(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173249
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】ドライバ状態判定装置及びドライバ状態判定プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 40/08 20120101AFI20170724BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20170724BHJP
A61B 5/18 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
B60W40/08
G08G1/16 F
A61B5/18
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-69682(P2014-69682)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189402(P2015-189402A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】502324066
【氏名又は名称】株式会社デンソーアイティーラボラトリ
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093067
【弁理士】
【氏名又は名称】二瓶 正敬
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 知克
(72)【発明者】
【氏名】西井 克昌
(72)【発明者】
【氏名】内藤 貴博
(72)【発明者】
【氏名】吉川 泰男
【審査官】
増子 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−022610(JP,A)
【文献】
特開2004−350773(JP,A)
【文献】
特開2011−227883(JP,A)
【文献】
特開2008−264138(JP,A)
【文献】
特開平11−128185(JP,A)
【文献】
特開2009−028085(JP,A)
【文献】
特開平09−308614(JP,A)
【文献】
特開平10−288942(JP,A)
【文献】
特開2013−202123(JP,A)
【文献】
特開2011−067501(JP,A)
【文献】
特開2005−279113(JP,A)
【文献】
特開平07−143972(JP,A)
【文献】
特開2009−289251(JP,A)
【文献】
特開平06−107030(JP,A)
【文献】
特開平05−058192(JP,A)
【文献】
特開平09−123790(JP,A)
【文献】
特開2009−146185(JP,A)
【文献】
特開2002−230699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
G08G 1/00 − 99/00
A61B 5/06 − 5/22
B60K 25/00 − 28/16
A61B 5/02 − 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を行うドライバの運転時の疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定装置であって、
前記ドライバの運転操作に係る運転操作量を取得し、非線形解析処理を行うことによって前記運転操作量に関するリアプノフ指数を算出する非線形解析部と、
前記リアプノフ指数の時系列データのパワースペクトル密度を算出し、算出された前記パワースペクトル密度における所定の低周波数帯域の積分値と、所定の高周波数帯域の積分値とを算出する周波数スペクトル分析部と、
前記所定の低周波数帯域の積分値、及び、前記所定の高周波数帯域の積分値の両方の値の時系列変化から前記ドライバの疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定部とを、
有するドライバ状態判定装置。
【請求項2】
前記ドライバ状態判定部は、前記所定の高周波数帯域の積分値を前記ドライバの副交感神経の活躍状態の指標として利用し、前記所定の低周波数帯域の積分値と前記所定の高周波数帯域の積分値との比を前記ドライバの交感神経の活躍状態の指標として利用する請求項1に記載のドライバ状態判定装置。
【請求項3】
前記ドライバ状態判定部は、前記所定の高周波数帯域の積分値の微分時系列データと、前記所定の低周波数帯域の積分値と前記所定の高周波数帯域の積分値との比の微分時系列データとの差に基づいて、前記ドライバの疲労度又は緊張度を判定する請求項1又は2に記載のドライバ状態判定装置。
【請求項4】
前記周波数スペクトル分析部は、前記パワースペクトル密度を算出する際、前記リアプノフ指数の時系列データのサンプリングレートを10秒とし、前記所定の低周波数帯域を0.04ヘルツ以上0.15ヘルツ以下とし、前記所定の高周波数帯域を0.15ヘルツ以上0.4ヘルツ以下とする請求項1から3のいずれか1つに記載のドライバ状態判定装置。
【請求項5】
前記ドライバの運転操作に係る前記運転操作量として、前記車両の運転を行う際に前記ドライバが操作するアクセルペダル、ブレーキペダル、ハンドルのいずれかの操作量を利用する請求項1から4のいずれか1つに記載のドライバ状態判定装置。
【請求項6】
車両の運転を行うドライバの運転時の疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定方法をコンピュータに実行させるためのドライバ状態判定プログラムであって、
前記ドライバの運転操作に係る運転操作量を取得し、非線形解析処理を行うことによって前記運転操作量に関するリアプノフ指数を算出する非線形解析ステップと、
前記リアプノフ指数の時系列データのパワースペクトル密度を算出し、算出された前記パワースペクトル密度における所定の低周波数帯域の積分値と、所定の高周波数帯域の積分値とを算出する周波数スペクトル分析ステップと、
前記所定の低周波数帯域の積分値、及び、前記所定の高周波数帯域の積分値の両方の値の時系列変化から前記ドライバの疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定ステップとを、
有する前記ドライバ状態判定方法の各ステップを前記コンピュータに実行させるドライバ状態判定プログラム。
【請求項7】
前記ドライバ状態判定ステップにおいて、前記所定の高周波数帯域の積分値を前記ドライバの副交感神経の活躍状態の指標として利用し、前記所定の低周波数帯域の積分値と前記所定の高周波数帯域の積分値との比を前記ドライバの交感神経の活躍状態の指標として利用する請求項6に記載のドライバ状態判定プログラム。
【請求項8】
前記ドライバ状態判定ステップにおいて、前記所定の高周波数帯域の積分値の微分時系列データと、前記所定の低周波数帯域の積分値と前記所定の高周波数帯域の積分値との比の微分時系列データとの差に基づいて、前記ドライバの疲労度又は緊張度を判定する請求項6又は7に記載のドライバ状態判定プログラム。
【請求項9】
前記周波数スペクトル分析ステップにおいて前記パワースペクトル密度を算出する際、前記リアプノフ指数の時系列データのサンプリングレートを10秒とし、前記所定の低周波数帯域を0.04ヘルツ以上0.15ヘルツ以下とし、前記所定の高周波数帯域を0.15ヘルツ以上0.4ヘルツ以下とする請求項6から8のいずれか1つに記載のドライバ状態判定プログラム。
【請求項10】
前記ドライバの運転操作に係る前記運転操作量として、前記車両の運転を行う際に前記ドライバが操作するアクセルペダル、ブレーキペダル、ハンドルのいずれかの操作量を利用する請求項6から9のいずれか1つに記載のドライバ状態判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバの車両運転時の疲労度又は緊張度などのドライバ状態を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1には、非線形解析技術を利用して、ドライバの運転能力の判定を行う技術が開示されている。特許文献1の開示技術によれば、ドライバの運転操作量(例えば、ドライバによるペダル操作やハンドル操作など)、及び、車両の走行状態(例えば、前進/後進の情報)に基づいてドライバの運転特徴量を算出し、当該運転特徴量からリアプノフ指数を算出して、算出されたリアプノフ指数が健常時の指数値を下回った場合にドライバの運転能力が劣化していると判定することが可能である。
【0003】
また、例えば下記の特許文献2には、被験者の脈波の振幅変動のパワースペクトル密度を算出し、当該パワースペクトル密度の低周波領域の積分値LF(Low Frequency)及び高周波領域の積分値HF(High Frequency)を算出して、低周波領域の積分値LFと高周波領域の積分値HFとの比の対数を、血管系の交感神経機能の指標として求める技術が開示されている。また、従来から心拍数変動に基づく心臓の交感神経の機能の指標として高周波領域の積分値HFが用いられ、心臓の副交感神経の機能の指標として低周波領域の積分値LFと高周波領域の積分値HFとの比が用いられていることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−227883号公報
【特許文献2】特開2013−202123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来存在しなかった新たな構成によって、ドライバの車両運転操作によって発生する情報に基づき、ドライバの車両運転時の疲労度又は緊張度などのドライバ状態を判定するドライバ状態判定装置及びドライバ状態判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によれば、車両の運転を行うドライバの運転時の疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定装置であって、
前記ドライバの運転操作に係る運転操作量を取得し、非線形解析処理を行うことによって前記運転操作量に関するリアプノフ指数を算出する非線形解析部と、
前記リアプノフ指数の時系列データのパワースペクトル密度を算出し、算出された前記パワースペクトル密度における所定の低周波数帯域の積分値と、所定の高周波数帯域の積分値とを算出する周波数スペクトル分析部と、
前記所定の低周波数帯域の積分値、及び、前記所定の高周波数帯域の積分値の両方の値の時系列変化から前記ドライバの疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定部とを、
有するドライバ状態判定装置が提供される。
【0007】
また、上記目的を達成するため、本発明によれば、車両の運転を行うドライバの運転時の疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定方法をコンピュータに実行させるためのドライバ状態判定プログラムであって、
前記ドライバの運転操作に係る運転操作量を取得し、非線形解析処理を行うことによって前記運転操作量に関するリアプノフ指数を算出する非線形解析ステップと、
前記リアプノフ指数の時系列データのパワースペクトル密度を算出し、算出された前記パワースペクトル密度における所定の低周波数帯域の積分値と、所定の高周波数帯域の積分値とを算出する周波数スペクトル分析ステップと、
前記所定の低周波数帯域の積分値、及び、前記所定の高周波数帯域の積分値の両方の値の時系列変化から前記ドライバの疲労度又は緊張度を判定するドライバ状態判定ステップとを、
有する前記ドライバ状態判定方法の各ステップを前記コンピュータに実行させるドライバ状態判定プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記の構成を有し、ドライバの通常の車両運転操作(アクセルペダル、ブレーキペダル、ハンドルの操作など)の操作量に係る情報に基づき、簡素な構成でドライバの疲労度又は緊張度などのドライバ状態を判定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定装置の一例を示すブロック図
【
図2】本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定装置のデータ処理の一例を示すフローチャート
【
図3】本発明の実施の形態における非線形解析処理の一例(アトラクタ化処理)を示すフローチャート
【
図4】本発明の実施の形態における非線形解析処理の一例(ゆらぎ解析処理)を示すフローチャート
【
図5】本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の具体的な計算方法の一例を示す図
【
図6】本発明の実施の形態における周波数スペクトル分析処理の一例を示すフローチャート
【
図7】本発明の実施の形態において、周波数スペクトル分析処理によって計算されたパワースペクトル密度の一例を示す図
【
図8】本発明の実施の形態における疲労度又は緊張度の判定処理の一例を示すフローチャート
【
図9】本発明に係る積分値LF/HF及び積分値HFと、RRIから得られる積分値LF/HF及び積分値HFとの間の相関を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
本発明は、ドライバの車両運転操作の操作量に係る情報に基づいて、ドライバの自律神経における交感神経と副交感神経の活躍状態を解析し、この解析結果の時系列変化からドライバ状態(例えば、ドライバの疲労度又は緊張度)を判定するものである。すなわち、本発明は、ドライバに何らかの特別なセンサ(例えば、ドライバの脈拍を計測するセンサなど)を装着させることなく、ドライバによる車両の運転操作の監視結果に基づいてドライバの車両運転時の疲労度又は緊張度の判定を試みるものである。
【0012】
まず、本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定装置の構成の一例について説明する。
図1は、本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定装置の一例を示すブロック図である。
【0013】
図1に示されているドライバ状態判定装置100は、非線形解析部110、周波数スペクトル分析部120、ドライバ状態判定部130を有している。なお、
図1には、各機能がブロックによって図示されているが、これらの各機能は、ハードウェア及び/又はプログラム(コンピュータによって実行可能なプログラム)によって実現可能である。
【0014】
非線形解析部110は、車両を運転するドライバの運転操作に係る運転操作量を監視するドライバ操作検出センサ191から、当該運転操作量を含むセンシング情報を受信し、センシング情報に対して非線形解析処理を行う機能を有している。
【0015】
なお、ドライバ操作検出センサ191としては、例えば、アクセルペダルの踏み量(踏み込みの角度や踏み込む力など)を検出するセンサ、ブレーキペダルの踏み量(踏み込みの角度や踏み込む力など)を検出するセンサ、ハンドルの操作距離(ハンドルの操舵距離(例えば、ハンドルの回転角度などから把握できる操舵量)やトルクなど)を検出するセンサなどを利用することが可能である。また、センシング情報として、さらに、車両の走行状態を検出する車両センサ192(例えば、車両の速度を測定する車速センサや、車両の加速度を速定する加速度センサ)から出力される車両状態情報を利用してもよい。また、アクセルペダルの踏み量の代用として車両信号から得られるスロットル開度を利用してもよい。
【0016】
具体的には、非線形解析部110は、ドライバ操作検出センサ191において検出されたセンシング情報(例えば、上述のアクセルペダルの踏み量を検出するセンサにおいて検出されたアクセルペダルの踏み量)をミリ秒オーダ(ミリ秒単位)で取得し、取得したセンシング情報(あるいは、算出用に加工又は抽出されたセンシング情報の一部)をドライバの運転特徴量としてアトラクタ化し、算出された結果(運転特徴量がアトラクタされたもの)のゆらぎ解析処理を行って、当該運転特徴量に係るリアプノフ指数を算出する処理を行う機能を有している。
【0017】
また、周波数スペクトル分析部120は、非線形解析部110で算出されたリアプノフ指数を取得し、周波数スペクトル分析技術に基づいてリアプノフ指数の時系列データのパワースペクトル密度を求め、当該パワースペクトル密度から、低周波数帯域及び高周波数帯域のそれぞれのパワースペクトル密度の値を算出する機能を有している。
【0018】
また、ドライバ状態判定部130は、周波数スペクトル分析部120で算出された低周波数帯域及び高周波数帯域のそれぞれのパワースペクトル密度の値を用いて、ドライバの疲労度又は緊張度の判定を行う機能を有している。
【0019】
なお、
図1では、ドライバ状態判定装置100が、非線形解析部110、周波数スペクトル分析部120、ドライバ状態判定部130のすべての機能を包含している状態が図示されているが、非線形解析部110、周波数スペクトル分析部120、ドライバ状態判定部130の一部又はすべてが独立した装置(コンピュータ)によって実現されてもよい。例えば、ドライバ操作検出センサ191から出力されるセンシング情報(さらには、車両センサ192から出力される車両状態情報)がいったんメモリ上に書き込まれ、非線形解析部110が、当該メモリ上に書き込まれたセンシング情報(さらには、車両状態情報)を読み出して非線形解析処理を行ってもよい。また同様に、非線形解析部110から出力されるリアプノフ指数がいったんメモリ上に書き込まれ、周波数スペクトル分析部120が、当該メモリ上に書き込まれたリアプノフ指数を読み出して周波数スペクトル分析処理を行ってもよい。また同様に、周波数スペクトル分析部120から出力される低周波数帯域及び高周波数帯域のそれぞれのパワースペクトル密度の値がいったんメモリ上に書き込まれ、ドライバ状態判定部130が、当該メモリ上に書き込まれた低周波数帯域及び高周波数帯域のそれぞれのパワースペクトル密度の値を読み出してドライバ状態判定処理を行ってもよい。
【0020】
次に、
図1に示すドライバ状態判定装置100に基づいて、本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定装置100のデータ処理の一例について説明する。
図2は、本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定装置100のデータ処理の一例を示すフローチャートである。
【0021】
本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定装置100では、まず非線形解析部110が、ドライバ操作検出センサ191において検出及び出力されたセンシング情報(さらには、車両センサ192から出力された車両状態情報を考慮してもよい)に基づいて非線形解析処理を行い、リアプノフ指数を算出及び出力する(ステップS100)。次に、周波数スペクトル分析部120が、非線形解析部110から出力されたリアプノフ指数に基づいて周波数スペクトル分析処理を行い、低周波数帯域及び高周波数帯域のそれぞれのパワースペクトル密度の値を算出及び出力する(ステップS200)。そして、ドライバ状態判定部130が、周波数スペクトル分析部120から出力された低周波数帯域及び高周波数帯域のそれぞれのパワースペクトル密度の値に基づいてドライバ状態判定処理を行い、ドライバ状態判定結果を出力する(ステップS300)。
【0022】
以下、
図2に示す各ステップS100〜S300の処理の一例について説明する。
【0023】
図3及び
図4は、本発明の実施の形態における非線形解析処理(
図2に示すステップS100)の一例を示すフローチャートである。非線形解析部110で行われる非線形解析処理は、センシング情報をアトラクタ化する処理(
図3)と、当該アトラクタ化によって生成されたアトラクタを用いてリアプノフ指数を算出する処理(
図4)とに大別される。
【0024】
図3に示すように、非線形解析部110は、ドライバ操作検出センサ191において検出されたセンシング情報をミリ秒オーダ(ミリ秒単位)で取得し(ステップS101)、取得したセンシング情報の値をアトラクタ化する(ステップS102)。なお、センシング情報として、例えばアクセルペダルの踏み量を検出するセンサにおいて検出されたアクセルペダルの踏み量など、ドライバが通常の車両運転を行う際に発生する情報(運転操作情報)を利用することが可能である。また、前進/後進あるいは加速/制動などの車両状態に従って、生成したアトラクタを分類してもよい。以上の処理により、非線形解析部110は、センシング情報をドライバの運転特徴量として取り扱い、アトラクタ化することが可能となる。
【0025】
次に、
図4に示すように、非線形解析部110は、生成したアトラクタを取得し(ステップS103)、過去のアトラクタ行列に対する安定傾向を解析して現在のリアプノフ指数を算出し(ステップS104)、算出されたリアプノフ指数の遷移(時系列データ)をログとして蓄積(ロギング)する(ステップS105)。なお、
図4に図示されているリアプノフ指数の算出は任意の周期で行われてよく、例えば、0.5秒周期で行うことが可能である。また、車両状態に従ってアトラクタを分類している場合には、各分類ごとにリアプノフ指数を算出してもよい。
【0026】
なお、本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の具体的な計算については、例えば、
図5に図示されているように実行することが可能である。
図5は、本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の具体的な計算方法の一例を示す図である。なお、ゆらぎ解析処理の計算方法は、
図5に図示されているものに限定されるものではない。非線形解析の技術については様々な研究が行われており、現在及び今後確立される任意の解析技術を本発明に適用することが可能である(例えば、此処まで来た複雑系解析ツール、http://www.ieice.org/cs/csbn/program/papers/04_1_miao.pdfを参照)。
【0027】
次に、周波数スペクトル分析処理(
図2に示すステップS200)について説明する。
図6は、本発明の実施の形態における周波数スペクトル分析処理(
図2に示すステップS200)の一例を示すフローチャートである。周波数スペクトル分析部120は、非線形解析部110で算出されたリアプノフ指数の時系列データのパワースペクトル密度を求め、低周波数帯域の積分値LFと高周波数帯域の積分値HFとを算出する。
【0028】
図6において、周波数スペクトル分析部120は、まず非線形解析部110で算出されたリアプノフ指数の時系列データx(t)を取得する(ステップS201)。なお、リアプノフ指数のサンプリングレートは任意に設定可能であるが、例えば、2ヘルツ(0.5秒周期、以下、単位ヘルツをHzと表記する)で算出されるリアプノフ指数に関して、サンプリングレート=10秒(0.1Hz)の範囲内の値を取得する場合を一例として説明する。この場合、周波数スペクトル分析部120は、ステップS201において、リアプノフ指数の時系列データx(t)から時系列に並ぶ20個のリアプノフ指数を取得する。
【0029】
続いて、周波数スペクトル分析部120は、取得したリアプノフ指数の時系列データx(t)のパワースペクトル密度PSD(f)を算出する(ステップS202)。なお、パワースペクトル密度は、例えば
図6に数式の一例(例えば、周波数fの範囲を0Hz〜1Hzとする)として記載されているものであり、その算出方法に関しては従来の周波数スペクトル分析技術で行われる方法と同様の方法を用いればよい。その結果、例えば
図7(1)に示されているようなリアプノフ指数の時系列データが存在する場合、所定のサンプリングレート(例えば、10秒)の範囲内に位置するリアプノフ指数の振幅変動に関してパワースペクトル密度の計算を行うと、
図7(2)に示すように、パワースペクトル密度の周波数分布を得ることができる。
【0030】
そして、周波数スペクトル分析部120は、得られたパワースペクトル密度PSD(f)の低周波数帯域の積分値LFを算出し(ステップS203)、さらに、パワースペクトル密度PSD(f)の高周波数帯域の積分値HFを算出する(ステップS204)。なお、低周波数帯域は、高周波数帯域より低周波数側に存在するが、両方の帯域に重なりがあってもよい。本発明者らは、低周波数帯域及び高周波数帯域のそれぞれの範囲について様々な設定を試み、現時点では、低周波数帯域を0.04Hz〜0.15Hzとし、高周波数帯域を0.15Hz〜0.4Hzとした場合に有効な結果が得られることを見出している。ただし、本発明はこれらの値に限定されるものではない。
【0031】
また、周波数スペクトル分析部120は、サンプリングするパワースペクトル密度の時系列データx(t)を時系列に沿ってずらしながら、パワースペクトル密度PSD(f)の低周波数帯域の積分値LF、パワースペクトル密度PSD(f)の高周波数帯域の積分値HFを算出していくことで、所定のサンプリングレート(例えば、10秒)間隔の出力を行う。また、周波数スペクトル分析部120は、後述のドライバ状態判定処理で用いられる積分値LFと積分値HFとの比(LF/HF)を演算して出力してもよい。なお、本発明者らは、実際に被験者を用いて実験を行い、被験者(ドライバ)の交感神経の活躍状態が積分値LFと積分値HFとの比(LF/HF)と相関を有し、被験者(ドライバ)の副交感神経の活躍状態が積分値HFと相関を有することを見出した。つまり、積分値LFと積分値HFとの比(LF/HF)は被験者(ドライバ)の交感神経の活躍状態の指標として利用可能であり、積分値HFは被験者(ドライバ)の副交感神経の活躍状態の指標として利用可能である。
【0032】
次に、ドライバ状態判定処理(
図2に示すステップS300)について説明する。
図8は、本発明の実施の形態におけるドライバ状態判定処理(
図2に示すステップS300)の一例を示すフローチャートである。
図8において、ドライバ状態判定部130は、周波数スペクトル分析部120から所定のサンプリングレート(例えば、10秒間隔)で出力されるパワースペクトル密度PSD(f)の低周波数帯域の積分値LF(あるいは、積分値LFと積分値HFとの比)、及び、パワースペクトル密度PSD(f)の高周波数帯域の積分値HFを取得する(ステップS301)。
【0033】
続いて、ドライバ状態判定部130は、LF/HF及びHFのそれぞれの時系列データを正規化した後(ステップS302)、正規化されたLF/HF(以下、正規化LF/HFと記載)、正規化されたHF(以下、正規化HFと記載)のそれぞれの微分時系列データを求めるとともに、波形データのピークを得るために、平滑化微分法を用いてこれらの微分時系列データの平滑化を行う。(ステップS303)。
【0034】
そして、ドライバ状態判定部130は、ステップS303で算出された正規化HFの微分時系列データと正規化LF/HFの微分時系列データとの差(正規化HFの微分時系列データ−正規化LF/HFの微分時系列データ)を算出する(ステップS304)。本発明者らは、上記の正規化HFの微分時系列データと正規化LF/HFの微分時系列データとの差(正規化HFの微分時系列データ−正規化LF/HFの微分時系列データ)が大きい場合に、被験者(ドライバ)の疲労度又は緊張度が高いこと、すなわち、ドライバの疲労度又は緊張度の指標として「正規化HFの微分時系列データ−正規化LF/HFの微分時系列データ」が利用可能であることを見出した。ドライバ状態判定部130は、「正規化HFの微分時系列データ−正規化LF/HFの微分時系列データ」の値の大きさに基づいて疲労度又は緊張度を数値化したり、あるいは、あらかじめ定められた閾値(例えば、試行実験を行うことにより、一般的な閾値又は被験者(ドライバ)に特有の閾値を決定することが可能)を超えた場合に疲労度又は緊張度が高くなっていることを示す情報を出力したりすることによって、ドライバの疲労度又は緊張度を判定して出力することが可能である(ステップS305)。
【0035】
なお、従来技術として、例えば特許文献2に開示されているように、被験者の脈波の振幅変動に対して周波数スペクトル分析を行うことによって、被験者の交感神経及び副交感神経の活躍状態を判定する技術が存在しているが、本発明者らは、被験者の脈波の変動時系列データであるRRI(R-R Interval)に基づく値と、本発明の実施の形態におけるリアプノフ指数の振幅変動から得られる値との相関を確認するための実験を繰り返し行ってきた。その結果、
図9に示すように、RRIから得られる積分値LF/HF及び積分値HFと、本発明に係る積分値LF/HF及び積分値HFとの間に、顕著な相関があることを確認している。従来の技術ではRRIを得るためにドライバに対して脈波センサなどの特別な装置(車両を運転する際にドライバが装着することのない装置)の装着をドライバに強いることになるが、一方、本発明によれば、ドライバの通常の車両運転操作(アクセルペダル、ブレーキペダル、ハンドルの操作など)の操作量に係る情報に基づき、簡素な構成でドライバの疲労度又は緊張度を判定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ドライバの通常の車両運転操作(アクセルペダル、ブレーキペダル、ハンドルなどの操作)の操作量に係る情報に基づき、簡素な構成でドライバの疲労度又は緊張度などのドライバ状態を判定することができるという効果を有しており、ドライバの車両運転時の疲労度又は緊張度などのドライバ状態の判定を行う技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
100 ドライバ状態判定装置
110 非線形解析部
120 周波数スペクトル分析部
130 ドライバ状態判定部
191 ドライバ操作検出センサ
192 車両センサ