特許第6174358号(P6174358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174358
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20170724BHJP
   C04B 14/38 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
   C01B32/05
   C04B14/38 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-81988(P2013-81988)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-201514(P2014-201514A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 求樹
(72)【発明者】
【氏名】江利山 祐一
(72)【発明者】
【氏名】宮木 伸行
(72)【発明者】
【氏名】宝田 恭之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和好
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0107942(US,A1)
【文献】 特開2007−290928(JP,A)
【文献】 特開昭52−088265(JP,A)
【文献】 特開2007−161528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
C04B 14/38
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2以上の炭化水素を含むガスを、リモナイトの存在下、加熱温度450〜750℃で加熱することを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記炭素材料が繊維状である、請求項に記載の炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記ガスがプラスチックまたはゴムの廃棄物を原料として得られるものである、請求項1または2に記載の炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料およびその製造方法に関し、詳しくは、安価で簡便に炭素繊維等の炭素材料を製造できる製造方法およびその製造方法によって製造された炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、様々な分野で利用されている。例えば、気相成長炭素繊維に代表されるナノオーダーの炭素繊維は、電気と熱の良導体である、機械的強度に優れる等の多彩な特性を有するため、電池分野、電子機器分野、土木・建築分野、生物・生体分野等、様々な分野で注目されている。また、人造黒鉛が、電解炉用電極・リチウムイオン二次電池用負極等の電極材料や、半導体・光ファイバ等の製造用治具として、幅広く利用されていることは説明するまでもない。
【0003】
気相成長炭素繊維の製造方法としては、基板法、気相流動法等が知られているが、従来の一般的な製造方法においては、エチレン、ベンゼン等の石油化学製品を炭素源とし、フェロセン等の高価な遷移金属触媒が用いられ、さらに1000℃以上の高い反応温度が必要とされていた。これに対し、例えば、特許文献1では、基板法により廃タイヤからカーボンナノチューブを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−184871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記製造方法においては、触媒となるコバルト、鉄等を含む金属薄膜を、スパッタリングにより基板上に形成することが要される。また、カーボンナノチューブを生長させるのに、1000℃前後の高い反応温度を要している。なお、人造黒鉛の一般的な製造においても、コークス、ピッチといった石油または石炭由来の炭素源が原料として用いられ、さらに3000℃近い温度での熱処理が必要とされる。即ち、炭素材料の製造においては、生産コストや簡便さの点において改良の余地が多いにあり、また、有限なエネルギー・資源の有効利用という点においても課題を残している。
【0006】
したがって、本発明の課題は、安価で且つ簡便であり、しかも資源・エネルギーを有効利用する、炭素材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる実情に鑑み、本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、触媒として特定の鉱石を用いることで前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、炭素数2以上の炭化水素を含むガスを、酸化鉄を含有する鉱石の存在下、加熱することを特徴とする炭素材料の製造方法である。
前記炭素材料の製造方法において、前記加熱温度が450〜800℃であることが好ましい。
【0009】
前記炭素材料の製造方法において、前記酸化鉄を含有する鉱石がリモナイトであることが好ましい。
前記炭素材料の製造方法の好適な態様として、前記炭素材料が繊維状である。
【0010】
前記炭素材料の製造方法において、前記ガスがプラスチックまたはゴムの廃棄物を原料として得られるものであることが好ましい。
また、本発明は、炭素数2以上の炭化水素を含むガスを、酸化鉄を含有する鉱石の存在下、加熱して得られる炭素材料である。
【0011】
前記炭素材料において、前記加熱温度が450〜800℃であることが好ましい。
前記炭素材料において、前記酸化鉄を含有する鉱石がリモナイトであることが好ましい。
前記炭素材料の好適な態様として、前記炭素材料が繊維状である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、プラスチック等の廃棄物からナノオーダーの繊維状炭素材料を低温で得ることができる。本発明の製造方法において触媒である酸化鉄を含有する鉱石として用いることができるリモナイトは、天然で採取される安価な鉱石である。したがって、本発明の製造方法は、安価で且つ簡便な炭素材料の製造方法であり、資源・エネルギーを有効利用するという点においても極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施例で使用した固定層流通式2段反応装置1の概略縦断面図を示す。
図2】本実施例および比較例で得られた炭素のX線回折(XRD)スペクトルを示す。
図3】本実施例および比較例で得られた炭素のラマンスペクトルを示す。
図4】実施例1で得られた炭素の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図5】実施例2で得られた炭素の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図6】実施例3で得られた炭素の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図7】実施例4で得られた炭素の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、炭素数2以上の炭化水素を含むガス(以下、「炭素源」とも称する。)を、酸化鉄を含有する鉱石の存在下、加熱することにより炭素材料を得る炭素材料の製造方法である。
【0015】
上記炭素数2以上の炭化水素としては、大気圧下250℃以上で気体である(沸点が250℃以下である)ものが好ましく、例えば、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソブタン、イソペンタン、イソヘキサン、2−エチルヘキサン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、2,4−ジメチル−1−ヘプテン、スチレン、イソブチレン、リモネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、2,4,4,6,6−ペンタメチル−1−ヘプテン、イソプレン、ブタジエン、ペンタジエン、アセチレン、プロピン、ブチン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。本発明において、炭素数2以上の炭化水素としては、炭素材料を製造する際の加熱温度を低くできる点から、不飽和結合および/または分岐鎖構造を有する炭化水素であることが好ましく、特に不飽和結合を有する炭化水素であることが好ましい。
【0016】
炭素源は、本発明の目的を達成することができる限り、炭素数2以上の炭化水素以外の成分を含んでいても差し支えない。
炭素源における炭素数2以上の炭化水素の濃度は、水素炎イオン化検出器(FID)を検出器として用いた炭素源のガスクロマトグラムにおける全ピークの面積の合計に対する、炭素数2以上の炭化水素に対応するピークの面積の合計の比率(面積%)として、好ましくは5面積%以上、より好ましくは10面積%以上である。炭素数2以上の炭化水素の濃度が前記範囲内であると、炭素材料の収率が良好である等の点で好ましい。
【0017】
本発明において、炭素源は、もちろんガス状の石油化学製品そのもの或いは石油化学製品を気化させて得られるガスであってもよいが、資源を有効利用するという意味において、モノマー、プラスチック、ゴム、有機溶剤等の廃棄物を原料として得られるガスであることが好ましい。中でも、プラスチックまたはゴムの廃棄物を、アルゴン等の不活性ガス存在下、加熱分解することにより得られるガスであることが好ましい。
【0018】
上記プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、メラミン樹脂、グアニジン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ酢酸ビニル、ロジン樹脂、石油樹脂、キシレン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリシクロペンテン、フラン樹脂、セルロース等が挙げられる。中でも、熱分解温度が低く、不飽和結合および/または分岐鎖構造を有する炭化水素が生成しやすいプラスチック類としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリプロピレングリコール、ポリ酢酸ビニル、ロジン樹脂、石油樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0019】
上記ゴムとしては、天然ゴムであっても合成ゴムであってもよく、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム等が挙げられる。中でも、熱分解温度が低いブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)が好ましい。
【0020】
プラスチックまたはゴムの廃棄物を加熱分解する際の加熱温度としては、好ましくは200〜800℃、特に好ましくは250〜800℃である。
本発明の炭素材料の製造方法においては、上記のような廃棄物を原料に用いても、炭素材料を簡易かつ効率的に製造することができる。
【0021】
本発明において、上記酸化鉄を含有する鉱石は触媒として機能する。本発明において、酸化鉄とは鉄の酸化物の総称を意味し、オキシ水酸化鉄や水酸化鉄をも含む概念である。具体的には、FeO、Fe23、Fe34、α−FeO(OH)、β−FeO(OH)、γ−FeO(OH)、δ−FeO(OH)、Fe(OH)2、Fe(OH)3等が挙げられる。このような酸化鉄を含有する鉱物としては、特に限定されるものではないが、例えば、リモナイト(褐鉄鉱)、ゲータイト(針鉄鉱)、レピドクロサイト(鱗鉄鉱)、赤金鉱、フェロキシハイト、フェリヒドライト等が挙げられるが、中でも天然で採取される安価な鉱石であることから、リモナイトが好ましい。リモナイトの産地は問わない。また、本発明においては、酸化鉄が鉱石表面に微分散しているものが好ましい。
【0022】
酸化鉄を含有する鉱石の形状には特に制限はなく、その形状として例えば粉状、顆粒状、ペレット状、ポーラス状などを挙げることができる。
酸化鉄を含有する鉱石の大きさおよびその使用量も特に制限はなく、炭素源の種類および処理量などの条件に応じて、炭素材料が効率的に得られるように適宜決定すればよい。
【0023】
本発明において、酸化鉄を含有する鉱石の存在下、炭素源を加熱する際の加熱温度としては、特に限定されるものではないが、本発明の構成を採用することにより、450〜800℃に、さらには450〜800℃未満に、さらには450〜750℃に設定することが可能となる。従来の炭素繊維等の炭素材料の製造方法においては通常1000℃以上の高い反応温度を要していたが、本発明においては、上記のとおり従来の製造方法に比較して大幅に加熱温度を低下させることができる。このため、本発明の炭素材料の製造方法によれば、炭素材料の製造コストを大幅に低減させることができる。
【0024】
加熱時間には特に制限はなく、前記加熱温度において炭素材料が効率的に得られる時間を適宜決定すればよい。
また、アルゴン等の不活性ガスの存在下で炭素源を加熱することが、触媒活性が高まる点や得られる炭素材料の質が向上する点で好ましい。
【0025】
炭素源を、酸化鉄を含有する鉱石の存在下、加熱する方法には特に制限はなく、例えば、公知の基板法、気相流動法等の気相成長法において、炭素原料ガスを触媒の存在下に加熱する方法と同様の方法を採用することができる。
【0026】
本発明の炭素材料の製造方法においては、製造条件を適宜決定することにより、様々な形状の炭素材料を得ることができる。
例えば、本発明の炭素材料の製造方法において、従来の気相成長法と類似の条件を設定することにより、繊維状の炭素材料を得ることができる。繊維状の炭素材料の繊維径は例えば10〜200nmとすることができる。
【0027】
このようにして得られた炭素材料を、更に追加加熱することにより、炭素材料の黒鉛結晶性を高めることができる。追加加熱する温度は、好ましくは1000〜3000℃である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
以下に示す実施例および比較例において炭素材料の製造に使用した装置および炭素源に含まれる成分の分析に使用した分析方法を以下に示す。
【0029】
〔炭素材料の製造に使用した装置〕
実施例および比較例における炭素材料の製造は、図1に示す固定層流通式2段反応装置1を使用して行った。図1は固定層流通式2段反応装置1の概略縦断面図である。固定層流通式2段反応装置1は、反応器2、ヒーター3およびヒーター4から形成されている。
【0030】
反応器2は、筒状の反応器であり、反応器頂部5、反応器本体部6および反応器底部7から形成されている。
反応器頂部5には、反応器本体部6に炭素源発生材料を供給するための炭素源発生材料投入口8、および反応器本体部6に不活性ガスを供給するための不活性ガス供給口9が設けられている。
【0031】
反応器本体部6は内径2.2cm、高さ130.8cmである。ヒーター3およびヒーター4は、それぞれ反応器本体部6の上部および下部を取り巻くように設置されている。反応器本体部6において、ヒーター3が設置された部分が熱分解部10であり、ヒーター4が設置された部分が触媒部11である。反応器本体部6の熱分解部10および触媒部11にそれぞれガラスウール12およびガラスウール13が充填され、反応器本体部6における触媒部11より下の部分にガラスウール14が充填されている。反応器本体部6の触媒部11においては、ガラスウール13の上に触媒層15が設けられ、ガラスウール12の下に網状の支持板16が設けられている。
反応器底部7には、不活性ガスを排出するための不活性ガス排出口17が設けられている。
【0032】
〔炭素源に含まれる成分の分析に使用した分析方法〕
炭素源に含まれる成分の分析は熱分解ガスクログラフィー分析によった。
熱分解ガスクログラフィー分析の装置および条件は以下の通りである。
装置名:フロンティアラボ株式会社製ダブルショット・パイロライザーPY−2010Dを備えたアジレント・テクノロジー株式会社製ガスクロマトグラフAgilent 7890A GC
カラム:SPB-5(長さ30m、内径250μm、膜厚0.25μm)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
測定条件:
・GC オーブン 50℃〜300℃(昇温速度10℃/min)、300℃にて5min
スプリット比 50:1
ガス流量 0.6ml/min
注入口温度 300℃
・パイロライザー 650℃
inter face 300℃
サンプル量:0.1mg
【0033】
[実施例1]
酸化鉄を含有する鉱石としてリモナイト(インドネシア ソロアコ産)を使用し、これを乳鉢で粉砕して、平均粒径D50が0.75mmである粉末を得た。この粉体0.2gを固定層流通式2段反応装置1の反応器2内の触媒部11に充填し、触媒層15を形成した。不活性ガス供給口9より反応器2内にアルゴンガスをパージした。このときの反応器2内に酸素は検出されなかった。触媒部11をヒーター4により650℃まで昇温し、この温度で保持した。熱分解部10をヒーター3により650℃まで昇温し、この温度で保持した。
【0034】
5ml/minのアルゴン気流下、炭素源発生材料としてポリエチレン(プライムポリマー製、品番HI-ZET)2gを6分間かけて炭素源発生材料投入口8より熱分解部10に供給した。供給されたポリエチレンはガラスウール12上で熱分解され、エチレンおよびプロピレンを合計で14面積%、炭素数6の炭化水素を8面積%、炭素数7の炭化水素を4面積%、炭素数8の炭化水素を3面積%、炭素数9の炭化水素を3面積%、炭素数10の炭化水素を4面積%、炭素数11の炭化水素を4面積%、炭素数12〜31の炭化水素を3面積%含有する炭素源が生成していることを、熱分解ガスクロマトグラフィー分析により確認した。
【0035】
ポリエチレンを供給し終えた時から60分間経過した後、反応器2から触媒層15を取り出した。触媒層15に炭素材料が生成していることが確認された。炭素材料の収率(使用したポリエチレンに対する生成した炭素材料の質量比)は48%であった。得られた炭素材料のX線回折(XRD)スペクトルおよびラマンスペクトルをそれぞれ図2および図3に示す。XRDスペクトルより求めたLcは37Å、d002は3.415Åであった。また、ラマンスペクトルより求めた1350cm-1のDバンドの半値幅は127cm-1、1580cm-1のGバンドの半値幅は91cm-1、Dバンドのピーク高さ/Gバンドのピーク高さ(以下D/Gという)は1.0であった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から繊維状の炭素材料が生成していることが確認された。このSEM像を図4に示す。また、元素分析(株式会社ジェイサイエンスラボ製 JM10)の結果、炭素材料における水素のモル分率/炭素のモル分率(以下H/Cという)は0.10であった。
【0036】
[実施例2]
炭素源発生材料としてポリエチレン(プライムポリマー製、品番HI-ZET)を6g用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。熱分解ガスクロマトグラフィー分析により、実施例1と同様の炭素源が生成していることを確認した。前記操作により、触媒層15に炭素材料が生成していることが確認された。炭素材料の収率(使用したポリエチレンに対する生成した炭素材料の質量比)は48%であった。得られた炭素材料のX線回折(XRD)スペクトルおよびラマンスペクトルをそれぞれ図2および図3に示す。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から繊維状の炭素材料が生成していることが確認された。このSEM像を図5に示す。H/Cは0.13であった。
【0037】
[実施例3]
炭素源発生材料としてポリスチレン-ブタジエン共重合体(JSR株式会社製スチレンブタジエンゴム、品番TR2827)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。この操作において、ポリスチレン-ブタジエン共重合体の熱分解によりスチレンを47面積%、ブタジエンを面積30%、ブタジエンダイマーを8面積%含有する炭素源が生成していることを、熱分解ガスクロマトグラフィー分析により確認した。前記操作により、触媒層15に炭素材料が生成していることが確認された。炭素材料の収率(使用したポリスチレン-ブタジエン共重合体に対する生成した炭素材料の質量比)は18%であった。得られた炭素材料のX線回折(XRD)スペクトルおよびラマンスペクトルをそれぞれ図2および図3に示す。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から繊維状の炭素材料が生成していることが確認された。このSEM像を図6に示す。H/Cは0.13であった。
【0038】
[実施例4]
炭素源発生材料として1,2-ポリブタジエン(JSR株式会社製1,2−ポリブタジエン樹脂、品番RB830)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。この操作において、1,2-ポリブタジエンの熱分解により炭素数3の炭化水素を17面積%、ブタジエンを38面積%、炭素数5の炭化水素を13面積%、ベンゼンを4面積%、トルエン以外の炭素数7の炭化水素を4面積%、トルエンを7面積%、ブタジエンダイマーを3面積%、キシレン、スチレンおよび炭素数9の炭化水素を合計で9面積%、ブタジエントライマーを2面積%、ブタジエンテトラマーを3面積%含有する炭素源が生成していることを、熱分解ガスクロマトグラフィー分析により確認した。前記操作により、触媒層15に炭素材料が生成していることが確認された。炭素材料の収率(使用した1,2-ポリブタジエンに対する生成した炭素材料の質量比)は25%であった。得られた炭素材料のX線回折(XRD)スペクトルおよびラマンスペクトルをそれぞれ図2および図3に示す。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から繊維状の炭素材料が生成していることが確認された。このSEM像を図7に示す。XRDスペクトルより求めたLcは53Å、d002は3.385Åであった。また、ラマンスペクトルより求めた1350cm−1のDバンドの半値幅は159cm-1、1580cm-1のGバンドの半値幅は75cm-1、D/Gは0.78であった。H/Cは0.14であった。
このように、炭素化の進行と繊維状の炭素材料が本発明により低温で得られることが分かった。
【0039】
[比較例1]
炭素源発生材料としてポリメタクリル酸メチル(三菱レイヨン株式会社製 ポリメタクリル酸メチル、品番ARCYPET VH001)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。この操作において、メタクリル酸メチル98面積%、メタクリル酸メチルダイマー1面積%を含有する炭素源が生成しており、炭素数2以上の炭化水素は実質的に生成していないことを、熱分解ガスクロマトグラフィー分析により確認した。前記操作により、触媒層15に炭素が生成していることが確認された。炭素の収率(使用したポリメタクリル酸メチルに対する生成した炭素の質量比)は10%であった。得られた炭素のX線回折(XRD)スペクトルおよびラマンスペクトルをそれぞれ図2および図3に示す。XRDスペクトルにおいて黒鉛由来の回折ピークは確認できなかった。また、ラマンスペクトルより求めた1350cm-1のDバンドの半値幅は260cm-1、1580cm-1のGバンドの半値幅は101cm-1、D/Gは0.28であった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から繊維状の炭素材料は生成していないことが確認された。
【0040】
このように炭素数2以上の炭化水素を含むガスを炭素源として用いないと、炭素化が進行しにくく繊維状の炭素材料も得られないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
このようにして得られた炭素材料は、例えば、リチウムイオン二次電池・リチウムイオンキャパシタ・ナトリウムイオン電池、多価イオン電池・電気二重層キャパシタ・レドックスフロー電池等の蓄電デバイス電極用材料、人工心臓弁・人工関節・人工歯根・人工靭帯・人工腱等の人工臓器用材料、コンクリート・金属・プラスチック等の強化材料、透明電極用材料、TFT電極用材料、静電防止剤等として極めて有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 固定層流通式2段反応装置
2 反応器
3,4 ヒーター
5 反応器頂部
6 反応器本体部
7 反応器底部
8 炭素源発生材料投入口
9 不活性ガス供給口
10 熱分解部
11 触媒部
12,13,14 ガラスウール
15 触媒層
16 支持板
17 不活性ガス排出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7