(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174233
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】酸化溶液に曝すことによるフローバッテリ電極の再活性化
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20170724BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20170724BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20170724BHJP
H01M 8/04186 20160101ALI20170724BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02 L
H01M4/86 M
H01M8/04 L
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-500062(P2016-500062)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2016-517137(P2016-517137A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】US2013032091
(87)【国際公開番号】WO2014142968
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2015年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】590005449
【氏名又は名称】ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ダーリング,ロバート メイソン
(72)【発明者】
【氏名】ペリー,マイケル エル.
(72)【発明者】
【氏名】ザッフォウ,ラチッド
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー,クレイグ アール.
【審査官】
高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−188729(JP,A)
【文献】
特開平09−101286(JP,A)
【文献】
特開昭61−173468(JP,A)
【文献】
特開平01−146267(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/160406(WO,A1)
【文献】
特開2000−030721(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/135473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローバッテリであって、
第1の電極と、第1の電極から離間された第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間に配置された電解質セパレータ層とを有する少なくとも1つのセルと、
少なくとも1つのセルの外部にある供給/貯蔵システムと、
を備え、供給/貯蔵システムが、
第1のループ内で第1の電極と流体的に接続された第1の容器と、
第2のループ内で第2の電極と流体的に接続された第2の容器であって、第1のループおよび第2のループがそれらの間を繋ぐ流体の流れに関して互いに分離されている、第2の容器と、
を備え、供給/貯蔵システムは、第1の電極における過電位が規定の閾値過電位より小さくなるのに応答して、第2の液体電解質を第2の容器から第1の容器内の第1の液体電解質内へと移動させるために、第1のループおよび第2のループを流体的に接続するように構成され、
過電位が、フローバッテリの作動中に取られる半電池電位と開回路において取られる半電池電位との差であることを特徴とするフローバッテリ。
【請求項2】
供給/貯蔵システムが、第1の容器と第2の容器の間に供給ラインを備えることを特徴とする請求項1に記載のフローバッテリ。
【請求項3】
第1の電極が、負電極であることを特徴とする請求項1に記載のフローバッテリ。
【請求項4】
第1の電極の半電池電位を決定するように構成された参照電極をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のフローバッテリ。
【請求項5】
供給/貯蔵システムが、第1の容器内の第1の液体電解質のレベルと第1の容器内の第1の液体電解質の濃度とをそれぞれ決定するように構成された少なくとも1つの流体レベルセンサと少なくとも1つの濃度センサとを備えることを特徴とする請求項1に記載のフローバッテリ。
【請求項6】
少なくとも1つのセルの少なくとも1つの活性領域が、電解質セパレータ層に関して対称であることを特徴とする請求項1に記載のフローバッテリ。
【請求項7】
第1の電極および第2の電極が、それぞれ垂直中間線を有しており、第1の電極および第2の電極が、垂直中間線のまわりにまた対称であることを特徴とする請求項6に記載のフローバッテリ。
【請求項8】
規定の作動期間後、前記第2のループの流れが、第1の電極に対して再び方向づけられるように構成され、前記第1のループの流れが、第2の電極に対して再び方向づけられるように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のフローバッテリ。
【請求項9】
第1の電極が、負電極であり、第2の電極が、正電極であり、供給/貯蔵システムは、少なくとも1つのセルの規定の作動期間に応答して、第1の電極が、正電極となり、第2の電極が、負電極となるよう変化されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のフローバッテリ。
【請求項10】
フローバッテリを作動させる方法であって、
第1の電極における過電位が規定の閾値過電位より小さくなるのに応答して、フローバッテリ内の第1の流体電解質と第2の流体電解質の量を均衡させる、
ことを含み、
過電位が、フローバッテリの作動中に取られる半電池電位と開回路において取られる半電池電位との差であることを特徴とする、フローバッテリを作動させる方法。
【請求項11】
均衡させることは、第1の電極の過電位が規定の閾値過電位より小さくなるのに応答して、第2の液体電解質をフローバッテリの第2の容器からフローバッテリの第1の容器内の第1の液体電解質内へと混合することを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1の電極が、負電極であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
第1の電極を再活性化するように第1の電極を酸化流体に曝すことによって、その場で第1の電極を活性化することをさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
酸化流体が、フローバッテリの正の液体電解質であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第1の電極を酸化流体に曝す前に、負の液体電解質を第1の電極から排出することを含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
参照電極を用いて第1の電極における半電池電位を決定することを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項17】
フローバッテリが、第1の電極と、第1の電極から離間された第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間に配置された電解質セパレータ層とを有する少なくとも1つのセルを備えており、少なくとも1つのセルの規定の作動期間に応答して、少なくとも1つのセルを通る第1の液体電解質および第2の液体電解質の流れを交換することをさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項18】
フローバッテリが、第1の電極と、第1の電極から離間された第2の電極と、第1の電極と第2の電極の間に配置された電解質セパレータ層とを有する少なくとも1つのセルを備えており、第1の流体電解質が、当初負の電解質であり、第2の液体電解質が、当初正の電解質であり、ポンプ送り構成を変えずに、正の電解質を負の電解質に、負の電解質を正の電解質に変換するように、少なくとも1つのセルの極性を逆にしてフローバッテリを充電することをさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローバッテリ、およびフローバッテリを作動させる方法に関する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究または開発の記載
本発明は、米国エネルギー省によって与えられた契約DE−AR0000149のもとに政府支援を受けて行われた。政府は、本発明について所定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
フローバッテリは、レドックスフローバッテリまたはレドックスフローセルとしても知られており、電気エネルギーを、貯蔵可能であり、後に需要がある時に放出可能な化学エネルギーに変換するように設計されている。一例として、フローバッテリは、消費者需要を超えるエネルギーを貯蔵しておき、後に、より大きな需要があった場合に、そのエネルギーを放出するために、風力発電システムなどの再生可能エネルギーシステムと共に使用され得る。
【0004】
典型的なフローバッテリは、電解質層によって分離された負極と正極とを有するレドックスフローセルを含み、電解質層は、イオン交換膜などのセパレータを含むことができる。電気化学的可逆酸化還元反応を起こすために、負の流体電解質(アノード液と称するときもある)が負極に供給され、正の流体電解質(カソード液と称するときもある)が正極に供給される。充電では、供給された電気エネルギーが、1つの電解質中で化学的還元反応を、また他方の電解質中で酸化反応を引き起す。セパレータは、電解質が自由かつ急速に混ざることを防ぐが、酸化還元反応を完了させるために、選択されたイオンが通過することを可能にする。放電では、液体電解質中に含まれている化学エネルギーが、逆反応で放出され、電気エネルギーを電極から引き出すことができる。フローバッテリは、とりわけ、可逆電気化学反応に与る反応物質を含む、外部から供給される流体電解質溶液を使用することによって、他の電気化学的装置と区別される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の電極と、第1の電極から離間された第2の電極と、これらの電極間に配置された電解質セパレータ層とを有する少なくとも1つのセルを備えたフローバッテリが開示される。供給/貯蔵システムが、セルの外部にあり、また、第1のループ内で第1の電極と流体的に接続された第1の容器と、第2のループ内で第2の電極と流体的に接続された第2の容器とを備える。第1のループおよび第2のループは、それらの間の開流体の流れに関して互いに流体的に分離されている。供給/貯蔵システムは、第1の電極における半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さくなるのに応答して、第2の液体電解質を第2の容器から第1の容器内の第1の液体電解質内へと移動させるために、第1のループおよび第2のループを流体的に接続するように構成される。第1の電解質および第2の電解質は、同じ出発化学物質から化学的に誘導され得る活性種を含有し、例えば、活性種は、第1の電解質および第2の電解質両方の中でバナジウム塩とすることができる。
【0006】
フローバッテリを作動させる方法は、半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さくなるのに応答して、フローバッテリ内の第1の流体電解質と第2の流体電解質の量を再び均衡させることを含む。
【0007】
また、第1のループ内で第1の電極および第2の電極のそれぞれと流体的に接続可能な第1の容器と、第2のループ内で第1の電極および第2の電極のそれぞれと流体的に接続可能な第2の容器とを備えたフローバッテリも開示されている。供給/貯蔵システムは、第1の容器が第1のループ内で第1の電極と流体的に接続され、第2の容器が第2のループ内で第2の電極と流体的に接続される第1の構成と、第1の容器が第1のループ内で第2の電極と流体的に接続され、第2の容器が第2のループ内で第1の電極と流体的に接続される第2の構成とを備える。
【0008】
本開示のさまざまな特徴および利点は、当業者にとって、以下の詳述な説明から明らかとなるであろう。詳細な説明に付随する図面は、以下の通りに簡単に説明できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の電極における半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さくなるのに応答して、第1のループおよび第2のループを流体的に接続するように構成された実施例のフローバッテリを示す図。
【
図2】参照電極を利用する別の実施例のフローバッテリを示す図。
【
図4】第1の電極を再活性化するように構成された別の実施例のフローバッテリを示す図である。
【
図5】フローバッテリの作動させる実施例の方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、電気エネルギーを選択的に貯蔵し放出する実施例のフローバッテリ20の一部を概略的に示す。一実施例として、再生可能エネルギーシステムで生成された電気エネルギーを、より大きな需要がある後の時まで貯蔵される化学エネルギーに変換するために、フローバッテリ20を使用することができ、その後の時には、フローバッテリ20は、今度は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換し戻す。フローバッテリ20は、電気エネルギーを、例えば、電力網に供給することができる。 後述するように、開示のフローバッテリ20は、腐食機構を緩和しまたは回復手順を実行することによって、高いセル性能をできるだけ長く維持することに関して、強化された耐久性のための特徴を備えている。
【0011】
フローバッテリ20は、少なくとも1つの電気化学的活性種28を有するもう1つの流体電解質26に関して酸化還元対で機能する、少なくとも1つの電気化学的活性種24を有する流体電解質22を含んでいる。例えば、電気化学的活性種24/28は、バナジウムまたは鉄に基づく。実施例では、流体電解質22、26は、電気化学的活性種24/28のうちの1つまたは複数を含む溶液である。第1の流体電解質22(例えば、負の電解質)および第2の流体電解質26(例えば、正の電解質)は、第1および第2の容器32/34を備える供給/貯蔵システム30の中に含まれている。
【0012】
流体電解質22/26は、フローバッテリ20の少なくとも1つのセル36に各供給ライン38を通して供給され(例えば、ポンプ送りされ)、戻りライン40を介してセル36から容器32/34に戻される。 供給ライン38および戻りライン40は、容器32/34をそれぞれのループL1/L2内で第1および第2の電極42/44と接続する。複数のセル36を、ループL1/L2のそれぞれと連通するスタックとして提供することができる。
【0013】
1つまたは複数のセル36は、それぞれ、第1の電極42と、第1の電極42から離間された第2の電極44と、第1の電極42と第2の電極44との間に配置された電解質セパレータ層46とを含む。例えば、電極42/44は、カーボン紙または炭素フェルトのような多孔質炭素構造体である。一般に、1つまたは複数のセル36は、流体電解質22/26を、流れ場チャネルを通して電極42/44に供給するためのバイポーラープレートやマニホールドなどを含むことができる。しかしながら、他の構成を使用することができる、ということを理解すべきである。例えば、1つまたは複数のセル36は、代替的に、流体電解質22/26が、流れ場チャネルを使用せずに、電極42/44に直接ポンプ送りされる貫流(flow−through)作動のために構成され得る。
【0014】
電解質セパレータ層46は、電極42/44を電気的に絶縁する一方、流体電解質22/26が自由かつ急速に混ざることを防ぐが、酸化還元反応を完了させるために、選択されたイオンが通過することを可能にする、オン交換膜、微多孔高分子膜、または炭化ケイ素(SiC)などの材料の電気絶縁微多孔マトリックスであることができる。これに関して、ループL1/L2は、充電状態、放電状態、および運転停止状態などの通常の運転中は、互いに分離されている。
【0015】
流体電解質22/26は、電気エネルギーを化学エネルギーに変換するため、または逆反応において、化学エネルギーを、放電することができる電気エネルギーに変換するためのいずれかのために、セル36に供給される。電気エネルギーは、電極42/44に電気的に連結された電気回路48を通して、セル36に伝達され、またセル36から伝達される。
【0016】
負の第1の電極42は、腐食し、従って、フローバッテリ20の性能を低下させかつ/または寿命を減らすことがある。例えば、通常、第1の電気化学的活性種24との電気化学反応に触媒作用を及ぼす、第1の電極42の表面上の酸素含有基は、化学的還元反応を通して腐食し得る。特に組み合わせによって、腐食に影響することがあり得るいくつかの要因がある。 電極42/44のそれぞれの半電池電位は、フローバッテリ20の作動の間、異なることがある。半電池電位は、活性種の濃度の変化により変化することがあり、開回路(即ち、セルに電流が流れていない状態)で測定される半電池電位に影響し、半電池電位は、作動電流を含むさまざまな要因により、作動中に変化する。作動中に測定される半電池電位と開回路において測定される半電池電位の差は、本明細書においては電極過電位と定義される。特に、第1の電極42における半電池電位または過電位が腐食についての閾値電位より小さい場合には、第1の電極42は腐食し得る。これらの閾値電位は、活性種および電極材料に依存するが、閾値半電池電位は−400mV
SHE程度であり、そして、閾値過電位は、典型的には、−200mVより小さい。特定の反応に限定されないが、これらの電極腐食機構は酸化還元反応速度を増大させる炭素電極上の酸化物種の電気化学的還元のような反応を含むことがあり得、その反応は低い局所的な電位で起こる傾向がある。
【0017】
加えて、第2の流体電解質26との比較において、負の第1の流体電解質22の活性種には、電解質セパレータ層46を(例えば、拡散によって)通過し、第2の流体電解質26に混ざるより高い傾向がある。時間とともに、第1の流体電解質22の量は減少し、第2の流体電解質26の量は増加する。第1の電極42において局所的に利用できる第1の流体電解質22内の活性種の減少量は、このようにして電気化学反応の制限要因になり、そこでは第2の流体電解質26の量が以前に制限要因であった。これによって、第1の電極においてより負でない過電位を促進する。 第1の電極42における半電池電位または過電位が閾値過電位より小さいとき、腐食反応が起こり得る。後にさらに詳細に記述するように、腐食を減らすかあるいは排除するために、第1の電極における半電池電位が閾値より小さいとき、フローバッテリ20は流体電解質22/26を均衡させるという特徴を有する。
【0018】
図示の実施例では、フローバッテリ20は、容器32/34を直接接続する追加の供給ライン50を含んでいる。一実施例として、供給ライン50には、そこを通過する流れを制御するために弁52を設けることができる。加えて、図示されないが、弁52とフローバッテリ20のその他の構成要素は、本開示に従って、自動的、半自動的、または、手動で作動を制御するために、コンピュータハードウェア、ソフトウェアまたはその両方を含んでいる制御装置のような好適な制御装置に作動可能に接続することができる。
【0019】
ループL1/L2は、通常、互いに分離される。しかし、供給/貯蔵システム30は、第1の電極42における半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さくなるのに応答して、第2の液体電解質26を第2の容器34から第1の容器32内の第1の液体電解質22内へと移動させるために、ループL1/L2を流体的に接続するように構成される。混合されると、第2の液体電解質26は、付加的な量の第1の液体電解質22に変化する。このように、第1の流体電解質22の量が電解質セパレータ層46を通過することで失われて減少するにつれて、第1の電極42における半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さくなるのに応答して、第2の流体電解質26の一部を第1の流体電解質22内へと移動させることによって、流体電解質22/26の量は均衡が保たれる。
【0020】
さらなる実施例においては、エネルギー損失を低減するために、フローバッテリが、完全な、または、完全に近い(90%)放電状態になるのに応答して、均衡化または再均衡化が選択的に行われる。第1の流体電解質22と混合されると、第2の流体電解質26は、反応してより低い酸化状態へと還元される。放電状態では、第2の流体電解質26はそのより低い酸化状態電位にあり、このように、混合による還元は、充電状態における、より高い酸化状態電位からの還元と比較して、より小さいものとなる。
【0021】
再均衡化は、フローバッテリ20を、第1の流体電解質22の量が電気化学反応に対する制限要因ではない状態に戻す。従って、第1の流体電解質22の量は、腐食が起こり得る大きな規模の過電位および副反応を促進する、局所的な枯渇なしで、完全な電気化学反応を支持することができる。電気化学反応に対する制限要因は、正の第2の流体電解質26の量であり、それはフローバッテリ20の容量を増大させ、電圧安定性を向上させる。第1の電極42は比較的狭い電圧電位範囲に亘って繰り返すことになり、一方、第2の電極44はより広い電圧電位範囲に亘って繰り返すことになる。
【0022】
一実施例では、規定の閾値半電池電位は、第1の電極42の腐食が起こり得るより正のレベルに設定されるか、または、そのレベルに従って設定することができる。第1の電極における半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さいとき、フローバッテリは、腐食の可能性を減少させ、従って性能の安定性と寿命を向上させるように、記述したように均衡を保つことができる。
【0023】
第1の流体活性種24の濃度があるレベルより下に減少すると、第1の電極42における半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さくなり得る。これに関して、容器32/34は、再均衡化の間に移す必要のある電解質の量を決定するために用いることができる流体電解質22/26の容積の量と活性種24/28の濃度とを決定するための少なくとも1つのレベルセンサ54と少なくとも1つの濃度センサ56とを備える。濃度センサ54/56は、例えば、光学的または吸収にもとづく検知器であってもよい。
【0024】
それぞれの容器32/34は、両方の種類のセンサ54/56を備えることができる。代替として、容器32/34のうちの一方のみに濃度センサ54/56を備え、容器32/34のうちの他方の濃度は流体電解質22/26のレベルと濃度との間の所定の関係に基づいて決定される。
【0025】
理解できる通り、センサ54/56は、本明細書で記述するように、フローバッテリ20の作動を監視し、制御するために好適な制御装置に接続することができる。活性種24/28のモル量は、センサ54/56を用いて決定することができる。例えば、下記の式1で与えられるように、モル量(N)は、濃度(c)と容積(V)の関数である。その計算においては、この実施例において、タンクの量と比較して通常少量である、容器32/34の外側の流体電解質22/26の量を考慮していない。
【0026】
式1:
N=(c)(V)
検出されたレベルおよび濃度にもとづいて、活性種24/28のモル量は、計算することができる。モル量は互いに比較され、それらが規定のパーセンテージより多く異なっている場合、第2の流体電解質26の一部は、上述した通り、第1の流体電解質22内へポンプ送りすることができる。一実施例では、モル量が10%より多く異なる場合は、違いが10%を下回るまで、供給/貯蔵システム30が、応答して、供給ライン50を通して、第2の流体電解質26の一部を第1の流体電解質22内へとポンプ送りする。 必要な第2の液体電解質26の量は、パーセンテージにおける既知の縮小を達成するために、予め計算することができる。
【0027】
図2は、
図1のフローバッテリ20と類似している別の実施例のフローバッテリ120を示している。この開示において、適切である場合、同様な要素は同様な参照符号とし、100またはその倍数を加えた参照符号は、対応する要素と同じ特徴と利点を組み入れたものと解される修正された要素を示している。本実施例においては、フローバッテリ120は、センサ54/56を参照電極160と組み合わせて使用することができるが、センサ54/56ではなくて参照電極160を含んでいる。参照電極160は、第1の電極42の半電池電位を検出するように構成される。上述のように、第1の電極42の半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さい場合、第2の液体電解質26の一部は、液体電解質22/26を再び均衡させ、それによって腐食の可能性を減らすように、第1の液体電解質22内へと移動される。
【0028】
フローバッテリは、正電極における腐食にも影響されやすい。例えば、正電極における半電池電位は、二酸化炭素に対する炭素酸化についての熱力学電位より一般に高く、強酸においておよそ0.4V
RHEであり得る。特に、フローバッテリの充電中に、正電極における電位は、最も一般的な活性種について、フローバッテリを充電するために、炭素腐食の熱力学電位より高くなければならない。従って、炭素酸化または腐食が、正電極の通常の作動中に、遅い速度で起こり得る。正電極が腐食すると、フローバッテリの性能と寿命にとってよくない影響を及ぼすことになる。さらに、正の半電池電位が好適な高さなら、異なる機構であっても、正電極はおそらく、負電極よりもより加速した速度で腐食することになる。このように、正電極の耐久性と寿命は、また、フローバッテリの耐久性と寿命の制限要因ともいえる。幸いにも、炭素酸化反応は比較的遅く、本明細書において教示される方法を用いて、効果的に緩和することができる。
【0029】
図1のフローバッテリ20を再び参照すると、フローバッテリ20は、また、正の第2の電極44における腐食に対処するようにも構成される。しかし、理解される通り、本明細書における実施例は、他のフローバッテリの実施例に適用することもできる。一実施例では、フローバッテリ20を通る第1の流体電解質22および第2の流体電解液26の流れは、負の第1の電極44における腐食を緩和するために、フローバッテリ20の規定の作動期間に応答して反転される。つまり、供給ライン38、戻りライン40および容器32/34に関する配管は、当初負電極であった第1の電極42が現在では正電極となり、当初正電極であった第2の電極44が現在では負電極となるように切り換えられる。セル36を流れる電流も反転される。この活性の設定によって、活性が当初の負電極へと戻される。それは、また、低い作動電位によって、当初の正の第1の電極上でのさらなる局所的な腐食を防止することもできる。
【0030】
例えば、フローバッテリ20は、規定の期間、最初または当初の構成で作動することができる。その期間は、例えば、フローバッテリ20の期待有用寿命の半分とすることができる。その規定の期間後、上述の通り、フローバッテリ20は、配管を変えることによって再構成され、電流の流れは反転される。次いで、以前は最初または当初の負電極であったものが現在では正電極になり、最初または当初の正電極についてはその逆になるように、フローバッテリ20は、その残りの寿命または代替として規定の期間、切り換えられ再構成された状態で作動する。このように、最初または当初の負電極に生じる腐食は、腐食による影響をより受け難い正電極として負電極を使用することにより緩和される。負電極を正電極の酸化環境に曝すことにより、負の反応に触媒作用を及ぼす活性サイトを創出または回復する。2つの異なる電極上の劣化が、異なる腐食機構によって異なっている場合、この戦略は特に効果であり得る。例えば、正電極上の腐食は非常に局所化されることがあり、そこでは局所的な電位は最も高く、従って、炭素の腐食は最も高かったが、電極の大部分は比較的影響を受けなかった。この場合、この電極は有効な負電極となり、局所的な腐食は低い電位により、この電極上では抑制されることになる。
【0031】
その上、フローバッテリ20を反転または均衡させる能力を促進するフローバッテリ20のいくつかの他の特徴が存在する。例えば、流体電解質22/26は、実質的に同じ組成である。実施例として、バナジウムを使う場合、流体電解質22/26は、希硫酸中に溶解したバナジウム硫酸塩とすることができる。それは、流体電解質22/26中のバナジウム化学種の酸化状態が異なっているものである。従って、流体電解質22/26を互いに混合することについての懸念は、ほとんどないかあるいは全くない。
【0032】
その上、
図3に示すように、セル36は、フローバッテリ20の反転を促進するために、対称性を有するように設計することができる。例えば、第1の電極42は活性領域AAの形状寸法において第2の電極44と公称上は同一であり、供給マニホールドおよび出口マニホールドの位置が異なり得るが、電極42/44は、ラインAで表されるように、電解質セパレータ層46のまわりに対称である。電極42/44のそれぞれは、活性領域AAに関して、Bで表されているように、それぞれの垂直中間線のまわりに対称にすることもできる。従って、電極42/44は個別化された形状寸法を有さず、それぞれが正電極および負電極としての使用の切り換えが容易にできる。電極42/44は、また、垂直対称であるため、どちらの垂直方向にも使用することができる。このように、頂部および底部にある供給/出口マニホールドは、引っくり返された方向で出口/供給マニホールドとして役立ち得る。
【0033】
図4は、
図1に示すフローバッテリ20と再びいくらか類似している別の実施例のフローバッテリ220を示す。上で考察したように、第1の電極42はその炭素面上の酸素含有基に関して腐食があり得ることになり、このため第1の電極42の性能にとってよくない影響を受ける。本明細書に考察されているように、腐食は緩和され得るが、万一腐食が起こっても、第1の電極42は、活性化され、または、その場で再活性化され得る。例えば、酸素含有基を再生するために、炭素表面を酸化する酸化流体に第1の電極42を曝すことによって、フローバッテリ220から取り外さないで第1の電極42を再活性化することができる。一実施例では、正の第2の流体電解質26が酸化流体として役立つ。第2の液体電解質26がすでにフローバッテリ220内にあるので、第2の液体電解質26は再活性化のために使用するのに便利である。しかし、例えば空気などの、代替の酸化流体を使うこともできる。再活性化の時間は、酸化流体の種類によって異なり得るが、液体酸化流体よりもむしろ気体状酸化流体が長くなり得る。
【0034】
再活性化を可能とするために、フローバッテリ220は、第2の容器34を第1の電極42に直接接続する付加的供給ライン270を備える。供給ライン270には、そこを通る流れを制御するために弁272を設けることができる。第2の流体電解質26は、供給ライン270を通して供給され、戻され得る。任意選択的に、戻りのために弁276を有する別の戻りライン274を設けることができる。代替として、作動停止期間中、負電極を比較的高いカソード液電位に持っていくために、スタック内に正の反応物が過剰にある状態を確保しながら、作動停止期間中、電極を電気的に短絡することができる。
【0035】
一実施例では、フローバッテリ220の所定の使用期間に応答して、または、第1の電極42の腐食の既知の量または計算された量に応答して、第1の電極42は再活性化される。例えば、再活性化は、第1の流体電解質22を第1の電極42から第1の容器32内へと排出することを含む。第2の流体電解質26が、次いで、供給ライン270に通して第1の電極42内へとポンプ送りされる。第2の流体電解質26は、炭素表面を酸化するための再活性化に処理時間を与える、予め決められた期間、第1の電極42内に保持されることができる。例えば、予め決められた期間は、数時間から1週間、またはそれを超えることができる。再活性化後、第2の流体電解質26は、第1の電極から第2の容器34内へと排出し戻される。フローバッテリ220は、第1の電極42が再活性化され、酸化物含有基で補充された状態で、通常通りに作動され得る。
【0036】
さらなる一実施例においては、再活性化を向上させるために、フローバッテリが、完全な、または、完全に近い(90%)充電状態になるのに応答して、再活性化が選択的に実行される。充電状態において、第2の流体電解質26は、その最高酸化状態にあり、放電状態におけるそのより低い酸化状態より強い酸化剤である。従って、第2の流体電解質26は、その最高酸化状態において、より効果的に第1の電極42を酸化でき、再活性化の時間を減少させることができる。
【0037】
再活性化技術は、速度活性を向上させることによって、フローバッテリ220が性能を向上させる馴らし処置としても使用することができる。例えば、両方の電極42/44は、部分的に電極42/44を酸化するために、比較的高い充電状態で、第2の流体電解質26に曝すことができる。つまり、両方の電極42/44は、開回路における正電極として作用する。一実施例では、フローバッテリを完全充放電のサイクルを通して作動させる前に、馴らし処置がフローバッテリ220の開始処理として使用される。
【0038】
図5は、本明細書で記述されたいずれかのフローバッテリなどのフローバッテリを作動させる実施例の方法80を示す。方法80は、半電池電位が規定の閾値半電池電位より小さくなるのに応答して、フローバッテリ20/120/220内の第1の流体電解質22および第2の流体電解質26の量を再均衡化させることを含んでいる。例えば、第2の容器34からの第2の流体電解質26は、半電池電位が閾値を超えるのに応答して、第1の容器32内の第1の流体電解質22内へと混合される。フローバッテリ20/120/220に関して、本明細書でも記述されているように、82に表わされるように、方法80は、セル36を通る第1の液体電解質22および第2の液体電解液26の流れを交換することと組み合わせて使用できる。さらに、本明細書で記述され、84で表されているように、方法80は、第1の電極42を再活性化することと組み合わせて使用することもできる。電気化学的活性種24/28の基本要素が両側で同じであるならば、配管を変えたり、または、2つのタンク内の反応物を交換したりすることなく、フローバッテリ20/120/220の極性を単に逆にし、次いで、異常に長い充電をして、正電解質を負電解質に変換しかつその逆を行うことができる。
【0039】
特徴の組合せを例示的な実施例に示したが、その全てを、本開示のさまざまな実施例の利益を実現するために組み合わせる必要はない。換言すれば、本開示の実施例に従って設計されるシステムは、図のうちのいずれか1つで示した特徴の全て、または、図で概略的に示した部分の全てを、必ずしも含む必要はない。さらに、例示的な一実施例で選択された特徴を、他の例示的な実施例で選択された特徴と組み合わさることができる。
【0040】
前述の説明は、本来、限定的というよりも、例示的である。本開示の本質から必ずしも逸脱しない、開示された実施例に対する変形および修正が、当業者には明らかになり得る。本開示に与えられる法的保護の範囲は、以下の特許請求範囲を検討することによってのみ決定され得る。