特許第6172279号(P6172279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6172279
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】結晶性ポリアミド系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20170724BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20170724BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08L23/26
   B60J5/04 K
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-527708(P2015-527708)
(86)(22)【出願日】2015年5月14日
(86)【国際出願番号】JP2015063881
(87)【国際公開番号】WO2015174488
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2016年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-102052(P2014-102052)
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 知英
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−067658(JP,A)
【文献】 特開2004−250707(JP,A)
【文献】 特開2011−080029(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/075699(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K7
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
96%硫酸中で測定された相対粘度が3.0以上の結晶性ポリアミド樹脂(A)50〜100質量%および結晶性ポリアミド樹脂(A)より融点が20℃以上低い、96%硫酸中で測定された相対粘度が3.6以下の結晶性ポリアミド樹脂(B)50〜0質量%からなる結晶性ポリアミド樹脂100質量部に対して、ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を有する変性ポリオレフィン樹脂(C)1〜10質量部、炭素繊維(D)1〜15質量部、およびスチレン−グリシジルメタクリレート系共重合体(E)0〜5質量部を含有してなる、ドアチェッカーに用いられることを特徴とする結晶性ポリアミド系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を有する変性ポリオレフィン樹脂(C)が、変性ポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の結晶性ポリアミド系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対粘度の高い結晶性ポリアミド樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、及び炭素繊維を含有してなる結晶性ポリアミド系樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明の組成物は比重が軽く、強度、剛性、成形性に優れ、摺動耐久性が良好な結晶性ポリアミド系樹脂組成物に関する。特に自動車用のドアチェッカーやギヤーなど摺動特性を必要とする機構部品などに適するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は結晶性のため摺動性は優れているが、更に優れた摺動特性を得るために古くから多くの研究がなされており、二硫化モリブデン、グラファイトおよびフッ素樹脂等の固形潤滑剤や各種の潤滑オイル、シリコーンオイル等の液体潤滑剤等が主要な摺動改良剤として検討されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
これらの摺動改良剤のうち、固体潤滑剤はポリアミド樹脂のように本来優れた摺動特性を持つ樹脂で更に摺動特性を改良しようとすると、大量の固体潤滑剤を配合する必要があり、ベースとなるポリアミド樹脂の靭性を著しく低下させ、ヒートサイクル等の自動車用成形部品の評価規格をクリヤーできないばかりか、高価な固体潤滑剤を大量に配合するため経済的に好ましくない。一方、液体潤滑剤は比較的少量で、効果の高い摺動性をエンジニアリングプラスチック等の樹脂に付与できるが、多くの場合、ベースとなる樹脂との相容性が悪く、成形品の表面がこれらの液体潤滑剤で汚染される場合が多い。そのため、これらの液体潤滑剤で摺動性を改良した製品では、用途が制限されてしまう。
【0004】
このような各種の潤滑剤を配合するのではなく、ポリアミド樹脂の分子量を著しく高くした高粘度のポリアミド樹脂を使用して機械的特性の改良を行うと共に、低摩擦、低摩耗性などの摺動特性を改良することが提案されている(例えば、特許文献1、2)。また必要に応じて、成形性改良剤として高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド化合物等の低分子化合物を添加することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−56983号公報
【特許文献2】特開2006−56984号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】福本 修 「プラスチック材料講座〔16〕ポリアミド樹脂」 日刊工業新聞社 (1970年)
【0007】
しかしながら、高粘度のポリアミド樹脂を使用した場合、その製品の摺動特性は改良されるが、荷重に対する変形は改良されない。とくに高荷重で低速で摺動する場合は、荷重に対する変形を一定以下に抑える必要がある。高粘度ポリアミドの耐荷重変形を低減させるためには曲げ弾性率を上げる必要がある。無機充填材を添加することで曲げ弾性率を上げることができるが、流動性、外観等が極めて悪くなるため、無機充填材を多量に入れることができない。また無機充填材を多量に入れた場合、樹脂の比重が重くなるため好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は分子量の高い高粘度のポリアミド樹脂を使用した場合でも、高い機械的特性、特に良好な曲げ弾性率を保持しており、かつ優れた摺動耐久性を発現すると同時に、比重も低い、優れたポリアミド系樹脂組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究した結果、一定以上の粘度の結晶性ポリアミド樹脂をベースとした組成物に、ポリアミド樹脂との相容性を改良した変性ポリオレフィン樹脂と炭素繊維を特定量配合することにより、高い機械的強度と優れた摺動性および成形性等の上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(1) 96%硫酸中で測定された相対粘度が3.0以上の結晶性ポリアミド樹脂(A)50〜100質量%および結晶性ポリアミド樹脂(A)より融点が20℃以上低い、96%硫酸中で測定された相対粘度が3.6以下の結晶性ポリアミド樹脂(B)50〜0質量%からなる結晶性ポリアミド樹脂100質量部に対して、ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を有する変性ポリオレフィン樹脂(C)1〜10質量部、炭素繊維(D)1〜15質量部、およびスチレン−グリシジルメタクリレート系共重合体(E)0〜5質量部を含有してなる結晶性ポリアミド系樹脂組成物。
(2) ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を有する変性ポリオレフィン樹脂(C)が、変性ポリエチレン樹脂であることを特徴とする(1)記載の結晶性ポリアミド系樹脂組成物。
(3) ドアチェッカーに用いられることを特徴とする(1)または(2)記載の結晶性ポリアミド系樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、結晶性ポリアミド樹脂の持つ優れた機械的特性、特に耐衝撃性および耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、優れた摺動耐久性を付与し、特に成形品の比重が軽く、荷重に対して変形し難い特徴を持つ成形性の良好な結晶性ポリアミド系樹脂組成物を提供することが出来る。したがって自動車部品、特にドアチェッカーやギヤー等の機械強度と摺動特性を必要とする機構部品をはじめ、幅広い分野で使用することが出来て、産業界に寄与すること大である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明の96%硫酸中で測定された相対粘度が3.0以上の結晶性ポリアミド樹脂(A)および結晶性ポリアミド樹脂(A)より融点が20℃以上低い96%硫酸中で測定された相対粘度が3.6以下の結晶性ポリアミド樹脂(B)としては、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体で結晶性であれば特に限定されないが、例えばポリアミド6(NY6)、ポリアミド66(NY66)、ポリアミド46(NY46)、ポリアミド11(NY11)、ポリアミド12(NY12)、ポリアミド610(NY610)、ポリアミド612(NY612)、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸重合体(6T)、ヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸およびアジピン酸重合体(66T)、ヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸およびεカプロラクタム共重合体(6T/6)、トリメチルヘキサメチレンジアミン−テレフタール酸重合体(TMD−T)、メタキシリレンジアミンとアジピン酸およびイソフタール酸共重合体(MXD−6/I)、トリヘキサメチレンジアミンとテレフタール酸およびε−カプロラクタム共重合体(TMD−T/6)、ジアミノジシクロヘキシレンメタン(CA)とイソフタール酸およびラウリルラクタム共重合体等の結晶性ポリアミド樹脂等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明に係る結晶性ポリアミド樹脂(A)として、特に好ましいのはポリアミド66である。本発明の結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度は、特に重要である。一般にポリアミド樹脂の相対粘度を測定する場合は、溶解する溶剤の種類により、メタクレゾール、96%硫酸(96質量%硫酸)および90%ギ酸の三種類の溶剤による測定法があるが、本発明における結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度は96%硫酸溶液(ポリアミド樹脂濃度1g/dl、温度25℃)で測定されたもので、相対粘度は3.0以上である。より好ましくは3.1〜5.0の範囲であり、さらに好ましくは3.1〜4.7の範囲である。
一方、本発明に係る結晶性ポリアミド樹脂(B)として、特に好ましいのはポリアミド6である。また、結晶性ポリアミド樹脂(B)の相対粘度も、96%硫酸溶液(ポリアミド樹脂濃度1g/dl、温度25℃)で測定されたもので、その相対粘度は3.6以下である。より好ましくは2.0〜3.6の範囲であり、さらに好ましくは2.2〜3.3の範囲である。
【0014】
結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度が3.0未満である場合、分子量が低いため、分子同士の絡み合いが不足するので摺動特性が悪くなる。結晶性ポリアミド樹脂(B)の相対粘度として、好ましい下限を設けているのも同様の理由である。結晶性ポリアミド樹脂(B)の相対粘度が3.6を超えた場合、粘度が高すぎて射出成形に必要な流動性を確保できない。結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度として、好ましい上限を設けているのも同様の理由である。
【0015】
成形時の流動性不足を改良するためには、主成分である結晶性ポリアミド樹脂(A)の成形温度において、流動性の比較的高いポリアミド樹脂を添加する必要があるため、融点が20℃以上低い結晶性ポリアミド樹脂(B)を添加することが好ましい。結晶性ポリアミド樹脂(A)と結晶性ポリアミド樹脂(B)の配合比率は、結晶性ポリアミド樹脂(A)50〜100質量%に対し結晶性ポリアミド樹脂(B)50〜0質量%(結晶性ポリアミド樹脂(A)と結晶性ポリアミド樹脂(B)の合計で100質量%)である。結晶性ポリアミド樹脂(A)の比率をこの範囲より下げると、系の融点が大きく下がり、摺動時の摩擦熱で溶融し優れた摺動特性を得ることができない。
以下、結晶性ポリアミド樹脂(A)と結晶性ポリアミド樹脂(B)を合わせ、「結晶性ポリアミド樹脂」と称する。
【0016】
本発明において、結晶性ポリアミド樹脂(A)および結晶性ポリアミド樹脂(B)の融点は、示差走査熱量計(DSC)で求めることができる。示差走査熱量計で得られる昇温時の吸熱ピーク温度であり、詳細は下記実施例の項に記載の方法による。
【0017】
本発明に係る変性ポリオレフィン樹脂(C)とは、以下のポリオレフィン樹脂を変性したものである。すなわち高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(1−ブテン)、ポリ(4−メチルペンテン)等のオレフィン系樹脂を挙げることが出来る。これらのポリオレフィン系樹脂の中で最も好ましいのは高密度ポリエチレンである。
【0018】
これらのポリオレフィン樹脂はポリアミド樹脂との相容性を向上させるために、ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を付与することが必要である。ポリアミド樹脂と反応しうる官能基とは、具体的にカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサドリン基、アミノ基、イソシアネート基等が例示されるが、これらの中でも酸無水物基がポリアミド樹脂との反応性が高く、特に好ましい。変性ポリオレフィン樹脂(C)の配合量は、結晶性ポリアミド樹脂100質量部に対し、1〜10質量部である。好ましくは1〜8質量部、より好ましくは2〜6質量部である。
【0019】
本発明で使用する炭素繊維(D)は、繊維径が4〜10μmで、かつ引張強度3.0〜8.0GPaのものであれば特に制限はない。製造方法に関しても、一般的に開示されている手法であれば制限はないが、機械特性を向上させるためにはPAN系炭素繊維が好ましい。溶融混練加工で使用される炭素繊維の形態としては、チョップドストランドであることが好ましい。集束されている繊維束における短繊維の具体的な形態としては、繊維径4〜6μmで、引張強度が5〜6GPaの炭素繊維、または繊維径6〜8μmで、引張強度が3〜4GPaの炭素繊維が一般的であり、これらの繊維束に集束剤やカップリング剤が処理されて、一定長にカットされているチョップドストランドであることが好ましい。一般的なカット長は、3.0〜10.0mmである。
【0020】
炭素繊維(D)の配合量は、結晶性ポリアミド樹脂100質量部に対し、1〜15質量部である。炭素繊維(D)の配合量が、この範囲よりも少なくなると、荷重に対する変形が多くなり磨耗特性の改良効果が少なくなる。逆に炭素繊維(D)の配合量が、この範囲よりも多くなると、繊維の露出により摺動相手にダメージを与え、部品としての摺動特性を損なってしまう。炭素繊維(D)の配合量は、結晶性ポリアミド樹脂100質量部に対し、2〜10質量部が好ましく、3〜8質量部がより好ましい。
【0021】
本発明に用いられるスチレン−グリシジルメタクリレート系共重合体(E)は、ポリアミド樹脂の持つアミノ基あるいはカルボキシル基と反応し得る官能基として、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有する。このことが、官能基のもつ反応の速さから、樹脂全体に一部架橋を導入する点で好ましい。反応性化合物の効果により、溶融押出時においてポリアミド樹脂の持つアミノ基あるいはカルボキシル基と反応することで分子鎖が延長され、摩擦や疲労、圧縮などに対して高い耐性を得ることができる。
スチレン−グリシジルメタクリレート系共重合体(E)は、結晶性ポリアミド樹脂(A)または/および結晶性ポリアミド樹脂(B)の粘度によって、好ましい量が選定される。(E)成分の添加は、射出成形が可能な範囲で、摺動特性を向上させるため結晶性ポリアミド樹脂の鎖延長を行うことを目的とする。ゆえに結晶性ポリアミド樹脂100質量部に対して、0〜5質量部の添加が好ましい。結晶性ポリアミド樹脂(A)または/および結晶性ポリアミド樹脂(B)の分子量が最適である場合は、添加する必要がない場合もある。5質量部を超えて添加すると、粘度および分子量が増大しすぎて射出成形が困難になるため、射出成形性を保つ前述範囲が好ましい。結晶性ポリアミド樹脂(A)の相対粘度が3.0〜3.5の範囲であれば、結晶性ポリアミド樹脂100質量部に対して、(E)成分を0.5〜5質量部添加することが好ましい。
【0022】
スチレン−グリシジルメタクリレート系共重合体(E)は、具体的にスチレン/メチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン/ブチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン/ブタジエン/グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン/イソプレン/グリシジルメタクリレート共重合体等があるが、これらのいかなるものでもよく、またこれらを混合して使用することももちろん可能である。スチレン−グリシジルメタクリレート系共重合体(E)としては、グリシジルメタクリレートが2〜30モル%であるスチレン−グリシジルメタクリレート系共重合体であることが好ましい。その場合、(X)20〜98モル%のビニル芳香族モノマー、(Y)2〜30モル%のグリシジルアルキル(メタ)アクリレート、および(Z)0〜78モル%のアルキル(メタ)アクリレートからなる共重合体が好ましい。より好ましくは(X)が25〜96モル%、(Y)が4〜29モル%、(Z)が0〜71モル%からなる共重合体である。これらの組成は、結晶性ポリアミド樹脂との反応に寄与する官能基濃度に影響する為、上述のように適切に制御する必要がある。
グリシジルメタクリレートが2モル%未満であれば、添加量に比した鎖延長による摺動性改良効果が充分得られず、鎖延長のため多量に添加すると機械特性を低下させるため好ましくない。グリシジルメタクリレートが30モル%を超えた場合、反応性が高すぎて局部的に粘度が上がるためゲル化して、流動性を著しく損なうと同時に滞留安定性が極めて悪くなるため好ましくない。摺動特性を向上させ、流動性や機械特性を損なわない理由でグリシジルメタクリレートは2〜30モル%が好ましい。
【0023】
本発明の結晶性ポリアミド系樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で耐衝撃性改良剤および/または無機充填材を添加しても差し支えない。前記耐衝撃改良剤としては、具体的にスチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン/エチレン・ブチレン/スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン/エチレン・プロピレン/スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン/エチレン・アミレン/スチレンブロック共重合体(ビニルSEPS)、スチレン/エチレン/ブチレン共重合体(HSBR)等のスチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン/プロピレンブロック共重合体(EPR)、エチレン/プロピレン/ジェン共重合体(EPDM)等のオレフィン系熱可塑性エラストマー等を挙げることが出来る。これらの熱可塑性エラストマーの中で、特に好ましいのはSEBSである。
【0024】
これらの耐衝撃改良剤は、ポリアミド樹脂との相容性を向上させるために、ポリアミド樹脂の末端基および/または主鎖アミド基と反応しうる反応性官能基を付与することが好ましい。ポリアミド樹脂と反応しうる官能基とは、具体的にカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサドリン基、アミノ基、イソシアネート基等が例示されるが、これらの中でも、酸無水物基がポリアミド樹脂との反応性が高く、特に好ましい。
【0025】
一方、無機充填剤としてはタルク、ワラストナイト、クレー、アルミナ、カオリン、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等があるが、特に好ましいのはワラストナイトである。これらの無機充填剤は、ポリアミド樹脂との接着性を改善するため、自己凝集を防止するため、及び混練り時の分散を良好にするために、表面処理剤としてシリカアルミナ処理やアミノシランカップリング剤処理など表面処理されたものを使用しても良い。
【0026】
また、本発明の結晶性ポリアミド系樹脂組成物には、必要に応じて耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、滑材、結晶核剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料などを添加することが出来る。
本発明の結晶性ポリアミド系樹脂組成物は、前記(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)の合計で、95質量%以上を占めることが好ましく、98質量%以上を占めることがより好ましい。
【0027】
本発明の結晶性ポリアミド系樹脂組成物の製造する方法としては、特に限定されるものではなく、混錬装置としては一般の単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダー等が使用できるが、本発明においては二軸押出機が特に好ましい。一実施形態として、前記(A)、(B)、(C)、(D)、必要に応じて前記(E)、並びに耐衝撃剤や無機充填剤等を混合し、二軸押出機に投入し、均一混錬することにより結晶性ポリアミド系樹脂組成物を製造することがきる。別の実施形態として(A)、(B)、(C)、必要に応じて前記(E)、並びに耐衝撃剤や無機充填剤等を混合し、二軸押出機に投入し、(D)成分を押出機途中からサイドフィードで溶融樹脂に直接添加し、均一混錬することにより結晶性ポリアミド系樹脂組成物を製造することがきる。繊維の破損を抑制し、より高い強度を得ることが重要な場合は、(D)をサイドフィードで投入することが好ましい。混錬温度は高融点側である結晶性ポリアミド樹脂(A)の融点とその融点から50℃高い温度の間に設定されることが好ましく、また混錬時間は0.5〜15分程度が好ましい。
【0028】
本発明の結晶性ポリアミド系樹脂組成物は、自動車用のドアチェッカー部品材料として最適である。自動車用のドアチェッカーは、機械的強度や耐衝撃性と共に、10万回以上の自動車ドアーの開閉する時の摺動耐久性が必要である。特に繰り返しの摺動時における摩擦、摩耗が少なく、常に一定の力でスムースなドアの開閉が行われる事と、異常な力が掛かった時も破断や変形を起こさない機械的特性が必要である。また、一般的にドアチェッカーは、金属をインサートした部品形状であるから、金属部品と密着性と成形性も極めて重要となる。本発明の結晶性ポリアミド系樹脂組成物は、このような過酷な要求特性を満たすことが出来るので、自動車用のドアチェッカー材料として最適である。
【実施例】
【0029】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0030】
本発明の実施例、比較例に使用した原材料は以下の通りである。
【0031】
結晶性ポリアミド樹脂(A)、(B)(RVは相対粘度である。)
A1:ポリアミド66(RV=4.5) Ultramid A5(BASF(株)製)、融点266℃
A2:ポリアミド66(RV=3.7) アミランCM3036(東レ(株)製)、融点265℃
A3:ポリアミド66(RV=3.2) EPR32(上海神馬塑料科技術有限公司製)、融点265℃
A4:ポリアミド66(RV=2.8) アミランCM3001N(東レ(株)製)、融点265℃
B1:ポリアミド6(RV=3.5) 東洋紡ナイロン T−850(東洋紡(株)製)、融点234℃
B2:ポリアミド6(RV=3.1) 東洋紡ナイロン T−820(東洋紡(株)製)、融点233℃
B3:ポリアミド6(RV=2.5) 東洋紡ナイロン T−800(東洋紡(株)製)、融点233℃
【0032】
変性ポリオレフィン樹脂(C)
C:無水マレイン酸変性ポリエチレン、モディックDH0200(三菱化学(株)製)
【0033】
炭素繊維(D)
D1:繊維径7μm、カット長6mm 引張強度4.9GPaの炭素繊維束のチョップドストランド、日本ポリマー産業製 AXE−4MC
D2:繊維径5.5μm、カット長6mm 引張強度5.5GPaの炭素繊維束のチョップドストランド、日本ポリマー産業製 AXE−4MC HS
その他の強化材
ガラス繊維:日本電気硝子(株)製 T−275H
ワラストナイト:キンセイマテック(株)製 FPW800
【0034】
スチレン−グリシジルアクリレート系共重合体(E)
E1:グリシジルメタクリレート6〜10モル%を含むスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体 東亜合成製 アルフォンUG4050
E2:グリシジルメタクリレート14〜18モル%を含むスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体 東亜合成製 アルフォンUG4070
E3:グリシジルメタクリレート23〜27モル%を含むスチレン−グリシジルアクリレート系共重合体 BASF製 ジョンクリルADR4300S
【0035】
[実施例1〜9、比較例1〜8]
評価サンプルの製造は、表1、表2に示した結晶性ポリアミド系樹脂組成物の配合割合で、(D)以外の各原料を計量し、タンブラーで混合した後、二軸押出機に投入した。二軸押出機の設定温度は250℃〜300℃、混錬時間は5〜10分とした。(D)はサイドフィードで、溶融樹脂に直接添加した。得られたペレットは、射出成形機で各種の評価サンプルを成形した。射出成形機のシリンダー温度は、280℃〜300℃、金型温度は60℃とした。
【0036】
各種の評価方法は以下の通りである。評価結果を表1、表2に示した。
1.ポリアミド樹脂の相対粘度(96%硫酸溶液法)
ウベローデ粘度管を用い、25℃において96質量%硫酸溶液で、ポリアミド樹脂濃度1g/dlで測定した。
2.比重
JIS−Z8807に準じて測定した。
3.ポリアミド樹脂の融点
示差走査熱量計 セイコーインスツルメンツ株式会社 EXSTAR 6000を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、吸熱ピーク温度を求めた。
4.曲げ強度、曲げ弾性率
ISO178に準じて測定した。
【0037】
5.摺動耐久性(表面外観)
自動車用ドアチェックアームを成形し、摺動相手材としてポリアセタール(AW09 ポリプラスチクス社製ポリアセタール)で成形されたシューを含むチェックケースと30,000回の往復開閉試験を行った。ドアチェックアームの引き抜き時最大荷重800N、ポリアセタールのシューのドアチェックアームへの荷重が700Nの条件で実施し、1回目と30,000回目の外観で評価し、摺動面の外観の荒れ肌等について目視評価を行い、大きな変化がなければ合格(○)、荒れ肌等の変化があれば不合格(×)とした。
6.硬さ
曲げ弾性率から、3.0GPa以上を(○)、3.0GPa未満を(×)と判断した。
7.総合評価
比重が1.20以下、曲げ強度が100MPa以上、摺動耐久性が(○)、及び硬さが(○)であれば、総合評価(○)、一つでも満たさない場合は(×)とした。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
実施例1〜9はいずれも、比重は、強化材を含まない組成物とほぼ等しく、曲げ弾性率は3GPa以上あり硬さが改良されており、さらに摺動耐久性等がいずれも良好であった。また、実施例6、実施例7は細い径の炭素繊維を使用した組成物であるが、炭素繊維添加量に対して曲げ強度、曲げ弾性率が高くなっている特長がある。これらも摺動耐久性が、評価基準をクリヤーしている。
実施例7では、炭素繊維種、量とともに変性ポリエチレンの添加量を増加させた組成物だが、物性、摺動耐久性、いずれも良好な結果であった。
一方、比較例1、2は、ポリアミド66と変性ポリエチレンのみからなる組成物である。これらは、弾性率が低く、高荷重設定のチェッカー耐久試験では耐久性が不足した。比較例3、8は、硬さを上げるべく強化材を添加しているが、いずれも比重が大きくなり、ワラストナイトでは弾性率が上がらない結果であり、ガラス繊維では弾性率は向上するが耐久試験において悪い結果となった。比較例4,5は、高粘度ポリアミド66で、炭素繊維もポリエチレンも入ってない例であり、この場合は、弾性率低く耐久性も悪い。比較例7はポリアミド66の粘度が低い例で、比較例6は変性ポリエチレンが添加されていない例であるが、いずれの水準もチェッカー耐久試験で不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は結晶性ポリアミド樹脂の持つ優れた機械的特性、耐熱性、耐薬品性を損なうことなく、優れた摺動耐久性を付与し、かつ高い荷重にも変形しない、比重の軽い結晶性ポリアミド系樹脂組成物を提供することが出来る。特に、高荷重で数万回の繰り返し摺動に対し表面外観の変化が小さいので、自動車用のドアチェッカー部品として最適である。
また、高荷重の繰り返し摺動が必要な自動車や電気分野でのギヤー、ブッシュ等の機構摺動部品として、幅広い分野で使用することが出来るので、産業界に寄与することが大である。