特許第6174414号(P6174414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174414
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20170724BHJP
【FI】
   B60H1/32 623Z
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-164004(P2013-164004)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-30450(P2015-30450A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 竜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 謙一
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕平
【審査官】 石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/118198(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/084738(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/117924(WO,A1)
【文献】 特開平9−86149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、
冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、
前記車室外に設けられて冷媒を吸熱させる室外熱交換器と、
該室外熱交換器に流入する冷媒を減圧させる膨張弁と、
制御手段とを備え、
該制御手段により、前記圧縮機から吐出された冷媒を前記放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を前記膨張弁で減圧した後、前記室外熱交換器にて吸熱させて前記車室内を暖房する車両用空気調和装置において、
前記制御手段は、前記膨張弁により前記放熱器における冷媒の過冷却度を制御し、高圧圧力に基づいて前記圧縮機の回転数を制御すると共に、
前記高圧圧力を所定の高い値とする方向で前記放熱器の目標放熱器過冷却度を高くする高圧優先モードと、
前記圧縮機の回転数を所定の高い値とする方向で前記放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させる回転数優先モードとを有することを特徴とする車両用空気調和装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記高圧優先モードと回転数優先モードを切り換えて実行することにより、前記高圧圧力を前記所定の高い値に維持しながら、前記圧縮機の回転数を高く維持するよう前記放熱器の目標放熱器過冷却度を変更することを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記高圧優先モードを実行して前記高圧圧力を前記所定の高い値とする方向で前記放熱器の目標放熱器過冷却度を高くすると共に、前記高圧圧力が前記所定の高い値となった場合に、前記回転数優先モードに移行し、前記圧縮機の回転数を前記所定の高い値とする方向で前記放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させることを特徴とする請求項2に記載の車両用空気調和装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記高圧優先モードでは前記高圧圧力を制御上限値とする方向で前記放熱器の目標放熱器過冷却度を高くすると共に、前記回転数優先モードでは前記圧縮機の回転数を制御上限値とする方向で前記放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記高圧優先モードでは前記高圧圧力の制御上限値と実際の高圧圧力との偏差に基づき、前記放熱器の目標放熱器過冷却度をフィードバック補正すると共に、前記回転数優先モードでは前記圧縮機の回転数の制御上限値と実際の回転数との偏差に基づき、前記放熱器の目標放熱器過冷却度をフィードバック補正することを特徴とする請求項4に記載の車両用空気調和装置。
【請求項6】
前記制御手段は、効率優先制御と能力優先制御とを有し、
前記効率優先制御では前記放熱器の通過風量に基づいて前記放熱器の目標放熱器過冷却度を決定すると共に、
前記放熱器による暖房能力が不足している条件が成立した場合に前記能力優先制御に移行し、該能力優先制御において、前記高圧優先モードと回転数優先モードを実行し、前記放熱器の目標放熱器過冷却度を補正することを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項7】
前記放熱器を出た冷媒の一部を分流して前記圧縮機に戻すインジェクション回路を備え、
前記制御手段は、前記インジェクション回路により前記放熱器を出た冷媒の一部を前記圧縮機に戻す場合と戻さない場合とで、前記能力優先制御に移行する条件を変更することを特徴とする請求項6に記載の車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内を空調するヒートポンプ方式の車両用空気調和装置、特にハイブリッド自動車や電気自動車に適用可能な車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題の顕在化から、ハイブリッド自動車や電気自動車が普及するに至っている。そして、このような車両に適用することができる空気調和装置として、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、車室内側に設けられて冷媒を放熱させる放熱器(凝縮器)と、車室内側に設けられて冷媒を吸熱させる吸熱器(蒸発器)と、車室外側に設けられて冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器等から構成される冷媒回路を備え、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を室外熱交換器において吸熱させる暖房モードと、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を吸熱器において吸熱させる除湿モードと、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる冷房モードの各モードを切り換えて実行するものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献1では暖房モードにおいて放熱器から出た冷媒を分流し、この分流した冷媒を減圧した後、当該放熱器を出た冷媒と熱交換させ、圧縮機の圧縮途中に戻すインジェクション回路を設け、それにより圧縮機の吐出冷媒を増加させ、放熱器による暖房能力を向上させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3985384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、圧縮機の回転数には制御上の上限値が設定されている(制御上限値)。即ち、圧縮機の回転数はこの制御上限値を超える設定とすることはできない。また、冷媒回路の高圧圧力にも圧縮機保護のために制御上の上限値があり、放熱器における冷媒の過冷却度が高く、高圧圧力が制御上限値を超えた場合には、圧縮機の回転数を低下させて高圧圧力を抑える制御が成される。
【0006】
しかしながら、高圧圧力を制御上限値以下に維持することができても、そのとき圧縮機の回転数は低下しているために冷媒流量が少なく、放熱器による暖房能力が不足して、車室内への吹出温度が低下し、所望の暖房性能を満足することができなくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、暖房時に高圧圧力と冷媒流量の双方を満足する放熱器の冷媒過冷却度を適切に制御して暖房能力の向上を図ることができる車両用空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用空気調和装置は、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、車室外に設けられて冷媒を吸熱させる室外熱交換器と、この室外熱交換器に流入する冷媒を減圧させる膨張弁と、制御手段とを備え、この制御手段により、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器にて放熱させ、放熱した当該冷媒を膨張弁で減圧した後、室外熱交換器にて吸熱させて車室内を暖房するものであって、制御手段は、膨張弁により放熱器における冷媒の過冷却度を制御し、高圧圧力に基づいて圧縮機の回転数を制御すると共に、高圧圧力を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を高くする高圧優先モードと、圧縮機の回転数を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させる回転数優先モードとを有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御手段は、高圧優先モードと回転数優先モードを切り換えて実行することにより、高圧圧力を所定の高い値に維持しながら、圧縮機の回転数を高く維持するよう放熱器の目標放熱器過冷却度を変更することを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御手段は、高圧優先モードを実行して高圧圧力を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を高くすると共に、高圧圧力が所定の高い値となった場合に、回転数優先モードに移行し、圧縮機の回転数を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において制御手段は、高圧優先モードでは高圧圧力を制御上限値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を高くすると共に、回転数優先モードでは圧縮機の回転数を制御上限値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させることを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御手段は、高圧優先モードでは高圧圧力の制御上限値と実際の高圧圧力との偏差に基づき、放熱器の目標放熱器過冷却度をフィードバック補正すると共に、回転数優先モードでは圧縮機の回転数の制御上限値と実際の回転数との偏差に基づき、放熱器の目標放熱器過冷却度をフィードバック補正することを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において制御手段は、効率優先制御と能力優先制御とを有し、効率優先制御では放熱器の通過風量に基づいて放熱器の目標放熱器過冷却度を決定すると共に、放熱器による暖房能力が不足している条件が成立した場合に能力優先制御に移行し、この能力優先制御において、高圧優先モードと回転数優先モードを実行し、放熱器の目標放熱器過冷却度を補正することを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において放熱器を出た冷媒の一部を分流して圧縮機に戻すインジェクション回路を備え、制御手段は、インジェクション回路により放熱器を出た冷媒の一部を圧縮機に戻す場合と戻さない場合とで、能力優先制御に移行する条件を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制御手段が高圧圧力を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を高くする高圧優先モードと、圧縮機の回転数を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させる回転数優先モードとを有しているので、請求項2の発明の如く高圧優先モードと回転数優先モードを切り換えて実行することにより、高圧圧力を所定の高い値に維持しながら、圧縮機の回転数を高く維持するよう放熱器の目標放熱器過冷却度を変更することで、暖房時に高圧圧力を維持しながら、冷媒流量も確保して暖房能力の向上を図ることが可能となる。
【0016】
この場合、例えば請求項3の発明の如く高圧優先モードを実行して高圧圧力を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を高くし、高圧圧力が所定の高い値となった場合に、回転数優先モードに移行し、圧縮機の回転数を所定の高い値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させることにより、高圧圧力と冷媒流量の双方を満足させる放熱器の冷媒過冷却度を適切に制御することができるようになる。
【0017】
特に、請求項4の発明の如く高圧優先モードでは高圧圧力を制御上限値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を高くすると共に、回転数優先モードでは圧縮機の回転数を制御上限値とする方向で放熱器の目標放熱器過冷却度を低下させるようにすれば、放熱器の冷媒過冷却度を適切に制御して、高圧圧力を制御上限値以下に抑制しながら、圧縮機の回転数を高くして冷媒流量も維持し、暖房能力を向上させることができる。
【0018】
この場合、請求項5の発明の如く高圧優先モードでは高圧圧力の制御上限値と実際の高圧圧力との偏差に基づき、放熱器の目標放熱器過冷却度をフィードバック補正すると共に、回転数優先モードでは圧縮機の回転数の制御上限値と実際の回転数との偏差に基づき、放熱器の目標放熱器過冷却度をフィードバック補正することにより、常に安定した放熱器の冷媒過冷却度の補正を実現することが可能となる。
【0019】
また、請求項6の発明の如く制御手段が効率優先制御と能力優先制御とを有しており、効率優先制御では放熱器の通過風量に基づいて放熱器の目標放熱器過冷却度を決定すると共に、放熱器による暖房能力が不足している条件が成立した場合に能力優先制御に移行し、この能力優先制御において、高圧優先モードと回転数優先モードを実行し、放熱器の目標放熱器過冷却度を補正するようにすれば、常には効率優先制御を実行し、放熱器の暖房能力が不足する場合のみ、高圧優先モードと回転数優先モードを実行する能力優先制御を実行することができる。
【0020】
これにより、運転効率の低下を最小限に抑制しながら暖房能力の向上を図ることができるようになるので、電気自動車やハイブリッド自動車等、バッテリに充電された電力で圧縮機を駆動する車両において極めて好適なものとなる。
【0021】
更に、請求項7の発明の如く放熱器を出た冷媒の一部を分流して圧縮機に戻すインジェクション回路を備えている場合、制御手段がインジェクション回路により放熱器を出た冷媒の一部を圧縮機に戻す場合と戻さない場合とで、能力優先制御に移行する条件を変更することにより、インジェクションによる圧縮機からの吐出冷媒量の増大による暖房能力の向上を加味した適切な放熱器の冷媒過冷却度の補正を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明を適用した一実施形態の車両用空気調和装置の構成図である。
図2図1の車両用空気調和装置のコントローラの電気回路のブロック図である。
図3図1の車両用空気調和装置のインジェクション時のP−h線図である。
図4図2のコントローラの暖房時の制御ブロック図である。
図5図2のコントローラによる目標吹出温度の決定を説明する図である。
図6図4の圧縮機回転数演算部の制御ブロック図である。
図7図2のコントローラによる目標放熱器過冷却度決定に関する制御ブロック図である。
図8図2のコントローラによる効率優先制御時の目標放熱器過冷却度の決定方法を説明する図である。
図9図2のコントローラによる能力優先制御時の目標放熱器過冷却度の補正に関する制御ブロック図である。
図10図2のコントローラの動作を説明するフローチャートである。
図11図2のコントローラの動作を説明するタイミングチャートである。
図12図2のコントローラの他の実施例の目標放熱器過冷却度補正動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の一実施例の車両用空気調和装置1の構成図を示している。この場合、本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)を有さない電気自動車(EV)であって、バッテリに充電された電力で走行用の電動モータを駆動して走行するものであり(何れも図示せず)、本発明の車両用空気調和装置1も、バッテリの電力で駆動されるものとする。即ち、実施例の車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路を用いたヒートポンプ運転により暖房を行い、更に、除湿暖房や冷房除湿、冷房等の各運転モードを選択的に実行するものである。
【0025】
尚、車両として電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明は有効であり、更には、エンジンで走行する通常の自動車にも適用可能であることは云うまでもない。
【0026】
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、冷媒を圧縮する電動式の圧縮機2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられて圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒を車室内に放熱させる放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室外膨張弁6と、冷房時には放熱器として機能し、暖房時には蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせる室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時及び除湿時に車室内外から冷媒に吸熱させる吸熱器9と、吸熱器9における蒸発能力を調整する蒸発能力制御弁11と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、冷媒回路Rが構成されている。尚、室外熱交換器7には、外気と冷媒とを熱交換させるための室外送風機15が設けられている。
【0027】
また、室外熱交換器7は冷媒下流側にレシーバドライヤ部14と過冷却部16を順次有し、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは冷房時に開放される電磁弁(開閉弁)17を介してレシーバドライヤ部14に接続され、過冷却部16の出口が逆止弁18を介して室内膨張弁8に接続されている。尚、レシーバドライヤ部14及び過冷却部16は構造的に室外熱交換器7の一部を構成しており、逆止弁18は室内膨張弁8側が順方向とされている。
【0028】
また、逆止弁18と室内膨張弁8間の冷媒配管13Bは、吸熱器9の出口側に位置する蒸発能力制御弁11を出た冷媒配管13Cと熱交換関係に設けられ、両者で内部熱交換器19を構成している。これにより、冷媒配管13Bを経て室内膨張弁8に流入する冷媒は、吸熱器9を出て蒸発能力制御弁11を経た低温の冷媒により冷却(過冷却)される構成とされている。
【0029】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁(開閉弁)21を介して内部熱交換器19の下流側における冷媒配管13Cに連通接続されている。更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前で分岐しており、この分岐した冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁(開閉弁)22を介して逆止弁18の下流側の冷媒配管13Bに連通接続されている。
【0030】
また、室外膨張弁6には並列にバイパス配管13Jが接続されており、このバイパス配管13Jには、冷房モードにおいて開放され、室外膨張弁6をバイパスして冷媒を流すための電磁弁(開閉弁)20が介設されている。
【0031】
また、放熱器4を出た直後(冷媒配管13F、13Iに分岐する手前)の冷媒配管13Eは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Kはインジェクション制御用の電動弁から成るインジェクション膨張弁30を介して圧縮機2の圧縮途中に連通接続されている。そして、このインジェクション膨張弁30の出口側と圧縮機2間の冷媒配管13Kは、圧縮機2の吐出側に位置する冷媒配管13Gと熱交換関係に設けられ、両者で吐出側熱交換器35を構成している。
【0032】
これら冷媒配管13K、インジェクション膨張弁30、及び、吐出側熱交換器35からインジェクション回路40が構成される。このインジェクション回路40は、放熱器4から出た冷媒の一部を分流して圧縮機2の圧縮途中に戻す(ガスインジェクション)ための回路であり、インジェクション膨張弁30は冷媒配管13Kに流入した冷媒を減圧した後、吐出側熱交換器35に流入させる。吐出側熱交換器35に流入した冷媒は、圧縮機2から冷媒配管13Gに吐出され、放熱器4に流入する前の冷媒と熱交換し、冷媒配管13Gを流れる冷媒から吸熱して蒸発する構成とされている。吐出側熱交換器35で冷媒配管13Kに分流された冷媒が蒸発することで、圧縮機2へのガスインジェクションが行われることになる。
【0033】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されており(図1では吸込口25で代表して示す)、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環モード)と、車室外の空気である外気(外気導入モード)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0034】
また、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、内気や外気の放熱器4への流通度合いを調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、フット、ベント、デフの各吹出口(図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0035】
次に、図2において32はマイクロコンピュータから構成された制御手段としてのコントローラ(ECU)であり、このコントローラ32の入力には車両の外気温度を検出する外気温度センサ33と、外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒圧力を検出する吸込圧力センサ44と、放熱器4の温度(放熱器4から出た直後の温度、又は、放熱器4自体の温度、又は、放熱器4にて加熱された直後の空気の温度)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力(放熱器4内、又は、放熱器4を出た直後の冷媒の圧力)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9から出た直後の温度、又は、吸熱器9自体、又は、吸熱器9にて冷却された直後の空気の温度)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た直後の冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、設定温度や運転モードの切り換えを設定するための空調(エアコン)操作部53と、室外熱交換器7の温度(室外熱交換器7から出た直後の冷媒の温度、又は、室外熱交換器7自体の温度)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力(室外熱交換器7内、又は、室外熱交換器7から出た直後の冷媒の圧力)を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0036】
また、コントローラ32の入力には更に、インジェクション回路40の冷媒配管13Kに流入し、吐出側熱交換器35を経て圧縮機2の圧縮途中に戻るインジェクション冷媒の圧力を検出するインジェクション圧力センサ50と、該インジェクション冷媒の温度を検出するインジェクション温度センサ55の各出力も接続されている。
【0037】
一方、コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吸込口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、各電磁弁22、17、21、20と、インジェクション膨張弁30と、蒸発能力制御弁11が接続されている。そして、コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御する。
【0038】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作を説明する。コントローラ32は実施例では大きく分けて暖房モードと、除湿暖房モードと、内部サイクルモードと、除湿冷房モードと、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する。先ず、各運転モードにおける冷媒の流れについて説明する。
【0039】
(1)暖房モードの冷媒の流れ
コントローラ32により或いは空調操作部53へのマニュアル操作により暖房モードが選択されると、コントローラ32は電磁弁21を開放し、電磁弁17、電磁弁22及び電磁弁20を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は吐出側熱交換器35を経た後、放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0040】
放熱器4内で液化した冷媒は放熱器4を出た後、一部はインジェクション回路40の冷媒配管13Kに分流され、主には冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。尚、インジェクション回路40の機能作用については後述する。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(ヒートポンプ)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13D及び電磁弁21を経て冷媒配管13Cからアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
【0041】
コントローラ32は、実施例では後述するように放熱器圧力センサ47(又は吐出圧力センサ42)が検出する冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器4の通過風量と後述する目標吹出温度に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。尚、室外膨張弁6の弁開度は、それらの代わりに或いはそれらに加えて放熱器4の温度や外気温度に基づいて制御してもよい。
【0042】
(2)除湿暖房モードの冷媒の流れ
次に、除湿暖房モードでは、コントローラ32は上記暖房モードの状態において電磁弁22を開放する。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、電磁弁22を経て冷媒配管13F及び13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至るようになる。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0043】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cにて冷媒配管13Dからの冷媒と合流した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
【0044】
コントローラ32は吐出圧力センサ42又は放熱器圧力センサ47が検出する冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。尚、この除湿暖房モードではインジェクション回路40によるガスインジェクションは行わないため、インジェクション膨張弁30は全閉とする(全閉位置)。
【0045】
(3)内部サイクルモードの冷媒の流れ
次に、内部サイクルモードでは、コントローラ32は上記除湿暖房モードの状態において室外膨張弁6を全閉とする(全閉位置)と共に、電磁弁21も閉じる。この室外膨張弁6と電磁弁21が閉じられることにより、室外熱交換器7への冷媒の流入、及び、室外熱交換器7からの冷媒の流出は阻止されることになるので、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒は電磁弁22を経て冷媒配管13Fに全て流れるようになる。そして、冷媒配管13Fを流れる冷媒は冷媒配管13Bより内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0046】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを流れ、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになるが、この内部サイクルモードでは室内側の空気流通路3内にある放熱器4(放熱)と吸熱器9(吸熱)の間で冷媒が循環されることになるので、外気からの熱の汲み上げは行われず、圧縮機2の消費動力分の暖房能力が発揮される。除湿作用を発揮する吸熱器9には冷媒の全量が流れるので、上記除湿暖房モードに比較すると除湿能力は高いが、暖房能力は低くなる。
【0047】
コントローラ32は吸熱器9の温度、又は、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。このとき、コントローラ32は吸熱器9の温度によるか高圧圧力によるか、何れかの演算から得られる圧縮機目標回転数の低い方を選択して圧縮機2を制御する。尚、この内部サイクルモードでもインジェクション回路40によるガスインジェクションは行わないため、インジェクション膨張弁30は全閉とする(全閉位置)。
【0048】
(4)除湿冷房モードの冷媒の流れ
次に、除湿冷房モードでは、コントローラ32は電磁弁17を開放し、電磁弁21、電磁弁22、及び、電磁弁20を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気が放熱器4に通風される状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は吐出側熱交換器35を経て放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0049】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てレシーバドライヤ部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0050】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0051】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱(暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0052】
コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、前述した冷媒回路Rの高圧圧力に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力PCI)を制御する。尚、この除湿冷房モードでもインジェクション回路40によるガスインジェクションは行わないため、インジェクション膨張弁30は全閉とする(全閉位置)。
【0053】
(5)冷房モードの冷媒の流れ
次に、冷房モードでは、コントローラ32は上記除湿冷房モードの状態において電磁弁20を開き(この場合、室外膨張弁6は全開(弁開度を制御上限)を含む何れの弁開度でもよい)、エアミックスダンパ28は放熱器4に空気が通風されない状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は吐出側熱交換器35を経て放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されないので、ここは通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て電磁弁20及び室外膨張弁6に至る。
【0054】
このとき電磁弁20は開放されているので冷媒は室外膨張弁6を迂回してバイパス配管13Jを通過し、そのまま室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13Aから電磁弁17を経てレシーバドライヤ部14、過冷却部16と順次流入する。ここで冷媒は過冷却される。
【0055】
室外熱交換器7の過冷却部16を出た冷媒は逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、内部熱交換器19を経て室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却される。
【0056】
吸熱器9で蒸発した冷媒は蒸発能力制御弁11、内部熱交換器19を経て冷媒配管13Cを介し、アキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過すること無く吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房モードにおいては、コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。尚、この冷房モードでもインジェクション回路40によるガスインジェクションは行わないため、インジェクション膨張弁30は全閉とする(全閉位置)。
【0057】
(6)運転モードの切換制御
コントローラ32は起動時には外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAOとに基づいて運転モードを選択する。また、起動後は外気温度Tamや目標吹出温度TAO等の環境や設定条件の変化に応じて前記各運転モードを選択し、切り換えていく。この場合、コントローラ32は基本的には暖房モードから除湿暖房モードへ、或いは、除湿暖房モードから暖房モードへと移行し、除湿暖房モードから除湿冷房モードへ、或いは、除湿冷房モードから除湿暖房モードへと移行し、除湿冷房モードから冷房モードへ、或いは、冷房モードから除湿冷房モードへと移行するものであるが、除湿暖房モードから除湿冷房モードへ移行する際、及び、除湿冷房モードから除湿暖房モードへ移行する際には、前記内部サイクルモードを経由して移行する。また、冷房モードから内部サイクルモードへ、内部サイクルモードから冷房モードへ移行する場合もある。
【0058】
(7)暖房モードにおけるガスインジェクション
次に、前記暖房モードにおけるガスインジェクションについて説明する。図3は暖房モードにおける本発明の車両用空気調和装置1のP−h線図を示している。放熱器4を出て冷媒配管13Eに入り、その後分流されてインジェクション回路40の冷媒配管13Kに流入した冷媒は、インジェクション膨張弁30で減圧された後、吐出側熱交換器35に入り、そこで圧縮機2の吐出冷媒(圧縮機2から吐出されて放熱器4に流入する前の冷媒)と熱交換し、吸熱して蒸発する。蒸発したガス冷媒はその後圧縮機2の圧縮途中に戻り、アキュムレータ12から吸い込まれて圧縮されている冷媒と共に更に圧縮された後、再度圧縮機2から冷媒配管13Gに吐出されることになる。
【0059】
図3において13Kで示す線がインジェクション回路40で圧縮機2に戻される冷媒である。インジェクション回路40から圧縮機2の圧縮途中に冷媒を戻すことにより、圧縮機2から吐出される冷媒量が増大するので、放熱器4における暖房能力が向上するものであるが、圧縮機2に液冷媒が戻ると液圧縮を引き起こしてしまうので、インジェクション回路40から圧縮機2に戻す冷媒はガスでなければならない。
【0060】
そのためにコントローラ32は、インジェクション圧力センサ50及びインジェクション温度センサ55がそれぞれ検出する吐出側熱交換器35後の冷媒の圧力及び温度から圧縮機2の圧縮途中に向かう冷媒の過熱度を監視しており、吐出冷媒との熱交換で所定の過熱度が付くようにインジェクション膨張弁30の弁開度を制御するものであるが、実施例では吐出側熱交換器35において、圧縮機2から吐出されて放熱器4に流入する前の極めて高温の冷媒とインジェクション回路40を流れる冷媒とを熱交換させているので、大きな熱交換量が得られる。従って、インジェクション膨張弁30の弁開度を大きくしてインジェクション量を増やしても、冷媒は吐出側熱交換器35において十分に蒸発することができ、必要な過熱度が得られることになる。
【0061】
これにより、従来の如く放熱器後の冷媒とインジェクション冷媒とを熱交換させる場合に比して、圧縮機2へのガスインジェクション量を十分に確保し、圧縮機2の吐出冷媒量を増大させて暖房能力の向上を図ることができるようになる。
【0062】
次に、図4乃至図10を参照しながら前記暖房モードにおける圧縮機2、インジェクション回路40、及び、放熱器4における冷媒の過冷却度SCの目標値である目標放熱器過冷却度の制御について説明する。
【0063】
(8)暖房モードでの圧縮機の制御
図4は前記暖房モードにおけるコントローラ32による圧縮機2と室外膨張弁6とインジェクション膨張弁30の制御ブロック図を示す。コントローラ32は目標吹出温度TAOを目標放熱器温度演算部57と目標放熱器過冷却度演算部58と目標インジェクション冷媒過熱度演算部59に入力させる。この目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気温度の目標値であり、下記式(I)からコントローラ32が算出する。
【0064】
TAO=(Tset−Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・(I)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは図5に示すように外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。
【0065】
コントローラ32の目標放熱器温度演算部57にて目標吹出温度TAOから目標放熱器温度TCOを算出し、次に、この目標放熱器温度TCOに基づき、コントローラ32は目標放熱器圧力演算部61にて目標放熱器圧力PCOを算出する。そして、この目標放熱器圧力PCOと、放熱器圧力センサ47が検出する冷媒回路Rの高圧圧力である放熱器4の圧力(放熱器圧力)Pciとに基づき、コントローラ32は圧縮機回転数演算部62にて暖房モードでの圧縮機2の目標圧縮機回転数TGNChを算出し、この目標圧縮機回転数TGNChにて圧縮機2を運転する。
【0066】
図6はこの圧縮機回転数演算部62の制御ブロック図である。圧縮機回転数演算部62は、F/F(フィードフォワード)操作量演算部71、F/B(フィードバック)操作量演算部72、加算器73、及び、リミット設定部74から構成される。図4の目標放熱器温度演算部57で算出された目標放熱器温度TCOは、目標放熱器圧力演算部61とF/F操作量演算部71に入力される。目標放熱器圧力演算部61では前述したように目標放熱器圧力PCOが算出され、この算出された目標放熱器圧力PCOは、圧縮機回転数演算部62のF/F操作量演算部71とF/B操作量演算部72に入力される。
【0067】
F/F操作量演算部71は、外気温度センサ33から得られる外気温度Tamと、室内送風機27のブロワ電圧BLVと、SW=(TAO−Te)/(TH−Te)で得られるエアミックスダンパ28のエアミックスダンパ開度SWと、目標放熱器圧力PCOに基づいて目標圧縮機回転数のF/F操作量TGNChffを算出する。
【0068】
尚、THは放熱器温度センサ46から得られる放熱器4の温度(放熱器温度)、Teは吸熱器温度センサ48から得られる吸熱器9の温度(吸熱器温度)である。また、エアミックスダンパ開度SWは0≦SW≦1の範囲で変化し、0で放熱器4への通風をしないエアミックス全閉状態、1で空気流通路3内の全ての空気が放熱器4に通風されるエアミックス全開状態となる。
【0069】
F/B操作量演算部72は、目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力Pciに基づいて目標圧縮機回転数のF/B操作量TGNChfbを算出する。そして、F/F操作量演算部71が算出したF/F操作量TGNChffとF/B操作量演算部72が算出したF/B操作量TGNChfbは加算器73で加算され、リミット設定部74で制御上限値(ECNpdLimHi)と制御下限値(ECNpdLimLo)のリミットを付けられた後、目標圧縮機回転数TGNChとして決定される。暖房モード(除湿暖房モードも含む)においては、コントローラ32はこの目標圧縮機回転数TGNChに基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0070】
即ち、放熱器4に放熱させて車室内を暖房する暖房モード(除湿暖房モードも含む)では、目標放熱器圧力PCO(高圧圧力の目標値)に基づいて圧縮機2の目標圧縮機回転数TGNChを決定する。
【0071】
(9)ガスインジェクション制御
また、コントローラ32は図4の目標インジェクション冷媒過熱度演算部59にて目標吹出温度TAOに基づき、インジェクション回路40から圧縮機2の圧縮途中に戻されるインジェクション冷媒の過熱度の目標値(目標インジェクション冷媒過熱度TGSH)を算出する。一方、コントローラ32は、インジェクション圧力センサ50が検出するインジェクション冷媒の圧力(インジェクション冷媒圧力Pinj)とインジェクション温度センサ55が検出するインジェクション冷媒の温度(インジェクション冷媒温度Tinj)に基づき、インジェクション冷媒過熱度演算部66にてインジェクション冷媒の過熱度INJSHを算出する。
【0072】
そして、このインジェクション冷媒過熱度INJSHと目標インジェクション冷媒過熱度TGSHに基づき、目標インジェクション膨張弁開度演算部67にてインジェクション膨張弁30の目標弁開度(目標インジェクション膨張弁開度TGINJCV)を算出する。そして、コントローラ32はこの目標インジェクション膨張弁開度TGINJCVにインジェクション膨張弁30の弁開度を制御する。
【0073】
目標インジェクション冷媒過熱度演算部59は、例えば目標吹出温度TAOが高くなるに従って目標インジェクション冷媒過熱度TGSHを低くする(ヒステリシス有り)。目標インジェクション冷媒過熱度TGSHを低くするということは、インジェクション膨張弁30の弁開度を拡張してインジェクション量を増大させることである。即ち、コントローラ32は目標吹出温度TAOが高くなる程、インジェクション膨張弁30により、圧縮機2に戻すインジェクション量を増やし、圧縮機2の吐出冷媒量を増やして暖房能力を増大させる。
【0074】
また、コントローラ32は式(II)、式(III)、式(IV)を用いて要求される放熱器4の暖房能力である目標暖房能力(要求暖房能力)TGQと、インジェクション回路40に冷媒を流していないとき、即ち、ガスインジェクションを行っていないときに放熱器4が発生可能なHP最大暖房能力推定値QmaxHPと、インジェクション回路40に冷媒を流すとき、即ち、ガスインジェクションを行うときに放熱器4が発生可能なINJ時最大暖房能力推定値QmaxINJを算出する。
【0075】
TGQ=(TCO−Te)×Cpa×ρ×Qair ・・(II)
QmaxHP=f1(Tam、Nc、BLV、VSP、Te) ・・(III)
QmaxINJ=f2(Tam、Nc、BLV、VSP、Te) ・・(IV)
ここで、Teは吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度、Cpaは放熱器4に流入する空気の比熱[kj/kg・K]、ρは放熱器4に流入する空気の密度(比体積)[kg/m3]、Qairは放熱器4を通過する風量[m3/h](通過風量Qairは室内送風機27のブロワ電圧BLV等から推定)、VSPは車速センサ52から得られる車速である。
【0076】
尚、式(II)においてはQairに代えて、或いは、それに加えて、放熱器4に流入する空気の温度、又は、放熱器4から流出する空気の温度を採用してもよい。また、式(III)及び(IV)の圧縮機2の回転数Ncは冷媒流量を示す指標の一例であり、ブロワ電圧BLVは空気流通路3内の風量を示す指標の一例であり、暖房能力推定値QmaxHP、QmaxINJはこれらの関数から算出される。また、それらと放熱器4の出口冷媒圧力、放熱器4の出口冷媒温度、放熱器4の入口冷媒圧力、及び、放熱器4の入口冷媒温度のうちの何れか、若しくは、組み合わせから算出してもよい。
【0077】
そして、コントローラ32は目標暖房能力TGQがHP最大暖房能力推定値QmaxHP以下の場合、インジェクション無しの制御とする。この場合、コントローラ32はインジェクション膨張弁30を全閉(全閉位置)としてインジェクション回路40に冷媒を流さない。一方、目標暖房能力TGQがHP最大暖房能力推定値QmaxHPを超えている場合、即ち、放熱器4によるHP最大暖房能力推定値QmaxHPが目標暖房能力TGQに対して不足する場合、インジェクション有りの制御として、ガスインジェクションを実行する。この場合、コントローラ32はインジェクション膨張弁30の弁開度を所定の値として開き、圧縮機2にガスインジェクションを行う。即ち、コントローラ32は前述した如く目標インジェクション膨張弁開度TGINJCVにインジェクション膨張弁30の弁開度を制御する。
【0078】
(10)目標放熱器過冷却度の制御
更に、コントローラ32は目標放熱器過冷却度演算部58にて目標吹出温度TAOに基づき、放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを算出する。この目標放熱器過冷却度演算部58については後に詳述する。一方、コントローラ32は、放熱器圧力Pciと放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度Tci)に基づき、放熱器過冷却度演算部63にて放熱器4における冷媒の過冷却度(放熱器過冷却度SC)を算出する。そして、この放熱器過冷却度SCと目標放熱器過冷却度TGSCに基づき、目標室外膨張弁開度演算部64にて室外膨張弁6の目標弁開度(目標室外膨張弁開度TGECCV)を算出する。そして、コントローラ32はこの目標室外膨張弁開度TGECCVに室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0079】
次に、図7乃至図11を参照して図4の目標放熱器過冷却度演算部58の構成と動作について説明する。図7は目標放熱器過冷却度演算部58はSC目標基本値演算部76と、目標放熱器過冷却度補正値演算部77と、補正可否切換部78と、加算器79から構成される。コントローラ32はこの暖房モードにおいて、効率優先制御と能力優先制御の二つの制御状態を備えており、その切り換えは能力優先フラグfPRIabilityが「1」(セット)か「0」(リセット)かで切り換えられる。加算器79ではSC目標基本値演算部76で後述する如く算出された目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseと補正可否切換部78からの目標放熱器過冷却度補正値TGSChosが加算される。
【0080】
補正可否切換部78には、目標放熱器過冷却度補正値演算部77で後述する如く算出された目標放熱器過冷却度補正値TGSChosと「0」が入力され、前述した能力優先フラグfPRIabilityが「1」(セット)のときは、補正可否切換部78から目標放熱器過冷却度補正値演算部77が算出した目標放熱器過冷却度補正値TGSChosが加算器79に出力され、能力優先フラグfPRIabilityが「0」(リセット)のときは、「0」(補正無しの通常制御)が補正可否切換部78から加算器79に出力される。
【0081】
即ち、能力優先フラグfPRIabilityが「1」(セット)された能力優先制御では、SC目標基本値演算部76で算出された目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseに目標放熱器過冷却度補正値演算部77で算出された目標放熱器過冷却度補正値TGSChosが加算された値が目標放熱器過冷却度TGSC(TGSC=TGSCbase+TGSChos)となり、能力優先フラグfPRIabilityが「0」(リセット)された効率優先制御では、SC目標基本値演算部76で算出された目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseに補正可否切換部78からの「0」の目標放熱器過冷却度補正値TGSChosが加算された値、即ち、目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseが目標放熱器過冷却度TGSC(TGSC=TGSCbase)となる。
【0082】
(10−1)効率優先制御
前記コントローラ32は、通常(能力優先フラグfPRIability=「0」)は効率優先制御を実行している。即ち、SC目標基本値演算部76は、外気温度センサ33から得られる外気温度Tamと、室内送風機27のブロワ電圧BLVと、SW=(TAO−Te)/(TH−Te)で得られるエアミックスダンパ28のエアミックスダンパ開度SWに基づいて目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseを算出する。このとき、放熱器4の通過風量Qair[m3/h]を前述同様に室内送風機27のブロワ電圧BLV等から推定する。
【0083】
ここで、暖房能力一定の場合、運転効率COPが最大となる放熱器過冷却度SCが存在する。効率優先制御の場合は、運転効率を優先するためにSC目標基本値演算部76ではこのCOPが最大となる点を狙って目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseを算出する。この様子が図8に示されている。放熱器4の通過風量Qairが100m3/hの場合、外気温度Tamが0℃(L1)でも−10℃(L2)でも、SC目標基本値演算部76は全ての目標吹出温度TAOにおいて目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseを10(deg)とする。尚、0℃以下は10degとする。
【0084】
また、放熱器4の通過風量Qairが200m3/hの場合、外気温度Tamが0℃(L3)でも−10℃(L4)でも、SC目標基本値演算部76は全ての30(deg)〜80(deg)の目標吹出温度TAOにおいて目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseを25(deg)とするが、目標吹出温度TAOが80(deg)より高くなるヒートアップ領域では徐々に30(deg)まで上昇させる。尚、−10℃以下は−10℃と同じとする。また、通過風量Qairが150m3/hの場合にはSC目標基本値演算部76は全ての目標吹出温度TAOにおいて目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseを16.8(deg。L5)とする。
【0085】
このように、SC目標基本値演算部76では放熱器4の通過風量Qairに基づいて最大効率を狙って目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseを算出する。効率優先制御では加算器79には補正可否切換部78から「0」が入力されるため、この算出された目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseが目標放熱器過冷却度TGSCとなり、この目標放熱器過冷却度TGSCと放熱器過冷却度演算部63にて算出された放熱器過冷却度SCとに基づき、前述したように室外膨張弁6の目標室外膨張弁開度TGECCVが算出され、この算出された目標室外膨張弁開度TGECCVに室外膨張弁6の弁開度が制御されることになる。
【0086】
(10−2)能力優先制御
次に、前述した能力優先制御について説明する。前述した如くコントローラ32は通常効率優先制御を実行しているものであるが、能力優先フラグfPRIabilityが「1」(セット)されたことで能力優先制御に移行する。
【0087】
(10−2−1)能力優先フラグfPRIabilityのセット/リセット
次に、効率優先制御と能力優先制御の切り換えについて説明する。先ず、前述したインジェクション回路40によるインジェクション無し制御の場合は以下の全ての条件(能力優先要求条件)が成立したときに、能力優先フラグfPRIability=「1」(セット)とし、能力優先制御に移行する。即ち、
・TGQ>QmaxHP(例えば4kW)
・(TGNCmax−NC)≧ΔN1(例えば100rpm)
・Tam<A1(例えば−10℃)
・(TCO−TH)≧ΔT1(例えば5deg)の状態が所定時間以上経過
尚、TGNCmaxは目標圧縮機回転数上限値で、前述したECNpdLimHiであり、圧縮機2の回転数NCの制御上限値である。
【0088】
また、前述したインジェクション有り制御の場合、上記条件は以下の如く成る。即ち、
・TGQ>QmaxINJ(例えば5kW)
・(TGNCmax−NC)≧ΔN2(例えば100rpm)
・Tam<A2(例えば−15℃)
・(TCO−TH)≧ΔT1(例えば5deg)の状態が所定時間以上経過
【0089】
即ち、放熱器4による暖房能力が不足し、目標暖房能力TGQがHP最大暖房能力推定値QmaxHPかINJ時最大暖房能力推定値QmaxINJより大きくなり、圧縮機2の回転数が制御上限値まで未だ余裕がある場合、外気温度Tamが低く、放熱器温度THも目標放熱器温度TCOより所定値以上低下していることが続いたことを条件として、コントローラ32は能力優先フラグfPRIabilityをセット「1」し、能力優先制御に移行する。
【0090】
また、インジェクション無しとインジェクション有りの場合、前述したように放熱器4による暖房能力が異なり、INJ時最大暖房能力推定値QmaxINJもHP最大暖房能力推定値QmaxHPより大きくなるため、移行条件も変更され、外気温度Tamはより低い値での成立となる。尚、インジェクション有り制御の場合は、目標暖房能力が大きい状況となるため、無条件に能力優先フラグfPRIabilityをセットしてもよい。
【0091】
次に、能力優先フラグfPRIabilityをリセット「0」する条件は以下の如くである。即ち、インジェクション無し制御のときは、以下の全ての条件(能力優先解除条件)が成立し、所定時間経過したときに能力優先フラグfPRIabilityをリセット「0」し、能力優先制御を解除して効率優先制御に移行する。即ち、
・TGQ<QmaxHP(例えば4kW)−0.5kW
・(TCO−TH)<ΔT2(例えば2deg)
・TGSChos<SC(例えば3deg)
【0092】
また、インジェクション有り制御のときは、以下の如くである。
・TGQ<QmaxINJ(例えば5kW)−0.5kW
・(TCO−TH)<ΔT2(例えば2deg)
・TGSChos<SC(例えば3deg)
【0093】
即ち、放熱器4による暖房能力の不足が解消され、目標暖房能力TGQよりHP最大暖房能力推定値QmaxHPやINJ時最大暖房能力推定値QmaxINJが大きくなり、放熱器温度THと目標放熱器温度TCOとの差が所定値未満に縮小し、目標放熱器過冷却度補正値TGSChosが小さくなったことが継続したことを条件として、コントローラ32は能力優先フラグfPRIabilityをリセット「0」し、能力優先制御を解除して効率優先制御に復帰する。
【0094】
(10−2−2)目標放熱器過冷却度補正値の演算
次に、目標放熱器過冷却度補正値演算部77における目標放熱器過冷却度補正値TGSChosの演算について説明する。目標放熱器過冷却度補正値演算部77には目標圧縮機回転数上限値TGNCmax(圧縮機2の回転数の制御上限値)と、圧縮機2の回転数NCと、目標放熱器圧力PCO(高圧圧力の目標値)と、放熱器圧力Pciが入力される。
【0095】
図9はこの目標放熱器過冷却度補正値演算部77の制御ブロック図を示している。コントローラ32はこの能力優先制御において、高圧優先モードと回転数優先モードを有しており、それら二つのモードを切り換えて実行するが、図9の減算器82、不感帯処理部83、増幅器83が回転数優先モードの実行ブロックを、減算器84、不感帯処理部86、増幅器87が高圧優先モードの実行ブロックを構成する。各増幅器83、87の出力は優先モード切換部88に入力され、優先モードフラグfTGSCNCfbのセット「1」、リセット「0」によってこれらが切り換えられて加算器91に出力される。この加算器91には前回値が加算され、リミット設定部89で制御上限値(TGSChosHi)と制御下限値(TGSChosLo)のリミットが作られた後、目標放熱器過冷却度補正値TGSChosとして決定される。
【0096】
即ち、回転数優先モードでは、目標圧縮機回転数上限値TGNCmax(圧縮機2の回転数の制御上限値)がマイナス(−)、圧縮機2の回転数NCがプラス(+)で減算器81に入力され、その偏差eが不感帯処理部82(例えば100rpmが不感帯)を経て増幅器83で増幅されて優先モード切換部88に入力される。即ち、回転数NCに対して目標圧縮機回転数上限値TGNCmaxをフィードバック(I分)制御する。この増幅器83の出力値は圧縮機2の回転数NCを高くする方向で放熱器過冷却度SCを低下させ、最終的に圧縮機2の回転数NCを目標圧縮機回転数上限値(制御上限値)TGNCmaxとする目標放熱器過冷却度補正値TGSChosとなる。これにより、この回転数優先モードでは、目標圧縮機回転数上限値(制御上限値)TGNCmaxと実際の圧縮機2の回転数NCとの偏差eに基づいて、目標放熱器過冷却度補正値TGSChosを算出し、目標放熱器過冷却度TGSCをフィードバック補正することになる。
【0097】
また、高圧優先モードでは、放熱器圧力Pciがマイナス(−)、目標放熱器圧力PCO(高圧圧力の目標値)がプラス(+)で減算器84に入力され、その偏差eが不感帯処理部86(例えば0.05MPaが不感帯)を経て増幅器87で増幅されて優先モード切換部88に入力される。即ち、目標放熱器圧力PCOに対して放熱器圧力Pciをフィードバック(I分)制御する。この増幅器87の出力値は放熱器圧力Pci(高圧圧力)を高くする方向で放熱器過冷却度SCを高くし、最終的に放熱器圧力Pci(高圧圧力)を目標放熱器圧力PCOの制御上限値PCOmaxとする目標放熱器過冷却度補正値TGSChosとなる。これにより、この高圧優先モードでは、目標放熱器圧力PCO(高圧圧力の目標値)の制御上限値PCOmaxと実際の放熱器圧力(高圧圧力)Pciとの偏差eに基づいて、目標放熱器過冷却度補正値TGSChosを算出し、目標放熱器過冷却度TGSCをフィードバック補正することになる。
【0098】
(10−2−3)高圧優先モードと回転数優先モードの切換え条件
上述の如き高圧優先モードと回転数優先モードは、優先モードフラグfTGSCNCfbのセット「1」、リセット「0」によってこれらが切り換えられる。コントローラ32は、放熱器圧力Pciが制御上限値PCOmaxとなるまでは優先モードフラグfTGSCNCfbをリセット「0」の状態とし、PCOmaxとなった時点でセット「1」する。その後、放熱器圧力Pciが所定のヒステリシス分(例えば0.1MPa等)低下した場合に、優先モードフラグfTGSCNCfbをリセット「0」する。
【0099】
(11)実際の放熱器過冷却度SC制御動作
以上の効率優先制御と能力優先制御の切換、及び、優先モードの切換の実際を図10及び図11に基づいて説明する。コントローラ32は図10のステップS1で各データ(温度データ、圧力データ)を読み込み、ステップS2で現在が暖房モードであるか判断する。暖房モードである場合、コントローラ32はステップS2からステップS3に進み、SC目標基本値演算部76により前述したように目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseを演算する。次に、ステップS4で目標暖房能力(要求暖房能力)TGQと、HP最大暖房能力推定値QmaxHP、INJ時最大暖房能力推定値QmaxINJを演算し、ステップS5で能力優先フラグfPRIability=「1」(セット)とする全条件が成立しているか否か判定する。
【0100】
そして、ステップS6で全条件が成立していない場合、能力優先制御の要求が無いと判断し、能力優先フラグfPRIabilityをリセット「0」して、ステップS9に進み、目標放熱器過冷却度補正値TGSChos=0とする。この場合は、効率優先制御となり、目標放熱器過冷却度基本値TGSCbaseが目標放熱器過冷却度TGSCとなる。
【0101】
係る効率優先制御を実行している間に、外気温度が低下する等により、図11に示すように例えばHP最大暖房能力推定値QmaxHPが目標暖房能力TGQを下回り、能力優先フラグfPRIability=「1」(セット)とする全条件(能力優先要求条件)が成立した場合、コントローラ32はステップS6で能力優先フラグfPRIability=「1」(セット)とし、ステップS7に進んで前述した能力優先制御を実行する。
【0102】
この能力優先制御に移行したとき、放熱器圧力Pci(高圧圧力)は目標放熱器圧力PCOの制御上限値PCOmaxより低いため、コントローラ32は優先モード切換フラグfTGSCNCfbをリセット「0」として高圧優先モードを実行する。この高圧優先モードでは前述した如く目標放熱器過冷却度補正値TGSChosは目標放熱器過冷却度TGSCを高くする値であるので、放熱器過冷却度SCは図11に示すように上昇していき、放熱器圧力Pci(高圧圧力)は制御上限値PCOmaxまで上昇していく。
【0103】
放熱器圧力Pci(高圧圧力)が制御上限値PCOmaxまで上昇した場合、コントローラ32は優先モード切換フラグfTGSCNCfbをセット「1」するので、今度は回転数優先モードに移行する。この回転数優先モードでは前述した如く目標放熱器過冷却度補正値TGSChosは目標放熱器過冷却度TGSCを低下させる値であるので、放熱器過冷却度SCは図11に示すように低下していく。放熱器過冷却度SCが下がると、放熱器圧力Pciも下がるので、コントローラ32は圧縮機2の回転数NCを上昇させ、目標圧縮機回転数TGNCの制御上限値TGNCmaxまで上げる。これにより、冷媒流量が増大する。
【0104】
その状態で、放熱器圧力Pci(高圧圧力)がヒステリシス分の0.1MPa低下すると、コントローラ32は再び優先モード切換フラグfTGSCNCfbをリセット「0」するので、優先モードは再び高圧優先モードに復帰する。
【0105】
このような能力優先制御を実行している間に、例えば外気温度が上昇し、前述した能力優先フラグfPRIability=「0」(リセット)とする全条件(能力優先解除条件)が成立した場合、コントローラ32はステップS8で能力優先フラグfPRIability=「0」(リセット)とし、効率優先制御に復帰する。
【0106】
(12)目標放熱器過冷却度の補正制御の他の例
次に、図12は放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCの補正制御の他の例を示している。この場合、コントローラ32はヒステリシス0.4MPa程度が設定されたデータテーブルに基づいて補正上限値HOSHi(例えば15deg)と補正下限値HOSLo(0deg)の間で目標放熱器過冷却度補正値TGSChosを決定する。
【0107】
即ち、この実施例ではコントローラ32は図12のテーブルに従い、先ず目標放熱器過冷却度補正値TGSChosを補正上限値HOSHiとして放熱器圧力Pci(高圧圧力)を上昇させる高圧優先モードを実行する。そして、放熱器圧力Pci(高圧圧力)が目標放熱器圧力PCOの制御上限値PCOmaxに近づいた場合、目標放熱器過冷却度補正値TGSChosを補正上限値HOSHiから補正下限値HOSLoまで徐々に下げる回転数優先モードを実行する。逆に、放熱器圧力Pciが制御上限値PCOmaxから低下して遠ざかると、再び高圧優先モードで補正上限値HOSHiまで徐々に上げていくものである。
【0108】
以上詳述した如く、本発明ではコントローラ32が高圧圧力(放熱器圧力Pci)を所定の高い値(実施例では目標放熱器圧力PCOの制御上限値PCOmax)とする方向で放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを高くする高圧優先モードと、圧縮機2の回転数NCを所定の高い値(実施例では制御上限値である目標圧縮機回転数上限値TGNCmax)とする方向で放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを低下させる回転数優先モードとを有し、これら高圧優先モードと回転数優先モードを切り換えて実行することにより、高圧圧力(放熱器圧力Pci)を所定の高い値(目標放熱器圧力PCOの制御上限値PCOmax付近)に維持しながら、圧縮機2の回転数NCを高く維持するよう放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを変更することで、暖房時に高圧圧力を維持しながら、冷媒流量も確保して暖房能力の向上を図ることが可能となる。
【0109】
この場合、高圧優先モードを実行して高圧圧力(放熱器圧力Pci)を所定の高い値(目標放熱器圧力PCOの制御上限値PCOmax)とする方向で放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを高くし、高圧圧力(放熱器圧力Pci)が所定の高い値(制御上限値PCOmax)となった場合に、回転数優先モードに移行し、圧縮機2の回転数NCを所定の高い値(目標圧縮機回転数上限値TGNCmax)とする方向で放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを低下させることにより、高圧圧力と冷媒流量の双方を満足させる放熱器過冷却度SCを適切に制御することができるようになる。
【0110】
特に、高圧優先モードでは高圧圧力(放熱器圧力Pci)を制御上限値PCOmaxとする方向で放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを高くすると共に、回転数優先モードでは圧縮機2の回転数NCを目標圧縮機回転数上限値TGNCmax(制御上限値)とする方向で放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを低下させるので、放熱器過冷却度SCを適切に制御して、高圧圧力を制御上限値PCOmax以下に抑制しながら、圧縮機2の回転数NCを高くして冷媒流量も維持し、暖房能力を向上させることができる。
【0111】
この場合、実施例では高圧優先モードでは高圧圧力(放熱器圧力Pci)の制御上限値PCOmaxと実際の高圧圧力(放熱器圧力Pci)との偏差eに基づき、放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCをフィードバック補正すると共に、回転数優先モードでは圧縮機2の回転数NCの目標圧縮機回転数上限値(制御上限値)TGNCmaxと実際の回転数NCとの偏差eに基づき、放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCをフィードバック補正しているので、常に安定した放熱器4の冷媒過冷却度SCの補正を実現することが可能となる。
【0112】
また、コントローラ32は効率優先制御と能力優先制御とを有しており、効率優先制御では放熱器4の通過風量に基づいて放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを決定すると共に、放熱器4による暖房能力が不足している条件が成立した場合に能力優先制御に移行し、この能力優先制御において、高圧優先モードと回転数優先モードを実行し、放熱器4の目標放熱器過冷却度TGSCを補正するようにしたので、常には効率優先制御を実行し、放熱器4の暖房能力が不足する場合のみ、高圧優先モードと回転数優先モードを実行する能力優先制御を実行することができる。
【0113】
これにより、図11最下段に示すように運転効率COPの低下を最小限に抑制しながら暖房能力の向上を図ることができるようになるので、電気自動車やハイブリッド自動車等、バッテリに充電された電力で圧縮機2を駆動する車両において極めて好適なものとなる。
【0114】
更に、コントローラ32はインジェクション回路40により放熱器4を出た冷媒の一部を圧縮機2に戻す場合と戻さない場合とで、能力優先制御に移行する能力優先要求条件を変更するので、ガスインジェクションによる圧縮機2からの吐出冷媒量の増大による暖房能力の向上を加味した適切な放熱器過冷却度SCの補正を行うことが可能となる。
【0115】
尚、実施例では暖房モード、除湿暖房モード、除湿冷房モード、冷房モードの各運転モードを切り換えて実行する車両用空気調和装置1について本発明を適用したが、それに限らず、暖房モードのみ行うものにも本発明は有効である。
【0116】
また、上記実施例で説明した冷媒回路Rの構成や各数値はそれに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。例えば、高圧優先モードにおける所定の高い値も、目標放熱器圧力PCOの制御上限値PCOmaxでは無く、それより低い所定の高い値でもよく、回転数優先モードにおける所定の高い値も、目標圧縮機回転数TGNCの制御上限値TGNCmaxでは無く、それより低い所定の高い値であってもよい。
【符号の説明】
【0117】
1 車両用空気調和装置
2 圧縮機
3 空気流通路
4 放熱器
6 室外膨張弁
7 室外熱交換器
8 室内膨張弁
9 吸熱器
11 蒸発能力制御弁
17、20、21、22 電磁弁
26 吸込切換ダンパ
27 室内送風機(ブロワファン)
28 エアミックスダンパ
32 コントローラ(制御手段)
30、70 膨張弁
40 インジェクション回路
35 吐出側熱交換器
R 冷媒回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12