特許第6172307号(P6172307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6172307-タイヤ用ゴム組成物 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6172307
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20170724BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20170724BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20170724BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20170724BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20170724BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170724BHJP
   C08F 236/06 20060101ALN20170724BHJP
   C08J 5/00 20060101ALN20170724BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L45/00
   C08L25/08
   C08K3/36
   C08L91/00
   B60C1/00 Z
   B60C1/00 A
   !C08F236/06
   !C08J5/00CEQ
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-19912(P2016-19912)
(22)【出願日】2016年2月4日
【審査請求日】2017年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】高木 亮佑
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/093316(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
B60C 1/00
C08K 3/36
C08L 25/08
C08L 45/00
C08L 91/00
C08F 236/06
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエンゴム20〜40質量%および他のジエン系ゴム80〜60質量%からなるゴム成分100質量部に、軟化点が100℃以上の芳香族変性テルペン樹脂およびオイルを合計で45〜65質量部、シリカおよびカーボンブラックを含む充填剤を50〜120質量配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記他のジエン系ゴム100質量%中、乳化重合スチレンブタジエンゴムを90質量%以上含み、かつ前記乳化重合スチレンブタジエンゴムが、結合スチレン量が30質量%以下である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1および結合スチレン量が35質量%以上である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2からなり、前記E−SBR1が前記乳化重合スチレンブタジエンゴム100質量%中の85〜92質量%を占めると共に、前記ブタジエンゴムの配合量(WB)と前記芳香族変性テルペン樹脂の配合量(WT)の比(WB/WT)が0.5〜3.0であり、前記充填剤中、CTAB比表面積が120〜180m2/gであるシリカが10質量%以上であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物を使用したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの転がり抵抗を低減すると共に、ウェットグリップ性能、雪上性能および加工性を向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化を抑制するため、環境に配慮した空気入りタイヤが求められている。このためタイヤの転がり抵抗を低減し燃費性能を向上することが必要になる。またオールシーズン用空気入りタイヤには、積雪路面を走行するときの雪上性能と、非積雪路面(湿潤路面や乾燥路面)を走行するときのウェット性能や耐摩耗性に優れることが要求される。
【0003】
転がり抵抗を低減する手法としては、例えば、タイヤを構成するゴム組成物中のカーボンブラックの配合量を減少したり、ポリマーとしてガラス転移温度の低いものを利用したりすることが知られている。しかし、このようなゴム組成物は転がり抵抗を低減する効果は得られるものの、タイヤの重要な基本特性であるグリップ性能、特にウェットグリップ性能が低下したり、引張り破断伸びが低下して耐カット性や耐チッピング性などのタイヤ耐久性が悪化したりする虞があった。
【0004】
特許文献1は、ブタジエンゴム、結合スチレン量が35重量%以上である乳化重合スチレンブタジエンゴム、芳香族変性テルペン樹脂を配合したタイヤ用ゴム組成物により、燃費性能とウェットグリップ性能および耐摩耗を改良することを提案している。しかしながら、このタイヤ用ゴム組成物は積雪路面を走行するときの雪上性能が不充分であり、またゴム組成物の加工性についても改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2015/093316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するため、空気入りタイヤの転がり抵抗を低減すると共に、ウェットグリップ性能、雪上性能および加工性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴム20〜40質量%および他のジエン系ゴム80〜60質量%からなるゴム成分100質量部に、軟化点が100℃以上の芳香族変性テルペン樹脂およびオイルを合計で45〜65質量部、シリカおよびカーボンブラックを含む充填剤を50〜120質量配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記他のジエン系ゴム100質量%中、乳化重合スチレンブタジエンゴムを90質量%以上含み、かつ前記乳化重合スチレンブタジエンゴムが、結合スチレン量が30質量%以下である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1および結合スチレン量が35質量%以上である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2からなり、前記E−SBR1が前記乳化重合スチレンブタジエンゴム100質量%中の85〜92質量%を占めると共に、前記ブタジエンゴムの配合量(WB)と前記芳香族変性テルペン樹脂の配合量(WT)の比(WB/WT)が0.5〜3.0であり、前記充填剤中、CTAB比表面積が120〜180m2/gであるシリカが10質量%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物によれば、ブタジエンゴム、結合スチレン量が30質量%以下である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1および結合スチレン量が35質量%以上である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2からなるゴム成分100質量部に軟化点が100℃以上の芳香族変性テルペン樹脂およびオイルを合計で45〜65質量部、シリカおよびカーボンブラックを含む充填剤を50〜120質量配合し、E−SBR1が乳化重合スチレンブタジエンゴム100質量%中の85〜92質量%を占めると共に、ブタジエンゴムの配合量(WB質量部)と芳香族変性テルペン樹脂の配合量(WT質量部)との比(WB/WT)を0.5〜3.0、充填剤中CTAB比表面積が120〜180m2/gのシリカを10質量%以上にしたので、空気入りタイヤにしたとき、転がり抵抗を低減すると共に、ウェットグリップ性能、雪上性能および加工性を従来レベル以上に向上することができる。
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、転がり抵抗を低減すると共に、ウェットグリップ性能および雪上性能を向上することができる。また加工性が良好なタイヤ用ゴム組成物を用いて生産されるので、上述した高品質のタイヤを安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤの実施形態の一例を示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に例示された空気入りタイヤは、トレッド部1、サイドウォール部2及びビード部3を有し、左右のビード部3,3間にカーカス層4が装架され、その両端部がビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返されている。トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ径方向外側にはベルト層6が配置され、このベルト層6の外側にトレッドゴム7が配置される。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、トレッドゴム7やサイドウォール部2に、好適に使用することができる。なかでもトレッドゴム7に使用するとよい。
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分は、ブタジエンゴム、結合スチレン量が30質量%以下である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1および結合スチレン量が35質量%以上である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2を必ず含む。ブタジエンゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるブタジエンゴムを使用することができる。ブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100質量%中20〜40質量%、好ましくは24〜38質量%、より好ましくは28〜36質量%にする。ブタジエンゴムの含有量が20%未満であると転がり抵抗が大きくなり、また雪上制動性能(雪上性能)が悪化する。またブタジエンゴムの含有量が40質量%を超えるとウェットグリップ性能が低下し、また加工性が低下する。
【0014】
本発明においてゴム成分は、ブタジエンゴム20〜40質量%および他のジエン系ゴム80〜60質量%からなる。他のジエン系ゴムは乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1およびE−SBR2を必ず含み、任意に天然ゴム、イソプレンゴム、溶液重合スチレンブタジエンゴム、結合スチレン量が30質量%を超え35質量%未満の乳化重合スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等を含むことができる。
【0015】
他のジエン系ゴムは、乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1およびE−SBR2を合計で、ジエン系ゴム100質量%中、90質量%以上、好ましくは94〜100質量%、より好ましくは98〜100質量%含む。乳化重合スチレンブタジエンゴムを含有することにより、タイヤ用ゴム組成物の加工性、ウェットグリップ性能、雪上性能、耐摩耗性およびコストの総合バランスが良好になる。
【0016】
乳化重合スチレンブタジエンゴムとしては、結合スチレン量30質量%以下の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1および結合スチレン量35質量%以上の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2を必ず含む。本明細書において、結合スチレン量は赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。
【0017】
結合スチレン量30質量%以下の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1を含有することにより、雪上性能を改良することができる。また加工性を良好にすることができる。乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1の含有量は、乳化重合スチレンブタジエンゴム100質量%中の85〜92質量%、好ましくは86〜91質量%、より好ましくは87〜90質量%にする。乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1の含有量が85質量%未満であると雪上性能を改良する効果が十分に得られない。また乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1の含有量が92質量%を超えるとウェットグリップ性能が悪化する。
【0018】
また結合スチレン量が35質量%以上である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2を含有することにより、ウェットグリップ性能を改良することができる。乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2の含有量は、乳化重合スチレンブタジエンゴム100質量%中の15〜8質量%、好ましくは14〜9質量%、より好ましくは13〜10質量%にする。乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2の含有量が15質量%を超えると雪上性能を改良する効果が十分に得られない。また乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2の含有量が8質量%未満であるとウェットグリップ性能が悪化する。
【0019】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族変性テルペン樹脂を配合することにより、ウェットグリップ性能を向上する。これは芳香族変性テルペン樹脂が、シリカ、カーボンブラック等の充填剤の分散性を良好にすると共に、充填剤とジエン系ゴムとの相溶性を一層改良するからである。
【0020】
芳香族変性テルペン樹脂としては、その軟化点が100℃以上、好ましくは120〜170℃である芳香族変性テルペン樹脂を配合する。芳香族変性テルペン樹脂の軟化点が100℃未満であると、ウェット性能を改良する効果が十分に得られない。本明細書において、芳香族変性テルペン樹脂の軟化点は、JIS K6220−1(環球法)に基づき測定するものとする。
【0021】
芳香族変性テルペン樹脂の配合量は、ブタジエンゴムの配合量をWB質量部、芳香族変性テルペン樹脂の配合量をWT質量部とするとき、両者の比(WB/WT)が0.5〜3.0、好ましくは1.0〜2.5になるように調節する。ブタジエンゴムと芳香族変性テルペン樹脂の配合量の比(WB/WT)が0.5未満であると、転がり抵抗が大きくなると共に、雪上性能が悪化する。また配合量の比(WB/WT)が3.0を超えると、ウェットグリップ性能が低下する。また雪上性能を改良する効果も却って縮小する。
【0022】
本発明において、芳香族変性テルペン樹脂としては、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネンなどのテルペンとスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンのうち少なくとも一つの芳香族化合物とを重合させて得られる芳香族変性テルペン樹脂が好ましく用いられる。
【0023】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、適量のオイルを配合する。オイルとしては、アロマオイル、プロセスオイル等のタイヤ用ゴム組成物に通常配合されるオイルや、乳化重合スチレンブタジエンゴムや溶液重合スチレンブタジエンゴムに添加されている油展成分が挙げられる。本明細書においてオイルの配合量は、乳化重合スチレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴムに含まれている油展オイルおよび後添加するオイル成分の合計をいう。オイル成分の配合量は、オイルおよび芳香族変性テルペン樹脂の合計が、ゴム成分100質量部に対し45〜65質量部、好ましくは50〜60質量部になるように決められる。芳香族変性テルペン樹脂およびオイルの合計が、45質量部未満であるとウェットグリップ性能が低下すると共に、加工性が悪化する。また芳香族変性テルペン樹脂およびオイルの合計が、65質量部を超えると転がり抵抗が悪化する。
【0024】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、充填剤を配合することにより、転がり抵抗を低くしながら、ウェットグリップ性能およびタイヤ耐久性を改良することができる。
【0025】
充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し50〜120質量部、好ましくは60〜90質量部にする。充填剤の配合量が50質量部未満であるとウェットグリップ性能が低下する。また充填剤の配合量が120質量部を超えると転がり抵抗を低減する効果が十分に得られない。
【0026】
充填剤として、シリカを配合することにより、タイヤにしたとき転がり抵抗を低減することができる。シリカの配合量は、全充填剤中、10質量%以上、好ましくは、10〜40質量%にする。シリカの配合量が10質量%未満であると転がり抵抗を低減する効果が十分に得られない。
【0027】
またシリカとしては、CTAB比表面積を120〜180m2/g、好ましくは140〜170m2/gにする。シリカのCTAB比表面積が120m2/g未満であると、ウェット性能が悪化し、耐摩耗性も悪化する。またシリカのCTAB比表面積が180m2/gを超えると、転がり抵抗を低減する効果が十分に得られない。本明細書において、シリカのCTAB比表面積はJIS K6217−3により測定するものとする。
【0028】
本発明において、シリカの種類として、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。このようなシリカは、市販のシリカの中から適宜選択して使用することが出来る。
【0029】
また、シリカと共にシランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を改良することができ好ましい。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し、好ましくは3〜15質量%、より好ましくは4〜10質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量が3質量%未満であると、シリカの分散性を十分に改良することができない。また、シランカップリング剤の配合量が15質量%を超えると、シランカップリング剤同士が凝集・縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0030】
シランカップリング剤の種類としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましい。硫黄含有シランカップリング剤としては、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0031】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、充填剤としてシリカおよびカーボンブラックを含む。カーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物の強度を改良し、タイヤにしたときタイヤ耐久性を改良することができる。これら他の充填剤は一つの種類を使用することができる。また複数種を組み合わせて使用することができる。またシリカおよびカーボンブラック以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填剤としては、クレイ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ等を例示することができる。
【0032】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0033】
タイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部を構成することができる。このタイヤ用ゴム組成物は、これらの部位から選ばれる少なくとも一か所に使用するとよい。なかでもトレッド部を構成するのが好ましい。本発明のタイヤ用ゴム組成物をこれらの部位に使用した空気入りタイヤは、転がり抵抗を低減し燃費性能を向上可能にすると共に、雪上制動性能、耐カット性や耐チッピング性及びウェットグリップ性能を従来レベル以上に向上することが出来る。
【0034】
上述したタイヤ用ゴム組成物をトレッド部やサイドウォール部に使用した空気入りタイヤは、オールシーズン用空気入りタイヤとすることが好ましい。本発明の空気入りタイヤは、転がり抵抗を低減すると共に、ウェットグリップ性能および雪上性能を従来レベル以上に向上することができる。また加工性が良好なタイヤ用ゴム組成物を用いて生産されるので、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能および雪上性能に優れた高品質のオールシーズンタイヤを安定的に得ることができる。
【0035】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
表1、2に示す配合からなる18種類のゴム組成物(実施例1〜8、標準例、比較例1〜9)を、それぞれ硫黄及び加硫促進剤を除く配合成分を秤量し、16Lのバンバリーミキサーで5分間混練し、これを放出し室温冷却した。これをオープンロールに供給し硫黄及び加硫促進剤を加え混合し、タイヤ用ゴム組成物を調製した。表1,2において、スチレンブタジエンゴムE−SBR−1、E−SBR−2およびS-SBRは油展成分を含むため、括弧内にSBRとしての正味の配合量を併記した。表1,2において、ブタジエンゴムおよび芳香族変性テルペン樹脂の配合量をWBおよびWTとし、質量比(WB/WT)を記載した。また全ての乳化重合スチレンブタジエンゴム100質量%中の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR−1の質量分率を「E-SBR-1の分率(質量%)」として記載した。更にE−SBR−1、E−SBR−2およびS-SBRの油展成分、プロセスオイルおよび芳香族変性テルペン樹脂の合計を「芳香族変性テルペン樹脂およびオイルの合計(質量部)」の欄に記載した。
【0037】
得られた18種類のゴム組成物のムーニー粘度を下記の方法で測定した。また得られた18種類のゴム組成物を使用して、それぞれ所定形状の金型中で、160℃、20分間加硫して加硫ゴムシートを作製し、下記の方法により動的粘弾性を測定し、転がり抵抗、ウェットグリップ性能および雪上性能の指標にした。
【0038】
ムーニー粘度
得られたゴム組成物のムーニー粘度をJIS K6300−1:2001に準拠して、ムーニー粘度計にてL形ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃の条件で測定した。得られた結果は、標準例の値を100とする指数で表わし表1,2の「加工性」の欄に示した。この指数が小さいほどムーニー粘度が低く、加工性が良好であることを意味する。
【0039】
動的粘弾性;60℃および0℃tanδ並びに−10℃のE'
得られた加硫ゴムシートの動的粘弾性を、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定し、温度60℃および0℃におけるtanδ、並びに−10℃のE'を求めた。得られた結果は、それぞれ標準例の値を100とする指数にしてとして表1,2の「転がり抵抗」「ウェットグリップ性能」「雪上制動性能」の欄に記載した。「転がり抵抗」の指数が小さいほどtanδ(60℃)が小さく、タイヤにしたときに転がり抵抗性が小さく燃費性能が優れることを意味する。「ウェットグリップ性能」の指数が大きいほどtanδ(0℃)が大きく、タイヤにしたときにウェットグリップ性能が優れることを意味する。また「雪上制動性能」の指数が小さいほどE'(−10℃)が小さく、タイヤにしたときに雪上制動性能が優れることを意味する。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
なお、表1、2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
・E−SBR−1:乳化重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1723、結合スチレン量が23.4質量%、油展成分を37.5質量部含む。
・E−SBR−2:乳化重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1739、結合スチレン量が38.9質量%、油展成分を37.5質量部含む。
・S−SBR:溶液重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol NS460、結合スチレン量が26.1質量%、油展成分を37.5質量部含む。
・カーボンブラック:キャボットジャパン社製ショウブラック339
・シリカ−1:ローディア社製Zeosil 1165MP(CTAB比表面積155m2/g)
・シリカ−2:ローディア社製Zeosil 115GR(CTAB比表面積110m2/g)
・カップリング剤:硫黄含有シランカップリング剤、エボニック デグッサ社製Si69
・芳香族変性テルペン樹脂:ヤスハラケミカル社製YSレジンTO−125、軟化点125℃
・プロセスオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:フレキシス社製6PPD
・加硫促進剤−1:大内新興化学社製ノクセラーCZ−G
・加硫促進剤−2:住友化学社製ソクシノールD−G
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
【0043】
表1、2の結果から明らかなように実施例1〜8のタイヤ用ゴム組成物は、いずれも標準例のタイヤ用ゴム組成物と比べ、転がり抵抗性能を低減すると共に、ウェットグリップ性能および雪上制動性能を向上することが出来る。またタイヤ用ゴム組成物のムーニー粘度も小さく加工性も良好である。
【0044】
一方、表1の結果から明らかなように、比較例1のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムの含有量が40質量%を超えるので、加工性およびウェットグリップ性能が劣る。
比較例2のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムの含有量が20質量%未満であるので、転がり抵抗が大きく、雪上制動性能が劣る。
【0045】
比較例3のタイヤ用ゴム組成物は、結合スチレン量が30質量%以下の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR−1の代わりに、結合スチレン量が30質量%以下の溶液重合スチレンブタジエンゴムS−SBRを含むので、加工性が劣る。
【0046】
比較例4のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムと芳香族変性テルペン樹脂の質量比(WB/WT)が0.5未満であるので、転がり抵抗が大きく、雪上制動性能が劣る。
【0047】
比較例5のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムと芳香族変性テルペン樹脂の質量比(WB/WT)が3.0を超えるので、ウェットグリップ性能および雪上制動性能が劣る。
【0048】
比較例6のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族変性テルペン樹脂およびオイルの合計が45質量部未満であるので、加工性およびウェットグリップ性能が劣る。
【0049】
比較例7のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族変性テルペン樹脂およびオイルの合計が65質量部を超えるので、転がり抵抗が大きくなる。
【0050】
比較例8のタイヤ用ゴム組成物は、結合スチレン量が35質量%以上の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR−2を配合しないので、ウェットグリップ性能が劣る。
【0051】
比較例9のタイヤ用ゴム組成物は、結合スチレン量が30質量%以下の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR−1を配合しないので、転がり抵抗が大きくなり、雪上制動性能が劣る。
【符号の説明】
【0052】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
【要約】
【課題】空気入りタイヤの転がり抵抗を低減すると共に、ウェットグリップ性能、雪上性能および加工性を従来レベル以上に向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ブタジエンゴム20〜40質量%及び結合スチレン量30質量%以下の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1及び結合スチレン量35質量%以上の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2を含む他のジエン系ゴム80〜60質量%からなるゴム成分100質量部に、軟化点が100℃以上の芳香族変性テルペン樹脂及びオイルを合計で45〜65質量部配合し、前記E−SBR1が乳化重合スチレンブタジエンゴム100質量%中の85〜92質量%を占め、前記ブタジエンゴムの配合量(WB)と前記芳香族変性テルペン樹脂の配合量(WT)の比(WB/WT)が0.5〜3.0である。
【選択図】図1
図1