(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸トルク算出手段は、前記内燃機関の回転数と燃料噴射量とに基づいて作成された燃料噴射トルクマップによって求めたトルク値から、前記内燃機関の慣性モーメントと回転速度変化量との積を除した値としたことを特徴とする請求項1に記載の車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置。
前記温度推定値の前記第1閾値は前記摩擦クラッチのクラッチフェーシングが炭化を始める温度としたことを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置。
前記記録手段に記録された前記エラーコードは、不揮発性のメモリーに記載され、所定の要領に基づいて消去されるまで、前記記録は残るようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置。
前記クラッチ温度判定手段は、前記発熱温度推定手段が推定した温度推定値が、前記第2閾値に達してから所定時間継続した場合に前記記録手段に対し前記エラーコードを記憶させるようにしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1において、警報の判定基準は、推定された発熱量が設定値を継続的に超えた時に摩擦材に悪影響を与える温度としている。
従って、警報を発生させる温度は、クラッチの損傷を防止するために、実際にクラッチの損傷が発生する温度よりも低めに設定されている。
この低めに設定された温度警報の履歴を保存しても、過去に、クラッチの破損が発生する温度域まで温度が上昇したかは整備の現場では不明である。
従って、クラッチがどのような状態になっているかの判断は、クラッチを分解しないとできない。
そのため、車両から変速機を取外し、クラッチの損傷状況を確認する等の作業が必要となる。かかる作業は、クラッチの交換等の作業の必要がない場合には無駄な作業となり、余計な整備費用が発生する問題が生じる。
更に、車両の休車時間が長くなり車両の稼働率が低下し、ユーザサービスの低下にも繋がる。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の課題に鑑みなされた発明であって、クラッチ整備の信頼性を向上させると共に、整備費用の軽減を図る車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明によれば、車両に配設された摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置であって、
前記車両に搭載された内燃機関から前記摩擦クラッチに接続する出力軸の回転速度を検出する出力側回転速度検出手段と、
前記摩擦クラッチに接続する変速機の入力軸の回転速度を検出する入力側回転速度検出手段と、
前記出力軸の回転速度と前記入力軸の回転速度との差を算出する回転速度差算出手段と、
前記内燃機関の軸トルクを算出する軸トルク算出手段と、
前記回転速度差算出手段の回転速度差算出値と前記軸トルク算出手段の軸トルク算出値とに基づいて前記摩擦クラッチの発熱温度を推定する発熱温度推定手段と、
前記発熱温度推定手段の温度推定値が第1閾値を超えた場合に前記車両のドライバーに警報を発する警報手段と、
前記発熱温度推定手段の温度推定値が第1閾値を超え、第2閾値を超えた場合に記録する記録手段と、
前記発熱温度推定手段の温度推定値に基づいて、前記警報手段及び前記記録手段に対し作動指示を発するクラッチ温度判定手段と、を備えたことを特徴とする車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置を提供できる。
【0008】
また、本発明において好ましくは、前記記録手段は、前記発熱温度推定手段の前記温度推定値が前記第2閾値を超えた場合にはエラーコードとして記録するようにするとよい。
【0009】
本発明によれば、クラッチの過負荷状態をドライバーへ早期に警報を行うことにより、クラッチの耐久性を向上させると共に、温度推定値が閾値を超えたことをエラーコードとして記録することで、車両整備時の整備方法検討の情報源として容易に取出すことができる。
取出した情報に基づいて、適切な整備が実施でき車両を快適な状態で維持・使用ができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、前記軸トルク算出手段は、前記内燃機関の回転数と燃料噴射量とに基づいて作成された燃料噴射トルクマップによって求めたトルク値から、前記内燃機関の慣性モーメントと回転速度変化量との積を除した値にするとよい。
【0011】
このような構成にすることにより、内燃機関は回転慣性力を有しているので、内燃機関の出力を変化させる場合、摩擦クラッチにおける内燃機関側からの軸トルクは、内燃機関の燃料噴射量トルクマップから、内燃機関の慣性モーメントと回転速度変化量との積を除した値にすることで、摩擦クラッチの発熱温度の推定がより正確に行うことができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、前記温度推定値の前記第2閾値は前記クラッチに損傷が発生し始める温度とするとよい。
【0013】
このような構成にすることにより、エラーコードの記録温度はクラッチに損傷が発生し始める温度としている。
従って、車両の整備時、ドライバーに対して過負荷運転が行われていることのアドバイスが行える。
一方、エラーコードの記録はクラッチが損傷を始めていることが判明するので、クラッチの修理漏れがなくなり、車両走行中に、クラッチ切れ不良等の不具合を未然に防ぐことが可能となり、整備の信頼性が向上する。
【0014】
また、本発明において好ましくは、前記記録手段に記録された前記エラーコードは、不揮発性のメモリーに記載され、所定の要領に基づいて消去されるまで、前記記録は残るようにするとよい。
【0015】
このような構成にすることにより、クラッチの過負荷状態での使用状況が、車両の電源ON−OFFにかかわらず記録が残るので、ドライバーに対する車両使用上でのアドバイスが可能となる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、前記クラッチ温度判定手段は、前記発熱温度推定手段が推定した温度推定値が、前記第2閾値に達してから所定時間継続した場合に前記記録手段に対し前記エラーコードを記憶させるようにするとよい。
【0017】
このような構成にすることにより、車両走行中の内燃機関への負荷変動、及び回転速度変動により、発熱温度推定手段による推定値が変動するため、第2閾値が所定時間継続してから記録されるようにして、正確なエラーコード情報を得ることができるようにした。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、クラッチが損傷し始める温度に達した場合にエラーコードを記録させて、車両整備時にその情報を得ることにより、クラッチの交換の実施要否を判断して、車両に対する整備の信頼性を向上させると共に、無駄な整備作業をなくして、整備の迅速化と、費用の軽減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0021】
図1は本発明の実施形態が用いられた車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置の全体構成図を示す。
車両用摩擦クラッチの過負荷履歴保存装置が作動する全体構成は、車両の走行用動力源となる内燃機関(ディーゼルエンジン,E/G)1と、内燃機関1からの動力を変速して車両の駆動輪に伝達すると共に内燃機関1からの動力を断接するクラッチC1,C2を有する変速機2と、車速及び内燃機関1の出力を任意に調整するアクセルペダル26と、変速機2の変速段を選択するチェンジレバー9と、内燃機関1、変速機2及びクラッチの過負荷履歴保存装置30の作動をコントロールするECU(制御ユニット)21と、ECU21が制御するための各装置の状況を検知してECU21に送信する各センサ類と、油圧アクチュエータに作動油を供給して変速機2を作動させる油圧供給源6と、これらの各装置を連結する配線及び配管とで構成されている。
内燃機関1は、過圧ポンプによりコモンレールに蓄圧した高圧燃料を各気筒の燃料噴射弁に供給し、各燃料噴射弁の開弁により燃焼室内に燃料を噴射する所謂コモンレール式燃料噴射装置が配設されている。
【0022】
内燃機関1からは、摩擦クラッチであるデュアルクラッチまでの回転軸である出力軸1aが備えられている。出力軸1aは内燃機関1から車両後方側へと突出した状態で、機械式自動変速機(以後、「変速機」と略称する)2のデュアルクラッチから図示しない駆動輪までの駆動系の変速機2の入力軸2aに接続されている。
本実施形態における変速機2は、前進12段(1速段〜12速段)及び後退1速段を備えている。
内燃機関1の動力は入力軸2aを介して変速機2に入力される。動力は変速段に応じて変速され変速機2のメインシャフト2bから駆動輪に伝達されるようになっている。
【0023】
変速機2はデュアルクラッチ式変速機として構成されている。当該デュアルクラッチ式変速機の詳細は、例えば、特開2009−035168号公報などに記載されているので、本実施形態では概略説明にとどめる。
このため、
図1では、変速機2を実際の機構とは異なる模式的な記載で示してある。
従って、以下の説明においても変速機2の構成及び作動状態を概念的に記述する。
【0024】
デュアルクラッチ式変速機は、奇数変速段と偶数変速段とを相互に独立した動力伝達系として設け、いずれか一方で動力伝達しているときに他方を次に予測される次変速段に予め切換えておくことで、動力伝達を中断することなく、次変速段への切換えを完了するシステムである。
即ち、
図1に示すように、変速機2の入力軸2aにはクラッチC1を介して奇数変速段(1,3,5,7,9,11変速段)からなる歯車機構G1が接続される。
同じく、クラッチC2を介して偶数変速段(2,4,6,8,10,12変速段)からなる歯車機構G2が接続されている。これらの歯車機構G1,G2の動力出力側は共通のメインシャフト2bに連結され、メインシャフト2bから図示されない駆動輪に伝達されている。
これにより、変速機2は、相互に独立したクラッチC1及び歯車機構G1から構成された動力伝達系と、クラッチC2及び歯車機構G2から構成された動力伝達系とを備えている。
【0025】
クラッチC1及びクラッチC2には夫々油圧アクチュエータ3,3が接続され、該両油圧アクチュエータ3,3は電磁弁4,4が介装された油路5,5を介して油圧供給源6に接続されている。電磁弁4,4の開弁時には油圧供給源6から作動油が油路5,5を介して油圧アクチュエータ3,3に供給され、油圧アクチュエータ3が対応するクラッチC1又はクラッチC2が接続状態から切断状態に切換えられる。
一方、電磁弁4が閉弁すると、作動油の供給中止により油圧アクチュエータ3が作動しなくなり、電磁弁4が閉弁した方のクラッチC1(又はC2)は図示しないプレッシャスプリングにより切断状態から接続状態に切換えられる。
【0026】
また、変速機2の奇数変速段の歯車機構G1及び偶数変速段の歯車機構G2には夫々ギヤシフトユニット7,7が配設されている。ギヤシフトユニット7,7は歯車機構G1及び歯車機構G2内の各変速段に対応する図示されないシフトフォークを作動させる複数の油圧シリンダと、該油圧シリンダを作動させる図示されない複数の電磁弁を内蔵している。
電磁弁は、チェンジレバー9の切換操作に応じて対応する歯車機構G1,G2の変速段の油圧シリンダを作動させる。
ギヤシフトユニット7,7の各電磁弁は、油路8を介して油圧供給源6と接続されている。電磁弁の開閉に応じて油圧供給源6からの作動油が対応する油圧シリンダに供給される。その油圧シリンダが作動して、シフトフォークを操作される。
シフトフォークによって対応する歯車機構G1,G2の変速段に切換えられる。
【0027】
ECU(制御ユニット)21は車室内に配設されている。ECU(制御ユニット)21は、図示しない入出力装置、制御プログラム、制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、過負荷履歴保存装置30、タイマカウンタなどを備えたECU(制御ユニット)21が設置されている。
更に、ECU(制御ユニット)21は内燃機関1、変速機2、クラッチC1,C2及び該クラッチC1,C2の過負荷履歴保存装置30の総合的な制御を行う。
特に、
図2に示すように、過負荷履歴保存装置30には、クラッチC1,C2の夫々の出力軸1aと入力軸2aとの回転差を算出する回転速度差算出手段37と、内燃機関1の軸トルクを回転数と燃料噴射量に基づいて作成されたマップから算出する軸トルク算出手段31と、出力軸1aの回転速度変化量算出部32と、後述する内燃機関慣性モーメント算出部33と、クラッチC1,C2の発熱温度を推定する発熱温度推定手段35と、発熱温度推定手段35が算出した発熱温度が第1閾値を超えたら警報手段29を介してドライバーに警報を発し、発熱温度が第2閾値を超えたら記録手段36にエラーコードを記録させる指示を行う判定基準を有したクラッチ温度判定手段34と、前記記録手段36と、を備えている。
尚、警報手段29は、ドライバーの近傍、例えばメータ類が配置されているインスツルメントパネル等に配置される。
更に、ECU21の出力側には、クラッチC1,C2の電磁弁4,4及びギヤシフトユニット7,7の各電磁弁などが接続されている。
また、コモンレール蓄圧用の加圧ポンプや各気筒の燃料噴射弁などが接続されており、これらの装置の作動制御を行っている。
【0028】
ECU21の入力側には、内燃機関回転速度Neを検出する出力側回転速度検出手段である内燃機関回転速度センサ22、クラッチC1及びC2の出力側回転速度検出手段である入力軸2a,2aの回転速度Nc1,Nc2を検出する入力側回転速度検出手段であるクラッチ回転速度センサ23,23、運転席に設けられたチェンジレバー9の切換え位置を検出するレバー位置センサ24、歯車機構G1,G2の変速段を検出するギヤ位置センサ25、アクセルペダル26の開度Accを検出するアクセルセンサ27、及び変速機2のメインシャフト2bに設けられて車速Vを検出する車速センサ28等のセンサ類が接続されている。
【0029】
そして、ECU21は内燃機関回転速度センサ22により検出された内燃機関回転速度Ne及びアクセルセンサ27により検出されたアクセル開度Accに基づいて、加圧ポンプにより蓄圧されるコモンレールのレール圧や各気筒への燃料噴射量Qを算出すると共に、内燃機関回転速度Ne及び噴射量Qに基づき、図示しないマップから燃料噴射時期を算出する。
そして、これらの算出値に基づいて加圧ポンプを駆動制御すると共に、各気筒の燃料噴射弁を駆動制御しながら内燃機関1を運転させる。
【0030】
図3の三次元マップは、内燃機関1の性能を試験装置にて、内燃機関1の回転数Neと、燃料噴射量Qとに基づいて作成された燃料噴射トルクマップの一例である。
アクセル開度Accの大きさ即ち、内燃機関1への燃料噴射量Q(cc)に対する回転数Ne(rpm)と軸トルクTcl(Nm)の関係を示したものである。
従って、燃料噴射量Qと出力軸1aの回転数Neに基づいて三次元マップからクラッチC1又はC2へ入力される軸トルクTcl(Nm)が容易に算出される。
しかし、内燃機関1の回転には図示しないフライホイール、ピストンの自重、クランクシャフト、該クランクシャフトに連結された各種補機類等を含めた慣性モーメントIegが作用している。
そのため、内燃機関1の回転数を目標回転数にするため、現慣性モーメントを目標慣性モーメントにするために、軸トルクTclの一部は消費されることになる。
慣性モーメントIegは回転数Neと慣性モーメントIegとの関係を予め求めた内燃機関慣性モーメント算出部33であるマップによって算出する。
従って、実際にクラッチC1又はC2へ入力される実軸トルクTelは、内燃機関トルク算出部31で算出される軸トルクTclと、内燃機関1の慣性モーメントIegと、回転速度変化量算出部32で算出される回転速度変化量aegと、運動方程式から求められる次式(1)に基づいて、軸トルク算出手段31にて実軸トルクTelを算出する。
Tel=Tcl−Ieg×aeg・・・(1)
但し、回転速度変化量aegは、内燃機関回転速度センサ22にて検出された回転速度を時間で微分した値である。
【0031】
回転速度差算出手段37によって算出する回転速度差ΔNeは、ECU21に入力される内燃機関回転速度センサ22の検出値Neとクラッチ回転速度センサ22の検出値Nc1(又は、Nc2)との差から求められる。
回転速度差ΔNe=Ne―Nc1(又は、Nc2)・・・(2)
となる。
以上のことから、摩擦クラッチC1,及びC2の発熱温度は、上記演算式(1)で求めた実軸トルクTelと、上記演算式(2)で求めた、回転速度差ΔNeとの積で近似できる。
従って、発熱温度推定手段35は、回転速度差算出手段37によって算出された回転速度差ΔNeと、軸トルク算出手段31によって算出された実軸トルクTelとの積から推定するものである。
摩擦クラッチC1,及びC2の発熱量は、次の演算式により求めた値で推定することができる。
クラッチ発熱温度Th=実軸トルクTel×回転速度差ΔNe・・・(3)
【0032】
更に、ECU(制御ユニット)21の過負荷履歴保存装置30には、クラッチ発熱温度Thによって、処置方法を判定するクラッチ温度判定手段34を有している。
クラッチ温度判定手段34は、上述のクラッチC1又はC2の発熱温度Thが第1閾値T1を所定時間連続している、該第1閾値T1を超えて第2閾値T2が所定時間連続しているかを判定している。
本実施形態の場合、発熱温度Thの第1閾値T1とは、クラッチC1又はC2のクラッチフェーシングが炭化を始める温度とした。
炭化を始める温度は、クラッチフェーシングの表面が黒くなり始める状態であり、このような状態の場合は、車両走行に何ら支障がない。
しかし、クラッチの耐久性に影響があるため、ドライバーに対し、警報手段29を介して警報を発する。
警報の方法は、パイロットランプの点灯、又はブザーとで警報を行う。
パイロットランプとブザーを併用してもよい。
従って、第1閾値T1とは、クラッチ負荷が過負荷状態に入っていることを警告する基準値である。
【0033】
また本実施形態の場合、発熱温度Thの第2閾値T2とは、本実施形態の場合、摩擦クラッチのクラッチプレートが変形を始める温度とした。
クラッチプレートが変形を始める温度とは、クラッチプレートが変形するとクラッチ切れ不良になる。
従って、発熱温度Thが第2閾値T2に達した場合は、クラッチC1,C2の交換が必要になる。
【0034】
過負荷履歴保存装置30には、クラッチ温度判定手段34の判定結果を記録する記録手段36を有している。
記録手段36は不揮発性のメモリーEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)に記録されるようになっており、車両整備工場にて、所定の要領により、記録の読み出しが可能となっている。また不要な場合には、所定の要領にて消去できる。
従って、車両の電源のON―OFFに関係なく記録は保持される。
本実施形態では、発熱温度Thの第1閾値T1と、第2閾値T2が所定時間連続した時に記録されるようになっている。
該所定時間とは、発熱温度Thが第1閾値T1になってクラッチフェーシングが炭化を始める温度としたので、炭化が進行することはクラッチ耐久性に影響するので、数秒から10秒以内とした。
また、所定時間継続としたのは、内燃機関1の回転変動、又は負荷変動等により発熱温度推定手段の推定値が変動するために時間幅を設けた。
【0035】
発熱温度Thの第2閾値T2が所定時間連続して超えた場合には、所定のエラーコードとしてメモリーEEPROMに記録される。
エラーコードは、例えば「エラーコード123」と記録され、専用の故障診断装置にて読みとる時は、「エラーコード123=クラッチ過負荷履歴あり」と変換して出力されて、整備作業者は「クラッチ過負荷履歴あり」のメッセージを認識するようになっている。
エラーコードが記録された場合には、上述のとおりクラッチ切れ不良が発生する可能性があるため、車両整備工場においてはクラッチC1,C2の交換を実施すると共に、ドライバーには運転方法の助言ができるようになっている。
【0036】
図4に基づいて、過負荷履歴保存装置30の制御フローについて説明する。
ステップS1にて過負荷履歴保存装置30の処理を開始する。
ステップS2において、発熱温度推定手段35における推定温度が第1閾値T1を超えたか否かを、クラッチ温度判定手段34にて判定する。推定温度が第1閾値T1を超えていない場合はNoを選択してステップS3に進む。
この場合、クラッチC1及びC2において発熱温度は低く正常な温度と判断する。
【0037】
ステップS3においては警報手段29の警報が停止された状態を維持し、ステップS2に戻る。ステップS2において、推定温度が第1閾値T1を超えていない場合は、ステップS2とステップS3を繰り返す状態が続く。
ステップS2において、クラッチ温度判定手段34にて推定温度が所定時間連続して第1閾値T1を超えていると判断した場合には、Yesを選択してステップS4に進む。
【0038】
ステップS4において、推定温度が第1閾値T1を超えていることは、即ちクラッチフェーシングが炭化を始める温度に達している状態なので、ドライバーに対して、クラッチC1,又はC2の負荷が過負荷状態であることの警報を発生させる。
【0039】
ステップS5において、ステップS4の警報を受けてドライバーがクラッチC1,又はC2の負荷を低減させる処置をしたかを判断するため推定温度を再度判定する。推定温度が通常の使用状態でクラッチC1,又はC2にて発生する温度が閾値T1未満になったかを判断する。
ステップS5において推定温度が閾値T1未満になっていると判断されると、Yesを選択してステップS3に戻り、警報を停止させる。
推定温度が閾値T1以上になっていると判断されると、Noを選択してステップS6に進む。
【0040】
ステップS6において、発熱温度推定手段35における推定温度が第2閾値T2を超えたか否かを、クラッチ温度判定手段34にて判定する。推定温度が第2閾値T2を超えていない場合はNoを選択してステップS5に戻る。
従って、警報は発生した状態になっている。
一方、推定温度が第2閾値T2を超えていると判断した場合には、Yesを選択してステップS7に進む。ステップS7において、クラッチ温度判定手段34にてクラッチC1,又はC2は所定時間以上連続して破損温度に達しているとして、記録手段36に所定のエラーコード例えば「エラーコード123」として記録される。
この間も警報は発生した状態になっている。
【0041】
ステップS8に進み、再度、発熱温度推定手段35における推定温度が第1閾値T1を超えたか否かを、クラッチ温度判定手段34にて判定する。
推定温度が第1閾値T1未満と判断すると、Yesを選択してステップS3に戻り、警報を停止させる。
推定温度が第1閾値T1を超えている場合には、ステップS8を繰返しながら、警報の発生を続ける。
整備作業者は、専用の故障診断装置にて読みとる際に、「エラーコード123=クラッチ過負荷履歴あり」に変換されたメッセージを認識することになる。
【0042】
このようにすることで、クラッチが損傷し始める温度に達した場合にエラーコードを記録させて、車両整備時にその情報を得ることにより、クラッチの交換の実施要否を判断して、車両に対する整備の信頼性を向上させると共に、無駄な整備作業をなくして、整備の迅速化と、費用の軽減を図ることができる。