(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3では,基本的には,導電率の異なる異種材料や異なる組成材料を用いて,ガスの上流部での発電を抑制している。このため,単セルの作成に複雑な工程が必要となる。また,材料や組成を異ならせると,熱膨張率が異なることになり,単セル上での温度が均一であっても,応力が不均一になる。
以上に鑑み,本発明は,発電および発熱の均一化が容易な燃料電池用単セル,燃料電池,および燃料電池用単セルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.本発明の一態様に係る燃料電池用単セルは,
燃料ガスの流れる方向に関して上流側と,前記燃料ガスの流れる方向に関して下流側とでの組成比が略同一の,第1のセラミック材料と,前記上流側と,前記下流側とでの組成比が略同一の,金属材料とで構成された複合材料,を含み,
前記上流側での抵抗率が前記下流側での抵抗率より大きい,燃料極層と,
前記燃料極層に積層され,第2のセラミック材料を含む,固体電解質層と,
前記固体電解質層に積層され,第3のセラミック材料を含む,空気極層と,
を具備する。
【0008】
燃料極層が,上流側と,前記下流側とでの組成比が略同一の,金属材料を含み,前記上流側での抵抗率が前記下流側での抵抗率より大きい。
燃料ガスは,上流側から下流側に流れる間に,流れが拡がり,また燃料ガスが消費される。従い,燃料ガスは上流側から下流側にかけて濃度勾配があるのが通例である。このため,上流側,下流側の抵抗率が等しいと,上流側で燃料ガスの消費,発熱が集中し,燃料電池用単セル内で温度が不均一となり,燃料電池用単セルが破損する畏れがある。
これに対して,本態様では,上流側での抵抗率が前記下流側での抵抗率より大きいことで,上流側での燃料ガスの消費が低減され,燃料電池用単セル内での発電および温度が均一化される。
【0009】
(1)前記燃料極層の抵抗率が,前記上流側から前記下流側にかけて,連続的に変化する部分を有しても良い。
抵抗率が,連続的に変化することで,燃料電池用単セル内での発電および温度がより均一化される。
【0010】
(2)前記上流側での前記燃料極層中の,前記金属材料の粒径が,前記下流側での前記燃料極層中の,前記金属材料の粒径より大きくても良い。
組成比が略同一の状態で,上流側での金属材料の粒径を,下流側での金属材料の粒径より大きくすることで,上流側での抵抗率を下流側での抵抗率より大きくすることができる。組成比が略同一の状態で,粒径を大きくすると,金属材料の粒同士が離間し易くなり,抵抗率が増加する。
【0011】
(3)表面側での前記燃料極層の抵抗率が,前記固体電解質層側での前記燃料極層の抵抗率より大きくても良い。
燃料極層の表面近傍での発電反応を低減し,燃料極層の電極面方向での発電および温度が均一化される。
【0012】
(4)前記表面側での前記燃料極層中の,前記金属材料の粒径が,前記固体電解質層側での前記燃料極層中の,前記金属材料の粒径より大きくても良い。
組成比が略同一の状態で,表面側での金属材料の粒径を,固体電解質層側での金属材料の粒径より大きくすることで,表面側での抵抗率を固体電解質層側での抵抗率より大きくすることができる。
【0013】
2.本発明の一態様に係る燃料電池は,上記燃料電池用単セル,を具備する。
燃料電池での発電および温度が均一化される。
【0014】
3.本発明の一態様に係る燃料電池用単セルの製造方法は,
第1のセラミック材料および金属材料を含む,燃料極層と,
前記燃料極層に積層され,第2のセラミック材料を含む,固体電解質層と,
前記固体電解質層に積層され,第3のセラミック材料を含む,空気極層と,
を有する構造体を準備する工程と,
水蒸気を含むガスの流れに前記燃料極層を暴露する工程と,
を具備する。
【0015】
水蒸気を含むガスの流れに,第1のセラミック材料および金属材料を含む,燃料極層を暴露することで,このガスの上流側での燃料極層の抵抗率をガスの下流側での燃料極層の抵抗率より大きくすることができる。
【0016】
(1)前記暴露する工程において,前記燃料極層の電極面に沿って,前記ガスを流しても良い。
燃料極層の電極面に沿って,抵抗率の勾配を形成できる。
【0017】
(2)前記暴露する工程において,流入口から前記ガスを流入させ,流出口から前記ガスを流出させ,これら流入口,流出口が前記燃料極を挟むように対向して配置されても良い。
対向する流入口,流出口間に抵抗率の勾配を形成できる。
【0018】
(3)前記水蒸気を含むガスが,水素ガス,窒素ガスの何れかを含んでも良い。
水素ガス,窒素ガスの何れかを含むガスを用いて,抵抗率の勾配を形成できる。
【0019】
(4)前記水蒸気を含むガスが,10mol%以上,70mol%以下の水蒸気を含んでも良い。
10mol%以上,70mol%以下の水蒸気を含むガスを用いて,抵抗率の勾配を形成できる。水蒸気がNiに接触すると,Niが酸化される。これと同時に水素が発生し,この水素により,酸化されたNiの一部が還元してNiに戻る。水蒸気の濃度が10mol%未満では,水蒸気が不足し,燃料極層の上流側でも,Niの凝集が不十分となる可能性がある。水蒸気の濃度が70mol%より大きいと,燃料極層の上流側で,Niの酸化が支配的となり,還元されたNiが再酸化する。この再酸化は,Niの体積を膨張させ,その結果,単セルが割れる可能性がある。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば,発電および発熱の均一化が容易な燃料電池用単セル,燃料電池,および燃料電池用単セルの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,図面を参照して,本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は,第1の実施形態に係る燃料電池スタック(燃料電池)100を表す斜視図である。燃料電池スタック100は,電池単位103,空気供給流路104,空気排気流路105,燃料供給流路106,燃料排気流路107,固定部材109から構成される。
【0023】
図2は,電池単位103を表す断面図である。
電池単位103は,発電の最小単位であり,インターコネクタ112,113,単セル120,空気室116,燃料室(ガス室)117,集電体118,119,を有する。
【0024】
インターコネクタ112,113は,平面視で四角い板形態であり,導電性を有するフェライト系ステンレス等で形成され,上下に配置される。
【0025】
(単セル120)
単セル120は,インターコネクタ112,113のほぼ中間に位置し,電解質102,空気極114,燃料極115を有する。電解質102の上面,下面に空気極114,燃料極115が配置される。なお,この詳細は後述する。
【0026】
(空気室116)
空気室116は,インターコネクタ112と空気極114との間に配置され,酸化剤ガスが供給される空間である。空気室116は,セパレータ123,空気極絶縁フレーム124, インターコネクタ112によって形成される。
【0027】
セパレータ123は,導電性を有する薄い金属製であり,四角い枠形状のフレーム部であって,下面に,電解質102が取着される。
空気極絶縁フレーム124は,セパレータ123と上のインターコネクタ112との間に設置されて,集電体118の周りを囲う枠形状の絶縁フレームである。
【0028】
(燃料室117)
燃料室117は,インターコネクタ113と燃料極115との間に配置され,燃料ガスが供給される空間である。燃料室117は,インターコネクタ113,燃料極絶縁フレーム121,および燃料極フレーム122との組合せによって形成される。
【0029】
燃料極絶縁フレーム121は,集電体119の周りを囲い,下のインターコネクタ113の下面に設置された枠形状の絶縁フレーム部である。
【0030】
燃料極フレーム122は,燃料極絶縁フレーム121の上面に設置される枠形状のフレーム部である。
【0031】
図2に示すように,燃料供給部127を通って燃料供給連絡部(ガス流入口)140から燃料室117に燃料ガスGが流入する。また,燃料室117から燃料排気連絡部(ガス流出口)144を通って燃料排気通孔141から燃料ガスGが流出する。燃料室117において,燃料極115上を燃料ガスGが流れる。即ち,燃料極115の燃料供給連絡部(ガス流入口)140側が上流側であり,燃料極115の燃料排気連絡部(ガス流出口)144側が下流側である。
【0032】
(集電体118)
集電体118は,空気室116の内部に配置され,空気極114と上のインターコネクタ112とを電気的に接続する接続部材である。
【0033】
空気室116側の集電体118は,細長い角材形状で,緻密な導電部材(例えば,ステンレス材)で形成される。複数本の集電体118が,電解質102の上面の空気極114と上のインターコネクタ112の下面(内面)に当接し,平行に且つ一定の間隔をおいて配設されている。なお,空気室116側の集電体118は,燃料室117側の集電体119と同じ構造にしてもよい。
【0034】
(集電体119)
集電体119は,燃料室117の内部に配置され,燃料室117と下のインターコネクタ113とを電気的に接続する接続部材である。
【0035】
集電体119は,コネクタ当接部(導電性部材)119a,単セル当接部(導電性部材)119b,連接部119c,スペーサ158を有する。
【0036】
コネクタ当接部(導電性部材)119a,単セル当接部(導電性部材)119bはそれぞれ,インターコネクタ113および単セル120の燃料極115に当接する。
連接部119cは,コネクタ当接部119aと単セル当接部119bとをつなぐU字状の部材である。
【0037】
なお,集電体119は,板材で形成する場合の他,例えばNi製の多孔質金属又は金網又はワイヤーで形成するようにしてもよい。また,集電体119は,Niの他,Ni合金やステンレス鋼など酸化に強い金属で形成するようにしてもよい。
【0038】
スペーサ158は,単セル120と下のインターコネクタ113の間の燃料室117内に,コネクタ当接部119aと単セル当接部119bの間に配置される。スペーサ158の材料として,マイカ,アルミナ,バーミキュライト,カーボン繊維,炭化珪素繊維,シリカの何れか自体か,或は少なくとも何れか1種を主成分とするものを利用できる。
【0039】
(固定部材109)
燃料電池スタック100は,前記電池単位103を複数セット積層してセル群となし,該セル群を固定部材109で固定して構成される。
なお,電池単位103を複数セット積層した場合において,下に位置する電池単位103の上のインターコネクタ112と,その上に載る電池単位103の下のインターコネクタ113は,一体にして上下の電池単位103,103同士で共有する。
【0040】
固定部材109は, 一対のエンドプレート145a,145b,四組の締め付け部材146a〜146dと,を組み合わせたものである。
一対のエンドプレート145a,145bは,セル群の上下を挟む。
締め付け部材146a〜146dは,エンドプレート145a,145bとセル群をエンドプレート145a,145bのコーナー孔(図示せず)とセル群の前記コーナー通孔147にボルトを通してナットで締め付ける。締め付け部材146a〜146dの材質は,例えばインコネル601である。
【0041】
この燃料電池スタック100に対し,空気供給流路104は,エンドプレート145a,145bの通孔(図示せず)とセル群の前記空気供給通孔129を上下に貫く状態にして取り付けられる。
【0042】
(単セル120の詳細)
以下,単セル120の詳細を説明する。
図3は,単セル120の模式断面図である。既述のように,単セル120は,電解質(固体電解質層)102,空気極(空気極層)114,燃料極(燃料極層)115を有する。
【0043】
電解質102は,酸素イオン導電性のセラミック材料から構成される。具体的には,希土類を添加したジルコニア(イットリア安定化ジルコニア(YSZ),サマリア安定ジルコニア(SSZ)),ランタンガレート(LaGaO
3)系酸化物が挙げられる。
【0044】
空気極114の材質は,セラミック材料(金属の酸化物,金属の複酸化物等)を用いることができる。例えば,(La,Sr)
X(Co,Fe)
YO
3(LSCF)が挙げられる。
電解質102と空気極114の間に,これらの間での反応を防止する反応防止層を配置しても良い。反応防止層は,例えば,ガドリアドープセリア(GDC)から構成できる。
【0045】
燃料極115の材質は,酸素イオン導電性の酸化物セラミック粒子115aと金属粒子115b(例えば,Ni)との混合体から構成される。酸素イオン導電性酸化物セラミックとして,イットリウムやスカンジウム等の希土類を添加したジルコニア,LaとGaを含むランタンガレート(LaGaO
3)系酸化物,Gdを含むセリア酸化物が挙げられる。
【0046】
本実施形態では,燃料ガスの上流側と,下流側とで,燃料極115の金属粒子115bの組成比が略同一で,上流側での燃料極115の抵抗率が下流側での燃料極115の抵抗率より大きい。このとき,抵抗率の変化は,段階的,連続的の何れでも良い。
【0047】
組成比は,燃料極115中で金属粒子115bが占める割合,例えば,質量%を意味する。即ち,上流側と,下流側とで,金属粒子115bの質量%が略同一である。略同一とは,例えば,±1%程度以内の質量%の相違を誤差範囲として無視することを意味する。燃料極115上で組成を傾斜する必要が無いので,燃料極115の作成が容易となる。
【0048】
上流側での燃料極115の抵抗率が下流側での燃料極115の抵抗率より大きいことで,単セル120での発電,発熱が均一化する。なお,この詳細は後述する。
【0049】
抵抗率は,電気抵抗率を意味する。電気抵抗率には,体積抵抗率と表面抵抗率があるが,ここでいうのは基本的には体積抵抗率である。燃料極115中での体積抵抗率の分布が,単セル120での発電,発熱の均一化に寄与する。
但し,体積抵抗率自体の測定が困難な場合,体積抵抗率に替えて表面抵抗率(シート抵抗率)を用いることができる。
【0050】
本実施形態では,
図3に示すように,燃料極115中の金属粒子115bの粒径が燃料ガスの上流側,下流側で異なる。このことで,上流側での燃料極115の抵抗率が下流側での燃料極115の抵抗率より大きくなる。金属粒子115bの組成比が略同一で粒径が大きくなると,燃料極115中に金属粒子115bの導電パスが形成され難くなる。導電パスは,複数の金属粒子115bが接触した状態で繋がることで,形成される。金属粒子115bの組成比が略同一で粒径が大きくなると,金属粒子115bが存在しない空間が増えて,金属粒子115bが連続して繋がることが困難となる。
なお,
図3では,電解質102側での燃料極115中の,金属粒子115の粒径も大きくなっており,金属粒子115の粗大化が進んだ状態を表す。
【0051】
(変形例)
図4は,変形例に係る単セル120aを示す。
単セル120aでは,燃料ガスの上流側において,表面側での燃料極115中の,金属粒子115bの粒径が,電解質102側での燃料極115中の,金属粒子115bの粒径より大きい。
【0052】
組成比が略同一の状態で,表面側での金属粒子115bの粒径を,電解質102側での金属粒子115bの粒径より大きくすることで,燃料ガスの上流側において,表面側での抵抗率を電解質102側での抵抗率より大きくすることができる。この結果,燃料ガスの上流側での燃料極115の抵抗率が下流側での燃料極115の抵抗率より大きくなる。
【0053】
また,表面側での抵抗率が電解質102側での抵抗率より大きいことで,燃料極115の表面近傍での発電反応が低減され,燃料極115の層方向で発電および温度が均一化される。
【0054】
(比較例)
図5は,比較例に係る単セル120xを示す。
単セル120xでは,燃料極115中の,金属粒子115bの粒径は均一であり,燃料極115の抵抗率も均一である。
【0055】
(発電・発熱の均一化)
図6,
図7はそれぞれ,単セル120xと単セル120(または単セル120a)での発熱状態を表す模式上面図である。
単セル120xでは,燃料極115の抵抗率が均一である(導電パスが均一に燃料極115内に分布している)。そのため,
図6に示すように,燃料ガスが最初に通る入口部分(上流側)に発電が集中してしまう。このとき,発生した熱の逃げ場が下流側にしか無く,熱の逃げ場が制限され,上流側に発電,発熱が集中する(発電(・発熱)集中領域R0の発生)。
【0056】
単セル120では,燃料ガスの入口部分(上流側)の抵抗率が高い(導電パスが断絶している)。このため,
図7に示すように,発電の中心(発電集中領域R1)が単セル120の端部から中心部のほうへ移動する。この結果,熱が四方八方に逃げられるようになり,温度上昇が抑えられる。即ち,発電が集中しやすい上流部での発電が抑制され,発電が単セル120全体で行われる。その結果,単セル120面内での温度勾配が緩和される。
【0057】
また,燃料ガスは,上流から下流へ流れていく際に,拡散により,単セル120全体へ広がろうとする。このため,単セル120上での燃料ガスの濃度分布が緩和され,単セル120全体でより均一に発電,発熱するようになる。
【0058】
上流部(単セル120の上流側端部)に流入した段階の燃料ガスは濃度が高いが,上流部から中流,下流へ流れていく際に拡散し,濃度が低下する。即ち,薄まったガスが,単セル120の面内に広がった状態となる。より均質となったガスが単セル120全体に広がっているため,単セル120全体で発電する。単セル120の上流部での抵抗率を高くして,上流部で,事実上,発電しないようにできる。
【0059】
(単セル120の製造)
以下,本実施形態に係る単セル120(あるいは変形例に係る単セル120a)の製造手順を説明する。次に示すように,燃料電池スタック100形成後の処理により,燃料極115での抵抗率に上流側から下流側にかけて抵抗率の分布を形成できる。
【0060】
(1)燃料電池スタック100の形成
複数の電池単位103を積層して,燃料電池スタック100を形成する。既述のように,電池単位103には,燃料ガス(例:水素)を流入,流出する燃料供給連絡部(ガス流入口)140,燃料排気連絡部(ガス流出口)144が対向して設けられている。
【0061】
電池単位103は,電解質102,空気極114,燃料極115を有する単セル120を備える。燃料極115は,酸素イオン導電性酸化物セラミック粒子と金属酸化物粒子(例えば,酸化ニッケル粒子)を混合して形成される。
【0062】
(2)燃料極115中の金属酸化物粒子の還元
燃料電池スタック100を例えば,700℃まで電気炉で加熱し,空気極114に空気を,燃料極115に水素を導入する。この状態で,例えば,3時間放置する。
【0063】
これにより,燃料極115中の酸化ニッケル粒子が水素により還元され,導電性の金属粒子(ニッケル粒子)となる。これにより,燃料電池スタック100は空気と燃料を供給されれば発電可能な状態となる。即ち,セラミック材料を含む空気極114,セラミック材料を含む電解質102,セラミック材料および金属材料を含む燃料極115が積層された構造体が作成される。
なお,この段階では,金属粒子は,上流側,下流側で粒径に実質的な違いを有しない。
【0064】
(3)燃料極115中の金属粒子の酸化,還元の繰り返し
次のように,燃料極115中の金属粒子の酸化,還元を繰り返すことで,ガス上流部で電子伝導性が断絶した燃料極115を作成できる。
【0065】
発電可能な燃料電池スタック100に対して,燃料極115に加湿した水素(H
2+H
2O)を導入する。例えば,水蒸気の濃度は,10mol%以上,70mol%以下(一例として,50mol%)で,曝露時間は3時間,スタック温度は600℃−800℃の範囲で選択できる。
【0066】
これにより,導入ガスと最初に接触する単セル120の上流部は中流,下流に比べて水蒸気濃度が高いために,Niが水蒸気により酸化される。ここで,Niは酸化されてもすぐに水素で再還元される。
【0067】
この水蒸気による酸化と水素による再還元サイクルを継続的に受けることにより,上流部の燃料極115の表面層のNiは次第に凝集する。Niの凝集が進んだ結果,隣り合うNi粒子同士の接続が切断される部分が形成され,導電性が部分的に消失される領域と,導電性は有するものの,下流のそれと比較すると抵抗率が高くなっている領域ができる。
【0068】
以上のようにして,抵抗率の勾配を有する単セル120を有する燃料電池スタック100を作成できる。
【0069】
この燃料電池スタック100で発電を行うと,Niの導電パスが消失したガス上流側の単セル120上では発電が行われにくくなり,発電中心がより単セル120の中央部に移動する。このため,単セル120の面内での温度勾配が小さい状態で発電を行うことができる。
【0070】
ここで,水蒸気を含む還元性ガスの代わりに,水蒸気を含む窒素(N
2+H
2O)を用いてもよい。水蒸気がNiにあたると,Niが酸化されると同時に水素が発生する。この水素により,一部では還元反応が再び起こり,レドックスサイクルが繰り返される。水蒸気の濃度が,10mol%以上,70mol%以下(一例として,50mol%)のガスを1h,600℃,あるいは700℃の温度で,燃料極115へ導入することによって,燃料ガスの上流側が高抵抗率の単セル120を得ることが可能である。
【0071】
上流側と下流側の抵抗率を比較する場合には,ガス流れがある燃料極115の上流部,中流部,下流部で行うのが望ましい。
ここで,ガス上流部に位置する燃料極115のすべてが下流部より高抵抗率である必要はない。上流部の一部が,下流部よりも抵抗率が低いことが許容される。即ち,平均的な抵抗率が,上流側で高く,下流側で低ければ良い。
【0072】
このようにガス上流部等での抵抗率のバラツキは,例えば,燃料電池スタック100(電池単位103)での構造に起因して生じ得る。電池単位103において,燃料極115上に何らかの部材が配置される可能性がある。例えば,適切な燃料ガスの流れを形成するために,流路形成部材が配置されることがある。
【0073】
燃料極115上に何らかの部材が配置されると,燃料ガスの上流側でも,その直下に燃料ガスが流れない部分が生じる。このため,この部分はガス流れが有る部分に比べて上記の酸化還元反応は進行しない。この結果として,Niの凝集も起こらず,高抵抗率領域とならないことが有りうる。
【0074】
(抵抗率の測定)
作成された燃料極115のガス上流部と下流部からそれぞれ5.0mmx20mmの短冊片をサンプリングし,4探針法抵抗測定器により,サンプルの抵抗率を計測する(水蒸気に曝された面を計る)。これにより,上流部の方が下流部より表面抵抗率(シート抵抗率)が2倍以上高くなっていることが判った。
なお,燃料極115の厚さ等が均一であることから,体積抵抗率も同様の傾向で有ると考えられる。
【0075】
図8,
図9は,燃料極115中の金属(Ni)粒子の分布を表す図である。
図8,
図9はそれぞれ,燃料極115の表面側,電解質102側に対応する。燃料極115を特性X線で分析し,Niが存在する箇所を黒点で表している。
【0076】
図8は,水蒸気によって上流から下流に向かって曝露された燃料極115の表面近傍のNi粒子を表す。上流ではNi粒子が成長し,4μmを超える粒子が見られる。中央ではやや大きい3〜4μmのものが見られる。下流では3μmを超える粒子は見られない。
【0077】
図9は,
図8に示したと同一の燃料極115の電解質102側のNi粒子を表す。電解質102側は,表面近傍に比べ,燃料極115のより内部にあるため,水蒸気に曝露されにくい。そのため,上流から下流に向かってNi粒子の径の差は小さく,3μmを超えるNi粒子は見られない。既述の
図4は,
図8,
図9に示す状態をイメージ化している。
【0078】
図8,
図9に示されるように,燃料極115の表面側において,上流,中央(中流),下流の順に,粒径が小さくなる傾向がある。燃料極115の電解質102側において,上流,中央(中流),下流での粒径の相違は比較的小さい。
【0079】
(第2の実施の形態)
図10は,第2の実施形態に係る燃料電池スタック(燃料電池)100aを表す模式斜視図である。
燃料電池スタック100aは,略円筒形状の単セル120aを有する。単セル120aは,電解質102,空気極114,燃料極115を有する。単セル120aの内部に燃料ガスが流入,流出する。ここでは,略円筒形状としているが,扁平な筒形状であっても,良い。
【0080】
第1の実施形態と同様,本実施形態では,燃料ガスの上流側と,下流側とで,燃料極115の金属粒子115bの組成比が略同一で,上流側での燃料極115の抵抗率が下流側での燃料極115の抵抗率より大きい。その他,単セル120aの形状を除き,抵抗率の傾向等,第1の実施形態と大きく変わるところは無いので,詳細な説明を省略する。
【0081】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。