(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照しながら、本発明に係る投射装置および投射装置の制御方法、ならびに、プログラムの好適な実施形態を説明する。係る実施形態に示す具体的な数値および外観構成などは、本発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本発明に直接関係のない要素は詳細な説明および図示を省略している。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る投射装置における冷却構造を概略的に示す。
図1において、投射装置1は、図示されない光源から射出された光を表示素子100により画像信号に応じて変調する。例えば、表示素子100は、端子101から供給された、画像信号に応じた駆動信号に従い駆動される。投射装置1は、表示素子100により変調した光を図示されない投射光学系を介して投射装置1から射出して、スクリーンなどの被投射媒体に投射させる。
【0013】
表示素子100は、例えば、液晶の特性を利用して、画像信号に応じた画素毎の光変調を実現するLCOS(Liquid Crystal On Silicon:反射型液晶)方式による表示デバイスを適用することができる。
【0014】
表示素子100は、光源からの光が照射されることで温度が上昇する。液晶の特性は、温度に依存するため、表示素子100の温度は、所定の範囲内の温度に保たれている必要がある。第1の実施形態に係る投射装置1は、表示素子100の温度を所定範囲内に保つために、
図1に示す冷却構造を有する。
【0015】
図1において、冷却構造は、放熱ゲル102、ヒートシンク103およびファン104と、ファン104の動作を制御するためのファン制御部120、算出部121、変換部122および変換テーブル123と、温度センサ110および111とを備える。
【0016】
ヒートシンク103は、例えば熱抵抗の小さい金属で形成される放熱部材である。放熱ゲル102は、表示素子100とヒートシンク103との間に設けられ、表示素子100とヒートシンク103とを固定する。放熱ゲル102は、表示素子100とヒートシンク103との間に予め定められた熱抵抗θ
mHSを与える。ファン104は、羽部をモータで回転させることで、吐出口(排気口)105を介したエアフローを発生させるエアフロー発生器として用いられる。以下、ファン104の羽部を回転させることを、ファン104を回転させる、などのように記述する。
【0017】
図1の構成において、ファン104によりヒートシンク103に対してエアフローを発生させることで、ヒートシンク103から熱が奪われてヒートシンク103が冷却され、それに伴い、放熱ゲル102により所定の熱抵抗θ
mHSで接続された表示素子100が冷却される。ヒートシンク103は、エアフローの強さに応じて冷却の度合いが変化するため、表示素子100の温度に基づきファン104の回転を制御してエアフローの強さを調整することで、表示素子100の温度を所定の範囲内に保つことが可能である。
【0018】
表示素子100の温度を直接的に計測することは困難であるため、第1の実施形態では、ヒートシンク103の温度と、ヒートシンク103とヒートシンク103が置かれた環境との間の熱抵抗θ
eHSとに基づき表示素子100の温度を算出する。熱抵抗θ
eHSは、より具体的には、ヒートシンク103とファン104によるエアフローとの間の熱抵抗である。そして、算出された表示素子100の温度に基づきファン104の回転を制御することで、表示素子100の温度を所定の範囲内に保つようにする。
【0019】
以下、この表示素子100の温度を制御するための構成について、より具体的に説明する。
図1において、投射装置1は、さらに、温度センサ110および111と、ファン制御部120と、算出部121と、変換部122と、変換テーブル123とを備える。
【0020】
温度センサ110は、例えばサーミスタであり、ヒートシンク103に取り付けられヒートシンク103の温度T
HSを検知する。温度センサ111は、環境温度T
eを計測する。例えば、ファン104の吐出口105の近傍の、ファン104によるエアフローが直接的に当たる位置に温度センサ111を設け、この温度センサ111により計測された温度を環境温度T
eとして用いる。
【0021】
なお、温度センサ111の配置位置は、ファン104の吐出口(排気口)105の近傍に限られない。例えば、温度センサ111を、ファン104の吸気口(図示しない)の近傍に設けてもよい。
【0022】
ファン制御部120は、算出部121から出力される制御信号に従いファン104の動作を制御する。ファン制御部120は、例えばファン104のDCモータMに供給する電圧を制御することで、ファン104の回転速度を制御する。ファン104は、例えばDCモータMにより羽を回転させて、回転速度に応じた強さのエアフローを発生させる。ファン制御部120は、さらに、ファン104の回転速度を示す情報を出力する。
【0023】
なお、ファン104の回転速度は、一般的には、単位時間当たりの回転数(rpm:rotation per minute)で表されるので、以下では、特に記載のない限り、ファン104の回転速度をファン104の回転数として記述する。
【0024】
変換部122は、ファン制御部120から供給された、ファン104の回転数を示す情報に応じて、ファン104の回転数をヒートシンク103と環境との間の熱抵抗θ
eHSに変換する。これは、すなわち、ヒートシンク103とファン104によるエアフローとの間の熱抵抗に変換することに相当する。具体的には、変換部122は、ファン104の回転数とヒートシンク103と環境との間の熱抵抗θ
eHSとが関連付けられた変換テーブル123をファン104の回転数により参照して、熱抵抗θ
eHSを取得する。
【0025】
図2は、第1の実施形態に係る変換テーブル123の例を示す。
図2において、変換テーブル123は、「回転数」、「HS−環境間熱抵抗値」および項目「環境温度」と、各行のインデクスを示す「No」の各項目を含む。項目「回転数」は、ファン104の単位時間当たりの回転数を示す。項目「HS−環境間熱抵抗値」は、ヒートシンク103と環境すなわちエアフロー間の熱抵抗θ
eHSの値を示す。このように、変換テーブル123は、ファン104の回転数と熱抵抗θ
eHSとが関連付けられて構成される。この変換テーブル123は、例えば熱抵抗θ
eHSが予め測定されて、メモリなどに記憶される。
【0026】
なお、
図2の変換テーブル123において、項目「環境温度」は、ファン104の初期の回転数を設定するための環境温度が格納される。例えば、ファン制御部120は、ファン104の起動時において温度センサ111による計測結果に従い変換テーブル123の項目「環境温度」の値を参照して、対応する回転数を取得する。
【0027】
図1において、算出部121は、温度センサ110からヒートシンク103の温度T
HSを取得し、温度センサ111から環境温度T
eを取得する。また、算出部121は、変換部122がファン制御部120から出力されたファン104の回転数に従い変換テーブル123から取得した、ヒートシンク103と環境との間の熱抵抗θ
eHSを、変換部122から取得する。算出部121は、これら温度T
HSおよびT
eと、熱抵抗θ
eHSと、予め与えられた放熱ゲル102の熱抵抗θ
mHSとを用いて、表示素子100の温度T
mを算出する。
【0028】
以下、算出部121による算出処理について、詳細に説明する。表示素子100の温度T
mと、ヒートシンク103の温度T
HSとの関係は、表示素子100における熱流量Qと、表示素子100とヒートシンク103との間の熱抵抗θ
mHSとを用いて、下記の式(1)により表される。なお、熱抵抗θ
mHSは、放熱ゲル102の熱抵抗であって、既知の値である。
T
m−T
HS=Q×θ
mHS …(1)
【0029】
一方、熱流量Qは、温度センサ111で検知される環境温度T
eと、ヒートシンク103の温度T
HSと、ヒートシンク103と環境との間の熱抵抗θ
eHSとを用いて、下記の式(2)により表される。なお、熱抵抗θ
eHSは、変換部122が変換テーブル123を参照し、ファン104の回転数を変換して取得した値を用いる。
Q=(T
HS−T
e)/θ
eHS …(2)
【0030】
これら式(1)および式(2)から熱流量Qを消去すると、次式(3)が得られる。
T
m−T
HS=(T
HS−T
e)×θ
mHS/θ
eHS …(3)
【0031】
ここで、熱抵抗θ
eHSは、変換テーブル123により得られるファン104の回転数Rの関数と考えることができる。したがって、式(3)は、温度T
mについて、下記の式(4)のように表され、表示素子100の温度T
mが温度センサ110および111から出力される温度T
HSおよびT
eと、ファン104の回転数Rとを用いて算出できることが分かる。
T
m=T
HS+(T
HS−T
e)×θ
mHS/θ
eHS(R) …(4)
【0032】
上述した式(1)〜式(4)の計算は、
図3に例示するような、既知の熱抵抗θ
mHSおよびθ
eHSが直列接続され、既知の温度T
HSおよびT
eが熱抵抗θ
eHSの両端に与えられた熱回路において、未知の温度T
mを算出する例として考えることができる。
【0033】
算出部121は、温度センサ110および111から供給された温度T
HSおよびT
eと、ファン制御部120からのファン回転数Rが変換部122で変換された熱抵抗θ
eHSと、予め定められた放熱ゲル102の熱抵抗θ
mHSとを上述した式(4)に適用して、表示素子100の温度T
mを算出する。
【0034】
そして、算出部121は、温度T
mが予め定められた所定範囲内に収まるように、ファン制御部120に対して制御信号を出力する。例えば、算出部121は、温度T
mが所定範囲内に対して低く外れている場合には、ファン104の回転数を低下させるような制御信号をファン制御部120に対して出力する。また、算出部121は、温度T
mが所定範囲内に対して高く外れている場合には、ファン104の回転数を増加させるような制御信号をファン制御部120に対して出力する。
【0035】
算出部121は、以上の処理を、所定時間間隔で繰り返し実行する。これにより、表示素子100の温度T
mを高精度に制御でき、当該温度T
mを略一定に保つことができる。
【0036】
表示素子100に対して光を照射する光源は、経時変化により輝度が低下し、それに伴い光源から表示素子100に対する熱流量も変化する。従来のように、ヒートシンク103の温度のみを検出してファン104を駆動して表示素子100の温度を制御する場合、表示素子100に対する熱流量が変化すると、表示素子100とヒートシンク103との間の温度差が変化する。そのため、制御対象である表示素子100の温度を一定に制御することが難しかった。
【0037】
これに対して、第1の実施形態では、ヒートシンク103の温度T
HSと、環境温度T
eとを検出して表示素子100の温度を制御している。そのため、表示素子100の温度を直接測定すること無く、光源の輝度の低下や光源の点灯モードによる表示素子100とヒートシンク103との間の温度差の変化に対応でき、表示素子100の温度を高精度に制御することが可能となる。
【0038】
なお、投射装置1は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)および各種インターフェイスを含む全体制御部を備える。全体制御部は、例えばROMに予め格納されたプログラムに従い、RAMをワークメモリとして用い、インターフェイスによりファン104など各ハードウェアとの通信を行うことで、投射装置1の全体の動作を制御する。
【0039】
ここで、上述したファン制御部120、算出部121および変換部122は、ROMに予め格納され、CPU上で動作するプログラムにより構成することができる。また、変換テーブル123は、ROMに予め記憶しておいてもよいし、当該プログラムに埋め込んでおいてもよい。
【0040】
ファン制御部120、算出部121および変換部122を構成するためのプログラム、ならびに、変換テーブル123は、全体制御部が有するROMに予め記憶されて提供されるのに限られない。例えば、投射装置1に対して不揮発性メモリや、CDやDVD(Digital Versatile Disk)を再生するドライブを接続するインターフェイスを設け、当該プログラムや変換テーブル123を、これら不揮発性メモリやCD、DVDといった記録媒体から提供してもよい。さらに、投射装置1に対してインターネットに接続するための通信インターフェイスを設け、当該プログラムや変換テーブル123をインターネットから供給することも可能である。
【0041】
なお、ファン制御部120、算出部121および変換部122を、それぞれ独立したハードウェアで構成してもよい。これに限らず、ファン制御部120、算出部121および変換部122の一部の機能をハードウェアで実現し、残りの機能をプログラムで実現してもよい。
【0042】
(第1の実施形態の変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。上述の第1の実施形態では、式(1)〜式(4)により表示素子100の温度T
mを算出し、当該温度T
mが所定の範囲内に収まるように制御を行っていた。これに対して、第1の実施形態の変形例では、環境における表示素子100の温度T
mに基づき目標となるヒートシンク103の目標温度T
HS1を決定し、ヒートシンク103の温度T
HSが、この目標温度T
HS1になるように制御を行う。
【0043】
すなわち、第1の実施形態の変形例では、投射装置1の例えば1回の使用においては光源の経時変化は生じないものと見做す。そして、投射装置1の起動後、安定した状態での表示素子100の温度T
mを上述した式(4)を用いて算出し、温度T
mを用いてヒートシンク103の目標温度T
HS1を決める。
【0044】
図4は、この第1の実施形態の変形例による一例の温度制御処理を示すフローチャートである。投射装置1が起動されると、算出部121は、ステップS100で、温度センサ111から環境温度T
eを取得する。次のステップS101で、算出部121は、ステップS100で取得した環境温度T
eに基づき変換部122を介して変換テーブル123を参照し、環境温度T
eに対応する回転数Rを取得する。このとき算出部121が参照した、環境温度T
eに対応する変換テーブル123のインデクス(No)の値を値Xとする。
【0045】
次のステップS102で、算出部121は、取得した回転数Rでファン104を回転させるような制御信号を生成してファン制御部120に供給する。ファン制御部120は、供給された制御信号に従い、回転数Rで回転するようにファン104を駆動する。次のステップS103で、算出部121は、ヒートシンク103の目標温度T
HS0を、予め定められた初期値に設定する。次のステップS104で、算出部121は、カウンタをリセットし、カウント値nをn=0とする。
【0046】
次のステップS105で、算出部121は、温度センサ110からヒートシンク103の温度T
HS(以下、ヒートシンク温度T
HS)を取得し、ステップS103で設定された目標温度T
HS0(以下、第1目標温度T
HS0)と比較し、ヒートシンク温度T
HSが第1目標温度T
HS0を超えているか否かを判定する。
【0047】
算出部121は、ステップS105でヒートシンク温度T
HSが第1目標温度T
HS0を超えていると判定した場合、処理をステップS106に移行させる。ステップS106で、算出部121は、インデクス値X=X+1として変換テーブル123を参照してファン104の回転数Rを取得し、取得した回転数Rに対応する制御信号をファン制御部120に供給する。ファン制御部120は、供給された制御信号に従いファン104を駆動する。次のステップS107で、算出部121は、カウント値n=0として処理をステップS105に戻す。
【0048】
算出部121は、ステップS105でヒートシンク温度T
HSが第1目標温度T
HS0以下であると判定した場合、処理をステップS108に移行させ、ヒートシンク温度T
HSが第1目標温度T
HS0未満であるか否かを判定する。
【0049】
算出部121は、ステップS108でヒートシンク温度T
HSが第1目標温度T
HS0未満であると判定した場合、処理をステップS109に移行させる。ステップS109で、算出部121は、インデクス値X=X−1として変換テーブル123を参照してファン104の回転数Rを取得し、取得した回転数Rに対応する制御信号をファン制御部120に供給する。ファン制御部120は、供給された制御信号に従いファン104を駆動する。次のステップS110で、算出部121は、カウント値n=0として処理をステップS105に戻す。
【0050】
算出部121は、ステップS108でヒートシンク温度T
HSが第1目標温度T
HS0以上であると判定した場合、処理をステップS111に移行させ、カウント値n=n+1とする。この場合、ヒートシンク温度T
HSは、第1目標温度T
HS0と等しいと判定できる。
【0051】
なお、上述のステップS105およびステップS108での判定は、第1目標温度T
HS0に所定のマージンを持たせて行うと好ましい、例えば、ステップS105では、ヒートシンク温度T
HSと比較する第1目標温度T
HS0を、ステップS103で設定した温度よりも所定分だけ低い温度とする。同様に、ステップS108では、第1目標温度T
HS0を、ステップS103で設定した温度よりも所定分だけ高い温度とする。
【0052】
処理はステップS112に移行され、算出部121は、カウント値nを、予め定められた固定値Cと比較する。算出部121は、カウント値nが固定値C以下であると判定した場合、処理をステップS105に戻す。また、算出部121は、カウント値nが固定値Cを超えると判定した場合は、処理をステップS113に移行させる。
【0053】
なお、上述のステップS105〜ステップS112のループは、所定時間間隔(例えば30秒間隔)で繰り返され実行される。また、固定値Cは、例えば投射装置1を起動した際に、ヒートシンク温度T
HSが安定する時間を予め計測しておき、計測された時間に基づき指定することが考えられる。
【0054】
ステップS113で、算出部121は、温度センサ110および111からヒートシンク温度T
HSおよび環境温度T
eをそれぞれ取得する。また、変換部122は、ファン制御部120から供給されたファン104の回転数Rに従い変換テーブル123を参照し、回転数Rを、ヒートシンク103とヒートシンク103が置かれた環境との間の熱抵抗θ
eHS(以下、環境熱抵抗θ
eHS)に変換して、算出部121に供給する。
【0055】
算出部121は、これらヒートシンク温度T
HS、環境温度T
eおよび環境熱抵抗θ
eHSと、予め与えられた、表示素子100とヒートシンク103との間の熱抵抗θ
mHSとを用いて上述した式(2)の計算を行い、表示素子100の熱流量Qを算出する。そして、次のステップS114で、算出部121は、ステップS113で算出された熱流量Qを、上述の式(1)に適用して、表示素子100の温度T
mを算出する。
【0056】
勿論、算出部121は、ヒートシンク温度T
HS、環境温度T
eおよび環境熱抵抗θ
eHS、ならびに、熱抵抗θ
mHSを上述の式(4)に適用して、直接的に温度T
mを算出してもよい。
【0057】
次のステップS115で、算出部121は、表示素子100に対して予め定められた目標温度T
m0と、ステップS114で算出された表示素子100の温度T
mとの差分Δtを算出する。この差分Δtは、光源の経時変化による輝度の低下に伴い低下した温度に対応する。次のステップS116で、算出部121は、ステップS103で設定されたヒートシンク103の第1目標温度T
HS0にステップS115で算出された差分Δtを加算して、ヒートシンク103の第2目標温度T
HS1を算出する。
【0058】
次のステップS117で、算出部121は、温度センサ110からヒートシンク温度T
HSを取得し、取得したヒートシンク温度T
HSとステップS116で算出した第2目標温度T
HS1とを比較して、ヒートシンク温度T
HSが第2目標温度T
HS1を超えるか否かを判定する。算出部121は、超えると判定した場合、処理をステップS118に移行させ、インデクス値X=X+1として変換テーブル123を参照してファン104の回転数Rを取得し、取得した回転数Rに対応する制御信号をファン制御部120に供給する。ファン制御部120は、供給された制御信号に従いファン104を駆動する。そして、処理がステップS117に戻される。
【0059】
算出部121は、ステップS117でヒートシンク温度T
HSが第2目標温度T
HS1以下であると判定した場合、処理をステップS119に移行させる。ステップS119で、算出部121は、ヒートシンク温度T
HSとステップS116で算出した第2目標温度T
HS1とを比較して、ヒートシンク温度T
HSが第2目標温度T
HS1未満であるか否かを判定する。算出部121は、ヒートシンク温度T
HSが第2目標温度T
HS1未満であると判定した場合、処理をステップS120に移行させ、インデクス値X=X−1として変換テーブル123を参照してファン104の回転数Rを取得し、取得した回転数Rに対応する制御信号をファン制御部120に供給する。ファン制御部120は、供給された制御信号に従いファン104を駆動する。そして、処理がステップS117に戻される。
【0060】
また、算出部121は、ステップS119でヒートシンク温度T
HSが第2目標温度T
HS1以上であると判定した場合、処理をステップS117に戻す。これは、ヒートシンク温度T
HSと第2目標温度T
HS1とが等しいことを意味する。
【0061】
なお、上述のステップS117およびステップS119での判定は、第2目標温度T
HS1に所定のマージンを持たせて行うと好ましい、例えば、ステップS117では、ヒートシンク温度T
HSと比較する第2目標温度T
HS1を、ステップS116で算出した温度よりも所定に低い温度とする。同様に、ステップS119では、第2目標温度T
HS1を、ステップS116で算出した温度よりも所定に高い温度とする。
【0062】
なお、上述のステップS117〜ステップS120のループは、所定時間間隔(例えば30秒)で繰り返され実行される。
【0063】
このように、第1の実施形態の変形例では、算出部121は、ヒートシンク温度T
HSが安定した状態において、表示素子100の温度T
mの、表示素子100の目標温度T
m0との差分Δtを用いて第2目標温度T
HS1を算出する。そして、算出部121は、ヒートシンク温度T
HSがこの第2目標温度T
HS1になるように、ファン104の回転数Rを制御している。
【0064】
したがって、この第1の実施形態の変形例においても、表示素子100の温度を直接測定すること無く、光源の輝度の低下による表示素子100とヒートシンク103との間の温度差の変化に対応でき、表示素子100の温度を高精度に制御することが可能となる。
【0065】
また、第1の実施形態の変形例では、ヒートシンク温度T
HSのみの測定に基づき制御を行っているため、制御がより安定的となる。
【0066】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、上述した第1の実施形態の構成を、R(赤)色、G(緑)色およびB(青)色それぞれに表示素子を設けた3板式の投射装置に適用した例である。
【0067】
図5は、第2の実施形態に適用可能な投射装置の一例の構成を、光学系の構成を中心に示す。
図5において、投射装置30aは、光源31から射出された光の光路を3の光路に分けて、それぞれR色、G色およびB色に対応する表示素子40r、40gおよび40bに照射させる。
【0068】
光源31から射出された光は、レンズなど各種の光学素子33、34、35および36を含む照明光学系32を介してクロス型ダイクロイックミラー37に照射される。クロス型ダイクロイックミラー37は、照射された光からB色の光とY(黄)色の光とを抽出してそれぞれ射出させる。
【0069】
クロス型ダイクロイックミラー37で抽出されたB色の光は、ミラー38で反射されレンズ39bに入射される。レンズ39bから出射されたB色の光は、B色のカラーフィルタ46bにより波長が整えられて、ワイヤグリッド41bに入射される。ワイヤグリッド41bは、一方から入射された光を透過し、透過する光に対して偏光方向が直交する光を反射させる特性を有する。この特性は、後述するワイヤグリッド41gおよび41rにおいても同様である。ワイヤグリッド41bに入射された光は、ワイヤグリッド41bを透過して、表示素子40bに入射される。表示素子40bは、B色の画像信号に従い駆動され、入射された光をB色の画像信号に従って画素毎に変調し、偏光方向を90°回転させて反射する。表示素子40bから射出された、画素毎に変調されたB色の光は、偏光フィルタ47bを介して色合成プリズム42の第1の面に入射される。
【0070】
クロス型ダイクロイックミラー37で抽出されたY色の光は、ミラー43で反射され、ダイクロイックミラー44に入射される。ダイクロイックミラー44は、入射されたY色の光からR色の光とG色の光とを抽出する。R色の光は、ダイクロイックミラー44を透過し、G色の光は、ダイクロイックミラー44に反射される。ダイクロイックミラー44で反射され抽出されたG色の光は、レンズ39gを介してG色のカラーフィルタ46gに入射されて波長を整えられ、ワイヤグリッド41gを透過して表示素子40gに入射される。表示素子40gは、G色の画像信号に従い駆動され、入射された光をG色の画像信号に従って画素毎に変調して反射する。表示素子40gから射出された、画素毎に変調されたG色の光は、偏光フィルタ47gを介して色合成プリズム42の第2の面に入射される。
【0071】
ダイクロイックミラー44から透過され抽出されたR色の光は、レンズ39rを介してR色のカラーフィルタ46rに入射されて波長が整えられ、ワイヤグリッド41rを透過して表示素子40rに入射される。表示素子40rは、R色の画像信号に従い駆動され、入射された光をR色の画像信号に従って画素毎に変調して反射する。表示素子40rから射出された、画素毎に変調されたR色の光は、偏光フィルタ47rを介して色合成プリズム42の第3の面に入射される。
【0072】
なお、上述のように、RGB各色のカラーフィルタ46r、46gおよび46bは、それぞれ入射されるRGB各色の光の波長を整えるものであって、省略することが可能である。
【0073】
色合成プリズム42は、第1、第2および第3の面にそれぞれ入射されたB色、G色およびR色の各光を、1の光路の光に合成して第4の面から射出させる。光合成プリズム42から射出された光は、投射光学系45を介して投射装置30aから投射光として出射される。
【0074】
このような構成において、RGB各色の表示素子40r、40gおよび40bは、照射される光に応じて温度が上昇する。この温度の上昇を抑えるために、各表示素子40r、40gおよび40bに対してファン50r、50gおよび50bがそれぞれ設けられる。また、図示は省略するが、
図1の放熱ゲル102およびヒートシンク103と同様にして、各表示素子40r、40gおよび40bに対して、放熱ゲルを介してヒートシンクを設ける。例えば表示素子40rにおいて、ファン50rが発生したエアフローによりヒートシンクが冷却され、それに伴い表示素子40rが冷却される。
【0075】
第2の実施形態では、各ファン50r、50gおよび50bの吐出口近傍に、温度センサ51r、51gおよび51bをそれぞれ設ける。また、各表示素子40r、40gおよび40bに放熱ゲルを介して設けられる、図示されない各ヒートシンクに対して、温度センサ60r、60gおよび60bをそれぞれ設ける。
【0076】
なお、温度センサ51r、51gおよび51bは、各ファン50r、50gおよび50bの吐出口近傍に限られず、各ファン50r、50gおよび50bの吸気口の近傍にそれぞれ設けてもよい。
【0077】
また、投射装置30aは、
図1に示したファン制御部120、算出部121、変換部122および変換テーブル123(それぞれ図示は省略する)を、各ファン50r、50gおよび50bについてそれぞれ有するものとする。すなわち、投射装置30aは、R色、G色およびB色それぞれについて、ファン制御部120、算出部121、変換部122および変換テーブル123を備える。これに限らず、算出部121、変換部122および変換テーブル123のうち一部または全部は、R色、G色およびB色で共通して備えるようにしてもよい。
【0078】
例えば、ファン50rについて、第1の実施形態に従い、R色の算出部121は、温度センサ51rの温度検知結果と、表示素子40rのヒートシンクに設けられた温度センサの温度検知結果と、ファン50rの回転数とを用いて、上述した式(1)〜式(4)に従い表示素子40rの温度を算出する。そして、R色の算出部121は、温度T
mが予め定められた所定範囲内に収まるように、ファン制御部120に対して制御信号を出力する。
【0079】
投射装置30aは、この動作を、R色、G色およびB色それぞれについて実行することで、表示素子40r、40gおよび40bそれぞれの温度を略一定に保つことができ、投射画像の画質を安定させることができる。
【0080】
これに限らず、第2の実施形態における各ファン50r、50gおよび50bの各回転数Rの制御を、上述した第1の実施形態の変形例に従い行ってもよい。
【0081】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。上述の第2の実施形態では、RGB各色の表示素子40r、40gおよび40bに対してそれぞれファン50r、50gおよび50bを設けたが、これはこの例に限定されない。第3の実施形態では、1のファンにより発生したエアフローを、ダクトを用いてRGB各色の表示素子40r、40gおよび40bそれぞれに対する3のエアフローに分ける。
【0082】
図6および
図7は、第3の実施形態に係る投射装置30bの一例の構成を示す。なお、
図6および
図7において、上述した
図5と共通する部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。また、投射装置30bにおいて、光源31から射出される光の光路は、
図5を用いて説明した第2の実施形態による光路と同一であるので、ここでの説明を省略する。
【0083】
図6は、投射装置30bに設けられたダクト52の例を示す。
図7は、
図6におけるダクト52を透視した一例の透視図を示す。
図7において、ダクト52は、開口部54にファン50の吐出口(排気口)55が取り付けられると共に、3の吐出口(排気口)53r、53gおよび53bを備える。ダクト52は、1のファン50で発生するエアフローを、各吐出口53r、53gおよび53bにおける3のエアフローに分ける。ファン50で発生された1のエアフローは、これら3の吐出口53r、53gおよび53bにより、それぞれ表示素子40r、40gおよび40bにそれぞれ放熱ゲルを介して取り付けられた各ヒートシンク(図示しない)を冷却するための3のエアフローに分けられる。
【0084】
ダクト52は、3のエアフローの配分が、RGB各色の表示素子40r、40gおよび40bの温度バランスを適切にする配分となるように、形状や各吐出口の形状が設計される。
【0085】
第3の実施形態では、RGB各色の表示素子40r、40gおよび40bのうち、1の表示素子を対象として、当該表示素子に対応するヒートシンクに温度センサ60を取り付けて、ヒートシンク温度T
HSを測定する。
【0086】
より具体的には、第3の実施形態においては、ヒートシンク温度T
HSを測定するための温度センサ60は、
図7に例示されるように、G色の表示素子40gに対応する図示されないヒートシンクに取り付ける。したがって、第3の実施形態では、RGB各色の表示素子40r、40gおよび40bのうち、G色の表示を行う表示素子40gの温度T
mgのみを制御対象とする。これは、投射光を構成するRGB各色のうち、G色が投射画像の画質に最も影響を及ぼすからである。
【0087】
一方、環境温度T
eを測定するための温度センサ51は、
図7に例示されるように、G色の表示素子40gに対応する吐出口53gの近傍に設けられる。これはこの例に限定されず、温度センサ51をファン50の吐出口55の近傍に設けてもよいし、ファン50の吸気口近傍に設けてもよい。
【0088】
表示素子40gの温度T
mgの制御は、上述した第1の実施形態や第1の実施形態の変形例の制御方法を略そのまま適用できる。例えば、第1の実施形態の制御方法を適用する場合、ファン50の回転数Rと、表示素子40gのヒートシンクと環境との間の熱抵抗θ
eHSgとの対応関係を予め計測して変換テーブル123(図示しない)に記憶させておく。
【0089】
算出部121(図示しない)は、表示素子40gのヒートシンクに設けられた温度センサ60からヒートシンク温度T
HSgを取得し、G色の表示素子40gに対応する吐出口53gの近傍に設けられた温度センサ51から環境温度T
eを取得する。また、変換部122(図示しない)は、ファン制御部120(図示しない)から取得した、ファン50の回転数Rに基づき変換テーブル123を参照して、ファン50の回転数Rに応じた熱抵抗θ
eHSgを取得する。算出部121は、これらヒートシンク温度T
HSgと、環境温度T
eと、熱抵抗θ
eHSgと、予め与えられた表示素子40gとヒートシンクとの間の熱抵抗θ
mHSgとを用いて、上述した式(1)〜式(4)に従い表示素子40gの温度T
mgを算出する。
【0090】
そして、算出部121は、温度T
mgが所定範囲内に収まるように、ファン制御部120に対して制御信号を出力する。ファン制御部120は、ファン50の回転数Rをこの制御信号に従い制御することで、表示素子40gの温度T
mgが一定に保たれ、安定的に投射画像を得ることができる。
【0091】
これに限らず、第3の実施形態におけるファン50の回転数Rの制御を、上述した第1の実施形態の変形例に従い行ってもよい。
【0092】
また、上述では、ヒートシンク温度T
HSを測定する温度センサ60を、1の表示素子を対象として、当該表示素子に対応するヒートシンクに取り付けているが、これはこの例に限定されない。すなわち、ファン50によるエアフローがダクト52により3のエアフローに配分されている場合であっても、ヒートシンク温度T
HSを測定する温度センサ60を、RGB各色の表示素子40r、40gおよび40bに対応する各ヒートシンクにそれぞれ設けてもよい。この場合、環境温度T
eを測定するための温度センサ51を、RGB各色の表示素子40r、40gおよび40bに対応する各吐出口53r、53gおよび53bの近傍にぞれぞれ設けることが考えられる。