【課題を解決するための手段】
【0010】
最も一般的には、本発明は、ボア切削工具の表面内に複数のピットを備え、ここで使用中に潤滑剤を表面に保持するためにコーティングをピット全体にわたり適用することを提案している。
【0011】
第1の態様において、本発明は、
工具基材と、
工具基材の表面上の工具コーティングと、
を含むボア切削工具において、
ボア切削工具が工具基材の表面内に複数のピットを含み、工具コーティングは、ピット表面が工具コーティングを含むような形でピット全体にわたり延在している、ボア切削工具を提供する。
【0012】
本発明者らは、コーティング内にピットを形成するのではなくむしろ工具基材内に形成されその後コーティングされるピットを提供することによって、優れた性能を達成できるということを発見した。実際、実験において、本発明人らは、例えばコーティング内部へのレーザーエッチングによりコーティング後にピットを形成した場合に、ピットのまわりの部域内のコーティングに対する損傷の原因となることを発見した。例えば、ピットから幾分かの距離のところにコーティングの有意な亀裂が観察された。これは、工具に尚早な損傷をもたらし得る。さらに、不均等で一貫性のないピット寸法が生成された。
【0013】
本発明の実施形態のコーティングされたピットの構造がもたらすさらなる利点は、ピット間の工具の表面に関する限り、ピットの周囲に至るまでコーティングの特性が保持されるという点にある。さらに、コーティングはピットの輪郭をたどることから、コーティングの有利な特性は、ピット自体にも提供される。
図1は、ピット表面としてのコーティングを提供するようにピット表面全体にわたって延在するコーティングを示す、典型的ピットの断面図を表わしている。
【0014】
ピットのコーティングに関して、本発明者らは、ピットの内部およびまわりにコーティング厚みの幾分かの変動が観察されるかもしれない(この変動は、ドリルの幾何形状の上へのコーティングの被着に付随する公知のコーナーおよびエッジ効果のせいであると考えられる)ものの、ピットには、その表面(すなわちピットの内部表面)がコーティング材料を含むような形でコーティングが効果的に具備されている、ということを発見した。実施形態において、このことは、長期間の工具寿命全体にわたりピットの寸法を保持する上で一助となる。
【0015】
さらなる利点は、ピットに塗布されたコーティングにより、比較的平滑なピット表面を達成できるという点にある。
【0016】
本発明人らは、ピットが、そのコーティングされた表面によって、例えば潤滑剤のためのタンクとして作用して潤滑剤を保持する上で極めて有効であることを発見した。
【0017】
本発明の実施形態においては、潤滑膜の厚みを、ピット無しのボア切削工具と比べて増大させることができる。
【0018】
好適には、これにより、工具表面がワークと接触するにつれて流体がピット内に強制される流体力学的潤滑の部域が生成される。
【0019】
好ましくは、平均的ピット深さは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも8μmである。好適には、平均的ピット深さは50μm以下、好ましくは25μm以下そして最も好ましくは15μm以下である。特に好ましい平均的ピット深さは8μm〜25μmの範囲内にある。平均的ピット深さは、本明細書中で論述されている白色光干渉分光法を用いて測定可能である。
【0020】
好適には、平均ピット幅および平均ピット長は独立して、20μm〜400μm、より好ましくは40μm〜250μmから選択される。円形ピットの場合、直径が当然、幅であり長さである。平均ピット幅および平均ピット長は、白色光干渉分光法を用いて測定可能である。
【0021】
好適には、平均ピット断面積は0.005mm
2〜1mm
2の範囲内にある。ここでもまた、これは、白色光干渉分光法を用いて測定可能である。
【0022】
好適には、平均ピッチ(中心間距離)は、50μm〜350μm、好ましくは50μm〜250μm、より好ましくは50μm〜150μmの範囲内にある。ここでもまた、これは白色光干渉分光法またはSEMを用いて測定可能である。
【0023】
好適には、ピットの平均密度は、5〜50個/mm
2、好ましくは20〜30個/mm
2の範囲内にあり、約24個/mm
2が好ましい。
【0024】
ピットは任意の好適な形状、例えば細長い形状(例えば端部の丸いまたはコーナーの丸い矩形)、円形、三角形または矩形であり得る。ピットが、本明細書中ではスロット形ピットまたはスロットとも呼ぶ、端部の丸いまたはコーナーの丸い矩形であることが好ましい。
【0025】
好適には、複数のピットはピットアレイである。すなわち、複数のピットは、無作為でないパターンで好適に配置されている。好適には、隣接するピット間の間隔は、アレイ内の少なくとも大部分のピット、好ましくは実質的に全てのピットについて同じである。好ましくは、ピットは、好適には横列間に実質的に等しい間隔どりを伴って、複数のピット横列として配置される。グリッドパターンが特に好ましい。
【0026】
好適には、複数のピットは、使用中ワークと摩擦接触状態にあるボア切削工具の少なくとも1つの表面上のみに存在する。本明細書中で説明される通り、好ましいボア切削工具はツイストドリルであり、ツイストドリル実施形態において、ツイストドリルは円筒形ランドを有し、複数のピットは内筒形ランド上のみに存在する。好適には、内筒形ランドの少なくとも50%にピットが具備され、好ましくは内筒形ランドの全てにピットが具備される。本発明人らは、ツイストドリルの内筒形ランド上にピットを具備することによって、本明細書中の実施例内で論述されている通り、工具性能の著しい改善を達成できる、ということを発見した。
【0027】
好ましくは、工具コーティングは、少なくとも0.5μm、より好ましくは少なくとも1μmの平均厚みを有する。好適には、平均厚みの上限は10μm、好ましくは5μmである。好ましいコーティング厚みは1μm〜5μmの範囲内にある。
【0028】
ボア切削工具は、部分的にまたは全面的にコーティングされ得る。好ましくは、コーティングは、耐摩耗性コーティングであり、好適にはコーティング無しの工具に比べ低い摩擦係数を有する。
【0029】
好適なコーティングには、金属窒化物コーティング(例えばTiN、Alx、TiyNなど)、金属酸化物系コーティング(例えばAlxO、AlxCryOなど)、炭素系コーティング(例えばDLC、ダイヤモンドコーティングなど)およびその組合せが含まれる。好ましくは、工具コーティングは、窒化物コーティング、好適には金属窒化物系コーティング、より好ましくはTiAlNを含む。
【0030】
適切なコーティング方法は、蒸着、例えば物理的気相成長法(PVD)、または他の真空蒸着技術および化学蒸着(CVD)が含まれる。
【0031】
ピットは、好適にはレーザーまたは電子ビームにより創出することができる。便宜上、本明細書では、レーザーの好ましい使用について論述されているが、これは、電子ビームの使用に対する言及でもあるものとして理解すべきである。好適には、ピットは、工具コーティングを形成する前に工具基材をレーザーエッチングすることによって形成される。例えば、所望の複数のピットを生成するためにボア切削工具に対して、金属構成要素のマーキングに用いられるレーザーエッチングシステムを適用することができる。
【0032】
アレイの所望されるパターンは、レーザーコントローラー内にプログラミングされ、その後レーザーはそのパターンにしたがってピットを切削工具に具備するように作動させられる。
【0033】
典型的には、工具(またはブランク)との関係においてレーザーを移動させる。好適には、工具またはブランクを回転させる。代替的にまたは付加的には、レーザー源を工具の表面全体にわたり移動させる。
【0034】
好ましくは、ボア切削工具は丸形工具である。好適には、ボア切削工具は、ツイストドリル、エンドミル、リーマおよびタップの中から選択される。好ましくは、ボア切削工具はツイストドリルである。好適には、ツイストドリルは金属加工用ツイストドリルである。
【0035】
ボア切削工具(例えばツイストドリル)は一般に、金属ワークを切削するためのものであるが、それを複合材料およびセラミクスなどの他のワーク材料のために適応させることも可能である。
【0036】
好ましくは、工具基材はカーバイド製である。好ましいカーバイドはタングステンカーバイドである。代替的材料としては高速度鋼(HSS)、HSCoおよびHSCoXP、窒化ケイ素およびPCD(多結晶ダイヤモンド)またはそれらの組合せ(例えば金属本体上に取付けられたPCD)が含まれる。
【0037】
さらなる態様において、本発明は、表面上に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、工具基材の表面内に複数のピットを形成するステップと、ピットが形成された工具基材の表面をコーティングして工具コーティングを形成するステップとを含む方法を提供する。
【0038】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0039】
同様にして、方法はツイストドリルの製造方法であることが好ましい。
【0040】
好適には、ピット形成ステップは、工具基材のレーザーエッチングによりピットを形成するステップである。
【0041】
好適には、複数のピットを形成するステップには、工具ブランク内にピットを形成するステップとブランクを機械加工して工具基材を形成するステップとが含まれる。
【0042】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0043】
さらなる態様において、本発明は、表面内に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、ボア切削工具ブランクの表面内に複数のピットを形成するステップと、ブランクを機械加工してボア切削工具を形成するステップとを含む方法を提供する。
【0044】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0045】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0046】
好適には、方法には、ボア切削工具にコーティングを施して工具コーティングを形成するステップが含まれる。
【0047】
好適には、ボア切削工具はツイストドリルであり、ブランクを機械加工するステップには少なくとも1つの溝を機械加工するステップが含まれる。好適には、ボア切削工具は円筒形ランドを有するツイストドリルであり、ブランクを機械加工するステップにはブランクを機械加工して円筒形ランドを提供するステップが含まれ、この円筒形ランドは複数のピットを含む。
【0048】
前述の態様の場合と同様に、ピットはレーザーエッチングによって形成することが好ましい。
【0049】
工具の表面内にピットを含むコーティングされたボア切削工具を製造するための特に好ましい方法は、以下の通りである。すなわち、
(1)工具棒材(例えばカーバイド棒材)を、所要の工具(例えばドリル)ブランク幾何形状になるまで研削する、
(2)(例えばレーザーを用いて)ブランクに対し所要のピットパターンを適用する、
(3)ステップ(2)で生成されたフラッシュを除去する、
(4)所望のパターン化された部域が存在し続けることを保証する所要の工具幾何形状になるまで、パターン化されたブランクを研削する、そして
(5)所要のコーティングを(例えば蒸着により)ツールに塗布する。
【0050】
さらなる態様において、本発明は、表面内に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、レーザーを用いて複数のピットを形成するステップを含む方法を提供する。
【0051】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0052】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0053】
さらなる態様において、本発明は、表面内に複数のピットを有するボア切削工具を製造する方法において、ボア切削工具の表面内に複数のピットアレイを形成するステップを含む方法を提供する。
【0054】
実施形態において、ピットのパターン(アレイ)が無作為ではなくむしろ規則的なものであることにより、小さな面積でより多くの冷却剤タンクを収納でき、こうして流体の力学的潤滑面積を増大させるかもしれない。実施形態においては、これが接触表面の平均的μを削減し、こうして工具が受ける摩耗が低減して、工具の寿命を延長させ孔品質を改善することになるかもしれない。
【0055】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0056】
好適には、ピット形成ステップは、レーザーを用いてピットを形成するステップを含む。
【0057】
好適には、方法はピットが内部に形成される表面を清浄して、例えばフラッシュを除去するステップを含む。好ましくは、清浄ステップは外径研削を含む。
【0058】
好ましくは、ピットアレイは、規則的に間隔どりされたピットの複数の横列を含む。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、表面内にピットアレイを含むボア切削工具を提供する。
【0060】
第1の態様に関して以上で論述した好ましいピット寸法、ピット幾何形状およびピットのパターンは同様に、ピットを形成する方法ステップとしてこの態様にもあてはまる。
【0061】
好適には、ピットアレイは、規則的に間隔どりされたピットの複数の横列を含む。
【0062】
さらなる態様において、本発明は、ボア切削工具内に複数のピットを形成するためのレーザーの使用を提供する。
【0063】
さらなる態様において、本発明は、ボア切削工具のコーティング方法において、ボア切削工具がその表面内に複数のピットを含み、こうしてピットが形成された表面にコーティングが適用されるようになっている方法を提供する。
【0064】
さらなる態様において、本発明は本明細書中に記載されたボア切削工具を用いてワークを切削する方法を提供する。
【0065】
好ましくは、ワークは金属ワーク、好ましくはチタンまたはチタン合金ワーク、例えばAMG4.B(Ti−6、Al−4V)である。
【0066】
好ましくは、ボア切削工具はツイストドリルであり、方法はワークを穿孔する方法である。
【0067】
好ましくは、方法には、潤滑、好適には最少量潤滑(MQL)を適用するステップが含まれる。本発明人らは、本明細書に記載のボア切削工具に対して複数のピットを適用することによって、MQLを使用した場合に、使用される潤滑剤の比較的少量を最適化することにより、特別なメリットがもたらされるということを発見した。
【0068】
さらなる態様において、本発明は、本明細書で開示された方法のいずれか1つによって製造されるボア切削工具を提供する。
【0069】
本発明の態様のいずれか1つを、他の態様のいずれか1つ以上と組み合わせてよい。さらにいずれか1つの態様の任意のまたは好ましい特徴のいずれかを、他の態様のいずれかに応用してもよい。
【0070】
詳細には、1つの方法または使用に付随する任意の特徴が1つの製品に適用されてよく、その逆もまた同様である。
【0071】
本発明の実施形態についてここで、添付図面を参照しながら記述する。