(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記めっき槽は、前記陽極が配置される陽極室と、前記ダミー陰極が配置される陰極室と、該陽極室と該陰極室とを仕切り自身を貫通する第一貫通孔を有する第一遮蔽部材と、を有し、
前記めっきラックは、該陰極室に配置され、自身を貫通する第二貫通孔を有する第二遮蔽部材を有し、
該第二遮蔽部材は、該第一遮蔽部材と、該処理対象物と、の間に介在し、
該処理対象物の内周面は該第二貫通孔を覆っており、該処理対象物の外周面は該陰極室に露出している請求項1に記載のめっき装置。
【背景技術】
【0002】
すべり軸受は、一対の半円筒状の分割体が合体することにより、形成されている。分割体の内周面は、摺動面である。分割体の内周面には、摺動性を確保するため、めっき層が形成される。一方、分割体の外周面にまでめっき層が形成されると、すべり軸受の外径が大きくなってしまう。また、すべり軸受組付後に、外周面からめっき層が剥離するおそれがある。また、外周面にめっき層が形成されると、その分、内周面へのめっき効率が低下してしまう。このため、分割体の外周面には、めっき層が形成されない方がよい。
【0003】
この点、特許文献1には、直方体箱型のめっきラックを備えるめっき装置が開示されている。めっきラックのうち、陽極側の壁部には、上下方向に延びるスリットが形成されている。一方、めっきラックの内部には、すべり軸受の分割体が、複数搭載されている。複数の分割体は、スリットの長手方向(上下方向)に沿って、積層されている。分割体の内周面は、スリットを覆っている。
【0004】
めっきラックをめっき液に浸漬すると、スリットを介して、分割体の内周面に、めっき液が付着する。一方、めっきラックは箱型であるため、分割体の外周面には、めっき液が付着しにくい。したがって、内周面と外周面のうち、内周面を主にめっきすることができる。
【0005】
しかしながら、同文献記載のめっき装置の場合、めっきラックをめっき液に浸漬する際に、分割体の径方向内側(めっき液側、めっきラック外側)と、分割体の径方向外側(空気側、めっきラック内側)と、で圧力差が発生しやすい。言い換えると、めっきラックに浮力が発生しやすい。このため、めっきラックをめっき液に浸漬しにくい。
【0006】
また、めっきラックをめっき液から引き上げる際に、めっきラックがめっき液を持ち出しやすい。すなわち、めっきラックは箱型を呈している。このため、一旦、めっきラックの内部にめっき液が入ってしまうと、めっき液を排出しにくい。
【0007】
特許文献2には、自動的に開閉可能な、一対の当て板を備えるめっき装置が開示されている。めっき装置は、細板状のめっきラックと、一対の当て板と、開閉自在装置と、を備えている。めっきラックには、すべり軸受の分割体が搭載されている。めっきラックつまり分割体は、めっき液に対して、上側から浸漬される。一対の当て板は、V字状に連結されている。一対の当て板は、めっき液に浸漬されためっきラックを、水平方向両側から挟持可能である。一対の当て板のうち、一方の当て板にはスリットが形成されている。開閉自在装置が一対の当て板を閉じると、一対の当て板が箱状に合体する。箱の内部には、空間が形成される。当該空間には、めっきラックに配置された分割体が収容される。分割体の内周面は、スリットを覆っている。分割体の内周面には、スリットを介して、めっき液が付着する。
【0008】
同文献記載のめっき装置によると、めっきラックをめっき液に浸漬した後で、めっきラックつまり分割体を、一対の当て板の内部に、収容している。このため、めっきラックをめっき液に浸漬する際に、分割体の径方向内側と、分割体の径方向外側と、で圧力差が発生しにくい。したがって、めっきラックをめっき液に浸漬しやすい。また、めっきラックをめっき液から引き上げる際に、めっきラックがめっき液を持ち出しにくい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、一般的に、めっき装置の周辺には、めっき液が飛散しやすい。このため、特許文献2に記載のめっき装置の開閉自在装置には、めっき液が付着しやすい。したがって、開閉自在装置の正確な動作が、めっき液の付着により、妨げられるおそれがある。すなわち、特許文献2に記載のめっき装置は、動作信頼性が低い。また、特許文献2に記載のめっき装置は、めっきラックを挟持する一対の当て板や、一対の当て板を開閉駆動する開閉自在装置を備えている。このため、めっき装置の構造が複雑である。
【0011】
このように、特許文献1、2に記載のめっき装置の場合、いずれも、めっき作業の際、すべり軸受の分割体を「箱」(特許文献1の場合は「めっきラック」、特許文献2の場合は「一対の当て板」)に閉じこめることにより、分割体の外周面と比較して、分割体の内周面に、優先的にめっき処理を施している。しかしながら、陽極からの電気力線の「箱」内への進入を防ぐ必要があるため、「箱」、延いてはめっき装置の構造が複雑化しやすい。
【0012】
そこで、本発明は、簡単に、処理対象物の外周面と比較して、処理対象物の内周面に、優先的にめっき処理を施すことができるめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記課題を解決するため、本発明のめっき装置は、めっき液が貯留され部分円筒状の処理対象物が配置されるめっき槽と、該めっき槽内に配置され、該処理対象物の内周面に対向する陽極と、該めっき槽内に配置され、該陽極から該処理対象物の外周面に到達する電気力線の少なくとも一部を捕捉するダミー陰極と、を備えることを特徴とする。
【0014】
ここで、「対向」とは、陽極の少なくとも一部と、処理対象物の内周面の少なくとも一部と、がめっき液内の空間を介して、直列に並ぶことをいう。例えば、陽極と、処理対象物の内周面と、の間に、孔付きの別部材(単一でも複数でもよい)が介在している場合を想定する。この場合であっても、孔を介して、陽極の少なくとも一部と、処理対象物の内周面の少なくとも一部と、が直列に並ぶことが可能であれば、「対向」の概念に含まれる。
【0015】
本発明のめっき装置によると、陽極と、処理対象物の内周面と、が対向して配置されている。このため、陽極からの電気力線が、処理対象物の内周面に、到達しやすい。したがって、処理対象物の内周面に、めっき処理が施されやすい。一方、処理対象物の外周面は、陽極に対向していない。また、めっき槽内には、ダミー陰極が配置されている。このため、処理対象物の外周面に向かう電気力線の少なくとも一部は、ダミー陰極により捕捉されてしまう。したがって、処理対象物の外周面に、めっき処理が施されにくい。このように、本発明のめっき装置によると、処理対象物の外周面と比較して、処理対象物の内周面に、優先的にめっき処理を施すことができる。また、本発明のめっき装置によると、めっき槽内にダミー陰極を配置するだけで、簡単に、処理対象物の外周面に、めっき処理が施されるのを抑制することができる。
【0016】
(1−1)上記(1)の構成において、前記ダミー陰極は、前記めっき槽に対して、交換可能である構成とする方がよい。めっき作業を繰り返すたびに、ダミー陰極には、めっき層が積層されていく。このため、ダミー陰極が劣化し、電気力線を捕捉しにくくなる。この点、本構成によると、劣化したダミー陰極を、めっき層が形成されていない新しいダミー陰極に、交換することができる。このため、安定的に、ダミー陰極により電気力線を捕捉することができる。
【0017】
(2)上記(1)の構成において、前記めっき槽は、前記陽極が配置される陽極室と、前記ダミー陰極が配置される陰極室と、該陽極室と該陰極室とを仕切り自身を貫通する第一貫通孔を有する第一遮蔽部材と、を有し、さらに、該陰極室に配置され、自身を貫通する第二貫通孔を有する第二遮蔽部材を有し、前記処理対象物が搭載されるめっきラックを備え、該第二遮蔽部材は、該第一遮蔽部材と、該処理対象物と、の間に介在し、該処理対象物の内周面は該第二貫通孔を覆っており、該処理対象物の外周面は該陰極室に露出している構成とする方がよい。
【0018】
めっきラックには、処理対象物が搭載されている。めっきラックは、処理対象物を、めっき槽内のめっき液に浸漬可能である。処理対象物の内周面は、第二貫通孔を覆っている。また、処理対象物の外周面は、陰極室に露出している。このため、処理対象物をめっき液に浸漬する際、処理対象物の内周面は、第二貫通孔を介して、めっき液に浸漬される。並びに、処理対象物の外周面は、直接、めっき液に浸漬される。したがって、本構成によると、めっきラックをめっき液に浸漬する際に、処理対象物の径方向内側と、処理対象物の径方向外側と、で圧力差が発生しにくい。よって、めっきラックをめっき液に浸漬しやすい。また、処理対象物の径方向内側と、処理対象物の径方向外側と、で圧力差が発生しにくいため、処理対象物をめっき液に浸漬する際、処理対象物がめっきラックから脱落しにくい。
【0019】
また、めっきラックをめっき液から引き上げる際、処理対象物の内周面は、第二貫通孔を介して、外部と連通している。並びに、処理対象物の外周面は、外部に露出している。このため、めっきラックがめっき液を持ち出しにくい。また、本構成によると、特許文献2の一対の当て板、開閉自在装置のような機構は不要である。このため、動作信頼性が高い。また、構造が簡単である。
【0020】
また、特許文献2に記載のめっき装置の場合、めっき作業の際、通常の作業(めっきラックをめっき液に浸漬し、めっきラックをめっき液から引き上げる作業)以外に、開閉自在装置を駆動し、一対の当て板を開閉する作業が、別途必要になる。このため、めっき作業のサイクルタイムが長くなる。これに対して、本構成によると、開閉自在装置を駆動し、一対の当て板を開閉する作業が、不要である。このため、めっき作業のサイクルタイムを短くすることができる。
【0021】
(2−1)上記(2)の構成において、前記第二貫通孔は、スリット状を呈しており、複数の前記処理対象物は、該第二貫通孔のスリット長方向に沿って積層された状態で、前記第二遮蔽部材に配置されている構成とする方がよい。本構成によると、複数の処理対象物に対して、一度にめっき処理を施すことができる。
【0022】
(3)上記(1)または(2)の構成において、前記処理対象物は、すべり軸受の分割体である構成とする方がよい。すべり軸受は、部分円筒状(例えば、半円筒状)の複数の分割体が、合体して形成されている。本構成によると、分割体の外周面と比較して、分割体の内周面(つまり摺動面)に、優先的にめっき処理を施すことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、簡単に、処理対象物の外周面と比較して、処理対象物の内周面に、優先的にめっき処理を施すことができるめっき装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のめっき装置の実施の形態について説明する。
【0026】
<めっき装置の構成>
まず、本実施形態のめっき装置の構成について説明する。
図1に、本実施形態のめっき装置の斜視図を示す。
図2に、
図1のII−II方向断面図を示す。
図3に、
図2のIII−III方向断面図を示す。
図4に、本実施形態のめっき装置のめっき槽の透過斜視図を示す。
図5に、同めっき装置の陽極部材の斜視図を示す。
図6に、同めっき装置のめっきラックの透過斜視図を示す。
図7に、
図2の枠VII内の拡大図を示す。
図1〜
図7に示すように、本実施形態のめっき装置1は、めっき槽2と、複数のめっきラック3と、複数の陽極部材4と、複数のダミー陰極n2と、を備えている。
【0027】
[めっき槽2]
図1〜
図4に示すように、めっき槽2は、槽本体20と、第一遮蔽部材21と、一対の陽極側ブラケット22と、陽極側配電部材23と、一対の陰極側ブラケット24と、陰極側配電部材25と、を備えている。
【0028】
槽本体20は、樹脂製(絶縁体製)である。槽本体20は、上向きに開口する箱状を呈している。槽本体20の内部には、めっき液Lが貯留されている。第一遮蔽部材21は、樹脂製(絶縁体製)である。第一遮蔽部材21は、左右方向に延びる長方形板状を呈している。第一遮蔽部材21は、槽本体20の内部空間を、前後二室に仕切っている。第一遮蔽部材21の前側には、陽極室Pが配置されている。第一遮蔽部材21の後側には、陰極室Nが配置されている。
【0029】
第一遮蔽部材21は、複数の第一貫通孔210と、複数のリブ211と、を備えている。第一貫通孔210は、上下方向に延びるスリット状を呈している。第一貫通孔210は、陽極室Pと陰極室Nとを連通している。リブ211は、上下方向に延びる枠体状を呈している。リブ211は、第一遮蔽部材21から、後側に突出している。リブ211は、第一貫通孔210の後側(陰極室N側)の口縁を縁取っている。
【0030】
一対の陽極側ブラケット22は、各々、樹脂製(絶縁体製)である。一対の陽極側ブラケット22は、槽本体20の左右両壁に配置されている。陽極側配電部材23は、金属製(導体製)であって、左右方向に延びる丸棒状を呈している。陽極側配電部材23は、一対の陽極側ブラケット22間に架設されている。
【0031】
一対の陰極側ブラケット24は、各々、樹脂製(絶縁体製)である。一対の陰極側ブラケット24は、槽本体20の左右両壁に配置されている。一対の陰極側ブラケット24は、一対の陽極側ブラケット22の後側に配置されている。陰極側配電部材25は、金属製(導体製)であって、左右方向に延びる細板状を呈している。陰極側配電部材25は、一対の陰極側ブラケット24間に架設されている。陰極側配電部材25は、一対の陰極側ブラケット24に対して、上側から係脱可能である。
【0032】
[陽極部材4]
図1〜
図3、
図5に示すように、複数の陽極部材4は、各々、陽極pと、フック40と、を備えている。陽極pは、金属製(導体製)であって、上下方向に延びる細板状を呈している。陽極pは、陽極室Pに配置されている。陽極pは、めっき液Lに浸漬されている。フック40は、金属製(導体製)であって、陽極pの上側に取り付けられている。フック40は、陽極側配電部材23に係止されている。すなわち、陽極部材4は、フック40を介して、陽極側配電部材23に吊り下げられている。陽極pは、フック40、陽極側配電部材23を介して、電源(図略)の陽極側に、電気的に接続されている。
【0033】
[めっきラック3]
図1〜
図3、
図6に示すように、複数のめっきラック3は、各々、第二遮蔽部材30と、支持部材31と、フック32と、クランプ部材33と、を備えている。第二遮蔽部材30は、樹脂製(絶縁体製)である。第二遮蔽部材30は、上下方向に延びる長方形板状を呈している。第二遮蔽部材30は、めっき液Lに浸漬されている。第二遮蔽部材30は、左右一対の第二貫通孔300を備えている。第二貫通孔300は、上下方向に延びるスリット状を呈している。第二貫通孔300は、第二遮蔽部材30を、前後方向に貫通している。第二遮蔽部材30には、第一遮蔽部材21のリブ211の後端(先端)が当接している。第二貫通孔300の口縁は、第一遮蔽部材21のリブ211の後端により、覆われている。すなわち、前側から見て、第二貫通孔300は、第一貫通孔210、リブ211の内側に配置されている。
【0034】
支持部材31は、樹脂製(絶縁体製)である。支持部材31は、第二遮蔽部材30の下縁から、後側に突設されている。支持部材31は、めっき液Lに浸漬されている。フック32は、金属製(導体製)であって、第二遮蔽部材30の上側に取り付けられている。フック32は、陰極側配電部材25に係止されている。すなわち、めっきラック3は、フック32を介して、陰極側配電部材25に吊り下げられている。分割体n1は、めっきラック3、陰極側配電部材25を介して、電源の陰極側に、電気的に接続されている。
【0035】
クランプ部材33は、固定板330と、可動板331と、シャフト332と、コイルスプリング333と、押圧板334と、を備えている。固定板330は、金属製(導体製)であって、フック32の後面から、後側に突設されている。可動板331は、金属製(導体製)であって、固定板330の下側に配置されている。可動板331は、フック32の後面のガイドレール(図略)に沿って、上下方向に移動可能である。シャフト332は、固定板330を貫通して、可動板331の上面に取り付けられている。コイルスプリング333は、金属製(導体製)であって、固定板330と可動板331との間に介装されている。コイルスプリング333は、可動板331を下側に付勢している。押圧板334は、金属製(導体製)であって、可動板331の下側に配置されている。
【0036】
複数の分割体n1は、押圧板334の下面と、支持部材31の上面と、の間に配置されている。分割体n1は、半円筒状を呈している。複数の分割体n1は、上下方向に積層されている。複数の分割体n1は、めっき液Lに浸漬されている。コイルスプリング333の付勢力により、複数の分割体n1は、上側から押圧されている。
【0037】
図3に示すように、複数の分割体n1の上下方向長さ(積層方向長さ)と、第二貫通孔300の上下方向長さと、第一貫通孔210の上下方向長さと、は略一致している。陰極(図略)と複数の分割体n1とは、陰極側配電部材25、フック32、クランプ部材33を介して、導通している。
【0038】
[ダミー陰極n2]
複数のダミー陰極n2は、陰極室Nに配置されている。ダミー陰極n2は、金属製(導体製)であって、上下方向に延びる丸棒状を呈している。ダミー陰極n2は、めっきラック3の第二遮蔽部材30の左右両縁付近に配置されている。ダミー陰極n2は、電源の陰極側に、電気的に接続されている。
【0039】
<めっき装置の動き>
次に、本実施形態のめっき装置の、めっき作業時の動きについて説明する。まず、
図6に示すめっきラック3に、左右二列に、複数の分割体n1を搭載する。分割体n1は、第二貫通孔300を後側から覆うように、第二遮蔽部材30の後面に伏設される。
【0040】
次に、
図4に示す陰極側配電部材25に、複数のめっきラック3を吊り下げる。続いて、陰極側配電部材25を、上側から、一対の陰極側ブラケット24に係止する。この際、複数のめっきラック3、つまり複数の分割体n1は、陰極室N内のめっき液Lに、浸漬される。
【0041】
続いて、複数の陽極pと、複数の分割体n1と、の間に電圧を印加する。並びに、複数の陽極pと、複数のダミー陰極n2と、の間に電圧を印加する。
図2に示すように、陽極pと、第一貫通孔210およびリブ211と、第二貫通孔300と、複数の分割体n1(左右方向に並ぶ10列のうち1列)と、は前後方向(陽極室Pと陰極室Nとが並ぶ方向)に一列に並んでいる。陽極pからの電気力線Aは、第一貫通孔210、リブ211の径方向内側の空間、第二貫通孔300を介して、複数の分割体n1の内周面に到達する。このため、複数の分割体n1の内周面(すべり軸受の摺動面)には、各々、めっき層が形成される。
【0042】
一方、
図3に点線Bで示すように、陽極室P、第一貫通孔210、リブ211の径方向内側の空間、第二貫通孔300、複数の分割体n1の径方向内側の空間と、陰極室Nと、は隔離されている。このため、陽極pからの電気力線Aは、陰極室Nに進入しにくい。
【0043】
また、
図7に点線で示すように、リブ211の後端と、第二遮蔽部材30の前面と、の間を介して、陰極室N内に、電気力線Aが漏れる場合がある。この場合、電気力線Aが分割体n1の外周面に到達すると、分割体n1の外周面に、めっき層が形成されてしまう。この点、陰極室Nには、ダミー陰極n2が配置されている。このため、陰極室N内に漏出した電気力線Aを、ダミー陰極n2により、捕捉することができる。
【0044】
このように、陽極pからの電気力線Aは、陰極室Nに進入しにくい。また、電気力線Aが陰極室Nに進入しても、当該電気力線Aを、ダミー陰極n2により、捕捉することができる。このため、分割体n1の外周面にめっき層が形成されるのを、抑制することができる。
【0045】
それから、陰極側配電部材25を、一対の陰極側ブラケット24から、上側に持ち上げる。すなわち、複数のめっきラック3、つまり複数の分割体n1を、めっき液Lから引き上げる。その後、複数の分割体n1に対して、仕上げ作業(例えば、水洗作業、バフ研磨作業など)を施す。
【0046】
<作用効果>
次に、本実施形態のめっき装置の作用効果について説明する。
図7に示すように、陽極pと、分割体n1の内周面と、は第一貫通孔210、リブ211の径方向内側の空間、第二貫通孔300を介して、前後方向に対向している。このため、陽極pからの電気力線Aが、分割体n1の内周面に、到達しやすい。したがって、分割体n1の内周面に、めっき処理が施されやすい。一方、分割体n1の外周面は、陽極pに対向していない。分割体n1の外周面は、陽極pに対して、反対向きに配置されている。また、陰極室N内には、ダミー陰極n2が配置されている。このため、分割体n1の外周面に向かう電気力線の少なくとも一部は、ダミー陰極n2により捕捉されてしまう。したがって、分割体n1の外周面に、めっき処理が施されにくい。このように、本実施形態のめっき装置1によると、分割体n1の外周面と比較して、分割体n1の内周面に、優先的にめっき処理を施すことができる。また、本実施形態のめっき装置1によると、陰極室Nにダミー陰極n2を配置するだけで、簡単に、分割体n1の外周面に、めっき処理が施されるのを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態のめっき装置1によると、ダミー陰極n2は、めっき槽2に対して、交換可能である。このため、めっき層が形成され劣化したダミー陰極n2を、めっき層が形成されていない新しいダミー陰極n2に、交換することができる。このため、安定的に、ダミー陰極n2により電気力線Aを捕捉することができる。
【0048】
また、
図2、
図3に示すように、分割体n1の内周面は、第二貫通孔300を覆っている。また、分割体n1の外周面は、陰極室Nに露出している。このため、分割体n1をめっき液Lに浸漬する際、分割体n1の内周面は、第二貫通孔300を介して、めっき液Lに浸漬される。並びに、分割体n1の外周面は、直接、めっき液Lに浸漬される。したがって、本実施形態のめっき装置1によると、めっきラック3をめっき液Lに浸漬する際に、分割体n1の径方向内側と、処理対象物の径方向外側と、で圧力差が発生しにくい。よって、めっきラック3をめっき液Lに浸漬しやすい。また、分割体n1の径方向内側と、分割体n1の径方向外側と、で圧力差が発生しにくいため、分割体n1をめっき液Lに浸漬する際、分割体n1がめっきラック3から脱落しにくい。
【0049】
また、めっきラック3をめっき液Lから引き上げる際、分割体n1の内周面は、第二貫通孔300を介して、めっきラック3の外部と連通している。並びに、分割体n1の外周面は、めっきラック3の外部に露出している。このため、めっきラック3がめっき液Lを持ち出しにくい。また、本実施形態のめっき装置1によると、特許文献2の一対の当て板、開閉自在装置のような機構は不要である。このため、動作信頼性が高い。また、構造が簡単である。
【0050】
また、特許文献2に記載のめっき装置の場合、めっき作業の際、通常の作業(めっきラック3をめっき液Lに浸漬し、めっきラック3をめっき液Lから引き上げる作業)以外に、開閉自在装置を駆動し、一対の当て板を開閉する作業が、別途必要になる。このため、めっき作業のサイクルタイムが長くなる。これに対して、本実施形態のめっき装置1によると、開閉自在装置を駆動し、一対の当て板を開閉する作業が、不要である。このため、めっき作業のサイクルタイムを短くすることができる。
【0051】
また、
図3に示すように、第二貫通孔300は、上下方向に延びるスリット状を呈している。並びに、複数の分割体n1は、上下方向に積層された状態で、第二遮蔽部材30に配置されている。このため、本実施形態のめっき装置1によると、複数の分割体n1に対して、一度にめっき処理を施すことができる。
【0052】
また、
図2に示すように、陽極pと、第一貫通孔210と、第二貫通孔300と、複数の分割体n1の内周面と、は前後方向に一列に並んでいる。このため、本実施形態のめっき装置1によると、陽極pからの電気力線Aを、最短距離で、分割体n1の内周面に到達させることができる。このため、分割体n1の外周面と比較して、分割体n1の内周面に、優先的にめっき処理を施すことができる。
【0053】
また、
図3に点線Bで示すように、陽極室P、第一貫通孔210、リブ211の径方向内側の空間、第二貫通孔300、複数の分割体n1の径方向内側の空間と、陰極室Nと、は隔離されている。このため、陽極pからの電気力線Aは、陰極室Nに進入しにくい。したがって、分割体n1の外周面にめっき層が形成されるのを、抑制することができる。また、第一貫通孔210、リブ211の径方向内側の空間、第二貫通孔300により、電気力線Aを、複数の分割体n1の内周面に、誘導することができる。
【0054】
<その他>
以上、本発明のめっき装置の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0055】
図2に示すリブ211は、第一遮蔽部材21の後面ではなく、第二遮蔽部材30の前面に、配置してもよい。また、リブ211は、配置しなくてもよい。すなわち、第一遮蔽部材21の後面と、第二遮蔽部材30の前面と、の隙間を介して、陽極pから陰極室Nに、電気力線Aが漏出してもよい。この場合であっても、
図2に示すように、分割体n1の内周面と外周面とを比較すると、内周面の方が、外周面よりも、陽極pからの距離が短い。陽極pからの電気力線Aは、第一貫通孔210および第二貫通孔300を介して、分割体n1の内周面に到達する。また、陽極pからの電気力線Aは、第一貫通孔210を介し、第二遮蔽部材30を迂回して、分割体n1の外周面に到達する。このため、内周面の方が、外周面よりも、めっきされやすい。このように、陰極室Nが陽極pに連通することを敢えて許容しながら、陽極pからの距離の差を利用して、分割体n1の外周面と比較して、分割体n1の内周面に、優先的にめっき処理を施してもよい。こうすると、リブ211が不要な分だけ、めっきラック3の構造が簡単になる。
【0056】
分割体n1の配置数、積層方向は特に限定しない。例えば、複数の分割体n1を水平方向(前後方向や左右方向)に積層してもよい。また、分割体n1は、半(180°)円筒状でなくてもよい。例えば、1/3(120°)円筒状、1/4(90°)円筒状などであってもよい。また、処理対象物は、すべり軸受の分割体n1でなくてもよい。また、処理対象物の形状は、部分角筒状(例えばV字状)などであってもよい。
【0057】
めっきラック3における分割体n1の配置数は、特に限定しない。また、第二遮蔽部材30における第二貫通孔300の形状、大きさ、配置数は、特に限定しない。また、第一遮蔽部材21における第一貫通孔210の形状、大きさ、配置数は、特に限定しない。
【0058】
陽極室Pに対する陽極pの配置数、陰極室Nに対するめっきラック3の配置数は、特に限定しない。例えば、陽極室Pに単一の陽極pを配置してもよい。また、陰極室Nに単一のめっきラック3を配置してもよい。
【0059】
ダミー陰極n2の形状、配置数、位置は特に限定しない。例えば、陽極pから分割体n1の外周面に向かう電気力線Aの経路の途中、分割体n1の外周面付近、第二遮蔽部材30の左右方向(陽極pと分割体n1の内周面とが並ぶ方向に対して直交する方向)両端付近などに配置すればよい。