特許第6172147号(P6172147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6172147
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】微小粒子分取装置及び微小粒子分取方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/14 20060101AFI20170724BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20170724BHJP
   C12M 1/26 20060101ALN20170724BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20170724BHJP
【FI】
   G01N15/14 K
   G01N15/14 P
   G01N15/14 C
   G01N37/00 101
   !C12M1/26
   !C12Q1/02
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-525750(P2014-525750)
(86)(22)【出願日】2013年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2013065176
(87)【国際公開番号】WO2014013802
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2012-159606(P2012-159606)
(32)【優先日】2012年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達巳
【審査官】 土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−127922(JP,A)
【文献】 特開2011−237201(JP,A)
【文献】 特開平01−170853(JP,A)
【文献】 特開2004−113223(JP,A)
【文献】 特表2005−524831(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0213821(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00〜1/44、15/00〜15/14、35/00〜37/00、C12M1/00〜1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含む液体が通流される主流路と、
該主流路に連通する分岐流路と、
該分岐流路内に負圧を発生させるアクチュエータと、
前記アクチュエータに印加される電圧を制御して、前記分岐流路内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含み、かつ、一回の負圧を発生させるステップ毎にステップ波形とアンダーシュート波形が重畳される波形成分を含む、電圧印加による圧力変化を生じさせる駆動部と、を備える微小粒子分取装置。
【請求項2】
前記アクチュエータを2以上備え、
前記駆動部は、1以上の前記アクチュエータにパルス波形の前記電圧を印加するとともに、他の1以上の前記アクチュエータにステップ波形の前記電圧を印加する請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項3】
前記駆動部は、1以上の前記アクチュエータに前記パルス波形の前記電圧を印加するとともに、他の1以上の前記アクチュエータにアンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加する請求項2記載の微小粒子分取装置。
【請求項4】
前記主流路及び前記分岐流路は、マイクロチップの内部に形成されており、
前記アクチュエータは、前記マイクロチップの表面の前記分岐流路に対応する位置に接触して配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の微小粒子分取装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、前記マイクロチップの接触面に変位を加える請求項4記載の微小粒子分取装置。
【請求項6】
前記分岐流路の前記アクチュエータの配置位置に対応する部分が、前記変位によって体積変化を生じる圧力室として構成されている請求項5記載の微小粒子分取装置。
【請求項7】
前記分岐流路において、前記圧力室が直列に配置されており、
前記パルス波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータは、前記ステップ波形又は前記アンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータよりも、前記主流路への連通口の近くに位置する前記圧力室に対応して配置されている請求項6記載の微小粒子分取装置。
【請求項8】
一の前記圧力室に対して、前記マイクロチップの一方の表面に前記パルス波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータが配置され、反対表面に前記ステップ波形又は前記アンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータが配置されている請求項6記載の微小粒子分取装置。
【請求項9】
前記駆動部は、前記アクチュエータにアンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加する請求項1記載の微小粒子分取装置。
【請求項10】
主流路を通流する液体中の微小粒子を、前記主流路に連通する分岐流路内に負圧を発生させることにより該分岐流路内に取り込む手順を含み、
該手順において、前記分岐流路内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含み、かつ、一回の負圧を発生させるステップ毎にステップ波形とアンダーシュート波形が重畳される波形成分を含む、電圧印加による圧力変化を生じさせる微小粒子分取方法。
【請求項11】
該手順において、前記分岐流路内にアンダーシュート付ステップ波形の前記圧力変化を生じさせる請求項10記載の微小粒子分取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、微小粒子分取装置、微小粒子分取用マイクロチップ及び微小粒子分取方法に関する。より詳しくは、流路を通流する微小粒子から目的とする微小粒子のみを分別して回収する微小粒子分取装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
流路内に微小粒子を含むシースフローを形成し、シースフロー中の微小粒子に光を照射して微小粒子から発生する蛍光及び散乱光を検出し、所定の光学特性を示す微小粒子群(ポピュレーション)を分別回収する微小粒子分取装置が知られている。例えば、フローサイトメータでは、サンプル中に含まれる複数種類の細胞を蛍光色素により標識し、各細胞に標識された蛍光色素を光学的に識別することによって、特定の種類の細胞のみを分別回収することが行われている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、プラスチック製及びガラス製などのマイクロチップに形成された流路内にシースフローを形成して分析を行うマイクロチップ型の微小粒子分取装置が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示される微小粒子分取装置は、シースフローが形成された導入流路と該導入流路に連通する分岐流路との分岐部においてレーザ照射により気泡を発生させることで、分岐部におけるシースフローの送流方向を制御するものである。この微小粒子分取装置によれば、分岐部におけるシースフローの送流方向を気泡により制御することで、目的とする微小粒子のみを導入流路から分岐流路へ取り込んで分取することが可能である。
【0005】
また、特許文献2に開示される微小流体システムは、アクチュエータを用いて流路分岐部におけるシースフローの送流方向を制御することで、目的とする微小粒子の分取を行っている。この微小流体システムにおいて、アクチュエータは、シースフローが形成された導入流路と該導入流路に連通する分岐流路との分岐部に接続されたチャンバを押圧し、チャンバ内の液を押し出すことによって、シースフローの送流方向を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−100698号公報
【特許文献2】特表2005−538727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロチップ型の微小粒子分取装置では、分析のさらなる高速化と高精度化のため、流路を通流するシースフローから目的とする微小粒子のみを高速かつ安定して取り出すための技術が求められている。
【0008】
そこで、本技術は、流路を通流するシースフローから目的とする微小粒子のみを高速かつ安定して取り出すことが可能な微小粒子分取装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本技術は、微小粒子を含む液体が通流される主流路と、該主流路に連通する分岐流路と、該分岐流路内に負圧を発生させるアクチュエータと、前記アクチュエータに印加される電圧を制御して、前記分岐流路内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化を生じさせる駆動部と、を備える微小粒子分取装置を提供する。
この微小粒子分取装置では、ステップ波形成分に由来する負圧によって微小粒子に引き込みに必要な体積の流体を分岐流路内に取り込むことができる。同時に、アンダーシュート波形成分に由来する大きな負圧によって分岐流路内への微小粒子の引き込み動作を高速化できる。
本技術に係る微小粒子分取装置において、ステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化は、前記駆動部により、前記アクチュエータにアンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加することによって生成できる。
あるいは、前記アクチュエータを2以上設け、前記駆動部により、1以上の前記アクチュエータにパルス波形の前記電圧を印加するとともに、他の1以上の前記アクチュエータにステップ波形の前記電圧を印加することによって、ステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化を生成することもできる。この場合、前記分岐流路において、前記圧力室が直列に配置されている場合には、前記パルス波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータは、前記ステップ波形又は前記アンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータよりも、前記主流路への連通口の近くに位置する前記圧力室に対応して配置するようにする。また、一の前記圧力室に対して、前記マイクロチップの一方の表面に前記パルス波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータを配置し、反対表面に前記ステップ波形又は前記アンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータが配置してもよい。
本技術に係る微小粒子分取装置において、前記主流路及び前記分岐流路は、マイクロチップの内部に形成される。また、前記アクチュエータは、前記マイクロチップの表面の前記分岐流路に対応する位置に接触して配置され、前記マイクロチップの接触面に変位を加えるものとされる。
本技術に係る微小粒子分取装置において、前記分岐流路の前記アクチュエータの配置位置に対応する部分は、前記変位によって体積変化を生じる圧力室として構成されていてもよい。
【0010】
また、本技術は、微小粒子を含む液体が通流される主流路と、該主流路に連通する分岐流路と、が内部に形成され、表面の前記分岐流路に対応する位置に接触して、接触面に変位を加えるアクチュエータが配置されている微小粒子分取用マイクロチップを提供する。
本技術に係る微小粒子分取用マイクロチップは、前記分岐流路に、前記変位によって体積変化を生じる圧力室が構成されていてもよい。
また、本技術に係る微小粒子分取用マイクロチップは、前記圧力室及び前記アクチュエータの組み合わせを複数組設けたり、一の前記圧力室に対してマイクロチップの一方の表面及びその反対表面にそれぞれ前記アクチュエータが配置したりしていてもよい。
【0011】
さらに、本技術は、主流路を通流する液体中の微小粒子を、前記主流路に連通する分岐流路内に負圧を発生させることにより該分岐流路内に取り込む手順を含み、該手順において、前記分岐流路内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化を生じさせる微小粒子分取方法をも提供する。
本技術に係る微小粒子分取方法において、前記圧力変化は、アンダーシュート付ステップ波形によるものとできる。
【0012】
本技術において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
【0013】
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0014】
本技術により、流路を通流するシースフローから目的とする微小粒子のみを高速かつ安定して取り出すことが可能な微小粒子分取装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本技術の第一実施形態に係る微小粒子分取装置Aの構成を説明する図である。
図2】微小粒子分取装置Aに搭載されるマイクロチップ1aの構成を説明する図である。
図3】マイクロチップ1aの構成を説明する図である。
図4】マイクロチップ1aの構成を説明する図である。
図5】マイクロチップ1aの主流路15と分取流路16の分岐部の構成を説明する図である。
図6】微小粒子分取装置Aの分取動作を説明する図である。
図7】微小粒子分取装置Aの駆動部23からアクチュエータ31に印加される「アンダーシュート付ステップ波形」の電圧を説明する図である。
図8】比較のため、「ステップ波形」の電圧を説明する図である。
図9】「アンダーシュート付ステップ波形」による電圧変化(A)と、分取流路16内に引き込まれる流体の体積変化(B)を説明する図である。
図10】比較のため、「ステップ波形」による電圧変化(A)と、分取流路16内に引き込まれる流体の体積変化(B)を説明する図である。
図11】本技術の第二実施形態に係る微小粒子分取装置Bに搭載されるマイクロチップ1bの構成を説明する図である。
図12】マイクロチップ1bの構成を説明する図である。
図13】微小粒子分取装置Bの駆動部23からアクチュエータ32に印加される「パルス波形」(A)及びアクチュエータ31に印加される「ステップ波形」(B)の電圧を説明する図である。
図14】「パルス波形」による電圧変化(A)と「ステップ波形」による電圧変化(B)を説明する図である。
図15】本技術の第三実施形態に係る微小粒子分取装置Cに搭載されるマイクロチップ1cの構成を説明する図である。
図16】マイクロチップ1cの構成を説明する図である。
図17】本技術の第四実施形態に係る微小粒子分取装置Dに搭載されるマイクロチップ1dの構成を説明する図である。
図18】微小粒子分取装置Dの駆動部23からアクチュエータ32に印加される「パルス波形」(A)、アクチュエータ31に印加される「ステップ波形」(B)及びアクチュエータ33に印加される「ステップ波形」の電圧を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.第一実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[装置の全体構成]
[マイクロチップの構成]
2.第一実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[分取動作]
[駆動信号]
3.第二実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[マイクロチップの構成]
[装置の全体構成]
4.第二実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[駆動信号]
5.第三実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[マイクロチップの構成]
[装置の全体構成]
6.第三実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[駆動信号]
7.第四実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[マイクロチップの構成]
[装置の全体構成]
8.第四実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[駆動信号]
9.微小粒子分取方法及び微小粒子分取プログラム
【0017】
1.第一実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[装置の全体構成]
図1は、本技術の第一実施形態に係る微小粒子分取装置Aの構成を説明する図である。また、図2から図4は、微小粒子分取装置Aに搭載されるマイクロチップの構成を説明する図である。図2は上面図、図3は斜視図、図4図2中Q−Q断面に対応する断面図である。
【0018】
微小粒子分取装置Aは、マイクロチップ1aと、照射部21、検出部22及び駆動部23とを含んで構成されている。マイクロチップ1aには、分析対象となる微小粒子を含む液体(サンプル液)が通流される主流路15が形成されている(図2参照)。また、マイクロチップ1aの表面には、アクチュエータ31が配置されている(図3参照)。
【0019】
照射部21は、マイクロチップ1aの主流路15を通流する微小粒子に光(励起光)を照射する。照射部21は、励起光を出射する光源と、主流路15を通流する微小粒子に対して励起光を集光する対物レンズ等を含んで構成される。光源は、分析の目的に応じてレーザダイオード、SHGレーザ、固体レーザ、ガスレーザ及び高輝度LEDなどから適宜選択される。照射部21は、必要に応じて、光源及び対物レンズ以外の光学素子を有していてもよい。
【0020】
検出部22は、励起光の照射によって微小粒子から発生する蛍光及び散乱光を検出する。検出部22は、微小粒子から発生する蛍光及び散乱光を集光する集光レンズと検出器等を含んで構成される。検出器には、PMT、フォトダイオード、CCD及びCMOSなどが用いられる。検出部22は、必要に応じて、集光レンズ及び検出器以外の光学素子を有していてもよい。
【0021】
検出部22により検出される蛍光は、微小粒子そのものから発生する蛍光及び微小粒子に標識された蛍光物質等から発生する蛍光であってよい。また、検出部22により検出される散乱光は、前方散乱光、側方散乱光、レイリー散乱及びミー散乱などの各種散乱光であってよい。
【0022】
検出部22により検出された蛍光及び散乱光は、電気信号に変換され、駆動部23に出力される。駆動部23は、入力される電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を判定する。さらに、駆動部23は、アクチュエータ31に電圧を印加し、該電圧を制御することによって所定の特性を満たすと判定された微小粒子を主流路15から分取流路16内に取り込むために機能する。駆動部23の当該機能については後段で詳しく説明する。駆動部23は、後述する処理を実行するためのプログラムとOSが格納されたハードディスク、CPU及びメモリなどにより構成される。
【0023】
[マイクロチップの構成]
図2から図4を参照して、マイクロチップ1aの構成を詳しく説明する。微小粒子を含むサンプル液は、サンプル液インレット11からサンプル液流路12に導入される。また、シース液インレット13からはシース液が導入される。シース液インレット13から導入されたシース液は、2本のシース液流路14,14に分流されて送液される。サンプル液流路12とシース液流路14,14は合流して主流路15となる。サンプル流路12を送液されるサンプル液層流と、シース液流路14,14を送液されるシース液層流と、は主流路15内において合流し、サンプル液層流がシース液層流に挟み込まれたシースフローを形成する(後述の図5C参照)。
【0024】
図中符号15aは、照射部21により励起光が照射され、検出部22による蛍光及び散乱光の検出が行われる検出領域を示す。微小粒子は、主流路15に形成されるシースフロー中に一列に配列した状態で検出領域15aに送流され、照射部21からの励起光により照射される。
【0025】
主流路15は、検出領域15aの下流において、3つの流路に分岐している。主流路15の分岐部の構成を図5に示す。主流路15は、検出領域15aの下流において、分取流路16及び廃棄流路17,17の3つの分岐流路と連通している。このうち、分取流路16は、駆動部23によって所定の光学特性を満たすと判定された微小粒子(以下、「目的粒子」と称する)が取り込まれる流路である。一方、駆動部23によって所定の光学特性を満たさないと判定された微小粒子(以下、「非目的粒子」とも称する)は、分取流路16内に取り込まれることなく、2本の廃棄流路17のいずれか一方に流れる。
【0026】
目的粒子の分取流路16内への取り込みは、アクチュエータ31によって分取流路16内に負圧を発生させ、この負圧を利用して目的粒子を分取流路16内に吸い込むことによって行われる。アクチュエータ31は、ピエゾ素子などの圧電素子とされる。アクチュエータ31は、マイクロチップ1aの表面に接触して配置され、分取流路16に対応する位置に配置されている。より具体的には、アクチュエータ31は、分取流路16において内空が拡張された領域として設けられた圧力室161に対応する位置に配置されている(図3及び図4参照)。
【0027】
アクチュエータ31は、印加される電圧の変化に伴って伸縮力を発生し、マイクロチップ1aの表面(接触面)を介して分取流路16内に圧力変化を生じさせる。分取流路16内の圧力変化に伴って分取流路16内に流動が生じると、同時に、分取流路16内の体積が変化する。分取流路16内の体積は、印加電圧に対応したアクチュエータ31の変位量によって規定される体積に到達するまで変化する。より具体的には、アクチュエータ31は、電圧を印加されて伸張した状態においては、圧力室161を構成する変位板311(図4参照)を押圧して圧力室161の体積を小さく維持している。そして、印加される電圧が低下すると、アクチュエータ31は収縮する方向へ力を発生し、変位板311への押圧を弱めることによって圧力室161内に負圧を発生させる。
【0028】
アクチュエータ31の伸縮力を効率良く圧力室161内へ伝達するため、図4に示すように、マイクロチップ1aの表面を圧力室161に対応する位置において陥凹させ、該陥凹内にアクチュエータ31を配置することが好ましい。これにより、アクチュエータ31の接触面となる変位板311を薄くでき、変位板311がアクチュエータ31の伸縮に伴う押圧力の変化によって容易に変位して、圧力室161の体積変化をもたらすようにできる。
【0029】
図4及び図5中、符号156により、主流路15への分取流路16の連通口を示す。主流路15内に形成されたシースフロー中を送流される目的粒子は、連通口156から分取流路16内に取り込まれる。
【0030】
主流路15から分取流路16への目的粒子の取り込みを容易にするため、連通口156は、図5Cに示すように、主流路15内に形成されるシースフロー中のサンプル液層流Sに対応する位置に開口されていることが望ましい。連通口156の形状は、特に限定されないが、例えば図5Aに示すような平面に開口する形状や、図5Bに示すように2本の廃棄流路17の流路壁を切り欠いて開口とする形状を採用できる。
【0031】
マイクロチップ1aは、主流路15等が形成された基板層を貼り合わせて構成できる。基板層への主流路15等の形成は、金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形により行うことができる。熱可塑性樹脂には、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン及びポリジメチルシロキサン(PDMS)などの従来マイクロチップの材料として公知のプラスチックを採用できる。
【0032】
2.第一実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[分取動作]
次に、微小粒子分取装置Aの動作について説明する。
【0033】
ユーザが分析を開始すると、微小粒子分取装置Aは、ポンプを駆動して、サンプル液及びシース液をマイクロチップ1aのサンプル液インレット11及びシース液インレット13に送液する。これにより、主流路15内に、サンプル液層流がシース液層流に挟み込まれたシースフローが形成される。
【0034】
微小粒子はシースフロー中を一列に配列された状態で検出領域15aまで送流され、照射部21からの励起光によって照射される。励起光の照射により微小粒子から発生する蛍光及び散乱光は、検出部22によって検出され、電気信号に変換され、駆動部23に出力される。
【0035】
駆動部23は、入力される電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を判定する。微小粒子が目的粒子と判定された場合、駆動部23は、図6A及びBに示すように、当該目的粒子が検出領域15aから分岐部に移動するまでの時間(遅れ時間)を経過した後に、アクチュエータ31に当該微小粒子を取得するための駆動信号を発生する。その際、必要であれば、アンプを介してアクチュエータ31を駆動させるようにしてもよい。
【0036】
具体的には、アクチュエータ31がピエゾ素子である場合、駆動部23は、ピエゾ収縮となる電圧を印加し、圧力室161の体積を増加させ、分取流路16の内圧を負圧にすることで、目的粒子を主流路15内から分取流路16内へ取り込む。
【0037】
一方、微小粒子が非目的粒子と判定された場合、駆動部23は、図6C及びDに示すように、アクチュエータ31に非取得の駆動信号を発生し、次の微小粒子の光学特性判定を行う。なお、非取得の駆動信号を受けたアクチュエータ31は動作しない。
【0038】
駆動部23は、微小粒子の光学特性の判定と、アクチュエータ31への駆動信号の出力とを分析終了まで繰り返し(図6E〜F参照)、目的粒子のみを分取流路16内に蓄積する(図6F参照)。分析終了後、分取流路16内に分別された目的粒子はユーザによって回収される。
【0039】
[駆動信号]
図7図10を参照して、駆動部23からアクチュエータ31に印加される電圧の波形(目的粒子を取得する際の駆動信号)を説明する。アクチュエータ31の収縮により圧力室161の体積を増加させ、負圧によって目的粒子を分取流路16内に連続的に取り込んでいくためには、波形を図7に示す「アンダーシュート付ステップ波形」とすることが好ましい。
【0040】
ここで「アンダーシュート付ステップ波形」とは、図8に示す「ステップ波形」において、信号の発生開始直後にステップ部分よりも電圧値が低くなるアンダーシュート部分が付加された波形を意味する。
【0041】
より具体的には、「アンダーシュート付ステップ波形」とは、図9Aに示すように、開始時刻Tから時刻Tにかけて電圧値がVからVまで大きく低下し、その後、終了時刻Tまでの間に電圧値V(V<V<V)に回復する波形である。ここでは、時刻Tから時刻Tまで電圧値Vが維持された後、時刻Tにかけて電圧値がVからVに上昇し、時刻Tまで電圧値Vが維持される波形を図示している。他方、「ステップ波形」とは、図10Aに示すように、開始時刻Tにおいて電圧値がVからVまで低下されて、終了時刻Tまで電圧値V(V<V)が維持される波形である。
【0042】
アンダーシュート付ステップ波形とステップ波形の開始時刻Tおける電圧値はVで同じである。また、アンダーシュート付ステップ波形とステップ波形の信号終了Tにおける電圧値はVで同じある。さらに、アンダーシュート付ステップ波形とステップ波形の一波形での電圧値の低下幅も(V−V)で同じである。電圧幅(V−V)は、目的粒子1個を分取流路16内に引き込むために必要なピエゾ駆動電圧に相当する。一方で、アンダーシュート付ステップ波形では、時刻Tの直後から時刻Tの間において電圧値がV(V<V)にまでより大きく低下するため、ステップ波形に比して一時的な電圧値の低下幅を大きくできる。
【0043】
図9B及び図10Bに、アンダーシュート付ステップ波形及びステップ波形の電圧をアクチュエータ31に印加した場合において、分取流路16内に引き込まれる流体の体積増加を示す。アンダーシュート付ステップ波形の電圧印加(図9B参照)では、ステップ波形の電圧印加(図10B参照)に比して、時刻Tの直後から時刻Tの間における電圧の低下幅をより大きくとることができる。このため、アンダーシュート付ステップ波形では、信号の発生開始直後(時刻T〜時刻T)においてアクチュエータ31の収縮力を大きく発生させることができ、分取流路16内に大きな負圧を発生させることができる。その結果、アンダーシュート付ステップ波形によれば、目的粒子の引き込み開始直後において、主流路15内から分取流路16内へのサンプル液及びシース液の取り込み体積の増加応答を早めることができ、目的粒子の取り込みを迅速に行うことが可能である。
【0044】
これに対して、ステップ波形では、分取流路16内に引き込まれるサンプル液及びシース液の体積増加の応答に、流体の慣性力及び抵抗による遅れが生じる。この増加応答の遅れのため、ステップ波形では、取り込みに要する時間が長くなり、目的粒子の取り込みも不安定となる。
【0045】
分取動作を高速化するためには、図10Aに示したステップ波形において、電圧値の低下幅(V−V)をより大きくすることも考えられる。しかしながら、低下幅(V−V)を大きくして微小粒子の分取動作を行うと、アクチュエータ31の電圧値が0となって、アクチュエータ31が可動範囲の限界に達する時刻が早くなる。このため、分取流路16内に引き込み可能な微小粒子の最大数(図8中Nmax)が大幅に減少してしまう。これに対して、アンダーシュート付ステップ波形によれば、引き込み可能な微小粒子の数の減少は、アンダーシュート一波形分の電圧幅(V−V)に由来して生じる量のみに抑制できる。
【0046】
以上のように、微小粒子分取装置Aによれば、アンダーシュート付ステップ波形の電圧によりアクチュエータ31を駆動することによって、目的粒子のみを高速かつ安定して分取流路16内に引き込み、非目的粒子と分別できる。なお、廃棄流路17に流された非目的粒子は、廃棄流路17内に蓄積するか、外部に排出すればよい。
【0047】
3.第二実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[マイクロチップの構成]
図11及び図12は、本技術の第二実施形態に係る微小粒子分取装置Bに搭載されるマイクロチップ1bの構成を説明する図である。図11は上面図、図12は斜視図である。
【0048】
マイクロチップ1bは、分取流路16に圧力室162を備える点で、第一実施形態に係るマイクロチップ1aと異なっている。マイクロチップ1bは、分取流路16において直列に配置された圧力室161と圧力室162を有する。圧力室162も、圧力室161と同様に、分取流路16において内空が拡張された領域として形成されている(図11参照)。
【0049】
圧力室162に対応するマイクロチップ1bの表面には、アクチュエータ32が配置されている(図12参照)。アクチュエータ32もアクチュエータ31と同様に機能し、マイクロチップ1bの表面(接触面)に伸縮力を加え、分取流路16内に圧力の変化を生じさせる。マイクロチップ1bの圧力室162及びアクチュエータ32以外の構成は、マイクロチップ1aと同様である。
【0050】
[装置の全体構成]
微小粒子分取装置Bは、マイクロチップ1bと、照射部21、検出部22及び駆動部23とを含んで構成されている。このうち、照射部21及び検出部22の構成は、第一実施形態に係る微小粒子分取装置Aと同様である。
【0051】
微小粒子分取装置Bにおいて、駆動部23は、検出部22から入力される電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を判定し、判定結果に基づいてアクチュエータ31,32に印加される電圧を制御する。
【0052】
4.第二実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[駆動信号]
次に、微小粒子分取装置Bの動作について説明する。微小粒子分取装置Bの動作のうち、微小粒子の分取動作に至るまでのシースフローの形成、微小粒子の光学特性の検出及び判定等の動作は、微小粒子分取装置Aの動作と同様である。
【0053】
微小粒子分取装置Bにおいて、駆動部23は、アクチュエータ31に加えてアクチュエータ32にも目的粒子を取得するための駆動信号を発生する。この際、駆動部23は、アクチュエータ32に図13Aに示す「パルス波形」の電圧を印加し、アクチュエータ31に図13Bに示すステップ波形の電圧を印加する。
【0054】
ここで「パルス波形」とは、図14Aに示すように、信号の開始時刻Tから時刻Tにかけて電圧値がVからVまで大きく低下し、その後、時刻Tから時刻Tにかけて電圧値がVからV(V=V)に復帰する波形である。ここでは、時刻Tから時刻Tまで電圧値Vが維持され、時刻Tから終了時刻Tまで電圧値Vが維持される波形を図示している。図14Bには、「ステップ波形」を示す。
【0055】
パルス波形とステップ波形の開始時刻Tおける電圧値はVで同じである。しかし、ステップ波形の終了時刻Tにおける電圧値はV(V<V)であるのに対して、パルス波形の終了時刻Tにおける電圧値はV(V=V)に復帰する。このため、ステップ波形では一波形で電圧値が(V−V)だけ低下するのに対して、パルス波形では電圧値の低下は生じない。
【0056】
駆動部23は、アクチュエータ32に印加するパルス波形の信号と、アクチュエータ31に印加するステップ波形の信号との合成によって「アンダーシュート付ステップ波形」の信号を生成する。これによって、駆動部23は、分取流路16内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化を生じさせる。
【0057】
パルス波形とステップ波形との合成による分取動作では、まず、アクチュエータ31に印加されるステップ波形の電圧により、圧力室161の体積が目的粒子の引き込みに必要な分だけ増加される。これに加えて、圧力室162の体積が、アクチュエータ32に印加されるパルス波形の電圧によって、信号の発生開始直後(時刻T〜時刻T)において大きく増加される。その結果、分取流路16内へのサンプル液及びシース液の取り込み体積を、最終的には引き込みに必要な体積のみとしつつ、目的粒子の引き込み開始直後に大きく増加するようにできる。このため、パルス波形とステップ波形との合成による分取動作によれば、上述のアンダーシュート付ステップ波形の場合と同様に、迅速な目的粒子の引き込みが可能となる。
【0058】
さらに、パルス波形とステップ波形との合成による分取動作によれば、アンダーシュート付ステップ波形による分取動作で生じ得る、アンダーシュート一波形分の電圧幅(V−V)に由来する引き込み可能な微小粒子の数の減少を回避できる。
【0059】
微小粒子分取装置Bでは、アクチュエータ32への駆動信号をパルス波形とするとともに、アクチュエータ31への駆動信号をステップ波形ではなくアンダーシュート付ステップ波形としてもよい。この場合には、目的粒子の引き込み開始直後において分取流路16内により大きな負圧を発生させることができ、引き込み動作を一層高速化できる。
【0060】
また、微小粒子分取装置Bにおいて、パルス波形の電圧を印加されるアクチュエータ32は、主流路15への連通口の近くに位置する圧力室162に対応して配置されていることが必要である。仮に、パルス波形で駆動されるアクチュエータ32を圧力室161に配置し、ステップ波形又はアンダーシュート付ステップ波形で駆動されるアクチュエータ31を圧力室162に配置した場合には、一旦分取流路16内に引き込んだ目的粒子が再度主流路15へ吐出されてしまう可能性がある。
【0061】
5.第三実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[マイクロチップの構成]
図15及び図16は、本技術の第三実施形態に係る微小粒子分取装置Cに搭載されるマイクロチップ1cの構成を説明する図である。図15は斜視図、図16は断面図である。
【0062】
マイクロチップ1cは、圧力室161に対応する位置にアクチュエータ32を備える点で、第一実施形態に係るマイクロチップ1aと異なっている。マイクロチップ1cは、圧力室161に対して、一方の表面にアクチュエータ31を有し、裏面にアクチュエータ32を有している(図15参照)。
【0063】
アクチュエータ32は、マイクロチップ1cの裏面を圧力室161に対応する位置において陥凹させて形成された変位板321に接触して配置されている(図16参照)。アクチュエータ32も、アクチュエータ31と同様に機能し、印加される電圧の変化に伴って伸縮し、変位板321を介して圧力室161内に圧力変化を生じさせる。マイクロチップ1cのアクチュエータ32及び変位板321以外の構成は、マイクロチップ1aと同様である。
【0064】
[装置の全体構成]
微小粒子分取装置Cは、マイクロチップ1cと、照射部21、検出部22及び駆動部23とを含んで構成されている。このうち、照射部21及び検出部22の構成は、第一実施形態に係る微小粒子分取装置Aと同様である。
【0065】
微小粒子分取装置Cにおいて、駆動部23は、検出部22から入力される電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を判定し、判定結果に基づいてアクチュエータ31,32に印加される電圧を制御する。
【0066】
6.第三実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[駆動信号]
次に、微小粒子分取装置Cの動作について説明する。微小粒子分取装置Cの動作のうち、微小粒子の分取動作に至るまでのシースフローの形成、微小粒子の光学特性の検出及び判定等の動作は、微小粒子分取装置Aの動作と同様である。
【0067】
微小粒子分取装置Cにおいて、駆動部23は、アクチュエータ31に加えてアクチュエータ32にも目的粒子を取得するための駆動信号を発生する。この際、駆動部23は、アクチュエータ32に図13Aに示した「パルス波形」の電圧を印加し、アクチュエータ31に図13Bに示したステップ波形の電圧を印加する。
【0068】
駆動部23は、アクチュエータ32に印加するパルス波形の信号と、アクチュエータ31に印加するステップ波形の信号との合成によって「アンダーシュート付ステップ波形」の信号を生成する。これによって、駆動部23は、分取流路16内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化を生じさせる。
【0069】
パルス波形とステップ波形との合成による分取動作において、ステップ波形で駆動されるアクチュエータ31は、圧力室161の体積を目的粒子の引き込みに必要な分だけ増加させる。これ加えて、パルス波形で駆動されるアクチュエータ32が、信号の発生開始直後(図14A時刻T〜時刻T)において圧力室161に大きな負圧を発生させる。これにより、分取流路16内へのサンプル液及びシース液の取り込み体積は、最終的には引き込みに必要な体積のみとなるが、目的粒子の引き込み開始直後には大きく増加することとなる。このため、パルス波形とステップ波形との合成による分取動作によれば、上述のアンダーシュート付ステップ波形の場合と同様に、迅速な目的粒子の引き込みが可能となる。
【0070】
微小粒子分取装置Cでは、アクチュエータ32への駆動信号をパルス波形とするとともに、アクチュエータ31への駆動信号をステップ波形ではなくアンダーシュート付ステップ波形としてもよい。この場合には、目的粒子の引き込み開始直後において圧力室161内により大きな負圧を発生させることができ、引き込み動作を一層高速化できる。
【0071】
7.第四実施形態に係る微小粒子分取装置及び微小粒子分取用マイクロチップの構成
[マイクロチップの構成]
図17は、本技術の第四実施形態に係る微小粒子分取装置Dに搭載されるマイクロチップ1dの構成を説明する図である。
【0072】
マイクロチップ1dは、分取流路16に圧力室163を備える点で、第二実施形態に係るマイクロチップ1bと異なっている。マイクロチップ1dは、分取流路16において圧力室161、圧力室162及び圧力室163が直列に配置されている。圧力室163も、圧力室161,162と同様に、分取流路16において内空が拡張された領域として形成されている。
【0073】
圧力室163に対応するマイクロチップ1dの表面には、アクチュエータが配置されている。このアクチュエータは図示されていないが、以下「アクチュエータ33」として説明する。アクチュエータ33もアクチュエータ31,32と同様に機能し、マイクロチップ1dの表面(接触面)に変位を加えて圧力室163内の体積を変化させ、分取流路16内に圧力の変化を生じさせる。マイクロチップ1dの圧力室163及びアクチュエータ33以外の構成は、マイクロチップ1bと同様である。
【0074】
[装置の全体構成]
微小粒子分取装置Dは、マイクロチップ1dと、照射部21、検出部22及び駆動部23とを含んで構成されている。このうち、照射部21及び検出部22の構成は、第一実施形態に係る微小粒子分取装置Aと同様である。
【0075】
微小粒子分取装置Dにおいて、駆動部23は、検出部22から入力される電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を判定し、判定結果に基づいてアクチュエータ31,32,33に印加される電圧を制御する。
【0076】
8.第四実施形態に係る微小粒子分取装置の動作
[駆動信号]
次に、微小粒子分取装置Dの動作について説明する。微小粒子分取装置Dの動作のうち、微小粒子の分取動作に至るまでのシースフローの形成、微小粒子の光学特性の検出及び判定等の動作は、微小粒子分取装置Aの動作と同様である。
【0077】
微小粒子分取装置Dにおいて、駆動部23は、アクチュエータ31,32に加えてアク
チュエータ33にも目的粒子を取得するための駆動信号を発生する。この際、駆動部23は、アクチュエータ32に図18Aに示す「パルス波形」の電圧を印加し、アクチュエータ31,33に図18B,Cに示すステップ波形の電圧を印加する。
【0078】
駆動部23は、アクチュエータ32に印加するパルス波形の信号と、アクチュエータ31に印加するステップ波形の信号との合成によって「アンダーシュート付ステップ波形」の信号を生成する。これによって、駆動部23は、分取流路16内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化を生じさせ、目的粒子の分取を行う。
【0079】
さらに、駆動部23は、アクチュエータ31の可動範囲が限界に達し、アクチュエータ31に印加される電圧値が0となると、アクチュエータ33への信号出力を開始する。これにより、駆動部23は、アクチュエータ33に印加するステップ波形の信号と、アクチュエータ32に印加するパルス波形の信号との合成によってアンダーシュート付ステップ波形の信号を生成し、目的粒子の分取を継続する。
【0080】
このように、可動範囲が限界に達したアクチュエータに替わって、別の新たなアクチュエータの駆動を開始し、分取動作を継続できるようにすることで、分取流路16内に引き込み可能な微小粒子の最大数を増加させることができる。
【0081】
微小粒子分取装置Dにおいて、アクチュエータ及び圧力室の組み合わせは、ここで示した3組に限られず、4組以上を配置してもよい。例えば、パルス波形で駆動されるアクチュエータと圧力室との組み合わせを2以上設けた場合には、目的粒子の引き込み開始直後において分取流路16内により大きな負圧を発生させることができ、引き込み動作をさらに高速化できる。また、ステップ波形で駆動されるアクチュエータと圧力室との組み合わせを3以上設けた場合には、それらを順次駆動していくことにより、分取流路16内に引き込み可能な微小粒子の最大数をさらに増加させることができる。
【0082】
また、微小粒子分取装置Dでは、アクチュエータ32への駆動信号をパルス波形とするとともに、アクチュエータ31,33への駆動信号をステップ波形ではなくアンダーシュート付ステップ波形としてもよい。この場合には、目的粒子の引き込み開始直後において分取流路16内により大きな負圧を発生させることができ、引き込み動作を一層高速化できる。
【0083】
なお、微小粒子分取装置Dにおいても、パルス波形の電圧を印加されるアクチュエータ32は、主流路15への連通口の近くに位置する圧力室162に対応して配置されていることが必要である。仮に、パルス波形で駆動されるアクチュエータ32を圧力室161あるいは圧力室163に配置した場合には、一旦分取流路16内に引き込んだ目的粒子が再度主流路15へ吐出されてしまう可能性がある。
【0084】
9.微小粒子分取方法及び微小粒子分取プログラム
本技術に係る微小粒子分取方法は、上述の微小粒子分取装置の駆動部23によって実行される動作に対応するものである。また、微小粒子分取装置の駆動部23には、この動作を実行するための微小粒子分取プログラムが格納されている。
【0085】
プログラムは、ハードディスクに格納・保持され、CPU及びOSの制御の下でメモリに読み込まれて、上述の分取動作を実行する。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたものとできる。記録媒体としては、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であれば特に制限はないが、具体的には、例えば、フレキシブルディスクやCD−ROM等の円盤形記録媒体が用いられる。また、磁気テープ等のテープ型記録媒体を用いてもよい。また、一部の処理をDSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programing Logic Device)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成し、上記ソフトウエアプログラムと連携させて高速処理を行う構成も採用できる。
【0086】
本技術に係る微小粒子分取装置は以下のような構成をとることもできる。
(1)微小粒子を含む液体が通流される主流路と、該主流路に連通する分岐流路と、該分岐流路内に負圧を発生させるアクチュエータと、前記アクチュエータに印加される電圧を制御して、前記分岐流路内にステップ波形成分とアンダーシュート波形成分とを含む圧力変化を生じさせる駆動部と、を備える微小粒子分取装置。
(2)前記アクチュエータを2以上備え、前記駆動部は、1以上の前記アクチュエータにパルス波形の前記電圧を印加するとともに、他の1以上の前記アクチュエータにステップ波形の前記電圧を印加する上記(1)記載の微小粒子分取装置。
(3)前記駆動部は、1以上の前記アクチュエータに前記パルス波形の前記電圧を印加するとともに、他の1以上の前記アクチュエータにアンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加する上記(2)記載の微小粒子分取装置。
(4)前記主流路及び前記分岐流路は、マイクロチップの内部に形成されており、前記アクチュエータは、前記マイクロチップの表面の前記分岐流路に対応する位置に接触して配置されている上記(1)〜(3)のいずれかに記載の微小粒子分取装置。
(5)前記アクチュエータは、前記マイクロチップの接触面に変位を加える上記(4)記載の微小粒子分取装置。
(6)前記分岐流路の前記アクチュエータの配置位置に対応する部分が、前記変位によって体積変化を生じる圧力室として構成されている上記(5)記載の微小粒子分取装置。
(7)前記分岐流路において、前記圧力室が直列に配置されており、前記パルス波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータは、前記ステップ波形又は前記アンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータよりも、前記主流路への連通口の近くに位置する前記圧力室に対応して配置されている上記(2)〜(6)のいずれかに記載の微小粒子分取装置。
(8)一の前記圧力室に対して、前記マイクロチップの一方の表面に前記パルス波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータが配置され、反対表面に前記ステップ波形又は前記アンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加される前記アクチュエータが配置されている上記(2)〜(6)のいずれかに記載の微小粒子分取装置。
(9)前記駆動部は、前記アクチュエータにアンダーシュート付ステップ波形の前記電圧を印加する上記(1)記載の微小粒子分取装置。
【符号の説明】
【0087】
A:微小粒子分取装置、S:サンプル液層流、T:シース液層流、1a,1b,1c,1d:マイクロチップ、11:サンプル液インレット、12:サンプル液流路、13:シース液インレット、14:シース液流路、15:主流路、15a:検出領域、156:連通口、16:分取流路、161,162,163:圧力室、17:廃棄流路、21:照射部、22:検出部、23:駆動部、31,32,33:アクチュエータ、311,321:変位板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18