特許第6173211号(P6173211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173211
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】ボア切削工具およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20170724BHJP
【FI】
   B23B51/00 S
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-527672(P2013-527672)
(86)(22)【出願日】2011年9月5日
(65)【公表番号】特表2013-537114(P2013-537114A)
(43)【公表日】2013年9月30日
(86)【国際出願番号】GB2011001304
(87)【国際公開番号】WO2012032286
(87)【国際公開日】20120315
【審査請求日】2014年7月3日
【審判番号】不服2015-22810(P2015-22810/J1)
【審判請求日】2015年12月25日
(31)【優先権主張番号】1014966.4
(32)【優先日】2010年9月8日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153084
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー グリーン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ゴールボーン
【合議体】
【審判長】 平岩 正一
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 西村 泰英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−297863(JP,A)
【文献】 特開2005−319544(JP,A)
【文献】 特開平6−183890(JP,A)
【文献】 再公表特許第96/34131(JP,A1)
【文献】 特開平8−174341(JP,A)
【文献】 特開2002−146515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基材(4)と、
工具基材(4)の表面上の工具コーティング(8)と、
を含むボア切削工具であって、
ボア切削工具は工具基材(4)の表面内に複数のピット(6)を含み、
工具コーティング(8)は個々のピット(6)の輪郭に沿って形成されており、
前記複数のピット(6)が、そのコーティングされた表面によって、潤滑剤を保持するように構成され、かつ、前記複数のピット(6)平均的深さは8μm〜25μmの範囲内にあることを特徴とするボア切削工具。
【請求項2】
平均ピット(6)の断面積が0.005mm2〜1mm2であることを特徴とする請求項1に記載のボア切削工具。
【請求項3】
複数のピット(6)がピットアレイであることを特徴とする請求項1または2に記載のボア切削工具。
【請求項4】
複数のピット(6)が、使用時にワークと摩擦接触状態にあるボア切削工具の少なくとも1つの表面上にのみ存在することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のボア切削工具。
【請求項5】
前記ボア切削工具が円筒形ランドを有するツイストドリルであり、複数のピット(6)が円筒形ランド上のみに存在することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のボア切削工具。
【請求項6】
工具コーティング(8)が1μm〜5μmの範囲内の平均厚みを有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のボア切削工具。
【請求項7】
前記工具コーティング(8)がTiAlN層であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のボア切削工具。
【請求項8】
ピット(6)は、工具コーティング(8)の形成に先立って工具基材(4)をレーザーエッチングまたは電子ビームエッチングすることによって形成される請求項1から7のいずれか一項に記載のボア切削工具。
【請求項9】
表面上に複数のピット(6)を有するボア切削工具を製造する方法において、
工具基材(4)の表面内に複数のピット(6)を形成するステップと、
ピットが形成された工具基材(4)の表面をコーティングして工具コーティング(8)を形成するステップと、を含み、
工具コーティング(8)は個々のピット(6)の輪郭に沿って形成されており、
前記複数のピット(6)が、そのコーティングされた表面によって、潤滑剤を保持するように構成され、かつ工具基材(4)内に形成されたピット(6)の平均深さが8μm〜25μmの範囲内にあることを特徴とする方法。
【請求項10】
工具基材(4)内に形成されたピットの平均断面積が0.005mm2〜1mm2の範囲内にあることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
複数のピット(6)がピットアレイであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ボア切削工具が円筒形ランドを有するツイストドリルであり、複数のピット(6)
が円筒形ランド上のみに存在することを特徴とする請求項請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工具コーティング(8)が1μm〜5μmの範囲内の平均厚みを有することを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記工具コーティング(8)がTiAlNを含むことを特徴とする請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ピット(6)は、工具基材(4)をレーザーエッチングまたは電子ビームエッチングすることによって形成されることを特徴とする請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
複数のピット(6)を形成するステップが、工具ブランク内に複数のピット(6)を形成し、ブランクを機械加工して工具基材(4)を形成するステップであることを特徴とする請求項9から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボア切削工具およびこのようなボア切削工具、詳細には金属ワーク用のボア切削工具そして詳細にはツイストドリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を機械加工する場合の工具寿命における主要な影響の1つは、適用される潤滑(冷却剤とも呼ばれる)にある。機械加工プロセスが「乾式」(潤滑無し)で行なわれた場合、潤滑の存在する機械加工プロセスに比べ、工具の寿命は劇的に短縮される。
【0003】
これは、潤滑が、接触表面間すなわち、工具とワーク間の「μ」値(摩擦係数)を削減するからである。μの値を削減すると、接触可能な表面間の摩擦が減少し、そのため工具の摩耗および発熱が低減されることになる。
【0004】
潤滑の基本的形態としては次の4つが存在する。すなわち、局所的圧力により表面間に保持されている液体の膜によって2つの摺動表面が分離されている流体力学的潤滑と、より高い局所的圧力により表面間に保持される非常に薄い流体の膜によって2つの摺動表面が分離されている弾性流体力学的潤滑と、2つの表面が部分的に液体フィルムによって分離され部分的に互いに接触している混合型潤滑と、および流体が存在していても2つの表面の大半が互いに接触している境界潤滑とがある。境界潤滑においては、2つの表面間の膜厚は0.001〜0.05μmの範囲内にあると考えられている(非特許文献1)。
【0005】
ボア切削工具を用いた機械加工の間、例えば穿孔作業の間、存在する潤滑タイプは、2つの表面の大半が非常にわずかな潤滑流体しか伴わずに互いに接触している境界潤滑であるということが理解される。
【0006】
非効率的な潤滑によってひき起こされる工具の加速摩耗は、工具性能の低下、例えば孔の再現性を劣化させる可能性がある。
【0007】
理想的には、工具の摩耗を削減するために、2つの表面の間、例えば円筒形ランドとワークの間で、膜厚みを増大させる必要がある。理論的には、これにより、2つの表面間の接触点におけるμの値は低減する。しかしながら、膜厚みの増加を達成するのは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dwyer-Joyce, R.S(1995) The Tribology Group Institution of Mechanical Engineers, 'Tribological Design Data Part 2; Lubrication', 2, 10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、上述の欠点に対処するものである。本発明人らは、意外にも、潤滑効果を改善しながら、潤滑剤の既存の使用レベルを保持できるということを発見した。すなわち、必ずしも切削プロセス中に使用される潤滑剤の量を増大させることなく、工具摩耗の改善を達成することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
最も一般的には、本発明は、ボア切削工具の表面内に複数のピットを備え、ここで使用中に潤滑剤を表面に保持するためにコーティングをピット全体にわたり適用することを提案している。
【0011】
第1の態様において、本発明は、
工具基材と、
工具基材の表面上の工具コーティングと、
を含むボア切削工具において、
ボア切削工具が工具基材の表面内に複数のピットを含み、工具コーティングは、ピット表面が工具コーティングを含むような形でピット全体にわたり延在している、ボア切削工具を提供する。
【0012】
本発明者らは、コーティング内にピットを形成するのではなくむしろ工具基材内に形成されその後コーティングされるピットを提供することによって、優れた性能を達成できるということを発見した。実際、実験において、本発明人らは、例えばコーティング内部へのレーザーエッチングによりコーティング後にピットを形成した場合に、ピットのまわりの部域内のコーティングに対する損傷の原因となることを発見した。例えば、ピットから幾分かの距離のところにコーティングの有意な亀裂が観察された。これは、工具に尚早な損傷をもたらし得る。さらに、不均等で一貫性のないピット寸法が生成された。
【0013】
本発明の実施形態のコーティングされたピットの構造がもたらすさらなる利点は、ピット間の工具の表面に関する限り、ピットの周囲に至るまでコーティングの特性が保持されるという点にある。さらに、コーティングはピットの輪郭をたどることから、コーティングの有利な特性は、ピット自体にも提供される。図1は、ピット表面としてのコーティングを提供するようにピット表面全体にわたって延在するコーティングを示す、典型的ピットの断面図を表わしている。
【0014】
ピットのコーティングに関して、本発明者らは、ピットの内部およびまわりにコーティング厚みの幾分かの変動が観察されるかもしれない(この変動は、ドリルの幾何形状の上へのコーティングの被着に付随する公知のコーナーおよびエッジ効果のせいであると考えられる)ものの、ピットには、その表面(すなわちピットの内部表面)がコーティング材料を含むような形でコーティングが効果的に具備されている、ということを発見した。実施形態において、このことは、長期間の工具寿命全体にわたりピットの寸法を保持する上で一助となる。
【0015】
さらなる利点は、ピットに塗布されたコーティングにより、比較的平滑なピット表面を達成できるという点にある。
【0016】
本発明人らは、ピットが、そのコーティングされた表面によって、例えば潤滑剤のためのタンクとして作用して潤滑剤を保持する上で極めて有効であることを発見した。
【0017】
本発明の実施形態においては、潤滑膜の厚みを、ピット無しのボア切削工具と比べて増大させることができる。
【0018】
好適には、これにより、工具表面がワークと接触するにつれて流体がピット内に強制される流体力学的潤滑の部域が生成される。
【0019】
好ましくは、平均的ピット深さは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも8μmである。好適には、平均的ピット深さは50μm以下、好ましくは25μm以下そして最も好ましくは15μm以下である。特に好ましい平均的ピット深さは8μm〜25μmの範囲内にある。平均的ピット深さは、本明細書中で論述されている白色光干渉分光法を用いて測定可能である。
【0020】
好適には、平均ピット幅および平均ピット長は独立して、20μm〜400μm、より好ましくは40μm〜250μmから選択される。円形ピットの場合、直径が当然、幅であり長さである。平均ピット幅および平均ピット長は、白色光干渉分光法を用いて測定可能である。
【0021】
好適には、平均ピット断面積は0.005mm2〜1mm2の範囲内にある。ここでもまた、これは、白色光干渉分光法を用いて測定可能である。
【0022】
好適には、平均ピッチ(中心間距離)は、50μm〜350μm、好ましくは50μm〜250μm、より好ましくは50μm〜150μmの範囲内にある。ここでもまた、これは白色光干渉分光法またはSEMを用いて測定可能である。
【0023】
好適には、ピットの平均密度は、5〜50個/mm2、好ましくは20〜30個/mm2の範囲内にあり、約24個/mm2が好ましい。
【0024】
ピットは任意の好適な形状、例えば細長い形状(例えば端部の丸いまたはコーナーの丸い矩形)、円形、三角形または矩形であり得る。ピットが、本明細書中ではスロット形ピットまたはスロットとも呼ぶ、端部の丸いまたはコーナーの丸い矩形であることが好ましい。
【0025】
好適には、複数のピットはピットアレイである。すなわち、複数のピットは、無作為でないパターンで好適に配置されている。好適には、隣接するピット間の間隔は、アレイ内の少なくとも大部分のピット、好ましくは実質的に全てのピットについて同じである。好ましくは、ピットは、好適には横列間に実質的に等しい間隔どりを伴って、複数のピット横列として配置される。グリッドパターンが特に好ましい。
【0026】
好適には、複数のピットは、使用中ワークと摩擦接触状態にあるボア切削工具の少なくとも1つの表面上のみに存在する。本明細書中で説明される通り、好ましいボア切削工具はツイストドリルであり、ツイストドリル実施形態において、ツイストドリルは円筒形ランドを有し、複数のピットは内筒形ランド上のみに存在する。好適には、内筒形ランドの少なくとも50%にピットが具備され、好ましくは内筒形ランドの全てにピットが具備される。本発明人らは、ツイストドリルの内筒形ランド上にピットを具備することによって、本明細書中の実施例内で論述されている通り、工具性能の著しい改善を達成できる、ということを発見した。
【0027】
好ましくは、工具コーティングは、少なくとも0.5μm、より好ましくは少なくとも1μmの平均厚みを有する。好適には、平均厚みの上限は10μm、好ましくは5μmである。好ましいコーティング厚みは1μm〜5μmの範囲内にある。
【0028】
ボア切削工具は、部分的にまたは全面的にコーティングされ得る。好ましくは、コーティングは、耐摩耗性コーティングであり、好適にはコーティング無しの工具に比べ低い摩擦係数を有する。
【0029】
好適なコーティングには、金属窒化物コーティング(例えばTiN、Alx、TiyNなど)、金属酸化物系コーティング(例えばAlxO、AlxCryOなど)、炭素系コーティング(例えばDLC、ダイヤモンドコーティングなど)およびその組合せが含まれる。好ましくは、工具コーティングは、窒化物コーティング、好適には金属窒化物系コーティング、より好ましくはTiAlNを含む。
【0030】
適切なコーティング方法は、蒸着、例えば物理的気相成長法(PVD)、または他の真空蒸着技術および化学蒸着(CVD)が含まれる。
【0031】
ピットは、好適にはレーザーまたは電子ビームにより創出することができる。便宜上、本明細書では、レーザーの好ましい使用について論述されているが、これは、電子ビームの使用に対する言及でもあるものとして理解すべきである。好適には、ピットは、工具コーティングを形成する前に工具基材をレーザーエッチングすることによって形成される。例えば、所望の複数のピットを生成するためにボア切削工具に対して、金属構成要素のマーキングに用いられるレーザーエッチングシステムを適用することができる。
【0032】
アレイの所望されるパターンは、レーザーコントローラー内にプログラミングされ、その後レーザーはそのパターンにしたがってピットを切削工具に具備するように作動させられる。
【0033】
典型的には、工具(またはブランク)との関係においてレーザーを移動させる。好適には、工具またはブランクを回転させる。代替的にまたは付加的には、レーザー源を工具の表面全体にわたり移動させる。
【0034】
好ましくは、ボア切削工具は丸形工具である。好適には、ボア切削工具は、ツイストドリル、エンドミル、リーマおよびタップの中から選択される。好ましくは、ボア切削工具はツイストドリルである。好適には、ツイストドリルは金属加工用ツイストドリルである。
【0035】
ボア切削工具(例えばツイストドリル)は一般に、金属ワークを切削するためのものであるが、それを複合材料およびセラミクスなどの他のワーク材料のために適応させることも可能である。
【0036】
好ましくは、工具基材はカーバイド製である。好ましいカーバイドはタングステンカーバイドである。代替的材料としては高速度鋼(HSS)、HSCoおよびHSCoXP、窒化ケイ素およびPCD(多結晶ダイヤモンド)またはそれらの組合せ(例えば金属本体上に取付けられたPCD)が含まれる。
【0037】
さらなる態様において、本発明は、表面上に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、工具基材の表面内に複数のピットを形成するステップと、ピットが形成された工具基材の表面をコーティングして工具コーティングを形成するステップとを含む方法を提供する。
【0038】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0039】
同様にして、方法はツイストドリルの製造方法であることが好ましい。
【0040】
好適には、ピット形成ステップは、工具基材のレーザーエッチングによりピットを形成するステップである。
【0041】
好適には、複数のピットを形成するステップには、工具ブランク内にピットを形成するステップとブランクを機械加工して工具基材を形成するステップとが含まれる。
【0042】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0043】
さらなる態様において、本発明は、表面内に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、ボア切削工具ブランクの表面内に複数のピットを形成するステップと、ブランクを機械加工してボア切削工具を形成するステップとを含む方法を提供する。
【0044】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0045】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0046】
好適には、方法には、ボア切削工具にコーティングを施して工具コーティングを形成するステップが含まれる。
【0047】
好適には、ボア切削工具はツイストドリルであり、ブランクを機械加工するステップには少なくとも1つの溝を機械加工するステップが含まれる。好適には、ボア切削工具は円筒形ランドを有するツイストドリルであり、ブランクを機械加工するステップにはブランクを機械加工して円筒形ランドを提供するステップが含まれ、この円筒形ランドは複数のピットを含む。
【0048】
前述の態様の場合と同様に、ピットはレーザーエッチングによって形成することが好ましい。
【0049】
工具の表面内にピットを含むコーティングされたボア切削工具を製造するための特に好ましい方法は、以下の通りである。すなわち、
(1)工具棒材(例えばカーバイド棒材)を、所要の工具(例えばドリル)ブランク幾何形状になるまで研削する、
(2)(例えばレーザーを用いて)ブランクに対し所要のピットパターンを適用する、
(3)ステップ(2)で生成されたフラッシュを除去する、
(4)所望のパターン化された部域が存在し続けることを保証する所要の工具幾何形状になるまで、パターン化されたブランクを研削する、そして
(5)所要のコーティングを(例えば蒸着により)ツールに塗布する。
【0050】
さらなる態様において、本発明は、表面内に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、レーザーを用いて複数のピットを形成するステップを含む方法を提供する。
【0051】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0052】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0053】
さらなる態様において、本発明は、表面内に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、ボア切削工具の表面内に複数のピットアレイを形成するステップを含む方法を提供する。
【0054】
実施形態において、ピットのパターン(アレイ)が無作為ではなくむしろ規則的なものであることにより、小さな面積でより多くの冷却剤タンクを収納でき、こうして流体の力学的潤滑面積を増大させるかもしれない。実施形態においては、これが接触表面の平均的μを削減し、こうして工具が受ける摩耗が低減して、工具の寿命を延長させ孔品質を改善することになるかもしれない。
【0055】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0056】
好適には、ピット形成ステップは、レーザーを用いてピットを形成するステップを含む。
【0057】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0058】
好ましくは、ピットアレイは、規則的に間隔どりされたピットの複数の横列を含む。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、表面内にピットアレイを含むボア切削工具を提供する。
【0060】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0061】
好適には、ピットアレイは、規則的に間隔どりされたピットの複数の横列を含む。
【0062】
さらなる態様において、本発明は、ボア切削工具内に複数のピットを形成するためのレーザーの使用を提供する。
【0063】
さらなる態様において、本発明は、ボア切削工具のコーティング方法において、ボア切削工具がその表面内に複数のピットを含み、こうしてピットが形成された表面にコーティングが適用されるようになっている方法を提供する。
【0064】
さらなる態様において、本発明は本明細書中に記載されたボア切削工具を用いてワークを切削する方法を提供する。
【0065】
好ましくは、ワークは金属ワーク、好ましくはチタンまたはチタン合金ワーク、例えばAMG4.B(Ti−6、Al−4V)である。
【0066】
好ましくは、ボア切削工具はツイストドリルであり、方法はワークを穿孔する方法である。
【0067】
好ましくは、方法には、潤滑、好適には最少量潤滑(MQL)を適用するステップが含まれる。本発明人らは、本明細書に記載のボア切削工具に対して複数のピットを適用することによって、MQLを使用した場合に、使用される潤滑剤の比較的少量を最適化することにより、特別なメリットがもたらされるということを発見した。
【0068】
さらなる態様において、本発明は、本明細書で開示された方法のいずれか1つによって製造されるボア切削工具を提供する。
【0069】
本発明の態様のいずれか1つを、他の態様のいずれか1つ以上と組み合わせてよい。さらにいずれか1つの態様の任意のまたは好ましい特徴のいずれかを、他の態様のいずれかに応用してもよい。
【0070】
詳細には、1つの方法または使用に付随する任意の特徴が1つの製品に適用されてよく、その逆もまた同様である。
【0071】
本発明の実施形態についてここで、添付図面を参照しながら記述する。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】コーティングされた表面を含むピットの断面を示す。
図2】斜線部域内でピットアレイが適用される工具ブランク(ツイストドリルブランク)を示す。
図3】工具ブランクに適用された、細長い「スロット」形状を有するピットのパターンを示す。
図4】ピットアレイを含むツイストドリルの内筒形ランドのSEM画像を示す。
図5】幅方向(ピットの短軸)における断面または断面形状として提供されたピットの白色光分析(Wyko白色光干渉計を用いる)の結果を示す。
図6】TiAlNでのコーティング後のピットのSEM画像を示す。
図7】幅方向(ピットの短軸)における断面または断面形状として提供されたピットの白色光分析(Wyko白色光干渉計を用いる)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0073】
誤解を避けるために、本明細書で使用される「ピット」という用語は、閉端細孔または盲穴を意味する。好ましいピット寸法は、本明細書中に記載されている。
【0074】
誤解を避けるために、本明細書中で使用されている「ボア切削工具」は、(工具がワーク材料の他のタイプの切削または除去も実施可能であるか否かに関わらず)既存のボアの再形成または修正を含め、ワークを切削してボアを形成するように適応された切削工具を意味する。好ましいボア切削工具の部類は、丸形工具である。好ましい丸形工具としては、ツイストドリル、エンドミル、リーマおよびタップが含まれる。ツイストドリルが特に好ましい。任意のツイストドリル幾何形状を使用することができるものの、先端の角度は90°〜180°が好ましい。
【0075】
誤解を避けるために、本明細書中で使用する「ピットアレイ」という用語は、秩序立った、規則的なまたは無作為でないパターンで配置された複数のピットを意味する。ピットアレイの一例は、隣接するピットおよびそれぞれの横列の間の間隔どりが実質的に等しい、複数のピット横列である。
【0076】
図1は、本発明に係るボア切削工具2の表面部分で切り取った断面図を示す。工具基材4には、例えばレーザーエッチングによりピット6が具備されている。次に、ピット付きの工具基材に対して工具コーティング8が適用される。工具コーティングは、ピット10の表面が工具コーティングを含むようにピットの輪郭をたどる。結果として得られたピットは、比較的平滑で均質な表面を有する。工具の実質的に平坦な主要表面からピットの「内部」表面までには、平滑な遷移部分が存在する。ボア切削工具に複数のこのようなピットが具備されている場合、工具は、潤滑剤をピット内に保持することによって潤滑剤と効率よく働くように(例えばMQL)適応される。
【0077】
(実施例)
実施例と試験
実施例1
タングステンカーバイド(超硬合金)の棒材を機械加工して、直径12mmのツイストドリルブランクを生産した。ブランクには、レーザーエッチングにより、ドリル本体に対応するブランクの表面内に秩序立ったパターン(アレイ)のピットを具備した。パターンが適用される部域は、図2に示されている。ブランクに適用されるパターンは、図3に示されている。パターンは、その長軸がドリルの主要長手方向軸に対して平行(ドリルの回転方向に対して垂直)である状態で配置された「スロット」形の細長いピットを含む。ピット密度は、約24個/mm2となるようにプログラミングした。
【0078】
SEM分析は、バリまたはフラッシュがピットの周囲に存在することを示した。したがって、フラッシュを除去するための外径研削を用いてブランクの表面を清浄した。工具ブランク表面内の結果として得られたピットは、図4に示されており、この図は、実質的にフラッシュが全く残っていないことを示している。
【0079】
フラッシュの不在は、Wyko白色光分析装置を用いた白色光干渉分光法によって確認された。白色光分析から、工具の3D表面の画像を形成することができる。獲得したデータから、ピットの断面または断面形状を検分でき、かつ、ピットの(最も深い点での)深さ、(最も幅広い点での)幅および(最長点における)長さの測定を、(表面における)断面積と共に測定することができる。ピットの短軸(幅)を横断したピット断面形状の一例が、図4に示されている。
【0080】
次に、工具ブランクを機械加工して、Dormer Tools社の市販製品CDX R553に対応するドリル幾何形状を生成した。
【0081】
内筒形ランドは、ピットパターンを保持するツイストドリルの唯一の部分である。工具ブランクの表面の残りの部分は、機械加工ステップ中に除去される。
【0082】
SEMおよび白色光分析から、以下のピット寸法を得た。
平均ピット幅=60μm、
平均的ピット深さ=11μm、
平均ピット長さ=230μm、
平均フラッシュ高さ=0μm。
【0083】
レーザー器具を適切にプログラミングすることによってピットの間隔どり、すなわち、およそ320μm(長さ方向での中心間距離)およびおよそ130μm(幅方向での中心間距離)を選択した。他の中心間距離(例えば100μm〜200μm)も可能である。
【0084】
その後、標準的被着技術を用いて、TiAlNでツイストドリルをコーティングした。工具基材上のTiAlNコーティングの深さは約1μmであった。内筒形ランドを含めて、ツイストドリル全体にコーティングを適用した。コーティングは、ピット全体にわたって延在し、こうして断面で、工具は、(例えば図1に示されているように)ピットの輪郭をたどるTiAlN層を伴うピットを工具基材内に含むようになっている。TiAlNの代りに、他のコーティングを使用することも可能である。
【0085】
図5にコーティングされたピットが示されている。コーティング後のピットの白色光分析幅断面形状が図6に示されている。
【0086】
コーティング後のSEMおよび白色光分析から、以下のピット寸法が得られた。
平均ピット幅=60μm、
平均的ピット深さ=9μm、
平均ピット長さ=230μm、
平均フラッシュ高さ=0μm。
【0087】
実施例2
レーザーテクスチャリングステップ中レーザー滞留時間をわずかに長くしたという点を除いて、実施例1と同じ手順にしたがった。
【0088】
コーティングの後、平均ピット幅は50μmと測定され、平均ピット長は220μm、平均的ピット深さは11μmと測定された。
【0089】
比較例1
レーザーテクスチャリングを適用しなかったという点を除いて、実施例1と同じ要領でピット無しのツイストドリルを製造した。
【0090】
試験
2つのワーク材料、AMG1.5(鋼合金)およびAMG4.3(チタン合金)を用いて、実施例1および2そして比較例1を試験した。AMG4.3は、Tiワークの穿孔が高温を発生させTiの燃焼さえ引き起こし得ることを理由として、きわめて要求度が高いものである。
【0091】
試験1では、以下の条件および設定値を使用した。
機械:DMU−60
材料:AMG1.5(W No.1.2312)
ドリル幾何形状:R553
直径:12.00mm
ドリル長:5×直径
ドリル深さ:36mmの盲穴
コーティング:TiAlN
冷却剤:MQL
孔数:工具一本、試験一回あたり10孔
監視機器:切削スラストおよびトルク監視用のanalySISソフトウェアおよび顕微鏡およびKistler Dynamometer(9123C1011、Dyno Wear Software付属)
表面速度:48mm/分
送り:0.15mm/回転
スピンドル速度:1273rpm
貫入速度:190mm/分
【0092】
孔がひとたび完成すると、10mmと30mmの深さでRenishaw probe(MP700OMP70)を用いて孔を測定した。
【0093】
スラスト力およびトルクの測定値は、内筒形ランド上にピットアレイを含むツイストドリルが、許容可能なレベルのスラストおよびトルクを受けることを示した。
【0094】
(Renishawプローブを用いた)孔寸法測定値は、実施例1と実施例2の両方が比較例1よりも「締まった」孔を生成することを示した。実際、両方の実施例共、H7の平均孔許容誤差を達成し、一方、比較例1は、H9しか達成しなかった(ISO286「寸法公差と嵌合い」)。
【0095】
さらに、優れた孔寸法再現性も達成された。
【0096】
試験2では、以下の条件および設定値を使用した。
機械:DMU−60
材料:AMG4.3(Ti−6 Al−4V/ASTM B265)
ドリル幾何形状:R553
直径:12.00mm
ドリル長:5×直径
ドリル深さ:14mmの貫通孔
コーティング:TiAlN
冷却剤:MQL
孔数:工具一本、試験一回あたり3孔
監視機器:(切削スラストおよびトルク監視用)analySISソフトウェアおよび顕微鏡およびKistler Dynamometer
表面速度:25mm/分
送り:0.135mm/回転
スピンドル速度:663rpm
貫入速度:90mm/分
【0097】
孔がひとたび完成すると、5mmと10mmの深さでRenishaw probeを用いて孔を測定した。
【0098】
スラスト力およびトルクの測定値は、内筒形ランド上にピットアレイを含むツイストドリルが、Tiワーク内で許容可能なレベルのスラストおよびトルクを受けることを示した。実際、Ti内で見られたトルクレベルは、比較例1に比べ、実施例1および2について有意に低いものであった。
【0099】
(Renishawプローブを用いた)孔寸法測定値は、Tiワーク内で実施例1と実施例2の両方が比較例1よりも「締った」孔を生成することを示した。さらに、特に5mmの深さでは、孔寸法の広がりは、比較例1に比べて実施例1および2について小さいものである。
【0100】
レーザーテクスチャリングされた工具により達成される一貫性ある孔寸法は、レーザーテクスチャリングされた工具が、工具の摩擦特性を削減していることを表わす。詳細には、5mmにおける優れた孔寸法の広がりは、ワーク材料が冷却しその原初の形状を復元し始め、こうして「スナッチング」の可能性を最小限におさえることを示唆している。詳細には、発熱の削減は、ワーク材料の膨張の範囲を削減し、かくして工具の「スナッチング(snatching)」の「グラビング(grabbing)」をひき起こし得る効果である工具上の孔の「閉じ込め(closing in)」を低減させる可能性がある。
【0101】
試験結果は、特にTiワークの場合に優れた孔品質を達成できるということを実証している。
【0102】
さらに、特に難易度の高いTiワークの場合には、トルク値の低下が見られる。このことは、工具が受ける応力がより小さく、潜在的に工具寿命の改善と同時に工具生産性の改善がもたらされるということを表わす。トルクの低減は同様に、電力消費量の削減をも可能にし得、こうして機械の諸経費の節約をもたらし、かつ当然のことながら環境のためになる。
【0103】
さらに、結果は、レーザーテクスチャリングされた工具が、MQLで工具およびワークに適用される比較的少量の潤滑剤の使用を最適化することから、最少量潤滑(MQL)での使用のために特に好適であり得ることを示している。これにより、潤滑剤の無駄使いの削減の結果としての環境への影響の削減、ならびに潤滑剤の廃棄または再利用のためのコストの削減が可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7