(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記芯軸の直径をDとし、前記イオン導電材と前記対向部材とのニップ幅をWとする場合に、前記転写部材及び前記対向部材が、πD/2<Wの関係を満たすように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1(A)は、本実施形態にかかる画像形成装置の構成図である。
【0017】
図1(A)の画像形成装置1は、例えば、プリンタであるが、コピー機又は複合機などでもよい。画像形成装置1は、像担持体としての感光体ドラム10と、感光体ドラム10の表面を一様に帯電する帯電ローラ11と、感光体ドラム10上に静電潜像を形成する露光装置12と、静電潜像に応じたトナー像を形成する現像器13と、当該トナー像を記録媒体に転写し、当該記録媒体を搬送する転写部材としての転写ローラ14と、転写ローラ14の長手軸方向の中央部に一定の力を荷重する荷重部材としての荷重ローラ15と、転写ローラ14のシャフトに転写電流を供給する転写バイアス電源(即ちDC電源)16と、記録媒体上のトナー像を当該記録媒体に定着するための加熱ローラ17及び加圧ローラ18とを備えている。
図1(A)の記録媒体は、用紙Sである。感光体ドラム10は矢印A方向に回転駆動され、トナー像が形成された用紙Sは矢印B方向に搬送される。トナー像は、負極性に帯電される。
【0018】
ここでは、画像形成装置1は、直接転写方式であるが、中間転写方式の画像形成装置でもよい。直接転写方式の画像形成装置1では、転写ローラ14の対向部材は、感光体ドラム10であるが、中間転写方式の画像形成装置では、転写ローラの対向部材は、転写ベルト又はバックアップローラなどである。
【0019】
図1(B)は、感光体ドラム、転写ローラ及び荷重ローラの概略構成図である。
【0020】
転写ローラ14は、円筒形の転写ローラであり、金属製の芯軸141と、体積抵抗値が6.0〜8.0LogΩである半導電性(即ちイオン導電性)の発泡ウレタン142とで構成されている。イオン導電材としての発泡ウレタン142は芯軸141に巻装されている。発泡ウレタン142は変形可能な弾性層である。
【0021】
荷重ローラ15は、転写ローラ14の長手軸方向の中央部と対向する位置で、且つ転写ローラ14を介して感光体ドラム10と反対側の位置に配置されている。転写ローラ14が感光体ドラム10側に押し付けられると、芯軸141の両端に荷重がかかるため、転写ローラ14がたわみ、転写ローラ14の長手軸方向の中央部に適切な荷重がかからなくなる。これは、転写画像のムラなどを引き起こす。このため、荷重ローラ15は、転写画像のムラを防止するため、転写ローラ14の長手軸方向の中央部を、感光体ドラム10側に一定の力で荷重している。
【0022】
ところで、イオン導電性の発泡ウレタン142は、転写バイアス電源からの電流供給により経時的に体積抵抗値が上昇する。これは、転写不良の原因となるため、転写ローラの寿命決定因子となっている。
【0023】
そこで、本発明者は、まず、転写ローラの体積抵抗値の上昇要因を探るために、いくつかの実験を行った。以下、この実験について説明する。
【0024】
<実験1>実験1では、本発明者は、電圧の印加方向の違いによって生じる転写ローラの体積抵抗値の上昇量を調べた。実験室の温度は22℃で湿度は55%であった。
【0025】
図2(A)及び(B)は、実験1で使用された装置の模式図である。この装置は、転写ローラ20、対向ローラ21、電源22、電流計23を備えている。
【0026】
転写ローラ20は、芯軸201及び発泡ゴム202で構成されている。発泡ゴム202は、ニトリルゴム(NBR)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)及びイオン導電剤の混合物で構成されている。発泡ゴム202のアスカーC硬度は35°である。発泡ゴム202の直径Φは10mmであり、長さは220mmである。芯軸201は、無電解Niめっきを施した鉛フリー鋼である。芯軸201の直径Φは5mmであり、長さは240mmである。
【0027】
対向ローラ21は、直径Φは50mmであるアルミ(Al)製の金属パイプである。対向ローラ21は、転写ローラ20に当接している。対向ローラ21は不図示のモータによって回転し、転写ローラ20は対向ローラ21の回転に従って連れ回りする。電源22として、汎用高圧電源(Trek610)を使用した。電流計23として、デジタル電流計(エーディーシー社製8340A)を使用した。
【0028】
図2(A)では、電源22は、120分間連続して転写ローラ20の芯軸201に1000Vの正電圧を印加した。
図2(B)では、電源22は、120分間連続して転写ローラ20の芯軸201に1000Vの負電圧を印加した。電流計23は、1分間に1回電流値を読み取り、その電流値を抵抗値(LogΩ)に換算した。実験中の120分間、転写ローラ20及び対向ローラ21は連続回転させた。回転速度は、1分あたり60回転である。
【0029】
図3は、実験1の実験結果を示すグラフである。
図3の縦軸が転写ローラ20の体積抵抗値(LogΩ)を示し、横軸が通電時間を示す。
【0030】
図3の符号101は、電源22が芯軸201に1000Vの正電圧を印加した場合の転写ローラ20の体積抵抗値を示し(
図2(A)参照)、符号102が、電源22が芯軸201に1000Vの負電圧を印加した場合の転写ローラ20の体積抵抗値を示す(
図2(B)参照)。
【0031】
この実験結果から、転写ローラ20の発泡ゴム202の抵抗上昇量は電圧印加の方向により異なり、芯軸201に正電圧を印加する場合と比べて、芯軸201に負電圧を印加すると発泡ゴム202の抵抗上昇量を抑えることができることがわかる。
【0032】
ここでは、ニトリルゴム(NBR)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)及びイオン導電剤で構成される発泡ゴムを利用しているが、これらのゴム材料は本発明を制限するものでは無く、イオン導電性を示すゴム材では同様の結果を示す。例えば、ウレタンとイオン導電剤で構成される弾性体を利用する場合も、上記と同様の傾向を示す実験結果が得られる。
【0033】
<実験2>実験2では、本発明者は、電極の面積の大きさの違いによって生じるゴムの体積抵抗値の上昇量を調べた。実験室の温度は22℃で湿度は55%であった。
【0034】
図4(A)及び(B)は、実験2で使用された装置の模式図である。この装置は、イオン導電性のゴム30、電極31、32、電源22、電流計23を備えている。電源22及び電流計23の仕様は、上述したとおりである。
【0035】
電極31は、金属(アルミ)で構成されている。電極31の長さは40mmで、幅は20mmである。電極32は、金属(アルミ)で構成されている。電極32の長さは40mmで、幅は10mmである。
【0036】
ゴム30は、ニトリルゴム(NBR)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)及びイオン導電剤の混合物で構成されている。但し、ゴム30は発泡させていない。ゴム30は、長さ40mmであり、幅は40mmで、厚さが2mmである。
【0037】
本発明者は、まず、
図4(C)に示すように、40mm(長さ)×80mm(幅)×2mm(厚さ)のゴムシートを作成し、このゴムシートを分割することで、2枚のゴム30を作成した。そして、本発明者は、
図4(A)に示す電極31及び32の配置で、
図4(C)に示すように電圧の印加方向を変更することによって、ゴム30の体積抵抗値を2度測定し、
図4(B)に示す電極31及び32の配置で、
図4(C)に示すように電圧の印加方向を変更することによって、ゴム30の体積抵抗値を2度測定した。
【0038】
図4(A)では、電源22は、15分間連続して電極31に1000Vの正電圧を印加した。
図4(B)では、電源22は、15分間連続して電極32に1000Vの正電圧を印加した。電流計23は、2秒間に1回電流値を読み取り、その電流値を抵抗値(LogΩ)に換算した。
【0039】
図5は、実験2の実験結果を示すグラフである。
図5の縦軸がゴム30の体積抵抗値の上昇量(LogΩ)を示し、横軸が通電時間を示す。
【0040】
図5の符号103は、電源22が電極31に1000Vの正電圧を印加し且つゴム30の表面が電極31に接触している場合のゴム30の体積抵抗値の上昇量を示す。符号104は、電源22が電極31に1000Vの正電圧を印加し且つゴム30の裏面が電極31に接触している場合のゴム30の体積抵抗値の上昇量を示す。符号105は、電源22が電極32に1000Vの正電圧を印加し且つゴム30の表面が電極31に接触している場合のゴム30の体積抵抗値の上昇量を示す。符号106は、電源22が電極32に1000Vの正電圧を印加し且つゴム30の裏面が電極31に接触している場合のゴム30の体積抵抗値の上昇量を示す。
【0041】
この実験結果から、ゴム30の抵抗上昇量は正負の電極面積の関係により異なり、負電極の面積が正電極の面積よりも大きいとゴム30の抵抗上昇量を抑えることができることがわかる(符号105,106のグラフ参照)。
【0042】
ここでは、ニトリルゴム(NBR)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)及びイオン導電剤で構成される発泡ゴムを利用しているが、これらのゴム材料は本発明を制限するものでは無く、イオン導電性を示すゴム材では同様の結果を示す。例えば、ウレタンとイオン導電剤で構成される弾性体を利用する場合も、上記と同様の傾向を示す実験結果が得られる。
【0043】
本発明者は、実験1及び実験2の結果から、発泡ゴム202中をイオン(電荷)が流れるときに、転写ローラ20の芯軸201と発泡ゴム202との接触面積の半分(即ち、対向ローラ21と対向する部分の接触面積)よりも、発泡ゴム202と対向ローラ21との接触面積が小さいと、対向ローラ21近傍の発泡ゴム202内部で陽イオンの偏在が起こり、発泡ゴム202の体積抵抗値が上昇すると推定した。
【0044】
そこで、本発明者は、この推定に基づいて、転写ローラの体積抵抗値の上昇を抑制することができる画像形成装置を考案した。
【0045】
具体的には、画像形成装置1では、
図6に示すように、転写ローラ14の芯軸141と発泡ウレタン142との接触面積の半分S1(即ち、芯軸141の半周に対応する、感光体ドラム10と対向する部分の接触面積)よりも、発泡ウレタン142と感光体ドラム10との接触面積S2を大きくすることで、転写ローラ14の体積抵抗値の上昇を抑制している。換言すれば、転写ローラ14の芯軸141の直径をDとし、転写ニップ幅をWとする場合に、転写ローラ14及び感光体ドラム10を、W>πD/2の関係を満たすように構成することで、転写ローラ14の体積抵抗値の上昇を抑制している。
【0046】
以下、転写ローラ14の体積抵抗値の上昇の抑制を検証した実施例と、比較例とについて説明する。検証に利用した実験室の温度は22℃で湿度は55%であった。
【0047】
<比較例>
(1)まず、本発明者は、
図7(A)に示すように、芯軸441と、単層発泡ウレタン442とを備える転写ローラ41を作成した。芯軸441は金属シャフトであり、直径Φを15mmとし、長さを80mmとした。単層発泡ウレタン442のアスカーC硬度は12°である。単層発泡ウレタン442には、4級アンモニウム過塩素を導電剤として混入し、その体積抵抗値を7.8LogΩに制御した。また、単層発泡ウレタン442の直径Φを30mmとし、長さを50mmとした。
【0048】
(2)本発明者は、転写ローラ41の対向部材として、直径Φが80mmで金属パイプで構成される対向ローラ40を使用した。
図7(A)に示すような転写装置100に、転写ローラ41と対向ローラ40とのニップ幅が5mmになるように、転写ローラ41及び対向ローラ40を設置した。転写ローラ41の長手軸方向の両端には、それぞれ0.3kgfの荷重がかけられており、転写ローラ41は対向ローラ40を押圧している。尚、電源22及び電流計23は上記実験1及び実験2で使用されたものと同様である。
【0049】
(3)次に、不図示のモータが対向ローラ40を毎分50回転で回転させた。転写ローラ41は対向ローラ40の回転に従って連れ回りする。電源22は、転写装置100に30μAの電流が流れるように1900Vの電圧を印加した。その後、定電圧制御で、1900Vの電圧を25時間連続印加した。電流計23は、10分間に1回電流値を読み取り、その電流値を抵抗値(LogΩ)に換算した。検証中の25時間、転写ローラ41及び対向ローラ40は連続回転した。
【0050】
図8は、比較例の検証結果及び後述する実施例1の検証結果を示すグラフである。
図8の縦軸が転写ローラ41の体積抵抗値(LogΩ)を示し、横軸が通電時間を示す。
【0051】
検証開始から25時間後の電流値は8μAであり、体積抵抗値は8.4LogΩになった。
【0052】
<実施例1>
(1)まず、本発明者は、
図7(B)に示すように、芯軸141と、単層発泡ウレタン142とを備える転写ローラ14を作成した。芯軸141は金属シャフトであり、直径Φを4mmとし、長さを80mmとした。単層発泡ウレタン142のアスカーC硬度は12°である。単層発泡ウレタン142には、4級アンモニウム過塩素を導電剤として混入し、その体積抵抗値を7.8LogΩに制御した。また、単層発泡ウレタン142の直径Φを30mmとし、長さを50mmとした。
【0053】
(2)本発明者は、転写ローラ14の対向部材として、直径Φが80mmで金属パイプで構成される対向ローラ40を使用した。
図7(B)に示すような転写装置100に、転写ローラ14と対向ローラ40とのニップ幅が12mmになるように、転写ローラ14及び対向ローラ40を設置した。転写ローラ14の長手軸方向の両端には、それぞれ2.2kgfの荷重がかけられており、転写ローラ14は対向ローラ40を押圧している。尚、電源22及び電流計23は上記実験1及び実験2で使用されたものと同様である。
【0054】
(3)次に、不図示のモータが対向ローラ40を毎分50回転で回転させた。転写ローラ14は対向ローラ40の回転に従って連れ回りする。電源22は、転写装置100に30μAの電流が流れるように1900Vの電圧を印加した。その後、定電圧制御で、1900Vの電圧を25時間連続印加した。電流計23は、10分間に1回電流値を読み取り、その電流値を抵抗値(LogΩ)に換算した。検証中の25時間、転写ローラ14及び対向ローラ40は連続回転した。
【0055】
検証開始から25時間後の電流値は26μAであり、
図8に示すように、体積抵抗値は7.9LogΩになった。
【0056】
図8の検証結果から、転写ローラの芯軸と発泡ウレタンとの接触面積の半分(即ち、芯軸の半周に対応する、対向ローラと対向する部分の接触面積)よりも、発泡ウレタンと対向ローラとの接触面積を大きくすることで、転写ローラの体積抵抗値の上昇が抑制されることが明らかになった。
【0057】
<実施例2>
上記比較例及び実施例1では、転写ローラ41,14及び対向ローラ40は小型サイズであった。実施例2では、転写ローラ及び対向ローラを大型サイズ(即ち、実製品サイズ)にした。以下、実施例1からの変更点のみを説明する。
【0058】
(1)芯軸141の長さを350mmとし、単層発泡ウレタン142の長さを310mmとした。また、単層発泡ウレタン142の体積抵抗値を7.0LogΩに制御した。
【0059】
(2)さらに、
図7(C)に示すように、荷重ローラ15が、転写ローラ14の長手軸方向の中央部を、対向ローラ40側に一定の力(4kgf)で荷重した。荷重ローラ15の直径Φを20mmとし、長さを100mmとした。
【0060】
(3)電源22は、転写装置100に50μAの電流が流れるように500Vの電圧を印加した。その後、定電圧制御で、500Vの電圧を25時間連続印加した。その他の検証条件は実施例1と同様である。
【0061】
検証開始から25時間後の電流値は46μAであり、
図9に示すように、転写ローラ14の体積抵抗値は約7.0LogΩになった。つまり、検証開始から25時間後でも、転写ローラ14の体積抵抗値はほとんど変化しなかった。
【0062】
図9の検証結果から、転写ローラの芯軸と発泡ウレタンとの接触面積の半分(即ち、芯軸の半周に対応する、対向ローラと対向する部分の接触面積)よりも、発泡ウレタンと対向ローラとの接触面積を大きくすることで、転写ローラの体積抵抗値の上昇が抑制されることが明らかになった。
【0063】
以上説明したように、本実施の形態によれば、画像形成装置1は、導電性の芯軸141及び芯軸141に巻装される発泡ウレタン142を有する転写ローラ14と、転写ローラ14と対向して配置される感光体ドラム10(又は転写ベルト、バックアップローラなど)とを備え、発泡ウレタン142と感光体ドラム10との接触面積が、芯軸141と発泡ウレタン142との接触面積の半分よりも大きい。従って、転写ローラ14の体積抵抗値の上昇が抑制される。
【0064】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することが可能である。