特許第6173767号(P6173767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6173767炭素繊維複合材料製受熱タイルおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173767
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材料製受熱タイルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21B 1/11 20060101AFI20170724BHJP
   G21B 1/13 20060101ALI20170724BHJP
   G21B 1/17 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   G21B1/00 K
   G21B1/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-103614(P2013-103614)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-224730(P2014-224730A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591160512
【氏名又は名称】金属技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104341
【弁理士】
【氏名又は名称】関 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】山田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】森 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康士
(72)【発明者】
【氏名】松並 清隆
(72)【発明者】
【氏名】前田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】中榮 保
(72)【発明者】
【氏名】窪田 亮
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 真治
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠俊
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 豪嗣
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0032530(US,A1)
【文献】 特開2007−155737(JP,A)
【文献】 特開2011−122883(JP,A)
【文献】 特開2009−192264(JP,A)
【文献】 特開平07−167972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B 1/11
G21B 1/13
G21B 1/17
B23K 1/00
B23K 35/32
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を持ち受熱面の裏側にスリットを有する受熱ブロックの前記貫通孔内周に第1のロウ材薄膜を配置し、1カ所にスリットを有する円筒状の緩衝材を前記第1のロウ材薄膜の内側かつ該スリットが前記受熱ブロックのスリットと同じ位置に来るように配置し、前記緩衝材の内周に第2のロウ材薄膜を配置し、前記第2のロウ材薄膜の内側に冷却管を配置することにより組み上げられた組立体を真空ロウ付けして時効処理することを特徴とする核融合炉ダイバータに用いる炭素繊維複合材料製受熱タイルの製造方法。
【請求項2】
前記第1のロウ材薄膜は、ロウ付け前に、前記緩衝材のスリットの位置で破断されるかスリットの位置に両端が来るように配置されることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維複合材料製受熱タイルの製造方法。


【請求項3】
前記貫通孔の内壁にチタン薄膜層を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の炭素繊維複合材料製受熱タイルの製造方法。
【請求項4】
貫通孔を設けた炭素材製の受熱ブロックと、前記貫通孔に嵌入された銅合金製の冷却管と、前記受熱ブロックと前記冷却管の間に配置される円筒状の緩衝材と、前記緩衝材と前記受熱ブロックの間および前記緩衝材と前記冷却管の間に介挿されたロウ層を備えて、受熱面の裏側において前記受熱ブロックの幅に亘って前記受熱ブロックと前記緩衝材を貫き前記冷却管まで届くスリットを備えることを特徴とする、核融合炉第一壁に用いる炭素繊維複合材料製受熱タイル。
【請求項5】
前記貫通孔の内壁にチタンカーバイド層が形成されていることを特徴とする請求項4記載の炭素繊維複合材料製受熱タイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温プラズマに面する核融合炉の第一壁などの高熱負荷受熱機器に使用する炭素繊維複合材料製受熱タイルに関する。
【背景技術】
【0002】
核融合炉における第一壁は、プラズマに直接対向する機器全般を意味し、ダイバータ、ブランケット表面、リミター等を含み、高温のプラズマによる厳しい熱・粒子負荷を受ける。第一壁は、プラズマに悪影響を与えることなく構造健全性を維持し、周囲の構造物にとってプラズマに対する盾になることが要求される。
したがって、第一壁にはこのような高熱負荷に耐えて除熱を行う機能が要求される。第一壁に要求される高熱負荷の除熱機能を満たすために、熱伝導のよい材料で第一壁の受熱機器を構成することが必要である。
【0003】
図8は、核融合炉のダイバータに適用する受熱タイルの例を示す断面図である。
特にトカマク型核融合炉のダイバータには入射する荷電粒子の持つ運動エネルギーが熱として与えられるため、ダイバータは核融合炉内において最も高い熱負荷を受ける機器になる。したがって、ダイバータにはこのような高熱負荷に耐えて除熱を行う機能が要求される。
【0004】
ダイバータは、イオン照射によるスパッタリングやプラズマディスラプションにおける熱衝撃から冷却構造を保護するために、プラズマに対向する表面に、プラズマへの悪影響が小さい材料で形成された受熱ブロックを備える。
受熱ブロックは、スパッタリングなどにより表面から粒子が飛散してプラズマに混入しプラズマ温度の低下や閉じ込め性能の低下を招くため、プラズマへの悪影響が小さい低原子番号材料、特に、熱伝導のより高い炭素材料である炭素繊維強化炭素複合材料(CFC材)で形成することが望ましい。
【0005】
さらに、ダイバータに要求される高熱負荷の除熱機能を満たすために、受熱ブロックの内部に冷却管を備える。
長時間放電を行う核融合炉においては、ダイバータを構成する部材自体の熱容量ではその表面温度が構成材料の融点を超えてしまうため、受熱ブロックの内部に、伝熱性が高く強度の高いたとえばクロム・ジルコニウム銅(CuCrZr)など銅合金製の冷却管を設置し、流路に水などの冷媒を通して受熱ブロックが受けた熱を強制除熱する、強制冷却方式を採用している。
【0006】
しかし、CFCなどの炭素材で形成した受熱ブロックとCuCrZrの銅合金製の冷却配管は接合性が悪く、また相互間には膨張率に大きな差がある。
このため、プラズマからの受ける熱エネルギーを効率よく冷却管に伝えかつ膨張率の差を吸収するため、受熱ブロックと冷却配管の間にCuWなどの銅材製の緩衝材を介装し、相互間を、主としてCu−Mg系やTi−Cu系の熱伝導のよい接合材を用いたロウ付け接合などを用いて冶金的に接合して、熱抵抗を可能な限り低減することが好ましい。
【0007】
しかし、熱膨張係数が、受熱ブロックにおいて2×10−6、冷却管において2×10−5、緩衝材において1×10−6、と大きく異なる。したがって、ロウ付け工程中の高熱処理、特に降温によって素材が収縮する際に、外側の緩衝材や受熱ブロックが内側の冷却管の収縮に追従できず、接合部に欠陥が生じやすい。このため、特に受熱ブロック内に割れが発生したり、受熱ブロックと緩衝材の剥離が生じたりして、熱伝達率が低下し、冷却効率を低下させる事象が生じていた。
【0008】
特許文献1には、グラファイト部と金属部がロウ層を介して互いに結合され、金属部とロウ層の間に中間層が配置されている高耐熱構造部品が開示されている。この特殊な中間層により、異種材料間の熱膨張率の違いを吸収して、グラファイトと金属の間を強固に結合することができる。
しかし、特許文献1記載の高耐熱構造部品では、核融合炉の運転中に遭遇する熱サイクル負荷には耐えて構造部品の著しい変形や材料割れを防止することができるが、ロウ付けが850℃ないし1900℃の間の温度で行われるため、部品の製造工程中に履歴する高熱処理に耐えかね、製品としての歩留りは高くない。
【0009】
ちなみに、本願発明者らは、銅合金製の冷却管とCFC製の受熱ブロックの間に無酸素銅製の円筒緩衝材を介装したサンプルについて、985℃で真空ロウ付けをして析出硬化型銅合金の強度確保のため急冷後、480℃で時効処理を行った後に検査をした結果、かなりの率で、受熱ブロックの緩衝材と接する部分に軸方向のクラックが入ったり、ロウ付けの不良が生じたりした欠陥を見つけることになった。
このように、従来技術の受熱タイルには、冷却性能をより向上させる要請があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表平8−506315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、核融合炉のダイバータに使用される、炭素材と銅合金を冶金的接合することにより製造する受熱タイルであって、従来品より高い冷却効率を持った受熱タイルおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の核融合炉ダイバータに用いる受熱タイルは、貫通孔を設けた炭素材製の受熱ブロックと、受熱ブロックの貫通孔に嵌入された銅合金製の冷却管と、受熱ブロックと冷却管の間に配置される環状の緩衝材と、緩衝材と受熱ブロックの間および緩衝材と冷却管の間に介挿されたロウ層を備えた受熱タイルであって、受熱面の裏側において受熱ブロックの幅に亘って受熱ブロックと緩衝材を貫き冷却管まで届くスリットを備えることを特徴とする。
【0013】
従来の受熱タイルは、受熱ブロックの貫通孔に円筒状の冷却管と円筒状の緩衝材が嵌入した形状を有する上、相互間に大きな熱膨張率の差があるため、高熱処理に伴って径方向の応力が大きく掛かり、特に接合性が悪い受熱ブロックと緩衝材の境界部分で欠陥を生じていた。
【0014】
しかし、本発明の受熱タイルは、環状の緩衝材にスリットで形成された開環部分が存在するため、製造中に高熱処理を受けて冷却管と緩衝材の間で大きな膨張率の差があっても、緩衝材が容易に変形して応力を吸収することができる。また、緩衝材と受熱ブロックの間においても膨張率の差が大きいが、周方向の変位が容易なため、径方向の応力が解消して、熱伝達を妨げる相互間の剥離や受熱ブロック内での割れに発展しにくくなり、結果として受熱ブロックの受熱を冷却管の冷媒に伝達する能力が向上する。
【0015】
緩衝材のスリットの幅は、少なくとも、冷却時に収縮したときに対向する壁が接触しない程度の幅が必要である。たとえば、冷却管の外径が15mmである場合には、0.1mmになる。また、スリットの幅は、冷却管より大きい必要はなく、加工が容易な2〜8mm程度を選択することができる。なお、緩衝材のスリットと受熱ブロックのスリットは、必ずしも同じ幅である必要はない。
【0016】
なお、受熱タイルの緩衝材と受熱ブロックの間および緩衝材と冷却管の間に介挿されるロウ材薄膜は、たとえば920℃程度の融点を有するので、たとえば985℃程度の高温で真空ロウ付けを行う直前まで溶融せず強い張力を有する。したがって、ロウ付け前の組立体において緩衝材のスリットにロウ材薄膜が跨っていると、真空ロウ付け直前まで緩衝材の変形を抑制して、緩衝材と受熱ブロックの境界部分に生じる応力を十分に解放することができない。
【0017】
このため、受熱タイルの伝熱性能をさらに向上させるためには、受熱ブロックと緩衝材の間でロウ層を形成するロウ材薄膜は、ロウ付け前に、緩衝材のスリットを跨いで緊張しないように、スリットの位置で破断されるかスリットの位置に両端が来るように配置されて不連続になっていることが好ましい。
ロウ材薄膜が、緩衝材のスリットの位置で不連続になっていれば、緩衝材は真空ロウ付け工程中に自由に変形して、応力を解消することができる。
【0018】
なお、受熱ブロックの貫通孔の内壁にはチタンカーバイド層が形成されていることが好ましい。炭素材表面に形成されたチタンカーバイド層の隙間にロウ材中の銅が浸透して、受熱ブロックとロウ材層を強く接合することができる。
【0019】
また、本発明の核融合炉ダイバータに用いる受熱タイルの製造方法は、貫通孔を持ち受熱面の裏側にスリットを有する受熱ブロックの貫通孔内周に第1のロウ材薄膜を配置し、1カ所にスリットを有する円筒状の緩衝材を第1のロウ材薄膜の内側かつスリットが受熱ブロックのスリットと同じ位置に来るように配置し、緩衝材の内周に第2のロウ材薄膜を配置し、第2のロウ材薄膜の内側に冷却管を配置することにより組立体を組み上げ、この組立体を真空ロウ付けして時効処理することを特徴とする。
【0020】
さらに、第1のロウ材薄膜は、両端が円筒状の緩衝材のスリットに来るように巻くなどして、緩衝材のスリットの位置で不連続になるようにすることが好ましい。第1のロウ材薄膜が緩衝材のスリットの位置で分かれていると、ロウ材薄膜が製造工程中に緩衝材の変形を拘束しないため、緩衝材と炭素材の境界領域における欠陥の発生を抑制することができる。
また、受熱ブロックの貫通孔の内壁にはチタン薄膜層を形成することが好ましい。チタン薄膜層は、たとえば公知の蒸着法により容易に形成することができる。チタン薄膜層中のチタンは、高温状態で炭素材の炭素と反応して炭素材表面に均一なチタンカーバイドを形成し、炭素材とロウ材の結合を強固にする。
【発明の効果】
【0021】
本願発明の受熱タイルにより、従来のものより除熱効率のよい核融合炉用ダイバータを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の1実施例に係る核融合炉のダイバータなどの高熱負荷受熱機器に使用する炭素繊維複合材料製受熱タイルの断面図である。
図2】本実施例の受熱タイルの組立方法を説明する分解組立図である。
図3】本実施例の受熱タイルの製造手順を説明する流れ図である。
図4】本実施例の受熱タイルの試験用サンプルを示す側面図である。
図5】本実施例の受熱タイルの試験における温度測定点を示す図面である。
図6】本実施例の受熱タイルにおいてスリット幅をパラメータとして冷却速度を比較したグラフである。
図7】本実施例の受熱タイルについてロウ材薄膜をスリット位置で破断したときの効果を測定した結果を表すグラフである。
図8】従来の受熱タイルの問題を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明の核融合炉におけるダイバータの受熱タイルおよびその製造方法について詳細に説明する。本実施例は、トカマク型核融合炉におけるダイバータに適用する受熱タイルに係るものであるが、本発明は、核融合炉のブランケットのプラズマに面する部分やリミッタなどばかりでなく、炭素材製の受熱ブロックに銅合金製の冷却管を冶金的に接合して形成する受熱タイルに広く適用できるものであることは言うまでもない。
【0024】
図1に示すように、本実施例の受熱タイル10は、炭素繊維強化炭素複合材料(CFC)で形成されるモノブロック構造の受熱ブロック11と、たとえばクロム・ジルコニウム銅(CuCrZr)など銅合金製の冷却管16を備える。
【0025】
受熱ブロック11は各面が長方形あるいは正方形をした角柱をなし、受熱面は20mmから30mm程度の辺を持つ長方形又は正方形をしている。受熱ブロック11の内部の側面からの距離と受熱面からの距離がほぼ等しい位置に、冷却管16を通す径15mmから20mm程度の貫通孔12が形成されている。貫通孔12を挟んで受熱面と反対側の部分には、受熱タイルを他の機器に固定するためのレールを通す嵌合溝20が形成され、さらに貫通孔12と嵌合溝20を繋ぐスリット21が形成されている。なお、貫通孔12の内壁表面に、チタンカーバイドの層が形成されていてもよい。
【0026】
冷却管16は、受熱ブロック11の貫通孔12を貫通する。冷却管16は、熱伝達係数の大きい銅合金で形成された肉厚約1.5mmの管で、水などの冷媒を流通して受熱タイル10が受容した熱を搬出する。なお、冷却管16は、熱伝達係数が特に大きいクロム・ジルコニウム銅(CuCrZr)で形成することが好ましい。また、冷却管16の内壁にネジを施すことにより伝熱面積を大きくして伝熱性能を向上させることもできる。
【0027】
受熱ブロック11と冷却管16の間には円筒状の緩衝材14が介挿される。円筒状の緩衝材14は、無酸素銅製あるいは銅タングステン(CuW)などの銅合金で形成され、受熱ブロック11と冷却管16の熱膨張差を吸収する役割を果たす。円筒状の緩衝材14は、1カ所に長さ方向に切り込んで開環するスリット23を有し、そのスリット23の位置と受熱ブロック11のスリット21の位置を合わせるように配置する。
【0028】
受熱ブロック11と緩衝材14の間に第1のロウ材薄膜13を挟み、緩衝材14と冷却管16の間に第2のロウ材薄膜15を挟んで、真空ロウ付けによりそれぞれの間を接合固定している。ロウ材薄膜13,15は、熱伝導性の高いCu−Mg系やTi−Cu系の接合材で形成することが好ましい。ロウ材薄膜13,15は、たとえば、60Ti−15Cu−25Niの組成を持つロウ材で形成された厚さ50μm程度のシートから、貫通孔12の長さに合わせた幅で切り出してリボン状にしたものを適宜の長さに切断することにより供することができる。
【0029】
図2および図3を参照して、本実施例の受熱タイルの製造手順を説明する。
まず、受熱ブロック11、冷却管16、緩衝材14、ロウ材薄膜13,15、その他の部品を準備する(S11)。
CFC製の受熱ブロック11は、核融合炉内に不純物を放出しないように、たとえば、真空加熱炉内で1000℃近くに加熱するなど、十分な脱ガス処理を施しておく。なお、銅や銅合金は高熱処理をすると変形するので、脱脂処理のみを行う。
【0030】
CFC製の受熱ブロック11は、脱ガス処理を施した後、貫通孔12の内側壁に金属層を形成するためメタライズ加工を施す(S12)。
金属層は、銅とチタンを含む金属粉末を中性バインダでペースト状あるいは溶液状にしたものを塗布して、真空加熱炉で焼結させることにより形成する。金属層はさらに機械加工により滑らかな円筒面を形成して、緩衝材14を挿入できるようにする。
なお、イオン蒸着法などによりチタンを蒸着させてチタン薄膜層を形成することにより貫通孔12の内壁表面をメタライズするようにしてもよい。
【0031】
第2のロウ材薄膜15を内面に巻き付けた緩衝材14を、スリット23の位置を前工程で既に冷却管16に挿入された受熱タイル10のスリット位置に合わせて、冷却管16に嵌め込む。このとき、冷却管16に既に挿入された受熱タイル10と新しく挿入される受熱タイル10の間隙が0.5mmから1.0mm程度になるように固定位置を決める。
【0032】
さらに、受熱ブロック11の貫通孔12の内面に第1のロウ材薄膜13をセットして、受熱ブロック11を緩衝材14に嵌め込み、既に挿入された受熱ブロック11と新しく挿入される受熱ブロック11が同じ姿勢を持つように位置決めする。この位置決めにより、受熱ブロック11のスリット21と緩衝材14のスリット23は受熱面と反対の外表面から冷却管16の外周表面まで達するスリットを形成することになる。この工程を必要な数だけ繰り返することにより、所定数の受熱タイル10が連結したロウ付け前の組立体が形成される(S13)。
組立体における受熱タイル10同士のスペースを後の工程にわたって保持するため、カーボン材で作成したスペーサを用いることができる。スペーサはロウ付け固定後に取り外す。
【0033】
ロウ材薄膜13,15は、緩衝材14や受熱ブロック11を組み合わせた後で隙間に挿入するようにしてもよい。また、ロウ材薄膜13,15は、合わせ目22,24が受熱ブロック11のスリット21や緩衝材14のスリット23の位置に来るように巻き付けることが好ましい。なお、ロウ材薄膜13,15は、周長を短くしたり、両端をスリット内に遊ばせたりして、巻き付けたときに合わせ目22,24で重ならないようにすることが好ましい。また、第1のロウ材薄膜13は、スリット23を跨ぐように巻き付けた後で、真空ロウ付け前に、スリット23に沿って破断させるようにしてもよい。
【0034】
組み上がった組立体を真空加熱炉で、925℃以上、1000℃程度に加熱してロウ材薄膜13,15を溶融して、真空ロウ付け処理を行う(S14)。
ロウ付けは、複雑な組成形状を有する組立体全体を均等にロウ付け温度にするため、ロウ付け温度に達する前に、ロウ付け温度よりわずかに低い温度に保って十分な予熱を行うことが好ましい。均熱状態になった組立体をさらに加熱してロウ付け温度まで上げて所定時間保持した後に、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスによる強制冷却を行う。
【0035】
冷却管16を形成する金属が析出硬化型銅合金(CuCrZr)であるときは、ロウ付けにより軟化するので、ロウ付けと溶体化処理を兼行して実施し、時効処理を行って硬度を確保する必要がある。そこで、適当数の受熱タイルを接続してロウ付けした冷却管/受熱ブロック接合体を、真空中で500℃程度の時効温度で所定時間保持する時効処理を行う(S15)。
時効処理後は炉内にて放冷する。
【0036】
ロウ付けした冷却管/受熱ブロック接合体の冷却管16の両端部に冷却配管コネクタを溶接により取り付ける(S16)。
ステンレススチール製の冷却配管コネクタはCuCrZr製冷却管との接合性が良くないので、インサート材としてインコネルなどのニッケル系合金製のインサート管を用いて、電子ビーム溶接を行って接続する。溶接後に管の内外表面を切削して所定の寸法に加工する。
なお、受熱ブロック11の内壁表面層にチタンが含まれる場合は、チタンが受熱ブロック11中の炭素成分と反応しチタンカーバイドなどのチタン化合物を生成し、ブロックと強固に接合する。
【0037】
このようにして製造された受熱タイル10では、円筒状の緩衝材14が一部にスリット23を有して開環しているため、ロウ付け後の冷却期間に冷却管16の径が大きく減少した時にも、冷却管16の外周に接合された緩衝材14が冷却管16に追従して変形し、膨張率の差を周方向の変位として吸収するので、欠陥の発生を抑制することができる。
また、冶金的に接合された緩衝材14と受熱ブロック11も膨張率に大きな差があるが、受熱ブロック11にスリット21が設けられているため、貫通孔12の内壁面が緩衝材14の外周の変位に引かれて径方向に変位するので、従来品と比べて境界部分に生じる剥離や境界近傍の受熱ブロック11内に生じる割れが減少する。
したがって、本実施例に係る受熱タイル10は、より熱伝導性に優れ、受熱ブロック11に入射する熱をより効率的に冷却管16に伝えて、除熱することができる。
【0038】
なお、緩衝材14と受熱ブロック11の間に介挿される第1のロウ材薄膜13は、たとえば60Ti−15Cu−25Niなどの剛性の高い合金であるので、緩衝材14のスリット23を跨いで巻き付けられている場合は、ロウ材が溶融するまでは緩衝材14を拘束して自由な変形を妨げる。ロウ付け温度はロウ材の融点を超えるが、養生が十分でない場合は、ロウ付け領域に熱伝達を妨げる欠陥が生じる可能性がある。したがって、第1のロウ材薄膜13は、ロウ付け前に、緩衝材14のスリット23の位置で破断しておくことが好ましい。
【0039】
本実施例に係る受熱タイル10の除熱効果を、試験用サンプルを用いて確認した。
本実施例に係る受熱タイル10の除熱効果を検討するために用いた試験用サンプルを図4に表す。
試験用サンプルは、10個の受熱タイル10を連結して、受熱タイル10を貫く冷却管を、一端を直接に、他端を冷却流路部品31を介して、冷却水配管32に繋ぎ、冷却水配管32の両端に冷却配管コネクタ33,34を配したものである。冷却配管32を、水源と排水装置に繋いで試験に供した。
【0040】
試験用サンプルは、CFC製の受熱ブロックに設けたスリットの幅4mmと8mmの2種とCuW製の緩衝材に設けたスリットの幅2mm、6mm、8mmの3種を組み合わせて複数準備した。
また、各サンプルについて、ロウ材薄膜をスリットの部分に掛け渡した状態(スリット付)でロウ付け温度まで昇温したものと、ロウ材薄膜でスリットの部分を覆わないようにした状態(スリットなし)でロウ付けしたものを準備した。
なお、従来技術と比較するため、受熱ブロックや緩衝材にスリットがない現行品の受熱タイルで組み上げたサンプルも用意した。
【0041】
受熱タイルの除熱効果は、試験用サンプルを通る冷却水配管32に、熱湯を供給して受熱タイルを95℃近くの高温に保持し、その後、急速に5℃の冷水に切り換えて、受熱タイルの表面温度が90℃から60℃に降下する時間を測定する方法により確認した。この温度降下時間が短い程、伝熱係数が大きく、冷却効果が大きいことになる。
【0042】
受熱タイルの表面温度は、試験用サンプルにおける中央部2個の受熱タイルの図5に示す位置に対して、赤外線放射温度計を使って非接触で測定した。測定点は、受熱タイル10の厚さ方向の中央における、側表面中央部で冷却管の高さに当たる位置P1、受熱面の角P2、受熱面の中央P3、受熱面におけるP2の反対側の角P4、P1の冷却管を挟んだ反対側P5、の5点とした。
【0043】
図6は、冷却時間の測定結果を示すグラフで、縦軸に90℃から60℃まで降下する時間(90℃−60℃冷却時間)を秒で表し、横軸に測定点P1,・・・P5と対応する位置を表している。冷却時間のグラフは、スリット幅の組合せが同じものを同じプロットで表示し、ロウ材スリット付の場合を点線で、ロウ材スリットなしの場合を実線で、測定点を結んである。また、現行品の測定結果を破線で表した。
【0044】
この測定結果から、受熱タイルの受熱面中央における90℃−60℃冷却時間が、現行品でほぼ0.75秒であるのに対して、受熱ブロックと緩衝材にスリットを設けた本実施例の受熱タイルでは0.65秒から0.56秒と、大幅に短縮されていることが分かる。本実施例の受熱タイルの方が、タイル中に欠陥が少ないことによる。
また、一般的に、受熱ブロックと緩衝材のスリットが狭い方が冷却時間が短いことが示されている。スリットが狭い方が、空気領域が小さく熱伝達面積が大きいことによると考えられる。
【0045】
また、グラフにおいて点線で表した、ロウ材薄膜が緩衝材のスリットを覆う状態にしてロウ付けするロウ材スリットなしの場合より、実線で表したロウ材スリット付の場合の方が冷却時間の短い傾向があることが分かる。なお、図6には表示しなかったが、ロウ材スリット付の受熱タイルの方が冷却時間のばらつきが小さい。これから、熱伝達を妨げる欠陥が少ないことが推定される。
【0046】
図7は、緩衝材のスリット幅が最も小さく除熱性能が優れるサンプル(緩衝材のスリット幅2mm、受熱ブロックのスリット幅4mm)について、ロウ材スリット付とロウ材スリットなしの場合の90℃−60℃冷却時間を比較したグラフである。グラフ中、測定位置毎に示したエラーバーは、2個の受熱タイルについて得られた測定値の標準偏差に基づいて表したものである。
【0047】
上に説明した冷却時間測定結果から、ロウ材スリット付の場合が、ロウ材スリットなしの場合より明らかに冷却時間が短く、受熱タイルの除熱性能が高いことが分かる。
ロウ材薄膜が緩衝材のスリットを跨いで巻き付けられている場合は、ロウ付けのため融点を超えて昇温しロウ材が溶融するまでは緩衝材を拘束して自由な変形を妨げるため、ロウ付け後のロウ材層およびその近傍に熱伝達を妨げる何らかの影響が残るものと考えられる。
【0048】
上記の通り、本実施例の受熱タイルが、従来品と比較して大きな冷却性能を有することが分かった。また、緩衝材に設けるスリットは、幅が狭い方が効果的である。さらに、ロウ付け前に緩衝材と受熱ブロックの間に介挿するロウ材薄膜は、緩衝材のスリットを跨がないようにして緩衝材の変形を拘束しない方が、冷却性能が高い。
【0049】
なお、性能確認試験では、工作の便宜から緩衝材のスリット幅を2mmから8mmとしたが、このスリットは熱膨張率の差に基づく熱応力を抑制するために導入するものであるから、スリット幅が小さくても緩衝材が閉環状のリングを形成しないようにスリットがリングを切断して開環してさえいればよい。ただし、冷却管の外形が縮小したときに緩衝材のスリットの壁同士が衝突しないことが好ましいので、1000℃の温度差が生じるとして、少なくとも1.0mm程度のスリット幅を持たせることが好ましい。
また、スリット幅は、多少広くても従来品より冷却性能の高い受熱タイルが得られるが、冷却管の径より大きくしても冷却性能を向上させる上で積極的な意義がないので、スリット幅の上限は冷却管の外径としてよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る、炭素材と銅合金の冶金的接合をすることにより製造する受熱タイルは、核融合炉ダイバータなどの高熱負荷熱処理部材として適用することにより、従来のものより大きな冷却効果を発揮することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 受熱タイル
11 受熱ブロック
12 貫通孔
13 第1のロウ材薄膜
14 緩衝材
15 第2のロウ材薄膜
16 冷却管
18 冷媒管路
20 嵌合溝
21 スリット
22 合わせ目
23 スリット
24 合わせ目
31 冷却流路部品
32 冷却水配管
33 冷却配管コネクタ
34 冷却配管コネクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8