(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6172041
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】材料試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20170724BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
G01N3/04 P
G01N3/08
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-99496(P2014-99496)
(22)【出願日】2014年5月13日
(65)【公開番号】特開2015-215289(P2015-215289A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【弁理士】
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】金田 匡規
【審査官】
渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−032218(JP,A)
【文献】
特開2008−196880(JP,A)
【文献】
特開平11−094721(JP,A)
【文献】
特開2010−210442(JP,A)
【文献】
実開平4−124452(JP,U)
【文献】
国際公開第2013/158774(WO,A1)
【文献】
米国特許第6860156(US,B1)
【文献】
仏国特許出願公開第2579327(FR,A1)
【文献】
仏国特許出願公開第2898680(FR,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101907538(CN,A)
【文献】
国際公開第2015/173915(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N3/00−3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片を把持するためのチャックを備え、ガイド部材により案内されることにより、第1軸に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能な一対の第1移動部材と、
試験片を把持するためのチャックを備え、ガイド部材により案内されることにより、前記第1軸と交差する第2軸に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能な一対の第2移動部材と、
負荷機構により負荷を付与される負荷部材と、
前記一対の第1移動部材および前記一対の第2移動部材と前記負荷部材とを各々連結する4個のリンク部材と、を備え、
前記負荷部材に付与された負荷を前記4個のリンク部材を介して前記一対の第1移動部材および前記一対の第2移動部材に伝達することにより、前記一対の第1移動部材を前記第1軸に沿って互いに離隔する方向に同期して移動させるとともに、前記一対の第2移動部材を前記第2軸に沿って互いに離隔する方向に移動させる材料試験機において、
前記第1移動部材および前記第2移動部材と、前記リンク部材とのいずれか一方には座面が形成されるとともに、他方には前記座面と対応する形状を有する当接部が形成され、
前記座面と前記当接部とが、各々、当接することにより、前記一対の第1移動部材および前記一対の第2移動部材と前記負荷部材とが、前記4個のリンク部材を介して連結されることを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記当接部は、前記座面に当接するピンであり、
前記座面には、前記ピンと前記座面との間の負荷の付与方向以外のいずれかの方向のうち少なくとも一つの方向に開放部が形成される材料試験機。
【請求項3】
請求項2に記載の材料試験機において、
前記座面は前記第1移動部材および前記第2移動部材に形成されるとともに、前記ピンは前記リンク部材に配設される材料試験機。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の材料試験機において、
前記4個のリンク部材は、クロスヘッドに連結された負荷部材に対して揺動可能に配設されるとともに、
前記第1移動部材を案内するガイド部材と前記第2移動部材を案内するガイド部材とは、基台上に配設されたベース部上に固定される材料試験機。
【請求項5】
請求項4に記載の材料試験機において、
前記リンク部材の揺動範囲を規制するための規制部材を備える材料試験機。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の材料試験機において、
上つかみ具を装着するための上部アダプタが前記負荷部材に対して着脱自在に構成されるとともに、下つかみ具を装着するための下部アダプタが前記ベース部に対して着脱自在に構成される材料試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片に対して互いに交差する二軸方向に引張力を付与してその試験を実行する材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような材料試験は、二軸引張試験とも呼称され、例えば、金属板に対して強度を測定する場合に実行される。特許文献1には、このような材料試験機として、互いに直交する方向に配設された二本のレールに対して、各々、一対の試験片チャック部を移動可能に配設した二軸引張試験機が開示されている。
【0003】
図11は、このような従来の材料試験機における試験片100に試験力を付与するための二軸引張機構を示す斜視図である。
【0004】
この材料試験機における二軸引張機構は、ベース板90の表面に対して互いに直交する方向に配設された第1レール91および第2レール92を備える。第1レール91に対しては、一対の第1移動部材93が摺動可能に配設されている。これら一対の第1移動部材93は、第1レール91に案内されることにより、第1レール91に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能となっている。また、これら一対の第1移動部材93は、各々、試験片100を把持するためのチャック95を備える。一方、第2レール92に対しては、一対の第2移動部材94(
図11においては一方のみを図示)が摺動可能に配設されている。これら一対の第2移動部材94は、第2レール92に案内されることにより、第2レール92に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能となっている。また、これら一対の第2移動部材94は、各々、試験片100を把持するためのチャック96を備える。第1レール91および第2レールを支持するベース板90は、材料試験機本体における基台上に配設されている。
【0005】
また、この二軸引張機構は、材料試験機におけるクロスヘッドに連結され、クロスヘッドから負荷を付与される負荷部材80を備える。一対の第1移動部材93は、リンク81およびリンク82より構成されるリンク部材83により負荷部材80と連結されている。リンク部材83を構成するリンク81は、第1移動部材93に対して、軸97により揺動可能に連結されており、リンク部材83を構成するリンク82は、負荷部材80に対して、軸85により揺動可能に連結されている。また、一対の第2移動部材94は、リンク部材84により負荷部材80と連結されている。リンク部材84の一端は、第2移動部材94に対して、軸98により揺動可能に連結されており、リンク部材84の他端は、負荷部材80に対して、軸86により揺動可能に連結されている。
【0006】
この材料試験機における二軸引張機構においては、試験片100を二対のチャック95、96により把持した状態で負荷部材80が押圧されたときには、一対の第1移動部材93はリンク部材83の作用により、第1レール91に沿って互いに離隔する方向に移動し、一対の第2移動部材94はリンク部材84の作用により、第2レール92に沿って互いに離隔する方向に移動する。このため、二対のチャック95、96により把持された試験片に対しては、互いに直交する二軸方向の引張負荷が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−32218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された材料試験機における二軸引張機構においては、一対の第1移動部材93と負荷部材80とがリンク部材83により連結され、一対の第2移動部材94と負荷部材80とがリンク部材84により連結された構成を有することから、試験片100をチャック95、96により把持し、あるいは、取り外すときには、オペレータがリンク部材83、84の隙間から手を入れてその着脱作業を実行する必要があり、作業効率が悪い。特に、試験片100をチャック95、96に対して着脱するときに、スパナ等の工具を使用する必要がある場合においては、これらの工具とリンク部材83、84とが干渉することにより、試験片100の着脱作業を行うために極めて長い時間を要するという問題が生ずる。
【0009】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試験片に対して互いに交差する二軸方向に引張力を付与してその試験を実行する材料試験機においても、チャックに対して試験片を容易に着脱することが可能な材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、試験片を把持するためのチャックを備え、ガイド部材により案内されることにより、第1軸に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能な一対の第1移動部材と、試験片を把持するためのチャックを備え、ガイド部材により案内されることにより、前記第1軸と交差する第2軸に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能な一対の第2移動部材と、負荷機構により負荷を付与される負荷部材と、前記一対の第1移動部材および前記一対の第2移動部材と前記負荷部材とを各々連結する4個のリンク部材と、を備え、前記負荷部材に付与された負荷を前記4個のリンク部材を介して前記一対の第1移動部材および前記一対の第2移動部材に伝達することにより、前記一対の第1移動部材を前記第1軸に沿って互いに離隔する方向に同期して移動させるとともに、前記一対の第2移動部材を前記第2軸に沿って互いに離隔する方向に移動させる材料試験機において、前記第1移動部材および前記第2移動部材と、前記リンク部材とのいずれか一方には座面が形成されるとともに、他方には前記座面と対応する形状を有する当接部が形成され、前記座面と前記当接部とが、各々、当接することにより、前記一対の第1移動部材および前記一対の第2移動部材と前記負荷部材とが、前記4個のリンク部材を介して連結されることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記当接部は、前記座面に当接するピンであり、前記座面には、前記ピンと前記座面との間の負荷の付与方向以外のいずれかの方向のうち少なくとも一つの方向に開放部が形成される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記座面は前記第1移動部材および前記第2移動部材に形成されるとともに、前記ピンは前記リンク部材に配設される。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、前記4個のリンク部材は、クロスヘッドに連結された負荷部材対して揺動可能に配設されるとともに、前記第1移動部材を案内するガイド部材と前記第2移動部材を案内するガイド部材とは、基台上に配設されたベース部上に固定される。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記リンク部材の揺動範囲を規制するための規制部材を備える。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4または請求項5に記載の発明において、上つかみ具を装着するための上部アダプタが前記負荷部材に対して着脱自在に構成されるとともに、下つかみ具を装着するための下部アダプタが前記ベース部に対して着脱自在に構成される。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、試験片に対して互いに交差する二軸方向に引張力を付与してその試験を実行する材料試験機において、各座面と各当接部とを離隔することにより、チャックおよび第1、第2移動部材を有するユニットと負荷部材およびリンク部材を有するユニットとを容易に分離することができる。このため、チャックに対して試験片を容易に着脱することが可能となる。
【0017】
請求項2および請求項3に記載の発明によれば、ピンと座面の間に押圧力を作用させることで第1移動部材および第2移動部材を移動させることができるとともに、座面に形成された開放部を介してピンを座面から離隔させることにより、チャックおよび第1、第2移動部材を有するユニットと負荷部材およびリンク部材を有するユニットとを容易に分離することができる。このため、チャックに対して試験片を容易に着脱することが可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、基台に対するクロスヘッドの移動を利用して、試験片に対して互いに交差する二軸方向に引張力を付与することが可能となる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、各座面と各当接部との当接関係が解除された状態においても、各リンク部材の揺動範囲を一定以内に維持することが可能となる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、単一の材料試験機により、通常の材料試験と、試験片に対して互いに交差する二軸方向に引張力を付与する材料試験との両方を実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】支持部41に対するリンク部材44の取り付け状態を示す説明図である。
【
図4】他の実施形態に係る支持部41に対するリンク部材44の取り付け状態を示す説明図である。
【
図5】ピン45と座部材31とが当接する状態を示す斜視図である。
【
図6】ピン45と座部材31とが当接する状態を示す側面概要図である。
【
図7】この材料試験機により通常の引張試験を実施する状態を模式的に示す説明図である。
【
図8】第2実施形態に係る座部材32をピン45とともに示す側面概要図である。
【
図9】第3実施形態に係る座部材33をリンク部材51とともに示す側面概要図である。
【
図10】ピン34をリンク部材52とともに示す側面概要図である。
【
図11】従来の材料試験機における試験片100に試験力を付与するための二軸引張機構を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。
【0023】
この材料試験機は、基台11と、この基台11上に立設された左右一対のねじ棹12と、前記左右一対のねじ棹12と螺合するナット部を備え、ねじ棹12に対して昇降するクロスヘッド13とを備える。クロスヘッド13には、後述する二軸引張機構1の上部ユニット2が付設されている。また、基台11には、後述する二軸引張機構1の下部ユニット3が付設されている。
【0024】
一対のねじ棹12の下端部には、各々、同期ベルト14と係合する同期プーリー15が配設されている。また、この同期ベルト14は、モータ16の駆動により回転する同期プーリー17とも係合している。このため、一対のねじ棹12は、モータ16の駆動により同期して回転する。そして、一対のねじ棹12が同期して回転することにより、クロスヘッド13は、一対のねじ棹12の軸心方向に昇降する。
【0025】
図2は、上述した二軸引張機構1の斜視図である。なお、
図2においては、二軸引張機構1における上部ユニット2と下部ユニット3とが連結された状態を示している。
【0026】
この二軸引張機構1は、ベース部26の表面に対して互いに直交する方向に配設された第1レール23および第2レール24を備える。これらの第1レール23および第2レール24を支持するベース部26は、
図1に示す材料試験機本体における基台11上に配設されている。
【0027】
第1レール23に対しては、一対の第1スライド部材21が摺動可能に配設されている。これら一対の第1スライド部材21は、第1レール23に案内されることにより、第1レール23と平行な第1軸に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能となっている。これら一対の第1スライド部材21のうちの一方の第1スライド部材21は、ロードセル27を介して、試験片100を把持するためのチャック25と接続されている。一方、一対の第1スライド部材21のうちの他方の第1スライド部材21は、直接チャック25と接続されている。第1スライド部材21は、後述する座面29が形成された座部材31を保持している。なお、この第1スライド部材21と座部材31とは、この発明に係る第1移動部材を構成する。
【0028】
一方、第2レール24に対しては、一対の第2スライド部材22が摺動可能に配設されている。これら一対の第2スライド部材22は、第2レール24に案内されることにより、第2レール24と平行な第2軸に沿って互いに近接および離隔する方向に移動可能となっている。これら一対の第2スライド部材22のうちの一方の第2スライド部材22は、ロードセル27を介して、チャック25と接続されている。一方、一対の第2スライド部材22のうちの他方の第2スライド部材22は、直接チャック25と接続されている。第2スライド部材22は、第1スライド部材21と同様、座部材31を保持している。なお、この第2スライド部材22と座部材31とは、この発明に係る第2移動部材を構成する。
【0029】
ベース部26上に配置された、第1、第2レール23、24、第1、第2スライド部材21、22、座部材31、ロードセル27、チャック25等は、二軸引張機構1における下部ユニット3を構成する。
【0030】
また、この二軸引張機構1は、
図1に示す材料試験機におけるクロスヘッド13に対して連結部材42により連結された支持部41を備える。この支持部41には、後述する二軸引張試験時に、クロスヘッド13から負荷が付与される。この支持部41には、二軸引張機構1またはその上部ユニット2をフォークリフト等により搬送するときに利用される一対のリフト部材43が付設されている。なお、この支持部41は、負荷機構としてのクロスヘッド13により負荷を付与されるこの発明に係る負荷部材として機能する。
【0031】
支持部41には、4個のリンク部材44が、各々、一対の継手部材47に挟持される状態で取り付けられている。これらにリンク部材44は、継手部材47に対して、軸46を中心に揺動可能な状態で取り付けられている。支持部41と、この支持部41に対して継手部材47および軸46により取り付けられた4個のリンク部材44等は、二軸引張機構1における上部ユニット2を構成する。
【0032】
なお、4個のリンク部材44を支持する継手部材47のうち、第1スライド部材21に対応する継手部材47には、軸46を貫通する孔部とは別の孔部49が穿設されている。この孔部49は、試験片100に対して互いに直交する方向に付与される試験力の比を変更するときに使用される。この場合には、4個のリンク部材44のうちの2個のリンク部材44は、孔部49に装着された軸46を中心に揺動することになる。
【0033】
図3は、支持部41に対するリンク部材44の取り付け状態を示す説明図である。
【0034】
図2および
図3に示すように、リンク部材44は、継手部材47および軸46により支持部41に対して揺動可能に取り付けられている。そして、リンク部材44の上端に形成された凸部48が支持部41の下面と当接することで、リンク部材44の揺動が
図3において実線で示す位置で規制される。このため、後述するように、上部ユニット2と下部ユニット3とを離隔させたときに、各リンク部材44が下方に垂れ下がることを防止することが可能となる。このリンク部材44に形成され支持部41の下面と当接する凸部48は、各リンク部材の揺動範囲を規制するための規制部材として機能する。
【0035】
図4は、他の実施形態に係る支持部41に対するリンク部材44の取り付け状態を示す説明図である。
【0036】
この実施形態においては、上述した実施形態においてリンク部材44の上端に形成された凸部48を省略し、リンク部材44の揺動を
図4において実線で示す位置で規制するための規制ピン55を配設している。この実施形態においても、上部ユニット2と下部ユニット3とを離隔させたときに、各リンク部材44が下方に垂れ下がることを防止することが可能となる。この規制ピン55は、各リンク部材の揺動範囲を規制するための規制部材として機能する。
【0037】
再度
図2を参照して、各リンク部材44の下端部付近には、ピン45が配設されている。このピン45は、後述するように、上部ユニット2と下部ユニット3とを連結するときに、各座部材31に形成された座面29と当接する。
【0038】
次に、この二軸引張機構1を利用して試験片100に対する二軸引張試験を実行する場合の動作について説明する。
【0039】
上述したように、二軸引張機構1における上部ユニット2は、材料試験機のクロスヘッド13に装着されており、二軸引張機構1における下部ユニット3は、材料試験機の基台11に付設されている。この状態においては、二軸引張機構1における下部ユニット3の上方には上部ユニット2が配置されていないことから、下部ユニット3における各チャック25の上方は開放されている。従って、これらのチャック25に試験片100を容易に装着することが可能となる。この試験片100の装着時に、スパナ等の工具を使用する必要があったとしても、その作業を容易に実行することが可能となる。なお、この状態においては、二軸引張機構1における上部ユニット2においては、
図3に示すように、リンク部材44の上端に形成された凸部48が支持部41の下面と当接することで、リンク部材44は
図3において実線で示す位置に配置されている。
【0040】
各チャック25への試験片100の装着が完了し、試験片100に対する二軸引張試験を実施するときには、
図1に示すモータ16の駆動によりクロスヘッド13を二軸引張機構1の上部ユニット2とともに下降させることにより、上部ユニット2におけるピン45と下部ユニット3における座部材31とを当接させる。
【0041】
図5は、ピン45と座部材31とが当接する状態を示す斜視図であり、
図6は、その側面概要図である。
【0042】
下部ユニット3における第1、第2スライド部材21、22に保持された座部材31には、各々、上部ユニット2におけるリンク部材44に配設されたピン45と当接する座面29が形成されている。この座面29とピン45とは、対応する形状を有している。
【0043】
試験片100の装着後にクロスヘッド13が
図1に示す状態から下降した場合には、
図5および
図6に示すように、リンク部材44に付設されたピン45が座部材31に形成された座面29の上面に当接する。この状態からクロスヘッド13がさらに下降すると、ピン45は座面29上をスライドし、
図6において実線で示すように、座面29の側面と当接する。このときには、
図3において仮想線で示すように、リンク部材44が軸46を中心として揺動する。
【0044】
そして、クロスヘッド13がさらに下降したときには、座面29と当接したピン45が座部材31を押圧する。この押圧力により、一対の第1スライド部材21は、第1レール23に案内されて互いに離隔する方向に移動するとともに、一対の第2スライド部材22は、第2レール24に案内されて互いに離隔する方向に移動する。このときには、ピン45の外周面と座部材31における座面29とが摺動する。これにより、4個のチャック25に把持された試験片100に対して、互いに直交する二軸方向の引張負荷が付与される。そして、このときの引張負荷の値、すなわち試験力は、一対のロードセル27により測定される。
【0045】
二軸引張試験が終了すれば、クロスヘッド13を二軸引張機構1の上部ユニット2とともに再度上昇させる。上部ユニット2が上昇したときには、各リンク部材44は自重により揺動し、これに伴って、ピン45が座面29の側面から離隔する。そして、クロスヘッド13がさらに上昇すれば、座部材31に形成された座面29はピン45と当接して負荷を付与される方向以外の領域が開放部となっていることから、ピン45はリンク部材44の上昇に伴って座面29から離隔する。このときには、
図3において実線で示すように、リンク部材44の揺動は、リンク部材44の上端に形成された凸部48が支持部41の下面と当接する位置で停止する。このため、リンク部材44の揺動範囲を一定以内に維持することができ、リンク部材44が垂れ下がることを防止することが可能となる。
【0046】
図1に示すように、クロスヘッド13が再度上昇位置に配置されれば、試験片100をチャック25から取り外す。このときにも、二軸引張機構1における下部ユニット3における各チャック25の上方は開放されていることから、チャック25から試験片100を容易に取り外すことが可能となる。
【0047】
なお、この材料試験機においては、二軸引張試験のみではなく、通常の材料試験も実行しうる構成となっている。
図7は、この材料試験機により通常の引張試験を実施する状態を模式的に示す説明図である。
【0048】
図7に示すように、クロスヘッド13に対して連結された支持部41には、上つかみ具63を装着するための上部アダプタ61が、ネジ機構により着脱自在に装着可能となっている。上つかみ具63は、この上部アダプタ61に対してピン62を利用して装着される。一方、下つかみ具66を装着するための下部アダプタ64が、ベース部26および基台11に対してネジ69により着脱自在に装着可能となっている。この図に示すように、上つかみ具63を装着するための上部アダプタ61を、支持部41を介してクロスヘッド13に装着可能とするとともに、下つかみ具66を装着するための下部アダプタ64を、ベース部26を介して基台11に装着可能とすることにより、この材料試験機により、通常の材料試験と二軸引張試験との両方を実行することが可能となる。
【0049】
なお、上述した実施形態においては、
図5および
図6に示すように、ピン45から座面29への負荷の付与方向以外の方向が全て開放された座部材31を使用している。しかしながら、座部材31における座面29の形状はこのような形状に限定されるものではない。
【0050】
図8は、第2実施形態に係る座部材32をピン45とともに示す側面概要図である。
【0051】
この座部材32は、上部にV字状の開口部が形成されるとともに、その下方にピン45の形状と対応するU字状の開口部が形成された形状を有する。この座部材32においては、ピン45と座部材32との間の負荷の付与方向以外の方向である上方に開放部が形成された構成を有する。このような座部材32を使用した場合においても、ピン45を座部材32から離隔させることにより、二軸引張機構1の上部ユニット2と下部ユニット3とを容易に分離することができ、また、上部ユニット2と下部ユニット3とを連結して試験片100に試験力を付与することが可能となる。
【0052】
図9は、第3実施形態に係る座部材33をリンク部材51とともに示す側面概要図である。
【0053】
この座部材33は、第1実施形態に係る座部材31と類似した形状を有する。一方、この実施形態におけるリンク部材51の先端は、座部材33の座面と対応する形状を有する当接部となっている。このような座部材33およびリンク部材51を使用した場合においても、リンク部材51を座部材33から離隔させることにより、二軸引張機構1の上部ユニット2と下部ユニット3とを容易に分離することができ、また、リンク部材51の先端の当接部により座部材33の座面を押圧することで、試験片100に試験力を付与することが可能となる。
【0054】
図10は、上述した各座部材31、32、33に替えて使用されるピン34をリンク部材52とともに示す側面概要図である。
【0055】
この実施形態においては、上述した各座部材31、32、33に替えてピン34が使用される。このピン34は、第1スライド部材21および第2スライド部材22に支持されている。一方、この実施形態においては、リンク部材52の先端に、ピン34と対応する形状を有する座面が形成されている。このようなピン34およびリンク部材52を使用した場合においても、リンク部材52をピン34から離隔させることにより、二軸引張機構1の上部ユニット2と下部ユニット3とを容易に分離することができ、また、リンク部材52の先端の座面によりピン34を押圧することで、試験片100に試験力を付与することが可能となる。
【0056】
以上のように、本発明における座面と当接部は、材料試験を実行する場面では互いに接触して力を伝えるが、そうでない場面では容易に接触を解除して互いに分離できる構造であることが特徴である。
【0057】
なお、上述した実施形態においては、ベース部26の表面に対して互いに直交する方向に配設された第1レール23および第2レール24を使用し、一対の第1スライド部材21と第2スライド部材22とを互いに直交する方向に移動させることで、試験片100に対して直交する方向の引張力を付与する二軸引張試験を実行する場合について説明したが、第1レール23と第2レール24とを交差する方向に配置し、さらにこれら第1、第2レールとさらに交差する方向に第3レールを配置し、この第3レールに沿ってチャックに連結された第3スライド部材を摺動させることで、試験片100に対して三軸方向に引張力を付与する三軸引張試験を行う材料試験機にこの発明を適用してもよい。また、この発明を適用して、四軸方向以上の引張力を試験片100に付与する材料試験を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 二軸引張機構
2 上部ユニット
3 下部ユニット
11 基台
12 ねじ棹
13 クロスヘッド
16 モータ
21 第1スライド部材
22 第2スライド部材
23 第1レール
24 第2レール
15 チャック
26 ベース部
27 ロードセル
29 座面
31 座部材
32 座部材
33 座部材
34 ピン
41 支持部
44 リンク部材
45 ピン
46 軸
47 継手部材
48 凸部
51 リンク部材
52 リンク部材
55 規制ピン
100 試験片