【実施例】
【0077】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0078】
実施例1:小胞体ストレス調節剤のスクリーニング
小胞体ストレスの調節に関与するmiRNAのスクリーニングをマイクロアレイ解析により行った。具体的には下記の様に行った。
【0079】
[miRNAマイクロアレイ]
野生型のマウスの胎児(C57BL/6)、又は小胞体ストレス経路のメディエーター因子(ATF4、XBP1、ATF6α、又はATF6β)がノックアウトされたマウスの胎児から線維芽細胞を分離した(分離された細胞を、以下「マウス胎児線維芽細胞」若しくは「MEFs」と示すこともある)。なお、ATF4ノックアウトマウスは、公知の方法(例えばMol Cell 6, 1099-1108(2000)に記載の方法)に従って作成し、XBP1ノックアウトマウスは、公知の方法(例えばMol Cell Biol 23, 7448-7459(2003)に記載の方法)に従って作成し、ATF6αノックアウトマウス及びATF6βノックアウトマウスは、公知の方法(例えばDev Cell 13, 365-376(2007)に記載の方法)に従って作成した。ノックアウトマウス各マウス胎児線維芽細胞それぞれを培養している培地に、ツニカマイシンを、培地中での濃度が2μg/mlになるように加えて、さらに12時間又は24時間培養を続けることによりツニカマイシン処理した。このようにして得られたツニカマイシン処理済の各マウス胎児線維芽細胞及びツニカマイシン未処理の各マウス線維芽細胞から、グアニジンチオシアネートを用いて定法に従ってtotalRNAを抽出した。抽出されたtotalRNA中のmiRNAを、「miRNA Complete Labeling Kit」(Agilent Technologies)を用いてラベリングした。ラベリングされたmiRNAと、「Mouse miRNA Microarray Kit V2」(Agilent Technologies)に含まれる各種miRNA検出用のマイクロアレイスライドとをハイブリダイズさせ、その後マイクロアレイスライドを洗浄した。なお、ハイブリダイズ及び洗浄の条件は、「miRNA Complete Labeling Kit」の説明書に記載の方法に従って行った。洗浄後のマイクロアレイスライドを、「Agilent G2565 microarray scanner」(Agilent Technologies)を用いてスキャンし、スキャンされた画像から、「Feature Extraction」(Agilent Technologies)を用いてデータを抽出した。
【0080】
[データ解析]
miRNAマイクロアレイにより得られたデータから、
(基準a)野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン未処理)における発現量を1とした場合の、野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量が、「2」以上であったmiRNAであり、且つ(基準b)小胞体ストレスのメディエーター因子がノックアウトされたマウスの胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量を1とした場合の、野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量が、「2」以上であったmiRNA、及び
(基準c)野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン未処理)における発現量を1とした場合の、野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量が、「0.5」以下であったmiRNAであり、且つ(基準d)小胞体ストレスのメディエーター因子がノックアウトされたマウスの胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量を1とした場合の、野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量が、「0.5」以下であったmiRNA
を選別した。
【0081】
[結果]
結果を表3に示す。表3中、「WT 12h/WT UT」は、野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン未処理)における発現量を1とした場合の、野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシンで12時間処理済み)における発現量を示し、「WT 12h/KO 12h」は、表2の左から2列目に記載の小胞体ストレスのメディエーター因子がノックアウトされたマウスの胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量を1とした場合の、野生型マウス胎児線維芽細胞(ツニカマイシン処理済み)における発現量を示す。また、「up」は上記基準a及び基準bを満たしたmiRNAを示し、「down」は上記基準c及び基準dを満たしたmiRNAを示す。また、「Accession No.」、「ID」、及び「sequence」は、選別されたmiRNAの、miRNAデータベースである「miRBase」(2012年9月28日時点のURL:http://www.mirbase.org/)におけるAccession No.、ID、及び登録された塩基配列を示す。
【0082】
表3に示されるように、小胞体ストレス(ツニカマイシン処理)により、ATF4依存的に発現量が上昇するmiRNAとしてmiR-193b、及びmiR-423が選別され、ATF6β依存的に発現量が上昇するmiRNAとしてmiR-15b、miR-20b、及びmiR-92aが選別され、ATF4依存的に発現量が減少するmiRNAとしてmiR-199a*が選別され、XBP1依存的に発現量が減少するmiRNAとしてmiR-23a、miR-27a、miR-29b、miR-181b、miR-196a、miR-221、及びmiR-24-2が選別され、ATF6α依存的に発現量が減少するmiRNAとしてmiR-26a、miR-27b、及びmiR-143が選別された(表3中、「WT 12h/WT UT」及び「WT 12h/KO 12h」、或いは「WT 24h/WT UT」及び「WT 24h/KO 24h」を参照)。
【0083】
ATF4、XBP1、ATF6α、及びATF6βは、小胞体ストレスに対して、細胞内の小胞体機能を維持(小胞体ストレスを緩和)するための遺伝子発現の変化を仲介するメディエーターであることが知られている。したがって、これらの小胞体ストレスメディエーター依存的に小胞体ストレスによる発現量が上昇するmiR-193b、miR-423、miR-15b、miR-20b、及びmiR-92aについては、その発現量の上昇が小胞体ストレスを抑制する働きを有し、逆にその発現量の減少又は機能の低下が小胞体ストレスを誘導する働きを有することを示す。これに対して、これらの小胞体ストレスメディエーター依存的に小胞体ストレスによる発現量が減少するmiR-199a*、miR-23a、miR-27a、miR-29b、miR-181b、miR-196a、miR-221、miR-26a、miR-27b、miR-143、及びmiR-24-2については、その発現量の減少又は機能の低下が小胞体ストレスを抑制する働きを有し、逆にその発現量の上昇が小胞体ストレスを誘導する働きを有することを示す。
【0084】
すなわち、今回選別されたmiRNAの発現量を上昇させること、又は該miRNAの発現量を減少させることもしくは該miRNAの機能を阻害することにより、小胞体ストレスを調節(抑制又は誘導)できることが示された。より具体的には、miR-193b、miR-423、miR-15b、miR-20b、及びmiR-92aの発現量を上昇させること、及びmiR-199a*、miR-23a、miR-27a、miR-29b、miR-181b、miR-196a、miR-221、miR-26a、miR-27b、miR-143、及びmiR-24-2の発現量を減少させること又は機能を阻害することにより、小胞体ストレスを抑制できること、並びにmiR-193b、miR-423、miR-15b、miR-20b、及びmiR-92aの発現量を減少させること又は機能を阻害すること、及びmiR-199a*、miR-23a、miR-27a、miR-29b、miR-181b、miR-196a、miR-221、miR-26a、miR-27b、miR-143、及びmiR-24-2の発現量を上昇させることにより、小胞体ストレスを誘導できることが示された。
【0085】
【表3】
【0086】
実施例2: miR-23aクラスター上のmiRNA(miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2)の小胞体ストレスの調節への関与
上記実施例1で選別された、同一クラスター(miR-23aクラスター)上に存在するmiRNA(miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2)について、小胞体ストレスによる発現量の変化を、RT-qPCRによってより詳細に解析した。具体的には下記の様に行った。
【0087】
[RT-qPCR]
実施例1と同様にして得られた、ツニカマイシン未処理若しくはツニカマイシン処理済みの野生型マウス胎児線維芽細胞、又はツニカマイシン未処理若しくはツニカマイシン処理済みの、XBP1がノックアウトされたマウスの胎児線維芽細胞から、「mirVana miRNA Isolation Kit」(Applied Biosystems)を用いてmiRNAを抽出した。抽出されたmiRNAに、公知の方法に従ってpoly(A) tailを付加した。poly(A) tail付加済みのmiRNAから、「ReverTra Ace qPCR RT Kit」(Toyobo)を用いてオリゴdTプライマーにより逆転写を行った。miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2をそれぞれ検出するプライマーを用いてqPCRを行った。なお、qPCR用の装置としては「7900HT Fast Real-Time PCR System」(Life Technologies)を使用した。miRNA検出用プライマーの配列と配列番号を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
[結果]
結果を
図1に示す。miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2全てにおいて、野生型マウス胎児線維芽細胞(
図1中、XBP1 WT)においてはツニカマイシン処理(Tun+)による発現量の現象が観察され、XBP1ノックアウトマウスの胎児線維芽細胞においてはツニカマイシン処理(Tun+)による発現量の減少は観察されなかった。このことは、miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2全て、小胞体ストレスによって、XBP1依存的に発現量が減少することを強く示す。
【0090】
実施例3:小胞体ストレスの誘導
miR-23aクラスター上に存在するmiRNA(miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2)を過剰発現することにより、小胞体ストレスの誘導実験を行った。
【0091】
実施例3-1:miR-23aクラスター過剰発現による、遺伝子発現の変化
miR-23aクラスターを過剰発現させ、小胞体ストレス関連遺伝子の発現量を測定した。具体的には下記の様に行った。
【0092】
[miR-23aクラスター発現ベクターの調製]
制限酵素サイトを付加したプライマーを用いたPCRにより、マウスゲノムDNAを鋳型DNAとして、miR-23aクラスターのDNA領域を増幅した。用いたプライマー配列を下記表5に示す。増幅されたDNA断片を、プライマーに付加された制限酵素サイトを利用して、pCDF1-MCS2-EF1-Puro lentiviral expression vector(System Biosciences)にクローニングした。
【0093】
【表5】
【0094】
[miR-23aクラスターの過剰発現]
miR-23aクラスター発現ベクターを、定法に従ってCOS7細胞に導入した。導入試薬としては、polyethylenimine(Polysciences)を用いた。導入細胞を、実施例1と同様にツニカマイシン処理した。miR-23aクラスター発現ベクターを導入していない細胞(ツニカマイシン未処理)、miR-23aクラスター発現ベクターを導入していない細胞(ツニカマイシン処理済み)、miR-23aクラスター発現ベクターをベクターが導入された細胞(ツニカマイシン未処理)、及びmiR-23aクラスター発現ベクターをベクターが導入された細胞(ツニカマイシン処理済み)のそれぞれについて、実施例2と同様にmiR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2の発現量を定量した。
【0095】
[小胞体ストレス関連遺伝子の発現量の測定]
miR-23aクラスター発現ベクターを導入していない細胞(ツニカマイシン未処理)、miR-23aクラスター発現ベクターを導入していない細胞(ツニカマイシン処理済み)、miR-23aクラスター発現ベクターをベクターが導入された細胞(ツニカマイシン未処理)、及びmiR-23aクラスター発現ベクターをベクターが導入された細胞(ツニカマイシン処理済み)のそれぞれから、グアニジンチオシアネートを用いてtotalRNAを抽出した。抽出されたtotalRNA中の、小胞体ストレス関連遺伝子(Dnajb9、Derl1、Park2、Bet1、Ssr3、Mcfd2、Slc7a11、及びElovl3)のmRNA量を、実施例2と同様に定量した。用いたプライマー配列を表6に示す。
【0096】
【表6】
【0097】
[結果]
結果を
図2に示す。
図2中、上段は、miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2の発現量の定量結果を示す。この結果より、miR-23aクラスター発現ベクターを導入していない細胞(
図2中、「mock」)と比べて、miR-23aクラスター発現ベクターの導入細胞(
図2中、「miR-23a cl.」)においてmiR-23aクラスター(miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2)の発現量の上昇、すなわちこれらのmiR-23aクラスターが過剰発現していることが示された。また、
図2中、中段及び下段は、小胞体ストレス関連遺伝子の発現量の定量結果を示す。この結果より、miR-23aクラスター過剰発現(
図2中、「miR-23a cl.」)により、タンパク質の折りたたみに関与するDnajb9、小胞体内に蓄積した異常タンパク質の分解に関与するDerl1及びPark2、タンパク質の輸送に関与するBet1、Ssr3、Mcfd2、及びSlc7a11、並びにタンパク質代謝に関与するElovl3の発現量が減少することが示された。
【0098】
実施例3-2:miR-23aクラスター過剰発現の、細胞死への影響
miR-23aクラスターを過剰発現させ、改変MTTアッセイにより細胞増殖効率の変化を測定した。さらに、miR-23aクラスターを過剰発現した細胞をツニカマイシンで処理し、アポトーシスの有無を観察した。具体的には下記の様に行った。
【0099】
[改変MTTアッセイ]
実施例3-1と同様にmiR-23aクラスター発現ベクターをCOS7細胞に導入した。導入した日を0日目とし、導入後2日目に、miR-23aクラスター発現ベクター導入細胞、及び該ベクターを導入していない細胞の細胞数を同一に調整し、培養プレート上に播種した。さらに培養を続け、導入後3日目、4日目、及び5日目に細胞を回収し、「Cell Counting Kit-8」(Dojin)を用いて改変MTTアッセイを行い、細胞数を測定した。
【0100】
[アポトーシスの有無の観察]
実施例3-1と同様にmiR-23aクラスター発現ベクターをCOS7細胞に導入した。ベクターが導入された細胞の培養培地に、ツニカマイシンを、培地中の濃度が0.1μg/mlになるように添加し、さらに36時間培養した。培養後の細胞をHoecst 33258(死細胞(アポトーシス細胞)の各のみを染色するが、生細胞の核は染色しない)で染色し、「DMI6000B fluorescent microscope」(Leica)を用いて、蛍光観察した。
【0101】
[結果]
改変MTTアッセイの結果を
図3の左側(a)に示す。この結果より、miR-23aクラスター発現ベクターをベクターが導入された細胞(
図3中、「miR-23a cl.」)は、該ベクターを導入していない細胞(
図3中、「mock」)よりも、細胞増殖速度が遅いこと、すなわちmiR-23aクラスターの過剰発現により、細胞増殖が抑制されることが示された。また、アポトーシスの有無の観察結果を
図3の右側(b)に示す。この結果より、miR-23aクラスター発現ベクターをベクターが導入された細胞においては、低濃度でのツニカマイシン処理でさえアポトーシスを誘導することが示された。
【0102】
実施例3-3:miR-23aクラスター過剰発現による、小胞体ストレスを示すタンパク質の発現変化
miR-23aクラスターを過剰発現させ、小胞体ストレスマーカーであるBiPタンパク質の発現及びeIF2αのリン酸化をイムノブロッティングにより検出した。具体的には下記の様に行った。
【0103】
[イムノブロッティング]
実施例3-1と同様にmiR-23aクラスター発現ベクターをCOS7細胞に導入した。ベクターが導入された細胞の培養培地に、ツニカマイシンを、培地中の濃度が2μg/mlになるように添加し、さらに9時間培養した。培養後、回収した細胞を、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含むRIPAバッファー中で溶解し、定法に従ってイムノブロッティングを行った。なお、1次抗体としては、BiPタンパク質検出用としてanti-KDES(M181-3, MBL)を使用し、eIF2αタンパク質検出用としてanti-eIF2α(sD-7629, Santa Cruz)を使用し、リン酸化eIF2αタンパク質検出用としてanti-phospho-eIF2α(#3398, Cell Signaling)を使用した。
【0104】
[結果]
結果を
図4に示す。
図4中、「miR-23a cl.」が「+」で「Tun(ツニカマイシン)が「−」のサンプルにおけるBiPタンパク質及びリン酸化eIF2αの量は、「miR-23a cl.」が「−」で「Tun(ツニカマイシン)が「+」のサンプルにおけるBiPタンパク質及びリン酸化eIF2αの量と同程度であった。このことから、miR-23aクラスターの過剰発現により、ツニカマイシンと同程度に小胞体ストレスが惹起されることが示された。
【0105】
実施例3-4:miR-23aクラスター過剰発現による、アグリソーム中の変性タンパク質の増加
miR-23aクラスターを過剰発現させ、アグリソーム中の変性タンパク質を染色することにより検出した。具体的には下記の様に行った。
【0106】
[アグリソーム中の変性タンパク質の検出]
実施例3-1と同様にmiR-23aクラスター発現ベクターをCOS7細胞に導入した。ベクターが導入された細胞の培養培地に、ツニカマイシンを、培地中の濃度が2μg/mlになるように添加し、さらに24時間培養した。培養後、「ProteoStat Aggresome Detection Kit」(Enzo Life Sciences)を用いて染色し、「DMI6000B fluorescent microscope」(Leica)を用いて、蛍光観察した。
【0107】
[結果]
結果を
図5に示す。
図5中、
図5の上段の「mock」と「miR-23a cl.」との比較より、miR-23aクラスターの過剰発現により変性タンパク質が増加することが示された。
【0108】
実施例3-5:miR-23aクラスター過剰発現による、小胞体構造の変化
miR-23aクラスターを過剰発現させ、小胞体構造を検出した。具体的には下記の様に行った。
【0109】
[小胞体構造の検出]
実施例3-1と同様にmiR-23aクラスター発現ベクターをCOS7細胞に導入した。この導入と同時に、小胞体局在化シグナルを有する蛍光タンパク質を発現するベクター(pDsRed2-EF)を導入した。ベクターが導入された細胞の培養培地に、ツニカマイシンを、培地中の濃度が2μg/mlになるように添加し、さらに12時間培養した。一方で、ベクターが導入された細胞の培養培地に、brefeldin A(BFA)を、培地中の濃度が10μg/mlになるように添加し、さらに1時間培養した。培養後の細胞を、「DMI6000B fluorescent microscope」(Leica)を用いて、蛍光観察した。
【0110】
[結果]
結果を
図6に示す。
図6中、miR-23aクラスターを過剰発現させた細胞(
図6中、「miR-23a cl.」)において、蛍光強度が高い点状のスポットが観察された。このことから、miR-23aクラスター過剰発現により、小胞体構造が変化することが示唆された。
【0111】
実施例4:小胞体ストレスの抑制
miR-23aクラスター上に存在するmiRNA(miR-23a、miR-27a、及びmiR-24-2)の機能を阻害することにより、小胞体ストレスの抑制実験を行った。具体的には、miR-23aの機能を阻害することによる、小胞体ストレス関連タンパク質の発現量の変化を調べた。
【0112】
[miR-23a Tough Decoy miRNA発現ベクターの調製]
公知の方法(例えば、Nucleic Acids Res 37, e43(2009)に記載の方法)に従って、miRNA発現ベクター(pSilencer2.1-U6-hygro)を適当な制限酵素で切断し、Tough Decoy RNA骨格(配列番号55及び56で表されるDNAをアニーリングさせた断片)を挿入した。さらに、このベクターを適当な制限酵素サイトで切断し、配列番号57及び58で表されるDNAをアニーリングさせた断片を挿入した。このベクターからは、配列番号7で表される成熟miR-23a配列の内部に4塩基(AAGU)が挿入された配列に対する相補配列(配列番号58及び59部分)を有するmiR-23a Tough Decoy miRNAが転写される。この様なベクターから転写される特徴的な構造を有するTough Decoy miRNAは、優れたmiRNA阻害活性及び安定性を有することが知られている(Nucleic Acids Res 37, e43(2009)等)。ベクター作成に使用したDNAの配列を下記表7に示す。
【0113】
【表7】
【0114】
[miR-23a Tough Decoy miRNA発現によるmiR-23aの抑制]
miR-23a Tough Decoy miRNA発現ベクターを、定法に従ってMIN6細胞に導入した。導入試薬としては、polyethylenimine(Polysciences)を用いた。ベクターが導入された細胞の培養培地に、ツニカマイシンを、培地中の濃度が2μg/mlになるように添加し、さらに12時間培養した。
【0115】
[小胞体ストレス関連遺伝子の発現量の測定]
細胞から、グアニジンチオシアネートを用いてtotalRNAを抽出した。抽出されたtotalRNA中の、小胞体ストレス関連遺伝子(Derl1、及びBet1)のmRNA量を、実施例3と同様に定量した。用いたプライマー配列を下記表8に示す。
【0116】
【表8】
【0117】
[結果]
結果を
図7に示す。この結果より、miR-23a Tough Decoy miRNA発現(
図7中、「miR-23a TuD」)により、小胞体内に蓄積した異常タンパク質の分解に関与するDerl1、及びタンパク質の輸送に関与するBet1の発現量が増加することが示された。このことは、miR-23aの機能阻害により、小胞体ストレスを抑制(緩和)させることができることを示す。
【0118】
実施例5:miR-23aクラスターによるインシュリン分泌の調節
miR-23aクラスターを過剰発現させ、或いはmiR-23aを機能阻害し、インシュリンの分泌量、及びタンパク質の輸送に関与するBet1の発現量を測定した。具体的には下記の様に行った。
【0119】
実施例3-1と同様にmiR-23aクラスター発現ベクターをMIN6細胞に導入した。一方で、実施例4と同様にmiR-23a Tough Decoy miRNA発現ベクターをMIN6細胞に導入した。ベクターが導入された細胞の培養培地に、0.5%の濃度でBSAを含有するKRBH緩衝液(グルコース含む)を、培地中のグルコース濃度が3mMになるように添加し、さらに30分間培養した。30分間の培養後、0.5%の濃度でBSAを含有するKRBH緩衝液(グルコース含む)を、培地中のグルコース濃度が20mMになるように添加し、さらに7時間培養した。7時間の培養後、培養培地中に分泌されたインシュリンの濃度を、AlphaLISA Insulin Kit(PerkinElmer)を用いて測定した。一方、7時間の培養後の細胞を回収し、実施例4と同様にBet1のmRNA量を定量した。
【0120】
結果を
図8に示す。miR-23aクラスターを過剰発現させた細胞(「miR-23 cl.」)は、mockに比べてインシュリンの分泌量が減少した。これに対して、miR-23aが機能阻害された細胞(「miR-23 TuD」)は、mockに比べてインシュリンの分泌量が増加した。これらの結果より、miR-23aクラスターを過剰発現させたり、機能阻害することにより、インシュリン分泌を調節できることが示された。特に、miR-23aを機能阻害することは、インシュリン分泌の増加を引き起こすため、糖尿病の治療に有用であることが示された。