおよび11Caまでの胴部11および11Cを、胴部11および11Cの軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の部材であった。しかし、脚部は、台座部よりも胴部の前端側の胴部の少なくとも一部を胴部の軸の周りに沿った方向に分割してなる複数の部材であれば良い。このような態様においても、上記第1、第3および第4実施形態と同様な効果を奏する。
【0086】
(5)第2および第4実施形態による消音器1Aおよび1Cについても、第3実施形態と同様に、脚部121および111Cの各々の移動量を変えることにより、当該消音器1Aおよび1Cをスタンドとして機能させたときにおける当該消音器1Aおよび1Cを設置する面の法線に対して当該消音器1Aおよび1Cの軸を傾けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0087】
1,1A,1B,1C,1D…消音器、3…ベル、10,10A,10C,10D…本体部、11,11A,11C…胴部、110…台座部、111,121,111C,121D…脚部、11a,11Aa,11Ca,36a…大径側端、11b,36b…小径側端、12,12A,12C,12D…底部、13…空洞、14…取り付け部、15…貫通孔、16,32…支持部、31…支柱、36…音程調節部、41,41A,42C,42D…連結部、42,42A…可動部、43C,43D…レール、411…窪み、412…突起、421…爪、422…受け部。
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