(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
フリーラジカルによる酸化ストレスは、多くのヒト疾患、特に、神経変性疾患の発症において大きな役割を果たしている。それ故、特定のフリーラジカル種を還元し得る抗酸化剤による処置は、理論的には、組織損傷を予防し、生存と神経学的転帰の両方を改善する可能性がある。生理的環境におけるフリーラジカルは、多くの場合、活性酸素種(ROS)又は活性窒素種(RNS)のいずれかに分類することができる。フリーラジカルは、極めて反応性に富む化学種であり、細胞下レベルでタンパク質、脂質、及び核酸とすぐに反応し、それにより、様々な疾患の進行に寄与する。
【0004】
ナノ医学におけるナノセリアの使用の起源は、Bailey及びRzigalinskiの独創性に富んだ研究に端を発する。この研究では、Nanoparticles and Cell Longevity,Technology in Cancer Research & Treatment 4(6),651−659(2005)において、Rzigalinskiによって記載されているように、培養下の脳細胞への超微細酸化セリウム粒子の適用が、細胞生存性を大いに向上させることが観察された。より具体的には、ラットのインビトロ脳細胞培養物が、2003年9月4日に出願された米国特許第7,534,453号において、Rzigalinskiらによって報告されているような逆ミセルマイクロエマルジョン技術によって合成された、2〜10ナノメートル(nm)大の酸化セリウムナノ粒子で処理したとき、約3〜4倍長く生存することが示された。過酸化水素又は紫外光曝露によって発生した致死量のフリーラジカルに曝露された培養脳細胞には、酸化セリウムナノ粒子によるかなりの保護が与えられた。更に、酸化セリウムナノ粒子は、マウス体内で比較的不活性であり、毒性が低い(例えば、尾静脈注射により、毒性効果が生じない)ことが報告された。インビボでの医学的な利益は報告されなかったが、これらのセリアナノ粒子による処置について、創傷、インプラント、関節炎、関節疾患、血管疾患、組織の加齢、脳卒中、及び外傷性脳損傷に伴う炎症の低下を含む、利益が想定された。
【0005】
しかしながら、これらの特定のナノセリア粒子に関する多くの問題が、後に、WO 2007/002662号において、Rzigalinskiらによって報告された。この逆ミセルマイクロエマルジョン技術によって生成されたナノセリアは、いくつかの問題を抱えていた:(1)粒子サイズが、報告されている2〜10ナノメートル(nm)範囲内にうまく制御されず、バッチ間のばらつきが大きくなった;(2)最終生成物にする工程で使用される、ドクセートナトリウム又は(AOT)としても知られているナトリウムビス(エチルヘキシル)スルホスクシネートなどの界面活性剤のテーリング(キャリーオーバー混入)によって、毒性応答が生じた;(3)これらのナノ粒子が生物学的媒体内に配置されたとき、界面活性剤テーリングの量を制御することができないために、凝集に関する問題が起こり、効力及び送達性が低下した;及び(4)経時的なセリウムの原子価状態(+3/+4)の不安定性。従って、逆ミセルマイクロエマルジョン技術によって生成される酸化セリウムナノ粒子は、バッチ毎に大きなばらつきがあり、哺乳動物細胞に対して望まれるよりも高い毒性を示した。
【0006】
代替法として、Rzigalinskiらは、WO 2007/002662号において、少なくとも3つの市販供給源から入手された、高温技術によって合成されたナノセリアの生物学的効力を報告した。酸化セリウムナノ粒子のこれらの新しい供給源は、バッチ毎の活性の優れた再現性をもたらすことが報告された。供給源とは無関係に、小さいサイズ、狭いサイズ分布、及び低い凝集率を有する酸化セリウム粒子が最も有利であることが更に報告された。サイズに関して、本開示は、粒子が細胞の内部に取り込まれる実施形態において、細胞内に取り込まれる粒子の好ましいサイズ範囲は、約11nm〜約50nm、例えば、約20nmであると具体的に主張する。粒子が、細胞に対するその作用を細胞の外側から発揮する実施形態において、これらの細胞外粒子の好ましいサイズ範囲は、約11nm〜約500nmである。
【0007】
Rzigalinskiらは、送達のために、ナノ粒子は、非凝集性形態であることが有利であったことも報告している。これを達成するために、著者らは、約10重量%のストック溶液を、超高純度水又は超高純度水で調製した生理食塩水中で超音波処理することができることを報告した。しかしながら、他の者が記述しているように、(例えば、市販供給源から入手された)高温技術によって合成されたナノセリアの超音波処理水分散体は、極めて不安定で、かつ速やかに(すなわち、数分以内に)沈殿し、これらの供給源に由来するナノセリアの水分散体を投与する際にかなりのばらつきを生じさせる。
【0008】
Rzigalinskiらは、インビトロ細胞培養物、経口給餌されたキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster fruit fly)、及び見掛け上、治療用量(300ナノモル又は約0.2mg/kg)未満を尾静脈注射されたマウスを含む、比較的単純なモデル系での生物学的効力を報告している。
【0009】
Yokelらは、Nanotoxicology,2009,3(3):234−248において、市販のセリアナノ材料の生体分布及び酸化ストレス作用に関する広範な研究を記載している。特に、Aldrichから入手された5%ナノセリア分散体(#639648)を3分間超音波処理し、50、250、及び750mg/kgのナノセリア用量でラットに注入した。この材料について、ナノ粒子表面安定剤の性質は不明であった。ナノセリア粒子のサイズを種々の技術によって特徴付け、動的光散乱によって平均31+/−4nmであることを報告した。透過電子顕微鏡法(TEM)により、粒子の大部分が、8nmと24nmにピークのある二峰性のサイズ分布を有するプレートレットであり、一部、〜100nmの粒子を伴うことが明らかになった。この形態のナノセリアとともに1時間インキュベートされた血液は、約200nm〜1ミクロン超の範囲の集塊を有すること、及びラットに注入したときに、それが血液から速やかに除去されること(7.5分の半減期)が観察された。ナノセリアの大部分は肝臓及び脾臓に蓄積することが観察されたが、かなりの量が血液脳関門を透過し、脳組織細胞に侵入することは不明であった。
【0010】
その後、Yokelらは、ナノセリア表面コーティング(安定剤)の正確な制御を探求し、Masuiら、J.Mater.Sci.Lett.21,489−491(2002)の直接的2段階熱水調製によって、クエン酸ナトリウムを生体適合性安定剤として含むナノセリアの安定な水分散体を調製した。高分解能TEMにより、この形態のナノセリアが、鋭角及び4〜6nmの狭いサイズ分布を有する結晶性多面体粒子形態を有することが明らかになった。これらの5nmの平均サイズのセリアナノ粒子のクエン酸塩安定化分散体は、7.35の生理的pH及び−53mVのゼータ電位で2カ月超の間、安定であることが報告された。従って、投与前の超音波処理が必要とされなかった。
【0011】
この形態のクエン酸塩安定化ナノセリアの広範な生体分布及び毒性研究の結果は、Hardasら、Toxicological Sciences 116(2),562−576(2010)によって報告された。驚くことに、この著者らは、これまでに研究された〜30nmのナノセリア(Aldrich(#639648)、上記)と比較して、このより小さいナノセリアは、より毒性が高く、脳内で見られず、海馬及び小脳における酸化ストレスに対してほとんど効果がないことを報告している。この結果は、より小さい人工ナノ材料が血液脳関門を容易に透過するという仮説に反するものであった。
【0012】
酸化セリウム含有ナノ粒子は、当技術分野で公知の種々の技術によって調製することができるが、この粒子は、通常、望ましくない凝集を防ぐために安定剤を必要とする。これまでに使用された生体適合性ナノセリア安定剤に関して、Masuiら、J.Mater.Sci.Lett.21,489−491(2002)には、クエン酸塩バッファーを安定剤として使用する、セリアナノ粒子の安定な水分散体を直接生成させる2段階熱水プロセスが記載されている。しかしながら、このプロセスは、時間がかかり尚かつ装置を必要とする、厳重に密閉されたリアクタ内での2つ別々の24時間の反応工程を必要とする。
【0013】
SandfordらのWO 2008/002323 A2号には、沈殿又は単離工程なしで、かつ後続の焼成なしで、二酸化セリウムのナノ粒子分散体を直接生成させる、生体適合性安定剤(酢酸)を用いる水性調製技術が報告されている。3価セリウムイオンは、硝酸イオンによって4価セリウムイオンにゆっくりと酸化され、酢酸を安定剤として使用すると、11nmの結晶サイズ(及びほぼ等しい粒子サイズ)の安定な非凝集性ゾルが得られる。
【0014】
DiFrancescoらは、2007年9月4日に出願されたPCT/US2007/077545号、二酸化セリウムナノ粒子の調製方法(METHOD OF PREPARING CERIUM DIOXIDE NANOPARTICLES)において、クエン酸、乳酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及びこれらの組合せなどの生体適合性安定剤の存在下、低いpH(<4.5)での、過酸化水素による3価セリウムイオンの酸化を記載している。具体的には、安定剤の乳酸及び乳酸とEDTAの組合せが、中間の粒子単離工程なしで、ナノセリアの安定な分散体(3〜8nmの範囲の平均粒子サイズ)を直接生成させることが示されている。
【0015】
Karakotiらは、J.Phys.Chem.C 111,17232−17240(2007)において、酸性条件(過酸化水素による)と塩基性条件(水酸化アンモニウムによる)の両方での3価セリウムイオンの酸化による単糖/多糖中のナノセリアの直接合成を報告している。開示されている具体的な生体適合性安定剤としては、グルコース及びデキストランが挙げられる。わずか3〜5nmの個別の粒子サイズが開示されているが、10〜30nmの弱い集塊が結果として生じる。コロイド不安定性の原因は記載されていないが、これらの粒子のゼータ電位の大きさが十分に大きくなかったのかも知れないと考えられる。
【0016】
Karakotiらは、JOM(Journal of the Minerals,Metals & Materials Society) 60(3),33−37(2008)において、フリーラジカル(活性酸素種(ROS)及び活性窒素種)の除去を可能にするナノセリアの酸化/酸化(レドックス)能力に干渉しないように、コロイド化学(ゼータ電位、粒子サイズ、分散剤、溶液のpHなど)について理解する必要があることとして、生物体の生理機能と適合するように、生物学的に関連のある媒体でナノセリアの安定な分散体を合成するという課題について言及している。Karakotiらは、安定剤の非存在下、並びにデキストラン、エチレングリコール、及びポリエチレングリコール(PEG)安定剤の存在下における、低いpH(<3.5)での過酸化水素による硝酸セリウムの酸化を具体的に記載している。3〜5nmの粒子サイズが報告されているが、10〜20nmまでの粒子凝集も報告されている。
【0017】
Kimらは、Angew.Chem.Int.Ed.2012,51,1−6において、逆ミセル法で合成され、リン脂質−ポリエチレングリコール(PEG)で封入された3nmのナノセリアが、脳梗塞体積を低下させることによって、及びROSを除去することによって、ラットで虚血性脳卒中を防ぐことができることを報告している。しかしながら、用量がより多いと保護的ではなく、これは、逆ミセル合成法を悩ませる、上述のような、界面活性剤テーリング問題に関連し得ると考えられている。
【0018】
フリーラジカル酸化ストレスによる被害を調節及び改善するための効率的かつ効果的な方法及び薬剤に対する必要性が依然として存在する。更に、インビボでの細胞取込み及び血管循環時間が増加した、サイズが十分に小さく、健常又は非健常な血液脳関門を透過することができ、サイズ頻度分布がより均一で、安定で、かつ幅広い生物学的媒体中で無毒であるセリウム含有ナノ粒子の生体適合性分散体を、例えば、より高い収量で、より短い期間で、かつより高い懸濁密度で、直接的に精製する(すなわち、粒子単離工程を伴わない)方法の更なる改善に対する必要性が依然として存在する。更に、哺乳動物、特にヒトにおける、炎症並びに虚血性脳卒中及び再灌流傷害などの酸化ストレス関連事象、並びに酸化ストレス関連疾患、特に、多発性硬化症及び筋萎縮性側索硬化症などの中枢神経系疾患の予防及び/又は処置のための医薬品を生産することは非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】CeO2(セリアナイト)の線スペクトルとともに、CA/EDTAセリアナノ粒子の粉末X線回折(XRD)スペクトルを含む。
【
図2】ドライダウンされたCA/EDTAセリアナノ粒子のTEM顕微鏡写真である。
【
図3】ドライダウンされたCA/EDTAセリアナノ粒子の高解像度TEM顕微鏡写真である。
【
図4】CA/EDTAセリアナノ粒子のサイズ階層分布チャートである。
【
図5】ビヒクル対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンで投与されたCeNPについてのMSの慢性進行性モデルでの時間の関数としての平均臨床スコアのプロットである。薬物(CeNP)処置投与量は、10mg/kgであった。
【
図6】ビヒクル対照、予防的及び治療的処置レジメンについてのMSの慢性進行性モデルにおける時間の関数としての平均臨床スコアのプロットである。薬物(CeNP)処置投与量は、20mg/kgであった。
【
図7】ビヒクル対照(cont)についての並びに予防的(prev)及び治療的(ther)処置レジメンによって投与されたCeNPについてのMSの慢性進行性モデルでの疾患経過にわたる臨床スコア(AUC)チャートである。薬物(CeNP)処置投与量は、20mg/kgであった。
【
図8】予防的処置レジメンについてのCeNP投与量の関数としてのMSの慢性進行性モデルの臨床的重症度(AUC)のチャートである。
【
図9】治療的(3日遅延)処置レジメンについてのCeNP投与量の関数としてのMSの慢性進行性モデルの臨床的重症度(AUC)のチャートである。
【
図10】MSの慢性進行性モデルに注射された全セリア(CeNP)の関数としての疾患重症度の低下のプロットである。
【
図11】MSの慢性進行性モデルに注射された全セリア(CeNP)の関数としての脳内セリア含量のプロットである。
【
図12】対照についての、予防的及び治療的処置レジメンで投与されたCeNPについての、並びに毎日のフィンゴリモド処置についてのMSの慢性進行性モデルでの時間の関数としての平均臨床スコアのプロットである。薬物(CeNP)処置投与量は、30mg/kgであった。
【
図13】フィンゴリモドについての並びに予防的及び治療的(7日遅延)処置レジメンによって投与されたCeNPについての、対照と比べた、MSの慢性進行性モデルの急性期(0〜30日)における疾患重症度の減少のチャートである。
【
図14】フィンゴリモドについての並びに予防的及び治療的(7日遅延)処置レジメンによって投与されたCeNPについての、対照と比べた、MSの慢性進行性モデルの慢性期(31〜35日)における疾患重症度の減少のチャートである。
【
図15】対照についての、予防的(prev)及び治療的(7日遅延)(ther)レジメンによって投与されたCeNPについての並びにフィンゴリモド(fing)の毎日処置レジメンについての、MSの慢性進行性モデルでの疾患経過全体を通した疾患重症度(AUC)を評価するチャートである。
【
図16】対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンによって投与されたCeNPについての、MSの慢性進行性モデルでの時間の関数としてのロータロッド試験成績のプロットである。薬物(CeNP)処置投与量は、20mg/kgであった。
【
図17】予防的処置レジメンによって投与されたCeNP投与量の関数としてのMSの慢性進行性モデルでのロータロッド試験成績のチャートである。
【
図18】治療的(3日遅延)処置レジメンによって投与されたCeNP投与量の関数としてのMSの慢性進行性モデルでのロータロッド試験成績のチャートである。
【
図19】対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンによって投与されたCeNPについての、MSの慢性進行性モデルでの時間の関数としてのハンギングワイヤー試験成績のプロットである。薬物(CeNP)処置投与量は、20mg/kgであった。
【
図20】予防的及び治療的(遅延化)処置レジメンによって投与されたCeNP投与量の関数としてのMSの慢性進行性モデルでのハンギングワイヤー成績のチャートである。
【
図21】対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンによって投与されたCeNPについてのMSの慢性進行性モデルでの時間の関数としてのバランスビーム試験成績のプロットである。薬物(CeNP)処置投与量は、20mg/kgであった。
【
図22】予防的及び治療的(遅延化)処置レジメンによって投与されたCeNP投与量の関数としてのMSの慢性進行性モデルでのバランスビーム試験成績のチャートである。
【
図23】脳及び脊髄(sc)における、並びに慢性進行性MSを誘導され、ビヒクル対照(cont)を投与されたか、又は予防的(prev)及び治療的(ther)処置レジメンで20mg/kgのCeNPを投与されたC57BL/6マウスから採取された単離された小脳組織における蓄積された全セリアのチャートである。
【
図24】慢性進行性MSを誘導され、予防的及び治療的処置レジメンで20mg/kgのCeNPを投与され、疾患誘導後42日目に屠殺されたC57BL/6マウスから採取された様々な組織におけるセリアの蓄積のICP−MS結果のチャートである。
【
図25】予防的(30mg/kg投与量)処置レジメンによって投与されるビヒクル対照、フィンゴリモド、及びセリア(CeNP)で処置されたC57BL/6マウスについての慢性進行性MSの慢性期(42日)における脳(小脳切片)内の活性酸素種レベル(光強度)のチャートである。
【
図26】予防的(30mg/kg投与量)処置レジメンによって投与されるフィンゴリモド及びCeNPについての対照のパーセンテージとして表されたMSの慢性進行性モデルの慢性期(42日)における脳(小脳切片)内の活性酸素種レベル(光強度)のチャートである。
【
図27】セリア(CeNP)処置(予防的処置レジメン)及び未処置対照マウスから42日目に採取された、フリーラジカル指示色素CM−DCFDAで処理された小脳スライスの蛍光顕微鏡画像(より高い蛍光強度がより暖かい(例えば、赤/オレンジ、より明るい部分)色として現われ、より低い強度がより寒い(例えば、青/紫、より暗い部分)色として現われるような疑似カラー画像)を含む。
【
図28】免疫組織化学的染料で処理されたマウス小脳スライスの顕微鏡画像を含む。
【
図29】ビヒクル対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンで投与されたCeNPについてのMSの再発/寛解モデルでの時間の関数としての平均臨床スコアのプロットである。
【
図30】対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンによって投与されたCeNPについてのMSの再発/寛解モデルでの時間の関数としてのバランスビーム試験成績のプロットである。
【
図31】対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンによって投与されたCeNPについてのMSの再発/寛解モデルでの時間の関数としてのハンギングワイヤー試験成績のプロットである。
【
図32】対照についての並びに予防的及び治療的処置レジメンによって投与されたCeNPについてのMSの再発/寛解モデルでの時間の関数としてのロータロッド試験成績のプロットである。
【
図33】対照となる、Sigma−Aldrich、Alfa Aesar(1:14及び1:9希釈)についての及び治療的処置レジメンによって投与されたCA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)についてのMSの再発/寛解モデルでの疾患経過にわたる臨床スコア(AUC)のチャートである。
【
図34】対照となる、Sigma−Aldrich、Alfa Aesar(1:14及び1:9希釈)についての及び治療的処置レジメンによって投与されたCA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)についてのMSの再発/寛解モデルでの疾患経過にわたる平均バランスビームスコアのチャートである。
【
図35】対照となる、Sigma−Aldrich、Alfa Aesar(1:14及び1:9希釈)についての及び治療的処置レジメンによって投与されたCA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)についてのMSの再発/寛解モデルでの疾患経過にわたる平均ハンギングワイヤー試験成績のチャートである。
【
図36】対照となる、Sigma−Aldrich、Alfa Aesar(1:14及び1:9希釈)についての及び治療的処置レジメンによって投与されたCA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)についてのMSの再発/寛解モデルでの疾患経過にわたる平均ロータロッド試験成績のチャートである。
【
図37】様々な市販のナノセリア(24mg/kg全投与量)と比較した、CA/EDTAセリアナノ粒子(標識CNRx)を治療的処置レジメンによって投与されたMSの再発/寛解モデルでの脳沈着結果のチャートである。
【
図38】MSの再発/寛解モデル(24mg/kg全投与量)でのCA/EDTAセリアナノ粒子の最後の注射の後の時間の関数としての脳内セリア含量のチャートである。
【
図39】ラットへのCeNPの10mg/kgの静脈内(IV)注射についての及び50mg/kgの皮下注射についての24時間にわたる血液血漿中のセリア濃度のプロットである。
【
図40】ビヒクル対照及びCeNP(CNRx 87)で処置されたG93AモデルALSマウスの生存期間(日)のチャートである。
【
図41】ビヒクル対照で並びに−4、−2、及び0日目に20mg/kgで投与されるCeNP(CNRx 87)で処置されたマウスについてのランゲンドルフ心臓吊り下げ処置による心筋虚血/再灌流後のLDH蓄積のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
具体的に表示又は記載されていない要素が、当業者に周知の様々な形態を取り得ることを理解すべきである。本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0028】
本明細書で使用される場合、ナノ粒子という用語には、100nm未満の平均直径を有する粒子が含まれる。本開示のために、別途明記されない限り、ナノ粒子の直径は、その流体力学的直径を指し、これは、動的光散乱技術によって決定される直径であり、分子吸着質及び付随する粒子の溶媒和殻を含む。或いは、幾何学的粒子直径を透過電子顕微鏡写真(TEM)の解析によって推定することができる。
【0029】
本明細書で使用される場合、様々なセリウム含有材料は、「セリア」、「酸化セリウム」、又は「二酸化セリウム」と互換的に記載される。これらの材料中に存在する実際の酸化的アニオンは、酸化物アニオンもしくは水酸化物アニオン、又はこれらの混合物、例えば、水和酸化物相(例えば、オキシ水酸化物)を含み得ることが化学分野の当業者によって理解されるであろう。更に、物質の組成物が多価カチオンの固溶体から構成され得、非化学量論的固体と称されることも知られている。従って、複数の酸化状態の金属カチオンから構成される酸化物相については、電荷の中立性が維持されるように、存在する酸化的アニオンの総量が、存在する金属カチオン(例えば、Ce
3+及びCe
4+)の様々な酸化状態の具体的な量によって決定されることが理解される。名目上、二酸化金属と記載される非化学量論的相について、これは、化学式MO
2-δ(式中、δ(デルタ)の値は変動し得る)で具体的に示される。酸化セリウムのCeO
2-δについて、δ(デルタ)の値は、通常、約0.0〜約0.5の範囲であり、前者は、酸化セリウム(IV)のCeO
2を表し、後者は、酸化セリウム(III)のCeO
1.5を表す(或いは、Ce
2O
3を表す)。或いは、δ(デルタ)の値は、酸化セリウム(IV)(CeO
2)に関して存在する酸素原子空孔の量を表す。存在する各々の酸素ジアニオン原子空孔について、電荷中立性を維持するために、2つの3価セリウムイオン(Ce
3+)が存在する。
【0030】
本発明の一実施形態において、3価セリウムイオン、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、酸化剤、及び水を含む反応混合物を形成させること;任意に、この反応混合物を加熱又は冷却すること;並びに単離することなく、ナノ粒子の安定な分散体を直接形成させること:を含む方法が提供される。
【0031】
様々な実施形態において、反応混合物中のクエン酸対EDTAのモル比は、約3:1〜約1:9;約3:1〜約2:1;及び約1.2:1.0〜約1:9の範囲である。
【0032】
様々な実施形態において、酸化剤には、分子酸素もしくは大気、又は分子酸素(もしくは大気の周囲雰囲気)よりも酸化させる化合物が含まれる。他の実施形態において、酸化剤は、標準水素電極と比べて、−0.13ボルトを上回る水性半電池還元電位を有する。特定の実施形態において、酸化剤は、アルカリ金属又は過塩素酸アンモニウム、塩素酸アンモニウム、次亜塩素酸アンモニウム、もしくは過硫酸アンモニウム;オゾン、過酸化物、又はこれらの組合せである。特定の実施形態において、過酸化水素などの二電子酸化剤が使用される。特定の実施形態において、過酸化水素は、3価セリウムイオンのモル量の半分を超える量で存在する。また他の実施形態において、存在する酸化剤の量は、存在するセリウムイオン又は他の金属イオンの量との関連で広範に変動する。
【0033】
特定の実施形態において、分子酸素を反応混合物に通す。
【0034】
特定の実施形態において、反応混合物の温度は、周囲温度より高い又は周囲温度より低い。特定の実施形態において、反応混合物を、周囲温度より高い又は周囲温度より低い温度に加熱又は冷却する。様々な実施形態において、反応混合物を、約30℃超、約40℃超、約50℃超、約60℃超、約70℃超、約80℃超、又は約90℃超の温度に加熱又は冷却する。特定の実施形態において、反応混合物を、水の沸点未満の温度に加熱又は冷却する。
【0035】
様々な実施形態において、形成されるナノ粒子は、非晶質、半結晶性もしくは実質的に結晶性、又は結晶性である。特定の実施形態において、形成されるナノ粒子は、立方蛍石結晶構造を特徴とする。特定の実施形態において、形成されるナノ粒子は、酸化セリウム結晶構造を特徴とする。
【0036】
本明細書で使用される場合、半結晶性及び実質的に結晶性という用語は、少なくともいくつかの結晶性構造を有するナノ粒子を指す。当業者が認識しているように、より小さい粒子は、検出可能な長距離秩序をあまり持たないため、粒子の正確な特徴付けは、粒子サイズが小さくなるにつれてますます困難になる。
【0037】
少なくとも1つの実施形態において、ナノ粒子は結晶性であり、かつ単結晶性又は多結晶性であり得る。
【0038】
特定の実施形態において、形成されるナノ粒子の結晶化度を反応混合物の加熱によって向上させる。
【0039】
特定の実施形態において、形成されるナノ粒子を反応混合物の加熱によって脱水又は脱ヒドロキシル化する。
【0040】
様々な実施形態において、形成されるナノ粒子は、100nm未満、80nm未満、60nm未満、40nm未満、20nm未満、10nm未満、5.0nm未満、約3nm未満、又は約2.0nm未満の流体力学的直径を有する。
【0041】
特定の実施形態において、形成されるナノ粒子は、流体力学的直径未満の幾何学的直径を有する。
【0042】
様々な実施形態において、形成されるナノ粒子は、平均粒子サイズで除した粒子サイズの標準偏差と定義される、約15%未満、約10%未満、約5%未満、又は約3%未満の、粒子サイズの変動係数(COV)を有する。
【0043】
特定の実施形態において、セリウムを含むナノ粒子が提供される。他の実施形態において、酸化セリウム、水酸化セリウム、又はオキシ水酸化セリウムを含むナノ粒子が提供される。
【0044】
特定の実施形態において、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸及び酸化セリウム、水酸化セリウム、又はオキシ水酸化セリウムを含むナノ粒子が提供される。
【0045】
他の実施形態において、0以下のゼータ電位を有するナノ粒子が提供される。特定の実施形態において、酸化セリウム、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸を含み、かつ0以下のゼータ電位を有するナノ粒子が提供される。特定の実施形態において、酸化セリウム、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸を含み、かつ−10mV未満、−20mV未満、−30mV未満、−40mV未満、又は約−50mV未満のゼータ電位を有するナノ粒子が提供される。特定の実施形態において、酸化セリウム、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸を含み、かつ−15mV〜−30mVの範囲のゼータ電位を有するナノ粒子が提供される。
【0046】
特定の実施形態において、0より大きいゼータ電位を有するナノ粒子が提供される。特定の実施形態において、セリウム、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸を含み、かつ0より大きい、10mVより大きい、20mVより大きい、30mVより大きい、40mVより大きい、又は50mVより大きいゼータ電位を有するナノ粒子が提供される。
【0047】
様々な実施形態において、ナノ粒子のゼータ電位を、ナノ粒子分散体のpH、クエン酸及び/もしくはエチレンジアミン四酢酸含量、又はこれらの組合せを調整することによって変化させる。
【0048】
特定の実施形態において、ナノ粒子のゼータ電位を、ナノ粒子分散体のクエン酸及びエチレンジアミン四酢酸含量を飽和被覆率未満に調整することによって変化させる。
【0049】
別の実施形態において、ナノ粒子のゼータ電位を、ナノ粒子分散体のpHとクエン酸及びエチレンジアミン四酢酸含量の両方を飽和被覆率未満に調整することによって変化させる。
【0050】
様々な実施形態において、セリウム含有ナノ粒子の分散体は、実質的に非凝集性のナノ粒子、90パーセントを超えて非凝集性のナノ粒子、95パーセントを超えて非凝集性のナノ粒子、98パーセントを超えて非凝集性のナノ粒子、及び完全に非凝集性のナノ粒子を含有する。
【0051】
特定の実施形態において、非凝集性ナノ粒子は結晶性であり、別名、単一粒子微結晶又は個別微結晶と呼ばれる。
【0052】
特定の実施形態において、形成されるナノ粒子分散体を洗浄して、余分なイオン又は副生成物塩を除去する。様々な実施形態において、イオン伝導度が、約15ミリジーメンス/センチメートル(mS/cm)未満、約10mS/cm未満、約5mS/cm未満、又は約3mS/cm未満に低下するように、ナノ粒子分散体を洗浄する。特定の実施形態において、形成されるナノ粒子分散体を、透析、透析濾過、又は遠心分離によって洗浄する。
【0053】
特定の実施形態において、形成されるナノ粒子分散体を濃縮して、余分な溶媒又は余分な水を除去する。特定の実施形態において、ナノ粒子分散体を、透析、透析濾過、又は遠心分離によって濃縮する。
【0054】
様々な実施形態において、分散体中のナノ粒子の濃度は、約0.05重量モル濃度より大きく、約0.5重量モル濃度より大きく、又は約2.0重量モル濃度より大きい(所与の分散体中、約35%の固体)。
【0055】
特定の実施形態において、ナノ粒子のサイズ分布は、実質的に単峰性である。他の実施形態において、ナノ粒子サイズは、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、又は約5%未満の変動係数(COV)を有し、ここで、COVは、平均で除した標準偏差と定義される。
【0056】
特定の実施形態において、当技術分野で公知の様々な混合装置を用いて、反応混合物の内容物を撹拌(stir)、混合、剪断、又は撹拌(agitate)する。様々な実施形態において、撹拌棒、マリンブレードプロペラ、ピッチブレードタービン、又はフラットブレードタービンを含むミキサーを使用する。特定の実施形態において、反応混合物を、サイズが1ミリメートルの何分の1から数ミリメートルにまで及ぶ穴を含むスクリーンに通過させる高剪断ミキサーを使用する。特定の実施形態において、コロイドミル又はSilverson(登録商標)高剪断ミキサーを使用する。特定の実施形態において、反応物の1つ又は複数を水性反応混合物の表面下で導入する。特定の実施形態において、反応物を、水性反応混合物の表面下で、混合装置にごく近接させて導入する。
【0057】
本発明の一実施形態において、同一出願人による米国特許出願公開第2010/0152077号に開示されている方法によって水性ナノ粒子分散体をより極性の低い溶媒組成物に溶媒シフトさせる方法を使用する。具体的な実施形態において、ナノ粒子分散体を、例えば、アルコール又はグリコールエーテルを含む、有機希釈剤とともに、透析濾過カラムに通す。
【0058】
少なくとも1つの実施形態において、セリウム含有ナノ粒子の分散体は、例えば、少なくとも12カ月など、少なくとも2カ月間安定である。
【0059】
任意の理論に束縛されるものではないが、炎症及び酸化ストレス関連疾患(例えば、ROS媒介性疾患)の処置への酸化セリウムの提案されている使用は、一つには、酸化セリウムが、フリーラジカルの触媒的スカベンジャーとして機能し得るという考えに基づいている。Ce
3+原子価状態とCe
4+原子価状態の混合物におけるセリウムの存在及び簡易相互変換は、酸化セリウムが、触媒的な又は自己再生的な様式で、フリーラジカルをより害の少ない種に還元及び/又は酸化することを可能にし得る。レドックス反応は、組織を損傷するフリーラジカルを中和する酸化セリウムナノ粒子(CeNP)の表面で起こり得る。例えば、スーパーオキシドアニオン(O
2-)を分子酸素に酸化すること、ペルオキシ亜硝酸アニオン(ONOO
-)を生理的に無害な種に酸化すること、及びヒドロキシルラジカル(・OH)を水酸化物アニオンに還元することが望ましいと考えられる。これはまた、例えば、酸化ストレス関連疾患及び事象を処置するために現在利用可能な犠牲的抗酸化剤と比較して、投与レジメンを大幅に減少させることが可能になり得る。
【0060】
特定の実施形態において、本発明の投与されるナノセリア粒子は、細胞膜を通して細胞内に取り込まれ、細胞質、又は核及びミトコンドリアなどの様々な細胞オルガネラに存在する。他の実施形態において、本発明のナノセリア粒子は、血管内又は間質空間に存在し、その場合、それらは、フリーラジカルを除去し、又は自己免疫応答を低下させることによって、酸化ストレス及び炎症を低下させることができる。特定の実施形態において、血液脳関門(BBB)又は血液脳脊髄液関門(BCFB)又は血液眼球関門(BOB)の崩壊によって生じる中枢神経系の免疫系侵入は、本発明のナノセリア粒子によって調節される。
【0061】
別の実施形態において、本発明のナノセリア粒子は、哺乳動物の血液脳関門を横断することができる粒子である。様々な実施形態において、本発明のナノセリア粒子は、哺乳動物の血液脳関門を横断し、約100nm未満、約50nm未満、約20nm未満、約10nm未満、約5nm未満のサイズの凝集体又は凝集塊として脳実質組織に存在する。特定の実施形態において、本発明のナノセリア粒子は、哺乳動物の血液脳関門を横断し、約3.5nm未満のサイズの独立した、非凝集性ナノ粒子として脳実質組織に存在する。
【0062】
特定の実施形態において、本発明のナノセリア粒子を含む医薬組成物は、限定されないが、とりわけ、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動失調症、フリードライヒ運動失調症、自閉症、強迫性障害、注意欠陥多動性障害、片頭痛、脳卒中、外傷性脳損傷、癌、炎症、自己免疫障害、狼瘡、MS、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、狭窄、再狭窄、アテローム性動脈硬化症、メタボリックシンドローム、内皮機能不全、血管攣縮、糖尿病、加齢、慢性疲労、冠動脈性心疾患、心筋線維症、心筋梗塞、高血圧、狭心症、プリンツメタル狭心症(Prizmetal's angina)、虚血、血管形成術、低酸素症、ケシャン病、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ソラマメ中毒症、虚血再灌流傷害、関節リウマチ及び骨関節炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(例えば、肺気腫及び気管支炎)、アレルギー、急性呼吸窮迫症候群、慢性腎疾患、腎移植、腎炎、電離放射線障害、日焼け、皮膚炎、黒色腫、乾癬、黄斑変性症、網膜変性、白内障発生などの酸化ストレス関連疾患及び事象の予防及び/又は処置のために具体的に想定されている。
【0063】
特定の実施形態において、本発明のナノセリア粒子を含む医薬組成物は、限定されないが、ミトコンドリア機能不全、リソソーム及びプロテアソーム機能不全、核酸(例えば、RNA及びDNA)の酸化、チロシンのニトロ化、リン酸化媒介性シグナル伝達カスケードの喪失、アポトーシスの開始、脂質過酸化、並びに膜脂質環境の破壊などの酸化ストレス関連細胞病理の予防及び/又は処置のために具体的に想定されている。
【0064】
少なくとも1つの実施形態において、本発明に従って作製されるセリウム含有ナノ粒子を含む医薬組成物を有効量で投与して、酸化ストレス関連疾患を予防的に処置する。本明細書で使用される場合、「有効量」という語句は、所望の効果をもたらすのに十分な活性成分(例えば、セリウム含有ナノ粒子)を含む医薬組成物の量を意味する。当技術分野で認識されている治療的有効量は、ルーチンの実験を通して決定することができる。
【0065】
少なくとも1つの実施形態において、本発明に従って作製されるセリウム含有ナノ粒子を含む医薬組成物を有効量で投与して、酸化ストレス関連疾患の症状を処置する。
【0066】
様々な実施形態において、本発明のナノセリア粒子を含む医薬組成物を、ヒト又は非ヒト対象、例えば、限定されないが、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、もしくは齧歯類を含む、別の哺乳動物に投与する。或いは、投与の対象は、鳥類、昆虫、爬虫類、両生類、又は任意のコンパニオン動物もしくは農業用動物などの動物であることができる。
【0067】
様々な実施形態において、本発明のナノセリア粒子を、注射、注入、又は埋め込みを含む、局所法、腸内法、又は非経口法によって、インビボで対象に投与する。より具体的には、本発明のナノセリア粒子を、以下の経路:耳介(耳)、頬側、結膜、皮膚、歯、電気浸透、頸管内、洞内、気管内、腸内、硬膜外、羊膜外、体外、血液透析、濾過、間質、腹膜、羊膜内、動脈内、胆管内、気管支内、嚢内、心臓内、軟骨内、仙骨内、空洞内、腔内、大脳内、槽内、角膜内、歯冠内、冠動脈内、海綿体内、皮内、脊髄内、管内、十二指腸内、硬膜内、表皮内、食道内、胃内、歯肉内、回腸内、病巣内、管腔内、リンパ腺内、骨髄内、髄膜内、筋肉内、眼内、卵巣内、心膜内、腹腔内、胸膜腔内、前立腺内、肺内、副鼻腔内(intrasinal)、脊髄内、滑膜内、腱内、精巣内、包膜内、胸腔内、尿細管内、腫瘍内、鼓膜内、子宮内、血管内、静脈内、静脈内急速、静脈内点滴、心室内、膀胱内、硝子体内、イオン浸透法、潅注、喉頭、鼻、経鼻胃、閉鎖包帯法、眼、経口、口腔咽頭、非経口、経皮、関節周囲、硬膜外、神経周囲、歯周、直腸、呼吸器(吸入)、眼球後、軟部組織、くも膜下、結膜下、皮下、舌下、粘膜下、局所、経皮、経乳、経粘膜、経胎盤、経気管支、鼓膜内、尿管、尿道、膣、及び任意の他の又は割り当てられていない経路のいずれかによって投与することが具体的に想定されている。
【0068】
他の実施形態において、本発明のナノセリア粒子を、カニューレ、カテーテル、又はステントなどの、医療機器又は人工器官の中又は表面に保持し、それにより、短期間又は長期間のいずれかにわたって、局所的に又は全身的に、炎症を低下させる。
【0069】
様々な実施形態において、本発明のナノセリア粒子を、限定されないが、懸濁剤、ゲル剤、錠剤、腸溶性コート錠、充填済みリポソーム、散剤、坐剤、注入剤(infusible)、舐剤、クリーム剤、ローション剤、軟膏剤、又は吸入剤を含む、当技術分野で公知の任意の好適な形態で送達する。
【0070】
様々な実施形態において、本発明のナノセリア粒子を、限定されないが、水、塩、緩衝剤、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、糖類、ヒトもしくはウシ血清アルブミン(albumen)、脂質、薬物、着色剤、着香剤、結合剤、粘剤、界面活性剤、増量剤、又は当技術分野で公知の任意の賦形剤などの、他の医薬として許容し得る物質と組み合わせる。
【0071】
特定の実施形態において、本発明のナノセリア粒子を含むビヒクルを投与前に滅菌する。
【0072】
他の実施形態において、細胞又は細胞培養物を本発明のナノセリア粒子(単数)又は粒子(複数)と接触させる。接触は、細胞又は細胞培養物をインビトロ法又はエクスビボ法によって曝露させることによって実施することができ、その場合、後者の方法は、処理した細胞(単数)又は細胞(複数)を、この細胞(単数)又は細胞(複数)がもともと得られた対象などの、対象に再導入することを含む。様々な実施形態において、細胞は、本質的に、原核生物又は真核生物のものである。特定の実施形態において、処理した細胞を、限定されないが、抗原、抗体、及びワクチンなどの、生物製剤として一般に知られる、製薬業界で使用されるタンパク質の生産に使用する。別の実施形態において、処理した細胞を発酵プロセスで使用する。
【0073】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、これは、決して、本発明を限定することを意図するものではない。
【0074】
実験セクション
ナノ粒子の光散乱及びサイズ評価
ニートの溶媒の試料からの散乱の量と比べた、赤のレーザーペンライトで照射したときに分散体によって示されるチンダル(Tyndell)散乱の程度を評価することによって、粒子分散体の簡単な定性的特徴付けを行った。石英キュベットを備えたBrookhaven 90Plus Particle Size Analyzer(Brookhaven Instruments Corp.,Holtzville,New York,U.S.A.)を用いた動的光散乱(DLS)によって、ナノ粒子分散体の粒子サイズの定量的評価を行った。報告されるDLSサイズは、対数正規数加重パラメータである。
【0075】
ナノ粒子電荷評価
Malvern Instruments製のZetasizer Nano ZSを用いてゼータ電位を測定することによって、ナノ粒子電荷の定量的評価を行った。
【0076】
クエン酸及びEDTAを用いたセリアナノ粒子の調製
磁気撹拌棒を含む800mlのガラスビーカーに、500mlの高純度(HP)水を入れた。その後、水を約70℃に加熱し、そこに、2.41gmのクエン酸(CA)及び4.27gmのエチレンジアミン四酢酸、二ナトリウム塩(EDTA)を溶解させた。水酸化アンモニウム(28〜30%)を添加して、溶液のpHを約8.5に調整した。反応容器の温度を約80℃に上昇させ、磁気撹拌棒を、5000rpmで操作されるSilverson(登録商標)L4RT高剪断ミキサーに取り替えた。10.0gmの分量のCe(NO
3)
3・6(H
2O)を30mlのHP水に溶解させ、この溶液を撹拌反応混合物に数分間かけてゆっくりと添加した。少量の濃NH
4OH溶液の添加によって、反応pHを約8.5に維持した。その後、4.8mlの50%H
2O
2(3.0のモル比のH
2O
2対セリウム)を含む50mlの溶液を、3価セリウムイオン、クエン酸、EDTA反応混合物に、数分間かけてゆっくりと添加した。反応生成物に蓋をし、その後、さらに1時間加熱すると、透明な黄色/オレンジ色の懸濁液が生じた。撹拌しながら冷却した後、直接形成されたナノ粒子分散体を透析濾過によって約10mS/cm未満のイオン伝導度(ion conductive)にまで洗浄して、余分な塩を除去した。生成物分散体のpHは、約7.2であった。
【0077】
最終生成物分散体は、低強度LASERビームで照射したときに高度のチンダル散乱を示す透明な黄色/オレンジ色の液体であり、それが、よく分散したコロイド粒子を含むことを示した。最終生成物分散体は、少なくとも12カ月間安定であることが観察され、粒子の凝集又は沈殿の兆候はなかった。7つの複製調製物に対する動的光散乱による粒子サイズ分析により、3.1nmの平均流体力学的直径、0.30nm(10%のCOV)の標準偏差が得られた。
【0078】
等モル量(50/50)のクエン酸及びEDTAが添加されるこの方法によって調製されたセリアナノ粒子は、本明細書において、CA/EDTAセリアナノ粒子、CA/EDTAナノセリア、CeNP、CNRx、又はCNRx 87と様々に呼ばれる。
【0079】
CA/EDTAセリアナノ粒子の複製調製物を、粉末X線回折(XRD)による相同定及び微結晶サイズ分析にかけた。試料部をテフロン(登録商標)ボートに入れ、加熱ランプ下で4時間乾燥させ、その後、真空下、80℃で4時間、オーブン中で乾燥させた。得られた固体を軽く粉砕して、粉末を形成させた。その後、これらの粉末をガラスホルダーの前方に充填し、N2乾燥セルアタッチメント中でXRDによって分析した。
【0080】
図1に示すCA/EDTAセリアナノ粒子の3つの特定の複製調製物のXRDスペクトルの分析によって、各々の試料が、CeO
2(PDF #34−394、セリアナイト)と等構造(iso−structural)の主要な結晶性相を含有することが示された。CeO
2(220)方向に0.06nm(2.5%のCOV)の標準偏差を有する2.4nmの平均微結晶サイズを、シェラー技術を用いて、7つの複製試料について決定した。
【0081】
ドライダウンされたCA/EDTAセリアナノ粒子(
図2)の中程度に高い解像度のTEM顕微鏡写真から、約2〜3nmの直径を有する個々の(非凝集性)粒子の集合体が明らかになった。ドライダウンされたCA/EDTAセリアナノ粒子(
図3)のより高解像度のTEM顕微鏡写真から、選択されたナノ粒子中の個々の原子配置が明らかになった。
図4に示すように、サイズ階層分布をTEM顕微鏡写真から決定した。
【0082】
ゼータ電位測定によって、CA/EDTAセリアナノ粒子の複製調製物のこれらの水分散体についての−23mVの平均電荷が示された。
【0083】
安定剤の一定の総モル量を維持しながら、クエン酸安定剤とEDTA安定剤のモル比を100/0、80/20、70/30、60/40、40/60、30/70、20/80、及び0/100に調整することを除き、上記のCA/EDTAセリアナノ粒子の調製を繰り返した。下の表1に示すように、実質的に同様の物理的特徴(粒子サイズ及びゼータ電位)を有する酸化セリウムナノ粒子の安定分散体が生じた。
【0084】
様々な酸化ストレス関連疾患における酸化セリウムナノ粒子の評価
虚血性脳卒中
虚血性脳卒中のマウス海馬脳スライスモデル
酸化ストレスを低下させるナノセリアの能力を、Estevez,AY;ら、虚血のマウス海馬脳スライスモデルにおける酸化セリウムナノ粒子の神経保護メカニズム(Neuroprotective mechanisms of cerium oxide nanoparticle in a mouse hippocampal brain slice model of ischemia)、Free Radic.Biol.Med.(2011)51(6):1155−63(doi:10.1016/j.radbiomed.2011.06.006)によって記載された虚血のインビトロマウス海馬脳スライスモデルの改良法で評価した。
【0085】
成体(2〜5カ月齢)CD1マウスを急速断頭によって屠殺し、その脳を素早く摘出し、24mMの重炭酸コリン、135mMの塩化コリン、1mMのキヌレン酸、0.5mMのCaCl
2、1.4mMのNa
2PO
4、10mMのグルコース、1mMのKCl、及び20mMのMgCl
2を含む冷やしたコリン系スライス溶液(315mOsm)中に入れた。400μmの厚さの横断海馬スライスを、Leica VT1200 Vibratome(Leica Microsystems、Wetzlar、Germany)を用いて、吻尾軸(−1.2〜−2.8mmのブレグマ)に沿って切り、124mMのNaCl、3mMのKCl、2.4mMのCaCl
2、1.3mMのMgSO
4、1.24mMのK
3PO
4、26mMのNaHCO
3、10mMのグルコースを含み、5%CO
2、95%O
2ガスでバブリングした対照人工脳脊髄液(aCSF)(pH7.4、300mOsm)中で1時間回復させておいた。海馬スライスを培養皿に入れ、NuAire加湿インキュベーター(NuAire,Plymouth,MN,USA)中、37℃で、5%CO
2で、最長48時間保存した。
【0086】
脳スライスを、低血糖、酸性、かつ低酸素のaCSF(グルコース及びpHを、それぞれ、2mM及び6.8に下げ、溶液を84%N
2、15%CO
2、及び1%O
2でバブリングした)中に、37℃で30分間入れることによって、虚血による酸化ストレスを誘導した。スクロースを添加して、溶液のオスモル濃度を約295mOsmに維持した。
【0087】
上記のように調製された酸化セリウムナノ粒子の水性分散体を、虚血事象の開始時に、aCSF又は媒体1ml当たり1μgの送達容量のマッチさせた投与量(5.8μMに相当)で投与し、実験の残りの時間を通してこの媒体中で保持した。対照スライスには、等容量のビヒクル対照を投与した。蒸留水のみ、生理食塩溶液、クエン酸Na溶液、PBS、及びこれらの組合せを含む、様々な送達ビヒクルを、本明細書に記載の通りに調製された酸化セリウムナノ粒子の代わりに用いて、同じようにうまく行った。
【0088】
酸化ストレス(虚血状態)に30分間曝露させた後、培養培地及びMilliporeインサート(Millipore,Billerica,MA,USA)を含有する35mm培養皿に入れることによって、生きた脳スライス(試験及び対照)を器官型培養で24時間インキュベートした。培養培地は、50%最小必須培地(Hyclone Scientific,Logan UT,USA)、25%ウマ血清、25%ハンクス平衡塩類溶液(28mMのグルコース、20mMのHEPES、及び4mMのNaHCO
3を補充したもの)、50U/mlのペニシリン、並びに50μl/mlのストレプトマイシン、pH7.2を含有していた。
【0089】
酸化損傷の24時間後、蛍光イメージング技術を用いて、細胞死の程度を測定した。試験条件(すなわち、酸化セリウムナノ粒子が投与される)で検討された脳スライスの各々の組を、ビヒクルのみを投与することを除いて、あらゆる点で同一に処理された対照脳スライスの同様の組とマッチさせた。従って、各々の試験日に、年齢をマッチさせかつ性別をマッチさせた同腹子から採取された2組の解剖学的にマッチさせた脳スライスを試験条件(酸化セリウムナノ粒子が投与される)又は対照(ビヒクルのみ)のどちらかに供した。蛍光イメージング測定の間、光強度、画像取込みの時間、及び画像収集のタイミングは、試験条件及びビヒクル対照脳スライスについて同一であった。結果を、試験条件での蛍光と実験シークエンスの同じ時点でイメージングされたマッチさせた対照スライスでの蛍光の比として表した。
【0090】
酸化損傷の24時間後、対を成す(対照及び試験)脳スライスを、0.81μMの生体染色用排除色素SYTOX(登録商標)Green(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を含有する培養培地中で20分間インキュベートし、その後、培養培地中で15〜20分間洗浄して、取り込まれていない色素を除去した。SYTOX(登録商標)Greenは、DNA及びRNAに結合する蛍光色素である。しかしながら、それは、無傷の生細胞では、細胞膜によって細胞核から排除される。それ故、それは、生体染色用色素として働き、細胞膜が透過性になり、その結果、色素が細胞内部に自由に出入りできる死細胞及び瀕死細胞のみを染色する。染色及び洗浄した後、脳スライスを、落射蛍光アタッチメント及び150−Wキセノン光源(Optiquip,Highland Mills,NY,USA)を備えたNikon TE 2000−U(Nikon Instruments,Melville,NY,USA)顕微鏡のステージに移した。対照aCSF溶液を60−mlシリンジに充填し、95%O
2/5%CO
2で平衡化し、サーボ制御型シリンジヒーターブロック、ステージヒーター、及びインライン灌流ヒーター(Warner Instruments,Hamden,CT,USA)を用いて、37℃に加熱した。脳切片を、温められ、95%O
2/5%CO
2で平衡化されたaCSFで、1分間に1mlの割合で連続的に灌流させた。5分後、同一の条件(すなわち、光強度、露光時間、カメラ取得パラメータ)下で、4×Plan Flour対物レンズ(Nikon Instruments)を用いて、各々の対照及び試験脳スライスの海馬形成の画像を収集した。組織を480±40nmで短時間(620ms)励起し、505nmのロングパスダイクロイックミラー(Chroma technology,Bennington,VT,USA)を用いてプローブからの放出蛍光(535±50nm)にフィルターをかけ、増感させ、冷却CCDゲインEMカメラ(Hamamatsu CCD EM C9100;Bridgewater,NJ,USA)で測定することによって、SYTOX(登録商標)Green蛍光を測定した。デジタル画像を取得し、Compix SimplePCI 6.5ソフトウェア(C Imaging Systems,Cranberry Township,PA,USA)で処理した。
【0091】
SYTOX(登録商標)Green負荷の結果として生じる光強度は、計算される面積内の死細胞又は瀕死細胞の数を反映するものであった。Compix SimplePCI 6.5ソフトウェアを用いて光強度測定を自動的に行い、それによって、関心対象の領域を選択する際の実験者バイアスを排除した。
【0092】
細胞死の低下は、同じ日にスライスされ、虚血性酸化ストレスに曝露された、年齢をマッチさせかつ性別をマッチさせた同腹子脳から採取された解剖学的にマッチさせた海馬切片についての、試験条件(すなわち、処理したナノセリア)と対照(未処理)でのアンモン角領域(上昇層、放線状層、及び網状分子層)からのSYTOX(登録商標)Green蛍光の光強度の比として報告され、蛍光は、虚血性傷害の24時間後にイメージングされる。
【0093】
クエン酸、EDTA、及びこれらの組合せを含む生体適合性安定剤を用いて調製された酸化セリウムナノ粒子を、5.8μMの処理濃度を用いて、虚血性脳卒中のマウス海馬脳スライスモデルで評価した。一般に温存(sparing)と呼ばれる、細胞死の低下の結果(対照と比べた低下率)を、クエン酸対EDTAのモル比の関数として、下の表1に示す。
【表1】
【0094】
クエン酸のみ(100/0)を安定剤として調製された酸化セリウムナノ粒子による処理が、細胞死を約16%低下させた(温存した)のに対し、EDTAのみ(0/100)を安定剤として調製された酸化セリウムナノ粒子による処理は、細胞死に対する効果がほとんどなかった(1.8%低下)。温存の増大とも呼ばれる、細胞死の更なる低下は、医薬組成物又は医薬品の望ましい特徴である。70/30〜20/80の範囲のモル比のクエン酸とEDTAの組合せを用いて調製された酸化セリウムナノ粒子による処理は、単独で使用された各々の安定剤の効果に基づく単純な線形予測相加的合計を大幅に上回る驚くほどの温存の増加をもたらした。例えば、最大の温存(約30%)が等モル濃度(50/50)比のクエン酸対EDTAで見られたのに対し、安定剤のこの組合せを用いて調製されたナノ粒子についての単純な線形予測は、クエン酸のみについて平均15.5%の温存及びEDTAのみについて平均1.8%の温存であり、これは、8.65%の温存でしかない。このように、クエン酸安定剤とEDTA安定剤の組合せにおける驚くべきかつ予想外の相乗効果が見出され、この場合、等モル濃度(50/50)のクエン酸及びEDTAでの実際の温存は、単純な線形予測よりも約3.5倍大きい。
【0095】
一般に、所与の比のクエン酸対EDTAでの予測温存パーセントについての単純な線形(相加的)モデルは、次式:
[CAの比]
*[CAの温存%]+[EDTAの比]
*[EDTAの温存%]
(式中、所与の安定剤の比は、存在する全安定剤のモル比である)によって与えられる。表1に示す結果について、CAの温存%は15.5%であり、EDTAの温存%は1.8%である。この式の値(予測温存パーセント)は、上の表1で、温存結果及び予測(%)という見出しの付いた欄に一覧化されている。
【0096】
一般に、温存の相乗的増加は、2つの異なるパラメータで具体的に表現することができる。実際の温存量と予測上の温存量の差(実際−予測)は、絶対的な基準に基づく相乗作用を具体的に表現しており、これについて、正の値は、予想外の相加的温存(発明結果)を表し、負の値は、予想よりも低い量の温存(すなわち、安定剤間の負の相互作用又は干渉)を表す。或いは、実際対予測(実際/予測)の比は、相対的な基準に基づく相乗作用を具体的に表現しており、これについて、1よりも大きい値は、相加的な予想外の温存の相対量(発明結果)を表し、1未満の値は、安定剤間の負の相互作用又は干渉による予測上の予想量未満の温存の相対量(比較結果)を表す。
【0097】
表1の温存相乗効果の欄のこれらのパラメータの検討によって、70/30〜20/80の範囲のモル比のクエン酸とEDTAの組合せを用いて調製された酸化セリウムナノ粒子による処理が、絶対的温存の相乗的増加((実際−予測)の値が正である)を相対的温存の相乗的増加((実際/予測)の値が1よりも大きい)とともにもたらしたことが再度明らかとなる。最大量の絶対的な相乗的温存増加は、50/50のクエン酸対EDTAの処理比の場合に生じ、これについては、さらに21.65%の温存が予想外に認められる。最大量の相対的な相乗的温存増加は、30/70のクエン酸対EDTAの処理比の場合に生じ、これについては、実際の温存は、予測よりも3.9倍大きい。
【0098】
対照的に、負の相互作用又干渉は、80/20のモル比のクエン酸とEDTAの組合せを用いて調製された酸化セリウムナノ粒子による処理の場合に認められ、これについては、絶対的な実際の温存は、予測よりも6.8%少なく、或いは相対的な実際の温存は、予測上の温存の2分の1(0.5倍)でしかなかった。
【0099】
従って、まとめると、約3.0〜約0.1の範囲のモル比のクエン酸対EDTAを用いて調製された酸化セリウムナノ粒子による処理が温存の相乗的増加をもたらすのに対し、4.0のモル比のクエン酸対EDTAを用いて調製された酸化セリウムナノ粒子による処理は、予想未満の温存を生じさせる干渉をもたらすことが見出された。
【0100】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、全世界で200万人を超える人々に影響を及ぼす中枢神経系(CNS)の疾患である。MSは、一部は、神経細胞を取り囲むミエリン鞘の変性、及び最後には、酸化ストレスによるニューロン細胞死に至る免疫媒介性炎症性疾患と長い間考えられている。再発/寛解と呼ばれる、最も一般的な疾患経過は、神経及び運動機能悪化の明確に定義された発作と、それに続く、疾患活動性の新たな兆候のない相対的静穏(寛解)の期間を特徴とする。あまり一般的でない疾患経過は、慢性進行性MSと呼ばれ、最初のMS症状の後、寛解することなく、臨床的な神経損傷が着実に進行することを特徴とする。患者の約20%しか最初に慢性進行性MSと診断されないが、再発/寛解MSと最初に診断されたものの約半数は、10年経過する毎に、慢性進行性形態へと進行する。
【0101】
慢性進行性多発性硬化症
MSのマウスEAEモデル
MSの開始の病理学的特徴の多くは、マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルによってモデル化されており、このモデルにおいて、炎症性障害は、ミエリン抗原による免疫によって誘導される。EAEモデルは、血液脳関門(BBB)崩壊、免疫細胞の血管周囲性浸潤、ミクログリア活性化、及び脱髄を特徴とする。EAEモデルは、MSの処置で使用される現在の療法の開発において極めて重要である。
【0102】
SJL−EAEマウスをJackson Laboratories(C57BL/6)から購入し、ビヒクル又はビヒクル+CA/EDTAセリアナノ粒子で処置した。PBS/50mMクエン酸ナトリウム食塩水中で混合したCA/EDTAセリアナノ粒子を、疾患誘導の前(予防モデル)又は後(処置モデル)のいずれかに、IV尾静脈注射によって実験動物に投与し、その後、様々な濃度の維持用量を与えた。ある実験では、マウスのサブセットを、飲用水中2μg/Lの免疫調節薬フィンゴリモド(Cayman Chemical,Ann Arbor,MI,USA)で毎日処置した。様々な処置レジメン(投与レジメン)を下の表2に詳細に記載する。
【表2】
【0103】
マウスを、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、すなわち、慢性進行性多発性硬化症様症状で、次のように誘導した:等容量の完全フロイントアジュバントと混合したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させた200μgのミエリンオリゴデンドロサイト(MOG
35-55)タンパク質ペプチド(Genscript)の0.1mlの静脈内(IV)尾注射に続けて、PBS中の200ngの百日咳毒素の0.1mlの腹腔内注射を0及び2日目に施した。
【0104】
疾患進行を、小脳機能(バランスビーム)、前肢強度(ハンギングワイヤー)、及び後肢強度(ロータロッド)を評価するために設計された3つの運動行動試験とともに、下記の臨床スコア化試験を用いて毎日スコア化した。
【0105】
臨床スコア化試験
EAEマウスにおける多発性硬化症様症状の疾患進行を、下の表3に示すような、Selvarajら(2008)から改変した臨床基準を用いて、毎日スコア化した。
【表3】
【0106】
運動行動試験
ハンギングワイヤー試験
ハンギングワイヤー課題を用いて、握力を評価した。この課題のために、鋼線グリッド床を備えた無蓋のプレキシガラス製の箱の中に、マウスを入れた。この箱をテーブルトップから60cmの高さの所でひっくり返し、落下するまでの潜伏時間を測定した。
【0107】
ロータロッド試験
ロータロッド装置(Med Associates,St.Albans,VT)を用いて、主に後肢運動協調性及び持続時間を評価した。マウスを28rpmで回転するドラムの上に置き、ドラムから落下するまでの潜伏時間(300秒、最大)を測定した。
【0108】
バランスビーム試験
この課題のために、マウスを高架木製ビームの照明末端に置き、目標の箱に到達するまで最大60秒与えた。5段階評価(5=正常な足取り〜0=すぐにビームから落ちる)を用いて、バランス及び足取りの質をスコア化した。足取りの質を下記の基準に従って更に格付けした。
【表4】
【0109】
予防的投与設計と治療的投与設計の両方についてのCA/EDTAセリアナノ粒子によって低下した(改善された)臨床スコア化の結果を、10mg/kg投与量については
図5に、及び20mg/kg投与量については
図6に示す。累積疾患重症度の尺度として、平均臨床スコア対誘導後日数の曲線下面積(AUC)(
図7参照)を、20mg/kgレベルで投与された各々の動物について計算した。CA/EDTAセリアナノ粒子は、予防的処置レジメン(
図8)及び治療的3日遅延処置レジメン(
図9)について、臨床的重症度を用量依存的に低下させる(改善する)。注射される全セリアの関数としての疾患重症度の低下の全体像を
図10に示す。
【0110】
セリアの組織蓄積:マウスのサブセットをイソフルラン過剰投与によって麻酔し、PBSを経心的に灌流させた。回収された組織を凍結させ、セリウムについて、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によって解析した。注射された全セリアの関数としての脳セリウム含量を
図11に示す。
【0111】
図10〜11の結果は、CNSへの粒子透過が送達される用量とよく相関し、試験された用量の範囲で飽和しないことを示唆している。
【0112】
30mg/kgレベルで投与されたCA/EDTAセリアナノ粒子と免疫調節薬フィンゴリモドとの比較は、
図12〜15の結果に示されている。全ての処置群は、疾患のA)急性期(
図13)とB)慢性期(31〜35日)の両方において、対照と比べて、疾患重症度を有意に低下させた(p<0.05)(
図14)。フィンゴリモド及び予防的処置は、急性期の治療的(7日遅延)処置よりも有意に効果的であった。疾患の慢性期(31〜35日)においては、全ての群が同等に効果的であった。
【0113】
更に、CA/EDTAセリアナノ粒子による処置は、マウスの運動行動能力を改善した。20mg/kg投与量のCA/EDTAセリアナノ粒子を投与されたマウスの1日の群平均運動行動能力を、ロータロッド(Rotorod)試験(
図16)及びハンギングワイヤー試験(
図19)について示す。これらの試験では、対照と比べた、落下するまでのより長い潜伏時間は、運動能力の改善を示す。20mg/kg投与量での1日の群平均バランスビーム能力を
図21に示す。この試験では、対照と比べたより高いスコアは、運動能力の改善を示す。予防的処置レジメン(
図17)と治療的3日遅延処置レジメン(
図18)の両方については、ロータロッド試験で、並びに全ての用量及び処置レジメンについては、ハンギングワイヤー試験(
図20)及びバランスビーム試験(
図22)で示されているように、運動行動能力は、検討した範囲にわたる投与量の増加とともに改善し続けた。
【0114】
CA/EDTAナノセリアで処置したマウスから単離された器官及び脳切片の誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によるセリウム含量解析の結果を
図23〜24に示す。これらの図は、セリウムが予防的処置レジメンと治療的処置レジメンの両方で小脳に最も多く蓄積したことを示している。
【0115】
活性酸素種(ROS)レベルを、EAE(MSの慢性進行症状)を発症するように誘導されたマウスの小脳から調製した脳スライスで検討した。このスライスは、最後のCA/EDTAナノセリア注射の1週間後に調製された(n=12マウス)。Estevez,AY;ら、虚血のマウス海馬脳スライスモデルにおける酸化セリウムナノ粒子の神経保護メカニズム(Neuroprotective mechanisms of cerium oxide nanoparticle in a mouse hippocampal brain slice model of ischemia)、Free Radic.Biol.Med.(2011)51(6):1155−63(doi:10.1016/j.radbiomed.2011.06.006)に記載の方法を用いて、蛍光プローブCM−DFCDA(Invitrogen)を用いて、ROSレベルを測定した。
【0116】
最後の薬物処置の7日後に試験したとき、細胞内ROSレベルは、対照及びフィンゴリモド処置動物と比較して、CA/EDTAナノセリア処置マウス由来の脳スライスで有意に減少した(
図25〜26)。
【0117】
ミクロン又はサブミクロン解像度でイメージングしたときの、生きた哺乳動物の脳実質組織中へのナノセリアの広範かつ均一な分布は、これまで報告されていない。この目的のために、マウス脳組織全体にわたるCA/EDTAナノセリア粒子の広範な分布を、CA/EDTAナノセリア処置したもの及び未処置の対を成す対照(
図27)から採取された小脳スライスに見られる減少したROS蛍光(CM−DFCDA)レベルの拡散性及び均一性によって示す。特に、ナノセリア処置スライス(
図27)中の蛍光の分布が、
図28中の同様の規模の倍率で示された小脳微小血管系の分布に対応しないことに注目した。これにより、CA/EDTAナノセリア粒子が、微小血管に限定されるものでも、血液脳関門細胞に捕捉されるものでもなく、小脳組織全体にわたって広範に分布することが示唆された。これらの観察は、CA/EDTAナノセリア粒子が慢性進行性多発性硬化症を誘導したEAEマウスの損なわれた血液脳関門を透過すること、及び粒子が脳組織中に広く分散したことと一致している。
【0118】
再発/寛解型多発性硬化症
多発性硬化症のマウスEAEモデル
MSの開始の病理学的特徴の多くは、マウス実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルによってモデル化されており、このモデルにおいて、炎症性障害は、ミエリン抗原による免疫によって誘導される。EAEモデルは、血液脳関門(BBB)崩壊、免疫細胞の血管周囲性浸潤、ミクログリア活性化、及び脱髄を特徴とする。EAEモデルは、MSの処置で使用される現在の療法の開発において極めて重要である。
【0119】
雌SJL−EAEマウスを、ビヒクル、ビヒクル+CA/EDTAセリアナノ粒子、又はビヒクル+Sigma−AldrichもしくはAlfa Aesarから入手される市販のナノセリアで処置した。市販で入手されるナノセリアを、使用直前に、超音波処理でビヒクルに分散させた。予防的投与設計では、マウスに、10mg/kgのCA/EDTAセリアナノ粒子を、疾患誘導の前日に及び疾患誘導の当日に、IV尾静脈注射し、次いで、6mg/kgのCA/EDTAセリアナノ粒子を、疾患誘導後3日目、7日目、14日目、及び21日目に注射した。治療的投与設計は、最初の2回の注射(疾患誘導の前日及び当日)を除外することを除いて同様であった。投与前に、CA/EDTAセリアナノ粒子をPBS/50mMクエン酸ナトリウム食塩水ビヒクル中で混合した。
【0120】
マウスを、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、すなわち、再発寛解型多発性硬化症様症状で、次のように誘導した:等容量の完全フロイントアジュバントと混合したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させた200μgのミエリン塩基性タンパク質ペプチド(PLP139−151)の0.1mlの静脈内尾注射に続けて、PBS中の200ngの百日咳毒素の0.1mlの腹腔内注射を0日目及び2日目に行った。
【0121】
疾患誘導後、マウスは、免疫の11〜14日後に(14日で最大に達した)、麻痺の最初の発作を発症し、ほとんどのヒトMS患者と同様、マウスは、約20日までに、この麻痺の第一波から完全に又はほぼ完全に回復した。
【0122】
実験には、先に記載したような、小脳機能(バランスビーム)、前肢強度(ハンギングワイヤー)、及び後肢強度(ロータロッド)を評価するために設計された3つの運動行動試験とともに、毎日の臨床スコア化が含まれた。
【0123】
疾患の開始に関して、大幅な遅延(改善)が以下の試験で見られた:予防的投与設計と治療的投与設計の両方についての臨床スコア化の結果(
図29)、予防的投与設計についてのバランスビームの結果(
図30)、及び予防的投与設計と治療的投与設計の両方についてのハンギングワイヤーの結果(
図31)。
【0124】
ビヒクル対照と比較した、予防的及び治療的投与設計によって投与されたCA/EDTAセリアナノ粒子の定量的(平均的)効果の統計的概要が、表5に一覧化されている。統計的に有意な改善は、ロータロッド試験についての予防的投与設計の場合を除いて、予防的投与設計と治療的投与設計の両方についての臨床スコア化及び各々の運動行動試験で示された。
【表5】
【0125】
MSの再発/寛解モデルの疾患経過に関する平均臨床スコア(AUC)の比較から、対照と比べて、CA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)のみが疾患を改善することが示されている(
図33)。Sigma−Aldrich及びAlfa Aesar(1:14及び1:9希釈)比較の結果は、対照より悪いか又は対照と全く変わらないかのいずれかであった。
【0126】
MSの再発/寛解モデルの疾患経過に関する平均バランスビームスコアの比較から、CA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)が最も成績が良かったのに対し、1:9希釈のAlfa Aesarを例外として、比較がより悪いか又は対照と全く変わらないかのいずれかであったことが示されている(
図34)。
【0127】
MSの再発/寛解モデルの疾患経過に関する平均ハンギングワイヤー試験の結果の比較から、対照と比べて、CA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)のみが、落下するまでの平均潜伏時間を増加させることによって疾患を改善することが示されている(
図35)。Sigma−Aldrich及びAlfa Aesar(1:14及び1:9希釈)比較の結果は、対照より悪いか又は対照と全く変わらないかのいずれかである。
【0128】
MSの再発/寛解モデルの疾患経過に関する平均ロータロッド試験の結果の比較から、対照と比べて、CA/EDTAセリアナノ粒子(CNRx 87)のみが、落下するまでの平均潜伏時間を増加させることによって疾患を改善することが示されている(
図36)。Sigma−Aldrich及びAlfa Aesar(1:14及び1:9希釈)比較の結果は、対照よりも悪い。
【0129】
脳内セリウムレベルの比較
治療的投与設計を用いて、EAE誘導マウス(n=12)に、CA/EDTAセリアナノ粒子又は市販のナノセリア(すなわち、Sigma−Aldrich及びAlfa Aesarから入手されたもの)を含むセリア分散体(24mg/kg全投与量)の尾静脈注射を投与した。最後の注射から24時間後、脳及び他の器官を回収し、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)を用いて、これらの器官におけるセリアの濃度を決定した。
【0130】
図37に示す脳沈着の結果から、セリウムが、Sigma−Aldrich製のナノセリアでは検出限界未満であったのに対し、本発明のCNRxナノセリア実施形態の脳内沈着は、Alfa Aesar製の材料の脳内沈着よりも約4倍多いことが示されている。
【0131】
別の生体内分布研究では、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の特徴を有する1〜3カ月齢の4匹の成体SJLマウスに、マウス体重1kg当たり52mgのCA/EDTAナノセリア(52mg/kg投与量)を、生理食塩水中、3つの時点:0日目、3日目、及び7日目で尾静脈注射した。更に、これらのマウスのうちの2匹を、0日目のプロテオリピドタンパク質(PLP)の注射によって多発性硬化症(MS)様症状(実験的自己免疫性脳脊髄炎)を発症するように誘導すると、マウスは、7日までに最大のMS様症状を示した。他の2匹のマウスには、MS様症状を発症するように誘導するのではなく、ビヒクル対照としての生理食塩水を単に注射した。8日目(ナノセリアの最後の注射から24時間後)に、4匹の動物の各々を屠殺し;その心臓、腎臓、肝臓、肺、脾臓、脳、及び脊髄器官を摘出し、凍結させ、セリウム含量解析にかけた。
【0132】
誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)を用いて、次の手順によって、器官をバルクセリウム含量について解析した。各々の器官の0.1〜0.5gの組織試料を、15mlポリプロピレンチューブ中、1mlの最適なHNO
3で消化し、マイクロ波消化オーブン中、105℃に30分間加熱した。試料を冷却しておき、100μlのH
2O
2を添加し、試料を脱イオン水で10mlの最終容量に希釈した。これらの消化された試料を、通常モードで操作されるICP−MS(7500cx,Agilent,Santa Clara,CA)によって、バルクセリウム含量について解析した。機器を、NISTで追跡可能な一次標準で較正し、セカンドソース標準を較正チェックとして用いた。
【0133】
下に示す表6には、本発明の実施形態として本明細書に記載の生体内分布研究を構成する4匹のマウス(標識マウス1〜4)についてのバルクセリウム含量の結果が含まれる。更に、Yokelら、Nanotoxicology 3(3),234−248(2009)(データはその中の表Iから取られたものである)、及びHardasら、Toxicological Sciences 116(2),562−576(2010)(データは、20時間での殺処分について、その中の表2から取られたものである)に報告された、静脈内投与されたナノセリアの初期の全動物(齧歯類)生体内分布研究の結果が、比較のために含まれている。
【表6】
【0134】
本明細書に記載の研究(マウス1〜4)と、比較投与量又はより高い投与量で行われた初期の研究(Yokelら及びHardasら)との間のバルクセリウム含量の比較から、本発明の実施形態としての本明細書に記載の2.5nm直径のCA/EDTAセリアナノ粒子の水性分散体を注射した結果として、約30〜100倍多いセリウムが脳と関連し、約25〜50倍多いセリウムが肝臓と関連し、約7倍多いセリウムが脾臓と関連することが示されている。更に、様々な器官と関連するセリウムの量の驚くほど大きな増加が、完全に無傷のBBBを有する健常マウス(マウス3〜4)と、大きく損なわれたBBBを有すると考えられる誘導されたMS様症状(マウス1〜2)を有するマウスの両方で認められたことに留意されたい。
【0135】
本明細書に記載の研究(マウス1〜4)で利用された生体内分布プロトコルと比較投与量又はより高い投与量(Yokelら及びHardasら)で行われた初期の研究との違いは、一般に、本発明のこの実施形態の結果としての様々な標的器官と関連するセリウムの大幅な増加と比べて、極めて小さかったことに留意されたい。具体的に、Yokelらは、50mg/kg用量を使用し、最後の注射から20時間後に動物を殺処分した。Hardasらは、100mg/kg用量を使用し、同じく最後の注射から20時間後に動物を殺処分し、本発明者らは、本明細書において、52mg/kg用量を使用し、最後の注射から24時間後に動物を殺処分した。
【0136】
生体内持続性研究
最後のCA/EDTAセリアナノ粒子注射(24mg/kg全投与量)からの様々な時点(1〜21日)で、再発/寛解型のEAEを誘導したマウスの脳(n=22)を回収し、ICP−MSを用いて、セリウムの濃度を決定した。相当なレベルのセリアが、最後の注射の少なくとも3週間後まで検出可能であった(
図38)。
【0137】
ラットで行われた研究から、単回10mg/kg静脈内注射又は単回50mg/kg皮下注射の後、ラットの血液中のセリウム含量の測定によって、CA/EDTAセリアナノ粒子が血液血漿から迅速に除去されたことが示されている(
図39)。
【0138】
毒性研究
Gentronix Ltd.(UK)のGreenScreenアッセイで評価したとき、CA/EDATセリアナノ粒子実施形態について、遺伝毒性は認められなかった。
【0139】
Gentronix Ltd.(UK)のリン脂質症(PLD)アッセイで評価したとき、CA/EDATセリアナノ粒子実施形態について、リン脂質症毒性は認められなかった。
【0140】
Gentronix Ltd.(UK)のhERG−450アッセイで評価したとき、CA/EDATセリアナノ粒子実施形態について、カリウムチャネル干渉は認められなかった。
【0141】
筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脊髄前角に位置する上位及び下位ニューロン並びにそれらの遠心性入力をもたらす皮質ニューロンの変性によって引き起こされる進行性、致死性の運動ニューロン疾患である。この疾病は、1939年にこの疾患と診断された野球選手に因んで、ルーゲーリック病と呼ばれることが多い。
【0142】
ALSの原因は不明であるが、家族性ALSが、強力な抗酸化物質であるCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ酵素(SOD1)を産生する遺伝子の突然変異と関連するという発見により、フリーラジカルの蓄積が関与し得ることが示唆されている。しかしながら、SOD1遺伝子を欠くマウスは、家族性ALSを常に発症するわけではなく、むしろ、加齢関連筋萎縮(サルコペニア)の増大を示す。
【0143】
Jackson Laboratoryから入手したSOD1
G93Aマウス(Bar Harbor,ME,USA;系統B6SJL−TgSOD1
G93A)は、毎週、臨床試験及び運動行動試験(上記)を受け、疾患開始時に処置群に無作為に割り付けられた。マウスの1つの群が生理食塩水ビヒクル対照注射のみを受けたのに対し、ナノセリア処置動物には、週1回又は2回のいずれかの16mg/kgのCA/EDTAセリアナノ粒子の尾静脈注射を与えた。
【0144】
ナノセリア処置を受けた雄G93Aマウスは、全ての運動技能試験(ハンギングワイヤー、バランスビーム、及びロータロッド)において非常に大幅な改善を示した。
図40に示される、対照と比べた寿命の延長も、CA/EDTAセリアナノ粒子処置を受けた雄G93Aマウスによって示された。
【0145】
虚血再灌流傷害
再灌流傷害とは、虚血期間の後、血液供給が組織に戻るときに起こる組織損傷を指す。虚血期間中の血液からの酸素及び栄養素の欠如は、循環の回復によって、正常な代謝機能の回復ではなく、酸化ストレスの誘導による炎症及び酸化的損傷がもたらされる状態を生じさせる。
【0146】
炎症応答は、再灌流傷害の被害を一部媒介すると考えられる。新たに戻ってくる血液によってその部位に運ばれる白血球は、インターロイキン及びフリーラジカルを含む、種々の炎症性因子を放出し得る。
【0147】
マウス心虚血再灌流傷害の実証試験では、マウスに、頸静脈を介して、−4日目及び−2日目に、20mg/kg投与量のビヒクル又はCA/EDTAセリアナノ粒子を注射した。0日目に、心臓を切除し、ランゲンドルフシステムで灌流させた。25分間の全体的な無血流虚血及び45分間の再灌流の後で、壊死性細胞死を乳酸脱水素酵素(LDH)アッセイでモニタリングした。
図41は、ビヒクル対照と比べたCA/EDTAセリアナノ粒子処置でのLDH蓄積の低下という形での改善を示す。心筋梗塞サイズの評価もまた、保護効果が、20mg/kg用量のCA/EDTAセリアナノ粒子によってもたらされることを示唆した。
【0148】
本発明は、様々な具体的実施形態に関して記載されているが、記載されている本発明の概念の精神及び範囲内で数多くの変更が行われ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は、記載された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって定義される全ての範囲を有するものであることが意図される。
以下、本発明の実施形態の例を列記する。
[1]
ナノ粒子の分散体を作製する方法であって、
3価セリウムイオン、約3.0〜約0.1の範囲のモル比のクエン酸及びエチレンジアミン四酢酸、酸化剤、並びに水を含む反応混合物を形成させる工程、及び
単離することなく、セリウム含有ナノ粒子の分散体を直接形成させる工程、
を含むことを特徴とする方法。
[2]
前記セリウム含有ナノ粒子が、実質的に結晶性である、項目1に記載の方法。
[3]
前記ナノ粒子が、立方蛍石結晶構造を特徴とする、項目2に記載の方法。
[4]
前記反応混合物を加熱又は冷却して、反応温度を水の沸点未満に維持する工程を更に含む、項目1に記載の方法。
[5]
前記酸化剤が、大気、分子酸素、又は過酸化水素を含む、項目1に記載の方法。
[6]
前記セリウム含有ナノ粒子が、実質的に非凝集性である、項目1に記載の方法。
[7]
前記セリウム含有ナノ粒子の約95%超が、非凝集性である、項目6に記載の方法。
[8]
前記セリウム含有ナノ粒子の分散体が、約−15mV〜約−30mVの範囲のゼータ電位を有する、項目1に記載の方法。
[9]
前記分散体が、少なくとも2カ月間安定である、項目1に記載の方法。
[10]
項目1に記載の方法によって調製されたセリウム含有ナノ粒子を含むことを特徴とする医薬組成物。
[11]
酸化ストレス関連疾患又は酸化ストレス関連事象を予防するために患者を予防的に処置する方法であって、
項目1に記載の方法によって作製されるセリウム含有ナノ粒子の分散体の有効量を含む医薬組成物を投与することを特徴とする方法。
[12]
前記酸化ストレス関連疾患又は事象が、虚血性脳卒中、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、又は虚血再灌流傷害である、項目11に記載の方法。
[13]
患者における酸化ストレス関連疾患又は酸化ストレス関連事象の症状を処置する方法であって、
項目1に記載の方法によって作製されたセリウム含有ナノ粒子の分散体の有効量を含む医薬組成物を投与することを特徴とする方法。
[14]
前記酸化ストレス関連疾患又は事象が、虚血性脳卒中、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、又は虚血再灌流傷害である、項目13に記載の方法。
[15]
項目1に記載の方法によって作製されたことを特徴とするナノ粒子。