(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6174710
(24)【登録日】2017年7月14日
(45)【発行日】2017年8月2日
(54)【発明の名称】ケモカイン−サイトカイン融合タンパク質およびその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20170724BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20170724BHJP
C07K 14/55 20060101ALI20170724BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20170724BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20170724BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20170724BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20170724BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20170724BHJP
【FI】
C12N15/00 AZNA
C07K14/52
C07K14/55
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-545618(P2015-545618)
(86)(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公表番号】特表2016-503434(P2016-503434A)
(43)【公表日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】CN2012001629
(87)【国際公開番号】WO2014085947
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】510075893
【氏名又は名称】ナショナル チュン シン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】邱 綉河
(72)【発明者】
【氏名】周 寛基
(72)【発明者】
【氏名】沈 瑞鴻
(72)【発明者】
【氏名】范 怡馨
(72)【発明者】
【氏名】林 佩樺
(72)【発明者】
【氏名】呉 佩珊
【審査官】
戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第03/035105(WO,A2)
【文献】
国際公開第01/040311(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 14/52−14/55
C07K 19/00
UniProt/GeneSeq
DDBJ/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合タンパク質であって、
ストローマ細胞由来因子−1であるケモカインポリペプチドと、
IL−2、CD40リガンド、またはその受容体結合ドメインである、前記ケモカインポリペプチドに親水性の螺旋状ペプチドリンカーにより結合されたサイトカインポリペプチドと、
を含み、そのうち、前記ケモカインポリペプチドと前記サイトカインポリペプチドが共通標的細胞を有し、前記融合タンパク質が前記ケモカインポリペプチドと比較して向上されたケモカイン活性と、前記サイトカインポリペプチドと比較して向上されたサイトカイン活性を有することを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項2】
前記サイトカインポリペプチドが、SEQ ID NO:20、22、24、26、28、30、32、34、36および38から選択されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
SEQ ID NO:44、46および48から選択されたアミノ酸配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の融合タンパク質をエンコードすることを特徴とする、単離された核酸分子。
【請求項5】
SEQ ID NO:19、21、23、25、27、29、31、33、35および37から選択される、サイトカインポリペプチドをエンコードするヌクレオチド配列を含むことを特徴とする、請求項4に記載の単離された核酸分子。
【請求項6】
SEQ ID NO:43、45および47から選択された配列を有することを特徴とする、請求項4に記載の単離された核酸分子。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載の核酸分子を含むことを特徴とする、発現ベクター。
【請求項8】
請求項4乃至6のいずれかに記載の核酸分子を含むことを特徴とする、宿主細胞。
【請求項9】
請求項7に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする、宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケモカインとそれに結合されたサイトカインを含み、そのうちケモカインとサイトカインが共通標的細胞を有する融合タンパク質に関し、特に、増進されたサイトカイン活性と増進されたケモカイン活性を有する、融合タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインは、外部から刺激を受けた細胞が分泌するプロテインの一群である(細胞膜上に発現するサイトカインは非常に少ない)。細胞によって産生されたサイトカインは付近のまたは血液循環を通じて非常に低濃度で標的細胞に影響を生じることができる。サイトカイン標的細胞の成長、分化、活性化の促進などの幅広い機能を持つ。多くのサイトカインが免疫細胞を標的として、免疫反応で役割を果たすことができる。構造と機能の違いに基づき、サイトカインは概ねケモカイン、インターロイキン、成長因子、トランスフォーミング成長因子、コロニー刺激因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン等に分けることができる。
【0003】
ケモカインは白血球を遊走させることができるサイトカインの一群で、通常正電荷を帯び、粒子が小さい分泌タンパク質である。主な機能は組織の損傷や病原体感染を有する領域に免疫細胞を遊走させ、続いてその特定の部位で白血球が食作用を生じたり、病原体に対する炎症反応を起こしたりすることができるようにすることである。ケモカインによって遊走される白血球には、先天免疫の好中球、単球/マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹枝状細胞、その他白血球、および適応免疫のTリンパ球(T細胞)またはBリンパ球(B細胞)を含むことができる。従って、ケモカインは生体の免疫系で非常に重要な役割を果たす。ほとんどのケモカインは、ジスルフィド結合を形成して構造を安定化している4つの良く保存されたシステイン残基(C)を有する。最初の2つのC間のアミノ酸数の違いおよび最初のCがあるか否かに基づき、それらはCXC(またはα)、CC(またはβ)、C(またはγ)、CX
3Cの4つのサブファミリーに分類できる。ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)は、ケモカインのCXCサブファミリーに分類され、CXCリガンド12(CXCL12)としても知られており、哺乳動物のヒト、マウス、猫、および両生類のゼノパス(Xenopus)、ゼブラフィッシュを含む多くの種で観察され、異なる種の間で変化は小さく、よく保存されている(Shirozu et al.、Genomics 28、495〜500)。マウスとヒトにおいてSDF−1遺伝子から転写されるmRNAは異なるスプライシングを経るため、SDF−1の2つのアイソフォーム、SDF−1αとSDF−1βを観察することができる。SDF−1の分布は非常に広く、リンパ組織、腎臓、肺、肝臓、脳、筋肉などで検出することができる(Shirozu et al.、Genomics 28、495〜500)。SDF−1受容体CXCR4は器官に一貫して存在するだけでなく、造血幹細胞、内皮細胞、樹枝状細胞、B細胞、T細胞でも見られるため、これらの細胞はSDF−1による影響を受け、ケモカインの濃度が高い部位に移動する(Bleul et al.、Nature、382:829〜833;Oberlin et al.、
Nature 382:833〜835;Read et al.、Developmental and comparative immunology、29、143〜152)。インターロイキン−8(IL−8)もケモカインのCXCサブファミリーに分類される(CXCL8としても知られている)。ヒトにおける最初の発見後、豚や牛、鶏などの経済動物でも発見された。IL−8は低濃度で単球、マクロファージ、リンパ球、好中球などを含め複数の免疫細胞を遊走させることができる。
【0004】
CD40リガンド(CD40L)は腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーに属し、腫瘍壊死と白血球細胞の分化、増殖、アポトーシスを促進する作用を有するサイトカインである。CD40Lは膜貫通タンパク質として合成される。たとえば、ヒトCD40Lは、タンパク質が計261個のアミノ酸を有し、その構造はアミノ末端から22個のアミノ酸で構成される細胞内ドメイン、それに続く24個のアミノ酸で構成される膜貫通ドメイン、そして、215個のカルボキシ末端アミノ酸で構成される細胞外ドメイン(Exc)から成り、そのうちExcドメインはそのカルボキシ末端にすべてのTNFスーパーファミリータンパク質のために確保されたTNFホモロジー(TNFh)ドメインを有する。CD40Lは主に膜貫通タンパク質の形式で活性化CD4
+T細胞の表面に存在し、またCD8
+T細胞、好塩基球、好酸球、肥満細胞、ナチュラルキラー細胞、血小板、さらにはCD40発現細胞の表面にも存在する。
【0005】
CD40Lの受容体であるCD40は、B細胞、樹枝状細胞、マクロファージなどの抗原提示細胞(APC)の表面上に分布する。生理学的に、これらの抗原提示細胞はヘルパーT細胞によって発現されるCD40Lにより活性化され、主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHC−II)分子とB7分子の発現を促進し、抗体提示をアシストすることができる。CD40Lは標的細胞上のCD40に結合することでシグナル伝達経路を活性化する。前述の抗体提示の促進に加え、B細胞への効果として、CD40LはB細胞増殖、免疫グロブリンアイソタイプスイッチング、抗体分泌、メモリーB細胞の分化、またはアポトーシスの防止を促進することができ、マクロファージへの効果として、CD40Lはその活性、1型ヘルパーT細胞(Th1)またはケモカインの分泌を活性化するインターロイキン−12(IL−12)の産生、あるいはマクロファージの抗菌作用を促進する一酸化窒素(NO)の産生を高めることができ、樹枝状細胞への効果として、その成熟と活性化を促進し、成熟した樹枝状細胞に大量のMHC−II分子を発現させて抗体提示を促進するだけでなく、TNF−αとIL−8、マクロファージ炎症性蛋白質1a(MIP−1a)等のケモカインも分泌させることができる。
【0006】
CD40Lをワクチンアジュバントまたは治療に適用する多くの研究があり、例えば、カモB型肝炎ウイルス(DHBV)ワクチン用アジュバント(Gares et al.、Clin Vaccine Immunol 13、958〜965)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)DNAワクチン(Stone et al.、J Virol 80、1762〜1772)、またはヒト自己免疫疾患の治療(Howard & Miller、Autoimmunity 37、411〜418)等がある。
【0007】
IL−2はヘマトポエチンファミリーに属し、このファミリーには数々の細胞成長関連ホルモンやその他サイトカイン等が含まれる。IL−2の機能には、T細胞の成熟と分化の調整、B細胞の増殖と抗体分泌の促進、ナチュラルキラー細胞の細胞毒性促進、単球とマクロファージの活性化等が含まれる。またIL−2は、T細胞とB細胞のMHC発現継続を刺激でき、さらにナチュラルキラー細胞によるTNF−α、IFN−γ、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)などを含む複数の異なるサイトカイン産生も促進することができる。研究によると、IL−2は抗腫瘍およびワクチン強化効果も備えている。
【0008】
しかしながら、関連分野では活性が増進されたサイトカインとケモカインが必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Shirozu et al.、Genomics 28、495〜500
【非特許文献2】Bleul et al.、Nature、382:829〜833
【非特許文献3】Oberlin et al.、Nature 382:833〜835
【非特許文献4】Read et al.、Developmental and comparative immunology、29、143〜152
【非特許文献5】Gares et al.、Clin Vaccine Immunol 13、958〜965
【非特許文献6】Stone et al.、J Virol 80、1762〜1772
【非特許文献7】Howard & Miller、Autoimmunity 37、411〜418
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明において、ケモカインと、前記ケモカインに結合されたサイトカインから構成される融合タンパク質が、増進されたサイトカイン活性とケモカイン活性を備えていることが予期せず発見された。
【0011】
従って、本発明の目的は、増進されたサイトカイン活性と増進されたケモカイン活性を有する、融合タンパク質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ケモカインまたはその受容体結合ドメインであるケモカインポリペプチドと、インターロイキン、TNF−スーパーファミリーサイトカイン、またはその受容体結合ドメインであり、前記ケモカインポリペプチドに結合された、サイトカインポリペプチドを含み、そのうち、前記ケモカインポリペプチドと前記サイトカインポリペプチドが共通標的細胞を有する、融合タンパク質を提供する。前記融合タンパク質は、前記ケモカインポリペプチドと比較して、より増進されたケモカイン活性と、前記サイトカインポリペプチドと比較して、より増進されたサイトカイン活性を有する。
【0013】
本発明によると、前記ケモカインはCXCケモカイン、CCケモカイン、Cケモカイン、およびケモカインCX
3Cであり、好ましくはCXCケモカインである。本発明の一実施態様によると、前記ケモカインは、ストローマ細胞由来因子(SDF−1)またはIL−8とすることができる。
【0014】
本発明によると、前記サイトカインポリペプチドは、インターロイキン、TNF−スーパーファミリーサイトカイン、またはその受容体結合ドメインである。本発明の一実施態様において、前記サイトカインポリペプチドは、IL−2、CD40リガンド、またはその受容体結合ドメインである。
【0015】
別の一様態によれば、本発明は、本発明の融合タンパク質をエンコードする単離された核酸分子を提供する。
【0016】
さらに別の一様態によれば、本発明は、本発明の核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0017】
また、本発明は、本発明の発現ベクターまたは本発明の核酸分子を含む宿主細胞も提供する。
【0018】
本発明の多様な実施態様の詳細について以下で説明する。実施態様の詳細な説明および請求項から本発明のその他の特徴が明らかになるであろう。
【0019】
更なる詳細な説明なく、上述の説明に基づき、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が本発明をその最大の範囲で利用することが可能であると考えられる。以下の詳細な説明は例を挙げたものであり、他の開示を一切限定するものではないと理解されるべきである。
【0020】
本発明の前述の概要および以下の詳細な説明は、添付の図面を組み合わせることでより理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】鶏CD40Lとその誘導タンパク質、CD40L
ExcおよびCD40L
TNFhの概略図である。
【
図2】発現された鶏組換えタンパク質のSDS−PAGEとウェスタンブロット分析の結果を示す図である。レーン1:IL8CD40L
Exc、予期される大きさ52kDa;レーン2:IL8IL2、予期される大きさ44kDa;レーン3:SDF1CD40L
Exc、予期される大きさ38kDa;レーン4:SDF1CD40L
TNFh、予期される大きさ44kDa;レーン5:SDF1IL2、予期される大きさ26kDa。
【
図3】精製単一タンパク質のSDS−PAGEとウェスタンブロット分析の結果を示す図である。レーン1:タグ融合タンパク質、予期される大きさ21kDa;レーン2:IL−8、予期される大きさ13kDa;レーン3:SDF−1、予期される大きさ11kDa;レーン4:IL−2、予期される大きさ32kDa;レーン5:CD40L
Exc、予期される大きさ42kDa;レーン6:CD40L
TNFh、予期される大きさ33kDa。
【
図4】IL−8誘導タンパク質によるPBMCの走化性を示す図である。寒天外のケモカインによって遊走された細胞は、寒天の中央から周囲に向かって移動する。細胞は低拡大率では濁りのように見える。周囲により多くの細胞があるということは細胞走化性の程度がより高いことを示す。2μMで、IL8CD40L
ExcまたはIL8IL2の走化性程度は、単一のIL−8タンパク質より有意に高かった。
【
図5】SDF−1誘導タンパク質によるPBMCの走化性を示す図である。2μMで、SDF1CD40L
Exc、SDF1CD40L
TNFh、またはSDF1IL2の走化性程度は、単一のSDF−1タンパク質より有意に高かった。
【
図6】マクロファージを活性化させてNOを産生させるCD40L誘導タンパク質の活性を示す図である。A:CD40L
Exc;B:CD40L
TNFh;C:IL8CD40L
Exc;D:SDF1CD40L
Exc;E:SDF1CD40L
TNFh;対照群:陽性対照群としてLPS(4μg/ml)、陰性対照群として標識タンパク質(250nM)と培養液。*は単一のタンパク質と比較して有意に高い活性を表す(
*p<0.05、
**p<0.01)。
【
図7】IL−2融合タンパク質のリンパ球増殖促進に対する試験結果を示す図である。刺激指数(SI)=試験群のOD/RPMI 1640のみで培養されたもののOD。0.625−160nMの濃度で、SDF1IL2融合タンパク質のSI値はIL−2単独の群より有意に高かった(
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001)。
【
図8】ニューカッスル病(ND)ワクチンのアジュバントとしてのIL−2融合タンパク質が細胞免疫反応を有意に促進できることを示す図である。IL−2融合タンパク質アジュバントとNDワクチンの投与を受けた群の鶏は、ニューカッスル病ウイルス(NDV)抗原の再刺激でNDワクチン群よりも有意に高いメモリーリンパ球の増殖を示した。
【
図9】伝染性気管支炎(IB)ワクチンのアジュバントとしての融合タンパク質が細胞免疫反応を有意に促進できることを示す図である。伝染性気管支炎ウイルス(IBV)に対して抗原再刺激試験が実施された。IL−2融合タンパク質アジュバントとIBワクチンの投与を受けた群の鶏は、IBワクチン群よりも有意に(p<0.01)高いメモリーリンパ球の増殖を示した。CD40L
Exc融合タンパク質アジュバントとIBワクチンの投与を受けた群の鶏は、IBワクチン群よりも有意に(p<0.05)高いメモリーリンパ球の増殖を示した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
別途定義がある場合を除き、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味を持つ。
【0023】
本明細書で使用される単数形(「一」および「その」、「これ」など)は、文脈から明確にそうでないことが示されている場合を除き、複数の指示対象を指す。
【0024】
本明細書で使用される用語「ケモカインポリペプチド」とは、ケモカインまたはその受容体結合ドメインであるポリペプチドを指し、そのうち、ケモカインはCXCケモカイン、CCケモカイン、Cケモカイン、CX
3Cケモカインを含むが、これらに限らない。
【0025】
本明細書で使用される用語「サイトカインポリペプチド」は、サイトカインまたはその受容体結合ドメインであるポリペプチドを指し、そのうち、サイトカインはインターロイキンとTNF−スーパーファミリーのサイトカインを含むが、これらに限らない。
【0026】
本明細書で使用される用語「ケモカイン活性」とは、ケモカインが体内で具備する、または発揮できる活性を指し、多様な免疫細胞(単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、樹枝状細胞、好中球等を含む)の走化性を含むがこれに限らない。
【0027】
本明細書で使用される用語「サイトカイン活性」とは、サイトカインが生物体内で具備する、または発揮できる活性を指し、B細胞の増殖促進、免疫グロブリンクラススイッチおよび抗体分泌;メモリーB細胞の分化、またはそれらのアポトーシス防止;I型ヘルパーT細胞の活性化またはケモカイン分泌のためのマクロファージのインターロイキン−12分泌促進;微生物に対する防御能力強化のためのマクロファージによる一酸化窒素産生の促進;樹枝状細胞の成熟および活性化の促進;T細胞の成熟および分化の調整;ナチュラルキラー細胞の細胞毒性と、多様な異なるサイトカイン産生の促進;単球およびマクロファージの活性化;T細胞およびB細胞の刺激による連続的なMHC発現等を含むがこれらに限らない。
【0028】
本発明の提供する融合タンパク質は、ケモカインまたはその受容体結合ドメインであるケモカインポリペプチドと、インターロイキン、TNF−スーパーファミリーサイトカインまたはその受容体結合ドメインであり、ケモカインポリペプチドに結合された、サイトカインポリペプチドを含み、そのうち、前記ケモカインポリペプチドと前記サイトカインポリペプチドが共通標的細胞を有し、前記融合タンパク質が、前記ケモカインポリペプチドと比較して、より増進されたケモカイン活性と、前記サイトカインポリペプチドと比較して、より増進されたサイトカイン活性を有する。
【0029】
本発明の好ましい実施態様において、前記ケモカインポリペプチドと前記サイトカインポリペプチドはペプチドリンカーにより結合される。2つのタンパク質を結合させ、それらの元の構成と機能を維持するために、適切なペプチドリンカーを2つのタンパク質の間に追加して、タンパク質フォールド時の相互干渉を減少することができる。そのようなペプチドリンカーは、一定程度のフレキシビリティと
親水性を備えた、フレキシブルなペプチドリンカー(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)
n(通常nは6未満)または
親水性の螺旋状ペプチドリンカー(Glu−Ala−Ala−Ala−Lys)
n(通常nは6未満)でとすることができる。
【0030】
本発明の一実施態様において、前記ケモカインはCXCケモカインである。特定の実施態様において、前記ケモカインはストローマ細胞由来因子(SDF−1)である。別の特定の実施態様において、前記ケモカインはIL−8である。
【0031】
本発明の特定の実施態様において、前記ケモカインポリペプチドは、SEQ ID NO:2、4、6、8、10、12、14、16、18、およびそのホモログとそのアナログから選択されるアミノ酸配列を有する。
【0032】
本発明の特定の実施態様において、前記サイトカインはIL−2、CD40リガンド(CD40L)またはその受容体結合ドメインである。
【0033】
本発明の特定の実施態様において、前記サイトカインポリペプチドは、SEQ ID NO:20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、そのホモログおよびアナログから選択されるアミノ酸配列を有する。
【0034】
本発明の特定の実施態様において、本発明の融合タンパク質は、SEQ ID NO:40、42、44、46、48から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0035】
別の一態様によれば、本発明は本発明の融合タンパク質をエンコードする単離された核酸分子を提供する。
【0036】
本発明の特定の実施態様において、前記単離された核酸分子は、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、およびそのホモログとアナログから選択される、ケモカインポリペプチドをエンコードするヌクレオチド配列を含む。
【0037】
本発明の特定の実施態様において、前記単離された核酸分子は、SEQ ID NO:19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、およびそのホモログとアナログから選択される、
サイトカインポリペプチドをエンコードするヌクレオチド配列を含む。
【0038】
本発明の特定の実施態様において、前記単離された核酸分子は、SEQ ID NO:39、41、43、45、47から選択される配列を有する。
【0039】
さらに別の一態様において、本発明は、本発明の核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0040】
本発明はまた、本発明の発現ベクターまたは本発明の核酸分子を含む宿主細胞を提供する。
【0041】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、限定するものではない。
【実施例1】
【0042】
原核発現ベクターの構築
【0043】
以前に鶏SDF−1、IL−8、CD40L誘導タンパク質、IL−2向けに構築された発現ベクター(Pei−Shan Wu、国立中興大学獣医微生物学研究所、2008年修士論文、鶏CD40Lおよびケモカインに関する研究;Tsai et al.、Taiwan Vet J 31:38〜45)が組み換えポリメラーゼ連鎖反応用テンプレートとして使用された。そのうち、鶏CD40L(chCD40L)誘導タンパク質は、CD40Lの細胞外ドメイン(CD40L
Exc)またはCD40LのTNFホモロジードメイン(CD40L
Exc)を含む(
図1参照)。複合タンパク質または融合タンパク質SDF1CD40L
Exc、SDF1CD40L
TNFh、SDF1IL2、IL8CD40L
Exc、IL8CD40L
TNFh、IL8IL2等の遺伝子配列がそこから拡張された。
【0044】
方法を次に簡潔に説明する。各遺伝子配列に基づいて2つの特異的プライマー対が設計された。1対目のプライマーの順方向プライマーはEcoR I制限酵素部位と融合タンパク質のフロントN末端の遺伝子配列を有し、逆方向プライマーは螺旋ペプチドリンカーと融合タンパク質フロントC末端の遺伝子配列を有する。このプライマー対は融合タンパク質のフロント部とペプチドリンカーをエンコードするDNA断片を特異的に増幅できる。2対目の順方向プライマーは、螺旋ペプチドリンカーと融合タンパク質のリアN末端の遺伝子配列を有し、逆方向プライマーはXho I制限酵素部位と融合タンパク質のリアC末端の遺伝子配列を有する。このプライマー対はペプチドリンカーと融合タンパク質のリア部をエンコードするDNA断片を特異的に増幅することができる。この2つのプライマー対のPCR産物をテンプレートとして、1対目のプライマーの順方向プライマーと、2対目のプライマーの逆方向プライマーを使用して追加のPCRが実行され、2つの断片が螺旋ペプチドリンカーの部分的に重なり合う配列によって接続された。得られた産物は螺旋ペプチドリンカー遺伝子を内部に含む融合遺伝子配列である。
【0045】
上述の産物をEcoR IとXho Iで処理した後、EcoR IとXho Iで処理されたpETベクター(Novagen、Darmstad、ドイツ)でライゲーションがT4 DNAリガーゼ(Invitrogen)を使用して16℃で16時間実施された。構築された原核発現ベクターはそれぞれpETSDF1CD40L
Exc、pETSDF1CD40L
TNFh、pETSDF1IL2、pETIL8CD40L
Exc、pETIL8IL2と命名された。
【実施例2】
【0046】
組換えタンパク質の発現
【0047】
構築された原核発現ベクターがE.coli発現株BL21(DE3)に転換され、組換えタンパク質の発現誘発に0.5mM IPTGが使用され、遠心分離と培養液の除去により細菌体が収集された、続いて、すべての細菌体が結合バッファ中に再懸濁され、細菌体の溶解に高圧細胞溶解装置(French Pressure Cell Press、Thermo IEC、Needham、Height、米国マサチューセッツ州)を使用して、浮遊物中の可溶性タンパク質が高速遠心後ニッケルイオンアフィニティカラムを使用して精製された。
【0048】
遠心後ペレット底部にある不溶性タンパク質が、タンパク質をアンフォールディングするために8Mで処理され、水溶液中に溶解された後、12,000rpmで30分間遠心にかけられ、尿素をゆっくりと除くため浮遊物の透析が実施され、タンパク質が元の構造にリフォールドされた。最後にこのタンパク質が10%のグリセロール(H7.3)を含む燐酸緩衝液中に溶解され、0.22μm膜で濾過され、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce、米国イリノイ州ロックフォード)で濃度が判定された後、−20℃で保管された。単離されたタンパク質がMALDI−TOF質量分析計を使用して正確な融合タンパク質であることが特定された。SDS−PAGEとウェスタンブロット(一次抗体が抗His抗体であり、二次抗体がAP標識ヤギ抗マウスIgG抗体、発色試薬NBT/BCIP)分析によると、発現された鶏組み換え融合タンパク質IL8CD40L
Exc、IL8IL2、SDF1CD40L
Exc、SDF1CD40L
TNFh、SDF1IL2等は予期されたとおりの分子量を有し、それぞれ52kDa、44kDa、38kDa、44kDa、26kDaであった(
図2参照)。さらに、単一タンパク質が用意され、上述の方法で対照として単離された(Pei−Shan Wu、国立中興大学獣医微生物学研究所、2008年修士論文、鶏CD40Lおよびケモカインに関する研究;Tsai et al.、Taiwan Vet J 31:38〜45)。
【実施例3】
【0049】
走化活性アッセイ
【0050】
ケモカイン(SDF−1、またはIL−8)とCD40L誘導タンパク質またはIL−2融合ケモカインの走化活性が評価された。末梢血単核細胞がHistopaque1077(Sigma、米国ミズーリ州セントルイス)を使用して単離され、PBSで2回洗浄後、RPMI 1640(Gibco、米国ニューヨーク州グランドアイランド)で10%FBSに懸濁され、その後0.6%液体寒天に添加されてよく混合され、最終濃度0.3%の寒天を得た。その後2μl/ウェルの混合物が48ウェルプレートのウェル中央に滴下され、5分間冷蔵庫内に置いて寒天を固化させ、細胞を寒天内に固定した。その後各ウェルに試験対象の各濃度のタンパク質を含む250μlの培養液が添加され、オーバーナイトの培養後観察された。
【0051】
各タンパク質が走化活性を示す最小有効濃度(MEC)に基づき、MEC値が小さいほど走化活性が高いことを表し、IL−8とCD40L誘導タンパク質またはIL−2(IL8CD40L
ExcまたはIL8IL2)の融合は、MEC値がより小さく、より高い走化活性を示した。融合タンパク質はIL−8よりも走化活性が高い(表1参照)。SDF−1とCD40L誘導タンパク質またはIL−2(SDF1CD40L
ExcまたはSDF1IL2)の融合は、MEC値がより小さく、より高い走化活性を示した。融合タンパク質はSDF−1よりも走化活性が高い(表1参照)。より高濃度のタンパク質で走化作用が高くなっている。同じ濃度で、IL8CD40L
Exc(最高の走化活性)またはIL8IL2(2番目に高い走化活性)の走化程度は単一のIL8タンパク質より明確に高かった(
図4参照)。また同じ濃度で、SDF1CD40L
Exc、SDF1CD40L
TNFhまたはSDF1IL2の走化程度は単なる混合物または単一のSDF−1タンパク質より明確に高かった(
図5参照)。
【0052】
【表1】
【実施例4】
【0053】
CD40L誘導タンパク質によるマクロファージの一酸化窒素(NO)産生活性化の分析
【0054】
マクロファージのNO産生を活性化できるCD40Lの性質に基づき、CD40L誘導タンパク質と融合されたケモカインのCD40L活性が評価された。末梢血単核細胞が単離され、PBSで2回洗浄後、10%FBSと125ng/mlの鶏IL−2および2×l0
6細胞/mlの4μg/mlのLPSを含むRPMI 1640で懸濁された。24ウェルプレートの各ウェルに1mlの細胞が加えられた。1mlの新鮮な培養液(同様に125ng/mlの鶏IL−2および4μg/mlのLPSを含む)が2日後に添加された。5日のシミュレーション完了後、単球がマクロファージに分化された。PBSで3回洗浄して懸濁細胞を除去した後、異なる濃度のCD40L誘導タンパク質または融合タンパク質が添加され、培養液、ベクターにより発現されたタグ融合タンパク質と4μg/mlのLPSが添加された培養液がそれぞれ陰性対照群および陽性対照群とされた。48時間の培養後、50μlの培養液が取り出され、市販のキット(Griess Reagent System;Promega、Madison、米国ウィスコンシン州)を使用して(NOからの)亜硝酸濃度が測定された。
【0055】
IL8CD40L
Exe融合タンパク質は、CD40L
Exe単独を添加した群より有意に高い活性を示した(5〜30nM、p<0.05;180nM、p<0.01)。融合タンパク質SDF1CD40L
Excの効果はCD40L
Exc単一タンパク質よりも有意に高かった(5nM、p<0.01;30〜180nM、p<0.05)。SDF−1とCD40L
TNFhの組み合わせについて、同様の結果が得られ、SDF1CD40L
TNFh融合タンパク質は単一のCD40L
TNFhタンパク質よりも有意に高い効果があった(5nMと180nM、p<0.01;0.8nMと30nM、p<0.05)(
図6参照)。
【実施例5】
【0056】
IL2融合タンパク質のリンパ球増殖促進に対する活性
【0057】
リンパ球増殖の促進に対するIL2の活性に基づき、IL−2と融合されたケモカインのIL−2活性が評価された。細胞内酸性ホスファターゼの活性は細胞数に比例していることを利用して、発色基質p-ニトロフェニルリン酸(pNpp)が使用された。末梢血単核細胞が単離された後、異なる濃度のタンパク質、10μg/mlのConA(陽性対照群)または10nMのタグ融合タンパク質(陰性対照群)を添加した10%FBSを含むRPMI 1640で、96ウェルプレートを使用して2×10
5/ウェルで培養された。3日の培養後、培養物が3000rpmの遠心に10分間かけられ、培養液が除去されて、100μlの発色試薬(0.1M酢酸ナトリウム、H5.5、0.1%Triton X−100、10mM pNpp)が各ウェルに添加され、37℃で2時間インキュベーションされた。10μlの1N NaOHが添加され、反応が終了された。405nMの波長で吸光度が測定され、刺激指数(SI)の計算に使用された。そのうち、SI=実験群のOD/RPMI 1640培養のみのODである。結果は、0.625−160nMでのSDF1IL2融合タンパク質がIL−2よりも有意に高い増殖促進の活性を示したことを表している(0.625nM、p<0.05;1.25−80nM、p<0.001;160nM、p<0.01)。これらの結果は、IL−2活性がケモカインと融合後有意に向上されたことを示している(
図7参照)。
【実施例6】
【0058】
ワクチン誘導免疫反応を促進するニューカッスル病(ND)ワクチンアジュバントとしての融合タンパク質
【0059】
IL−2融合タンパク質が鳥ニューカッスル病(ND)ワクチンのアジュバントとして使用され、鶏に投与された。ワクチンの投与後、リンパ球の培養用に鶏から血液を採取して、不活性化ニューカッスル病ウイルス(NDV)が抗原として添加され、抗原再刺激アッセイが実施された。陽性対照群として10μg/mlのConAが培養液に添加された。鶏の各群のNDV抗原を認識できるメモリーリンパ球の増殖が比較された。増殖状態の判定方法は実施例5の説明と同じである。増殖率=(試験群のOD/RPMI 1640培養のみのOD)×100%である。NDワクチンのみでワクチン投与を受けた群と比較して、NDワクチンアジュバントとしてのIL−2融合タンパク質(SDF1IL2+NDワクチン)でワクチン投与を受けた群は、抗原再刺激において抗原特異的なメモリーリンパ球の有意な増殖の増加があった(
図8参照)。
【実施例7】
【0060】
ワクチン誘導免疫反応を促進する鳥伝染性管支炎(IB)ワクチンのアジュバントとしての融合タンパク質
【0061】
IL−2融合タンパク質またはCD40L
Exc融合タンパク質が鳥伝染性気管支炎(IB)ワクチンのアジュバントとして使用された。ワクチンの投与後、リンパ球の培養用に鶏から血液を採取して、不活性化伝染性気管支炎ウイルス(IBV)が抗原として添加され、抗原再刺激アッセイが実施された。鶏の各群のIBV抗原を認識できるメモリーリンパ球の増殖が比較された。増殖状態の判定方法は実施例5の説明と同じである。増殖率=(試験群のOD/RPMI 1640培養のみのOD)×100%である。IBワクチンのみでワクチン投与を受けた群と比較して、IBワクチンアジュバントとしてのIL−2融合タンパク質(SDF1IL2+IBワクチン)(p<0.01)でワクチン投与を受けた群、またはIBワクチンアジュバントとしてのCD40L
Exc融合タンパク質(SDF1CD40L
Exc+IBワクチン)(p<0.05)でワクチン投与を受けた群は、抗原再刺激において抗原特異的なメモリーリンパ球の有意な増殖の増加があった(
図9参照)。
【0062】
当業者は上述の実施態様に対して発明の広範な概念から逸脱することなく変更を加えることができることを理解するであろう。従って、本発明は開示された特定の実施態様に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の要旨と範囲内の変更を含むことを意図していると理解される。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]