特許第6173765号(P6173765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6173765マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173765
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/26 20120101AFI20170724BHJP
   G03F 1/50 20120101ALI20170724BHJP
【FI】
   G03F1/26
   G03F1/50
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-99897(P2013-99897)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-257544(P2013-257544A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2016年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-112333(P2012-112333)
(32)【優先日】2012年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 禎一郎
(72)【発明者】
【氏名】石山 雅史
【審査官】 今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−137094(JP,A)
【文献】 特開平11−258772(JP,A)
【文献】 特開2009−231694(JP,A)
【文献】 特開2002−090978(JP,A)
【文献】 特開2006−323236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20−1/86
C23C 14/00−14/58
H01L 21/26−21/268、21/42−21/423
21/428、21/477−21/479
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクを製造する方法であって、
前記透光性基板の主表面上に、遷移金属とケイ素を含有するターゲットを用い、酸素または窒素のうち少なくともいずれかを含有するスパッタリングガス中でスパッタリング法により前記薄膜を主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚くなるように形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜形成工程で形成した前記薄膜に対し、酸素を含有する気体中で光加熱処理を行い、前記薄膜の表層にその表層を除く領域の薄膜よりも酸素含有量が多い酸化層を形成する光加熱処理工程とを有し、
前記光加熱処理工程は、前記薄膜に対して照射する光の積算照射量を主表面側における中央部よりも外周部の方を多くなるように制御し、前記酸化層を主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚くなるように形成する
ことを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項2】
前記薄膜は、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項3】
前記薄膜は、露光光に対して1%以上の透過率を有し、かつ、前記薄膜を透過した露光光と前記薄膜の膜厚と同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間に所定の位相差を生じさせるハーフトーン位相シフト膜であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項4】
前記薄膜は、前記透過率の面内分布が0.6%の範囲内であることを特徴とする請求項2または3に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項5】
前記薄膜は、前記位相差の面内分布が4度の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項6】
前記薄膜形成工程は、前記基板を主表面の中心を通る回転軸で回転させ、スパッタリングターゲットのスパッタ面を、前記基板の主表面と対向し、かつ前記主表面に対して所定の角度を有する位置であり、前記基板の回転軸と、前記スパッタ面の中心を通り前記基板の回転軸に対して平行な直線とがずれた位置に配置し、スパッタリング法によって前記薄膜を形成することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項7】
前記光加熱処理工程は、筒状のランプを格子状に複数配置した光照射器を用い、前記薄膜に対して光加熱処理を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項8】
前記筒状のランプは、ハロゲンヒーターであることを特徴とする請求項に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成するパターン形成工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、転写用マスクおよびこれらの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MoSiNやMoSiON等からなるハーフトーン位相シフト膜(以下、位相シフト膜という。)を備えたマスクブランクは広く知られている。このマスクブランクの製造においては、枚葉式スパッタ装置によって、透光性基板の主表面に位相シフト膜を成膜するのが一般的である。通常の枚葉式スパッタ装置は、成膜室内の下方に透光性基板を載置する回転ステージが設けられており、回転ステージの直上にターゲットが配置されている。しかし、ハーフトーン位相シフト膜の成膜に通常の枚葉式スパッタ装置を用いた場合、透光性基板の主表面形状が矩形であることに起因し、主表面の外周側の膜厚が中心側の膜厚よりも相対的に薄くなりやすいという問題があった。位相シフト膜は、露光光を所定の透過率で透過する機能と、透過する露光光に対して、その位相シフト膜の膜厚と同じ距離だけ空気中を通過する露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能が同時に求められる。成膜された位相シフト膜の面内での膜厚分布に偏りがあると、面内での透過率分布のばらつきが生じたり、面内での位相差分布にばらつきが生じたりする恐れがある。また、MoSiNやMoSiONのように、ターゲット材にケイ素を含有する材料が使用され、透光性基板上に酸素や窒素を含有する材料の位相シフト膜をDCスパッタ法で成膜する場合、ケイ素の窒化物やケイ素の酸化物は導電性が低いことから、ターゲット表面でチャージアップによるパーティクルが発生しやすい。このパーティクルは、ターゲット表面の直下にある透光性基板上に落下し、位相シフト膜に入ることで欠陥になってしまう恐れがある。つまり、欠陥発生率が上昇してしまうという問題もある。
【0003】
このような矩形状のマスクブランクをスパッタ法で成膜する場合に生じる特有の問題を解決するため、特開2002−090978号公報(特許文献1)に開示されているような、枚葉式スパッタ装置が使用されている。このスパッタ装置は、透光性基板を載置する回転ステージに対して、ターゲットを斜め上方に配置し、透光性基板とターゲットとの間で水平距離と垂直距離の両方を取っている(図4参照)。このような構成のスパッタ装置(いわゆる斜入射スパッタ方式のスパッタ装置)を用いて透光性基板上に位相シフト膜を成膜することで、基板の中心側の膜厚が相対的に厚くなることを抑制でき、かつターゲット表面でのチャージアップに起因する欠陥を低減することができていた。
【0004】
一方、MoSiNやMoSiON等の材料からなる薄膜は、比較的大きな圧縮応力を有する傾向がある。位相シフトマスクの作製のプロセスでは、位相シフト膜をエッチングすることによって転写パターンを形成する。この転写パターンの形成時に位相シフト膜の一部を除去すると、位相シフト膜が除去された領域は圧縮応力から解放されるため、パターン間の間隔(スペース幅)が広がってしまう。この影響を小さくするには、位相シフト膜の膜応力を低減する必要がある。このため、例えば、特開2002−162726号公報(特許文献2)に開示されているように、位相シフト膜を成膜したガラス基板に対し、400℃以上の温度で加熱処理を行って、圧縮応力を低減することが行われる。400℃以上の温度で加熱処理を行うには、ホットプレートでは困難である。また、複数膜同時に処理することを考慮すると、特開2002−162726号公報(特許文献2)に開示されているような縦型の電気炉を用いることが効果的であった。
【0005】
なお、特開2001−210604号公報(特許文献3)では、ガラス基板や半導体ウェハ等の加熱するための装置として、複数の円筒状の白熱ランプを格子状に配置した光源を用いる光加熱装置が提案されている。この光加熱装置では、光を被処理面に対して均一に照射することができ、これにより被処理面に対して均一に光加熱することができることを特徴としている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−090978号公報
【特許文献2】特開2002−162726号公報
【特許文献3】特開2001−210604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DCスパッタ法で成膜する成膜装置を用いる場合、ターゲットに導電性の低い材料を使用するとチャージアップの問題が発生する。酸素や窒素を含有する金属化合物からなる薄膜を成膜する場合は、ターゲット材に薄膜と同じ材料を使用することは難しい。このため、薄膜を構成する元素のうち、酸素や窒素はガス状態(これを反応性ガスという。)で成膜室内に供給するようにしている。スパッタ中の成膜室内は、低圧状態にする必要がある。このため、酸素や窒素は、成膜室の供給口から供給されて排出口から強制排出され、低圧で常に入れ替わるようになっている。また、ターゲットから材料元素をスパッタさせるにはアルゴン等の希ガスのプラズマが周囲に必要となる。このため、酸素や窒素のような反応性ガスは、透光性基板に比較的近い空間で流動させることが望ましい。ターゲット周辺からのパーティクルの発生をより低減する観点からも、酸素や窒素のような反応性ガスは、側方や下方から供給することが望まれる。しかし、このような反応性ガスの供給の方法をとると、酸素や窒素のような反応性ガスは、透光性基板の中心側よりも外周側に多く供給される状態になりやすい。位相シフト膜のスパッタ成膜では、ターゲット(MoSiターゲット)から飛び出したスパッタ粒子(MoとSiの粒子)が酸素や窒素を取り込み、金属化合物の状態(MoSiNやMoSiON)で透光性基板の表面に堆積することにより、位相シフト膜が成膜される。よって、酸素や窒素が相対的に多く存在する透光性基板の外周側(外周部)の方が、中心側(中心部)よりも位相シフト膜中の酸素や窒素の含有量が多くなりやすいことを本発明者等は見い出した。
【0008】
位相シフト膜中の酸素や窒素の含有量が多くなると、露光光に対する透過率が高くなりやすく、この影響は特に、波長が短いArFエキシマレーザーが露光光として適用される位相シフトマスクにおいては無視できないことを本発明者等は見い出した。前記のとおり、位相シフト膜は、透過率の面内均一性が重要である。以上のことから、透過率の面内均一性を調整するために、位相シフト膜の外周側(外周部)の膜厚を中心側(中心部)よりも厚くする必要があることを本発明者等は見い出した。さらに、本発明者等は、いわゆる斜入射スパッタ方式のスパッタ装置であって、酸素や窒素のような反応性ガスを透光性基板の側方又は下方から供給し、かつ、前記反応性ガスのほとんどを透光性基板に比較的近い空間で流動させる方式の装置を採用した場合において、透光性基板とターゲットとの間で水平距離や垂直距離を調整することによって、前記の位相シフト膜の外周側(外周部)の膜厚を中心側(中心部)よりも厚く成膜することで、透過率の面内均一性を所定の許容範囲内に制御した位相シフト膜が得られることを見い出した。
【0009】
前記のとおり、成膜された位相シフト膜は膜応力を有するため、加熱処理を行って膜応力を低減する必要がある。加熱処理を行った位相シフト膜は、加熱処理前のものに対して透過率や位相差が変化する。このため、加熱処理を行った後の位相シフト膜が所定の透過率と位相差になるように、位相シフト膜のスパッタ成膜時における位相シフト膜の膜組成を調整している。よって、縦型の電気炉による加熱処理は、同時処理するガラス基板すべてに対して同条件になるように行われることが望まれる。しかし、電気炉は微小な加熱制御が難しく、同時処理するガラス基板すべてに対して同じ加熱条件にすることは難しい。また、電気炉は所定の加熱温度に達するまでの時間やその所定の加熱温度から室温に戻るまでの時間が掛かるため、枚葉処理を適用するとスループットが大きく悪化するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明者等は、前記の位相シフト膜の外周側(外周部)の膜厚を中心側(外周部)よりも厚く成膜して、透過率の面内均一性を所定の許容範囲内に調整した位相シフト膜を有するガラス基板に対して、前記の光加熱装置を用いて、枚葉処理することを試みた。しかし、光加熱処理は、被処理面に対して均一性が高い加熱ができるはずであったが、光加熱処理後の位相シフト膜の光学特性を測定したところ、透過率や位相差の面内均一性が所定の許容範囲を超えてしまっていた。
位相シフト膜を有するガラス基板に対して、光加熱処理を行った場合においても、所定の許容範囲内の透過率分布や位相差分布となることが望まれていた。
【0011】
ちなみに、位相シフト膜の外周側(外周部)の膜厚を中心側(中心部)よりも厚くして、透過率の面内均一性を所定の許容範囲に調整した位相シフト膜を有するガラス基板に対して、縦型の電気炉により加熱処理した場合は、前記の光加熱装置を用いて加熱処理した場合に比べ、透過率や位相差の面内均一性は悪化し、透過率や位相差の面内均一性は所定の許容範囲を超えてしまう結果となった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の技術的課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、以下のことが判明した。
前記に示すような条件、即ち、いわゆる斜入射スパッタ方式のスパッタ装置であって、酸素や窒素のような反応性ガスを透光性基板の側方又は下方から供給し、かつ、前記反応性ガスのほとんどを透光性基板に比較的近い空間で流動させる方式の装置でスパッタ成膜された位相シフト膜は、主表面の外周側(外周部)が中心側(中心部)に比べて相対的に膜厚を厚くする必要がある。これにより、酸素や窒素の含有量が比較的多い外周側の位相シフト膜と、酸素や窒素の含有量が比較的少ない中心側の位相シフト膜との間で、透過率や位相差の差を小さくすることができ、比較的バランスが取れた状態になっている(図1のHoとHcの厚さの比率で比較的バランスが取れた状態になっている)。位相シフト膜に対して、加熱処理(例えば400℃で1時間)を行うと、大気中の酸素が位相シフト膜の表層に取り込まれ、表層の膜組成が変化し、表層に酸化層が形成される。表層の酸化層はSiOかそれに近い組成で実質的に構成されると考えられる。このとき、加熱処理前の位相シフト膜の表層の膜組成が例えばMoSiN,MoSiON、MoSiO、MoSiであるか否か、NやOの含有量が多いか少ないか、によらず、加熱処理後の位相シフト膜の表層の膜組成は、SiOかそれに近い組成で実質的に構成されると考えられる。加熱処理後の位相シフト膜におけるこのSiOに近い組成の表層は、加熱処理前の位相シフト膜の表層のターゲット由来の元素以外の元素の含有量が面内で相違していても加熱処理後にはほぼ同一となる(加熱処理前の位相シフト膜の表層の膜組成に影響されにくい)と考えられる。
【0013】
一般に、位相シフト膜中の酸素含有量が増加した場合は、透過率が上昇し、位相差が低下する傾向がある。位相シフト膜に対して、光加熱処理のような面内に均一な条件(積算照射量の面内均一性が高い条件)で加熱処理を行うと、面内で位相シフト膜の表面からほぼ同じ膜厚方向の分布で酸素が表層に取り込まれる。透過率や位相差が面内で比較的バランスが取れた状態になっており面内でほぼ均一であったものが、膜厚が異なる位相シフト膜における外周側(外周部)と中央側(中心部)で、同じ膜厚分布で表層の酸素含有量が変わること(表層に同じ厚さで酸化層が形成されること)が起こると、中心側(中心部)の位相シフト膜の透過率の増加量は、外周側(外周部)の位相シフト膜の透過率の増加量よりも大きくなってしまう。また、中心側(中心部)の位相シフト膜の位相差の低下量は、外周側(外周部)の位相シフト膜の位相差の低下量よりも小さくなってしまう。このような理由から、光加熱処理を行った後の位相シフト膜は、透過率や位相差の面内均一性が低下したものと推測される。これらのことは、図2で、Ho>Hcで、同じ厚さhで酸化層(ほぼ同一組成)が形成される影響(透過率の増加量、位相差の低下量)は、厚さの薄いHcの方が厚さの厚いHoよりも大きいこと(透過率に実質的に寄与するHc’、Ho’に関し、中心側(中心部)が薄くなる比率(割合)(Hc’/Hc)の方が外周側(外周部)が薄くなる比率(割合)(Ho’/Ho)に比べ相対的に大きいこと)から理解できる。
以上の結果をもとに、鋭意研究した結果、光加熱処理において、中心側(中心部)に比べて外周側(外周部)の光の総照射量(積算照射量)を多くする照射条件とすることで、光加熱処理後の位相シフト膜が、透過率および位相差の面内均一性を所定の許容範囲内に維持できることにたどりつき、本発明(発明A)を完成するに至った。
【0014】
本発明には、前記発明(発明A)と関連し、加熱処理前に透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲内であったものが、前記の光加熱装置を用いて面内均一性の高い加熱処理(積算照射量の面内均一性が高い加熱処理)を行った後に透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲を超える場合において、加熱処理を行った後においても透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲内に維持できるように前記の光加熱装置を用いて面内各所における加熱条件を制御する(面内均一性の高い加熱条件とは異なる加熱条件に制御する)、例えば面内各所における積算照射量を制御する、発明(発明B)が含まれる。即ち、光加熱装置を用いて面内各所における加熱条件を制御する(面内均一性の高い加熱条件とは異なる加熱条件に制御する)、例えば面内各所における積算照射量を制御する、ことによって、面内各所における酸化層の厚さが実質的に異なるように制御し、これにより、加熱処理を行った後において透過率および位相差の面内均一性を所定の許容範囲内に制御する発明が含まれる。
係る発明Bにおいては、斜入射スパッタ方式、反応性ガスの側方又は下方供給方式(面内組成不均一)、中心部に比べて外周部の光の総照射量(積算照射量)を多くする照射条件、の各限定がない。
【0015】
本発明には、前記発明(発明A)と関連し、面内組成不均一で「中心部に比べて外周部が相対的に膜厚が厚い場合では、光加熱処理のような面内に均一な条件(積算照射量の面内均一性が高い条件)で加熱処理を行うと、中心部の位相シフト膜の透過率の増加量は、外周部の位相シフト膜の透過率の増加量よりも大きくなる」ことから、このことを考慮し、加熱処理前に(成膜段階で)面内組成不均一で透過率の面内均一性が所定の許容範囲内となるように薄膜の基板外周部の厚さを中心部に比べ厚く形成しておく上記発明(発明A)の態様に比べ、外周部を相対的に薄く形成しておき(例えば、外周部の厚さは、中心側の厚さよりも厚くする点については発明Aと同じであるが、後の加熱処理工程で外周部を加重酸化させずに済むように、あるいは外周部を加重酸化させる量が少なくて済むように、外周部を発明Aの外周部の厚さに比べて相対的に薄く形成しておき)、前記の光加熱装置を用いて、面内均一性の高い条件(積算照射量の面内均一性が高い条件)で加熱するか、あるいは、前記の光加熱装置を用いて、発明Aと同様に中心部に比べて外周部の光の総照射量を多くはするが発明Aに比べて総照射量の面内における差が小さくなる照射条件とすることで、加熱処理後に透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲内になるようにする発明(発明C)が含まれる。
上記発明(発明C)には、光加熱処理装置による基板面内の加熱特性の相違を考慮し、光加熱処理後に透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲内になるように、光加熱処理前に透過率および位相差の面内分布を制御する、発明が含まれる。これに加え、光加熱条件を面内で制御する発明も含まれる。
【0016】
本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクであって、
前記薄膜は、遷移金属とケイ素を含有し、さらに酸素または窒素のうち少なくともいずれかを含有する材料からなり、
前記薄膜は、その表層に前記表層を除く領域の薄膜よりも酸素含有量が多い酸化層を有し、
前記薄膜は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されており、
前記酸化層は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されている
ことを特徴とするマスクブランク。
【0017】
(構成2)
前記薄膜は、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記薄膜は、露光光に対して1%以上の透過率を有し、かつ、前記薄膜を透過した露光光と前記薄膜の膜厚と同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間に所定の位相差を生じさせるハーフトーン位相シフト膜であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
【0018】
(構成4)
前記薄膜は、前記透過率の面内分布が0.6%の範囲内であることを特徴とする構成2または3に記載のマスクブランク。
(構成5)
前記薄膜は、前記位相差の面内分布が4度の範囲内であることを特徴とする構成3に記載のマスクブランク。
【0019】
(構成6)
構成1から5のいずれかに記載のマスクブランクを製造する方法であって、
前記透光性基板の主表面上に、遷移金属とケイ素を含有するターゲットを用い、酸素または窒素のうち少なくともいずれかを含有するスパッタリングガス中でスパッタリング法により前記薄膜を形成する薄膜形成工程と、
薄膜形成工程で形成した前記薄膜に対し、酸素を含有する気体中で光加熱処理を行い、
前記薄膜の表層に前記酸化層を形成する光加熱処理工程とを有し、
前記光加熱処理工程は、前記薄膜に対して照射する光の積算照射量を主表面側における中央部よりも外周部の方を多くなるように制御することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0020】
(構成7)
前記薄膜形成工程は、前記基板を主表面の中心を通る回転軸で回転させ、スパッタリングターゲットのスパッタ面を、前記基板の主表面と対向し、かつ前記主表面に対して所定の角度を有する位置であり、前記基板の回転軸と、前記スパッタ面の中心を通り前記基板の回転軸に対して平行な直線とがずれた位置に配置し、スパッタリング法によって前記薄膜を形成することを特徴とする構成6記載のマスクブランクの製造方法。
(構成8)
前記光加熱処理工程は、筒状のランプを格子状に複数配置した光照射器を用い、前記薄膜に対して光加熱処理を行うことを特徴とする構成6または7のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0021】
(構成9)
前記筒状のランプは、ハロゲンヒーターであることを特徴とする構成8に記載のマスクブランクの製造方法。
(構成10)
構成1から5のいずれかに記載のマスクブランクの前記薄膜に転写パターンが形成されていることを特徴とする転写用マスク。
(構成11)
構成6から9のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成するパターン形成工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、光加熱処理後に透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲内になるマスクブランクを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】半透過膜について、外周部の膜厚を中心部よりも厚く成膜し、透過率の面内均一性を所定範囲内に調整する態様を説明するための模式図である。
図2】半透過膜について、外周部の膜厚を中心部よりも厚く成膜し、透過率の面内均一性を所定範囲内に調整した後、光加熱装置を用いて面内均一性の高い条件で加熱し表層に酸化層を形成する態様を説明するための模式図である。
図3】半透過膜について、外周部の膜厚を中心部よりも厚く成膜し、透過率の面内均一性を所定範囲内に調整した後、光加熱装置を用いて照射する光の積算照射量を中央部よりも外周部の方を多くなるように制御し、酸化層に関し中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚くなるように酸化層を形成する態様を説明するための模式図である。
図4】スパッタリング装置の一例を示す模式図である。
図5】光加熱装置の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のマスクブランクは、構成1にあるように、透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクであって、
前記薄膜は、遷移金属とケイ素を含有し、さらに酸素または窒素のうち少なくともいずれかを含有する材料からなり、
前記薄膜は、その表層に前記表層を除く領域の薄膜よりも酸素含有量が多い酸化層を有し、
前記薄膜は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されており、
前記酸化層は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されていることを特徴とする。
【0025】
構成1に係る発明において、前記薄膜は、その表層に前記表層を除く領域の薄膜よりも酸素含有量が多い酸化層を有する。例えば、図2に示すように、前記薄膜10は、その表層に前記表層を除く領域の薄膜11よりも酸素含有量が多い酸化層12を有する。
前記酸化層は、加熱処理(アニール)により形成されたものであり、自然酸化やマスクの使用(露光光の長時間照射)に従って経時的に生じる酸化層は含まない。
【0026】
構成1に係る発明において、前記薄膜は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されている。例えば、図2に示すように、前記薄膜10は、主表面側における中央部の厚さHcよりも外周部の厚さHoが厚く形成されている。詳しくは、前記薄膜10は、薄膜の中央部はほぼ平坦(即ち膜厚が一定)で外周部に向かって膜厚が増加している。
【0027】
例えば、図2に示すように、中央部の厚さHcとして、薄膜の1辺の長さをLとした場合、基板の中央で(2/3)Lを占める領域の厚さの平均値を使用し、外周部の厚さHoとして、基板の外周側で各(1/6)Lを占める領域の厚さの平均値を使用することができる。このことは、他の発明(構成)においても同様である。
また、例えば、図2に示すように、中央部の厚さHcとして基板の中心で測定した値を使用し、外周部の厚さHoとして薄膜(基板)の端部から所定の距離Sの位置で測定した値を使用できる。このことは、他の発明(構成)においても同様である。
前記薄膜10において、中央部の厚さHcと外周部の厚さHoは、例えば、加熱処理(アニール)前に、透過率の面内均一性を所定範囲内に調整できるように調整される。
前記薄膜10において、中央部の厚さHcと外周部の厚さHoの比率は、前記薄膜の組成や、前記薄膜の透過率、前記薄膜の膜厚等との関係で一概に言えないが、例えば、Ho/Hc=1.01〜1.05の範囲が好ましい。
【0028】
構成1に係る発明において、前記酸化層は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されている。例えば、図3に示すように、前記酸化層12は、主表面側における中央部の厚さhよりも外周部の厚さh’が厚く形成されている。
例えば、図3に示すように、中央部の厚さhとして、薄膜の1辺の長さをLとした場合、基板の中央で(2/3)Lを占める領域の厚さの平均値を使用し、外周部の厚さh’として、基板の外周側で各(1/6)Lを占める領域の厚さの平均値を使用することができる。このことは、他の発明(構成)においても同様である。
また、例えば、図3に示すように、中央部の厚さhとして基板の中心で測定した値を使用し、外周部の厚さh’として薄膜(基板)の端部から所定の距離Sの位置で測定した値を使用できる。このことは、他の発明(構成)においても同様である。
【0029】
前記酸化層12において、主表面側における中央部の厚さhよりも外周部の厚さh’を厚く形成するためには、加熱処理(アニール)の条件(温度、時間等)を、中央部と外周部とで異なるようにする。例えば、外周部の加熱処理(アニール)の条件(温度、時間等)を中央部に比べ大きくする。より具体的には、例えば、光加熱装置を用いると、外周部の加熱処理(アニール)の条件(被照射面の温度、ランプ出力、照射(点灯)時間、積算照射量等)を中央部に比べ大きくできる。
前記酸化層12における外周部の厚さh’と中央部の厚さhとの比率(h’/h)は、前記薄膜の組成や、前記薄膜の透過率、膜厚等との関係で一概に言えないが、1.01〜1.07程度が好ましい。
【0030】
前記酸化層12における中央部の厚さhは2.0nm程度が好ましく、外周部の厚さh’は2.1nm程度が好ましい。
前記薄膜11において、加熱処理後の中央部の厚さHc’と外周部の厚さHo’’の比率は、前記薄膜の組成や、前記薄膜の透過率、前記薄膜の膜厚等との関係で一概に言えないが、例えば、Ho’ ’/Hc’=1.01〜1.05の範囲が好ましい。
本発明では、酸化層の厚さを外周で相対的に厚くすると、透過率、位相差に実質的に寄与する正味の薄膜11の厚さは外周で相対的に薄くなり透過率が上がるので、酸化層の厚さが同じ場合における中央部での透過率の上昇と、相殺できる。
なお、図1図2図3においては、透光性基板1の主表面上に、前記薄膜10が形成されている。
【0031】
本発明(構成1〜11)において、前記転写パターン形成用の薄膜は、遷移金属Mとケイ素(Si)を含有し、さらに酸素(O)または窒素(N)のうち少なくともいずれかを含有する材料からなる。
本発明において、遷移金属Mとしては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等の何れか一つまたは合金、などが挙げられる。
本発明において、前記転写パターン形成用の薄膜は、上記の成分に加え、炭素、水素、不活性ガス(ヘリウム,ネオン,アルゴン,クリプトン,キセノンなどの希ガス等)等を含有する材料からなる場合が含まれる。
【0032】
本発明(構成1〜11)において、前記転写パターン形成用の薄膜としては、さらに具体的には、遷移金属シリサイド、遷移金属シリサイド窒化物、遷移金属シリサイド窒化酸化物、遷移金属シリサイド酸化物、遷移金属シリサイド窒化炭化物、遷移金属シリサイド窒化酸化炭化物、遷移金属シリサイド酸化炭化物、などが挙げられる。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜は、単層構造、多層構造を含む。前記薄膜は、反射防止層を含む態様であってもよい。前記薄膜は、組成傾斜膜を含む。
本発明(構成1〜11)において、前記半透過膜は、単層構造、低透過率層と高透過率層とからなる2層構造、多層構造を含む。
【0033】
本発明(構成1〜11)において、前記半透過膜は、高透過率タイプを含む。高透過率タイプは、例えば、通常の透過率1〜10%未満に対し、相対的に高い透過率10〜30%を有するものをいう。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜は、位相シフトマスクやエンハンサーマスクにおける半透過膜又は、バイナリマスクにおける遮光膜、とすることができる。
【0034】
本発明(構成1〜11)において、前記遷移金属は、モリブデンであることが好ましい。
前述したように、MoSiNやMoSiON等の材料からなる薄膜は、比較的大きな圧縮応力を有する傾向があり、圧縮応力を低減させるためには加熱処理が有効であり、本願課題が特に顕著になるからである。
本発明(構成1〜11)において、前記転写パターン形成用の薄膜としては、例えば、モリブデンシリサイド(MoSi)、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)、モリブデンシリサイド窒化酸化物(MoSiNO)、モリブデンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブデンシリサイド窒化炭化物(MoSiCN)、モリブデンシリサイド酸化炭化物(MoSiOC)、モリブデンシリサイド酸化窒化炭化物(MoSiOCN)などが挙げられる。
【0035】
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜としては、遷移金属シリサイド系材料の薄膜全般が含まれる(構成1)。例えば、前記薄膜としては、バイナリの遮光膜が含まれる。バイナリの遮光膜においても、EMFバイアスの観点で位相差の低減が要求されており、例えば、位相差の面内分布が厳密に問われる場合においては、本願発明の適用効果がある。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜としては、例えば、露光光に対して1%以上の透過率を有する半透過膜が挙げられる(構成2)。このような半透過膜としては、例えば、エンハンサーマスク作製用の位相差ゼロの半透過膜や、半透過膜のみでは位相シフト効果を生じさせるだけの位相差は得られないが、透光部の基板表面から所定深さだけ掘り込むことで位相シフト効果を生じさせる位相差が得られる位相シフトマスクを作製するための半透過膜が挙げられる。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜としては、露光光に対して1%以上の透過率を有し、かつ、前記薄膜を透過した露光光と前記薄膜の膜厚と同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間に位相シフト効果を生じさせる所定の位相差が得られるハーフトーン位相シフト膜が挙げられる(構成3)。
【0036】
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜がバイナリマスクの遮光膜の場合、その膜厚は、65nm以下であることが好ましく、55nm以下であることがさらに好ましい。また、前記薄膜がハーフトーン位相シフトマスクのハーフトーン位相シフト膜の場合、その膜厚は、75nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがさらに好ましい。また、前記薄膜がエンハンサーマスクの半透過膜の場合、その膜厚は、40nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。
本発明(構成1〜11)において、前記酸化層の厚さは、1.0〜3.5nmであることが好ましく、1.5〜2.5nmであることがさらに好ましい。前記酸化層の厚さがこの範囲内にあると、自然酸化やマスクの使用(露光光の長時間照射)に従って経時的に生じる酸化層と区別できる。
【0037】
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜は、前記透過率の面内分布が0.6%の範囲内であることが好ましい(構成4)。例えば、透過率の目標値に対して面内各所の透過率が、+0.6%の範囲内である場合、−0.6%の範囲内である場合、透過率の目標値に対して面内各所の透過率の最大値および最小値が±0.3%の範囲内にある場合、であれば、前記透過率の面内分布は0.6%の範囲内となる。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜は、透過率の目標値に対して面内各所の透過率(透過率の最大値および最小値)が±0.3%の範囲内にあることが、さらに好ましい。
本発明(構成1〜11)において、透過率の面内均一性が所定の許容範囲内になる場合としては、透過率の目標値に対して面内各所の透過率(透過率の最大値および最小値)が±0.3%の範囲内にある場合が好ましい。
【0038】
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜は、前記位相差の面内分布が4度の範囲内であることが好ましい(構成5)。例えば、位相差の目標値に対して面内各所の位相差が、+4度の範囲内である場合、−4度の範囲内である場合、位相差の目標値に対して面内各所の位相差の最大値および最小値が±2度の範囲内にある場合、であれば、前記位相差の面内分布は4度の範囲内となる。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜は、位相差の目標値に対して面内各所の位相差(位相差の最大値および最小値)が±2度の範囲内にあることが、さらに好ましい。
本発明(構成1〜11)において、位相差の面内均一性が所定の許容範囲内になる場合としては、位相差の目標値に対して面内各所の位相差(位相差の最大値および最小値)が±2度の範囲内にある場合が好ましい。
【0039】
本発明に係るマスクブランクの製造方法は、構成1から5のいずれかに記載のマスクブランクを製造する方法であって、
前記透光性基板の主表面上に、遷移金属とケイ素を含有するターゲットを用い、酸素または窒素のうち少なくともいずれかを含有するスパッタリングガス中でスパッタリング法により前記薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜形成工程で形成した前記薄膜に対し、酸素を含有する気体中で光加熱処理を行い、前記薄膜の表層に前記酸化層を形成する光加熱処理工程とを有し、
前記光加熱処理工程は、前記薄膜に対して照射する光の積算照射量を主表面側における中央部よりも外周部の方を多くなるように制御することを特徴とする(構成6)。
【0040】
本発明には、前記構成6に係る発明と関連し、加熱処理前に透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲内であったものが、前記の光加熱装置を用いて面内均一性の高い加熱処理(積算照射量の面内均一性が高い加熱処理)を行った後に透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲を超える場合において、加熱処理を行った後においても透過率および位相差の面内均一性が所定の許容範囲内に維持できるように前記の光加熱装置を用いて面内各所における加熱条件を制御する(面内均一性の高い加熱条件とは異なる加熱条件に制御する)、例えば面内各所における加熱処理(アニール)の条件(被照射面の温度、ランプ出力、照射(点灯)時間、積算照射量等)を制御する、発明が含まれる。
係る発明においては、斜入射スパッタ方式、側方又は下方供給方式(面内組成不均一)、中心部に比べて外周部の光の総照射量(積算照射量)を多くする照射条件、の各限定がない。
【0041】
前記光加熱処理工程において、前記薄膜に対して照射する光の積算照射量を主表面側における中央部よりも外周部の方を多くなるように制御する方法としては、面内における光の積算照射時間を異ならせて制御する方法、面内における光の強度(したがって面内における被照射部の温度)を異ならせて制御する方法、これらを組み合わせた方法、などが挙げられる。
面内における光の強度(したがって面内における被照射部の温度)を異ならせて制御する方法は、被照射部の熱が周囲に伝導されるため被照射部の温度制御を高度に行う必要がある。
【0042】
本発明において、「面内均一性の高い加熱条件とは異なる加熱条件に制御する」には、例えば筒状のランプ管を格子状に複数配置した光照射器を用い、外周縁の4辺に沿って配置されたランプの出力を相対的に大きくするか、あるいはこれによらず、基板より面積の大きい加熱平面を有する光加熱装置(例えば筒状のランプ管を格子状に複数配置した光照射器)を用いて均一に加熱し(酸化層の厚さを面内均一で形成し)、これらに加え、外周をさらに加熱する(加重して加熱する)(酸化層の厚さを外周で加重して増加させる)ものである。外周をさらに加熱する(加重して加熱する)には、例えば筒状のランプ管を格子状に複数配置した光照射器を用い、外周縁の4辺に沿って配置(4辺近傍に配置)されたランプ(例えば図5においては右から2番目および左から2番目)を点灯(ON)させ、中心側のランプを含む他のランプ(例えば図5においては右から2番目および左から2番目のランプを除くランプ)を消灯(OFF)させることで実現できる。
本発明において、「面内均一性の高い加熱条件」には、例えば外周縁の4辺に沿って配置(4辺近傍に配置)されたランプの出力を大きくする態様が含まれる。
【0043】
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜形成工程は、前記基板を主表面の中心を通る回転軸で回転させ、スパッタリングターゲットのスパッタ面を、前記基板の主表面と対向し、かつ前記主表面に対して所定の角度を有する位置であり、前記基板の回転軸と、前記スパッタ面の中心を通り前記基板の回転軸に対して平行な直線とがずれた位置に配置し、スパッタリング法によって前記薄膜を形成することが好ましい(構成7)。
係る構成(いわゆる斜入射スパッタ)によって、基板の中心部の膜厚が相対的に厚くなることを抑制でき、かつパーティクルに起因する欠陥を低減することができる。
【0044】
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜形成工程は、例えば、図4に示すように、前記基板を主表面の中心を通る回転軸で回転させ、スパッタリングターゲットのスパッタ面を、前記基板の主表面と対向し、かつ前記主表面に対して所定の角度を有する位置であり、前記基板の回転軸と、前記スパッタ面の中心を通り前記基板の回転軸に対して平行な直線とがずれた位置(オフセット距離)に配置し、スパッタリング法によって前記薄膜を形成することが好ましい。
【0045】
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜形成工程は、枚葉式の成膜装置を用いることが好ましい。本発明の課題は、高精度な枚葉式の成膜装置を用いる場合において特に顕著となるためである。枚葉式成膜装置は、非枚葉式成膜装置に比べ、膜厚や光学特性の面内均一性が高く高精度の成膜が可能である。また、枚葉式成膜装置は、非枚葉式成膜装置に比べ、ブランクス(基板)間の各種ばらつきを低減できる。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜形成工程は、基板を回転させながら行うことが好ましい。基板を回転させない場合に比べ、薄膜の膜厚等を均一に成膜するためである。
本発明(構成1〜11)において、前記薄膜形成工程は、DCスパッタ法が好ましい。成膜速度が大きく、量産性に優れるためである。
【0046】
本発明(構成1〜11)において、前記光加熱処理工程は、光加熱処理装置を用いて行うことができる。
本発明において、前記光加熱処理工程は、前記薄膜を200℃以上に加熱する照射条件で処理することが好ましく、より好ましくは300℃以上に加熱する照射条件であり、さらに好ましくは400℃以上に加熱する照射条件で処理するとよい。また、前記光加熱処理工程は、前記薄膜を1000℃以下に加熱する照射条件で処理することが好ましく、800℃以下に加熱する照射条件で処理するとなおよい。
【0047】
本発明(構成1〜11)において、前記光加熱処理工程に用いるヒーターとしては、ハロゲンヒーター、セラミックヒーター、石英管ヒーター等が挙げられる。
ハロゲンヒーターは、ハロゲンランプが放射する光を熱として利用するヒーターである。ハロゲンヒーターは、例えば、筒状の石英管内にタングステンフィラメントなどのフィラメントを石英管の一端から他端まで連続的又は断続的(各フィラメントは電気的に接続されている)設置し、石英管の両端部をシールした構造を有する。
ハロゲンヒーターは、例えば、マスクブランク表面の温度を、常温から800℃まで昇温するのに要する時間が20秒程度であり、マスクブランク表面の温度を、常温から400℃から150℃まで降温するのに要する時間が2分程度であることが、好ましい。
【0048】
本発明において、前記光加熱処理工程は、筒状のランプを格子状に複数配置した光照射器を用い、前記薄膜に対して光加熱処理を行うことが好ましい(構成8)。
【0049】
本発明において、前記筒状のランプは、ハロゲンヒーターであることが好ましい(構成9)。
【0050】
本発明(構成1〜11)において、光加熱処理は、ハロゲンヒーターから発する光を前記薄膜を有する透光性基板(マスクブランク)に照射する処理であることが好ましい。ハロゲンヒーターから発せられる光の波長スペクトルは、赤外域の光の強度が、他の波長域の光の強度と比較して特に高い。前記薄膜は、波長193nm程度の短い波長の光に対して所定の透過率になるような膜厚で形成されるため、赤外域の波長の光に対しては比較的高い透過率になる。ハロゲンヒーターから発せられる光は、複数の波長が含まれる多色光である。ハロゲンヒーターから発せられる光のうち、赤外域の波長の光は、前記薄膜を比較的高い透過率で透過して透光性基板(ガラス基板)に到達する。OH基、水等を含有する透光性基板(ガラス基板)は、波長1.38μm、2.22μm、および2.72μmに顕著な吸収帯を有する。これらのことから、ハロゲンヒーターから発せられる光は、波長1.38μm、2.22μm、および2.72μmにおける強度が十分強いことが好ましい。さらに、この条件を考慮すると、光加熱処理に使用するハロゲンヒーターは、色温度が2200K以上であることが好ましく、3400K以下であることが好ましい。
【0051】
この光加熱処理では、図5に示すような光加熱装置を用いることができる。この光加熱装置は、処理室21内に光源ユニット22と、マスクブランク(基板)20を載置する載置台24を備えた主構成となっている。図5に示すマスクブランク20の上面(光源ユニット22側の面)に転写パターン形成用の薄膜(図示せず)が形成されている。光源ユニット22は、ユニットフレーム23に、円筒状のハロゲンヒーター26を複数本、平行に上下2段で配置される構造とすることができる。上段および下段の各ハロゲンヒーター26は、上方視で格子状の配置とすることができる。光源ユニット22のこのような構成により、マスクブランク(基板)20の主表面に対して、ほぼ均一に赤外域の光を照射することができる。また、光加熱装置としては、特許文献3に記載されている光加熱装置において、白熱ランプの代わりとしてハロゲンヒーターを使用するような構造の装置を用いることができる。このとき、格子状に配置された各ハロゲンヒーターの交差部の加熱を避けるように、フィラメントを配置する態様が含まれる。
【0052】
上段のハロゲンヒーター26の上方側のユニットフレーム23の面には、反射板27を設けることかできる。これにより、ハロゲンヒーター26から上方側に放射された赤外域の光は、反射板27で反射され、マスクブランク(基板)20の主表面に照射させることができる。載置台24は、マスクブランク(基板)20の外周縁を保持する形状になるように、開口を有する形状とすることができる。その開口の下方にも、光源ユニット22と同じ構成の光源ユニット(図示せず)を設けることかできる。
なお、光加熱装置におけるマスクブランク(基板)20の光加熱処理を酸素を含有する気体中で行う態様は、常圧下(大気中)又は減圧下(例えば1.0〜1.0×10Pa)で、大気中に含まれる酸素を利用する態様に加え、常圧下(大気中)又は減圧下(例えば1.0〜1.0×10Pa)で酸素ガス(O)を供給し酸素(O)濃度の高い雰囲気下で加熱処理を行う態様が含まれる。
【0053】
本発明の転写用マスクは、構成1から5のいずれかに記載のマスクブランクの前記薄膜に転写パターンが形成されていることを特徴とする(構成10)。
【0054】
本発明の転写用マスクの製造方法は、構成6から9のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成するパターン形成工程を有することを特徴とする(構成11)。
【0055】
本発明において、転写パターン形成用の薄膜や前記半透過膜を形成する方法としては、例えばスパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本発明はスパッタ成膜法に限定されるわけではない。
スパッタ装置としてDCマグネトロンスパッタ装置が好ましく挙げられるが、本発明はこの成膜装置に限定されるわけではない。RFマグネトロンスパッタ装置等、他の方式のスパッタ装置を使用してもよい。
【0056】
本発明において、レジストは化学増幅型レジストであることが好ましい。高精度の加工に適するためである。
本発明において、レジストは電子線描画用のレジストであることが好ましい。高精度の加工に適するためである。
本発明は、電子線描画によりレジストパターンを形成する電子線描画用のマスクブランクに適用する。
【0057】
本発明において、透光性基板は、使用する露光波長に対して透明性を有するものであれば特に制限されない。本発明では、石英基板、その他各種のガラス基板(例えば、CaF基板、ソーダライムガラス、無アルカリガラス基板、アルミノシリケートガラス等)を用いることができるが、この中でも石英基板は、ArFエキシマレーザーの波長領域で透明性が高いので、本発明には特に好適である。
【0058】
本発明において、転写用マスクには、位相シフトマスク、位相シフト効果を使用しないバイナリマスク、が含まれる。転写用マスクには、レチクルが含まれる。
位相シフトマスクには、ハーフトーン型(トライトーン型)等の位相シフトマスク、エンハンサーマスクが含まれる。
【0059】
本発明においては、前記半透過膜及びそのパターンの他に、他の薄膜及びそのパターンを形成できる。
例えば、前記半透過膜の上又は下に遮光膜を有する形態の場合には、前記半透過膜の材料が遷移金属シリサイドを含むので、遮光膜の材料は、前記半透過膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物で構成することができる。これにより、半透過膜パターンの上又は下に遮光膜パターンを形成できる。
本発明において、クロムを含有する材料としては、クロム単体(Cr)の他、クロム(Cr)に窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、ヘリウム(He)などの元素を一以上含有する材料が含まれる。例えば、Cr、CrN、CrO、CrNO、CrNC、CrCONなどや、これらに加え水素(H)、ヘリウム(He)をそれぞれ含有する材料が含まれる。
【0060】
本発明において、遷移金属とケイ素を含む薄膜のドライエッチングには、例えば、SF、CF、C、CHF等の弗素系ガス、これらとHe、H、N、Ar、C、O等の混合ガスを用いることができる。
【0061】
本発明において、クロム系薄膜のドライエッチングには、塩素系ガスと酸素ガスとを含む混合ガスからなるドライエッチングガスを用いることができる。
本発明において、ドライエッチングに用いる塩素系ガスとしては、例えば、Cl、SiCl、HCl、CCl、CHCl等が挙げられる。
【0062】
ところで、本発明のマスクブランクでは、透光性基板上に設けられる転写パターン形成用の薄膜は、遷移金属とケイ素を含有し、さらに酸素または窒素のうち少なくともいずれかを含有する材料で形成される。これに対し、ケイ素と窒素からなる材料、またはケイ素と窒素からなる材料に半金属元素、非金属元素および希ガスから選ばれる1以上の元素を含有する材料を、本発明のパターン形成用の薄膜を形成する材料に用いた場合においても、本発明のパターン形成用の薄膜の構成を適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【0063】
具体的な構成としては、透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクであって、前記薄膜は、ケイ素と窒素からなる材料、またはケイ素と窒素からなる材料に半金属元素、非金属元素および希ガスから選ばれる1以上の元素を含有する材料からなり、前記薄膜は、その表層に前記表層を除く領域の薄膜よりも酸素含有量が多い酸化層を有し、前記薄膜は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されており、前記酸化層は、主表面側における中央部の厚さよりも外周部の厚さが厚く形成されているマスクブランクである。
【0064】
ケイ素と窒素からなる材料等を適用した転写パターン形成用の薄膜の場合でも、屈折率と消衰係数が高い元素である遷移金属を含有している本発明の転写パターン形成用の薄膜ほどではないが、斜入射スパッタ方式のスパッタ装置であって、酸素や窒素のような反応性ガスを透光性基板の側方又は下方から供給し、かつ、前記反応性ガスのほとんどを透光性基板に比較的近い空間で流動させる方式の装置で薄膜をスパッタ成膜したときに、その薄膜における酸素や窒素の含有量が比較的多い外周側と、酸素や窒素の含有量が比較的少ない中心側との間で透過率や位相シフト量の差が大きくなる傾向が生じる。よって、ケイ素と窒素からなる材料等を適用した転写パターン形成用の薄膜の場合でも、薄膜と酸化層の各厚さを本発明に規定する構成とすることで、薄膜全体での透過率分布や位相シフト量の分布の均一性を高めることができる。
【0065】
同様に、本発明のマスクブランクの製造方法において、前記薄膜形成工程を、ケイ素ターゲットまたはケイ素に半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなるターゲットを用い、窒素系ガスと希ガスを含むスパッタリングガス中でのスパッタリング法によって、薄膜を形成する工程に代えた場合においても、本発明のマスクブランクの製造方法で得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0066】
具体的な構成としては、透光性基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、前記透光性基板の主表面上に、ケイ素ターゲットまたはケイ素に半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料からなるターゲットを用い、窒素系ガスと希ガスを含むスパッタリングガス中でスパッタリング法により前記薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程で形成した前記薄膜に対し、酸素を含有する気体中で光加熱処理を行い、前記薄膜の表層に前記酸化層を形成する光加熱処理工程とを有し、前記光加熱処理工程は、前記薄膜に対して照射する光の積算照射量を主表面側における中央部よりも外周部の方を多くなるように制御することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0067】
前記薄膜に含有する半金属元素は、特に限定されない。半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモンおよびテルルから選ばれる一以上の元素を含有させるようにすると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素にこれらの半金属元素を含有させることができ、ターゲットの導電性を高めることが期待できるため、好ましい。このマスクブランクの製造方法における薄膜形成工程では、いずれのスパッタリング法も適用できる。ターゲットの導電性が、遷移金属を含有させた薄膜の場合に比べて低いことから、RFスパッタ法やイオンビームスパッタ法を適用するとより好ましい。
【0068】
前記薄膜には、いずれの非金属元素を含有させてもよい。非金属元素の中でも、炭素、フッ素および水素から選ばれる一以上の元素を含有させると好ましい。前記薄膜形成工程で使用する窒素系ガスは、窒素を含有するガスであればいずれのガスも適用可能である。酸化層が形成される前の前記薄膜は酸素含有量を低く抑えることが好ましいため、酸素を含有しない窒素系ガスを適用することが好ましく、窒素ガスを適用するとより好ましい。前記薄膜形成工程で使用する希ガスは、いずれの希ガスも適用可能であるが、成膜レートのことを考慮すると、アルゴン、クリプトン、キセノンを適用することが好ましい。また、形成される薄膜の応力を緩和することを考慮すると、原子量の小さいヘリウム、ネオンを適用し、薄膜に積極的に取り込ませることが好ましい。
【0069】
なお、遷移金属を含有しない材料で形成されている薄膜を有する前記のマスクブランクやそのマスクブランクの製造方法に関するその他の構成については、本発明のマスクブランクや本発明のマスクブランクの製造方法の場合と同様である。また、遷移金属を含有しない材料で形成されている薄膜を有する前記のマスクブランクを用いて作製される転写用マスクやその転写用マスクの製造方法についても、本発明の転写用マスクや本発明の転写用マスクの製造方法と同様である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1、比較例1、2)
本実施例および比較例においては、図4に示す、いわゆる斜入射スパッタ方式で枚葉処理方式のDCスパッタリング装置を使用した。また、酸素や窒素のような反応性ガスを透光性基板の側方から供給し、かつ、前記反応性ガスを透光性基板に比較的近い空間だけで流動させる方式(図示せず)の装置を採用した。基板は回転させた。
【0071】
透光性基板として、主表面が6インチ×6インチの四角形であり、厚さが0.25インチの合成石英ガラス基板を用い、その透光性基板上に、モリブデン、シリコン、および窒素からなる半透過膜を成膜した。
具体的には、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=4mol%:96mol%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)とヘリウム(He)との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、シリコン及び窒素からなるMoSiN膜(位相シフト膜)を形成した。
このMoSiN膜(位相シフト膜)は、ArFエキシマレーザーの波長(193nm)において、透過率は4.5%、位相差が174.4度となっていた。
このMoSiN膜の中央部(基板主表面の中心上に形成されたMoSiN膜)について、XPS(X線光電子分光法)分析した結果、このMoSiN膜の組成は、中央部でMo:3.2原子%,Si:44.4原子%,N:51.6原子%であった。同様に、MoSiN膜の外周部についても、XPS(X線光電子分光法)分析した結果、外周部の窒素含有量は、中央部の窒素含有量よりも3原子%程度多いことが確認された。なお、中央部および外周部の測定領域に関しては、下記の測定領域と同様である。
【0072】
成膜条件1では、位相シフト膜の外周部の膜厚を中心部よりも厚くし、透過率の面内均一性を所定範囲(面内の平均透過率に対して±0.3%)内に調整する条件で成膜を行った。この成膜条件1では、中央部の膜厚627Å、外周部の膜厚642Åとした。なお、図2に示すように、中央部の厚さHcとして、薄膜の1辺の長さをLとした場合、基板の中央で(2/3)Lを占める領域の厚さの平均値を使用し、外周部の厚さHo’として、基板の外周側で各(1/6)Lを占める領域の厚さの平均値を使用した。
【0073】
一方、成膜条件2では、通常の条件、即ち位相シフト膜の膜厚の面内膜厚が均一となる条件で成膜を行った。この成膜条件2では、中央部の膜厚629Å、外周部の膜厚631Åであった。中央部および外周部の測定領域に関しては、上記と同様である。
【0074】
成膜条件1で形成した薄膜について、図5に示す光加熱装置を用いて、枚葉処理で、積算照射量が面内で相違するよう制御した条件で光加熱処理を実施した(実施例1)。この光加熱処理は、ハロゲンヒーターの点灯時間(位相シフト膜への照射時間)を7minとし、基板外周縁の4辺近傍にある4本のハロゲンヒーターの出力をそれ以外のハロゲンヒーターの出力よりも相対的に高くした。これにより、位相シフト膜の外周側に照射する積算照射量を、それ以外の領域の中央部を含む位相シフト膜に照射する積算照射量よりも多くした。
【0075】
このように、光加熱処理において、中央部に比べて外周部の光の総照射量を多くする照射条件とすることで、光加熱処理後の位相シフト膜が、透過率および位相差の面内均一性を所定の許容範囲内に維持(透過率は、目標値6.1%に対して、±0.3%以内であり、位相差は、目標値177.0度に対して、±2.0度以内)できた(実施例1)。なお、この実施例1による光加熱処理後の、位相シフト膜の面内における平均透過率は、6.14%であり、面内における平均位相差は、177.7度であった。
また、このとき、中央部の酸化層の膜厚hは20Å、外周部の酸化層の膜厚h’は21Åであった。なお、図3に示すように、中央部の厚さhとして、薄膜の1辺の長さをLとした場合、基板の中央で(2/3)Lを占める領域の厚さの平均値を使用し、外周部の厚さh’として、基板の外周側で各(1/6)Lを占める領域の厚さの平均値を使用した。
【0076】
成膜条件1で形成した薄膜について、図5に示す光加熱装置を用いて、枚葉処理で、積算照射量の面内均一性が高い条件で光加熱処理を実施した(比較例1)。この光加熱処理は、ハロゲンヒーターの点灯時間(位相シフト膜への照射時間)を7minとし、全てのハロゲンヒーターの出力を同じとした。これにより、位相シフト膜に照射する積算照射量を面内でほぼ均一とした。
【0077】
この条件による光加熱処理では、被処理面に対して均一に加熱できる。光加熱処理前の位相シフト膜は、面内の平均透過率に対して±0.3%の範囲内である高い面内透過率均一性を有しているため、この条件の光加熱処理が行われた後の位相シフト膜も、高い面内透過率均一性を有するものになるはずであった。しかし、光加熱処理後の位相シフト膜の光学特性を測定したところ、透過率や位相差の面内均一性が所定の許容範囲を超えて(透過率は、目標値6.1%に対して、±0.3%の範囲を超えており、位相差は、目標値177.0度に対して、±2.0度の範囲を超えていた)しまっていた(比較例1)。このとき、酸化層の膜厚は、中央部および外周部ともに20Åであった。中央部および外周部の測定領域に関しては、上記と同様である。
【0078】
成膜条件2で形成した薄膜について、図5に示す光加熱装置を用いて、枚葉処理で、積算照射量の面内均一性が高い条件で光加熱処理を実施した(比較例2)。この光加熱処理は、ハロゲンヒーターの点灯時間(位相シフト膜への照射時間)を7minとし、全てのハロゲンヒーターの出力を同じとした。これにより、位相シフト膜に照射する積算照射量を面内でほぼ均一とした。
【0079】
この条件による光加熱処理では、被処理面に対して均一に加熱できる。しかし、光加熱処理前の位相シフト膜は、面内の平均透過率に対して±0.3%の範囲を超えていた。光加熱処理後の位相シフト膜の光学特性を測定したところ、透過率や位相差の面内均一性が所定の許容範囲を超えて(透過率は、目標値6.1%に対して、±0.3%の範囲を超えており、位相差は、目標値177.0度に対して、±2.0度の範囲を超えていた)しまっていた(比較例2)。このとき、酸化層の膜厚は、中央部および外周部ともに20Åであった。中央部および外周部の測定領域に関しては、上記と同様である。
【0080】
(位相シフトマスクの作製)
上記実施例1で作製した位相シフトマスクブランクの位相シフト膜上に、クロムを含有する材料からなる遮光膜を成膜し、遮光膜を有する位相シフトマスクブランクを作製した。成膜した遮光膜は、位相シフト膜側からCrCON膜(膜厚30nm)、CrN膜(膜厚4nm)、CrOCN膜(膜厚14nm)が順に積層した構造とした。このMoSiNからなる位相シフト膜とCr系材料からなる遮光膜の積層構造で、ArFエキシマレーザーの波長(193nm)に対する光学濃度は3.1であった。
【0081】
この作製した遮光膜を有する位相シフトマスクブランクを用いてハーフトーン型位相シフトマスクを作製した。具体的には、まず、マスクブランクの遮光膜上に、レジスト膜として、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を形成した。レジスト膜の形成は、スピンナー(回転塗布装置)を用いて、回転塗布した。
【0082】
次に上記マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて位相シフト膜に形成すべき転写パターンの描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
続いて、上記レジストパターンをマスクとして、遮光膜のエッチングを行って遮光膜パターンを形成した。ドライエッチングガスとして、ClとOの混合ガスを用いた。
次に、上記レジストパターンまたは遮光膜パターンをマスクとして、位相シフト膜のエッチングを行って位相シフトパターンを形成した。ドライエッチングガスとして、SFとHeの混合ガスを用いた。
【0083】
次に、残存するレジストパターンを除去し、電子線描画用化学増幅型ポジレジスト膜(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製 PRL009)を回転塗布により、新たに形成した。さらに、形成したレジスト膜に対し、電子線描画装置を用いて遮光膜に形成すべき転写パターン(遮光帯等)の描画を行った後、所定の現像液で現像してレジストパターンを形成した。
【0084】
次に、このレジストパターンをマスクとして、遮光膜のエッチングを行って遮光帯等のパターンを形成した。最後に、残存するレジストパターンを除去し、所定の洗浄処理を施して、位相シフトマスクを得た。この位相シフトマスクは、位相シフトパターンの透過率および位相差の面内均一性は高く、高い精度で露光転写を行うことが可能であった。
【符号の説明】
【0085】
1 透光性基板
11 表層を除く領域の薄膜
12 酸化層
図1
図2
図3
図4
図5