特許第6173722号(P6173722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173722
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20170724BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   C08L23/08
   C08L1/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-43291(P2013-43291)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-169424(P2014-169424A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 僚治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一石
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−014741(JP,A)
【文献】 特開2012−180491(JP,A)
【文献】 特開2008−248053(JP,A)
【文献】 特許第5150792(JP,B2)
【文献】 特開2014−040535(JP,A)
【文献】 特開2014−015512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16,15/08−15/14
C08J 3/00−3/28,5/04−5/10,5/24
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン由来の重合単位と、ビニルエステル、及び、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルから選ばれる不飽和カルボン酸の誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合化合物由来の重合単位とを含有し、該共重合化合物由来の重合単位の含有割合が5〜50質量%であるエチレン系共重合体と、
平均繊維径が500nm以下であるセルロース系繊維(但し、カチオン性セルロースナノファイバーのカチオン基をアニオン性添加剤で中和したものを除く)と、を含み、
該セルロース系繊維は、前記エチレン系共重合体100質量部に対して、0.5〜10
質量部含まれ、
かつASTM D1693に記載の方法で得られる、亀裂が発生する確率が50%となる時間が41〜216時間である、
成形体。
【請求項2】
前記エチレン系共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含む、請求項1に記載の
成形体。
【請求項3】
パイプ、ボトル、ボトルキャップ、又は人工芝である請求項1又は2に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン系共重合体を含む成形体は、その適度な柔軟性と、優れた機械的特性及び成形性により、各種容器、包装材料に広く使用されている。中でも、パイプ、ボトル、ボトルキャップ、人工芝等の用途においては、種々の液体が接触した状態で内圧等の応力に長時間晒される。そのため、一定の応力がかかる状態で薬品中に放置したときにクラックや破壊が起きないこと(以下、「耐ストレスクラック性」ともいう。)が求められる。
【0003】
耐ストレスクラック性を高めるには、エチレン系共重合体の分子量を高めることが有効であることが分かっているが、単純に分子量を高めると流動性や剛性が低下する。また、密度を下げることでも耐ストレスクラック性を高めることはできるが、密度の低下は剛性の低下を伴うので、用途によっては適用できない。
【0004】
その他の方法として、樹脂の機械的特性を向上させるために、樹脂と、ガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維等との複合化することが検討されており、これにより、強度、剛性等が向上することが見出されている。例えば、特許文献1〜2には、ガラス繊維を用いた複合材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3166814号公報
【特許文献2】特許第4217284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜2に記載された樹脂とガラス繊維との複合材は、ガラス繊維が破損することにより補強効果が不十分となる。また、ガラス繊維と樹脂の界面強度が弱いため、耐ストレスクラック性が不十分であるという問題点がある。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、耐ストレスクラック性に優れる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討した。その結果、エチレン系共重合体に所定のセルロース系繊維を凝集することなく分散させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
エチレン由来の重合単位と、ビニルエステル、及び、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルから選ばれる不飽和カルボン酸の誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合化合物由来の重合単位とを含有し、該共重合化合物由来の重合単位の含有割合が5〜50質量%であるエチレン系共重合体と、
平均繊維径が500nm以下であるセルロース系繊維(但し、カチオン性セルロースナノファイバーのカチオン基をアニオン性添加剤で中和したものを除く)と、を含み、
該セルロース系繊維は、前記エチレン系共重合体100質量部に対して、0.5〜10
質量部含まれ、
かつASTM D1693に記載の方法で得られる、亀裂が発生する確率が50%となる時間が41〜216時間である、
成形体。
〔2〕
前記エチレン系共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含む、前項〔1〕に記載の成形体。
〔3〕
パイプ、ボトル、ボトルキャップ、又は人工芝である前記〔1〕又は〔2〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐ストレスクラック性に優れる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
〔成形体〕
本実施形態の成形体は、
エチレン由来の重合単位と、ビニルエステル、不飽和カルボン酸、ビニルエステルの誘導体、及び不飽和カルボン酸の誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合化合物由来の重合単位とを含有し、前記共重合化合物由来の重合単位の含有割合がエチレン系共重合体に対して5〜50質量%であるエチレン系共重合体と、
平均繊維径が500nm以下であるセルロース系繊維と、を含み、
該セルロース系繊維は、前記エチレン系共重合体100質量部に対して、0.5〜10質量部含まれる。
【0013】
〔エチレン系共重合体〕
本実施形態のエチレン系共重合体は、エチレンと、ビニルエステル、不飽和カルボン酸、ビニルエステルの誘導体及び不飽和カルボン酸の誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合化合物と、を共重合した共重合体である。なお、本願明細書において「共重合化合物」とは、エチレンと共重合するビニルエステル、不飽和カルボン酸、ビニルエステルの誘導体及び不飽和カルボン酸の誘導体のことをいう。
【0014】
上記ビニルエステルとしては、特に限定されないが、具体的には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられる。
【0015】
また、不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0016】
またさらに、不飽和カルボン酸の誘導体としては、特に限定されないが、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0017】
エチレン系共重合体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」ともいう。)、エチレン−アクリル酸共重合体(以下、「EAA」ともいう。)、エチレン−メタクリル酸共重合体(以下、「EMAA」ともいう。)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(以下、「EMA」ともいう。)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(以下、「EEA」ともいう。)、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体(以下、「EMMA」ともいう。)が挙げられる。この中でもエチレン系共重合体が、EVAを含むことが好ましい。これにより、成形体中でのセルロース系繊維の分散性がより高くなり、成形体が耐ストレスクラック性により優れるものとなる。
【0018】
共重合化合物由来の重合単位が、エチレン系共重合体に含まれる含有割合はエチレン系共重合体に対して5〜50質量%であり、10〜35質量%が好ましく、12〜30質量%がより好ましい。含有率が5質量%以上であることにより、成形体中でのセルロース系繊維の分散性が分散剤を添加しなくても良好となり、耐ストレスクラック性がより優れる。また、含有率が50質量%以下であることにより、樹脂が過度に柔軟にならず、材料として好ましい。
【0019】
また、本実施形態で使用されるエチレン系共重合体のメルトマスフローレイト(MFR、JIS−K−7210:1999、190℃、荷重2.16kg)は、0.1〜100g/10minであることが好ましく、0.5〜50g/10minであることがより好ましく、1.0〜30g/10minであることがさらに好ましい。MFRが0.1g/10min以上であることにより、成形体中でのセルロース系繊維の分散性がより優れる傾向にあると共に、エチレン系共重合体の流動性がより優れ、成形加工がより容易となる傾向にある。また、MFRが100g/10min以下であることにより、適度な分子量を有するので、成形体の機械的特性がより優れる傾向にある。
【0020】
エチレン系共重合体の重合方法は、特に限定されないが、例えば、高圧法、中低圧法等の公知の方法により行なうことができる。また、エチレン系共重合体の一次構造はランダム、ブロック等、いずれの構造であってもよい。
【0021】
〔セルロース系繊維〕
本実施形態の成形体中には、平均繊維径が500nm以下のセルロース系繊維が分散している。本実施形態のセルロース系繊維としては、特に限定されないが、例えば、セルロースのホモポリマー、その誘導体又はそれらの混合物が挙げられる。このようなセルロース系繊維としては、特に限定されないが、具体的には、木材パルプ、非木材パルプ、バクテリア、藻類、ホヤ由来のセルロースが挙げられる。セルロース系繊維は通常、硫酸や塩酸等の酸を用いた酸加水分解による化学的方法、もしくは高圧ホモジナイザー、リファイナー、グラインダー、ボールミル、ロッドミル、石臼等の機械的エネルギーを与えて、セルロースの解繊や微細化を行う物理的方法により得られるが、これらに限定されるものではない。また、化学的、物理的方法による処理を施した市販のセルロース系繊維を利用することもできる。上記の処理によって、セルロース系繊維の平均繊維径は500nm以下、好ましくは100nm以下に調整することができる。
【0022】
(平均繊維径)
セルロース系繊維の平均繊維径は500nm以下であり、300nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。また、平均繊維径は10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。平均繊維径が500nm以下であることにより、得られる成形体の耐ストレスクラック性がより向上する。また、平均繊維径が、10nm以上であることにより、粉砕に用いるエネルギーがより小さくなり、また、再凝集も起こりにくい傾向にある。なお、平均繊維径は実施例に記載の方法により求めることができる。
【0023】
本実施形態の成形体は、エチレン系共重合体に対し、セルロース系繊維を分散させたものである。本実施形態の成形体においてセルロース系繊維の含有量は、エチレン系共重合体100質量部に対し、0.5〜10質量部であり、1〜10質量部であることが好ましく、3〜10質量部であることがより好ましい。含有量が0.5質量部以上であることにより、耐ストレスクラック性により優れる。また、含有量が10質量部以下であることにより、加工時の流動性がより適度な範囲となり、成形性により優れる。
【0024】
(分散方法)
本実施形態の成形体は、エチレン系共重合体にセルロース系繊維を凝集することなく分散したものである。分散方法は、特に限定されないが、例えば、EVA等のエチレン系共重合体をミキサー、二軸押出機等を用いて溶融混練しながらセルロース系繊維を添加する方法や、エチレン系共重合体を溶解した溶液を撹拌しながらセルロース系繊維を加える方法等が適用できる。
【0025】
セルロース系繊維は、水などの液中に分散した状態では安定であるが、乾くと容易に凝集し、再分散することは困難である。従って、エチレン系共重合体への添加はセルロース系繊維が液中に分散した状態で実施する事が好ましい。また、セルロース系繊維と共に系内に添加された水など液体は、真空乾燥機などで除去できるが、生産性、及びセルロース系繊維の分散性から、真空ベント付二軸押出機による混合、分散、液体除去が好ましい。
【0026】
〔成形方法〕
成形体の成形方法は、特に限定されないが、例えば、プレス成形、カレンダー成形、溶融押出成形、射出成形、ブロー成形等の公知の成形方法が適用可能である。
【0027】
また、本実施形態の成形体は、必要に応じて、酸化防止剤、耐光安定剤、保温剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、防曇剤、顔料、染料、オイル、ワックス、発泡剤等を適時配合することができる。
【0028】
本実施形態に係る成形体は、耐ストレスクラック性に優れるため、例えば、種々の液体が接触した状態で内圧等の応力に長時間晒されるパイプ、ボトル、ボトルキャップ、人工芝に好適に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、物性測定方法、評価方法は以下の通りである。
【0030】
(1)セルロース系繊維の平均繊維径測定
日立ハイテクノロジー(株)製、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した画像より任意に選らんだ12本のセルロース系繊維の繊維径を測定し、その平均値を算出して平均繊維径を求めた。
【0031】
(2)耐ストレスクラック性
耐ストレスクラック性試験は、ASTM D1693に記載の方法で実施した。具体的には、試験液として、ライオン(株)製リポノックスNC95の10質量%水溶液を使用し、50℃で、環境応力による亀裂が発生する確率が50%となる時間を計測した。
【0032】
[実施例1〜3]
エチレン系共重合体として、酢酸ビニル含有量14質量%、MFR=15g/10minのエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA−1:旭化成ケミカルズ(株)製EM−6415)を準備した。また、セルロース系繊維として、香川県産ヒノキをディスクミルに16回通すことにより作製した平均繊維径50nmのセルロース系繊維(Cell−1)、及び同ヒノキをディスクミルに8回通すことにより作製した平均繊維径120nmのセルロース系繊維(Cell−2)を準備した。
【0033】
上記のエチレン系共重合体とセルロース系繊維とを用いて、表1に示す割合でペレットを作製し、該ペレットを用いて成形シートを作製し、耐ストレスクラック性を評価した。具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体とセルロース系繊維の水分散スラリーを二軸押出機を用いて混合し、ダイより押し出したストランドをカットしてペレットを作製した。その後、プレス成形により成形シートを作製し、耐ストレスクラック性を評価した。ペレット組成と評価結果を表1に示す。
【0034】
[比較例1、2]
セルロース系繊維の配合量を変更したこと以外は実施例1と同様の操作により紫外線カットフィルムを作製し、耐ストレスクラック性を評価した。ペレット組成と評価結果を表1に示す。比較例2ではセルロース系繊維の量が多すぎたため混合不良となり、耐ストレスクラック性を測定することができなかった。
【0035】
[比較例3]
セルロース系繊維として、コピー用紙をミキサーで解繊したセルロース系繊維(平均繊維径11μm、Cell−3)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作により紫外線カットフィルムを作製し、耐ストレスクラック性を評価した。ペレット組成と評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の成形体は、パイプ、ボトル、ボトルキャップ、人工芝として産業上の利用可能性を有する。