【文献】
Iryna O. ZUBOVYCH et al.,Mitochondrial dysfunction confers resistance to multiple drugs in Caenorhabditis elegans,Molecular Biology of the Cell,2010年 3月,Vol.21,No.6,P.956-969
【文献】
J. CHOI et al.,Sanguinarine is an allosteric activator of AMP-activated protein kinase,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2011年 9月23日,Vol.413,no.2,P.259-263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
細胞内で過剰発現させたプロヒビチンタンパク質及び細胞内で過剰発現させたAMPKタンパク質が結合することにより形成されたプロヒビチンタンパク質−AMPKタンパク質複合体。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明は、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を指標とすることを特徴とする、AMPKタンパク質活性化剤のスクリーニング方法を提供する。本発明はまた、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を阻害する、AMPKタンパク質活性化剤を提供する。
【0027】
本明細書において、別段規定されない限り、「PHBタンパク質」という用語は、PHB1タンパク質及び/又はPHB2タンパク質を示し、「AMPKタンパク質」という用語は、AMPKα、AMPKβ及びAMPKγサブユニットの一つ以上を示す。また、「AMPKタンパク質活性化」という用語は、AMPKタンパク質が活性化されれば良く、典型的には、AMPKタンパク質がリン酸化されることを意味し、より典型的には、AMPKαの第172番スレオニンがリン酸化されることを意味する。
【0028】
本発明によれば、PHBタンパク質と、AMPKタンパク質との相互作用を阻害する機序を有するAMPKタンパク質活性化剤をスクリーニングして提供することができる。
【0029】
第一の実施形態に係るAMPKタンパク質活性化剤のスクリーニング方法は、
被検化合物の存在下で、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を測定する工程と、
被検化合物の存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用が、被検化合物の非存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用より弱い場合に、当該被検化合物をAMPKタンパク質活性化剤と判定する工程と、
を備える。
【0030】
本発明に用いるPHBタンパク質及びAMPKタンパク質の由来する生物種は特に限定されず、例えば、植物、菌類、単細胞真核生物及び動物等が挙げられる。好ましくは、PHBタンパク質は動物由来であり、より好ましくはヒト、ラット、マウス、ブタ、サル等の哺乳類由来であり、更に好ましくはヒト由来である。
【0031】
本発明に用いるPHBタンパク質及びAMPKタンパク質は、全長のタンパク質からなるものであっても良く、一部のペプチド又はタンパク質から構成されても良い。PHBタンパク質又はAMPKタンパク質が一部のペプチド又はタンパク質から構成されている場合、それぞれ、両者の相互作用する部位を含む。AMPKタンパク質における、PHBタンパク質と相互作用する部位の一例として、AMPKβのC末端が挙げられ、特に、ヒトAMPKβの264−270アミノ酸残基が挙げられる。
【0032】
更に、タンパク質を単離、精製し易い観点から、PHBタンパク質及びAMPKタンパク質は、全長タンパク質或いは一部のペプチド又はタンパク質を含有する融合タンパク質であることが好ましい。融合タンパク質として、例えばGST融合タンパク質、His融合タンパク質、FLAG融合タンパク質、HA融合タンパク質、Myc融合タンパク質等が挙げられる。
【0033】
また、PHB及びAMPKタンパク質は突然変異を有しても良い。突然変異体は、両者の相互作用に影響を与えないものであり、好ましくは、突然変異の部位が相互作用に関わる部位ではない。
【0034】
PHB及びAMPKタンパク質はまた、細胞から抽出されたものであっても良く、インビトロ翻訳から得られたものであっても良い。細胞から抽出されたタンパク質は、内在性のタンパク質であっても良く、細胞内で過剰発現させたものであっても良い。更に、PHB及びAMPKタンパク質は、例えばAbnova社等より、市販されているものであっても良い。
【0035】
内在性タンパク質を用いる場合、PHB及びAMPKタンパク質は、例えば肝細胞;間質細胞;ランゲルハンス細胞;脾細胞;グリア細胞等の神経細胞;膵臓β細胞;骨髄細胞;表皮細胞;上皮細胞;内皮細胞;平滑筋細胞等の筋細胞;繊維芽細胞;繊維細胞;脂肪細胞;マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球等の免疫細胞;軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞等の骨細胞;乳腺細胞等から抽出される。これらの細胞は正常細胞であっても良く、癌細胞、前駆細胞、幹細胞であっても良い。また、これらの細胞を含む組織又は器官からタンパク質を抽出しても良い。
【0036】
細胞内でタンパク質を過剰発現させる手段は、当業者が適宜に選べる。好ましくは、細胞内にタンパク質を過剰発現するベクターを導入し、細胞内でタンパク質を合成させる工程を含む。用いられる細胞は特に限定されなく、例えばヒト、マウス及びラット等の哺乳類由来の細胞や大腸菌が挙げられる。かかる過剰発現ベクターの例として、プラスミドベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。細胞内に過剰発現ベクターを導入する方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトポレーション法、マイクロインジェクション法、ウイルス感染法等の公知の遺伝子導入方法が挙げられる。細胞内で過剰発現されるタンパク質は、好ましくはGST、His、FLAG、HA、Myc等のタグを有する融合タンパク質である。このようなタグを有することにより、当該タンパク質をより単離し易くなる。また、タグは、融合タンパク質のN末端に付けても、C末端に付けても良く、好ましくは、タグは、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用に影響を与えない部位に付ける。過剰発現用の細胞、ベクター、プロモーター、及びタグの種類、ベクターの導入方法等は、当業者が適宜に選択できる。
【0037】
細胞からタンパク質を抽出する方法は、当業者にとって周知である。タンパク質は、例えば細胞溶解物から抽出されることができる。かかる方法は例えばNP40やTriton等の界面活性剤を含有する緩衝液で細胞を溶解させる方法が挙げられる。タンパク質は更に得られた細胞溶解物から単離されても良い。タンパク質の単離方法は、例えば抗原抗体反応を利用する単離方法、固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィー方法、セファロース等の担体を用いる方法が挙げられる。
【0038】
PHB及びAMPKタンパク質はまた、インビトロ翻訳系を用いて得られるものであっても良い。当該インビトロ翻訳系は当業者にとって周知であり、例えばTNT T7 Quick Coupled Transcription/Translation System (Promega社)等がある。
【0039】
用いられるPHB及びAMPKタンパク質の長さ、由来する生物、組織又は細胞種、変異の有無及び入手方法等は、同じであっても良く、異なっても良い。例えば、全長のPHBタンパク質とAMPKタンパク質の部分ペプチドや、内在性PHBタンパク質とインビトロ翻訳で得られたAMPKタンパク質との組み合わせ等が挙げられる。
【0040】
PHBタンパク質はPHB1タンパク質であってもPHB2タンパク質であっても良くその複合体であっても良い。好ましくは、PHBタンパク質はPHB1タンパク質である。また、AMPKタンパク質はAMPKα、AMPKβ又はAMPKγサブユニットのいずれかであっても良く、それらの複合体であっても良い。中でも、AMPKβが好ましい。
【0041】
被検化合物は特に限定されず、合成化合物でも良く、天然物抽出物中に存在する化合物であっても良い。被検化合物としては、例えば、合成化合物、天然化合物、植物抽出物、動物抽出物、発酵生産物、市販の試薬、化合物ライブラリーから選抜された化合物等が挙げられる。被検化合物の分子種も特に制限されず、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、糖、核酸を例示できる。
【0042】
本明細書において、「相互作用」は、直接結合して複合体を形成しても良いが、他の分子を介する間接的な相互作用で複合体を形成しても良い。しかし、検出の感度及び特異性をより向上させ、スクリーニング結果の偽陽性をより低減させるため、直接結合して複合体を形成することが好ましい。
【0043】
PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を指標とすることは、被検化合物によるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用への影響の程度を同定の基準とすることを意味する。例えば、被検化合物の存在下におけるPHBタンパク質と、AMPKタンパク質との相互作用が、被検化合物の非存在下における両者の相互作用より弱い場合、当該被検化合物をAMPKタンパク質活性化剤と同定できる。
【0044】
AMPKタンパク質活性化剤の存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用低減の割合は、評価方法によって異なる。例えば、AMPKタンパク質活性化剤の存在下(10μM)では、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用は、AMPKタンパク質活性化剤の非存在下の50%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。
【0045】
PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用の測定方法は、当業者にとって公知のタンパク質間相互作用を測定する系が利用可能である。以下、本実施形態に係るタンパク質間相互作用を測定する系について詳細に説明するが、これらの測定系に限定されない。
【0046】
タンパク質間相互作用の測定方法は、好ましくは、相互作用を定量する工程を備える。相互作用の定量する方法は例えば、酵素反応を利用する方法、蛍光強度を測定する方法、レポーター遺伝子の転写又は活性化を測定する方法、放射性物質を利用する方法等の相互作用を直接数値として測定する方法、及び相互作用の測定結果をいったん画像として取り込み、画像のドット等を測定する方法が知られている。また、片方のタンパク質に対する標識された抗体を用いて相互作用を測定することもできる。測定結果の客観性及びハイスループットスクリーニングを可能にする観点から、相互作用を直接数値として測定する方法が好ましい。
【0047】
上述の測定方法において、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を測定し易くするため、少なくとも片方のタンパク質が標識されている。タンパク質の標識は特に限定されず、例えばHRP及びHA等を用いた酵素標識、Cy3、Cy5及びFAM等を用いた蛍光標識、ジアミノベンチジン(DAB)、3,3',5,5'−テトラメチルベンチジン(TMB)及び3−アミノ−9−エチルカルバゾル(AEC)等の発色物質を用いた標識、放射性標識等が挙げられる。好ましくは、これらの標識は、PHBタンパク質とAMPKタンパク質の相互作用に影響を与えず、かつ、タンパク質が高次元構造を取る場合、タンパク質の表面に露出する部位で付加される。
【0048】
PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用は、共免疫沈降法を用いて測定することもできる。共免疫沈降法は、目的タンパク質に対する抗体を用いて、当該タンパク質を含む複合体を沈降させ、沈降させた複合体中に別のタンパク質の有無を、イムノブロットを用いて検出することにより、両者の相互作用を判定する方法である。
【0049】
タンパク質間相互作用の測定方法として共免疫沈降法を用いる場合、典型的には、まず培養した細胞を溶解させ、細胞溶解物に担体又は特異性のない抗体を添加して遠心分離することにより、非特異的な結合を除去する。次に、担体及び、PHBタンパク質又はAMPKタンパク質のいずれか片方に対する抗体を添加して結合させ、遠心分離によって複合体を沈降させる。担体としては、セファロースビーズ、アガロースビーズ、Protein Gビーズ及びProtein Aビーズ等が挙げられる。沈降させた複合体をSDS−PAGEにより大きさに基づいて分離した後、PVDF等のメンブレンに転写し、他方のタンパク質に対する抗体を一次抗体として添加する。次に、一次抗体を認識する標識された二次抗体を添加し、結合する二次抗体の量を測定する。標識方法は特に限定されず、上記のタンパク質の標識と同様の標識が利用可能である。
【0050】
更に、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用は、GSTプルダウン方法を用いて測定することもできる。GSTプルダウン方法において、相互作用を測定したい片方のタンパク質をGST融合タンパク質としてGlutathione Sepharose担体とを結合させ、担体−タンパク質複合体を形成させる。得られた複合体に他のタンパク質の有無を、イムノブロットを用いて検出することにより、両者の相互作用を判定できる。
【0051】
本発明のタンパク質間相互作用の測定方法としてGSTプルダウン法を用いる場合、まず、Glutathione Sepharose担体と、GST融合PHBタンパク質又はGST融合AMPKタンパク質(以下、GST−AMPKともいう。)とを結合させ、複合体を形成させる。かかる複合体に他方のタンパク質を含有する液体を添加して結合させ、余分の液体を十分に洗浄した後、複合体をSDS−PAGEを用いて分離して、PVDF等のメンブレンに転写する。添加されたタンパク質が担体−タンパク質複合体に結合するかを、標識された抗体を用いて検出し、両者の相互作用を判定する。標識方法は特に限定されず、上記のタンパク質の標識と同様の標識が利用可能である。
【0052】
他のタンパク質間相互作用の測定方法は、当業者が適宜に選択でき、例えば、ファーウェスタン法、プロテイン・フラグメント・コンプリメンテーション・アッセイ(PCA)法、蛍光共鳴エネルギー移動法(Fluorescence resonance energy transfer、FRET)、アルファスクリーン(AlphaScreen)法、時間分解―蛍光共鳴エネルギー移動法(Time-resolved fluorescence resonance energy transfer、TR−FRET)、シンチレーション接近アッセイ(Scintillation proximityassay、SPA)法等の近接効果(proximityeffect)を利用する測定法が挙げられる。同様に細胞内でタンパク質間相互作用を測定する方法として、生物発光共鳴エネルギー移動(Bioluminescence resonance energytransfer、BRET)、蛍光相互相関分光法(Fluorescence correlation spectroscopy、FCCS)、蛍光タンパク質再構成法(Bimolecular fluorescent complementation、BiFC法)、Duolink in situ Proximity ligation assay (PLA)(Olink Bioscience社)等が挙げられる。
【0053】
また、レポーター遺伝子を利用したツーハイブリッド法及びBiacoreシステム等の表面プラスモン共鳴方法(Surface Plasmon Resonance、SPR)等の方法も、タンパク質間相互作用の測定方法として使用することができる。
【0054】
上記測定方法により測定した相互作用に基づいて、被検化合物がAMPKタンパク質活性化剤か否かを判定する。具体的には、被検化合物の存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用が、被検化合物の非存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用より弱い場合に、当該被検化合物をAMPKタンパク質の活性化剤と判定する。被検化合物の非存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用は、被検化合物の存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用と同時期に測定しても良く、別々に測定しても良い。
【0055】
本発明の第二の実施形態に係るAMPKタンパク質活性化剤のスクリーニング方法は、
担体上に固定した、PHBタンパク質及びAMPKタンパク質のいずれか一方のタンパク質に、
被検化合物を含有する溶液並びにPHBタンパク質及びAMPKタンパク質の他方のタンパク質を含有する溶液を添加する工程と、
前記溶液を除去した後、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を測定する工程と、
被検化合物の存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用が、被検化合物の非存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用より弱い場合に、当該被検化合物をAMPKタンパク質活性化剤と判定する工程と、
を備えることができる。
【0056】
本発明の第三の実施形態に係るAMPKタンパク質活性化剤のスクリーニング方法は、
担体上に固定した、PHBタンパク質及びAMPKタンパク質のいずれか一方のタンパク質に被検化合物を含有する溶液を添加する工程と、
PHBタンパク質及びAMPKタンパク質の他方のタンパク質を含有する溶液を添加する工程と、
前記溶液を除去した後、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を測定する工程と、
被検化合物の存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用が、被検化合物の非存在下におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用より弱い場合に、当該被検化合物をAMPKタンパク質活性化剤と判定する工程と、
を備えることができる。
【0057】
第二及び第三の実施形態において、担体は特に限定されず、セファロースビーズ、アガロースビーズ、Protein Gビーズ及びProtein Aビーズ等であっても良く、抗PHB又は抗AMPK抗体を用いても良い。また、GST融合タンパク質、His融合タンパク質、HA融合タンパク質等を用いる場合、対応するビーズ又は抗体を用いて固定化することもできる。更に、スクリーニングの効率をより向上させるため、ビーズ、融合タンパク質、又は抗体は更に多ウェルプレート上に固定されることが好ましい。多ウェルプレートは6ウェル以上を備えるものが好ましく、48ウェル以上を備えるものがより好ましく、96ウェル以上を備えるものが好ましく、384ウェル以上を備えるものが極めて好ましい。
【0058】
固定するタンパク質は、PHBタンパク質であっても良く、AMPKタンパク質であっても良い。
【0059】
PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用は、PHBタンパク質とAMPKタンパク質とを反応させて結合させることで測定することができる。かかる反応は、被検化合物の存在下で、担体上に固定した、PHBタンパク及びAMPKタンパク質のいずれか一方のタンパク質に、PHBタンパク質及びAMPKタンパク質の他方のタンパク質を含有する溶液を添加して、1分以上、0〜100℃において放置して反応させることが好ましい。その後、溶液を除去し、結合しない余分なタンパク質を除去するため、洗浄の工程を入れたほうが好ましい。
【0060】
PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用の測定方法は特に限定されず、第一の実施形態で説明した方法が利用可能である。しかし、ハイスループットスクリーニングを可能にする観点から、複数のサンプルを同時に測定することができる方法が好ましい。かかる方法は、例えば添加されるタンパク質を標識する方法がある。また、PHBタンパク質及びAMPKタンパク質の他方のタンパク質を含有する溶液を添加する工程の後、及び/又はそれに続く洗浄工程の後、添加されるタンパク質に対する標識された抗体を添加して測定することもできる。更に、FRETやSPR等のような、タンパク質の結合によって計測値が変化する測定方法を用いても可能である。
【0061】
上記測定方法により測定した相互作用に基づいて、被検化合物がAMPKタンパク質活性化剤か否かを判定する。判定工程は第一の実施形態の判定工程で説明したのと同様である。
【0062】
本発明は、また、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を阻害する化合物を有効成分とするAMPKタンパク質活性化剤を提供することができる。当該AMPKタンパク質活性化剤は特に限定されず、好ましくは本発明によるスクリーニング方法を実施することによって被検化合物の中からAMPKタンパク質活性化剤として判定されるものである。
【0063】
AMPKタンパク質活性化剤は特に限定されず、合成化合物でも良く、天然物抽出物中に存在する化合物であっても良い。AMPKタンパク質活性化剤としては、例えば、合成化合物、天然化合物、植物抽出物、動物抽出物、発酵生産物、市販の試薬、化合物ライブラリーから選抜された化合物等が挙げられる。AMPKタンパク質活性化剤の分子種も特に制限されず、例えば、低分子化合物、ペプチド、タンパク質、糖、核酸を例示できる。
【0064】
また、本発明のAMPKタンパク質活性化剤の例として、下記式(1)で表される化合物(5−(2,4−ジオキソ−3−ブチルイミダゾリジン−1−イル)メチル−2−メトキシ−N−[4−(4−フルオロフェノキシ)フェニルメチル]ベンズアミド、化合物Aともいう)を挙げることができる(国際公開第2012/26495号)。
【0066】
本発明は、また、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との複合体(以下、PHBタンパク質―AMPKタンパク質複合体ともいう。)を提供することができる。かかる複合体は、単離されたPHBタンパク質と単離されたAMPKタンパク質、又は細胞内で過剰発現させたPHBタンパク質と細胞内で過剰発現させたAMPKタンパク質とを結合させて形成される。かかるタンパク質の単離及び細胞内で過剰発現させる方法は、第一実施形態で説明した方法が利用できる。
【0067】
上記複合体は、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用機序のさらなる解明に使用することができる。例えば、PHBタンパク質―AMPKタンパク質複合体を形成させて、結晶構造解析をすることにより、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との結合部位を同定することができる。このようなPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用機序の解明は、上記複合体を標的とする薬剤の設計等に有用である。かかる結晶構造解析の方法は公知であり、例えばX線構造解析が挙げられる。
【0068】
上記複合体を標的とする薬剤等は、上記複合体におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を制御する効果を有することが好ましく、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を負に制御する効果を有することが更に好ましい。
【0069】
PHBタンパク質及びAMPKタンパク質の由来は限定されない。また、PHBタンパク質及びAMPKタンパク質は、融合タンパク質であっても良い。かかる融合タンパク質は、例えば、第一実施形態で説明した融合タンパク質である。
【0070】
PHBタンパク質及びAMPKタンパク質はまた、全長のタンパク質であっても良く、一部のペプチド又はタンパク質であっても良い。さらに、PHBタンパク質及びAMPKタンパク質は、突然変異を有しても良い。様々な部位を有するPHBタンパク質及びAMPKタンパク質から形成される複合体、又は突然変異を有しないPHBタンパク質及びAMPKタンパク質から形成される複合体と、突然変異を有するPHBタンパク質及びAMPKタンパク質から形成される1つ以上の複合体とを用いることにより、様々な複合体におけるPHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を測定して比較することができる。それにより、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との結合部位等、相互作用に影響を及ぼす又は及ぼさない部位を特定することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1:siRNAを用いたPHBタンパク質のノックダウン)
ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞にヒトPHB1或いはヒトPHB2に対するsiRNA(Stealth RNAi、Invitrogen社)をLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社)を用いてトランスフェクションした。
【0073】
トランスフェクション72時間後、siRNAをトランスフェクションした細胞から、RNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いてRNAを抽出した。得られたRNAをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社)を用いて逆転写を行い、cDNAを得た。得られたcDNAはTaqMan GeneExpression Assays(AppliedBiosystems社、PHB1:Hs_00855044_g1、PHB2:Hs_00200720_m1)により7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems社)を用いてリアルタイムPCRを行い、PHB1或いはPHB2のノックダウンによる遺伝子の転写量に対する影響を検出した。
【0074】
siRNAの配列はそれぞれ以下の通りである。
siPHB1:5’−UUGGCAAUCAGCUCAGCUGCCUUGG−3’(配列番号1)
5’−CCAAGGCAGCUGAGCUGAUUGCCAA−3’(配列番号2)
siPHB2:5’−UACGAUUCUGUGAUGUGGCGAUCGU−3’(配列番号3)
5’−ACGAUCGCCACAUCACAGAAUCGUA−3’(配列番号4)
【0075】
図1にPHB1或いはPHB2に対するsiRNAが導入された場合のPHB1及びPHB2のリアルタイムPCRの結果を示す。siPHB1又はsiPHB2の導入はそれぞれ、PHB1又はPHB2の転写量を特異的に抑制した。したがって、用いられたsiPHB1及びsiPHB2は、効率的に、かつ特異的に標的遺伝子の発現を抑制したことが示唆された。
【0076】
(実施例2:PHBのノックダウンによるAMPKタンパク質リン酸化に対する影響)
ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞にヒトPHB1或いはヒトPHB2に対するsiRNA(Stealth RNAi、Invitrogen社)をLipofectamine RNAiMAX (Invitrogen社)を用いてトランスフェクションした。トランクフェクション72時間後、細胞を溶解バッファー(1%NP−40、25mM Tris−HCl pH7.4、10mM EDTA、10mM EGTA、100mMフッ化ナトリウム、10mMピロリン酸ナトリウム、10mMオルトバナジン酸ナトリウム、10mMβ−グリセロリン酸、pH7.4)で溶解し、細胞抽出液とした。得られた細胞抽出液を用いてSDS−PAGEを実施し、細胞抽出液に含まれるタンパク質を大きさにより分離した。その後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写し、抗リン酸化AMPKα抗体及び抗AMPKα抗体(いずれもCell Signaling Technology社)、抗PHB1抗体(SantaCruz Biotechnology社)、抗PHB2抗体(Millipore社)によりウェスタンブロッティングを行った。
【0077】
図2にPHB1或いはPHB2のノックダウンした場合におけるAMPKαタンパク質のリン酸化のウェスタンブロッティングの結果を示す。PHB1或いはPHB2のいずれのsiRNAを用いてもPHB1及びPHB2のタンパク質の量が減少し、リン酸化AMPKαの量が上昇した。この時、AMPKαの量は変化しなかった。したがって、PHB1或いはPHB2のノックダウンによりAMPKタンパク質の活性化が誘導されることが示唆された。
【0078】
(実施例3:PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用の確認)
PHBタンパク質が相互作用を介してAMPKタンパク質の制御に関与する可能性を検討するため、共免疫沈降を行った。陰性コントロールとして抗IgG抗体を用いた。
【0079】
HepG2細胞から調製した細胞抽出液にProtein G Sepharose(GE Healthcare社)を添加し遠心分離を行い、非特異的な結合を除去した。得られた上清に抗PHB1抗体(Santa Cruz Biotechnology社)或いは抗AMPKα抗体(Cell Signaling Technology社)及びProtein G Sepharoseを加え4時間、4℃にてインキュベートして結合させ、遠心分離を行い、余分の細胞抽出液を除いた。洗浄して非特異的な結合を除去した後、Protein G Sepharoseに結合する複合体を、共免疫沈降物として精製した。得られた共免疫沈降物をSDS−PAGEにより大きさに基づいて分離した後、PVDFメンブレンに転写し、抗PHB1抗体による共免疫沈降物に対しては抗PHB1抗体、抗AMPKα抗体を用いて、また、抗AMPKα抗体による共免疫沈降物に対しては抗AMPKα抗体、抗AMPKβ抗体(Cell Signaling Technology社)、抗PHB1抗体、抗PHB2抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、PHB1タンパク質とAMPKαタンパク質が共沈降されるかを検出した。
【0080】
図3aに、抗PHB1抗体による共免疫沈降の結果を示す。共免疫沈降物から、PHB1タンパク質と共に沈降するAMPKαが検出された。
【0081】
図3bに、抗AMPKα抗体による共免疫沈降の結果を示す。共免疫沈降物から、AMPKαと共に沈降するAMPKβ、PHB1タンパク質及びPHB2タンパク質が検出された。
【0082】
抗PHB1抗体による共免疫沈降物中にAMPKαが検出されたこと、並びに、逆に抗AMPKα抗体による共免疫沈降物中にPHB1及びPHB2が検出されたことから、PHBタンパク質とAMPKタンパク質が細胞内で相互作用して複合体を形成することが示唆された。
【0083】
(実施例4:PHBタンパク質とAMPKタンパク質との直接相互作用の確認)
PHBタンパク質とAMPKタンパク質の直接相互作用の可能性を、GSTプルダウン法を用いて検討した。
【0084】
具体的には、GlutathioneSepharose 4 Fast Flow(GE Helthcare社)担体と、市販のGSTタンパク質、GST融合PHB1タンパク質(以下、GST−PHB1タンパク質ともいう。)又はGST融合PHB2タンパク質(以下、GST−PHB2タンパク質ともいう。)(いずれもAbnova社)とを、それぞれ結合させ、GST担体―タンパク質複合体とした。GST担体−タンパク質複合体と、AMPKタンパク質(Calbiochem社)とを、NETバッファー(0.5%NP−40、50mM Tris−HCl pH7.5、50mM塩化ナトリウム、5mM EDTA)中で3時間、4℃にてインキュベートして結合させた。NETバッファーで洗浄した後、サンプルバッファー(50mM Tris−HCl pH6.8、2%SDS、10%グリセリン、1%β−メルカプトエタノール、12.5mM EDTA、0.02%ブロモフェノールブルー)を添加し、サンプルを調製した。得られたサンプルをSDS−PAGEにより分離した後、PVDFメンブレンに転写し、抗AMPKα及び抗GST抗体によりウェスタンブロッティングを行い、AMPKタンパク質がGlutathione Sepharoseに結合したGSTタンパク質、GST−PHB1タンパク質或いはGST−PHB2タンパク質と結合してプルダウンされるかを検出した。
【0085】
図4に、GSTプルダウン法の結果を示す。GSTタンパク質によってプルダウンされた複合体ではAMPKαが検出されなかったが、GST−PHB1タンパク質及びGST−PHB2タンパク質によってプルダウンされた複合体ではAMPKαが検出された。また、GST−PHB2タンパク質によってプルダウンされた複合体で検出されたAMPKαの量は、GST−PHB1タンパク質によってプルダウンされた複合体で検出された量に比べて少なかった。したがって、PHBタンパク質、特にPHB1タンパク質が直接AMPKタンパク質と相互作用することが示された。
【0086】
(実施例5:PHBタンパク質とAMPKタンパク質サブユニットとの相互作用の確認)
GSTプルダウン法を用いて、PHBタンパク質と相互作用するAMPKタンパク質サブユニットを同定した。
【0087】
GST担体−タンパク質複合体を、実施例4に準じて調製した。TNT Quick Coupled Transcription/Translation Systems (Promega)を用いて、[
35S]メチオニン(PerkinElmer)でラベル化した、AMPKα,β及びγ並びにPHB1タンパク質を調製した。GST担体−タンパク質複合体と、
35Sラベル化タンパク質とを混合し、実施例4に準じてGSTプルダウン法を行った。得られたサンプルをSDS−PAGEにより分離した後、オートラジオグラフィーにて、
35Sラベル化タンパク質がGST担体−タンパク質複合体によってプルダウンされるか検出した。
【0088】
図5にプルダウンの結果を示す。GSTタンパク質によってプルダウンされた複合体では、いずれの
35Sラベル化タンパク質も検出されなかった。GST−PHB1タンパク質によってプルダウンされた複合体では、
35Sラベル化AMPKα及び
35Sラベル化AMPKγは検出されなかったが、
35Sラベル化AMPKβが検出された(
図5a)。また、GST−PHB2タンパク質によってプルダウンされた複合体でも、
35Sラベル化AMPKβが検出された(
図5b)。逆に、GST−AMPKβによってプルダウンされた複合体でも、
35Sラベル化PHB1タンパク質が検出された(
図5c)。したがって、PHB1タンパク質及びPHB2タンパク質は、AMPKタンパク質複合体のうちAMPKβサブユニットを介して相互作用することが示唆された。
【0089】
(実施例6:AMPKタンパク質βサブユニットにおける、PHBタンパク質との相互作用に重要な領域の同定)
AMPKタンパク質βサブユニットにおける、PHBタンパク質との相互作用に重要な領域を同定するため、AMPKタンパク質βサブユニットの欠損変異体を用いて以下の実験を行った。
【0090】
N末端にHAタグ(YPYDVPDYA;配列番号5)を付加した、全長の又は各種欠損変異体のAMPKタンパク質βサブユニットの発現ベクター、及びC末端にFlagタグ(DYKDDDDK;配列番号6)を付加したPHB1タンパク質の発現ベクターを、Lipofectamine LTX (invitrogen)を用いてHepG2細胞に導入し、一晩37℃にて培養した。抗HAアフィニティマトリックス(Roche)を用いて、実施例3に準じて免疫沈降を行った。抗HA抗体及び抗Flag抗体(いずれもCellSignaling Technology)を用いてウェスタンブロッティングを行い、AMPKタンパク質βサブユニットとPHB1タンパク質が共沈降されるか検討した。
【0091】
結果を
図6に示す。全長のAMPKタンパク質βサブユニットによりPHB1タンパク質が共沈降されたことから、細胞内においてAMPKタンパク質βサブユニットとPHB1タンパク質が相互作用することが確認された。しかしながら、AMPKタンパク質βサブユニットのC末端を欠損した各種変異体によりPHB1タンパク質が共沈降されなかったことから、AMPKタンパク質βサブユニットとPHB1タンパク質の相互作用には、AMPKタンパク質βサブユニットのC末端(特に264−270番目のアミノ酸残基)が必要であることが示された。
【0092】
(実施例7:化合物AのPHB1タンパク質とAMPKタンパク質との相互作用に対する影響)
GST−PHB1タンパク質(500ng)をGlutathione Sepharose 4 Fast Flow(10μL)に結合させ、GST担体−タンパク質複合体とした。GST担体−タンパク質複合体に化合物A(最終濃度10μM)及びAMPKタンパク質(100ng)を加え、NET Buffer(300μL)中で3時間、4℃にてインキュベートした。NETバッファーでGST担体−タンパク質複合体を洗浄後、サンプルバッファー(50μL)を添加してサンプルを調製した。得られたサンプルをSDS−PAGEにより分離した後、PVDFメンブレンに転写し、ウェスタンブロッティングを行い、AMPKタンパク質がGlutathione Sepharoseに結合したGSTタンパク質或いはGST−PHB1タンパク質と結合してプルダウンされるかを検出した。
【0093】
図7に、化合物Aの添加により、GST−PHB1タンパク質によりプルダウンされるAMPKαは著明に減少した。したがって、化合物AはPHB1タンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を阻害することが示唆された。
【0094】
(実施例8:化合物AのAMPKαリン酸化に対する影響)
HepG2細胞の培養系に化合物Aを各々の最終濃度となるように添加して、更に3時間培養した後、溶解バッファーで細胞を溶解し細胞抽出液とした。得られた細胞抽出液を用いてSDS−PAGEを実施し、抽出液に含まれるタンパク質を大きさに基づいて分離した後、PVDFメンブレンに転写し、ウェスタンブロッティングによりPHB1、PHB2、AMPKα及びリン酸化AMPKαを検出した。
【0095】
図8に、化合物Aの濃度依存的に、リン酸化AMPKα、AMPKα、リン酸化AMPKαのリン酸化基質であるACC、リン酸化ACC、PHB1及びPHB2タンパク質のウェスタンブロッティング解析の結果を示す。リン酸化AMPKα及びリン酸化ACCの量について、化合物Aの濃度依存的な上昇が認められた。一方、化合物Aの添加は、AMPKα、ACC、PHB1及びPHB2の量に顕著な影響を与えなかった。これにより、化合物Aは、PHBタンパク質とAMPKタンパク質との相互作用を阻害することにより、AMPKタンパク質を活性化することが示された。