(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低密度領域が、前記薄膜の内部領域で前記透光性基板側から前記薄膜の表層側に向かって延びる断面形状を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のマスクブランク。
前記薄膜に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部上に形成された薄膜が残存することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
前記薄膜が、露光光に対して1%以上の透過率を有し、かつ、前記薄膜を透過した露光光と、前記薄膜の膜厚と同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間に所定の位相差を生じさせるハーフトーン位相シフト膜であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
前記低密度領域が、前記薄膜の内部領域で透光性基板側から表層側に向かって延びる断面形状を有することを特徴とする、請求項8又は9に記載のマスクブランクの製造方法。
前記薄膜に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部上に形成された薄膜が残存することを特徴とする、請求項8から11のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
請求項8から12のいずれかに記載のマスクブランク製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に、転写パターンを形成するパターン形成工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年のパターンの微細化に伴い、バイナリ型マスク及びハーフトーン型位相シフトマスク等の転写用マスクの製造コストが著しく上昇してきていることから、転写用マスクの長寿命化のニーズが高まってきている。
【0011】
転写用マスクの寿命を決定する要因としては、転写用マスクの繰り返し洗浄による繰り返し使用による転写用マスク劣化の問題がある。転写用マスクの洗浄方法としては、従来、SPM洗浄(洗浄液:H
2SO
4/H
2O
2、洗浄温度:40〜100℃)、アンモニア過水等によるアルカリ洗浄が行われてきていた。しかし、このような転写用マスクを用いて露光装置を用いた露光転写を繰り返していくと、転写用マスクにヘイズ(硫化アンモニウムを主体とし転写用マスク上に発生する異物)が発生し、問題となっていた。このヘイズの発生を低減するため、近年では、転写用マスクの洗浄に、温水を用いた洗浄が適用されることが多くなってきている。しかし、いずれの洗浄方法を適用しても、転写用マスクの繰り返し洗浄により膜減り(薄膜の一部が溶出すること。)が生じる。転写用マスクの膜減りを避けることが困難であり、洗浄回数が転写用マスクの寿命を決定している。
【0012】
さらに、本発明者らは、転写用マスクの薄膜の構造と、洗浄により転写用マスクに発生する欠陥との関係について、検証を重ねた結果、転写用マスクの繰り返し洗浄を、温水洗浄により行った場合には、転写用マスクにピンホール欠陥が生じる場合があることを見出した。転写用マスクにピンホール欠陥が存在すると、薄膜の光学特性の変化(表面反射率の上昇)、転写パターンエッジ部分の形状変化によるラインエッジラフネスの低下及びCD精度の悪化等の問題が生じるおそれがある。
【0013】
そこで、本発明は、繰り返し洗浄に伴う問題の発生を抑制することができ、寿命の長い転写用マスクを製造するためのマスクブランクを得ること、及びその製造方法を得ることを目的とする。具体的には、繰り返し洗浄によって転写用マスクにピンホール欠陥が発生することを抑制することができるマスクブランクを得ること、及びその製造方法を得ることを目的とする。また、本発明は、上述のマスクブランクを用いることにより、繰り返し洗浄に伴う問題の発生を抑制することができ、寿命の長い転写用マスクを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述のように、本発明者らは、転写用マスクの薄膜の構造と、洗浄により転写用マスクに発生する欠陥との関係について検証を行った。その結果、本発明者らは、転写用マスクの繰り返し洗浄を温水洗浄により行った場合には、転写用マスクにピンホール欠陥が発生する場合があることを見出した。このピンホール欠陥について、さらに検証したところ、ピンホール欠陥は、薄膜内部に発生する空洞に起因することを見出した。さらに、本発明者らは、薄膜内部に空洞が発生する部分は、透光性基板の凹欠陥部と一致する場合が多いことを見出した。
【0015】
マスクブランクを製造するときの薄膜を形成する工程において、透光性基板の薄膜を形成する側の主表面には、欠陥が存在しないことが望ましい。しかし、前工程である透光性基板の主表面を研磨する工程において、主表面に傷等の凹欠陥が形成されてしまう確率をゼロにすることは難しい。凹欠陥が存在する透光性基板を全て、マスクブランクに使用できないとすると、歩留まりが大幅に低下してしまう。また、凹欠陥の大きさ、深さ、存在する位置や個数、及びマスクブランクから作製される予定の転写用マスクの仕様によっては、その透光性基板に存在する凹欠陥の位置及び大きさに関する情報(いわゆる欠陥情報)を、その透光性基板を用いて製造されたマスクブランクとともに提供する対応をとることで、使用可能な製品とすることも可能である。このようなマスクブランクから転写用マスクを作製する場合は、その欠陥情報と、薄膜に形成するマスクパターンに関する情報から、その欠陥による影響を受けないようなパターン形状及び配置を検討し、薄膜にパターンをフォトリソグラフィー法で形成する。これにより、凹欠陥を有する透光性基板から製造されたマスクブランクでも、所望の転写特性を有する転写用マスクを作製することが可能となる。
【0016】
しかし、本発明者らは、このような凹欠陥部が存在する透光性基板の主表面上に成膜された薄膜は、薄膜の密度が低くなること、温水洗浄の際に溶出しやすくなること、さらに、これらのことが要因となって薄膜内部に空洞が発生することを見出した。一方、本発明者らは、薄膜の密度が低い部分を酸化することにより、温水洗浄の際の溶出を防止することができることを見出した。以上の知見から、本発明者らは、透光性基板の凹欠陥部に起因する低密度の薄膜の部分の内部領域を酸化することにより、転写用マスクの薄膜内部の空洞に起因するピンホール欠陥の発生を抑制することができることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0017】
本発明は、下記の構成1〜7であることを特徴とするマスクブランクである。
【0018】
(構成1)
本発明は、透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクであって、前記透光性基板の、前記薄膜が形成されている側の主表面が、凹欠陥部を有し、前記薄膜が、遷移金属及びケイ素を含有する材料からなり、前記薄膜の表層に酸化層が形成されており、前記凹欠陥部上に形成された前記薄膜の部分の内部領域が低密度領域を有し、前記低密度領域における密度が、前記凹欠陥部のない主表面上に形成された前記薄膜の部分の内部領域における密度よりも相対的に低く、前記低密度領域の酸素濃度が、前記凹欠陥部のない主表面上に形成された前記薄膜の部分の前記表層を除いた内部領域の酸素濃度よりも相対的に高いことを特徴とするマスクブランクである。本発明のマスクブランクを用いて転写用マスクを製造するならば、転写用マスクに対して繰り返し洗浄を行った場合でも、透光性基板の凹欠陥部近傍の薄膜内部に、空洞に起因するピンホール欠陥が発生することを抑制することができる。
【0019】
(構成2)
本発明は、透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクであって、前記透光性基板の、前記薄膜が形成されている側の主表面が、凹欠陥部を有し、前記薄膜が、ケイ素と窒素とからなる材料、又はケイ素と窒素とからなる材料に半金属元素、非金属元素及び希ガスから選ばれる1以上の元素を含有する材料からなり、前記薄膜の表層に酸化層が形成されており、前記凹欠陥部上に形成された前記薄膜の部分の内部領域が低密度領域を有し、前記低密度領域における密度が、前記凹欠陥部のない主表面上に形成された前記薄膜の部分の内部領域における密度よりも相対的に低く、前記低密度領域の酸素濃度が、前記凹欠陥部のない主表面上に形成された前記薄膜の部分の前記表層を除いた内部領域の酸素濃度よりも相対的に高いことを特徴とするマスクブランクである。本発明のマスクブランクを用いて転写用マスクを製造するならば、転写用マスクに対して繰り返し洗浄を行った場合でも、透光性基板の凹欠陥部近傍の薄膜内部に、空洞に起因するピンホール欠陥が発生することを抑制することができる。
【0020】
(構成3)
本発明は、前記低密度領域が、前記薄膜の内部領域で前記透光性基板側から前記薄膜の表層側に向かって延びる断面形状を有する、構成1又は2のマスクブランクである。本発明のマスクブランクの低密度領域が、薄膜の内部領域で透光性基板側から表層側に向かって延びる断面形状を有する場合には、空洞に起因するピンホール欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。
【0021】
(構成4)
本発明は、前記表層が、ケイ素及び酸素を主成分とすることを特徴とする、構成1から3のいずれかのマスクブランクである。本発明のマスクブランクを用いた転写用マスクが所定の表層を有することにより、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0022】
(構成5)
本発明は、前記薄膜に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部上に形成された薄膜が残存することを特徴とする、構成1から4のいずれかのマスクブランクである。マスクブランクの薄膜に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部上に形成された薄膜が残存する本発明のマスクブランクを用いるならば、転写用マスクの薄膜の空洞に起因するピンホール欠陥の発生をさらに抑制することができ、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0023】
(構成6)
本発明は、前記薄膜が、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜であることを特徴とする、構成1から5のいずれかのマスクブランクである。本発明のマスクブランクの薄膜が、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜である場合には、薄膜内の空洞の発生を効果的に減少させることができるので、薄膜のピンホール欠陥を効果的に抑制することができる。
【0024】
(構成7)
本発明は、前記薄膜が、露光光に対して1%以上の透過率を有し、かつ、前記薄膜を透過した露光光と、前記薄膜の膜厚と同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間に所定の位相差を生じさせるハーフトーン位相シフト膜であることを特徴とする、構成1から5のいずれかのマスクブランクである。本発明のマスクブランクの薄膜がハーフトーン位相シフト膜、特に、遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)の化合物を含む材料からなるハーフトーン位相シフト膜である場合には、薄膜内の空洞の発生を効果的に減少させることができるので、薄膜のピンホール欠陥を効果的に抑制することができる。
【0025】
本発明は、下記の構成8〜12であることを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0026】
(構成8)
本発明は、透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、前記透光性基板における凹欠陥部を有する主表面に対して、遷移金属及びケイ素を含有する材料からなる前記薄膜を形成する工程と、形成された前記薄膜の表層に酸化層を形成する工程とを備え、前記薄膜を形成する工程が、前記透光性基板を主表面の中心を通る回転軸で回転させることと、スパッタリングターゲットのスパッタ面を、前記透光性基板の主表面と対向し、かつ前記主表面と、前記スパッタ面とが所定の角度を有し、前記透光性基板の回転軸と、前記スパッタ面の中心を通り前記透光性基板の回転軸に対して平行な直線とがずれた位置になるように配置することとを含むスパッタリング法によって前記薄膜を形成するものであり、前記薄膜を形成する工程において形成された前記薄膜は、前記凹欠陥部上に形成された前記薄膜の部分の内部領域が低密度領域を有し、前記低密度領域における密度が、前記凹欠陥部のない主表面上に形成された前記薄膜の部分の内部領域における密度よりも相対的に低く、前記酸化層を形成する工程が、前記薄膜の表層と低密度領域とを酸化させるものであることを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
【0027】
本明細書では、透光性基板と、スパッタリングターゲットとが所定の位置関係であり、透光性基板を回転させながら行うスパッタリング法を、「斜入射回転スパッタリング法」という。本発明の製造方法において、斜入射回転スパッタリング法を用いることにより、基板の表面に形成される薄膜の膜厚の面内均一性を向上させることができる。一方、本発明者らは、斜入射回転スパッタリング法により薄膜の形成を行う場合には、透光性基板の凹欠陥部に成膜された薄膜の密度が低くなる傾向があることを見出した。そこで、構成8にあるように、斜入射回転スパッタリング法により薄膜を形成し、かつ薄膜の低密度領域を酸化させることによって、薄膜の膜厚の面内均一性の向上と、空洞及びピンホール欠陥の発生の抑制という両方の課題を解決することができる。
【0028】
(構成9)
本発明は、透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、前記透光性基板における凹欠陥部を有する主表面に対して、ケイ素のスパッタリングターゲット又はケイ素に半金属元素及び非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなるスパッタリングターゲットを用い、窒素系ガスと希ガスを含むスパッタリングガス中でのスパッタリング法によって、前記薄膜を形成する工程と、形成された前記薄膜の表層に酸化層を形成する工程とを備え、前記薄膜を形成する工程が、前記透光性基板を主表面の中心を通る回転軸で回転させることと、スパッタリングターゲットのスパッタ面を、前記透光性基板の主表面と対向し、かつ前記主表面と、前記スパッタ面とが所定の角度を有し、前記透光性基板の回転軸と、前記スパッタ面の中心を通り前記透光性基板の回転軸に対して平行な直線とがずれた位置になるように配置することとを含むスパッタリング法によって前記薄膜を形成するものであり、前記薄膜を形成する工程において形成された前記薄膜は、前記凹欠陥部上に形成された前記薄膜の部分の内部領域が低密度領域を有し、前記低密度領域における密度が、前記凹欠陥部のない主表面上に形成された前記薄膜の部分の内部領域における密度よりも相対的に低く、前記酸化層を形成する工程が、前記薄膜の表層と低密度領域とを酸化させるものであることを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。構成8の場合と同様に、構成9のマスクブランクの製造方法を用いた場合でも、薄膜の膜厚の面内均一性の向上と、転写用マスクの薄膜内部の空洞及びピンホール欠陥の発生の抑制という両方の課題を解決することができる。
【0029】
(構成10)
本発明は、前記低密度領域が、前記薄膜の内部領域で透光性基板側から表層側に向かって延びる断面形状を有することを特徴とする、構成8又は9のマスクブランクの製造方法である。本発明のマスクブランクの製造方法において、マスクブランクの低密度領域が薄膜の内部領域で透光性基板側から表層側に向かって延びる断面形状を有する場合に、転写用マスクの薄膜内部の空洞及びピンホール欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。
【0030】
(構成11)
本発明は、前記表層が、ケイ素及び酸素を主成分とすることを特徴とする、構成8から10のマスクブランクの製造方法である。本発明の製造方法により製造されたマスクブランクを用いた転写用マスクは、表層が、ケイ素及び酸素を主成分とすることにより、H
2O、O
2やO
3を含む環境でフォトマスクに対してArFエキシマレーザーなどの露光光照射が行われても、Siの酸化及び膨張による変質層の発生、拡大を効果的に抑えることが可能である。その結果、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0031】
(構成12)
本発明は、前記薄膜に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部上に形成された薄膜が残存することを特徴とする、構成8から11のいずれかのマスクブランクの製造方法である。マスクブランクの薄膜に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部上に形成された薄膜が残存する本発明のマスクブランクを用いるならば、転写用マスクの薄膜の空洞及びピンホール欠陥の発生をさらに抑制することができ、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0032】
(構成13)
本発明は、構成1から7のいずれかのマスクブランクの前記薄膜に、転写パターンが形成されていることを特徴とする転写用マスクである。本発明の転写用マスクにより、転写用マスクの薄膜の膜厚の面内均一性の向上と、空洞及びピンホール欠陥の発生の抑制という両方の課題を解決することができる。そのため、本発明の転写用マスクにより、長寿命で良好なパターン形成を行うことができる。
【0033】
(構成14)
本発明は、構成8から12のいずれかのマスクブランク製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に、転写パターンを形成するパターン形成工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。本発明の転写用マスクの製造方法により、長寿命で良好なパターン形成を行うことができる転写用マスクを得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、繰り返し洗浄に伴う問題の発生を抑制することができ、寿命の長い転写用マスクを製造するためのマスクブランクを得ること、及びその製造方法を得ることができる。具体的には、本発明により、繰り返し洗浄によって転写用マスクの薄膜に空洞の発生及び空洞に起因するピンホール欠陥の発生を抑制することができるマスクブランクを得ること、及びその製造方法を得ることができる。また、本発明により、上述のマスクブランクを用いることにより、繰り返し洗浄に伴う問題の発生を抑制することができ、寿命の長い転写用マスクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
MoSiN及びMoSiON等からなるハーフトーン位相シフト膜(以下、位相シフト膜という。)を備えたマスクブランクの製造においては、枚葉式スパッタ装置(成膜装置)によって、透光性基板の主表面に位相シフト膜を成膜するのが一般的である。通常の枚葉式スパッタ装置は、成膜室内の下方に透光性基板を載置する回転ステージが設けられており、回転ステージの直上にターゲットが配置されている。しかしながら、このような通常の枚葉式スパッタ装置を用いた場合には、透光性基板の主表面の形状が矩形であることに起因し、主表面の外周側の膜厚が中心側の膜厚よりも薄くなってしまうという問題が生じる場合がある。また、MoSiNやMoSiONのように、ターゲット材にケイ素を含有する材料が使用され、透光性基板上に酸素や窒素を含有する材料の位相シフト膜をDCスパッタリング法で成膜する場合、ケイ素の窒化物やケイ素の酸化物は導電性が低いことから、ターゲット表面でチャージアップによるパーティクルが発生しやすい。このパーティクルは、ターゲット表面の直下にある透光性基板上に落下し、位相シフト膜に入ることで欠陥になってしまう恐れがある。つまり、欠陥発生率が上昇してしまうという問題が生じる恐れがある。
【0037】
そこで、
図2に示すような、枚葉式スパッタ装置(成膜装置)で薄膜を成膜する方法(斜入射回転スパッタリング法)が、特許文献3に開示されている。この斜入射回転スパッタリング法では、透光性基板6を載置する回転ステージ3に対して、スパッタリングターゲット5を斜め上方に配置し、透光性基板6とスパッタリングターゲット5との間で水平距離及び垂直距離の両方を取っている。斜入射回転スパッタリング法による成膜装置を用いて透光性基板6上に位相シフト膜を成膜することで、基板の中心側の膜厚が相対的に厚くなることを抑制でき、かつパーティクルに起因する欠陥を低減することができる。
【0038】
一方、いわゆるバイナリ型の転写用マスク等に用いられるマスクブランクにおいても、透光性基板6上に形成されている遮光膜の材料にMoSiN等のMoSi系材料が適用したものが開発されている。この遮光膜を成膜する場合においても、前記の斜入射回転スパッタリング法を用いたスパッタ装置で形成することが行われてきている。
【0039】
本発明者らは、前記の斜入射回転スパッタリング法を用いて成膜されたMoSi系材料に代表される遷移金属シリサイド系材料の薄膜70を備える、
図8に示すようなマスクブランク10を用いて、位相シフトマスク等の転写用マスクを作製するプロセスにおいて、薄膜70の表面に微小なサイズ(100nm前後)のピンホール欠陥(白欠陥)が発生する場合があるとの知見を得た。また、本発明者らは、転写用マスクを作製した直後のマスク欠陥検査では欠陥は検出されなかったにもかかわらず、露光装置にセットして所定回数使用した後に行われるマスク洗浄の後に、マスク欠陥検査を行うと、同様に、薄膜70の表面に微小なサイズのピンホール欠陥が発生することがあるとの知見も得た。いずれの場合においても、薄膜70を成膜して出来上がったマスクブランクに対して欠陥検査を行ったときには、そのようなピンホール欠陥は検出されていなかった。
【0040】
本発明者らは、このピンホール欠陥が発生する原因について、鋭意研究を行った。その結果、上述のようなピンホール欠陥が発生したマスクブランクは、いずれも、そのピンホール欠陥部分の直下の透光性基板6の表面に、微小な深さ(40nm以下)の傷(凹欠陥部6a)が存在していることが分かった。
【0041】
次に、本発明者らは、その透光性基板6の表面に凹欠陥部6aが存在する箇所に集中して、薄膜70にピンホール欠陥が発生する原因を鋭意研究した。凹欠陥部6aが存在する透光性基板6で製造したマスクブランクに対し、
図5及び
図6に示すように、透光性基板の凹欠陥部6a近傍の断面TEM像を観察した。その結果、凹欠陥部6a上の薄膜70に成膜ムラが発生していることを確認した。なお、
図1に、
図5に示す実施例1のTEM写真を模式的に描いた模式図を示す。
【0042】
本発明者らは、この成膜ムラの部分をさらに研究した結果、この成膜ムラの部分は他の薄膜70の部分に比べて密度が低いとの知見を得た。さらに、その成膜ムラが発生している密度の低い領域は、断面視で透光性基板6側から薄膜70の表面側に向かって延伸した形状をしていることが多く、さらに、平面視では凹欠陥部6aの外周近傍から中心側に延伸していることが多いとの知見も得た。なお、成膜ムラの部分は、密度が低いので、低密度領域74となる。
【0043】
これらの得られた知見等から、微小サイズのピンホール欠陥の発生メカニズムは、マスク製造プロセス時やマスク洗浄時に使用される洗浄液(例えば、脱イオン水等の水、特に温水)が、基板表面に凹欠陥部6aが存在する箇所の上に形成された薄膜70表面の密度が低い部分から侵入していき、低密度部分の薄膜70の材料を溶解させることで発生したものと推察できる。なお、本発明は、本推察に拘束されるものではない。
【0044】
また、透光性基板6の表面に凹欠陥部6aが存在する箇所に成膜された薄膜70に、その周囲よりも密度の低い低密度領域74が形成される頻度は、特に、斜入射回転スパッタリング法を用いた成膜の場合に高いと推察される。この理由は次のように推察される。すなわち、斜入射回転スパッタリング法による薄膜70の成膜の場合には、スパッタリングターゲット5から飛散したスパッタ原子が、透光性基板6の主表面71に対して垂直に入射せずに傾斜した方向から入射することが多い。また、透光性基板6の凹欠陥部6aの断面の形状は、丸みを帯びていることが多い。そのため、斜入射回転スパッタリング法の場合には、透光性基板6に到達するスパッタ原子の侵入角度や速度にバラツキが生じ、薄膜70の密度が低くなってしまうものと推察される。なお、本発明は、上記の推察に拘束されるものではない。
【0045】
斜入射回転スパッタリング法で薄膜70を形成する場合、透光性基板6の凹欠陥部6aのターゲット5が配置されている側の側壁は、凹欠陥部6a以外の主表面71に比べて、ターゲット5から飛散したスパッタ粒子の侵入角度が大幅に小さくなる。このため、スパッタ粒子が側壁に堆積するときの運動エネルギーが大幅に小さくなり、その側壁上に形成される薄膜70の密度が低い状態になってしまう。斜入射回転スパッタリング法は、透光性基板6を回転させながら成膜する方法である。このため、凹欠陥部6aの全ての側壁に対して、形成される薄膜70の密度が低くなるようなターゲット5との位置関係になるタイミングが発生することになる。このため、斜入射回転スパッタリング法で形成する薄膜70の場合、特に薄膜70に低密度領域が生じやすい。
【0046】
これに対し、透光性基板6の主表面71の上方にターゲット5が配置される従来のスパッタリング法の場合、スパッタ粒子は主表面71の上方から垂直に侵入してくる。このため、凹欠陥部6aの側壁部分でも、斜入射回転スパッタリング法の場合のような、スパッタ粒子の侵入角度が大幅に小さくなるようなことが少ない。よって、この従来のスパッタリング法の場合、凹欠陥部6aの上方においても、薄膜70に低密度領域が生じにくい。
【0047】
一方、本発明者らは、薄膜70を形成する材料である遷移金属及びケイ素を含有する材料は、酸化させると温水洗浄に対する耐性が大幅に向上することを見出した。また、透光性基板6に凹欠陥部6aが存在することにより生じた薄膜70の低密度領域74は、それ以外の通常の密度の領域に比べて優先的に酸化されやすいことを見出した。そしてこれらの知見から、低密度領域74を酸化することにより、温水洗浄の際の溶出を防止することができることを見出した。以上の知見から、本発明者らは、透光性基板の凹欠陥部6aに起因する低密度の薄膜70の部分の内部領域73を酸化することにより、転写用マスクの薄膜70内部の空洞の発生及びそれに起因するピンホール欠陥の発生を抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0048】
本発明は、上述したような新たな知見に基づきなされたものである。以下、本発明について、詳しく説明する。
【0049】
本発明のマスクブランクの構造について、
図1の模式図を用いて具体的に説明する。
図1は、
図5に示す実施例1のTEM写真を模式的に描いた模式図である。
図1に模式的に示すように、
図5に示す実施例1のTEM写真には、凹欠陥部6aを有する透光性基板6の表面に、薄膜70を形成した断面写真である。薄膜70の表面には、酸化層である表層71が形成されている。また、凹欠陥部6a上の内部領域73の低密度領域74は酸素濃
度が高い状態となっている。
【0050】
本発明は、透光性基板6の主表面71上に、転写パターン形成用の薄膜70を備えたマスクブランクである。発明のマスクブランクでは、透光性基板6の、薄膜70が形成されている側の主表面71が、凹欠陥部6aを有する。
【0051】
本発明のマスクブランクに用いることのできる透光性基板6は、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されない。本発明では、石英基板及びその他の各種のガラス基板(例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス等)を用いることができる。特に、石英基板は、ArFエキシマレーザー又はそれよりも短波長の領域で透明性が高いので、本発明のマスクブランクに特に好適に用いることができる。
【0052】
本発明のマスクブランクでは、薄膜70が、遷移金属及びケイ素を含有する材料からなる。
【0053】
転写パターンを形成するための薄膜70は、遷移金属及びケイ素を含む材料からなる薄膜70であり、詳しくは後述するが、例えば遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)の化合物を含む材料からなる光半透過膜又は遮光膜が挙げられる。透光性基板6上に上記薄膜70を成膜する方法としては、例えばスパッタリング法による成膜法が好ましく挙げられる。
【0054】
本発明のマスクブランクでは、薄膜70の表層78に酸化層が形成されている。
図1に示すように、本発明のマスクブランクの薄膜70の表層78に酸化層が形成されていることにより、フォトマスクに対してArFエキシマレーザーなどの露光光照射が行われても、薄膜70のさらなる酸化及び膨張による変質層の発生及び拡大を効果的に抑えることが可能である。
【0055】
本発明のマスクブランクでは、凹欠陥部6a上に形成された薄膜70の部分の内部領域73が低密度領域74を有する。本発明のマスクブランクでは、低密度領域74における密度が、凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された薄膜70の部分の内部領域76における密度よりも相対的に低い。
【0056】
図1に示すように、透光性基板6の「凹欠陥部6a上に形成された薄膜70の部分の内部領域73」とは、透光性基板の凹欠陥部6a上の部分72に形成された薄膜70のうち、表層78を除いた部分のことをいう。また、透光性基板6の「凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された薄膜70の部分の内部領域76」とは、凹欠陥部6aが存在しない透光性基板6の表面に形成された薄膜70のうち、表層78を除いた部分のことをいう。
【0057】
また、本発明のマスクブランクでは、低密度領域74の酸素濃度が、凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された薄膜70の部分の表層78を除いた内部領域76の酸素濃度よりも相対的に高い。凹欠陥部6a上の内部領域73の低密度領域74は、成膜ムラなどの成膜時の問題により生じた領域である。低密度領域74の遷移金属及びケイ素の原子濃度は、凹欠陥部6aのない主表面71上の内部領域76の原子濃度より低いため、低密度領域74の密度が低いと考えられる。本発明のマスクブランクでは、遷移金属及びケイ素の低い原子濃度を補償するために、低密度領域74の酸素濃度を相対的に高くしたことを特徴とする。すなわち、低密度領域74では遷移金属及びケイ素の原子濃度が低いため、低密度領域74を酸化させることにより酸素濃度を高めた状態となる。酸素の原子量は、遷移金属及びケイ素と比べて小さいため、酸化した低密度領域74の密度は、凹欠陥部6aのない主表面71上の内部領域76と比べて低くなる。
【0058】
本発明のマスクブランクでは、透光性基板の凹欠陥部6aに起因する低密度の薄膜70の部分の内部領域73を酸化することによって、低密度領域74の酸素濃度が、凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された薄膜70の部分の表層78を除いた内部領域76の酸素濃度よりも相対的に高くしたことにより、温水洗浄の際の溶出を防止することができる。
【0059】
また、本発明のマスクブランクは、低密度領域74が、薄膜70の内部領域73で透光性基板6側から表層78側に向かって延びる断面形状を有することが好ましい。
【0060】
図1に示す符号74aの部分のように、低密度領域74が、薄膜70の内部領域73で透光性基板6側から表層78側に向かって延びる断面形状を有する場合がある。この断面形状の低密度領域74aの部分を酸化しなければ、温水洗浄の際の溶出によって、ほぼ透光性基板6から薄膜70表面に達するピンホール欠陥が生じてしまうことになる。本発明のマスクブランクは、低密度領域74が薄膜70の内部領域73で透光性基板6側から表層78側に向かって延びる断面形状を有する場合には、空洞に起因するピンホール欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。
【0061】
また、本発明のマスクブランクは、表層78が、ケイ素及び酸素を主成分とすることが好ましい。本発明のマスクブランクを用いた転写用マスクは、表層78が、ケイ素及び酸素を主成分とすることにより、温水洗浄に対する耐性がより向上する。さらに、表層78が、ケイ素及び酸素を主成分とすることにより、H
2O、O
2やO
3を含む環境でフォトマスクに対してArFエキシマレーザーなどの露光光照射が行われても、Siの酸化及び膨張による変質層の発生、拡大を効果的に抑えることが可能である。その結果、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0062】
また、本発明のマスクブランクは、薄膜70に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても凹欠陥部6a上に形成された薄膜70が残存することが好ましい。本発明のマスクブランクの薄膜70に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部6a上に形成された薄膜70が残存する場合には、低密度領域74が温水洗浄に対する耐性を有するといえる。したがって、このマスクブランクを用いるならば、転写用マスクの薄膜70の空洞及びピンホール欠陥の発生をさらに抑制することができ、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0063】
また、本発明のマスクブランクは、薄膜70が、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜であることが好ましい。遷移金属シリサイドの化合物を含む材料で、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜を形成しようとする場合、酸素や窒素を含有させて透過率を上げる手法が取られることが多い。その中でもできる限り薄い膜厚で半透過膜を形成しようとする場合、薄膜70中の含有量に対する透過率の上昇度合いが酸素よりも小さい窒素を含有させた方がよい。しかし、遷移金属シリサイドの窒化物は、もともと温水洗浄に対する耐性はさほど高くはなく、材料の密度が低いと耐性が大幅に低下する。そのため、薄膜70が、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜である場合には、空洞の発生を効果的に減少させることができる。その結果、薄膜70のピンホール欠陥を効果的に抑制することができる。
【0064】
また、本発明のマスクブランクは、薄膜70が、露光光に対して1%以上の透過率を有し、かつ、薄膜70を透過した露光光と、薄膜70の膜厚と同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間に所定の位相差を生じさせるハーフトーン位相シフト膜であることが好ましい。
【0065】
ハーフトーン位相シフト膜は、できる限り薄い膜厚で、露光光がこの膜を透過したときに所定の透過率で透過させ、かつ透過する露光光に対して所定の位相差を生じさせる(ハーフトーン位相シフト膜を透過した露光光と、その膜の膜厚と同じ距離だけ空気中を透過した露光光との間で所定の位相差を生じさせる)光学特性を有する材料を選定する必要がある。本発明のマスクブランクの薄膜70が、遷移金属シリサイドの化合物からなるハーフトーン位相シフト膜である場合、上記のような光学特性を持たせるには、窒素を多く含有させる必要がある。しかし、遷移金属シリサイドの窒化物は、もともと温水洗浄に対する耐性はさほど高くはなく、材料の密度が低いと耐性が大幅に低下する。そのため、薄膜70が、ハーフトーン位相シフト膜である場合には、空洞の発生を効果的に減少させることができる。その結果、薄膜70のピンホール欠陥を効果的に抑制することができる。
【0066】
次に、本発明のマスクブランクの製造方法について説明する。本発明は、透光性基板6の主表面71上に、転写パターン形成用の薄膜70を備えたマスクブランクの製造方法である。
【0067】
本発明のマスクブランクの製造方法は、遷移金属及びケイ素を含有する材料からなる薄膜70を形成する工程を備える。本発明のマスクブランクの製造方法では、この薄膜70を形成する工程が、透光性基板6と、スパッタリングターゲット5とが所定の位置関係であるスパッタリング法によって行われることに特徴がある。
【0068】
図2に、本発明のマスクブランクの製造方法に用いることのできる成膜装置の一例の模式図を示す。
図2に示す成膜装置は、所定の配置のスパッタリングターゲット5を用い、透光性基板6の主表面71に薄膜70をスパッタリング法によって形成することのできる成膜装置である。本発明の製造方法に用いることのできる成膜装置では、透光性基板6と、スパッタリングターゲット5とが所定の位置関係にある。
【0069】
図3は、本発明の製造方法に用いることのできる成膜装置の、透光性基板6と、スパッタリングターゲット5との位置関係を示す模式図である。成膜中、透光性基板6は回転ステージ3に載置される。回転ステージ3の回転によって、透光性基板6は、回転軸56を中心に回転する。
【0070】
図3に示すように、ターゲット5は、そのスパッタ面52が透光性基板6の主表面71に対向し、かつ斜め上方となる位置の成膜室1内に配置される。スパッタリングターゲット5は、スパッタリングターゲット5のスパッタ面52が、透光性基板6の主表面71と対向するように配置される。すなわち、ターゲット5は、そのスパッタ面52が透光性基板6の主表面71に対向し、かつ斜め上方となる位置の成膜室1内に配置される。さらに、スパッタリングターゲット5は、透光性基板6の主表面71に対して所定の角度θを有するように配置される。
【0071】
また、
図3に示すように、スパッタリングターゲット5は、透光性基板6の回転軸56と、スパッタ面52の中心53を通り透光性基板6の回転軸56に対して平行な直線57とがずれた位置にあるように配置される。
【0072】
成膜する薄膜70の膜厚の面内均一性の向上のためには、透光性基板6とターゲット5との位置関係を適切なものにすることが必要である。本発明の成膜装置における、透光性基板6と、スパッタリングターゲット5との位置関係について、さらに説明するならば、次のとおりである。
【0073】
図2及び
図3に示すように、本発明に用いる成膜装置では、ターゲット5のスパッタ面52の、透光性基板6の主表面71に対する傾斜角θ(ターゲット傾斜角θ)が、10度以上30度以下であることを特徴とすることが好ましい。ターゲット傾斜角θを所定の角度とすることにより、成膜する薄膜70の膜厚の面内均一性を向上させることができる。
【0074】
スパッタリングターゲット5と透光性基板6との位置関係について、
図3を用いて説明する。オフセット距離Doff(透光性基板6の回転軸56と、ターゲット5の中心を通りかつ前記透光性基板6の回転軸56に対して平行な直線57との間の距離)は、薄膜70の膜厚の面内均一性を確保すべき面積によって調整することができる。一般には、良好な面内均一性を確保すべき面積が大きい場合に、必要なオフセット距離Doffは大きくなる。例えば、152mm角の透光性基板6の場合、薄膜70に転写パターンが形成される領域は、通常、透光性基板6の中心を基準とする132mm角の内側領域である。その132mm角の内側領域で、薄膜70の膜厚分布が±1nm以内の精度を実現するためには、オフセット距離Doffは240mmから400mm程度が必要であり、好ましいオフセット距離Doffは300mmから380mmである。ターゲット5−透光性基板6間垂直距離(H)は、オフセット距離Doffにより最適範囲が変化する。例えば、152mm角の透光性基板6内で良好な面内均一性を確保するためには、ターゲット5−透光性基板6間垂直距離(H)は、200mmから380mm程度が必要であり、好ましいHは210mmから300mmである。ターゲット傾斜角θは、薄膜70の膜厚の面内均一性のみならず成膜速度に影響する。具体的には、良好な薄膜70の膜厚の面内均一性を得るため及び大きな成膜速度を得るために、ターゲット傾斜角θは、0度から45度が適当であり、好ましいターゲット傾斜角θは10度から30度である。
【0075】
本発明に用いることのできる成膜装置は、
図4に示すようなスパッタリング装置のスパッタリングを行うための成膜部13として配置することができる。
図4に示すスパッタリング装置は、成膜部13を常に高真空状態に保持できるロードロック機構を設け、ロードロック室11から成膜部13への透光性基板6の導入を、一定の間隔で、継続的に行えるような装置構成とすることができる。このような装置構成とすることにより、ロードロック室11から成膜部13への透光性基板6の導入を、一定の間隔で、継続的に行うことができる。
【0076】
図4に示すスパッタリング装置において、ロードロック室11には、大気とロードロック室11を隔離するバルブ12、及びロードロック室11と成膜部13とを隔離するバルブ14が取り付けられている。ロードロック室11としては、上記で説明した成膜部13への透光性基板6の導入を一定の間隔で継続的に行うことができる枚葉式であることができ、かつ所定の容積に設計されたものを設けることができる。成膜部13はスパッタリングを行う真空槽のための機能を有する。成膜部13への透光性基板6の導入をロボットアーム19によって行う場合には、成膜部13とロードロック室11との間に搬送室15を設けることができる。ロボットアーム19は、腕19aが図示A方向に開閉することによりハンド19bを図示B方向に移動できる構成になっている。またロボットアーム19は図示C方向に回転できる構成になっている。さらにロボットアーム19は紙面に対し上下方向に移動できる構成になっている。さらに、成膜のスループットを向上させるためには、上記ロードロック室11と同様の構成を有するアンロードロック室16を追加してもよい。
【0077】
本発明のマスクブランクの製造方法では、薄膜70を形成する工程において形成された薄膜70において、凹欠陥部6a上に形成された薄膜70の部分の内部領域73が低密度領域74を有する。透光性基板6の「凹欠陥部6a上に形成された薄膜70の部分の内部領域73」及び「低密度領域74」については、先に説明したとおりである。
【0078】
また、本発明のマスクブランクの製造方法では、薄膜70を形成する工程において形成された薄膜70において、低密度領域74における密度が、凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された薄膜70の部分の内部領域76における密度よりも相対的に低いことを特徴とする。本発明のマスクブランクの製造方法では、薄膜70の形成を、透光性基板6と、スパッタリングターゲット5とが所定の位置関係であるスパッタリング法による成膜方法によって行う。この成膜方法による薄膜70形成の場合には、成膜する薄膜70の膜厚の面内均一性を向上させることができるという利点がある。しかしながら、その反面、本発明者らは、この成膜方法を用いる場合には、透光性基板の凹欠陥部6aに成膜された薄膜70の密度が低くなる傾向があるという問題が生じることを見出した。本発明のマスクブランクの製造方法によれば、この問題が生じたとしても、次に述べる酸化層を形成する工程によって、低密度領域74を酸化させることにより、薄膜70の膜厚の面内均一性の向上と、空洞及びピンホール欠陥の発生の抑制という両方の課題を解決することができる。
【0079】
本発明のマスクブランクの製造方法は、形成された薄膜70の表層78に酸化層を形成する工程を備える。また、本発明のマスクブランクの製造方法では、酸化層を形成する工程が、薄膜70の表層78と低密度領域74とを酸化させるものであることを特徴とする。本発明のマスクブランクの薄膜70の表層78に酸化層を形成することにより、フォトマスクに対してArFエキシマレーザーなどの露光光照射が行われても、薄膜70のさらなる酸化及び膨張による変質層の発生及び拡大を効果的に抑えることが可能である。また、薄膜70の表層78に酸化層を形成する工程では、低密度領域74の酸化を同時に行うことができる。マスクブランクの薄膜70の低密度領域74を酸化させることにより、薄膜70の膜厚の面内均一性の向上と、空洞及びピンホール欠陥の発生の抑制という両方の課題を解決することができる。
【0080】
本発明のマスクブランクの製造方法では、薄膜70の表層78に酸化層を形成し、低密度領域74を酸化させるために、マスクブランクに対し、加熱処理、フラッシュランプアニール処理及び酸素プラズマ処理などから選択した処理を行うことができる。
【0081】
加熱処理は、酸素を含む雰囲気中での200℃〜900℃の処理である。加熱温度が200℃未満であると、洗浄耐性及び温水耐性が低下する場合がある。一方、加熱温度が900℃よりも高いと、薄膜70自体が劣化する恐れが生じる。本発明のマスクブランクの製造方法では、より好ましくは230℃〜650℃の範囲、さらに好ましくは250℃〜600℃の範囲での加熱処理をすることができる。これは、600℃前後でSi−Nの結合が増加するためであると考えられるためである。
【0082】
加熱処理に用いる加熱装置は、例えば加熱炉、オーブン、ホットプレート等、任意である。加熱処理は、酸素を含む雰囲気中で行うが、例えば加熱炉内を酸素置換した雰囲気で行うのが好適である。また、加熱処理は、大気中で行うことができる。大気中での加熱処理は、酸素等のガスの供給が不要なため、比較的低コストで行うことができる。また、加熱処理時間については、加熱温度と、加熱処理により酸化される表層78の厚さ及び薄膜70の低密度領域74の酸化の程度との兼ね合いで決定すればよい。具体的には、加熱処理時間は、例えば1時間〜3時間程度とすることが好ましい。
【0083】
本発明のマスクブランクの製造方法では、薄膜70の表層78に酸化層を形成し、低密度領域74を酸化させるための処理として、フラッシュランプアニール処理を行うことができる。
【0084】
フラッシュランプアニール処理は、マスクブランクに対して、酸素を含む雰囲気中でのエネルギー密度を5〜14J/cm
2でフラッシュランプ照射を行う処理である。照射エネルギー密度が5J/cm
2未満であると、洗浄耐性及び温水耐性が低下するという問題がある。一方、照射エネルギー密度が14J/cm
2よりも高いと、薄膜70自体が劣化する恐れが生じる。本発明のマスクブランクの製造方法では、特に好ましくは、酸素を含む雰囲気中でのエネルギー密度を8〜12J/cm
2の範囲でのフラッシュランプアニール処理を行うことができる。
【0085】
本発明のマスクブランクの製造方法においてフラッシュランプアニール処理をする場合、例えば大気中、酸素を含む雰囲気中で行うことが好ましい。特に酸素を含む雰囲気(例えば酸素と窒素との混合ガス雰囲気)中でフラッシュランプアニール処理を行うことが好適である。また、フラッシュランプアニール処理中は、マスクブランクを加熱しておくことが好ましい。マスクブランクの加熱温度は、例えば、150〜350℃程度の範囲、好ましくは200℃〜350℃の範囲、より好ましくは250℃〜350℃の範囲とすることができる。また、フラッシュランプアニール処理において、フラッシュランプ照射の照射時間は、上述の照射エネルギー密度と、上記処理により酸化される表層78の厚さ及び薄膜70の低密度領域74の酸化の程度との兼ね合いで決定すればよい。具体的には、酸化される表層78の厚さは、例えば1〜5nm程度とすることが好ましい。
【0086】
なお、フラッシュランプアニール処理を施す前に、マスクブランクに対して、例えば280℃以下の温度で低温加熱処理を行うこともできる。
【0087】
本発明のマスクブランクの製造方法では、薄膜70の表層78に酸化層を形成し、低密度領域74を酸化させるための処理として、酸素プラズマ処理を行うことができる。
【0088】
酸素プラズマ処理は、マスクブランクに対して、酸素プラズマ処理を照射する処理である。具体的には、例えば、マスクブランクを配置したチャンバー内を酸素ガス雰囲気として、所定のRFICPパワー及びRFバイアスパワーを印加することで、酸素ガスをプラズマ化し、マスクブランクの薄膜70に対して酸素プラズマを照射する処理である。
【0089】
酸素プラズマ処理中は、マスクブランクを加熱しておくことが好ましい。また、酸素プラズマの照射時間は、酸素プラズマ処理条件と、上記処理により酸化される表層78の厚さ及び薄膜70の低密度領域74の酸化の程度との兼ね合いで決定すればよい。具体的には、酸素プラズマ処理時間は、例えば1〜10分程度とすることが好ましい。
【0090】
なお、上述の酸素プラズマ処理を施す前に、マスクブランクに対して、例えば280℃以下の温度で低温加熱処理を行うこともできる。
【0091】
薄膜70の表層78に酸化層を形成するための処理によって形成される薄膜70の表層78の酸化層の厚さは、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。薄膜70の表層(酸化層)78の厚さが10nmよりも厚くなると、この表層78による透過率の変化量が大きくなり、表層78の透過率変化量を予め見込んだ膜設計がしづらくなる。また、表層78の厚さの下限については、1nm以上であることが好ましい。1nm未満であると、薄膜70を構成するSiの酸化速度を抑制する効果が十分に得られない。
【0092】
本発明のマスクブランクの製造方法では、マスクブランクの薄膜70の表層78に酸化層(ケイ素及び酸素を含む層)を形成することができる。薄膜70の表層78に酸化層を形成することにより、薄膜70の表層78のSiO
2分子数を増加させることで、Siの酸化速度を抑制することができる。これにより、たとえH
2OやO
2を含む環境でフォトマスクに対してArFエキシマレーザーなどの露光光照射が行われても、Siの酸化及び膨張による変質層の発生及び拡大を効果的に抑えることが可能である。そのため、本発明のマスクブランクの製造方法によれば、得られるフォトマスクの繰り返し使用を行い、フォトマスクの薄膜70パターン(転写パターン)に対して波長200nm以下の露光光が累積して照射されても、薄膜70パターンの転写特性、例えば、光半透過膜の透過率や位相差の変化及び線幅変化などを抑えることができる。
【0093】
本発明の製造方法により得られるマスクブランクを用いて製造されるフォトマスクに対して、例えばArFエキシマレーザーを総照射量30kJ/cm
2となるように連続照射した場合、例えばMoSi系光半透過膜における照射前後の光学特性変化量は、透過率変化量を0.60%以内、位相差変化量を3.0度以内とすることが可能である。さらに、透過率変化量を0.05%以内、位相差変化量を1.0度以内とすることが可能である。このように光学特性変化量は小さく抑えられ、この程度の変化量はフォトマスクの性能に影響はない。また、光半透過膜パターンの線幅の太り(CD変化量)に関しても、5nm以下に抑えることが可能である。
【0094】
また、本発明の製造方法によりMoSi系遮光膜を有するバイナリマスクブランクを製造する場合、このバイナリマスクブランクを用いて作製されるフォトマスクに対して、同様にArFエキシマレーザーを総照射量30kJ/cm
2となるように連続照射した場合、遮光膜パターンの線幅の太り(CD変化量)は、5nm以下に抑えることが可能である。
【0095】
なお、照射量30kJ/cm
2(エネルギー密度 約25mJ/cm
2)というのは、フォトマスクを略100,000回使用したことに相当し、通常のフォトマスクの使用頻度で略3カ月使用したことに相当する。
【0096】
なお、本発明のマスクブランクの製造方法は、薄膜70の表層78に酸化層を形成するための処理を再度施してもよい。すなわち、上述のような薄膜70の表層78に酸化層を形成するための処理の後に、マスクブランクに対し、加熱処理、フラッシュランプアニール処理及び酸素プラズマ処理などから選択した処理を再度行うことができる。
【0097】
本発明のマスクブランクの製造方法では、低密度領域74が、薄膜70の内部領域73で透光性基板6側から表層78側に向かって延びる断面形状を有することが好ましい。本発明のマスクブランクの製造方法において、マスクブランクの低密度領域74が薄膜70の内部領域73で透光性基板6側から表層78側に向かって延びる断面形状を有する場合に、転写用マスクの薄膜70内部の空洞及びピンホール欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。
【0098】
本発明のマスクブランクの製造方法では、表層78が、ケイ素及び酸素を主成分とすることが好ましい。本発明の製造方法により製造されたマスクブランクを用いた転写用マスクは、表層78が、ケイ素及び酸素を主成分とすることにより、H
2O、O
2やO
3を含む環境でフォトマスクに対してArFエキシマレーザーなどの露光光照射が行われても、Siの酸化及び膨張による変質層の発生、拡大を効果的に抑えることが可能である。その結果、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0099】
本発明のマスクブランクの製造方法では、薄膜70に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても凹欠陥部6a上に形成された薄膜70が残存することが好ましい。本発明の製造方法により製造されたマスクブランクの薄膜70に対し、5分以上の温水洗浄を行った後においても前記凹欠陥部6a上に形成された薄膜70が残存する場合には、低密度領域74が温水洗浄に対する耐性を有するといえる。したがって、このマスクブランクを用いるならば、転写用マスクの薄膜70の空洞及びピンホール欠陥の発生をさらに抑制することができ、転写用マスクの寿命をさらに長くすることができる。
【0100】
本発明は、上述のマスクブランクの薄膜70に、転写パターンが形成されていることを特徴とする転写用マスクである。本発明の転写用マスクにより、転写用マスクの薄膜70の膜厚の面内均一性の向上と、空洞及びピンホール欠陥の発生の抑制という両方の課題を解決することができる。そのため、本発明の転写用マスクにより、長寿命で良好なパターン形成を行うことができる。
【0101】
本発明は、上述のマスクブランク製造方法で製造されたマスクブランクの薄膜70に、転写パターンを形成するパターン形成工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。露光及びエッチング等により転写パターンを形成する方法は公知である。本発明の転写用マスクの製造方法により、長寿命で良好なパターン形成を行うことができる転写用マスクを得ることができる。
【0102】
本発明のマスクブランクの製造方法は、例えば、以下のようなマスクブランクの製造に好適である。
【0103】
(1)前記薄膜70が遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)の化合物を含む材料からなる光半透過膜である位相シフトマスクブランク
本発明により製造される上記位相シフトマスクブランクは、これを用いて位相シフトマスクとしたときに、例えばArFエキシマレーザーなどの短波長光を露光光源としてフォトマスクの繰り返し使用を行っても、光半透過膜の透過率や位相差の変化、線幅変化などを抑えられ、性能が劣化せず、フォトマスクの寿命を著しく改善できる。
【0104】
かかる位相シフトマスクブランクとしては、透光性基板6上に光半透過膜を有する形態のものであって、該光半透過膜をパターニングしてシフタ部を設けるタイプであるハーフトーン型位相シフトマスク用のマスクブランクがある。
上記光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜20%)を透過させるものである。また、上記光半透過膜は、所定の位相差(例えば180度)を有するものである。この光半透過膜をパターニングした光半透過部と、光半透過膜が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過して光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることができる。この結果、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像度を向上させることができる。
【0105】
また、位相シフトマスクブランクとしては、透光性基板6上に遮光膜や光半透過膜を有する形態のものであって、透光性基板6をエッチング等により掘り込んでシフタ部を設ける基板掘り込みタイプであるレベンソン型位相シフトマスク用やエンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクが挙げられる。
さらに、位相シフトマスクブランクとして、光半透過膜を透過した光に基づき転写領域に形成される光半透過膜パターンによる被転写基板のパターン不良を防止するために、透光性基板6上に光半透過膜とその上の遮光膜とを有する形態とするものなどが挙げられる。
【0106】
この光半透過膜は、遷移金属シリサイドの化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属シリサイドと、酸素及び/又は窒素とを主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等が適用可能である。
特に、光半透過膜をモリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)で形成し、MoSiN膜の主表面71を予め変質させる処理として加熱処理を行う場合、所望の位相差及び透過率を有しつつ、加熱処理による透過率変化を抑制するために、MoSiN膜におけるMoとSiの含有比は、Moが10%以上14%以下(好ましくは、11%以上13%以下)とするのが好ましい。
【0107】
また、光半透過膜上に遮光膜を有する形態の場合には、上記光半透過膜の材料が遷移金属シリサイドを含むので、遮光膜の材料は、光半透過膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物で構成する。
さらに、光半透過膜上に遮光膜を有する形態の場合には、光半透過膜を成膜した後、上記光半透過膜の主表面71を予め変質させる処理を施し、その後遮光膜を成膜するとよい。
【0108】
(2)前記薄膜70が遷移金属シリサイド(特にモリブデンシリサイド)の化合物を含む材料からなる遮光膜であるバイナリマスクブランク
本発明により製造される上記遮光膜が遷移金属シリサイド系のバイナリマスクブランクは、これを用いてバイナリマスクとしたときに、例えばArFエキシマレーザーなどの短波長光を露光光源としてフォトマスクの繰り返し使用を行っても、遮光膜の遮光性の低下、線幅変化などを抑えられ、性能が劣化せず、フォトマスクの寿命を著しく改善できる。
【0109】
かかるバイナリマスクブランクは、透光性基板6上に遮光膜を有する形態のものであり、この遮光膜は、遷移金属シリサイド化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属シリサイドと、酸素及び/又は窒素とを主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等が適用可能である。
【0110】
特に、遮光膜をモリブデンシリサイドの化合物で形成する場合であって、遮光層(MoSi等)及び表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層(MoSiON等)を加えた3層構造とした場合、遮光層のモリブデンシリサイド化合物におけるMoとSiの含有比は、遮光性の観点からは、Moが9%以上40%以下(好ましくは、15%以上40%以下、より好ましくは20%以上40%以下)とするのが好ましい。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0111】
さらに、レジスト膜の膜厚を薄膜化して微細パターンを形成するために、遮光膜上にエッチングマスク膜を有する構成としてもよい。このエッチングマスク膜は、遷移金属シリサイドを含む遮光膜のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物からなる材料で構成する。
また、遮光膜上にエッチングマスク膜を有する形態の場合には、遮光膜を成膜した後、上記遮光膜の主表面71を予め変質させる処理を施し、その後エッチングマスク膜を成膜するとよい。
【0112】
一方、本発明のマスクブランクでは、透光性基板6上の主表面71上に設けられる転写パターン形成用の薄膜70は、上述の例のように、遷移金属とケイ素を含有する材料で形成されることができる。しかし、ケイ素と窒素とからなる材料、又はケイ素及び窒素とからなる材料に半金属元素、非金属元素および希ガスから選ばれる1以上の元素を含有する材料を、本発明のマスクブランクのパターン形成用の薄膜70を形成する材料に用いた場合においても、本発明のマスクブランクのパターン形成用の薄膜70の構成を適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【0113】
本発明のマスクブランクの具体的な構成としては、透光性基板6の主表面71上に、転写パターン形成用の薄膜70を備えたマスクブランクであって、前記透光性基板6の、前記薄膜70が形成されている側の主表面71が、凹欠陥部6aを有し、前記薄膜70が、ケイ素と窒素とからなる材料、又はケイ素と窒素とからなる材料に半金属元素、非金属元素及び希ガスから選ばれる1以上の元素を含有する材料からなり、前記薄膜70の表層78に酸化層が形成されており、前記凹欠陥部6a上に形成された前記薄膜70の部分の内部領域73が低密度領域74を有し、前記低密度領域74における密度が、前記凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された前記薄膜70の部分の内部領域76における密度よりも相対的に低く、前記低密度領域74の酸素濃度が、前記凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された前記薄膜70の部分の前記表層78を除いた内部領域76の酸素濃度よりも相対的に高いことを特徴とするマスクブランクである。
【0114】
ケイ素と窒素からなる材料等を適用した転写パターン形成用の薄膜70を備えたマスクブランクの製造の場合においても、薄膜70のスパッタ成膜時におけるスパッタリングターゲット5表面からのパーティクル発生は避けがたい。このため、前記の遷移金属とケイ素を含有する材料の転写パターン形成用の薄膜70の場合と同様、ケイ素と窒素とからなる材料等の薄膜70の形成にも、斜入射回転スパッタリング法が適用される場合が多い。そして、このケイ素と窒素とからなる材料等の薄膜70を主表面71に凹欠陥部6aを有する透光性基板6上に斜入射回転スパッタリング法で成膜した場合においても、凹欠陥部6aに対応する部分72の薄膜70に同様の成膜ムラ(低密度領域74)が発生しやすい。さらに、その低密度領域74は、洗浄耐性(特に温水洗浄耐性)が低い。このため、この低密度領域74の酸素濃度を、凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された薄膜70の表層78以外の部分である内部領域76の酸素濃度よりも相対的に高くすることで、遷移金属とケイ素を含有する材料の転写パターン形成用の薄膜70の場合と同様に洗浄耐性を高めることができる。
【0115】
同様に、本発明のマスクブランクの製造方法においても、薄膜70を形成する工程を、ケイ素のスパッタリングターゲット5又はケイ素に半金属元素及び非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなるスパッタリングターゲット5を用い、窒素系ガスと希ガスを含むスパッタリングガス中でのスパッタリング法によって、薄膜70を形成する工程に代えた場合においても、本発明のマスクブランクの製造方法で得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0116】
本発明のマスクブランクの製造方法の具体的な構成としては、透光性基板6の主表面71上に、転写パターン形成用の薄膜70を備えたマスクブランクの製造方法であって、前記透光性基板6における凹欠陥部6aを有する主表面71に対して、ケイ素のスパッタリングターゲット5又はケイ素に半金属元素及び非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなるスパッタリングターゲット5を用い、窒素系ガスと希ガスを含むスパッタリングガス中でのスパッタリング法によって、前記薄膜70を形成する工程と、形成された前記薄膜70の表層78に酸化層を形成する工程とを備え、前記薄膜70を形成する工程が、前記透光性基板6を主表面71の中心を通る回転軸で回転させることと、スパッタリングターゲット5のスパッタ面52を、前記透光性基板6の主表面71と対向し、かつ前記主表面71と、前記スパッタ面52とが所定の角度を有し、前記透光性基板6の回転軸と、前記スパッタ面52の中心を通り前記透光性基板6の回転軸に対して平行な直線とがずれた位置になるように配置することとを含むスパッタリング法によって前記薄膜70を形成するものであり、前記薄膜70を形成する工程において形成された前記薄膜70において、前記凹欠陥部6a上に形成された前記薄膜70の部分の内部領域73が低密度領域74を有し、前記低密度領域74における密度が、前記凹欠陥部6aのない主表面71上に形成された前記薄膜70の部分の内部領域76における密度よりも相対的に低く、前記酸化層を形成する工程が、前記薄膜70の表層78と低密度領域74とを酸化させるものであることを特徴とする、マスクブランクの製造方法である。
【0117】
前記薄膜70に含有することのできる半金属元素は、特に限定されない。半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる一以上の元素を含有させるようにすると、スパッタリングターゲット5として用いるケイ素にこれらの半金属元素を含有させることができ、スパッタリングターゲット5の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。このマスクブランクの製造方法における薄膜70を形成する工程では、いずれのスパッタリング法も適用できる。スパッタリングターゲット5の導電性が、遷移金属を含有させた薄膜70の場合に比べて低いことから、RFスパッタ法やイオンビームスパッタ法を適用するとより好ましい。
【0118】
前記薄膜70には、いずれの非金属元素を含有させてもよい。非金属元素の中でも、炭素、フッ素及び水素から選ばれる一以上の元素を含有させることが好ましい。前記薄膜70を形成する工程で使用する窒素系ガスは、窒素を含有するガスであればいずれのガスも適用可能である。酸化層が形成される前の前記薄膜70は酸素含有量を低く抑えることが好ましいため、酸素を含有しない窒素系ガスを適用することが好ましく、窒素ガスを適用するとより好ましい。前記薄膜70を形成する工程で使用する希ガスは、いずれの希ガスも適用可能であるが、成膜レートのことを考慮すると、アルゴン、クリプトン、キセノンを適用することが好ましい。また、形成される薄膜70の応力を緩和することを考慮すると、原子量の小さいヘリウム、ネオンを適用し、薄膜70に積極的に取り込ませることが好ましい。
【0119】
なお、遷移金属を含有しない材料で形成されている薄膜70を有する前記のマスクブランクやそのマスクブランクの製造方法に関するその他の構成については、上述の本発明のマスクブランクや本発明のマスクブランクの製造方法の場合と同様である。また、遷移金属を含有しない材料で形成されている薄膜70を有する前記のマスクブランクを用いて作製される転写用マスクやその転写用マスクの製造方法についても、上述の本発明の転写用マスクや本発明の転写用マスクの製造方法と同様である。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
図8に、実施例1の位相シフトマスクブランク10の断面模式図を示す。透光性基板6としてサイズ6インチ(152mm)角、厚さ0.25インチ(6.35mm)の合成石英ガラス基板を用い、透光性基板6上に、窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜(薄膜70)を成膜した。
【0121】
実施例1による成膜には、
図4で説明したようなDCマグネトロンスパッタリング装置を用いた。ここで、
図4に示すDCマグネトロンスパッタリング装置における成膜部13は、
図2に示すような成膜室1を有しており、この成膜室1の内部にマグネトロンカソード2及び透光性基板6を載置するための回転ステージ3が配置されている。マグネトロンカソード2にはバッキングプレート4に接着されたスパッタリングターゲット5が装着されている。実施例1では、バッキングプレート4に無酸素銅を用い、スパッタリングターゲット5とバッキングプレート4との接着(ボンディング剤)にはインジウムを用いている。バッキングプレート4は水冷機構により直接又は間接的に冷却されている。マグネトロンカソード2とバッキングプレート4及びスパッタリングターゲット5とは電気的に結合されている。回転ステージ3には透光性基板6が装着されている。
【0122】
また、実施例1による成膜には、スパッタリングターゲット5と透光性基板6とが、
図2及び
図3に示すように、透光性基板6とスパッタリングターゲット5の対向する面が所定のターゲット傾斜角θを有するように、スパッタリングターゲット5及び透光性基板6が配置されている構成の装置を用いた。この場合、スパッタリングターゲット5と透光性基板6とのオフセット距離Doffは340mm、スパッタリングターゲット5−透光性基板6間垂直距離(H)は280mm、ターゲット傾斜角θは15度とした。
【0123】
成膜室1は排気口7を介して真空ポンプにより排気されている。成膜室1内の雰囲気が形成する薄膜70の特性に影響しない真空度まで達した後、ガス導入口8から窒素を含む混合ガスを導入し、DC電源(図示せず)を用いてマグネトロンカソード2に負電圧を加え、スパッタリングによる成膜を行った。DC電源はアーク検出機能を持ち、スパッタリング中の放電状態を監視することができる。成膜室1内部の圧力は圧力計(図示せず)によって測定した。
【0124】
窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜(薄膜70)の成膜条件としては、次のとおりである。すなわち、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=11mol%:89mol%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気(ガス流量比 Ar:N
2:He=4:38:58)で、ガス圧0.3Pa、DC電源の電力を3.1kWとして、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜を69nmの膜厚で形成した。
【0125】
次いで、上記MoSiN膜が形成された基板に対して、薄膜70の表層78に酸化層を形成する処理を施した。具体的には、加熱炉(電気炉)を用いて、大気中で加熱温度を400℃、加熱時間を4時間として、加熱処理を行った。加熱処理後のMoSiN膜は、ArFエキシマレーザーにおいて、透過率は6.14%、位相差が177.8度となっていた。
【0126】
加熱処理後の実施例1のMoSiN膜の断面を、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察した。
図5は、凹欠陥部6aを有する透光性基板6の表面に、薄膜70を形成した部分の、実施例1の断面TEM写真である。また、
図1に、
図5に示す実施例1のTEM写真を模式的に描いた模式図を示す。
図5に示すように、実施例1のMoSiN膜の表層78の部分に厚さ略1nmの被膜が形成されていたことが分かった。また、この被膜の組成は、Siと酸素を主成分として含む膜であることを確認した。
図5では、低密度領域74では比較的軽元素である酸素濃度が高いため、他の部分と比べて白っぽい色をしていることが見て取れる。なお、白金蒸着膜80及びTEM写真中の上方に見えるその他の構造は、TEM観察ために導電性を付与するなどのために形成したものである。
【0127】
また、このTEM観察時に、凹欠陥部6a上の内部領域73の低密度領域74と、それ以外の内部領域73に対して、TEMに付属するエネルギー分散型X線分光器(EDX:Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)を用いた分析を行った。内部領域73では、酸素についてはこの分析法で不可避的に検出される程度の低いピークであったのにし、低密度領域74では、酸素の高いピークが検出された。この結果から、低密度領域74の酸素含有量は、それ以外の内部領域73に比べて相対的に多いことが分かる。
【0128】
(実施例2)
上述の実施例1と同様に、MoSiN膜が形成された基板に対して所定の大気中での加熱処理を施したマスクブランクに対し、温水洗浄を行い、実施例2のマスクブランクを得た。温水洗浄の条件は、次のとおりである。
使用温水:イオン交換水(DIW:Deionized Water),使用温度:80℃,処理時間:30分
【0129】
上述の温水洗浄後の実施例2のマスクブランクのピンホール欠陥を観察したところ、ピンホール欠陥は、発生していないことが確認された。したがって、本発明の実施例のマスクブランクを用いて転写用マスクを製造するならば、転写用マスクの薄膜70に空洞及びピンホール欠陥が発生することを抑制することができることが明らかとなった。
【0130】
(比較例1)
実施例1と同様に、透光性基板6上に、窒化されたモリブデン及びシリコンからなる光半透過膜(MoSiN膜の薄膜70)を成膜した。
【0131】
次いで、上記MoSiN膜が形成された基板に対して、次のように加熱処理を施した。すなわち、比較例1に対する加熱処理は、加熱炉(電気炉)を用いて、窒素雰囲気(酸素非含有雰囲気)中で加熱温度を400℃、加熱時間を4時間として行った。加熱処理後の比較例1のMoSiN膜は、ArFエキシマレーザーにおいて、透過率は6.11%、位相差が178.2度となっていた。
【0132】
加熱処理後の比較例1のMoSiN膜の断面を、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて詳しく観察した。
図6は、凹欠陥部6aを有する透光性基板6の表面に、薄膜70を形成した部分の、比較例1の断面TEM写真である。
図6に示す比較例1の断面TEM写真を詳細に検証した結果、MoSiN膜の表層78の部分に特に変化はなく、被膜のようなものは形成されていなかったことを確認した。また、
図6に示す比較例1の場合には、凹欠陥部6aの右手側の薄膜70内に成膜ムラに起因する低密度領域74が見て取れる。
図6に示す比較例1の低密度領域74は、
図5(実施例1)に示す低密度領域74と比べて、黒っぽい色をしていることが見て取れる。その理由は、
図5(実施例1)に示す低密度領域74と比べて、
図6に示す比較例1の低密度領域74では、軽元素である酸素濃度が低いことによるものと推測できる。
【0133】
また、このTEM観察時に、低密度領域74と、それ以外の内部領域73に対して、TEMに付属するエネルギー分散型X線分光器(EDX)を用いた分析を行った。内部領域73、低密度領域74ともに、酸素については、この分析法で不可避的に検出される程度の低いピークであった。
【0134】
(比較例2)
上述の比較例1と同様に、MoSiN膜が形成された基板に対して所定の窒素雰囲気(酸素非含有雰囲気)中での加熱処理を施したマスクブランクに対し、温水洗浄を行い、比較例2のマスクブランクを得た。温水洗浄の条件は、実施例2と同様である。
【0135】
上述の温水洗浄後の比較例2のマスクブランクのピンホール欠陥を観察したところ、ピンホール欠陥は、1個発生していることが確認された。このようなマスクブランクは、このマスクブランクから転写用マスクを作製するプロセス中や、完成した転写用マスクに対して洗浄を行ったとき等に、ピンホール欠陥が突如発生する可能性が高く、製品として許容範囲外である。また、ピンホール欠陥付近の薄膜70の断面をTEM観察した結果を、
図7のTEM写真に示す。
図7に示すように、比較例2のマスクブランクの薄膜70の内部領域73には、空洞が発生したことが分かった。