(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数段のフィルタは、前記インダクタおよび前記キャパシタで構成される2段の帯域通過フィルタを含み、前記2段の帯域通過フィルタのインダクタは磁界結合により互いに結合する、請求項4に記載の積層体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通話やデータ通信を行う通信回路とGPS受信回路とを備えた携帯端末においては、GPS受信信号がGPS受信回路へ供給され、通話用やデータ通信用の通信信号が一つの通信回路へ供給されるようにRF回路が構成される場合がある。このような構成においては、アンテナ信号をGPS受信信号と通信信号とに分波する必要が生じる。この場合、通信信号はハイバンドの通信信号とローバンドの通信信号を含み、GPS信号はハイバンドの通信信号とローバンドの通信信号との中間の周波数帯という関係になる。
【0007】
しかし、
図25に示されている従来の分波回路は所謂トリプレクサであり、3つ周波数帯域の信号を3つの入出力部に分岐するだけであり、このように周波数帯ごとに分波する回路構成を採ることはできない。
【0008】
ハイバンドの通信信号およびローバンドの通信信号を含む通信信号と、ハイバンドの通信信号とローバンドの通信信号との中間の周波数帯であるGPS信号とを分岐する分岐回路としては、例えば
図26に示す構成が考えられる。
図26において、帯域阻止フィルタ(BEF)11は1.5GHzのGPS信号を阻止する。SAWフィルタ28はハイバンドの通信信号とローバンドの通信信号を遮断し、GPS信号の周波数帯域を通過させる。帯域阻止フィルタ(BEF)11の後段には通信回路10が接続され、SAWフィルタ28の後段にはGPS受信回路20が接続される。
【0009】
ところが、
図26に示した構成の分岐回路では次の問題が生じる。
【0010】
図27(A)は、アンテナ30の接続ポートP1から見たSAWフィルタ28のインピーダンス軌跡、
図27(B)はアンテナ30の接続ポートP1から見た帯域阻止フィルタ11のインピーダンス軌跡である。また、
図28はアンテナ30の接続ポートP1と帯域阻止フィルタ11の出力ポートP2との間の挿入損失(SパラメータのS21)の周波数特性図である。いずれも0.7GHz〜2.7GHzの周波数範囲についてスイープしている。
【0011】
図27(A)、
図27(B)に表れているように、SAWフィルタ28と帯域阻止フィルタ11とで、同じ周波数帯で同位相になる周波数があり、この周波数でSAWフィルタ28の阻止帯域のローバンドがショート側にあり、アンテナから入力した信号がSAWフィルタ28によりグランドに流れてしまう。そのため、
図28中に破線の楕円で示すように、GPS信号の周波数帯である1.5GHzのローバンド側の通過帯域に減衰帯域が現れてしまう。その結果、
図26に示した通信回路10に入力されるローバンドの通信信号が減衰してしまう。
図27(A)の例では、SAWフィルタ28の阻止帯域がローバンドでショートになっているが、SAWフィルタの設計によってはハイバンドがショートになったり、両バンドともショートになったりする。ハイバンドでショートになる場合には、ハイバンドの通過帯域に減衰帯域が現れ、
図26に示した通信回路10に入力されるハイバンドの通信信号が減衰してしまう。
【0012】
本発明の目的は、通信信号ラインに備えられるSAWフィルタおよび帯域阻止フィルタにより生じる不要な共振を回避して良好なフィルタ特性を実現した積層体およびそれを備えた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の積層体は、
可撓性を有する誘電体素体、この誘電体素体に形成された信号導体、第1グランド導体、第2グランド導体および電極を備え、
前記信号導体、前記第1グランド導体および前記第2グランド導体により構成され、第1通信信号が伝搬する第1通信信号ラインと、
前記第1通信信号ラインに設けられ、前記第1通信信号を通過させる第1通信信号ライン側フィルタと、を備え、
前記第1通信信号ラインの少なくとも一部は、前記信号導体と、前記信号導体を挟んで対向する前記第1グランド導体および前記第2グランド導体とによって、トリプレート型のストリップラインを構成し、
前記第1通信信号ライン側フィルタは、インダクタおよびキャパシタで構成され、
前記インダクタおよび前記キャパシタは、
複数のインダクタ形成用電極およびキャパシタ形成用電極を有する前記電極をそれぞれ含んで構成され、
前記
複数のインダクタ形成用電極は、平面視で、前記第1グランド導体に重なら
ず、前記第2グランド導体に重なり、
前記複数のインダクタ形成用電極のうち、積層方向において前記第2グランド導体から最も離れたインダクタ形成用電極は、前記積層方向において前記第1グランド導体と同じ層に配置されることを特徴とする。
【0015】
(
2)前記第1グランド導体は、前記信号導体と平面視で一部において重ならないように形成された、導体のない部分である開口を有することが好ましい。
【0016】
(
3)前記第1通信信号ライン側フィルタは、前記第1通信信号ラインに対してシリーズに接続された、前記インダクタおよび前記キャパシタの並列回路を備えることが好ましい。
【0017】
(
4)前記第1通信信号ライン側フィルタは、複数段のフィルタで構成されることが好ましい。
【0018】
(
5)前記複数段のフィルタは、前記インダクタおよび前記キャパシタで構成される2段の帯域通過フィルタを含み、前記2段の帯域通過フィルタのインダクタは磁界結合により互いに結合することが好ましい。
【0019】
(
6)前記第1通信信号ラインに位相調整用素子が設けられることが好ましい。
【0020】
(
7)前記位相調整用素子は、前記
複数のインダクタ形成用電極および前記キャパシタ形成用電極を有する前記電極で構成されることが好ましい。
【0021】
(
8)前記誘電体素体は、長尺状のケーブルであることが好ましい。
【0022】
(
9)本発明の通信装置は、
積層体が筐体内に配置された通信装置であって、
前記積層体は、
可撓性を有する誘電体素体、この誘電体素体に形成された信号導体、第1グランド導体、第2グランド導体および電極を備え、
前記信号導体、前記第1グランド導体および前記第2グランド導体により構成され、第1通信信号が伝搬する第1通信信号ラインと、
前記第1通信信号ラインに設けられ、前記第1通信信号を通過させる第1通信信号ライン側フィルタと、を備え、
前記第1通信信号ラインの少なくとも一部は、前記信号導体と、前記信号導体を挟んで対向する前記第1グランド導体および前記第2グランド導体とによって、トリプレート型のストリップラインを構成し、
前記第1通信信号ライン側フィルタは、インダクタおよびキャパシタで構成され、
前記インダクタおよび前記キャパシタは、
複数のインダクタ形成用電極およびキャパシタ形成用電極を有する前記電極をそれぞれ含んで構成され、
前記
複数のインダクタ形成用電極は、平面視で、前記第1グランド導体に重なら
ず、前記第2グランド導体に重なり、
前記複数のインダクタ形成用電極のうち、積層方向において前記第2グランド導体から最も離れたインダクタ形成用電極は、前記積層方向において前記第1グランド導体と同じ層に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、良好なフィルタ特性を有する積層体が構成できる。また、筐体内の僅かなスペースに積層体を組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は第1の実施形態に係る分岐回路を備える通信装置のブロック図である。
【
図3】
図3は分岐回路31のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失(S21)の周波数特性を示す図である。
【
図4】
図4は第2の実施形態に係る分岐回路32の回路図である。
【
図5】
図5は、
図4に示した分岐回路32のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とSAWフィルタの手前との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
【
図6】
図6は、
図4に示した分岐回路32のアンテナポートP1−セルラー信号ポートP2間の挿入損失S21、アンテナポートP1−GPS信号ポートP3間の挿入損失S31、およびアンテナポートP1の反射損失について、それぞれの周波数特性を示す図である。
【
図8】
図8は第3の実施形態に係る分岐回路33を備える通信装置のブロック図である。
【
図9】
図9(A)は帯域阻止フィルタ21のインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
図9(B)は前記帯域阻止フィルタ22のインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
図9(C)は前記帯域阻止フィルタ21,22の2段分のインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
【
図11】
図11は、
図8に示した分岐回路33のアンテナポートP1−セルラー信号ポートP2間の挿入損失S21、アンテナポートP1−GPS信号ポートP3間の挿入損失S31、アンテナポートP1の反射損失、およびポートP2−P3間の挿入損失(漏れ成分)S32について、それぞれの周波数特性を示す図である。
【
図12】
図12は第4の実施形態に係る分岐回路34の回路図である。
【
図13】
図13は、
図12に示した分岐回路32のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とSAWフィルタの手前との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
【
図14】
図14は第5の実施形態に係る分岐回路35の回路図である。
【
図15】
図15は第6の実施形態に係る分岐回路36の回路図である。
【
図16】
図16は第7の実施形態に係る分岐ケーブル40の斜視図である。
【
図17】
図17は誘電体素体の各層に形成されている電極パターンを示す分解平面図である。
【
図18】
図18は3層の誘電体素体で積層体を構成した場合の各層に形成されている電極パターンを示す分解平面図である。
【
図19】
図19は第8の実施形態に係る分岐ケーブルの外観斜視図である。
【
図20】
図20は、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタF1およびGPS信号ライン側帯域阻止フィルタF2を備えた分岐回路31のブロック図である。
【
図21】
図21(A)、
図21(B)は、分岐点BPから二つのフィルタF1,F2までの経路長が異なる例を示す図である。
【
図22】
図22(A)は
図21(A)に示した分岐回路のアンテナポートP1からみたインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
図22(B)は
図21(B)に示した分岐回路のアンテナポートP1からみたインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
【
図23】
図23(A)は
図21(A)に示した分岐回路のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とGPSポートP3との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
図23(B)は
図21(B)に示した分岐回路のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とGPSポートP3との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
【
図24】
図24は第9の実施形態に係る分岐ケーブルの誘電体素体の各層に形成されている電極パターンを順に示す分解平面図である。
【
図25】
図25は特許文献1に示されている分岐回路の回路図である。
【
図26】従来技術による、ハイバンドの通信信号およびローバンドの通信信号を含む通信信号と、ハイバンドの通信信号とローバンドの通信信号との中間の周波数帯であるGPS信号とを分岐する分岐回路のブロック図である。
【
図27】
図27(A)は、アンテナ30の接続ポートP1から見たSAWフィルタ28のインピーダンス軌跡、
図27(B)はアンテナ30の接続ポートP1から見た帯域阻止フィルタ11のインピーダンス軌跡である。
【
図28】
図28はアンテナ30の接続ポートP1と帯域阻止フィルタ11の出力ポートP2との間の挿入損失(SパラメータのS21)の周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係る分岐回路を備える通信装置のブロック図である。この通信装置は分岐回路31を備えている。分岐回路31は共通のアンテナポートP1を備え、ローバンドの信号およびハイバンドの信号を含む第1通信信号(セルラー信号)と、ローバンドとハイバンドとの間の周波数帯の信号である第2通信信号(GPS信号)とを分岐するための分岐回路である。以降、「第1通信信号」を「セルラー信号」、「第2通信信号」を「GPS信号」という。
【0027】
この例では各周波数帯域は次のとおりである。
【0028】
ローバンド(800MHz帯:704-960MHz)
ハイバンド(2.2GHz帯:1710-2690MHz)
GPS信号(1.5GHz帯:1574-1606MHz)
分岐回路31のアンテナポートP1にはアンテナ30が接続されている。分岐回路31のセルラー信号ポートP2にはセルラー信号の通信回路10が接続されていて、分岐回路31のGPS信号ポートP3にはGPS受信回路20が接続されている。
【0029】
分岐回路31のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間がセルラー信号ライン、分岐回路31のアンテナポートP1と第2通信信号ポートP3との間がGPS信号ライン、である。セルラー信号ラインにはセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11が設けられている。GPS信号ラインにはSAWフィルタ28およびGPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21が設けられている。GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21はアンテナポートP1とSAWフィルタ28との間に設けられている。
【0030】
セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11は第2通信信号(GPS信号)を反射し(すなわち、GPS信号の周波数でアンテナポートP1から見てオープンに見えるようにし)、第1通信信号(セルラー信号)を通過させる。GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21は、セルラー信号のうちGPS信号の周波数帯に近い側であるハイバンド(1710-2690MHz)の信号を反射し(すなわち、ハイバンドの信号周波数でアンテナポートP1から見てオープンに見えるようにし)、GPS信号を通過させる。SAWフィルタ28はGPS信号を帯域通過させる。
【0031】
図2は
図1に示した分岐回路31の回路図である。セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11はインダクタL11およびキャパシタC11の並列回路で構成されている。GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21はインダクタL21およびキャパシタC21の並列回路で構成されている。インダクタL11およびキャパシタC11の並列回路の共振周波数はGPS信号の周波数1.5GHzである。そのため、1.5GHzの信号はセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11で反射され、GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21を通過して入力される。
【0032】
インダクタL21およびキャパシタC21の並列回路の共振周波数はハイバンドの周波数2GHzである。そのため、2.2GHz帯の信号はGPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21で反射され、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11を通過してポートP2から出力される。
【0033】
図3は前記分岐回路31のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失(S21)の周波数特性を示す図である。このように、GPS信号の周波数帯である1.5GHzが大きく減衰される。また、
図24に示した例と比較して明らかなように、ローバンドとハイバンドに不要な減衰が生じない。
【0034】
《第2の実施形態》
図4は第2の実施形態に係る分岐回路32の回路図である。分岐回路32はアンテナポートP1、セルラー信号ポートP2およびGPS信号ポートP3を備える。この分岐回路32は、ローバンドの信号およびハイバンドの信号を含む第1通信信号(セルラー信号)と、ローバンドとハイバンドとの間の周波数帯の信号である第2通信信号(GPS信号)とを分岐する。
【0035】
セルラー信号ラインには2つのセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11,12が設けられている。GPS信号ラインにはSAWフィルタ28、GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21、および帯域通過フィルタ24が設けられている。帯域通過フィルタ24はGPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21とSAWフィルタ28との間に設けられている。また、帯域通過フィルタ24とSAWフィルタ28との間にキャパシタC5が設けられている。SAWフィルタ28の後段にはローノイズアンプ(LNA)29が設けられている。
【0036】
セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11の構成は第1の実施形態で示したセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11と同じである。もう一つのセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ12は、インダクタL12およびキャパシタC12の直列回路で構成され、セルラー信号ラインに対してシャントに接続されている。このセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ12の共振周波数はセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11の共振周波数とほぼ等しい。そのため、この2つのセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11,12で、GPS信号がポートP2から出力される量をより低減できる。2つの帯域阻止フィルタ11,12のうち、LC並列回路である帯域阻止フィルタ11が、アンテナポートP1に接続されるので、GPS信号はGPS信号ライン側へ反射される。
【0037】
GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21の構成は第1の実施形態で示したGPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21と同じであり、ハイバンドの通信信号を反射する。帯域通過フィルタ24はGPS信号の周波数帯域を通過させ、ハイバンドの通信信号およびローバンドの通信信号を遮断する。帯域通過フィルタ24はSAWフィルタ28と多段化されて、GPS信号の選択性を高める。
【0038】
キャパシタC5は帯域通過フィルタ24とSAWフィルタ28との間の位相調整用の素子である。また、帯域通過フィルタ24はGPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21とSAWフィルタ28とのインピーダンス整合回路としても作用する。
【0039】
図4において、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11,12、GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21、帯域通過フィルタ24および位相調整用キャパシタC5を含む回路部分は後に別の実施形態で示す分岐ケーブル40で構成される。
【0040】
図5は、
図4に示した分岐回路32のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とSAWフィルタの手前との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
図5に表れているように、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11,12はGPS信号である1.5GHzを阻止し、GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21はハイバンドの通信信号である2.2GHzを阻止する。また、帯域通過フィルタ24はGPS信号である1.5GHzを帯域通過させる。
【0041】
図6は、
図4に示した分岐回路32のアンテナポートP1−セルラー信号ポートP2間の挿入損失S21、アンテナポートP1−GPS信号ポートP3間の挿入損失S31、およびアンテナポートP1の反射損失について、それぞれの周波数特性を示す図である。
図5の場合とは異なり、SAWフィルタ28およびLNA29を含む特性である。この
図6に表れているように、LNA29を通したGPS信号は17dB得られ、ハイバンドおよびローバンドにおいては−50dB以下まで減衰する。また、S21のセルラー信号の通過域では−0.3dB程度、減衰域では−16dBである。さらに、アンテナポートでの反射損失S11は−10dB程度と低い。
【0042】
図7は
図4に示した分岐回路32の変形例である。この分岐回路はセルラー信号ラインに1段のセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11を設けている。またLNAは分岐回路内には設けていない。その他の構成は
図4に示した分岐回路32と同じである。このように、帯域阻止フィルタを1段にする場合には、インダクタとキャパシタの並列回路をラインにシリーズに接続する構成とすれば、阻止帯域の信号を反射することができる。
【0043】
《第3の実施形態》
図8は第3の実施形態に係る分岐回路33を備える通信装置のブロック図である。分岐回路33はアンテナポートP1、セルラー信号ポートP2およびGPS信号ポートP3を備える。この分岐回路33は、ローバンドの信号およびハイバンドの信号を含む第1通信信号(セルラー信号)と、ローバンドとハイバンドとの間の周波数帯の信号である第2通信信号(GPS信号)とを分岐する。
【0044】
分岐回路33のアンテナポートP1にはアンテナ30が接続されている。分岐回路33のセルラー信号ポートP2にはセルラー信号の通信回路10が接続されていて、分岐回路33のGPS信号ポートP3にはGPS受信回路20が接続されている。
【0045】
図1に示した分岐回路31と異なり、GPS信号ラインに2つのGPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21,22を備えている。また、SAWフィルタ28の後段にLNA29が設けられている。その他の構成は第1の実施形態で示した分岐回路31と同じである。
【0046】
図9(A)は前記帯域阻止フィルタ21のインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
図9(B)は前記帯域阻止フィルタ22のインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
図9(C)は前記帯域阻止フィルタ21,22の2段分のインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。また、
図10は
図9(C)を模式化した図である。
【0047】
これらの図から明らかなように、2段の帯域阻止フィルタ21,22は、GPS信号を通過し、セルラー信号のハイバンドに対してほぼオープン、帯域阻止フィルタ22はセルラー信号のローバンドに対してほぼオープンとなる。したがって、GPS信号の周波数帯である1.5GHzのローバンド側とハイバンド側の両方の通過帯域に不要な共振が現れない。
【0048】
図11は、
図8に示した分岐回路33のアンテナポートP1−セルラー信号ポートP2間の挿入損失S21、アンテナポートP1−GPS信号ポートP3間の挿入損失S31、アンテナポートP1の反射損失、およびポートP2−P3間の挿入損失(漏れ成分)S32について、それぞれの周波数特性を示す図である。この
図11に表れているように、LNA29を通したGPS信号は13dB得られ、ハイバンドおよびローバンドにおいては−80dB以下まで減衰する。また、S21のセルラー信号の通過域では−0.1dB程度、減衰域では−20dB程度である。さらに、アンテナポートでの反射損失S11は−20dB程度と低い。
【0049】
なお、2段の帯域阻止フィルタ21,22はともにLC並列回路で構成されているので、その接続順は逆であってもよい。
【0050】
《第4の実施形態》
図12は第4の実施形態に係る分岐回路34の回路図である。分岐回路34はアンテナポートP1、セルラー信号ポートP2およびGPS信号ポートP3を備える。この分岐回路34は、ローバンドの信号およびハイバンドの信号を含む第1通信信号(セルラー信号)と、ローバンドとハイバンドとの間の周波数帯の信号である第2通信信号(GPS信号)とを分岐する。
【0051】
図4に示した分岐回路と異なり、帯域阻止フィルタ21はローバンドに対してほぼオープンとなるように共振周波数が定められている。GPS信号の帯域通過フィルタ25は、キャパシタC31,C32およびインダクタL31によるローパスフィルタと、キャパシタC33およびインダクタL33によるハイパスフィルタとで構成している。また、
図4に示した分岐回路と異なり、帯域通過フィルタ25とSAWフィルタ28との間に位相調整用のインダクタL5を設けている。さらに、
図12の例ではLNAを分岐回路内には設けていない。その他の構成は
図4に示した分岐回路32と同じである。
【0052】
図13は、
図12に示した分岐回路32のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とSAWフィルタの手前との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
図13に表れているように、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタ11,12はGPS信号である1.5GHzを阻止し、GPS信号ライン側帯域阻止フィルタ21はローバンドの通信信号である0.95GHzを阻止する。また、帯域通過フィルタ25はGPS信号である1.5GHzを帯域通過させる。
【0053】
《第5の実施形態》
図14は第5の実施形態に係る分岐回路35の回路図である。分岐回路35はアンテナポートP1、セルラー信号ポートP2およびGPS信号ポートP3を備える。この分岐回路35は、ローバンドの信号およびハイバンドの信号を含む第1通信信号(セルラー信号)と、ローバンドとハイバンドとの間の周波数帯の信号である第2通信信号(GPS信号)とを分岐する。
【0054】
図4に示した分岐回路と異なり、GPS信号ラインに2段の帯域通過フィルタ24,25を設けている。この2段の帯域通過フィルタ24,25はインダクタ同士の磁界結合によって結合している。また、この帯域通過フィルタ25とSAWフィルタ28との間に位相調整用のキャパシタC5を挿入している。さらに、
図14の例ではLNAを分岐回路内には設けていない。その他の構成は
図4に示した分岐回路32と同じである。
【0055】
このようにフィルタ回路間を磁界結合させてもよい。そのことでLNAやGPS受信回路に対する静電耐圧が高まる。
【0056】
《第6の実施形態》
図15は第6の実施形態に係る分岐回路36の回路図である。
図4に示した分岐回路と異なり、セルラー信号ラインに3段の帯域阻止フィルタ11,12,13を設けている。また、GPS信号ラインに2段の帯域阻止フィルタ21,22を設けている。この2段の帯域阻止フィルタ21,22は、GPS信号を通過し、セルラー信号のハイバンドに対してほぼオープン、帯域阻止フィルタ22はセルラー信号のローバンドに対してほぼオープンとなる。
【0057】
セルラー信号ライン側の帯域阻止フィルタ11,12,13の共振周波数はGPS信号の周波数帯であり、GPS信号を反射する。インダクタL5は位相調整用素子であり、帯域通過フィルタ24およびインダクタL5は、SAWフィルタ28+LNA29と2段の帯域阻止フィルタ21,22とのインピーダンス整合をとっている。
【0058】
《第7の実施形態》
図16は第7の実施形態に係る分岐ケーブル40の斜視図である。分岐ケーブル40は
図4に示した分岐回路32のSAWフィルタ28、LNA29以外の部分を構成する。この分岐ケーブル40は長尺状の誘電体素体の積層体41とそれに取り付けられた同軸コネクタCC1,CC2,CC3とで構成されている。同軸コネクタCC1は
図4に示したアンテナポートP1に対応し、同軸コネクタCC2,CC3は
図4に示したポートP2,P3iにそれぞれ対応する。前記誘電体素体は例えば液晶ポリマーやポリイミド等の可撓性の誘電体材料で構成されている。
【0059】
図17は前記誘電体素体の各層に形成されている電極パターンを示す分解平面図である。第1層41Aは最上層、第5層41Eは最下層である。第1層41AにはポートP1,P2,P3iに相当する電極EP1,EP2,EP3iが形成されている。また、グランド導体GNDが形成されている。第4層41Dおよび第5層41EにはキャパシタC11,C12,C21,C5に相当する電極EC11,EC12,EC21,EC5が形成されている。さらに、第4層41Dおよび第5層41EにはインダクタL11,L12,L21,L22に相当する電極EL11,EL12,EL21,EL22が形成されている。電極EC5,EC21は第1層41Aのグランド導体GNDとの間にキャパシタC22を構成する。電極EC11と第1層41Aのグランド導体GNDとの間には大きな容量が生じないように、第1層41Aのグランド導体GNDに抜き部(電極の無い部分)APが形成されている。
【0060】
また、第4層41Dには信号導体(線路電極)SL1,SL2,SL3が形成されていて、第5層41Eにはグランド導体GNDが形成されている。これらの信号導体SL1,SL2,SL3と第1層41Aおよび第5層41Eのグランド導体GNDとによってトリプレート型のストリップラインが構成されている。
【0061】
各層41A〜41Eには層間接続用のビア導体が形成されている。特に、第2層41B、第3層41Cにはグランド導体GNDの層間接続用のビア導体および電極EP1,EP2,EP3iの層間接続用のビア導体が形成されている。
【0062】
電極EP1,EP2,EP3iには
図16に示した同軸コネクタCC1,CC2,CC3が搭載される。
【0063】
このように構成された分岐ケーブル40を、組み込み先通信装置の筐体内に設けられている回路基板の同軸レセプタクルに接続する。すなわち、同軸コネクタCC1はアンテナに接続され、同軸コネクタCC2はセルラー信号の通信回路に接続され、同軸コネクタCC3はGPS信号ラインのSAWフィルタに接続される。したがって、組み込み先通信装置の筐体内にこの分岐ケーブル40を組み込むだけで分岐回路が構成される。この分岐ケーブルは長尺状、薄型、可撓性であるので、通信装置の筐体内で例えばバッテリーパックの裏側で引き回すこともできる。
【0064】
図17に示した例では、5層の誘電体素体で積層体を構成したが、積層数はこれに限るものでないことは言うまでもない。例えば
図18は3層の誘電体素体で積層体を構成した場合の各層に形成されている電極パターンを示す分解平面図である。この例では
図17に示した第2層41B、第3層41Cに相当するものが無い。その代わりに第1層41Aの誘電体素体厚みを大きくして、第1層41Aに形成されているグランド導体GNDと第4層41Dに形成されている信号導体SL1,SL2,SL3との間隙を所定距離にしている。
【0065】
《第8の実施形態》
図19は第8の実施形態に係る分岐ケーブルの外観斜視図である。この分岐ケーブルは誘電体素体の積層体41とそれに取り付けられた同軸コネクタCC1,CC2,CC3とで構成されている。
図16に示した例では、誘電体素体の積層体を、アンテナポートからセルラー信号ポートおよびGPS信号ポートへ二股に分かれた音叉形状としたが、ケーブルの外観形状は音叉形に限られるものではなく、
図19に示すように、必要な位置に同軸コネクタが配置されていればよい。
【0066】
誘電体素体の積層体41にSAWフィルタやLNAを搭載して、例えば
図15に示した分岐回路のすべてを分岐ケーブル上に構成してもよい。その場合、同軸コネクタCC1は
図15に示したアンテナポートP1に対応し、同軸コネクタCC2,CC3は
図15に示したポートP2,P3にそれぞれ対応する。
【0067】
なお、分岐ケーブルに同軸コネクタを設けずに、コプレーナラインの接続部を設けてもよい。
【0068】
《第9の実施形態》
第9の実施形態では、アンテナ信号を第1通信信号と第2通信信号とに分岐する分岐点から第1通信信号ライン側帯域阻止フィルタおよび第2通信信号ライン側帯域阻止フィルタまでの距離と分岐特性との関係を考慮した分岐回路および分岐ケーブルについて示す。
【0069】
図20は、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタF1およびGPS信号ライン側帯域阻止フィルタF2を備えた分岐回路31のブロック図である。アンテナポートP1に接続されるアンテナ信号ラインは分岐点BPで分岐されて、フィルタF1,F2に最短距離で接続されている。ここで、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタF1はGPS信号(1.5GHz)を阻止し、セルラー信号(800MHz帯および2.2GHz帯)を通過させる。また、GPS信号ライン側帯域阻止フィルタF2はセルラー信号(800MHz帯および2.2GHz帯)を阻止し、GPS信号(1.5GHz)を通過させる。
【0070】
理想的には、
図20に示すように分岐点BPから二つのフィルタF1,F2までがそれぞれ最短距離で接続されている形態が好ましい。しかし、分岐回路31を構成する分岐ケーブルの幅を広くできず、二つのフィルタF1,F2を横並びに配置できないような場合には、
図21(A)、
図21(B)に示すように、縦並びに配置することになる。
図21(A)の配置では、分岐点BPからフィルタF1までの経路長Saが分岐点BPからフィルタF2までの経路長Sbより長い。
図21(B)の配置では、分岐点BPからフィルタF1までの経路長Saが分岐点BPからフィルタF2までの経路長Sbより短い。
【0071】
図22(A)は
図21(A)に示した分岐回路のアンテナポートP1からみたインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。
図22(B)は
図21(B)に示した分岐回路のアンテナポートP1からみたインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表した図である。いずれもスイープ範囲は700MHz〜2.7GHzである。
【0072】
図22(B)に表れているように、分岐点BPからフィルタF2までの経路長Sbが長くなると、その経路に生じるインダクタンス成分(ストレーインダクタンス)の影響で、フィルタF2の通過域より高い周波数域(セルラー信号の周波数帯域)で反射が増大する。
【0073】
図23(A)は
図21(A)に示した分岐回路のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とGPSポートP3との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
図23(B)は
図21(B)に示した分岐回路のアンテナポートP1とセルラー信号ポートP2との間の挿入損失S21、アンテナポートP1とGPSポートP3との間の挿入損失S31についてそれぞれの周波数特性を示す図である。
【0074】
分岐点BPからGPS信号ライン側帯域阻止フィルタF2までの経路長Sbが長くなる程、その経路に生じるインダクタンス成分が大きくなる。このインダクタンス成分がある程度大きくなると、
図23(B)に表れているように、GPS信号ライン側帯域阻止フィルタF2の本来の通過帯域1.5GHzより高い周波数帯域2.2GHzにも通過域が生じる(
図22(B)中の丸印)。この通過域がフィルタF1の(セルラー信号の)通過帯域に一致または近接すると、反射すべきセルラー信号がGPS信号ラインを伝搬してしまい、
図23(B)に表れているように、セルラー側の特性が悪化する。
【0075】
一方、
図21(A)に示したように、分岐点BPからGPS信号ライン側帯域阻止フィルタF2までの経路長Sbを短くした場合には、この経路長に生じるインダクタンス成分が小さいので、上記不要な通過域が使用周波数帯内には生じない。分岐点BPからセルラー信号ライン側帯域阻止フィルタF1までの経路長Saが長いことにより、その経路長Saに生じるインダクタンスは大きいが、セルラー信号ライン側帯域阻止フィルタF1本来の通過帯域2.2GHzより高い周波数帯域に通過域が生じるだけであるので、使用周波数帯域内には悪影響を及ぼさない。
【0076】
すなわち、通過帯域の周波数が低い側の信号ライン(GPS信号ライン)の分岐点BPからの経路長を、通過帯域の周波数が高い側の信号ライン(セルラー信号ライン)の分岐点BPからの経路長より短くする。そのことにより、使用周波数帯域内に不要な通過特性が現れることがない。
【0077】
次に、この第9の実施形態に係る分岐回路が構成された分岐ケーブルについて示す。この分岐ケーブルの外観斜視図は
図19に示したとおりである。
図24は第9の実施形態に係る分岐ケーブルの誘電体素体の各層に形成されている電極パターンを順に示す分解平面図である。但し、アンテナポートは図外にあり、アンテナポートに繋がる信号導体は途中まで示している。アンテナポート部分の構成は
図17に示したものと同じである。
【0078】
第1層41Aは最上層、第5層41Eは最下層である。第1層41AにはポートP2,P3iに相当する電極EP2,EP3iが形成されている。また、グランド導体GNDが形成されている。第4層41Dおよび第5層41EにはキャパシタC11,C12,C21,C5に相当する電極EC11,EC12,EC21,EC5が形成されている。さらに、第4層41Dおよび第5層41EにはインダクタL11,L12,L21,L22に相当する電極EL11,EL12,EL21,EL22が形成されている。電極EC5,EC21は第1層41Aのグランド導体GNDとの間にキャパシタC22を構成する。電極EC11と第1層41Aのグランド導体GNDとの間には大きな容量が生じないように、第1層41Aのグランド導体GNDに抜き部(電極の無い部分)APが形成されている。同様に、電極EC21と第1層41Aのグランド導体GNDとの間に大きな容量が生じないように、第1層41Aのグランド導体GNDに抜き部(電極の無い部分)APが形成されている。
【0079】
また、第4層41Dには信号導体(線路電極)SL1,SL2,SL3が形成されていて、第5層41Eにはグランド導体GNDが形成されている。これらの信号導体SL1,SL2,SL3と第1層41Aおよび第5層41Eのグランド導体GNDとによってトリプレート型のストリップラインが構成されている。
【0080】
各層41A〜41Eには層間接続用のビア導体が形成されている。特に、第2層41B、第3層41Cにはグランド導体GNDの層間接続用のビア導体および電極EP2,EP3iの層間接続用のビア導体が形成されている。
【0081】
電極EP2,EP3iには
図19に示した同軸コネクタCC2,CC3が搭載される。