特許第6173090号(P6173090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6173090鉄筋かぶりスペーサ、これを用いた構造物の施工方法、及び鉄筋かぶり厚検査システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173090
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】鉄筋かぶりスペーサ、これを用いた構造物の施工方法、及び鉄筋かぶり厚検査システム
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/20 20060101AFI20170724BHJP
【FI】
   E04C5/20
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-153496(P2013-153496)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-198987(P2014-198987A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-52591(P2013-52591)
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137970
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 康央
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−348538(JP,A)
【文献】 特開2009−282874(JP,A)
【文献】 特開2006−337169(JP,A)
【文献】 特開2008−138452(JP,A)
【文献】 特開2014−065145(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0072978(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/16 − 5/20
E04G 21/00 − 21/12
G06K 19/00 − 19/077
G01N 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋への取付け支持部と、前記支持部に取り付ける、水硬性組成物又はセラミックス製スペーサ本体部を有し、前記スペーサ本体部は、ICタグのアンテナを含んで形成する面が、型枠と当接する面と平行で、ICタグが、d=0.2L〜0.6Lに内蔵されたことを特徴とする鉄筋かぶりスペーサ。(式中dは、内蔵されたICタグのアンテナを含む平面とスペーサが型枠と当接する仮想面との距離を表し、Lは、スペーサが型枠と当接する仮想平面から鉄筋の表面までの距離を表す。)
【請求項2】
前記スペーサ本体部は、ICタグのアンテナを含んで形成する面が、型枠と当接する面と平行になるように、前記取付け支持部が、型枠の傾斜に対して、鉄筋回りに摺動回転することを特徴とする請求項1記載の鉄筋かぶりスペーサ。
【請求項3】
前記スペーサ本体部は、型枠面からのかぶり厚情報を記憶するメモリを含むICタグを内蔵することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄筋かぶりスペーサ。
【請求項4】
かぶり厚保証値L又はかぶり厚の測定値、若しくは、規定のかぶり厚を確保できる長さを有していることの合格証明情報を、ICタグの内部メモリへ書込みをするか、又は、ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースへ書き込みをおこない、構造物の施工にあたって、鉄筋の配筋後、請求項1乃至請求項3記載のいずれかのスペーサを鉄筋に装着し、型枠を設置し、コンクリート打込、養生することを特徴とする構造物の施工方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3記載のいずれかのスペーサと、完成後の構造物表面から、前記スペーサの有無を確認して、かぶり厚情報を取得するリーダと、前記合格証明情報を、スペーサに内蔵されたICタグの内部メモリへ書込みをするライター、又は、ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースへの書き込み装置と、をすくなくとも有することを特徴とする鉄筋かぶり厚検査システム。
【請求項6】
さらに、管理情報を、前記スペーサに内蔵されたICタグの内部メモリ、又は、前記ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースに書き込むことを特徴とする請求項5の鉄筋かぶり厚検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートに使用する鉄筋かぶりスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物の鉄筋のかぶりは、構造物の耐久性を維持するために重要な部位である。耐久性の確保のためには、かぶり部のコンクリートの品質が、ひび割れ等がなく良好であることが必要であり、必要とされる耐久性を確保するために設計された厚みが確実に確保されていることが重要である。通常、かぶり厚の確保は、鉄筋の配筋作業と型枠の設置により、設計されたとおりのかぶりを確保して施工されるが、型枠のずれ等の施工時の誤差や設計ミス等が発生する可能性も否めない。従って、かぶり厚は最終的に完成したコンクリート構造物の状態で確認することが望まれている。そのため、現状の確認手法として、コンクリート構造物の表面よりレーダー法や電磁誘導法による非破壊検査がおこなわれている(特許文献1等)。このとき、測定機器が比較的高価であることや、建物全体に亘る計測を実施するために多大な労力が必要となっている。
【0003】
さらに、かぶりスペーサの有無にかかわらず、コンクリート構造物内の鉄筋にICタグを設置し、施工後、コンクリート構造物表面からICタグの位置を測定して、かぶり厚みを推定する方法(特許文献2)も考えられる。
【0004】
しかし、構造物内部のICタグの信号は、検出しにくい、あるいは信号が検出できてもその感度がばらつく等の不具合が生じることや、ICタグ自身が設置された位置を特定することが難しいという問題点がある。信号を検出しても、ICタグの埋め込まれた位置は、ICタグから返される電波の強度、および外部の数箇所にて検知する電波の方向等により決定するという比較的手の込んだ作業が想定される。
【0005】
更に、特許文献3では、鉄筋にアンテナの一部を接続することで、鉄筋がアンテナの役割を果たすが、一般に鉄筋の配筋は、建設する構造物の構造設計によって、本数、配置、太さ等が大きく異なることから、ICタグのアンテナの一部を鉄筋に接続するだけで、ICタグと通信を確立するための共振周波数もマッチングするとは限らない。また、アンテナへのスリット加工のみでインピーダンスの整合性を調整することは困難である。
【0006】
更には、鉄筋の配筋は、通常、導電性を有する金属紐で結束されるため、鉄筋同士の導電性が、果てしなく大きく変動する可能性があり、設計時に予め把握することも困難である。また、仮に広い面積から接続したICタグを読取るが可能であっても、複数のICタグが配置された場合、アンチコリジョン等の高度な技術を用いなければ読み取るICタグの分別が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−14472号公報
【特許文献2】特開2004−294288号公報
【特許文献3】特開2009−282874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、鉄筋及びその配置の影響を受けずに構造物外部からスペーサに埋設したICタグと正常な通信が可能で、スペーサとして用いると、かぶり厚も確保でき、取り付けが容易で、さらに、別途ICタグのとりつけが不要で、設置による構造物の欠陥が生じない、鉄筋かぶりスペーサを、提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、鉄筋への取付け支持部と、スペーサ本体部を有し、スペーサ本体部は、ICタグを内蔵することを特徴とする鉄筋かぶりスペーサ、を提供する。
【0010】
前記ICタグは、d=0.2L〜0.6Lに内蔵することを特徴とする請求項1に記載の鉄筋かぶりスペーサ、を提供する。(式中dは、内蔵されたICタグのアンテナを含む平面とスペーサが型枠と当接する仮想面との距離を表し、Lは、スペーサが型枠と当接する仮想平面から鉄筋の表面までの距離を表す。)
【0011】
ICタグのアンテナを含んで形成する面が、型枠と当接する面と平行になるように、ICタグを内蔵させたことを特徴とする前記鉄筋かぶりスペーサ、を提供する。
【0012】
さらに、前記ICタグがパッシブ型であることを特徴とする前記のいずれかの鉄筋スペーサ、を提供する。
【0013】
前記取付け支持部が、鉄筋に摺動回転可能であることを特徴とする前記のいずれかの鉄筋スペーサ、を提供する。
【0014】
さらに、型枠と当接する仮想平面とスペーサ本体部との間にコンクリートが流れ込む隙間があることを特徴とする前記鉄筋かぶりスペーサ、を提供する。
【0015】
スペーサ本体部が、水硬性組成物又はセラミックスである前記鉄筋かぶりスペーサ、を提供する。
【0016】
鉄筋への取付け支持部と、スペーサ本体部を有し、スペーサ本体部は、型枠面からのかぶり厚情報を記憶するメモリを含むICタグを内蔵することを特徴とする鉄筋かぶりスペーサ、を提供する。
【0017】
前記のいずれかに記載のスペーサのかぶり厚保証値L又はかぶり厚の測定値、若しくは、規定のかぶり厚を確保できる長さを有していることの合格証明情報を、ICタグ11の内部メモリへ書込みをするか、又は、ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースへ書き込みをおこない、構造物の施工にあたって、鉄筋の配筋後、前記スペーサを鉄筋に装着し、型枠を設置し、コンクリート打込、養生して、完成後の構造物表面からリーダで前記スペーサの情報を確認して、所定かぶり厚を保証する鉄筋かぶり厚の検査方法、を提供する。
【0018】
前記いずれかに記載のスペーサと、
完成後の構造物表面から、前記スペーサの有無を確認して、かぶり厚情報を取得するリーダと、
前記合格証明情報を、スペーサに内蔵されたICタグの内部メモリへ書込みをするライター、又は、ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースへの書き込み装置と、
をすくなくとも有することを特徴とする鉄筋かぶり厚検査システム、を提供する。
【0019】
前記システムにおいて、さらに、管理情報を、前記スペーサに内蔵されたICタグの内部メモリ、又は、前記ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースに書き込むことを特徴とする鉄筋かぶり厚検査システム、を提供する。
【0020】
前記スペーサのかぶり厚保証値L、若しくは、規定のかぶり厚を確保できる長さを有していることの証明情報を、ICタグ11の内部メモリへ書込みをするか、又は、ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースへ書き込みをおこない、構造物の施工にあたって、鉄筋の配筋後、前記スペーサを鉄筋に装着し、型枠を設置し、コンクリート打込、養生して、完成後の構造物表面からリーダで前記スペーサの有無を確認して、所定かぶり厚を保証するかぶり厚の検査方法、を提供する。ここで、かぶり厚保証値Lとは、「スペーサが型枠と当接する仮想平面から鉄骨の表面までの距離」である。また、アンテナ距離dとは、「ICタグ中のアンテナを含む平面とスペーサが型枠と当接する仮想面との間隔」である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鉄筋かぶりスペーサによると、取り付けが容易で、さらに、設置による構造物の欠陥が生じずにかぶり厚も確保でき、別途RFIDタグのとりつけ不要で、鉄筋及びその配置の影響を受けずに構造物外部からスペーサに埋設したICタグと正常な通信が可能となる。
【0022】
更には、スペーサに内蔵されたICタグに鉄筋かぶり厚さの情報を収納することで、迅速にかぶり厚が所定値以上であることを、確実に検査することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例の投影図及び斜視図を例示する図である。
図2】本発明の別の実施例の鉄筋かぶりスペーサ本体部と、鉄筋との位置関係を示す図である。
図3】ICタグを鉄筋かぶりスペーサ本体部に埋め込む工程を例示した図である。
図4】鉄筋かぶりスペーサ本体部を鉄筋に装着する取付け支持部の一例を示した図である。
図5】本発明の鉄筋かぶりスペーサを鉄筋に装着し、型枠を組んで、コンクリート打設する際の模式図(a)、及び型枠取付け打設前後で、型枠の位置が変動したときの模式図(b)である。
図6】本発明の検査方法を実施するステップを例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
(スペーサ本体部)
モルタル、セラミックス、プラスチックを成型して、矩形状、円柱状、円錐状等の形状とすることができる。高強度モルタルが好ましく、AlやZrOに代表されるセラミックス製でもよい。スペーサ形状は、矩形状を基本とする。三角柱状でも、円柱状でも良いが、型枠と当接するとき、スペーサ機能が損なわれず、所定位置と型枠との所定間隔が保持される必要がある。スペーサの寸法は、鉄筋と型枠との距離に応じて、20〜250mm程度である。
【0026】
図2はかぶりスペーサ本体部10と、鉄筋30との位置関係を図示する。かぶりスペーサ本体部10の形状は限定するものではないが、鉄筋30の長さ方向の手前を正面とすると、正面図、背面図が内側にくびれた四辺で囲まれる矩形である。右側面と左側面が同形で、また、平面図と底面図が同形で、これら四面が、共に、鉄筋の長さ方向の中心線(側面には破線で示す、正面と背面上の破線はくびれていない、平面には破線がないが、くびれている)を谷底とするV字もしくはU字谷状くびれ面とすることが好ましい。鉄筋は、底面の中心線のくびれに沿って位置する。平面図上の線Aと線Bを含む平面が、型枠との当接仮想面である。
【0027】
型枠に当接する面にくびれをもうけたのは、打設時に、コンクリートがくびれの隙間に流れ込み、コンクリートの充填を妨げることがないこと、当接する部分の接触が少ないほうが、型枠の施工が容易で、コンクリート表面が平滑性に優れた仕上がりとなるからである。鉄筋に当接する面にくびれをもうけたのは、鉄筋に配置する際の位置が設計上の位置に確実に配置するためと、本体部を、アンテナを含む面に対して面対称形として、可逆性をもたせ、本体部の製造を容易にするためである。
【0028】
鉄筋コンクリートと構造物におけるかぶり厚とは、施工後、構造物内の最も表面に近い内部鉄筋から構造物表面までの距離であり、かぶり厚保証値Lは、「スペーサが型枠と当接する仮想平面から鉄骨の表面までの距離」であり、個々のスペーサの形状で決定するものである。スペーサは最も表面に近い鉄筋に取付け、コンクリートを打ち込む前の型枠との距離を一定以上に保つために設置される。つまり、スペーサの設置によって、かぶり厚は、かぶり厚保証値Lと同等以上となる。所定のかぶり厚保証値L等を記憶可能なメモリを含むICチップと、アンテナとを有するICタグを内蔵する。ICタグに適用されるアンテナは、型枠面と当接する仮想平面と平行な面上に配置させることが好ましい。
【0029】
このとき、スペーサが型枠と当接する面とICタグのアンテナが平行になるように、水硬性組成物又はセラミックスへICタグをあらかじめ埋め込み硬化させることが好ましい。
【0030】
ICタグ11は、メモリを有するICチップ、アンテナを含み、かぶりスペーサに内蔵する。ICチップのメモリは、建設現場或いは工場等において、若しくは、構造物の施工時、補修時等において、管理すべき情報を、書き込むことができる。管理情報は、本スペーサの有無の情報にとどまらず、建設物自身の設計情報や建設過程の施工時の情報等、トレーサビリティを確保できる情報が含まれる。更には、かぶり厚保証値L、スペーサ設置により確保される施工後の鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋からのかぶり厚、もしくは、ICタグのIDに紐つけられたかぶり厚保証値Lを確認した情報を記憶できる。このとき、ICタグの形状については、スペーサ内に埋設することが可能であれば形状を限定するものではなく、円筒状、円盤状、プレート状、球状他、様々な形状のものが利用できる。円盤状、プレート状のようにアンテナを含む面が平面の場合は、施工面(型枠の面)に平行となるようにすると、アンテナの指向性が良くなる。従って、最も多く流通している薄板状のICタグを使用することも容易である。その場合は、例えば、図2の右側面と左側面及び、正面図と背面図の4本の中心線で囲む平面上に位置することが好ましい。こうして、アンテナを含む平面を、この平面と一致させることができる。
【0031】
ICタグは公知のものを利用でき、リーダーライタで、電源供給と同時に情報のメモリへの書込みと読取りができる。周波数帯は、数百KHz〜3GHzまでの一般的に使用される規格のICタグを利用できる。また、ロジック回路はリーダーライタからの電波にアンテナが共振することにより発生する電流の供給により作動し、リーダーライタからの指示に応じてメモリに格納された情報をアンテナ20から送信し、或いは、リーダーライタから送信された情報をメモリ11に格納することも可能である。リーダーライタはアンテナを備え、アンテナを介してリーダ/ライターがICタグと無線通信を行うことになる。
アンテナを含む平面と型枠と当接する仮想面との間隔が、アンテナ距離dである。アンテナ距離dは、前記仮想面から、d=0.2L〜0.6Lに設定するのが好ましい。0.2Lより小さいと、スペーサ自体の強度が小さくなる虞があり、0.6Lより大きいと、アンテナが鉄筋に近くて通信が阻害される虞が否定できない。
【0032】
スペーサに埋設するICタグはパッシブ型が望ましい。スペーサは構造物内部に設置されるため、電池等の電源交換や充電が困難であり、電池を有しないパッシブ型であれば長期間の利用が可能となる。また、電池等を搭載しないため、本スペーサをコンパクトに設計できる。
【0033】
また、ICチップ、アンテナを保護するICタグの外装材は電波を通す性質のあるもの、或いは、磁界を遮断しないもの、で包み込んでも良い。保護材の例として、例えば、プラスチック、セラミックスやコンクリート、モルタルといった無機材料、梱包材として用いられる緩衝シート材や不織布も望ましい。
【0034】
図3はICタグ11をかぶりスペーサ本体部に埋め込む工程(S11)を例示した図である。即ち、図1における、右側面と左側面及び、平面図と底面図の4本の中心線で囲む平面で、本体部を同形状の上部10b、下部10aに2分割して、その間に、ICタグ11を挟んでモルタルで接着する。ICタグ装着部分はその形状にICタグの厚み分の窪みをつけて、上部10b、下部10aで挟みこむことができる。また、流し込み成型では、下部10a部分を先に成型して、ICタグ11を装着後、上部10bに対応するモルタル等を流し込んで成型することもできる。また、プレス成型では下部10aの部分を先に成型し、モルタルが硬化する前に、上部10bの部分をプレス成型し、一体化させた後、硬化させることもできる。半硬化状態で埋め込みも可能である。
【0035】
(水硬性組成物を用いた本体部の製造)
水硬性組成物による製造方法を以下に例示する。
水、セメント、砂、砂利を主成分とし、適時、高炉スラグ微粉末やフライアッシュ、炭カル粉末、石灰石微粉末を適切な量にて調合し、水を混合した後に、型枠に流し込む。
型枠の一部の容積を占めた状態で、ICタグを設置し、残りの空容積に前記モルタル(コンクリート)を流し込み、常温もしくは、高温蒸気環境下において養生し、硬化させる製造方法を用いることができる。こうして1回目と2回目の流し込み量を調整することで、d=0.2L〜0.6Lにあわせることができる。
【0036】
ここで、各材料の比や粒度を変更し、流動性を硬くすることで、流し込みだけではなくプレス成型(即時脱型)による製造も可能となる。プレス成型の場合、型枠に一部の容積までのまだ固まらないコンクリートをプレス成型し、ICタグを所定の位置に設置し、残りの容積を占めるコンクリートを被せ、再度プレス成型を行う。成型後は脱型を行い、常温もしくは、高温蒸気環境下において養生し、硬化させる製造方法を用いることができる。
【0037】
また、水硬性組成物には、ポリプロピレン繊維やポリビニルアルコール繊維に代表される有機繊維を用いることで、硬化時のひび割れを抑制する効果や、落下時の衝撃でおこる脆性的破壊を抑制する効果が得られる。また、設置による構造物の欠陥を生じさせず、構造物外部から正常な通信を確保する観点から、水セメント比10〜70%が好ましく、製造面の作業性から20〜65%がさらに好ましい。
【0038】
以下の材料を使用した製造方法で例示する。
1)セメント;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
2)ポゾラン質微粉末;シリカフューム(BET比表面積20m2/g)
3)無機粉末;石英粉末(平均粒径7μm)
4)骨材;珪砂4号と5号の質量比2:1の混合砂
5)減水剤;ポリカルボン酸系高性能AE減水剤
6)水;水道水
【0039】
普通ポルトランドセメント100質量部、シリカフューム30質量部、骨材100質量部、水16質量部、高性能AE減水剤0.8質量部(固形分換算)を二軸練りミキサに投入し、混練する。1回目と2回目の流し込み量は、d=0.5Lにあわせたスペーサ成型をおこない、前置き(20℃)24時間後脱型し、28日間20℃気中養生を行う。
【0040】
別の配合として、普通ポルトランドセメント100質量部、シリカフューム30質量部、石英粉末30質量部、骨材100質量部、水16質量部、高性能AE減水剤0.8質量部(固形分換算)を二軸練りミキサに投入し、混練する。成型は、1回目と2回目の流し込み量を、d=0.4Lにあわせた。前置き(20℃)24時間後脱型し、28日間20℃気中養生を行う。また、各配合にはひび割れの抑制や靭性の付与のため、ポリビニルアルコール繊維を混練物の体積の0.5〜3%程度混合することも好ましい。
【0041】
(セラミックスを用いた本体部の製造)
モルタル、コンクリート等の水硬性組成物を用いる以外に、Al、ZrO、SiC、Siのようにセラミックスによることも好ましい。また、埋設するICタグの全ての面が、水硬性組成物もしくは、セラミックスにより覆われるスペーサとする。
【0042】
セラミックスによる製造方法を以下に例示する。
AlおよびZrO、SiC、Siに代表される無機組成物で、凹凸状の硬化体を作製する。凹部材にICタグを設置し、凸部材を被せるように取り付ける。その際に、熱硬化性接着剤や、紫外線硬化型接着剤等を用いて接着し硬化させる。ICタグの埋設は、例えばコイン状、プレート状のような平板状のものであれば、その平板面が、コンクリート表面側に向くように埋設する。円筒状、球状の場合は内蔵するアンテナ形状、アンテナ特性、アンテナ配置によって、その指向性が変わるので、指向性が最も高い向きがコンクリート表面側に向くように設置する。
【0043】
こうして、スペーサ本体部にICタグを予め内包させるので、コンクリート構造物中に設置する場合、コンクリートの打設時に、ICタグが傷つくこともない。
【0044】
(取付け支持部)
所定間隔でスペーサ本体を取付け支持できる、金属性
であることが好ましい。
【0045】
図1は、矩形状の本件発明の概要を例示するものである。(d)に、本かぶりスペーサの本体部の斜視図を、鉄筋30との位置関係とともに示した。本斜視図の上方に型枠が設置される。本かぶりスペーサは、鉄筋30への取付け支持部20と、スペーサ本体部10を有する。(a)は、鉄筋長さ方向からの正面図であり、上方の破線が型枠の内面となる。従って、(a)の破線より下方がコンクリートで充填される。取付け支持部20は、例えば、一枚の金属性板ばね加工したクリップを例示した。取付け支持部は、一方で、鉄筋を囲み、他方で、本体部と接続する。(b)は、右側面図で、左側面は、これと同じであり、(c)は、平面図である。スペーサ本体部は、型枠と当接する仮想平面からのかぶり厚保証値Lを記憶するメモリを有するICチップと、アンテナとを有するICタグ11を内蔵する。アンテナは、指向性を考慮して、型枠と当接する仮想平面と平行な平面上に位置させる。
【0046】
こうして、ICタグのアンテナの通信指向性がコンクリート表面側に強く向くように埋設されることとなる。
【0047】
取付け支持部を、鉄筋に「摺動回転可能」とすると、なんらかの理由で、型枠が施工後にずれても、スペーサと密着する限り、スペーサと前記仮想平面とアンテナを含む平面との距離d、及び、かぶり厚保証値Lを一定に保持することができ、これらの数値は、施工後の変動に影響されないスペーサ固有の数値となる。
【0048】
図4は、かぶりスペーサ本体部を鉄筋に装着する取付け支持部20を金属性のクリップとした一例を示した図である。取付け支持部の製造は(S12)、ばね性のある金属板から、加工して、かぶり本体部のくびれをグリップして固定する部分と、摺動の余地を残して、鉄筋30を囲む部分を合成して成型したものである。取付け支持部はスペーサとは別に予め製造しておいてもよい。取付け支持部20を用いると、長細い円柱状の鉄筋30を包み込みながら、鉄筋を中心軸として回転が可能な状態でスペーサ本体部を装着できる。
【0049】
【表1】
【0050】
表1及び図6に、かぶり厚検査方法を実施する場合のステップを示す表とそのフロー図を示した。上記の通り本体部及び支持部を製造したスペーサの本体部のかぶり厚を測定して(S13)、(又は、規定のかぶりを確保できる長さを有していることの合格票を)、ICタグ11の内部メモリへ書込みをするか、或いは、計測したサイズ値又は合格票をICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースへ書き込みをおこなう(S14)。このとき、かぶり厚保証値L自体、または、これに対応させた型番を書き込み、製品の識別子とすることもできる。
具体的には例えば下記のようなパターンのいずれか、あるいは複数で実施することができる。
1.工場又は施工現場で、かぶり厚保証値Lを測定し、ライターで入力。
2.施工現場で、かぶり厚保証値Lを測定し、その部位に適するスペーサであることを確認し、合格標をライターで入力。
3.現場で、かぶり厚保証値Lの存在(あるいは刻印された形式を読み取って)、又は、これに替わるICタグのIDをリーダで読み取って、確認標をライターで入力する。サーバーでかぶり厚保証値Lや合格標の情報を保存する場合は、前記した方法で、ライターで情報を入力する際に埋設されているICタグのIDを読取った上で、そのIDとかぶり厚保証値Lや合格標の情報を紐付けられるようにデータベースに保存する。かぶり厚保証値、かぶり厚測定値、合格票、確認票をかぶり厚情報という。また、合格票、確認票を合格証明情報という。
【0051】
構造物の施工にあたって、鉄筋の配筋後(S20)、本スペーサを鉄筋に装着し(S21)、型枠を設置し、コンクリート打込、養生を通常の構造物施工手順でおこなう(S22〜S25)。こうして、かぶり厚を確保できるとともに、かぶり厚の検査の準備が整う。
【0052】
図5は、本発明の鉄筋かぶりスペーサを鉄筋に装着(S21)し、型枠40を組んで(S22)、コンクリート打設する(S23)際の模式図を示す。図2における、鉄筋の長さ方向の手前側から投影した正面図に対応する。スペーサ本体は、支持部を鉄筋に対して回転可能としたとき、(a)、(b)の通り、型枠40と鉄筋の位置関係が変化しても、接する辺A及び辺Bで接することとなる。このとき、鉄筋中心軸のC軸とで形成する三角形ABC(三角柱の底面)は、いつも一定形状であり、鉄筋かぶりスペーサに固有で、型枠によらない。図示するかぶり厚保証値L、及び、型枠40からのアンテナまでの距離dも一定値に保持される。鉄筋かぶりスペーサが、鉄筋に対して、直角方向から外れて装着されていても、その位置が矯正される効果がある。
【0053】
こうして、型枠内側で形成される打設コンクリート表面からアンテナ距離d及びかぶり厚保証値Lは、本発明のかぶりスペーサに固有の数値となるので、これらの値をIDとするか、別のIDとともに、メモリに書き込むと、コンクリート表面から所定距離dで、これに平行なアンテナと、かぶり厚保証値Lを有する鉄筋かぶりスペーサとすることができる。
【0054】
鉄筋かぶりスペーサを装着した後、型枠を設置し、コンクリート打込、養生を通常の構造物施工手順でおこなう(S22〜S25)。
【0055】
所定かぶり厚を有するかの検査(S26)においては、施工後の構造物表面からリーダで本スペーサの有無を確認する。本スペーサが検知できれば、所定のかぶり厚が確保されていることが証明できる。その検査結果は、ICタグ11の内部メモリへ直接の書込みをするか、或いは、ICタグのIDに紐付けしてサーバー内のデータベースへ書き込みをおこなう(S27)こともできる。このシステムは電池等の電源を有しないパッシブ型ICタグを用いると、任意の時期に何度でも検査を実施することができる。
【0056】
そこで、コンクリート検査(S26)にあたって、このIDが読取ることができれば、本発明のかぶりスペーサ本体部が、コンクリート構造物の表面に現れていないのであるから、信号が読取れたということだけで、かぶり厚みが所定かぶり厚保証値L以上備わっていることが判明するという効果を得ることができる。アンテナまでの距離dは、コンクリート中であっても、必ず読取れる距離に設計してあるので、これが読取れないと、かぶりスペーサ自体が埋め込まれていないあるいは脱落した、大きく傾いたこととなる。その場合は従来の検査手法で詳細の検査を行えばよい。
【符号の説明】
【0057】
10:スペーサ本体
10a:スペーサ本体下部
10b:スペーサ本体上部
11:ICタグ
111:アンテナ
20:取付け支持部
30:鉄筋
40:コンクリート打設型枠
A:型枠と接する線
B:型枠と接する線
C:鉄筋の中心軸
L:かぶり厚保証値
d:アンテナまでの距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6