【文献】
Eur. Polymer J., 2004, Vol.40, pp.2819-2822
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリマーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)およびナイロンから構成される群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
前記金属アルコキシドは、ジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)、シリコンテトラ(tert−ブトキシド)、チタンテトラ(tert−ブトキシド)およびタンタルペンタエトキシドから構成される群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の少なくとも1つの実施形態による表面に結合した抗感染症薬の概略図を示す。
【
図2】本開示の少なくとも1つの実施形態による表面に結合した抗感染症薬を示す。
【
図3】本開示の少なくとも1つの実施形態による抗感染症薬の作用形態を示す。
【0025】
(発明を実施するための詳細な説明)
以下の記述では、説明のために、具体的な数、材料および構成は、本発明を完全に理解するために示される。しかし、本発明はこれらの具体的な詳細がなくても実施できることは当業者には明らかであろう。一部の例では、本発明を不明瞭にしないために、周知の特徴を省略したり簡略化している。また、本明細書における「1つの実施形態」あるいは「ある実施形態」などのフレーズは、その実施形態に関して記述された特定の特徴、構造あるいは特性が発明の少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味する。明細書中の各所に「1つの実施形態において」などのフレーズが現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すとは限らない。
【0026】
広くは、抗感染症薬が結合する活性表面領域を含むように、一つまたは複数の実施形態に従って種々の材料表面を官能化する方法が提供される。対象の表面は用途に応じて官能化され、抗感染症薬が該官能化された表面に配置されて、抗感染性表面を有するデバイスが提供される。
【0027】
ここで、
図1を参照する。本開示による表面10は一般に、官能化層20と抗感染症薬30を含む。表面10は事実上、官能化層20を受け入れる材料であれば任意の材料であってもよい。こうした材料の例としては、金属、合金、ポリマー、プラスチック、セラミックス、シリコン、ガラスおよび−OHまたは−NH基などの酸性プロトンを有する表面が挙げられる。
【0028】
官能化層20は、特定の用途に好適な任意の層であってもよい。官能化層20の性質および組成は、抗感染症薬30を含むように意図される表面10と、官能化層20に結合される抗感染症薬30に依存する。例えば、以下でより詳細に説明するように、アルコキシド前駆体を用いた酸化物、アルコキシドまたは酸化物−アルコキシド混合層でポリマー基板表面10を官能化できる。こうした官能化されたポリマー表面を用いて、該表面上のそれに続く抗感染症薬30の材料または層を共有結合させる。
【0029】
他の官能化層20は、第IV族アルコキシドと同様に反応する、−OHまたは−NH基などの酸性プロトンを含む表面;シリコン表面と、本来のまたは合成の酸化物コーティングSi表面に、対応するホスホン酸塩の膜として結合したホスホン酸の自己凝集膜と、を有する表面;などの表面に、基板表面の本来の酸化物上に配置された官能化ホスホン酸と、下層の基板上に直接堆積するか、あるいはアルコキシド前駆体から誘導された酸化物層上に堆積した官能化ホスホン酸と、を含んでいてもよい。
【0030】
使用可能な金属表面としては、チタンとその合金;ステンレス鋼;コバルトクロム合金;ニッケル、モリブデン、タンタル、ジルコニウム、マグネシウム、マンガン、ニオブおよびこれらを含む合金などが挙げられる。
【0031】
本明細書での実施形態に関連して使用され得る抗感染症薬30には、殺菌剤、消毒剤および抗生物質を含む殺菌性剤および静菌性剤が含まれていてもよい。殺菌剤としては、次亜塩素酸塩、クロラミン、ジクロロイソシアヌレートおよびトリクロロイソシアヌレート、湿潤塩素、二酸化塩素などの活性塩素、過酢酸、過硫酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウムおよび尿素過酸化水素などの過酸化物を含む活性酸素、ポビドンヨード、ヨードチンキ、ヨウ化非イオン性界面活性剤などのヨウ素化合物、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールなどの濃縮アルコールとこれらの混合物;2−フェノキシエタノールおよび1−フェノキシプロパノール、2−フェノキシプロパノール、フェノール化合物、クレゾール、ヘキサクロロフェン、トリクロサン、トリクロロフェノール、トリブロモフェノール、ペンタクロロフェノール、ジブロモール(Dibromol)およびこれらの塩などのハロゲン化フェノール、ベンザルコニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミドまたはクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリドおよびベンゼトニウムクロリドなどの第四級アンモニウムカチオンを含むカチオン性界面活性剤、および、クロルヘキシジン、グルコプロタミン、オクタニジン二塩酸塩などの非四級化合物;オゾンや過マンガン酸塩溶液などの強酸化剤;コロイダルシルバー、硝酸銀、塩化水銀、フェニル水銀塩、銅、硫酸銅、塩化酸化銅などの重金属とその塩;強酸(リン酸、硝酸、硫酸、アミド硫酸、トルエン硫酸)、およびアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム)などが挙げられる。
【0032】
殺菌性剤および静菌性剤は、哺乳類の組織上で悪影響を及ぼし得るので、それらのすべてが哺乳類の組織上の消毒剤として使用されなくてもよい。本発明の一部の実施形態を、外科用バリアに使用される繊維や、衛生器具、建築資材、配管およびクリーンルームなどの内表面などの、抗感染性表面が哺乳類の組織と接触しない使用に適用できることは当業者には明らかであろう。こうした用途では、哺乳類組織との接触が考慮されるあるいは可能性がある用途での使用では適切でない殺菌剤などの、特定の抗感染症薬を使用してもよい。
【0033】
人間に使用する消毒剤として用いられ得る一部の化合物を下記する。デーキン液(Daquin’s solution)、pH7〜8に調整した0.5%ナトリウムまたはカリウム次亜塩素酸塩溶液あるいはベンゼンスルホンクロラミドナトリウムの0.5〜1%溶液などの適切に希釈した塩素調合液、ポビドンヨード、尿素過酸化水素溶液としての過酸化物およびpH緩衝0.1〜0.25%過酢酸溶液などの一部のヨウ素調合液、主に皮膚消毒に使用される消毒性添加剤入りまたはなしのアルコール、ソルビン酸、安息香酸、乳酸およびサリチル酸などの弱有機酸、ヘキサクロロフェン、トリクロサンおよびジブロモール(Dibromol)などの一部のフェノール化合物、および、0.05〜0.5%ベンザルコニウム、0.5〜4%クロルヘキシジンおよび0.1〜2%オクテニジン溶液などのカチオン活性化合物などである。
【0034】
好適な実施形態では、哺乳類の組織と接触する可能性がある用途で使用される抗感染症薬は、これに限定されないが、コリンやコリン誘導体、第四級アンモニウムデンドリマ、銀、銅およびカチオン種などの第四級アンモニウム化合物などの第四級アンモニウム化合物を含む。長アルキル鎖を有する第四級アンモニウム化合物(quats)は、細胞壁を破壊することによって所定の殺菌特性を示す(Nakagawa,Y.らの、Appl.Environ.Microbiol.,1984,47:3,513−518、参照によりその全体が本明細書に援用される)。第四級アンモニウムカチオン性官能基は、バクテリアを誘引しその細胞膜を破壊する。第四級アンモニウムデンドリマは本質的に同様の殺菌活性を示し、殺菌特性を有する官能基や分子と組み合わせられると、投入量の増加によって抗菌活性をさらに発揮する。銀と銅は、細菌に対する微量作用効果が観察されている。銀および銅イオンは、反応基に結合することによって、標的の細菌中のタンパク質を変性させることが研究によって示唆されている。この結合によって、沈殿と失活がもたらされる。銀も酵素と代謝プロセスを阻害することがわかっている。カチオン種は、負に帯電した細菌の細胞壁に静電気的に引きつけられる。カチオン性抗菌性ペプチドは、標的の細菌の調節機構に対し阻害作用を有することがわかっている。
【0035】
特定の用途では、抗感染症薬が、例えば有機ホスホン酸、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、リン酸、ヒドロキサム酸などの酸官能基を含む場合には、該抗感染症薬を官能化することが有用であり得る。
【0036】
ここで、
図2を参照する。抗感染性表面のある実施形態では、インプラント材料の表面10に共有結合した自己凝集単分子層ホスホン酸塩(AI−SAMP)表面改質20が用いられている。ここで、該抗感染症薬30は、該SAMPを通して表面に結合する第四級アンモニウムカチオン性官能基である。共有結合によって、表面処理とそれが結合される材料間で格別に強固な接着が形成される(Schwartz,J.らの、Mat.Sci.Engr.C,2003,23,395−400、参照によりその全体が本明細書に援用される)。SAMPは単分子厚のため、それが適用される材料を完全に被覆し、インプラント材料の種類や構成に拘わらず、完全な被覆が保証される。第四級アンモニウム塩の共有結合によって、第四級アンモニウム化合物は不溶性となり、持続的な抗感染活性が得られる(例えば、Nakagawa,Y.らの、Appl.Environ.Microbiol.,1984,47:3,513−518を参照のこと)。
【0037】
図3に示すように、第四級アンモニウムカチオン性官能基は、バクテリアを誘引し、その細胞膜を破壊する。
【0038】
(官能化方法)
表面の官能化に好適な方法はいくつかある。当業者には明らかなように、特定の抗感染症薬の結合もしくは接着に用いられる本発明の官能化方法は、該抗感染症薬および対象の表面の化学的性質に依存する。
【0039】
これに限定されないが、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリケトン、ポリエーテル、ポリイミド、アラミド、ポリフルオロオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、エポキシ、シリコーンまたはこれらのポリマーを含む複合物などのポリマー基板表面を、アルコキシド前駆体を用いた酸化物、アルコキシドまたは酸化物−アルコキシド混合層で官能化できる。こうした官能化ポリマー表面を用いて、該表面上のそれに続く抗感染症薬の材料または層を共有結合させる。該ポリマー表面を金属酸化物層(酸化物接着層)でコーティングしてもよい。
【0040】
ある実施形態では、連続した酸化物接着層、すなわち、表面を被覆する個々の分子とは対照的に、互いに化学的に結合し連結した個々の分子のマトリクスで形成された層により、前記ポリマー表面をコーティングしてもよい。この実施形態では、金属アルコキシド分子は、ポリマー表面の少なくとも一部上で互いに結合して連続層を形成し、その後、酸化物官能化層に変換される。
【0041】
さらに、基板の本来の酸化物表面上の官能化ホスホン酸の自己凝集層を加熱して、接着種によりさらに官能化し得る接着コーティング層を形成できる。米国特許出願公報第2004/0023048号(参照によりその全体が本明細書に援用される)に詳細に記載されているこのプロセスによって、材料の本来の酸化物表面上に、その酸化物表面に結合した二官能性有機ホスホン酸系部分と、該有機ホスホン酸系部分に結合した連結部分と、を有する複数部分化リン系コーティング層が得られる。このプロセスに従って、リン酸塩結合で基板の本来の酸化物表面に結合した複数の官能化有機ホスホン酸塩部分と、それぞれの被覆部分が少なくとも1つの官能化有機ホスホン酸塩部分の官能基に結合した1つまたは複数の抗感染性コーティング部分と、を有するリン系コーティング層を得てもよい。金属複合体によって接合される場合、この金属複合体は、金属試薬から、好適には金属アルコキシド試薬から誘導されることによりさらに特徴付けられる。
【0042】
官能化される基板および所望の抗感染性部分に応じて、他の官能化プロセスを用いてもよい。例えば、−OHあるいは−NH基などの酸性プロトンを含む基板を第IV族アルコキシドと反応させて官能化できる。この方法によって、バルクポリマーの表面に結合した分子接着種が得られるが、この方法は、表面に酸性基を有する材料に限られる。この方法は、Dennes,T.J.らの、High−Yield Activation of Scaffold Polymer Surfaces to Attach Cell Adhesion Molecules.J.Am.Chem.Soc. 2007,129,93−97;およびDennes,T.J.とSchwartz,Jの、Controlling Cell Adhesion on Polyurethanes.Soft Matter 2008,4,86−89(両方とも、参照によりその全体が本明細書に援用される)に詳細に記載されている。
【0043】
有機SAMP(SAM’s)を、金属酸化物基板またはシリコン酸化物基板の表面に共有結合させてもよい。金属酸化物基板またはシリコン酸化物基板の表面に、自己凝集有機単分子層を形成することにより、それらに共有結合した周期律表第IVB族、VB族またはVIB族から選択された遷移金属アルコキシドの表面層を有する金属酸化物基板またはシリコン酸化物基板オーバレイ層であって、前記アルコキシドが前記遷移金属原子で基板オーバレイ層の表面酸素に結合したオーバレイ層を備え、前記遷移金属アルコキシド表面層を、前記遷移金属アルコキシドと反応して前記遷移金属に共有結合した有機配位子を形成できる有機化合物と反応させることにより、前記遷移金属原子において基板の表面酸素に共有結合した自己凝集有機単分子層を基板表面上に形成してもよい。この方法は、米国特許第6,146,767号(参照によりその全体が本明細書に援用される)に詳細に記載されている(例えば、第3欄1〜22行目および実施例を参照のこと)。金属アルコキシドと反応できる好適な酸性官能基としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、リン酸およびヒドロキサム酸などが挙げられる。
【0044】
例えば、米国特許第6,645,644号(参照によりその全体が本明細書に援用される)に詳細に記載されている方法(例えば第4欄15〜33行目および実施例を参照のこと)は、水酸化物保有基板の表面に共有結合したリン酸塩配位子層またはホスホン酸塩配位子層を形成するステップであって、水酸化物保有基板をリン酸または有機ホスホン酸でコーティングするステップと、前記リン酸または有機ホスホン酸が前記基板に共有結合するまで前記コーティング基板を加熱するステップと、を含むステップを備える。基板が金属かまたは金属合金の場合、前記リン酸は、遊離水酸基リッチの無機リン酸塩コーティングを形成する。
【0045】
遷移金属一リン酸塩コーティングおよびポリリン酸塩コーティングと同様に、水酸基を抗感染症薬の添加に利用できる。
【0046】
別の実施形態では、有機ホスホン酸の自己凝集膜を、対応するホスホン酸塩の膜として本来のまたは合成の酸化物でコーティングされたSi表面に結合させるプロセスで、シリコン表面の官能化を実現してもよい。該ホスホン酸塩膜を官能化して、小さなペプチドから大きな多重サブユニットタンパク質までのサイズの生体分子をSi表面に共有カップリングさせる。抗体をこうした表面に結合することによって、病原菌や寄生虫表面の抗原を含む広範囲の分子の選択的な認識が可能になる。この方法は、Midwoodらの、Easy and Efficient Bonding of Biomolecules to an Oxide Surface of Silicon.Langmuir 2004,20,5501−5505に詳細に記載されており、参照によりその全体が本明細書に援用される。実験の詳細は、5501ページ第2欄〜5502ページ第2欄に記載されており、また、5502〜5504ページの議論と添付図も参照のこと。
【0047】
さらに次の実施形態では、表面結合のホスホン酸塩膜を用いてチタンとその合金(Ti−6Al−4Vなど)を官能化し、抗感染性ペプチドを接着してもよい。当分野で知られているように、チタンとその合金は機械的強度が高く耐薬品性を有しているために、骨と接触し得る外科インプラントの材料としては好ましい。この方法は、Gawaltらの、Bonding Organics to Ti Alloys:Facilitating Human Osteoblast Attachment and Spreading on Surgical Implant Materials”Langmuir 2003,19,200−204に詳細に記載されており、参照によりその全体が本明細書に援用される。実験の詳細は、200ページ第2欄〜201ページ第2欄に記載されており、また、201〜204ページの議論と添付図も参照のこと。
【0048】
(金属酸化物接着)
金属酸化物接着技術は、配位基を通して表面に結合した、一般式M−O−R(M:金属原子)で表される金属アルコキシドである酸化物接着層を含む。該酸化物接着層は、これらに限定されないが、熱分解、マイクロ波処理、完全加水分解およびまたは部分加水分解などのプロセスで処理されたものである。該技術は、例えばポリマーや金属に好適である。官能化された金属やポリマーなどの官能化表面を用いて、該表面上のその後に続く抗感染症薬の材料や層を共有結合させる。
【0049】
好適なポリマー基板は、官能化できる任意のポリマーを含み、合成およびまたは天然ポリマー分子を含む種々の物質のうち任意のものを含んでいてもよい。好適なポリマー基板の例としては、これらに限定されないが、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエステル、ポリケトン、ポリイミド、ポリスルフィド、ポリスルホキシド、ポリスルホン、ポリチオフェン、ポリピリジン、ポリピロール、ポリエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、多糖、フッ素ポリマー、アミド、イミド、ポリペプチド、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ガラス強化エポキシ、液晶ポリマー、熱可塑性プラスチック、ビスマレイミド−トリアジン(BT)樹脂、ベンゾシクロブテンポリマー、味の素ビルドアップフィルム(ABF)、ガラスとエポキシの低熱膨張(CTE)フィルムおよびこれらのポリマーを含む複合物などが挙げられる。該酸化物接着層は、ポリマー表面上の配位基と金属アルコキシドの金属間の共有結合によってポリマー表面に接着する。
【0050】
遷移金属のアルコキシドは、本発明に特に有用である。周期律表第3〜6族と第13〜14族の金属は、本発明の組成物には好適な金属である。好適な金属は、Zr、Al、Ti、Hf、Ta、Nb、VおよびSnだが、この内最適なものはZr、TiおよびTaである。遷移金属の周期律表の位置に応じて、該遷移金属のアルコキシドは3〜6個のアルコキシド基、またはオキソ基とアルコキシド基の混合物を有するであろう。好適なアルコキシド基は、エトキシド、プロポキシド、iso−プロポキシド、ブトキシド、iso−ブトキシド、tert−ブトキシドおよびフッ素化アルコキシドなどの、2〜4個の炭素原子を有する。最適な金属アルコキシドは、ジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)、チタンテトラ(tert−ブトキシド)およびタンタルペンタエトキシドである。
【0051】
本実施形態による組成物とデバイスの製造方法は、a)金属アルコキシドを表面に接触させるステップと、b)前記金属アルコキシドを、酸化物、アルコキシドあるいは酸化物/アルコキシドの混合物から構成される表面上への接着層形成に適切な条件にかけるステップと、を含むポリマー表面を活性化することを含む。前記接触ステップは、これに限定されないが、蒸着または浸漬堆積などの当業者に既知の任意の好適な技術を用いて実現してもよい。酸化物接着層を形成するステップは、金属アルコキシドを、熱分解、マイクロ波処理、完全加水分解または部分加水分解の条件にかけることによって実現してもよい。加熱条件を用いる場合、該金属アルコキシドを好適には、約50℃〜該ポリマーの使用上限温度に加熱する。
【0052】
ある実施形態では、金属アルコキシド分子をポリマー表面の少なくとも一部上で互いに結合させて連続層を形成し、その後、酸化物官能化層に変換してもよい。連続層の主な利点の1つは、連続した金属酸化物接着層で被覆された表面全体が活性化されることである。このプロセスのより包括的な議論は、米国特許出願公報第2009/0104474号(2009年4月23日公開)に詳細に記載されており、参照によりその全体が本明細書に援用される。このプロセスによって、該表面上の後に続く材料や層の共有結合に用いられる官能化ポリマー層が得られる。このプロセスは一般に、ポリマー上に金属アルコキシドを堆積させるステップと、加水分解(完全または部分)の有無にかかわらず基板を加熱して、前記金属アルコキシド分子から、前記ポリマー表面に共有結合的に接着した金属酸化物連続接着層を形成させるステップと、を備える。例えば、これらに限定されないが、当分野で既知の蒸着、ブラシ堆積または浸漬堆積法などにより、金属アルコキシドの分子を最初にポリマー分子の反応近接に移動させる。極薄層が望ましい場合は、蒸着プロセスが好適である。次に、堆積金属アルコキシド分子を、約50℃〜ポリマーの使用上限温度(ポリマーのガラス転移温度未満であること)に加熱して、前記金属アルコキシドを熱分解する。熱分解または加水分解中に、個々の金属アルコキシド分子が互いに共有結合して、金属酸化物の連続接着層を形成する。前記金属酸化物接着層は、約1nm〜1μm、好適には約2nmと薄くてもよいために柔軟性がある。薄層であるために、前記酸化物接着層は、クラック、剥離あるいは破壊を生じることなく基板材料と共に曲がる。ある実施形態では、この官能化方法を用いて、ポリマー表面が、金属アルコキシド官能化層で被覆された領域と共に、酸性官能基領域も含むようにしてもよい。こうした実施形態では、金属アルコキシド官能化層を、酸性官能基領域間のスペースを埋めるものと考えてもよい。別の実施形態では、金属アルコキシド官能化層を、酸性官能基を有するポリマー領域に適用してもよい。
【0053】
この実施形態による組成物は、前記酸化物接着層を介して前記ポリマー基板に結合した抗感染症薬を含む。こうした付加的な抗感染性材料は、これらに限定されないが、第四級アンモニウム化合物、第四級アンモニウムデンドリマ、銀、銅およびカチオン種を含んでいてもよい。すべて網羅していないが、より完全な抗感染症薬の詳細なリストを以下に示す。付加的な抗感染性材料の有用性は当業者には明白であろう。例えば、抗感染性表面の官能基を含む医療用および整形外科用インプラントデバイスは、感染を最小化する。同様に、抗感染症性材料を、クリーンルーム用途や、井戸ポンプ、浄水配管および導管などの水供給物品に組み込むことができる。
【0054】
以下でさらに詳細に述べるように、銅と銀は抗感染性材料として例示される。
【0055】
抗感染性材料を、これらに限定されないが、共有結合、蒸着、スパッタリングまたは浸漬堆積などの当業者に既知の技術で酸化物接着層に導入してもよい。一部の実施形態では、付加的な材料の堆積前に、酸化物接着層を完全または部分加水分解することが好適であり得る。一部の実施形態では、堆積した付加的な材料の熱処理またはマイクロ波処理が好適であり得る。
【0056】
別の実施形態では、前記接着層を基板上にパターン状にまたは微細パターン状に配置してもよい。
【0057】
別の実施形態では、以下でさらに詳細に述べるように、前記抗感染性材料を接着層上にパターン状にまたは微細パターン状に配置してもよい。
【0058】
前記酸化物接着層は、上記のように抗感染性材料と反応させて、該抗感染性材料を酸化物接着層を介してポリマー表面に結合させる。前記付加的な材料を、これらに限定されないが、共有結合、蒸着、スパッタリングまたは浸漬堆積などの当分野で利用可能な種々の方法を用いて酸化物接着層と反応させて添加してもよい。本発明のある実施形態では、前記材料をリソグラフィ、印刷またはスタンピング法を用いて添加し、酸化物接着層上に材料パターンを形成してもよい。前記ポリマー表面をフォトレジストで完全に被覆して、マスクを通して紫外線暴露してもよい。紫外線暴露された領域を現像して除去し、これによって、フォトレジストの開口部と小領域のポリマー表面へのアクセスとしてもよい。これらの領域は、金属酸化物接着層で官能化されている。フォトレジストはその後溶解されて、接着層を含むポリマー表面にパターン化された小領域が残る。該パターン化された領域は、選択された抗感染症薬に対して優先的に反応する。
【0059】
ある実施形態では、抗感染性材料の堆積前に、前記酸化物接着層を完全または部分加水分解させて、1つまたは複数のアルコキシド基が金属原子上に残った酸化物接着層を得てもよい。銀または銅塩溶液を吸収し続いて還元することによって、金属表面を粒子状銀または銅でそれぞれ被覆できる。酸化ジルコニウムの接着層を形成することによっても、銀塩(硝酸銀など)または銅塩(硫酸銅など)の溶液を吸収し、その後還元剤で還元することによって、例えばPEEK表面を金属化できる。例えば、酸化物接着層のマトリクスに含まれるジエチルアミノボランまたは水素化ホウ素ナトリウムは、上記の塩類を銀および銅金属にそれぞれ還元する。
【0060】
ある予測的な実施形態では、酸化ジルコニウム接着層を、チタンなどの金属の本来の酸化物表面上に成長させてもよい。
【0061】
(金属酸化物官能化を用いた抗感染症薬の例)
当業者であれば、前記および後述の具体的な例を用いて本発明の化合物および物品を製造および利用し、特許請求の範囲に記載された方法を実施できるものと考えられる。以下の例は本発明を例証するものである。本発明は、これらの実施例に記載された特定の条件または詳細に限定されるものではないことが理解されるべきである。
【0062】
(実施例)
(実施例1:活性化ポリマーの金属化)
ポリイミド、アラミドおよびゴアテックス複合物の活性化ポリマーを以下の方法で製造した。
【0063】
(ポリマー基板上のジルコニア薄膜の形成)
特に断りのない限り、試薬はすべてAldroch社から入手し、そのまま使用した。PET、PEEKおよびナイロン6/6は、Goodfellow社から入手した。アセトニトリルはCaH
2上で一晩乾燥させ、テトラヒドロフラン(THF)はKOH上で一晩乾燥させ、両方共使用前に蒸留した。Surface Optics社のSOC4000SH鏡面反射率ヘッドアタッチメントを装備したMidac社のM25 10Cを用いて、表面改質サンプルを分析した。蛍光光度測定実験では、Photon Technology International社の蛍光分光計を使用した。
【0064】
ポリマー基板(ナイロン6/6、PETあるいはPEEK)を、真空あるいはジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)蒸気のいずれかに暴露するための2つの栓を備えた堆積チャンバ内に入れた。このチャンバを圧力10
−3torrで1時間脱気し、ポリマースライドをジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)の蒸気に1分間暴露し(外部脱気しながら)、その後、外部脱気せずに5分間暴露した。このサイクルを2回繰り返し、その後、加熱テープをチャンバに貼ってチャンバの温度を60℃まで上げ、その温度で5分間保持した(外部脱気せずに)。その後、チャンバを冷却し10
−3torrで1時間脱気して過剰なジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)を確実に除去し、表面活性化ポリマーを得た。AFM断面分析により、該ジルコニア膜が薄層であることがわかった。IR分析により、tert−ブトキシド基が一部、堆積した熱分解膜に残っていることがわかる。
【0065】
以下のポリマーおよび樹脂を使用したジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)を用いた実験を行い良好な結果を得た。ポリイミドKapton(登録商標)、ポリラクチド−co−グリコール酸塩(PLGA)、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸塩−co−吉草酸塩(PHBCV)、ゴアテックスおよびアラミド。他のポリマーでも同様な処理を行えば同様な結果が得られるものと考えられる。
【0066】
調製したままの活性化ポリマーを、酸化ジルコニウム接着層上に吸収させた銅塩の水溶液で処理した。水素化ホウ素ナトリウムまたはアミンボランのいずれかで処理して、銅被覆ポリマーを得た。電子分散X線分析により、銅とジルコニウムの両方が存在することがわかった。
【0067】
同様に、硝酸銀を用いて活性化PET上に金属銀を堆積させた。他のポリマーでも同様な処理を行えば、同様な還元剤を用いた他の金属塩を使用した場合と同様な結果が得られるものと考えられる。
【0068】
(実施例2:銅の無電解めっき)
実施例1で説明したように、最初にジルコニウム系接着層で、次に硫酸銅で、次にジエチルアミンボランで処理したKaptonのサンプルを、窒素雰囲気下で60℃の銅めっき浴に入れた。この浴は、0.1Mのクエン酸三ナトリウム二水和物、1.2Mのエチレンジアミン、0.1Mの硫酸銅水和物、0.03Mの硫酸第一鉄水和物、6.4×10
−4Mの2,2−ジピリジン、1.2MのNaClおよび十分な硫酸とで構成され、pHは6であった。少量のPEG200(2.5mg)を50ml浴に添加した。
【0069】
(実施例3:ポリマーの金属化)
酸化ジルコニウム/アルコキシド接着層は、PETおよびKapton(登録商標)ポリイミド膜表面上の銅金属の成長を核にし、この方法によって、ポリマー系デバイス基板のパターン化された金属化の基礎が得られる。
【0070】
接着層はマトリクスとして機能することができ、ポリマー表面の金属化を可能とする。典型的な方法では、Kapton(登録商標)ポリイミド膜を層厚みが5nmの接着層でコーティングし、次に、CuSO
4の200mM水溶液に浸漬した。サンプルを脱イオン水中ですすぎ、EDX分析によって、CuとSの存在が確認された。その後ジメチルアミンボランを用いてゆっくり還元(1M、水溶液、6時間、50℃)すると、金属性の銅が形成された。Kapton(登録商標)ポリイミド膜上にパターン化された接着層を用いた金属化も行った。この金属化表面を水中で超音波処理してQチップで物理的に摩擦し、その後、EDX分析を行った。こうして、Kapton(登録商標)ポリイミド膜表面上のZrおよびCuの両方のパターンは、マスクデザインを忠実に模写していることがわかった。
【0071】
対応するパターンもAFMで観察した。生成された銅「種子」の厚みは、AFMで測定して接着層の出発膜よりも約20倍であり、接着層がポリイミド表面で、CuSO
4の成長を核にしていることがわかった。CuSO
4処理のKapton(登録商標)ポリイミド膜は、水素化ホウ素ナトリウム水を用いて急速に還元されて銅金属も得られた。ここで、ピット内のポリマー表面に埋められる銅パターンの上端は多くの場合、ポリマー表面より約500nm下にあることがAFM分析からわかった。比較的速い水素化ホウ素還元は十分に発熱性であるため、還元反応の近傍でポリマーが溶解しているものと考えられる。
【0072】
接着層は薄い(約5nm)ために、ポリマーの物理的な曲げによるクラックに対しては抵抗性があり、このために、該接着層は、銅によるポリマーの金属化には好適なマトリクスである。銅「種子」層は、無電解堆積プロセスによるバルク銅成長のための核形成部位として機能できる(Guら、Organic Solution Deposition of Copper Seed Layers onto Barrier Metals.Mat.Res.Soc.Symp.Proc. 2000,612,D9.19.1−D9.19.6(D9.19.2ページ33〜40行目;D9.19.5ページ14〜22行目)。フォトリソグラフィパタニングと共に、ポリマーのこのさらなる金属化によって、簡単な実験室条件下で、種々のフレキシブル基板上に銅系の抗感染性化合物を調製する手段が得られる。
【0073】
Kapton(登録商標)ポリイミド膜とPETの金属化。ポリマー表面のパターン化または未パターン化銅の金属化は、活性化したポリマー表面をCuSO
4の200mM水溶液に一晩浸漬し、その後、ジメチルアミンボランまたは水素化ホウ素ナトリウムの1M水溶液中で6時間還元させることにより得られた。銅の金属化は、PGT−IMIX PTS EDXシステムを装備したFEI XL30FEG−SEMを用いたエネルギー分散型X線分析によって確認された。
【0074】
(官能化有機リン技術)
官能化有機リン技術を用いて基板を官能化してもよい。米国特許出願公報第2004/0023048号(参照によりその全体が本明細書に援用される)を参照のこと。直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和、置換または未置換あるいは脂肪族または芳香族アルキレン部分である、炭素原子数が約2〜約40の炭化水素配位子を含むω−官能化有機ホスホン酸などの官能化有機ホスホン酸から、この有機ホスホン酸系部分を誘導してもよい。
【0075】
本開示に従った有用なホスホン酸の炭化水素部分上の置換基を、該炭化水素配位子の任意の炭素原子に付加してもよい。有用な置換基は、例えば、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、ホスホン酸基およびこれらの化学的誘導体などの反応性官能基である。さらなる誘導体化反応に関与し得る任意の官能基が使用できることは理解されるであろう。また、アルキレン炭化水素配位子は、この構造内あるいはこの構造に付加して、例えば、ポリマー反応において、ホスホン酸塩誘導化反応中に本来の酸化物表面に結合した他のホスホン酸サイトに付加された炭化水素配位子上の反応性置換基とさらに反応し得る不飽和サイトなどの、反応性部分を含んでいてもよい。このようにして、ホスホン酸塩−有機ポリマー層を酸化物表面上に形成してもよい。こうしたポリマー反応の一例としては、ホスホン酸のアクリルの誘導体の表面コーティングの調製が挙げられる。アクリレートとメタクリレートの置換基を用いる場合、このポリマー化は光または大気への暴露によって自発的に進行する。反応性が低いコーティングでは、コーティングを従来のポリマー試薬とポリマー条件に暴露することによってポリマー化できる。
【0076】
一部の実施形態では、コーティングは、配位子中の炭素部分で官能化された有機配位子を有するホスホン酸から形成され、この有機配位子は、さらに反応して抗感染症薬と共有結合を形成する。官能化されたホスホン酸を酸化物表面に適用することによって、基板表面から離れる方向に向かい、二重結合またはさらなる化学改質に利用される炭素を有する自己凝集ホスホン酸膜が一般的に得られる。好適な官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシレート基、チオール基およびホスホン酸基が挙げられる。
【0077】
酸化物表面に結合したホスホン酸塩の有機部分に垂下した反応性置換基は、加水分解反応を受ける試薬とさらに反応できることは理解されるであろう。この例としては、M(O−−R)
n(式中、Mは金属、Rは、直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和、脂肪族または芳香族、置換または未置換の炭化水素部分、「n」は、該金属の安定原子価状態に等しい)で表される構造を有するものなどの金属アルコキシドが挙げられる。Rがt−ブチル基であり、MがそれぞれZr、TiおよびSiであり、「n」が4の金属アルコキシド化合物の例としては、ジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)、チタンテトラ(tert−ブトキシド)およびシリコンテトラ(tert−ブトキシド)が挙げられる。他の配位子に加えて、2つ以上のアルコキシド配位子を有する他の加水分解反応性化合物も利用され得ることは理解されるであろう。例えば、カルシウムビス(2−メトキシ−エトキシド)などのカルシウムアルコキシドを用いてもよい。一般に、第2族〜第14族のアルコキシド結合の金属は、本開発のホスホン酸コーティングとのこうした二次官能化反応に有用であろう。
【0078】
前述の方法によるコーティング物品の形成プロセスは、(a)酸化物基板上に官能化有機リン化合物の層を堆積させるステップと、(b)前記官能化有機リン酸化合物を前記酸化物基板に結合させるに十分な温度にまで、ステップ(a)の基板を加熱するステップと、(c)ステップ(b)で製造された層上に、別の層を堆積させるステップと、(d)ステップ(b)および(c)で製造された層を前記官能基を通して結合させるステップと、を備えてもよい。
【0079】
好適な官能基は、水酸基、カルボキシレート基、アミノ基、チオール基、ホスホネート基、あるいは、金属または、例えばアルコキシドなどの有機金属試薬との反応によりさらに誘導化されたこれらの基である。これらの基は、例えば共有結合などの強固な化学結合か、あるいは、例えば水素結合などの弱い接合相互作用で、有機、無機または生物活性コーティング層部分とのさらなる結合に関与する。
【0080】
官能基を誘導する好適な金属試薬は、例えばジルコニウムテトラ(tert−ブトキシド)、シリコンテトラ(tert−ブトキシド)、チタンテトラ(tert−ブトキシド)およびカルシウムビス(2−メトキシ−エトキシド)などの金属アルコキシドである。
【0081】
抗感染症薬を本来の酸化物表面に接着させる好適な方法は、前記官能化有機リン酸塩部分が、(p−ニトロフェニル)クロロギ酸エステルなどのクロスカップリング試薬で誘導された水酸基、アミンあるいはチオレートであり、また、それぞれ炭素−窒素結合または炭素−酸素結合によってカルボニル基に結合したジアミンまたはアミノアルコールであるアミノ部分または水酸化部分とさらに反応させて、前記誘導された官能基に結合したウレタン、カーボネート、尿素、チオカーボネートあるいはチオ尿素を得、前記末端アミノ基はその後4級化される、上記のリン系コーティング層を得るステップを備える。
【0082】
本発明の別の実施例に従って、酸化物表面を、リン酸と有機ホスホン酸から構成される群から選択されたリン系酸部分自己凝集層でコーティングするステップと、前記自己凝集層が結合するまで前記コーティングされた酸化物表面を加熱するステップと、を備え、リン系酸部分の層を、これらに限定されないが、酸化物表面(酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化タンタルなど)などの表面に結合させる方法が提供される。
【0083】
好適なコーティングは、置換アルキル、置換アルキレンおよび置換アリーレン−ホスホン酸を含むアルキル、アルキレンおよびアリーレン−有機ホスホン酸から形成されたものである。より好適なものは、ホスホン酸官能基に対する反応性置換基を有する置換アルキルホスホン酸および置換アルキレンホスホン酸である。好適な酸化物表面は、チタン、ジルコニウムおよびタンタル材料の本来の酸化物表面である。
【0084】
(有機ホスホン酸の自己凝集膜を有するシリコン表面の官能化)
有機ホスホン酸の自己凝集膜を、対応するホスホン酸塩の膜として、本来のまたは合成の酸化物コーティングシリコン表面に結合させてもよい(Midwoodらの、Easy and Efficient Bonding of Biomolecules to an Oxide Surface of Silicon.Langmuir 2004,20,5501−5505、参照によりその全体が本明細書に援用される)。該ホスホン酸塩膜は官能化されて、抗感染性であり得る生体分子間の共有カップリング、抗感染症薬または部分間の共有カップリング、およびまたは抗感染症薬または部分と生体分子との共有カップリングを可能にする。本明細書で開示されるすべての官能化技術と同様に、官能化表面およびまたは抗感染症薬を、特定の用途に応じて基板上にパターン化してもよい。
【0085】
(ペプチドによるチタンの官能化)
ペプチド改質表面結合ホスホン酸塩膜は、高表面被覆率で容易に調製出来得る(Gawaltら、Bonding Organics to Ti Alloys:Facilitating Human Osteoblast Attachment and Spreading on Surgical Implant Materials”Langmuir 2003,19,200−204,参照によりその全体が本明細書に援用される)。Gawaltに記載の方法に従って、抗感染性ペプチドを官能化表面に結合させてもよい。
【0086】
上記のものなどの官能化層に添加され得る有機抗感染性部分としては、第四級アンモニウムアルキルアミン、第四級アンモニウムアルカノール、ウスニン酸;セクロピン好中球デフェンシン、ポリフェムシン、グラミシジン、チオニン、ヒストン由来化合物、βヘアピン、ヘモグロビン、ラクトフェリンなどのカチオン性ペプチド;ニューロペプチド前駆体、芳香族ジペプチド、ヘモシアニン誘導体などのアニオン性ペプチド;バクテリオシン、カテリシジン、トロンボシジンおよびヒスタニンなどの他の抗菌性ペプチド;抗体、テトラサイクリン、アンフェニコール、ペニシリン、セファロスポリン、モノバクタム、カルバペネム、スルファノミド、トリメトプリム、マクロライド、リンコサミド、ストレプトグラミン、ストレプトマイシン、キノロン、グリコペプチド、ポリミキシン、イミダゾール誘導体およびニトロフラン誘導体を含む抗生物質;ステロイド;クロルヘキシジン;トリクロサンを含むフェノール化合物;エポキシド;抗感染特性を有するポリマーおよびまたはポリペプチドが挙げられる。
【0087】
接合され得る無機抗感染性コーティング層としては、銀、銅、酸化亜鉛、酸化チタン、ゼオライト、ケイ酸塩、水酸化カルシウム、ヨウ素、次亜塩素酸ナトリウム、亜硫酸塩および硫酸塩が挙げられる。
【0088】
好適な抗感染性部分には、ベンゼトニウムクロリド、および臭化セトリモニウム、セトリモニウムクロリド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの第四級アンモニウム化合物;第四級アンモニウムアルキルデンドリマ、銀、銅、ベンザルコニウムクロリドやBronidoxなどのカチオン種;およびアルキル化コリンが含まれる。
【0089】
本発明による組成物およびデバイスには、これらに限定されないが、ステント、置換心臓弁、置換心臓弁部品、弁葉、縫合カフ、オリフィス、弁形成リング、ペースメーカ、ペースメーカポリマーメッシュバッグ、ペースメーカリード、ペーシングワイヤ、心臓内パッチ/綿撒糸、血管パッチ、代用血管、血管内カテーテルおよび徐細動器などの心臓血管および血管インプラント装置;組織スキャホールド;不織布メッシュ、織布メッシュおよび発泡体;整形外科外傷用インプラントを含む整形外科用インプラントデバイス、関節インプラント、脊椎インプラント、プレート、スクリュ、ロッド、プラグ、ケージ、ピン、ネイル、ワイヤ、ケーブル、アンカ、スキャホールド、手関節、手首関節、肘関節、肩関節、脊椎関節、股関節、膝関節および足関節から選択される人工関節;置換骨、骨固定環、歯および顎顔面インプラント;椎間ケージを含む脊椎インプラントデバイス、椎弓根スクリュ、ロッド、コネクタ、クロスリンク、ケーブル、スペーサ、置換椎間関節デバイス、椎間関節拡張デバイス、棘間プロセス減圧デバイス、棘間スペーサ、脊椎増強デバイス、ワイヤ、プレート、脊椎関節形成デバイス、椎間関節固定デバイス、骨アンカ、軟組織アンカ、フック、スペーシングケージおよびセメント質制限ケージ;診断用インプラント、バイオセンサ、グルコースモニタリングデバイス、外部固定デバイス、外部固定インプラント、歯科インプラント、顎顔面インプラント、外部顔面骨折固定デバイスおよびインプラント、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜移植術;シャントやコイルなどの神経外科デバイスやインプラント、導尿用カテーテル、シャント、テープ、メッシュ、ロープ、ケーブル、ワイヤ、縫合糸、皮膚および組織用ステープル、骨アンカ、軟組織アンカ、火傷シートおよび血管パッチから選択される一般的な外科デバイスおよびインプラント;および一時的/非永続的インプラントなどの、整形外科医、心臓血管科医、形成外科医、皮膚科医、一般科医、顎顔面科医または神経科医などの用途に固有の任意のデバイスが含まれる。具体的には、こうしたデバイスは、感染体に対抗する抗感染症薬を含む。
【0090】
(実施例)
(有機リン界面を介した接着層の誘導体化)
酸化ジルコニウム/アルコキシド接着層をナイロン6/6上に堆積し、その後、11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸溶液と反応させて有機ホスホン酸塩単分子層を形成させてもよい(Dennes,T.J.らの、High−Yield Activation of Scaffold Polymer Surfaces to Attach Cell Adhesion Molecules.J.Am.Chem.Soc.2007,129,93−97、参照によりその全体が本明細書に援用される)。実験の詳細は、95ページ第1欄〜97ページ第1欄に記載されており、また、94〜96ページの議論と添付図も参照のこと。
【0091】
前記基板を最初に、3−(マレイミド)プロパン酸N−ヒドロキシコハク酸イミドエステルの溶液に浸漬し、その後、RGDCの水溶液に浸漬して、前記ホスホン酸塩単分子層を活性ペプチドで誘導体化する。予測的な例では、RGDの代わりに、抗感染性ペプチドをホスホン酸塩単分子層に結合させてもよい。
【0092】
(官能化有機ホスホン酸塩を用いた抗体カップリング)
11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸を、清浄化し調製したシリコンウェハ表面と反応させて、SiO
2上に自己組織化11−ヒドロキシウンデシルホスホン酸塩単分子層を形成させた。QCMとAFMでこれを確認した。乾燥アセトニトリル内で、ジスクシニミジルグルタラート(DSG)を用いて前記ω−官能基を誘導体化した。その後、濃度100ig/mLにてPBS中で30分間インキュベートして、ウサギ抗マウスIgG(Pierce社)を前記誘導体化した単分子層に結合させた。抗体カップリングは、濃度10ig/mLの抗R4インテグリン抗体P1H4(Chemicon社)または抗R5インテグリン抗体SAM−1(Cymbus Technology社)と共に2時間インキュベートして抗体カップリングを行った。CHα4またはCHα5細胞のインキュベーションにより抗体活性を確認した。ここでは、適切な活性を有することが、選択的な細胞増殖により示されている。
【0093】
予測的な例では、11−ヒドロキシホスホン酸塩の自己凝集単分子層をチタンの本来の酸化物表面に結合させ、次に、まず(p−ニトロフェニル)クロロギ酸エステルで処理し、その後、1,12−ジアミノドデカン溶液(Aldrich社)で処理して、ホスホン酸塩界面を通してチタンに接合したアミノドデシルウレタンを得た。その後、ヨウ化オクチル(Aldrich社)を用いて遠位アミノ基を四級化し、ホスホン酸塩界面を通して基板に共有結合した第四級アルキルアンモニウム部分を得た。
【0094】
同様に、予測的な例では、PEEK表面上の酸化ジルコニウムの接着層を最初に調製して、第四級アルキルアンモニウム部分をPEEKなどのポリマーに結合させ、その後、11−ヒドロキシホスホン酸で処理して、PEEKに結合した11−ヒドロキシホスホン酸塩単分子層を得てもよい。該11−ヒドロキシホスホン酸塩単分子層は、(p−ニトロフェニル)クロロギ酸エステル、1,12−ジアミノドデカンおよびヨウ化オクチルと順次反応させて誘導体化される。
【0095】
ここでは、本発明の特定の好適な実施形態について具体的に説明したが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、ここに示し説明した種々の実施形態の変形および修正が可能であり、それも本発明に付随するものであることは当業者には明らかであろう。従って、本発明は、添付の請求項および適用法で要求される範囲だけに制限されるものと意図される。
【0096】
本明細書に引用した引例はすべて、参照によりそのすべてが援用される。