特許第6173778号(P6173778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173778
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】遮熱コーティング用材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/11 20160101AFI20170724BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20170724BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   C23C4/11
   C23C14/24 E
   C04B35/495
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-119271(P2013-119271)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-234553(P2014-234553A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】松平 恒昭
(72)【発明者】
【氏名】川島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】北岡 諭
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】山浦 誠
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0129869(US,A1)
【文献】 特開2009−221551(JP,A)
【文献】 特開平10−212108(JP,A)
【文献】 特開2004−270032(JP,A)
【文献】 特開2006−298695(JP,A)
【文献】 特開2010−235415(JP,A)
【文献】 特開2014−125656(JP,A)
【文献】 特表2015−504480(JP,A)
【文献】 特開2010−229471(JP,A)
【文献】 特開2005−154885(JP,A)
【文献】 特開2009−191297(JP,A)
【文献】 米国特許第06117560(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0129972(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0242797(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0242411(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0151481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む遮熱コーティング用材料。
1−xLaTa (1)
(式中、xは、0.15〜0.30である。)
1+yTa3−3yZr3y (2)
(式中、yは、0.05〜0.10である。)
【請求項2】
請求項1に記載の遮熱コーティング用材料を含む皮膜を備える物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱伝導性及び耐久性に優れる皮膜等の形成に用いられる遮熱コーティング用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電用ガスタービンエンジン、航空機用ジェットエンジン等において、その燃焼ガスが高温であるために、動翼、静翼、燃焼器等の高温部品の表面には、遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)といわれる皮膜が施されている。そして、遮熱コーティングの表面において、耐食性、耐酸化性、耐熱性等を備えるものとなっている。この皮膜の形成には、イットリア安定化ジルコニアを含む材料が広く用いられているものの、近年、このイットリア安定化ジルコニアより低い熱伝導率を与える材料の探索が行われてきた。
【0003】
特許文献1には、Aで表されるパイロクロール構造を有する化合物(LaZr等)を含む皮膜を有する金属物体が開示されている。
特許文献2には、希土類安定化ジルコニア及び希土類安定化ジルコニア−ハフニアに、酸化ランタンを0.1〜10mol%添加したセラミックスからなる遮熱層を有する遮熱コーティング部材が開示されている。
特許文献3には、LnNb1−xTa(0≦x≦1、LnはSc、Y及びランタノイドからなる群より選択される1種又は2種以上の原子)で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料が開示されている。
特許文献4には、Ln1−x1.5+x(0.13≦x≦0.24、LnはSc、Y及びランタノイドからなる群より選択される1種又は2種以上の原子、MはTa又はNb)で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用材料が開示されている。
また、特許文献5には、Lnx+y−3xyTiTaZr(1−3x)(1−y)2+1.5xy−0.5y(0.05≦x≦0.25、0≦y≦0.15、Lnは、Y、Sm、Yb及びNdからなる群より選択される1種又は2種以上の原子)を主として含む遮熱コーティング用材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−212108号公報
【特許文献2】特開2004−270032号公報
【特許文献3】特開2006−298695号公報
【特許文献4】特開2009−221551号公報
【特許文献5】特開2010−235415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遮熱コーティング材料を含む高温構造材料において、昇温又は降温の際に相変態(相転移)を生ずる化合物を含むことは、温度変化により体積変化を引き起こし、皮膜等の割れをもたらすこととなる。そこで、遮熱コーティング材料としては、特に、25℃〜1,000℃の範囲において、イットリア安定化ジルコニアより低い熱伝導率を有し、相変態が発生しにくい材料が求められている。
本発明の目的は、低熱伝導性に優れるとともに、25℃〜1,200℃の範囲における昇温又は降温により相変態が発生しにくく、相変態に伴う体積変化による変形、破断等が抑制されて耐久性に優れた皮膜等の形成に用いられる遮熱コーティング用材料、及び、この材料を用いて形成された皮膜を備える物品(複合物)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示される。
1.下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む遮熱コーティング用材料。
1−xLaTa (1)
(式中、xは、0.15〜0.30である。)
1+yTa3−3yZr3y (2)
(式中、yは、0.05〜0.10である。)
2.上記1に記載の遮熱コーティング用材料を含む皮膜を備える物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の遮熱コーティング用材料は、25℃〜1,000℃の範囲における熱伝導率が2.0W/(m・K)未満といった、低熱伝導性に優れる皮膜等の形成に好適である。また、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物は、いずれも、25℃〜1,200℃の範囲における昇温又は降温により相変態が発生しにくく、融点が1,700℃以上と高く、熱的に安定である。従って、本発明の遮熱コーティング用材料を用いて、基体の表面に皮膜を形成すると、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物の融点以下の温度において、割れ、基体からの剥離等の発生が抑制され、耐久性(形状保持性)に優れる。このような性質を利用して、本発明の遮熱コーティング用材料を用いて、金属、合金、耐熱性酸化物等からなる部材の表面に形成した皮膜を有する物品(複合物)は、構造的に安定である。
本発明の物品は、好ましくは、基体と、その表面に、直接、又は、中間層を介して、遮熱コーティング材料を用いて形成された皮膜(遮熱コーティング)とを備える構成であり、1,400℃〜1,700℃程度の温度で、低熱伝導性、耐食性、耐酸化性、耐熱性、断熱性等における長寿命化の求められる用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一般式(1)及び(2)で表される化合物の構造を示す概略図である。
図2】実施例1、実施例2及び比較例1により得られたY−La−Ta系複合酸化物のX線回折像を示すグラフである。
図3】実施例3により得られたY−Ta−Zr系複合酸化物のX線回折像を示すグラフである。
図4】実施例1〜3及び比較例1により得られた複合酸化物等の熱伝導率を示すグラフである。
図5】比較例1により得られた複合酸化物の線膨張率を示すグラフである。
図6】実施例1により得られた複合酸化物の線膨張率を示すグラフである。
図7】実施例2により得られた複合酸化物の線膨張率を示すグラフである。
図8】実施例3により得られた複合酸化物の線膨張率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の遮熱コーティング用材料は、下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする。
1−xLaTa (1)
(式中、xは、0.15〜0.30である。)
1+yTa3−3yZr3y (2)
(式中、yは、0.05〜0.10である。)
【0010】
上記一般式(1)及び(2)で表される化合物は、カチオン欠損型の欠陥ペロブスカイト型複合酸化物(以下、「複合酸化物」ともいう。)であり、図1に示すような構造を有する。この構造は、Aで表されるペロブスカイト構造から、2/3のAイオン(図1における×印)が欠損した構造である。
上記一般式(1)で表される化合物は、AサイトにY原子及びLa原子が、BサイトにTa原子が入った構造を有する。一方、上記一般式(2)で表される化合物は、Aサイト及び×印にY原子が、BサイトにTa原子及びZr原子が入った構造を有する。
【0011】
上記一般式(1)において、xは、0.15〜0.30であり、好ましくは0.18〜0.30、より好ましくは0.20〜0.30、特に好ましくは0.20〜0.30である。
また、上記一般式(2)において、yは、0.05〜0.10であり、好ましくは0.06〜0.09、より好ましくは0.07〜0.08、特に好ましくは0.08である。
x及びyが上記範囲にあることにより、上記複合化合物は、25℃〜1,200℃の範囲における昇温又は降温により相変態が発生しにくく、相変態に伴う体積変化が抑制される。これにより、上記化合物を含む本発明の遮熱コーティング材料を用いて、皮膜等を形成した場合に、特に、上記範囲の温度において、体積変化に伴う変形、破断等の不具合を抑制することができる。上記一般式(1)において、xが0.15未満の化合物の場合、斜方晶系から正方晶系への相変態(相転移)があり、皮膜の耐久性が劣ることとなる。一方、xが0.50より大きい化合物の場合、平均熱膨張係数が小さくなる傾向にある。
尚、相変態は、例えば、熱機械分析装置等を用い、空気、酸素ガス、アルゴンガス等の雰囲気中、昇温及び降温を一定速度として、25℃〜1,200℃の範囲において、化合物の加熱及び冷却を行い、寸法変化を観測して線膨張率の挙動により確認することができる。
【0012】
上記一般式(1)及び(2)で表される複合酸化物の融点は、通常、1,700℃以上であり、JIS R1611に準じて、レーザーフラッシュ法により測定される熱伝導度(測定温度:25℃〜1,000℃)が、好ましくは2.0W/(m・K)未満、より好ましくは1.8W/(m・K)未満である。
本発明の遮熱コーティング用材料がこれらの構造を有する複合酸化物を含むことにより、低熱伝導性及び耐久性に優れた皮膜を得ることができる。
【0013】
本発明の遮熱コーティング用材料に含有される上記複合酸化物は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
本発明の遮熱コーティング用材料は、上記複合酸化物のみからなることが好ましい。
【0014】
本発明の遮熱コーティング用材料を、電子ビーム物理気相堆積(EB−PVD)、プラズマ溶射、真空プラズマ溶射、フレーム溶射、高速溶射、焼結等の方法に供することにより、所望の材料からなる基体等の表面に、安定な皮膜を形成することができる。
【0015】
上記一般式(1)で表される複合酸化物の製造方法は、Y元素を含む化合物(以下、「化合物(m1)」という。)と、La元素を含む化合物(以下、「化合物(m2)」という。)と、Ta元素を含む化合物(以下、「化合物(m3)」という。)とを、各原子のモル比が所定の割合となるように配合し、これを熱処理する方法が一般的である。
上記一般式(2)で表される複合酸化物の製造方法もまた、Y元素を含む化合物(以下、「化合物(m1)」という。)と、Ta元素を含む化合物(以下、「化合物(m3)」という。)と、Zr元素を含む化合物(以下、「化合物(m4)」という。)とを、各原子のモル比が所定の割合となるように配合し、これを熱処理する方法が一般的である。
上記のいずれの場合も、更に、より均質な複合酸化物を得るために、例えば、尿素を含む混合物とした後、これを熱処理する方法もある。
【0016】
上記化合物(m1)、化合物(m2)、化合物(m3)及び化合物(m4)としては、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物等を用いることができる。これらのうち、組成がより均一な複合酸化物を得る場合には、水溶性化合物が好ましいが、水不溶性化合物を用いることもできる。
【0017】
上記一般式(1)及び(2)で表される複合酸化物の好ましい製造方法を説明する。
【0018】
上記一般式(1)で表される複合酸化物の場合、初めに、Y原子及びLa原子の合計量と、Ta原子とのモル比が1:3となるように配合した、化合物(m1)、化合物(m2)及び化合物(m3)と、尿素とを含む水溶液又は水分散液(懸濁液)からなる混合液を調製する。この混合液に含まれる化合物(m1)、化合物(m2)、化合物(m3)及び尿素の濃度は、それぞれ、好ましくは0.02〜0.1mol/l、0.02〜0.1mol/l、0.02〜0.1mol/l及び2〜10mol/l、より好ましくは0.02〜0.05mol/l、0.02〜0.05mol/l、0.02〜0.05mol/l及び2〜5mol/lである。
また、上記一般式(2)で表される複合酸化物の場合、初めに、Y原子、Ta原子及びZr原子の電荷バランスが保持されるように配合した、化合物(m1)、化合物(m3)及び化合物(m4)と、尿素とを含む水溶液又は水分散液(懸濁液)からなる混合液を調製する。この混合液に含まれる化合物(m1)、化合物(m3)、化合物(m4)及び尿素の濃度は、それぞれ、好ましくは0.02〜0.1mol/l、0.02〜0.1mol/l、0.02〜0.1mol/l及び2〜10mol/l、より好ましくは0.02〜0.05mol/l、0.02〜0.05mol/l、0.02〜0.05mol/l及び2〜5mol/lである。
以下、同じ操作により、上記一般式(1)及び(2)で表される複合酸化物が製造される。
【0019】
次に、上記混合液を、還流冷却下、80℃〜95℃の温度で加熱して尿素加水分解反応を行う。反応時間は、通常、10〜20時間である。
その後、反応系に含まれる反応生成物の形態によって、必要に応じて、遠心分離等を行い、反応生成物を回収する。そして、水、アルコール等を用いて洗浄し、乾燥させ、必要に応じて、粉砕することにより、第1前駆化合物からなる粉体を得る。
次に、第1前駆化合物からなる粉体を整粒し、必要に応じて、プレス成形等に供して、板状、塊状等の成形物を作製する。そして、この成形物を、酸素ガスを含む雰囲気下、1,200℃〜1,500℃の温度で、1〜3時間程度の熱処理(仮焼)を行い、第2前駆化合物からなる仮焼物を得る。
その後、得られた仮焼物を、必要に応じて、粉砕、整粒する。そして、必要に応じて、プレス成形等に供して、板状、塊状等の成形物を作製し、この成形物を、酸素ガスを含む雰囲気下、1,400℃〜1,700℃の温度で、1〜3時間程度の熱処理を行い、上記複合酸化物を得る。
【0020】
本発明の遮熱コーティング用材料を用いて、金属、合金等の材料からなる基体の表面に、直接、又は、間接的に、遮熱コーティング(皮膜)を形成し、一体化された物品(遮熱コーティング付き物品)、即ち、複合物を得ることができる。
【0021】
遮熱コーティング(皮膜)の形成方法は、上記例示した方法等とすることができる。また、遮熱コーティング(皮膜)の厚さは、目的、用途等に応じて、適宜、選択され、低熱伝導性、耐食性、耐酸化性、耐熱性、断熱性等の観点から、下限値は、通常、300μmである。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0023】
比較例1(Y0.90La0.10Taを含む遮熱コーティング用材料の製造)
フッ素樹脂製の反応器に収容した蒸留水900グラムに、純度99.99%以上のY(NO・6HO粉末(関東化学社製)9グラム(0.023モル)と、純度99.99%以上のLa(NO・6HO粉末(関東化学社製)1グラム(0.002モル)と、を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。次いで、この水溶液に、尿素90グラム(3モル)を投入し、室温(25℃)で1時間撹拌した。その後、得られた無色透明の水溶液に、純度99.9%以上のTa粉末(レアメタリック社製)17グラム(0.038モル)を投入し、室温(25℃)で7時間撹拌し、懸濁液を得た。
次に、懸濁液を加熱して95℃とし、還流冷却しながら、攪拌下、反応(尿素加水分解反応)させた(反応時間:15時間)。その後、得られた反応液を、25℃、4,800rpmで30分間遠心分離し、下層のゲルを回収した。このゲルを、大量の蒸留水に投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、下層のゲルを回収した。そして、このゲルを、大量のイソプロピルアルコールに投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、沈殿物を回収した。
その後、沈殿物を、大気雰囲気中、120℃で24時間加熱し、乾燥粉末とした。次いで、この乾燥粉末をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力5MPa)に供し、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を、大気雰囲気中、1,400℃で1時間熱処理(仮焼)し、仮焼成形体を得た。得られた仮焼成形体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕した。
次いで、乾式粉砕物をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力25MPa)に供し、更に、冷間等方静水圧加圧(荷重2.5トン)を行って、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1,650℃で1時間熱処理した。得られた焼成体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行ったところ、焼成体は、実質的にY0.90La0.10Taからなる単斜晶系であることが分かった(図2(A)参照)。また、焼成体を目視観察したところ、1,650℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは6.83g/cmであった。
上記のようにして得られた焼成体を、そのまま遮熱コーティング用材料とした。
【0024】
更に、上記焼成体を、レーザーフラッシュ法(JIS R1611に準拠)に供して、25℃、200℃、400℃、600℃、800℃及び1,000℃における熱伝導率を測定した。尚、固体の熱伝導率は、測定試料の気孔の影響を受けやすく、気孔を有すると、低めの値となることが知られている。そこで、緻密質の熱伝導率を得るために、下記式(10)に示される補正式(C. Wan, et al., Acta Mater., 58, 6166-6172 (2010))の利用が好ましいといわれている。
k’/k=1−4/3φ (10)
(k’:測定された熱伝導率、k:緻密質の熱伝導率、φ:気孔率)
上記の各温度における熱伝導率は、上記式(10)による、補正されたkとして、図4に示した。図4には、比較のために、M. R. Winter, et al., J. Am. Ceram. Soc., 90, 533-540 (2007)から引用した、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)のデータも掲載した。
【0025】
また、リガク社製熱機械分析装置「TMA8310」(型式名)を用い、大気中、昇温速度及び降温速度を毎分10℃として、25℃〜1,200℃の範囲において、焼成体の加熱及び冷却を行い、圧縮荷重法(荷重:98mN)により寸法変化を測定し、線膨張率を算出した。その結果を図5に示す。また、上記温度範囲における線膨張係数は、9.61×10−6/℃であった。
【0026】
実施例1(Y0.80La0.20Taを含む遮熱コーティング用材料の製造)
Y(NO・6HO粉末、La(NO・6HO粉末、尿素、及び、Ta粉末の使用量を、それぞれ、8グラム(0.02モル)、2グラム(0.004モル)、90グラム(3モル)、及び、17グラム(0.038モル)とした以外は、比較例1と同様にして、焼成体を作製した。次いで、X線回折測定により、焼成体は、実質的にY0.80La0.20Taからなる正方晶系であることが分かった(図2(B)参照)。また、焼成体を目視観察したところ、1,650℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは7.30g/cmであった。
その後、比較例1と同様にして、熱伝導率及び線膨張率を求めた。その結果を図4及び図6に示す。また、25℃〜1,200℃の範囲における線膨張係数は、8.43×10−6/℃であった。
【0027】
実施例2(Y0.70La0.30Taを含む遮熱コーティング用材料の製造)
Y(NO・6HO粉末、La(NO・6HO粉末、尿素、及び、Ta粉末の使用量を、それぞれ、7グラム(0.018モル)、3グラム(0.007モル)、90グラム(3モル)、及び、17グラム(0.038モル)とした以外は、比較例1と同様にして、焼成体を作製した。次いで、X線回折測定により、焼成体は、実質的にY0.70La0.30Taからなる正方晶系であることが分かった(図2(C)参照)。また、焼成体を目視観察したところ、1,650℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは7.37g/cmであった。
その後、比較例1と同様にして、熱伝導率及び線膨張率を求めた。その結果を図4及び図7に示す。また、25℃〜1,200℃の範囲における線膨張係数は、7.86×10−6/℃であった。
【0028】
実施例3(Y1.08Ta2.76Zr0.24を含む遮熱コーティング用材料の製造)
フッ素樹脂製の反応器に収容した蒸留水900グラムに、純度99.99%以上のY(NO・6HO粉末(関東化学社製)10グラム(0.025モル)と、純度99.95%以上のZrClO・8HO粉末(関東化学社製)3グラム(0.007モル)と、を入れて、室温(25℃)で1時間撹拌し、無色透明の水溶液を得た。次いで、この水溶液に、尿素90グラム(3モル)を投入し、室温(25℃)で1時間撹拌した。その後、得られた無色透明の水溶液に、純度99.9%以上のTa粉末(レアメタリック社製)12グラム(0.026モル)を投入し、室温(25℃)で7時間撹拌し、懸濁液を得た。
次に、懸濁液を加熱して95℃とし、還流冷却しながら、攪拌下、反応(尿素加水分解反応)させた(反応時間:15時間)。その後、得られた反応液を、25℃、4,800rpmで30分間遠心分離し、下層のゲルを回収した。このゲルを、大量の蒸留水に投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、下層のゲルを回収した。そして、このゲルを、大量のイソプロピルアルコールに投入し、十分に撹拌したところで、上記と同じ条件で遠心分離し、沈殿物を回収した。
その後、沈殿物を、大気雰囲気中、120℃で24時間加熱し、乾燥粉末とした。次いで、この乾燥粉末をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力5MPa)に供し、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を、大気雰囲気中、1,400℃で1時間熱処理(仮焼)し、仮焼成形体を得た。得られた仮焼成形体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕した。
次いで、乾式粉砕物をふるい(100メッシュ)にかけて、微粉末を回収した。そして、この微粉末を、プレス成形(圧力25MPa)に供し、更に、冷間等方静水圧加圧(荷重2.5トン)を行って、円板形状の成形体を作製した。その後、この成形体を大気雰囲気中、1,650℃で1時間熱処理した。得られた焼成体を、室温(25℃)で、乳鉢により乾式粉砕し、そのX線回折測定を行ったところ、焼成体は、実質的にY1.08Ta2.76Zr0.24からなる正方晶系であることが分かった(図3参照)。また、焼成体を目視観察したところ、1,650℃における高温熱処理により、溶融等を伴っていないことを確認した。密度ρは7.25g/cmであった。
上記のようにして得られた焼成体を、そのまま遮熱コーティング用材料とした。
その後、比較例1と同様にして、熱伝導率及び線膨張率を求めた。その結果を図4及び図8に示す。また、25℃〜1,200℃の範囲における線膨張係数は、8.87×10−6/℃であった。
【0029】
図4図8から明らかなように、比較例1は、本発明に係る一般式(1)及び(2)で表される化合物を含む遮熱コーティング材料を用いた実施例1〜3と同様に、25℃〜1,200℃の範囲において、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の熱伝導率よりも低く、遮熱性に優れることが分かる。しかしながら、比較例1に係る遮熱コーティング材料では、斜方晶系−正方晶系の相変態が確認された(図5)のに対し、実施例1〜3に係る遮熱コーティング材料では、相変態が確認されなかった(図6図8)。即ち、実施例1〜3に係る遮熱コーティング材料は、25℃〜1,200℃の範囲において、体積変化に伴う変形、破断等が抑制されて耐久性に優れた皮膜等の形成に好適であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の遮熱コーティング用材料によれば、低熱伝導性及び耐久性に優れる皮膜を、従来、公知の溶射等の方法により、金属、合金等からなる部材又はその表面に配された層(中間層用の層)の表面に効率よく形成することができる。そして、この構成は、航空機用ジェットエンジンにおける燃焼器、発電用ガスタービンにおける高温部品、その他、各種プラントにおける高温部品等への適用に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8