(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のラミネーションは、その軸方向の長さが前記第1の永久磁石アセンブリーの軸方向の長さより長く、かつ、前記第2のラミネーションは、その軸方向の長さが前記第2の永久磁石アセンブリーの軸方向の長さより長く、そのことが、
前記モーターの動作時に、前記永久磁石アセンブリーが軸方向にそれぞれの対応するラミネーションの長さ内に位置する限り、前記ステーターに対する前記ローターアセンブリーの軸方向への自由な移動を可能にし、かつ、
前記モーターの動作時に、前記永久磁石アセンブリーを軸方向にそれぞれの対応するラミネーションの長さを越えて配置するまで、前記ステーターに対して前記ローターアセンブリーが移動しようとするのを抑止する、請求項1に記載のポンプ。
前記第1のポンプ段および前記第2のポンプ段のうちの少なくとも1つは、ポンピングチャンバーと、前記ポンピングチャンバーと流体連通した隣接チャンバーと、を備え、前記少なくとも1つのポンプ段に付属するインペラーは、前記ローターアセンブリーの軸方向への移動に応答して前記ポンピングチャンバーから前記隣接チャンバーの中に出入りするよう移動可能な部分を少なくとも有し、
前記隣接チャンバーは、前記ポンピングチャンバーと前記少なくとも1つのポンプ段のインレットとの間に配置されており、前記付属のポンプ段は、前記ポンピングチャンバーと前記隣接チャンバーとの間の境界面またはその付近で、前記付属のインペラーと前記付属のポンプハウジング部との間に画定された孔を含み、前記孔は、前記付属のインペラーの軸方向の位置に応じて大きさが変動する、請求項3に記載のポンプ。
前記ポンプは、前記第1のインペラーに作用する流体インレット圧が、前記軸に沿った第1の方向で前記ローターアセンブリーに軸方向の力を加え、前記第2のインペラーに作用する流体インレット圧が、前記軸に沿った前記第1の方向とは逆の第2の方向で前記ローターアセンブリーに軸方向の力を加えるように構成され、
前記第1のインペラーおよび前記第2のインペラーに作用する前記流体インレット圧によって前記ローターアセンブリーに加えられる前記軸方向の力が、前記ローターアセンブリーの前記軸方向位置を調節して、前記第1のインペラーおよび前記第2のインペラーに作用する前記流体インレット圧のバランスを取る一助となる、請求項3または4に記載のポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、血液ポンプに関する。
図1は、本発明の第1の実施形態による血液ポンプ10を示す。本発明によれば、血液ポンプ10は、衰えていたり損傷があったりする人間の心臓を置換できる完全人工心臓(TAH)装置である。しかしながら、血液ポンプ10が両心補助などの非TAHでの実施の形態に適する場合もあり得ることは、当業者であれば理解できよう。また、圧力バランスを取る機能を有するデュアル式または二段式の流体ハンドリングポンプが望ましい実施の形態など、血液の駆出以外の目的でこのポンプがふさわしい場合があることも、当業者であれば理解できよう。図示の実施形態では、血液ポンプ10は、以下においてさらに詳細に説明する二段遠心ポンプである。しかしながら、血液ポンプ10は、所望の形状のターボポンプであってもよい。
【0017】
図1から
図3を参照すると、血液ポンプ10は、ステーターアセンブリー20と、ローターアセンブリー30と、左ポンプハウジング40と、右ポンプハウジング50と、を含む。血液ポンプ10が組み立てられた状態(
図1および
図3)で、ローターアセンブリー30は、軸12を中心に回転できるようステーターアセンブリー20に支持されている。ポンプハウジング40および50は、ローターアセンブリー30を包むようステーターアセンブリー20に固定されている。ローターアセンブリー30は、モーターローター32と、第1のインペラーすなわち左インペラー34と、第2のインペラーすなわち右インペラー36と、を含む。
【0018】
モーターローター32は、環状の永久磁石62が装着されたコア60(
図2)を含む。低密度で透磁性の充填材64を使用して、磁石62をモーターローター32上に支持し、それによって中立浮上型の回転アセンブリーとポンプアセンブリーの姿勢に影響されない状態を可能にしてもよい。左インペラー34および右インペラー36は、接着剤や機械的な留め具などの既知の手段によってコア60に固定されている。あるいは、インペラー34および36は、コア60と同一材料の単一部品として形成(たとえば、成形)されてもよい。
【0019】
ステーターアセンブリー20は、モーターステーター24を支持するステーターハウジング22を含む。モーターステーター24は、
図2にそれぞれ概略的に26および28で示すステーターコアおよびモーター巻線を含む。モーター巻線28は、制御ケーブル72の3本の制御線70に電気的に接続されている。この制御線70は、導管74を介してステーターハウジング22に入り、ポッティング材76によって封止されている。
【0020】
血液ポンプ10は、組み立てられると、第1すなわち左の遠心ポンプ段またはポンプ42を含む。左ポンプ42は、左インペラー34と、内部にこの左インペラーが配置された左ポンプ室44とを含む。左ポンプ室44は、少なくとも部分的に、左ポンプハウジング40およびステーターアセンブリー20によって画定されている。また、左ポンプ42は、図示の実施形態では、左ポンプハウジング40と一体の部分として形成された左ポンプインレット46および左ポンプアウトレット48も含む。左ポンプハウジング40は、インレット46と流体連通した左ポンプ室44のインレット部92を画定する一助となるインレット面90を含む。また、左ポンプハウジング40は、アウトレット48と流体連通した左ポンプ室44のボリュート部96を画定する一助となるボリュート面94も含む。
【0021】
血液ポンプ10は、組み立てられると、第2すなわち右の遠心ポンプ段またはポンプ52も含む。右ポンプ52は、右インペラー36と、内部にこの右インペラーが配置された右ポンプ室54とを含む。右ポンプ室54は、少なくとも部分的に、右ポンプハウジング50およびステーターアセンブリー20によって画定されている。また、右ポンプ52は、図示の実施形態では、右ポンプハウジング50と一体の部分として形成された右ポンプインレット56および右ポンプアウトレット58も含む。右ポンプハウジング50は、インレット56と流体連通した右ポンプ室54のインレット部102を画定する一助となるインレット面100を含む。また、右ポンプハウジング50は、アウトレット58と流体連通した右ポンプ室54のボリュート部106を画定する一助となるボリュート面104も含む。
【0022】
モーターローター32およびモーターステーター24は、左ポンプ42および右ポンプ52を駆動する血液ポンプ10のモーター80を画定する一助となる。モーター80は、ポンプ42および52を駆動し、所望の性能特性を実現するのに適したどのようなタイプの電気モーターであってもよい。たとえば、図示の実施形態では、モーター80は、単相または多相のブラシレス、センサーレスDCモーター構成を有するものであってもよい。モーターコントローラー82は、ケーブル72を介してモーター80の相巻線28を励磁して、モーターの速度や電流などモーター部の所望の性能を達成するよう動作する。たとえば、モーターコントローラー82は、所望のモーター/ポンプ性能を達成するために、パルス幅変調電圧をモーター相に印加する。
【0023】
血液ポンプ10の動作時、ローターアセンブリー30は、軸12を中心に、ステーターアセンブリー20に対して回転する。ローターアセンブリー30は、駆出される流体すなわち血液によって形成される流体力学軸受または流体軸受に支持されるか、当該軸受上に保持されている。あるいは、血液ポンプ10は、ローターアセンブリー30の回転を容易にするための、他のタイプの軸受機能、例えば機械軸受や、低摩擦材料で形成されるか低摩擦材料によって覆われた軸受面を含んでもよい。さらに別の例として、ローターアセンブリー30は、磁気的に浮上されたものであってもよい。
【0024】
血液ポンプ10の作製に用いられる材料は、血液のポンプ駆出の実装の助けになる材料で形成されてもよい。たとえば、血液ポンプ10のうち、インペラー34および36やポンプハウジング40および50などの使用時に血流と接する部分は、ステンレス鋼、チタン、セラミック、ポリマー材料、複合材料またはこれらの材料の組み合わせなどの生体適合性材料で形成、被覆、または埋包されていてもよい。左インペラー34とポンプハウジング40または右インペラー36とポンプハウジング50など、使用時に互いに接することのある血液ポンプ10の表面または一部も、フルオロカーボンポリマーコーティング、ダイヤモンド様カーボンコーティング、セラミック、チタン、ダイヤモンド被覆チタンなどの低摩擦材料で形成または被覆されてもよい。
【0025】
図1を参照すると、完全人工心臓(TAH)での実施の形態における血液ポンプ10を示すのに、矢印が用いられており、このポンプが患者の心臓(図示せず)の機能を担っている。この構成では、左ポンプインレット46が左心房に接続され、左ポンプアウトレット48が大動脈に接続され、右ポンプインレット56が右心房に接続され、右ポンプアウトレット58が肺動脈に接続されている。動作時、左ポンプ42は、酸素を豊富に含む血液を左心房から大動脈に運び、右ポンプ52は、酸素の乏しい血液を右心房から肺動脈に運ぶ。
【0026】
TAHのシナリオでは、肺・体動脈の血流および動脈圧をバランスさせることが重要であるのは、当業者であれば理解できよう。たとえば、右ポンプ52が左ポンプ42よりも高い流速で血液を運ぶと、血液が肺に溜まることがあり、鬱血性心不全につながる可能性がある。たとえば、左ポンプ42が右ポンプ52よりも高い流速で血液を運ぶと、血液が肝臓に溜まることがあり、肝不全につながる可能性がある。よって、血液ポンプ10が目指すのは、肺・体動脈の血流および動脈圧をバランスさせることである。本発明によれば、血液ポンプ10は、左(体)ポンプ42と右(肺)ポンプ52の幾何学形状または構成を調節することによって、体循環圧および肺動脈圧ならびに動脈血流速をバランスさせる。
【0027】
本発明によれば、血液ポンプ10は、ステーターアセンブリー20に対するローターアセンブリー30の軸方向への移動を可能にするクリアランスを設けて構成されている。
図2を参照すると、ローターアセンブリー30は、この軸方向のクリアランスのほぼ中点に、左インペラー34とステーターハウジング22との間の軸方向のバッククリアランス(一般的に「A1」で示す)と、右インペラー36とステーターハウジング22との間の軸方向のバッククリアランス(一般的に「A2」で示す)とをとって配置されている。
図2に示す構成では、A1が最小のときに左ポンプ42のパフォーマンスが最大になり、A2が最小のときに右ポンプ52のパフォーマンスが最大になることが見いだされている。血液ポンプ10の動作時、ローターアセンブリー30は、左ポンプ42および右ポンプ52によって生じる動圧駆出力がゆえ、ステーターアセンブリー20に対して軸方向に移動または往復可能である。ローターアセンブリー30は、A1が最大になって左インペラー34が配置される左位置と、A2が最大になって右インペラー36が配置される右位置との間で、軸方向に移動可能である。
【0028】
ローターアセンブリー30が左位置と右位置との間で軸方向に移動すると、左ポンプ42および右ポンプ52の構成または幾何学形状が変化する。左インペラー34の軸方向位置の変化に伴い、左インペラーとステーターアセンブリー22との間のクリアランスA1が変化し、これによって左ポンプ42および左ポンプ室44の構成と幾何学形状が変化する。同様に、右インペラー36の軸方向位置の変化に伴い、右インペラーとステーターアセンブリー22との間のクリアランスA2が変化して、これによって右ポンプ室54の構成と幾何学形状ならびに右ポンプ52の構成または幾何学形状が変化する。
【0029】
クリアランスA1およびA2が増加するにつれて、第1のポンプ42および第2のポンプ52の流体出力が低下する。よって、特定のポンプ速度についてみると、インペラー34および36がステーターアセンブリー22の方に移動する(すなわち、それぞれのクリアランスA1およびA2が小さくなる)につれて、それに応じてポンプ42および52の圧力と血流が増大する。逆に、インペラー34および36がステーターアセンブリー22から離れる方向に移動する(すなわち、それぞれのクリアランスA1およびA2が大きくなる)につれて、それに応じてポンプ42および52の圧力と血流が小さくなる。
【0030】
よって、本発明の単一モーター式二段構成の血液ポンプ10では、左ポンプ段42での圧力と血流の増加を生むローターアセンブリー30の軸方向への移動が、右ポンプ段52での圧力と血流の減少も生むことは、理解できよう。同様に、右ポンプ段52で圧力と血流の増加を生むローターアセンブリー30の軸方向への移動が、左ポンプ段42での圧力と血流の減少も生むことになる。このことから、血液ポンプ10がどのような速度にあっても、ステーターアセンブリー20に対するローターアセンブリー30の軸方向位置が適切な位置に調節されると、左ポンプ段42および右ポンプ段52の圧力と血流をバランスさせることができるということになる。
【0031】
この原理に基づき、血液ポンプ10を使用して、ローターアセンブリー30の軸方向位置を調節することで、体循環および肺動脈の血圧ならびに血流の特性を制御可能である。本発明によれば、ローターアセンブリー30の軸方向位置は、受動的または能動的に制御可能である。
図1〜
図5の実施形態は、受動制御を用いてローターアセンブリー30の軸方向位置を調節し、よって左ポンプ42および右ポンプ52の幾何学形状または構成を調節するような血液ポンプ10の構成を示している。
【0032】
血液ポンプ10の受動制御構成では、ローターアセンブリー30の軸方向位置は、動作時に左ポンプ42および右ポンプ52によって生じる流体力で受動的にまたは内在的に制御される。本発明によれば、左インペラー34および右インペラー36の構成は、この動作を生じやすくするよう選択される。
図4を参照すると、第1のインペラー34は、バックプレート110と、バックプレートから半径方向に延在する複数のベーン112と、を含む。
図4の実施形態では、ベーン112は、第1のベーンすなわちプライマリベーン114と、第2のベーンすなわちスプリッタベーン116とを含み、スプリッタベーンは、プライマリベーンより短い。
図5に示す実施形態では、ベーン112は、低流入角のインレットと半径方向の吐出口を有して構成されている。
【0033】
図5を参照すると、第2のインペラー36は、バックプレート120と、バックプレートから半径方向に延在する複数のベーン122とを含む。
図5の実施形態では、ベーン122は、第1のベーンすなわちプライマリベーン124と、第2のベーンすなわちスプリッタベーン126とを含み、第2のベーンは、第1のベーンより短い。
図5に示す実施形態では、ベーン122は、低流入角のインレットと半径方向の吐出口を有して構成されている。
【0034】
第1のインペラー34および第2のインペラー36のバックプレート110および120は、ほぼ同じ大きさまたは直径である。第1のインペラー34のベーン112は、第2のインペラー36の対応するベーン122よりも長い。
図1〜
図4の実施形態における第1のインペラー34および第2のインペラー36の構成は、一例としてのインペラー構成を示している。インペラー34および36が別の構成を取り得ることは、当業者であれば理解できよう。
【0035】
バックプレート110および120は、ベーン112および122がそれぞれ、その外縁を越えて半径方向に延在するように、直径が狭くなっている。バックプレート110および120は、左ポンプインレット46および右ポンプインレット56とそれぞれ直接対向している。このため、バックプレート110および120に作用する流体の圧力は、主にインレット圧であり、よって、主に軸方向の、すなわち軸12と平行な力をローターアセンブリー30に加える。血液ポンプ10によって生じるアウトレット圧は、主に、バックプレート110および120の外径を半径方向に越えて位置するベーン112および122の端部で生成される。
【0036】
例示の実施形態の血液ポンプ10は、2つの基本的な部分で従来の遠心ポンプ設計とは異なる構成を有する。第1に、血液ポンプ10では、前後の軸方向のクリアランスが非対称で軸方向のクリアランスが非常に大きいオープンベーン式のインペラーを利用している(
図2および
図3参照)。第2に、半径方向のベーンは、渦流(または再生)ポンプで一般的な形でボリュート領域の中まで延在している。この延長部は、受動的なパフォーマンス調整のためのベーン背後のクリアランスを生み出す。また、ステーターコア26よりも短いローター磁石62は、回転しているアセンブリー30が制御された量で軸方向に自由に移動できるようにする。
【0037】
システムの抵抗が一定のとき、出力流とポンプ速度とは直線関係にあることが見いだされている。このため、コントローラー82によって実行される制御アルゴリズムでポンプ速度を調節し、公称体血流を与える。ローターアセンブリー30の軸方向位置を調節することで、体血流と肺血流のバランスが取れる。本発明の第1の実施形態によれば、ローターアセンブリー30の軸方向の調節は、左インペラー34および右インペラー36の構成と流体圧がゆえに、内在的にまたは自動的になされる。
【0038】
インペラー34および36のバックプレート部110および120に作用する軸方向の力は、主に、ポンプインレット圧によって生じる力であるため、左インレット部92と右インレット部102との間の圧力差に応答して、ローターアセンブリー30の軸方向位置が調節される。ローターアセンブリー30の軸方向位置が調節されると、上述したように、左ポンプ42および右ポンプ52の幾何学形状および水力性能が変化する。これは、左ポンプ42および右ポンプ52のアウトレットでの血流と圧力における、対応する変化または調節をもたらし、2つのポンプ間の圧力および血流性能がトレードオフになる。このように、血液ポンプ10は、左ポンプ42および右ポンプ52の水力性能を段階的に変化させることで肺血流と体血流のみならず動脈圧もバランスさせる一助となる自己調整式のローターアセンブリー30を備えて構成される。
【0039】
高クリアランスで動作する場合、ポンプ用のベーンが軸方向のクリアランスの真ん中にある(前後のクリアランスが等しい)ときに、ポンプのパフォーマンスが最小になる。このため、インペラー34および36を軸に沿ったいずれかの方向に移動させることで、パフォーマンスを調節できる。
図2の自己バランス型の構成では、バッククリアランスA1が最小のときに左ポンプ42のパフォーマンスが最大になるのに対し、バッククリアランスA2が最小のときに右ポンプ52のパフォーマンスが最大になる。
図2の実施形態で実施される受動制御では、バッククリアランスA1およびA2を調整することでパフォーマンスを調節する。パフォーマンスの調節に後ろ(内側)の縁を用いることの利点は、回転中のアセンブリーに作用している流体力によって、受動制御のための軸方向の移動を正しい方向にでき、能動的な軸方向制御系を用いる必要がなくなることにある。
【0040】
TAHとしての血液ポンプ10の動作時、ポンプの速度を正常な脈拍数で調節して拍動流と圧力を生じ、患者の正常な血行動態を模すことができる。たとえば、±30%の速度調節によって、高拍動の状態になることが見いだされた。さらに、全身の圧脈の特性に適合するよう速度波形を調整して、臨床的に望まれる振幅と収縮期/拡張期のタイミングをまねることが可能である。
【0041】
好都合なことに、血流は電流と速度に直接関連するため、電流波形を解析して、各制御サイクルでの血流障害を判断できる。これは、たとえば、左心房または右心房の虚脱を検出する一助となり、この場合、平均速度または速度脈動の大きさの段階的な減少を自動的に誘発してもよい。また、速度およびデューティサイクルに対するモーター電流応答に基づいて、患者の肺動脈圧および体循環圧ならびに血管抵抗を計算によって推定することが可能であるため、このシステムを患者の連続モニタリングに使用できる。
【0042】
本発明の第2の実施形態を
図6に示す。本発明の第2の実施形態は、
図1〜
図5に示す本発明の第1の実施形態と類似している。
図6を参照すると、血液ポンプ200は、
図1〜
図5と同様の二段遠心ポンプ構成を有する。このため、血液ポンプ200は、完全人工心臓(TAH)装置として用いるように構成してもよい。しかしながら、血液ポンプ200は、両心補助などの非TAHでの実施の形態あるいは、圧力バランス機能を有するデュアル式または二段式の流体ハンドリングポンプが望ましい実施の形態に適することもある。
【0043】
図6を参照すると、血液ポンプ200は、ステーターアセンブリー220と、ローターアセンブリー230と、左ポンプハウジング240と、右ポンプハウジング250と、を含む。組み立てられた状態で、ローターアセンブリー230は、軸212を中心に回転できるようステーターアセンブリー220によって支持されている。ポンプハウジング240および250は、ローターアセンブリー230を包むようステーターアセンブリー220に固定されている。ローターアセンブリー230は、モーターローター232と、第1のインペラーすなわち左インペラー234と、第2のインペラーまたは右インペラー236と、を含む。
【0044】
モーターローター232は、環状の永久モーター磁石262が装着されたコア260を含む。低密度で透磁性の材料などの充填材264を使用して、磁石262をモーターローター232上に支持しやすくしてもよい。左インペラー234および右インペラー236は、接着剤または機械的な留め具などの既知の手段によってコア260に固定されている。あるいは、インペラー234および236は、コア260と同一材料の単一部品として形成(たとえば、成形)されてもよい。
【0045】
ステーターアセンブリー220は、モーターステーター224を支持するステーターハウジング222を含む。モーターステーター224は、
図6にそれぞれ概略的に226および228で示すステーターコアおよびモーター巻線を含む。モーター巻線228は、制御ケーブル272の制御線270に電気的に接続されている。この制御線270は、導管274を介してステーターハウジング222に入り、ポッティング材276によって封止されている。
【0046】
血液ポンプ200は、組み立てられると、第1すなわち左の遠心ポンプ段またはポンプ242を含む。左ポンプ242は、左インペラー234と、内部にこの左インペラーが配置された左ポンプ室244とを含む。左ポンプ室244は、少なくとも部分的に、左ポンプハウジング240およびステーターアセンブリー220によって画定されている。また、左ポンプ242は、図示の実施形態では、左ポンプハウジング240と一体の部分として形成された左ポンプインレット246および左ポンプアウトレット248も含む。左ポンプハウジング240は、インレット246と流体連通した左ポンプ室244のインレット部292を画定する一助となるインレット面290を含む。また、左ポンプハウジング240は、アウトレット248と流体連通した左ポンプ室244のボリュート部296を画定する一助となるボリュート面294も含む。
【0047】
血液ポンプ200は、組み立てられると、第2すなわち右の遠心ポンプ段またはポンプ252も含む。右ポンプ252は、右インペラー236と、内部にこの右インペラーが配置された右ポンプ室254とを含む。右ポンプ室254は、少なくとも部分的に、右ポンプハウジング250およびステーターアセンブリー220によって画定されている。また、右ポンプ252は、図示の実施形態では、右ポンプハウジング250と一体の部分として形成された右ポンプインレット256および右ポンプアウトレット258も含む。右ポンプハウジング250は、インレット256と流体連通した右ポンプ室254のインレット部302を画定する一助となるインレット面300を含む。また、右ポンプハウジング250は、アウトレット258と流体連通した右ポンプ室254のボリュート部306を画定する一助となるボリュート面304も含む。
【0048】
モーターローター232およびモーターステーター224は、左ポンプ242および右ポンプ252を駆動する血液ポンプ200のモーター280を画定する一助となる。モーター280は、ポンプ242および252を駆動し、所望の性能特性を実現するのに適したどのようなタイプの電気モーターであってもよい。たとえば、図示の実施形態では、モーター280は、多相のブラシレスDCモーター構成を有するものであってもよい。モーターコントローラー282は、ケーブル272を介してモーター280の相巻線228を励磁して、モーターの速度や電流などモーター部の所望の性能を達成するよう動作する。たとえば、モーターコントローラー282は、所望のモーター/ポンプ性能を達成するために、パルス幅変調電圧をモーター相に印加する。
【0049】
血液ポンプ200の動作時、ローターアセンブリー230は、軸212を中心に、ステーターアセンブリー220に対して回転する。ローターアセンブリー230は、駆出される流体すなわち血液によって形成される流体動力学軸受または流体軸受に支持されているか、当該軸受上に保持されている。あるいは、血液ポンプ200は、ローターアセンブリー230の回転を容易にするための他のタイプの軸受機能、例えば機械軸受、あるいは、低摩擦材料で形成されるか低摩擦材料によって覆われた軸受面を含んでもよい。さらに別の例として、ローターアセンブリー230は、磁気的に浮上されたものであってもよい。
【0050】
血液ポンプ200の作製に用いられる材料は、血液のポンプ駆出の実装の助けになる材料で形成されてもよい。たとえば、血液ポンプ200のうち、インペラー234および236やポンプハウジング240および250などの使用時に血流と接する部分は、ステンレス鋼、チタン、セラミック、ポリマー材料、複合材料またはこれらの材料の組み合わせなどの生体適合性材料で形成、被覆、または埋包されていてもよい。左インペラー234とポンプハウジング240または右インペラー236とポンプハウジング250など、使用時に互いに接することのある血液ポンプ200の表面または一部も、フルオロカーボンポリマーコーティング、ダイヤモンド様カーボンコーティング、セラミック、チタン、ダイヤモンド被覆チタンなどの低摩擦材料で形成または被覆されてもよい。
【0051】
図6では、完全人工心臓(TAH)での実施の形態における血液ポンプ200を示すのに、矢印が用いられており、このポンプが患者の心臓(図示せず)の機能を担っている。この構成では、左ポンプインレット246が左心房に接続され、左ポンプアウトレット248が大動脈に接続され、右ポンプインレット256が右心房に接続され、右ポンプアウトレット258が肺動脈に接続されている。動作時、左ポンプ242は、酸素を豊富に含む血液を左心房から大動脈に運び、右ポンプ252は、酸素の乏しい血液を右心房から肺動脈に運ぶ。
【0052】
本発明によれば、血液ポンプ200は、左(体)ポンプ242と右(肺)ポンプ252の幾何学形状または構成を調節することによって、体循環および肺動脈の血圧と血流速をバランスさせる。血液ポンプ200は、ステーターアセンブリー220に対するローターアセンブリー230の軸方向への移動を可能にするクリアランスを設けて構成されている。
図6では、ローターアセンブリー230は、この軸方向のクリアランスのほぼ中点に、左インペラー234と左ポンプハウジング240との間の軸方向のクリアランス(一般的に「B1」で示す)と、右インペラー236と右ポンプハウジング250との間の軸方向のクリアランス(一般的に「B2」で示す)とをとって配置されている。血液ポンプ200の動作時、ローターアセンブリー230は、ケーブル272を介してコントローラー282に接続された電気ソレノイドなどのアクチュエーター350の起電力がゆえ、ステーターアセンブリー220に対して軸方向に移動または往復可能である。ローターアセンブリー230は、左インペラー234が左ポンプハウジング240と隣接または係合して配置される左位置と、右インペラー236が右ポンプハウジング250と隣接して配置される右位置との間で、軸方向に移動可能である。
【0053】
ローターアセンブリー230が左位置と右位置との間で軸方向に移動すると、左ポンプ242および右ポンプ252の構成または幾何学形状が変化する。左インペラー234の軸方向位置の変化に伴い、左インペラーと左ポンプハウジング240との間のクリアランスB1が変化し、これによって左ポンプ室244の容積および左ポンプ242の構成または幾何学形状が変化する。同様に、右インペラー236の軸方向位置の変化に伴い、右インペラーと右ポンプハウジング250との間のクリアランスB2が変化して、これによって右ポンプ室254の容積および右ポンプ252の構成または幾何学形状が変化する。
【0054】
クリアランスB1およびB2が増加するにつれて、第1のポンプ242および第2のポンプ252の流体出力が低下する。よって、特定のポンプ速度についてみると、インペラー234および236がそれぞれのポンプハウジング240および250の方に移動する(すなわち、それぞれのクリアランスB1およびB2が小さくなる)につれて、それに応じてポンプ242および252の圧力と血流が増大する。逆に、インペラー234および236がそれぞれのポンプハウジング240および250から離れる方向に移動する(すなわち、それぞれのクリアランスB1およびB2が大きくなる)につれて、それに応じてポンプ242および252の圧力と血流が小さくなる。
【0055】
よって、本発明の単一モーター式二段構成の血液ポンプ200では、左ポンプ段242での圧力と血流の増加を生むローターアセンブリー230の軸方向への移動が、右ポンプ段252での圧力と血流の減少も生むことは、理解できよう。同様に、右ポンプ段252で圧力と血流の増加を生むローターアセンブリー230の軸方向への移動が、左ポンプ段242での圧力と血流の減少も生むことになる。このことから、血液ポンプ200がどのような速度にあっても、ステーターアセンブリー220に対するローターアセンブリー230の軸方向位置が適切な位置に調節されると、左ポンプ段242および右ポンプ段252の圧力と血流をバランスさせることができるということになる。
【0056】
この原理に基づき、血液ポンプ200を使用して、ローターアセンブリー230の軸方向位置を調節することで、体循環および肺動脈の血圧ならびに血流の特性を制御可能である。本発明の第2の実施形態によれば、血液ポンプ200は、ローターアセンブリー230の軸方向位置、よって、左ポンプ242および右ポンプ252の幾何学形状または構成の能動的な制御用に構成されている。
【0057】
システムの抵抗が一定のとき、出力流とポンプ速度とは直線関係にあることが見いだされている。また、特定のポンプ速度で、左ポンプ242および右ポンプ252でのバランスのとれた血流に対応する、ローターアセンブリー230の軸方向位置を調節することで得られる電力レベルがあることが見いだされている。このため、コントローラー282によって実行される制御アルゴリズムでポンプ速度を調節し、公称体血流を与える一方で、ローターアセンブリー230の軸方向位置を調節することで、体血流と肺血流のバランスが取れる。本発明の第2の実施形態によれば、ステーターアセンブリー220に対するローターアセンブリー230の軸方向の調節は、ケーブル272を介してコントローラー282に接続されたソレノイドなどの電気機械アクチュエーター350を用いることで達成される。ソレノイド350は、第1の位置すなわち左位置と第2の位置すなわち右位置の2つの位置のうち一方に作動可能である。左位置では、ソレノイド350は、ローターアセンブリー230の軸方向位置を第1の位置すなわち左位置までシフトさせる。この位置では、左インペラー234が左ポンプハウジング240のインレット面290と隣接するかまたはその付近に配置されて、上述したように左ポンプ段242の流体出力を効果的に増すとともに右ポンプ段252の流体出力を減少させる。右位置では、ソレノイド350は、ローターアセンブリー230の軸方向位置を第2の位置すなわち右位置までシフトさせる。この位置では、右インペラー236が右ポンプハウジング250のインレット面300と隣接するかまたはその付近に配置されて、上述したように右ポンプ段252の流体出力を効果的に増すとともに左ポンプ段252の流体出力を減少させる。
【0058】
ソレノイド350は、ローターアセンブリー230をさまざまな方法で左右の位置に配置するよう構成できる。たとえば、ソレノイド350がラッチングソレノイドであってもよい。この構成では、ソレノイド350は、ステーターアセンブリー220に固定された2つの別々のコイル352(一方が左位置の選択用、他方が右位置の選択用)と、ローターアセンブリー230に固定された1つ以上の磁石などの電機子354と、を含んでもよい。このラッチング構成では、ソレノイド350は、ソレノイドに電力を定常印加することなくローターアセンブリー230を選択された位置に維持する磁気ラッチ機構を含む。動作時、コイル352は、十分な大きさと幅の短い電流パルスによって通電され、所望の左/右位置まで電機子354を移動させてローターアセンブリー230を移動させる。この時点で、ラッチ機構が作動され、ローター230を所望の位置に維持する。反対のコイルが通電されると、電機子354のコイル352に引っ張られ、ラッチ機構はローターアセンブリー230を開放して逆の位置まで移動する。その後、この機構は、コイル352の通電が解除されると磁気的にラッチされてローターアセンブリー230の軸方向位置を維持する。
【0059】
別の構成では、ソレノイド350は、パルス−左/パルス−右動作用に構成されたラチェットまたはトグルタイプのラッチングソレノイドであってもよい。この構成では、ソレノイド350は、コイルが通電されると、左位置および右位置でローターアセンブリーと交互にかみあう単一のコイル・ラッチ機構を含んでもよい。よって、動作時、ローターアセンブリーが右位置にある場合、次のエネルギーパルスがローターアセンブリーを左位置に配置することになる。そして、次のエネルギーパルスがローターアセンブリーを右位置に配置するといった具合である。
【0060】
さらに別の構成では、ソレノイド350は、非ラッチ式の連続電流ソレノイドであってもよい。この構成では、ソレノイドは、左位置および右位置のうちの一方にばね付勢された電機子を移動させるための単一のコイルを含んでもよい。コイルの通電が解除されると、ばねが、左右の位置の一方に電機子を維持し、よって、ローターを維持する。コイルが通電されると、電機子およびローターは、ばねの付勢力に抗して逆の位置に移動する。電機子およびローターは、コイルが通電解除されるまで、この位置で維持され、その時点で、ばねが電機子およびローターを移動させてもとの位置に戻す。
【0061】
血液ポンプ200の動作時、モーターの速度を正常な脈拍数で調節して拍動流と圧力を生じることができる。バランスの取れた体循環血流と肺血流ならびに動脈圧のバランスが、左ポンプ242および右ポンプ252の水力性能を調整するためのソレノイド350を介したローターアセンブリー230の軸方向位置の能動的な調節によって達成される。これらのバランスの取れた血流と圧力は、左位置と右位置で制御サイクルを分割することで達成される(たとえば、10秒間)。左右の血流は、ローターアセンブリー230が左右の軸方向位置に切り替わる際の速度、電力消費、電力消費量の変化から推定されることになる。
【0062】
動作時、ローターアセンブリー230の軸方向位置は、ポンプ200の制御サイクル(たとえば、10秒間)の間に左位置と右位置との間で前後に切り替わる。ローターアセンブリー230の軸方向位置が切り替わると、上述したように、左ポンプ242および右ポンプ252の幾何学形状および水力性能が変化する。これによって、左ポンプ242および右ポンプ252のアウトレットでの血流と圧力において、対応する正味の変更または調節が生まれて、ポンプの片側でアウトレットでの血流と圧力が大きくなり、ポンプの反対側でアウトレットでの血流と圧力が小さくなる。このように、血液ポンプ200およびコントローラー282は、左ポンプ242および右ポンプ252の水力性能の段階的な変化によって、肺動脈血流および体血流のみならず動脈圧もバランスを取るよう構成されている。
【0063】
図6の血液ポンプ200の能動的な制御の実施形態では、パフォーマンスの調節に前側のベーンクリアランスを用いている。これには、2つの潜在的な利点がある。まず、より複雑にすることなく、右/左のパフォーマンスのずれを外から制御できる。第2に、軸方向のトータルのクリアランスが少なく、より良いポンプ効率が可能になる。また、ローター磁石262は、ステーターコア226より短く、アセンブリー230が制御された量で軸方向に自由に移動できるようになっている。
【0064】
血液ポンプ200の動作時、左右の動脈圧が数mmHg以内まで平衡する。血流が平衡に近付く際、ポンプ200の電流引き込みのトレンドが、デューティサイクルを微調整するための調節の方向を示す。また、ポンプの速度を正常な脈拍数で調節して拍動流と圧力を生じ、安定した患者の血行動態を得ることができる。たとえば、±30%の速度調節によって、高拍動数の状態になることが見いだされた。さらに、全身の圧脈の特性に適合するよう速度波形を調整して、臨床的に望まれる振幅と収縮期/拡張期のタイミングをまねることが可能である。
【0065】
好都合なことに、血流は電流と速度にほぼ関連するため、電流波形を解析して、各制御サイクルでの血流障害を判断できる。これは、たとえば、左心房または右心房の虚脱を検出する一助となり、この場合、平均速度または速度脈動の大きさの段階的な減少が自動的に誘発されるようにしてもよい。また、速度およびデューティサイクルに基づいて、患者の肺動脈圧および体循環圧ならびに血管抵抗を計算によって推定することが可能であるため、このシステムを患者の連続モニタリングに使用できる。
【0066】
本発明の第3の実施形態による血液ポンプ400を
図7に示す。
図7の血液ポンプ400は、
図7の実施形態においては、動作時にポンプの幾何学形状を変更するのに軸方向には動かないローターアセンブリー410を含む点を除けば、
図6の実施形態と類似の構成を有する。この構成では、ローター磁石420は、ローターアセンブリー410の軸方向位置を磁気的に制限するステーターコア422と同一の長さであるか、これよりも長い。
【0067】
図7の血液ポンプ400は特に、右心補助人工心臓(RVAD)機能と左心補助人工心臓(LVAD)機能を単一のポンプで実現した両心補助人工心臓(BiVAD)などの補助人工心臓(VAD)として用いるのに十分に適したものとなり得る。RVADを用いると、肺動脈血流全体がVADと患者自身の心室とに分配されるため、厳密な右/左ポンプ制御が完全人工心臓の場合ほどは重要ではない。性能特性をポンプ要素の設計に反映させることができ、これによってBiVAD系を一定の度合いで完全に受動的に調節可能になることが見いだされている。この実施形態では、左ポンプ442(LVAD)および右ポンプ452(RVAD)の構成および幾何学形状を、
図8に示すものに類似の圧力対血流特性を持つよう設計してもよい。
図8に示すように、左ポンプ442では、圧力が上昇するが、この圧力は血流増加とともに急激に低下し、左の血流を主に速度の関数とする。右ポンプ452では、速度の関数であってかつ血流にはあまり依存しない特徴的な圧力の上昇が起こる。このように、左ポンプ442が体血流の血流調節を担うのに対し、右ポンプ452は、右心室の負荷軽減を調節するための差圧の調節を担う。
【0068】
本発明の第4の実施形態による血液ポンプ500を
図9〜
図12に示す。
図9〜
図12の血液ポンプ500は、
図1〜
図5および
図7の実施形態と同様の二段またはデュアル式の遠心ポンプ構成を有する。このため、血液ポンプ500は、完全人工心臓(TAH)装置として用いるように構成できる。しかしながら、血液ポンプ500は、両心補助などの非TAHでの実施の形態あるいは、圧力バランス機能を有するデュアル式または二段式の流体ハンドリングポンプが望ましい実施の形態に適することもある。
【0069】
図9〜
図11を参照すると、血液ポンプ500は、ステーターアセンブリー520と、ローターアセンブリー530と、左ポンプハウジング540と、右ポンプハウジング550と、を含む。血液ポンプ500が組み立てられた状態で、ローターアセンブリー530は、軸512を中心に回転できるようステーターアセンブリー520に支持されている。ポンプハウジング540および550は、ローターアセンブリー530を包むようステーターアセンブリー520に固定されている。ローターアセンブリー530は、モーターローター532と、第1のインペラーすなわち左インペラー534と、第2のインペラーまたは右インペラー536と、を含む。
【0070】
モーターローター532は、環状の永久磁石562が装着されたシェルまたはケーシング564に囲まれているか、そうでなければ収容されているコア560(
図12)を含む。コア560は低密度で透磁性の材料で構成されていてもよく、これを使用して、磁石562をモーターローター532上に支持しやすくすることで、中立浮上型の回転アセンブリーとポンプアセンブリーの姿勢に影響されない状態を可能にしてもよい。左インペラー534および右インペラー536は、接着剤または機械的な留め具などの既知の手段によってコア560に固定されていてもよいし、あるいは、
図9〜
図11に示すように、シェル564と同一材料の単一部品として形成(たとえば、成形)されていてもよい。
【0071】
ステーターアセンブリー520は、モーターステーター524を支持するステーターハウジング522を含む。モーターステーター524は、
図12にそれぞれ概略的に526および528で示すステーターコアおよびモーター巻線を含む。モーター巻線528は、制御ケーブル572の制御線570に電気的に接続されている。この制御線570は、導管574および歪み緩和材料576を介してステーターハウジング522に入っている。
【0072】
血液ポンプ500は、組み立てられると、第1すなわち左の遠心ポンプ段またはポンプ542を含む。左ポンプ542は、左インペラー534と、内部にこの左インペラーが配置された左ポンプ室544とを含む。左ポンプ室544は、少なくとも部分的に、左ポンプハウジング540およびステーターアセンブリー520によって画定されている。また、左ポンプ542は、図示の実施形態では、左ポンプハウジング540と一体の部分として形成された左ポンプインレット546および左ポンプアウトレット548も含む。左ポンプハウジング540は、インレット546と流体連通した左ポンプ室544のインレット部592を画定する一助となるインレット面590を含む。また、左ポンプハウジング540は、アウトレット548と流体連通した左ポンプ室544のボリュート部596を画定する一助となるボリュート面594も含む。
【0073】
血液ポンプ500は、組み立てられると、第2すなわち右の遠心ポンプ段またはポンプ552も含む。右ポンプ552は、右インペラー536と、内部にこの右インペラーが配置された右ポンプ室554とを含む。右ポンプ室554は、少なくとも部分的に、右ポンプハウジング550およびステーターアセンブリー520によって画定されている。また、右ポンプ552は、図示の実施形態では、右ポンプハウジング550と一体の部分として形成された右ポンプインレット556および右ポンプアウトレット558も含む。右ポンプハウジング550は、インレット556と流体連通した右ポンプ室554のインレット部602を画定する一助となるインレット面600を含む。また、右ポンプハウジング550は、アウトレット558と流体連通した右ポンプ室554のボリュート部606を画定する一助となるボリュート面604も含む。右ポンプハウジング550は、ボリュート部606に隣接したチャンバー608をさらに含み、ローターアセンブリー530が
図12で見た軸方向に右に移動すると、このチャンバー608の中に、右インペラー536が入る。右インペラー536は、チャンバー608に入る際に、ボリュート部606を残す。
【0074】
モーターローター532およびモーターステーター524は、左ポンプ542および右ポンプ552を駆動する血液ポンプ500のモーター580を画定する一助となる。モーター580は、ポンプ542および552を駆動し、所望の性能特性を実現するのに適したどのようなタイプの電気モーターであってもよい。たとえば、図示の実施形態では、モーター580は、単相または多相のブラシレス、センサーレスDCモーター構成を有するものであってもよい。モーターコントローラー(図示せず)は、ケーブル572を介してモーター580の相巻線528を励磁して、モーターの速度や電流などモーター部の所望の性能を達成するよう動作する。たとえば、モーターコントローラーは、所望のモーター/ポンプ性能を達成するために、パルス幅変調電圧をモーター相に印加してもよい。
【0075】
図11を参照すると、第1のインペラー534は、バックプレート610と、ローター530から半径方向に延在する複数のベーン612と、を含む。ベーン612は、第1のベーンすなわちプライマリベーン614と、第2のベーンすなわちスプリッタベーン616とを含み、スプリッタベーンは、プライマリベーンより短い。
図9〜
図12に示す実施形態では、プライマリベーン614の対の間に配置された2つのスプリッタベーン616がある。ベーン612は、低流入角のインレットと半径方向の吐出口を有して構成されている。
【0076】
第2のインペラー536は、バックプレート620と、ローター530の端面に沿って半径方向に延在する複数のベーン622とを含む。ベーン622は、第1のベーンすなわちプライマリベーン624と、第2のベーンすなわちスプリッタベーン626とを含み、第2のベーンは、第1のベーンより短い。
図9〜
図12に示す実施形態では、プライマリベーン624およびスプリッタベーン626は、ローター530のまわりに交互に配置されている。ベーン622は、低流入角のインレットと半径方向の吐出口を有して構成されている。
【0077】
第1のインペラー534のベーン612は、第2のインペラー536の対応するベーン622よりも長い。
図9〜
図12の実施形態における第1のインペラー534および第2のインペラー536の構成は、一例としてのインペラー構成を示している。インペラー534および536が別の構成を取り得ることは、当業者であれば理解できよう。
【0078】
バックプレート610および620は、左ポンプインレット546および右ポンプインレット556とそれぞれ軸方向に整列配置されている。このため、バックプレート610および620に作用する流体の圧力は、主にインレット圧であり、よって、主に軸方向の、すなわち軸512と平行な力をローターアセンブリー530加える。血液ポンプ500によって生じるアウトレット圧は、主に、ベーン612および622の端部で生成される。第1のインペラー534のベーン612は、バックプレート610の半径方向に外径を越えて延在する。
【0079】
血液ポンプ500の動作時、ローターアセンブリー530は、軸512を中心に、ステーターアセンブリー520に対して回転する。ローターアセンブリー530は、駆出される流体すなわち血液によって形成される流体動力学軸受または流体軸受に支持されるか、当該軸受上に保持されている。あるいは、血液ポンプ500は、ローターアセンブリー530の回転を容易にするための他のタイプの軸受機能、例えば機械軸受や、低摩擦材料で形成されるか低摩擦材料によって覆われた軸受面を含んでもよい。さらに別の例として、ローターアセンブリー530は、磁気的に浮上されたものであってもよい。
【0080】
血液ポンプ500の作製に用いられる材料は、血液のポンプ駆出の実装の助けになる材料で形成されてもよい。たとえば、血液ポンプ500のうち、インペラー534および536やポンプハウジング540および550などの使用時に血流と接する部分は、ステンレス鋼、チタン、セラミック、ポリマー材料、複合材料またはこれらの材料の組み合わせなどの生体適合性材料で形成、被覆、埋包されていてもよい。左インペラー534とポンプハウジング540または右インペラー536とポンプハウジング550またはローターケーシング564など、使用時に互いに接することのある血液ポンプ500の表面または一部も、フルオロカーボンポリマーコーティング、ダイヤモンド様カーボンコーティング、セラミック、チタン、ダイヤモンド被覆チタンなどの低摩擦材料で形成または被覆されてもよい。
【0081】
TAHのシナリオでは、肺・体動脈の血流および動脈圧をバランスさせることが重要であるのは、当業者であれば理解できよう。たとえば、右ポンプ552が左ポンプ542よりも高い流速で血液を運ぶと、血液が肺に溜まることがあり、鬱血性心不全につながる可能性がある。別の例として、左ポンプ542が右ポンプ552よりも高い流速で血液を運ぶと、血液が肝臓に溜まることがあり、肝不全につながる可能性がある。よって、血液ポンプ500が目指すのは、肺・体動脈の血流および動脈圧をバランスさせることである。本発明によれば、血液ポンプ500は、左(体)ポンプ542と右(肺)ポンプ552の幾何学形状または構成を調節することによって、体循環圧および肺動脈圧ならびに動脈血流速をバランスさせる。
【0082】
本発明によれば、血液ポンプ500は、ステーターアセンブリー520に対するローターアセンブリー530の軸方向への移動を可能にするクリアランスを設けて構成されている。
図12を参照すると、ローターアセンブリー530は、この軸方向のクリアランスのほぼ中点に配置されている。血液ポンプ500は、左インペラー534と左ポンプハウジング540との間に軸方向のバッククリアランス(一般的に「D1」で示す)を有する。
図12に示すように、D1は、左インペラー534のベーン612と左ポンプ室544の背面578との間のクリアランスであり、これは少なくとも部分的に、ステーターアセンブリー520、左ポンプハウジング540またはステーターアセンブリーと左ポンプハウジングの両方によって画定されていてもよい。ポンプ500の動作時、ローターアセンブリー530がステーターアセンブリー520に対して軸方向に移動すると、左インペラー534は、左ポンプ室544内で軸方向に移動する。
【0083】
血液ポンプ500は、右インペラー536と右ポンプハウジング550との間に軸方向のフロントクリアランス(一般的に「D2」で示す)を有する。フロントクリアランスD2は、右インペラー536のバックプレート620と、ボリュート面604がチャンバー608を画定している表面と交差する、右ポンプハウジング550の環状の隆起部630との間に画定されている。クリアランスD2は、第2のインペラー536のベーン622が、チャンバー608に入ったりボリュートチャンバー606から出たりする度合いを示す。また、クリアランスD2は、バックプレート620と隆起部630との間に画定されている環状の開口または孔632の大きさも示す。孔632は、第2のインペラー536がボリュートチャンバー606を介して流体を駆出する領域を画定している。D2が減少する際、第2のインペラー536のベーン622がボリュートチャンバー606から出てチャンバー608に入る方向に移動またはさらに延在するにつれて、孔632の領域も小さくなる。逆に、D2が増加する際、第2のインペラー536のベーン622がチャンバー608から出てボリュートチャンバー606に入る方向に移動またはさらに延在するにつれて、孔632の領域が大きくなる。
【0084】
図12に示す構成では、D1が減少すると左ポンプ542のパフォーマンスが改善され、D2が増加すると右ポンプ552のパフォーマンスが改善される。血液ポンプ500の動作時、ローターアセンブリー530は、左ポンプ542および右ポンプ552によって生じる動圧駆出力がゆえ、ステーターアセンブリー520に対して軸方向に移動または往復可能である。ローターアセンブリー530は、D1およびD2が最大である左位置とD1およびD2が最小である右位置との間で軸方向に移動可能である。
【0085】
ローターアセンブリー530が左位置と右位置との間で軸方向に移動すると、左ポンプ542および右ポンプ552の構成または幾何学形状が変化する。左インペラー534の軸方向位置の変化に伴い、左インペラーと左ポンプハウジング540の背面578との間のクリアランスD1が変化し、これによって左ポンプ542および左ポンプ室544の構成と幾何学形状が変化する。右インペラー536の軸方向位置の変化に伴い、右インペラーと右ポンプハウジング550との間のクリアランスD2が変化して、これによって、孔632の大きさ、右ポンプ室554の構成と幾何学形状ならびに右ポンプ552の構成または幾何学形状が変化する。
【0086】
D1クリアランスが増加し、D2クリアランスが減少するにつれて、第1のポンプ542および第2のポンプ552が流体出力を減少させる。よって、特定のポンプ速度についてみると、インペラー534および536がステーターアセンブリー522の方に移動する(すなわち、D1が減少してD2が増加する)につれて、ポンプ542および552は流体出力および圧力を増し、それに応じて血流も増す。逆に、インペラー534および536がステーターアセンブリー522から離れる方向に移動する(すなわち、D1が増加してD2が減少する)、ポンプ542および552は流体出力および圧力を減少させ、それに応じて血流も減少させる。
【0087】
よって、本発明の単一モーター式二段構成の血液ポンプ500では、左ポンプ段542での圧力と血流の増加を生むローターアセンブリー530の軸方向への移動が、右ポンプ段552での圧力と血流の減少も生むことは、理解できよう。同様に、右ポンプ段552で圧力と血流の増加を生むローターアセンブリー530の軸方向への移動が、左ポンプ段542での圧力と血流の減少も生むことになる。このことから、血液ポンプ500がどのような速度にあっても、ステーターアセンブリー520に対するローターアセンブリー530の軸方向位置が適切な位置に調節されると、左ポンプ段542および右ポンプ段552の圧力と血流をバランスさせることができるということになる。
【0088】
この原理に基づき、血液ポンプ500を使用して、ローターアセンブリー530の軸方向位置を調節することで、体循環および肺動脈の血圧ならびに血流の特性を制御可能である。
図9〜
図12に示す実施形態では、ローターアセンブリー530の軸方向位置ならびに、左ポンプ542および右ポンプ552の幾何学形状または構成を、受動的に制御可能である。
【0089】
血液ポンプ500の受動制御構成では、ローターアセンブリー530の軸方向位置は、動作時に左ポンプ542および右ポンプ552によって生じる流体力で受動的にまたは内在的に制御される。
【0090】
動作時、コントローラーによって実行される制御アルゴリズムがポンプ速度を調節し、公称体血流を与える。ローターアセンブリー530の軸方向位置を調節することで、体血流と肺血流のバランスが取れる。ローターアセンブリー530の軸方向の調節は、左インペラー34および右インペラー36の構成と流体圧がゆえに、内在的にまたは自動的になされる。
図13を参照すると、ポンプ500の速度制御は、速度、電力消費、平衡出力血流の間の特徴的な数学的関係に基づいている。
図13では、正味のワット数がモーターに供給される電力マイナス軸受の抗力/モーター効率に等しく、インペラーなしでコンソール電力マイナスモーターを動かすのに必要な電力として計算される。ここで、体血管抵抗(SVR)=500〜2000ダイン−秒/cm
5であり、肺血管抵抗(PVR)=100〜500ダイン−秒/cm
5である。また、
図13では、KRPMは、モーターのrpm/1000である。速度パルスに対する電流応答も、体血管抵抗の推定を可能にすることになり、これは速度に伴う電力消費の変化と相関し得る。
【0091】
インペラー534および536のバックプレート部610および620に作用する軸方向の力は、主に、ポンプインレット圧によって生じる力であるため、左インレット部592と右インレット部602との間の圧力差に応答して、ローターアセンブリー530の軸方向位置が調節される。ローターアセンブリー530の軸方向位置が調節されると、上述したように、左ポンプ542および右ポンプ552の幾何学形状および水力性能が変化する。これは、左ポンプ542および右ポンプ552のアウトレットでの血流と圧力における、対応する変化または調節をもたらし、2つのポンプ間の圧力および血流性能がトレードオフになる。このように、血液ポンプ500は、左ポンプ542および右ポンプ552の水力性能を段階的に変化させることで肺血流と体血流のみならず動脈圧もバランスさせる一助となるような、自己調整式のローターアセンブリー530を備えて構成される。
【0092】
高クリアランスで動作する場合、ポンプ用のベーンが軸方向のクリアランスの真ん中にある(前後のクリアランスが等しい)ときに、ポンプのパフォーマンスが最小になる。このため、インペラー534および536を軸に沿ったいずれかの方向に移動させることで、パフォーマンスを調節できる。バッククリアランスD1が最小のときに左ポンプ542のパフォーマンスが最大になるのに対し、フロントクリアランスD2が最大のときに右ポンプ552のパフォーマンスが最大になる。
図9〜
図12の実施形態で実施される受動制御では、クリアランスD1およびD2を調整することでパフォーマンスを調節する。パフォーマンスの調節に後ろ(内側)の縁を用いることの利点は、回転中のアセンブリーに作用している流体力によって、受動制御のための軸方向の移動を正しい方向に行わせることができ、能動的な軸方向制御系を用いる必要がなくなることにある。
【0093】
図9〜
図12の実施形態では、左ポンプ542は、急激な圧力上昇対血流特性を有し、回転しているアセンブリーが
図12で見た右方向に移動すると左ポンプ出力が増加するような形で、インペラーベーンクリアランスD1によってパフォーマンスを調節するよう構成されている。右ポンプ552は、インペラーベーンの吐出を制御する孔632を形成することでパフォーマンスを調節するよう構成されており、回転しているアセンブリーが右方向(
図12の場合)に移動するにつれて出力を減少させるとともに、回転しているアセンブリーが左に移動するにつれて出力を増加させる。
【0094】
好都合なことに、この構成は自己調節型である。変化している血管抵抗に応答して、回転しているローターアセンブリー530は、最低インレット圧の方向に移動し、左インレット546と右インレット556のインレット圧間のバランスを自動的に補正する。よって、たとえば、左心房壁の吸着がゆえにインレット閉塞が生じた場合、左インレット圧が降下し、回転しているアセンブリーが左すなわち低圧方向に移動する。これは左ポンプのパフォーマンス低下と同時に右ポンプのパフォーマンス向上につながり、それによって吸着状態が自動的に補正される。右心房壁の吸着が生じた場合にも、ポンプ500は、自己調整すべく同様にかつ対応して動作するであろう。
【0095】
本発明の第5の実施形態による血液ポンプ700を
図14〜
図16に示す。
図14〜
図16の血液ポンプ700は、
図9〜
図12の実施形態と同様の構成を有し、二段またはデュアル式の遠心ポンプ構成を有する。このため、血液ポンプ700は、完全人工心臓(TAH)装置として用いるように構成できる。しかしながら、血液ポンプ700は、非TAHでの実施の形態、例えば、両心補助、あるいは、圧力バランス機能を有するデュアル式または二段式の流体ハンドリングポンプが望ましい実施の形態に適することもある。
【0096】
図14〜
図16は、下記において詳細に説明する異なる位置における血液ポンプ700を示す。
図14を参照すると、血液ポンプ700は、ステーターアセンブリー720と、ローターアセンブリー730と、左ポンプハウジング740と、右ポンプハウジング750と、を含む。血液ポンプ700が組み立てられた状態で、ローターアセンブリー730は、軸712を中心に回転できるようステーターアセンブリー720に支持されている。ポンプハウジング740および750は、ローターアセンブリー730を包むようステーターアセンブリー720に固定されている。ローターアセンブリー730は、モーターローター732と、第1のインペラーすなわち左インペラー734と、第2のインペラーまたは右インペラー736と、を含む。
【0097】
モーターローター732は、環状の永久磁石762が装着されたシェルまたはケーシング764に囲まれているか収容されている、コア760を含む。コア760は、低密度で透磁性の材料で構成されてもよく、ローターアセンブリー730を、ポンプ700の姿勢に影響されない中立浮上型の回転アセンブリーにする一助となる中空のキャビティ766を含んでもよい。コア760は、たとえば鋼で構成された磁石コア761を支持し、これがひいてはモーターローター732による回転用の磁石762を支持する。左インペラー734および右インペラー736は、接着剤または機械的な留め具などの既知の手段によってコア760に固定されていてもよいし、あるいは、成形によってシェル764と同一材料の単一部品として形成されていてもよい。
図14〜
図16に示す実施形態では、インペラー734および736は、ねじ接続768によってコア760に固定されている。
【0098】
ステーターアセンブリー720は、モーターステーター724を支持するステーターハウジング722を含む。モーターステーター724は、
図14にそれぞれ概略的に726および728で示すステーターコアおよびモーター巻線を含む。モーター巻線728は、制御ケーブル(図示せず)に電気的に接続されている。ローター磁石762は、モーター巻線728よりも短く、ローターアセンブリー730が制御された量で軸方向に自由に移動できるようになっている。
【0099】
血液ポンプ700は、組み立てられると、第1すなわち左の遠心ポンプ段またはポンプ742を含む。左ポンプ742は、左インペラー734と、内部にこの左インペラーが配置された左ポンプ室744とを含む。左ポンプ室744は、少なくとも部分的に、左ポンプハウジング740およびステーターアセンブリー720によって画定されている。また、左ポンプ742は、図示の実施形態では、左ポンプハウジング740と一体の部分として形成された左ポンプインレット746および左ポンプアウトレット748も含む。左ポンプハウジング740は、インレット746と流体連通した左ポンプ室744のインレット部792を画定する一助となるインレット面790を含む。また、左ポンプハウジング740は、アウトレット748と流体連通した左ポンプ室744のボリュート部796を画定する一助となるボリュート面794も含む。
【0100】
血液ポンプ700は、組み立てられると、第2すなわち右の遠心ポンプ段またはポンプ752も含む。右ポンプ752は、右インペラー736と、内部にこの右インペラーが配置された右ポンプ室754とを含む。右ポンプ室754は、少なくとも部分的に、右ポンプハウジング750およびステーターアセンブリー720によって画定されている。また、右ポンプ752は、図示の実施形態では、右ポンプハウジング750と一体の部分として形成された右ポンプインレット756および右ポンプアウトレット758も含む。右ポンプハウジング750は、インレット756と流体連通した右ポンプ室754のインレット部802を画定する一助となるインレット面800を含む。また、右ポンプハウジング750は、アウトレット758と流体連通した右ポンプ室754のボリュート部806を画定する一助となるボリュート面804も含む。右ポンプハウジング750は、ボリュート部806に隣接したチャンバー808をさらに含む。
【0101】
モーターローター732およびモーターステーター724は、左ポンプ742および右ポンプ752を駆動する血液ポンプ700のモーター780を画定する一助となる。モーター780は、ポンプ742および752を駆動し、所望の性能特性を実現するのに適したどのようなタイプの電気モーターであってもよい。たとえば、図示の実施形態では、モーター780は、単相または多相のブラシレス、センサーレスDCモーター構成を有するものであってもよい。モーターコントローラー(図示せず)は、モーター780の相巻線728を励磁して、モーターの速度や電流などモーター部の所望の性能を達成するよう動作する。たとえば、モーターコントローラーは、所望のモーター/ポンプ性能を達成するために、パルス幅変調電圧をモーター相に印加してもよい。
【0102】
第1のインペラー734は、バックプレート810と、ローター830から半径方向に延在する複数のベーン812と、を含む。ベーン812は、第1のベーンすなわちプライマリベーンと、第2のベーンすなわちスプリッタベーンとを含んでもよい。ベーン812は、低流入角のインレットと半径方向の吐出口を有して構成されていてもよい。第2のインペラー736は、バックプレート820と、ローター830の端面に沿って半径方向に延在する複数のベーン822とを含む。ベーン822は、たとえば、第1のベーンすなわちプライマリベーンと、第2のベーンすなわちスプリッタベーンとを含んでもよく、低流入角のインレットと半径方向の吐出口を有して構成されていてもよい。インペラー734および736が別の構成を取り得ることは、当業者であれば理解できよう。
【0103】
バックプレート810および820は、左右のポンプ室744および754のインレット部792および802とそれぞれ軸方向に整列配置されている。このため、バックプレート810および820に作用する流体の圧力は、主にインレット圧であり、よって、主に軸方向の、すなわち軸712と平行な力をローターアセンブリー730に加える。血液ポンプ700によって生じるアウトレット圧は、主に、ベーン812および822の端部で生成される。
【0104】
血液ポンプ700の動作時、ローターアセンブリー730は、軸712を中心に、ステーターアセンブリー720に対して回転する。ローターアセンブリー730は、駆出される流体すなわち血液によって形成される流体動力学軸受または流体軸受に支持されるか、当該軸受上に保持されている。あるいは、血液ポンプ700は、ローターアセンブリー730の回転を容易にするための他のタイプの軸受機能、例えば機械軸受や、低摩擦材料で形成されるか低摩擦材料によって覆われた軸受面を含んでもよい。さらに別の例として、ローターアセンブリー730は、磁気的に浮上されたものであってもよい。
【0105】
血液ポンプ700の作製に用いられる材料は、血液のポンプ駆出の実装の助けになる材料で形成されてもよい。たとえば、血液ポンプ700のうち、インペラー734および736やポンプハウジング740および750などの使用時に血流と接する部分は、ステンレス鋼、チタン、セラミック、ポリマー材料、複合材料またはこれらの材料の組み合わせなどの生体適合性材料で形成、被覆、または埋包されていてもよい。左インペラー734とポンプハウジング740または右インペラー736とポンプハウジング750またはローターケーシング764など、使用時に互いに接することのある血液ポンプ700の表面または一部も、フルオロカーボンポリマーコーティング、ダイヤモンド様カーボンコーティング、セラミック、チタン、ダイヤモンド被覆チタンなどの低摩擦材料で形成または被覆されてもよい。
【0106】
本発明によれば、血液ポンプ700は、ポンプの動作時にステーターアセンブリー720に対するローターアセンブリー730の軸方向への移動(
図14〜
図16に示すような左/右の移動)を可能にするクリアランスを設けて構成されている。
図14では、ローターアセンブリー730は、この軸方向のクリアランスのほぼ中点の中央位置にある。
図15は、この軸方向のクリアランスの左いっぱいの位置にあるローターアセンブリー730を示す。
図16は、この軸方向のクリアランスの右いっぱいの位置にあるローターアセンブリー730を示す。
【0107】
血液ポンプ700の軸方向のクリアランスは、左インペラー734と左ポンプハウジング740との間に軸方向のバッククリアランス(一般的に「E1」で示す)を生み出す。
図14に示すように、E1は、左インペラー734のベーン812と左ポンプ室744の背面778との間のクリアランスであり、これは、少なくとも部分的に、ステーターアセンブリー720、左ポンプハウジング740あるいは、ステーターアセンブリーと左ポンプハウジングの両方によって画定されてもよい。ポンプ700の動作時、ローターアセンブリー730がステーターアセンブリー720に対して軸方向に移動すると、左インペラー734は、左ポンプ室744内で軸方向に移動する。
図14〜
図16に示す実施形態では、左インペラー734は、ローターアセンブリー730の軸方向の移動範囲全体で左ポンプ室744のボリュート部796内に配置される。
【0108】
血液ポンプ700の軸方向のクリアランスは、右インペラー736と右ポンプハウジング750との間に軸方向のフロントクリアランス(一般的に「E2」で示す)を生み出す。フロントクリアランスE2は、右インペラー736のバックプレート820と、ボリュート面804がチャンバー808を画定している表面と交差する、右ポンプハウジング750の環状の隆起部830との間に画定されている。クリアランスE2は、第2のインペラー736のベーン822が、チャンバー808に入ったりボリュートチャンバー806から出たりする度合いを示す。また、クリアランスE2は、バックプレート820と隆起部830との間に画定されている環状の開口または孔832の大きさも示す。孔832は、第2のインペラー736がボリュートチャンバー806を介して流体を駆出する領域を画定している。E2が減少する際、第2のインペラー736のベーン822がボリュートチャンバー806から出てチャンバー808に入る方向に移動またはさらに延在するにつれて、孔832の領域も小さくなる。逆に、E2が増加する際、第2のインペラー736のベーン822がチャンバー808から出てボリュートチャンバー806に入る方向に移動またはさらに延在するにつれて、孔832の領域が大きくなる。
【0109】
ポンプ700の動作時、ローターアセンブリー730は、左ポンプおよび右ポンプによって生じる動圧駆出力がゆえ、ステーターアセンブリー720に対して軸方向に自由に移動または往復可能である。モーター巻線728は、ローター磁石762より長く、巻線の長さの範囲内にローター磁石が配置されている限り、ローター732を軸方向に引っ張ることはなく、よって、ローターの軸方向の往復に抗することもない。ローター732が軸方向に巻線728の長さを越えて移動しようとすると、ローターとポンプハウジング740および750との接触を防ぐために、そのような移動は磁気的に制限される。また、ローターアセンブリー730は、血液中で中立浮上しており、ポンプ700を使用時に位置または姿勢の変化に影響されないものとする一助となる。
【0110】
動圧駆出力がゆえに往復する際、ローターアセンブリー730は、E1およびE2が最大になる左いっぱいの位置(
図15)と、E1およびE2が最小になる右いっぱいの位置(
図16)との間で軸方向に移動可能である。ローターアセンブリー730が左位置と右位置との間で軸方向に移動すると、左ポンプ742および右ポンプ752の構成または幾何学形状も変化し得る。この軸方向の往復運動に応答して左ポンプ742および右ポンプ752の構成または幾何学形状が変化する度合いは、ポンピングチャンバー744および754の構成、インペラー734および736の構成、ローターアセンブリー730が軸方向に移動するときのこれらの部品の空間的な相対関係に依存する。
【0111】
左ポンプ742および右ポンプ752の幾何学形状または構成を調節すると、これに対応してポンプの水力性能特性が調節される。「水力性能」とは、流体力学とポンプ設計の分野の当業者に周知の業界用語をいうことを意味する。ある遠心ポンプの水力性能は、その特定のポンプでの、体積流量、差圧(インレット−アウトレットの昇圧)、そしてポンプ速度の間の関係によって定義される。すなわち、ポンプの水力性能の測定は、任意のポンプアーキテクチャに対して、特定のポンプ速度およびシステムの圧力で、ポンプが具体的な体積流速を生じることになる原理に基づいている。これは、水力性能を、遠心ポンプの定量化と比較に使用される標準的かつ基本的なベンチマークにする。
【0112】
TAHのシナリオでは、肺・体動脈の血流および動脈圧をバランスさせることが非常に重要であるのは、当業者であれば理解できよう。たとえば、右ポンプ752が左ポンプ742よりも高い流速で血液を運ぶと、血液が肺に溜まることがある。別の例として、左ポンプ742が右ポンプ752よりも高い流速で血液を運ぶと、血液が肝臓などの内臓器官に溜まり、肝不全につながることがある。よって、血液ポンプ700が目指すのは、肺・体動脈の血流および動脈圧をバランスさせることである。本発明によれば、血液ポンプ700は、左(体)ポンプ742と右(肺)ポンプ752の幾何学形状または構成を調節することによって、体循環圧および肺動脈圧ならびに動脈血流速をバランスさせる。
【0113】
上記に基づいて、血液ポンプ700は、左ポンプ742および右ポンプ752の水力性能特性を調節すべくローターアセンブリー730の軸方向位置を調節することで、体循環および肺動脈の血圧ならびに血流の特性を制御するよう構成されている。
図14〜
図16の実施形態では、ローターアセンブリー730の軸方向位置ならびに、左ポンプ742および右ポンプ752の幾何学形状または構成は、受動的に制御される。この血液ポンプ700の受動制御構成において、ローターアセンブリー730の軸方向位置は、動作時に左ポンプ742および右ポンプ752によって生じる流体力によって内在的にまたは自動的に制御される。
【0114】
人体では、正常な体血圧が正常な肺血圧の3倍を上回るという事実は、当業者であれば理解できよう。このため、完全人工心臓(TAH)の環境では、左(体)ポンプ742は、右(肺)ポンプ752が行う仕事量の3倍より多くの仕事量をこなす。よって、右ポンプ752のほうが左ポンプ742より実質的に少ない仕事量であるため、仕事率と効率の意味での利益のために、左ポンプ742のパフォーマンスを比較的一定のまま維持しつつ右ポンプ752の水力性能を調節すると望ましい場合があることは、当業者であれば理解できよう。本発明によれば、
図14〜
図16のポンプ700は、少なくとも実質的に、この目的を達成している。
【0115】
動作時、コントローラーによって実行される制御アルゴリズムがポンプ速度を調節し、公称体血流を与える。ローターアセンブリー730の軸方向位置を調節することで、体血流と肺血流のバランスが取れる。ローターアセンブリー730が
図14〜
図16で見た右に軸方向移動すると、右ポンプ752での圧力および血流が減少する。ローターアセンブリー730が
図14〜
図16で見た左に軸方向移動すると、右ポンプ752での圧力および血流が増加する。このことから、ポンプ700がどのような速度にあっても、ステーターアセンブリー720に対するローターアセンブリー730の軸方向位置が適切な位置に調節されると、左ポンプ742および右ポンプ752の圧力と血流をバランスさせることができるということになる。この原理に基づき、ポンプ700は、ローターアセンブリー730の軸方向位置を調節することで、相対的な体循環圧および肺動脈圧ならびに血流の特性を制御可能である。
【0116】
インペラー734および736のバックプレート部810および820に作用する軸方向の力は、主に、ポンプインレット圧によって生じる力であるため、左インレット部792と右インレット部802との間の圧力差に応答して、ローターアセンブリー730の軸方向位置が調節される。ローターアセンブリー730の軸方向位置が調節されると、上述したように、左ポンプ742および右ポンプ752の幾何学形状および水力性能が変化する。これは、インレット792および802での圧力がバランスするまで、右ポンプ752のアウトレットでの血流と圧力における、対応する変化または調節をもたらす。このように、血液ポンプ700は、右ポンプ752の水力性能を段階的に変化させることで肺血流と体血流のみならず動脈圧もバランスさせる一助となる自己調整式のローターアセンブリー730を備えて構成される。
【0117】
好都合なことに、この構成は自己調節型である。変化している血管抵抗に応答して、回転しているローターアセンブリー730は、最低インレット圧の方向に移動し、左ポンプ742および右ポンプ752の幾何学形状を自動的に調節する。これは、ポンプの相対的な水力性能特性を調節することになり、左右のインレット746および756間のインレット圧のアンバランスが補正される。アンバランスな動脈圧は、血流のバランスの悪さの結果であるため、圧力をバランスさせることは、血流をバランスさせることになる。よって、たとえば、左心房壁の吸着がゆえにインレット閉塞が生じた場合、左インレット圧が降下し、回転しているアセンブリーが左すなわち低圧方向に移動する。これは右ポンプのパフォーマンス向上につながり、それによって左心房が満たされて吸着状態が自動的に補正される。右心房壁の吸着が生じた場合にも、回転しているアセンブリーは右に移動して孔832を閉じ、これによって右ポンプ752のパフォーマンスが落ちて右の吸着状態が自動的に補正される。
【0118】
ローターアセンブリー730の軸方向の往復運動に応答して左ポンプ742および右ポンプ752の構成または幾何学形状が変化する度合いまたは方法は、それぞれのポンピングハウジング740および750ならびにインペラー734および736の個々の構成、これらの構造の空間的な関係に依存することは、当業者であれば理解できよう。したがって、ローターアセンブリー730の軸方向の往復運動に応答して左ポンプ742および右ポンプ752の水力性能特性が変化する度合いまたは方法も、これらの特性に依存する。さらに、左ポンプ742および右ポンプ752の構成、幾何学形状および水力性能が調節される度合いは、ポンプごとに個々に適合させることができる。たとえば、
図14〜
図16に示す本発明の実施形態では、左ポンプ742のハウジング740およびインペラー734は、ローターアセンブリー730の軸方向の往復運動に応答して、左ポンプの水力性能特性を最低限調節するよう構成されている。逆に、右ポンプ752のハウジング750およびインペラー736は、ローターアセンブリー730の軸方向の往復運動に応答して、右ポンプの水力性能特性を十分に調節するよう構成されている。
【0119】
左ポンプ742に関して、本発明によれば、左インペラー734は、動きの範囲全体にわたって、ボリュート部796内に配置される。ローターアセンブリー730が
図15の左いっぱいの位置から
図16の右いっぱいの位置まで軸方向に往復する際、左インペラー734と左ハウジングとの間にクリアランスが維持される。結果として、ローターアセンブリー730が2つの極限間を往復する際の左ポンプ742の幾何学形状および水力性能が比較的一定に維持される。
【0120】
右ポンプ752に関しては、ローターアセンブリー730が軸方向に往復すると、右インペラー736がボリュート部のチャンバー806とチャンバー808との間を移動する。右ポンプ752に入る血液は、チャンバー808を通過し、孔832を介してボリュート部806に入らなければならない。このインペラーの軸方向位置に応じて、クリアランスE2によって規定される孔832の大きさが決まる。このクリアランスE2が大きくなると、チャンバー808内に配置された部分に対して右インペラー736のボリュート部806に配置された部分が増加し、右ポンプ752の流体出力も増加する。このクリアランスE2が小さくなると、チャンバー808に配置された部分に対して右インペラー736のボリュート部806に配置された部分が減少し、右ポンプ752の流体出力も減少する。よって、ローターアセンブリー730が
図15の左いっぱいの位置と
図16の右いっぱいの位置の間を往復する際、右インペラー736は、完全にボリュート部806内に配置される位置から、完全にチャンバー808内に配置される位置まで進む。右インペラー736のチャンバー808内に配置される部分は、右ポンプ752の駆出作用への寄与が実質的に阻止されるため、右ポンプの構成または幾何学形状の変化は、実質的にローターアセンブリー730が軸方向に往復するときに変動する。右ポンプ752の水力性能が、実質的にはローターアセンブリー730が2つの極限間を往復する時に変動するのは、このためである。
【0121】
(たとえば、右の駆出が過剰または左の駆出が足りないがゆえに)左ポンプ742のインレット(心房の)圧が右ポンプ752のインレット(心房の)圧より高い場合、ローターアセンブリー730は、流体力によって右にシフトし、これによって右ポンプ孔832が閉じて右ポンプの水力性能が低下する。逆に、(たとえば、右の駆出が足りないか左の駆出が過剰であるがゆえに)左ポンプ742のインレット(心房の)圧が右ポンプ752のインレット(心房の)圧より低いと、ローターアセンブリー730は、流体力によって左にシフトし、これによって右ポンプ孔832が開いて右ポンプの水力性能が増す。このことから、血液ポンプ700がどのような速度にあっても、ステーターアセンブリー720に対するローターアセンブリー730の軸方向位置が適切な位置に決まると、左ポンプ段742および右ポンプ段752の圧力と血流をバランスさせることができるということになる。
【0122】
左ポンプ742および右ポンプ752が、変動していくインレット(心房の)圧力差、左ポンプ742および右ポンプ752の水力性能にどのように応答するかを、
図17に示す。
図17は、血液の駆出を模して比重約1.06の水とグリセリンの溶液を駆出する2700rpmという特定のポンプ速度について左ポンプ742および右ポンプ752の圧力対血流曲線をプロットしたチャートすなわちダイアグラムを示す。
図17は、インレット(心房)圧力差が−10から+10mmHgの範囲のポンプの血流の等しい左ポンプ742および右ポンプ752の水力性能を示す。
図17に示すように、左ポンプ742の水力性能は、両方の極限間で極めてわずかしか変動しない。しかしながら、右ポンプの水力性能は大きく変動するため、ポンプ700の水力性能調節の大部分を担う。
【0123】
図17を参照し、一例として、左ポンプ742のインレット圧が右ポンプ752のインレット圧より6mmHg高いシナリオを検討する。これは、たとえば、体循環系と肺循環系の一方または両方で流体流抵抗のバリエーションを生む生理的変化の結果であり得る。この状況で、左ポンプ742および右ポンプ752は、
図17でそれぞれの極限の間にある水力性能曲線上で動作している。軸方向のシフトでは左ポンプ742の水力性能に比較的小さな変化しか生じないため、右ポンプ752に圧力補償の大部分が認められる。このシナリオの右ポンプ752は、インレット圧不足(−6mmHg)で開始されるため、右ポンプが動作している曲線(図示せず)は、
図17に示されるよう下方向にシフトすることになろう。結果として、右ポンプの水力性能は低下し、結果として右ポンプでインレット圧の上昇を引き起こして、インレット圧力差をゼロに向かわせることで、動脈圧のアンバランスを補正することになろう。
【0124】
図17のチャートを
図18および
図19のチャートと比較すると、異なるポンプ幾何学形状が、いかにしてポンプの異なる水力性能特性につながるかがわかる。
図18は、
図12のポンプ500の水力性能特性を示す。
図18では、チャートすなわち図に、血液の駆出を模して比重約1.06の水とグリセリンの溶液を駆出する2100rpmという特定のポンプ速度で、左ポンプ542および右ポンプ552の圧力対血流曲線をプロットしている。
図18は、インレット(心房)圧力差が−10から+10mmHgの範囲のポンプの血流の等しい左ポンプ542および右ポンプ552の水力性能を示す。
【0125】
図18は、左ポンプ542および右ポンプ552の水力性能が、ともにこれらの両極端の間で変動し、よってともにポンプ500の水力性能の調節に寄与することを示している。
図18に示すように、左ポンプ542(3.5LPM、2100rpm)に閾値効果があるが、それは低血流でのみである。よって、極限の動作条件の場合、必要に応じて左ポンプのパフォーマンスが高くなり、特定の速度での血流を最小に維持することになる。
【0126】
図19は、
図2のポンプ10の水力性能特性を示す。
図19では、チャートすなわち図に、血液の駆出を模して比重約1.06の水とグリセリンの溶液を駆出する1500rpmという特定のポンプ速度で、左ポンプ42および右ポンプ52の圧力対血流曲線をプロットしている。
図19は、回転しているアセンブリーの左右の軸方向位置の両極端について、左ポンプ42および右ポンプ52の水力性能を示す。
【0127】
図19は、左ポンプ42が本質的にすべての性能の変動を与える場合と、ポンプ10を調節する場合の両方の水力性能を示す。A1が小さくなるにつれて、性能は速度に比例して特定の流速で変化する。
図19は、
図2に示すポンプ10の構成について、遠心ポンプ特性を呈する状態から特定の流量係数[血流/速度]値でのポンプ特性の再生までの左ポンプ42の遷移を示している。相対的な左の性能が低いことが原因で左動脈圧が高い場合、回転しているアセンブリーは右に移動し、A1が小さくなり、左ポンプの性能が高まる。
図19に示す閾値効果がゆえに、閾値の血流(1500rpmで6LPM)が自動的に保持される傾向があるだろう。したがって、血流は、バランスするとともに速度に比例する傾向がある。
【0128】
人体の正常な血行動態値と一致するように、ポンプ700の公称動作を付勢して、左の動脈圧を右インレット圧よりわずかに高め(たとえば、3mmHg高いなど)で動作させると望ましい場合があることは、当業者であれば理解できよう。本発明によれば、これは、左ポンプ742で圧力の降下を生むために、左ポンプインレット746の断面領域を右ポンプインレット756の断面領域より小さくなるよう調節することで達成される。
図14〜
図16に示されるように、左ポンプインレット746の直径は、右ポンプインレット756の直径E4より小さいE3である。左ポンプ742でインレットの直径を狭くすることで圧力の降下が生じると、左インペラー734ポンプに加わるすなわち、そこで「見られる」動脈圧は、見かけ上の標的流速(5〜6lpm)で実際の動脈圧より低い(たとえば、3mmHg低い)。これは、
図14〜
図16から明らかなように、左へのシフトが多すぎて右にシフトが足りないことで、ローターアセンブリー730を過補償させる。よって、ポンプがポンプインレット差圧0mmHgの平衡に達すると、動脈圧の差は実際に左に有利な約+3mmHgになるであろう。左インレットで圧力の降下を増やすと、高血流量で右ポンプ孔832を一層十分に開く一助となる。
【0129】
本発明の第6の実施形態を
図20に示す。
図20の実施形態は、本明細書のどのようなポンプ設計でも実施可能なモーター850を示している。モーター850は、モーター軸852に沿って同軸方向に整列配置されたステーター860およびローター880を含む。ローター880は、ステーター860に囲まれており、軸852を中心にステーターに対して回転可能である。
【0130】
図20に示す実施形態では、ステーター860は、非磁性のスペーサー864で分離された2つのラミネーション862を含む。これらのラミネーションは、たとえば、鋼で構成されてもよい。ラミネーション862とスペーサー864は、ステーター860のコア868を形成するよう積層されている。よって、ラミネーション862は、コア868の軸方向の端部を形成する。ラミネーションとステーターのスタックすなわちコア868のまわりには、モーター巻線866が巻き回されている。
【0131】
ローター880は、円筒形のコア882を有し、その上に2つの磁石アセンブリー884が装着されている。磁石アセンブリー884は、コア882を囲み、コアの軸方向の端部に沿って延在する。コア882は、鋼など鉄を含む材料で構成されてもよい。磁石アセンブリーは、非磁性のスペーサー886によって分離されている。スペーサー886は、コア882を囲み、磁石アセンブリー884間のコアの中央部に沿って延在している。磁石アセンブリー884は、それぞれのラミネーション862の1つに対応する。スペーサー886および864は、互いに対応する。
【0132】
図20の実施形態によれば、別々の離隔したラミネーション862および磁石アセンブリー884の対が、モーター850用の別々のドライバーとして作用し、スペーサー886および864は、磁石アセンブリーとラミネーションとの間に磁性のギャップを与える。各磁石アセンブリー884は、その対応するラミネーション862より短い軸方向の長さを有する。これによって、ローター880は、モーター動作時、ラミネーション862の軸方向の長さ内でステーター860に対して軸方向に移動または往復する。ローター880がステーター860に対して軸方向に往復する際に沿う長さまたは距離は、一般的に言えば、ラミネーション862の軸方向の長さから磁石アセンブリー884の軸方向の長さを引いた距離と等しい。
図20では、自由な軸方向を「D」を付した矢印によっておおまかに示す。
【0133】
好都合なことに、
図20の実施形態は、モーター850の軸方向の剛性を改善する。ローター880が押圧されて軸方向に移動し、もしラミネーション862の軸方向の部分を越えて磁石884を配置した場合、その時点で、この動きに抗する2つの磁力すなわち、左右の磁石/ラミネーション対の磁力がある。ローターがラミネーションを越えて軸方向に移動すると、これらのデュアルで作用する対が、磁力の合計量が増えた状態でローター880を押圧してもとの位置に戻す。このため、
図20のモーター850は、ローター880のモーターが自由な動きの終わりに境界を越えて動くときに、強い磁気的復元力によって制限される自由な軸方向の動きのウィンドウを与える。これは、血液ポンプハウジングに対する回転しているアセンブリー(モーターローターおよびインペラー)のラビングを防止しつつ、本明細書に記載のさまざまなポンプの自己調節作用を可能にする。たとえば、この軸方向の自由な移動のウィンドウは、それぞれの方向に約0.04インチであってもよい。
【0134】
もうひとつの利点として、
図20の実施形態は、磁気軸受に対する半径方向の荷重を増すことなく、軸方向の剛性を改善する。2つの磁石884/2つのラミネーション862の設計が、ラミネーション862と磁石884の間にそれぞれスペーサー864、886(たとえば、プラスチック)を配置するため、ローター880の全体としての重量を削減でき、これは回転しているアセンブリーの中立浮上という目標を達成する一助となる。
【0135】
また、
図20の実施形態によれば、モーター850のもうひとつの特徴は、モーターとモーターコントローラーとの間に余分な導体を追加せずに、ローター880の軸方向位置をリアルタイムに追跡してローターの位置をモーターコントローラーに伝えることができる点である。実施可能なモーターではいずれも、ケーブルの複雑さや大きさを抑えるために、モーターとモーターコントローラーとの間の導体(ワイヤ)の数は、できるだけ少ないほうが望ましい。モーター850は、速度とトルクをフルに制御するのに導体を3つしか必要としない、センサーレス、ブラシレスのDC(SLBLDC)モーターである。
【0136】
図20の実施形態のローター位置監視システム(RPMS)では、ローター880の軸方向位置を検出するのに1つ以上のホールセンサーを使用し、モーター850の正常な制御に干渉せずに、既存のモーター用導体900のうちの2つについての位置データを送信する。ローター位置回路を動かすのに必要な電力も、既存の3つのモーターワイヤから回生再利用される。RPMSは、電力スカベンジング回路902と、1つ以上のホールセンサー904と、モーターを制御するのに用いられる周波数帯より高帯域のキャリア周波数を変調する電圧周波数変換回路906と、からなる。次に、能動フィルターを用いてローター位置帯域を切り離し、周波数電圧変換器でローター位置信号を復調することで、モーターコントローラー908でローターの軸方向位置を回復する。好都合なことに、ローター880の軸方向位置はポンプの左側と右側との間の差圧に直接的に関連するため、ローターの軸方向位置監視機能は、重要な血行動態情報を与えることになる。
【0137】
本発明についての上記の説明から、改善、変更および改変を当業者であれば認識するであろう。たとえば、
図20の実施形態では、磁石/ラミネーション対(たとえば、3つ以上)を追加することで、モーター850の軸方向の剛性をさらに調節/改善することができよう。このような従来技術の技能の範囲内にある改善、変更および改変は、添付の特許請求の範囲に包含されることを意図している。