特許第6173222号(P6173222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6173222改良された分散特性を有する水溶性ポリマー粉末配合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173222
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】改良された分散特性を有する水溶性ポリマー粉末配合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/00 20060101AFI20170724BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20170724BHJP
   C08G 12/46 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   C08L61/00
   C08K5/092
   C08G12/46
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-557797(P2013-557797)
(86)(22)【出願日】2012年3月6日
(65)【公表番号】特表2014-507549(P2014-507549A)
(43)【公表日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】US2012027836
(87)【国際公開番号】WO2012122153
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2015年2月16日
(31)【優先権主張番号】61/449,846
(32)【優先日】2011年3月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512118196
【氏名又は名称】ハーキュリーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】プラチュア・バルガヴァ
(72)【発明者】
【氏名】トゥイェン・ティー・ヌグイェン
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティン・エー・ヴァインベルグ
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第95/030705(WO,A1)
【文献】 特表2004−515625(JP,A)
【文献】 特開2003−171402(JP,A)
【文献】 特開2000−063565(JP,A)
【文献】 特表2006−501324(JP,A)
【文献】 特開2004−256814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 61/00−61/34
C08G 4/00−16/06
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塊を形成せずに水中に分散する貯蔵安定なセルロースエーテル配合物であって、
a)第1の反応性部分および第2の反応性部分を有し、前記第1の反応性部分がアルデヒドであり、前記第2の反応性部分がアルデヒドである架橋剤で架橋した、架橋セルロースエーテル組成物50〜99重量パーセント、および
b)水溶性固体酸1〜20重量パーセント
を含み、
前記架橋セルロースエーテル組成物が、前記架橋剤、架橋セルロースエーテル、および未架橋セルロースエーテルを含み、
前記固体酸が、部分的に中和されたポリカルボン酸である、配合物。
【請求項2】
記架橋セルロースエーテルの原料のセルロースエーテルが、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、水溶性エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(CMHEC)、ヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース(HPHEC)、メチルセルロース(MC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、カルボキシメチルメチルセルロース(CMMC)、疎水的に改質されたカルボキシメチルセルロース(HMCMC)、疎水的に改質されたヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、疎水的に改質されたヒドロキシプロピルセルロース(HMHPC)、疎水的に改質されたエチルヒドロキシエチルセルロース(HMEHEC)、疎水的に改質されたカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(HMCMHEC)、疎水的に改質されたヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース(HMHPHEC)、疎水的に改質されたメチルセルロース(HMMC)、疎水的に改質されたメチルヒドロキシプロピルセルロース(HMMHPC)、疎水的に改質されたメチルヒドロキシエチルセルロース(HMMHEC)、疎水的に改質されたカルボキシメチルメチルセルロース(HMCMMC)、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース(カチオン性HEC)、およびカチオン性の疎水的に改質されたヒドロキシエチルセルロース(カチオン性HMHEC)からなる群から選択される、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記部分的に中和されたポリカルボン酸が、部分的に中和された、アジピン酸、アルダル酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3トリカルボン酸、トリメシン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリカルボン酸である、請求項2に記載の配合物。
【請求項4】
前記部分的に中和されたポリカルボン酸が部分的に中和されたクエン酸である、請求項3に記載の配合物。
【請求項5】
前記固体酸のpKaが2〜7.5である、請求項1に記載の配合物。
【請求項6】
前記固体酸のpKaが4.2〜6である、請求項5に記載の配合物。
【請求項7】
前記固体酸が、部分的に中和された水溶性ポリマー酸から選択される、請求項5に記載の配合物。
【請求項8】
0.01〜8重量%の架橋剤を含む、請求項7に記載の配合物。
【請求項9】
0.01〜5重量パーセントの架橋剤を含む、請求項8に記載の配合物。
【請求項10】
50〜99重量%の架橋セルロースを含む、請求項1に記載の配合物。
【請求項11】
0.1〜20重量パーセントの固体酸を含む、請求10に記載の配合物。
【請求項12】
前記架橋剤がグリオキサールを含む、請求項1に記載の配合物。
【請求項13】
a)少なくとも2つのアルデヒド反応性部分を有する0.01〜8重量パーセントの架橋剤で架橋した架橋セルロースエーテル組成物50〜99重量パーセントと、部分的に中和されたポリカルボン酸から選択される酸1〜20重量パーセントと、を含む乾燥混合物の所望の量を、水性システムに添加する工程
を含み、
前記架橋セルロースエーテル組成物が、前記架橋剤、架橋セルロースエーテル、および未架橋セルロースエーテルを含む、水性システムを増粘する方法。
【請求項14】
前記架橋剤がグリオキサールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記水性システムが塗料である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記乾燥混合物が粉砕物に添加される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
塊を形成せずに水中に分散する貯蔵安定なセルロースエーテル配合物であって、
a)架橋剤、架橋セルロースエーテル、および未架橋セルロースエーテルを含む、架橋剤で架橋した架橋セルロースエーテル組成物であって、
前記架橋セルロースエーテルが、遊離のヒドロキシアルキル基を有し、前記架橋剤が、アルデヒドである第1の反応性部分およびアルデヒドである第2の反応性部分を有する、架橋セルロースエーテル組成物50〜99重量パーセント、
b) 部分的に中和された、アジピン酸、アルダル酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3トリカルボン酸、トリメシン酸、およびpKaが3〜7.5である水溶性ポリマー酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリカルボン酸からなる群から選択される固体の水溶性酸1〜20重量パーセント
を含む、配合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
本出願は、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、2011年3月7日に出願された米国仮特許出願第61/449,846号に関連し、かつその利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、一般的に、水溶性ポリマー粉末配合物に関し、より具体的には、粉末形態で水性システムに直接添加して、むらのない、塊を含まない溶液を製造するのに適したセルロースエーテル配合物に関する。本発明は、さらに、水性システムに直接添加するのに適した、粉末形態の水溶性セルロースエーテル配合物を製造する方法に関する。この水溶性セルロースエーテル粉末配合物は、パーソナルケア、家庭用手入れ、建築および建設材料、油田、医薬品、食品に利用され、最も具体的には塗料およびコーティングに使用される。
【背景技術】
【0003】
多くの最終用途において、水溶性ポリマーはユーザーによって、粉末として受領され、かつ初めに取り扱われ、その後に各種水性システム中に溶解させられる。しかし、水溶性ポリマー粉末は水性システムに添加される場合に塊を生じる傾向があり、このことが技術的課題を提起している。この問題は、水性システムへ添加する際の、水溶性ポリマー粉末の急速な水和および膨張に起因する。水溶性ポリマー粉末を大量に添加すると、粉末相と液相の間の界面の水溶性ポリマー粒子が、急速に水和および膨張を始める。界面における水溶性ポリマー粒子が膨張し、その結果粒子が詰まることによって、粉末相の内部への液体の浸透が遅くなる。このプロセスによって、最終的に、持続性の、溶解が緩やかな、様々な大きさのゲル凝集物が生成する。水溶性ポリマーの溶解速度が低下することに加え、前記凝集物が形成されることによって、その配合物中に望ましくない物質が存在するようにもなる。
【0004】
塊を含まない水溶性ポリマーの溶解物を製造するために使用されてきた幾つかの手法が、当技術分野で公知である。一般的に使用される手法として、(a)水溶性ポリマー粉末をゆっくり添加すること、(b)水混和性溶媒を用いて水溶性ポリマー粉末を予め湿らせること、および(c)利用する前に水溶性ポリマー粉末を他の乾燥材料と混合することが挙げられる。上述した手法のそれぞれには欠点がある。例えば、手法(a)では粉末の利用が大幅に遅くなり、手法(b)および(c)では、環境コンプライアンスまたは性能の観点のいずれかにおいて水溶性ポリマー製品を添加した製品に対して悪影響を有し得る、相当な濃度の添加物が持ち込まれ得る。
【0005】
溶解の際の塊形成を抑制するのに使用される別の手法は、高剪断導入装置の使用に基づく方法である。この手法では、水溶性ポリマー粉末/水システム混合物が高剪断を受け、これによって、水溶性ポリマー粉末の水和によって形成される塊が機械的に砕かれて個々のポリマー粒子になる。この手法の短所は、使用の時点において専用の装置を必要とすることである。
【0006】
塊を含まない水溶性ポリマーの溶解物を得ようとする試みにおいて、水溶性ポリマー粉末の物理的または化学的改質に基づく幾つかの手法も開発されてきた。例えば、米国特許第6,197,100号では、粒子表面を被覆した場合に被覆された粒子をより容易に分散可能にする界面活性剤を使用することが教示されている。米国特許出願公開第2007/0175361(A)号では、水溶性の塩または糖または各種ポリマーを用いて水溶性ポリマー粉末を噴霧乾燥させることによって、分散可能な水溶性ポリマーを調製する方法が教示されている。
【0007】
米国特許第2,879,268号では、粉末表面の化学的改質によって粉末の分散性を改良する方法が教示されている。この特許では、ホルムアルデヒドまたはジアルデヒドを使用して、粒子を溶解させる前に、粒子の分散を可能とする表面架橋結合を製造することが教示されている。
【0008】
米国特許第6,639,066(B2)号では、各種電解質塩と混合したグリオキサール化セルロースエーテルを使用することが教示されている。この乾燥混合物は、単一の工程においてこの乾燥混合物を水に添加することによって、安定した懸濁液を調製するのに適していることが教示されている。
【0009】
米国特許第4,720,303号では、セルロースエーテルの、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸およびコハク酸等の固体有機酸との混合物を使用して、塊形成なしに水性システムを増粘するのに適した乾燥混合物を製造することが教示されている。しかし、セルロースエーテルを固体有機酸と混合することは、セルロースエーテル、特にヒドロキシエチルセルロースに対して有害な影響を有すると思われる。固体有機酸とセルロースエーテルの上記混合物は、ポリマーの可溶性の低下として現れる、混合物の保存安定性の低下を呈する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,197,100号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0175361(A)号
【特許文献3】米国特許第2,879,268号
【特許文献4】米国特許第6,639,066(B2)号
【特許文献5】米国特許第4,720,303号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特殊な高剪断導入装置の使用を必要とせずに、溶解の際の水溶性セルロースエーテルの塊形成を抑制する手法、あるいは、セルロースエーテルの最終的な用途または保存可能期間のいずれかに対して有害である添加物を使用することによるが、保存安定性が損なわれるという欠点なしに、むしろ、水性システムへ直接添加した後に、急速で、塊ができない溶解が可能であるセルロースエーテル粉末を結果的に得られる手法への要望が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、少なくとも1つのアルデヒド部分を有する最大で約8重量%までの架橋剤で処理したアルデヒド反応性水溶性セルロースエーテルを最大約99重量%と、架橋セルロースエーテルに貯蔵安定性を与える弱酸20重量%以下と、を含む乾燥混合物に関する。
【0013】
本発明は、水性システム、好ましくは水の粘度より高い粘度を有する水性システムの粘度を高くする方法にも関する。本方法は、所望の量の乾燥混合物を水性システムに添加する工程を含む。水性システムはその後に混合され、比較的塊を含まない均一な高粘度のシステムが形成される。本方法で使用される乾燥混合物は、少なくとも1つのアルデヒド基を有する最大約8重量%までの架橋剤、好ましくはグリオキサールで架橋させた最大約99重量%までの水溶性セルロースエーテル、および粉末形態の乾燥混合物に貯蔵安定性を与える20重量%以下の弱酸を含む。
【0014】
本発明は、以下の詳細な説明および図に照らせばさらに理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、予めスラリー化させたかまたはHECを乾燥粉末として直接添加した場合の、pH8.5、100mMのトリス緩衝液中におけるグリオキサール化HECの時間経過に伴う溶解を示すグラフである。
図2図2は、粘度を高くしていない塗料(すなわちレオロジー改質剤無添加)に、慣用法によって、またはHECを乾燥粉末として直接添加することによって添加した、グリオキサール化HECの時間経過に伴う溶解を示すグラフである。
図3図3は、予め溶解させた0.3重量%の前記ポリマーを含むpH8.5の緩衝液に、慣用法によって、またはHECを乾燥粉末として直接添加することによって添加した、グリオキサール化HECの時間経過に伴う溶解を示すグラフである。
図4図4は、8重量%の粉末クエン酸とグリオキサール化HECとの混合物を乾燥粉末混合物として直接添加したか、慣用のHEC(そのままでの)スラリー添加か、または添加物なしでHECを直接粉末添加した時の、粘度を高くしていない塗料中におけるグリオキサール化HECの時間経過に伴う溶解を示すグラフである。
図5図5は、クエン酸とグリオキサール化HECとの混合物の保存安定性を、時間経過に伴う混合物の溶解として示すグラフであり、製造当初の場合、周囲条件で2ヶ月間貯蔵した場合、および60℃で一晩エージングした場合を示す。
図6図6は、8重量%のクエン酸一ナトリウムと混合させて乾燥粉末混合物として直接添加した場合、慣用のHEC(そのままでの)スラリー添加の場合、または8重量%のクエン酸一ナトリウムなしでHECを直接粉末添加した場合の、粘度を高くしていない塗料中におけるグリオキサール化HECの時間経過に伴う溶解を示したグラフである。
図7図7は、スラリーとして、および乾燥化合物として添加した市販のHECを、ポリアクリル酸を利用する本発明と比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特許請求される本発明は、配合物が塊なしに容易に投入される穏和な撹拌下で、水性システム、好ましくは水の粘度より高い粘度を有する水性システムに直接添加するのに適した、ポリアルデヒド反応性水溶性セルロースエーテル粉末配合物に関する。本配合物はセルロースエーテル、架橋剤、および粉末の酸を含む。
【0017】
本出願では、「粉末」は、粉砕されたか、微粉化されたか、または他の方法で細かく分散された固体粒子からなる物質を意味するものとする。
【0018】
本発明で使用するセルロースエーテルには、アルデヒドと反応してヘミアセタールを形成するセルロースエーテル、特にヒドロキシアルキルセルロースエーテルが含まれる。これらにはヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、水溶性エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(CMHEC)、ヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース(HPHEC)、メチルセルロース(MC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、カルボキシメチルメチルセルロース(CMMC)、疎水的に改質されたカルボキシメチルセルロース(HMCMC)、疎水的に改質されたヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、疎水的に改質されたヒドロキシルプロピルセルロース(HMHPC)、疎水的に改質されたエチルヒドロキシエチルセルロース(HMEHEC)、疎水的に改質されたカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(HMCMHEC)、疎水的に改質されたヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース(HMHPHEC)、疎水的に改質されたメチルセルロース(HMMC)、疎水的に改質されたメチルヒドロキシプロピルセルロース(HMMHPC)、疎水的に改質されたメチルヒドロキシエチルセルロース(HMMHEC)、疎水的に改質されたカルボキシメチルメチルセルロース(HMCMMC)、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース(カチオン性HEC)、およびカチオン性の疎水的に改質されたヒドロキシエチルセルロース(カチオン性HMHEC)が含まれる。本発明では、HECは好ましいセルロースエーテルである。
【0019】
セルロースエーテル粉末を、少量の架橋剤を用いて処理する。この架橋は、少量の架橋結合の形成のみが発生するような条件下で、その開示が参照により全体として本明細書に組み込まれる米国特許第2879268号に述べられている方法に従って行う。セルロースエーテル粉末中の架橋剤の濃度は、最大で約8重量%まで、好ましくは約0.01〜5重量%である。
【0020】
架橋剤は、少なくとも第一および第二の反応性部分を有する多官能性分子であり、少なくとも1つの反応性部分が、セルロースエーテルのペンダントヒドロキシル基と反応してヘミアセタール結合を形成すると見込まれるアルデヒドである。第2の反応性部分は、セルロースエーテル、好ましくはセルロースエーテルのペンダントヒドロキシル基と反応すると見込まれる、多岐にわたる様々な基であってよい。これらの反応性基には、カルボキシル、シラノール、イソシアネート、ハロメチル、トシル酸アルキルエーテル、およびエポキシドが含まれる。架橋剤は、グリオキサール等のジアルデヒドであってもよい。グリオキサール化セルロースエーテルは市販されている。
【0021】
本発明で使用する粉末の酸は、分散の際にセルロースエーテルと接触し、水のpHを効果的に低下させて、架橋剤とセルロースエーテルの間のヘミアセタール結合の加水分解速度を減速させる、水溶性の粉末の酸であると見込まれる。これによって、セルロースエーテルの粒子が過量の水を吸収して塊を生成する前に、セルロースエーテルが水中に分散できるようになる。さらに、上記の酸は、セルロースエーテルと反応して水不溶性セルロースエーテルの形成を引き起こすことによって、貯蔵条件にした時のセルロースエーテルの溶解安定性を減少させるほどに、反応性があってはならない。「溶解安定」は、密閉系において少なくとも3日間、一般的には少なくとも10日間以上、好ましくは14日間以上、60℃の曝露に晒される加速エージングを受けても、セルロースエーテルが依然として可溶性である能力と定義される。
【0022】
それゆえに、酸は、架橋セルロースエーテルの貯蔵安定性をもたらすものでなくてはならない。一般的に、そのような酸はpKaが2より大きく7.5より小さい弱酸であると見込まれる。「pKa」は、希薄水溶液および25℃の条件下で測定した、酸基の解離定数Kaの対数の負数と定義される。pKaが高い酸は、架橋セルロースエーテルを加水分解から十分に保護しない。本発明において有用な幾つかの水溶性ポリマー酸には、水溶性ポリアクリル酸、水溶性ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸またはメタクリル酸またはマレイン酸と反応したモノマーから形成される水溶性酸、およびポリビニルスルホン酸、ポリアスパラギン酸、ならびに上記モノマーのコポリマー(例えばGantrez(登録商標))が含まれる。リン酸一ナトリウム、ピロリン酸三ナトリウム等の他の酸、およびアラニン等の幾つかのアミノ酸は、単独で、または他の酸と組み合わせて使用することもできる。
【0023】
本発明での使用に適した1つの種類の弱酸は、部分的に中和されたポリカルボン酸である。部分的に中和されたポリカルボン酸は、少なくとも1つの中和されたカルボン酸基および少なくとも1つの中和されていないカルボン酸基を有すると定義されるものとする。本明細書で中和は、固体ポリカルボン酸のカルボン酸部分が対イオンによって中和されるプロセスを対象とする。上記対イオンの例は、Na+、K+、NH4+等である。
【0024】
部分的に中和された固体ポリカルボン酸粉末は部分的に中和されたトリカルボン酸であってもよく、そのトリカルボン酸は例えばクエン酸または部分的に中和されたアルファヒドロキシカルボン酸であり、そのアルファヒドロキシカルボン酸は例えば酒石酸である。部分的に中和されたポリカルボン酸粉末を製造するのに使用される固体ポリカルボン酸粉末は、以下の酸からなる群から選択され得る:アジピン酸、アルダル酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、アコニット酸、プロパン-1,2,3トリカルボン酸およびトリメシン酸。さらに、ポリマー酸(PAAおよびPMA)も部分的に中和することができる。
【0025】
上述したように、一般的にこれらの酸のpKaは約2〜約7.5、より好適には3〜約7と見込まれ、多くの特に適した酸のpKaは4.2〜6である。本発明での使用に特に適した1つの酸は、一クエン酸ナトリウム(sodium monocitrate)等の、部分的に中和されたクエン酸である。
【0026】
本発明で使用する、粉末の酸を含む架橋セルロースエーテルを形成する方法は、特定の方法に限定されない。例えば、乾燥粉末の酸を単純に架橋セルロースエーテルと混合することもできる。好ましくは、上記の酸は、セルロースエーテル全体に均一に分散されるように、比較的小さい粒径を有する。一般的には、100ミクロンより小さい、好ましくは50ミクロンより小さい平均粒径が、本発明での使用に適している。この粉末の酸は、噴霧乾燥等の他の方法によってセルロースエーテルと組み合わせることもでき、さらに、セルロースエーテル形成の際のみならず、セルロースエーテルの架橋の際の任意の適した加工工程において添加することもできる。PAA等の有機溶媒に可溶である酸は、有機溶媒中に溶解することもでき、かつ、セルロースエーテル粉末に添加することもできる。次いで、溶媒を揮発させる。したがって、本発明は、本粉末混合物を作製する如何なる特定の方法にも限定されるべきではない。
【0027】
本発明の粉末混合物は、水溶性セルロースエーテルが使用される任意の方式で使用され得る。一般的には、それは撹拌下で水性システムに直接添加され得る。これによってセルロースエーテルが水中全体に分散し、次いでその後に水中に溶解して塊を含まない水性システムが得られるようになると見込まれる。さらに、粉末混合物は水性システム形成の際の任意の適した工程において添加することもできる。例えば、それは乾燥粉末として塗料配合物の粉砕物に添加することができ、かつその後に水と組み合わせることもできる。水性システムの幾つかまたは全ての成分は、必要に応じて、任意の通常の粉末加工法を用いてセルロースエーテル粉末に被覆させることもできる。本発明のセルロースエーテル粉末は、塗料配合物、食物調製に使用される他のエマルジョン、パーソナルケア製品、およびその他の、水の粘度より高い粘度を有する水性システムへの添加に特に適している。
【0028】
本発明の使用の方法は、以下の実施例に照らせばさらに理解されよう。
【0029】
実施例は本発明を例示するために呈示され、部数およびパーセントは別段の指示が無い限り重量による。
【0030】
(実施例)
本明細書に呈示される実施例は、建築用塗料配合物、ポリマー溶液または緩衝水溶液等の水性溶液を使用して300gスケールで生成させた。セルロースエーテルの溶解は、トルクの読み値を得る間混合を行うHaake VT550粘度計によって生成されたトルク値から推定した。
【0031】
本明細書に示す図は、特許請求される本発明の利点を示し、水溶性ポリマーが溶解するのに伴うトルクの経時変化を示す。水性溶液への添加に先立って水中に水溶性ポリマーを予めスラリー化させることを含む慣用の添加手順を呈示する。陰性対照として、すなわち部分的に中和された固体カルボン酸なしに直接添加された水溶性ポリマーの溶解を呈示する。最後に、本発明の水溶性ポリマー粉末混合物を呈示する。
【0032】
図1〜3は、水溶性ポリマーを水中に溶解させる技術的課題を実証する比較例を示す。図1は、添加した方法、すなわち乾燥粉末として直接添加したかまたは慣用通り予めスラリー化させて添加したかにかかわらず、グリオキサール化HEC(Hercules Incorporatedから入手できるNatrosol(登録商標)250HXRヒドロキシエチルセルロース)がpH8.5の緩衝水(100mMのトリス緩衝液)中に、塊ができずに溶解したことを示す。図2および3は、粘度を高くしていないpH8.5の建築用塗料(図2)または0.3重量%のHECをpH8.5のトリス緩衝液に溶かした溶液(図3)等の、より粘度の高い水性システムにグリオキサール化HECを添加した場合、同じことが当てはまらないことを示す。直接添加したHECの溶解が不十分であることはトルク値が低いことから明らかにされたものであり、ポリマーの塊形成によって引き起こされたものである。ここに示された塊形成現象は塗料またはポリマー溶液に限定されず、むしろ、水の粘度を超える粘度を有し、かつpHが7より大きい水性システムに対して一般化され得る。
【0033】
図4は、性能が改良されたグリオキサール化HECと(総重量に対して)8重量%の粉末クエン酸との混合物を含む比較例を示す。この混合材料は、塊なしに塗料配合物中に容易に溶解した。
【0034】
しかし、グリオキサール化HECとクエン酸との粉末混合物は受容しがたい溶解安定性を有することが判明した。その不安定性は、図5に示すように、HECの溶解の悪化として発現した。エージングなしのHEC粉末、室温で2ヶ月間貯蔵した混合物、および60℃で一晩エージングした混合物の溶解を図5に示す。エージングに伴う溶解の悪化は明らかであり、かつ、理論に束縛されることを望むものではないが、原因はHECとクエン酸のカルボン酸基の間の架橋エステル化反応であった。
【0035】
(実施例1)
ヒドロキシエチルセルロース(Hercules Incorporatedから入手できるNatrosol(登録商標)250HXRヒドロキシエチルセルロース)および(総重量に対して)8重量%の粉末クエン酸一ナトリウムを使用して、乾燥混合物を調製した。この混合物を、60℃のオーブン内で10日間エージングした。pH8.5の100mMトリス緩衝溶液中における、前記混合物のその後の溶解は、市販のNatrosol(登録商標)250HXRの溶解と同様の溶解を示した。
【0036】
驚くべきことに、グリオキサール化HECを部分的に中和された粉末カルボン酸と混合することによって、粉末クエン酸を用いたグリオキサール化HECの試料と比較した場合、溶解物が良好な溶解安定性(グリオキサール化HECの粘度がエージングに実質的に影響されないことにより定義される)を有し、塊を含まないという望ましい利点がもたらされたことが判明した。図6は、本発明の混合物の性能を示し、かつ、本混合物によって塊を含まない溶解物がもたらされることを示す。
【0037】
(実施例2)
ヒドロキシエチルセルロース(Hercules Incorporatedから入手できるNatrosol(登録商標)250HXRヒドロキシエチルセルロース)および6重量%の平均粒径50μmのクエン酸一ナトリウム粉末を使用して、乾燥混合物を調製した。この混合物は、全塗料重量に対して0.48重量%に相当する量を、Table 1(表1)に記すpH8.5の水性塗料配合物に乾燥粉末として添加した。溶解は、8ozのジャーの中で、直径1 1/2"の船用プロペラ型翼を使用して300RPMで行った。乾燥混合物は容易に溶解し、これによる塗料の粘度は97KUであった。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例3)
ヒドロキシエチルセルロース(Hercules Incorporatedから入手できるNatrosol(登録商標)250HBRヒドロキシエチルセルロース)および10重量%の平均粒径50μmのクエン酸一ナトリウム粉末を使用して、乾燥混合物を調製した。この混合物は、pH8.5の100mMトリス緩衝液中に調製した0.3重量%のヒドロキシエチルセルロース溶液(Hercules Incorporatedから入手できるNatrosol(登録商標)250HXRヒドロキシエチルセルロース)に、乾燥粉末として添加した。混合物は、実施例2に記した混合条件下で、乾燥粉末として直接添加した。混合物の添加によって、容易に溶解する、塊を含まない溶液が製造された。
【0040】
(実施例4)
ヒドロキシエチルセルロース(Hercules Incorporatedから入手できるNatrosol(登録商標)250HXRヒドロキシエチルセルロース)を、8重量%の粒径50μmのクエン酸一ナトリウムと乾燥混合させた。粘度110KUかつpH9.7の商用塗料配合物を得た。この塗料配合物を水で10重量%希釈することによって、塗料の粘度を100KUまで低下させた。総塗料重量2,350グラムに対して0.075重量%の量の前記混合物を、希釈した前記塗料に添加して、塗料製造プロセスにおける調整後の粘度をシミュレートした。混合塗料の表面に、混合物を乾燥粉末として直接添加した。各々の直径が7.6cmである2ピッチのタービン翼からなるオーバーヘッド撹拌機を使用し300RPMで回転させて、2Lのガラスジャーの中で混合を行った。添加した乾燥混合物は塊なしに完全に溶解し、これによって塗料の粘度が107KUとなった。
【0041】
(実施例5)
ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol(登録商標)250HXR)をポリアクリル酸MW1800で処理した。以下の手順を採用した。最初にポリアクリル酸をアセトン中で可溶化させ、5重量%溶液を製造した。次いでこの溶液をヒドロキシエチルセルロースと混合し、次いで流動層乾燥機内で乾燥させた。得られた粉末を乾燥状態で、粘度を高くしていない70PVC塗料(Table 1(表1))に添加し、次にHaake粘度計を300RPMで使用してポリマーの溶解を行った。図7に示すように、この組成物は塊なしに容易に溶解した。比較のため、図7には、スラリーとして、および乾燥状態で添加した市販のヒドロキシエチルセルロースの溶解プロファイルを含めた。後者には大規模な塊形成が伴う。
【0042】
本発明を特定の実施形態に関して説明したが、本発明はそれらに限定されるべきではないこと、ならびに、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく多くの変更および変形が可能であることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7