【実施例】
【0030】
実施例1(SH波の側板への周方向入力によるドラム缶欠損部探査の検討)
1−1.検査法
探査対象となるドラム缶の現地の保管状態では、側面の1/3程度が実際の作業範囲で、底面は実質的に作業ができない状態である。このため、ドラム缶の側面に対して縦方向からSH波を入力する方法では、探査が不可能である。これを回避するために、側板では探触子の超音波入射方向を円周に沿った水平とし、底板は嵌合部から入射すると言う方法を考案し、探査の可能性を確認する実験を行った。
【0031】
1−2.ドラム缶の構成
図1はドラム缶の正面図である。
図2はドラム缶の平面図である。用いたドラム缶の形状・寸法・内径は次の通りである。ドラム缶内径(567±3mm)、外高(890±5mm)、容量(212L以上)、板厚(1.6mm)である。
【0032】
1−3.検査装置
超音波探傷装置は、菱電湘南エレクトロニクス社(株)製低周波汎用超音波探査機UI−23LFを用い、SH波探触子の周波数は、0.5MHzとした。
【0033】
1−4.実験手順
(1) ドラム缶側板に貫通孔及び非貫通の円錐状のキズを加工した。具体的には、
図1に示したドラム缶の正面図で黒四角印の貫通孔S1〜S9である。尚、図示してはいないが
図1の裏面側に溶接線Aから測線2を通過した約700mm離れた地点にドラム缶内側にS1〜S9と同様に非貫通孔R1〜R9が形成されている。
(2) ドラム缶底板に貫通孔及び非貫通の円錐状のキズを加工した。具体的には、
図2に示したドラム缶の平面図で黒丸印の非貫通のキズA1〜A8と黒四角印の貫通孔B1〜B8である。
【0034】
1−5.側板の計測
ドラム缶側板の計測を行った。溶接部を介して超音波が伝搬するかを検証するため、溶接部Aを挟んで、測線1と測線2とのを2本を設定した。
図1に示す通り、測線1はドラム缶側板の貫通孔S1が形成されており、表面の溶接線Aから約95mmの地点である。測線2は表面の溶接線Aに対して測線1の対向側に配され、溶接線Aに対してから約410mmの地点とした。また、S9から218mm離れた測線3を設定した。測線毎に、端部とリム間、或いは、リム間の計3箇所に側板超音波探傷手段としての超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。
【0035】
尚、側板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB、 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 1000mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0036】
(5-1) 測線1での測定
図3は測線1から非貫通孔R1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0037】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示される通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0038】
(5-2) 測線2での測定
図4は測線2からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図は測線2上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示す。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0039】
(5-3) 測線3での測定
図5は測線3からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0040】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示す通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0041】
(5-4) 新たな測線での測定
溶接線Aを跨いだ反射エコーを更に検証した。溶接線Aを中心として貫通孔S1から200mm離れた測線上に超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。
図6はその結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。
【0042】
図6に示す通り、200、340、380、635mmの地点に明確なキズがあることが示されている。ここで200mmの反射エコーは溶接部からのものである。実際の測定では、2箇所からの測定で得られた反射エコーの数値を半径とした2つの円をドラム缶表面に描けば、その交点にキズがあることになる。
【0043】
340mmはS2のキズであり、380mmはS3のキズであることが確認された。また、635mmについては、キズを示すエコーか、ノイズかが不明であったが、実際に確かめると635mmは名称未設定のキズであったことが確認された。以上のように、側板については水平方向の探査が十分可能であることが確認された。
【0044】
(5-5) 側板での伝播範囲の確認
測線2から非貫通孔R1を狙って探触子を置く。この場合、探触子11を上端に付けた位置では感度がないので、上端から52mm下げた測線地点で200mmの位置にR1を見つけていることから、側板に横方向で入力する場合のSH波伝播角度は約29度となることが確認された。
【0045】
実施例2(超音波探触子の回転によるドラム缶欠損部探査の検討)
2−1.検査法
断面欠損部をより正確に特定するために、超音波探触子を取付け位置で回転可能とするアクリル治具を使用し各エコー高さを測定した。
図7は超音波探触子とこの超音波探触子をスムーズに回転可能に作成した回転補助アクリル治具との構成を示す説明図である。
【0046】
図7に示す通り、回転補助アクリル治具72は、ドラム缶の側壁の曲面に対応した曲面底面73を備え、表面側中央部には、SH波探触子71のフラットな底面に当接する円形の窪み74を備え、ドラム缶の側壁の所望の位置に固定するための3つの磁石75が計測範囲外の3箇所に配されている。尚、探触子71の回動の中心となる取付け位置の近傍に欠損部がある場合でも良好に検出可能となるため、また、離れた欠損部までの距離のズレが生じないために、SH波探触子71の入射点と、アクリル治具72の回動の中心とを一致させるように配置されている。
【0047】
尚、
図7にはSH波探触子71を固定するための固定手段は開示していないが、超音波探傷装置の駆動時に探触子を動かさなければよいので、作業者の手作業によるアクリル治具への押圧でもかまわず、アクリル治具72と同様に磁石でドラム缶に固定するL字状又は門状の治具でSH波探触子を固定したり、アクリル治具自体にSH波探触子とこの探触子を回動させる駆動手段とを一体にして、超音波探傷装置に駆動手段の回転駆動を制御する制御手段を備えても良い。
【0048】
2−2.検査装置
超音波探傷装置は、Starmans社製ポータブルフェイズドアレイ超音波探傷器DIO−1000及びSH波探触子(0.5Z20×20HA90:ジャパンプローブ社製)を用いた。また、周波数等の検査条件は次の表1の通りである。
【0049】
【表1】
【0050】
2−3.実験手順
図8は探傷試験に用いた側板モデルの展開図である。
図8の側板モデル81は,縦890mm横900mmのドラム缶と同じ厚さの鋼板を用意し、位置Pに対して同心円状にキズa1,a2,a3〜f1,f2,f3を付けた。各々のキズはaの組は水平面から7.5度回転させた方向であり、bの組はaの組に対して、15度回転させた方向であり、以降のcの組、dの組、eの組、fの組も各々15度回転させた方向である。
【0051】
図8に示す通り、位置Pに
図7の回転補助アクリル治具72を介して超音波探触子71を取り付け、取付け位置Pに対して同心円状に配したキズa1,a2,a3〜f1,f2,f3の反射エコーを検出した。その際、超音波探傷子71の角度を各a組〜f組に正対するように合計6回行った。結果を次の表2と
図9に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
図9は表2の一部の結果の探傷波形を示す線図であり、a図は水平から22.5度の結果を示し、b図は水平から52.5度の結果を示す。a図及びb図に示す通り、各々でキズエコーが確認された。a図、b図以外にも15度毎回転させた場合でも同様であった。
【0054】
図9及び表2に示す通り、キズエコーの高さ、ばらつきは、距離に比例して小さくなることも確認できた。ゲインが95dBでもキズまでの距離が遠い場合にはエコー高さが10%以下になることもあるため、キズの判断を注意深く行う必要がある。また、角度が52.5度以上になった場合、底辺(底面)からのエコーのような波形が現れるため、キズと誤認しないよう注意する必要がある。
【0055】
2−4.4点式回動探傷検査装置
以上のように、SH波は指向性があり、その伝播角度は約29度であることが判った。また、探触子からの距離は短いほどエコー高さが高く、良好にキズ等の欠損部を検出することができる。そのため、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であるドラム缶の側板の欠損部を検出するため、4つの探触子を用いるドラム缶検査方法及びその装置を検討した。
【0056】
図10は4つの探触子を用いる探傷試験の取付け位置を示す正面図及び側板展開図である。
図10に示す通り、ドラム缶の側面の上辺部とこの上辺部に対向する下辺部とに同じ側方方向にSH波を入射させる2つの探触子71a、71bと、これら2つの探触子71a、71bに対して逆方向のSH波を入射させる上下2つの探触子71c、71dを背中合わせに配した4つの探触子を固定し、各々の探触子71a〜71dで水平方向から90度方向に探触子を回動させた際の反射エコーを検出する。
【0057】
各探触子においては、反射エコーを検出する時間から探触子からの距離が判る。上辺部と下辺部とのデータによって、各探触子からの距離より、側板のキズが判る。加えて、キズと対向する回動位置のエコー高さが高いため、探触子からのキズの方向が判る。これにより、正確なキズの位置が把握可能となる。また、逆方向のSH波を入射させる上下2つの探触子によって、最も遠いドラム缶の反対側側面についても、キズを把握するためのデータが活用されるため、正確なキズの位置が把握可能となる。
【0058】
実施例3.底板の計測(SH波の底板の嵌合部入力によるドラム缶欠損部探査の検討)
3−1.底板での測定
図2に示す平面図において、6時に該当する位置に底板超音波探傷手段としての超音波探触子21に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。尚、超音波探触子21は底板側面の曲率に合わせたアクリル製の治具22を装着して底板の嵌合部に当接させて照射させた。
【0059】
尚、底板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB、 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 2730mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0060】
図11は側板探査時と同じ感度(40dB)での底板の嵌合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、複数の反射エコーと対面端部からの反射エコーが確認された。SH波は角度をもって入射するため、アクリル治具22により適切に嵌合部に接触させることができ、探触子単体で使用するよりも感度はよくなった。
【0061】
次に、嵌合部の巻き込み部と端部までの長さを測定した。巻き込み部は40mmであり、対面の端部までは620mmであった。
図11の測定画面では615mmでエコーがあるが、巻き尺測定での緩みの誤差と思われた。そこで、感度を上げて、エコー位置を確認した(+10dB)。
図12は感度を上げた場合での底板の嵌合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【0062】
図に示す通り、145、180、200、220、240、265、300mmに複数の反射エコーが確認された。実際のものと比較すると、145mmはB6(誤差5mm)であり、180mmはB5、200mmはB4、220はB3、240はB2、265はB1であることが確認された。尚、300は直接確認ができないが、A1と思われた。以上の通り、超音波探触子21を底面の嵌合部に沿って約1/3周移動させることにより、底面のほぼ全面を探傷することが可能となることが確認された。
【0063】
以上の通り、側板検査により、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して断面欠損部の検出を行うことにより、ドラム缶側板の溶接部を超えて超音波が伝達されて欠損部を検知することができ、これにより山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損部を外面側から検出することができることが確認できた。尚、この側板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成される。従来の精密な垂直探傷法では1回の検査領域は10×10mm程度で広い面を対象とする検査は不可能であった。そのため、本検査法で問題のある箇所を含む領域を大幅に狭めることにより、垂直探傷法でより正確に検査すれば、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成される。
【0064】
底板検査により、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に対する垂直方向に入射して断面欠損部の検出を行うことにより、ドラム缶の嵌合縁部からでもドラム缶底板に超音波が伝達されて欠損部を検知することができ、これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶底板の断面欠損部を外面側から検出することができることが確認できた。この底板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成されることは前述の側板検査と同様である。