特許第6173902号(P6173902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6173902電子写真機器用導電性ロールおよび電子写真機器用導電性ロールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6173902
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】電子写真機器用導電性ロールおよび電子写真機器用導電性ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20170724BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20170724BHJP
   G03G 15/02 20060101ALI20170724BHJP
   G03G 15/08 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   G03G15/00 551
   G03G15/16 103
   G03G15/02 101
   G03G15/08 221
   G03G15/08 235
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-258052(P2013-258052)
(22)【出願日】2013年12月13日
(65)【公開番号】特開2015-114589(P2015-114589A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 武徳
(72)【発明者】
【氏名】早崎 康行
(72)【発明者】
【氏名】井上 圭一
(72)【発明者】
【氏名】末永 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智志
(72)【発明者】
【氏名】伊東 邦夫
【審査官】 石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−031758(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0198920(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00−21/20
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
F16C 13/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周に設けられた導電性ゴム弾性体層と、を備え、
前記導電性ゴム弾性体層が、導電性ゴムと、過酸化物架橋剤と、ピペリジニルオキシラジカル化合物と、を含有する導電性ゴム組成物の過酸化物架橋体で形成され、かつ、前記ピペリジニルオキシラジカル化合物の反応生成物からなるピペリジン化合物を含有することを特徴とする電子写真機器用導電性ロール。
【請求項2】
前記導電性ゴム弾性体層を150℃で8時間放置した後の伸びの変化率が、10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項3】
前記導電性ゴムが、ヒドリンゴムおよびニトリルゴムから選択された1種または2種以上のイオン導電性ゴムであることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項4】
前記過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣が、前記導電性ゴム弾性体層から除去されて前記導電性ゴム弾性体層中に存在していないことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項5】
前記ピペリジニルオキシラジカル化合物が、反応して前記導電性ゴム弾性体層中に存在していないことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項6】
前記ピペリジン化合物の含有量が、前記導電性ゴムのゴム成分100質量部に対し、0.01〜3質量部の範囲内であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項7】
導電性ゴムと、過酸化物架橋剤と、ピペリジニルオキシラジカル化合物と、を含有する導電性ゴム組成物を過酸化物架橋して、過酸化物架橋体で形成される導電性ゴム弾性体層を軸体の外周に形成するとともに、前記導電性ゴム弾性体層中のピペリジニルオキシラジカル化合物を反応させて、前記導電性ゴム弾性体層中にピペリジン化合物を発生させることを特徴とする電子写真機器用導電性ロールの製造方法。
【請求項8】
前記導電性ゴム弾性体層を軸体の外周に形成するとともに、前記導電性ゴム弾性体層に前記ピペリジン化合物を残しつつ、前記導電性ゴム弾性体層から前記過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣を除去することを特徴とする請求項7に記載の電子写真機器用導電性ロールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用導電性ロールおよび電子写真機器用導電性ロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器では、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、トナー供給ロールなどの導電性ロールが用いられている。
【0003】
導電性ロールは、相手部材と接触されることが多く、相手部材との繰返し接触時にも均一な接触面が確保されるように、相手部材と接触する部分が弾性回復しやすい(耐ヘタリ性に優れる)ことが好ましい。したがって、導電性ロールの導電性弾性体層には、優れた耐ヘタリ性が求められる。
【0004】
この点、導電性弾性体層を形成するゴム材料を過酸化物で架橋すると、耐ヘタリ性に優れる。例えば特許文献1には、導電性ロールの導電性弾性体層を形成するゴム材料を過酸化物で架橋することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−8321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
過酸化物によるゴム材料の架橋を行うと、未反応の過酸化物や過酸化物の分解残渣がゴム材料中に残存する。これらは、湿熱環境下で導電性弾性体層のゴム材料の熱劣化を促進する。導電性ロールの使用環境が過酷であると、導電性弾性体層のゴム材料の熱劣化がさらに促進される。このため、導電性弾性体層を形成するゴム材料中には老化防止剤を配合することが好ましい。
【0007】
しかし、老化防止剤は、ゴム材料中に生じた過酸化物ラジカルを安定化するか、ゴム材料中の過酸化物を分解することにより、その効果を発揮する。一方、過酸化物によるゴム材料の架橋は、架橋剤の過酸化物がゴム材料中で熱分解し、生じたラジカルがゴムの炭化水素を脱水素し、ラジカル化されたゴム分子どうしが結合することによる。そうすると、老化防止剤は過酸化物によるゴム材料の架橋を阻害する因子となる。架橋前からゴム材料中に老化防止剤を配合すると、老化防止剤は過酸化物によるゴム材料の架橋を阻害するため、架橋剤として過酸化物を含むゴム材料中に老化防止剤を用いることは困難であった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、過酸化物架橋を行う場合にも耐ヘタリ性と耐熱老化性を両立できる電子写真機器用導電性ロールおよび電子写真機器用導電性ロールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る電子写真機器用導電性ロールは、軸体と、前記軸体の外周に設けられた導電性ゴム弾性体層と、を備え、前記導電性ゴム弾性体層が、導電性ゴムと、過酸化物架橋剤と、ピペリジニルオキシラジカル化合物と、を含有する導電性ゴム組成物の過酸化物架橋体で形成され、かつ、前記ピペリジニルオキシラジカル化合物の反応生成物からなるピペリジン化合物を含有することを要旨とするものである。
【0010】
この場合、前記導電性ゴム弾性体層を150℃で8時間放置した後の伸びの変化率が10%以下であることが望ましい。
【0011】
そして、前記導電性ゴムは、ヒドリンゴムおよびニトリルゴムから選択された1種または2種以上のイオン導電性ゴムであることが好ましい。
【0012】
そして、前記過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣は、前記導電性ゴム弾性体層から除去されて前記導電性ゴム弾性体層中に存在していないことが好ましい。
【0013】
また、前記ピペリジニルオキシラジカル化合物は、全て化学反応して前記導電性ゴム弾性体層中に存在していないことが好ましい。
【0014】
そして、前記ピペリジン化合物の含有量が、前記導電性ゴムのゴム成分100質量部に対し、0.01〜3質量部の範囲内であることが好ましい。
【0015】
そして、本発明に係る電子写真機器用導電性ロールの製造方法は、導電性ゴムと、過酸化物架橋剤と、ピペリジニルオキシラジカル化合物と、を含有する導電性ゴム組成物を過酸化物架橋して、過酸化物架橋体で形成される導電性ゴム弾性体層を軸体の外周に形成するとともに、前記導電性ゴム弾性体層中のピペリジニルオキシラジカル化合物を反応させて、前記導電性ゴム弾性体層中にピペリジン化合物を発生させることを要旨とするものである。
【0016】
この場合、前記導電性ゴム弾性体層を軸体の外周に形成するとともに、前記導電性ゴム弾性体層に前記ピペリジン化合物を残しつつ、前記導電性ゴム弾性体層から前記過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣を除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロールによれば、導電性ゴム弾性体層を形成する導電性ゴム組成物に含有されるピペリジニルオキシラジカル化合物の反応生成物からなるピペリジン化合物を導電性ゴム弾性体層が含有することとなるため、導電性ゴム組成物のゴムの過酸化物架橋剤による架橋は阻害されない。その一方で、導電性ゴム弾性体層が含有することとなるピペリジニルオキシラジカル化合物の反応生成物からなるピペリジン化合物は、老化防止剤として機能する。このため、過酸化物架橋を行う場合にも耐ヘタリ性と耐熱老化性を両立できる。
【0018】
この場合、導電性ゴム弾性体層を150℃で8時間放置した後の伸びの変化率が10%以下であると、耐熱老化性に優れる。
【0019】
そして、導電性ゴムが、ヒドリンゴムおよびニトリルゴムから選択された1種または2種以上のイオン導電性ゴムであると、導電性ゴム弾性体層を低抵抗にしやすい。
【0020】
そして、過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣が、導電性ゴム弾性体層から除去されて導電性ゴム弾性体層中に存在していないと、導電性ゴム弾性体層の熱劣化を促進する因子が減少することとなり、導電性ゴム弾性体層の熱劣化が抑えられやすい。このため、耐熱老化性が向上する。
【0021】
また、ピペリジニルオキシラジカル化合物が、反応して導電性ゴム弾性体層中に存在していないと、導電性ゴム弾性体層に老化防止剤として機能するピペリジン化合物を多く含有することとなり、導電性ゴム弾性体層の熱劣化が抑えられやすい。このため、耐熱老化性が向上する。
【0022】
そして、本発明に係る電子写真機器用導電性ロールの製造方法によれば、導電性ゴム弾性体層を形成する導電性ゴム組成物を過酸化物架橋するとともに、導電性ゴム弾性体層中のピペリジニルオキシラジカル化合物を反応させて、導電性ゴム弾性体層中にピペリジン化合物を発生させることから、導電性ゴム組成物のゴムの過酸化物架橋剤による架橋は阻害されない。その一方で、ピペリジン化合物が導電性ゴム弾性体層の老化防止剤として機能するため、過酸化物架橋を行う場合にも耐ヘタリ性と耐熱老化性を両立できる。
【0023】
この場合、導電性ゴム弾性体層を軸体の外周に形成するとともに、導電性ゴム弾性体層にピペリジン化合物を残しつつ、導電性ゴム弾性体層から過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣を除去すると、耐熱老化性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の電子写真機器用導電性ロールの周方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロール(以下、導電性ロールということがある。)は、軸体と、軸体の外周に設けられた導電性ゴム弾性体層と、を備える。図1には、本発明の一実施形態に係る導電性ロールを示す。図1に示す導電性ロール10は、軸体12の外周に導電性ゴム弾性体層14が1層設けられた構成を備える。
【0027】
導電性ゴム弾性体層は、導電性ゴム組成物の過酸化物架橋体で形成される。導電性ゴム組成物は、未架橋のゴム組成物であり、導電性ゴムと、過酸化物架橋剤と、ピペリジニルオキシラジカル化合物と、を含有する。
【0028】
導電性ゴムとしては、ゴムそのものがイオン導電性を示すイオン導電性ゴム、そのイオン導電性ゴムにさらにイオン導電剤を配合したもの、そのイオン導電性ゴムにさらに電子導電剤を配合したもの、そのイオン導電性ゴムにさらにイオン導電剤および電子導電剤を配合したもの、ゴムそのものはイオン導電性を示さないゴムにイオン導電剤あるいは電子導電剤またはその両方を配合したものなどが挙げられる。
【0029】
ゴムそのものがイオン導電性を示すイオン導電性ゴムとしては、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエンゴム、NBR)、エポキシ化天然ゴムなどが挙げられる。これらのゴムは、極性基を有するため、ゴムそのものがイオン導電性を示すことができる。これらのゴムは、ゴムそのものがイオン導電性を示すことから、ゴムそのものの体積抵抗率が比較的低い。このため、低抵抗にしやすく、導電性ロールに求められる導電性を有利に発現させることができる。したがって、ゴムそのものがイオン導電性を示すイオン導電性ゴムをベースゴムとして用いることが好ましい。
【0030】
ヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などが挙げられる。これらのうちでは、エチレンオキサイドを共重合成分として含むECO、GECOは、エチレンオキサイドを共重合成分として含まないものと比べて低抵抗体が得られやすい点でより好ましい。また、アリルグリシジルエーテルを共重合成分として含むGCO、GECOは、二重結合を有するため、アリルグリシジルエーテルを共重合成分として含まないものと比べて耐ヘタリ性を向上できる点でより好ましい。
【0031】
ゴムそのものはイオン導電性を示さないゴムとしては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)などが挙げられる。
【0032】
過酸化物架橋剤としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどの従来より公知の過酸化物架橋剤が挙げられる。
【0033】
過酸化物架橋剤としては、分解温度が比較的高く、より高温で成形しやすくできるなどの観点から、蓄熱貯蔵試験(BAM式:SADT)における分解温度が60℃以上で、1分間半減期温度が150℃以上であることが好ましい。より好ましくは1分間半減期温度が160℃以上、さらに好ましくは1分間半減期温度が170℃以上である。一方、架橋速度に優れるなどの観点から、1分間半減期温度が200℃以下であることが好ましい。より好ましくは1分間半減期温度が190℃以下、さらに好ましくは1分間半減期温度が180℃以下である。
【0034】
好ましい過酸化物架橋剤としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステルなどが挙げられる。パーオキシケタールとしては、1,1−ジ(tert−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ジ(tert−ブチルペルオキシ)バレレートなどが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、ジ(2−tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチルー2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3などが挙げられる。パーオキシエステルとしては、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、tert−ブチルペルオキシラウレート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネートなどが挙げられる。これらのうちでは、未反応成分が残りにくく、分解物の沸点が比較的低くて分解物を除去しやすいなどの観点から、ジ(2−tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどが好ましい。
【0035】
過酸化物架橋剤の含有量は、低硬度にしやすいなどの観点から、過酸化物原体量換算でゴム100質量部に対し、6質量部以下であることが好ましい。より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは4質量部以下である。また、ゴムの架橋度に優れ、耐ヘタリ性を向上するなどの観点から、過酸化物原体量換算でゴム100質量部に対し、0.2質量部以上であることが好ましい。より好ましくは0.4質量部以上、さらに好ましくは0.6質量部以上である。ここでいうゴムとは、導電性ゴムのうちイオン導電剤および電子導電剤を含まないゴムそのものをいう。
【0036】
ピペリジニルオキシラジカル化合物は、過酸化物架橋における遅延剤として機能する。ピペリジニルオキシラジカル化合物は、120〜135℃の温度範囲では、架橋反応を抑制する。これは、この温度範囲において、過酸化物架橋剤の熱分解により発生するラジカルとの間で平衡状態を保つためと推察される。これにより、120〜135℃の温度範囲でも、射出成形等の成形を可能にする。成形温度を上げることにより、成形時におけるゴムの粘度を低くできるため、導電性ロールの導電性ゴム弾性体層の寸法精度を向上することができる。導電性ゴム弾性体層の寸法精度が向上すると、導電性ロールの回転時における振れが小さくなる。
【0037】
また、ピペリジニルオキシラジカル化合物は、150℃以上の温度範囲では、架橋開始時間を遅延する。これは、ラジカル発生量が比較的少ない架橋初期においては、発生するラジカルとの間で平衡状態を保ち、架橋反応を抑制するためと推察される。
【0038】
架橋温度が高いと、加熱を開始してから架橋反応を開始するまでの時間が短くなりやすく、成形型内での熱まわりが均一になる前に架橋反応が始まるおそれがある。成形型内での熱まわりが不均一だと、導電性ゴム弾性体層内で架橋度にばらつきが生じ、導電性ゴム弾性体層の面長方向などで硬度にばらつきが生じる。ピペリジニルオキシラジカル化合物は、150℃以上の架橋温度において、架橋開始時間を遅延化するため、架橋温度が高い場合でも、成形型内での熱まわりが均一になり、ゴムの温度が均一になった状態で架橋が開始され、硬度のばらつきが小さい導電性ゴム弾性体層を形成できる。よって、150℃以上の比較的高い温度領域で架橋反応を行うことができる。架橋温度を上げることにより、架橋速度を速くすることができる。これにより、生産性を上げることができる。
【0039】
ピペリジニルオキシラジカル化合物は、下記の一般式(1)で表される化合物である。
【化1】
【0040】
〜Rとしては、水素、炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。Rとしては、水素、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、アリール基、アセトキシ基、ベンジルオキシ基、カルボン酸基、アセトアミド基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0041】
ピペリジニルオキシラジカル化合物として好ましいものは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカルなどが挙げられる。これらのうちでは、ゴムの成形温度に対し融点が最適範囲内にある、過酸化物架橋剤の分解物の沸点に対しこれらの反応生成物であるピペリジン化合物の融点および沸点が最適範囲内にあるなどの観点から、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカルなどがより好ましい。
【0042】
ピペリジニルオキシラジカル化合物の含有量は、耐老化防止性に優れる、硬度のばらつきを抑える効果に優れるなどの観点から、ゴム100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましい。より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。また、ゴムの架橋度に優れ、耐ヘタリ性に優れるなどの観点から、ゴム100質量部に対し、3質量部以下であることが好ましい。より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。ここでいうゴムとは、導電性ゴムのうちイオン導電剤および電子導電剤を含まないゴムそのものをいう。
【0043】
ピペリジニルオキシラジカル化合物を反応させると、オキシラジカルが脱離し、ピペリジン化合物が発生する。ピペリジン化合物は、含窒素化合物であり、老化防止剤として機能する。このため、ピペリジン化合物を含有することにより、耐熱老化性を向上することができる。しかし、老化防止剤として機能するピペリジン化合物は、発生した過酸化物ラジカルを安定化する。つまり、過酸化物架橋剤による架橋を阻害する。したがって、架橋させる前の未架橋の導電性ゴム組成物に含有させると、ピペリジン化合物は架橋を阻害する。本発明においては、架橋させる前の未架橋の導電性ゴム組成物にピペリジン化合物を配合するのではなく、配合したピペリジニルオキシラジカル化合物を反応させてピペリジン化合物を発生させているので、過酸化物架橋剤による架橋を阻害することなく耐熱老化性を向上することができる。これにより、過酸化物架橋を行う場合にも耐ヘタリ性と耐熱老化性を両立できる。
【0044】
導電性ゴム弾性体層は、このような導電性ゴム組成物の過酸化物架橋体で形成され、ピペリジニルオキシラジカル化合物の反応生成物からなるピペリジン化合物を含有することにより、耐ヘタリ性および耐熱老化性に優れる。熱老化特性は、JIS K6257に準拠して評価できる。耐熱老化性に優れる観点から、導電性ゴム弾性体層を150℃で8時間放置した後の破断伸びの変化率は10%以下であることが好ましい。より好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0045】
イオン導電剤としては、電子写真機器分野で使用されるものであれば特に限定されるものではない。好ましいものとしては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、過塩素酸塩、ホウ酸塩、界面活性剤などを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0046】
第四級アンモニウム塩あるいは第四級ホスホニウム塩としては、例えば、炭素数1〜18程度のアルキル基またはアリール基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、キシリル基など)を1種または2種以上有するものであって、ハロゲンイオン、ClO、BF、SO2−、HSO、CSO、CFCOO、CFSO、(CFSO、PF、(CFCFSO、CF(CFSO、(CFSO、CF(CFCOOなどの陰イオンを含むものを示すことができる。
【0047】
ホウ酸塩としては、例えば、炭素数1〜18程度のアルキル基またはアリール基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、キシリル基など)を1種または2種以上有するものであって、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどのアルカリ金属イオンもしくはアルカリ土類金属イオンを含むものを示すことができる。
【0048】
より具体的には、例えば、トリブチルエチルアンモニウムエチル硫酸塩、テトラブチルアンモニウムハライド(クロライド、ブロマイド、ヨーダイド)、テトラブチルアンモニウムパークロレート等の第四級アンモニウム塩、トリブチルメチルホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等の第四級ホスホニウム塩、過塩素酸リチウム、過塩素酸カリウムなどの過塩素酸塩、有機ホウ素錯体などを挙げることができる。
【0049】
イオン導電剤の含有量としては、ゴム100質量部に対して、0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.2〜3質量部の範囲内、さらに好ましくは0.3〜2質量部の範囲内である。ここでいうゴムとは、導電性ゴムのうちイオン導電剤および電子導電剤を含まないゴムそのものをいう。
【0050】
電子導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト、c−TiO、c−ZnO、c−SnO(c−は、導電性を意味する。)などが挙げられる。電子導電剤の含有量としては、ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.2〜7質量部の範囲内、さらに好ましくは0.3〜5質量部の範囲内である。ここでいうゴムとは、導電性ゴムのうちイオン導電剤および電子導電剤を含まないゴムそのものをいう。
【0051】
本組成物においては、必要に応じて、滑剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などの各種添加剤を1種または2種以上含有していても良い。
【0052】
導電性ゴム弾性体層の厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜10mm、より好ましくは1〜5mmの範囲内である。導電性ゴム弾性体層の体積抵抗率は、好ましくは10〜5×10Ω・cm、より好ましくは10〜3×10Ω・cm、さらに好ましくは10〜1×10Ω・cmの範囲内である。耐ヘタリ性に優れるなどの観点から、導電性ゴム弾性体層の圧縮永久歪は好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。低硬度であるなどの観点から、導電性ゴム弾性体層の硬さ(MD−1硬度)は、好ましくは70°以下、より好ましくは60°以下、さらに好ましくは50°以下である。
【0053】
導電性ゴム弾性体層は、軸体の外周に未架橋の導電性ゴム組成物をロール状に成形し、成形された未架橋の導電性ゴム組成物を過酸化物架橋するとともに、過酸化物架橋された導電性ゴム組成物に含有されるピペリジニルオキシラジカル化合物を反応させて過酸化物架橋された導電性ゴム組成物中にピペリジン化合物を発生させることにより形成される。
【0054】
未架橋の導電性ゴム組成物は、導電性ゴムと、過酸化物架橋剤と、ピペリジニルオキシラジカル化合物と、必要に応じて添加される成分と、をゴムの可塑化する温度で混練することにより調製される。ピペリジニルオキシラジカル化合物は、混練時(未架橋の導電性ゴム組成物の調製時)において、過酸化物架橋剤の遅延剤として機能する。
【0055】
未架橋の導電性ゴム組成物の成形は、成形金型を用いた射出成形により、あるいは、押出成形により行われる。寸法精度に優れるなどの観点から、未架橋の導電性ゴム組成物の成形は、成形金型を用いた射出成形により行うことが好ましい。
【0056】
成形工程において、未架橋の導電性ゴム組成物は、ゴムの可塑化する温度、あるいはゴムの流動する温度に加熱される。この成形工程において、ピペリジニルオキシラジカル化合物は、過酸化物架橋剤の遅延剤として機能する。寸法精度を向上するなどの観点から、成形温度は比較的高いほうが好ましい。この観点から、成形温度は100〜140℃の温度範囲であることが好ましい。より好ましくは120〜135℃の温度範囲である。このような比較的高い温度範囲においても、ピペリジニルオキシラジカル化合物は、過酸化物架橋剤の遅延剤として有効に機能する。
【0057】
架橋工程において、未架橋の導電性ゴム組成物は、ゴムの架橋する温度に加熱される。この架橋工程において、過酸化物架橋剤は熱分解され、ラジカルを発生する。同時に、過酸化物架橋剤の分解物を発生する。発生したラジカルにより、未架橋のゴムが過酸化物架橋される。この成形工程において、ピペリジニルオキシラジカル化合物は、過酸化物架橋剤の遅延剤として機能する。架橋初期にはラジカル発生量が比較的少ないため、発生するラジカルとの間で平衡状態を保ち、架橋反応を抑制し、架橋開始時間を遅延する。時間の経過とともにラジカル発生量が増加すると、ゴムの架橋が開始される。
【0058】
高速で架橋できるなどの観点から、架橋温度を比較的高く設定することが好ましい。具体的には、160℃以上であることが好ましい。より好ましくは170℃以上である。一方、均一に架橋しやすいなどの観点から、架橋温度は210℃以下であることが好ましい。より好ましくは200℃以下である。
【0059】
ピペリジニルオキシラジカル化合物は、比較的高い温度においても、架橋開始時間を遅延する。このため、架橋温度を比較的高く設定することができる。具体的には、150℃以上の温度範囲でも、架橋開始時間を遅延することができる。これにより、硬度のばらつきが小さい導電性ゴム弾性体層を形成できる。
【0060】
過酸化物架橋であることから、架橋時間は比較的短時間に設定することができる。具体的には、数秒〜十数分の範囲に設定することができる。
【0061】
導電性ゴム組成物を過酸化物架橋した後の導電性ゴム弾性体層中には、過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣が存在している。過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣は、導電性ゴム弾性体層の熱劣化を促進する因子となる。したがって、耐熱老化性を向上する観点から、過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣は、導電性ゴム弾性体層から除去することが好ましい。過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣は、導電性ゴム弾性体層から加熱により除去(蒸発除去)することができる。その加熱温度は、その分解残渣の沸点を基に決定することができる。つまり、分解残渣の沸点程度の温度を導電性ゴム弾性体層に加えることにより、分解残渣を除去することができる。
【0062】
架橋工程後の加熱工程は、過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣を除去するなどの観点から、加熱温度としては、100〜300℃の範囲内が好ましい。より好ましくは120〜250℃の範囲内である。加熱時間としては、5分〜24hの範囲内が好ましい。より好ましくは10分〜3hの範囲内である。
【0063】
過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣の除去を行う場合には、発生させたピペリジン化合物を一緒に除去しないようにすることが必要である。このためには、ピペリジン化合物の蒸発温度をT1、過酸化物架橋剤の未反応分あるいは分解残渣の蒸発温度をT2とすると、T1>T2となる組み合わせを選択することが必要である。なお、各化合物の蒸発温度は、その沸点と同じとして判断してもよい。
【0064】
過酸化物架橋剤、過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣、ピペリジニルオキシラジカル化合物、ピペリジン化合物は、例えば、導電性ゴム弾性体層から抽出操作を行い、抽出成分から定性分析、定量分析することができる。過酸化物架橋剤および過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣は、耐熱老化性の観点から、架橋後の導電性ゴム弾性体層からできるだけ除去されていることが好ましい。つまり、導電性ゴム弾性体層に存在していないことが好ましい。また、耐熱老化性の向上の観点から、ピペリジニルオキシラジカル化合物は、架橋後の導電性ゴム弾性体層においてできるだけピペリジン化合物に分解されることが好ましい。つまり、導電性ゴム弾性体層に存在していないことが好ましい。
【0065】
導電性ロールにおいて、軸体は、導電性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属製の中実体、中空体からなる芯金などを例示することができる。軸体の表面には、必要に応じて、接着剤、プライマーなどを塗布しても良い。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行なっても良い。
【0066】
本発明において、導電性ロールは、図1に示すように、軸体と1層の導電性ゴム弾性体層のみで構成されていてもよいし、1層の導電性ゴム弾性体層以外の他の層をさらに有する構成であってもよい。他の層としては、表層や中間層などが挙げられる。表層は、導電性ロールの表面に現れる層であり、ロール表面の保護、表面特性の付与などの目的で設けられる。中間層は、軸体と1層の導電性ゴム弾性体層との間や1層の導電性ゴム弾性体層と表層の間などに1層以上設けられる。中間層は、導電性ロールの電気抵抗の調整、密着性の向上、成分の他への拡散防止などの目的で設けられる。
【0067】
他の層として表層を設けない場合には、導電性ゴム弾性体層の表面を改質する表面改質処理を施すことにより、表層を設ける場合と同様の機能を付与してもよい。表面改質方法としては、UVや電子線を照射する方法、導電性ゴム弾性体層の不飽和結合やハロゲンと反応可能な表面改質剤、例えば、イソシアネート基、ヒドロシリル基、アミノ基、ハロゲン基、チオール基などの反応活性基を含む化合物と接触させる方法などを挙げることができる。
【0068】
表層材料としては、ウレタン樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのメタアクリル樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキサイド(変性ポリフェニレンエーテル)、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルエーテルニトリル、ニトリルゴム、ウレタンゴム、これらを架橋した樹脂などが挙げられる。表層には、イオン導電剤や電子導電剤、各種添加剤を必要に応じて添加することができる。表層は、導電性ゴム弾性体層や中間層の外周に表層形成用組成物を塗工するなどの方法により形成することができる。表層には、必要に応じて、架橋処理が施される。
【0069】
中間層の材料としては、ヒドリンゴム(CO、ECO、GCO、GECO)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム、ウレタン系エラストマー、フッ素ゴム、天然ゴム(NR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、などが挙げられる。中間層には、イオン導電剤や電子導電剤、各種添加剤を必要に応じて添加することができる。中間層は、射出成形法、押出成形法などの方法により、導電性ゴム弾性体層の外周などに中間層形成用組成物を成形することにより形成することができる。中間層には、必要に応じて架橋処理が施される。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0071】
(実施例1)
<導電性ゴム組成物の調製>
ヒドリンゴム(ECO)100質量部、過酸化物架橋剤(ペロキシモンF40)3質量部(原体量換算では1.2重量部)、ピペリジニルオキシラジカル化合物(4−ヒドロキシTEMPOラジカル)0.5質量部、受酸剤5質量部、イオン導電剤1質量部を攪拌機により撹拌、混合して、導電性ゴム組成物を調製した。
【0072】
<導電性ロールの作製>
成形金型に芯金(直径6mm)をセットし、120℃で上記導電性組成物を注入し、175℃で10分加熱することにより、導電性ゴム組成物を過酸化物架橋させた。その後、冷却、脱型して、芯金の外周に、厚み2mmの導電性ゴム弾性体層を形成した。次いで、導電性ゴム弾性体層をオーブンにて200℃で2時間、後加熱することにより、導電性ゴム弾性体層中に含有するピペリジニルオキシラジカル化合物を分解してピペリジン化合物を発生させるとともに過酸化物架橋剤の未反応分および分解残渣を蒸発除去した。これにより、実施例1の導電性ロールを作製した。
【0073】
(実施例2〜5)
過酸化物架橋剤およびピペリジニルオキシラジカル化合物の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5の導電性ロールを作製した。
【0074】
(実施例6〜8)
ピペリジニルオキシラジカル化合物の種類を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例6〜8の導電性ロールを作製した。
【0075】
(実施例9〜13)
過酸化物架橋剤の種類を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例9〜13の導電性ロールを作製した。
【0076】
(実施例14)
架橋後の後加熱を行わなかった以外は実施例1と同様にして、実施例14の導電性ロールを作製した。
【0077】
(比較例1)
ピペリジニルオキシラジカル化合物を配合しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1の導電性ロールを作製した。
【0078】
(比較例2)
ピペリジニルオキシラジカル化合物に代えてピペリジン化合物を配合した以外は実施例1と同様にして、比較例2の導電性ロールを作製した。
【0079】
(実施例15〜28、比較例3〜4)
ヒドリンゴムに代えてニトリルゴムを用いた以外は、実施例1〜14、比較例1〜2と同様にして、実施例15〜28、比較例3〜4の導電性ロールを作製した。
【0080】
この際、使用した各成分は、以下の通りである。
(A1)ヒドリンゴム(ECO)[ダイソー社製、「エピクロマーCG102」]
(A2)ニトリルゴム(NBR)[JSR社製、「ニポールDN3335」]
(B1)ペロキシモンF40(過酸化物)[日油社製、1分間半減期温度175.4℃]
(B2)パークミルD40(過酸化物)[日油社製、1分間半減期温度175.2℃]
(B3)パーヘキサV40(過酸化物)[日油社製、1分間半減期温度172.5℃]
(B4)パーヘキサC40(過酸化物)[日油社製、1分間半減期温度153.8℃]
(B5)パーヘキシン25B40(過酸化物)[日油社製、1分間半減期温度194.3℃]
(B6)パーヘキサHC(過酸化物)[日油社製、1分間半減期温度149.2℃]
(C1)4−ヒドロキシ−TEMPOフリーラジカル(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、融点72℃)
(C2)TEMPOフリーラジカル(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、融点39℃)
(C3)4−ベンゾイルオキシ−TEMPOフリーラジカル(4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、融点104℃)
(C4)4−アセトアミド−TEMPOフリーラジカル(4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、融点143℃)
・ピペリジン化合物(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)
・受酸剤(協和化学工業社製「DHT−4A」)
・イオン導電剤(東京化成工業製「テトラブチルアンモニウムトリフラート」)
【0081】
導電性ゴム組成物の過酸化物架橋体からなる試験片を用いて、物性(MD−1硬度、圧縮永久歪)を測定した。また、導電性ロールを用いて、過酸化物架橋剤の未反応物および残渣、ピペリジニルオキシラジカル化合物およびピペリジン化合物の抽出を行い、耐熱老化性、ロールへこみ量を評価した。また、導電性ロールを用いて、製品特性(硬度ばらつき、硬度上昇、トナー固着性)を評価した。それぞれの測定方法あるいは評価方法は下記に示す通りである。これらの結果は、表1、表2に示す。
【0082】
(ピペリジニルオキシラジカル化合物およびピペリジン化合物の分析)
常温で導電性ゴム弾性体層をメタノールに24時間浸漬して、メタノール溶解成分の抽出を行った。得られた抽出液中に含まれる成分をクロロホルムに溶解し、GC/MSを用いて定量分析した。
【0083】
(過酸化物架橋剤の未反応物および残渣の分析)
常温で導電性ゴム弾性体層をメタノールに24時間浸漬して、メタノール溶解成分の抽出を行った。得られた抽出液中に含まれる成分を、GC/MSを用いて定性分析した。過酸化物架橋剤の未反応物および残渣のピークが確認されなかったものを「無」、確認されたものを「有」とした。
【0084】
(MD−1硬度)
直径30mm×厚さ12.5mmの直円柱形状の試験片を作製し、JIS K6253に準拠して、MD−1硬度計(高分子計器製「マイクロゴム硬度計MD−1型」)を用いて測定した。60°以下の場合を良好「○」、このうち50°以下の場合を特に良好「◎」とし、60°超〜70°以下の場合をやや劣る「△」、70°超の場合を不良「×」とした。
【0085】
(圧縮永久歪)
直径30mm×厚さ12.5mmの直円柱形状の試験片を作製し、JIS K 6262に準拠し、70℃、25%圧縮、22時間で測定した。10%以内の場合を良好「○」、このうち5%以内の場合を特に良好「◎」とし、10%超〜15%以内の場合をやや劣る「△」、15%超の場合を不良「×」とした。
【0086】
(耐熱老化性)
180℃で20分間プレス架橋成形を行い、厚さ2mmのシート状サンプルを得た。JIS K6251に準拠して、引張試験機(東洋精機製作所製、「AE−Fストログラフ」)を用い、上記シート状サンプルから打抜き成型したダンベル形状のサンプルについて、150℃設定のオーブンに8h放置前後での、破断時引張伸びを測定した。破断時引張伸びの低下率が8%以内の場合を良好「○」、このうち5%以内の場合を特に良好「◎」とし、破断時引張伸びの低下率が8%超10%以内の場合をやや劣る「△」とし、破断時引張伸びの低下率が10%超の場合を不良「×」とした。
【0087】
(ロールへこみ量)
導電性ロールの軸体の両端に各々500gの荷重をかけた状態で感光体に線接触させ、50℃×95%RHで3日間放置した後、導電性ロールを取り出し、感光体に接触させた部分のへこみ量をレーザーで測定した。へこみ量が10μm未満である場合を特に良好「◎」、へこみ量が10μm以上15μm以下である場合を良好「○」、へこみ量が15μm超である場合を不良「×」とした。
【0088】
(硬度ばらつき)
導電性ロールの導電性ゴム弾性体層の面長方向に等間隔に9点MD−1硬度を測定し、最小値と最大値の差を硬度ばらつきとした。最小値と最大値の差が1未満である場合を特に良好「◎」、最小値と最大値の差が1以上2以下である場合を良好「○」、最小値と最大値の差が2超である場合を不良「×」とした。
【0089】
(硬度上昇)
導電性ロールを50℃×95%RHで2カ月間放置した後のMD−1硬度を測定し、放置前後のMD−1硬度の差を求めた。放置後の硬度の上昇幅が1未満である場合を特に良好「◎」、上昇幅が1以上2以下である場合を良好「○」、上昇幅が2超である場合を不良「×」とした。
【0090】
(トナー固着性)
導電性ロールの表面にトナーを均一にまぶした後、その表面に先端が角張った荷重(1kg)を載せ、40℃×95%RHで1カ月間放置した。その後、現像ロールとして市販のカラーレーザープリンター(キヤノン社製「LBP−2510」)のカートリッジに組み込み、ハーフトーンの画像出しを15℃×10%RH環境下で行った。出力画像にスジ状の画像不具合が全く現れなかった場合を特に良好「◎」、出力画像にスジ状の画像不具合は現れたが、3枚画像出しをするとスジ状の画像不具合が消えた場合を良好「○」、出力画像にスジ状の画像不具合が出続けて消えない場合を不良「×」とした。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
実施例1〜14および比較例1から、導電性ゴム弾性体層を形成する導電性ゴム組成物中にピペリジニルオキシラジカル化合物が配合されていないと、耐熱老化性に劣ることがわかる。また、実施例1〜14および比較例2から、ピペリジニルオキシラジカル化合物を配合しないで、老化防止剤となりうるピペリジン化合物を導電性ゴム組成物中に配合すると、架橋阻害により耐ヘタリ性を満足できないことがわかる。これに対し、実施例1〜14によれば、導電性ゴム組成物中にピペリジニルオキシラジカル化合物を配合し、ピペリジニルオキシラジカル化合物からピペリジン化合物を発生させているので、架橋を阻害することなく耐熱老化性に優れるものとなることがわかる。これにより、耐ヘタリ性と耐熱老化性を両立できることがわかる。なお、実施例14は、架橋処理後の後加熱処理を行っていないため、過酸化物架橋剤の未反応分および残渣が除去されていない。これらは、湿熱環境下で導電性ゴム弾性体層の劣化を促進する因子となる。しかし、ピペリジニルオキシラジカル化合物からピペリジン化合物を発生させているので、これにより、湿熱環境下で硬度上昇が抑えられている。一方、過酸化物架橋剤の未反応分および残渣はトナー固着成分となるため、トナー固着までは抑えられていない。また、実施例15〜28および比較例3〜4においても同様の結果となっている。
【0094】
また、比較例1、2から、導電性ゴム組成物中にピペリジニルオキシラジカル化合物が配合されていないと、硬度ばらつきが大きく、湿熱環境下で硬度上昇が生じることがわかる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0096】
10 電子写真機器用導電性ロール
12 軸体
14 導電性ゴム弾性体層

図1