特許第6173129号(P6173129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6173129シート状チタン多孔体および同多孔体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173129
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】シート状チタン多孔体および同多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20170724BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20170724BHJP
   H01M 14/00 20060101ALN20170724BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20170724BHJP
【FI】
   C22C14/00 Z
   B22F3/11 Z
   !H01M14/00 P
   !H01M4/88 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-178017(P2013-178017)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-45072(P2015-45072A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】菅原 智
(72)【発明者】
【氏名】叶野 治
(72)【発明者】
【氏名】竹中 茂久
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−082990(JP,A)
【文献】 特開2013−072135(JP,A)
【文献】 特開2006−138005(JP,A)
【文献】 特開平07−268404(JP,A)
【文献】 特開平07−252111(JP,A)
【文献】 特開2006−283104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22C 1/04
B22F 1/00− 8/00
H01M 4/88
H01M 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属チタン粉を原料として、これを成形および焼結したシート状チタン多孔体であって、
前記シート状チタン多孔体は、空隙率が30%〜65%、且つ、酸素含有量が0.2wt%〜0.38wt%、且つ、厚みが20μm〜100μmであることを特徴とするシート状チタン多孔体。
【請求項2】
金属チタン粉を原料とし、
これを成形および焼結し、
空隙率が30%〜65%、且つ、酸素含有量が0.2wt%〜0.38wt%、且つ、厚みが20μm〜100μmであるシート状チタン多孔体を得ることを特徴とするシート状チタン多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記金属チタン粉は、平均粒径10μm〜30μm、且つ、酸素含有量が0.2〜0.38wt%である金属粉を使用することを特徴とする請求項2に記載のシート状チタン多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属多孔体に係り、特に、可撓性に優れたシート状金属チタン多孔体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属多孔体は、従来、フィルター材や医療用材料として好適に使用されているが、最近では、色素増感型太陽電池の電極材として使用する動きが見られるほか、レドックスフロー電池の電極材料としても適用が検討されているようである。
【0003】
前記した、いわゆる二次電池を構成する材料として用いる場合には、第一に導電性に優れていることが重要な特性として挙げられるが、これに加えて、耐久性や耐食性といった特性も同時に求められている。
【0004】
また、最近では、単位容積当たりの電池容量を上げるために、円筒状の電池も開発・検討されてきている。このような状況においては、電池内部に組み込まれている電極も円筒状に組み込むことが想定され、曲げ性に優れている、という特性が要求される。
【0005】
耐久性ついては、炭素系の材料に替えて金属製のシート状多孔体を電極として用いる方法が検討されている。金属製のシート状多孔体を前記した円筒形の電池材として使用する場合には、同シートの曲げ性がどの程度具現させることができるか、という点が重要な課題となってきている。
【0006】
このような課題としては、例えば、アルミニウム多孔体を集電体として使用した電極が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような電極は、確かに電気伝導性という点では、優れた特性を有しているものの、アルミニウムを使用している点で耐蝕性の点で改善の余地が残されている。
【0007】
耐蝕性の観点からすると前記のアルミニウムよりも貴な白金やロジウム等の金属を構成材として使用することが好適であるが、コストの点で改良の余地が残されている。このような観点からは、コストおよび耐蝕性のバランスを考えた場合には、チタン材を代替候補に挙げることができる。
【0008】
チタン製のシート状多孔体としては、例えば、チタン粉を原材料としこれに発泡剤を配合したスラリーをシート状に成形・焼結する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
前記したような方法で製造されたシートは、平板として利用されることが一般的であり、上記した円筒形電極の構成に求められる曲げ性の点については言及されていない。
【0010】
前記したシート状の多孔体においては、その厚みを薄くすることにより、曲げ性は良好となるが、その反面前記シートが部分的に破損して充放電特性が低下する等の弊害が発生する場合があり、この点において改善の余地が残されている。
【0011】
このように二次電池の電極に好適な導電性を有しているのみならず、曲げ性にも優れているシート状多孔体およびその製法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013−114795号公報
【特許文献2】特開2008−166083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、レドックスフロー電池の電極材、色素増感太陽電池の電極材として好適に使用される金属多孔体であって、従来の電極材に比べて製造コストや耐久性に優れ、しかも曲げ性に優れたシート状金属多孔体および同多孔体の製法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる実情に鑑み前記課題について鋭意検討を進めたところ、酸素含有率が調整された金属チタン粉を原料とし、これをシート状に成形および焼結させることにより、曲げ性に優れた多孔体を構成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明に係るシート状チタン多孔体は、金属チタン粉を原料として、これを成形および焼結したシート状チタン多孔体であって、シート状チタン多孔体は、空隙率が30%〜65%、且つ、酸素含有量が0.2wt%〜0.38wt%、且つ、厚みが20μm〜100μmであることを特徴とするものである。
【0017】
さらには、本発明に係るシート状チタン多孔体の製造方法は、金属チタン粉を原料とし、これを成形および焼結これを成形および焼結し、空隙率が30%〜65%、且つ、酸素含有量が0.2wt%〜0.38wt%、且つ、厚みが20μm〜100μmであるシート状チタン多孔体を得ることを特徴とするものであり、金属チタン粉は、平均粒径10μm〜30μm、且つ、酸素含有量が0.2〜0.38wt%である金属粉を使用することを好ましい態様とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従って製造されたシート状チタン多孔体は、従来の金属多孔体に比べて曲げ性に富んでおり、曲率半径の小さい曲げ性が要求される二次電池用の電極として好適に使用することができ、かつ、コストおよび耐久性も両立する、という効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のシート状チタン多孔体の曲げ性を調査する際の模式図である。
図2】シート状チタン多孔体の限界曲率半径と酸素含有量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の最良の実施形態について以下に詳細に説明する。
本発明に係るシート状多孔体は、金属チタン粉を原料として製造されたシート状多孔体であって、前記多孔体シートの折り曲げた際の限界曲率半径が1mm以下の範囲にあることを特徴とするものである。
【0021】
本発明でいうところのシート状チタン多孔体とは、シートの厚みが、20μm〜100μmの範囲であり、かつ空隙率が、30%〜65%の範囲、酸素含有量が0.2wt%〜0.38wt%とすることを好ましい態様とするものである。
【0022】
前記したような形状のシート状チタン多孔体とすることにより、円筒形状や積層形状の二次電池に加工した場合にも、効率よく目的の形状に成形加工することができる、という効果を奏する。
【0023】
また、本発明のシート状多孔体は、折り曲げた際の曲率半径が1mm以下であることを特徴とするものある。
【0024】
その結果、円筒形状の電池に組み込んだ場合に、更に、直径の小さい電池を構成することができるのみならず、高速度での製造にも耐えられるフレキシビリティーを有するという効果を奏するものである。
【0025】
また、更には、本発明に係るシート状多孔体を二つ折にした形の電極としても使用することができる。その結果、円筒形の電池のみならず、矩形状の電池としても構成することができる、という効果を奏するものである。
【0026】
次に、本発明に係るシート状多孔体の好ましい製法について以下に述べる。
まずは、本発明に係るシート状多孔体の原料としては、チタン粉を使用することが好ましい。
【0027】
また、本発明においては、前記チタン粉の酸素含有率が、0.2wt%〜0.38wt% に調整されたチタン粉を使用することが好ましいとされる。
【0028】
平均粒径10μm以上である微粉のチタン粉中の酸素含有率を0.2wt%未満に制御しようとすると、粉砕設備が非常に高額なものとなることが多く、粉砕雰囲気の酸素濃度管理(アルゴンガス置換)を非常に厳密に行う等の対応も不可欠となり、その結果、チタン粉の製造コストが大幅に増加する。酸素含有量が0.2wt%未満の場合、得られるチタン多孔体の特性には全く問題ないが、製造コストの大幅増加を招くという新たな課題が生ずる。
【0029】
一方、酸素含有率が0.38wt%を超える場合には、当該チタン粉を原料として製造されたチタン多孔体の可撓性が劣化し、目的とする電池材を構成することが難しいという課題が残る。
【0030】
よって、従来のチタン粉に対して、酸素含有率を0.2wt%〜0.38wt%の範囲に制御した原料を使用することにより、当該チタン粉を使用して成形焼結されたシート状多孔体の変形能を高めることができるという効果を奏するものである。
【0031】
図1は、本発明で得られたシート状チタン多孔体の曲げ性を調査するための模式図を表している。同図においては、調査対象とする多孔体シート1を所定の径を有する芯2に巻きつけて、その際にクラックが入るのか否かを観察することにより、多孔体シート1の曲げ性を簡易的に調査することができる。
【0032】
本発明のシート状多孔体においては、同シートの厚みが、20μm〜100μmの範囲において、クラックの入らない最小の曲率半径(限界曲率半径)は、1mm以下の範囲とすることができる、という効果を奏するものである。
【0033】
前記したような酸素含有率の低いチタン粉は、本発明においては、不活性ガス雰囲気下で粉砕することにより、従来のような粉砕時の酸素汚染を効果的に抑制することができ、結果的に低酸素のチタン粉を製造することができる、という効果を奏するものである。
【0034】
また、本発明においては、流通式の粉砕整粒器を使用して、チタン粉を製造することが好ましい。その結果、目的の大きさを持ったチタン粉を歩留まりよく製造することができる、という効果を奏するものである。
【0035】
本発明においては、前記した粗粉砕処理後のチタンを整粒することにより、本発明のシート状多孔体の製造に好適な粒度のチタン粉を得ることができる。
【0036】
本発明に用いるチタン粉としては、平均粒度が10μm〜30μmの範囲のチタン粉を製造することが好ましい。
【0037】
前記した粒度のチタン粉を使用することにより、厚みが20μm〜100μm、空隙率が30〜65%のシート状多孔体は、良好な曲げ性を具備することができ、色素増感度太陽電池の電極としての形状の多様性を確保することができる、という効果を奏するものである。
【0038】
上記の特徴を有するシート状多孔体は、曲率半径が1mm以下のような強い曲げにもクラックが入ることなく、折りたたむ用途にも適用可能である、という効果を奏するものである。
【0039】
このような特徴を有するシート状多孔体は、色素増感太陽電池の電極として使用する場合、円筒形状や積層形状の色素増感太陽電池にも適用できる、いう効果を奏するものである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
実施例で使用した設備および条件を以下に列記する。
1.チタン粉原料
1)材質:チタン
2)物性:本発明の実施例で使用したチタン粉の粒度範囲および酸素含有率につき、下表に整理した。
【0041】
2.チタン粉製造方法
1)原料:チタン切粉
2)方法:水素化脱水素法
3)粉砕雰囲気:アルゴンガス雰囲気(実施例)
ここで、ロットA〜ロットEは、当実施例に使用し、F〜Hは比較例に使用。
【0042】
【表1】
【0043】
2.シート状多孔体の製法
上記ロットA〜ロットHのそれぞれのチタン粉を原料とし、これに分散剤とバインダーを配合してペーストとし、これを、PETフィルムに塗布して乾燥・焼結後シート状多孔体とした。全てのロットのチタン粉で、ペーストの配合、ペースト塗工条件、乾燥・焼結条件は同じとした。
【0044】
3.シート状多孔体
上記ロットA〜ロットHのチタン粉を原料とするチタンペーストから、チタン多孔体薄膜を得た。それぞれの多孔体の空隙率、厚み、酸素含有量は表2の通りであった。
【0045】
【表2】
【0046】
[実施例1]
標記条件で製造されたシート状多孔体の折り曲げ性について図1に示すように直径の異なる棒状体を複数個準備し、これに上記方法で製造されたシートを巻き付けた際に、クラックが発生するか否かについて確認し、クラックが最初に観察された際の多孔体の曲率半径を調査し、その結果を図2に示した(本願では、「限界曲率半径」と呼ぶことにする)。
【0047】
図2に示すように、酸素含有率が低下するほど、クラックの入る限界曲率半径も減少する傾向にあることが確認された。即ち、これは、本発明に係るシート状の多孔体の原料となるチタン粉中の酸素含有率が低いほど、曲げ性が良好であることを意味している。
【0048】
[実施例2]
実施例で製造されたロットA〜ロットIの多孔体シートを用いて、電極が平面形状の色素増感太陽電池、電極が円筒形状の色素増感太陽電池、電極が積層形状の色素増感太陽電池色素増感太陽電池を試作した。
【0049】
その結果、ロットA〜ロットEの多孔体シートでは、いずれの形状の色素増感太陽電池も製造可能であった。しかし、ロットF〜ロットGの多孔体シートでは、電極が平面形状の色素増感太陽電池は製造可能であったが、電極が円筒形状の色素増感太陽電池、電極が積層形状の色素増感太陽電池は製造工程で多孔体が割れてしまい製造することが出来なかった。
【0050】
ロットHの多孔体シートでは、電極が平面形状の色素増感太陽電池を製造する場合も、30%前後の確率で多孔体シートが製造工程で割れてしまい、製品率は非常に低かった。電極が円筒形状の色素増感太陽電池、電極が積層形状の色素増感太陽電池は製造することが出来なかった。ロットIの多孔体シートでは、電極が平面形状の色素増感太陽電池を製造する場合も、50%前後の確率で多孔体シートが製造工程で割れてしまい、事実上色素増感太陽電池の製造はできなかった。
【0051】
[比較例1]
実施例1および2に使用したチタン粉の製造工程において、大気中で粉砕した以外は、同じ条件下にてチタン粉を製造した。平均粒径と粒度範囲が実施例と同じになるように調整したところ、得られたチタン粉の酸素含有率は、いずれのロットでも0.38wt%を越えていた。これらのチタン粉を用いて実施例と同じ要領でシート状チタン多孔体を製造し、多孔体の曲げ性に係る限界曲率半径を求めたところ、表3に示す結果が得られた。いずれも限界曲率半径は、1mmを超えていた。
【0052】
【表3】
【0053】
[比較例2]
実施例1および2に使用した原料ロットAを実施例の製造過程で使用した流通粉砕器に替えて、ボールミル粉砕機を使用した以外は、同じ条件下でチタン粉を製造した。その結果、粒度範囲が10μm〜30μmの範囲内のチタン粉の製造歩留まりは、流通粉砕器に比べて、30%悪化した。
【0054】
[比較例3]
実施例1に使用したチタン粉の製造過程における水素化チタンおよびチタン粉粉砕工程を、含有酸素濃度を徹底的に低減した雰囲気で運転できるような設備を新設し、同設備を使用して最終的に酸素含有率が0.18wt%のチタン粉を製造することができた。
しかしながら、同組成のチタン粉を製造するためのコストが、実施例1に比べて150%増加した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係シート状多孔体は、色素増感太陽電池のような曲げ性が要求されるような電極材として好適に使用することができる、という効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0056】
1…シート状多孔体、
2…芯(棒状体)。
図1
図2