(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174698
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】プレスフィットコンタクトのためのコーティング方法およびコーティング
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20170724BHJP
【FI】
C23C28/02
【請求項の数】23
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-522112(P2015-522112)
(86)(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公表番号】特表2015-525833(P2015-525833A)
(43)【公表日】2015年9月7日
(86)【国際出願番号】EP2013065286
(87)【国際公開番号】WO2014013055
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年2月2日
(31)【優先権主張番号】1257093
(32)【優先日】2012年7月20日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502168334
【氏名又は名称】タイコ エレクトロニクス フランス エス アー エス
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ベドナレク
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−541139(JP,A)
【文献】
特開2006−152389(JP,A)
【文献】
特表2001−526734(JP,A)
【文献】
特開2003−338517(JP,A)
【文献】
特開2010−280955(JP,A)
【文献】
特開2008−053082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
H01R 9/00
H01R 9/15− 9/28
H01R 13/00−13/08
H01R 13/15−13/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材のコーティングのための方法であって、該方法において:
基材(100)が少なくとも1つの自由表面(110)を有するように提供され;
第1の材料の第1層(101)が基材(100)の自由表面(110)上に蒸着され;
第1の材料と異なる第2の材料の第2層(102)が第1層(101)上に蒸着され;
第1および第2の材料と異なる第3の材料の第3層(103)が第2層(102)上に蒸着され;
該方法は、更に、
グラファイト粉末と微結晶性活性炭との混合物であり、第1、第2および第3の材料とは異なる第4の材料の保護層(104)が第3層(103)上に蒸着されること;および、
保護層(104)上への熱的接触による熱の伝達によって、第1層(101)、第2層(102)および第3層(103)のうち少なくとも第2層(102)および第3層(103)がリフローし、保護層(104)が少なくとも第3層(103)の酸化を防止すること;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
保護層(104)の材料が、リフロー工程の間に第1層(101)、第2層(102)および第3層(103)と混合しないものであるように選択される、請求項1に記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項3】
リフロー工程の温度が、第3の材料(103)の溶融温度より1.5〜3倍高く、第2の材料(102)の溶融温度より0.8〜1.5倍高く、第1の材料(101)および/または基材(100)の溶融温度以下である、請求項1または2に記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項4】
第4の材料(104)が、80%〜95%のグラファイトと残余が微結晶性活性炭である混合物、特に90%のグラファイトと10%の微結晶性活性炭との混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項5】
第1の材料(101)、第2の材料(102)および第3の材料(103)が、金属材料、特に単体金属であるか、または単体金属を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項6】
第3の材料(103)が、第1の材料(101)、第2の材料(102)および第3の材料(103)の融点のうち最も低い融点を有する材料である、請求項1〜5のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項7】
第2の材料(102)が、第3の材料(103)の溶融温度より1.5〜3倍大きい溶融温度を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項8】
基材(100)および/または第1の材料(101)が、第2の材料(102)の溶融温度の少なくとも2〜3倍高い溶融温度を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項9】
第4の材料(104)が、第2の材料(102)および第3の材料(103)の比熱より2〜3倍高い比熱を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項10】
第1の材料(101)がニッケルであるか、ニッケルを含み、および/または第2の材料(102)が亜鉛またはアンチモンであるか、亜鉛またはアンチモンを含み、および/または第3の材料(103)がスズおよび/または銀であるか、スズおよび/または銀を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項11】
リフロー工程の温度が、少なくとも350℃、特に350℃〜600℃の範囲内、より特に380℃〜580℃の範囲内、またより特に400℃〜550℃の範囲内である、請求項1〜10のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項12】
リフロー工程の時間が、少なくとも1秒〜15秒の間、特に2秒〜10秒の間、より特に3秒〜7秒の間である、請求項1〜11のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項13】
第1層(101)の厚さが0.05μm〜5μmの範囲内であり、および/または第2層(102)の厚さが0.05μm〜5μmの範囲内であり、および/または第3層(103)の厚さが0.05μm〜2.5μmの範囲内である、請求項1〜12のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項14】
リフロー工程の後に加えて、保護層(104)を除去することを含む、請求項1〜13のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法。
【請求項15】
埋込可能な金属要素(300)のためのコーティング(323)であって、該コーティング(323)が、拡散バリア層(301)と、少なくとも2種の金属の合金から成り、かつチキソトロピック特性を有する多相固化構造体層(311)と、拡散バリア層(301)と固化構造体層(311)との間のバッファ層(302’)とを含むことを特徴とするコーティング。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法により製造されたものであることを特徴とする、請求項15に記載の埋込可能な金属要素(300)のためのコーティング(323)。
【請求項17】
固化構造体が、亜鉛とスズを、5〜15質量%の亜鉛の蒸着量に対して85〜95質量%のスズの蒸着量、特に10質量%の亜鉛の蒸着量に対して90質量%のスズの蒸着量の割合、または85〜95質量%の亜鉛の蒸着量に対して5〜15質量%のスズの蒸着量、特に90質量%の亜鉛の蒸着量に対して10質量%のスズの蒸着量の割合、または58〜48質量%の亜鉛の蒸着量に対して42〜52質量%のスズの蒸着量、特に53質量%の亜鉛の蒸着量に対して47質量%のスズの蒸着量の割合、または21〜31質量%の亜鉛の蒸着量に対して69〜79質量%のスズの蒸着量、特に26質量%の亜鉛の蒸着量に対して74質量%のスズの蒸着量の割合、または72〜82質量%の亜鉛の蒸着量に対して18〜28質量%のスズの蒸着量、特に77質量%の亜鉛の蒸着量に対して23質量%のスズの蒸着量の割合で含む、請求項15または16に記載の埋込可能な金属要素(300)のためのコーティング(323)。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれかに記載の埋込可能な金属要素のためのコーティングでめっきされたプレスフィットコンタクトピン。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれかに記載の基材のコーティングのための方法により製造されるコーティングでめっきされたプレスフィットコンタクトピン。
【請求項20】
請求項15〜17のいずれかに記載の埋込可能な金属要素のためのコーティングでめっきされたプリント回路プレスフィットコンタクトのための穴。
【請求項21】
請求項1〜14のいずれかに従って製造されるコーティングを有するプリント回路プレスフィットコンタクトのための穴。
【請求項22】
請求項15〜17のいずれかに記載の埋込可能な金属要素のためのコーティングでめっきされた要素を少なくとも1つ含むプリント回路。
【請求項23】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法により製造されるコーティングでめっきされた要素を少なくとも1つ含むプリント回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスフィットコンタクト要素のめっきに利用される金属層表面におけるウィスカの形成の抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラメントまたはウィスカの、特に純金属(例えばスズ、亜鉛、カドミウム、インジウム、アンチモン、銀または金などであり、少なくとも1種の金属と他の元素とから成る合金とは異なる)の表面からの形成は、例えば回路のショートの発生や、電子部品のコンタクト(または接触部)のめっきに利用される金属層表面における電気アークの開始などの結果を生じ得る現象として知られている。
【0003】
機械的または化学的応力、スクラッチ、異なる材料の拡散または熱膨張などの特定の要因はウィスカ形成のリスクを高める。特定の金属表面に現れる別の現象であるデンドライト(樹状突起)とは異なり、金属の溶解または電磁場の存在はウィスカの形成または成長に影響しない。
【0004】
電子部品のコンタクトは概して、金属コーティングでめっきされたベース基材(例えば銅)で構成され、この金属コーティングにおいて、純スズは、スズ合金とは異なり、最もよく使われるものの1つである。これは特にプレスフィットコンタクトの場合である。そのように純スズでめっきされた銅でできたコンタクトの場合、コーティング層または基材そのものに内在する応力に加えて、ウィスカ形成の原因となり得るめっき内部の圧縮応力が、基材からの銅原子がスズ膜のグレインの境界(または粒界)に沿って拡散することによって生じ、金属間化合物(またはIMC)Cu
6Sn
5を形成する。このような応力下、やがてスズのウィスカがグレインから形成され、その配向性は、スズ膜の主な配向性(major orientation)または周辺のグレインの配向性と相違する。
【0005】
スズウィスカの問題に対処する1つの方法は、スズと鉛との合金でできためっきを用いることであった。しかしながら、鉛は、特に欧州連合において、大多数のエレクトロニクス用途で現在禁止されており、電子部品におけるウィスカ形成による問題は再び一般的なものになってきている。よって、特に電子要素(または素子もしくはエレメント)のコンタクトにおける、ウィスカの形成を抑制するための新規な解決策を見いだす必要がある。
【0006】
プレスフィットコンタクトの要素上に形成されるスズウィスカの問題は、例えばEP2195885B1により知られており、この文献には、電気コンタクト要素の製造方法であって、ベース材料に適用された拡散バリア形成層を用い、そしてその上に、異なる金属から形成され、かつ、少なくとも1つはスズでできている、少なくとも2つの金属層の複数の組み合わせを適用する方法が記載されている。この拡散バリア形成層により、ベース材料と金属層を組み合わせた層との間での混合が抑制され、その後、これらは熱処理に付され(但し、該熱処理の温度はスズの溶融温度(即ち232℃)を超えてはならない)、これにより、金属層の組み合わせを構成する元素が拡散によって混合し、その後、外側の層は少なくとも2種類の異なる金属を含む合金となる。
【0007】
他の解決策もまた当該技術分野において、例えばWO2006/134665A1により知られており、この文献では、金属間化合物Cu
6Sn
5によってスズ層にかかる応力を、高密度金属間化合物Ni
3Sn
4を形成することによって低減するために、銅ベース基材とスズめっき膜との間にニッケルサブ層を用いている。コーティングの内部応力を低減するために、グレインの溶融温度の0.65〜0.8倍を超えない熱処理を適用し得る。
【0008】
これらの解決策は実行が難しく、コーティングの作製は、使用する方法に時間と費用がかかるため経済的に実行可能ではない。プリント回路基板によってプレスフィットコンタクトピンの端部にかかる応力および従って永久歪み、ならびにコーティングそれ自体の変形および変位(displacements)のため、これらの解決策はプレスフィットコンタクトの場合においてウィスカ形成を回避するには不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、解決策であって、特に従来のめっき方法の改良を可能にする、特にプレスフィットコンタクトに関連する方法において、特にウィスカの形成を避けることによる解決策を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様によれば、上記目的は、基材のコーティングのための方法であって、該方法において:基材が少なくとも1つの自由表面を有するように提供され;第1の材料の(またはかかる材料でできた、もしくはかかる材料から成る、以下も同様)第1層が、基材の自由表面上に蒸着され;第1の材料と異なる第2の材料の第2層が、第1層の上に蒸着され;第1および第2の材料と異なる第3の材料の第3層が、第2層上に蒸着される;方法によって達成される。本発明の1つの要旨によれば、本方法は、これに加えて、第1、第2および第3の材料と異なる第4の材料の保護層である第4層が、第3層上に蒸着されること;および第1、第2および第3層のうち少なくとも第2層および第3層が、保護層上への熱的接触による熱の伝達によってリフローし、保護層が少なくとも第3層の酸化を防ぐことを含む。
【0011】
本発明は、基材またはベース材料の多層表面処理に用いられる高温リフロー(または再溶融)を使用し、コーティング表面におけるウィスカの形成または拡散を防ぐことを可能にする。第1層は拡散バリア層として使用される。本発明は、既知の技術水準とは、特に抗酸化保護層の蒸着工程およびコーティングの外層である第3層を形成する要素(または元素)の融点よりも高い温度を要するリフロー工程によって区別される。このリフロー工程の温度は、迅速なリフロー過程および基材上の応力緩和のために可能な限り高くなければならない。この高温過程は、製品の外表面(即ち保護層)上の熱的接触による熱の伝達を用いる。第1層、第2層および第3層の厚さ、リフローの温度および時間にもよるが、第3層を部分的または全体的に、第2層の少なくとも一部と共に、リフローさせることが可能である。同様に、第1層(即ち、基材表面に拡散バリアを形成する層)を少なくとも部分的にリフローさせることも可能である。従って、本発明によって、転移(dislocations)の移動を防ぎ得る析出物を含む多相固化構造体を、および従って、ウィスカ形成を抑制するという利点を有し、よってプリント回路のコンタクト要素のめっきに適切な多相合金を形成することが可能になる。得られる多相合金は、加えてチキソトロピック特性(即ち、応力下、固体状態から液体状態へと移行でき、また逆に、静的状態では、変形時または再構築時における特性および利点を維持しながら、固体の外観を回復するようにそれ自体を再構築すること)を有する。この特性は、プレスフィットコンタクトのコーティングに関して便利である。本発明の方法は、加えて、プレスフィットコンタクトおよびそのコーティングについて、その性能を保証するために、内部応力を緩和することができ、かつ、金属構造を安定化することができるという利点がある。特に本発明の方法は、コンタクトのプリント回路の対応する穴への挿入力を、製品の寿命に亘って安定化するという利点を有する。
【0012】
保護層の材料は、それが第1層、第2層および第3層とリフロー工程の間に混合しないように選択されることが好ましい。これにより、めっきを構成する層のリフローを、制御しつつ効率的に実行できる。
【0013】
リフロー工程の温度は、第3の材料の溶融温度(または溶点、以下も同様)の1.5〜3倍高く、第2の材料の溶融温度の0.8〜1.5倍高く、第1の材料およびまたは基材の溶融温度以下であることが好ましい。これにより、リフロー工程の温度は、迅速なリフロー過程および基材の応力の緩和を達成するために極めて高いものとなり得る。
【0014】
好ましい態様によれば、第1、第2および第3の材料は、金属材料、特に単体金属であり得、またはこれらを含み得る。これにより、本発明は、例えばプリント回路要素のコンタクトなどの電子部品のめっきの場合のように、合金を、また好ましくは純粋なまたは単体の金属を用いた金属コーティングに用いることができるという利点を有する。後者の点は、大きい機械的応力を受けなければならず、かつ、ウィスカの形成を抑制する必要がある、プレスフィットコンタクト要素のめっきの場合において有利であり得る。
【0015】
有利には、第3の材料は、第1、第2および第3の材料の融点のうち最も低い融点を有する材料であり得る。これにより、リフロー工程は、第3層の、および/または第3層と第2層との間の溶融から開始される。
【0016】
有利には、第2の材料は、第3の材料の溶融温度より1.5〜3倍大きい溶融温度を有し得る。第3層の材料との関係で、かかる材料から第2層を選択することにより、リフローを制御すること、および第3層を部分的または全体的にリフローさせる(第2層を伴うが、常に第3層のリフローから始まる)ことが可能になる。
【0017】
有利には、基材および/または第1の材料は、第2の材料の溶融温度より少なくとも2〜3倍高い溶融温度を有し得る。これにより、基材および/または第1の材料の溶融温度にまで、リフロー工程の間に達することはなく、このことはこれらの材料がコーティング表面へ向かって(即ち第3層へ向かって)拡散することを回避する。
【0018】
有利には、第4の材料、即ち保護層を形成する材料は、第2および第3の材料の比熱より2〜3倍高い比熱を有し得る。これにより、第4の材料は、リフロー工程の間の熱的接触による熱伝達を最適化するように選択され得る。
【0019】
本発明のこの要旨にかかる態様の例において、第1の材料がニッケルであり得るか、ニッケルを含み得、および/または第2の材料が亜鉛またはアンチモンであり得るか、亜鉛またはアンチモンを含み得、および/または第3の材料がスズおよび/または銀であり得るか、スズおよび/または銀を含み得る。純スズを使用した一般的なめっきを用いた場合には、ニッケルでできたバリア層を用いることが有利であり、そのうえに亜鉛層さらにそのうえにスズ層が用いられる。本発明は、最も低い融点をもつ亜鉛層とスズ層との間の界面の開始点を使うことで、スズ合金の完全な再結晶化を可能にする。このため、スズ層と亜鉛層との間の界面からリフローを開始することが可能であり、亜鉛が固−固拡散をする前に、スズ層の表面をリフローさせることもまた可能である。スズ層および亜鉛層は、必要に応じて、部分的または全体的にリフローされ得る。このため、亜鉛の残留バッファサブ層を制御しながら、かつ、グレインの転移の移動(これはウィスカを形成し得たものである)を抑制する析出物で満たされた固化構造体を有しながら、平滑で、無孔かつ堅固な表面の形成が可能である。よって、本発明の方法を用いることで、当該技術分野の既知の方法に比べて費用を削減し、処理時間を短縮しながら、ウィスカを形成し得る応力を除去または低減することが可能になる。
【0020】
亜鉛のバッファ層およびニッケルの拡散バリア層は、コーティング表面におけるスズのウィスカ形成の抑制に優れ、特にプリント回路用のプレスフィットコンタクトの場合に適用される。当該技術分野におけるウィスカ抑制のための既知の方法に反して、本発明による方法は固−固拡散を生じないが、本方法を速めるために、亜鉛の、またはスズと亜鉛の固−液拡散に優れる。リフロー工程を実施した後の最終コーティングはウィスカの形成および成長の抑制に有効であることが判明している。めっきに純銀を用いた場合には、亜鉛の代わりにアンチモンを用いることが有利であり得る。しかしながら、他の金属の組み合わせも、その組み合わせが本発明の別の要旨に従って第2および第3層のリフローを行い得る限り、可能である。特に、別の層に対する他の金属組み合わせも、溶融温度および比熱に関して改変された有利な態様に従う限り、可能である。
【0021】
第4の材料は、微結晶性活性炭を含むグラファイト粉末の混合物、特に80〜100%のグラファイトと残余の微結晶性活性炭とから成る混合物、さらに特に90%のグラファイトと10%の微結晶性活性炭とから成る混合物が好ましい。グラファイト粉末、特にグラファイト粉末と微結晶性活性炭とを含む混合物の使用は、プリント回路用のコンタクト要素のめっきに使用される純金属層の酸化に対する保護に特に効果的であることが判明している。実際、グラファイト粉末は第1、第2および第3層の要素(または元素)に対して比熱が非常に高く、熱の導体であるため、グラファイト粉末が選択され得る。90%のグラファイトと10%の微結晶性活性炭とを含む混合物は、第1の材料がニッケルであり、第2の材料が亜鉛であり、第3の材料がスズであるような場合において、スズウィスカの形成を防ぐコーティングを作製するのに有利であることが判明している。
【0022】
有利な態様によれば、リフロー工程の温度は、少なくとも350℃であり得、特に350℃〜600℃の範囲内であり得、特に380℃〜580℃の範囲内であり得、特に400℃〜550℃の範囲内であり得る。これらの温度範囲は、亜鉛のサブ層および、銅のベース基材上に拡散バリアを形成するニッケル層を伴う純スズコーティングの処理に特に適する。
【0023】
有利な態様によれば、リフロー工程の時間は、少なくとも1秒から15秒の間であり得、特に2〜10秒の間、より特に3〜7秒の間であり得る。比熱が高いグラファイトの混合物を含む保護層を用いることにより、本発明の方法の工程の有効性を、この時間範囲以内にある時間で確実なものとすることができる。よって、本発明は、特に抗酸化保護層が存在する場合に、当該技術分野において既知のコーティング方法(スズまたは銀めっきの場合、その熱処理工程は数時間にも及んだ)に比べてより迅速な処理ができるという利点がある。
【0024】
本発明のこの要旨に係る態様の例において、第1層の厚さは0.05μm〜5μmの範囲にあり得、および/または第2層の厚さは0.05μm〜5μmの範囲にあり得、および/または第3層の厚さは0.05μm〜2.5μmの範囲にあり得る。これらの各層の厚さの範囲は、特にプリント回路要素のコンタクト、特にプレスフィットコンタクト上にスズまたは銀めっきを用いる場合、ウィスカの形成を防ぐ多相構造の形成に優れる。第2および第3層の蒸着厚さにもよるが、とりわけ時間と温度により規定されるリフロー過程により、ウィスカを防ぐ固化構造体の選択肢の組であって、構造、組織、組成、表面粗さなどの点で調整可能なものが提供され得る。従って、選択する開始時のパラメータにもよるが、例えば、低減した亜鉛のバッファ層上の球状スズ−亜鉛2相構造体、または亜鉛のバッファ層なしのスズ−亜鉛−ニッケル多相構造体、または亜鉛の大きいバッファ層上の球状−針状スズ−亜鉛2相構造体を得ることが可能である。加えて、連続方法により、選択した蒸着厚さおよび適用温度に関して当該技術分野において既知の処理時間よりも短い処理時間が可能となる。電子部品のコンタクトターミナルのめっきの場合、コンタクトが挿入されるプリント回路の仕上げに応じて適切な固化構造体を選択することが可能になる。
【0025】
有利には、本方法は加えて、リフロー工程後に、保護層を除去することを含み得る。よって、多くの用途で、保護層は、本発明による方法によって得られる最終コーティングの一部を成すものでなく、よって、最終生成物を得るため、または本発明の方法により得られるコーティング表面を更に処理するために、保護層を除去する必要がある。保護層がグラファイト粉末の混合物を含む場合、リフロー工程の後に、保護層を、例えば破砕(break off)または分解(disintegrate)によって、除去することができる。
【0026】
本発明のもう1つの要旨によれば、本発明の目的は、拡散バリア層と、少なくとも2種の金属の合金から成り、かつチキソトロピック特性を有する多相固化構造体層とを含む埋込可能な(または埋込式)金属要素のためのコーティングによって達成される。このような埋込可能な金属要素のためのコーティングは、加えて、拡散バリア層と固化構造体層との間にバッファ層を含み得る。更に、本発明の目的は、本発明の第1の要旨による方法に従って製造される埋込可能な金属要素のためのコーティングによっても達成される。
【0027】
好ましくは、固化構造体は、亜鉛とスズを、5〜15質量%の亜鉛の蒸着量に対して85〜95質量%のスズの蒸着量、特に10質量%の亜鉛の蒸着量に対して90質量%のスズの蒸着量の割合、または85〜95質量%の亜鉛の蒸着量に対して5〜15質量%のスズの蒸着量、特に90質量%の亜鉛の蒸着量に対して10質量%のスズの蒸着量の割合、または58〜48質量%の亜鉛の蒸着量に対して42〜52質量%のスズの蒸着量、特に53質量%の亜鉛の蒸着量に対して47質量%のスズの蒸着量の割合、または21〜31質量%の亜鉛の蒸着量に対して69〜79質量%のスズの蒸着量、特に26質量%の亜鉛の蒸着量に対して74質量%のスズの蒸着量の割合、または72〜82質量%の亜鉛の蒸着量に対して18〜28質量%のスズの蒸着量、特に77質量%の亜鉛の蒸着量に対して23質量%のスズの蒸着量の割合で含み得る。
【0028】
本発明の目的は、本発明の前述の要旨の1つに従う埋込可能な金属要素のためのコーティングでめっきされたプレスフィットコンタクトピンによって、特に本発明の第1の要旨に従う方法により製造されるコーティングによっても達成される。本発明の目的は、本発明の前述の要旨の1つに従う埋込可能な金属要素のためのコーティングでめっきされた印刷回路プレスフィットコンタクトホール(または穴もしくは穴部)によって、特に、本発明の第1の要旨に従う方法により製造されるコーティングによっても達成される。よって、要すれば、本発明のめっきまたはコーティングは、プレスフィットコンタクトのピンにも、このピンを収容するプリント回路基板の穴にも、またその両方にも、使用可能である。
【0029】
最後に、本発明の目的は、前述の要旨の1つに従う埋込可能な金属要素のためのコーティングでめっきされた少なくとも1つの要素を含む、プリント回路基板またはプリント回路によって、特に本発明の第1の要旨に従う方法により製造されるコーティングでめっきされた少なくとも1つの要素を含むプリント回路によっても達成される。
【0030】
本発明の要旨の1つによるコーティングを用いるプリント回路要素は、本発明の要旨によるコーティングおよびその改変された態様がウィスカの形成の抑制を可能とし、または更には完全に回避することが可能となるので、当該技術分野において既知のコーティングを用いた要素に対して優れている。更に、本発明によるコーティングをプリント回路要素に使用することにより、当該要素およびそのコーティングについて、それらの性能を保証するために、内部応力を緩和することができ、かつ、金属構造を安定化することができるという利点がある。特に、プレスフィットコンタクトのプリント回路の対応する穴への挿入力が、製品の寿命に亘って安定化される。
【0031】
本発明は、以下の図面により示される実施形態の例を用いて、下記の通り詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の第1の例を示す。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態の第2の例を示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態の第3の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1〜3は、同等の要素および類似した役割を果たす要素に対して同様の参照符号を使用している。従って、例えば
図1における要素108は、
図2および
図3におけるそれぞれの要素208および308と同等であるか、同じ役割を果たす。
【0034】
図1は、基材100のコーティングのための方法の実施形態の例を示す。
図1に示される本方法例は、本発明の1つの要旨およびその改変された実施形態に従って実施される、ベース基材100のコーティングのための方法の主な工程および特徴を概略的に説明するものである。
【0035】
本発明の1つの要旨によれば、
図1に示すように、基材100は、少なくとも1つの自由表面110を有して提供され、そしてこの上に、基材100に対してコーティングまたはめっきを形成するために、一連の複数の層が蒸着される。基材100を形成する材料以外の第1の材料の第1層101が、ベース基材100の自由表面110の上に蒸着される。次に、基材100および第1層101を形成する材料と異なる第2の材料の第2層102が、第1層101の表面109に蒸着される。その後、第3の材料の第3層103が、第2層102の表面106の上に蒸着され、第3層103を形成する材料は、今度は、基材100、第1層101および第2層102に対してそれぞれ用いられた各材料と異なる。基材100の自由表面110の上に蒸着された3つの層101、102、103は、これにより、多層構造体105を形成する。
【0036】
本発明の1つの要旨によれば、
図1に示すように、第4層104が第3層103の表面107上に蒸着される。第4層104の材料は、少なくとも第3層103の表面107の酸化を回避するように選択される。これにより得られたリフロー前の構造体120は、基材100、多層構造体105および保護層104を上述のように含む。最後に、構造体120の第4層104の露出表面108が、第3層103の、および第2層102の少なくとも一部のリフローを行うように、熱処理に付される。
【0037】
本発明の異なる改変された実施形態によれば、
図1に示す実施形態の例において、リフローおよび最終生成物(または製品)の制御を最適化するために、材料、特に材料の特性の選択を調整することが可能である。従って、例えば第4層104(即ち、酸化に対する保護層)の材料を、リフローの間に多層構造体105の層101、102、103のいずれとも混合しないように選択することが可能である。また、第2層102および第3層103をそれぞれ形成する第2および第3の材料の比熱より2〜3倍高い比熱を有する第4の材料を選択することが好ましい。従って、第3層103の少なくとも部分的または均一で全体的なリフローを行うために、第4層104は、第3層103の表面107に向かって十分に熱を伝達できる。
【0038】
図1に示す実施形態において、本発明の他の改変によれば、第3層103の材料が、第1層101、第2層102および第3層103をそれぞれ形成する第1、第2および第3の材料の融点のうち、最も低い融点になるように選択することも可能である。この改変された実施形態は、特に、第2層102の材料が、第3層の材料の溶融温度より1.5〜3倍大きい溶融温度を有する材料である場合と組み合わせることができる。同様に、基材100および/または第1層101の材料は、それぞれの溶融温度が、第2層102の材料の溶融温度より少なくとも2〜3倍高いように選択され得る。そして、リフロー工程の温度は、第1層101、第2層102および第3層103の材料の、また保護層104の材料の選択に応じて最適化され得る。
図1に示す基材100のコーティングのための方法の実施形態例では、第3層103の材料の溶融温度より1.5〜3倍高く、第2層102の材料の溶融温度より0.8〜1.5倍高く、ならびに第1層101および/または基材100の材料の溶融温度以下のリフロー温度を選択することが有利である。
【0039】
図2は、
図1に示した実施形態の例に従った方法によって得られる構造体220の処理の例を示す。従って、構造体220はあらゆる点において構造体120に類似している。特に構造体220は、
図1に示した例の基材100および層101、102、103にそれぞれ対応する基材200、第1層201、第2層202および第3層203を含む。この3つの層201、202、203は、
図1に示される構造体105と同様の多層構造体205を形成し、この上に第1実施形態例の層104に類似する保護層204が蒸着される。従って、構造体220を得るまでの方法の説明は省略するものとし、より詳細な説明については
図1の説明に戻って参照されるべきである。
【0040】
同様に、
図3は、
図1に示した実施形態の例に従った方法によって得られる構造体320の処理の他の例を示す。構造体320はあらゆる点において
図1および2に示される実施形態例の構造体120および220に類似している。従って、構造体320は、
図1に示した例の基材100および層101、102、103ならびに
図2に示した例の基材200および層201、202、203にそれぞれ対応する基材300、第1層301、第2層302および第3層303を含む。この3つの層301、302、303は、
図1および2に示される構造体105、205に類似する多層構造体305を形成し、この上に2つの第1実施形態例の層104、204に類似する保護層304が蒸着される。従って、構造体320を得るまでの方法の詳細は省略するものとし、より詳細な説明については
図1に戻って参照されるべきである。
【0041】
図2および
図3に示される例においては、
図1のコーティング方法が、プリント回路のためのプレスフィットコンタクトターミナルのコーティングのために適用される。基材200および基材300は銅で作られており、この材料の溶融温度はおよそ1085℃である。しかしながら、これらのコンタクトに対して、例えばステンレス鋼やアルミニウムなどの銅以外の材料を用いることも可能である。基材200および基材300の厚さは本発明の方法において重要ではないが、特にプリント回路のためのプレスフィットコンタクトターミナルの場合においては、めっきされるべき銅の厚さは概して1mm未満であり、0.64mm程度であることに留意されたい。
【0042】
スズはこのようなターミナル(または端子)のめっきに一般的に使用されている。
図2および3で示した実施形態例においては、本発明は、スズのウィスカ形成を防ぐコーティングをプレスフィットコンタクト200および300のターミナルに提供するために使用される。本発明の改変実施形態によれば、
図2および
図3に示すようなリフロー前の構造体220、320の第1、第2および第3層201、202、203および301、302、303のそれぞれの材料は、金属材料であり、特に、合金とは対照的な、単体金属である。どちらの場合においても、第1層201、301はニッケルでできており、第2層202、302は亜鉛でできており、第3層203、303はスズでできている。
図2および3で示した例において、第1層201、301の厚さは0.05μm〜5μmの間である。下記に説明する例においては、第1層201、301(即ちニッケル層)の厚さは、特にはおおよそ1.3μmである。第2層202、302(即ち亜鉛層)の厚さは0.05μm〜5μmの範囲内にある。第3層203、303(即ちスズ層)の厚さは、これに関しては0.05μm〜2.5μmの範囲内にある。
【0043】
ニッケルの溶融温度(約1455℃)、亜鉛の溶融温度(約420℃)、スズの溶融温度(約232℃)は、第1、第2、および第3層201、202、203および301、302、303のそれぞれが、
図1に示される実施形態について説明したようなリフロー工程の制御を最適化し得る特性を示すようになっている。よって、
図2および
図3に示される実施形態では、第3層203、303の材料(即ちスズ)は最も低い融点を有するものである。第2層202、302の材料(即ち亜鉛)は第3層203、303を形成するスズの溶融温度より1.5〜3倍大きい溶融温度を有する。同様に、基材200、300の材料(即ち銅)および第1層201、301の材料(即ちニッケル)は、第2層202、302の材料(即ち亜鉛)の溶融温度より少なくとも2〜3倍大きいそれぞれの溶融温度を有する。
【0044】
本発明の改変実施形態によれば、
図2および
図3に示される実施形態の構造体220および320における保護層204および304は、グラファイト粉末と微結晶性活性炭との混合物である。更に、スズの比熱がおよそ0.227J・g
−1・K
−1、亜鉛の比熱がおよそ0.388J・g
−1・K
−1、ニッケルの比熱がおよそ0.444J・g
−1・K
−1であるのに対して、グラファイトはおおよそ0.71J・g
−1・K
−1の比熱を有している。よって、保護層204および304の材料の比熱は、構造体220および320の多層構造体205および305を形成する3つの各層201、202、203および301、302、303の材料の比熱より2〜3倍高いように選択される。80%〜90%のグラファイトと残余が単結晶性(monocrystalline)活性炭の混合物、特に90%のグラファイトと10%の単結晶性活性炭からなるものは、
図2および
図3にそれぞれ示した実施形態に関して本明細書で説明した多層構造体205および305のリフロー工程の間における酸化に対する保護および保護層204および304からの熱の伝導の役割において有利な特性があることがわかっている。
【0045】
図2および
図3で示す実施形態例において、リフロー工程の温度は、第1層201、301、第2層202、302、および第3層203、303のそれぞれの材料ならびに保護層204、304の材料の選択に応じて最適化することができている。どちらの場合にも、スズ(即ち第3層203、303の材料)の溶融温度より1.5〜3倍高く、亜鉛材料(即ち第2層202、302の材料)の溶融温度より0.8〜1.5倍高く、かつ、ニッケル(即ち第1層201、301の材料)および銅(即ちめっきされるべき基材200、300の材料)の溶融温度以下である温度を適用するよう選択することが有利であると判明している。更にまた、連続リフロー方法は、蒸着した厚さおよび選択および適用した温度に対して当該技術分野において知られている処理時間より短い処理時間を可能にする。従って、少なくとも350℃、特に350℃〜600℃の範囲内、より特に380℃〜580℃の範囲内、および更により特に400℃〜550℃の温度では、改良されたリフローが可能であり、特に、おおよそ1秒〜15秒、特に2秒〜10秒、より特に3秒〜7秒の間のリフロー工程の時間(duration:または継続時間)を可能にすることによる。
【0046】
第3層203、303および第2層202、302としてそれぞれ蒸着されたスズおよび亜鉛の厚さ、換言すれば、最終のリフローされた合金211、311中のそれぞれの質量組成にもよるが、この合金の溶融温度は相図に従って様々なものとなっていく。亜鉛の割合が大きいほど、蒸着されたスズ層203、303および亜鉛層202、302の全部をリフローするためには、溶融温度を高くしなければならず、亜鉛の割合が小さい場合にはこの逆となる。そのうえ、2つの重ね合わされた層202、302および203、303において、低融点の2つの合金(スズ232℃、亜鉛420℃)を用いること(この場合、亜鉛8.9%にて共晶組成を有する)により、これらの界面206、306において、この系のうちで最も低い溶融温度が得られ、または
図2および
図3に示す実施形態の場合にはおおよそ200℃となる。つまり、蒸着する厚さを異ならせて操作することによって、亜鉛のサブ層202、302が完全にリフローしたり、リフローしなかったりする可能性が提供される。
【0047】
図2に示す実施形態においては、開始時の質量組成は、5〜15%の亜鉛に対して85〜95%のスズ、特に10%の亜鉛に対して90%のスズを含む。このとき、亜鉛層202の厚さは、例えばおおよそ0.1μmであってよく、スズ層203の厚さは例えばおおよそ0.5μmであってよい。亜鉛層202とスズ層203との間の界面の溶融温度は、亜鉛の迅速な拡散の後、おおよそ198℃であり、これは、二元系共晶スズ(91.1%)−亜鉛(8.9%)の溶融温度に対応する。このスズ(90%)−亜鉛(10%)合金の溶融温度は、全体として、200℃程度である。スズ層203および亜鉛層202の(2つの先端または界面206および207からの)完全なリフローが達成されるように、リフロー温度は550℃に選択され、かつ、およそ3秒間に亘って連続的に適用される。よって、開始時の亜鉛層202によるバッファ層は残留しない。初期のニッケル層201(これは、基材200からの銅がより外側の層202、203に向かって拡散するのを抑制するための拡散バリアを形成する)は、部分的に溶解して、スズおよび亜鉛とともに第3の合金元素を成し、よって、リフロー後に、スズ−亜鉛−ニッケル金属間化合物を含む、多相(multiphase:複相(polyphase)としても知られている)固化構造体211を形成する。開始時のニッケル層201の残留部201’は、基材200に対して拡散バリアを形成し続ける。グラファイトと活性炭との混合物でできた保護層204は、リフローの間に他の層と混合せず、酸化、特に、下方の層202、201、200と同様に第3層203の表面207の酸化を回避する。
【0048】
最後に、
図2に示す実施形態は、所望の最終合金211が得られた後、保護層204を除去する工程を含む。保護層204は、グラファイトと活性炭の混合物だったものであり、リフロー後は、保護層204(これは基材200の最終コーティングを形成する合金211およびバリア層201’よりも衝撃耐性が低い)を粉砕または破壊するのに、構造体221を軽くたたく(またはタップする)あるいは単に吹くだけで十分である。よって、最終生成物222は、バリア層201の残留部と多相合金211から成るコーティング223でめっきされた基材200から成る。このようにして形成されたコーティング223、特に多相合金211はチキソトロピック特性を有することが判明し、これは、プレスフィットコンタクトのターミナルのめっきに対して用いるのに好都合であり得る。
【0049】
図2に示す実施形態に関して説明したものと同様の多相構造体211を含む合金223の改変実施形態であって、特に、同じタイプのチキソトロピック特性を有するものをつくることが可能である。よって、もう1つの開始時の質量組成は、例えば21%〜31%の亜鉛に対して69%〜79%のスズ、特に26%の亜鉛に対して74%のスズを含み得る。亜鉛層202およびスズ層203のそれぞれの厚さは、例えばそれぞれおおよそ0.4μmおよび0.15μmであり得る。そして、およそ500℃の温度をおおよそ5秒間に亘って連続的に適用し得る。
【0050】
図3に示す実施形態においては、開始時の質量組成は、この場合、85%〜95%の亜鉛に対して5%〜15%のスズ、特に90%の亜鉛に対して10%のスズを含む。亜鉛層302およびスズ層303のそれぞれの厚さはほぼ0.5μm程度であり得る。亜鉛層302とスズ層303との間の界面306の溶融温度は、亜鉛の迅速な拡散の後、おおよそ198℃であり、これは、二元系共晶スズ(91.1%)−亜鉛(8.9%)の溶融温度に対応する。このスズ(10%)−亜鉛(90%)合金の溶融温度は、全体として、400℃程度である。スズ層303全体が(2つの先端または界面306および307から)完全にリフローするが、亜鉛層302は部分的にしかリフローしないように、リフロー温度はおおよそ500℃に選択され、かつ、おおよそ3秒間に亘って連続的に適用される。よって、開始時の亜鉛層302の残留部である亜鉛のバッファ層302’上にスズ−亜鉛多相層311が形成される。
図2で示す実施形態とのもう1つの相違点は、この場合、ニッケルの拡散バリア層301がリフローされないという点である。熱処理の時間と温度に応じて、層311について、当該材料でできた異なる構造体を得ることが可能になる。本明細書に記載の例では、層311は、周囲をスズに囲まれた球状の亜鉛から形成された、2つのリフローされた元素の間に小さな拡散領域を有する2相固化構造体である。しかしながら、最初に選択した温度に対して+10℃〜+30℃の変動があっても、同じ種類の層311、302’を作製できるが、最初の質量組成が同じでも異なる特性を有するものとなる。従って、より大きな拡散により、針状の亜鉛の初晶(pro-eutectic)析出物を含む共晶構造体を得ることが可能になる。例えば+50℃の、さらに大きな温度上昇は、バッファ層302’を残すかわりに、亜鉛のサブ層302の全体的なリフローをもたらし得る。
図2に示した場合と同様に、グラファイトと活性炭との混合物でできた保護層304は、リフローの間に他の層と混合せず、この処理の間、酸化、特に、下方の層302、301、300と同様に第3層303の表面307の酸化を回避する。
【0051】
図2に示した実施形態のように、
図3に示す実施形態もまた、構造体320の熱処理を経て所望の最終合金311が得られた後、構造体321から保護層304を除去することを含む。本工程は、
図2に示した層204に対する説明と同様である。よって、先の記載に戻って参照されるべきである。
図2に示す場合と同様に、
図3に示す実施形態では、最終生成物322のコーティング223、特に多相合金311はチキソトロピック特性を有し、これは、プリント回路基板におけるプレスフィットコンタクトの挿入プロセスを改善するものである。
【0052】
図2に示す第2の実施形態と同様に、第3の実施形態を、例えば蒸着した層の開始時の質量組成を変えたり、リフロー工程の温度および時間を調節したりすることによって、改変することが可能である。リフローされた亜鉛の量に依存して、より大きいまたは小さい亜鉛バッファ層302’を要するのであれば、選択した組成に応じて、この改変により、同じ種類の特性、特にチキソトロピック特性を有する、同じ種類のスズ−亜鉛二相構造体311を得ることができる。
【0053】
よって例えば、48%〜58%の亜鉛に対して42%〜52%のスズを、特に53%の亜鉛に対して47%のスズを含む質量組成を使用することが可能である。亜鉛層302およびスズ層303のそれぞれの厚さは、それぞれ例えばおおよそ0.6μmおよび0.7μmであり得る。リフロー工程をおおよそ400℃の温度でおおよそ7秒の時間に亘って連続的に実施することにより、最初の亜鉛層302に比べて厚さが減少した亜鉛のバッファ層302’の上に球状二相スズ−亜鉛構造体311が得られる。
【0054】
別の例では(先の例と同じく、限定するものではない)、例えば72%〜82%の亜鉛に対して18%〜28%のスズ、特に77%の亜鉛に対して23%のスズを含む質量組成を使用することが可能である。亜鉛層302およびスズ層303のそれぞれの厚さは、それぞれ例えばおおよそ0.25μmおよび0.85μmであり得る。リフロー工程をおおよそ460℃の温度でおおよそ5秒の時間に亘って連続的に実施することにより、最初の亜鉛層302に比べて厚さが減少した亜鉛のバッファ層302’の上に球状−針状二相スズ−亜鉛構造体311が得られる。
【0055】
初晶の亜鉛またはスズと球状亜鉛を有する、
図3に示す実施形態の層311のような、2元系共晶に最終的になることは、スズ仕上げめっきを施した回路に冷間(または常温)溶接を形成するのに好ましい。実際、プリント回路の穴の中にコンタクト(本明細書では基材300で表される)をプレス挿入する間、回路のコーティングのスズが、コンタクト300の初晶亜鉛311と接触する圧力により、スズ−亜鉛二元系共晶の形成が可能となる。この融点は、接触部に在る2つの元素の融点より低く、これにより、コンタクト300と回路との間の界面での溶融をもたらしてマイクロ溶接を形成する。
【0056】
上記実施形態の改変として、
図1に関して説明した方法を、銅回路ではなく、銀めっきしたプリント回路に適用することが可能である。同じ固化構造体211、311に対して、銀めっきしたプリント回路は、マイクロ溶接を形成する同じ能力は有しない。銀めっきしたプリント回路は亜鉛と共晶せず、スズ−銀共晶の溶融温度はおおよそ221℃であり、または純スズの溶融温度に非常に近い。本発明で記載した方法を用いることにより、他方では、アンチモン(44質量%で銀と共晶を成し、おおよそ485℃の融点を示す)のような合金元素を使用することが可能となる。この場合、回路の銀とマイクロ溶接するのに好ましいアンチモンの球状島部をリフロー後に形成できるように、亜鉛層202、302をサブ層のアンチモンで置換することが有利である。この構造体も、ウィスカ形成を停止する構造的条件を満足し得るものである。
【0057】
コンタクト200、300をダイスタンプ法で成型する操作によって生じる内部応力は、リフローの間に部分的に緩和される。これにより、この構造体211、311およびこの固化方法によって得られる別の利点が生じ、その利点とは、球状亜鉛または針状初晶亜鉛の存在により、構造211、311とプリント回路の表面合金との間で、低融点の共晶を形成して、冷間マイクロ溶接効果が可能となること、および、この結果、プレスフィットコンタクト200、300をスズめっきされた回路から引き抜くのに要する力が、挿入力より大きくなり、よって、プレスフィットコンタクト200、300のその場での保持性が改良されることである。
【0058】
従って、本発明は、表面207、307をウィスカ無しに得ることおよびウィスカの形成を防止することを可能とし、プレスフィットコンタクト200、300のターミナルをコーティングするために用いることができる。固化構造体211、311および本発明の方法により高温で得られるそれらの改変体は、いくつかの相、元素、多少の差はあれ安定な析出物、層内の(または層方向での)濃度勾配、グレインおよび内部粒状物(inter-granulars)(上記の例における層211および311に対応するコーティングの最外層で転移が移動するのを阻害する)で構成されており、ウィスカを生じる拡散現象を遅延させ、または更に防止するという利点を有する。本発明の方法の処理全体により、形成される析出物および相の微細性、分布および量を制御することができる。本発明の方法の利点は、選択する固化構造体211、311および蒸着する厚さにもよるが、溶融合金のディウェッティングの回避が可能となることである。
【0059】
第3層103、203、303がスズでできている場合には、亜鉛層102、202、302はコーティングサブ層102、202、302として使用でき、またスズ層103、203、303とともにリフローさせることができる。よって、本発明によれば、グラファイトの混合を含む抗酸化保護層104、204、304上への高温での熱的接触によって、スズ層103、203、303と亜鉛層102、202、303とをリフローさせてスズ−亜鉛多層コーティング211、311とすることが可能となる。コーティングの外表面に向かって固−固拡散する前にスズ層103、203、303の表面107、207、307をリフローさせながら、スズ−亜鉛界面106、206、306でのリフローを選択的に開始することが可能である。この場合、無孔の平滑かつ堅固な表面211、311を作製することが可能であり、これは、例えば電子部品のコンタクトの場合における、ベース基材100、200、300のコーティングに使用可能である。また、亜鉛の残留バッファサブ層302’を制御すること、転移の移動を防ぐ析出物を含む多相固化構造体211、311を有すること、基材100、200、300およびコーティング層211、311に存在する応力を温度効果により部分的、または更に全体的に緩和することも可能である。この方法は、加えて、当該技術分野において既存の方法よりも迅速であり、その費用も削減される。ニッケルのサブ層101、201、201’、301を用いてよく、これは、腐食に対して有利な特性を有し、ウィスカのない表面を形成するために、液体のスズ−亜鉛合金211と部分的に混合され得る。スズ−亜鉛混合物の場合および/またはニッケルのサブ層101、201、301の場合には、得られる合金211、311は、従来の純スズとの合金よりも有利な熱的特性を有する。特にチキソトロピック特性を有する合金211、311を得ることが可能であり、従って、ウィスカ防止に対して有利な最終生成物の特性を維持しつつ、プレスフィットコンタクトのプリント回路基板の穴への挿入が、挿入中の応力下での変形によって、そして、挿入が行われて応力が緩和された際の再構築によって容易になり、更には改良され得る。こうして得られた表面207、307の摩擦係数ならびに機械的および熱的特性は、当該技術分野において既知のスズのコーティングに比べて改良される。
【0060】
従って、ウィスカが無く、後工程でのウィスカの形成(特にスズウィスカ)を抑制するコーティング211、311を得ることが可能であり、これは、プレスフィットコンタクトのピンターミナルのめっきに使用可能であるが、プレスフィットコンタクトピンを収容することが想定されているプリント回路基板の穴にも、プリント回路そのものまたはその他のプリント回路要素のめっきにも、あるいは、より広範に、ウィスカが発生し易いあらゆる製品にも使用可能である。そのうえ、プリント回路要素をめっきするために本発明の方法ならびにその考えられ得る改変例および組み合わせを用いること、また、本発明のコーティングおよびその改変された実施形態(例えばプレスフィットコンタクトをめっきする場合)を用いることにより、めっきされた要素およびそのコーティングについて、それらの性能を保証するために、内部応力を緩和することができ、かつ、金属構造を安定化することができるという利点がある。特に、プレスフィットコンタクトのプリント回路の対応する穴への挿入力は、製品の寿命に亘って安定化される。