(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレンを銀触媒の存在下、分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化させるエチレン酸化反応工程において生成したエチレンオキシドを含有する反応生成ガスをエチレンオキシド吸収塔へ供給し、前記エチレンオキシド吸収塔へ供給された吸収液と接触させ、エチレンオキシドを含有する前記エチレンオキシド吸収塔の塔底液をエチレンオキシド精製系へ供給し、前記エチレンオキシド精製系においてエチレンオキシドを精製する工程と、
前記エチレンオキシド吸収塔の塔頂部から排出される炭酸ガス含有ガスの少なくとも一部を炭酸ガス吸収塔へ供給し、前記炭酸ガス含有ガスを吸収液と接触させて得られる炭酸ガス濃厚吸収液を前記炭酸ガス吸収塔の塔底液として抜き出して炭酸ガス放散塔の上部へ供給し、前記炭酸ガス濃厚吸収液から炭酸ガスを放散させて前記炭酸ガス放散塔の塔頂部から排ガスとして排出させる工程と、
を含むエチレンオキシドの製造方法であって、
前記エチレンオキシド精製系が下部にリボイラーを備えたエチレンオキシド精製塔を有し、前記リボイラーを加熱するための加熱媒体を前記排ガスとの熱交換により加熱することを特徴とする、エチレンオキシドの製造方法。
【背景技術】
【0002】
エチレンオキシドは、今日ではエチレンを銀触媒の存在下で分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化して製造される。そして、エチレンオキシドの製造プロセスにおける精製方法は大略以下のとおりである(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
まず、エチレンと分子状酸素含有ガスとを銀触媒上で接触気相酸化して、エチレンオキシドを含む反応生成ガスを得る(反応工程)。次いで、得られた反応生成ガスをエチレンオキシド吸収塔へ導き、水を主成分とする吸収液と接触させて、エチレンオキシドを水溶液として回収する(吸収工程)。次いで、回収されたエチレンオキシド水溶液をエチレンオキシドの精製系へと送り、いくつかの段階を経て高純度エチレンオキシドが得られる。このエチレンオキシドの精製系は通常、放散工程、脱水工程、軽質分分離工程、重質分分離(精製)工程などからなっている。
【0004】
なお、エチレンオキシドの製造プロセスにおける多くの工程(例えば、精製系における重質分分離(精製)工程)が熱エネルギーを必要としており、その供給源としては主に水蒸気が用いられている。したがって、エチレンオキシドの製造量が増加すれば、熱エネルギー源としての水蒸気量も増大し、ランニングコストの上昇や収益の減少の要因となる。
【0005】
従来、エチレンオキシドの製造プロセスにおいて熱エネルギーを回収する技術として、反応工程で生じる反応熱を利用して水蒸気を発生させ、それをポンプなどの動力源や発電機の駆動源、酸化エチレン製造プラントおよびエチレングリコール製造プラントのプロセス蒸気として用いる技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。また、蒸留塔の塔頂からの排出ガスの排熱を回収する例として、エチレンオキシド放散塔の塔頂排ガスの排熱をエチレンオキシド精製塔の熱源として回収する技術が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0006】
ところで、従来、エチレンオキシド吸収塔の塔頂部から排出される未反応エチレン、副生した炭酸ガス(二酸化炭素;CO
2)や水、さらには不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン等)を含む排出ガスについては、そのままエチレン酸化工程に循環させるか、またはその一部を抜き出し、炭酸ガス吸収塔に導きアルカリ性吸収液により炭酸ガスを選択的に吸収させ、この吸収液を炭酸ガス放散塔に供給して炭酸ガスを放散回収することが通常行われている(例えば、特許文献4を参照)。また、炭酸ガス放散塔において放散回収された炭酸ガスを含む炭酸ガス含有ガスは、通常、炭酸ガス放散塔の塔頂部から排出されて大気中にパージされている(例えば、非特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来、エチレンオキシド製造プロセスにおける省エネルギー化を目指して、種々の技術が提案されている。しかしながら、上述した技術を採用したとしてもプロセスの省エネルギー化は十分に達成されたとは言い難いのが現状であり、よりいっそうのエネルギー効率の向上が望まれているのが現状である。特に、エチレンオキシドの製造プロセスにおけるエネルギー効率の改善は、短期的に見ればごくわずかなものであったとしても、生産量が年産数万トンを誇っている現状に鑑みれば、その経済上のメリットは計り知れない。
【0010】
そこで本発明は、エチレンオキシド製造プロセスにおけるエネルギー効率のよりいっそうの改善を達成することが可能な新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、エチレンオキシド製造プロセスにおけるエネルギー効率のよりいっそうの改善を図るべく鋭意研究を行った。その結果、炭酸ガス放散塔の塔頂排ガスの排熱を、エチレンオキシド精製系におけるエチレンオキシド精製塔の熱源として利用することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一形態は、エチレンオキシドの製造方法に関する。当該製造方法は、まず、エチレンを銀触媒の存在下、分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化させるエチレン酸化反応工程において生成したエチレンオキシドを含有する反応生成ガスをエチレンオキシド吸収塔へ供給し、エチレンオキシド吸収塔へ供給された吸収液と接触させ、エチレンオキシドを含有するエチレンオキシド吸収塔の塔底液をエチレンオキシド精製系へ供給し、エチレンオキシド精製系においてエチレンオキシドを精製する工程を含む。また、当該製造方法は、エチレンオキシド吸収塔の塔頂部から排出された炭酸ガス含有ガスの少なくとも一部を炭酸ガス吸収塔へ供給し、炭酸ガス含有ガスを吸収液と接触させて得られる炭酸ガス濃厚吸収液を炭酸ガス吸収塔の塔底液として抜き出して炭酸ガス放散塔の上部へ供給し、炭酸ガス濃厚吸収液から炭酸ガスを放散させて炭酸ガス放散塔の塔頂部から排ガスとして排出させる工程を含む。
【0013】
そして、本形態に係るエチレンオキシドの製造方法において、エチレンオキシド精製系は、下部にリボイラーを備えたエチレンオキシド精製塔を有しており、かつ、エチレンオキシド精製塔のリボイラーを加熱するための加熱媒体を、上述した炭酸ガス放散塔の塔頂部からの排ガスとの熱交換により加熱する点に特徴がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エチレンオキシドの製造プロセスにおいて、エチレンオキシド精製塔のリボイラーの加熱媒体(温水など)を加熱するために従来用いられていた水蒸気などの熱源が不要となる。その結果、エチレンオキシド製造プロセスにおけるエネルギー効率のよりいっそうの改善が図られるという、工業的にきわめて有利な効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための具体的な形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の形態のみには限定されない。
【0017】
≪反応系≫
まず、
図1を参照しつつ、エチレンの酸化反応によってエチレンオキシドを製造する系(以下、単に「反応系」とも称する)について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る炭酸ガスの回収方法を実施するエチレンオキシドの製造プロセスの構成例を示すブロック図である。
図1に示すエチレンオキシドの製造プロセスは、大きく分けて反応系、炭酸ガス系、および精製系の3つの系から構成されている。
図1は、後述する実施例で採用された製造プロセスに対応している。
【0018】
本発明で用いられる「エチレンオキシドを含有する反応生成ガス」は、エチレンを銀触媒の存在下、分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化させる工程(以下、「エチレン酸化反応工程」とも称する)で生成したものであればよい。この接触気相酸化反応の技術自体は広く知られたものであり、本発明の実施にあたっても、従来公知の知見が適宜参照されうる。なお、反応生成ガスの組成等の具体的な形態に特に制限はない。一例として、反応生成ガスは、通常0.5〜5容量%のエチレンオキシドの他、未反応酸素、未反応エチレン、生成水、二酸化炭素、窒素、アルゴン、メタン、エタン等のガスに加えて、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのアルデヒド類、酢酸等の有機酸類を微量含有している。
【0019】
図1を参照すると、まず、エチレンや分子状酸素を含有する原料ガスは、昇圧ブロワ4で昇圧された後、熱交換器(図示せず)で加熱されてエチレン酸化反応器1に供給される。エチレン酸化反応器1は通常、銀触媒が充填された反応管を多数備えた多管式反応器である。エチレン酸化反応工程で生成した反応生成ガスは、熱交換器(図示せず)を通過することで冷却された後、エチレンオキシド吸収塔(以下、単に「吸収塔」とも称する)2に供給される。具体的には、反応生成ガスは吸収塔2の塔底部から供給される。一方、吸収塔2の塔頂部からは、水を主成分とする吸収液が供給される。これにより、吸収塔2の内部において気液の向流接触が行われ、反応生成ガスに含まれるエチレンオキシド(通常は99質量%以上)が吸収液に吸収される。また、エチレンオキシドの他にも、エチレン、酸素、二酸化炭素、不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン等)、並びにエチレン酸化反応工程で生成したホルムアルデヒド等の低沸点不純物、アセトアルデヒド、酢酸等の高沸点不純物もその実質量が同時に吸収される。なお、吸収塔2に供給される反応生成ガスの温度は、好ましくは約20〜80℃である。また、吸収液の組成について特に制限はなく、水を主成分とするもののほか、特開平8−127573号公報に開示されているようなプロピレンカーボネートが吸収液として用いられてもよい。また、必要に応じて、吸収液には添加剤が添加されうる。吸収液に添加されうる添加剤としては、例えば、消泡剤やpH調整剤が挙げられる。消泡剤としては、エチレンオキシドおよび副生エチレングリコール等に対して不活性であり、吸収液の消泡効果を有するものであればいかなる消泡剤も使用されうるが、代表的な例としては、水溶性シリコンエマルションが吸収液への分散性、希釈安定性、熱安定性が優れているため、効果的である。また、pH調整剤としては、例えば、カリウム、ナトリウムといったアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩等の、吸収液に溶解しうる化合物が挙げられ、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが好ましい。なお、吸収液のpHは、好ましくは5〜12であり、より好ましくは6〜11である。
【0020】
吸収塔2としては、通常、棚段塔形式または充填塔形式の吸収塔が用いられうる。吸収塔2の操作条件としては、反応生成ガス中のエチレンオキシド濃度が0.5〜5容量%、好ましくは1.0〜4容量%であり、吸収塔2の操作圧は0.2〜4.0MPa gauge、好ましくは1.0〜3.0MPa gaugeである。吸収操作は、高圧ほど有利であるが、そのとりうる値は酸化反応器の運転圧力に応じて決定されうる。また、反応生成ガスに対する吸収液のモル流量比(L/V)は、通常0.30〜2.00である。また、反応生成ガスの標準状態における空間線速度(GHSV[NTP])は、通常400〜6000h
−1である。
【0021】
吸収塔2において吸収されなかったエチレン、酸素、二酸化炭素、不活性ガス(窒素、アルゴン、メタン、エタン)、アルデヒド、酸性物質等を含有するガスは、吸収塔2の塔頂部から導管3を通じて排出される。そして、この排出ガスは、昇圧ブロワ4によって圧力を高められた後、導管5を通じてエチレン酸化反応器1へと循環される。なお、エチレン酸化反応工程の詳細については上述したとおりである。ここで、エチレン酸化反応工程は通常、銀触媒が充填された反応管を多数備えた酸化反応器中で、加圧(1.0〜3.0MPa gauge程度の圧力)条件下にて行われる。このため、吸収塔2の塔頂部からの排出ガスをエチレン酸化反応工程へと循環する前に、昇圧ブロワ4等の昇圧手段を用いて昇圧する必要があるのである。
【0022】
≪炭酸ガス系≫
好ましい実施形態においては、
図1に示すように、吸収塔2の塔頂部から排出されるガス(炭酸ガス含有ガス)の少なくとも一部を、昇圧ブロワ4等の昇圧手段により昇圧し、導管6を通じて炭酸ガス吸収塔7へ供給する。以下、
図1を参照しつつ、炭酸ガス吸収塔7へのガスの導入に始まる炭酸ガス回収系(以下、単に「炭酸ガス系」とも称する)について説明する。
【0023】
上述したように吸収塔2の塔頂部から排出されるガスが加圧されて(導管6を通じて)炭酸ガス吸収塔7へ導入される場合、その際のガス圧力は0.5〜4.0MPa gauge程度に調節され、ガス温度は80〜120℃程度に調節される。炭酸ガス吸収塔7の後段には炭酸ガス放散塔8が設置されており、この炭酸ガス放散塔8の塔底部からはアルカリ性吸収液が炭酸ガス吸収塔7の上部へ供給される。そして、このアルカリ性吸収液との向流接触により、炭酸ガス吸収塔7へ導入されたガスに含まれる炭酸ガスや、少量の不活性ガス(例えば、エチレン、メタン、エタン、酸素、窒素、アルゴン等)が吸収される。炭酸ガス吸収塔7の塔頂部から排出される未吸収ガスは導管3へ循環され、新たに補充される酸素、エチレン、メタン等と混合された後、エチレン酸化反応器1へ循環される。
【0024】
炭酸ガス吸収塔7において炭酸ガスを吸収した炭酸ガス濃厚吸収液は、炭酸ガス吸収塔の塔底部から抜き出された後、圧力0.01〜0.5MPa gauge、温度80〜120℃程度に調節され、塔底部にリボイラー9を備えた炭酸ガス放散塔8の上部に供給される。炭酸ガス放散塔8の上部の供液部において吸収液は、炭酸ガス吸収塔7と炭酸ガス放散塔8との圧力差によって圧力フラッシュを起こす。これにより、吸収液中の10〜80容量%の炭酸ガスおよび大部分の不活性ガスは吸収液から分離され、炭酸ガス放散塔8の塔頂部から排ガスとして排出される。本発明の特徴の1つは、この排ガスの排熱を精製系におけるエチレンオキシド精製塔の熱源として利用することにあるが、その詳細については、後述する。ここで、炭酸ガス放散塔8のリボイラー9への投入蒸気量を削減するという観点からは、炭酸ガス放散塔8の運転圧力は小さいほど好ましい。具体的には、炭酸ガス放散塔8の運転圧力は、好ましくは0〜0.1MPa gaugeであり、より好ましくは0.01〜0.015MPa gaugeである。
【0025】
なお、上述した圧力フラッシュにより炭酸ガスの一部を分離された残りの炭酸ガス吸収液は、供液部の下方に設けられた気液接触部10に入り、リボイラー9より発生した蒸気および気液接触部10以下の部分から発生した炭酸ガスを主とするガスと向流接触して吸収液中の炭酸ガスの一部およびその他の不活性ガスの大部分が吸収液から分離される。炭酸ガス系におけるこれら一連のプロセスにより、気液接触部10の最上部から下方、好ましくは気液接触に必要な一理論段数以上に相当する気液接触部10の下部の炭酸ガス放散塔8の内部から、高純度の炭酸ガスが得られる。すなわち、気液接触部10で炭酸ガス吸収液中の不活性ガスは、下部から上昇してくるごく微量の不活性ガスを含む炭酸ガスと水蒸気とによって向流気液接触を起こして放散され、これにより不活性ガスの濃度は極めて低くなる。したがって、この放散後のガスを取り出せば高純度の炭酸ガスが得られる。
【0026】
≪精製系≫
吸収塔2においてエチレンオキシドを吸収した吸収液は、当該吸収塔2の塔底液として、エチレンオキシド精製系(以下、単に「精製系」とも称する)へと送られる。精製系の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、精製系は通常、放散工程、脱水工程、軽質分分離工程、重質分分離(精製)工程などからなっている。以下、
図2および
図3を参照しつつ、これらのうちのいくつかの工程からなる精製系について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係るエチレンオキシドの製造プロセスを実施するためのプロセスの構成例を示すブロック図である。
【0027】
吸収塔2の塔底液(吸収液)は、エチレンオキシド放散塔(以下、単に「放散塔」とも称する)11へ供給される前に、通常は放散塔11における放散に適した温度にまで予め加熱される。具体的には、
図2に示すように、吸収塔2の塔底液(吸収液)は導管12を通じて熱交換器13へ供給される。そして、この熱交換器13において、放散塔11の塔底液との間での熱交換が行われ、さらに必要であれば加熱器14によって加熱され、吸収塔2の塔底液(吸収液)は70〜110℃程度の温度まで加熱される。本実施形態において、放散塔11の塔底液との熱交換によって加熱された吸収塔2の塔底液(吸収液)は、導管15を通じて気液分離タンク16に供給される。気液分離タンク16においては、一部エチレンオキシドおよび水を含む不活性ガスの軽質分ガスが分離され、導管17を通じて排出される。一方、軽質分ガスをフラッシュした残部の吸収液は、導管18を通じて放散塔11の上部へ供給される。なお、導管18のように特に高温条件下でエチレンオキシドが水と共存する部位については、その配設距離を可能な限り短くするように配慮することで、吸収液の滞留時間を短くすることができ、その結果、エチレングリコールの副生の防止に資することができる。
【0028】
続いて、例えば、
図2に示すように水蒸気等の加熱媒体をリボイラー19へ供給し、当該リボイラー19において加熱された加熱媒体を用いて放散塔11を加熱するか、または、放散塔11の塔底部へ直接水蒸気を供給することによって放散塔11を加熱する。このようにして放散塔11が加熱されることによって、放散塔11の上部から供給された吸収液に含まれるエチレンオキシド(通常はその99質量%以上)が放散し、放散塔11の塔頂部から導管20を経て排出される。なお、放散塔11の操作条件は、塔頂圧力が通常0.01〜0.20MPa gauge、好ましくは0.03〜0.06MPa gaugeである。塔頂圧力は小さいほど塔内の温度が低下し、その結果として塔内におけるエチレンオキシドからのエチレングリコールの副生が抑制される傾向がある。しかしながら、エチレンオキシドは比較的着火しやすい物質であるため、系内への酸素の漏れ込みを防止するという観点から、大気圧以下での運転は通常行われず、上述したように大気圧よりもやや大きい圧力で運転される。なお、放散塔11の温度条件としては、塔頂温度は通常85〜120℃であり、塔底温度は通常100〜130℃である。
【0029】
エチレンオキシドが放散された後の残部の吸収液は、
図2に示すように、放散塔11の塔底液として抜き出され、吸収塔2における吸収液として吸収塔2の上部へ供給され、循環使用されうる。ただし、吸収液の組成を調節する目的で、別途設けた導管を通じて、新鮮な水や、必要に応じて上述した添加剤を吸収塔2へと供給してもよい。また、吸収塔2へ供給される吸収液中のエチレングリコール濃度を一定に保持することが好ましい。このため、吸収塔2と放散塔11との間を循環する吸収液の一部は放散塔11の塔底部から抜き出される。ここで、放散塔11の塔底液はエチレンオキシドを実質的に含まない。具体的には、当該塔底液中に含まれるエチレンオキシドの濃度は、好ましくは10質量ppm以下であり、より好ましくは0.5質量ppm以下である。この塔底液は、エチレン酸化反応工程とエチレンオキシド放散工程との間で吸収液中に副生したエチレングリコールを含有しており、その一部は、導管21および導管22を通じて抜き出される。導管22を通じて抜き出された液は、燃焼処理に供されるか、または、含有するエチレングリコールを濃縮して回収するためのエチレングリコール濃縮工程に供給される。さらに、場合によっては、抜き出された液に含まれるエチレングリコールをそのまま、またはエチレングリコール濃縮工程を経た後に、特公昭45−9926号公報や特公平4−28247号公報等に開示されているような化学的処理のほか、場合によっては物理的処理を施すことによって、繊維グレード製品として回収することも可能である。なお、放散塔11の塔底液は、ホルムアルデヒド等の低沸点不純物、アセトアルデヒドおよび酢酸等の高沸点不純物をも含有していることから、上述したようにその一部を系外に抜き出すことで、吸収塔2に循環される吸収液中へのこれらの不純物の蓄積を防止することができるという利点も得られる。一方、導管22を通じて抜き出されなかった放散塔の塔底液は、熱交換器13を通過することで吸収塔2の塔底液との熱交換により冷却されて、吸収塔2の塔頂部へと循環される。
【0030】
放散塔11の塔頂部から放散された、エチレンオキシドを含む放散物は、導管20を通じて、導管23および導管24に冷却水が通る放散塔凝縮器25へ送り、凝縮液は導管26を通じて放散塔11の塔頂部へ還流し、未凝縮蒸気は導管27を通じて脱水塔28(
図3)へ供給される。
【0031】
脱水塔28に供給されたエチレンオキシドを含む蒸気は、導管29を通して還流される液と接触してよりエチレンオキシド濃度の高い蒸気となり、塔底から抜き出されるエチレンオキシド濃度の低い液は導管を通して放散塔凝縮器25へ送られる。
【0032】
脱水塔28の塔頂部から排出された、エチレンオキシドを含む蒸気は、導管30を通じて、導管31および導管32に冷却水が通る脱水塔凝縮器33へ送られ、凝縮液の一部は導管29を通して脱水塔28の塔頂部へ還流し、脱水塔凝縮器33の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管34を通してエチレンオキシド再吸収塔(図示せず)へ供給される。エチレンオキシド再吸収塔では、上述した吸収塔2と同様に、吸収液との向流接触によってエチレンオキシドが再吸収される。ここで、再吸収塔35においてエチレンオキシドの再吸収に用いられる吸収液の組成やpH、再吸収塔の形態(棚段塔形式または充填塔形式)や操作条件などについては、吸収塔2について上述したのと同様である。なお、エチレンオキシド再吸収塔の塔底液は、上述した吸収塔2の塔底液と同様に精製系(本実施形態では、具体的には放散塔11)へと循環される。一方、エチレンオキシド再吸収塔において吸収されなかった未凝縮ガスは塔頂部から排出される。エチレンオキシド再吸収塔から排出された未凝縮ガスは、加圧手段によって圧力を高めた後に、吸収塔2に循環させることができる。ただし、この未凝縮ガスを炭酸ガス吸収塔7へ供給することがより好ましい。この未凝縮ガスには炭酸ガスが多く(通常は5〜60体積%程度)含まれていることから、かような構成とすることで、吸収塔2から炭酸ガス吸収塔7に供給されるガス中の炭酸ガス濃度を増加させることができる。その結果、炭酸ガス吸収塔7に供給されるガス中の炭酸ガス量の増加に起因する問題の発生が防止され、エチレンオキシドの製造プロセスからの炭酸ガスの回収をより効率的に行うことができる。より具体的には、炭酸ガス放散塔8のリボイラー9に投入する蒸気量の削減、炭酸ガス吸収促進剤の投入量の削減、吸収塔2から炭酸ガス吸収塔7に送られるガス風量の低減による昇圧ブロア動力の低減、炭酸ガス吸収塔7の設備の小型化、エチレン酸化反応器1入口の炭酸ガス濃度の低減によるエチレンオキシドの収率向上、の少なくとも1つの工業的にきわめて有利な効果が得られる。
【0033】
脱水塔凝縮器33の凝縮液の残部は導管36を通して軽質分分離塔37へ供給される。軽質分分離塔37のリボイラー38により水蒸気等の加熱媒体で導管39を通じて加熱する方式により加熱し、軽質分分離塔37の塔頂部より軽質分を含むエチレンオキシド蒸気は導管40を通じて導管41および導管42に冷却水が通る軽質分分離塔凝縮器43へ送り、凝縮液は導管44を通じて軽質分分離塔37の塔頂部へ還流し、軽質分分離塔凝縮器43の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管45を通してエチレンオキシドを回収するため上記のエチレンオキシド再吸収塔へ供給される。
【0034】
軽質分分離塔37の塔底液は導管46を通してエチレンオキシド精製塔(以下、単に「精製塔」とも称する)47へ供拾される。精製塔47は塔底部にリボイラー48を備えている。そして、本実施形態では、精製塔47のリボイラー48へは、当該リボイラー48を加熱するための加熱媒体として、圧力0.05〜0.10MPa gauge程度の水蒸気が供給されている。ただし、加熱媒体はほかの物であってもよく、例えば、グリコール水溶液、温水などが用いられうる。
【0035】
本発明では、精製塔47のリボイラー48を加熱するための加熱媒体を、上述した炭酸ガス放散塔8の塔頂部からの排ガスとの熱交換によって加熱する点に特徴がある。これを達成すべく、上記加熱媒体(水蒸気)のリボイラー48への循環経路56上には熱交換器57が設置されている。そして、この熱交換器57には炭酸ガス放散塔8の塔頂部からの排ガスが導管58を通じて供給されており、これにより上記加熱媒体(水蒸気)との間で熱交換が起こって、当該加熱媒体(水蒸気)が加熱される。なお、熱交換器57で熱交換された後の排ガスは、
図1に示すように再度炭酸ガス放散塔8の気液分離部10に循環させた後に大気中にパージすればよい。
【0036】
ここで、精製塔47は、安全上の理由から高温下での運転は好ましくないことから、精製塔47の温度は他の蒸留塔に比べて運転温度が低いという特徴がある。本発明者らの検討によれば、炭酸ガス放散塔8の塔頂温度は87℃と比較的低温であり、この温度の排ガスであれば、精製塔47の熱源としての利用が可能であることを見出したものである。すなわち、炭酸ガス放散塔8の塔頂部からの排ガスは炭酸ガスを含んだ蒸気であり、排ガス中の蒸気の熱回収効率を高めるためには、熱交換される物どうしの温度差が大きいほど好ましいことから、上記排ガスを熱交換に用いる先の温度は低いほど好ましいのである。
【0037】
上述したように加熱媒体がリボイラー48に供給されることにより、精製塔47の塔底温度35〜80℃、精製塔47の塔底圧力0.10〜0.80MPa gaugeで精製を行い、精製塔47の塔頂部から、塔頂温度12〜75℃、塔頂部圧力0.10〜0.80MPa gaugeのエチレンオキシド蒸気が、導管49および導管50に冷却水が通る精製塔凝縮器51へ送られる。そして、精製塔凝縮器51においてエチレンオキシドを液化させ、一部は導管52を通して精製塔47の塔頂部へ還流液として供給し、残部は導管53を通して製品エチレンオキシド(製品EO)として抜き出す。精製塔凝縮器51の未凝縮蒸気(エチレンオキシド含有未凝縮ガス)は導管54を通してエチレンオキシドを回収するため上記のエチレンオキシド再吸収塔へ供給される。
【0038】
なお、精製塔47の塔底液は、アセトアルデヒド、水、および酢酸等の高沸点不純物の重質分分離のため、必要により導管55を通して抜き出される。
【0039】
上述したように、精製系から排出される未凝縮蒸気(
図3に示す実施形態では、脱水塔凝縮器33、軽質分分離塔凝縮器43、および精製塔凝縮器51由来の未凝縮蒸気)はエチレンオキシドを含有している。このため、これらの未凝縮蒸気は、上記のエチレンオキシド再吸収塔へ供給される。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
【0041】
[比較例]
図2〜
図4に示すエチレンオキシドの製造プロセスによりエチレンオキシドを製造した。ここで、本比較例の定常運転時における、
図4に示す丸数字1〜丸数字23までの各部位のいくつかにおける成分量および運転条件、並びに運転に必要とされた水蒸気および冷却水の量を下記の表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
[実施例]
図1〜
図3に示すエチレンオキシドの製造プロセスによりエチレンオキシドを製造した。ここで、本実施例の定常運転時における、
図1に示す丸数字1〜丸数字24までの各部位のいくつかにおける成分量および運転条件、並びに運転に必要とされた水蒸気および冷却水の量を下記の表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表1および表2に示す結果から、回収熱量は530Mcal/hrであり、エチレンオキシドの年間生産量を6.7万トンとし、プロセスの運転のための熱源として用いられる水蒸気の発生のためのボイラーの燃料としてC重油を用いると仮定すると、炭酸ガス放散塔8のリボイラー9に投入される水蒸気の量は年間9000トン削減されることになる。また、C重油の燃焼により発生する二酸化炭素(CO
2)も、同様に年間1500トンも削減されることになる。