(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の補強用繊維コードは、接着処理剤が表面に付着しているものである。ここで接着処理剤としては、繊維によって補強される構造体(マトリックス)に適したものが採用され、特に制限は無い。より具体的には、例えばマトリックスがゴムの場合には接着処理剤がレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤であることが好ましい。
【0015】
そしてこの本発明に用いる補強用繊維コードを構成する繊維は、構造体のマトリックスを補強するために繊維状の形態をとるのであるが、この繊維としては合成繊維であることが好ましい。より具体的に例示すると、ポリエステル、ポリアリレート、脂肪族ポリアミド、ビニロン、全芳香族ポリアミド、ポリパラベンゾビスオキサゾール、炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の合成繊維であることが好ましい。中でも有機繊維であることが好ましく、特にはポリエステル繊維が好ましい。さらには繊維コードを構成する繊維が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等から選ばれる少なくとも1種のポリエステル繊維であることが好ましい。
【0016】
本発明の補強用繊維コードの用途としては、ゴム繊維複合体、特にはゴムベルトの心線として用いることが好ましいのであるが、ベルト心線として用いた場合には、上記の繊維を用いることにより、抗張力性能、寸法安定性、耐久性や汎用性の面でより最適となる。
【0017】
ここで本発明の補強用繊維コードは、1本あるいは複数本の糸条(これを「繊維コード」ということもある)の集合体であることが好ましく、さらに補強用繊維コードを構成する1本の糸条は、複数の繊維フィラメントの集合体であって、束状であることが好ましい。この1本の糸条(繊維コード)の繊度としては500〜4,000dtexであることが好ましい。このような糸条は特に撚糸、接着処理や成型工程での取り扱い性の面で好ましく、さらには1,000〜3,000dtexであることがより好ましい。このような糸条の集合体である本発明の補強用繊維コードの総繊度としては500〜15,000dtexであることが好ましい。なお、繊維のフィラメント数、断面形状、繊維物性、微細構造、ポリマー性状(分子量、末端官能基濃度など)やポリマー中の添加剤などには、特に限定を受けるものではない。また、この繊維糸条にはあらかじめ製糸段階あるいは製糸後にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂などによって前処理が施されていることも好ましい。
【0018】
本発明で用いる補強用繊維コードは、このような糸条(繊維コード)の1本以上からなる集合体であるが、さらに撚りを施したコードであることが好ましい。さらにはこの糸条を1本あるいは複数本を引き揃えて撚り(下撚)を施し、次いでこれを複数本引き揃えて撚り(上撚)を施した繊維コードであることが好ましい。特に撚りを施すことにより耐屈曲疲労等が向上する。ここで、撚数は、次式(1)で表せる撚係数K=300〜1,200を満たす範囲が接着剤の繊維コード内部への浸透性を保ち耐ホツレ性を発揮しつつ耐屈曲疲労性を満たす点で好ましく、より好ましくはK=500〜1,000である。
K=T×√D (1)
(ここで、K:撚係数、T:1mあたりの撚数[回/m]、D:総繊度[dtex])
【0019】
撚係数Kが300未満であると耐屈曲疲労性、接着性が低下し易い傾向にあり、一方でKが1,200を超える場合は強力が低下するとともに、繊維コード内部へ処理剤(第一接着処理剤)が充分に浸透せずに耐ホツレ性が低下し易い傾向がある。
なお、前記のように本発明の補強用繊維コードが、繊維糸条を1本あるいは複数本を引き揃えて撚り(下撚)を施し、次いでこれを複数本引き揃えて撚り(上撚)を施したものである場合は、下撚、上撚の何れにおいても撚係数K=300〜1,200を満たすことが好ましく、上撚と下撚の撚係数は同じであっても異なっていてもよい。
【0020】
本発明の補強用繊維コードは、このような繊維コードの表面に接着処理剤が付着した補強用繊維コードであって、その繊維コードの内層部には、分子量が1000未満の化合物A
1及び、化合物A
1より少ない量の化合物B
1を含み、化合物A
1が芳香族化合物またはα−ジカルボン酸成分を含む化合物であり、化合物B
1が化合物A
1以外の脂肪族化合物または脂環式化合物であるものである。
【0021】
ここで本発明の繊維コードの内層部に存在する化合物A
1は、分子量が1000未満の化合物であり、芳香族化合物またはα−ジカルボン酸成分を含む化合物であるが、これらの化合物は二重結合の存在により共鳴しやすい構造を有している。またここで芳香族化合物としては炭素原子のみからなる一般的な芳香族化合物ばかりでなく、炭素原子以外に窒素原子などが環状構造を構成する複素環式化合物であって、芳香性を示す複素環式芳香族化合物であることも好ましい。この化合物A
1として特に好ましい化合物を具体的に列挙すると、フェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン、等の芳香族第二級アミン類、ジメチルピラゾール等の複素環式化合物類、ジエチルマロン酸等のαジカルボン酸類を挙げることができる。中でも複素環式芳香族化合物であるジメチルピラゾールが特に好ましい。
【0022】
またこの化合物A
1よりも少ない量(重量比)として、繊維コードの内部に存在する化合物B
1は、上記の化合物A
1以外の化合物であって、芳香族性を有さない脂肪族化合物または脂環式化合物であるものである。これらの化合物B
1は、化合物A
1のように共鳴構造をとらない通常の化合物であるが、分子量的には化合物A
1と同じく1000未満の化合物である。より具体的に、この化合物B
1として特に好ましい化合物を列挙すると、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、メチルエチルケトンオキシム等のオキシム類、酸性亜硫酸ソーダ等の脂肪族系化合物が特に好ましく挙げられる。中でもラクタム類であるε−カプロラクタムが特に好ましく、さらには化合物A
1としてジメチルピラゾールを用いた場合は、化合物B
1としてラクタム類と組み合わせた場合に、繊維内部への剤の含浸性に優れ、繊維コードの性能が特に向上する。
【0023】
本発明の補強用繊維コードの内層部には、上記のような分子量が1000未満の化合物A
1及び化合物B
1を含むものであるが、さらにはこれらの化合物の分子量としては、60以上600未満であることが好ましい。
また化合物A
1の繊維コード内層部での含有量は、化合物B
1の含有量より多い(重量比)ものであることが必要であるが、さらには化合物A
1と化合物B
1の存在比(重量比)A
1/B
1比が、60/40から95/5の範囲であることが好ましい。
【0024】
ここで、化合物A
1/化合物B
2の固形分重量比を高くすると、繊維束内部での皮膜形成がより有効に行われる傾向にあり、強固な皮膜の形成がされ、最終的に本発明の繊維コードを複合体に用いた際に耐ホツレ性が向上する傾向にある。共鳴構造をとりやすい化合物A
1は、反応性が高く、皮膜形成に有効なためである。すなわち具体的な存在比としては60/40以上であることが好ましい。一方、化合物A
1/化合物B
2の固形分重量比を高くしすぎた場合、繊維内部での皮膜が硬く脆いものになりやすい傾向にあり、耐屈曲疲労性や耐久性が低下する傾向にある。固形分重量比としては95/5以下であることが好ましい。このような化合物A
1と化合物B
1の繊維に対する付着量としては0.0001〜0.2重量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
また本発明の補強用繊維コードの内層部には、このような比較的低分子の化合物以外に、エポキシ化合物等に由来する高分子化合物が共存することが好ましい。さらには、この繊維束内部に存在する化合物A
1と化合物B
1の合計付着量としては、高分子化合物等の他の繊維に付着する成分量(重量)に対し、0.01重量%〜2重量%の範囲であることが好ましい。このような高分子化合物である樹脂状の物質が多く繊維束の内層に存在することにより、高い収束性を得ることができるのである。化合物A
1およびB
1の存在量が高すぎると逆にマトリックスとの接着性が低下する傾向にあり、低すぎると繊維コードが収束しにくく、耐ホツレ性が低下する傾向にある。
【0026】
ここで本発明の繊維束内層に存在する高分子化合物としては、エポキシ化合物やラテックスゴムなどが好ましい。エポキシ化合物としては、繊維表面にエポキシ基を有するエポキシ化合物を付着させ、熱処理等により高分子量化したものであることが好ましく、具体的には、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酢酸又は過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、即ち3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジベートなどを挙げることができる。これらのうち、特に多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物、即ち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を発現するので好ましい。エポキシ化合物と、化合物A
1と化合物B
1の合計量の比としては1/2〜6/1の範囲であることが好ましい。
【0027】
さらには繊維コードの内層には、表層の接着剤層や最終的な複合材料のマトリックス成分と接着しやすいように、イソシアネート成分を含有することが好ましい。特に途中工程にて失活しにくいよう、ブロックドポリイソシアネート化合物由来のイソシアネート成分を含有することが好ましい。
【0028】
さらに本発明においては、イソシアネート成分が下記化学構造式(I)で表されるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)トリマー構造を有する化合物に由来するものであることが好ましい。
【0030】
この化合物は、上記化学構造式(I)のように、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)末端の3個のNCO基が環状構造をとったトリマー構造をその基本構造として有する化合物であるが、それぞれのトリマー構造はたとえば下記化学構造式(II)のように縮合してさらに多官能化した化合物であることも好ましい。ここで、化学構造式(II)のRは、例えばポリエチレングリコールのようなポリグリコール等、水との親和性と耐熱性を損なわない範囲で選択することができる。
【0032】
また、上記のイソシアネート成分としては、NCO官能基数が3つ以上分子中に存在することが好ましく、より接着性を向上させることが可能となる。
他のイソシアネート成分としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)化合物に由来する成分であることが好ましい。先のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)トリマー構造を有する化合物に由来する成分が柔軟であるのに対し、このジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)化合物に由来する成分は剛直であり、この2種の成分が共存することにより、強固で緻密かつ柔軟性を併せ持った皮膜を、繊維コードの内層部に形成せしめ、ホツレ性と共に、耐屈曲疲労性や接着性のより大幅な向上をもたらすことが可能となる。
【0033】
本発明の補強用繊維コードは上記のように繊維コードの内層部に化合物A
1及び化合物B
1を含み、その繊維コードの表面には接着処理剤が付着しているものである。ここで接着処理剤としてはその繊維コードが補強する対象により適宜変更しうるものであるが、特にベルト等に代表されるゴムを本発明の繊維コードにより補強する場合には、接着処理剤としてはレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系の接着剤を用いることが好ましい。
【0034】
ここで好ましく用いられるRFL系接着剤について述べると、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)中の、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比としては、1:0.6〜1:8の範囲にあるものが好ましく、より好ましくは、1:0.8〜1:6の範囲であることが好ましい。ホルムアルデヒドの添加量が少なすぎるとレゾルシン・ホルマリンの縮合物の架橋密度が低下すると共に分子量の低下を招くため、接着剤層凝集力が低下することにより接着性が低下するとともに屈曲疲労性が低下する恐れがあり、また、ホルムアルデヒドの添加量が多すぎると架橋密度上昇によりレゾルシン・ホルマリン縮合物が硬くなり、被着体ゴムとの共加硫時にRFLとゴムとの相溶化が阻害され、接着性が低下する傾向がある。
【0035】
またこの接着剤中のレゾルシン・ホルマリン(RF)とラテックス(L)との配合比率は、固形分量比で、RF/Lが1/3〜1/16であり、より好ましくは1/4〜1/10である。ゴムラテックスの比率が少なすぎるとゴムとの共加硫成分が少ないため接着力が低下しやすく、一方、ゴムラテックスの比率が多すぎると接着剤皮膜として充分な強度を得ることができないため、接着力や耐久性が低下する傾向があるとともに、接着処理した繊維コードの粘着性が著しく高くなり接着処理工程や成型工程でカムアップや取り扱い性などの工程通過性が低下する恐れがある。
【0036】
さらにこのRFLを構成するラテックスとしては、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン(VpSBR)ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)ラテックス、ポリブタジエン(PB)ラテックス等の各種のラテックスを用いることが可能である。
特にはVpSBRラテックス及び/またはCSMラテックス(以下、この「VpSBRラテクッス及び/またはCSMラテックス」の合計重量をL
1と称することがある)と、PBラテックス(以下、この「PBラテックス」の重量をL
2と称することがある)からなり、固形分重量比でL
1/L
2が25/75〜75/25であるものであることが好ましい。
【0037】
特に本発明の補強用繊維コードが、ゴム補強の中でも特に伝動ベルトに用いられる場合にこのようなラテックスを用いることが最適である。通常、伝動ベルトの圧縮ゴム層には、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム、クロロプレンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴムなどの接着性の低い高性能の合成ゴムが用いられているのであるが、本発明の補強用繊維コードは上記のような組成を採用することにより、高い親和性と共加硫性を有するとともに、繊維コードを構成するポリマーやその他の剤との間の高い親和性を併せもつことが可能となり、より高いレベルにてホツレ性、耐屈曲疲労性や接着性を改良することができたのである。ここで、L
1/L
2の固形分重量比としては、L
1が低すぎる場合には、繊維コードを構成するポリマーや伝動ベルトを構成するゴムとの親和性が低くなるために接着強度が低下する傾向にあり、屈曲疲労性や接着性が低下する傾向がある。一方、L
1が大きすぎる場合には、接着処理剤中のラテックスの不飽和結合が少なくなるために、伝動ベルトを構成するゴムとの共加硫性が低下し屈曲疲労性や接着性が低下する傾向がある。さらには、L
1/L
2の固形分重量比としては、30/70〜70/30であることがより好ましい。
【0038】
接着処理剤に用いられるレゾルシン化合物としては、あらかじめオリゴマー化したレゾルシン−ホルマリン初期縮合物やクロロフェノールとレゾルシンをホルマリンとオリゴマー化した多核クロロフェノール系レゾルシン−ホルマリン初期縮合物を必要に応じて単独あるいはそれらを組み合わせて用いても良い。
【0039】
また、この接着処理剤には、架橋剤を併用することも好ましい。好ましく添加される架橋剤としては、アミン、エチレン尿素、ブロックポリイソシアネート化合物などが例示されるが、処理剤の経時安定性、前処理剤との相互作用などを踏まえ、ブロックドポリイソシアネート化合物が好ましく用いることができる。
【0040】
この接着処理剤におけるブロックドポリイソシアネートなどの架橋剤の添加率は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)に対して0.5〜40重量%、好ましくは、10〜30重量%の範囲であるものが好ましい。添加量を増やすことにより通常は接着力が向上するが、逆に添加量が多すぎると接着剤のゴムに対する相容性が低下し、ゴムとの接着力が低下する傾向があるためである。
【0041】
さらには本発明の補強用繊維コードは、有機溶剤を含有しないことが好ましい。含有しないことにより、環境に悪影響を及ぼさないことに加えて、経時的な性能の劣化も防止することが可能となった。このような補強用繊維コードは、例えば有機溶剤系の処理液ではなく、水系の処理液を用いることにより、得ることが可能である。
【0042】
このように本発明の補強用繊維コードは、繊維コードの表面に接着処理剤が付着しており、繊維コードの内層部には化合物A
1及び化合物B
1が含有されているものである。そして本発明の補強用繊維コードでは、化合物A
1が繊維コードの表面には存在せずに、繊維コードの内層部のみに偏在することが好ましい。化合物A
1が繊維コード内層部のみに偏在する事により、繊維コード内部の接着性が向上し収束性が向上するため好ましい。特に繊維束内部にエポキシ化合物が存在している場合にこの効果は顕著であり、これはエポキシ化合物と化合物A
1との親和性によると考えられる。また繊維コード内層部にヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)トリマー構造を含有する化合物が存在することや、繊維コードの内層部にはラテックスが存在しないことが好ましい。繊維コード内層部にラテックスが存在すると化合物A
1とエポキシとの親和性を阻害するため好ましくない。また、繊維コード内層部に化合物B
1が偏在する事によりラテックスと化合物A
1の相互作用を弱めるため好ましい。このような内層部の構成をとることにより、繊維コード内層の繊維フィラメント間の接合を適度に保ち、特に耐ホツレ性を向上させることが可能になったのである。
【0043】
またこのような本発明の補強用繊維コードは、もう一つの本発明である補強用繊維コードの製造方法により、得ることができる。すなわち、繊維コードを前処理液と接着剤処理液にて2段処理する補強用繊維コードの製造方法であって、前処理液がブロックドイソシアネート化合物である化合物A
2と、それより少ない量のブロックドイソシアネート化合物である化合物B
2を含み、化合物A
2のブロック解離温度が化合物B
2のブロック解離温度よりも低く、前処理液が付着した繊維コードを一旦熱処理した後に、接着処理液を付着、乾燥処理する方法により、得ることができる。
【0044】
本発明の製造方法に用いられる繊維コードを構成する繊維は先に述べたように構造体のマトリックスを補強するための繊維状物であれば良く、合成繊維であることが好ましい。
また本発明の補強用繊維コードの構成は、先に述べたように1本あるいは複数本の糸条の集合体であることが好ましく、この繊維にはあらかじめ製糸段階あるいは製糸後にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂などによって前処理が施されていることも好ましい。さらに撚りを施したコードであることが好ましく、前記のように繊維コードが、繊維糸条を1本あるいは複数本を引き揃えて撚り(下撚)を施し、次いでこれを複数本引き揃えて撚り(上撚)を施したものであることが好ましい。
【0045】
本発明の補強用繊維コードの製造方法は、まず最初にこのような繊維コードに前処理液を処理する方法である。ここで前処理液としてはブロックイソシアネート化合物A
2(以下、化合物A
2ともいう)とそのブロック解離温度よりも低いブロック解離温度のブロックイソシアネート化合物B
2(以下、化合物B
2ともいう)を含むものであって、化合物A
2の含有量が化合物B
2の含有量よりも少ないものである。
【0046】
ここで本発明の製造方法に用いられるブロックドポリイソシアネート化合物とは、ポリイソシアネート化合物とイソシアネート基の保護基であるブロック化剤との付加反応生成物であり、加熱によりブロック成分が遊離して活性なポリイソシアネート化合物を生じせしめるものである。より具体的には、イソシアネート基(−NCO)と、ヒドロキシル基(−OH)との比が1を超えるモル比で反応させて得られる末端イソシアネート基を含有するポリイソシアネートが優れた性能を発揮するので好ましい。ブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン、等の芳香族第二級アミン類、ジメチルピラゾール等の複素環式化合物類、ジエチルマロン酸等のαジカルボン酸類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、酸性亜硫酸ソーダの脂肪族系化合物フェノール、チオフェノール、クレゾール、レゾルシノール等のフェノール類、ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第二級アミン類、フタル酸イミド類、カプロラクタム、バレロラクタム等のラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類及び酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0047】
そして、本発明の補強用繊維コードの製造方法に用いられるブロックドポリイソシアネート化合物としては、ブロック解離温度の低いブロックドポリイソシアネート化合物A
2とブロック解離温度の高いブロックドポリイソシアネート化合物B
2の両方を含有するものである。さらに好ましくは、化合物A
2のブロック解離温度としは160℃未満、特には100〜150℃の範囲内であることが好ましい。また化合物B
2のブロック解離温度としては160℃以上、特には160〜200℃の範囲内であることが好ましい。また化合物A
2の存在量が化合物B
2の存在量よりも多いことが好ましく、さらには化合物A
2/化合物B
2の固形分重量比が99/1〜60/40であることが好ましい。
【0048】
ここで、ブロック解離温度とは、ブロックドイソシアネートから熱によってブロック基が遊離してイソシアネート活性を発現する温度のことである。本発明の製造方法では、第一段の低温熱処理によってまずの化合物A
2をブロック解離し架橋せしめたあと、次いで第二段の高温熱処理によって化合物B
2をブロック解離して、化合物A
2のイソシアネート架橋体に化合物B
2を架橋せしめる。このように2段階に架橋させることによって、繊維コード内部及び表面に強靭で緻密な前処理液(第一浴接着剤)の皮膜を形成せしめることが可能となり、特に伝動ベルト用心線として用いる場合に、繊維コードのホツレ性や、耐屈曲疲労性及び接着性を高めることができるようになった。
【0049】
さらに化合物A
2と化合物B
2のブロック解離温度の差は大きい方が好ましく、化合物A
2とB
2のブロック解離温度差(=化合物B
2のブロック解離温度−化合物A
2ブロック解離温度)は30℃以上であることが好ましい。温度差が充分にあることにより、二段のイソシアネート架橋反応を行わせることが可能となった。温度差が小さすぎる場合には、化合物A
2と化合物B
2の架橋反応が同時に起こる競争反応となるために、架橋構造の制御が難しくなる。また繊維コードの内外層間などでの熱分布差によって、第一浴接着皮膜の強度差が顕在化し、ホツレ性や屈曲疲労性が低下する傾向にある。より具体的には、化合物A
2のブロック解離温度は110〜130℃、化合物B
2のブロック解離温度は160℃〜180℃であることが好ましい。
【0050】
より具体的には、本発明の製造方法にて用いられる化合物A
2としては、この化合物A
2のイソシアネート基が、芳香族化合物またはα−ジカルボン酸成分を含む化合物によりブロックされたものであることが好ましい。また芳香族化合物としては、炭素原子以外に窒素原子等が環状構造中に含有している複素環式化合物であることも好ましく、特には芳香族化合物がジメチルピラゾール(DMP)等の複素環式芳香族化合物であることが好ましい。α−ジカルボン酸成分を含む化合物としては、ジエチルマロン酸によりブロックされた化合物であることが好ましい。このような化合物A
2は共鳴構造をとりやすく、より低温でブロック体が解離することが可能となる。
【0051】
また本発明の製造方法にて用いられる化合物B
2としては、この化合物B
2のイソシアネート基が、脂肪族化合物または脂環式化合物によりブロックされたものであることが好ましい。より具体的にはメチルエチルケトンオキシム等のオキシムや、ε−カプロラクタム等のラクタムによりブロックされたものであることが好ましい。
また、ブロック解離温度はブロックを形成する化合物構造に大きく影響を受けるのであるが、化合物A
2のブロック構造としてはジメチルピラゾール(DMP)ブロック構造、化合物B
2のブロック構造としてはε−カプロラクタムブロック構造であることが特に好ましい。
【0052】
また本発明においては、ブロックドポリイソシアネート化合物A
2が下記化学構造式(I)で表されるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)トリマー構造を有する化合物からなることが好ましい。
【0054】
この上記ブロックドポリイソシアネート化合物は、上記化学構造式(I)のように、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)末端の3個のNCO基が環状構造をとったトリマー構造をその基本構造として有する化合物であるが、それぞれのトリマー構造はたとえば下記化学構造式(II)のように縮合してさらに多官能化した化合物であることも好ましい。ここで、化学構造式(II)のRは、例えばポリエチレングリコールのようなポリグリコール等、水との親和性と耐熱性を損なわない範囲で選択することができる。
【0056】
また、本発明において、ブロックドイソシアネート化合物A
2はブロックが解離した後の官能基数が3つ以上分子中に存在することが好ましい。官能基数が2以下の場合には、前処理液での架橋反応性及び接着剤処理液に対し反応性が不足する傾向にある。特に本発明の補強用繊維コードをベルト心材等のゴム補強用に用いる場合、接着処理液にはレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤が用いられるが、RFLに含まれるレゾルシノール由来の少量の水酸基では、反応性が不足する傾向にある。
【0057】
一方、ブロックドポリイソシアネート化合物B
2としては特にε−カプロラクタムブロック体のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)化合物が特に好ましい。本発明においては第一段の熱処理によってエポキシ化合物と柔軟なブロックドポリイソシアネート化合物A
2を架橋せしめ、次いで第二段の熱処理によってさらに剛直なMDI構造を有するブロックドポリイソシアネート化合物B
2を架橋せしめることによって、特に強固で緻密かつ柔軟性を併せ持った前処理液の皮膜を繊維コード内部及び表層に形成せしめ、従来水系接着処理では達成困難であったホツレ性、耐屈曲疲労性や接着性の大幅な向上の達成することができる。
【0058】
また本発明の補強用繊維コードの製造方法では、前処理液として、上記の2種のブロックイソシアネート化合物以外に、エポキシ化合物を含有することが好ましい。
ここで本発明に用いられるエポキシ化合物としては、1分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、特には化合物1kg当り2g当量以上のエポキシ基を含有する化合物であることが好ましい。より具体的には、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類と前記ハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酢酸又は過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、即ち3,4−エポキシシクロヘキセンエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジベートなどを挙げることができる。これらのうち、特に多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物、即ち多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が優れた性能を発現するので好ましい。
その他、本発明で用いる前処理剤には、ラテックス等の成分を含有することも好ましい。
【0059】
また本発明の製造方法においては、繊維コードが繊維に撚りを施した繊維コードであることが好ましく、繊維コードに撚りを施すことによって前処理液がより有効に内部まで浸透するのである。また、前処理液としては2種のブロックドポリイソシアネート化合物に加えて、エポキシ化合物を含有することが好ましく、エポキシ化合物と2種のブロックドポリイソシアネート化合物を併用することにより、2種のブロックドイソシアネート化合物の解離温度差の効果がより発揮されるのである。
さらには、本発明の前処理液にエポキシ化合物を併用する場合には、エポキシ化合物/ブロックドポリイソシアネート化合物が固形分重量比で5/95〜30/70であることが好ましい。
【0060】
本発明で用いられるブロックドポリイソシアネート化合物は、繊維を構成するポリマーに対して親和性が高く優れた浸透性と凝集力を有するが、繊維表面との接着性やポリイソシアネートの架橋反応促進、そして、強固な接着皮膜を得るためにはエポキシ化合物を併用することが好ましい。さらには、エポキシ化合物/ブロックドポリイソシアネート化合物を固形分重量比で5/95〜30/70、より好ましくは10/90〜25/75、特には15/85〜25/75で用いることが好ましい。
【0061】
エポキシ化合物を併用した場合、付着した繊維から水を留去して熱処理を行うことにより、エポキシ化合物とブロックドポリイソシアネート化合物は十分な時間をかけて繊維コードに熱拡散を行い、2種のブロック化剤が遊離することによって架橋反応せしめ高い界面補強能が得られる。この熱拡散する際には、エポキシ化合物とブロックドポリイソシアネート化合物は反応活性な低分子量成分であることが好ましい。したがって前処理液中にはエポキシ化合物やブロックドポリイソシアネート化合物を架橋させたり水で失活させたりするような水酸基やアルカリ成分を含有しないことが好ましい。
【0062】
ここで、エポキシ化合物/ブロックドポリイソシアネート化合物が固形分重量比のうち、エポキシの組成比が少なすぎる場合には、イソシアネート化合物の硬化反応速度が低下する傾向にあり、強固な架橋皮膜が得られずにホツレ性が低下しやすい。一方、エポキシ化合物の組成比が過剰になった場合には、架橋皮膜が硬く脆いものになる傾向にあり、耐屈曲疲労性、耐久性が低下しやすい。
【0063】
本発明においては、上記のエポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物を併用する場合、前処理液(第一接着処理剤)としては水分散体であることが好ましく、繊維に付与する際は、固形分濃度で2〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%の水分散体として用いることが望ましい。
【0064】
本発明の製造方法においては、この前処理液である水分散体を繊維に付与するには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、または、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、前処理液の繊維に対する固形分付着量は、0.5〜5.0重量%の範囲であることが好ましい。付着量が少なすぎると繊維コードを構成する各フィラメントを充分に集束できずにホツレ性が低下する。特に本発明の補強用繊維コードをベルト心材に用いる場合、ベルト成型時のゴムの加硫あるいはベルト使用時のアミノリシスから繊維界面を保護すべき充分かつ均一な前処理液の皮膜が得られにくい傾向にある。一方、付着量が多すぎる場合は、後の接着処理工程および成型工程にてガムアップなどが発生し、工程通過性が低下する傾向にある。したがって前処理液の繊維に対する固形分付着量としては、さらには1.0〜3.0重量%であることが好ましい。この固形分付着量を制御するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことができ、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0065】
本発明の製造方法においては、繊維コードに前処理液を付与した後熱処理を行う。ここで好ましい熱処理条件としては、2段階の加熱処理であることが好ましい。具体的には例えば、80〜150℃の温度で60〜120秒間の乾燥を行い、次いで180〜240℃の温度で60〜180秒間の熱処理を行うことが好ましい。
【0066】
これはまず第一段の熱処理により、コード表面及びコード内部の水分を留去せしめるとともに、ブロックドポリイソシアネート化合物を含む前処理液を繊維コード内部まで熱拡散させるのである。処理条件が低温や短時間の場合には、水分が留去せずに残留してしまう傾向にあり、高温熱処理でイソシアネート化合物等が失活し、強固な架橋皮膜が得られない傾向にある。逆に高温処理の場合は、イソシアネート化合物等の架橋反応が加水分解との競争反応となるため皮膜が脆化する傾向にあり、さらには繊維コード内部に残留している水分が突沸することにより繊維コード内部への前処理液(第一接着処理剤)の浸透が阻害される傾向にある。また、熱処理時間が長時間の場合は、イソシアネート化合物が空気酸化し皮膜性能が低下する傾向にある。この第一段の熱処理条件としては、温度90〜120℃で60〜120秒間であることがより好ましい。
【0067】
この乾燥熱処理に引き続き、180〜240℃の温度で60〜180秒間の第二段の熱処理を行うことが好ましい。繊維コードから水分を充分に留去した状態かつブロックドポリイソシアネート化合物等が繊維コード内部に均一に浸透した状態で架橋反応が行われる。低温や短時間処理の場合、架橋反応が充分に進まず皮膜が脆化しやすい傾向にある。逆に高温や長時間処理の場合は、イソシアネート化合物等が熱分解あるいは空気酸化し、性能が発揮しにくい傾向にある。この第二段の熱処理条件としては、200〜235℃で60〜120秒間であることがより好ましい。
【0068】
本発明の補強用繊維コードの製造方法では、上記のように繊維コードに前処理液(第一接着処理剤)を付着させ、前処理液が付着した繊維コードを一旦熱処理した後に、接着処理液を付着、乾燥処理を行う。
ここで接着処理液は本発明の補強用繊維コードが用いられるマトリックスにより適宜変更するものであるが、例えばベルト等のゴム構造体に用いる場合、接着処理液(第二接着処理剤)としてはレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤を使用することが好ましい。
このRFL系接着剤は先に述べた配合を有するものであり、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比が、1:0.6〜1:8の範囲にあるものが好ましく使用され、各種ラテックスを用いることが可能である。
【0069】
また、このレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着処理剤である処理剤には、架橋剤を併用することも好ましく、アミン、エチレン尿素、ブロックポリイソシアネート化合物などが例示されるが、処理剤の経時安定性、前処理剤との相互作用などを踏まえ、ブロックドポリイソシアネート化合物が好ましく用いることができる。架橋剤の添加率は、RFL成分に対して0.5〜40重量%の範囲であるものが好ましい。添加量を増やすことにより通常は接着力が向上するが、逆に添加量が多すぎると接着剤のゴムに対する相容性が低下し、ゴムとの接着力が低下する傾向があるためである。
【0070】
本発明においては、接着液(第二接着処理剤)を水分散体からなる処理液として使用し、その該水分散体の総固形分濃度が、5〜30重量%の範囲にあるものが好ましい。該処理液の総固形分濃度が、前記の範囲よりも低い場合には、接着剤表面張力が増加し、繊維表面に対する均一付着性が低下すると共に、固形分付着量が低下することにより接着性が低下する傾向にあり、逆に、総固形分濃度が前記の範囲よりも高い場合には、処理剤の粘度が高くなるため、固形分付着量が多くなりすぎ、接着処理工程や成型工程におけるガムアップなど工程通過性が低下する傾向にある。
【0071】
このように接着処理液(第二接着処理剤)を繊維に付着させるためには、ローラーとの接触、若しくは、ノズルからの噴霧による塗布、または、溶液への浸漬などの手段が採用できる。また、繊維コードに対する固形分付着量は、1.0〜10.0重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは1.5〜8.0重量%の範囲にあるものがよい。繊維コードに対する固形分付着量を制御するためには、前記と同様に、圧接ローラーによる絞り、スクレバー等によるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターの手段により行うことができ、付着量を多くするためには複数回付着させてもよい。
【0072】
本発明の製造方法においては、繊維コードに接着処理液を付着させ、乾燥させる。乾燥させるための熱処理条件としては100℃〜250℃の温度で60〜240秒間の二段
以上の乾燥、熱処理を行うことが好ましい。より好ましくは、120〜180℃の温度範囲で60〜180秒間乾燥し、次いで200〜245℃の温度で60〜180秒間の熱処理を行う。この乾燥・熱処理温度が低すぎるとゴム類との接着が不十分となる傾向にあり、また、乾燥・熱処理温度が高すぎると接着剤成分が高温下での空気酸化が促進され、接着活性が低下してしまう傾向がある。
【0073】
本発明の補強用繊維コードの製造方法においては、従来の溶剤処理のように遊離のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物の有機溶剤系接着処理処方を使用していないために、作業環境にやさしく、環境への影響も少ない製造方法となる。そして、繊維コード内部に浸透しやすい前処理液を、好ましくは水系接着処理剤、すなわち水分散体として付与し、2種のブロックドポリイソシアネート化合物のブロック基を順に解離して失活を抑制しつつ硬化反応させて強固で柔軟な架橋皮膜を形成せしめ、繊維表層と前処理液の含浸した繊維内層(第一接着処理剤層)、さらに繊維内層(第一接着処理剤層)と接着剤層(第二接着処理剤層)との間の界面接着強度を高めることで、高い接着性を確保しつつ、耐ホツレ性と耐屈曲疲労性の向上を両立することが可能となった。
【実施例】
【0074】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、実施例は説明のためのものであって、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本発明の実施例における評価は下記の測定法で行った。
【0075】
(1)繊維コード内層部における化合物の比率測定(熱分解GC−MS)
得られた補強用繊維コードから最外層部の接着剤層をはがし、表面に繊維が露出した繊維コードとした。さらにその繊維コードの外側1/4を削り、元の繊維コード直径に対し75%の直径となる内層部分から、5mgの測定用サンプルを採取した。
このサンプルを熱分解装置(日本分析化学工業株式会社製、キューリーポイントパイロライザー「CCP JHP−5」)及びガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製、「GC−MS QP2010」)を用いて、化合物A
1と化合物B
1のピーク面積よりカット&ウェイト法を用い化合物比率(重量比)を求めた。
(測定条件)
CCP(熱分解装置)
Oven温度;250℃、Needle温度;250℃、試料加熱;590℃×15秒
GC(ガスクロマトグラフ)
気化室温度;250℃、カラム;DB−5ms、スプリット比;1/100、
カラムオープンプログラム;60℃×2分、昇温速度10℃/分にて、180℃ないし320℃まで昇温した。
MS(質量分析計)
イオン源温度;200℃、インターフェース温度;250℃、
マスレンジ;29〜600
【0076】
(2)ブロックドポリイソシアネートのブロック解離温度
水を留去したブロックドポリイソシアネート10mgを差動型示差熱天秤装置(TG/DTA、株式会社リガク製、「TAS−200」)を用いて、窒素雰囲気下、室温から10℃/分の昇温速度で加熱し、試料が10重量%減量した温度をブロック解離温度として求めた。
【0077】
(3)コードの引張強力、切断伸度、150N荷伸(中間伸度)、150℃乾熱収縮率
JIS L1017に準じて測定を行い、それぞれ求めた。
【0078】
(4)コード硬さ
ガーレイ式硬さ測定機(テスター産業社製)を用い、JIS L1096−6.20に従って測定した。
【0079】
(5)コードの剥離接着力
接着処理繊維コードとゴムとの剥離接着力を示すものである。硫黄系EPDMゴムの未加硫シート表層に7本のコードを埋め、温度150℃で30分間、90kg/cm
2のプレス圧をかけて加硫した。次いで、両端から1本おきに計4本のコードを取り除き、残り3本のコードを同時にゴムシートから200mm/分の速度で剥離に要した力の平均を求め(N/3本)、コード一本あたりの剥離接着力(N/本)を求めた。
【0080】
(6)コードの屈曲疲労性、ホツレ性
接着処理繊維コードを、硫黄系EPDMゴムの巾50mm、長さ500mm、厚み2mmの2枚の未加硫ゴムシートに8本等間隔に埋包したのち、150℃の温度で、30分間、50Kg/cm
2のプレス圧力で加硫し、ベルト状ゴム成型品を得た。次いで該ベルト状ゴム成型品に30kgの荷重をかけて直径20mmのローラーに取り付け、100℃の雰囲気下でローラー屈曲(接触)距離100mmで100rpmの往復運動をさせ、10,000回の繰返し屈曲を行ったのち、コードを取り出して残強力を測定し、屈曲疲労後の強力維持率を求めた。また、屈曲疲労後のベルト状ゴム成型体を埋包した繊維コードの垂直方向にベルトを切断し、その断面に露出した繊維コードの集束状態を目視および光学顕微鏡で観察してホツレ性を評価した。ホツレ性は以下の通り3段階で評価判定した。
[ホツレ性(屈曲疲労試験後)]
○:繊維コードのフィラメントが集束しており外観上の異常は全く認められず良好。
△:繊維コードの一部のフィラメントに若干の集束不良箇所が見受けられるが良好。
×:繊維コードのフィラメントが集束不良が発生しており、集束していない。
【0081】
[実施例1]
ソルビトールポリグリシジルエーテル構造を有するポリエポキシド化合物(「デナコールEX−614B」ナガセケムテックス社製、濃度100%)22.8gに、界面活性剤としてジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウム塩水溶液(「ネオコールSW−C」第一工業製薬製、濃度70%)8.8gを加えて攪拌し、これを水723.7gに攪拌添加して溶解させた。ここに、ブロックドポリイソシアネート化合物A
2として官能基が3以上であるジメチルピラゾールブロック−HDIトリマーの縮合物(「Trixene 327」、英国Baxenden社製、ブロック解離温度115℃、濃度38%)(表1にaと表す)226.5gと、ブロックドポリイソシアネート化合物B
2として2官能性であるε−カプロラクタムブロックドジフェニルメタンジイソシアネート(「GRILBOND IL−6」、EMS社製、ブロック解離温度170℃、濃度50%)(表1にbと表す)18.2gを攪拌添加して、エポキシ化合物/ブロックドポリイソシアネート化合物(ブロックドポリイソシアネート化合物A
2とブロックドポリイソシアネート化合物B
2の合計)が固形分重量比で20/80、ブロックドポリイソシアネート化合物A
2/ブロックドポリイソシアネート化合物B
2の固形分重量比が90/10の前処理液(第一接着処理剤の水分散体、固形分濃度12%)を調整した。
【0082】
レゾルシン/ホルマリン(R/F)のモル比が1/0.6であるレゾルシン−ホルマリン初期縮合物(「スミカノール700S」住友化学製、濃度65%)19.8gを、水154.5gに10%苛性ソーダ水5.0gと20%アンモニア水19.9gを加えたアルカリ水溶液に溶解し、これにビニルピリジン・スチレン・ブタジエンラテックス(「Pyratex」日本エイアンドエル製、濃度41%)138.3g、ポリブタジエンラテックス(「Nippol LX111NF」日本ゼオン製、濃度55%)206.2gと水363.6gを添加した。この液に、37%ホルマリン水16.8gおよびメチルエチルケトオキシムブロックドジフェニルメタンジイソシアネート(「DM6400」明成化学製、濃度40%)75.9gを添加し、20℃で48時間熟成して固形分濃度22%の接着処理液(第二処理浴用のRFL系第二接着処理剤)を調整した。
【0083】
1,100dtex/192フィラメントのポリエチレンテレフタレート未処理繊維(「P904B」帝人ファイバー製)を2本用いて撚数220回/mのS方向の下撚を行い、次いでこの下撚コード3本を用いて撚数120回/mのZ方向の上撚を行い、ポリエステル繊維コードを得た。この繊維コードをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー製ディップコード処理機)を用いて22m/分の速度で給糸し、前記の前処理液(第一接着処理剤)に浸漬した後、定長で120℃、60秒間の乾燥、次いで定長で235℃、60秒間の熱処理を行い、引き続き前記の接着処理液(第二処理浴)に浸漬した後に、定長で160℃、120秒間の乾燥、次いで3.5%ストレッチ条件下で230℃、150秒間の熱処理を行い、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)接着処理繊維コードを得た。この接着処理繊維コードには、上記ポリエステル繊維コード重量に対して固形分換算で、前処理液(第一浴接着処理剤)が2.6重量%、接着処理液(第二浴接着処理剤)が4.8重量%付着していた。
得られた繊維コードの内層部における化合物の比率測定(熱分解GC−MS)を行ったところ、ジメチルピラゾール(DMP)に起因する化合物A
1と、ε−カプロラクタムに起因する化合物B
1との比率は、A
1/B
1=80/20であった。得られた繊維コードの性能評価結果を表1にまとめて示す。
【0084】
[実施例2,3,4,比較例1]
前処理液(第一接着処理剤)のブロックドポリイソシアネート化合物A
2/ブロックドポリイソシアネート化合物B
2の固形分重量比を、実施例1の90/10から、表1に示す通りに変更して調整した以外は、実施例1と同様にポリエステル繊維コードの接着処理を行った。得られたポリエステル接着処理繊維コードの性能評価結果を表1にまとめて示す。
【0085】
[比較例2]
前処理液(第一接着処理剤)において、ブロックドポリイソシアネート化合物A
2のみを使用し、ブロックドポリイソシアネート化合物B
2を使用しなかった以外は、実施例1と同様にポリエステル繊維コードの接着処理を行った。得られたポリエステル接着処理繊維コードの性能評価結果を表1にまとめて示す。
【0086】
【表1】
【0087】
[実施例5,6,7]
前処理液(第一接着処理剤)の、エポキシ化合物/ブロックドポリイソシアネート化合物(合計量)の固形分重量比を、実施例1の20/80から、表1に示す通り変更して調整した以外は、実施例1と同様にポリエステル繊維コードの接着処理を行った。得られたポリエステル接着処理繊維コードの性能評価結果を表2にまとめて示す。
【0088】
[実施例8]
前処理液(第一接着処理剤)において、ブロックドポリイソシアネート化合物A
2を、実施例1で用いたジメチルピラゾールブロック−HDIトリマーの縮合物に代えて、官能基が3以上であるジエチルマロン酸−HDIトリマーの縮合物(ブロック解離温度120℃、濃度25%)(表1にa’と表す)へ変更した以外は、実施例1と同様にポリエステル繊維コードの接着処理を行った。得られたポリエステル接着処理繊維コードの性能評価結果を表2にまとめて示す。
【0089】
[実施例9]
接着処理液(第二処理浴用のRFL系第二接着処理剤)において、実施例1のビニルピリジン・スチレン・ブタジエンラテックス(VpSBR)とポリブタジエンラテックス(PB)中のVpSBR(濃度41%)138.3gを、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)ラテックス(セポレックスCSM、住友精化製、濃度40%)(L1)127.5gに置き換えた以外は、実施例1と同様にポリエステル繊維コードの接着処理を行った。得られたポリエステル接着処理繊維コードの性能評価結果を表2にまとめて示す。
【0090】
【表2】
【0091】
本発明の実施例1〜9は、比較例に比べてコード硬さが高く、屈曲疲労性に優れるとともに屈曲疲労後のホツレ性もなく良好であった。また、実施例は集束性に劣る比較例に比べてコード強力と切断伸度が低い傾向があったが、これは繊維コードの内部にまで前処理液(第一接着処理剤)が浸透し強固な皮膜を形成し、集束性が高まったことを表しているが、屈曲疲労後の強力保持率が高く、また、ベルト心線として重要なモジュラス(中間伸度)、乾熱収縮率は維持しており、特に問題ではないと考えられる。
【0092】
ただし、実施例4のように前処理液中のブロックドイソシアネート化合物のうち剛直な高温解離ブロックドイソシアネート化合物B
2の比率が高くなったり、実施例7のように前処理液中のエポキシ化合物の比率が高くなると、若干接着皮膜が弱くなるとともにコード硬さ、ホツレ性や接着性が、やや低下する傾向にある。
また、比較例1では、ブロックドイソシアネート化合物を2官能性の高温解離ジイソシアネート化合物B
2のみとしたが、実施例に比べてコード硬さ、ホツレ性、接着性、屈曲疲労性いずれも劣る結果であった。