特許第6171863号(P6171863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許6171863連続鋳造用鋳型およびこれを用いた連続鋳造方法
<>
  • 特許6171863-連続鋳造用鋳型およびこれを用いた連続鋳造方法 図000002
  • 特許6171863-連続鋳造用鋳型およびこれを用いた連続鋳造方法 図000003
  • 特許6171863-連続鋳造用鋳型およびこれを用いた連続鋳造方法 図000004
  • 特許6171863-連続鋳造用鋳型およびこれを用いた連続鋳造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6171863
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】連続鋳造用鋳型およびこれを用いた連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/053 20060101AFI20170724BHJP
【FI】
   B22D11/053 A
   B22D11/053 E
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-231923(P2013-231923)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-93277(P2015-93277A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 徹
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−251637(JP,A)
【文献】 特開昭60−111742(JP,A)
【文献】 特開平10−156505(JP,A)
【文献】 米国特許第05505249(US,A)
【文献】 国際公開第1994/006583(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動装置を備える連続鋳造用鋳型であって、
前記振動装置は、
前記鋳型を鉛直方向および水平方向への振動変位が可能に懸架する板バネからなる複数の懸架部材と、
前記鋳型を鉛直方向に振動させる鉛直駆動装置と、
前記鋳型を水平方向に振動させる水平駆動装置とからなり、
前記懸架部材の剛性は、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方が大きく、
前記懸架部材は、鉛直方向に沿って延び出し、上下端が前記鋳型に接合された鉛直板バネと、水平方向に沿って延び出し、一端が前記鉛直板バネに接合された水平板バネとからなることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項2】
前記鉛直板バネおよび前記水平板バネに付与する引張力を調整するために前記鉛直板バネおよび/または前記水平板バネに設けられる引張装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。
【請求項3】
振動装置を備える連続鋳造用鋳型であって、
前記振動装置は、
前記鋳型を鉛直方向および水平方向への振動変位が可能に懸架する板バネからなる複数の懸架部材と、
前記鋳型を鉛直方向に振動させる鉛直駆動装置と、
前記鋳型を水平方向に振動させる水平駆動装置とからなり、
前記懸架部材の剛性は、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方が大きく、
前記懸架部材は、水平方向に対して傾きを有し、一端が前記鋳型に接合された上下に1組の傾斜板バネからなることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【請求項4】
前記傾斜板バネに付与する引張力を調整するために前記傾斜板バネに設けられる引張装置を備えることを特徴とする請求項に記載の連続鋳造用鋳型。
【請求項5】
前記鉛直駆動装置が油圧シリンダであり、前記水平駆動装置が偏心ウエイトを回転させるバイブレータであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の連続鋳造用鋳型。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の連続鋳造用鋳型を用いる連続鋳造方法であって、
前記鋳型の鉛直方向の振動について、振幅が2〜15mm、振動数が10〜500cpm、および下記(1)式で表されるネガティブストリップ速度率Nが0〜100%である条件を満足するとともに、
前記鋳型の水平方向の振動について、振幅が1〜1000μmおよび振動数が10〜10000Hzを満足するように、
前記鉛直駆動装置および前記水平駆動装置を制御することを特徴とする連続鋳造方法。
N=(Vm−Vc)/Vc×100 …(1)
ここで、N:ネガティブストリップ速度率(%)、Vm:鋳型の上下振動の1振動期間における下降している期間の下降速度の平均値、Vc:鋳片の鋳造速度であり、VmおよびVcは鉛直方向下向きを正とする。
【請求項7】
前記鋳型の水平方向の振動の振幅の時間平均値が5〜150μmを満たすように前記水平駆動装置を制御することを特徴とする請求項6に記載の連続鋳造方法。
【請求項8】
請求項2または4に記載の連続鋳造用鋳型を用いる連続鋳造方法であって、
前記鋳型の鉛直方向の振動について、振幅が2〜15mm、振動数が10〜500cpm、および下記(1)式で表されるネガティブストリップ速度率Nが0〜100%である条件を満足するとともに、
前記鋳型の水平方向の振動について、振幅が1〜1000μmおよび振動数が10〜10000Hzを満足するように、
前記鉛直駆動装置および前記水平駆動装置を制御し、
前記鋳型の水平方向の振動の振幅の時間平均値が5〜150μmを満たすように前記引張装置を制御することを特徴とする連続鋳造方法。
N=(Vm−Vc)/Vc×100 …(1)
ここで、N:ネガティブストリップ速度率(%)、Vm:鋳型の上下振動の1振動期間における下降している期間の下降速度の平均値、Vc:鋳片の鋳造速度であり、VmおよびVcは鉛直方向下向きを正とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型と鋳片の凝固シェルとの間の潤滑を促進するために、振動装置を備える連続鋳造用鋳型に関する。また、本発明は、その連続鋳造用鋳型を用いた連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、鋳型と凝固シェルとの間にモールドフラックスを円滑に流入させ、鋳型と凝固シェルとの間の潤滑性を確保することが重要である。鋳型と凝固シェルとの間の潤滑作用を強化する方法として、鋳型に振動を付与する方法がある。たとえば、特許文献1には、鋳型に超音波振動を付与し、振動周波数を周期的に一定範囲で変更することにより、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を一様に低減させ、モールドフラックスの流れを均一にする方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、鋳型の鉛直方向の振動波形をサイン波から偏倚した波形に変更し、ポジティブストリップ時間を長くして、鋳型と凝固シェルとの間へのモールドフラックスの流入量を増加させる方法が開示されている。ポジティブストリップ時間とは、鋳型の1振動期間における、鋳片の引抜方向の鋳型の速度が鋳片の引抜速度よりも早い期間の長さを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−6735号公報
【特許文献2】特公平4−79744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法は、一定の潤滑作用の向上効果は得られるものの、超音波振動は減衰しやすいため、多数の超音波振動子を設置しなければならない煩雑さや、超音波振動による鋳型を構成する銅板の腐食が問題となる。このため、同文献に記載の方法はこれまでに実用化された例はない。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法は、一定の潤滑作用の向上効果は得られるものの、その効果は限定的であった。また、この方法では、鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を向上させる効果はほとんどなく、凝固シェルを安定して冷却することができない。
【0007】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされてものであり、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を低減するとともに、鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を高めることが可能であり、さらに高い耐久性を有する連続鋳造用鋳型を提供することを目的とする。また、本発明は、この連続鋳造用鋳型を用いた鋳片の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、まず、鋳型を鉛直方向の振動に加えて水平方向に振動させることが可能な鋳型について検討した。
【0009】
水平方向および鉛直方向の振動を、従来から用いられているレバー式の鋳型振動装置を用いて実現するには、以下の問題がある。レバー式の鋳型振動装置とは、レバーが鋳型を懸架するとともにリンクを構成し、駆動装置が発生する振動を、このリンクを介して鋳型に鉛直方向の振動として伝達するものである。この振動装置で鋳型に水平方向の振動を付加できるようにするには、鋳型を懸架するレバーの回転軸が水平方向に振動変位できるよう、回転軸の軸受の形状を水平方向に長い長円形のような形状にしたり、回転軸より大きな直径の円形にしたりしなければならない等、設計上の困難を伴う。また、軸受を長円形や軸より大きな円形にした場合、回転軸が軸受に対してガタを有することとなり、鋳型を振動させた際に回転軸と軸受の間に衝撃が生じるため、回転軸及び軸受の耐久性が低下する。
【0010】
本発明者らが、これらの問題を踏まえて検討を進めたところ、複数の板バネからなる懸架部材を用いて鋳型を支持体に懸架することにより、板バネの弾性的な伸縮を利用して振幅を得ることができ、振動の付加に適しているとともに、ガタを有する部分を皆無とすることができるため、駆動装置を用いて鋳型に鉛直方向および水平方向の振動を付与しても、高い耐久性を有することがわかった。
【0011】
そして、本発明者らは、この鋳型を用いて、鋳型の振動方法について検討した。鉛直方向の振動は、溶融したモールドフラックスを鋳型と凝固シェルとの間への流入を促進するポンプ作用を有する。検討の結果、懸架部材の剛性を、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方が大きいものとし、鉛直方向の振動に、微細な水平方向の振動を付加することによって、ポンプ作用に加えて、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を低減する作用および鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を高める作用が得られることを見出した。
【0012】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記の振動装置を備える連続鋳造用鋳型にある。
【0013】
振動装置を備える連続鋳造用鋳型であって、前記振動装置は、前記鋳型を鉛直方向および水平方向への振動変位が可能に懸架する板バネからなる複数の懸架部材と、前記鋳型を鉛直方向に振動させる鉛直駆動装置と、前記鋳型を水平方向に振動させる水平駆動装置とからなり、前記懸架部材の剛性は、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方が大きいことを特徴とする連続鋳造用鋳型。
【0014】
本発明の連続鋳造用鋳型において、前記懸架部材を、鉛直方向に沿って延び出し、上下端が前記鋳型に接合された鉛直板バネと、水平方向に沿って延び出し、一端が前記鉛直板バネに接合された水平板バネとからなるものとしてもよい。また、懸架部材を、水平方向に対して傾きを有し、一端が前記鋳型に接合された上下に1組の傾斜板バネからなるものとしてもよい。さらに、前記懸架部材に付与する引張力を調整する引張装置を設けてもよい。
【0015】
また、前記鉛直駆動装置を油圧シリンダとし、前記水平駆動装置を、偏心ウエイトを回転させるバイブレータとしてもよい。
【0016】
また、本発明の要旨は、下記の連続鋳造方法にある。
【0017】
上記の本発明の連続鋳造用鋳型を用いる連続鋳造方法であって前記鋳型の鉛直方向の振動について、振幅が2〜15mm、振動数が10〜500cpm、および下記(1)式で表されるネガティブストリップ速度率Nが0〜100%である条件を満足するとともに、前記鋳型の水平方向の振動について、振幅が1〜1000μmおよび振動数が10〜10000Hzを満足するように、前記鉛直駆動装置および前記水平駆動装置を制御することを特徴とする連続鋳造方法。
N=(Vm−Vc)/Vc×100 …(1)
ここで、N:ネガティブストリップ速度率(%)、Vm:鋳型の上下振動の1振動期間における下降している期間の下降速度の平均値、Vc:鋳片の鋳造速度であり、VmおよびVcは鉛直方向下向きを正とする。
【0018】
本発明の連続鋳造方法において、前記鋳型の水平方向の振動の振幅の時間平均値が5〜150μmを満たすように前記水平駆動装置または前記引張装置を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の連続鋳造用鋳型によれば、鉛直方向の振動に微細な水平方向の振動を付加した振動を鋳型に付与することができ、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を低減するとともに、鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を高めることができる。そのため、凝固シェルを安定して冷却することが可能である。また、本発明の連続鋳造用鋳型はガタを有しないため高い耐久性を有する。
【0020】
本発明の連続鋳造方法によれば、この連続鋳造用鋳型を用いるため、長期間にわたって、安定して鋳片を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の連続鋳造用鋳型の1態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のA方向断面図である。
図2】本発明の連続鋳造用鋳型の別態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のB方向断面図である。
図3】本発明の連続鋳造用鋳型の別態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のC方向断面図である。
図4】比較例の連続鋳造用鋳型の態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のD方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.本発明の連続鋳造用鋳型の構成
図1は、本発明の連続鋳造用鋳型の1態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のA方向断面図である。同図に示す鋳型1は、一対の長辺銅板11、一対の短辺銅板12およびこれらの銅板を囲繞する冷却箱13を備える組立鋳型である。冷却箱13には、長辺銅板11および短辺銅板12を冷却する冷却水が流通する。鋳型1の側面近傍には、鋳型1の静止状態からの振動変位を測定する距離計2が配置されている。距離計2は、非接触方式であれば、渦流式でもレーザー式でもよい。
【0023】
鋳型1は、複数の板バネからなる懸架部材3によって、平行に配置された2枚の支持壁4の間に懸架される。支持壁4は支持台5の上面に直立するように設けられており、支持台5の上面と冷却箱13の下面に接するように、鋳型1を鉛直方向に振動させる鉛直駆動装置6が配置される。図1には、鉛直駆動装置6として油圧式のステッピングシリンダが配置された例を示す。また、冷却箱13の懸架部材3に接続された側面には、鋳型1を水平方向に振動させる水平駆動装置7が配置される。同図には、水平駆動装置7としてバイブレータが配置された例を示す。バイブレータとしては、例えば偏心したウエイトをモータによって回転させるタイプのものを使用することができる。鋳型1の下方には鋳造された鋳片を誘導するローラーエプロン8が配置される。
【0024】
懸架部材3は、冷却箱13の支持壁4に対向する側面にそれぞれ2個ずつ、計4個配置されている。各懸架部材3は、鉛直方向に沿って延び出した板バネである鉛直板バネ31と、水平方向に沿って延び出した板バネである水平板バネ32とからなる。図1(b)に示すように、鉛直板バネ31は、冷却箱13の側面に設けられた凹部に上端と下端が接合される。水平板バネ32の長手方向の一方の端部は、支持壁4に接合され、もう一方の端部は鉛直板バネ31の長手方向中央にボルトおよびナットまたは溶接により強固に接合される。水平板バネ32は、鉛直方向の振動変位を主に受け持ち、鉛直板バネ31は、水平方向の振動変位を主に受け持つ。
【0025】
なお、水平板バネ32は、鋳型1を懸架した状態では鋳型1の自重によって撓むため、振動装置を駆動していない状態でも厳格に水平となっているわけではなく、わずかな傾きを許容する。
【0026】
懸架部材3の剛性は、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方を大きくする。このような懸架部材3の剛性は、鉛直板バネ31の剛性を水平板バネ32の剛性よりも大きくすることで実現できる。例えば鉛直板バネ31と水平板バネ32とが同材質からなる場合、鉛直板バネ31の厚さを水平板バネ32の厚さよりも厚くしたり、鉛直板バネ31の長さを水平板バネ32の長さよりも長くしたりすることにより実現することができる。
【0027】
懸架部材3の剛性を、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方を大きくすることにより、鋳型1を鉛直駆動装置6および水平駆動装置7で振動させた場合に、水平方向の振動は、鉛直方向の振動よりも、振幅が小さく、振動数が大きくなる。これにより、連続鋳造時に鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を低減するとともに、鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を高めることが可能となる。
【0028】
図1では、懸架部材3を鋳型1の4隅に配置したが、鋳型1を安定して懸架できれば、懸架部材3の数および位置はこれに限られない。
【0029】
また、懸架部材は、鋳型を鉛直方向および水平方向への振動変位が可能に懸架することができるものであればよく、図1に示した鉛直板バネと水平板バネからなるものに限定されない。
【0030】
図2は、本発明の連続鋳造用鋳型の別態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のB方向断面図である。同図に示す鋳型は、懸架部材の形態が異なること以外は前記図1に示す鋳型と同様の構成であり、実質的に同一の部分には同一の符号を付している。
【0031】
図2に示す鋳型1は、各懸架部材3が、水平方向に対して傾きを有する上下1組の傾斜板バネ33からなる。2枚の傾斜板バネ33は、それぞれ長手方向の一方の端部が冷却箱13の側面の鉛直方向中央近傍に接合され、もう一方の端部は支持壁4に接合される。
【0032】
一般に、鋳型を懸架する懸架部材は、前記図1で示した水平板バネのように水平に配置されると鉛直方向の振動変位を主に受け持つ。また、前記図1に示した鉛直板バネのように鉛直に配置されると水平方向の振動変位を主に受け持つ。これに対し、懸架部材は、水平方向から傾けて配置された場合、鉛直方向の振動変位に加えて水平方向の振動変位も受け持つ特性を具備する。受け持つ水平方向の振動変位の割合は、傾きが大きいほど大きくなる。このため、図2に示すように、傾斜板バネ33の水平方向の長さが鉛直方向の長さよりも長くなるように配置することにより、すなわち傾斜板バネ33の水平方向からの傾きが45°以下となるように配置することにより、懸架部材3の水平方向の振動変位に対する剛性を、鉛直方向に対する剛性よりも大きくすることができる。傾斜板バネ33の水平方向からの傾きは、3〜30°の範囲が好ましい。
【0033】
図2に示す懸架部材3は、この傾斜板バネの性質を利用したものであり、図1に示す水平板バネと鉛直板バネからなる懸架部材と比べて予期しない振動モードが発生しやすい点で設計が困難である一方、構造が単純であり安価に製作できるという利点がある。
【0034】
これに対して、図1に示す懸架部材は、鉛直方向の振動変位と水平方向の振動変位をそれぞれ設置方向が異なる水平板バネと鉛直板バネで別個に受け持つため、図2に示す懸架部材と比べて設計の自由度が高いという利点がある。
【0035】
ここで、図1に示す懸架部材の水平板バネも、厳密には水平方向の弾性を有し、水平方向に伸縮するため、それ自身が水平方向の振動変位が可能である。そのため、水平駆動装置として大きな駆動力を有するものを使用すれば、図1に示す懸架部材から鉛直板バネをなくし、水平板バネのみとしても、水平方向の振動変位は可能ではある。もっとも、図1に示す懸架部材のように、鉛直方向の振動変位と水平方向の振動変位をそれぞれ設置方向が異なる水平板バネと鉛直板バネに分担させることにより、水平板バネのみで懸架する場合と比べて無理のない設計が可能である。
【0036】
図3は、本発明の連続鋳造用鋳型の別態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のC方向断面図である。同図に示す鋳型は、懸架部材が引張装置を備えること以外は前記図1に示す鋳型と同様の構成であり、実質的に同一の部分には同一の符号を付している。
【0037】
鋳型とこれを懸架する懸架部材とは一体で固有振動数があり、この固有振動数は、懸架部材の板バネの断面形状や長さ等によって変更することが可能である。固有振動数は、振幅が大きく、振動数が小さい振動を付加する場合には小さいことが望ましく、振幅が小さく、振動数が大きい振動を付加する場合には大きいことが望ましい。しかし、前記図1および前記図2に示すように、板バネを他の部材に接合した場合、固有振動数は一義的に定まり、調整することができない。
【0038】
そこで、図3に示すように、鉛直板バネ31に引張力を付与するとともに引張力を調整可能な引張装置34を鉛直板バネ31の一方の端部と鋳型1の冷却箱13との間に設ける。引張装置34を用いて鉛直板バネ31に付与する引張力を調整することにより、鋳型および懸架部材の固有振動数を、鋳造条件や鋳型の振動条件に応じた適正な値に調整することが可能である。引張装置34としては、例えば油圧シリンダを用いることができる。
【0039】
図3では、鉛直板バネ31にのみ引張装置34を設けた例を示したが、引張装置34は、鉛直板バネ31と水平板バネ32の両方に設けてもよいし、どちらか一方にのみ設けてもよい。水平板バネ32に設ける場合、支持壁4側に設けてもよいし、冷却箱13側に設けてもよい。
【0040】
また、前記図2に示す傾斜板バネ33にも引張装置34を設けることができる。この場合も引張装置34は、支持壁4側に設けてもよいし、冷却箱13側に設けてもよい。
【0041】
本発明の連続鋳造用鋳型において、鉛直駆動装置として油圧シリンダを用い、水平駆動装置として偏心ウエイトを回転させるバイブレータを用いることが好ましい。
【0042】
鉛直駆動装置は、溶融したモールドフラックスを、鋳型の鉛直方向の振動と凝固シェルの鋳造方向への移動との相互作用で、鋳型と凝固シェルとの間へ押し込むポンプ機能を担う。そのため、鋳造速度に応じて振動数や振幅等の振動条件を制御可能であることが必要であり、油圧シリンダを用いることが好ましい。
【0043】
また、水平駆動装置は、鉛直方向の振動と比べて振動数の高い微細振動を鋳型に付与して、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を低減すること、および鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を高めることを目的とする。これらの目的を達するには、水平方向の振動は振幅を厳密に制御する必要は乏しく、振動数は鋳造条件によらず一定でも問題は生じない。そのため、水平駆動装置として、偏心ウエイトを回転させるバイブレータを用い、鋳型および懸架部材の固有振動数で振動させることにより、安価で無理のない設計が可能となる。バイブレータの振動が、結果として油圧シリンダによる鉛直方向の振動に重畳する振動を発生しても問題は生じない。
【0044】
2.本発明の鋳片の連続鋳造方法
本発明の鋳片の連続鋳造方法は、上述の本発明の連続鋳造用鋳型を用い、鋳型の鉛直方向の振動について、振幅が2〜15mm、振動数が10〜500cpm、およびネガティブストリップ速度率が0〜100%である条件を満足するとともに、鋳型の水平方向の振動について、振幅が1〜1000μmおよび振動数が10〜10000Hzを満足するように鉛直駆動装置および水平駆動装置を制御する方法である。
【0045】
ガティブストリップ速度率とは、上下振動する鋳型の下降している期間の速度の平均値が鋳片の鋳造速度に対して何%大きいかを示す値であり、下記(1)式で算出することができる。
N=(Vm−Vc)/Vc×100 …(1)
ここで、N:ネガティブストリップ速度率(%)、Vm:鋳型の上下振動の1振動期間における下降している期間の下降速度の平均値、Vc:鋳片の鋳造速度であり、VmおよびVcは鉛直方向下向きを正とする。
【0046】
鋳型を鉛直方向にのみ振動させる従来の連続鋳造方法では、通常の場合、鋳型の鉛直方向の振動について、振幅が2〜15mm、振動数が10〜500cpm、およびネガティブストリップ速度率が0〜100%である条件を満足するように、鋳造速度に応じて鉛直駆動装置を制御していた。
【0047】
これに対して、本発明の鋳片の連続鋳造方法では、従来の鉛直方向の振動条件に加えて、水平方向の振動を付加する。この水平方向の振動は、振幅が1〜1000μmおよび振動数が10〜10000Hzとする。水平方向の振幅および振動数は、この規定範囲内であれば、鋳造速度等の鋳造条件に応じて変化させてもよいし、常に一定に保ってもよい。
【0048】
本発明の連続鋳造方法によれば、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を低減するとともに、鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を高める効果が得られるため、鋳型と凝固シェルとの間の潤滑を促進するとともに、凝固シェルを安定して冷却することが可能である。また、本発明の連続鋳造方法は、板バネからなる懸架部材を用いたことにより高い耐久性を有する本発明の連続鋳造用鋳型を用いるため、鋳片を長期間にわたって、安定して製造することができる。
【0049】
水平方向の振動の振幅が1μmよりも小さいと、モールドフラックスフィルムの充填性を高める等の効果が得られない。一方、水平方向の振動の振幅が1000μmよりも大きいと、鋳片に過大な歪みを与えることとなり、凝固界面の割れを引き起こし、製造された鋳片に内部割れが残存することとなる。そのため、水平方向の振動の振幅は1〜1000μmとする。
【0050】
また、水平方向の振動の振動数が10Hzよりも小さいと、モールドフラックスフィルムの充填性を高める等の効果が得られない。一方、水平方向の振動の振動数を10000Hzよりも高い値とするには、懸架部材を構成する板バネの剛性を過度に高めなければならない。また、剛性を高めたとしても、1〜1000μmの範囲の振幅を得るには水平駆動装置に過大な駆動力が必要となるため、工業的に利用するには現実的ではない。そのため、水平方向の振動の振動数は10〜10000Hzとする。水平駆動装置として偏心ウエイトを回転させるバイブレータを用いた場合、水平方向の振動の振動数を鋳造条件に応じて変化させることが可能である。
【0051】
さらに、鋳型の水平方向の振動の振幅の時間平均値が5〜150μmを満たすように水平駆動装置または引張装置を制御することが好ましい。これにより、鋳型と凝固シェルとの間のモールドフラックスフィルムの充填性をより高めることができる。
【0052】
ここで、「鋳型の水平方向の振動の振幅の時間平均値」とは、鋳型の水平方向の振動の全ストローク(振幅)の平均値を振動の10周期以上の任意の操業時間にわたって求めた値をいう。
【0053】
本発明の連続鋳造用鋳型は、板バネからなる懸架部材で鋳型を懸架するため、鋳型を振動させた際に振幅を一定に保つことが困難である。例えば、鋳型の水平方向の振幅の目標値を100μmに設定した場合において、その実績値が50〜150μmの間でばらつくことがある。このような場合には、振幅の制御の基準値として、制御時点の直前1分間の振幅の時間平均値を用い、この基準値が目標値に近付くように水平駆動装置の出力(バイブレータの慣性力)を制御すればよい。
【実施例】
【0054】
1.本発明例1
前記図1に示す態様の連続鋳造用鋳型の具体的な実施例(本発明例1)について説明する。本発明例1の鋳型には、水平板バネ32と鉛直板バネ31とからなる懸架部材3を、鋳型1の冷却箱13の4隅に1組ずつ計4組配置した。また、鉛直駆動装置6としてステッピングシリンダを2個配置し、水平駆動装置7としてバイブレータを2個配置した。鋳型1の側面近傍には、渦流式の距離計2を配置した。
【0055】
この鋳型では、鉛直駆動装置6によって付加された振動と水平板バネ32の弾性的な伸縮によって主に鉛直方向の振動が生じ、水平駆動装置7によって付加された振動と鉛直板バネ31の弾性的な撓みによって主に水平方向の振動が生じる。
【0056】
懸架部材3を構成する水平板バネ32は幅180mm、厚さ30mm、長さ800mmの鋼製とし、鉛直板バネ31は幅180mm、厚さ70mm、長さ500mmの鋼製とした。鉛直板バネ31の鉛直方向中央には、水平板バネ32の端部の一方を溶接によって強固に接合した。鉛直板バネ31は、水平板バネ32と比べて厚くかつ短かったため、水平板バネ32よりも高い剛性を有し、懸架部材3の剛性は、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方が大きかった。
【0057】
鋳型1の重量は10tであり、鉛直板バネ31と鋳型1との水平方向の固有振動数は200Hzであった。
【0058】
水平駆動装置7としてのバイブレータは、偏心したウエイトをモータによって回転させるタイプとし、ウエイトの偏心の程度を無段階に変更でき、慣性力を調整できるものとした。バイブレータの最大振動数は300Hzであり、2個で最大100kNの慣性力を生じることが可能であった。
【0059】
本発明例1の鋳型を用いて連続鋳造を行う場合、操業中には、水平方向の振動の固有振動数である200Hzでバイブレータを作動させながら、距離計を用いて鋳型の水平方向の振動の振幅を測定し、水平方向の振幅の時間平均値が5〜20μmの範囲となるように、バイブレータの生じる慣性力を調整する。慣性力を調整しても、水平方向の振幅の時間平均値が20μmを超える場合には、バイブレータ水平駆動装置7の作動振動数を200Hzからずらして、水平方向の振幅を調整する。
【0060】
2.本発明例2
前記図2に示す態様の連続鋳造用鋳型の具体的な実施例(本発明例2)について説明する。本発明例2の鋳型には、表面の法線が鉛直方向から傾くように配置された上下2枚の傾斜板バネ33からなる懸架部材3を、鋳型1の冷却箱13の4隅に1組ずつ計4組配置した。また、鉛直駆動装置6としてステッピングシリンダを2個配置し、水平駆動装置7としてバイブレータを2個配置した。鋳型1の側面近傍には、渦流式の距離計2を配置した。
【0061】
この鋳型では、鉛直駆動装置6および水平駆動装置7によって付加された振動と、傾けて配置された傾斜板バネ33の弾性的な伸縮および撓みによって鉛直方向および水平方向の振動が生じる。
【0062】
懸架部材3を構成する傾斜板バネ33は幅150mm、厚さ50mm、長さ1020mmの鋼製とし、水平方向の長さが1000mm、鉛直方向の長さが200mmとなるように傾けて配置した。すなわち、傾斜板バネ33が水平方向から11.3°傾くように配置した。傾斜板バネの水平方向の長さが鉛直方向の長さよりも長く、傾斜板バネの水平方向からの傾きが45°以下であったため、懸架部材3の剛性は、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方が大きかった。
【0063】
鋳型1の重量は8tであり、傾斜板バネ33と鋳型1との水平方向の固有振動数は170Hzであった。
【0064】
水平駆動装置7としてのバイブレータは、偏心したウエイトをモータによって回転させるタイプとし、ウエイトの偏心の程度を無段階に変更でき、慣性力を調整できるものとした。バイブレータの最大振動数は200Hzであり、2個で最大80kNの慣性力を生じることが可能であった。
【0065】
本発明例2の鋳型を用いて連続鋳造を行う場合、操業中には、水平方向の振動の固有振動数である170Hzでバイブレータを作動させながら、距離計を用いて鋳型の水平方向の振動の振幅を測定し、水平方向の振幅の時間平均値が20〜150μmの範囲となるように、バイブレータの生じる慣性力を調整する。慣性力を調整しても、水平方向の振幅の時間平均値が150μmを超える場合には、バイブレータの作動振動数を170Hzからずらして、水平方向の振幅を調整する。
【0066】
3.本発明例3
前記図3に示す態様の連続鋳造用鋳型の具体的な実施例(本発明例3)について説明する。本発明例3の鋳型には、水平板バネ32と鉛直板バネ31とからなる懸架部材3を、鋳型1の冷却箱13の4隅に1組ずつ計4組配置した。また、鉛直駆動装置6としてステッピングシリンダを2個配置し、水平駆動装置7としてバイブレータを2個配置した。鋳型1の側面近傍には、レーザー式の距離計2を配置した。
【0067】
この鋳型では、鉛直駆動装置6によって付加された振動と水平板バネ32の弾性的な伸縮によって主に鉛直方向の振動が生じ、水平駆動装置7によって付加された振動と鉛直板バネ31の弾性的な撓みによって主に水平方向の振動が生じる。
【0068】
懸架部材3を構成する水平板バネ32は幅110mm、厚さ30mm、長さ900mmの鋼製とし、鉛直板バネ31は幅110mm、厚さ50mm、長さ400mmの鋼製とした。鉛直板バネ31の鉛直方向中央には、水平板バネ32の端部の一方を溶接によって強固に接合した。鉛直板バネ31は、水平板バネ32より厚くかつ短かったため、水平板バネ32よりも高い剛性を有し、懸架部材3の剛性は、鉛直方向の振動変位に対する剛性よりも、水平方向の振動変位に対する剛性の方が大きかった。
【0069】
鉛直板バネ31の一方の端部と鋳型1の冷却箱13との間には、鉛直板バネ31に引張力を付与する引張装置34として、油圧シリンダを設けた。油圧シリンダによって付与することができる最大引張力は800kNであった。
【0070】
鋳型1の重量は12tであり、油圧シリンダの変位を固定し、鉛直板バネ31に引張力を付与しない場合における、鉛直板バネ31と鋳型1との水平方向の固有振動数は120Hzであった。また、油圧シリンダによって付与する引張力を調整することにより得られる最大の水平方向の固有振動数は200Hzであった。
【0071】
水平駆動装置7としてのバイブレータは、偏心したウエイトをモータによって回転させるタイプとし、ウエイトの偏心の程度を無段階に変更でき、慣性力を調整できるものとした。バイブレータの最大振動数は200Hzであり、2個で最大50kNの慣性力を生じることが可能であった。
【0072】
本発明例3の鋳型を用いて連続鋳造を行う場合、操業中には、水平方向の固有振動数の範囲内である120〜150Hzでバイブレータを作動させながら、距離計を用いて鋳型の水平方向の振動の振幅を測定し、水平方向の振幅の時間平均値が10〜50μmの範囲となるように、バイブレータの生じる慣性力を調整する。慣性力を調整しても、水平方向の振幅の時間平均値が50μmを超える場合には、鉛直板バネに付与する張力を増し、バイブレータの作動振動数から水平方向の固有振動数をずらして、水平方向の振幅を調整する。
【0073】
4.比較例
【0074】
図4は、比較例の連続鋳造用鋳型の態様を示す構成図であり、同図(a)は平面図であり、同図(b)は同図(a)のD方向断面図である。同図に示す鋳型は、懸架部材の形態が異なること、距離計を備えていないこと、および水平駆動装置を備えていないこと以外は前記図1に示す鋳型と同様の構成であり、実質的に同一の部分には同一の符号を付している。
【0075】
比較例の鋳型には、水平に配置された上下2枚の水平板バネ35のみからなる懸架部材3を、鋳型1の冷却箱13の4隅に1組ずつ計4組8枚配置した。また、鉛直駆動装置6としてステッピングシリンダを2個配置した。
【0076】
この鋳型では、鉛直駆動装置6によって付加された振動と水平板バネ35の弾性的な伸縮および撓みによって鉛直方向の振動が生じる。水平方向の振動はほとんど生じない。懸架部材3を構成する水平板バネ35は幅150mm、厚さ30mm、長さ800mmの鋼製とした。
【0077】
5.連続鋳造試験
本発明の連続鋳造方法の効果を確認するため、本発明例1の鋳型と比較例の鋳型を用いて鋳片を連続鋳造する試験を行い、その結果を評価した。
【0078】
5−1.試験方法
垂直曲げ型の連続鋳造機に、本発明例1の鋳型と比較例の鋳型を配置して、鋳片の連続鋳造試験を行った。長辺銅板と短辺銅板で構成される鋳型の内壁面の断面の大きさは、厚さ250mm、幅1300mmとした。鋳型の有効長さは800mmであった。鋳型の長辺銅板の厚さは30mmであった。
【0079】
用いた溶鋼は、質量%で、C:0.04%、Si:0.01%、Mn:0.35%、酸可溶Al:0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる低炭素アルミキルド鋼とし、引き抜き速度1.5m/minで鋳造した。
【0080】
用いたモールドフラックスは、化学組成における主成分であるCaOとSiO2の割合(CaO/SiO2)が1.20であり、その他の物性調整成分としてAl23、MgO、Na2OおよびFを含有する銘柄のものとした。このモールドフラックスは、一旦溶融させた際の1300℃における粘度が0.3Pa・sであり、溶融後、1℃/minの冷却速度で冷却すると1150℃で結晶化し、その主な結晶がメリライトであるものであった。
【0081】
本発明例1の鋳型を用いた連続鋳造では、ステッピングシリンダを用いて鋳型を下記条件で鉛直方向に振動させるとともに、各バイブレータの振動数を、鉛直板バネと鋳型との水平方向の固有振動数である200Hzに設定し、2個のバイブレータが生じる慣性力を合計で10〜100kNの間で変化させ、鋳型の水平方向の振幅の時間平均値が目標値である50μmに近付くように制御した。その結果、水平方向の振幅の時間平均値の実績値は20〜100μmの範囲内となった。ここで、鋳型の水平方向の振幅は、渦流式距離計を用いて測定し、この測定値を用いてフィードバック制御を行った。
【0082】
比較例の鋳型を用いた連続鋳造では、ステッピングシリンダを用いて鋳型を下記条件で鉛直方向に振動させ、水平方向には振動させなかった。
【0083】
本発明例1および比較例の鋳型を用いた連続鋳造における、鋳型の鉛直方向の振動は、振幅が3〜8mm、振動数が50〜300cpm、および下記(1)式で表されるネガティブストリップ速度率Nが5〜80%である条件を満足するように鉛直駆動装置を制御した。
N=(Vm−Vc)/Vc×100 …(1)
ここで、N:ネガティブストリップ速度率(%)、Vm:鋳型の上下振動の1振動期間における下降している期間の下降速度の平均値、Vc:鋳片の鋳造速度であり、VmおよびVcは鉛直方向下向きを正とする。
【0084】
5−2.試験結果
(1)摩擦抵抗
ステッピングシリンダが発生する駆動力を、鋳造中および空運転中に測定した。これらの駆動力の差から、鋳型内壁面と鋳片との間に発生する摩擦抵抗値を算出した。その結果、本発明例1の鋳型を用いた鋳造では、比較例の鋳型を用いた鋳造と比較して、摩擦抵抗値が平均値で25%小さかった。これは、水平方向に振動を付与したことによる、鋳型内の摩擦抵抗の低減効果である。
【0085】
(2)鋳型温度の変動
鋳型の長辺銅板の内壁面から内部に10mm離れた位置であって、鋳型の幅の1/2の位置かつ有効長さの1/2の位置に熱電対を設置した。この熱電対を用いて鋳型の温度およびその変動を測定した。
【0086】
鋳型の温度変動の標準偏差は、本発明例1の鋳型を用いた鋳造では2.8℃であったのに対して、比較例では4.5℃であった。すなわち、本発明例1の鋳型を用いた場合、鋳型の温度変動の標準偏差を比較例の鋳型を用いた場合の半分とすることができる。
【0087】
鋳型の温度変動が大きくなる場合としては、鋳片の凝固収縮が大きな鋼種を鋳造した際に鋳片表面が反り上がって鋳型の内壁面から離れた場合や、鋳型と鋳片の凝固シェルとの間に存在するモールドフラックスフィルムが過剰に結晶化して、モールドフラックスフィルムと鋳型の内壁面との間に不均一な空隙が生じた場合があることが知られている。
【0088】
今回の試験で使用した低炭素アルミキルド鋼は、凝固収縮が小さい鋼種である。そのため、本発明例1の鋳型を用いた鋳造で鋳型の温度変動が小さかったのは、モールドフラックスフィルムと鋳型内壁面との間の空隙が小さく保たれたことに起因し、すなわちモールドフラックスフィルムの充填性が高かったことを示すと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の連続鋳造用鋳型によれば、鉛直方向の振動に微細な水平方向の振動を付加した振動を鋳型に付与することができ、鋳型と凝固シェルとの間の摩擦抵抗を低減するとともに、鋳型と凝固シェルとの間におけるモールドフラックスフィルムの充填性を高めることができる。そのため、鋳型と凝固シェルの焼き付きを抑制するとともに、凝固シェルを安定して冷却することが可能である。また、本発明の連続鋳造用鋳型は、懸架部材として振動の付加に適した板バネを用いたものであり、ガタを有しないため高い耐久性を有する。
【0090】
本発明の連続鋳造方法によれば、この連続鋳造用鋳型を用いるため、鋳片を長期間にわたって、安定して製造することができる。
【符号の説明】
【0091】
1:鋳型、 11:長辺銅板、 12:短辺銅板、 13:冷却箱、 2:距離計、
3:懸架部材、 31:鉛直板バネ、 32:水平板バネ、 33:傾斜板バネ、
34:引張装置、 35:水平板バネ、 4:支持壁、 5:支持台、
6:鉛直駆動装置、 7:水平駆動装置、 8:ローラーエプロン
図1
図2
図3
図4