(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スルホン化が、前記ポリマーがポリマー繊維の形態であり、かつ前記ポリマー繊維が22MPaまでの張力下にある間に実施されるか、加熱された溶媒での前記処理が、前記ポリマー繊維が25MPaまでの張力下にある間に実施されるか、または炭化が、前記ポリマー繊維が14MPaまでの張力下にある間に実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
前記ポリエチレンを含有するポリマーが、ポリエチレンホモポリマー、またはエチレン/オクテンコポリマー、エチレン/ヘキセンコポリマー、エチレン/ブテンコポリマー、1つ以上のホモポリマーおよび1つ以上のポリエチレンコポリマーの混合物、または2つ以上のポリエチレンコポリマーの組み合わせ、を含むポリエチレンコポリマーである、請求項8に記載のプロセス。
前記ハロゲン化された溶媒がクロロカーボンであって、ステップa)、b)、およびc)が、前記ポリマーが1MPaよりも大きい張力下にある間に行われる、請求項8〜9のいずれか一項に記載のプロセス。
【背景技術】
【0002】
2010年における炭素繊維の世界生成量は40キロメトリックトン(KMT)であり、2020年で150KMTに成長すると期待されている。工業グレード炭素繊維がこの成長に大きく貢献すると予想されており、適用に関しては低コストが必須となる。従来の炭素繊維を生成する方法はポリアクリロニトリル(PAN)に依存しており、溶液から繊維状に紡糸され、酸化および炭化される。コストの約50%がポリマー自体および溶液紡糸のコストに関連している。
【0003】
低コスト工業グレード炭素繊維を生成する試みにおいて、様々なグループが代わりの前駆体ポリマーおよび炭素繊維を製造する方法を研究している。これらの試みの多くはポリエチレンのスルホン化およびスルホン化ポリエチレンを炭素繊維に転換することに向けられていた。しかしながら、この方法および結果として得られる炭素繊維は少なくとも2つの理由で不十分であった。第1に、結果として得られる炭素繊維には繊維間結合が生じる。第2に、結果として得られる炭素繊維は不十分な物理的性質を有する。
【0004】
例えば、米国特許第4,070,446号ではクロロスルホン酸(実施例1および2)、硫酸(実施例3および4)、または発煙硫酸(実施例5)を用いて高密度ポリエチレンをスルホン化するプロセスを記載している。この特許における実施例5では、25%発煙硫酸を60℃で2時間かけて高密度ポリエチレン(HDPE)をスルホン化して、続いて炭化した。本発明者らがこの方法を用いて直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)をスルホン化したときに、結果として得られた繊維には繊維間結合が生じ、物理的性質が悪かった。したがって、この方法は不十分と判断された。
【0005】
Materials and Manufacturing Processes Vol.9,No.2,221−235,1994およびProcessing and Fabrication of Advanced Materials for High Temperature Applications−II;Proceedings of a Symposium,475−485,1993では、ZhangおよびBhatが硫酸のみを用いた超高分子量(UHMW)ポリエチレン繊維のスルホン化プロセスを報告した。両方の論文は共に同一の出発スペクトラ繊維および同一のスルホン化プロセスを報告している。繊維はフレーム上に包まれて130〜140℃の硫酸に浸漬させて、温度は徐々に200℃まで上昇された。成功例のスルホン化時間は1.5〜2時間の間であった。繊維は別々の間隔で取り出して水道水で洗浄し、60℃のオーブンで乾燥して1150℃の不活性雰囲気にて炭化された。この方法によって良好な炭素繊維の機械的性質は取得されたものの、高価なゲル紡糸ポリマー繊維が用いられており、長期間の反応時間が使用された。結果として、我々はこの方法は不十分と判断した。
【0006】
Polymer Bulletin,25,405−412,1991およびJournal of Materials Science,25,4216−4222,1990 A. J. Pennings et al.では繊維を室温のクロロスルホン酸に5〜20時間浸漬させることで直鎖状低密度ポリエチレンを炭素繊維に変換した。このプロセスは、クロロスルホン酸の高コストと長い反応時間に起因して工業的視点からは非常に費用がかかる。
【0007】
2002年に、Leon y Leon(International SAMPE Technical Conference Series,2002,Vol.34,pp.506−519)はLLDPE繊維(d=0.94g/mL)を温められた濃縮H
2SO
4でスルホン化するプロセスを記載している。2段階スルホン化系もまた記載されており、「第1段階と比較して、第2スルホン化段階は(a)類似温度でのより長い滞留時間(または単一温度でのより大きな単一段階反応装置)、または(b)より高い温度での少しだけより高い酸濃度、を伴う」。514ページを参照のこと。具体的な時間および温度は開示されていない。この参照文献では、結果として得られた炭素繊維の引張特性は従来とは異なって判断された。引張試験で使用された断面領域は「密度(ピクノメトリーによって)および単位長さあたりの重量の測定から計算された」(516ページ、表3〜517ページ)。しかしながら、ASTM法のD4018は、直径は顕微鏡使用によって測定されるべきであると記載している。顕微鏡によって計測された直径(表2、517ページ)を用いて報告された引張特性を調節すると、以下の新しい値が判定された。
【0008】
この参考文献に開示された方法は、不十分な引張強度および係数を有する炭素繊維を生成する。
【0009】
これらの試みにもかかわらず、ポリエチレン系ポリマー繊維を炭化ポリマーに変換する適切な方法がいまだ求められている。したがって、本明細書中に開示するのはポリマーから炭化ポリマー(好適には炭素繊維)を製造する方法であって、この方法はスルホン化ポリマーを形成するためのポリマーのスルホン化、次にスルホン化繊維の高温溶媒処理、それに続くポリマーの炭化を含む。これらの方法は結果として、高温溶媒で処理されていないものと比較して優位の特性を有する工業グレード炭化ポリマー(好適には炭素繊維)を得る。これらの新しい方法はすべてのスルホン化方法と作用する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記のように、スルホン化剤はハロゲン化溶媒に溶解するSO
3を含む。典型的には、SO
3ガスはその中で(またはその上で)泡立ち、または他には液体SO
3または固形もしくはポリマーSO
3からハロゲン化溶媒へ溶解する。しかし、必要に応じて、1つ以上の他のガスと組み合わせてSO
3ガスを用いてもよい。SO
3ガスおよび溶媒を組み合わせる正確な方法は当業者の能力の範囲内である。
【0015】
適切なハロゲン化溶媒は少なくとも1つのハロゲンを含有し(F、Cl、BrおよびIからなる群から選択される)、1〜30の炭素を有する。必要に応じて、2つ以上のハロゲン化溶媒の組み合わせを用いてもよい。実施例は、フルオロカーボン、クロロカーボン、ブロモカーボン、クロロフルオロカーボン、ブロモフルオロカーボンまたはそれらの組み合せを含む。パーフルオロおよびペルクロロ溶媒およびすべての水素をブロモ、クロロおよび/またはフルオロ基の組み合せと置換する溶媒もまた適切である。一実施形態では、溶媒はフルオロカーボン、ブロモカーボン、クロロカーボン、クロロフルオロカーボン、またはそれらの組み合せである。適切な溶媒の特定の実施例は、Br
2ClFC、Br
3FC、BrCl
2FC、1−ブロモ−1,1−ジクロロトリフルオロエタン、1,2−ジブロモテトラフルオロエタン、ペンタクロロフルオロエタン、1,2−ジフルオロテトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロフルオロメタン、塩化メチレン、1,2−ジブロモメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタンおよび/またはそれらの混合物を含む。溶媒を含有する塩素が特に好適であり、それらの中で、1,2−ジクロロエタンは好適な溶媒である。そして非ハロゲン化溶媒が使用可能であるか、またはハロゲン化溶媒と組み合わせることが可能であるが、ハロゲン化、または他に不活性溶媒との組み合わせが好適である。
【0016】
ハロゲン化溶媒中のSO
3の濃度はリットルあたり0.01〜24モルであってもよい。より好適には濃度はリットルあたり0.1〜14モルである。さらにより好適には濃度はリットルあたり10モル未満である。より好適には濃度はリットルあたり0.15〜5モルである。さらにより好適には濃度はリットルあたり0.5〜4モルである。
【0017】
ハロゲン化溶媒中のSO
3を、反応混合物に滴下状で、少量ずつ、または一度に添加し得る。
【0018】
ハロゲン化溶媒中のSO
3を、ポリマーに添加し得るか、またはポリマーをハロゲン化溶媒中のSO
3に添加し得る。
【0019】
望ましい溶媒を作製するためにハロゲン化溶媒に添加するSO
3は様々な原料、液体SO
3、ガス状SO
3、またはさらにDMSO:SO
3、DMF:SO
3、エーテル:SO
3などのSO
3:ルイス塩基付加物に由来し得る。必要に応じて、ハロゲン化溶媒は炭化水素、エーテル、スルホキシドまたはアミドなどの1つ以上の追加溶媒を含み得る。より具体的には、C
4−C
8炭化水素、C
2−C
6アルキル−O−C
2−C
6アルキル、DMFまたはDMSOが利用し得る。
【0020】
スルホン化反応は典型的には約0〜140℃の温度で実行される。より好適には、温度は0〜90℃である。より好適には、反応温度は10〜80℃である。さらにより好適には、反応温度は15〜60℃である。さらに一層好適には、反応温度は20〜35℃である。
【0021】
スルホン化反応時間は5秒〜16時間である。より好適には、反応時間は1分〜8時間である。さらにより好適には、反応時間は6時間未満である。さらに一層好適には、反応時間は2分〜4時間、または5分〜1時間である。もちろん、スルホン化反応時間が、繊維径(繊維が使用される場合)、ポリマーの%結晶度、存在する場合はコモノマー(複数可)の同一性および濃度、ポリマーの密度、ポリマーにおける二重結合の濃度、ポリマーの多孔性、スルホン化温度、およびスルホン化試薬の濃度によって影響されることは従来技術において周知である。スルホン化温度、スルホン化試薬濃度および添加速度、ならびに反応時間の最適化は当業者の能力の範囲内である。
【0022】
スルホン化反応は通常、周囲/大気圧で行われる。しかしながら必要に応じて、周囲圧力よりも高いまたは低い圧力を用いてもよい。
【0023】
スルホン化反応時間を少なくする1つの方法は、スルホン化反応の前またはその最中にポリマーを適切な溶媒で膨潤させることである。一実施形態では、ポリマーをハロゲン化された溶媒のSO
3溶液との処理の前に適切な膨潤性溶媒で処理してもよい。あるいは、ポリマーをスルホン化ステップ中にエマルジョン、溶液、またはその他の膨潤剤とスルホン化剤との組み合わせで、適切な溶媒で膨潤してもよい。スルホン化の前またはその最中に膨潤ステップを行う追加の利点としては、ポリマー中でより均一な硫黄分布を得て、それによって処理条件および性質が向上することである。
【0024】
ポリマーはスルホン化された後、加熱された溶媒で処理される。許容される温度は少なくとも95℃である。より好適には、少なくとも100℃である。さらにより好適には少なくとも105℃または110℃である。さらに一層好適には、少なくとも115℃である。最も好適には少なくとも120℃である。最大温度は溶媒の沸点または180℃である。一実施形態では、溶媒の温度は100〜180℃である。あるいは、溶媒の温度は120〜180℃である。120℃未満の温度のものも使用可能ではあるものの、反応速度が遅くなり、これによって反応のスループットが低下することで非経済的である。
【0025】
一実施形態では、好適な溶媒は極性および/またはプロトン性である。プロトン性溶媒の例としては、鉱酸、水、および蒸気を含む。H
2SO
4は好適なプロトン性溶媒である。一実施形態では、加熱された溶媒は100〜180℃の温度のH
2SO
4である。さらにより好適には、加熱された溶媒は120〜160℃の温度のH
2SO
4である。
【0026】
あるいは、加熱された溶媒は極性溶媒であってもよい。適切な極性溶媒の例としては、DMSO、DMF、NMP、適切な沸点を有するハロゲン性溶媒またはそれらの組み合わせが挙げられる。好適には、加熱された溶媒は120〜160℃の温度の極性溶媒である。
【0027】
なお、ポリマー繊維が用いられる場合、ポリマー繊維の性質、その直径、トウの大きさ、繊維の%結晶度、存在する場合はコモノマーの同一性および濃度、ならびにポリマー繊維の密度が、用いられる反応条件に強い影響を与えることを理解すべきである。同様に、加熱溶媒処理に用いられる加熱された溶媒の温度およびH
2SO
4の濃度(H
2SO
4が用いられる場合)もまた、ポリマー繊維の性質、その直径、トウの大きさ、および繊維の%結晶度に依存する。
【0028】
スルホン化反応が完了する(つまりポリマーの1%〜100%がスルホン化される)と、(熱重量分析(TGA)を用いて判定されるように、ポリマーを脱ガスして、任意に1つ以上の溶媒で洗浄してもよい。ポリマーが脱ガスされる場合は、当該分野において既知の任意の方法を用いることができる。例えば、ポリマーは真空状態にされてもよく、加圧ガスでスプレーされてもよい。
【0029】
ポリマーを洗浄する場合、洗浄にはポリマーを溶媒または溶媒の組み合わせですすぐ、スプレーする、またはその他の溶媒または溶媒の組み合わせと接触させることを含み、溶媒または溶媒の組み合わせは−100℃から上は200℃までの温度で行われる。好適な溶媒は水、C
1−C
4アルコール、アセトン、希酸(硫酸など)、ハロゲン化された溶媒およびその組み合わせを含む。一実施形態では、ポリマーは水、続いてアセトンで洗浄される。別の実施形態では、ポリマーは水とアセトンの混合物で洗浄される。ポリマーが洗浄された後に、拭き取り乾燥、空気乾燥、熱源を用いた加熱(従来のオーブン、電子レンジ、または加熱ガスをポリマーに吹き付けるなど)、またはその組み合わせを行ってもよい。
【0030】
ここで用いられるポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、およびポリブタジエンから作製されるホモポリマーからなるか、エチレン、プロピレン、スチレンおよび/またはブタジエンのコポリマーを備える。好適なコポリマーは、エチレン/オクテンコポリマー、エチレン/ヘキセンコポリマー、エチレン/ブテンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/スチレンコポリマー、エチレン/ブタジエンコポリマー、プロピレン/オクテンコポリマー、プロピレン/ヘキセンコポリマー、プロピレン/ブテンコポリマー、プロピレン/スチレンコポリマー、プロピレンブタジエンコポリマー、スチレン/オクテンコポリマー、スチレン/ヘキセンコポリマー、スチレン/ブテンコポリマー、スチレン/プロピレンコポリマー、スチレン/ブタジエンコポリマー、ブタジエン/オクテンコポリマー、ブタジエン/ヘキセンコポリマー、ブタジエン/ブテンコポリマー、ブタジエン/プロピレンコポリマー、ブタジエン/スチレンコポリマー、またはその2つ以上の組み合わせを含む。エチレンのホモポリマーおよびエチレンを含むコポリマーは好適である。ここで用いられるポリマーは任意のモノマー単位の構成を含有してもよい。例としては、直鎖または分岐ポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー(ジブロック、トリブロック、またはマルチブロックなど)、ターポリマー、グラフトコポリマー、ブラシコポリマー、くし形コポリマー、星形コポリマーまたはその2つ以上の任意の組み合わせが挙げられる。
【0031】
本明細書で使用のポリマー繊維は(繊維が使用される場合)、任意の断面形状であってもよく、例えば円形、星形、中空糸、三角形、リボン形などであってもよい。好適なポリマー繊維は円形である。さらに、ポリマー繊維は当該技術に周知の任意の手段、例えば融解紡糸(単一成分、二成分、または複数成分)、溶液紡糸、エレクトロスピニング、フィルムキャスティングおよびスリッティング、スパンボンド、フラッシュ紡糸、およびゲル紡糸によって生成されてもよい。繊維生成の好適な方法は融解紡糸である。
【0032】
なお、加熱された溶媒での処理が本明細書に開示される発明にとってきわめて重要であることを強調する。以下に示すように、結果として得られる炭素繊維の物理的性質は、加熱溶媒処理によって、加熱された溶媒で処理されなかった炭素繊維と比べて著しく向上する。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、加熱溶媒処理によって繊維が架橋することが可能になり、これによって、繊維の溶融するまたは繊維間結合を行うことを阻止しながらも物理的性質が向上すると考えられる。
【0033】
以前に記載のように、いくつかの実施形態では、スルホン化反応は完了まで行われない。むしろ、反応が1〜99%で完成(または好ましくは40〜99%完成)した後に、スルホン化反応を停止させて、その後スルホン化は高温溶媒処理ステップで完了させられる(高温溶媒が鉱酸である場合、濃縮硫酸など)。必要に応じて、スルホン化、加熱された溶媒との処理および/または炭化は、ポリマー繊維(「トウ」とも呼ばれる)が張力下の状態で行われる。炭素繊維技術において、張力を維持することは繊維の収縮を制御する助けになることが知られている。また、スルホン化反応中の収縮を最小限に抑えることで、結果として得られる炭素繊維の引張特性を増加させることが提案されている。
【0034】
特定の理論によって束縛されることを望むものではないが、スルホン化ポリエチレン繊維内のスルホン酸基は熱反応が約145℃で起き(始まりは120〜130℃で発生)、ポリマー内で新たな炭素−炭素結合を生成しながらSO
2およびH
2Oを生成物として発生させると考えられる。これはX線吸収端近傍微細構造(NEXAFS)分光法を用いて確認され、スルホン化ポリエチレン繊維を加熱することでC=C結合の減少およびC−C単一結合の増加を結果として得ることが示された。この結果は、C−C二重結合を犠牲にして、以前に結合されていないC原子間の新たな結合の形成と矛盾しない。溶媒の添加は個別のフィラメントを分けて、フィラメント溶融を防止する。プロセス全体において起きる一般的な化学的変換を図示する以下のスキームを参照のこと。当業者であれば、全てのステップで存在する他の機能基の種類および複雑さは、明確化のためにここでは省かれていることを理解できるであろう。
【化1】
【0035】
スキーム1.炭化水素をSO
3で反応させてスルホン酸基を有するポリアセチレン様ポリマーを生成し、それに続く個々のポリマー鎖を架橋する熱プロセス、および上昇された温度での脱水素によって、望ましい炭化ポリマーを得る一般的な化学的プロセス。
【0036】
なお、単にスルホン化繊維をオーブンで加熱するだけでは結果として繊維溶融が高くなってしまい、異なる繊維であれば溶融するか凝結することを強調しなければならない。このような溶融繊維は非常にもろく、低い機械的特性を有する傾向がある。対照的に、スルホン化ポリマー繊維を加熱溶媒で処理することで、著しく低い繊維溶融を有する繊維となる。このような繊維は向上した引張強度およびより高い引張破壊伸び(ひずみ)値を有する。溶媒の役割は表面スルホン酸基間の繊維間水素結合相互作用を最小限に抑え、それによって高温溶媒処理ステップ中における繊維架橋および繊維溶融を防止することであると考えられる。代わりの仮定は加熱された溶媒を採用し、低分子量スルホン化ポリマーをポリマー繊維から除去する。この繊維間副生成物(すなわち、低分子量スルホン化ポリマー)を除去しないことには、熱処理は同様の架橋を行わせてしまい、最終的に繊維の溶融を発生させてしまう。
【0037】
スルホン化反応が完了まで至らない可能性もあり、繊維が出発材料として使用される場合、結果として(当該技術において周知のように)中空糸を得ることになる。このような場合、高温溶媒処理にて高温硫酸を用いることで、熱反応が発生しながらもスルホン化反応が継続され、完了まで駆動される。この発明の一実施形態では、非溶融繊維を生成する利点を保持しながらも、このプロセスによってスルホン化チャンバ、高温硫酸浴またはその両方における時間を減少させて中空炭素繊維を生成することを可能とする。必要に応じて、スルホン化反応および高温溶媒処理で行われるスルホン化の相対量を調節することを利用することで結果として得られる炭素繊維の物理的性質を調整してもよい。
【0038】
必要に応じて、スルホン化、加熱溶媒との処理および/または炭化は、ポリマーが張力下にあるときに行われてもよい。以下の記載はポリマー繊維(「トウ」とも呼ばれる)の使用に基づいている。炭素繊維技術において、張力を維持することは繊維の収縮を制御する助けになることが知られている。また、スルホン化反応の間の収縮を最小限に抑えることで、結果として得られる炭素繊維の係数を上昇させることが提案されている。
【0039】
スルホン化反応を行うのにハロゲン化溶媒中のSO
3を用いる際、ポリマー繊維が22MPaまでの張力(好適には16.8MPaまでの張力)下に保持可能であること、加熱溶媒との処理をポリマー繊維が25MPaまでの張力下にあるときに実施可能であること、および炭化をポリマー繊維が14MPaまでの張力(好適には5.3MPaまでの張力)下にあるときに実施可能であることが発見された。一実施形態では、プロセスは上記3つのステップのうちの少なくとも1つが張力下で行われたところで実施された。より好適な実施形態では、スルホン化、加熱された溶媒との処理、および炭化はポリマー繊維が1MPaより高い張力下で行われる。容易に理解されるように、様々なステップを様々な張力で実行させることができる。したがって、一実施形態では、炭化ステップ中の張力はスルホン化ステップにおけるものと異なっている。また、各ステップの張力はポリマーの性質、大きさ、およびポリマー繊維の引張強さに依存すると理解されるべきである。したがって、上記張力は、繊維の性質および大きさが変化すると変化する可能性があるガイドラインである。
【0040】
炭化ステップはスルホン化されて熱処理された繊維を加熱することで行われる。典型的に、繊維は500〜3000℃の温度のチューブオーブンを通り抜ける。より好適には、炭化温度は少なくとも600℃である。一実施形態では、炭化反応は700〜1,500℃の範囲内の温度で行われる。炭化ステップはチューブオーブンにて、不活性ガスまたは真空の雰囲気内で行われてもよい。当業者は、必要に応じて、本明細書に開示されている方法を用いて活性化された炭素繊維を調製してもよいことを認識できるであろう。
【0041】
好適な一実施形態では、プロセスは、
a)ポリエチレンを含有するポリマーをハロゲン化溶媒中のSO
3でスルホン化することであって、該スルホン化反応が、スルホン化ポリマーを形成するように0〜90℃の温度で行い、スルホン化することと、
b)スルホン化ポリマーを、加熱された溶媒であって、その温度が100〜180℃である、溶媒で処理することと、
c)前記得られた生成物を500〜3000℃の温度に加熱することで炭化することと、を含み、
ステップa)、b)、およびc)のうちの少なくとも1つが、ポリマーが14MPaまでの張力下にある間に行われる。
【0042】
この好適な実施形態では、加熱された溶媒は、DMSO、DMF、または鉱酸であり、および/またはポリマーを含有するポリエチレンは、エチレン/オクテンコポリマー、エチレン/ヘキセンコポリマー、エチレン/ブテンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/スチレンコポリマー、エチレン/ブタジエンコポリマー、またはこれらの2つ以上の組み合わせを含むポリエチレンホモポリマーもしくはポリエチレンコポリマーであり、および/またはハロゲン化された溶媒はクロロカーボンであり、および/またはステップa)、b)、およびc)は、ポリマーが1MPaより高い張力下にある間に行われる。
【0043】
さらにより好適には、この好適な実施形態では、プロトン性溶媒は115〜160℃の温度の硫酸で濃縮された鉱酸である。
【0044】
本明細書にさらに開示されているのは、任意の上記プロセスに従って作製された炭素繊維である。
【0045】
以下の実施例では、単一フィラメント(繊維)の引張特性(ヤング係数、引張強度、%ひずみ(%引張破壊伸び))を、デュアルカラムインストロンモデル5965を用いてASTM法のC1557に記載の手順に沿って判定した。繊維径は光学顕微鏡法および破壊前のレーザー回折の両方によって判定された。
【0046】
実施例1(対照):エチレンのコポリマーおよびM
w=58,800g/molを有しM
w/M
n=2.5である1−オクテン(0.33モル%、1.3重量%)を紡績して繊維の連続トウを得た。繊維は直径が15〜16ミクロン、引張強さが2g/デニール、および結晶度が約57%であった。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、1000g張力下(17MPa)に置いた。繊維を続いて1.9MのSO
3/1,2−ジクロロエタンで4時間室温で処理し、1,2−ジクロロエタン、水、アセトンで洗浄し、続いて乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認したが、繊維は弱すぎて処理または炭化できなかった。
【0047】
実施例2(対照):実施例1と同じポリマー繊維を使用した。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、1000g張力下(17MPa)に置いた。繊維を続いて1.9MのSO
3/1,2−ジクロロエタンで5時間室温で処理した。繊維を続いて1,2−ジクロロエタン、5体積%のMeOH/1,2−ジクロロエタン、アセトンで洗浄し、続いて乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認したが、繊維は弱すぎて処理または炭化できなかった。
【0048】
実施例3(1,2−ジクロロエタン熱処理):実施例1と同じポリマー繊維を使用した。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、500g張力下(13MPa)に置いた。繊維を続いて1.9MのSO
3/1,2−ジクロロエタンで4時間室温で処理した。繊維を続いて1,2−ジクロロエタンで洗浄し、1,1,2,2−テトラクロロエタンを追加した。繊維を続いて40g張力下(約0.7MPa)で120℃に加熱し、室温で1時保持した。冷却後、繊維を水、アセトンで洗浄し、乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認したが、繊維は弱すぎて処理または炭化できなかった。
【0049】
実施例4:実験
実施例1と同じポリマー繊維を使用した。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、200g張力下(3.3MPa)に置いた。繊維を続いて1.9MのSO
3/1,2−ジクロロエタンで30分間室温で処理した。反応のこの時点後、TGA解析は約10%のポリエチレンが反応したことを示した。繊維を続いて1,2−ジクロロエタンで洗浄した。繊維を続いて、1時間100℃、および1時間120℃で96%の硫酸で処理した。繊維を続いて室温で冷却し、50%の硫酸、水、アセトンで洗浄し、続いて乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認した。スルホン化繊維トウを続いて250g(4.5MPa)張力下の管状炉に置き、窒素下にて5時間にわたって1150℃に加熱した。約15のフィラメントの平均から結果として得られた引張特性を
図1に提供する。
【0050】
実施例5:実験
実施例4から生成されるスルホン化繊維は500g(9MPa)張力下の管状炉に置き、窒素下にて5時間にわたって1150℃に加熱した。このトウからの個別のフィラメントに対して引張試験を行った。約15のフィラメントの平均から結果として得られた引張特性を
図1に提供する。
【0051】
実施例6〜8:実験
実施例1で使用した出発繊維は直径への熱延伸13〜15ミクロン、引張強さが5.9g/デニール、および結晶度が約67%であった。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、400g張力下(8MPa)に置いた。繊維を続いて1.9MのSO
3/1,2−ジクロロエタンで30分間室温で処理した。
【0052】
繊維を続いて1,2−ジクロロエタンで洗浄した。繊維を続いて、120℃で96%の硫酸で以下の時間処理した。
実施例6−30分
実施例7−45分
実施例8−60分
【0053】
繊維を続いて室温で冷却し、50%の硫酸、水、アセトンで洗浄し、続いて乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認した。スルホン化繊維トウを続いて500g(約10MPa)張力下の管状炉に置き、窒素下にて5時間にわたって1150℃に加熱した。このトウからの個別のフィラメントに対して引張試験を行った。約15のフィラメントの平均から結果として得られた引張特性を
図1に提供する。
【0054】
実施例9:実験
エチレンのコポリマーおよびM
w=60,500g/molを有しM
w/M
n=2.7である1−ブテン(3.6モル%、7重量%)を紡績して繊維の連続トウを得た。繊維は直径が約16.5ミクロン、引張強さが1.8g/デニール、および結晶度が約45%であった。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、40g張力下(約0.5MPa)に置いた。繊維を続いて1.9MのSO
3/1,2−ジクロロエタンで10分間室温で処理した。繊維を続いて1,2−ジクロロエタンで洗浄した。繊維を続いて、120℃の96%の硫酸で10分間処理した。繊維を続いて室温で冷却し、50%の硫酸、水、アセトンで洗浄し、続いて乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認した。スルホン化繊維トウを続いて50g(約0.8MPa)張力下の管状炉に置き、窒素下にて5時間にわたって1150℃に加熱した。このトウからの個別のフィラメントに対して引張試験を行った。約15のフィラメントの平均から結果として得られた引張特性を
図1に提供する。
【0055】
実施例10:実験
実施例9から生成されるスルホン化繊維は100g(約1.7MPa)張力下の管状炉に置き、窒素下にて5時間にわたって1150℃に加熱した。このトウからの個別のフィラメントに対して引張試験を行った。約15のフィラメントの平均から結果として得られた引張特性を
図1に提供する。
【0056】
実施例11:(比較実施例)
実施例1と同じポリマー繊維を使用した。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、100g張力下(約2MPa)に置いた。繊維を続いて、120℃の96%の硫酸で4時間処理した。繊維を続いて室温で冷却し、50%の硫酸、水、アセトンで洗浄し、続いて乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認した。スルホン化繊維トウを次に250g(約4.5MPa)張力下の管状炉に置き、窒素下にて5時間にわたって1150℃に加熱した。約15のフィラメントの平均から結果として得られた引張特性を
図1に提供する。
【0057】
実施例12:(比較実施例)
この実施例で使用するポリマー繊維は実施例6、7および8と同じである。3300繊維の1メートルサンプルをガラス装置に結びとおし、100g張力下(約2MPa)に置いた。繊維を続いて、120℃で96%の硫酸で4時間処理した。繊維を続いて室温で冷却し、50%の硫酸、水、アセトンで洗浄し、続いて乾燥した。TGA解析は繊維の完全なスルホン化を確認した。スルホン化繊維トウを続いて500g(約10MPa)張力下の管状炉に置き、窒素下にて5時間にわたって1150℃に加熱した。約15のフィラメントの平均から結果として得られた引張特性を
図1に提供する。