(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施形態)
X線CT装置は、X線管から被検体にX線を照射し、被検体を透過したX線を検出器により検出することで、被検体内における組織形態情報を示すX線CT画像の再構成を行う装置である。
図1を用いて、第1の実施形態に係るX線CT装置の構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るX線CT装置1の構成の一例を示す図である。
図1に例示するように、第1の実施形態に係るX線CT装置1は、架台装置10と、寝台装置20と、コンソール装置30とを有する。
【0009】
架台装置10は、被検体PにX線を照射し、被検体Pを透過したX線を検出してコンソール装置30に出力する。かかる架台装置10は、X線高電圧装置11と、X線管12と、X線検出器13と、データ収集部14と、回転フレーム15と、架台駆動部16と、架台寝台制御部17とを有する。
【0010】
X線高電圧装置11は、架台寝台制御部17による制御に従って、X線管12に対して高電圧を供給する。X線管12は、X線高電圧装置11から供給される高電圧によってX線を発生する真空管であり、回転フレーム15の回転に伴って、被検体Pに対してX線を照射する。すなわち、X線高電圧装置11は、X線管12に供給する管電圧や管電流を調整することで、被検体Pに対して照射されるX線量を調整する。
【0011】
ここで、本実施形態に係るX線高電圧装置11及びX線管12とは、
図1に示すように、X線発生装置100として機能する。そして、本実施形態に係るX線発生装置100は、架台の回転(回転フレーム15の回転)に同期して、X線管12に出力する電圧の電圧値を変化させる。すなわち、X線発生装置100は、デュアルエナジー(Dual Energy)型のX線CT装置1に適用されるX線発生装置である。なお、X線発生装置100の詳細については、後述する。
【0012】
X線検出器13は、被検体Pを透過したX線を検出する2次元アレイ型検出器(面検出器)であり、複数チャンネル分のX線検出素子を配してなる検出素子列が被検体Pの体軸方向(
図1に示すZ軸方向)に沿って複数列配列されている。具体的には、第1の実施形態におけるX線検出器13は、被検体Pの体軸方向に沿って320列など多列に配列されたX線検出素子を有し、例えば、被検体Pの肺や心臓を含む範囲など、広範囲に被検体Pを透過したX線を検出することが可能である。
【0013】
データ収集部14は、X線検出器13によって検出されたX線を用いて投影データを生成し、生成した投影データをコンソール装置30の画像処理部34に送信する。回転フレーム15は、被検体Pを中心にして、高速でかつ連続的に回転する円環状のフレームであり、X線管12及びX線検出器13が対向して配置される。
【0014】
架台駆動部16は、架台寝台制御部17による制御に従って、架台を駆動する。具体的には、架台駆動部16は、モータの駆動によって回転フレーム15を高速に連続回転させ、被検体Pを中心とした円軌道上でX線管12及びX線検出器13を連続回転させる。架台寝台制御部17は、後述するスキャン制御部36による制御に従って、X線高電圧装置11、架台駆動部16及び寝台駆動部21を制御する。
【0015】
寝台装置20は、撮影対象の被検体Pを載置する台であり、寝台駆動部21と、天板22とを有する。寝台駆動部21は、架台寝台制御部17による制御に従って、モータの駆動によって、天板22を被検体Pの体軸方向に連続して往復移動する。天板22は、被検体Pを載置する板である。
【0016】
コンソール装置30は、操作者によるX線CT装置1の操作を受け付けるとともに、架台装置10によって収集された投影データからX線CT画像を再構成する。具体的には、コンソール装置30は、入力部31と、表示部32と、システム制御部33と、画像処理部34と、画像データ記憶部35と、スキャン制御部36とを有する。
【0017】
入力部31は、X線CT装置1の操作者が各種指示や各種設定の入力に用いるマウスやキーボードなどを有し、操作者から受け付けた指示や設定の情報を、システム制御部33に転送する。例えば、入力部31は、操作者から腫瘍の浸潤度を算出する旨の操作や、X線CT画像を再構成する際の再構成条件の入力操作等を受け付ける。表示部32は、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイであり、各種情報を表示する。例えば、表示部32は、画像データ記憶部35によって記憶されているX線CT画像や、操作者から各種指示を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)などを表示する。
【0018】
システム制御部33は、架台装置10、寝台装置20及びコンソール装置30を制御することによって、X線CT装置1全体の制御を行う。例えば、システム制御部33は、スキャン制御部36を制御して3次元投影データを収集させる。また、例えば、システム制御部33は、画像処理部34を制御して3次元投影データからX線CT画像を再構成させる。
【0019】
画像処理部34は、データ収集部14から受信した3次元投影データに対して各種処理を行う。具体的には、画像処理部34は、データ収集部14から受信した3次元投影データに対して感度補正などの前処理を行い、前処理後の3次元投影データを逆投影処理することで、3次元X線CT画像(以下、「ボリュームデータ」と表記する場合がある)を再構成する。そして、画像処理部34は、再構成後のボリュームデータを画像データ記憶部35に格納する。また、画像処理部34は、例えば、SVR(Shaded Volume Rendering)法等により立体感のあるX線CT画像を生成したり、任意面の断面画像を生成したりして、生成したX線CT画像を画像データ記憶部35に格納する。
【0020】
画像データ記憶部35は、画像処理部34によって再構成されたボリュームデータやX線CT画像等を記憶する。スキャン制御部36は、システム制御部33から指示されたスキャン条件に基づき架台寝台制御部17を制御する。
【0021】
以上、第1の実施形態に係るX線CT装置1の構成の一例について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係るX線CT装置1は、後述するX線高電圧装置11により、X線管12の特性が変化しても、安定な管電圧波形を得ることができるように構成される。本実施形態に係るX線発生装置100においては、回転フレーム15の回転中心を挟んでX線検出器13と対向配置されたX線管12に供給される電圧(以下、管電圧と記載)を高速で変化させる高速KVスイッチングCT用X線高電圧装置が適用される。具体的には、X線発生装置100に適用される高速KVスイッチングCT用X線高電圧装置は、高圧発生器に交流電力を供給するインバータを間欠動作させて、三角波状の管電圧を発生させる装置である。
【0022】
ここで、従来のX線高電圧装置において、X線管の特性の変化に伴って、管電圧波形が変化してしまう場合について説明する。
図2Aは、従来技術に係るX線高電圧装置の構成の一例を示す図である。
図2Aに示すように、従来技術に係るX線高電圧装置は、インバータと、高電圧発生器と、フィラメント加熱回路と、フィラメントトランスとを備え、図示しないインバータ制御回路によってインバータが間欠動作して、三角波状の管電圧を発生させる。
【0023】
すなわち、
図2Aに示すX線高電圧装置では、インバータ制御回路がインバータに対して交流電圧を発生させるタイミング信号を送信する。インバータはインバータ制御回路から受信したタイミング信号に応じて、高電圧発生器の高圧トランスに対して交流電圧を供給する。高電圧発生器は、高圧トランスにて電圧を昇圧し、整流器及びコンデンサにて整流及び平滑して、X線管に直流高電圧を供給する。
【0024】
ここで、X線管のフィラメントは、フィラメントトランスを介したフィラメント加熱回路からの出力により、フィラメント電流(If)が流され、熱電子を放出する温度に加熱された状態となっている。かかる状態で直流高電圧が印加されることにより、X線管は、X線を放射する。このようなX線高電圧装置において、高速KVスイッチング動作は、インバータに対してインバータ制御回路から送信されるタイミング信号によって制御される。
【0025】
図2Bは、高速KVスイッチング動作の一例を説明するための図である。
図2Bにおける上側の図は、縦軸を管電圧(kV)、横軸を時間(t)とした管電圧の時間変化グラフを示す。また、
図2Bにおける下側の図は、上側の時間変化グラフで管電圧を発生させるためのインバータの動作サイクルを示す。
図2Bに示すように、三角波状の管電圧を発生させる高速KVスイッチング動作においては、インバータの動作時に管電圧が上昇し、インバータの停止時に管電圧が下降する。例えば、高速KVスイッチング動作においては、
図2Bに示すように、管電圧kV1と管電圧kV2との高速で切替える際に、三角波状の管電圧を発生させる。このとき、管電圧がkV1までの下降時間、すなわち、インバータの停止期間は予め調整される。
【0026】
このような管電圧の三角波状の波形は、X線管に流れるフィラメント電流(If)によって変化する。従って、フィラメント電流を一定に保つことで、管電圧の三角波状の波形が一定に保たれる。ここで、三角波上の波形において管電圧が下降する際の傾きは、X線高電圧装置の静電容量と、X線管のエミッション特性によって決定される。X線高電圧装置の静電容量は、以下の式に示すように、X線高電圧装置の出力コンデンサ容量「C
0」と、高圧ケーブル及びX線管内の浮遊容量「C
x」との和である。
【0027】
1/(1/C
1+1/C
2)+C
x=C
0+C
x
【0028】
また、X線管のエミッション特性は、管電流「Ip」とフィラメント電流「If」との対応を示すものである。ここで、X線管のエミッション特性は、X線管の経年変化によって変化する。
図3は、X線管の経年によるエミッション特性の変化を説明するための図である。
図3の(A)においては、X線管の使い始めにおけるエミッション特性の変化を示す。また、
図3の(B)においては、X線管を長期間使用した場合のエミッション特性の変化を示す。また、
図3の(A)及び
図3の(B)においては、縦軸に管電流「Ip」を示し、横軸にフィラメント電流「If」を示す。
【0029】
例えば、X線管の使い始めの場合には、X線管のフィラメントからの電子放出能が低いため、
図3の(A)に示すように、X線管のそもそものエミッション特性を示す初期特性と比較して、エミッション特性が右側にシフトする。その結果、フィラメント電流が一定に保たれている場合、管電流は低減する。
【0030】
一方、X線管を長期間使用した場合には、X線管のフィラメントがやせてしまうため、
図3の(B)に示すように、初期特性と比較して、エミッション特性が左側にシフトする。その結果、フィラメント電流が一定に保たれている場合、管電流は増加する。
【0031】
このように、X線管は、使用された使用歴によって管電流が変化するため、高速KVスイッチング動作における三角波状の波形が変化する。
図4は、管電流の変化に伴う高速KVスイッチング動作における三角波状の波形の変化を説明するための図である。
図4の(A)においては、管電流が低減した場合、すなわち、X線管の使い始めにおける波形の変化を示す。また、
図4の(B)においては、管電流が増加した場合、すなわち、X線管が長期間使用時における波形の変化を示す。また、
図4の(A)及び
図4(B)においては、縦軸に管電圧「kV」を示し、横軸に時間「t」を示す。
【0032】
例えば、X線管の使い始めに管電流が低減した場合には、
図4の(A)に示すように、管電圧の波形における下降時に管電圧がkV2からkV1まで下がりきらずに上昇に転じ、上端でkV2を越えてしまう。すなわち、管電流が低減した場合には、高速KVスイッチング動作における三角波状の波形は、上側にシフトすることとなる。
【0033】
一方、X線管を長期間使用して管電流が増加した場合には、
図4の(B)に示すように、管電圧がkV1よりも下に下がって上昇に転じ、上端でkV2まで達しない。すなわち、管電流が増加した場合には、高速KVスイッチング動作における三角波状の波形は、下側にシフトすることとなる。
【0034】
このように、従来のX線高電圧装置においては、X線管の特性の変化に伴って、管電圧波形が変化してしまう場合がある。そこで、本実施形態に係るX線高電圧装置11は、X線管の特性が変化しても、安定な管電圧波形を得ることができるように構成される。
図5は、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11の構成の一例を示す図である。
【0035】
図5に示すように、X線高電圧装置11は、インバータ制御回路110と、インバータ120と、高電圧発生器130と、フィラメント加熱回路140と、フィラメントトランス150と、実効値・直流変換回路(RMS/DC)160と、誤差増幅器170と、増幅器(Amp)180と、サンプルアンドホールド回路(S&H)190と、基準信号設定器200と、補正用誤差増幅器210とを備え、X線管12に高電圧を供給する。
【0036】
インバータ制御回路110は、架台寝台制御部17から投影データ収集タイミング信号(View Timing)と、X線照射信号(X−RAY)とを受付けて、インバータの動作タイミングを制御するタイミング信号をインバータ120に送信する。具体的には、インバータ制御回路110は、架台の回転と同期して投影データを収集する基準となる投影データ収集タイミングとX線を照射する基準となるX線照射信号とに基づいて、インバータの動作の開始/停止を制御するインバータ制御タイミング信号をインバータに送信する。例えば、インバータ制御回路110は、投影データ収集タイミング信号の1/2の周波数でインバータ制御タイミング信号を送信する。
【0037】
ここで、インバータ制御回路110は、インバータの動作の停止は、インバータ制御タイミング信号の送信を停止することで制御するが、これは管電圧のスイッチング周波数及びスイッチング時の管電流に依存する管電圧の上昇時間に基づいて実行される。すなわち、インバータ制御回路110は、予め設定された時間に応じて、インバータ制御タイミング信号の送信を停止する。例えば、インバータ制御回路110は、
図2Bに示すように、インバータの動作6サイクル分の時間でインバータ制御タイミング信号の送信を停止する。
【0038】
インバータ120は、インバータ制御回路110の制御のもと、高電圧発生器130に交流電圧を供給する。例えば、インバータ120は、投影データ収集タイミング信号の1/2の周波数で交流電圧の供給を開始して、予め設定された時間に応じて供給を停止する。
【0039】
高電圧発生器130は、
図5に示すように、高圧トランスと、高圧整流器と、高圧コンデンサと、出力電圧検出分圧抵抗器とを有し、X線管12に直流高電圧を供給する。高圧トランスは、インバータ120から供給される交流電圧を昇圧する。具体的には、高圧トランスは、交流電圧の入力側の一次コイルと、高圧整流器への出力側の二次コイルとが、コア(鉄心)に巻きつけられており、一次コイルに交流電圧が印加されることで、変動磁場が発生し、二次コイルに電圧が発生する。ここで、変圧比は、二次コイルと一次コイルの巻数に比例することから、例えば、二次コイルの巻数を一次コイルの巻数の2倍にすることで、交流電圧を2倍に昇圧させることができる。
【0040】
高圧整流器は、高圧トランスによって昇圧された交流電圧を直流電圧に変換する。高圧コンデンサは、高圧整流器によって変換された直流電圧を平滑化する。出力電圧検出分圧抵抗器は、X線管12に供給される直流高電圧を検出する。すなわち、出力電圧検出分圧抵抗器は、インバータ制御回路110の制御によって電圧値が変化された電圧を検出する。
【0041】
フィラメント加熱回路140は、X線管のフィラメントを加熱するためのフィラメント電流を出力する。フィラメントトランス150は、フィラメント加熱回路140によって出力されたフィラメント電流によって励磁され、X線管12のフィラメントから熱電子を放出させる。
【0042】
実効値・直流変換回路(RMS/DC)160は、CT(Current Transformer)などで検出したフィラメント過熱回路140からの出力電流を直流電圧に変換する。
【0043】
誤差増幅器170は、架台寝台制御部17によって出力制御されたフィラメント電流設定電圧と、実効値・直流変換回路(RMS/DC)160の出力とを受付けて、フィラメント加熱回路140を駆動させる。具体的には、誤差増幅器170は、フィラメント電流設定電圧が上昇するとフィラメント加熱回路140からの出力電流を上昇させ、RMS/DC160の出力が上昇するとフィラメント加熱回路140からの出力電流を下降させるように動作する。すなわち、フィラメント電流設定電圧が一定である場合に、誤差増幅回路170は、RMS/DC160の出力を受付けて、フィラメント加熱回路140から出力されるフィラメント電流を一定に保つためのフィードバック制御にかかる動作をする。
【0044】
ここで、本実施形態に係るX線高電圧装置11においては、
図5に示すように、誤差増幅器170が後述する補正用誤差増幅器210の出力を受付けることにより、フィラメント加熱回路140から出力されるフィラメント電流を変化させる。なお、補正用誤差増幅器210の出力については、後述する。
【0045】
増幅器(Amp)180は、高電圧発生器130の出力電圧検出分圧抵抗器によって検出された高電圧発生器130の出力電圧を増幅して、サンプルアンドホールド回路(S&H)190に出力する。具体的には、Amp180は、スイッチング動作中の管電圧の三角波状の波形をS&H190に出力する。
【0046】
サンプルアンドホールド回路(S&H)190は、高電圧発生器130の出力電圧検出分圧抵抗器によって検出された電圧の電圧値を取得する。具体的には、S&H190は、出力電圧検出分圧抵抗器によって検出される電圧において、インバータ制御回路110によって電圧の電圧値が変化されるタイミングに同期して電圧の電圧値を取得する。例えば、S&H190は、インバータ制御回路110によって電圧の電圧値が下降から上昇に転じるタイミングに同期して電圧の電圧値を取得する。以下、下降から上昇に転じるタイミングの電圧値を谷電圧と記す場合がある。
【0047】
一例を挙げると、S&H190は、インバータ制御回路110から出力されるインバータ制御タイミング信号に基づいて、Amp180から出力されるスイッチング動作中の管電圧の三角波状の波形において下降から上昇に転じるタイミングの電圧値を取得する。
図6は、第1の実施形態に係るS&H190によるサンプリング処理の一例を説明するための図である。
図6においては、縦軸に管電圧(kV)を示し、横軸に時間(t)を示す。そして、
図6においては、管電圧が80kVと135kVとの間で三角波状の波形で推移する場合について示す。
【0048】
例えば、S&H190は、インバータ制御回路110からインバータ制御タイミング信号が出力されたタイミング、すなわち、インバータ120の動作開始のタイミングで管電圧の電圧値をサンプリングすることで、
図6に示すように、電圧値が下降から上昇に転じるタイミングに同期して電圧値を取得する。すなわち、管電圧に変化がなければ、S&H190は、80kVに相当する信号を取得することとなる。
【0049】
図5に戻って、基準信号設定器200は、電圧の電圧値の基準となる基準値を発生する。具体的には、基準信号設定器200は、S&H190によって取得される電圧値のずれを算出するための基準信号を出力する。例えば、管電圧が80kVと135kVとの間で三角波状の波形で推移する場合に、基準信号設定器200は、−80kVに相当する信号を発生する。すなわち、S&H190によって取得されるプラスの電圧値との合算により、S&H190によって取得される電圧値が80kVからずれた分の電圧値の情報を補正用誤差増幅器210に出力することができる。
【0050】
例えば、管電流が低減して、管電圧が80kVまで下がりきらない場合には、プラスの電圧信号が補正用誤差増幅器210に入力され、管電流が増加して、管電圧が80kVよりも下に下がった場合には、マイナスの電圧信号が補正用誤差増幅器210に入力される。
【0051】
補正用誤差増幅器210は、S&H190によって検出された電圧の電圧値に応じて、X線管12におけるフィラメント電流制御を補正する。具体的には、補正用誤差増幅器210は、フィラメント電流を制御するための誤差増幅器170に対して、谷電圧が設定よりも高い場合にフィラメント電流を上げるように補正し、谷電圧が設定よりも低い場合にフィラメント電流を下げるように補正する。
【0052】
本実施形態に係るX線高電圧装置11は、上述した構成によりX線管の特性が変化しても、安定な管電圧波形を得ることができる。ここで、X線高電圧装置11における動作タイミングを説明する。
図7は、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11における動作タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
図7においては、横方向を時間軸として、投影データ収集タイミング信号と、インバータ制御タイミング信号と、インバータの動作と、KVスイッチング動作中の管電圧波形と、サンプルアンドホールド回路190の動作を示す。
【0053】
例えば、X線高電圧装置11は、
図7に示すように、投影データ収集タイミング信号の1/2の周波数でインバータ制御タイミング信号を出力してインバータ120を動作させる。このとき、インバータ制御タイミング信号は、管電圧の上昇時間に基づいて予め設定された期間出力される。
【0054】
インバータの動作は、インバータ制御タイミング信号の立ち上がり時から開始され、インバータ制御タイミング信号の停止に伴って、停止される。ここで、管電圧の波形は、インバータが動作している間上昇し、インバータが停止すると下降に転じる。すなわち、管電圧の波形は、インバータの動作の開始と停止に応じて上昇と下降を繰り返すことで、三角波状の波形となる。そして、S&H190は、インバータ制御タイミング信号の立ち上がり時、すなわち、インバータ動作の開始時に、管電圧の電圧値をサンプリングする。
【0055】
そして、X線高電圧装置11は、
図5に示す構成を備え、
図7に示すように、管電圧の電圧値をサンプリングすることで、X線管の特性が変化しても、安定な管電圧波形を得ることができる。以下、
図8A及び
図8Bを用いて、X線高電圧装置11による管電圧波形の安定化について説明する。
図8A及び
図8Bは、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11による管電圧波形の安定化を説明するための図である。
図8Aにおいては、X線管12の使い始めの時点での管電圧波形の安定化を示す。また、
図8Bにおいては、X線管12を長期間使用した時点での管電圧波形の安定化を示す。
【0056】
ここで、
図8A及び
図8Bにおいては、動作を分かりやすくするために、フィラメント電流の補正がない場合にKVスイッチング動作中の管電圧波形が所定の管電圧波形からずれている状態から、補正動作によって所定の管電圧波形に移行する様子を示す。
【0057】
例えば、
図8Aに示すように、X線管12の使い始めに熱電子の放出が減少する方向にX線管12のエミッション特性が変化した場合、管電流が所定の値よりも下がるため、インバータ120の停止中に管電圧が下降しにくくなり、谷電圧が上側にシフトする。かかる場合、S&H190の出力電圧が上がり、補正用誤差増幅器210の出力電圧が下がる。その結果、
図8Aに示すように、フィラメント電流を制御するための誤差増幅器170の出力電圧が上がり、フィラメント電流は増加する。これにより、インバータ120の停止中における管電圧の下降が速まり、谷電圧が徐々に下がりKVスイッチング波形は所定の管電圧の間で変化するように制御される。
【0058】
また、例えば、
図8Bに示すように、X線管12を長期間使用して熱電子の放出が増加する方向にエミッション特性が変化した場合、管電流が所定の値よりも上がるため、インバータ120の停止中に管電圧が下降しやすくなり、谷電圧が下側にシフトする。かかる場合、S&H190の出力電圧が下がり、補正用誤差増幅器210の出力電圧が上がる。その結果、
図8Bに示すように、フィラメント電流を制御するための誤差増幅器170の出力電圧が下がり、フィラメント電流は減少する。これにより、インバータ120の停止中における管電圧の下降が緩やかになり、谷電圧が徐々に上がりKVスイッチング波形は所定の管電圧の間で変化するように制御される。
【0059】
なお、
図8A及び
図8Bにおいては、管電圧波形からずれている状態から、補正動作によって所定の管電圧波形に移行する様子を示しているが、実際には、X線管12のエミッション特性の変化はゆっくりと生じるため、管電圧波形は図示するほどずれることなく、その前に補正されることとなる。また、
図5に示すように、コンデンサと抵抗器を用いることによって、補正用誤差増幅器210の応答を遅く設定することによって、RMS/DC160によるフィードバック制御と安定的に共存させることができる。
【0060】
上述したように、第1の実施形態によれば、インバータ制御回路110は、X線管12に出力される電圧の電圧値を、架台の回転と同期して変化させる。高電圧発生器130の出力電圧検出分圧抵抗器は、インバータ制御回路110によって電圧値が変化された電圧を検出する。S&H190は、出力電圧検出分圧抵抗器によって検出された電圧の電圧値を取得する。補正用誤差増幅器210は、S&H190によって取得された電圧の電圧値に応じて、X線管12におけるフィラメント電流制御を補正する。従って、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11は、X線管12の特性が経時変化しても、安定な管電圧波形を得ることを可能にする。
【0061】
また、第1の実施形態によれば、S&H190は、出力電圧検出分圧抵抗器によって検出される電圧において、インバータ制御回路110によって電圧の電圧値が変化されるタイミングに同期して電圧の電圧値を取得する。従って、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11は、管電圧波形における同一箇所で正確に管電圧の電圧値を取得することを可能にする。
【0062】
また、第1の実施形態によれば、S&H190は、出力電圧検出分圧抵抗器によって電圧の電圧値が下降から上昇に転じるタイミングに同期して電圧の電圧値を取得する。従って、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11は、管電圧の変化を容易に検出することを可能にする。
【0063】
また、第1の実施形態によれば、基準信号設定器200は、電圧の電圧値の基準となる基準値を発生する。補正用誤差増幅器210は、S&H190よって取得された電圧の電圧値と、基準信号設定器200によって発生された基準値との差分を算出し、基準値に対して電圧の電圧値が高い場合にフィラメント電流を大きくし、基準値に対して電圧の電圧値が低い場合にフィラメント電流を小さくする。従って、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11は、管電圧波形の変化をより正確に補正することを可能にする。
【0064】
(第2の実施形態)
さて、これまで第1の実施形態について説明したが、上述した第1の実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0065】
上述した第1の実施形態では、谷電圧をサンプリングして、フィラメント電流を補正する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、管電圧が上昇から下降に転じる時点の電圧をサンプリングして、フィラメント電流を補正する場合であってもよい。
【0066】
かかる場合には、S&H190は、インバータ制御タイミング信号の出力が停止された時点の電圧をサンプリングする。また、基準信号設定器200は、高い電圧として設定された電圧値を基準信号として出力する。
【0067】
また、例えば、管電圧の上昇時の電圧をサンプリングして、フィラメント電流を補正する場合であってもよい。かかる場合には、例えば、S&H190は、インバータ制御タイミング信号が出力されるサイクル数に基づいて、電圧値をサンプリングする。一例を挙げると、S&H190は、
図2Bに示すインバータ動作のサイクル数において、4サイクル目の立ち上がり時点で電圧値をサンプリングする。基準信号設定器200は、4サイクル目の立ち上がり時点で達する電圧値を基準信号として出力する。
【0068】
以上説明したとおり、第1及び第2の実施形態によれば、X線管の特性が変化しても、安定な管電圧波形を得ることができる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。