特許第6173745号(P6173745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173745
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】ドラム缶検査方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20170724BHJP
   G01N 29/22 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   G01N29/11
   G01N29/22
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-76603(P2013-76603)
(22)【出願日】2013年4月2日
(65)【公開番号】特開2014-202511(P2014-202511A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】511238929
【氏名又は名称】金川 典代
(74)【代理人】
【識別番号】100101432
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 太
(72)【発明者】
【氏名】原 徹
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 甫
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−025109(JP,A)
【文献】 特開昭53−010483(JP,A)
【文献】 特開2009−092471(JP,A)
【文献】 特開2008−175796(JP,A)
【文献】 特開2005−156333(JP,A)
【文献】 特開2007−132770(JP,A)
【文献】 特開平11−183445(JP,A)
【文献】 特開昭59−120862(JP,A)
【文献】 特開2013−079843(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0260442(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム缶に発生した断面欠損部を外面側から検出する検査方法であって、前記ドラム缶の側板について、超音波探傷手段より側板面にSH波を入射して前記欠損部の検出を行うドラム缶検査方法において、
超音波探傷手段としての側板超音波探触子を側板面の上辺部及び/又は下辺部に取付ける取付け工程と、
この取付け位置で側板面にSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する第1検出工程と、
この取付け位置を中心に側板超音波探触子を回転させて入射方向の角度を相違させたSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する第2検出工程と、
第1検出工程と第2検出工程との同一地点での断面欠損部のエコー高さの差異によって推察された当該断面欠損部の方向と、当該欠損部までの距離とから断面欠損部の位置を検出する第1位置検出工程とを備え
前記取付け工程における取付け位置に対向する辺部に側板超音波探触子を取付ける第2取付け工程と、
この第2取付け位置で側板面に前記第1検出工程と反対方向にSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する反第1検出工程と、
この第2取付け位置を中心に側板超音波探触子を回転させて入射方向の角度を相違させたSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する反第2検出工程と、
反第1検出工程と反第2検出工程との同一地点での断面欠損部のエコー高さの差異によって推察された当該断面欠損部の方向と、当該欠損部までの距離とから断面欠損部の位置を検出する第2位置検出工程と、
前記第1位置検出工程と第2位置検出工程とから断面欠損部の位置を検出する統合位置検出工程とを更に備えたことを特徴とするドラム缶検査方法。
【請求項2】
前記ドラム缶の底板について、底板周縁の側板との嵌合縁部に取付けた底板超音波探触子よりSH波を底板平面に対する垂直方向に入射して断面欠損部の検出を行う底板検査を更に行うことを特徴とする請求項1に記載のドラム缶検査方法。
【請求項3】
ドラム缶に発生した断面欠損部を外面側から検出する超音波探傷手段を備えたドラム缶検査装置であって、
超音波探傷手段として、
SH波を側板の円周方向に入射させて断面欠損部の検出を行う側板超音波探触子と、
前記側板超音波探触子を前記ドラム缶の側板面の上辺部及び/又は下辺部に取付け、この取付け位置で側板超音波探触子を少なくとも1/4回転可能な探触子取付け治具とを備え、
前記超音波探傷手段として、
側板面の予め定められた一周上の上辺部と下辺部と各々に2つずつ離反方向にSH波を側板の円周方向に入射させて断面欠損部の検出を行う4つの側板超音波探触子と、
前記側板超音波探触子の各々の取付け位置で1/4回転可能な4つの探触子取付け治具とを更に備えたことを特徴とするドラム缶検査装置。
【請求項4】
前記ドラム缶の底板周縁の嵌合縁部に間隔を開けて取付けて、SH波を底板平面に対する垂直方向に入射させて断面欠損部の検出を行う一組の底板超音波探触子を更に備えることを特徴とする請求項3に記載のドラム缶検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム缶の欠損部と腐食を検査するドラム缶検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラム缶は石油等の液体を一時的に貯蔵して搬送する際に用いられる。その他にも、低レベル放射性廃棄物を収納するドラム缶内面と外面に発生する腐食、あるいは錆、あるいは物理的な要因による磨耗などの断面欠損部を外面側から検出し、その発生位置が特定できる検査手法を確立するとともに、断面欠損部の残厚を測定し、残余寿命のデータを得ることが可能なドラム缶検査方法及び装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このドラム缶検査方法は、横波の超音波によりドラム缶に発生する断面欠損部の検出および範囲を推定する1次検査を行い、縦波の超音波により1次検査で得た範囲を垂直探傷することにより減肉の程度を検出する2次検査を行う検査方法である。1次検査は、横波の超音波をドラム缶の側板の上端部から下端部へ伝播させかつ下端部から上端部へ伝播させるか、又は、横波の超音波をドラム缶の天板及び底板の円周外縁部から中心部へ伝播させるものである。
【0004】
また、ドラム缶検査装置としては、横波の超音波によりドラム缶に発生する断面欠損部の検出および範囲を推定する1次調査を行う1次検査超音波器と、縦波の超音波により1次検査で得た範囲の垂直探傷することにより減肉の程度を検出する2次調査を行う2次検査超音波器とを備えるドラム缶検査装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−175796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば低レベル放射性廃棄物を収納するドラム缶の保管状態の現状は、多数のドラム缶自体が山積みの状態となっており、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であるため、この表出面が実際の作業範囲となり、底面は実質的に作業ができない状態である。また、特定の廃棄物を保管する際にも山積み状態となっている。
【0007】
本発明は、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損部を外面側から検出することができる検査方法及びその装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、ドラム缶に発生した断面欠損部を外面側から検出する検査方法であって、前記ドラム缶の側板について、超音波探傷手段より側板面にSH波を入射して前記欠損部の検出を行うドラム缶検査方法において、
超音波探傷手段としての側板超音波探触子を側板面の上辺部及び/又は下辺部に取付ける取付け工程と、
この取付け位置で側板面にSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する第1検出工程と、
この取付け位置を中心に側板超音波探触子を回転させて入射方向の角度を相違させたSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する第2検出工程と、
第1検出工程と第2検出工程との同一地点での断面欠損部のエコー高さの差異によって推察された当該断面欠損部の方向と、当該欠損部までの距離とから断面欠損部の位置を検出する第1位置検出工程とを備え
前記取付け工程における取付け位置に対向する辺部に側板超音波探触子を取付ける第2取付け工程と、
この第2取付け位置で側板面に前記第1検出工程と反対方向にSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する反第1検出工程と、
この第2取付け位置を中心に側板超音波探触子を回転させて入射方向の角度を相違させたSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する反第2検出工程と、
反第1検出工程と反第2検出工程との同一地点での断面欠損部のエコー高さの差異によって推察された当該断面欠損部の方向と、当該欠損部までの距離とから断面欠損部の位置を検出する第2位置検出工程と、
前記第1位置検出工程と第2位置検出工程とから断面欠損部の位置を検出する統合位置検出工程とを更に備えたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、請求項1に記載のドラム缶の底板について、底板周縁の側板との嵌合縁部に取付けた底板超音波探触子よりSH波を底板平面に対する垂直方向に入射して断面欠損部の検出を行う底板検査を更に行うことを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、ドラム缶に発生した断面欠損部を外面側から検出する超音波探傷手段を備えたドラム缶検査装置であって、
超音波探傷手段として、
SH波を側板の円周方向に入射させて断面欠損部の検出を行う側板超音波探触子と、
前記側板超音波探触子を前記ドラム缶の側板面の上辺部及び/又は下辺部に取付け、この取付け位置で側板超音波探触子を少なくとも1/4回転可能な探触子取付け治具とを備え、
前記超音波探傷手段として、
側板面の予め定められた一周上の上辺部と下辺部と各々に2つずつ離反方向にSH波を側板の円周方向に入射させて断面欠損部の検出を行う4つの側板超音波探触子と、
前記側板超音波探触子の各々の取付け位置で1/4回転可能な4つの探触子取付け治具とを更に備えたことを特徴とするものである。
【0013】
請求項4に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、請求項3に記載のドラム缶の底板周縁の嵌合縁部に間隔を開けて取付けて、SH波を底板平面に対する垂直方向に入射させて断面欠損部の検出を行う一組の底板超音波探触子を更に備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損部を外面側から正確に検出することができる検査方法及びその装置を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ドラム缶の正面図である。
図2】ドラム缶の平面図である。
図3】測線1からR1〜R9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
図4】測線2からS1〜S9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
図5】測線3からS1〜S9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
図6】溶接線Aから200mm離れた新たな測線から水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
図7】超音波探触子とこの超音波探触子をスムーズに回転できるように作成した回転補助アクリル治具との構成を示す説明図である。
図8】探傷試験に用いた側板モデルの展開図である。
図9】探傷試験の結果の探傷波形を示す線図であり、a図は水平から22.5度の結果を示し、b図は水平から52.5度の結果を示す。
図10】4つの探触子を用いる探傷試験の取付け位置を示す正面図及び側板展開図である。
図11】側板探査時と同じ感度(40dB)での底板の嵌合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
図12】感度を上げた場合での底板の嵌合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、超音波探傷手段としての側板超音波探触子を側板面の上辺部及び/又は下辺部に取付ける取付け工程と、この取付け位置で側板にSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する第1検出工程と、この取付け位置を中心に側板超音波探触子を回転させて入射方向の角度を相違させたSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する第2検出工程と、第1検出工程と第2検出工程との同一地点での断面欠損部のエコーまでの距離時間の差異によって推察された当該断面欠損部の方向と、当該欠損部までの距離とから断面欠損部の位置を検出する第1位置検出工程とを備える。これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の側壁面の断面欠損部を外面側から検出することができる。
【0017】
また好ましくは、取付け工程における取付け位置に対向する辺部に側板超音波探触子を取付ける第2取付け工程と、この第2取付け位置で側板に前記第1検出工程と反対方向にSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する反第1検出工程と、この第2取付け位置を中心に側板超音波探触子を回転させて入射方向の角度を相違させたSH波を入射させて断面欠損部をエコー高さとして検出する反第2検出工程と、反第1検出工程と反第2検出工程との同一地点での断面欠損部のエコーまでの距離時間の差異によって推察された当該断面欠損部の方向と、当該欠損部までの距離とから断面欠損部の位置を検出する第2位置検出工程と、前記第1位置検出工程と第2位置検出工程とから断面欠損部の位置を検出する統合位置検出工程とを更に備えることにより、断面欠損部をドラム缶の全周に亘ってより正確に特定することが可能となる。
【0018】
本発明の超音波探傷手段は、横波の一つであるSH波を照射するものであればよい。具体的には、一般的に超音波探傷に用いられる超音波としては、縦波、横波の1種であるSV波、同じく横波の1種であるSH波等がある。縦波は伝搬方向に振動する波であり、伝搬方向と垂直な方向には振動しない特徴を持つ。一方、SV波は伝搬方向に垂直な方向に振動する横波であり、探傷面に垂直な方向に振動している波である。横波であるため方向性がある。
【0019】
一方、SH波は、SV波と同じ方向性のある横波であるが、探傷面と平行な方向に振動している波である。SH波はSV波と異なり、屈折角90°に近い方向にも横波を強く対象物に入射させることができる特性を有する。このため、本発明では、対象とするドラム缶の板厚が薄いこと、また、超音波をある程度の距離を伝播させることを考慮し、SH波を適用した。
【0020】
このSH波については、方向性があり、超音波探触子においては、その伝播角度は約29度である。このため、ドラム缶の1箇所ではなく、相違する箇所で側板面に存在する欠損部からの反射を検出することにより、その欠損部の位置を計測することが可能となる。尚、本発明の側板超音波探触子の回動の中心となる取付け位置は、厳密には探触子からドラム缶側板へのSH波の入射点と一致することが好ましい。入射点を中心に探触子を回動させれば、入射点の近傍に欠損部がある場合も検出可能であり、離れた欠損部に対しても入射点からの距離のズレが生じないためである。
【0021】
加えて、ドラム缶の底板について、底板周縁の嵌合縁部に取付けた底板超音波探触子よりSH波を底板平面に対する垂直方向に入射して断面欠損部の検出を行う底板検査を更に行うことにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の底板部の断面欠損部を外面側から検出することができる。
【0022】
このSH波をドラム缶の側板及び底板に入射して欠損部の検出を行うものとしては、超音波探触子と側板面との接触部からSH波を側板面に入射し、側板面に存在する欠損部からの反射波を超音波探触子によって検出するものであればよい。
【0023】
本発明において対象物に入射させるSH波の周波数については、好ましくは0.3MHz〜0.8MHzの範囲から選定されればよい。0.3MHzより低い周波数では、ドラム缶の傷・欠損部に対して波長が大きくなり、十分な精度で検査できず、0.8MHzより高い周波数では、減衰が大きくなり、十分な距離を伝搬せずに十分な精度で検査ができないからである。より好ましい周波数は、0.4MHz〜0.6MHz、最も好ましい周波数は0.5MHzである。
【0024】
また、本発明の検査対象物はドラム缶である。このドラム缶は当初原油や灯油の運搬に使用されていたが、近年は化学製品、塗料等の運搬にも使用されるようになってきた。また、低レベル放射性廃棄物を収納したり、特定の廃棄物を収納して保存する目的にも使用されている。
【0025】
このドラム缶は、円柱の側壁にあたる側板と、この側板の上下に天板、底板を有するものである。ドラム缶の各壁面の内側及び外側については、メッキや樹脂膜による塗装が施されたものであってもよい。例えば、ドラム缶の多くは、側板、天板、底板の両面に亜鉛メッキが施され、この亜鉛メッキ層の表面に樹脂膜が設けられている。より具体的には、鉄板の厚さは1.6mm、亜鉛メッキ層の厚さは0.02mmが施され、樹脂膜層の厚さは0.03mmが主流である。尚、樹脂膜層は、例えばエポキシ樹脂を用いるが、これに限定されない。低レベル放射性廃棄物を収納するためのドラム缶では、天板については取り外し可能なオープン型のドラム缶が主流である。
【0026】
ドラム缶は、次のようにして形成される。まず、側板は鋼板を円筒形に曲げて両端辺を溶接した後、円筒の両端を鍔出しを行い、円筒の側方からの力に対向するために円筒内部の2カ所に輪帯を形成させる。天板及び底板は円形のお盆状に打ち抜いた鋼板の周囲を折り曲げるプリカール処理が行われる。側板、天板及び底板の表面を処理・塗装した後、側板の下縁部と底板の周縁部を巻き閉め加工してドラム缶が成形される。巻き締め加工により、側板の下縁部と底板の周縁部とが2〜3重に巻き締められて嵌合部が形成される。オープン型のドラム缶では、側板の上縁部と天板の周縁部とが互いに掛合可能なように曲げ加工が施される。
【0027】
ドラム缶の側板については、溶接により円筒形を形作っており、この天板−底板の上下方向に形成された溶接部が、この溶接部を横切る超音波探傷に対しては後述するように溶接部を超えて超音波が伝達されて欠損部を検知する。
【0028】
更に、好ましい本発明では底板周縁の嵌合縁部に取付けた底板超音波探触子よりSH波を底板平面に対する垂直方向に入射して断面欠損部の検出を行う底板検査を更に行う。これにより、山積みの状態での実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても探知することができる。
【0029】
また、本発明のドラム缶検査装置は、超音波探傷手段として、SH波を側板の円周方向に入射させて断面欠損部の検出を行う側板超音波探触子と、側板超音波探触子をドラム缶の側板面の上辺部及び/又は下辺部に取付け、この取付け位置で側板超音波探触子を少なくとも1/4回転可能な探触子取付け治具とを備え、より好ましくは、側板面の予め定められた一周上の上辺部と下辺部と各々に2つずつ離反方向にSH波を側板の円周方向に入射させて断面欠損部の検出を行う4つの側板超音波探触子と、側板超音波探触子の各々の取付け位置で1/4回転可能な4つの探触子取付け治具とを備える。
【実施例】
【0030】
実施例1(SH波の側板への周方向入力によるドラム缶欠損部探査の検討)
1−1.検査法
探査対象となるドラム缶の現地の保管状態では、側面の1/3程度が実際の作業範囲で、底面は実質的に作業ができない状態である。このため、ドラム缶の側面に対して縦方向からSH波を入力する方法では、探査が不可能である。これを回避するために、側板では探触子の超音波入射方向を円周に沿った水平とし、底板は嵌合部から入射すると言う方法を考案し、探査の可能性を確認する実験を行った。
【0031】
1−2.ドラム缶の構成
図1はドラム缶の正面図である。図2はドラム缶の平面図である。用いたドラム缶の形状・寸法・内径は次の通りである。ドラム缶内径(567±3mm)、外高(890±5mm)、容量(212L以上)、板厚(1.6mm)である。
【0032】
1−3.検査装置
超音波探傷装置は、菱電湘南エレクトロニクス社(株)製低周波汎用超音波探査機UI−23LFを用い、SH波探触子の周波数は、0.5MHzとした。
【0033】
1−4.実験手順
(1) ドラム缶側板に貫通孔及び非貫通の円錐状のキズを加工した。具体的には、図1に示したドラム缶の正面図で黒四角印の貫通孔S1〜S9である。尚、図示してはいないが図1の裏面側に溶接線Aから測線2を通過した約700mm離れた地点にドラム缶内側にS1〜S9と同様に非貫通孔R1〜R9が形成されている。
(2) ドラム缶底板に貫通孔及び非貫通の円錐状のキズを加工した。具体的には、図2に示したドラム缶の平面図で黒丸印の非貫通のキズA1〜A8と黒四角印の貫通孔B1〜B8である。
【0034】
1−5.側板の計測
ドラム缶側板の計測を行った。溶接部を介して超音波が伝搬するかを検証するため、溶接部Aを挟んで、測線1と測線2とのを2本を設定した。図1に示す通り、測線1はドラム缶側板の貫通孔S1が形成されており、表面の溶接線Aから約95mmの地点である。測線2は表面の溶接線Aに対して測線1の対向側に配され、溶接線Aに対してから約410mmの地点とした。また、S9から218mm離れた測線3を設定した。測線毎に、端部とリム間、或いは、リム間の計3箇所に側板超音波探傷手段としての超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。
【0035】
尚、側板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB、 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 1000mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0036】
(5-1) 測線1での測定
図3は測線1から非貫通孔R1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0037】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示される通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0038】
(5-2) 測線2での測定
図4は測線2からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図は測線2上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示す。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0039】
(5-3) 測線3での測定
図5は測線3からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0040】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示す通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0041】
(5-4) 新たな測線での測定
溶接線Aを跨いだ反射エコーを更に検証した。溶接線Aを中心として貫通孔S1から200mm離れた測線上に超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。図6はその結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。
【0042】
図6に示す通り、200、340、380、635mmの地点に明確なキズがあることが示されている。ここで200mmの反射エコーは溶接部からのものである。実際の測定では、2箇所からの測定で得られた反射エコーの数値を半径とした2つの円をドラム缶表面に描けば、その交点にキズがあることになる。
【0043】
340mmはS2のキズであり、380mmはS3のキズであることが確認された。また、635mmについては、キズを示すエコーか、ノイズかが不明であったが、実際に確かめると635mmは名称未設定のキズであったことが確認された。以上のように、側板については水平方向の探査が十分可能であることが確認された。
【0044】
(5-5) 側板での伝播範囲の確認
測線2から非貫通孔R1を狙って探触子を置く。この場合、探触子11を上端に付けた位置では感度がないので、上端から52mm下げた測線地点で200mmの位置にR1を見つけていることから、側板に横方向で入力する場合のSH波伝播角度は約29度となることが確認された。
【0045】
実施例2(超音波探触子の回転によるドラム缶欠損部探査の検討)
2−1.検査法
断面欠損部をより正確に特定するために、超音波探触子を取付け位置で回転可能とするアクリル治具を使用し各エコー高さを測定した。図7は超音波探触子とこの超音波探触子をスムーズに回転可能に作成した回転補助アクリル治具との構成を示す説明図である。
【0046】
図7に示す通り、回転補助アクリル治具72は、ドラム缶の側壁の曲面に対応した曲面底面73を備え、表面側中央部には、SH波探触子71のフラットな底面に当接する円形の窪み74を備え、ドラム缶の側壁の所望の位置に固定するための3つの磁石75が計測範囲外の3箇所に配されている。尚、探触子71の回動の中心となる取付け位置の近傍に欠損部がある場合でも良好に検出可能となるため、また、離れた欠損部までの距離のズレが生じないために、SH波探触子71の入射点と、アクリル治具72の回動の中心とを一致させるように配置されている。
【0047】
尚、図7にはSH波探触子71を固定するための固定手段は開示していないが、超音波探傷装置の駆動時に探触子を動かさなければよいので、作業者の手作業によるアクリル治具への押圧でもかまわず、アクリル治具72と同様に磁石でドラム缶に固定するL字状又は門状の治具でSH波探触子を固定したり、アクリル治具自体にSH波探触子とこの探触子を回動させる駆動手段とを一体にして、超音波探傷装置に駆動手段の回転駆動を制御する制御手段を備えても良い。
【0048】
2−2.検査装置
超音波探傷装置は、Starmans社製ポータブルフェイズドアレイ超音波探傷器DIO−1000及びSH波探触子(0.5Z20×20HA90:ジャパンプローブ社製)を用いた。また、周波数等の検査条件は次の表1の通りである。
【0049】
【表1】
【0050】
2−3.実験手順
図8は探傷試験に用いた側板モデルの展開図である。図8の側板モデル81は,縦890mm横900mmのドラム缶と同じ厚さの鋼板を用意し、位置Pに対して同心円状にキズa1,a2,a3〜f1,f2,f3を付けた。各々のキズはaの組は水平面から7.5度回転させた方向であり、bの組はaの組に対して、15度回転させた方向であり、以降のcの組、dの組、eの組、fの組も各々15度回転させた方向である。
【0051】
図8に示す通り、位置Pに図7の回転補助アクリル治具72を介して超音波探触子71を取り付け、取付け位置Pに対して同心円状に配したキズa1,a2,a3〜f1,f2,f3の反射エコーを検出した。その際、超音波探傷子71の角度を各a組〜f組に正対するように合計6回行った。結果を次の表2と図9に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
図9は表2の一部の結果の探傷波形を示す線図であり、a図は水平から22.5度の結果を示し、b図は水平から52.5度の結果を示す。a図及びb図に示す通り、各々でキズエコーが確認された。a図、b図以外にも15度毎回転させた場合でも同様であった。
【0054】
図9及び表2に示す通り、キズエコーの高さ、ばらつきは、距離に比例して小さくなることも確認できた。ゲインが95dBでもキズまでの距離が遠い場合にはエコー高さが10%以下になることもあるため、キズの判断を注意深く行う必要がある。また、角度が52.5度以上になった場合、底辺(底面)からのエコーのような波形が現れるため、キズと誤認しないよう注意する必要がある。
【0055】
2−4.4点式回動探傷検査装置
以上のように、SH波は指向性があり、その伝播角度は約29度であることが判った。また、探触子からの距離は短いほどエコー高さが高く、良好にキズ等の欠損部を検出することができる。そのため、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であるドラム缶の側板の欠損部を検出するため、4つの探触子を用いるドラム缶検査方法及びその装置を検討した。
【0056】
図10は4つの探触子を用いる探傷試験の取付け位置を示す正面図及び側板展開図である。図10に示す通り、ドラム缶の側面の上辺部とこの上辺部に対向する下辺部とに同じ側方方向にSH波を入射させる2つの探触子71a、71bと、これら2つの探触子71a、71bに対して逆方向のSH波を入射させる上下2つの探触子71c、71dを背中合わせに配した4つの探触子を固定し、各々の探触子71a〜71dで水平方向から90度方向に探触子を回動させた際の反射エコーを検出する。
【0057】
各探触子においては、反射エコーを検出する時間から探触子からの距離が判る。上辺部と下辺部とのデータによって、各探触子からの距離より、側板のキズが判る。加えて、キズと対向する回動位置のエコー高さが高いため、探触子からのキズの方向が判る。これにより、正確なキズの位置が把握可能となる。また、逆方向のSH波を入射させる上下2つの探触子によって、最も遠いドラム缶の反対側側面についても、キズを把握するためのデータが活用されるため、正確なキズの位置が把握可能となる。
【0058】
実施例3.底板の計測(SH波の底板の嵌合部入力によるドラム缶欠損部探査の検討)
3−1.底板での測定
図2に示す平面図において、6時に該当する位置に底板超音波探傷手段としての超音波探触子21に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。尚、超音波探触子21は底板側面の曲率に合わせたアクリル製の治具22を装着して底板の嵌合部に当接させて照射させた。
【0059】
尚、底板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB、 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 2730mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0060】
図11は側板探査時と同じ感度(40dB)での底板の嵌合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、複数の反射エコーと対面端部からの反射エコーが確認された。SH波は角度をもって入射するため、アクリル治具22により適切に嵌合部に接触させることができ、探触子単体で使用するよりも感度はよくなった。
【0061】
次に、嵌合部の巻き込み部と端部までの長さを測定した。巻き込み部は40mmであり、対面の端部までは620mmであった。図11の測定画面では615mmでエコーがあるが、巻き尺測定での緩みの誤差と思われた。そこで、感度を上げて、エコー位置を確認した(+10dB)。図12は感度を上げた場合での底板の嵌合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【0062】
図に示す通り、145、180、200、220、240、265、300mmに複数の反射エコーが確認された。実際のものと比較すると、145mmはB6(誤差5mm)であり、180mmはB5、200mmはB4、220はB3、240はB2、265はB1であることが確認された。尚、300は直接確認ができないが、A1と思われた。以上の通り、超音波探触子21を底面の嵌合部に沿って約1/3周移動させることにより、底面のほぼ全面を探傷することが可能となることが確認された。
【0063】
以上の通り、側板検査により、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して断面欠損部の検出を行うことにより、ドラム缶側板の溶接部を超えて超音波が伝達されて欠損部を検知することができ、これにより山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損部を外面側から検出することができることが確認できた。尚、この側板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成される。従来の精密な垂直探傷法では1回の検査領域は10×10mm程度で広い面を対象とする検査は不可能であった。そのため、本検査法で問題のある箇所を含む領域を大幅に狭めることにより、垂直探傷法でより正確に検査すれば、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成される。
【0064】
底板検査により、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に対する垂直方向に入射して断面欠損部の検出を行うことにより、ドラム缶の嵌合縁部からでもドラム缶底板に超音波が伝達されて欠損部を検知することができ、これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶底板の断面欠損部を外面側から検出することができることが確認できた。この底板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成されることは前述の側板検査と同様である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12