(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記伝送特性値として、前記送電共振器の共振周波数、前記送電コイルのインダクタンス、または、前記送電コイルの共振電圧を用いる請求項1に記載の非接触電力伝送装置。
前記介在物内に金属がメッシュ状に配置され、かつ前記金属同士の交差部分が導通状態である場合に、前記金属のメッシュ間隔W、前記送電コイルの直径Dが、D/W≦1の関係を満足するように設定する請求項5〜7のいずれかに記載の非接触電力伝送方法。
前記介在物内に表面を絶縁処理した金属がメッシュ状に配置された場合に、前記金属のメッシュ間隔W、前記送電コイルの直径Dが、D/W≦2の関係を満足するように設定する請求項5〜7のいずれかに記載の非接触電力伝送方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の非接触電力伝送装置は、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0019】
すなわち、前記伝送特性値として、前記送電共振器の共振周波数、前記送電コイルのインダクタンス、または、前記送電コイルの共振電圧を用いることができる。
【0020】
また、前記送電装置は、前記送電コイルの前方の磁束が到達する範囲に介在物が存在しない状態で前記伝送特性検出部が検出した開放時伝送特性値を記憶する開放特性記憶部を備え、前記伝送特性比較部は、前記送電コイルが介在物に対面配置された状態で前記伝送特性検出部が検出する遮蔽時伝送特性値を、前記開放時伝送特性値と比較して前記伝送特性値の変化を検出する構成とすることができる。
【0021】
また、前記送電装置は、前記送電コイルに供給される電流及び電圧の値を検出する電流・電圧モニター部を備え、前記伝送特性検出部は、前記高周波電力の周波数が変化するように高周波電力ドライバーを制御する機能を有し、当該周波数の変化に伴う前記電流・電圧モニター部の出力信号の変化に基づき前記伝送特性を検出する構成とすることができる。
【0022】
また、前記送電装置は、前記送電共振器の共振周波数を可変とする共振周波数調整部を備え、前記伝送特性検出部は、前記送電共振器の共振周波数を検出するように構成され、介在物を介して電力伝送を行う際に、前記送電装置を前記介在物の面に固定した時に前記送電共振器の共振周波数が所定の値から変化した場合には、前記送電装置を介在物に取り付ける前の共振周波数に戻すように前記共振周波数調整部を制御する構成とすることができる。
【0023】
この構成において、送電共振器の共振周波数を検出する構成の例としては、高周波電力ドライバーから送電コイルへの印加周波数をマイコンにより変化させ、その時の送電コイルの共振電圧が最大となる周波数をマイコンにより求める構成を採用することができる。即ち、送電コイルの共振電圧が最大となる時の周波数が共振周波数となる。また、共振周波数調整部としては、例えば、高周波電力ドライバーの発振周波数を変えたり、送電共振器のインダクタンスや共振容量を変える構成を採用することができる。
【0024】
本発明の非接触電力伝送方法は、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0025】
すなわち、介在物を介して電力伝送を行う際に、前記送電装置のみを前記介在物の一方の側に配置し、前記介在物の他方の側には前記受電装置が配置されていない状態で、前記介在物内に存在する障害要因による電力伝送に対する影響を前記送電装置のみを用いて検知することができる。
【0026】
また、前記介在物内に存在する障害要因による電力伝送に対する影響を検知した結果に基づき、前記送電装置を当該影響の最小の位置に配置し、前記送電装置の位置に対向させて前記受電装置を配置することにより、前記送電コイルと前記受電コイル間の電力伝送効率が最大となるように前記送電装置と前記受電装置の位置を調整することができる。
【0027】
また本発明の非接触電力伝送方法により、鉄筋コンクリート造の壁のように、壁の中に鉄筋が入っている場合においても、電力伝送を適切に行うことが可能である。例えば、外壁に使われている鉄筋コンクリート内の鉄筋(主筋やあばら筋など)が異形棒鋼10D(直径は約10mm)の場合の間隔は、住宅公庫基準では300mm以内と言われている。しかし、最近ではフラット35や長期優良住宅では100mm程度と狭い間隔で施工されている住宅も多くなっている。
【0028】
そこで、本発明の非接触電力伝送方法では、電力伝送を行おうとする壁の中にある鉄筋の間隔に応じて送電コイルの直径を変える。具体的には、以下のとおりである。
【0029】
すなわち、前記介在物内に金属がメッシュ状に配置され、かつ前記金属同士の交差部分が導通状態である場合に、前記金属のメッシュ間隔W、前記送電コイルの直径Dが、D/W≦1の関係を満足するように設定することが好ましい。これにより、実用的に十分な電力伝送効率を得ることができる。ただし、この条件は、送電コイル近くの各鉄筋が交差している部分が両方の鉄筋同士で導通している場合に適用する。この場合には、鉄筋の交差部の状態に応じて電力伝送効率が異なるので、送電装置を取り付ける際に、電力伝送効率が高い場所を探索する必要がある。
【0030】
一方、送電コイルの近辺における各鉄筋の交差部で両方の鉄筋同士が導通しないように絶縁処理が行われている場合には、より広いD/Wの範囲で実用的に十分な電力伝送効率を得ることができる。
【0031】
すなわち、前記介在物内に表面を絶縁処理した金属がメッシュ状に配置された場合に、前記金属のメッシュ間隔W、前記送電コイルの直径Dが、D/W≦2の関係を満足するように設定することが好ましい。この条件を満たしていれば、どの位置に送電コイルを固定しても同様な電力伝送効率が得られる。
【0032】
この場合に、前記絶縁処理した金属が前記メッシュ状の一方向のみに配置された前記介在物を介して電力伝送を行うことができる。これにより、全ての鉄筋に絶縁処理を施したものを用いる場合に比べて、絶縁処理をした鉄筋は半分の本数で済む。一般的に鉄筋を絶縁処理する為にはコストが上昇するので、このように絶縁処理した鉄筋の本数を少なくすることが望ましい。
【0033】
また、前記絶縁処理した金属が前記メッシュ状の一方向のみに、かつ1本置きに配置された前記介在物を介して電力伝送を行うことができる。これにより、絶縁処理した鉄筋の本数を更に少なくすることができる。
【0034】
また、前記金属同士の交差部分のみが絶縁処理された前記介在物を介して電力伝送を行うことができる。これにより、鉄筋の絶縁処理に要するコストを更に低減することができる。
【0035】
非接触電力伝送を行う際に、壁が鉄筋コンクリート造の場合には電力伝送効率は下がるものの、熱を発生する金属(鉄筋)の周りがコンクリートで囲まれている為に、空気中に比べて温度上昇が抑制されるものと思われる。従って、本発明の非接触電力伝送方法を適用して、極力金属の影響の少ない場所を選んで送電コイルと受電コイルを配置することにより、実用的な電力伝送が可能になる。
【0036】
なお、介在物として、鉄筋の入ったコンクリート壁に限らず、窯業サイディングやモルタルなどを使った壁や、木材を使用した壁が介在する状況、あるいは壁の中に水が充填されている状況において、障害要因が存在する可能性がある場合にも、本発明の非接触電力伝送装置及び非接触電力伝送方法を適用することができる。
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態は、本発明を具現化した一例を示したものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1における非接触電力伝送装置の構成を示す模式断面図である。なお、
図11に示した従来例の非接触電力伝送装置と同様の要素については、同一の参照番号を付して、説明の繰り返しを簡略化する。
【0039】
この非接触電力伝送装置は、送電装置1と受電装置2を、壁9などの介在物を介して互いに向かい合わせて配置し、送電コイルと受電コイルの間の磁気結合等の作用、例えば磁界共鳴により非接触電力伝送を行うことが容易なように構成されている。
【0040】
送電装置1は送電回路10を備え、送電回路10は、交流電源6の電力を送電可能な高周波電力に変換する高周波電力ドライバー等を含んでおり、送電用共鳴コイル4aに接続されている。図示を省略するが、送電装置1はシールド機能を有し、送電回路10及び送電用共鳴コイル4aは金属で包囲されている。また、送電用共鳴コイル4aと送電回路10の間にはフェライトシートが設けられている。
【0041】
図1の装置では、送電コイルはループコイルを用いずに送電用共鳴コイル4aのみで構成され、高周波ドライバーからの電力は送電用共鳴コイル4aに直接供給される(直列共振)。場合によっては、送電用のループコイル3a(
図11参照)を設けても良い。図示は省略するが、送電用共鳴コイル4aには共振容量が接続されて、送電共振器を構成している。共振容量としては、回路素子として可変コンデンサ(バリコンあるいはトリマコンデンサなど)あるいは固定コンデンサを接続してもよいし、浮遊容量を利用した構成としてもよい。
【0042】
受電装置2には、受電コイルとして受電用共鳴コイル4bとループコイル3bが組合わされて配置され、ループコイル3bが受電回路11に接続されている。受電回路11は検波回路、整流器等(不図示)を備えている。ループコイル3bで得られた電力は、検波回路に供給され、整流器などを経て、高周波電力から直流電力に変換されて負荷8に供給される。負荷8としては、充電池、監視カメラ、電灯などを適用することができる。受電用共鳴コイル4bには共振容量(不図示)が接続されて、受電共振器を構成している。共振容量としては、回路素子として可変コンデンサ(バリコンあるいはトリマコンデンサなど)あるいは固定コンデンサを接続してもよいし、浮遊容量を利用した構成としてもよい。図示は省略するが、受電用のループコイル3bと受電回路11の間には、フェライトシートが設けられている。また、場合によっては、受電用のループコイル3bを用いないで、受電用共鳴コイル4bと受電回路11を直接接続してもよい。
【0043】
この非接触電力伝送装置により電力伝送を行う際に、送電装置1は、壁9の内壁面12に送電用共鳴コイル4aを対面させて設置され、受電装置2は、外壁面13に受電用共鳴コイル4bを対面させて設置される。図示した状態では、送電装置1及び受電装置2に搭載されている送電コイルと受電コイルの中心軸は、ほぼ一致している。
【0044】
図2は、送電装置1の一部を構成する送電回路10を示すブロック図である。送電回路10は、送電用共鳴コイル4aに接続された高周波電力ドライバー5を有する。高周波電力ドライバー5には電流・電圧モニター部14が接続されて、送電共振コイル4aに流れる電流や共振電圧などをモニターする。電流・電圧モニター部14の出力信号は、送電制御部15、及び障害検知部16に供給される。共振周波数調整部17は、送電共振コイル4aの共振容量を調整して送電共振器の共振周波数frを可変とするために設けられている。
【0045】
送電制御部15は、高周波電力ドライバー5、障害検知部16、及び共振周波数調整部17を制御して、送電回路10による通常の電力伝送、及び電力伝送前に行う障害検知の動作を実行させる機能を有する。送電制御部15は、電力伝送前に行う障害検知の際には、高周波電力ドライバー5、及び障害検知部16を動作させ、通常の電力伝送時には、高周波電力ドライバー5、及び共振周波数調整部17を動作させる。
【0046】
更に、図示しないが、送電装置1と受電装置2との相互間で情報を送受信するための通信回路等も設けられる。必要に応じて送電共振器の反射電力、送電共振器のインダクタンス等をモニターする要素を含んでも良い。
【0047】
障害検知部16は、共振周波数検出部18、開放特性記憶部19、及び共振周波数比較部20から構成される。共振周波数検出部18は、送電共振器の共振周波数frを検出する。開放特性記憶部19は、開放時共振周波数froを記憶する。開放時共振周波数froは、送電共振コイル4aからの磁束が到達する範囲の前方に壁9のような介在物が存在しない状態で共振周波数検出部18が検出した特性として定義する。開放時共振周波数froは、予め、装置の製造工程等で測定されて開放特性記憶部19に記憶されている構成としても、あるいは、電力伝送を行う度に測定・記憶される構成としてもよい。一方、介在物に対面させて送電共振コイル4aを配置したときに共振周波数検出部18により検出される特性として、遮蔽時共振周波数frsを定義する。
【0048】
共振周波数比較部20は、遮蔽時共振周波数frsを開放時共振周波数froと比較して、開放時共振周波数froに対する遮蔽時共振周波数frsの変化を検出する。すなわち、共振周波数比較部20による検出結果に基づき、壁9内の障害要因による電力伝送に対する影響の程度を検知するように構成され、その検知結果は、表示部21に表示される。表示部21は、障害要因による電力伝送に対する影響の程度を何らかの形態で電力伝送装置の操作者に報知するものであればよい。すなわち、表示に限らず、音響等により報知する構成としてもよい。あるいは、表示部21を用いることなく、共振周波数比較部20の出力信号に基づき、送電装置1と受電装置2の配置を自動的に調整する構成とすることもできる。
【0049】
共振周波数検出部18は、高周波電力ドライバー5の動作を制御しながら、電流・電圧モニター部14の出力信号に基づき、送電共振器の共振周波数frを検出する。例えば、高周波電力ドライバー5から送電共振コイル4aへの印加周波数をマイコンにより特定の値で変化させ、それに応じて、送電共振コイル4aの共振電圧が最大となる周波数をマイコンにより算出する。送電共振コイル4aの共振電圧が最大となる時の周波数が、送電共振器の共振周波数frである。
【0050】
共振周波数調整部17により送電共振器の共振周波数frを可変とするためには、送電共振器のインダクタンスや共振容量を変える構成を採用することができる。送電制御部15は、電流・電圧モニター部14によって検出された、高周波電力ドライバー5から送電共振コイル4aに供給した電力の電力量、あるいは、高周波電力ドライバー5内で電力を生成する回路、例えば高周波電力増幅アンプ、または電力を発生させるスイッチング回路に供給される直流電流の電流値に基づいて、共振周波数調整部17の動作を制御する。すなわち、それらの値のいずれかが最大となるように、可変コンデンサなどを調整させる。
【0051】
これらの電力や電流は、共振系の周波数特性の特性曲線がピークの部分で、送信の電力値や電流値がピークとなるので、最大値制御により最も電力伝送量が増大する。送電の電力値は、高周波電力ドライバー5で消費される電流、電力に対応しているので、例えば電流値をモニターしておき、その電流値を最大にするように制御すれば、通常の電力伝送を最大の効率で行うことができる。このように、共振調整は最大点追跡制御を行うことになり、マイコン等を利用した制御回路の場合であれば、これに従って制御ソフトを作成しインプリメントすれば、共振調整制御系を構築できる。
【0052】
本実施の形態の非接触電力伝送装置は、送電装置1及び受電装置2を、壁9などの介在物を介在させて配置する際の、当該介在物に含まれる障害要因による影響を検知する構成に特徴を有する。すなわち、壁9の内部や、送電装置1及び受電装置2を取付ようとする内壁面12や外壁面13周辺に、金属等の障害要因が存在することに起因する、電力伝送効率の低下の有無を検知するための構成である。障害要因による影響の検知は、送電装置1のみによって行われ、障害要因による送電共振器の共振周波数frの変化を利用した検知法を用いる。
【0053】
例えば、送電共振コイル4aに金属が近づくとインダクタンスLが小さくなり、結果的に共振周波数が高い方向へシフトするので、この共振周波数の変化を検知することにより、障害要因による影響を検知する。場合によっては、送電共振コイル4aのインダクタンスの変化や共振電圧の変化を検知しても良い。
【0054】
すなわち、共振周波数検出部18は、送電共振器の共振周波数に対応した因子の値である伝送特性値を検出する伝送特性検出部の一例である。従って、送電共振コイル4aに高周波電力を供給したときの応答に基づき、送電共振コイル4aのインダクタンス、または、送電共振コイル4aの共振電圧等、送電共振器の共振周波数に対応した他の因子の値を検出する構成を用いることも可能である。
【0055】
図3Aは、送電共振コイル4aに、金属22(この例では厚さ0.5mmの銅板)が近づいた場合のインダクタンスLの変化を調べるための測定系を示す。送電共振コイル4aを、インタクタンスLを測定することができるLCメータ23の測定端子に接続して測定を行う。送電共振コイル4aと金属22の間隔を距離Xとする。距離Xの変化に対する、所定の周波数(例えば約100kHz)におけるインダクタンスLの変化を求める。すなわち、金属22を、遠く離れた位置から送電共振コイル4aに近付けていくと、ある距離Xから金属22の影響を受けて、インダクタンスLが変化し始める。
【0056】
そのときのインダクタンスLの変化を
図3Bに示す。
図3Bに示すように、距離Xが小さくなるとともに、インダクタンスLが小さくなっていく。本実施の形態では、距離Xが100mm付近からインダクタンスLが変化し始めることが分かった。このようなインダクタンスLの変化を調べることにより、金属22による影響の有無を検知することができる。
【0057】
図4Aは、送電共振コイル4aに、金属22(この例では厚さ0.5mmの銅板)が近づいた場合の共振周波数の変化を調べるための測定系を示す。この測定系では、送電共振コイル4aの両端に、共振容量としてフィルムコンデンサ(不図示)が取り付けられている。ループコイル3aの両端を、共振周波数を測ることができるVNA(ベクトルネットワークアナライザ)24の測定端子に接続して測定を行う。送電共振コイル4aと金属22の間隔を距離Xとする。距離Xの変化に対する、共振周波数の変化を測定する(Sパラメータ:S21)。すなわち、金属22を、遠く離れた位置から送電共振コイル4aに近付けていくと、ある距離から金属22の影響を受けて、共振周波数frが変化し始める。
【0058】
そのときの共振周波数frの変化を
図4Bに示す。
図4Bに示すように、距離Xが小さくなるとともに、共振周波数frが大きくなっていく。これは、
図3Bに示したように、インダクタンスが小さくなった影響による。即ち、共振周波数はf=1/{2π(LC)
1/2}で決まるので、金属22が近づいてインダクタンスLが小さくなることにより、結果的に共振周波数が大きくなる。本実施の形態では、インダクタンスLの変化と同様、距離Xが100mm付近から徐々に共振周波数が変化し始めることが分かった。このような共振周数の変化を調べることにより、金属22による影響の有無を検知することができる。
【0059】
実際に送電装置1を用いた場合の、送電共振器の共振周波数frを調べるためには、上述のように、高周波電力ドライバー5から送電共振コイル4aへの印加周波数をマイコンにより種々変化させ、その時の送電共振コイル4aの共振電圧が最大となる時の周波数をマイコンにより求めれば良い。即ち、送電用共振コイル4aの共振電圧が最大となる時の周波数が送電共振器の共振周波数frである。
【0060】
図5は、本実施の形態の非接触電力伝送装置を用い、
図1に示したように送電装置1と受電装置2の間に壁9を介在させて電力伝送を行う場合に、金属22などの障害要因による影響を検知して、影響のない場所に送電装置1を取り付けるまでの手順の一例を示すフローチャートである。この手順により、送電装置1や受電装置2を取り付ける前に、送電装置1のみを用いて、送電共振コイル4aと受電共振コイル4b間に存在する金属22などの障害要因による影響を検知することができる。
【0061】
まず、壁9などの介在物が存在しない状態で、送電共振器の開放時共振周波数froを求める(ステップS1)。開放時共振周波数froは、開放特性記憶部19に記憶される。なお、開放時共振周波数froは、装置の製造工程等で測定され、開放特性記憶部19に記憶されていれば、必ずしも、電力伝送を行う度にステップS1を実行する必要はない。
【0062】
次に、送電装置1を、金属22などの障害要因を含む壁9の内壁面12に対して、送電共振コイル4aが壁9に対面した状態に仮固定する(ステップS2)。障害要因検知の結果が即座に出る場合には、手で持った状態でも良く、仮固定する必要はない。次に、送電装置1を内壁面12に接触させた状態で、送電共振器の遮蔽時共振周波数frsを測定する(ステップS3)。そして、直ちに共振周波数fro及びfrsの値をマイコンにより比較する(ステップS4)。
【0063】
比較の結果、開放時共振周波数froに対する遮蔽時共振周波数frsの変化量が、規定値(例えば1%)未満であれば(ステップS4、Yes)、その位置に送電装置1を本固定する(ステップS5)。一方、開放時共振周波数froに対する遮蔽時共振周波数frsの変化量が1%以上の場合は(ステップS4、No)、金属22の影響を受けている可能性がある。従って、別の場所に送電装置1を移動させて仮固定する(ステップS6)。更に、ステップS3に戻って、その位置で遮蔽時共振周波数frsを測定し、共振周波数ft0とft1の値を比較する(ステップS4)。そして、開放時共振周波数froに対する遮蔽時共振周波数frsの変化量が1%未満となるまで、ステップS6、S3、S4を繰り返す。
【0064】
開放時共振周波数froに対する遮蔽時共振周波数frsの変化量の規定値は、取り付けようとする壁9及びコイル特性に応じて予め決めておく。あるいは、ステップS4における比較では、開放時共振周波数froに対する遮蔽時共振周波数frsの変化量ではなく、共振周波数froとfrsの差(絶対値)を算出しても良い。例えば、froが240kHzでfrsが242kHzであった場合、この差2kHzを予め決めておいた規定値と比較すればよい。
【0065】
このようにして送電装置1の位置が固定されれば、次は反対側の外壁面13に受電装置2を取り付ける。この時、受電装置2を種々移動させてその位置での受電パワーを求め、その受電パワーが最大となる最適位置で受電装置2を固定することが好ましい。最適位置を決めるための送電パワーは、実際に電力伝送を行うときの送電パワーよりも小さい方が安全面から好ましい。この時、必要に応じて受電パワーのデータを通信により送電装置2に送ってもよい。最終的には、送電装置1と受電装置2の両方が壁9に固定されたのち、目的の電力伝送が行われる。
【0066】
なお、上述のようにして送電装置1を壁9に固定した時に、送電共振器の共振周波数が所定の値から変化した場合には、送電装置1を介在物に取り付ける前の共振周波数に戻すように共振周波数調整部17を制御する構成としてもよい。
【0067】
以上のように、本実施の形態によれば、障害要因検出専用のコイルを必要としない簡単な構成により、送電装置1に、単独で障害要因を検知する機能を与えることができる。これにより、壁9などの介在物を介して非接触で電力伝送を行う場合に、非接触電力伝送を行う前に、予め送電共振コイル4aと受電共振コイル4b間に介在する惧れのある金属などの障害要因を、受電装置2を配置することなく送電装置1のみで検知することができる。
【0068】
<実施の形態2>
実施の形態2における非接触電力伝送方法について、
図6〜
図10を参照して説明する。本実施の形態は、送電コイルと受電コイルとの間にメッシュ状に金属が配置された介在物、例えば、鉄筋コンクリート壁を介在させて電力伝送する場合に適した非接触電力伝送方法に関する。
【0069】
電磁誘導方式や従来の磁界共鳴方式では、送電コイルと受電コイルとの間に障害要因が検知された場合には送電は行われない。従って、鉄筋コンクリート壁のような金属が入った壁を介在させて電力伝送することは考慮されていない。しかし、本発明者らの実験に基づく知見によれば、送電に用いるコイルの大きさ、壁内にある鉄筋の間隔、あるいは鉄筋が交差している部分での接触状態(導通しているか絶縁しているか)と、送電コイル及び受電コイルの配置の関係が、磁界共鳴方式における電力伝送効率に大きく影響している。
【0070】
図6は、実験例として、鉄筋25が配置されたコンクリート壁を介在させて電力伝送する場合の、鉄筋25と、送電共振コイル4a及び受電共振コイル4bの配置関係の一例を示す。コンクリート壁の図示は省略されている。(a)は、コンクリート壁内に鉄筋25(直径d)が、距離Wの間隔でメッシュ状に、すなわち、メッシュ間隔Wで配置されている場合の、送電共振コイル4a側から見た正面図を示す。(b)は(a)のA−A線に沿った断面図を示す。鉄筋25を介在させて、送電共振コイル4aに対向して受電共振コイル4bが配置されている。ここでは、送電共振コイル4aの直径D(以下、「コイル径」と記述する)がメッシュ間隔Wと同じ場合が示されている(D=W)。送電共振コイル4aと受電共振コイル4b間の距離はXとし、鉄筋25は送受電コイル間の中央部に配置されている。
【0071】
図7A〜
図7Cは、鉄筋25がメッシュ状に挿入されている壁を介在させて、非接触で電力伝送を行う場合の、送電共振コイル4aと鉄筋25の位置関係の例を判り易く示したものである。ここでは、コイル径Dをすべて200mmで固定とし、鉄筋25のメッシュ間隔Wのみを異ならせた。
【0072】
図7Aは、メッシュ間隔Wに対するコイル径Dの比率が、D/W=0.7の場合の一例を示す。すなわち、メッシュ間隔Wを300mmとしている。
図7Bは、比率D/W=1.0の場合の一例を示す。すなわち、メッシュ間隔Wを200mmとしている。
図7Cは、比率D/W=2.0の場合の一例を示す。すなわち、メッシュ間隔Wを100mmとしている。
【0073】
それぞれの比率において、(a)空白部、(b)1本部、(c)十字部と、各々異なる3種類の部位へ送電共振コイル4aを配置した場合の相互関係を示す。ここで、「空白部」とは、鉄筋25同士が交差しているメッシュ(四角形)の中心位置に送電共振コイル4aを配置した場合を意味する。「1本部」とは、鉄筋25同士が交差しているメッシュ(四角形)のうちの1本の中央部に配置した場合を意味する。「十字部」とは、鉄筋25同士が交差している交差点に送電共振コイル4aの中心を配置した場合を意味する。
【0074】
図8Aは、メッシュ間隔Wに対するコイル径Dの比率が、D/W=1.0となっている鉄筋配置の場合の、絶縁処理なし鉄筋26を配置した壁の「空白部」に送電コイルを配置した状態を示す。絶縁処理なし鉄筋26は、一般的に売られている安価な異形鋼棒の鉄筋(直径dが10mmのD10)である。このような鉄筋26をメッシュ状に配置し、それぞれの交差部を結束した場合、鉄筋26が導電性である為に、鉄筋26同士が接触した交差部27は多くの場所で導通状態となっている(作製時に高温により酸化被膜が形成されている場合があるが、その厚さは薄い為に場所によって導通していることが多い)。
【0075】
図8Bは、
図8Aのように絶縁処理なし鉄筋26を配置したコンクリート壁を介在させて、それぞれ上述の3種類の部位(「空白部」、「1本部」、「十字部」)に送電共振コイル4aを配置し、本発明の非接触電力伝送装置を用いて電力送電を行ったときの、電力伝送率の測定結果を示す。コイル径Dを200mmで固定とし、鉄筋26のメッシュ間隔を100mm(D/W=2.0)、200mm(D/W=1.0)、300mm(D/W=0.7)と異ならせた。鉄筋26が無い場合の電力伝送効率は、この図に示すように74%であり、比較の為に破線で図示されている。
【0076】
実験の結果、鉄筋26のメッシュ間隔Wが100mm(D/W=2.0)の条件では、「空白部」、「1本部」、「十字部」のどの位置に送電共振コイル4aを配置しても、電力伝送効率は約20%と低くなった。また、鉄筋26のメッシュ間隔Wが200mm(D/W=1.0)の条件では、「十字部」>「1本部」>「空白部」の順番に電力伝送効率が低くなっている。更に、鉄筋26のメッシュ間隔Wが300mm(D/W=0.7)の条件でも、「十字部」>「1本部」>「空白部」の順番に電力伝送効率が低くなっているものの、低下率は小さい。
【0077】
この結果から、「十字部」に送電共振コイル4aを配置することにより、D/W≦1.0の条件であれば、鉄筋26の無い場合に比べて10%以下の低下で電力伝送が行えることが判る。通常、鉄筋26による電力伝送効率が悪くなった分、鉄筋26に渦電流損が発生する為、鉄筋26が熱くなる。しかし、壁9が鉄筋コンクリート造の場合には、熱を発生する鉄筋26の周りがコンクリートで囲まれている為に、空気中に比べて温度上昇が低くなり問題とならないケースもある。従って、送電側にパワーの余裕があれば、コイル径Dと鉄筋26のメッシュ間隔Wとの比率、及び送電共振コイル4aを配置する位置を適当に選ぶことにより、鉄筋コンクリート造の壁を介した非接触電力伝送が可能である。
【0078】
また、送電共振コイル4aと受電共振コイル4b間に介在する鉄筋26の割合が一番少ない「空白部」の場合に、電力伝送効率が各条件中で一番低いことが判った。特に、鉄筋26のメッシュ間隔が200mm(D/W=1.0)の条件において、「空白部」の場合の低下率が顕著である。このことから、電力伝送時に磁場の強度が一番強くなる送電コイルの外周部近くが、鉄筋26に囲まれていることが問題であることが判る。即ち、送電共振コイル4aの周りにある4か所の鉄筋の交差部(C1〜C4)ではそれぞれ導通している為に、この鉄筋26の四角形部分は一種のコイル状態となり、渦電流が発生して熱の発生による伝送効率低下が大きくなっているものと考えられる。
【0079】
図9Aは、メッシュ間隔Wに対するコイル径Dの比率が、D/W=1.0となっている鉄筋配置の場合の、絶縁処理された鉄筋28を配置したコンクリート壁の「空白部」に送電共振コイル4aを配置した状態を示す。
図8Aの場合と異なるのは、用いた鉄筋28が絶縁処理を施されていることである。これにより、縦と横に配置した鉄筋28が交差した交差部29は、エポキシ樹脂の被覆により確実に絶縁状態となっている。
【0080】
図9Bは、
図9Aのように絶縁処理された鉄筋28を配置したコンクリート壁を介在させて、それぞれ上述の3種類の部位に送電共振コイル4aを配置し、本発明の非接触電力伝送装置を用いて電力送電を行った結果を示す。コイル径Dを200mmで固定とし、鉄筋28のメッシュ間隔は100mm(D/W=2.0)、200mm(D/W=1.0)、300mm(D/W=0.7)と異ならせた。鉄筋28が無い場合の電力伝送効率は、この図に示すように74%であり、比較の為に破線で図示されている。
【0081】
実験の結果、鉄筋28のメッシュ間隔が100mm(D/W=2.0)の条件では、鉄筋28が無い場合に比べて約10%程度低くなった。「空白部」、「1本部」、「十字部」のどの位置に送電共振コイル4aを配置しても、電力伝送効率は約65%であった。更に、鉄筋28のメッシュ間隔Wが200mm(D/W=1.0)の条件、及び300mm(D/W=0.7)の条件では、「空白部」、「1本部」では70%近くの電力伝送効率を得ている。
【0082】
この結果から、交差部29を確実に絶縁状態とすることにより、送電共振コイル4aの周りにある4か所の鉄筋の交差部(C5〜C8)は導通していないので、この鉄筋28の四角形部分がコイル状態にはなっていないことが判る。送電共振コイル4aの外周付近及び内周に一種のコイル状態が形成されなければ、大きな電力伝送効率の低下は免れると考えられる。即ち、両方の鉄筋28同士が送電共振コイル4aの近傍で導通しないように、各鉄筋28の交差部29で絶縁処理が施されており、最低限D/W≦2の条件を満たしていれば、どの位置に送電共振コイル4aを固定しても、同様な電力伝送効率が得られることが判る。
【0083】
図10A〜
図10Cは、互いに異なる態様に絶縁処理が施された鉄筋が、メッシュ間隔Wに対するコイル径Dの比率が、D/W=2.0となるように設置された構造に対して、「空白部」、「1本部」、「十字部」のそれぞれ3ヶ所へ送電用共振コイル4aを配置した場合を示す。
【0084】
図10Aは、コストを下げる為に、メッシュの一方向(この図では横方向)のみ絶縁処理をした鉄筋28を用いた例を示す。これらの図から判るように、全ての交差部30において、鉄筋26と鉄筋28とは絶縁状態となっている。従って、どの場所に送電用共振コイル4aを配置しても、
図9Bに示したものと同様な結果が得られる(D/W=2.0)。
【0085】
図10Bは、メッシュの横方向の1本置きのみに、絶縁処理した鉄筋28を配置した例を示す。これにより、
図10Aよりもさらにコストダウンとなる。ただし、(b)十字部の配置では、
図8A(b)の「空白部」と同様に、送電用共振コイル4aの少なくとも四隅(例えば27)が導通状態となるので、結果的に電力伝送の効率低下が起きる。従って、
図10Bのような配置では、送電用共振コイル4aの配置を適切に選ぶ必要がある(「空白部」や「1本部」など)。
【0086】
図10Cは、
図10Bの配置の変形例であり、基本的には、絶縁処理した鉄筋32を横方向に1本置きに配置した構造である。但し、鉄筋32の絶縁処理は、絶縁処理していない鉄筋26と交差する交差部31のみに部分的に施されている。部分的に絶縁処理された鉄筋32を配置することにより、
図10Bの場合と同様の効果が得られ、更に低コスト化が可能である。
【0087】
なお、以上の実施の形態では、介在物の例として、コンクリート(鉄筋入りも)の壁を通して給電する例を示したが、介在物としては、ガラス、水越し給電など他の介在物を通過させる給電にも本発明を適用可能である。