(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水路を形成する水槽と、前記水路の長手方向に向かって水流を発生させて波を発生させる水流発生手段と、前記水路に配置され前記水流発生手段により発生した水流を整流する整流板と、を備えた造波装置において、
前記水路は、前記整流板の上流側における水面の少なくとも一部を覆うように半没水状又は没水状に配置された制波板を有する、ことを特徴とする造波装置。
前記水槽は、貯水槽と前記水路とに区分する仕切板を備え、前記水流発生手段は、前記貯水槽内の水を前記水路に供給することによって水流を発生させ、前記制波板は、前記整流板と前記仕切板との間に配置されている、ことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の造波装置。
前記制波板は、前記水流発生手段の吐出口を超えた位置まで延設されている、又は、前記仕切板に密接する位置まで延設されている、ことを特徴とする請求項5に記載の造波装置。
【背景技術】
【0002】
津波等の長周期波に対する浮体構造物や陸上構造物等の安定性や地形に与える影響等を検討するために、フラップ式、ダムブレイク式、フロート式、空気圧式、水流式等の実験装置が既に開発されている。特に、沿岸構造物の津波対策には、波力の推定が必要であり、これに適した水理実験技術の構築が望まれている。
【0003】
ここで、フラップ式実験装置は、板を前後に移動させて波を発生させる装置であり、ダムブレイク式実験装置は、溜めた水を放流することによって波を発生させる装置であり、フロート式実験装置は、フロートを上下に振動させて波を発生させる装置であり、空気圧式実験装置は、水面に負荷する空気圧を変動させて波を発生させる装置であり、水流式実験装置は、水槽内で水流を発生させることにより波を発生させる装置である。
【0004】
特許文献1に記載された実験装置は、水流式実験装置に関するものであり、水が満たされた水槽と、該水槽を貯水槽と実験槽とに分けるように前記水槽内に設けられる仕切板と、該仕切板に設けられ前記水槽内に津波を起こすポンプと、前記実験槽側の前記ポンプの近傍に配置された整流板と、を備え、前記ポンプを作動させて前記貯水槽内の水を前記整流板を介して前記実験槽に移送する水流を発生させることにより、前記実験槽内で津波を発生させるようにしている。かかる実験装置では、ポンプの回転数を制御することにより、長周期かつ正弦波の波を生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について
図1〜
図6を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の第一実施形態に係る造波装置を示す全体構成図であり、(a)は平面図、(b)は
図1(a)におけるB−B線断面図、を示している。
図2は、
図1に示した造波装置の拡大図であり、(a)は側断面図、(b)は
図2(a)におけるB−B線矢視断面図、を示している。なお、
図1(a),(b)及び
図2(a)において水槽の厚さを省略してある。
【0014】
本発明の第一実施形態に係る造波装置1は、
図1(a)〜
図2(b)に示したように、水路22を形成する水槽2と、水路22の長手方向に向かって水流を発生させて波を発生させる水流発生手段4と、水路22に配置され水流発生手段4により発生した水流を整流する整流板5と、を備え、水路22は、整流板5の上流側における水面を覆うように半没水状に配置された制波板6を有している。また、水槽2は、貯水槽21と水路22とに区分する仕切板3を備え、水流発生手段4は、貯水槽21内の水を水路22に供給することによって水流を発生させ、制波板6は、整流板5と仕切板3との間に配置されている。
【0015】
水槽2は、上部が開放された略直方体形状を有しており、長手方向に人工的な波を発生させるための容れ物である。水槽2は、仕切板3によって貯水槽21と水路22とに区分されている。貯水槽21は、水路22内に水流を発生させるための水を蓄える部分である。水路22は、波を発生させる部分であり、津波等の長周期波を発生させることができるだけの十分な長さを有している。
【0016】
また、水路22の貯水槽21と反対側の端部には、海底、陸地、岸壁、港湾設備等を模擬した模型23が配置される。模型23は、実験の用途に応じて適宜変更されるものであり、例えば、浮体構造物(船舶を含む)、地上設備であるタンクやビル等の建造物、防波堤や風力発電設備等を有していてもよい。
【0017】
仕切板3は、水槽2の幅方向(短手方向)に亘って配置される板部材であり、水槽2を貯水槽21と水路22とに区分する。仕切板3は、不通水性を有し、貯水槽21及び水路22からの水圧に耐えられる強度を有する。水槽2と仕切板3との接点はシールしておくことが好ましい。また、仕切板3は、貯水槽21又は水路22から水が溢流しない程度の高さを有する。なお、仕切板3は、平板に限定されるものではなく、湾曲していてもよいし、段差を有していてもよい。
【0018】
水流発生手段4は、貯水槽21から水路22に向かって水流を発生させて、水路22内で目的の波を発生させる手段である。水流発生手段4は、例えば、貯水槽21の水を汲み上げるポンプ41と、汲み上げた水を水路22に放出する配管42と、により構成される。ポンプ41は、図示しない電動モータ及び制御装置に接続されており、回転数や駆動時間が制御される。なお、水流発生手段4の構成は、図示したものに限定されるものではなく、ポンプ41の台数、配管42の構成等、適宜変更することができる。
【0019】
配管42は、水流を発生させたい位置に水を放出することができるように、湾曲した形状に形成され、水路22内に配置された先端部により吐出口43を形成する。配管42は、ポンプ41の配置位置と吐出口43の配置位置とを接続することができる形状であれば、図示した形状に限定されるものではない。また、配管42を仕切板3に貫通させて、仕切板3に配管42を支持させることにより、配管42を安定に固定することができ、振動等の発生を抑制することができる。
【0020】
整流板5は、水路22に供給された水流の断面積における速度分布を略均一となるように整流する板部材である。整流板5は、例えば、通水性を有する樹脂材や金属材により構成されるフィルターである。具体的には、整流板5は、立体網目形状を有する樹脂材により構成される。整流板5は、仕切板3に対して一定の距離だけ離隔した位置に、水槽2の幅方向(短手方向)に亘って配置される。整流板5の離隔距離は、水路22に供給される水流の容積や速度に基づいて適宜設定される。なお、整流板5は、図示しない金具や支持部材等により水槽2に固定され、水圧によって損傷しない程度の強度を有する。
【0021】
制波板6は、仕切板3と整流板5との間の水面の少なくも一部を覆う板部材である。仕切板3と整流板5との間の領域は、水流発生手段4により供給された水流を一時的に整流板5で堰き止め、均一な速度に整流するための領域である。水路22に供給された水流が整流板5に堰き止められると水圧が上昇し、水は上方に逃げようとする。その結果、水面に波が形成されたり、整流板5から水を押し出す圧力が低下したりして、造波精度に影響を与える。そこで、本発明では、この水の上方への逃げ道を封止する手段として、制波板6を配置している。
【0022】
制波板6は、図示したように、一端が整流板5に密接し、両側部が水槽2の内面に密接するように配置される。このように、制波板6を整流板5及び水槽2に密接するように配置することにより、整流板5に近接した位置における水面の変動を抑制することができ、整流板5の整流機能への影響を低減することができる。なお、制波板6は、通水性の低い素材、例えば、プラスチック、金属、木材等により構成される。
【0023】
また、制波板6は、仕切板3に向かって延設されており、水流発生手段4の吐出口43を超えた位置まで延設されている。すなわち、
図1(a)及び(b)に示したように、制波板6は、吐出口43の位置Tよりも仕切板3に近接した位置まで延設されている。本実施形態では、配管42に当接する位置まで仕切板3を延設している。このように、吐出口43を超えた位置まで制波板6を配置することにより、吐出口43から供給される水流による水面の盛り上がりを抑制することができ、水面に生じる波を抑制することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、仕切板3に近接した部分に制波板6により覆われない水面が僅かに存在しているが、整流板5から十分に離れていることから、仮にこの部分の水面が変動して波を生じたとしても、それが整流板5の整流機能に与える影響は無視することが可能である。
【0025】
また、制波板6は一枚の板部材である必要はなく、複数の分割された板部材により構成するようにしてもよい。制波板6を複数の板材で構成した場合には連結部の隙間をシリコンやウレタン等で埋めるようにしてもよいし、複数の板材の外周に弾性体を配置して弾性体同士を密着させるようにしてもよい。また、制波板6の上面に補強材を構成する梁部材を配置するようにしてもよい。
【0026】
図2(a)及び(b)に示したように、制波板6は、水槽2に配置された支持部材7により支持される。支持部材7は、例えば、水槽2の側面部上面に固定された複数の支柱71と、左右の支柱71を連結するクロスバー72と、クロスバー72と制波板6とを連結するアーム73と、を有する。かかる支持部材7により、制波板6を所定の高さで略水平に保持することができる。なお、支持部材7は、前後の支柱71を連結する部材を有していてもよい。
【0027】
また、アーム73は、クロスバー72に対して上下方向又は左右方向に相対移動可能に構成されていてもよいし、クロスバー72は、支柱71に対して上下方向に相対移動可能に構成されていてもよいし、支柱71は、水槽2に対して前後方向に相対移動可能に構成されていてもよい。なお、支持部材7の構成は、制波板6を所定の高さに支持することができれば、図示した構成に限定されるものではない。
【0028】
上述した本実施形態に係る造波装置1によれば、仕切板3と整流板5との間の水面を覆う制波板6を配置したことにより、水流発生手段4からの水流によって水面に生じる波(ノイズ)を抑制することができ、整流板5を通過して生成される波に伝播されるノイズを低減することができ、造波精度を向上させることができ、安定して長周期波を発生させることができる。
【0029】
ここで、
図3は、
図1に示した造波装置の効果を示す説明図であり、(a)は実験結果を示す波形図、(b)は制波板を有しない従来の造波装置における側断面図、を示している。
図3(a)に示した波形図は、周期16秒、波高0.11mの波を生じさせた場合の
図2(a)に示した点P(例えば、X=1.5mの位置)における水位の変化を示したものである。ここで、目標水位を破線、本実施形態による計測水位を実線、従来の造波装置による計測水位を一点鎖線で示している。従来の造波装置10は、
図3(b)に示したように、本実施形態と同様に、水槽2、仕切板3、水流発生手段4及び整流板5を有し、制波板6を有していないものである。
【0030】
図3(a)に示したように、従来の造波装置10の計測水位(一点鎖線)は、水位のピーク手前付近から波形の乱れが顕著に現れ、水位も目標値に比べて高くなっている。これは、
図3(b)において、一点鎖線で示したように、仕切板3と整流板5との間に制波板6が配置されていないことから、この水面は自由表面を形成し、水流発生手段4によって発生される水流によって意図しない波を生じ、これがノイズとなって整流板5を通過して生成される波に伝播し、波形に乱れを生じるためである。
【0031】
それに対して、本実施形態に係る造波装置1の計測水位(実線)は、波形及び周期ともに目標水位(破線)と略一致している。これは、制波板6を配置したことにより、整流板5での圧損を強くかけることができ、整流板5の手前での強い渦による自由表面の拡散が抑制され、高周波成分を減衰させることができたためであるものと推察される。なお、両方の計測水位において、立ち上がりの過程で波形に差異が見られるが、この不一致はポンプ41の低回転時における吐出流量追随性の問題であるものと推察される。
【0032】
次に、制波板6の没水率について、
図4(a)及び(b)を参照しつつ説明する。ここで、
図4は、制波板の没水率に関する説明図であり、(a)はモデル概念図、(b)は制波板の底面高さに対するノイズ振幅率を示す図、を示している。
図4(a)に示したように、水槽2の水面高さをHw、制波板6の底面高さをHbとする。そして、水面高さHwを0.8mに設定し、制波板6の底面高さHbを0.70〜0.80の範囲で複数の波形シミュレーションを行い、そのノイズ振幅率を計測した結果を
図4(b)に示した。
【0033】
ここで、「ノイズ振幅率」は、目標水位の波高(ここでは、0.10m)に対するノイズ振幅の割合(%)を意味している。ノイズ振幅は、上述した点Pにおける水位の時間経過を計測し、有効造波区間内における極大値及び極小値を抽出し、その差分を算出した数値(極大値−極小値)を意味している。
【0034】
図4(b)に示したように、本シミュレーションでは、制波板6の底面高さHbに対するノイズ振幅率は、(制波板6の底面高さHb:ノイズ振幅率)=(0.70:12)、(0.72:10)、(0.73:7)、(0.75:8)、(0.78:7)、(0.8:4)、の関係を有していた。この結果、概ね制波板6を深く沈めるほどノイズが大きくなる傾向にあることが把握できた。そこで、ノイズ振幅率の許容値αとして10%を選択すれば、制波板6の底面高さHbは、0.72〜0.80(m)に範囲内に設定することが好ましい。いま、水面高さHwは0.8mであることから、制波板6の没水率は、水面高さHwに対して0〜10%の範囲内に設定することが好ましい。
【0035】
なお、参考までに、水面高さHwを超えた位置(具体的には、制波板6の底面高さHbが0.82mである場合)のノイズ振幅率を計算したところ20%の数値を示していた。これは、造波装置1が制波板6を有しない場合、制波板6を半没水状に配置した場合と比較して格段にノイズが多いことを意味している。
【0036】
次に、本発明の他の実施形態に係る造波装置1について、
図5(a)〜
図6(d)を参照しつつ説明する。ここで、
図5は、本発明の他の実施形態に係る造波装置を示す図であり、(a)は第二実施形態、(b)は第三実施形態、を示している。
図6は、本発明の他の実施形態に係る造波装置を示す図であり、(a)は第四実施形態、(b)は第五実施形態、(c)は第六実施形態、(d)は第七実施形態、を示している。なお、上述した第一実施形態と同じ構成については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。また、
図6(a)〜(d)において、支持部材7の図を省略してある。
【0037】
図5(a)に示した第二実施形態に係る造波装置1は、制波板6を仕切板3に密接する位置まで延設したものである。すなわち、制波板6は、整流板5、水槽2の内面及び仕切板3に密接しており、仕切板3と整流板5との間の水面を完全に覆うようにしたものである。このように仕切板3と整流板5との間の水面を完全に覆うことにより、この領域における自由表面は消失し、水面に波(ノイズ)が生じることがなく、造波精度をより向上させることができる。
【0038】
また、このように、仕切板3と整流板5との間の水面を完全に覆った場合には、制波板6を完全に没水させるようにしてもよい。制波板6の上面に形成された水面は自由表面を形成するものの、制波板6の下面に封止された水の水圧の変動によって影響を受けることがなく、波(ノイズ)を発生させる可能性は低い。かかる構成により、制波板6の板厚を薄くすることができ、制波板6の軽量化を図ることができ、支持部材7の簡素化を図ることができる。
【0039】
図5(b)に示した第三実施形態に係る造波装置1は、制波板6の上面を整流板5側から仕切板3側に下る傾斜面61を形成したものである。かかる構成により、仕切板3と制波板6との間に隙間を有する場合であっても、制波板6の上面に乗り上げた水が整流板5に到達する可能性を低減することができ、ノイズの伝播を抑制することができ、造波精度を向上させることができる。
【0040】
図6(a)に示した第四実施形態に係る造波装置1は、ピストン式実験装置に本発明を適用したものである。本実施形態における水流発生手段4は、水槽2の上流側に配置されたピストン装置44を有している。ピストン装置44は、整流板5の上流側でピストンヘッドを往復動させることによって水路22内で水流を発生させる。制波板6は、例えば、整流板5及びそれよりも上流側の水槽2の内面に密接するように配置される。
【0041】
図6(b)に示した第五実施形態に係る造波装置1は、ダムブレイク式実験装置に本発明を適用したものである。本実施形態における水流発生手段4は、水槽2の上流側に配置された貯水槽45と、貯水槽45の下部に開閉可能に配置された水門46と、を有している。水流発生手段4は、水門46を閉じた状態で貯水槽45に所定量の水を蓄え、水門46を開放することによって水路22内で水流を発生させる。制波板6は、例えば、整流板5と水門46との間に密接するように配置される。
【0042】
図6(c)に示した第六実施形態に係る造波装置1は、フロート式(又はプランジャ式)実験装置に本発明を適用したものである。本実施形態における水流発生手段4は、水槽2の上流側に上下動可能に配置されたフロート47を有している。水流発生手段4は、整流板5の上流側の水面付近でフロート47を上下動さることによって水路22内で水流を発生させる。制波板6は、例えば、整流板5及びそれよりも上流側の水槽2の内面に密接するように配置され、フロート47の設置空間部分のみ水面が開放されている。
【0043】
図6(d)に示した第七実施形態に係る造波装置1は、チャンバ式(又は空気圧式)実験装置に本発明を適用したものである。本実施形態における水流発生手段4は、水槽2の上流側に配置された貯水槽48と、貯水槽48内を加圧するエアポンプ49と、を有している。水流発生手段4は、貯水槽48に所定量の水を蓄えた後、エアポンプ49を作動させて水面を加圧することによって水路22内で水流を発生させる。制波板6は、例えば、整流板5と貯水槽48との間に密接するように配置される。
【0044】
本発明は上述した実施形態に限定されず、水路22内で水流を発生可能な全ての水流式実験装置に適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。