特許第6174353号(P6174353)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174353
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体、及び排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20170724BHJP
   B01J 29/06 20060101ALI20170724BHJP
   B01J 23/22 20060101ALI20170724BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20170724BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170724BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20170724BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   B01J35/04 301P
   B01J29/06 AZAB
   B01J23/22 A
   B01D53/86 245
   B01D53/86 280
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-75221(P2013-75221)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198315(P2014-198315A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年11月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】山本 博隆
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 正悟
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/137161(WO,A1)
【文献】 特開2011−201115(JP,A)
【文献】 特開2009−226388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90
B01D 53/94−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる第一端面から第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、前記隔壁を囲繞するように最外周に配設された外周壁と、を備え、
前記隔壁が、ゼオライト、金属バナジウム、及び酸化バナジウム化合物のうちの少なくとも一種を含み、当該隔壁全体が、一体成形品であり、
前記隔壁の40〜800℃における熱膨張係数が、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kであり、
前記外周壁の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmである、ハニカム構造体であって、
前記ハニカム構造体の形状が、当該ハニカム構造体の端面が円形の筒状又は前記端面がオーバル形状の筒状である、ハニカム構造体
【請求項2】
前記外周壁の厚さが、0.6〜3.0mmである、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記外周壁は、前記外周壁の表面に研磨処理が施されたものである、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体を収納し、排ガスが流入する流入口及び浄化された排ガスが流出する流出口を有する缶体と、を備え、
前記ハニカム構造体が、前記ハニカム構造体の前記外周壁を覆うように配置された保持材により保持された状態で、前記缶体内に固定された状態で収納されてなる、排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体、及び排ガス浄化装置に関する。更に詳しくは、熱応力による破損が有効に防止されたハニカム構造体、及び排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)などの有害物質が含まれている。こうした有害物質を低減し、排ガスを浄化する際には、触媒反応が広く用いられている。触媒を用いる排ガス浄化には、ハニカム構造体に触媒を担持させたものが広く採用されている。ハニカム構造体では、流体の流路となるセルを区画形成する隔壁によって、蜂の巣構造(ハニカム構造)が形作られている。ハニカム構造の隔壁に触媒を担持させることにより、触媒体における容積当たりの触媒の表面積が大きくなるので、排ガスと触媒とが高頻度で接触することになる。その結果、触媒を担持させたハニカム構造体では、触媒反応が促進され、高効率の排ガスの浄化が可能になる。
【0003】
近年、金属イオンによりイオン交換処理されたゼオライトを含む成形原料を成形、焼成して、ハニカム構造体を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。このようなゼオライトなどの触媒成分を含む成形原料から製造されたハニカム構造体は、別途、隔壁に触媒を担持させなくとも、ハニカム構造体自体によって、排ガス中の有害物質を浄化することができる。また、ハニカム構造体によって排ガスを浄化する場合には、例えば、ハニカム構造体を、排ガスが流入する流入口及び浄化された排ガスが流出する流出口を有する缶体内に収納した排ガス浄化装置の状態で使用されることがある。以下、上述したように、ハニカム構造体を、排ガス浄化装置の缶体内に収納することを、「キャニングする」ということがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−169104号公報
【特許文献2】特開2006−104028号公報
【特許文献3】国際公開第2009/141878号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ゼオライトなどの触媒成分を主たる成分とするハニカム構造体は、隔壁の熱膨張係数が高く、高温の排ガスに晒される環境下において、ハニカム構造体にクラックが生じやすいという問題があった。例えば、このようなハニカム構造体を、自動車などのエンジンから排出される排ガスの浄化に用いた場合には、排ガスの熱によってハニカム構造体が大きく熱膨張し、ハニカム構造体の外周壁に破損が生じやすくなっていた。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、熱応力による破損が有効に防止されたハニカム構造体、及び排ガス浄化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のハニカム構造体、及び排ガス浄化装置の検査方法を提供する。
【0008】
[1] 流体の流路となる第一端面から第二端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、前記隔壁を囲繞するように最外周に配設された外周壁と、を備え、前記隔壁が、ゼオライト、金属バナジウム、及び酸化バナジウム化合物のうちの少なくとも一種を含み、当該隔壁全体が、一体成形品であり、前記隔壁の40〜800℃における熱膨張係数が、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kであり、前記外周壁の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmである、ハニカム構造体であって、前記ハニカム構造体の形状が、当該ハニカム構造体の端面が円形の筒状又は前記端面がオーバル形状の筒状である、ハニカム構造体
【0009】
[2] 前記外周壁の厚さが、0.6〜3.0mmである、前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0010】
[3] 前記外周壁は、前記外周壁の表面に研磨処理が施されたものである、前記[1]又は[2]に記載のハニカム構造体。
【0011】
[4] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体と、前記ハニカム構造体を収納し、排ガスが流入する流入口及び浄化された排ガスが流出する流出口を有する缶体と、を備え、前記ハニカム構造体が、前記ハニカム構造体の前記外周壁を覆うように配置された保持材により保持された状態で、前記缶体内に固定された状態で収納されてなる、排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハニカム構造体は、隔壁が、ゼオライト、金属バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物としての酸化バナジウム化合物のうちの少なくとも一種を含むものであり、隔壁の40〜800℃における熱膨張係数が、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kである。そして、このハニカム構造体は、外周壁の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmである。本来、ゼオライトやバナジウムなどを含む材料からなる隔壁は、熱膨張係数が高く、耐熱性が低いものであるが、外周壁の表面の表面粗さを小さくすることで、ハニカム構造体の外周壁に均等にかつ大きな面圧を掛けることが可能となる。そして、このように、ハニカム構造体の外周壁に均等にかつ大きな面圧を掛けることで、隔壁の過度の熱膨張を、外周壁の外側から押さえ付けるようにして抑制し、ハニカム構造体の破損を有効に防止することができる。即ち、従来のハニカム構造体に比して、ハニカム構造体の外周壁に大きな面圧を掛けることが可能となり、隔壁の熱膨張係数が高いものであっても、クラックなどの破損が生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のハニカム構造体の一の実施形態の、第一端面を模式的に示す平面図である。
図3】本発明のハニカム構造体の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の排ガス浄化装置の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
(1)ハニカム構造体:
まず、本発明のハニカム構造体の一の実施形態について説明する。本実施形態のハニカム構造体は、図1図3に示すように、流体の流路となる第一端面11から第二端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1と、この隔壁1を囲繞するように最外周に配設された外周壁3と、を備えたものである。そして、このハニカム構造体100は、隔壁1が、ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一種を含むものであり、隔壁1の40〜800℃における熱膨張係数が、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kである。更に、ハニカム構造体100は、外周壁3の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmである。
【0016】
このようなハニカム構造体100は、熱応力によるハニカム構造体100の破損が有効に防止されたものである。即ち、本実施形態のハニカム構造体100は、外周壁3の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmであるため、ハニカム構造体100の外周壁3に対して、均等な面圧を掛けることができる。このため、例えば、ハニカム構造体100を、排ガス浄化装置の缶体内に収納して、排ガス中の有害成分を浄化するために用いた際に、ハニカム構造体100の外周壁3に対して、均等な面圧を掛けることができる。したがって、ハニカム構造体100の外周壁3に大きな面圧を掛けることが可能となり、隔壁1の熱膨張係数が大きくても、クラックなどの破損が生じ難くなる。即ち、このハニカム構造体100は、熱膨張によって破損し易い高熱膨張係数の隔壁1を有しているが、その一方で、外周壁3の表面粗さを小さくすることにより、熱膨張時に外周壁3に掛かる応力を均等に分散させて、ハニカム構造体100の破損を抑制できる。例えば、外周壁3の表面の表面粗さが4.0μmを超えるものであると、排ガス浄化装置の缶体内に収納して用いた際に、外周壁3の表面に均等に応力が加わらず、局所的な応力集中が生じることがある。そして、熱膨張係数が3.0×10−6〜7.0×10−6/Kのような高熱膨張係数の隔壁1では、温度が低くとも、その熱膨張量が大きくなるため、上述した応力集中によってハニカム構造体が破損してしまうことがある。なお、上述した外周壁3に加わる応力とは、例えば、外周壁3を缶体内に保持・固定するために用いられる保持材が、外周壁3の熱膨張を押さえ付けようとする際に生じる応力のことである。
【0017】
また、本実施形態のハニカム構造体100の隔壁1は、ゼオライト、金属バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物としての酸化バナジウム化合物のうちの少なくとも一種を含むものである。このため、ハニカム構造体の隔壁1自体が、内燃機関などから排出される排ガス中の有害成分を浄化するための触媒作用を有している。このため、ハニカム構造体100の隔壁1の表面などに、別途、触媒を担持させなくとも、ハニカム構造体100によって排ガスの浄化を行うことができる。「ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一種を含む」とは、隔壁中に、ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物を、1.5質量%以上含むことを意味する。隔壁が、上記群より選択される少なくとも一種を、1.5質量%以上含むことが好ましく、2.0質量%以上含むことが更に好ましい。なお、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトも、上述したゼオライトに含まれるものとする。
【0018】
ここで、図1は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態の、第一端面を模式的に示す平面図である。図3は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【0019】
隔壁1が、ゼオライトを含む場合には、隔壁1が、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトを含有することが好ましい。隔壁1における「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」の含有率が50〜90質量%であることが好ましく、60〜90質量%であることが更に好ましい。「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」の含有率が50質量%より少ないと、排ガスを浄化する能力が低下することがある。「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」の含有率が90質量%より多いと、ゼオライト構造体の強度が低下することがある。隔壁1を構成する、「金属イオンによりイオン交換されたゼオライト」以外の成分としては、アルミナ、モンモリロナイト等を挙げることができる。
【0020】
隔壁1を形成(構成)するゼオライトは、金属イオンによりイオン交換されたものであり、金属イオンを保有するものである。ゼオライトが有する金属イオンは、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。更に、NOの浄化を目的とする場合には、金属イオンが、少なくとも鉄イオン及び銅イオンを含むことが好ましい。炭化水素の吸着を目的とする場合には、金属イオンが、少なくとも銀イオン及び銅イオンを含むことが好ましい。
【0021】
ゼオライトの種類としては、ZSM−5、β−ゼオライト、ZSM−11、シャバサイト、フェリエライト等を挙げることができる。これらの中でも、良好な浄化性能及び良好な吸着性能を有することより、ZSM−5及びβ−ゼオライトが好ましい。
【0022】
隔壁1が、バナジウム元素を含む化合物を含む場合には、バナジウム元素を含む化合物、酸化バナジウム化合物である。これらの中でも触媒活性が高い、五酸化二バナジウム(化学式:V)が好ましい。
【0023】
ニカム構造体の形状としては、ハニカム構造体の端面が円形の筒状(円筒形状)、上記端面がオーバル形状の筒状を挙げることができる。図1〜図3においては、ハニカム構造体の形状が、端面が円形の筒状である場合の例を示す。
【0024】
ハニカム構造体100は、上述したように、多孔質の隔壁1と、隔壁1を囲繞するように最外周に配設された外周壁3と、を備えたものである。外周壁3は、ハニカム構造体100を作製する過程において、ハニカム成形体を押出成形する際に、隔壁1とともに形成されたものであってもよい。また、押出成形時には外周壁を形成しなくともよい。例えば、セル2を区画形成する隔壁1の外周部分に、セラミック材料を塗工して外周壁3を形成することもできる。更に、ハニカム構造体100の外周部分を研削して一度除去し、隔壁1を囲繞するようにセラミック材料を塗工して外周壁3を形成することもできる。
【0025】
上述したように、外周壁3は、その表面の表面粗さが0.5〜4.0μmである。外周壁の表面粗さは、軸方向の算術平均粗さを、Taylor Hobson社製のPGI式粗さ測定機によって測定することによって求めることができる。軸方向とは、ハニカム構造体の第一端面から第二端面に向かう方向のことである。表面粗さの測定は、例えば、第一端面側の端部付近、上記軸方向の中央部付近、及び第二端面側の端部付近の3箇所で行うことが好ましい。具体的には、ハニカム構造体の周方向に45度ずつ、側面の第一端面側の端部、軸方向の中央部、及び第二端面側の端部の3箇所ずつ測定することがより好ましい。外周壁3の表面の表面粗さは、0.8〜3.0μmであることが好ましく、0.8〜2.6μmであることが更に好ましい。外周壁3の表面粗さが4.0μmを超えると、外周壁3の表面粗さが粗すぎて、外周壁3の表面に掛かる応力が均等に分散せず、大きな面圧が掛かった際に、外周壁3に破損を生じることがある。外周壁3の表面粗さは、より小さくすることが好ましいが、製造時の外周壁3の表面加工に要するコスト及び時間の観点から、0.5μmを下限値とした。
【0026】
外周壁3は、外周壁3の表面に研磨処理が施されたものであることが好ましい。研磨処理の具体的な方法については特に制限はなく、外周壁3の表面の表面粗さを、0.5〜4.0μmにすることができる研磨処理であればよい。例えば、研磨処理としては、サンドペーパーを用いて外周表面を研磨する方法などを挙げることができる。
【0027】
本実施形態のハニカム構造体100においては、外周壁3の厚さが、0.6〜3.0mmであることが好ましく、1.0〜3.0mmであることが更に好ましく、1.5〜2.0mmであることが特に好ましい。このような厚さの外周壁3を備えることにより、隔壁1の熱膨張係数が大きくても、ハニカム構造体のアイソスタティック強度が向上し、熱衝撃によってより破損し難くなる。更に、ハニカム構造体のアイソスタティック強度を適度に維持しつつ、セル2内に流体(例えば、排ガス)を流した際における圧力損失の増大を防止することができる。例えば、外周壁3の厚さが、0.6mm未満であると、ハニカム構造体を、排ガス浄化装置の缶体内に収納する際に、大きな面圧を掛け難くなることがある。したがって、ハニカム構造体の耐熱性を向上させる効果が発現しにくいことがある。また、外周壁3の厚さが、3.0mmを超えると、質量の増加によって熱容量が増加してしまい、昇温性能が低下することがある。
【0028】
ハニカム構造体のアイソスタティック強度については特に制限はないが、1.5MPa以上が好ましく、2.0MPa以上が更に好ましく、3.0MPa以上が特に好ましい。なお、アイソスタティック強度の測定は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格(JASO規格)のM505−87で規定されているアイソスタティック破壊強度試験に基づいて行うことができる。アイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器に、ハニカム構造体を入れてアルミ製板で蓋をし、水中で等方加圧圧縮を行う試験である。
【0029】
上述したように、隔壁1の40〜800℃における熱膨張係数は、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kであり、3.0×10−6〜5.0×10−6/Kであることが好ましく、3.0×10−6〜4.0×10−6/Kであることが更に好ましい。以下、隔壁1の40〜800℃における熱膨張係数のことを、単に「隔壁1の熱膨張係数」ということがある。ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一種を含む隔壁1では、熱膨張係数が3.0×10−6/K未満になり難い。一方、隔壁1の熱膨張係数が7.0×10−6/K超であると、隔壁1の熱膨張が過大となり、外周壁3の表面の表面粗さを上述した数値範囲としても、耐熱性の低下を十分に抑制できないことがある。
【0030】
隔壁1の厚さが、0.5〜4.0μmであることが好ましく、0.8〜3.0μmであることが更に好ましく、0.8〜2.6μmであることが特に好ましい。隔壁の厚さを上記数値範囲とすることにより、隔壁1の強度を維持しつつ、圧力損失を低減することができる。
【0031】
ハニカム構造体100のセル密度が、15〜140個/cmであることが好ましい。セル密度を上記数値範囲とすることで、圧力損失の増大を有効に防止することができる。また、ハニカム構造体100の隔壁1に触媒を担持した際に、高い浄化性能を得ることができる。ハニカム構造体のセル密度とは、セルの延びる方向に直交する断面における、単位面積当たりのセルの個数のことを意味する。ハニカム構造体のセル密度が、30〜95個/cmであることが更に好ましく、45〜65個/cmであることが特に好ましい。
【0032】
隔壁1の気孔率は、40〜70%であることが好ましく、45〜65%であることが更に好ましく、50〜60%であることが特に好ましい。気孔率が40%より小さいと、圧力損失が大きくなることがある。気孔率が70%より大きいと、ハニカム構造体100の強度が低下することがある。隔壁1の気孔率は、水銀ポロシメータで測定することができる。水銀ポロシメータとしては、Micromeritics社製、商品名:Autopore 9500を挙げることができる。なお、隔壁がセオライトを含む場合、上記気孔率は、ゼオライト結晶粒子間に形成されている細孔(マクロ細孔)及び成形助剤が有する細孔(メソ細孔)を対象とした気孔率である。したがって、上記気孔率には、ゼオライト結晶に結晶構造上形成されている細孔(ミクロ細孔)は対象とされていない。ここで、ゼオライト結晶に結晶構造上形成されている細孔(ミクロ細孔)は、ゼオライトの種類に固有のものであり、例えば、ZSM−5の場合、酸素10員環の細孔を有し、細孔径が約5〜6Åである。また、β−ゼオライトの場合、酸素12員環の細孔を有し、細孔径が約5〜7.5Åである。
【0033】
セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状としては、四角形、六角形、八角形、円形、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。四角形の中でも、正方形、長方形が好ましい。
【0034】
ハニカム構造体100の第一端面11から第二端面12までの長さは、76.2〜203.2mmであることが好ましく、76.2〜152.4mmであることが更に好ましい。但し、ハニカム構造体100の第一端面11から第二端面12までの長さは、上記数値範囲に限定されることはなく、ハニカム構造体100を、種々の排ガス浄化装置に用いた際に、最適な浄化性能を得るように適宜選択すればよい。
【0035】
ハニカム構造体100の第一端面11から第二端面12に延びる方向に垂直な断面における大きさについては、特に制限はなく、ハニカム構造体100を、種々の排ガス浄化装置に用いた際に、最適な浄化性能を得るように適宜選択すればよい。なお、本実施形態のハニカム構造体100において、上記断面の形状が円形状である場合には、この断面の直径が、25.4〜330.2mmであることが好ましく、143.8〜304.8mmであることが更に好ましい。
【0036】
また、図示は省略するが、ハニカム構造体の参考例として、セグメント構造のハニカム構造体を挙げることができる。具体的には、セグメント構造のハニカム構造体としては、複数個のハニカムセグメントが、互いの側面同士が対向するように隣接して配置された状態で接合されたハニカム構造体を挙げることができる。ハニカムセグメントは、第一端面から第二端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁及び隔壁を取り囲むように配設された外壁を有するものである。複数個のハニカムセグメントを接合した接合体の最外周に、外周壁が配置される。また、複数個のハニカムセグメントを接合した接合体の外周部を研削等によって加工し、セルの延びる方向に垂直な断面の形状を円形等にした後、最外周にセラミック材料を塗工することによって外周壁を配置してもよい。このような、所謂、セグメント構造のハニカム構造体であっても、図1図3に示すような、所謂、一体型のハニカム構造体と同様の作用効果を得ることができる。なお、このようなセグメント構造のハニカム構造体は、断面の直径が266.7mm以上の場合に好適である。
【0037】
外周壁3は、隔壁1と同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。本実施形態のハニカム構造体100においては、外周壁3も、ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一種を含むものであることが好ましい。
【0038】
本実施形態のハニカム構造体100は、隔壁1の表面に、更に触媒を担持させてもよい。触媒の種類については特に制限はないが、例えば、貴金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等を挙げることができる。触媒として、貴金属、アルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物を担持した場合には、NOの浄化性能を向上させることができる。
【0039】
ハニカム構造体100の隔壁1に担持される触媒の量(以下、「触媒の担持量」という)については、特に制限はない。触媒の担持量は、50〜350g/Lであることが好ましく、100〜350g/Lであることが更に好ましく、150〜350g/Lであることが特に好ましい。
【0040】
触媒の担持量が350g/Lを超えると、浄化性能の向上を期待することができるが、その一方で、セル2の開口部分の面積が小さくなり、圧力損失が増大してしまうことがある。また、触媒の担持量が50g/L未満であると、隔壁1の表面に別途担持させた触媒による浄化性能が十分に発現しないことがある。なお、本明細書中、担持量(g/L)とは、ハニカム構造体100の隔壁1の単位体積(1L)あたりに担持される触媒の量(g)のことである。触媒を、隔壁1に担持させる方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法に準じて行うことができる。
【0041】
次に、本実施形態のハニカム構造体の製造方法について説明する。
【0042】
ハニカム構造体を作製する際には、まず、ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一種を含む隔壁を備えたハニカム構造体を作製するための成形原料を調製する。
【0043】
隔壁がゼオライトを含む場合には、成形原料は、金属イオンによりイオン交換されたゼオライト粉末と、成形助剤と、分散媒を混合して調製することが好ましい。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム構造体の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0044】
ゼオライト粉末に、金属イオンでイオン交換する処理を施す方法としては、以下の方法を挙げることができる。イオン交換する金属イオンを含有するイオン交換用溶液(金属イオン含有溶液)を調製する。例えば、銀イオンでイオン交換する場合には、硝酸銀又は酢酸銀の水溶液を調製する。また、銅イオンでイオン交換する場合には、酢酸銅、硫酸銅又は硝酸銅の水溶液を調製する。また、鉄イオンでイオン交換する場合には、硫酸鉄又は酢酸鉄の水溶液を調製する。イオン交換用溶液の濃度は、0.05〜0.5(モル/リットル)が好ましい。そして、イオン交換用溶液にゼオライト粉末を浸漬する。浸漬時間は、イオン交換させたい金属イオンの量等によって適宜決定することができる。そして、イオン交換用溶液を、ゼオライト粉末を捕集することができる金属製又は樹脂製の網を用いて濾過することにより、ゼオライト粉末とイオン交換水とを分離する。そして、分離されたゼオライト粉末を乾燥し、その後に仮焼を行うことによりイオン交換したゼオライト粉末を得ることが好ましい。乾燥条件は、80〜150℃で、1〜10時間が好ましい。仮焼の条件は、400〜600℃で、1〜10時間が好ましい。
【0045】
ゼオライト粉末(イオン交換される前のゼオライト粉末)の種類としては、ZSM−5の粉末、β−ゼオライトの粉末、ZSM−11の粉末、シャバサイトの粉末、フェリエライトの粉末等を挙げることができる。これらの中でも、良好な浄化性能ならびに良好な吸着性能を有することより、ZSM−5の粉末及びβ−ゼオライトの粉末が好ましい。
【0046】
成形助剤としては、アルミナゾル、モンモリナイト、ベーマイト等を挙げることができる。
【0047】
分散媒としては、水を挙げることができる。水の含有量は、イオン交換ゼオライト粉末100質量部に対して、30〜70質量部が好ましい。
【0048】
イオン交換ゼオライト粉末、成形助剤等の混合方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、レディゲミキサー等の混合機を用いる方法が好ましい。
【0049】
次に、成形原料を混練して柱状の成形体を形成する。成形原料を混練して柱状の成形体を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0050】
次に、得られた成形原料を成形して、円筒状のハニカム成形体を形成する。ハニカム成形体は、複数のセルを区画形成する隔壁と外周壁とを有するものである。成形原料を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する押出成形用口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることができる。
【0051】
次に、得られたハニカム形状の成形体を焼成する。なお、得られたハニカム形状の成形体を焼成する前に、成形体を乾燥することが好ましい。乾燥の方法については特に制限はない。乾燥の方法としては、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。
【0052】
また、ハニカム形状の成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム形状の成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものである。仮焼の方法については特に制限はない。仮焼は、成形体中の有機物(アルミナゾル中の有機物等)を除去することができればよい。仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0053】
次に、ハニカム形状の成形体を焼成して、ゼオライト構造体を得る。例えば、電気炉、ガス炉等を用いて、ハニカム形状の成形体を焼成することができる。焼成条件は、大気雰囲気において、500〜900℃で、1〜10時間加熱することが好ましい。このような焼成によって、成形原料中の成形助剤(アルミナゾル、ベーマイト)は、アルミナとなる。
【0054】
また、隔壁がバナジウム及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一方を含む場合には、成形原料を以下の方法で調製することが好ましい。即ち、バナジウム化合物、酸化チタン、及びアルミナ水和物を混合して、バナジウム化合物を含む隔壁を形成するための成形原料を調製する。
【0055】
次に、得られたハニカム構造体の外周壁の表面を研磨処理して、外周壁の表面の表面粗さを、0.5〜4.0μmにする。具体的には、例えば、サンドペーパーなどを用いて、外周壁の表面を研磨する。サンドペーパーの番手としては、100〜1000が好ましい。
【0056】
以上のようにして、隔壁の40〜800℃における熱膨張係数が、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kであり、外周壁の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmであるハニカム構造体を作製することができる。
【0057】
(2)排ガス浄化装置:
次に、本発明の排ガス浄化装置の一の実施形態について説明する。本実施形態の排ガス浄化装置は、これまでに説明したハニカム構造体と、このハニカム構造体を収納し、排ガスが流入する流入口及び浄化された排ガスが流出する流出口を有する缶体と、を備えたものである。そして、本実施形態の排ガス浄化装置においては、ハニカム構造体が、ハニカム構造体の外周壁を覆うように配置された保持材により保持された状態で、上記缶体内に固定された状態で収納されている。
【0058】
本実施形態の排ガス浄化装置について、以下、図4を参照しつつ、更に詳細に説明する。図4は、本発明の排ガス浄化装置の一の実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。排ガス浄化装置300は、図1図3に示すハニカム構造体100と、このハニカム構造体100を収納した缶体21と、を備えたものである。缶体21は、排ガスが流入する流入口22及び浄化された排ガスが流出する流出口23を有する。そして、ハニカム構造体100の外周壁3の表面には、ハニカム構造体100を缶体21内に保持するための保持材31が配設されている。ハニカム構造体100は、上記保持材31によって保持された状態で、缶体21内に圧入され、缶体21内に固定された状態で収納されている。以下、缶体21内にハニカム構造体100が収納される部分を、缶体21の胴部24という。また、ハニカム構造体100の第一端面11及び第二端面12の周囲に留め具32,32が配設されている。この留め具32,32によって、ハニカム構造体100は、缶体21内で、ガスGの流れ方向に動かないように固定されている。
【0059】
ハニカム構造体100は、流体の流路となる第一端面11から第二端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1と、この隔壁1を囲繞するように最外周に配設された外周壁3と、を備えている。これまでに説明したように、ハニカム構造体100は、隔壁1の熱膨張係数が、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kであり、外周壁3の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmである。また、隔壁1が、ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一種を含むものである。缶体21内に収納されたハニカム構造体100が高温に晒された場合、ハニカム構造体100が外周壁3の外側に向かって熱膨張しようとする。一方で、上述したように、ハニカム構造体100は、上記保持材31によって保持された状態で、缶体21内に圧入されているため、保持材31から外周壁3の表面に対して、ハニカム構造体100の熱膨張を押さえ付けようとする応力が働く。外周壁3の表面は、これまでに説明したように、非常に表面粗さが小さく、滑らかな面であるため、保持材31から加わる応力が、外周壁3の表面全域に均等に掛かることとなる。このため、保持材31から熱膨張を押さえ付けようとする応力が働いた場合であっても、ハニカム構造体100に破損が生じ難い。即ち、排ガス浄化装置300は、高熱膨張係数の隔壁1を有するハニカム構造体100を用いつつ、外周壁3の表面粗さを小さくすることで、熱膨張時に掛かる応力を均等に分散させて、ハニカム構造体100の破損を防止している。
【0060】
排ガス浄化装置300の缶体21内に収納されるハニカム構造体100は、図1図3に示すハニカム構造体100に限定されることはない。即ち、ハニカム構造体100は、隔壁1が、ゼオライト、バナジウム、及びバナジウム元素を含む化合物のうちの少なくとも一種を含むものであればよい。そして、このハニカム構造体100は、隔壁1の熱膨張係数が、3.0×10−6〜7.0×10−6/Kであり、外周壁3の表面の表面粗さが、0.5〜4.0μmであればよい。
【0061】
缶体21は、エンジン排気マニホルドの口径、及び浄化済みの排ガスが排出される排気系の口径(例えば、上記の排気管、マフラー等の口径)に適合するように、流入口22及び流出口23が形成されている。
【0062】
缶体21の胴部24と、缶体21の流入口22及び流出口23とは、流入口22から口径が漸増する拡管部と、流出口23に向けて口径が漸減する狭管部とを更に有していてもよい。例えば、エンジン排気マニホルドや排気管、マフラー等の口径と、缶体21の胴部24の口径が同一の場合には、上述の拡管部や狭管部については特に有していなくてもよい。
【0063】
缶体21の材質としては、例えば、ステンレス製であることが好ましく、クロム系、クロム・ニッケル系のステンレス製であることが特に好ましい。
【0064】
ハニカム構造体100を缶体21の胴部24の内部に保持する方法としては、例えば、以下のような方法を挙げることができる。即ち、ハニカム構造体100の外周壁3の表面をセラミック繊維製マット等の保持材31で包み、缶体21の胴部24の内部に圧入する方法等を挙げることができる。セラミック繊維製マット等の保持材31を用いることにより、ハニカム構造体100を、外部からの衝撃から守るとともに、断熱することができる。また、このような保持材31を用いることにより、表面粗さの小さい外周壁3の表面に均等に応力が加わり易くなる。ハニカム構造体100を、缶体21の胴部24の内部に保持した後、あらかじめ製作しておいた拡管部または狭管部を胴部24に溶接してもよい。また、缶体21をスピニング加工等によって拡管部または狭管部を作成してもよい。缶体は、ステンレス等を用いて、従来公知の金属加工方法を用いて作製することができる。
【0065】
保持材31としては、上述したセラミック繊維製マットを好適例として挙げることができる。このようなセラミック繊維製マットは、その入手や加工が容易であるとともに、十分な耐熱性及びクッション性を有するものである。セラミック繊維製マットとしては、バーミュキュライトを実質上含まない非熱膨張性マット、又は少量のバーミュキュライトを含む低熱膨張性マット等を挙げることができる。なお、保持材31は、その表面が、外周壁の表面に密着するものであることが好ましい。例えば、上述したセラミック繊維製マットなどにおいては、繊維の目の細かいものや柔軟性に優れたものなどが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
実施例1では、ハニカム構造体と、このハニカム構造体を収納し、排ガスが流入する流入口及び浄化された排ガスが流出する流出口を有する缶体と、を備えた排ガス浄化装置を製造した。
【0068】
実施例1では、まず、排ガス浄化装置に使用するハニカム構造体を作製した。具体的には、まず、ハニカム構造体を作製するための成形原料を調製した。成形原料は、バナジウム粉末と、酸化チタン粉末を混合して調製した。バナジウム粉末としては、平均粒子径が0.6〜5μmのものを用いた。平均粒子径は、レーザー回折の方法で測定した値である。このような各粉末を、5:95の質量比率(バナジウム粉末:酸化チタン粉末)で混合した。また、成形原料には、分散媒として、水を添加した。分散媒の添加量は、バナジウム粉末100質量部に対して、5質量部とした。得られた成形原料を、ニーダーを用いて混練して、坏土を得た。
【0069】
次に、得られた坏土を、真空押出成形機を用いて押出成形し、ハニカム成形体を得た。次に、ハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて50℃で200時間乾燥した。その後、40〜800℃で10時間焼成して、バナジウムを含む隔壁を備えたハニカム構造体を得た。
【0070】
その後、ハニカム構造体の外周壁の表面に研磨処理を施した。この研磨処理は、サンドペーパーを用いて外壁表面を研磨して行った。
【0071】
得られたハニカム構造体は、ハニカム構造体の第一端面から第二端面までの長さが152.4mmで、第一端面から第二端面に延びる方向に垂直な断面の直径が143.8mmの円筒形状のものであった。また、このハニカム構造体は、隔壁の厚さが305μmで、セル密度が46.5個/cmのものであった。また、隔壁の熱膨張係数が6.4×10−6/Kであった。また、ハニカム構造体の外周壁の厚さが2.8mmで、ハニカム構造体の外周壁の表面粗さが0.5μmであった。外周壁の表面粗さは、Taylor Hobson社製のPGI式粗さ測定機によって測定した値である。
【0072】
次に、ハニカム構造体の外周壁を覆うように保持材を配設し、このハニカム構造体を、流入口、胴部、及び流出口を有する缶体の内部に収納した。その後、缶体の拡管部及び狭管部をスピニング加工によって形成して、実施例1の排ガス浄化装置を製造した。保持材としては、セラミック繊維製マットを用いた。缶体内にハニカム構造体を収納した際に、缶体の内表面からハニカム構造体の外周壁表面までの間隔は、0.6mmであった。すなわち、上述した間隔に、保持材(セラミック繊維製マット)が充填されていることとなる。缶体の胴部の内部には、ハニカム構造体の第一端面が、缶体の流入口側に位置し、ハニカム構造体の第二端面が、缶体の流出口側に位置するように配置した。
【0073】
表1に、実施例1の排ガス浄化装置に使用したハニカム構造体の構成を示す。すなわち、「隔壁に含まれる成分」、「隔壁の厚さ(μm)」、「セル密度(個/cm)」、「熱膨張係数(×10−6/K)」、「外周壁の厚さ(mm)」、及び「外周壁の表面粗さ(μm)」について、表1に示す。
【0074】
また、実施例1の排ガス浄化装置について、以下の方法で、耐熱温度(℃)を測定した。耐熱温度(℃)の測定結果を、表1に示す。
【0075】
[耐熱温度(℃)]
缶体内のハニカム構造体を高温雰囲気とした電気炉内に1時間放置した後、室温雰囲気に取り出して、肉眼で亀裂の発生の有無を確認した。電気炉の加熱温度と室温との温度差から排ガス浄化装置のハニカム構造体の耐熱温度(℃)を測定した。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例2〜9、及び比較例1〜7)
隔壁に含まれる成分、隔壁の厚さ、セル密度、熱膨張係数、外周壁の厚さ、及び外周壁の表面粗さが、表1及び表2に示す値となるように構成されたハニカム構造体を作製した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化装置を製造した。なお、外周壁の表面粗さについては、サンドペーパーで外壁表面の研磨によって調節した。
【0078】
実施例4〜9、及び比較例5〜7では、以下の方法で、ハニカム構造体を作製した。まず、ゼオライト粉末と、成形助剤と、分散媒を混合して成形原料を調製した。ゼオライト粉末としては、平均粒子径が0.1〜100μmの、チャバサイトの粉末を用いた。平均粒子径は、レーザー回折の方法で測定した値である。成形助剤としては、エチレングリコールを用いた。成形原料には、分散媒として水を添加した。成形助剤の量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、4〜30質量部とした。分散媒の添加量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、10質量部とした。得られた成形原料を、ニーダーを用いて混練して、坏土を得た。
【0079】
実施例4〜9、及び比較例5〜7では、得られた坏土を、真空押出成形機を用いて押出成形し、ハニカム成形体を得た。次に、ハニカム成形体を高周波誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて400℃で2時間乾燥した。その後、40〜700℃で6時間焼成してハニカム構造体を得た。
【0080】
実施例2〜9、及び比較例1〜7の排ガス浄化装置についても、実施例1と同様方法で、耐熱温度(℃)を測定した。耐熱温度(℃)の測定結果を、表1及び表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
(結果)
表1に示すように、実施例1〜9の排ガス浄化装置においては、ハニカム構造体の耐熱温度が、全て600℃以上であった。ハニカム構造体の耐熱温度が600℃以上であれば、十分に耐熱性に優れたものであるといえる。実施例7〜9では、外周壁の厚さを0.3mmとした。この結果、耐熱温度は600℃以上あるものの、外壁の厚さが0.8mmのもの(例えば、実施例4〜6を参照)よりも耐熱温度は下がった。
【0083】
表2に示すように、比較例1の排ガス浄化装置では、隔壁の熱膨張係数が7.3×10−6/Kと高すぎるため、外周壁の表面粗さを小さくしても、ハニカム構造体の耐熱温度が低い結果となった。即ち、ハニカム構造体が熱膨張しても、表面粗さが低いため、熱膨張の過程で、比較的均一に面圧がかかるようになっているが、それ以上に、隔壁の熱膨張係数が大きすぎて、ハニカム構造体の強度を超えた面圧がかかり、ハニカム構造体が破損してしまった。また、比較例2〜7の排ガス浄化装置は、外周壁の表面粗さが大きいため、ハニカム構造体の耐熱温度が低い結果となった。即ち、ハニカム構造体が熱膨張した際に、表面粗さが高いので、ハニカム構造体の膨張を押さえ付ける力が均等に加わらず、一部局所的に過大な面圧がかかったため、ハニカム構造体が破損してしまった。以上の比較例1〜7の結果により、隔壁の熱膨張係数のみの調整、或いは、外周壁の表面粗さのみの調整では、耐熱温度の向上は困難であることが分かった。実施例1〜7のように、隔壁の熱膨張係数と外周壁の表面粗さとを所定の数値範囲とすることで、それぞれの弱点となる部分を補完して、熱応力による破損が有効に防止されたハニカム構造体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のハニカム構造体は、排ガス浄化をする触媒を担持させるための触媒担体として用いることができる。また、本発明の排ガス浄化装置は、排ガスの浄化に利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、11:第一端面、12:第二端面、21:缶体、22:流入口、23:流出口、24:胴部、31:保持材、32:留め具、100:ハニカム構造体、300:排ガス浄化装置。
図1
図2
図3
図4