特許第6173212号(P6173212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6173212高温昇華によって消火物質を生成する消火組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173212
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】高温昇華によって消火物質を生成する消火組成物
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/06 20060101AFI20170724BHJP
【FI】
   A62D1/06
【請求項の数】13
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-528503(P2013-528503)
(86)(22)【出願日】2011年9月7日
(65)【公表番号】特表2013-541361(P2013-541361A)
(43)【公表日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】CN2011079424
(87)【国際公開番号】WO2012034490
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2013年3月18日
【審判番号】不服2015-8530(P2015-8530/J1)
【審判請求日】2015年5月7日
(31)【優先権主張番号】201010285513.3
(32)【優先日】2010年9月16日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】316016427
【氏名又は名称】シーアン ウェストピース ファイヤー テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】クオ ホンパオ
(72)【発明者】
【氏名】リウ ホンホン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ シアオチン
【合議体】
【審判長】 冨士 良宏
【審判官】 豊永 茂弘
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−523493(JP,A)
【文献】 特表2004−508182(JP,A)
【文献】 特表平7−503159(JP,A)
【文献】 米国特許第3972820(US,A)
【文献】 米国特許第6045637(US,A)
【文献】 特開平11−256165(JP,A)
【文献】 特表2007−521111(JP,A)
【文献】 特開2011−78564(JP,A)
【文献】 特開昭60−112489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温昇華によって消火物質を生成できる消火組成物と、花火類薬剤とから構成され、
加熱中に昇華して消火性能を有する物質を放出する消火材料を含有し、前記消火材料の消火組成物における含有量は少なくとも80質量%であって、使用する場合、前記花火類薬剤を熱エネルギーソース及び動力ソースとし、前記花火類薬剤を燃焼させて、前記花火類薬剤が燃焼する際の高温で前記消火材料から高温昇華によって大量の消火物質を生成させ、前記花火類薬剤の燃焼物と一緒に噴射して消火の目的を実現し、
前記花火類薬剤が花火類エーロゾル消火剤であることを特徴とする消火組成物アセンブリー。
【請求項2】
前記消火材料が、融点が100℃以上で、昇華して消火物質を生成できる化合物であることを特徴とする請求項1に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項3】
前記消火材料が臭素系消火材料、塩素系消火材料、窒素系及びリン−窒素系消火材料又は無機消火材料であることを特徴とする請求項1或いは2に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項4】
前記臭素系消火材料が、2,4,6-トリブロモフェニルグリシジルエーテル、テトラ-ブロモフタル酸ジメチル(Dimethyl Tetra-bromophthalate)、ペンタブロモベンジルブロミド、2,4,6-トリブロモフェニルマレイミド又はトリ(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項3に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項5】
前記塩素系消火材料が、テトラ-クロロフタル酸無水物、ヘキサクロロベンゼン又はヘキサクロロエタンであることを特徴とする請求項3に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項6】
前記窒素系及びリン-窒素系消火材料が、メラミン又はシアヌル酸であることを特徴とする請求項3に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項7】
前記無機消火材料が、赤燐、二酸化すず又は臭化アンモニウムであることを特徴とする請求項3に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項8】
前記消火材料が、コバルトセンであることを特徴とする請求項3に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項9】
前記消火組成物に対して20質量%以下の添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項1或いは2に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項10】
前記消火組成物に対して20質量%以下の添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項11】
前記添加剤が、ステアリン酸塩、グラファイト、水溶性高重合体配合溶液又は他の混合物であることを特徴とする請求項9又は10に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項12】
前記消火組成物に対して各成分及びその含有量が、
消火材料:80質量%〜90質量%で、
添加剤:10質量〜20質量%であることを特徴とする請求項10に記載の消火組成物アセンブリー。
【請求項13】
表面被覆処理が施されたことを特徴とする前記請求項1乃至12のいずれかに記載の消火組成物アセンブリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消防分野に関し、具体的に、消火組成物、化学消火物質の使用に関し、特に,高温昇華によって消火物質を生成する消火組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1987年カナタモントリオール議定書にて各国に対しHALON消火剤の代わりのものに関する具体的に目標を提出してから、世界各国では新しい消火技術の研究に努力していて、消火効率を向上しつつ、環境に対する影響を低減できる消火技術は努力の方向となっている。
【0003】
気体消火システム、粉消火システム、水系消火システム等は、環境に無害であるので、HALON消火剤の代わりのものとして汎用されている。二酸化炭素、IG541等の不活性気体消火システムの消火メカニズムは主に、物理消火で、火災発生地の酸素濃度の低減による窒息消火を行い、このような消火方式によると、人員の人身安全を脅す恐れがあって、粉消火システムによると、加圧気体の作用で噴射される粉を火炎に接触させ、物理化学抑制作用による消火を行い、水系消火システムによると、霧の冷却、窒息、熱輻射の隔離の三種作用で火災を抑制して消す目的を実現する。
【0004】
しかし、上記の消火システムによると、いずれも高圧貯蔵を行わなければならなく、体積が大きいと共に、貯蔵中に物理的に爆発するリスクも存在し、文献「気体消火システムの安全性分析」(消防科学と技術2002 21(5))にて気体消火システムに存在するリスクを分析していて、使用中に発生した貯蔵気体消火システムの安全事故が上げられている。
【0005】
研究資料によると、海外の学者が消火物質に対する研究を大量行っていて、米国標準と技術研究院の建築と防火研究センターの次世代消火技術プロジェクトグループ(NGP)は多くの文章を発表していて、彼らは窒素、二酸化炭素、CFH気体をキャリアガスとし、高温の気体で実験物質を加熱し、キャリアガスと一緒に火炎に応用し、試験物質の消火力を研究した。その中、一部の物質(例えばフェロセン)は高温気体の作用で昇華し、昇華後に消火物質を生成し、キャリヤガスによる消火効率を明らかに向上できた(Proceeding of the Combustion Institute, Volume 28, 2000/pp. 2965-2972, Flame inhibition by ferrocene and blends of inert and catalytic agents, Halon Options Technical Working Conference 2-4May 2000, Flame inhibition by ferrocene , alone and with CO2 and CF3H)。
【0006】
そして、国内の河南理工大学がフェロセンの昇華消火に関する文章を発表し、また、特許CN101327364Aにフェロセン消火試験システムが開示された。
【0007】
しかし、上記研究はいずれも理論研究に基づくものに過ぎず、実際の消火器に応用されていることではなく、また、既存の資料によると、フェロセンのみが高温昇華後に消火物質を生成し、他の物質については発現できていない。
【0008】
既存のエーロゾル消火剤は主に、S型とK型の消火剤で、その性能を総合に分析すると、エーロゾル消火剤はいずれも消火剤が酸化還元反応後に大量の気体、活性粒子を発生し、活性粒子の鎖切断反応、大量気体の被覆窒息によって化学と物理の結合による消火目的を実現する。エーロゾル消火剤は、燃焼反応によってエーロゾルを放出する共に、大量の熱を放出し、装置及びエーロゾルの温度を効率的に低下させて二次火災を防止するためには、冷却システムの追加が必要になり、これにより装置の構造が複雑になり、工程が複雑になり、コストが高まり、冷却システムが存在するので、大量の活性粒子が活性を失い、消火性能が大幅に低減される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
既存の消火装置に鑑み、特にエーロゾル消火システムにおける固有の欠陥に鑑み、本発明は、圧力貯蔵する必要がなく、一層安全で、環境保護に一層効果的で、消火効率が高い消火組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による消火組成物は、高温昇華によって消火物質を生成できる消火材料を含み、その含有量が80質量%以上である。
【0011】
本発明による消火組成物は、メイン消火材料としての高温昇華によって消火物質を生成できる消火材料を含有する以外に、本分野で常用の各種添加剤を適量含有することができる。
【0012】
本発明による高温昇華によって消火物質を生成できる消火組成物は、以下の効果を同時に実現することができる。一、高温昇華によって消火物質を生成できる消火組成物は、加熱される時に火炎抑制作用を有する物質に昇華し、当該物質の物理又は化学抑制作用によって、又は物理及び化学の協同抑制作用で消火を行う。二、昇華による産物の抑制作用により、火元の再燃焼の可能性を低下すると共に、消火剤の消火効果を一層向上できる。三、消火組成物は高温で加熱されると、すぐに吸熱昇華し、花火薬剤が燃焼する際に釈放する熱を効率的に且つ高速に低下させ、消火装置のノズル及び噴射する物質の温度を大幅に低減させ、消火装置の複雑な冷却システムを省略でき、二次火災のリスクもなくすことができる。四、消火組成物を簡単に加工でき、且つ、単独又は物理冷却剤と配合して使用できる。五、性能が安定で、長期貯蔵が容易である。六、無毒又は低毒で、環境に友好である性能を有する。
【0013】
以下、本発明による高温昇華で消火物質を生成する消火組成物を説明する。
本発明による消火組成物は、高温昇華によって消火物質を生成できる消火材料を含有し、その含有量は80質量%以上である。
【0014】
高温昇華によって消火物質を生成する消火組成物の火炎抑制メカニズムは、消火組成物が高温で火炎抑制作用を有する気体に昇華し、当該気体の消火物質は、遊離基を介して鎖式燃焼反応に必要なO・、OH・、H・遊離基の中の一つ又は複数と反応して鎖式燃焼反応を切断し、または、物理作用によって酸素分圧を減少させて火炎を抑制し、又は物理及び化学抑制作用を同時に発生させて消火効果を実現すると共に、花火薬剤と協同して効果を高める作用を発生し、消火剤の消火効果をさらに向上し、有効消火時間を大幅に短縮できる。
【0015】
消火組成物の常温での性能安定性を保証し、簡単に長期貯蔵するため、上記高温昇華によって消火物質を生成する消火組成物の融点が100℃以上であることが好ましく、2,4,6-トリブロモフェニルグリシジルエーテル、4-ブロモフタル酸ジメチル、ペンタブロモベンジルブロミド、2,4,6-トリブロモフェニルマレイミド、ペンタブロモクロロシクロヘキサン、トリ(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、テトラ-クロロフタル酸無水物、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサクロエタン、メラミン、シアヌル酸、赤燐、二酸化すず、臭化アンモニウム、コバルトセンであることができる。
【0016】
必要に応じて、本発明の消火組成物に、例えばステアリン酸塩、グラファイト、水溶性高重合体配合溶液又は他の混合物などの各種の添加剤を添加することができ、当該添加剤の含有量は20質量%以下である。
【0017】
本発明による消火組成物の各成分及びその含有量が、
消火材料:80質量%〜90質量%,
添加剤:10質量%〜20質量%であることが好ましい。
【0018】
本発明による消火組成物を、製丸、型押、押し出し等の工程によって球状、シート状、細長状、塊状、蜂巣状に成型し、また、表面被覆処理を行うことができる。表面被覆処理を行う場合、ヒドロキシメチルセルロース又はヒドロキシエチルセルロースを表面被覆剤とすることが好ましい。当該表面被覆剤は、組成物系の表面平滑度を改善でき、また、その強度、耐磨耗性、耐震力も向上でき、運送中の消火組成物が粉化し、くずが落ちて消火装置からあふれることを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例によって本発明による消火組成物を具体的に説明する。
表1の消火材料及び添加剤により製造された消火組成物30gをそれぞれ、20gのK型エーロゾル発生剤が投入されている消火装置に加入し、それぞれ、1.0m試験室にて分布型火炎に消火試験を行って、各組のサンプルに対しそれぞれ3回テストし、消火数量及び残留量を記録した。試験結果は表1に示すとおりである。
【0020】
比較例として、それぞれ20gの市販の常用のS型エーロゾル消火剤又はK型エーロゾル消火剤が投入されている消火装置サンプルを、同様の1.0m試験室にて分布型火炎に消火試験を行って、各組のサンプルに対し3回テストし、消火数量及び残留量を記録した。実験結果は表1に示すとおりである。
【表1】
【0021】
上記の表に示す消火状況は、3回の試験中の最も少ない消火数を示し、残留量は3回の試験の平均値であって、上記表に示すように、本発明の実施例1ー7に係わる消火組成物によると、1.0m試験室にて分布型火炎に消火試験を行った場合の消火性能はいずれも比較例1、2に比べ優れていて、残留量も比較例1、2に比べ少ない。
【0022】
実験方法は、GA499ー2004の7.13の濃度分布試験方法に従って、1mの実験室にて消火試験を行っていて、試験室に合計五つの鋼質の試験タンクが投入されていて、四つの燃料タンクをそれぞれ実験空間の四つの角に置き、二つが上、二つが下で交互に置き、そして、遮断パネル後ろの実験空間の底部に一つの燃料タンクを置いた。燃料タンクにヘプタンを加入し、クッション部として底部に水を入れる。
【0023】
上記の具体的な実施例は例に過ぎず、本発明による上記示唆で、当業者であれば上記実施例を元にさまざまな改善、変形を行うことができるが、このような改善又は変形はいずれも本発明の保護範囲内のものである。上記の説明は本発明を解釈するためのもので、本発明を限定するものではない。