(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態である被膜付きガラス板について説明する。
【0014】
図1に示すとおり、本実施形態の被膜付きガラス板10は、ガラス板1と、その表面11上に形成された被膜2とを有している。被膜2は、有機酸とともに、有機酸の結晶化に伴う白濁を抑制するためのヘイズ抑制剤を含んでいる。ヘイズ抑制剤は水溶性重合体および/またはポリリン酸塩である。被膜2は、水溶性であり、水洗によって表面11上から除去することができる。
【0015】
有機酸は、やけ防止効果が認められるものであれば特に制限なく使用できる。好ましい有機酸としては、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸のように、2以上のカルボキシル基を有するカルボン酸が挙げられる。ヒドロキシ基を有するカルボン酸(ヒドロキシカルボン酸)も好ましい有機酸である。好ましい有機酸の具体例としては、アジピン酸、イタコン酸、酒石酸、りんご酸、マレイン酸、乳酸を挙げることができる。
【0016】
作業環境の維持その他の観点から、被膜2の形成に用いる溶液は水溶液であることが望ましい。また、ガラス板1の使用の際には、被膜2を水で容易に洗い流せることが望ましい。これらを考慮すると、被膜2を構成する各成分は水溶性であることが好ましい。
【0017】
ただし、被膜2の吸湿性が高すぎると、被膜2中に環境中の水分が過剰に吸収されてやけの潜在的要因となることがある。したがって、被膜2を構成する各成分の吸湿性は高すぎないことが望ましい。この観点から特に好ましい有機酸は、アジピン酸およびイタコン酸である。
【0018】
被膜2における有機酸の含有量は、ガラス板1の表面1m
2あたりに換算して、5mg〜400mgが好ましい。上記範囲の有機酸を配置することにより、やけを防止しながらヘイズ率の上昇を抑えることが容易となる。より好ましい塗布量は10mg/m
2以上であり、特に好ましい塗布量は、20mg/m
2以上であり、150mg/m
2以下である。
【0019】
水溶性重合体としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシドおよび水溶性ナイロンから選ばれる少なくとも1種を使用することができる。これらの中でも、ポリビニルピロリドンは、水への溶解度が高く有機酸の結晶化を抑える機能にも優れている。
【0020】
水溶性重合体は水溶性高分子であることが好ましい。本明細書で、高分子とは、通常の定義どおり、分子量1万以上の物質を指すこととする。水溶性高分子の好ましい分子量は、2万5千以上、さらには3万以上、特に5万以上、とりわけ6万以上である。水溶性高分子の分子量は、その上限が限定されるものではないが、例えば1000万以下、特に500万以下である。本明細書において、分子量は重量平均分子量を指すものとする。
【0021】
単一種類の単量体の重合体(いわゆるホモポリマー)は、被膜2中において分子の方向が揃いやすく、被膜2のヘイズ率を僅かではあるが上昇させる傾向がある。一般に、共重合体はホモポリマーよりも結晶性が低い。したがって、水溶性重合体は、水溶性共重合体であることが好ましく、分子量が上記程度、例えば2万5千以上、さらには3万以上、特に5万以上、とりわけ6万以上である水溶性共重合体であることがより好ましい。
【0022】
ポリビニルピロリドンは、優れたヘイズ抑制剤であるものの、結晶化することがあり、長期にわたってヘイズ率を十分に抑制できない場合がある。好ましい水溶性重合体は、ビニルピロリドンに由来する単位(下記式(1)参照;ビニルピロリドン単位)を含む水溶性共重合体である。この水溶性共重合体は、長期にわたってヘイズ率を抑制できる優れたヘイズ抑制剤である。
【0024】
水溶性共重合体が式(1)により示される単位とともに有する単位Aの例としては、ビニルエステル単位を挙げることができる。単位Aの別の好ましい例はビニルピロリドン単位以外の含窒素環単位である。すなわち、水溶性共重合体は、式(1)により示される単位とともに、ビニルエステル単位および式(2)により示される単位から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
【0026】
ここで、式(2)における含窒素環は、式(1)に示された含窒素環を除く五員環、六員環または七員環である。含窒素環は、好ましくは炭素原子、窒素原子および酸素原子から選ばれる環構成原子が結合して形成された環構造を含み、好ましくはその全体が炭素原子、窒素原子、酸素原子および水素原子から構成されている。
【0027】
式(2)における含窒素環は、重合体の主鎖と結合している窒素原子以外にヘテロ原子を含むことが好ましい。好ましい含窒素環は、例えば主鎖と結合している窒素原子以外に環構成原子として窒素原子および/または酸素原子を含んでおり、また例えばカルボニル基(−C(=O)−)を含んでいる。
【0028】
このような含窒素環に含まれる非共有電子対は、式(1)により示される単位のカルボニル基が有する非共有電子対と同様、有機酸から解離したプロトン(H
+)を引き寄せて、有機酸の結晶化を阻害すると考えられる。このような効果を得やすい含窒素環中の構造としては、アミド結合(R
1−C(=O)NR
2R
3)およびR
1−N=C−NR
2R
3により示される結合が挙げられる。ここで、R
1〜R
3はいずれも有機残基である。
【0029】
式(2)により示される単位としては、式(3)または式(4)により示される単位を例示できる。
【0032】
式(3)により示される単位はビニルイミダゾールに由来する単位(ビニルイミダゾール単位)であり、式(4)により示される単位はビニルε−カプロラクタムに由来する単位(ビニルε−カプロラクタム単位)である。これらの単位は、有機酸の結晶化の阻害に好ましい構造(上述)を含んでいる。
【0033】
ビニルエステル単位は、式(5)により示される単位であることが好ましい。
【化5】
【0034】
ここで、Rは、炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜3であって、直鎖の、あるいは分岐を有するアルキル基である。
【0035】
ビニルエステル単位に含まれる非共有電子対も、有機酸から解離したプロトンを引き寄せ、有機酸の結晶化阻害に寄与すると考えられる。
【0036】
水溶性共重合体には、式(1)により示される単位が全単位の20〜60モル%、特に30〜50モル%の範囲で含まれていることが好ましい。
【0037】
ポリリン酸塩は、複数のリン酸四面体(PO
4)単位の縮合体を含むオキソ酸の塩であり、好ましくはピロリン酸(二リン酸)塩、トリポリリン酸(三リン酸)塩またはテトラポリリン酸(四リン酸)塩である。ポリリン酸塩は、例えば、ポリリン酸とアルカリ金属原子との塩である。ポリリン酸の具体例としては、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウムを挙げることができる。
【0038】
ポリリン酸塩も、水溶性重合体と同様、有機酸から解離したプロトン等を引き寄せることにより、有機酸の結晶化を阻害すると考えられる。
【0039】
ポリリン酸塩は、水溶性重合体よりも高い水溶性を有し得る点に特徴がある。このため、ポリリン酸塩は凹凸を有する表面への適用に適している。被膜2を洗い流すべき場合において、凹凸を有する表面上の被膜2を構成する成分には、より高い水溶性が求められるためである。
【0040】
図2に示すように、ガラス板1の表面11上には、ガラス板1に所望の機能を付加するために薄膜3が形成される場合がある。薄膜3の表面31には、意図的にあるいは不可避的に微細な凹凸が現れることが多い。例えば、太陽電池の透明電極として形成される導電膜の表面には、入射光を散乱させて太陽電池の光電変換効率を向上させるために微細な凹凸が形成される。この凹凸は、例えば酸化錫膜の結晶粒を発達させることにより導入される。また、防眩等を目的として形成される光散乱膜の表面にも微細な凹凸が形成される。この凹凸は、例えば酸化珪素微粒子をガラス板の表面に配置することにより導入される。これら以外にも、紫外線遮蔽膜、赤外線遮蔽膜、着色膜、反射防止膜等として用いられる各種薄膜の表面にも、製造プロセスにおいて不可避的に、あるいは意図的に、凹凸が形成される場合がある。
【0041】
薄膜3は、被膜2とは異なり、ガラス板1の使用期間にわたって、導電性、光散乱性等の機能を発揮することが求められる。このため、薄膜3は、通常、無機物を主成分とする。主成分となる無機物は、例えば、酸化珪素、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛等の酸化物、窒化珪素等の窒化物、炭化珪素等の炭化物、硫化亜鉛等の硫化物、フッ化カルシウム等のフッ化物、銀、アルミニウム等の金属である。ただし、この場合にも、薄膜3は、紫外線吸収剤等として添加される有機物を副成分として含有することがある。
【0042】
これに対し、本実施形態において、被膜2は、有機酸、水溶性重合体その他の有機物を主成分とする。ここで、「無機物(有機物)を主成分とする」とは、質量基準で他の成分よりも含有率が高いこと、言い換えれば有機物(無機物)よりも含有率が高いこと、を意味する。また、本実施形態において、薄膜3と被膜2とは、薄膜3が非水溶性であるのに対し、被膜2が水溶性である点においても区別可能である。
【0043】
ガラス板1の表面11を薄膜3が覆っている形態では、基本的に、表面11においてやけが進行することはない。しかし、
図2に示した被膜付きガラス板20のように、薄膜3は一方の表面11のみに形成されることが多い。この場合は、露出している裏面12についてはやけを抑制する必要がある。裏面12に被膜2を直接形成することも可能ではあるが、ガラス板製造ラインにおける裏面12への膜形成は容易でない場合が多い。
【0044】
ガラス板は積層して保管されるのが通例であるから、ガラス板の裏面12は隣接するガラス板の表面11に形成された薄膜3に接することになる。したがって、薄膜3の表面31に形成された被膜2は、これに隣接するガラス板の裏面12に作用することとなり、裏面12におけるやけの進行を抑制する役割を果たす。
【0045】
なお、薄膜3上に塗布する場合、被膜2における有機酸の含有量は、ガラス板の表面上に直接形成する場合よりも少量であってよい。薄膜3上に形成された被膜2は、ガラスの表面1m
2あたりに換算して、5mg〜100mg、特に10mg/m
2〜70mg/m
2の範囲で有機酸を含有することが好ましい。
【0046】
薄膜3を形成していない被膜付きガラス板10の裏面12にもこれに隣接するガラス板の被膜2が接触し、やけの進行を抑制する。表面11が同一方向を向くように積層して保管されることを前提とすれば、被膜2は、ガラス板1の一方の面を覆うように形成されていれば足りる。本発明の好ましい一実施形態は、複数のガラス板1が互いの表面11,12の間に被膜2が介在するように積層されてなるガラス板積層体である。
【0047】
図1および
図2を参照して説明したように、本実施形態の被膜付きガラス板は、ガラス板1の表面11上に被膜2が直接形成されていてもよく、ガラス板1の表面11上に形成された無機物を主成分とする薄膜3をさらに有するとともに当該薄膜3の表面31に被膜2が形成されていてもよい。ガラス板1上に形成された薄膜3の凹凸表面31上に被膜2を形成するべき場合には、ヘイズ抑制剤としてポリリン酸塩を使用することが好ましい。他方、ガラス板1の表面11上に被膜2を直接形成するべき場合には、ヘイズ抑制剤として、水溶性重合体、特に水溶性共重合体を使用することが好ましい。ポリリン酸塩は、基本的に弱アルカリ性を示すためである。ポリリン酸塩を露出したガラス表面に塗布する場合には、酸性、好ましくはpHが4以下となるようにコーティングする溶液の成分を調整することが望ましい。
【0048】
被膜2において、水溶性重合体および/またはポリリン酸であるヘイズ抑制剤は、ガラスの表面1m
2あたりに換算して、20mg〜250mg、特に30mg〜200mgの範囲で含まれていることが好ましい。ガラスの表面に上記範囲のヘイズ抑制剤を配置することにより、ヘイズ率の上昇を抑えることが容易となる。特に好ましい塗布量は、35mg/m
2以上であり、150mg/m
2以下である。
【0049】
ヘイズ抑制剤の量は有機酸の量に応じて調整することが好ましい。具体的には、有機酸の官能基総数に対し、ヘイズ抑制剤の官能基総数が所定範囲となるように調整するとよい。有機酸の官能基総数は、酸基数(ジカルボン酸の場合は1モルあたり2)にモル数を掛け合わせて求めることができる。ヘイズ抑制剤の官能基総数は、水溶性重合体の場合はプロトンを引き寄せうる非共有電子対を有する原子の総数に基づいて、ポリリン酸の場合は塩が解離して生じるアニオンの価数に基づいて、それぞれ定めることができる。例えば、式(1)、(3)〜(5)により示される単位における官能基の数は1としてカウントする。また例えば、トリポリリン酸ナトリウム(Na
5P
3O
10)における官能基の数は1モルあたり5である。
【0050】
有機酸の官能基総数に対するヘイズ抑制剤の官能基総数の好ましい比(官能基比)は、例えば0.3〜3、さらには0.4〜2.5、特に0.5〜2.3、とりわけ0.8〜1.5である。この比が1未満であっても有機酸の結晶化抑制効果が得られるのは有機酸の解離度が低いためである。
【0051】
本実施形態の適用により、ガラス板製造ラインにおける有機酸の塗布に伴うガラスのヘイズ率の上昇が抑制されるばかりか、製造された被膜付きガラス板は、その保管期間中においてもヘイズ率の上昇が抑制されたものとなる。
【0052】
本実施形態における被膜付きガラス板のヘイズ率は、好ましくは8%未満である。被膜2がガラス板1の表面に直接形成されている場合、被膜付きガラス板10のヘイズ率は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下である。ただし、薄膜3が形成された形態においては、薄膜3の存在によって被膜付きガラス板20のヘイズ率が大きく(例えば8%以上にまで)上昇することがある。したがって、高いヘイズ率を有する薄膜3を有する形態を含めて考えるべき場合においては、ヘイズ率は、被膜2の有無による被膜付きガラス板10(20)のヘイズ率の差異によって記述することがより適切である。被膜付きガラス板10(20)のヘイズ率は、被膜2のみを除去した状態(被膜2を除く被膜付きガラス板10(20)の残部)のヘイズ率との差異が、8%未満、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下である。
【0053】
次に、
図3を参照しながら、本発明による製造方法の一形態を説明する。
【0054】
図3はフロート法によるガラス板製造ラインの模式図である。熔融炉51に投入されたガラス原料が熔融して生じた熔融ガラスは、フロートバス52内の熔融錫62上において板状のガラスリボン71へと成形される。ガラスリボン71は、フロートバス52から徐冷炉53へと引き出され、徐冷炉53内をローラー61により搬送されながら徐々に冷却される。徐冷炉53から搬出されたガラスリボン71は、光学式検出装置56を用いた欠陥検査を受けた後、切断装置57によりガラス板72へと分割される。分割された複数のガラス板72は、製造ラインをさらに下流側へと搬送され、図示を省略する採板装置により製造ラインから取り出されてパレットへと積み込まれる。パレットにおいて、ガラス板72は、その裏面(フロートバス52における錫接触面)が隣接するガラス板の表面(錫非接触面)に接するように順次積層され、その状態で保管される。
【0055】
なお、図示を省略するが、ガラス板製造ラインには、従来の装置と同様、その他の装置も配設されている。図示を省略する装置としては、ガラスリボン71の側端部を切り落とす装置、光学式検出装置56において検出された欠陥を含むガラス板を製造ラインから取り除く装置等が挙げられる。上記に示した各装置の詳細も、図示は省略するが、従来と同様とするとよい。例えば、ガラスリボンの切断装置57は、ガラスリボン71の表面上を横断しながらガラスに切断溝となる傷(スクライブライン)を形成するカッターとともに、その下流側においてローラーを用いてガラスリボン71を上方へ持ち上げることによって傷を入れた部位においてガラスリボン71をガラス板72へと分割する分割装置を備えている。
【0056】
本実施形態では、徐冷炉53の下流側において、塗布装置55を用いて、有機酸およびヘイズ抑制剤を含む溶液がガラスリボン71上に塗布され、ガラスリボン71上に被膜2が形成される。
【0057】
上記溶液は、表面温度が80℃以下、特に60℃以下のガラスに塗布することが好ましい。ガラスの表面温度が高すぎると、溶液に含まれる有機物が分解したり、溶液が急激に乾燥して被膜にムラが生じたりすることがある。また、ガラスが有する余熱を利用して溶液に含まれる溶媒を気化させて除くためには、表面温度が30℃以上、特に50℃以上のガラスに塗布することが好ましい。この温度域にあるガラス表面に溶液を塗布するべきことを考慮すると、溶液塗布装置55は、
図3に示したとおり、徐冷炉53から搬出されて光学式検出装置56に至るまでのガラスリボン71上に溶液を塗布できるように配置することが好ましい。
【0058】
本実施形態では、溶液に有機酸とともにヘイズ抑制剤として水溶性重合体および/またはポリリン酸塩を添加するため、有機酸の結晶化に伴うヘイズ率の上昇が抑制される。このため、光学式検出装置56を用いたガラスリボン71に内在する欠陥の自動検出に支障が生じることを防止できる。なお、光学式検出装置56により検出されるべき欠陥としては、気泡、異物、脈理等が挙げられる。
【0059】
溶液の塗布は、光学式検出装置56の下流側のガラスリボン71またはガラス板72に対して実施してもよい。光学式検出装置56の下流側において溶液を塗布すれば、有機酸の結晶化に伴うヘイズ率の上昇が欠陥の検出の支障となることはない。しかし、この場合であっても、ヘイズ率を大きく上昇させる被膜2は、ガラス板72の用途によってはその商品価値を大きく低下させる。したがって、被膜2のヘイズ率は低いことが望ましい。なお、ガラス板製造ラインでは下流側に進むに従ってガラスの表面温度が低下するため、表面温度が低い部位で塗布された溶液は、別途配置した乾燥機を用いて乾燥させる必要が生じることが多くなる。溶液塗布装置55は、スプレーコーティング、カーテンフローコーティング、ロールコーティング等により溶液を塗布する公知の装置を用いればよい。
【0060】
本実施形態のガラス板製造ラインには、フロートバス52の内部に化学蒸着法(CVD法)を実施するために複数のコータ63が配置されている。コータ63からは、ガラスリボン71の表面上に薄膜3を形成するための原料ガスが供給され、その高温の表面において原料ガスに含まれる成分が反応し、薄膜3が形成されていく。形成することができる薄膜3の種類は多岐にわたるが、代表的な薄膜3としては太陽電池の透明電極等として用いられる透明導電膜が挙げられる。透明導電膜としては、フッ素、アンチモン等の微量元素をドープして導電性を向上させた酸化錫膜を例示できる。ガラスリボン71と透明導電膜との間には、ガラスリボン71に含まれるアルカリ成分の溶出防止等のために下地膜が形成されることがある。すなわち、薄膜3は、単層膜に限らず、複数の層から構成されていてもよい。
【0061】
薄膜3が形成される場合、溶液塗布装置55からの溶液は、薄膜3の表面上に塗布される。この溶液に含まれる有機酸は、複数のガラス板72を積層したときに接することになるガラス板1の裏面12におけるやけを防止する。また、これに限らず、薄膜3の表面に付着しやすい汚れの除去を容易にする役割も果たす。
【0062】
溶液の溶媒は水とすることが好ましい。水溶液は、作業環境の維持、安全性の確保等の観点から有利である。溶液における有機酸の好ましい濃度は、例えば、溶媒100gに対して0.1〜5g、好ましくは0.25〜4g、より好ましくは0.5〜2.5g、場合によっては1〜2.5gである。また、溶液におけるヘイズ抑制剤の好ましい濃度は、例えば、溶媒100gに対して0.25〜5g、好ましくは0.5〜4g、より好ましくは1〜2.5gである。
【0063】
溶液には、有機酸、水溶性重合体以外の成分を添加してもよい。添加が好ましい成分としては界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を添加すると、ガラス表面に対する溶液のぬれ性が改善され、よりムラが少ない被膜を形成することができる。界面活性剤以外に添加してもよい成分としては、抗カビ剤、抗バクテリア剤を例示できる。なお、界面活性剤の好ましい添加量は、ガラスの表面1m
2あたりに換算して、1mg〜15mgの範囲であり、溶媒100gに対して0.01g〜0.2gである。界面活性剤は、通常、ヘイズ抑制剤よりも少量の添加で足りる。
【実施例】
【0064】
まず、以下の実施例および比較例で採用した試験方法を説明する。
【0065】
(ヘイズ率変化測定試験)
測定対象とするガラス板を、温度60℃、相対湿度80%に維持した高温高湿環境下に所定日数暴露した。高温高湿環境はエスペック社製の小型環境試験機「SH221」を使用して実現した。ガラス板は、ステンレス製のコンテナ容器に平置きして上記環境試験機内に保持した。このとき、被膜付きガラス板については、被膜を形成したガラス板の表面が上方を向き、裏面がコンテナ面を向くように保持した。所定日数経過後、ガラス板のヘイズ率を日本電色工業社製ヘイズメーター「NDH2000」を使用して測定した。なお、ヘイズ率は、被膜の形成直後についても測定し、これを初期値とした。また、各実施例および各比較例により得たガラス板は、100mm角の大きさを超えるものについてはこの大きさに切断してから、上記試験に供することとした。なお、上記の条件における試験において、裏面となるガラスのやけに伴うヘイズ率変化は無視できる程度であることが確認されている。
【0066】
(やけ評価試験)
測定対象とするガラス板を、温度60℃、相対湿度100%に維持した高温高湿環境下に20日間暴露した。高温高湿環境の実現には上記小型環境試験機を用いた。このとき、被膜付きガラス板については、被膜を形成したガラス板の表面が上方を向き、裏面がコンテナ面を向くように保持した。その後、被膜付きガラス板については被膜を水洗して除去し、ガラス板の表面を露出させ、ガラス板の表面におけるやけの状態を目視観察により評価した。
【0067】
(実施例1)
厚さ3mm、大きさ300mm角のフロート板ガラスを準備した。このガラス板のヘイズ率を測定したところ0%であった。他方、コーティング液として、水100gに対して、アジピン酸(シグマアルドリッチ製、特級)0.5g、ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体(BASF製「LuvitecVA64W」、重量平均分子量:6万5千)0.5g、ノニオン系界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ADEKA製「LA−775」)0.1gを溶解させた溶液を調製した。なお、上記ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体は、ビニルピロリドン単位(式(1)参照)とビニルアセテート単位(式(5)参照;R=メチル基)とをモル比6:4で含んでいる。
【0068】
次いで、スポンジローラを用いて、コーティング液をガラス板の一方の表面に塗布し、ブロワーを用いて溶媒である水を乾燥させ、ガラス板の表面上に被膜を形成した。コーティング液の塗布量は、アジピン酸および上記共重合体がガラス表面1m
2あたり50mgとなるように設定した。
【0069】
(実施例2)
コーティング液に添加するアジピン酸およびビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体を実施例1の2倍(各1.0g)としたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0070】
(実施例3)
ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体に代えて、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体(BASF製「LuvitecVPC55K65W」、重量平均分子量:90万)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。なお、上記ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体は、ビニルピロリドン単位(式(1)参照)とビニルカプロラクタム単位(式(4)参照)とをモル比1:1で含んでいる。
【0071】
(実施例4)
ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体に代えて、ビニルピロリドン/ビニルイミダゾール共重合体(BASF製「LuvitecVPI55K72W」、重量平均分子量:120万)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。なお、上記ビニルピロリドン/ビニルイミダゾール共重合体は、ビニルピロリドン単位(式(1)参照)とビニルイミダゾール単位(式(3)参照)とをモル比1:1で含んでいる。
【0072】
(実施例5)
コーティング液に添加するビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体を実施例1の2倍(1.0g)としたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0073】
(実施例6)
コーティング液に添加するビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体を実施例1の0.7倍(0.35g)としたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0074】
(実施例7)
ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体に代えて、ポリビニルピロリドン(BASF製「Luvitec K60」、分子量:45万)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0075】
(実施例8)
ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体に代えて、ポリビニルピロリドン(BASF製「Luvitec K90」、分子量:140万)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0076】
(実施例9)
ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体に代えて、ポリエチレンオキシド(Dowwolff製「Polyox WSR−N10」、分子量:10万)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0077】
(実施例10)
アジピン酸に代えてイタコン酸(シグマアルドリッチ製、特級)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0078】
(実施例11)
アジピン酸に代えてイタコン酸(シグマアルドリッチ製、特級)を用いたことを除いては、実施例2と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0079】
(実施例12)
アジピン酸に代えて酒石酸(シグマアルドリッチ製、特級)を用いたことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0080】
(比較例1)
ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体を添加せずにコーティング液を調製したことを除いては、実施例1と同様にして、ガラス板の表面上に被膜を形成した。
【0081】
(実施例13)
厚さ3mm、大きさ100mm角で酸化錫膜が一方の表面上に形成されたフロート板ガラスを準備した。このガラス板のヘイズ率を測定したところ8%であった。他方、コーティング液として、水100gに対して、アジピン酸(シグマアルドリッチ製、特級)0.5g、トリポリリン酸ナトリウム(シグマアルドリッチ製、「technical grade、85%」)0.5g、ノニオン系界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ADEKA製「LA−775」)0.1gを溶解させた溶液を調製した。
【0082】
次いで、スポンジローラを用いて、コーティング液を酸化錫膜の表面に塗布し、ブロワーを用いて溶媒である水を乾燥させ、ガラス板の表面上に被膜を形成した。コーティング液の塗布量は、アジピン酸および上記共重合体がガラス表面1m
2あたり30mgとなるように設定した。
【0083】
(実施例14)
コーティング液に添加するトリポリリン酸ナトリウムを実施例13の2/3倍(0.33g)としたことを除いては、実施例13と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0084】
(実施例15)
コーティング液に添加するアジピン酸を実施例13の5/3倍(0.83g)としたことを除いては、実施例13と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0085】
(実施例16)
アジピン酸に代えてイタコン酸(シグマアルドリッチ製、特級)を用いたことを除いては、実施例13と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0086】
(実施例17)
アジピン酸に代えて酒石酸(シグマアルドリッチ製、特級)を用いたことを除いては、実施例13と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0087】
(実施例18)
トリポリリン酸ナトリウムに代えて実施例1で用いたビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体を用いたことを除いては、実施例13と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0088】
(実施例19)
ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体に代えてポリビニルピロリドン(シグマアルドリッチ製「K−90 CPグレード」、分子量:120万)を用いたことを除いては、実施例18と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0089】
(比較例2)
トリポリリン酸ナトリウムを添加せずにコーティング液を調製したことを除いては、実施例13と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0090】
(比較例3)
コーティング液に添加するアジピン酸の量を比較例2の5/3倍(0.83g)としたことを除いては、比較例2と同様にして、酸化錫膜の表面上に被膜を形成した。
【0091】
各実施例および各比較例の測定結果を、塗布した有機物の種類および量とともに表1および表2に示す。表1および表2には、膜を有さず表面および裏面が露出したガラス板(ブランク1)および酸化錫膜のみを形成したガラス板(ブランク2)について実施した試験結果も併せて示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】